(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176042
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】循環ユニット、液体吐出ヘッド及び液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/18 20060101AFI20241212BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B41J2/18
B41J2/175 501
B41J2/175 171
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094246
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小原 学
(72)【発明者】
【氏名】吉居 和哉
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA20
2C056EA26
2C056FA10
2C056HA05
2C056HA37
2C056KA01
2C056KB04
2C056KB08
2C056KB15
2C056KB16
2C056KB35
2C056KC02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】吐出安定性を向上させる。
【解決手段】稼働している循環ポンプが停止してから第1圧力制御機構の第1圧力制御室の圧力と第2圧力制御機構の第2圧力制御室の圧力が等しくなるまでの期間において、第1圧力制御室から循環ポンプと第1圧力制御室とに連通している第4流路に向かう方向に第1圧力制御室と第4流路との連通口を通過する流体の体積をVVとし、第4流路の体積をV2としたとき、VV<V2である。
【選択図】
図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の圧力を調整するための第1圧力調整手段であって、第1バルブ室と、第1圧力制御室と、前記第1バルブ室と前記第1圧力制御室とを連通させる第1連通口と、前記第1連通口を開閉する第1バルブと、前記第1圧力制御室の一部の面を構成し、変位可能に構成された第1可撓性部材と、前記第1圧力制御室の他の一部の面を構成し、前記第1可撓性部材と連動して変位可能に構成された第1圧力板と、を備える第1圧力調整手段と、
液体の圧力を調整するための第2圧力調整手段であって、第2バルブ室と、第2圧力制御室と、前記第2バルブ室と前記第2圧力制御室とを連通させる第2連通口と、前記第2連通口を開閉する第2バルブと、前記第2圧力制御室の一部の面を構成し、変位可能に構成された第2可撓性部材と、前記第2圧力制御室の他の一部の面を構成し、前記第2可撓性部材と連動して変位可能に構成された第2圧力板と、を備える第2圧力調整手段と、
圧力室と前記第1圧力制御室とを連通する第1流路と、
前記圧力室と前記第2圧力制御室とを連通する第2流路と、
前記第2圧力制御室と液体を循環させるための循環ポンプとを連通する第3流路と、
前記循環ポンプと前記第1圧力制御室とを連通する第4流路と、
を備え、
稼働している前記循環ポンプが停止してから前記第1圧力制御室の圧力と前記第2圧力制御室の圧力が等しくなるまでの期間において、前記第1圧力制御室から前記第4流路に向かう方向に前記第1圧力制御室と前記第4流路との連通口を通過する流体の体積をVVとし、前記第4流路の体積をV2としたとき、
VV<V2
である、
循環ユニット。
【請求項2】
稼働している前記循環ポンプが停止してから前記第1圧力制御室の圧力と前記第2圧力制御室の圧力が等しくなるまでの期間において、前記第1圧力制御室から前記第2圧力制御室に流入する流体の体積をVTとしたときに、
VT<V2
である、
請求項1に記載の循環ユニット。
【請求項3】
前記循環ポンプが稼働している期間における前記第2圧力制御室の体積をVa、稼働している前記循環ポンプが停止してから前記第1圧力制御室の圧力と前記第2圧力制御室の圧力が等しくなった時の前記第2圧力制御室の体積をVcとしたときに、
Vc-Va<V2
である、
請求項1に記載の循環ユニット。
【請求項4】
前記第1圧力制御室と前記第2バルブ室とを連通するバイパス流路を更に備え、
前記第2バルブによる前記第2連通口の開閉に応じて前記バイパス流路が開閉する、
請求項1に記載の循環ユニット。
【請求項5】
稼働している前記循環ポンプが停止してから前記第1圧力制御室の圧力と前記第2圧力制御室の圧力が等しくなるまでの期間において、前記第1圧力制御室から前記第2圧力制御室に流入する流体の体積をVTとしたときに、
VT<V2
である、
請求項4に記載の循環ユニット。
【請求項6】
前記循環ポンプが稼働している期間における前記第2圧力制御室の体積をVa、稼働している前記循環ポンプが停止してから前記第1圧力制御室の圧力と前記第2圧力制御室の圧力が等しくなった時の前記第2圧力制御室の体積をVcとしたときに、
Vc-Va<V2
である、
請求項4に記載の循環ユニット。
【請求項7】
稼働している前記循環ポンプが停止してから前記バイパス流路が閉じられた時の前記第2圧力制御室の体積をVbとし、稼働している前記循環ポンプが停止してから前記第1圧力制御室の圧力と前記第2圧力制御室の圧力が等しくなった時の前記第2圧力制御室の体積をVcとしたときに、
Vc-Vb<V2
である、
請求項4に記載の循環ユニット。
【請求項8】
前記バイパス流路は、前記第1圧力制御室の最下部において前記第1圧力制御室と連通している、
請求項4に記載の循環ユニット。
【請求項9】
前記第3流路は、第2圧力制御室の下部側において前記第2圧力制御室と連通している、
請求項1に記載の循環ユニット。
【請求項10】
前記第4流路は、前記第1圧力制御室の上部側において第1圧力制御室と連通している、
請求項1に記載の循環ユニット。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の循環ユニットと、
前記循環ポンプと、
吐出モジュールと、
を備え、
前記吐出モジュールは、
液体を吐出するための吐出口と、
前記吐出口と連通した前記圧力室と、
前記圧力室を介して前記吐出口から液体を吐出させるための吐出素子と、
を備える、
液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記循環ポンプが前記循環ユニットの内部に設置されている、
請求項11に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
請求項11に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドを主走査方向に走査させるためのキャリッジと、
記録媒体を副走査方向に搬送する搬送手段と、
