(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176009
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】体積測定方法及び体積測定装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/52 20060101AFI20241212BHJP
G01F 22/00 20060101ALI20241212BHJP
G01N 22/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G01S13/52
G01F22/00
G01N22/00 S
G01N22/00 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094189
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】杉橋 敦史
(72)【発明者】
【氏名】室田 康太
(72)【発明者】
【氏名】田村 鉄平
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB18
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC11
5J070AD05
5J070AD08
5J070AD09
5J070AF01
5J070AH35
(57)【要約】
【課題】周囲に構造物がある場合でも、安定的に測定対象となる流体の体積や重量を測定することができるようにする。
【解決手段】アレイレーダーのアレイアンテナから照射されたマイクロ波が物体または流体に反射して受信される反射波に基づいて、前記物体または流体までの距離、および、前記物体または流体の速度を、前記反射波の方向ごとに算出したデータを生成するデータ生成ステップと、前記算出された前記物体または流体の速度に基づいて計測対象となる流体である計測対象流体の流速に対応する速度を有する前記反射波の成分を特定する速度特定ステップと、前記特定した前記反射波の成分から前記計測対象流体までの距離を、前記反射波の方向ごとに特定することで、前記計測対象流体の2次元断面形状を算出する断面形状算出ステップと、前記2次元断面形状に基づいて前記計測対象流体の体積を算出する体積算出ステップとを含む。
【選択図】
図23
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象である流体の体積を測定する体積測定方法であって、
FMCW方式のアレイアンテナを用いて、マイクロ波を前記流体に向けて送信波として送信する送信部と、
前記アレイアンテナを用いて、前記流体及び前記流体の周囲の物体で反射したマイクロ波を反射波として受信する受信部と、
前記送信波に対応する参照波と前記反射波とから生成されるビート波に基づいて、前記流体の体積を算出する演算処理部と、
を有する体積測定装置を用い、
前記演算処理部を用いて、
前記反射波に基づいて前記流体及び前記物体までの距離と、前記流体及び前記物体の速度とを、前記反射波の方向ごとに算出したデータを生成するデータ生成ステップと、
前記流体及び前記物体の速度に基づいて、速度を有する成分を特定する速度特定ステップと、
前記速度を有する成分から、前記流体までの距離を、前記反射波の方向ごとに特定することで、前記流体の2次元断面形状を算出する断面形状算出ステップと、
前記2次元断面形状に基づいて前記流体の体積を算出する体積算出ステップと、
を有する、体積測定方法。
【請求項2】
前記流体の2次元断面形状に対応する面積の2倍の面積を、時間的に積分することで前記流体の体積を算出する、請求項1に記載の体積測定方法。
【請求項3】
前記流体が、中間排滓工程において転炉口から排滓されるスラグ流である、請求項1に記載の体積測定方法。
【請求項4】
前記送信波の照射方向が、鉛直方向下向きに対して、0度より大きく75度以下又は105度以上で180度より小さい範囲内で傾いており、前記送信波の照射方向上の前記スラグ流の位置が、前記転炉口より下方又は上方に位置する、請求項3に記載の体積測定方法。
【請求項5】
測定対象である流体の体積を測定する体積測定装置であって、
FMCW方式のアレイアンテナを用いて、マイクロ波を前記流体に向けて送信波として送信する送信部と、
前記アレイアンテナを用いて、前記流体及び前記流体の周囲の物体で反射したマイクロ波を反射波として受信する受信部と、
前記送信波に対応する参照波と前記反射波とから生成されるビート波に基づいて、前記流体の体積を算出する演算処理部と、演算処理部と、
を有し、
前記演算処理部は、
前記反射波に基づいて前記流体及び前記物体までの距離と、前記流体及び前記物体の速度とを、前記反射波の方向ごとに算出したデータを生成するデータ生成部と、
前記流体及び前記物体の速度に基づいて、速度を有する成分を特定する速度特定部と、
前記速度を有する成分から、前記流体までの距離を、前記反射波の方向ごとに特定することで、前記流体の2次元断面形状を算出する断面形状算出部と、
前記2次元断面形状に基づいて前記流体の体積を算出する体積算出部と、
を有する、体積測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積測定方法及び体積測定装置に関し、周囲に構造物がある場合でも、安定的に測定対象となる流体の体積を測定することができるようにする体積測定方法及び体積測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉操業では脱リン(P)、脱炭(C)を効率的に行うために、MURCと呼ばれる吹錬を2段階に分けて実施する操業が行われている。一連の吹錬の途中でフォーミングしたスラグを排滓して除去したリンをスラグとともに排出することで、後段の脱炭素吹錬の効率を改善している。この工程を中間排滓と呼ぶ。
【0003】
中間排滓では、転炉を傾動させることにより溶鉄を転炉内に残したまま炉口からスラグの一部が排滓される。中間排滓により炉外に排出されたリンの量を推定することは、後段の脱炭吹錬の条件(例えば、送酸条件、副原料の投入条件)を決定する上で極めて重要である。炉外に排出されたリンの量を推定するために排滓されるスラグの体積または重量を測定する技術が求められている。
【0004】
スラグの測定技術の一つとして、排滓されるスラグを受け取る排滓鍋の重量を測定する方式がある。しかし、この方式では、排滓時のスプラッシュなどによる故障のため安定的にスラグの排滓量を測定することができない。
【0005】
一方で、光学的なセンサによって排滓されるスラグ流を測定することも考えられる。しかし、排滓中のスラグ流の周囲からは火炎や、黒煙、スプラッシュなどの粉塵が多く発生しており、光学的なセンサを用いて排滓流を測定することは困難である。一方で、マイクロ波は、波長が長く、黒煙、スプラッシュなどの影響を受け難いため、マイクロ波を用いたスラグ流の状態の測定を可能とする技術が期待される。
【0006】
例えば、マイクロ波レーダーを利用して移動する物体を識別する技術として、特許文献1および特許文献2が提案されている。
【0007】
特許文献1によれば、レーダー装置2により検出された物体を静止物と移動物に分類し、移動物に対応する検出結果情報に基づいて、各反射点の距離を算出し、各反射点の距離および方位を示す反射点情報を出力することで、任意の形状の移動物とその位置を検出する。これにより、パターンマッチングを用いる場合に比べて、様々な形状の物体を検出でき、検出精度が向上する。
【0008】
特許文献2によれば、道路形状を推定するにあたり、レーダーにより測定された物体のドップラー速度と車速センサにより測定された自車両の速度を比較して、当該物体が静止物体であるか否かを識別し、静止物体であると識別されている物体の中から道路形状の推定に適している有効な静止物体が抽出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-100899
【特許文献2】特開2007-66047
