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特開2024-176004小胞体ストレス抑制剤、慢性腎臓病疾患予防改善剤および食品
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  • 特開-小胞体ストレス抑制剤、慢性腎臓病疾患予防改善剤および食品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176004
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】小胞体ストレス抑制剤、慢性腎臓病疾患予防改善剤および食品
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/22 20060101AFI20241212BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241212BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 36/02 20060101ALI20241212BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20241212BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A61K31/22
A61P13/12
A61P19/06
A61K36/02
A23L33/115
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094181
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】593053335
【氏名又は名称】リファインホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100196276
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】阪田 泰子
(72)【発明者】
【氏名】坪井 誠
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD14
4B018ME14
4C088AA12
4C088AC15
4C088BA32
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA81
4C088ZC31
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB06
4C206DB47
4C206KA19
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA81
4C206ZC31
(57)【要約】
【課題】長期的に服用でき予防、症状軽減、改善のための飲食物や薬剤として使用できる、小胞体ストレス抑制剤及び糸球体上皮細胞死によって顕在化する疾病予防改善剤を提供する。
【解決手段】式(I):
(式中、R、RおよびRは、それぞれ飽和脂肪酸残基であって、その少なくとも1つはペンタデカン酸残基である。)で表されるトリグリセリドを有効成分として含む組成物。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ飽和脂肪酸残基であって、その少なくとも1つはペンタデカン酸残基である。)で表されるトリグリセリドを有効成分として含む小胞体ストレス抑制剤。
【請求項2】
式(1)におけるRとRまたはRとRがペンタデカン酸残基であるトリグリセリドを有効成分として含む請求項1に記載の小胞体ストレス抑制剤。
【請求項3】
式(1)におけるR、RおよびRの何れか1つが、トリデシル酸(C13)、ミリスチン酸残基(C14)、パルミチン酸残基(C16)またはマルガリン酸残基(C17)であるトリグリセリドを有効成分として含む請求項1または2に記載の小胞体ストレス抑制剤。
【請求項4】
式(1)におけるR、RおよびRのすべてがペンタデカン酸残基であるトリグリセリドと、式(1)におけるR、RおよびRの何れか2つがペンタデカン酸残基であり、他の1つがミリスチン酸またはパルミチン酸残基であるトリグリセリドと、を含む請求項1または2に記載の小胞体ストレス抑制剤。
【請求項5】
式(I)のトリグリセリドが、オーランチオキトリウム属又はシゾキトリウム属藻類由来である請求項1または2に記載の小胞体ストレス抑制剤。
【請求項6】
請求項1に記載のトリグリセリドを有効成分として含む糸球体上皮細胞死によって顕在化する疾病の予防改善剤。
【請求項7】
請求項1に記載のトリグリセリドを有効成分として含む尿細管間質性腎炎、高尿酸血症、痛風、腎結石症、足壊疽の予防・進行防止・改善剤。
【請求項8】
請求項1に記載のトリグリセリドを有効成分として含む食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小胞体ストレスの状態を改善するための小胞体ストレス抑制剤に関する。さらに本発明は、発病原因が小胞体ストレスと関連する疾患を予防、改善、治療するための剤、特に慢性腎臓病疾患予防改善剤およびこれらの剤を含有する食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小胞体ストレスは、細胞がさまざまな内的あるいは外的環境変化にさらされることで、小胞体内腔においてタンパク合成系の異常発現によりタンパク量が高まり、正常に排除されないようなタンパク質を蓄え、タンパク質が正常に折りたたまれなくなり不良タンパク質として蓄積していく状態をいう。小胞体ストレスが生じる要因には、栄養飢餓、細胞内カルシウム濃度の撹乱、低酸素、変異タンパク質の発現、ウイルス感染などが知られている。小胞体ストレス状態になると、細胞は恒常性維持のためにタンパク質折りたたみの処理能力(フォールディングキャパシティ)を上げるために脂質合成を活性化し小胞体を拡張する。不良タンパク質の蓄積が比較的軽微な段階では、不良タンパク質排除のための応答機構である小胞体ストレス応答反応を行う。しかし、ストレス状態が重度であったり、長期間持続したりすると、変性タンパク質が小胞体に蓄積する。そのため細胞に悪影響が生じる。細胞は、小胞体ストレスによる障害を回避し恒常性を維持するため、全身の組織、器官にて細胞死(アポトーシス)が誘導される。