を備える液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、循環ユニット、液体吐出ヘッド及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドと液体収容部との間で液体を循環させることで、流路中の気泡の排出、及び、吐出口近傍のインクの増粘を抑制する循環型の液体吐出装置が知られている。循環型の液体吐出装置の中には、液体吐出ヘッド外部の本体側ポンプを用いて液体吐出ヘッドと本体の間で液体を循環させるものもあれば、液体吐出ヘッド内のポンプを用いて液体吐出ヘッド内で液体を循環させるものもある。特許文献1には、本体側に搭載されている循環ポンプによって、ヘッド内のインクを循環させる液体吐出装置が開示されている。特許文献1の構成では、循環ポンプから第1のタンクへ供給されたインクは、一次側の循環路を介して液体吐出ヘッドに供給され、吐出されなかったインクは、二次側の循環路および第2のタンクを介して循環ポンプへ回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、上流側のタンクや下流側のタンクのインク量をフロート方式の2つの液位センサで読み取り、2つのセンサが検出したインク液面の高さに基づいて補給ポンプでインクを補給している。しかし、フロート式の2つの液位センサは、構成によっては、インクの泡立ちなどでフロート部が誤作動する場合があるため、少なくとも下流側のタンク内のインク液面が低下してしまう可能性がある。インク液面が低下してしまうと、循環ポンプに連通している流路の出入口が空気に露出し、循環ポンプ内に空気が侵入する可能性がある。特許文献1のような、循環ポンプとしての小型の圧電ポンプはポンプ室に空気が流入してしまうと、構成によっては、流入した空気がダンパーとなって所望の圧力を発生できずに流量が低下してしまい吐出安定性が低下する可能性がある。
【0005】
本開示は、吐出安定性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態は、液体の圧力を調整するための第1圧力調整手段であって、第1バルブ室と、第1圧力制御室と、前記第1バルブ室と前記第1圧力制御室とを連通させる第1連通口と、前記第1連通口を開閉する第1バルブと、前記第1圧力制御室の一部の面を構成し、変位可能に構成された第1可撓性部材と、前記第1圧力制御室の他の一部の面を構成し、前記第1可撓性部材と連動して変位可能に構成された第1圧力板と、を備える第1圧力調整手段と、液体の圧力を調整するための第2圧力調整手段であって、第2バルブ室と、第2圧力制御室と、前記第2バルブ室と前記第2圧力制御室とを連通させる第2連通口と、前記第2連通口を開閉する第2バルブと、前記第2圧力制御室の一部の面を構成し、変位可能に構成された第2可撓性部材と、前記第2圧力制御室の他の一部の面を構成し、前記第2可撓性部材と連動して変位可能に構成された第2圧力板と、を備える第2圧力調整手段と、圧力室と前記第1圧力制御室とを連通する第1流路と、前記圧力室と前記第2圧力制御室とを連通する第2流路と、前記第2圧力制御室と液体を循環させるための循環ポンプとを連通する第3流路と、前記循環ポンプと前記第1圧力制御室とを連通する第4流路と、を備え、稼働している前記循環ポンプが停止してから前記第1圧力制御室の圧力と前記第2圧力制御室の圧力が等しくなるまでの期間において、前記第1圧力制御室から前記第4流路に向かう方向に前記第1圧力制御室と前記第4流路との連通口を通過する流体の体積をVVとし、前記第4流路の体積をV2としたとき、VV<V2である、循環ユニットである。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、吐出安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】液体吐出装置の斜視図及び機能ブロック図である。
【
図3】液体吐出ヘッドの縦断面及び吐出モジュールの拡大断面図である。
【
図9】
図8(a)に示した循環ポンプのIX-IX線断面図である。
【
図10】液体吐出ヘッド内のインクの流れを説明する図である。
【
図11】吐出ユニットにおける循環経路を示した模式図である。
【
図14】吐出ユニットのインク流れを示した断面図である。
【
図16】吐出口の近傍の比較例を示す断面図である。
【
図18】液体吐出ヘッドの流路構成を示した図である。
【
図19】液体吐出装置のインク循環を停止した後の流路を示した図である。
【
図20】第2圧力制御機構の状態変化を示している。
【
図21】第2圧力制御機構の圧力と体積の関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本開示の好適な実施の形態を詳しく説明する。尚、以下の実施の形態は本開示事項を限定するものでなく、また本実施の形態で説明されている特徴の組み合わせすべてが本開示の解決手段に必須のものとは限らない。尚、同一の構成要素には同一の参照番号を付す。本実施形態では、液体を吐出する吐出素子として、電熱変換素子により気泡を発生させて液体を吐出するサーマル方式を採用した例を用いて説明するが、これに限られない。圧電素子(ピエゾ)を用いて液体を吐出する吐出方式、または、他の吐出方式が採用された液体吐出ヘッドにも適用することができる。さらに、以下に説明するポンプ及び圧力調整手段等も、実施形態及び図面に記載されている構成自体に限定されるものではない。以下の説明では、まず、本開示の基本的構成を述べ、その後、本開示の特徴部について説明を行う。
【0010】
<液体吐出装置>
図1は、液体吐出装置を説明するための図であり、液体吐出装置の液体吐出ヘッド及びその周辺の拡大図である。まず、本実施形態における液体吐出装置50の概略構成を、
図1を参照しつつ説明する。
図1(a)は、液体吐出ヘッド1を用いる液体吐出装置を模式的に示す斜視図である。本実施形態の液体吐出装置50は、液体吐出ヘッド1を走査しつつ液体としてのインクを吐出して記録媒体Pへの記録を行うシリアル型のインクジェット記録装置を構成している。
【0011】
液体吐出ヘッド1は、キャリッジ60に搭載されている。キャリッジ60は、ガイド軸51に沿って主走査方向(X方向)に沿って往復移動する。記録媒体Pは、搬送ローラ55、56、57、58によって、主走査方向と交差(本例の場合は、直交)する副走査方向(Y方向)に搬送される。尚、以下で参照する各図において、Z方向は鉛直方向を示しており、X方向及びY方向によって規定されるX-Y平面と交差(本例の場合は、直交)している。液体吐出ヘッド1は、ユーザによって、キャリッジ60に対し取り外し及び取り付けが可能に構成されている。
【0012】
液体吐出ヘッド1は、循環ユニット54と、後述する吐出ユニット3(