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、転炉や排滓鍋は、スプラッシュの飛散防止のため、構造物によって周囲を囲まれて設置される。このため、マイクロ波を用いて排滓中のスラグ流の状態を測定してスラグの体積を算出する場合、周囲を壁に取り囲まれている中で測定を行う必要がある。
【0011】
マイクロ波を用いて排滓流を測定する際には、マイクロ波が広がりながら伝搬する性質を有しているため、マイクロ波がスラグ流のみならず周囲の構造物にも当たって反射するため、スラグ流からの反射信号の他にも周囲の構造物から多数の反射信号が戻ってくることになり、測定上のノイズが多数存在する中でスラグ流からの反射信号を識別する必要がある。
【0012】
特許文献1および特許文献2に示される方式では、周囲の構造物からの反射信号の影響が考慮されていなかった。
【0013】
本発明の一態様は、周囲に構造物がある場合でも、安定的に測定対象となる流体の体積や重量を測定することができるようにする技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく、本発明の一態様に係る体積測定方法は、測定対象である流体の体積を測定する体積測定方法であって、FMCW方式のアレイアンテナを用いて、マイクロ波を前記流体に向けて送信波として送信する送信部と、前記アレイアンテナを用いて、前記流体及び前記流体の周囲の物体で反射したマイクロ波を反射波として受信する受信部と、前記送信波に対応する参照波と前記反射波とから生成されるビート波に基づいて、前記流体の体積を算出する演算処理部と、を有する体積測定装置を用い、前記演算処理部を用いて、前記反射波に基づいて前記流体及び前記物体までの距離と、前記流体及び前記物体の速度とを、前記反射波の方向ごとに算出したデータを生成するデータ生成ステップと、前記流体及び前記物体の速度に基づいて、速度を有する成分を特定する速度特定ステップと、前記速度を有する成分から、前記流体までの距離を、前記反射波の方向ごとに特定することで、前記流体の2次元断面形状を算出する断面形状算出ステップと、前記2次元断面形状に基づいて前記流体の体積を算出する体積算出ステップと、を有する。
【0015】
上記課題を解決すべく、本発明の一態様に係る体積測定装置は、測定対象である流体の体積を測定する体積測定装置であって、FMCW方式のアレイアンテナを用いて、マイクロ波を前記流体に向けて送信波として送信する送信部と、前記アレイアンテナを用いて、前記流体及び前記流体の周囲の物体で反射したマイクロ波を反射波として受信する受信部と、前記送信波に対応する参照波と前記反射波とから生成されるビート波に基づいて、前記流体の体積を算出する演算処理部と、演算処理部と、を有し、前記演算処理部は、前記反射波に基づいて前記流体及び前記物体までの距離と、前記流体及び前記物体の速度とを、前記反射波の方向ごとに算出したデータを生成するデータ生成部と、前記流体及び前記物体の速度に基づいて、速度を有する成分を特定する速度特定部と、前記速度を有する成分から、前記流体までの距離を、前記反射波の方向ごとに特定することで、前記流体の2次元断面形状を算出する断面形状算出部と、前記2次元断面形状に基づいて前記流体の体積を算出する体積算出部と、を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、周囲に構造物がある場合でも、安定的に測定対象となる流体の体積や重量を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】本実施形態における体積測定方法の概略を説明する図である。
【
図3】本実施形態に係る体積測定装置の構成例を示すブロック図である。
【
図5】送信波(または参照波)と反射波(または受信波)の例を示す図である。
【
図7】ビート波のデジタル信号に対してFFTを実行して得られる情報の例を示す図である。
【
図8】複数の反射波が重なって受信されたときのビート波に対するFFTの演算結果の例を示す図である。
【
図9】所定の時間間隔で連続して発振されるマイクロ波の例を示す図である。
【
図10】連続して送信される送信波と、当該送信波に対応する反射波による受信波を説明する図である。
【
図11】連続して送信されるチャープのそれぞれに対応するビート波の波形を示す図である。
【
図12】
図11の1チャープ内の時間中の所定の時刻における各ビート波の振幅を時間軸に並べた波形を示す図である。
【
図13】受信アンテナごとに生成されるビート波の例を説明する図である。
【
図14】Beamformer法による電波の到来方向の推定を説明する図である。
【
図15】各受信アンテナに対応するビート波列のうちの1つのビート波の波形を示す図である。
【
図16】
図15の1チャープ内の時間中の所定の時刻における各ビート波の振幅を時間軸に並べた波形を示す図である。
【
図20】キューブデータの中で、特定の速度ビンに対応するブロックを抽出する例を説明する図である。
【
図21】特定の速度ビンに対応するブロックを解析して得られる物体等の方向と距離の関係を示す図である。
【
図22】演算器の詳細な構成例を示すブロック図である。
【
図23】体積算出処理の例について説明するフローチャートである。
【
図24】演算器として用いられるコンピュータの物理的構成を例示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の例示的実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
転炉を用いた精錬時には、まず、転炉内に溶銑が装入され、装入された溶銑に第1精錬材が加えられる。そして、転炉を傾動させてスラグを排滓する中間排滓が行われる。
【0020】
(中間排滓)
図1は、中間排滓の一例を説明する図である。
図1においては、この転炉10が傾動されることにより、転炉10内に溶銑を残しつつ、炉口10aからリン(P)の濃度が高いスラグが排滓されている。排滓されたスラグは、流体のスラグ流12として、転炉10の下方に配置された図示せぬ排滓鍋に流下される。転炉10および排滓鍋は、スプラッシュの飛散防止のために、ピット構造の地下に設置され周囲を壁に取り囲まれた構造物の中に設置される。
【0021】
(体積測定方法の概略)
図2は、本実施形態における体積測定方法の概略を説明する図である。本実施形態の体積測定方法では、体積を測定する対象となる流体の体積を測定する。体積を測定する対象となる流体は、一例として炉口10aから排滓されるスラグ流である。
【0022】
図2に示されるように、本実施形態では、体積測定装置20によってスラグ流12に向けてマイクロ波を照射し、当該マイクロ波の反射波を受信して解析することでスラグ流12の体積を測定する。体積測定装置20は、1又は複数の送信アンテナと、1又は複数の受信アンテナとを有するアレイアンテナを備えており、アレイアンテナを構成する送信アンテナからマイクロ波が送信されることにより、マイクロ波の照射が行われる。
【0023】
複数の受信アンテナは、マイクロ波の受信アンテナ素子が1次元配列または2次元配列で配置された配列構造を有する。ここでは、体積測定装置20は、1次元に配列された複数の受信アンテナを有するものとし、例えば、
図2では、アレイアンテナを構成する、x軸方向に並べられた1次元配列のアンテナ素子により、複数の受信アンテナが構成されるものとして説明する。
【0024】
体積測定装置20は、
図2に示すように、破線の矢印で示す方向に向けてマイクロ波を照射する。その結果、マイクロ波が破線の矢印の方向を中心に広がって伝搬することで、
図2において三角形で示される照射範囲21に向けて、マイクロ波が照射される。すなわち、スラグ流12を囲むようにマイクロ波が照射される。一方、照射範囲21の中心を示す線(
図2に示す実線の矢印)がy軸となり、スラグ流12の水平方向の中心に向けられる。
なお、実際には、照射されたマイクロ波は、上下方向にも範囲を有するが、ここでは説明を簡単にするために水平方向の範囲だけについて説明している。
【0025】