【0003】
慢性腎臓病(Chronic kidney disease、以下「CKD」と省略して表示する場合もある。)は比較的有病率の高い慢性進行疾患で、腎機能低下もしくは腎機能障害を示唆する初見のいずれか、または両方が三ヶ月以上持続する状態を指し、CKD有病者数は、日本人成人の約1330万人にも及ぶとされている(非特許文献1)。さらにCKDは加齢に伴い増加し、高齢者のCKD有病割合は約30%を超えていることから、新たな国民病の一つとして注目されている(非特許文献1)。CKDの病期が進行すると人工透析などの治療が必要となることが挙げられ、人工透析導入に至る前段階での重症化予防を講じることも重要である。CKDの発症には小胞体ストレスが関わっていることが知られている。
現在までに食品によるCKD進行予防は、食塩制限、タンパク質制限、カリウム制限などの食事療法が治療補助として実施されている。乳タンパク質の1種であるラクトフェリンおよびその加水分解物での腎機能保護作用(特許文献1参照)、アミノ酸の一種であるD-セリン(特許文献2参照)、D-アラニン(特許文献3参照)、ハーブ由来の脂質(特許文献4参照)にてCKD改善が報告されているが、その効果は未知数であり、十分とは言えない。
【0004】
また、原因を治療する薬剤としては、慢性糸球体腎炎などで腎臓に炎症があるときに使用する副腎皮質ステロイド薬、演繹異常が原因と思われる時に使用する免疫抑制薬、血流を良くして腎臓の負担を軽くする抗血小板薬や抗凝固薬が挙げられる(非特許文献2参照)。しかし、これらについては一時的には治療効果が得られるが、長期にわたり使用することは副作用の点からも難しく、十分とは言えないのが現状である。
【0005】
従来、緑内障における視神経細胞死を抑制し、緑内障の予防および治療の組成物としてヘスペリジンを有効成分として含有する組成物が提案させている(特許文献1および2)。
また、ブルーライト等の光の暴露に起因する視機能の障害を防止する組成物として、ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株を代表とする乳酸菌を有する組成物が提案されている(特許文献3)。ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株を摂取することにより、ブルーライト照射による網膜細胞死に対して拮抗的に働き網膜厚が有意に厚く維持されること、眼精疲労が軽減されるといったことが主張されているが、その効果の程は十分なものとは言えず、また細胞死を抑制するといった作用機序についても特に明らかにされていないものであった。また、これ以外にも、例えば、タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)やブルーベリーエキス、アントシアニン等の各種物質が眼組織障害に効くといったことが従来開示されているが、その効果の程は十分に満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本腎臓学会(編): CKD診療ガイド 2012、東京医学社 (2012年)
【非特許文献2】Foley RN, Parfrey PS, Sarnak MJ. Epidemiology of cardiovascular disease in chronic renal disease. J Am Soc Nephrol 1998 Dec;9(12 Suppl):S16-23.)
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-18420号公報
【特許文献2】特開2019-214557号公報
【特許文献3】特開2019-214558号公報
【特許文献3】特表2019-518034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の飲食物では、小胞体ストレス軽減抑制作用により細胞死を抑制し、タンパク質変性を予防、改善し、不良タンパク質を抑制する飲食物は知られておらず、また、腎臓病治療薬においては、副作用がある等の問題があった。このため、長期的に服用でき予防、症状軽減、改善のための飲食物や薬剤が望まれている。そこで、本発明が解決しようとする課題は、このような用途に適した飲食物や薬剤として使用できる、小胞体ストレス抑制剤、慢性腎臓病疾患の予防・進行防止・改善剤、並びに食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ペンタデカン酸(C15)を主に含有する飽和脂肪酸によって構成されるトリグリセリド(ペンタデカン酸トリグリセリド:以下、「PdATG」と称する場合がある。)が、腎糸球体細胞に働きかけて、ストレスによるダメージで生じる小胞体内の変性タンパク質の蓄積を抑制し、その結果起こる細胞死(アポトーシス)を低下させることにより、慢性腎臓病疾患を効果的に予防又は改善することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記課題を解決する本発明の第一の観点における小胞体ストレス抑制剤は、下記式(I):