図2参照)とを含み構成されている。具体的な構成については後述するが、吐出ユニット3には、複数の吐出口と、各吐出口から液体を吐出するための吐出エネルギーを発するエネルギー発生素子(以下、吐出素子と称す)とが設けられている。
【0013】
また、液体吐出装置50には、インクの供給源であるインクタンク2及び外部ポンプ21が設けられており、インクタンク2に貯留されたインクは、外部ポンプ21の駆動力によってインク供給チューブ59を介して循環ユニット54に供給される。
【0014】
液体吐出装置50は、キャリッジ60に搭載された液体吐出ヘッド1が主走査方向へと移動しつつインクを吐出して記録を行う記録走査と、記録媒体Pを副走査方向へと搬送する搬送動作とを繰り返すことにより、記録媒体Pに所定の画像を形成する。尚、本実施形態における液体吐出ヘッド1は、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4種類のインクを吐出可能としており、これらのインクによってフルカラー画像を記録することが可能である。但し、液体吐出ヘッド1から吐出可能とするインクは、上記の4種類のインクに限定されない。他の種類のインクを吐出するための液体吐出ヘッドにも本開示は適用可能である。すなわち、液体吐出ヘッドから吐出するインクの種類及びその数は限定されない。
【0015】
また、液体吐出装置50には記録媒体Pの搬送路からX方向に外れた位置に、液体吐出ヘッドの吐出口が形成された吐出口面を覆うことが可能なキャップ部材(不図示)が設けられている。キャップ部材は、非記録動作時において液体吐出ヘッド1の吐出口面を覆い、吐出口の乾燥防止や保護、吐出口からのインク吸引動作等に使用される。
【0016】
尚、
図1(a)に示す液体吐出ヘッド1は、4種類のインクに応じた4つの循環ユニット54が液体吐出ヘッド1に備えられている例を示しているが、吐出する液体の種類に応じた循環ユニット54が備えられていればよい。また、同種類の液体に対して複数の循環ユニット54が備えられていてもよい。即ち、液体吐出ヘッド1は、1つ以上の循環ユニットを備える構成とすることができる。4種類のインク全てを循環せず、少なくとも1つのインクのみ循環する構成でもよい。
【0017】
図1(b)は、液体吐出装置50の制御系を示すブロック図である。CPU103は、ROM101に格納された処理手順等のプログラムに基づいて液体吐出装置50の各部の動作を制御する制御手段としての機能を果す。RAM102は、CPU103が処理を実行する際のワークエリア等として用いられる。CPU103は、液体吐出装置50の外部のホスト装置400からの画像データを受信してヘッドドライバ1Aを制御し、吐出ユニット3に設けられた吐出素子の駆動を制御する。また、CPU103は、液体吐出装置に設けられた種々のアクチュエータのドライバの制御も行う。例えば、CPU103は、キャリッジ60を移動させるためのキャリッジモータ105のモータドライバ105A、及び、記録媒体Pを搬送させるための搬送モータ104のモータドライバ104A等の制御を行う。さらに、CPU103は、後述の循環ポンプ500の駆動を行うポンプドライバ500A、及び、外部ポンプ21のポンプドライバ21A等の制御を行う。尚、
図1(b)では、ホスト装置400からの画像データを受信した処理を行う形態を示しているが、ホスト装置400からのデータに拠らずに液体吐出装置50で処理が行われてもよい。
【0018】
<液体吐出ヘッドの基本構成>
図2は、本実施形態の液体吐出ヘッド1の分解斜視図である。
図3は
図2に示す液体吐出ヘッド1のIIIA-IIIA線断面図である。
図3(a)は液体吐出ヘッド1の全体的な縦断面図、
図3(b)は
図3(a)に示す吐出モジュールの拡大図である。以下、
図2及び
図3を中心に、
図1を適宜参照しつつ、本実施形態における液体吐出ヘッド1の基本構成を説明する。
【0019】
図2に示すように、液体吐出ヘッド1は、循環ユニット54と、循環ユニット54から供給されたインクを記録媒体Pに吐出するための吐出ユニット3とを含み構成されている。本実施形態における液体吐出ヘッド1は、液体吐出装置50のキャリッジ60に設けられている不図示の位置決め手段及び電気的接点によってキャリッジ60に固定支持される。液体吐出ヘッド1は、キャリッジ60と共に
図1に示す主走査方向(X方向)に移動しながらインクを吐出し、記録媒体Pへの記録を行う。
【0020】
インクの供給源となるインクタンク2に接続された外部ポンプ21には、インク供給チューブ59が設けられている(
図1参照)。このインク供給チューブ59の先端には、不図示の液体コネクタが設けられている。液体吐出装置50に液体吐出ヘッド1が搭載された際、液体吐出ヘッド1のヘッド筐体53に設けられた、液体の導入口である液体コネクタ挿入口53aに、インク供給チューブ59の先端に設けられた液体コネクタが気密接続される。これにより、インクタンク2から外部ポンプ21を経て液体吐出ヘッド1に至るインク供給路が形成される。本実施形態では、4種類のインクを用いるため、インクタンク2、外部ポンプ21、インク供給チューブ59、及び循環ユニット54が、それぞれのインクに対応して4組設けられており、各インクに対応した4本のインク供給路が独立して形成されている。このように、本実施形態の液体吐出装置50には、液体吐出ヘッド1の外部に設けられたインクタンク2からインクが供給されるインク供給系が備えられている。尚、本実施形態の液体吐出装置50には、液体吐出ヘッド1内のインクをインクタンク2に回収するようなインク回収系は備えられていない。従って、液体吐出ヘッド1には、インクタンク2のインク供給チューブ59を接続するための液体コネクタ挿入口53aは設けられているが、液体吐出ヘッド1のインクをインクタンク2に回収するためのチューブを接続させるコネクタ挿入口は設けられていない。尚、液体コネクタ挿入口53aは、インク毎に設けられている。
【0021】
図3において、54Bはブラックインク用の循環ユニットを、54Cはシアンインク用の循環ユニットを、54Mはマゼンタインク用の循環ユニットを、54Yはイエローインク用のインク循環ユニットを、それぞれ示している。各循環ユニットは略同様の構成を有ており、本実施形態において各循環ユニットを特に区別しない場合には、いずれも循環ユニット54と表記する。
【0022】
図2及び
図3(a)において、吐出ユニット3は、2つの吐出モジュール300、第1支持部材4、第2支持部材7、電気配線部材(電気配線テープ)5、及び電気コンタクト基板6を備える。
図3(b)に示すように、吐出モジュール300は、厚さ0.5~1mmのシリコン基板310と、シリコン基板310の片面に設けられた複数の吐出素子15とを備えている。本実施形態における吐出素子15は、液体を吐出するための吐出エネルギーとして熱エネルギーを発生する電気熱変換素子(ヒータ)により構成されている。各吐出素子15には、シリコン基板310上に成膜技術によって形成された電気配線を介して電力が供給される。
【0023】
また、シリコン基板310の表面(