図2のu,v,w軸は、地球に固定の座標軸を示し、w軸が鉛直方向を示している。体積測定装置20のマイクロ波照射方向であるy軸および受信アンテナの配列方向であるx軸は、それぞれv軸およびu軸と平行であることが望ましいが、v軸およびu軸と平行でなくてもよい。スラグ流12は、w軸方向の流速を有するが、u軸方向およびv軸方向の流速は有していないと考えられるからである。
【0026】
体積測定装置20は、マイクロ波照射方向に対して角度θaを有する方向におけるスラグ流12までの距離L(
図2に示す破線の矢印)を測定する。すなわち、距離Lは、体積測定装置20の送信アンテナからスラグ流12までの距離であり、角度θaは、距離Lを示す直線(
図2中点線で示す)と、y軸がなす角度である。後述するように、体積測定装置20は、複数の角度θaに対応する距離Lを測定することで、スラグ流12の断面形状を求める。
【0027】
(体積測定装置の構成例)
図3は、体積測定装置20の構成例を示すブロック図である。
図3に示される体積測定装置20は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave:周波数変調連続波)方式のアレイレーダーとして構成される。
【0028】
この例では、体積測定装置20は、測定対象である流体の体積を計測する装置であり、アレイアンテナ30、マイクロ波発振器41、ミキサー42、AD変換器43、および、演算器44を有している。アレイアンテナ30には、一又は複数の送信アンテナ31および一又は複数の受信アンテナ32が含まれる。
なお、
図3では、送信アンテナ31と受信アンテナ32がそれぞれ1つだけ示されているが、実際には、1又は多数の送信アンテナ31と、1又は多数の受信アンテナ32がアレイアンテナ30に含まれている。そのため、以降の説明では、例として1つの送信アンテナ31と複数の受信アンテナ32からなるアレイアンテナ30を用いて説明をしているが、本発明に係るアレイアンテナ30は、複数の送信アンテナ31と1つの受信アンテナ32から構成されていても良く、複数の送信アンテナ31と複数の受信アンテナ32から構成されていても良い。
【0029】
マイクロ波発振器41は、予め決められた掃引時間の間に、予め決められた掃引周波数だけ周波数が線形に変化する波形のマイクロ波を、所定回数分発振する。マイクロ波発振器41により発振されたマイクロ波は、アレイアンテナ30の送信アンテナ31と、ミキサー42とにそれぞれ供給される。
【0030】
送信アンテナ31は、FMCW方式のアレイアンテナ30を用いて、マイクロ波を流体に向けて送信波として送信する送信部として機能する。即ち、1つ以上J個の送信アンテナ31は、マイクロ波発振器41により発振されたマイクロ波を、測定対象の流体であるスラグ流に向けて送信する。受信アンテナ32は、アレイアンテナ30を用いて、流体及び流体の周囲の物体で反射したマイクロ波を反射波として受信する受信部として機能する。即ち、1つ以上K個の受信アンテナ32は、送信アンテナから送信されたマイクロ波である送信波が、物体や流体(物体等と称する)に当たって反射することで生じる反射波を受信する。
【0031】
アレイアンテナ30に含まれるK個の受信アンテナ32では、異なる方向からのマイクロ波が、重畳された状態で受信される。
【0032】
ミキサー42は、マイクロ波発振器41により発振されたマイクロ波である送信波と実質同一な参照波(
図3では、送信波を分岐して参照波としている)と、受信アンテナ32によって受信された反射波とを合成する。なお、合成されて生成された波形は、ビート波と称される。
【0033】
AD変換器43は、ミキサー42から出力されるビート波のアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0034】
演算器44は、送信波に対応する参照波と反射波とから生成されるビート波に基づいて、流体の体積を算出する。即ち、演算器44は、AD変換器43から出力されるデジタル信号に対して演算処理を実行することで、物体等までの距離、および、物体等の速度を、反射波の方向ごとに算出する。演算器44は、さらに、所定の速度を有する物体等までの距離を、反射波の方向ごとに特定することで、当該物体等の2次元断面形状を算出し、その2次元断面形状に基づいて当該物体等の体積を算出する。
【0035】
(体積測定装置の設置例)
図4は、体積測定装置20の設置例を説明する図である。
図4は、転炉10を真横から見た図である。体積測定装置20は転炉の炉口10aより低い位置に配置され、体積測定装置20からは転炉の炉口10aを見上げることになり、この角度から炉口10aの開口部の奥は見えない。
【0036】
排滓されるスラグ流12は、重力に従って鉛直下方向に落下していく。体積測定装置20から照射されるマイクロ波の照射範囲の中心を示す破線21aは、マイクロ波の照射方向を示し、鉛直方向に対して角度θbだけ傾いている。
図4では、W軸と平行な鉛直方向が一点鎖線で示されており、破線21aと鉛直方向との間の鋭角の角度θbが示されている。また、破線21aは、炉口10aから鉛直下方向に距離hだけ離れた位置においてスラグ流12に当たる。
【0037】
上述したように、演算器44では、物体等の速度が算出される。スラグ流12の流速方向は鉛直方向下向きとほぼ等しくなるので、スラグ流12の流速をVsで表す場合、
図4に示されるように体積測定装置20を設置したときの、体積測定装置20のマイクロ波の照射方向から見た流速Vdは、Vscosθbによって表すことができる。ただし、マイクロ波の照射方向が、スラグ流12に当たる方向を向いていたとしても、スラグ流12の流速方向と垂直になると、スラグ流12の速度を測定できなくなる。このため、マイクロ波の照射方向は、鉛直方向下向きに対して傾いている必要があり、鉛直方向下向きに対し90度周辺以外の所定の角度だけ傾くように設定され、好ましくは、90度より小さく、例えば0度より大きく75度(=90-15度)以下の角度θbだけ傾くように設定される。
【0038】
なお、
図4では、体積測定装置20が炉口10aより低い位置に設置され、スラグ流12を見上げる配置となっている場合を用いて説明しているが、体積測定装置20が炉口10aより上方に設置され、スラグ流12を見下ろす配置となっていても良い。その場合は、体積測定装置20のマイクロ波の照射方向から見た流速Vdは、体積測定装置20から遠ざかる方向の速度を持つ。体積測定装置20が炉口10aより上方に設置される場合は、
図4のθbは90度より大きな値となり、θbを、90度より大きく、例えば105度(=90+15度)以上で180度より小さい角度とすることが望ましい。
【0039】
このように、本実施形態においては、アレイアンテナ30から照射される送信波の照射方向が、鉛直方向下向きに対して、90度±15度を除く角度、すなわち、0度より大きく75度以下又は105度以上で180度より小さい範囲内で傾いており、送信波の照射方向上のスラグ流の位置が、炉口10aより下方又は上方に位置する。
【0040】
(マイクロ波による距離の測定の説明)
図5は、送信波(または参照波)と反射波(または受信波)の例を示す図である。
図5の横軸は時間を示し、縦軸は周波数を示している。
図5に示されるように、マイクロ波発振器41は、時間Tの間に、周波数Fだけ周波数が線形に変化するマイクロ波を生成する。
【0041】
ここで、時間Tを掃引時間と称し、周波数Fを掃引周波数と称する。また、このように、掃引時間Tの間、掃引周波数Fだけ線形変調される波形は、チャープ波形と称される。マイクロ波発振器41は、このチャープ波形を連続的に所定回数繰り返して発振することで、送信波を生成する。
【0042】
この場合、一つのチャープ波形に着目すると、送信アンテナ31から送信される送信波121は、時刻t1において周波数がf(t1)となり、時刻t2において周波数がf(t2)となる。受信アンテナ32で受信される反射波122は、送信波と同様の掃引時間Tと掃引周波数Fとにより規定される波形を有するが、送信波121が送信された時刻より、マイクロ波が測定対象まで往復するのに掛かる時間の分だけ、時間的に遅れて受信される。
図5の例では、時刻t1に送信されたマイクロ波は、反射波となって時刻t2に受信されることになる。
【0043】
このとき、体積測定装置20から測定対象までの距離Rは、空気中でのマイクロ波の伝播速度をcとすると、式(1)により表される。