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、R、R及びRは、それぞれ飽和脂肪酸残基であって、その少なくとも1つがペンタデカン酸残基である。)で表されるトリグリセリドを有効成分として含む。
【0013】
この小胞体ストレス抑制剤の一実施形態においては、式(I)のトリグリセリドは、RとR又はRとRがペンタデカン酸残基であることが好ましい。他の一実施形態においては、R、R及びRの何れか1つが、トリデシル酸(C13)、ミリスチン酸残基(C14)、パルミチン酸残基(C16)またはマルガリン酸残基(C17)であってもよい。
【0014】
また、別の好ましい実施形態においては、R、R及びRのすべてがペンタデカン酸残基である上記式(I)のトリグリセリドと、R、R及びRの何れか2つがペンタデカン酸残基であり、他の1つがミリスチン酸またはパルミチン酸残基である式(I)のトリグリセリドと、を含むものであってもよい。
【0015】
本発明の小胞体ストレス抑制剤のさらに別の好ましい実施形態においては、式(I)のトリグリセリドが、オーランチオキトリウム属又はシゾキトリウム属藻類由来であり、式中、R、R及びRは、それぞれ飽和脂肪酸残基であって、その少なくとも1つはペンタデカン酸残基である、トリグリセリドであってもよい。さらに、オーランチオキトリウム属又はシゾキトリウム属藻類由来の不飽和脂肪酸類を含有する混合物であってもよい。
【0016】
本発明の第二の観点において、上記式(I)で表されるトリグリセリドを有効成分として含む慢性腎臓病の糸球体機能低下の予防改善剤が提供される。
【0017】
本発明の第三の観点において、上記式(I)で表されるトリグリセリドを有効成分として含む食品が提供される。この食品は、例えば、健康食品、機能性表示食品、あるいは特定保健用食品等として、むくみやすく疲れやすい人々の日常生活改善のために使用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る小胞体ストレス抑制剤によれば、哺乳動物細胞、特に腎球体等において小胞体ストレスを抑制することができ、長期的に服用でき予防、症状軽減、改善のための飲食物や薬剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る一実施例においてCKD動物モデルおよび対照群における添加薬剤による糸球体面積の変化を調べた実験内容を示す図であり、(A)は試験期間経過後の糸球体切片の顕微鏡写真図を、(B)はその糸球体の面積を示すグラフである。
図2】本発明に係る一実施例においてCKD動物モデルおよび対照群における添加薬剤による腎機能の変化を調べた実験内容を示す図であり、(A)はBUN値を示すグラフ、(B)はCre値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明を実施形態に基づいてより詳細に説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0021】
(有効成分)
本明細書において、PdATGとは、少なくとも1つのペンタデカン酸とグリセロールとのエステルを意味し、下記式(I)に示すR、R及びRの少なくとも1つ、好ましくは何れか2つ、例えば、RとR又はRとRが、さらに好ましくはR、R及びRの3つがペンタデカン酸残基であるトリグリセリドを含む。ペンタデカン酸のグリセリドへの結合位置は、1~3位のいずれであってもよい。
【0022】
【化2】
【0023】
(式中、R、RおよびRは、それぞれ飽和脂肪酸残基であって、その少なくとも1つがペンタデカン酸残基である。)
【0024】
式中、R、R及びRで表されるいずれか1つの残基は、ペンタデカン酸残基以外の飽和脂肪酸残基であってもよい。「飽和脂肪酸」とは、分子内に二重結合、三重結合を持たない脂肪酸の総称であり、C2n+1COOHの化学式で示される。この飽和脂肪酸は、直鎖状または分枝状の飽和脂肪酸であり、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、トリデシル酸(C13)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデカン酸(C15)、パルミチン酸(C16)、マルガリン酸(C17)、ステアリン酸(C18)、アラキジン酸(C20)、ベヘン酸(C22)、リグノセリン酸(C24)およびセロチン酸(C26)等の直鎖状飽和脂肪酸や、2-ヘキシルデカン酸(C16)、13-メチルペンタデカン酸(C16)、16-メチルヘプタデカン酸(C18)等の分枝状飽和脂肪酸が挙げられる。
【0025】
好ましい実施形態におけるPdATGは、R、R及びRのすべてがペンタデカン酸残基である上記式(I)のトリグリセリドと、R、R及びRの何れか2つがペンタデカン酸残基であり、他の1つがミリスチン酸又はパルミチン酸残基であるトリグリセリドとの両方を含む。この混合物中における両者の含有比率は特に限定されないが、質量比で1:2~2:1であることが好ましく、ほぼ1:1であることがさらに好ましい。また、トリグリセリドの総量に対してこれらのそれぞれが10質量%以上、好ましくは20質量%以上含まれる。さらに、ペンタデカン酸を2残基以上含むトリグリセリドの混合物が、油脂中の50質量%以上含まれていることがより好ましい。
【0026】
さらに好ましい実施形態においては、PdATGは、以下の式(II)又は(III)で表される。
【0027】
【化3】
【0028】