図3(b)において下面)には、吐出口形成部材320が形成されている。吐出口形成部材320には、複数の吐出素子15に対応する複数の圧力室12と、インクを吐出する複数の吐出口13とがフォトリソグラフィ技術によってそれぞれ形成されている。さらに、シリコン基板310には、共通供給流路18と共通回収流路19とが形成されている。また、シリコン基板310には、共通供給流路18と各圧力室12とを連通する供給接続流路323と、共通回収流路19と各圧力室12とを連通する回収接続流路324が形成されている。本実施形態では、1つの吐出モジュール300が、2種類のインクの吐出を行うように構成されている。即ち、
図3(a)に示す2つの吐出モジュールのうち、図中の左側に位置する吐出モジュール300は、ブラックインクとシアンインクの吐出を行い、図中の右側に位置する吐出モジュール300は、マゼンタインクとイエローインクの吐出を行う。尚、この組み合わせは一例であり、インクの組み合わせはいずれであってもよい。1つの吐出モジュールが1種類のインクを吐出する構成でもよいし、3種類以上のインクを吐出する構成としてもよい。2つの吐出モジュール300が同じ種類数のインクを吐出するものでなくてもよい。1つの吐出モジュール300が備えられる構成としてもよいし、3つ以上の吐出モジュール300が備えらえる構成としてもよい。さらに、
図3に示す例では、1色のインクに対して、Y方向に延在する2つの吐出口列が形成されている。各吐出口列を構成する複数の吐出口13の各々に対し、圧力室12、共通供給流路18及び共通回収流路19がそれぞれ形成されている。
【0024】
シリコン基板310の裏面(
図3(b)において上面)側には、後述するインク供給口及びインク回収口が形成されている。インク供給口は複数の共通供給流路18にインク供給流路48からインクを供給し、インク回収口は複数の共通回収流路19からインク回収流路49にインクを回収する。
【0025】
尚、ここでいうインク供給口及びインク回収口は、後述する順方向のインク循環時においてインクの供給及び回収を行う開口を指す。すなわち、順方向へのインク循環時にはインク供給口から各共通供給流路18にインクが供給されると共に、各共通回収流路19からインク回収口へとインクが回収される。但し、逆方向へインクを流すインク循環を行う場合もある。この場合には、上記で説明したインク回収口から共通回収流路19にインクが供給されると共に、共通供給流路18からインク供給口へとインクが回収されることになる。
【0026】
図3(a)に示すように、吐出モジュール300は、その裏面(
図3(a)における上面)が、第1支持部材4の一方の面(
図3(a)において下面)に接着固定されている。第1支持部材4には、その一方の面から他方の面に亘って貫通するインク供給流路48とインク回収流路49とが形成されている。インク供給流路48の一方の開口はシリコン基板310における前述のインク供給口に、インク回収流路49の一方の開口はシリコン基板310における前述のインク回収口に、それぞれ連通している。尚、インク供給流路48及びインク回収流路49は、インクの種類毎に独立して設けられている。
【0027】
また、第1支持部材4の一方の面(
図3(a)における上面)には、吐出モジュール300を挿通させる開口7a(
図2参照)を有する第2支持部材7が接着固定されている。第2支持部材7には、吐出モジュール300に対して電気的に接続される電気配線部材5が保持されている。電気配線部材5は、インクを吐出するための電気信号を吐出モジュール300に印加するための部材である。吐出モジュール300と電気配線部材5との電気接続部分は、封止材(不図示)により封止され、インクによる腐食や外的衝撃から保護されている。
【0028】
また、電気配線部材5の端部5a(
図2参照)には、不図示の異方性導電フィルムを用いて電気コンタクト基板6が熱圧着され、電気配線部材5と電気コンタクト基板6とは電気的に接続されている。電気コンタクト基板6は、液体吐出装置50からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子(不図示)を有している。
【0029】
さらに、第1支持部材4と循環ユニット54との間にはジョイント部材8(
図3(a))が設けられている。ジョイント部材8には、供給口88と回収口89とがインクの種類毎に形成されている。供給口88及び回収口89は、第1支持部材4のインク供給流路48及びインク回収流路49と循環ユニット54に形成される流路とを連通させる。尚、
図3(a)において、供給口88B及び回収口89Bはブラックインクに対応し、供給口88C及び回収口89Cはシアンインクに対応する。また、供給口88M及び回収口89Mはマゼンタインクに対応し、供給口88Y及び回収口89Yはイエローインクに対応している。
【0030】
尚、第1支持部材4のインク供給流路48及びインク回収流路49のそれぞれの一端部の開口は、シリコン基板310におけるインク供給口及びインク回収口に合わせた小さな開口面積を有している。これに対し、第1支持部材4のインク供給流路48及びインク回収流路49のそれぞれの他端部の開口は、循環ユニット54の流路に合わせて形成されたジョイント部材8の大きな開口面積と同一の開口面積にまで拡大させた形状を有している。このような構成を採ることにより、各回収流路から集められたインクに対する流路抵抗の上昇を抑制することができる。但し、インク供給流路48及びインク回収流路49のそれぞれの一端部及び他端部の開口の形状は、上記の例に限定されない。
【0031】
上記構成を有する液体吐出ヘッド1において、循環ユニット54に供給されたインクは、ジョイント部材8の供給口88及び第1支持部材4のインク供給流路48を経て、吐出モジュール300のインク供給口から共通供給流路18に流入する。続いてインクは共通供給流路18から供給接続流路323を介して圧力室12に流入し、圧力室内に流入したインクの一部は、吐出素子15の駆動によって吐出口13から吐出される。吐出されなかった残りのインクは、圧力室12から回収接続流路324、共通回収流路19を経てインク回収口から第1支持部材4のインク回収流路49に流入する。そして、インク回収流路49に流入したインクは、ジョイント部材8の回収口89を経て循環ユニット54へと流入し、回収される。
【0032】
<循環ユニットの構成要素>
図4は、本実施形態の記録装置に適用される1種類のインクに対応する1つの循環ユニット54の外観概略図である。循環ユニット54には、フィルタ110、第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150、及び循環ポンプ500が配置されている。これらの構成要素は、
図5及び
図6に示すように各流路によって接続され、液体吐出ヘッド1内において、吐出モジュール300に対してインクの供給及び回収を行う循環経路を構成している。
【0033】
<液体吐出ヘッド内の循環経路>