【0044】
【数1】
(1)
ここで、Δt=t2-t1であるものとする。
【0045】
ミキサー42は、時刻t2における参照波(周波数f(t2))と受信波(即ち、反射波)(周波数f(t1))とを合成し、ビート波を生成する。ビート波の周波数Δfは、|f(t2)-f(t1)|で表されることになる。
【0046】
図6はビート波の例を示す図である。
図6は、横軸が時間とされ、縦軸が振幅とされ、参照波と受信波(即ち、反射波)がミキサー42によって合成されて生成されたビート波の波形が示されている。
【0047】
送信波を反射する物体等が1つだけしか存在しない場合、ビート波は一定の周波数と一定の振幅を有する正弦波となる。しかし、実際には、送信波が複数の物体等により反射され、それらの反射による複数の反射波が受信されるため、
図6に示されるように、複雑な波形のビート波が生成される。
【0048】
マイクロ波発振器41で発振するマイクロ波は、周波数が時間に対して線形に変化するため、Δf/Δt=F/Tの関係が成立し、これを式(1)に代入することで式(2)が得られる。
【0049】
【数2】
(2)
図7は、AD変換器43から出力されるビート波のデジタル信号に対して高速フーリエ変換(FFT)を実行して得られる情報の例を示す図である。
図7は、横軸が周波数とされ、縦軸が信号強度とされ、FFTの演算結果を示す周波数ごとの信号強度の分布である周波数スペクトルが示されている。
【0050】
図7に示されるように、ビート波に対して高速フーリエ変換を実行することにより、信号強度の周波数スペクトルが得られる。
【0051】
この周波数スペクトルにおけるピーク周波数Δfを式(2)に代入することにより、それぞれのピークに対応する測定対象や測定対象の周囲の物体までの距離Rを算出することが可能となる。なお、体積測定装置20の距離分解能は、掃引周波数Fによって定まり、c/2Fで表される。ここで、c/2Fは、FFTの演算結果において距離を表す単位となり、距離ビンと称される。従って、
図7の横軸(周波数)は、距離ビンによって表すこともできる。
【0052】
ところで、スラグ流12から近い距離に構造物などの物体が存在する場合にはその物体からの反射波もビート波を生じさせる。このため、マイクロ波を用いてスラグ流までの距離を測定する場合、スラグ流12からの反射波だけでなく、周囲の構造物からの反射波も受信され、それぞれの反射波が重なって受信されてビート波生成され、このビート波に対してFFTが実行されることになる。
【0053】
図8は、複数の反射波が重なって受信されたときのビート波に対するFFTの演算結果の例を示す図である。
図8は、横軸が周波数とされ、縦軸が信号強度とされ、FFTの演算結果を示す周波数スペクトルが示されている。
【0054】
図8において、実線131は、スラグ流12からの反射波によって生じるビート波に対するFFTの演算結果を示しており、破線132は、スラグ流12の周囲の構造物からの反射波によって生じるビート波に対するFFTの演算結果を示している。
【0055】
この場合、実際には、スラグ流12からの反射波とともに周囲の構造物からの反射波も受信され、それぞれの反射波が重なって受信波となり、ビート波が生じる。このようなビート波に対してFFTが実行されるので、FFTの演算結果は、一点鎖線133で示されるような信号強度の分布を示すことになる。
【0056】
一点鎖線133によれば、信号強度の分布において、主に構造物からの反射によるピークと、主にスラグ流12からの反射波によるピークが生じている。例えば、FFTの演算結果において、構造物までの距離に対応する周波数の信号強度が、スラグ流12までの距離に対応する周波数の信号強度より高い場合、構造物までの距離をスラグ流12までの距離であると誤判定してしまうおそれがある。
【0057】
また、スラグ流12からの反射波のビート波が構造物からの反射波のビート波と合成されることで、FFTの演算結果におけるピークの形状が歪む。
図6の例の場合、主にスラグ流12からの反射波によるによるピークに関し、一点鎖線133におけるピークの位置は、実線131のピークの位置より、やや右側にずれている。このため、誤判定することなくスラグ流12までの距離に対応するピークを特定できたとしても、やはり正確に距離を測定することができなくなる。
【0058】
そこで、本実施形態においては、FMCW方式のアレイレーダーによって算出される物体等の速度の違いを利用して測定対象流体であるスラグ流12までの距離を方向ごとに測定する。
【0059】
(マイクロ波による速度と方向の測定の説明)
次に、マイクロ波による速度の測定について説明する。体積測定装置20において、速度を測定する場合、
図5を参照して上述した送信波を、所定の時間間隔で連続して送信する。
図9は、体積測定装置20のマイクロ波発振器41により、所定の時間間隔で連続して発振されるマイクロ波の例を示す図である。
【0060】
図9は、横軸が時間とされ、縦軸が周波数とされ、連続して送信されるマイクロ波の送信波が示されている。この例では、送信波S1、送信波S2、送信波S3、・・・送信波SNのN個の送信波(チャープ波形)が、送信アンテナ31から測定対象に向けて照射されている。ここで、各チャープ波形は、それぞれ時間間隔Tcで連続して送信され、連続するN個のチャープを1フレームと称する。
【0061】
図10は、連続して送信される送信波と、当該送信波に対応する反射波による受信波を説明する図である。
図10は、横軸が時間とされ、縦軸が周波数とされ、送信された送信波の周波数および受信された反射波(受信波)の周波数の時間の経過に伴う変化が示されている。
図10に示されるように、送信波は、掃引周波数Fと掃引時間Tのチャープ波形であり、反射波も送信波と同様の波形となる。送信波(チャープ波形)は、時間間隔Tcで送信される。
【0062】
なお、上述したように、距離分解能は、マイクロ波発振器41の発振するマイクロ波の掃引周波数によって定まる。スラグ流12の凡その流速は既知であるから、マイクロ波発振器41には、1フレーム分のチャープ波形が送信される時間内のスラグ流12の移動距離を想定して掃引周波数Fと、掃引時間Tとが設定される。すなわち、1フレームに対応する時間内にスラグ流12が移動する距離が、体積測定装置20の距離分解能に対応する距離を超えることがないように、掃引周波数と、掃引時間とが設定される。
【0063】
図10に示されるように、送信波S1の送信時刻に対して、反射波に係る物体等の距離に応じた時間Δtだけ遅れて反射波R1が受信される。同様に、N個の送信波S2~送信波SNに対応して反射波R2~反射波RNが受信される。そして、送信波S1と反射波R1とが合成されることでビート波B1が生成され、送信波S2と反射波R2とが合成されることでビート波B2が生成され、・・・送信波SNと反射波RNとが合成されることでビート波BNが生成される。
【0064】
例えば、物体が速度vで移動している場合、体積測定装置20が送信波S1を送信した時刻から、反射波R1を受信した時刻までの時間に物体は距離ΔRだけ移動したとする。この場合、物体は、時間Tcの間に距離ΔRだけ体積測定装置20から遠ざかったことになり、式(3)が成立する。
【0065】
【数3】
(3)
送信波S1が送信されてから送信波S2が送信されるまでの間にも、周波数が線形に変化するため、例えば、ビート波B1の位相(初期位相)と、ビート波B2の位相(初期位相)とはずれることになる。
【0066】
隣接するビート波間で生じる位相差Δφは、式(4)により表すことができる。
【0067】
【数4】
(4)
式(4)を変形して、式(5)により、物体の速度vを求めることができる。
【0068】
【数5】
(5)
なお、上記では、物体の速度の算出について説明しているが、同様にして流体の流速も算出することが可能である。
【0069】
図11は、連続して送信されるチャープのそれぞれに対応するビート波の波形を示す図である。
図11は、横軸がビート波の番号とされ、縦軸が振幅とされ、
図11中奥行方向の軸が時間とされ、ビート波B1、ビート波B2、・・・ビート波BNの波形が示されている。詳細は後述するが、
図11の奥行方向の軸は、Fast-time軸とも称され、横軸はSlow-time軸とも称される。