(但し、上記式(II)及び(III)中、Rは、C14~C16の飽和脂肪酸である。)ペンタデカン酸を2残基以上含むトリグリセリドの混合物が、油脂中の50質量%以上含まれていることがより好ましいが、ペンタデカン酸を2残基以上含むトリグリセリドの含量が50質量%以下であっても、摂取量を多くすることで、目的が達成できる。したがって、本発明の有効成分は、ペンタデカン酸を2残基以上含むトリグリセリドの混合物の状態で存在してもよく、トリグリセリドの総量に対して、少なくとも1質量%、好ましくは50質量%以上、より好ましくは90質量%以上の純度で含まれていれば混合物自体で有効成分としての機能を発揮することができる。
【0029】
本発明の有効成分は、式(I)の化合物以外のトリグリセリドとともに混合物の状態で存在してもよく、トリグリセリドの総量に対して、少なくとも1質量%、好ましくは50質量%以上、より好ましくは90質量%以上の純度で含まれていれば混合物自体で有効成分としての機能を発揮することができる。
【0030】
本発明の有効成分は、このような奇数鎖脂肪酸、特に、ペンタデカン酸を分子内に少なくとも1個、好ましくは2個以上有することからこれを摂取することで後述する小胞体ストレスによる小胞体に蓄積する異常タンパク質を抑制し、細胞死を軽減し、正常に導く作用を発揮すると考えられる。
【0031】
(作用効果)
本発明の有効成分は、様々な細胞の小胞体ストレスを緩和することで、小胞体ストレスを疾患原因にする疾病および疾病に至る前の体調不良状態を正常に改善する作用を有する。腎臓は"沈黙の臓器"といわれ、悪化しないと明らかな自覚症状が出てきない場合が多く、糸球体ろ過機能が低下している場合でも自覚症状がほとんどない場合もあり、異常が明らかで症状が気付く頃には、糸球体ろ過機能が健康時の半分近くまでに低下している場合もある。CKDは様々な合併症を引き起こす疾患であることが知られており、既に人工透析が必要な状態まで病期が進行した患者では、心不全や脳血管疾患などの心血管疾患発症リスクが著しく高く、地域在住高齢者と比べ相対危険度は10-30にもなることが示されている(非特許文献2)。また、人工透析患者では身体機能低下や認知機能低下のリスクが高くなることも以前から報告されており、生命予後やADL・QOL低下への影響が指摘されている。高齢CKDの早期発見と進行防止は重要であり、このことは、発症よりもかなり前の時期からの予防法の確立が非常に重要である。さらに、発症前からの予防、緩和成分の摂取によりCKDの進行を防ぐこと、同時に、発症が疑われる初期状態の早い段階からの治療も重要である。
【0032】
CKDは尿中のタンパク質量や血液中のクレアチニンを調べる糸球体ろ過機能を把握することで検出することできる。クレアチニンとは血液中の老廃物のひとつであり、通常であれば腎臓でろ過され、ほとんどが尿中に排出されが、糸球体ろ過機能が低下すると尿中に排出されずに血液中に蓄積される。この血液中のクレアチニンを血清クレアチニン値といい、臨床の場で使用される指標である。また、腎機能の低下は、血中尿素質素(BUN)である血液中に含まれる窒素量を調べる検査でも把握できる。尿素窒素は、タンパク質が利用された後にできる老廃物です。本来は、腎臓の糸球体でろ過され尿中に排泄されますが、腎機能が低下するとろ過しきれずに血液中に溜まるため、血液中の尿素窒素の値が高くる。主にこれらにより糸球体機能や腎機能を把握する。
【0033】
(腎臓疾患と小胞体ストレス)
小胞体ストレスは加齢・遺伝的要因・生活習慣などの環境要因により進行し,不十分な修復により恒常性維持喪失や細胞死が徐々に起こる。内的、外的要因が加わり異常進行した状態が加齢性疾患といえるが、各臓器に特徴的な疾患が起こる。腎臓における糸球体障害の進行過程に、その現病の如何に関わらず、糸球体上皮細胞障害が重要な位置を占めることが明らかとなり、小胞体ストレスが関与していることが提唱されつつある(楊國昌 特集ネフローゼ症候群 糸球体上皮細胞障害の機序の解明-小胞体ストレスの観点から- 日腎会誌 49(2), 72-76)。小胞体ストレスを、実際に改善できる医薬や食品成分が、人々の健康維持に不可欠であることが分かってきた。
【0034】
(トリグリセリド混合物の製造方法)
本発明の有効成分であるトリグリセリド混合物は、化学的に合成されたものであっても、天然に存在するものであってもよい。天然のものである場合、その供給源は特に限定されない。生物が体内で生産する脂質、例えば家畜や家禽の脂肪、魚介類の油脂、植物油または脂質生産性の微生物が挙げられる。工業的な生産性の観点から、藻類、細菌、真菌(酵母を含む)、及び/又は原生生物などの微生物が好ましい。好ましい微生物には、黄金藻類(ストラメノパイル界の微生物等)、緑藻類、珪藻類、渦鞭毛藻類、酵母、並びにケカビ属及びモルティエラ属の真菌からなる群より選択されるものが含まれる。微生物群ストラメノパイルのメンバーには、微細藻類が含まれる。微細藻類とは、酸素を発生する光合成を行う生物の中からコケ植物、シダ植物、及び種子植物を除いた残りのうちの、細胞サイズが直径1μm~100μmのものをいう。微細藻類の近縁の原生生物であるラビリンチュラ類も含まれる。ラビリンチュラ類は、光合成を行わない従属栄養性の海生真核微生物であり、亜熱帯や熱帯を中心に広く分布している。一般には、ラビリンチュラ類は、ラビリンチュラ科(Labyrinthulidae)と、ヤブレツボカビ科(Thraustochytriidae)とに大別されており、ラビリンチュラ属(Labyrinthula)、オーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium)、シゾキトリウム属(Schizochytrium)、スラウストキトリウム属(Thraustochytrium)、アプラノキトリウム属(Aplanochytrium)、オブロンギキトリウム属(oblongichytrium)、ボトリオキトリウム属(Botryochytrium)、ジャポノキトリウム属(Japonochytrium)等が属している。