図5は、液体吐出ヘッド1内に構成される1種類のインク(1色のインク)の循環経路を模式的に示す縦断面図である。循環経路をより明確に説明するため、
図5における各構成(第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150、循環ポンプ500等)の相対位置は簡略化している。そのため各構成の相対位置は後述する
図19の構成とは異なる。また、
図6は、
図5に示した循環経路を模式的に示すブロック図である。
図5及び
図6に示すように、第1圧力調整手段120は、第1バルブ室121及び第1圧力制御室122を備えている。第2圧力調整手段150は、第2バルブ室151及び第2圧力制御室152を備えている。第1圧力調整手段120は、第2圧力調整手段150よりも相対的に制御圧力が高くなるように構成されている。本実施形態では、この二つの圧力調整手段120、150を用いることで、循環経路内において一定の圧力範囲での循環を実現している。
【0034】
また、第1圧力調整手段120と第2圧力調整手段150との圧力差に応じた流量で圧力室12(吐出素子15)をインクが流れるように構成されている。以下、
図5及び
図6を参照しつつ、液体吐出ヘッド1における循環経路及び循環経路内におけるインクの流れを説明する。尚、各図中の矢印はインクの流れる方向を示している。
【0035】
まず、液体吐出ヘッド1における各構成要素の接続状態を説明する。
液体吐出ヘッド1の外部に設けられたインクタンク2(
図6)に収容されたインクを液体吐出ヘッド1へ送る外部ポンプ21は、インク供給チューブ59(
図1)を介して循環ユニット54と接続されている。循環ユニット54の上流側に位置するインク流路にはフィルタ110が設けられている。フィルタ110の下流側に位置するインク供給路は、第1圧力調整手段120の第1バルブ室121に接続されている。第1バルブ室121は、
図5に示すバルブ190Aにより開閉可能な連通口191Aを介して第1圧力制御室122に連通している。
【0036】
第1圧力制御室122は、供給流路130、バイパス流路160、及び循環ポンプ500に接続されている。供給流路130は、吐出モジュール300に設けられた前述のインク供給口を介して共通供給流路18に接続されている。また、バイパス流路160は、第2圧力調整手段150に設けられた第2バルブ室151に接続されている。第2バルブ室151は、
図5に示すバルブ190Bによって開閉する連通口191Bを介して第2圧力制御室152に連通している。尚、
図5及び
図6では、バイパス流路160の一端を第1圧力調整手段120の第1圧力制御室122に接続し、且つバイパス流路160の他端を第2圧力調整手段150の第2バルブ室151に接続した例を示している。しかし、バイパス流路160の一端を供給流路130に接続し、バイパス流路の他端を第2バルブ室151に接続してもよい。
【0037】
第2圧力制御室152は、回収流路140に接続されている。回収流路140は、吐出モジュール300に設けられた前述のインク回収口を介して共通回収流路19に接続されている。さらに、第2圧力制御室152は、ポンプ入口流路170を介して循環ポンプ500に接続されている。尚、
図5において、170aはポンプ入口流路170の流入口を示している。
【0038】
次に、上記構成を有する液体吐出ヘッド1におけるインクの流れについて説明する。
図6に示すように、インクタンク2に収容されているインクは、液体吐出装置50に設けられた外部ポンプ21によって加圧され、正圧のインク流となって液体吐出ヘッド1の循環ユニット54に供給される。
【0039】
循環ユニット54に供給されたインクは、フィルタ110を通過することにより塵埃などの異物や気泡が除去された後、第1圧力調整手段120に設けられた第1バルブ室121に流入する。フィルタ110を通過する際の圧力損失によってインクの圧力は低下するが、この段階でのインクの圧力は正圧の状態にある。その後、第1バルブ室121に流入したインクは、バルブ190Aが開状態にあるとき、連通口191Aを通過して第1圧力制御室122に流入する。連通口191Aを通過する際の圧力損失によって、第1圧力制御室122に流入したインクは、正圧から負圧へと切り替わる。
【0040】
次に、循環経路内におけるインクの流れを説明する。循環ポンプ500は、その上流側となるポンプ入口流路170から吸引したインクを下流側となるポンプ出口流路180へインクを送り出すように動作する。従って、供給ポンプ(不図示)が駆動されることにより第1バルブ室121から第1圧力制御室122に供給されたインクは、ポンプ出口流路180から送液されたインクと共に、供給流路130及びバイパス流路160に流入する。尚、詳細は後述するが、本実施形態では送液可能な循環ポンプとして、ダイヤフラムに貼り付けた圧電素子を駆動源とする圧電ダイヤフラムポンプを用いている。圧電ダイヤフラムポンプは、圧電素子に駆動電圧を入力することでポンプ室内の容積を変化させ、圧力変動によって2つの逆止弁が交互に動くことにより送液を行うポンプである。
【0041】
圧電ダイヤフラムポンプは、内部に空気が流れ込むと、空気のダンパー効果等によってポンプ能力が低下してしまう場合があり、ポンプ能力が低下してしまうと、必要な循環流量を発揮できず、吐出安定性が低下する可能性がある。それを防止するため、ポンプ入口流路170のポンプ流入口170aは、
図5のように、第2圧力制御室152のできるだけ下部側に設け、インクから露出させないこと望ましい。
【0042】
また、ポンプ出口流路180のポンプ流出口180aは、
図5に示すように、第1圧力制御室122の上部側に設けることが望ましい。これによって、第1圧力制御室122の内部に上から下へインクの流れを発生させることで、インクの淀みによる沈降を抑制することができる。
【0043】
さらに、循環停止中に沈降がある程度進んだ場合、循環ポンプ500を可動させると、第1圧力制御室122の下方に溜まった濃いインクが第2圧力室152へと運ばれ、第2圧力制御室152の下方に設けられたポンプ流入口170aから吸引される。
【0044】
その比較的濃いインクを、第1圧力制御室122の上部の比較的薄い部分に吐出することによって、濃度を均一に近付けることが可能な構成となっている。
【0045】
供給流路130に流入したインクは、吐出モジュール300のインク供給口から共通供給流路18を介して圧力室12に流入し、その一部のインクは吐出素子15の駆動(発熱)によって吐出口13から吐出される。また、吐出に使用されなかった残りのインクは、圧力室12を流動し、共通回収流路19を通過した後、吐出モジュール300に接続されている回収流路140に流入する。回収流路140に流入したインクは、第2圧力調整手段150の第2圧力制御室152に流入する。
【0046】