【0070】
1フレームに対応する時間、物体等が同一の速度vで移動している場合、
図11に示されるように、各ビート波は、それぞれ時間Δtに対応する位相差を有している。例えば、1チャープ内の時間中の時刻Tmに対応する振幅を、ビート波B1、ビート波B2、・・・ビート波BNのそれぞれから抽出して並べると、
図12に示されるような波形となる。
【0071】
図12は、1チャープ内の時間中の時刻Tmにおける各ビート波の振幅を時間軸に並べて得られる波形を示す図である。
図12は、横軸が時間とされ、縦軸がビート波の振幅とされ、1チャープ内の時間中の時刻Tmにおけるビート波B1、ビート波B2、・・・ビート波BNの振幅の変化が示されている。
【0072】
なお、横軸の単位時間は、チャープ波形が送信される際の時間間隔Tcとなる。例えば、時刻0はビート波B1に対応し、時刻Tcはビート波B2に対応し、・・・時刻(N-1)×Tcはビート波BNに対応する。
【0073】
図12に示される波形に対してFFTを実行することにより、ビート波間の位相差を示す周波数に応じた信号強度の分布を得ることができる。すなわち、ビート波間の位相差を示す周波数fcが信号強度のピークとなる周波数スペクトルを得ることができる。このようにして求められたビート波間の位相差を、式(5)に代入することにより、物体等の速度を算出することができる。
【0074】
このときのFFTの演算結果における周波数の分解能は、測定時間の逆数1/NTcであることから、ビート波の位相差Δφ(=fc×2πTc)の分解能は、2π/Nとなる。よって速度分解能δvは、式(6)によって表される。
【0075】
【数6】
(6)
ここで、δvは、FFTの演算結果において速度を表す単位となり、速度ビンと称される。すなわち、k番目のビンの速度は、(1-k)×δvとなる。
【0076】
次にマイクロ波による方向の測定について説明する。
図13は、受信アンテナごとに生成されるビート波の例を説明する図である。
【0077】
図13の例では、K個の受信アンテナ(素子)32-1~受信アンテナ(素子)32-Kのそれぞれによって反射波R1~反射波RNが受信される。そして、ミキサー42によって、反射波R1~反射波RNのそれぞれが、送信波S1~送信波SNのそれぞれに対応する参照波と合成されることにより、ビート波B1~ビート波BNが生成される。すなわち、K個の受信アンテナ32-1~受信アンテナ32-Kのそれぞれに対応して、N個のビート波から成るビート波列が生成される。
【0078】
これら複数の受信アンテナのそれぞれに対応して得られる複数のビート波を用いて、Beamformer法による電波の到来方向の推定と同様にして、反射波の到来方向を推定することができる。
【0079】
図14は、Beamformer法による電波の到来方向の推定を説明する図である。
図14の例では、送信アンテナ31から送信されたマイクロ波が物体Oに当たって反射し、反射波が受信アンテナ32-1~受信アンテナ32-Kによって受信される場合の例を示している。この例では、物体Oは、マイクロ波の照射方向から角度θaだけずれた位置に存在しており、物体Oから受信アンテナ32-1に到達する反射波の経路は、距離Lを有している。
【0080】
図14に示されるように、受信アンテナ32-1~受信アンテナ32-Kのそれぞれの間隔をdで表す。この場合、物体Oから受信アンテナ32-2に到達する反射波の経路の距離は、物体Oから受信アンテナ32-1に到達する反射波の経路よりdsinθaだけ伸びることになる。同様に、物体Oから受信アンテナ32-3に到達する反射波の経路の距離も、・・・物体Oから受信アンテナ32-K到達する反射波の経路の距離もdsinθaずつのびていく。
【0081】
したがって、空気中でのマイクロ波の伝播速度をcとすると、受信アンテナ32-Kで受信する反射波は、受信アンテナ32-1で受信する電波に対して、時間Δtk(=(K-1)d・sinθa/c)だけ遅れて届くことになる。よって、各アンテナの受信波の位相は(2π/λ)×(d・sinθa)ずつ異なることになる。ここでλは、マイクロ波の波長を表している。
【0082】
Beamformer法では、このように、各アンテナの受信波の位相が各アンテナ間の距離と電波の到来方向の積の値に対応してずれていると考えて、電波の到来方向を推定する。従って、複数の受信アンテナのそれぞれに対応して得られる複数のビート波間の位相差を算出することにより、反射波の方向を測定することができる。
【0083】
上述したように、K個の受信アンテナのそれぞれに対応して、N個のビート波から成るビート波列が生成される。ここで、例えば、ビート波列に含まれるi番目のビート波Biに注目する。
【0084】
図15は、各受信アンテナに対応するビート波列のうちの1つのビート波Biの波形を示す図である。
図15は、横軸が受信アンテナの番号とされ、縦軸が振幅とされ、
図15中奥行方向の軸が時間(Fast-time軸)とされ、受信アンテナ32-1に対応するビート波Bi、受信アンテナ32-2に対応するビート波Bi、・・・受信アンテナ32-Kに対応するビート波Biの波形が示されている。
【0085】
図15に示されるように、各ビート波は、時間Δt(=d・sinθa/c)に対応する位相差を有している。例えば、1チャープ内の時間中の時刻Tmに対応するビート波の振幅を、受信アンテナ32-1のビート波Bi、受信アンテナ32-2のビート波Bi、・・・受信アンテナ32-Kのビート波Biのそれぞれから抽出して並べると、
図16に示されるような波形となる。
【0086】
図16は、1チャープ内の時間中の時刻Tmにおける各ビート波の振幅をアンテナ番号に対応するように並べて得られる波形を示す図である。
図16は、横軸が受信アンテナの番号とされ、縦軸がビート波の振幅とされ、1チャープ内の時間中の時刻Tmにおける受信アンテナ32-1のビート波Bi、受信アンテナ32-2のビート波Bi、・・・受信アンテナ32-Kのビート波Biの振幅の変化が示されている。
【0087】
図16に示される波形に対してFFTを実行することにより、ビート波間の位相差を示す周波数に応じた信号強度の分布を得ることができる。これにより、反射波の方向を測定することができる。
【0088】
(3次元データの生成)
演算器44は、ビート波列に含まれる各ビート波を、送信波の波形形状を識別できるサンプリング周期τでサンプリングする。また、演算器44は、ビート波列に含まれる各ビート波を、各ビート波のそれぞれを識別できる周期Tcでサンプリングすることで、各サンプリング周期に対応する2軸を有する2次元データを生成する。ここで、サンプリング周期τに対応する軸はFast-time軸と称され、サンプリング周期Tcに対応する軸はSlow-time軸と称される。
【0089】
さらに、演算器44は、Fast-time軸とSlow-time軸とで構成される2次元データを受信アンテナ32ごとに並べることで3次元データを生成する。各受信アンテナ32に対応する軸は、Element軸と称される。
【0090】
図17は、このようにして生成される3次元データ170の例を示す図である。
【0091】
演算器44は、3次元データ170のデータを、Fast-time軸に沿って抽出して1回目のFFTを実行することにより、物体等までの距離を示す周波数スペクトルに変換する。1回目のFFTの演算結果として、各距離に対応する周波数における信号強度が算出される。
【0092】
また、演算器44は、1回目のFFTの演算結果に変換されたデータを、3次元データ170のSlow-time軸に沿って抽出して2回目のFFTを実行することにより、各距離に位置する物体等の速度を示す周波数スペクトルに変換する。2回目のFFTの演算結果として、各速度に対応する周波数における信号強度が算出される。
【0093】
さらに、演算器44は、2回目のFFTの演算結果に変換されたデータを、3次元データ170のElement軸に沿って抽出して3回目のFFTを実行することにより、各距離において各速度を有する物体等の方向を示す周波数スペクトルに変換する。3回目のFFTの演算結果として、各方向に対応する周波数における信号強度が算出される。
【0094】
(速度の違いを利用した測定対象物までの距離の算出)