【0035】
培養するラビリンチュラ類としては、オーランチオキトリウム属、シゾキトリウム属、又は、スラウストキトリウム属がより好ましい。これらの種類は、脂質等の産生能が比較的高く、スクアレン等の炭化水素類を産生し得るため、食用の用途や、バイオ燃料用原料の用途等に好適に用いられる。
【0036】
ラビリンチュラ類の培養は、回分培養、連続培養、流加培養等のいずれの培養方式で行ってもよい。また、ラビリンチュラ類の培養は、振盪培養、通気培養、通気攪拌培養、エアリフト培養、静置培養等の適宜の培養方法で行うことができる。これらの培養方法の中でも、通気攪拌培養又はエアリフト培養がより好ましい。ラビリンチュラ類の培養に用いる培養装置としては、例えば、機械攪拌型リアクタ、エアリフト型リアクタ、充填層型リアクタ、流動層型リアクタ等を用いることができる。培養容器としては、培養の目的や培養容量等に応じて、タンク、ジャーファーメンタ、フラスコ、ディッシュ、カルチャーバッグ、チューブ、試験管等の各種の容器を用いることができる。培養容器は、ステンレス、ガラス等の無機材料や、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート共重合体、ポリプロピレン等の有機材料等、適宜の材質であってよい。
【0037】
ラビリンチュラ類の培養は、適宜の温度条件、pH条件、通気条件等の下で行うことができる。培養温度は、5℃以上40℃以下とすることが好ましく、10℃以上35℃以下とすることがより好ましく、10℃以上30℃以下とすることが更に好ましい。また、pHは、2以上11以下とすることが好ましく、4以上9以下とすることがより好ましく、6以上8以下とすることが更に好ましい。
【0038】
ラビリンチュラ類の培養は、ラビリンチュラ類の属や種、培地組成、培養条件等に応じて、適宜の間隔で継代しながら行うことができる。例えば、ラビリンチュラ類は、培養を開始した後、約2日で対数増殖期が終了し、約7日で死滅期に入る。そのため、ラビリンチュラ類の継代は、1日以上10日以下の間隔で行うことが好ましく、2日以上7日以下の間隔で行うことがより好ましく、2日以上5日以下の間隔で行うことが更に好ましい。また、ラビリンチュラ類の培養時間は、ラビリンチュラ類の属や種、培地組成、培養条件、培養の目的等に応じて、適宜の時間として行うことができる。特に、ラビリンチュラ類藻類のオーランチオキトリウム属藻類は、汽水域に生息する従属栄養性藻類であり、水中の栄養分を同化して脂質を生産し、細胞内に蓄積する特徴を有するため好ましい。
【0039】
オーランチオキトリウム属藻類は、所望のトリグリセリドを生産する能力の優れた株を用いるのが好ましい。そのような藻類株は、天然に採取および分離されたものであっても、突然変異誘導およびスクリーニングを経てクローニングされたものであっても、あるいは遺伝子組み換え技術を利用して樹立されたものであってもよい。例えば、オーランチオキトリウムSp.SA-96株、NIES-3737株、オーランチオキトリウムNB6-3株、またはオーランチオキトリウムmh1959株は、奇数鎖脂肪酸のペンタデカン酸(PDA)を含有するトリグリセリドと、高度不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やドコサペンタエン酸(DPA)を含有するトリグリセリドを細胞内に大量に蓄積する性質を有するため、本発明のペンタデカン酸トリグリセリドの製造に用いる微生物として、特に好ましい。
【0040】
上記オーランチオキトリウム属藻類の培養は、当該技術分野において確立された方法で行われる。即ち、通常の維持培養は、適切に成分調製した培地に藻類を播種し、定法に従い行われる。オーランチオキトリウム属藻類を培養するための培地は、本質的に、塩分、炭素供給源および窒素供給源を含有する。一般的に、微細藻類の培養には、いわゆるGTY培地(人工海水10~40g/L、D(+)グルコース20~100g/L、トリプトン10~60g/L、酵母抽出物5~40g/L)が用いられる。
【0041】
炭素源としてはグルコース、フルクトース、スクロース等の糖類がある。これらの炭素源を、例えば、培地1リットル当たり20~120gの濃度で添加する。
【0042】
オーランチオキトリウム属藻類は海洋性藻類であり、培地には適切な量の人工海水が添加される。好ましくは、人工海水は、最終的な培地の塩分濃度が海水(塩分濃度3.4%(w/v))の約10%(v/v)~約100%(v/v)、例えば塩分濃度が約1.0~3.0%(w/v)となるように添加される。
【0043】
一般的に、微細藻類の培養培地には、グルタミン酸ナトリウム、尿素等の有機窒素、または酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の無機窒素、または酵母抽出物、コーンスチープリカー、ポリペプトン、ペプトン、トリプトン等の生物由来消化物等の、様々な窒素源が添加され得る。特に、オーランチオキトリウム属藻類の培養に用いる培地に添加する窒素源として、様々な動物の細胞から液体成分を抽出して得られる細胞抽出物が好んで用いられる。培養細胞産物を取得するために細胞を工業的スケールで大量培養しなければならない場合に、細胞由来のアミノ酸、核酸、ビタミン、ミネラル等の栄養素に富み、低コストで入手可能な細胞抽出物の利用は極めて有利である。
【0044】
しかしながら、上記のように、細胞抽出物をベースに調製した培地を使用すると、培養藻類が生産するトリグリセリド中の奇数脂肪酸の割合が著しく低下してしまうため、本発明の目的物を効率的に生産する場合、培地の窒素源として細胞抽出物を利用することが出来なかった。そこで、本発明者らは、強酸処理した細胞抽出物を添加して調製した藻類培養培地中でオーランチオキトリウム属藻類を培養したところ、当該処理をしない細胞抽出物を添加した場合と比較して、奇数鎖脂肪酸の生産量が劇的に増大することを見出し、奇数鎖脂肪酸を主要成分として含有するトリグリセリドを製造する方法をすでに報告している(特開2017-063633号公報)。