一方、第1圧力制御室122からバイパス流路160に流入したインクは、第2バルブ室151に流入した後、連通口191Bを通過して第2圧力制御室152に流入する。バイパス流路160を経由して第2圧力制御室152に流入したインクと回収流路140から回収されたインクとは、循環ポンプ500の駆動によってポンプ入口流路170を経て循環ポンプ500内に吸引される。そして、循環ポンプ500内に吸引されたインクは、ポンプ出口流路180へと送られ、第1圧力制御室122に再び流入する。以降では、第1圧力制御室122から供給流路130と吐出モジュール300を介して第2圧力制御室152に流入したインクと、バイパス流路160を介して第2圧力制御室152に流入したインクとが、循環ポンプ500に流入する。そして、循環ポンプ500から第1圧力制御室122に送られる。このようにして循環経路内でのインクの循環が行われることになる。
【0047】
ここで、第1圧力調整手段120と圧力室12とを連通する流路を上流側流路と称し、圧力室12と循環ポンプ500とを連通する流路を下流側流路と称する。即ち、供給流路130を上流側流路と称し、回収流路140、第2圧力調整手段150及びポンプ入口流路170を合わせて下流側流路と称する。なお、下流側流路においては、第2圧力調整手段150及びポンプ入口流路170を有していなくてもよい。また、ポンプ出口流路180を中間流路とも称する。したがって、本実施形態においては、循環ポンプ500、中間流路、第1圧力調整手段120、上流側流路、圧力室12、下流側流路、循環ポンプ500の循環経路を順に液体が流動する。また、供給流路130を第1流路ともいい、回収流路140を第2流路ともいい、ポンプ入口流路170を第3流路ともいい、ポンプ出口流路180を第4流路ともいう。
【0048】
以上のように、本実施形態では、循環ポンプ500によって、液体吐出ヘッド1内に形成した循環経路に沿って液体を循環させることが可能になる。このため、吐出モジュール300内でのインクの増粘や色材のインクの沈降成分の堆積を抑制することが可能となり、吐出モジュール300におけるインクの流動性および吐出口における吐出特性を良好な状態に保つことが可能になる。
【0049】
また本実施形態における循環経路は、液体吐出ヘッド1内で完結する構成を採るため、液体吐出ヘッドの外部に設けられたインクタンク2と液体吐出ヘッド1との間でインクの循環を行う場合に比べ、循環経路長を大幅に短縮することができる。このため、インクの循環を小型な循環ポンプで行うことが可能になる。
【0050】
更に、液体吐出ヘッド1とインクタンク2との接続流路としては、インクを供給する流路のみを備える構成となっている。即ち、液体吐出ヘッド1からインクタンク2へとインクを回収するための流路を不要とする構成を採る。このため、インクタンク2と液体吐出ヘッド1との接続にはインク供給用のチューブのみを設ければよく、インク回収用のチューブを設ける必要はない。従って、液体吐出装置50の内部を、チューブの本数が削減された簡潔な構成とすることができ、装置全体の小型化を実現することができる。更にチューブの本数が削減されることにより、液体吐出ヘッド1の主走査に伴うチューブの揺動に起因するインクの圧力変動を軽減することが可能になる。また、液体吐出ヘッド1の主走査時におけるチューブの揺動は、キャリッジ60を駆動するキャリッジモータの駆動負荷となる。このため、チューブの本数削減によってキャリッジモータの駆動負荷が低減され、キャリッジモータ等を含む主走査機構の簡略化を図ることが可能になる。更に、液体吐出ヘッドからインクタンクへのインクの回収が不要となるため、外部ポンプ21の小型化も可能となる。このように、本実施形態によれば、液体吐出装置50の小型化及びコスト低減を実現することができる。
【0051】
<圧力調整手段>
図7は、圧力調整手段の例を示す図である。
図7を参照して、上述の液体吐出ヘッド1に内蔵される圧力調整手段(第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150)の構成及び作用を、より詳細に説明する。尚、第1圧力調整手段120と第2圧力調整手段150とは、実質的に同一の構成を有している。このため、以下では、第1圧力調整手段120を例に採り説明し、第2圧力調整手段150については、
図7において第1圧力調整手段に対応する部分の符号を併記するにとどめる。第2圧力調整手段150の場合には、以下で説明する第1バルブ室121を第2バルブ室151と読み替え、第1圧力制御室122を第2圧力制御室152と読み替えることとする。
【0052】
第1圧力調整手段120は、円筒状の筐体125内に形成された第1バルブ室121と第1圧力制御室122とを有する。第1バルブ室121と第1圧力制御室122とは、円筒状の筐体125内に設けられた隔壁123によって隔てられている。但し、第1バルブ室121は、隔壁123に形成された連通口191を介して第1圧力制御室122に連通している。第1バルブ室121には、連通口191における第1バルブ室121と第1圧力制御室122との連通及び遮断を切り替えるバルブ190が設けられている。バルブ190は、バルブばね200によって、連通口191に対向する位置に保持されており、バルブばね200の付勢力によって隔壁123と密接可能な構成を有している。バルブ190が隔壁123に密接することにより、連通口191におけるインクの流通は遮断される。尚、隔壁123との密接性を高めるため、バルブ190の隔壁123との接触部分は弾性部材によって形成されることが好ましい。また、バルブ190の中央部には連通口191に挿通されるバルブシャフト193Aが突設されている。このバルブシャフト193Aをバルブばね200の付勢力に抗して押圧することにより、バルブ190は隔壁123から離間し、連通口191におけるインクの流通が可能になる。以下、バルブ190によって連通口191におけるインクの流通が遮断される状態を「閉状態」、連通口191におけるインクの流通が可能な状態を「開状態」と称す。
【0053】
円筒状の筐体125の開口部は、可撓性部材230と圧力板210とにより閉塞されている。この可撓性部材230と、圧力板210と、筐体125の周壁と、隔壁123とにより、第1圧力制御室122が形成されている。圧力板210は、可撓性部材230の変位に伴って変位可能に構成されている。圧力板210及び可撓性部材230の材質は、特に限定されないが、例えば、圧力板210を樹脂成形部品で構成し、可撓性部材230を樹脂フィルムで構成することが可能である。この場合、圧力板210は可撓性部材230に熱溶着によって固定することができる。
【0054】
圧力板210と隔壁123との間には、圧力調整ばね220(付勢部材)が設けられている。圧力調整ばね220の付勢力によって、圧力板210及び可撓性部材230は、