上述した3回目のFFTの演算結果は、各方向に位置する物体等の速度を、当該物体等までの距離ごとに表すものである。従って、3回目のFFTの演算結果は、反射波に係る物体等の方向、距離、および、速度のそれぞれを軸とした3次元形状のキューブデータとして表すことができる。
【0095】
図18および
図19は、キューブデータの例を示す図である。
図18は、キューブデータにおける距離を説明する図であり、
図19は、キューブデータにおける速度を説明する図である。
【0096】
図18および
図19に示されるキューブデータ200の縦軸は、Fast-Time軸であって、物体等までの距離を示す軸であり、距離ビンが最小単位とされる。キューブデータ200の奥行方向の軸は、Slow-Time軸であって、物体等の速度を示す軸であり、速度ビンが最小単位とされる。キューブデータ200の横軸は、Element軸であって、物体等の方向を示す軸であり、反射波の方向の分解能(方向ビンと称することにする)が最小単位とされる。
【0097】
なお、
図18および
図19では、説明を簡単にするために、Fast-Time軸は6つの距離ビン、Slow-Time軸は4つ速度ビン、Element軸は6つの方向ビンによって、それぞれ表されているが、実際には、もっと多くのビンが存在する。
【0098】
ここでは、Fast-Time軸の6つの距離ビンは、それぞれ距離L1~L6に対応し、Slow-Time軸の4つ速度ビンは、それぞれ速度V1~V4に対応し、Element軸の6つの方向ビンは、それぞれ方向D1~D6に対応するものとする。キューブデータ200は、距離ビン、速度ビン、および、方向ビンのそれぞれを1辺とする単位立方体により構成されており、各単位立方体は、3回目のFFTの演算結果として得られる信号強度を有している。
【0099】
図18には、キューブデータ200の中で
図18中縦方向に延びるハッチングされたブロック201が示されている。このブロック201は、特定の速度ビンと方向ビンに対応する単位立方体を縦方向に6個並べることで構成されている。すなわち、ブロック201によって、第1番目の方向ビンに対応する方向D1に位置し、かつ、第1の速度ビンに対応する速度V1を有する物体等までの距離を示す信号強度が取得される。例えば、方向D1において、速度V1を有する物体等が、距離L3だけ離れて位置する場合、ブロック201の下から3番目の単位立方体の信号強度が高くなる。
【0100】
図19には、キューブデータ200の中で
図19中奥行方向に延びるハッチングされたブロック202が示されている。このブロック202は、特定の距離ビンと方向ビンに対応する単位立方体を奥行方向に4個並べることで構成されている。すなわち、ブロック202によって、第1番目の方向ビンに対応する方向D1に位置し、かつ、第1の距離ビンに対応する距離L1だけ離れて位置する物体等の速度を示す信号強度が取得される。例えば、方向D1において、距離L1に位置する物体等が、速度V3で移動している場合、ブロック202の手前から3番目の単位立方体の信号強度が高くなる。
【0101】
図18と、
図19の例では、キューブデータ200から線状(1次元)のブロックを抽出する例について説明した。キューブデータ200から面状(2次元)のブロックを抽出すれば、例えば、特定の速度を有する物体がどの方向にどれだけ離れて位置するかを示す情報を得ることができる。
【0102】
例えば、
図20に示されるように、キューブデータ200の中で、特定の速度ビンに対応する面状のブロック210を抽出する場合を考える。ブロック210は、36(=6×6)個の単位立方体により構成され、速度V3を有する物体等についての各方向における距離に対応する信号強度を示す。すなわち、ブロック210に含まれる単位立方体の信号強度から、速度V3を有する物体等が、方向D1~D6のそれぞれにおいて、距離L1~L6のどの位置に存在するかを示す情報を得ることができる。
【0103】
なお、本実施形態では、3回のFFTの演算を、距離、速度、方位の順で行う例を用いて説明したが、各FFT演算の順序を入れ替えても同様の結果を得ることができる。例えば、速度に関するFFT演算を最初に実施し、排滓流の流速のマイクロ波の照射方向から見た流速Vdに相当する速度ビンのデータを抽出しておき、それらに対して距離と方位のFFT演算を行う様にすると、余分な速度成分についてのFFT演算を行う必要がなくなり、排滓流の形状を求める演算時間を短くすることができる。このようにすると、より細かい時間ステップで排滓流の体積を積分できるので好ましい。
【0104】
(断面形状および体積の算出)
図21は、キューブデータ200の中の特定の速度ビンに対応するブロックの信号強度を解析することで得られる、物体等の方向と距離の関係を示す図である。
図21は、横軸が方向、縦軸が距離とされ、反射波の方向に応じた物体等までの距離を示す曲線281が示されている。従って曲線281は、当該速度を有する物体等の2次元断面形状を示していると考えることができる。
【0105】
なお、各方向に対応する角度θaを用い、y=Lsinθa、x=Lcosθaとして、曲線281を構成する各点を
図2のxy座標系に置き換えることができる。
【0106】
転炉10から排滓されるスラグ流12は自由落下するので、炉口10aからhメートルだけ下方の流速Vsは、√(2gh)となる。なお、gは重力の加速度(≒9.806m
2/s)である。よって、
図4に示されるように体積測定装置20を設置した場合、キューブデータ200の中で、マイクロ波の照射方向から見た流速Vd(=Vscosθ)に最も近い速度ビンに対応するブロックの信号強度を解析することで、スラグ流12の断面形状を求めることができる。
【0107】
ただし、ここで得られる2次元断面形状は、スラグ流12を体積測定装置20側から見たときの断面形状であり、反対側から見たときの断面形状は得ることができない。換言すれば、スラグ流12の断面形状のうち、半分の断面形状しか得ることができない。
【0108】
そこで、本実施形態においては、スラグ流12の一方の半分の断面形状は、他方の半分の断面形状と同一であると仮定する。すなわち、上述のようにキューブデータ200の中で速度Vdに対応するブロックから求められる断面形状が線対称に配置された形状が、スラグ流12の断面形状であると仮定する。このようにすることで、スラグ流12の断面積を算出することができる。すなわち、曲線281によって得られる断面形状に対応する面積の2倍の面積が、スラグ流12の断面積として算出される。
【0109】
そして、算出された断面積を測定周期に対応する時間によって積分することで、スラグ流12の部分的な体積を算出することができる。測定周期は、例えば、1フレーム分のチャープの送信に要する時間に対応する。このようにして、排滓の開始から終了までスラグ流12の部分的な体積を連続して算出して合計することで、排滓されたスラグの体積が算出される。また、スラグの体積に、予め算出されたスラグ密度を乗じることで、排滓されたスラグの総重量を算出することができる。従って、本実施形態によれば、炉外に排出されたリンの量を推定するために排滓されるスラグの体積または重量を測定することができる。
【0110】
なお、上述の説明では、スラグ流12はほぼ自由落下するものと想定して説明したが、例えば、スラグの粘性などを考慮した流体解析によりスラグ流の流速および流速の最大方向を詳細に求めるようにしてもよい。例えば、流体解析により求めたスラグ流の流速が、流速Vsとして適用されるようにしてもよい。また、流体解析によりスラグ流12の最大流速の方向をあらかじめ求めておき、マイクロ波の照射方向の最大流速の方向に対する傾きである角度を用いて、マイクロ波の照射方向から見た流速Vdを求めるようにしてもよい。
【0111】
また、上述の説明では、マイクロ波の照射方向から見た流速Vdに最も近い速度ビンに対応するブロックの信号強度を解析すると説明した。しかし、例えば、マイクロ波の照射方向から見た流速Vdに近い複数の速度ビンを特定し、特定された複数の速度ビンに対応するブロックの信号強度を解析することで、スラグ流12の断面形状を求めるようにしてもよい。
【0112】
(演算器の構成)
図22は、