【0045】
さらに、本発明の好ましい実施形態において、オーランチオキトリウム属藻類を培養するための基本培地は、2%以上のグルコースと0.5~4%のグルタミン酸ナトリウム、0.1~2%の酵母エキス、1~3.3%海水塩、2~20%ホエイ(動物性または植物性)を加えた培地にバリンを10~50mMとプロピオン酸ナトリウム10~50mMを添加する。動物性または植物性のホエイは、豆腐ホエー(大豆ホエー)が好ましい。この基本培地に、2%以上のグルコースと0.5~4%のグルタミン酸ナトリウム、0.1~2%の酵母エキス、1~3.3%海水塩、2~20%ホエイ(動物性または植物性)にて、20~30℃で72時間前培養したオーランチオキトリウムの培養液を2%以上加える。このオーランチオキトリウム添加培養液に、空気を通気させ、穏やかに攪拌する。培養は、20~30℃、pHは5.0~8.5に保持(pH調整には、1.0MのNaOH溶液を用いる)して、48~200時間行う。培養後、遠心分離にてペンタデカン酸トリグリセリドを生産したオーランチオキトリウム細胞を回収することができる(WO2020/054804号パンフレット参照)。
【0046】
上記のような方法にて得られた培養液から遠心分離または濾過等により回収したペレットを、凍結乾燥または加温による乾燥等により乾燥させる。または、培養後の藻類細胞が懸濁した培地をそのままトリグリセリドの抽出ステップに用いてもよい。抽出は、異なる有機溶媒を用いて複数回行ってもよい。有機溶媒としては、n-ヘキサン・エタノール混合溶媒、クロロホルム・メタノール混合溶媒、またはエタノール・ジエチルエーテル混合溶媒等の極性溶媒と弱極性溶媒の混合液を用いることができる。得られた抽出液は、当業者に既知の方法で精製される。
【0047】
トリグリセリドを分離する手法は、当業者に既知の分画手法が採用される。分画するトリグリセリド分子の極性、溶媒への溶解度、融点、比重、分子量等の様々な物理化学的特性を利用して分離精製が行われてもよく、好ましくはカラムクロマトグラフィー技術が用いられる。トリグリセリド分離手段の条件は、トリグリセリド混合物の組成および分画すべきトリグリセリドの種類に依存して、当業者による通常の条件検討により設定することが出来る。
【0048】
藻類である、シゾキトリウム属及びオーランチオキトリウム属藻類は、奇数鎖脂肪酸トリグリセリドおよび高度不飽和脂肪酸トリグリセリドのいずれも細胞内で合成して蓄積することが出来る。そのため、得られた藻類細胞にエタノール、ヘキサンまたは酢酸エチルを加え脂質を抽出後、溶媒を留去し、藻類脂質を得る。この脂質を5℃にて、静置することで、ペンタデカン酸トリグリセリドを析出することが出来る。精製されたペンタデカン酸トリグリセリド「PdATG」の組成は、HPLC-MS、HPLC、ガスクロマトグラフィー等により分析することができる。
【0049】
オーランチオキトリウム属藻類は、奇数鎖脂肪酸トリグリセリドおよび高度不飽和脂肪酸トリグリセリドのいずれも細胞内で合成して蓄積することが出来る。そのため、得られたオーランチオキトリウム細胞にヘキサンまたは酢酸エチルを加え脂質を抽出後、この脂質溶液に過酸化水素水を加えるか、オゾンを通気することにより不飽和脂肪酸を酸化分解する。反応終了後、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムまたはイオン交換樹脂にて酸化物を取り除き、ペンタデカン酸トリグリセリド「PdATG」を得る。精製されたペンタデカン酸トリグリセリド「PdATG」の組成は、HPLC-MS、HPLC、ガスクロマトグラフィー等により分析することができる。
【0050】
(小胞体ストレス抑制剤)
本発明の第一の観点に係る小胞体ストレス抑制剤は、小胞体内への異常タンパク質蓄積による糸球体上皮細胞死を抑制する製剤を含む。ここでの糸球体上皮細胞死は、糸球体上皮細胞の壊死およびアポトーシスを包む。細胞死を緩和、軽減、または消失させること、細胞死の進行を抑制すること、及び予防、防止することを包含する。そして、小胞体ストレスによる糸球体上皮細胞死によって顕在化する障害(疾病や加齢変化)例えば、CKDを包含する腎臓疾患、尿細管間質性腎炎、高尿酸血症、痛風、腎結石症、足壊疽などの全身の血管に関連する病気(心血管病)等の予防、進行防止及び/又は改善のために使用することができ、そのための医薬品として有用である。
【0051】
(医薬品)
また、用語「医薬品」とは、上記したような糸球体上皮細胞死によって顕在化する障害およびその関連障害の患者に対して、小胞体ストレスを抑制する事で、その症状の予防、進行防止及び/又は改善のための治療薬を意味する。
【0052】
本発明に係る組成物ないしこれによる医薬品は、ヒトのみならず、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギの家畜並びにイヌ、ネコ等の愛玩動物等を含む哺乳類に対しても効果を発揮する。
【0053】
本発明に係る組成物ないしこれによる医薬品は、式(I)の化合物のみを有効成分として含むものであってもよく、糸球体上皮細胞障害抑制効果を阻害しない限り他の成分を含むものであってもよい。他の成分は、例えば従来から使用されている治療薬または予防薬であってもよい。したがって、本実施形態の小胞体ストレス抑制剤は、さらなる態様において、糸球体上皮細胞障害疾患を予防改善するための医薬組成物を提供する。
【0054】