図7(a)に示すように、第1圧力制御室122の内容積が広がる方向に付勢されている。た、第1圧力制御室122内の圧力が減少すると、圧力板210及び可撓性部材230は、圧力調整ばね220の圧力に抗して、第1圧力制御室122の内容積が減少する方向に変位する。そして、第1圧力制御室122の内容積が一定量まで減少すると、圧力板210がバルブ190のバルブシャフト193Aに当接する。その後、さらに第1圧力制御室122の内容積が減少すると、バルブ190は、バルブばね200の付勢力に抗して圧力板210により押されたバルブシャフト193Aと共に移動し、隔壁123から離間する。これにより、連通口191が開状態(
図7(b)の状態)となる。
【0055】
本実施形態では、連通口191が開状態となったときの第1バルブ室121の圧力を第1圧力制御室122の圧力よりも高くなるように、循環経路内における接続設定をする。これにより、連通口191が開状態となると、第1バルブ室121から第1圧力制御室122へとインクが流入する。このインク流入により、第1圧力制御室122の内容積が増加する方向へ可撓性部材230及び圧力板210が変位する。その結果、圧力板210がバルブ190のバルブシャフト193Aから離間し、バルブ190はバルブばね200の付勢力によって隔壁123に密接し、連通口191は閉状態(
図7(c)の状態)となる。
【0056】
このように、本実施形態における第1圧力調整手段120では、第1圧力制御室122内の圧力が一定圧力以下まで減少すると(例えば負圧が強くなると)、第1バルブ室121から連通口191を介してインクが流入する。これにより、第1圧力制御室122の圧力がそれ以上減少しないように構成されている。従って、第1圧力制御室122は一定範囲内の圧力に保たれるよう制御される。
【0057】
次に、第1圧力制御室122の圧力についてより詳細に説明する。
前述のように第1圧力制御室122の圧力に応じて可撓性部材230及び圧力板210が変位し、圧力板210がバルブシャフト193Aに当接して連通口191が開状態となった状態(
図7(b)の状態)を考える。このとき、圧力板210に働く力の関係は、次の式1によって表される。
【0058】
P2×S2+F2+(P1-P2)×S1+F1=0 ・・・式1
さらに、式1をP2について整理すると、
P2=-(F1+F2+P1×S1)/(S2-S1) ・・・式2
となる。
【0059】
P1:第1バルブ室121の圧力(ゲージ圧)
P2:第1圧力制御室122の圧力(ゲージ圧)
F1:バルブばね200のばね力
F2:圧力調整ばね220のばね力
S1:バルブ190の受圧面積
S2:圧力板210の受圧面積
ここで、バルブばね200のばね力F1及び圧力調整ばね220のばね力F2は、バルブ190及び圧力板210を押す方向を正(
図7において右方向)とする。また、第1バルブ室121の圧力P1及び第1圧力制御室122の圧力P2に関し、P1が、P1≧P2の関係となるように構成する。
【0060】
連通口191が開状態となるときの第1圧力制御室122の圧力P2は、式2によって決定され、連通口191が開状態となると、P1≧P2の関係に構成したことにより、第1バルブ室121から第1圧力制御室122へインクが流入する。その結果、第1圧力制御室122の圧力P2はそれ以上減少せず、P2は一定範囲内の圧力に保たれる。
【0061】
一方、
図7(c)に示すように、圧力板210がバルブシャフト193Aと非当接状態となり、連通口191が閉状態となったときの圧力板210に働く力の関係は、式3のようになる。
【0062】
P3×S3+F3=0 ・・・式3
ここで、式3をP3について整理すると
P3=-F3/S3 ・・・式4
となる。
【0063】
F3:圧力板210とバルブシャフト193Aとが非当接状態にあるときの圧力調整ばね220のばね力
P3:圧力板210とバルブシャフト193Aとが非当接状態にあるときの第1圧力制御室122の圧力(ゲージ圧)
S3:圧力板210とバルブ190が非当接状態にあるときの圧力板210の受圧面積
ここで
図7(c)では、圧力板210及び可撓性部材230が変位可能な限界まで図左方向へ変位した状態を表している。圧力板210及び可撓性部材230が
図7(c)の状態へと変位する間の変位量に応じて、第1圧力制御室122の圧力P3、圧力調整ばね220のばね力F3、圧力板210の受圧面積S3は変化する。具体的には、
図7(c)よりも圧力板210及び可撓性部材230が
図7において右方向にあるとき、圧力板210の受圧面積S3は小さくなり、圧力調整ばね220のばね力F3は大きくなる。その結果、式4の関係により第1圧力制御室122の圧力P3は小さくなる(負圧としては強くなる。)。従って、式2及び式4により、
図7(b)の状態から
図7(c)の状態になるまでの間に、第1圧力制御室122の圧力は徐々に上昇していく(つまり、負圧が弱くなり、正圧側に近づく値になる)。即ち、連通口191が開状態となっている状態から、圧力板210及び可撓性部材230が左方向に徐々に変位していき、最終的に第1圧力制御室122の内容積が変位可能な限界に達するまでの間に、第1圧力制御室の圧力は徐々に上昇していく。つまり、負圧が弱まっていくことになる。
【0064】
本実施形態において、第1圧力調整手段120は上流側流路内の液体の圧力を調整し、第2圧力調整手段150はポンプ入口流路170内(入口流路内)の液体の圧力を調整する。
【0065】
<循環ポンプ>
次に、
図8及び
図9を参照して、上述の液体吐出ヘッド1に内蔵される循環ポンプ500の構成及び作用を詳細に説明する。
【0066】
図8(a)および
図8(b)は、循環ポンプ500の外観斜視図である。
図8(a)は循環ポンプ500の正面側を示す外観斜視図、
図8(b)は循環ポンプ500の背面側を示す外観斜視図である。循環ポンプ500の外殻は、ポンプ筐体505と、ポンプ筐体505に固定されたカバー507とにより構成されている。ポンプ筐体505は、筐体部本体505aと、筐体部本体505aの外面に接着固定された流路接続部材505bとにより構成されている。筐体部本体505aと流路接続部材505bとの各々には、互いに連通する一対の貫通孔が異なる2つの位置に設けられている。一方の位置に設けられた一対の貫通孔はポンプ供給孔501を形成し、他方の位置に設けられた一対の貫通孔はポンプ排出孔502を形成している。ポンプ供給孔501は、第2圧力制御室152に接続されたポンプ入口流路170に接続され、ポンプ排出孔502は、第1圧力制御室122に接続されたポンプ出口流路180に接続されている。ポンプ供給孔501から供給されたインクは、後述のポンプ室503(
図9参照)を通過してポンプ排出孔502から排出される。
【0067】
図9は、