図1の演算器44の詳細な構成例を示すブロック図である。この例では、演算器44が、キューブデータ生成部61、速度特定部62、断面形状算出部63、および体積算出部64を有している。
【0113】
キューブデータ生成部61は、反射波に基づいて、物体及び流体までの距離と、物体及び流体の速度とを、反射波の方向ごとに算出したデータを生成する。
【0114】
すなわち、キューブデータ生成部61は、送信波と受信波を合成して得られるN個のビート波であるビート波B1~ビート波BNをサンプリングして、Fast-time軸、Slow-time軸から成る2次元データを生成する。キューブデータ生成部61は、K個の受信アンテナである受信アンテナ32-1~受信アンテナ32-Kごとに、2次元データを生成してElement軸に並べることにより、
図17に示した3次元データ170を生成する。
【0115】
そして、キューブデータ生成部61は、3次元データ170のデータを、Fast-time軸に沿って抽出して1回目のFFTを実行することにより、物体等までの距離を示す信号強度に変換する。
【0116】
また、キューブデータ生成部61は、1回目のFFTの演算結果に変換されたデータを、3次元データ170のSlow-time軸に沿って抽出して2回目のFFTを実行することにより、各距離に位置する物体等の速度を示す信号強度に変換する。
【0117】
さらに、キューブデータ生成部61は、2回目のFFTの演算結果に変換されたデータを、3次元データ170のElement軸に沿って抽出して3回目のFFTを実行することにより、反射波の方向を示す信号強度に変換する。
【0118】
このようにして、
図18、
図19および
図20を参照して上述したキューブデータ200が生成される。
【0119】
速度特定部62は、流体及び物体の速度に基づいて、速度を有する成分を特定する。即ち、速度特定部62は、例えば、
図20に示されるように、キューブデータ200の中で、特定の速度ビンに対応するブロック210を抽出する。すなわち、速度特定部62は、測定対象となるスラグ流12の流速に対応する速度ビンに対応するブロック210をキューブデータ200から抽出する。これにより、受信アンテナ32-1~受信アンテナ32-Kにより受信される反射波の中で、スラグ流12の流速に対応する速度を有する反射波の成分が特定される。
【0120】
断面形状算出部63は、速度を有する成分から、前記流体までの距離を、前記反射波の方向ごとに特定することで、前記流体の2次元断面形状を算出する。即ち、断面形状算出部63は、速度特定部62により抽出された、キューブデータ200の中で特定の速度ビンに対応するブロック210を解析する。そして、断面形状算出部63は、スラグ流12までの距離を、反射波の方向ごとに特定することで、スラグ流12の2次元断面形状を算出する。すなわち、断面形状算出部63は、
図21に示されるような、反射波の方向に応じた物体等までの距離を示す曲線281を算出し、当該曲線281によって示される断面形状を求める。
【0121】
なお、ここで得られた断面形状を線対称に配置した形状が、スラグ流12の断面形状であると仮定する。
【0122】
体積算出部64は、2次元断面形状に基づいて流体の体積を算出する。即ち、体積算出部64は、断面形状算出部63によって算出された2次元断面形状に基づいて測定対象流体の体積を算出する。すなわち、体積算出部64は、断面形状算出部63によって算出された断面形状に対応する面積の2倍の面積を測定周期に対応する時間によって積分することで、スラグ流12の部分的な体積を算出する。そして、体積算出部64は、排滓の開始から終了までスラグ流12の部分的な体積を連続して算出して合計することで、排滓されたスラグの全体の体積を算出する。さらに、体積算出部64は、排滓の開始から終了までのスラグの体積に、予め算出されたスラグ密度を乗じることで、排滓されたスラグの総重量を算出するようにしても良い。
【0123】
(体積算出処理の流れ)
次に、体積測定装置20による体積算出処理の流れについて説明する。
図23は、体積算出処理の例について説明するフローチャートである。
【0124】
ステップS101において、体積測定装置20は、マイクロ波を送信する。このとき、マイクロ波発振器41は、例えば、
図9を参照して上述したように、掃引時間Tの間、掃引周波数Fだけ周波数を線形変調したチャープを複数、連続して生成することで、例えば、N個(1フレーム分)のチャープを生成する。そして、マイクロ波発振器41により発振されたマイクロ波が、送信アンテナ31から送信される。送信アンテナ31から送信されたマイクロ波である送信波は、物体に当たって反射することで反射波を生じ、反射波が受信アンテナ32-1~受信アンテナ32-2によって受信される。
【0125】
ステップS102において、ミキサー42は、ステップS21でマイクロ波発振器41により発振されたマイクロ波である参照波と、受信アンテナ32によって受信された反射波である受信波とを合成してビート波を生成する。なお、ミキサー42によって生成されたビート波は、AD変換器43によってAD変換される。
【0126】
ステップS103において、演算器44のキューブデータ生成部61は、物体等までの距離、および、物体等の速度を、反射波の方向ごとに算出したデータを生成する。このとき、キューブデータ生成部61は、例えば、ステップS102で生成されたビート波のデジタル信号に対して演算処理を実行することで、
図18、
図19および
図20を参照して上述したキューブデータ200を生成する。
【0127】
すなわち、キューブデータ生成部61は、
図17に示した3次元データ170を生成して、Fast-time軸、Slow-time軸、および、Element軸の各軸に沿って抽出して3回のFFTを実行する。
【0128】
このように、ステップS103の処理により、距離、速度、および、方向を各軸とするFMCW方式のアレイレーダーのキューブデータが生成される。
【0129】
ステップS104において、速度特定部62は、ステップS104の処理によって算出された物体等の速度に基づいてスラグ流12の流速に対応する速度を有する反射波の成分を特定する。このとき、例えば、速度特定部62は、
図20に示されるように、キューブデータ200の中で、特定の速度ビンに対応するブロック210を抽出する。
【0130】
このように、ステップS104の処理により、キューブデータ200の速度ビンのうち、測定対象であるスラグ流12の流速に近い速度ビンが特定される。
【0131】
ステップS105において、断面形状算出部63は、特定した反射波の成分からスラグ流12までの距離を、反射波の方向ごとに特定することで、スラグ流12の2次元断面形状を算出する。このとき、断面形状算出部63は、例えば、ステップS104の処理によって抽出された、キューブデータ200のブロック210を解析する。すなわち、
図21に示されるような、反射波の方向に応じた物体等までの距離を示す曲線281が算出される。
【0132】
このように、ステップS105の処理により、キューブデータ200の中の特定された速度ビンに対応する距離が、反射波の方向ごとに特定される。
【0133】
ステップS106において、体積算出部64は、2次元断面形状に基づいてスラグ流12の体積を算出する。このとき、体積算出部64は、例えば、ステップS105の処理によって算出された曲線281によって示される断面形状を線対称に配置することで、スラグ流12の断面形状としてスラグ流12の断面積を算出する。そして、体積算出部64は、断面積を測定周期に対応する時間によって積分することで、スラグ流12の部分的な体積を算出する。そして、体積算出部64は、排滓の開始から終了までスラグ流12の部分的な体積を連続して算出して合計することで、排滓されたスラグの体積を算出する。さらに、体積算出部64は、排滓の開始から終了までのスラグの体積に、予め算出されたスラグ密度を乗じることで、排滓されたスラグの総重量を算出するようにしても良い。
【0134】
このように、ステップS105の処理で算出された2次元断面形状に対応する面積の2倍の面積を、時間的に積分することでスラグ流12の体積が算出される。
【0135】
このようにして、体積算出処理が実行される。
【0136】
(実施形態の効果)