また本発明に係る組成物ないしこれによる医薬品は、経口投与することができ、経口投与に適した剤形として、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などの形態として調製することができる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0055】
特に限定されるわけではないが、より具体的には、例えば、上記式(I)で表されるペンタデカン酸トリグリセリドを配合して医薬品を製造する際には、例えば、デキストリン、デンプン等の糖類;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のタンパク質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類等の任意の助剤を添加して任意の剤形に製剤化することができる。
【0056】
本発明に係る医薬品における上記式(I)で表されるペンタデカン酸トリグリセリドの配合量は、特に限定される訳ではないが、有効性を示す濃度である成人一日当たりペンタデカン酸トリグリセリドの摂取量が1日当たり約5~1000mg程度となるように調整することが好ましい。
【0057】
また本発明に係る組成物ないしこれによる医薬品は、経口投与の形態に限られず、非経口的投与形態のものとすることも可能であり、例えば、注射剤、輸液剤などの形態とすることができる。この場合においても当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される助剤、担体等を用いて製剤化することができる。
【0058】
(食品)
本発明の第三の観点に係る食品は、上記式(I)で表されるペンタデカン酸トリグリセリドを有効成分として含有し、CKDを発症する前から予防飲食物としてとして長期間にわたり摂取することができ、そのための健康食品として有用である。PdATGを構成するペンタデカン酸は、牛・豚・ニワトリ・羊などの肉、川や海の生息する魚、キノコ類などの可食部に少量に含まれていることが報告され、さらにPdATGについても極微量であるが含まれ長年の食経験から安全性が高いことが推察される。
【0059】
したがって、本実施形態の食品は、健康増進に服用される健康食品として有用である。ここで、「健康食品」とは、日常生活の健康増進や加齢によるむくみやすい、手の指、顔、足のすねや甲などのむくみ、尿の変化、尿がでにくい、頻尿、尿が異常に泡立つ、血が混じり褐色の様な色になる、体が重い・だるい・疲れやすい、膀胱炎などの症状を予防、進行防止、緩和や改善するために用いることを目的とした飲食物を意味し、国が定めた安全性や有効性に関する基準等を満たした「保健機能食品制度」上での機能性表示食品、栄養機能食品あるいは特定保健用食品等を含む広義の「健康食品」を指す。
【0060】
上記式(I)で表されるペンタデカン酸トリグリセリドを配合して食品を製造する際には、例えば、デキストリン、デンプン等の糖類;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のタンパク質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類等の任意の助剤を添加して任意の剤形に製剤化することができる。
【0061】
また、本発明の食品における上記式(I)で表されるペンタデカン酸トリグリセリドの配合量は、特に限定される訳ではないが、添加対象食品の一般的な摂取量を考慮して成人一日当たりペンタデカン酸トリグリセリドの摂取量が1日当たり約1~100mg程度となるように調整することが好ましい。
【0062】
上記食品の具体例としては、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これら飲料の濃縮液および調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の氷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、シュウマイの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、天ぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂および油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;錠剤状、顆粒状等の種々の形態の健康・栄養補助食品類;その他スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物などを例示することができる。
【0063】
本発明に係る食品には、種々の食品添加物、例えば、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤などの添加剤を単独、あるいは併用して配合してもよい。
【0064】
本発明に係る食品におけるペンタデカン酸トリグリセリドの含有濃度は、固形分として、0.00001~100質量%程度(以下、%で表わす)、好ましくは0.0005~50%程度含有していると使用性および良好な効果が得られる。
【0065】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。なお、以下の実施例において、各種成分の添加量を示す数値の単位%は、質量%を意味する。
【実施例0066】
(製造例1)オーランチオキトリウムを用いたペンタデカン酸トリグリセリドの製造
オーランチキトリウムmh1959株(国立大学法人 宮崎大学農学部 林 雅弘教授より購入)を、3.6%のグルコースと0.5%のグルタミン酸ナトリウム、0.2%の酵母エキス、1%海水塩、10%ホエイを含む培地を用いて、25℃で72時間前培養した。これを以下の基本培地に対し2%となるように加え、空気を通気させ、穏やかに攪拌した。基本培地1kgは、3.6%のグルコースと0.5%のグルタミン酸ナトリウム、0.2%の酵母エキス、1%海水塩、10%ホエイを加えた培地にバリンを50mMとプロピオン酸ナトリウム25mMを添加して調製した。培養は、25℃、pHは7.40~7.75に保持(pH調整には、1.0M NaOH溶液を用いる)して、72~96時間培養した。
【0067】
培養後、3000rpmで15分間遠心分離して、藻体約20gを回収した。得られたオーランチキトリウムの藻体20gに、ヘキサンまたは酢酸エチルを加え、脂質を抽出した。抽出した脂質溶液に過酸化水素水を加え(必要に応じて水を加える)、室温でオゾンを通気した。反応終了後、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムまたはイオン交換樹脂にて酸化物を取り除き、温度低下と共に析出するペンタデカン酸トリグリセリド混合物2gを得た。
【0068】
(ペンタデカン酸トリグリセリドの組成分析)
製造例1で得られたペンタデカン酸トリグリセリドを含む脂質に14%BF-メタノール0.50mLと酢酸メチル0.25mLとを加え、70℃、30分間加熱して脂肪酸のメチルエステル(FAME)を得た。反応液にn-ヘキサンを正確に1.0mLと5mLの生理食塩水を加え、激しく混合した。混合液を2800rpm、10分間遠心分離し、n-ヘキサン層をガスクロマトグラフィーの試料とした。
【0069】
島津製作所社製ガスクロマトグラフ装置GC-2025を用いて、上記試料を分析した。分析条件は、Agilent J&W GCカラムDB-23(30m×0.25mm)を用い、1μLの試料をインジェクトして、キャリヤーガス(He、14psi)にてFID(水素炎イオン化型検出器)で検出した。FAMEの分子種は脂肪酸メチルエステル標準品(GLサイエンス社製)の保持時間をもとに同定した。脂肪酸組成は面積比から求めた。求めた組成は質量比である。奇数鎖脂肪酸の割合は、総脂肪酸量に奇数鎖脂肪酸(C13、C15、C17)の割合(%)を掛けて求めた。得られた結果を以下の表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示した結果より、製造例1で得られたトリグリセリド中の奇数鎖脂肪酸の含量は、質量比で68.3%であった。また、脂肪酸としては、主として、ペンタデカン酸残基(C15)とパルミチン酸残基(C16)からなるトリグリセリドであることがわかった。
【0072】
(ペンタデカン酸トリグリセリドの質量分析)
製造例1で得られたペンタデカン酸トリグリセリドを含む脂質を、Thermo Fischer社製Orbitrap質量分析計Exactive Plus(AMR社製DARTイオン源)を用いて質量分析法にて解析した。その結果、主要なマススペクトルピークのフラグメント組成から、製造例1で得られたペンタデカン酸トリグリセリドは、ペンタデカン酸残基(C15)のみで形成されるトリグリセリドとペンタデカン酸残基(C15)2単位にパルミチン酸残基(C16)を1単位含むトリグリセリドを主として含むトリグリセリド混合物であることがわかった。
【0073】
(実施例1)PdATGによるCKD動物モデルによる糸球体機能の検討
PdATGの効果を検討するために、製造例1で得られたペンタデカン酸トリグリセリドをエタノールに溶解した溶液を被検薬として用い、以下の実験を行った。
【0074】
・試験方法
CKD動物モデルは、C57BL/6JJmsSlc雄性マウスを用い、8週齢時に左腎の2/3を、9週齢時に右腎を全摘出することで5/6腎臓摘出マウスを作製した(Nxマウス)。偽処置マウス(Sham群)は、皮膚及び筋肉の切開のみを行った。腎機能は、血清尿素窒素(BUN)値や血清Creatinine (Cre)値から判定した。腎臓糸球体の組織学的な検証にはヘマトキシリン・エオジン染色を用いた。
【0075】
・結果
ペンタデカン酸トリグリセリド(0.2g/L)を動物用飲料水に懸濁させ、Nxマウスに8週間経口摂取させ、体重増加量、飲水量、および摂餌量の経時変化を観察したが、いずれもペンタデシル投与による変化は認められなかった。また、生存率についてもログランク検定を行ったが有意な差は認められなかった。
【0076】
・PdATGの慢性投与が腎機能低下に及ぼす影響
<糸球体面積に及ぼす影響>
図1(A)および(B)に示すように、PdATG投与群は水投与群と比較し、腎摘出処置により上昇した糸球体当たりの面積を低下させる傾向を示した。
【0077】
<CRE、BUNに及ぼす影響>
図2(A)および(B)に示すように、Nxマウスの腎機能を示すBUN値やCre値は、偽処置マウスの値と比較して有意に増加したが、ペンタデカン酸トリグリセリドはこの増加を顕著に抑制した。一方で、Nxマウスで生じる糸球体面積の増加には、ペンタデカン酸トリグリセリドの投与は影響を及ぼさなかった。
【0078】
以上より、ペンタデカン酸トリグリセリドはCKDモデルマウスの腎機能障害の進行を部分的ではあるものの抑制することで尿毒症の増悪化を予防する作用を有することが示唆された。そのため、ペンタデカン酸トリグリセリドは腎機能低下が関与する腎臓病の予防や治療に有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係るPdATGは、小胞体ストレスによる糸球体上皮細胞死によって顕在化する障害(疾病や加齢変化)例えば、尿細管間質性腎炎、高尿酸血症、痛風、腎結石症、足壊疽などの全身の血管に関連する病気(心血管病)等の予防、進行防止及び/又は改善するために用いることができ、副作用がないか、あっても少ない、小胞体ストレス予防抑制剤が提供される。

図1
図2