上述したように、本実施形態によれば、マイクロ波を用いた測定によって、排滓されたスラグの体積を求めることができる。このため、火炎や、黒煙、スプラッシュなどの粉塵が多く発生する環境であっても、安全にスラグの排滓量を求めることができる。また、排滓されるスラグを受け取る排滓鍋の重量を測定する方式などと比較して、排滓時のスプラッシュなどによる故障の可能性が低く、安定的にスラグの排滓量を測定することができる。
【0137】
さらに、本実施形態によれば、マイクロ波を反射する物体等のうち、特定の速度を有する物体等に注目して、物体等までの距離を算出することが可能となる。従って、例えば、周囲に構造物がある場合でも、安定してスラグ流までの距離を測定することができる。
【0138】
このように、本実施形態によれば、周囲に構造物がある場合でも、安定的に測定対象となる流体の体積や重量を測定することができる。
【0139】
<その他の実施形態>
以上においては、周囲を構造物に囲まれた環境の中で、排滓されるスラグ流を測定対象とする例について説明したが、必ずしも周囲が構造物で囲まれている必要はない。例えば、周囲に構造物がない環境の中で排滓されるスラグ流を測定対象物として、本発明を適用することも可能である。
【0140】
また、以上においては、主にスラグ流を測定対象物とする例について説明したが、測定対象物はスラグ流に限られるものではない。例えば、スラグ流以外の流体を測定対象物として、本発明を適用することも可能である。
【0141】
<ソフトウェアによる実現例>
演算器44の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各ブロックとしてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0142】
図24は、演算器44として用いられるコンピュータ500の物理的構成を例示したブロック図である。演算器44は、
図24に示すように、バス510と、プロセッサ501と、主メモリ502と、補助メモリ503と、通信インタフェース504と、入出力インタフェース505とを備えたコンピュータ500によって構成可能である。プロセッサ501、主メモリ502、補助メモリ503、通信インタフェース504、及び入出力インタフェース505は、バス510を介して互いに接続されている。入出力インタフェース505には、入力装置506および出力装置507が接続されている。
【0143】
プロセッサ501としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ、マイクロコントローラ、またはこれらの組み合わせ等が用いられる。
【0144】
主メモリ502としては、例えば、半導体RAM(random access memory)等が用いられる。
【0145】
補助メモリ503としては、例えば、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、またはこれらの組み合わせ等が用いられる。補助メモリ503には、上述した演算器44の動作をプロセッサ501に実行させるためのプログラムが格納されている。プロセッサ501は、補助メモリ503に格納されたプログラムを主メモリ502上に展開し、展開したプログラムに含まれる各命令を実行する。
【0146】
通信インタフェース504は、ネットワークに接続するインタフェースである。
入出力インタフェース505としては、例えば、USBインタフェース、赤外線やBluetooth(登録商標)等の近距離通信インタフェース、またはこれらの組み合わせが用いられる。
【0147】
入力装置506としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパッド、マイク、又はこれらの組み合わせ等が用いられる。出力装置507としては、例えば、ディスプレイ、プリンタ、スピーカ、又はこれらの組み合わせが用いられる。
【0148】
演算器44の機能を、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現する場合、プロセッサ501と主メモリ502により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0149】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0150】
また、上記各ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。
【0151】
また、上記各ブロックの機能の一部または全部は、上記装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ(cloud server)等)で動作するものであってもよい。
【0152】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0153】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る体積測定方法は、測定対象である流体の体積を測定する体積測定方法であって、FMCW方式のアレイアンテナを用いて、マイクロ波を前記流体に向けて送信波として送信する送信部と、前記アレイアンテナを用いて、前記流体及び前記流体の周囲の物体で反射したマイクロ波を反射波として受信する受信部と、前記送信波に対応する参照波と前記反射波とから生成されるビート波に基づいて、前記流体の体積を算出する演算処理部と、を有する体積測定装置を用い、前記演算処理部を用いて、前記反射波に基づいて前記流体及び前記物体までの距離と、前記流体及び前記物体の速度とを、前記反射波の方向ごとに算出したデータを生成するデータ生成ステップと、前記流体及び前記物体の速度に基づいて、速度を有する成分を特定する速度特定ステップと、前記速度を有する成分から、前記流体までの距離を、前記反射波の方向ごとに特定することで、前記流体の2次元断面形状を算出する断面形状算出ステップと、前記2次元断面形状に基づいて前記流体の体積を算出する体積算出ステップと、を有する。
【0154】
本発明の態様2に係る体積測定方法は、上記の態様1において、前記流体の2次元断面形状に対応する面積の2倍の面積を、時間的に積分することで前記流体の体積を算出する。
【0155】
本発明の態様3に係る体積測定方法は、上記の態様1又は2において、前記流体が、中間排滓工程において転炉口から排滓されるスラグ流である。
【0156】
本発明の態様4に係る体積測定方法は、上記の態様3において、前記送信波の照射方向が、鉛直方向下向きに対して、0度より大きく75度以下又は105度以上で180度より小さい範囲内で傾いており、前記送信波の照射方向上の前記スラグ流の位置が、前記転炉口より下方又は上方に位置する。
【0157】
本発明の態様5に係る体積測定装置は、測定対象である流体の体積を測定する体積測定装置であって、FMCW方式のアレイアンテナを用いて、マイクロ波を前記流体に向けて送信波として送信する送信部と、前記アレイアンテナを用いて、前記流体及び前記流体の周囲の物体で反射したマイクロ波を反射波として受信する受信部と、前記送信波に対応する参照波と前記反射波とから生成されるビート波に基づいて、前記流体の体積を算出する演算処理部と、演算処理部と、を有し、前記演算処理部は、前記反射波に基づいて前記流体及び前記物体までの距離と、前記流体及び前記物体の速度とを、前記反射波の方向ごとに算出したデータを生成するデータ生成部と、前記流体及び前記物体の速度に基づいて、速度を有する成分を特定する速度特定部と、前記速度を有する成分から、前記流体までの距離を、前記反射波の方向ごとに特定することで、前記流体の2次元断面形状を算出する断面形状算出部と、前記2次元断面形状に基づいて前記流体の体積を算出する体積算出部と、を有する。
【符号の説明】
【0158】
10 転炉
10a 炉口
12 スラグ流
20 体積測定装置
30 アレイアンテナ
31 送信アンテナ
32 受信アンテナ
41 マイクロ波発振器
42 ミキサー
43 AD変換器
44 演算器
61 キューブデータ生成部
62 速度特定部
63 断面形状算出部
64 体積算出部