図8(a)に示した循環ポンプ500のIX-IX線断面図である。ポンプ筐体505の内面にはダイヤフラム506が接合されており、このダイヤフラム506とポンプ筐体505の内面に形成された凹部との間にポンプ室503が形成されている。ポンプ室503は、ポンプ筐体505に形成されたポンプ供給孔501及びポンプ排出孔502に連通している。また、ポンプ供給孔501の中間部分には、逆止弁504aが設けられ、ポンプ排出孔502の中間部分には、逆止弁504bが設けられている。即ち、循環ポンプ500には、下流側流路と中間流路とを連通する流路に逆止弁を備えている。具体的には、逆止弁504aは、その一部がポンプ供給孔501の中間部分に形成されている空間512aにおいて図中の左方へと移動し得るように配置されている。また、逆止弁504bは、その一部がポンプ排出孔502の中間部分に形成されている空間512bにおいて図中の右方へと移動し得るように配置されている。
【0068】
ダイヤフラム506が変位してポンプ室503の容積が増加することでポンプ室503が減圧されると、逆止弁504aは空間512a内のポンプ供給孔501の開口から離間する(つまり、図中の左方へと移動する)。逆止弁504aが空間512a内のポンプ供給孔501の開口から離間することで、ポンプ供給孔501におけるインクの流通を可能とする開状態となる。また、ダイヤフラム506が変位してポンプ室503の容積が減少することでポンプ室503が加圧されると、逆止弁504aはポンプ供給孔501の開口の周囲の壁面に密接する。この結果、ポンプ供給孔501におけるインクの流通を遮断する閉状態となる。
【0069】
一方、逆止弁504bは、ポンプ室503が減圧されると、ポンプ筐体505の開口の周囲の壁面に密接して、ポンプ排出孔502におけるインクの流通を遮断する閉状態となる。また、ポンプ室503が加圧されると、逆止弁504bは、ポンプ筐体505の開口から離間して空間512b側に移動し(つまり、図中の右方へと移動し)、ポンプ排出孔502におけるインクの流通を可能とする。
【0070】
尚、各逆止弁504a、504bの材質は、ポンプ室503内の圧力に応じて変形可能なものであればよく、例えば、EPDMやエラストマ等の弾性部材やポリプロピレン等のフィルムや薄板で形成することが可能である。但し、これらに限定されるものではない。
【0071】
前述のように、ポンプ室503はポンプ筐体505とダイヤフラム506との接合によって形成されている。従って、ダイヤフラム506が変形することによりポンプ室503の圧力は変化する。例えば、ダイヤフラム506がポンプ筐体505側に変位して(図中、右側に変位して)ポンプ室503の容積が減少すると、ポンプ室503内の圧力は上昇する。これによりポンプ排出孔502に対向して配置した逆止弁504bが開状態となり、ポンプ室503のインクが排出される。このとき、ポンプ供給孔501に対向して配置された逆止弁504aは、ポンプ供給孔501の周囲の壁面に密接するためポンプ室503からポンプ供給孔501へのインクの逆流は抑制される。
【0072】
また逆に、ダイヤフラム506がポンプ室503が広がる方向に変位した場合にはポンプ室503の圧力は減少する。これにより、ポンプ供給孔501に対向して配置された逆止弁504aが開状態となり、ポンプ室503にインクが供給される。このとき、ポンプ排出孔502に配置された逆止弁504bは、ポンプ筐体505に形成された開口の周囲の壁面に密接して当該開口を閉塞する。このため、ポンプ排出孔502からポンプ室503へのインクの逆流は抑制される。
【0073】
このように循環ポンプ500では、ダイヤフラム506が変形し、ポンプ室503内の圧力を変化させることにより、インクの吸引と排出を行う。この際、ポンプ室503内に泡が混入すると、ダイヤフラム506が変位しても、泡の膨張・収縮によってポンプ室503内の圧力変化が小さくなり送液量が低下する。そこでポンプ室503を重力と平行に配置してポンプ室503に混入した泡をポンプ室503の上方に集まりやすくすると共に、ポンプ排出孔502をポンプ室503の中心よりも上方に配置する。これにより、ポンプ内の泡の排出性を向上させることが可能となり、流量の安定化を図ることができる。
【0074】
<液体吐出ヘッド内のインクの流れ>
図10は、液体吐出ヘッド内のインクの流れを説明する図である。
図10を参照しつつ液体吐出ヘッド1内で行われるインクの循環について説明する。インク循環経路をより明確に説明するため、
図10における各構成(第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150、循環ポンプ500等)の相対位置は簡略化している。そのため各構成の相対位置は後述する
図19の構成とは異なる。
図10(a)は吐出口13からインクを吐出して記録を行う記録動作を行っているときのインクの流れを模式的に示したものである。尚、図中の矢印はインクの流れを示している。本実施形態において、記録動作を行う際には外部ポンプ21及び循環ポンプ500の両方が駆動を開始する。尚、記録動作に関わらず、外部ポンプ21及び循環ポンプ500が駆動していてもよい。また、外部ポンプ21と循環ポンプ500との駆動は、連動して行われなくてもよく、別個に独立して駆動されてもよい。
【0075】
記録動作中は循環ポンプ500がONの状態(駆動状態)となっており、第1圧力制御室122から流出したインクは供給流路130及びバイパス流路160に流入する。供給流路130に流入したインクは、吐出モジュール300を通過した後、回収流路140に流入し、その後、第2圧力制御室152に供給される。
【0076】
一方、第1圧力制御室122からバイパス流路160に流入したインクは、第2バルブ室151を経て第2圧力制御室152に流入する。第2圧力制御室152に流入したインクは、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500、及びポンプ出口流路180を通過した後、再び第1圧力制御室122に流入する。このとき、前述した式2の関係に基づいて、第1バルブ室121の圧力が第1圧力制御室122の制御圧力よりも高くなるように設定されている。従って、第1圧力制御室122内のインクは、第1バルブ室121に流れずに再度供給流路130を介して吐出モジュール300に供給される。吐出モジュール300に流入したインクは、回収流路140、第2圧力制御室152、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500、及びポンプ出口流路180を経て、再び第1圧力制御室122に流入する。また、第1圧力制御室122A内のインクの残りは、バイパス流路160、第2バルブ室121B、第2圧力制御室122B、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500、及びポンプ出口流路180を経て、再び第1圧力制御室122Aに流入する。以上により液体吐出ヘッド1内で完結するインク循環が行われる。
【0077】
以上のインク循環において、吐出モジュール300内のインクの循環量(流量)は第1圧力制御室122及び第2圧力制御室152の制御圧力の差圧によって決定される。そして、この差圧は、吐出モジュール300内の吐出口近傍のインクの増粘を抑制可能な循環量となるように設定される。また、記録によって消費された分のインクは、インクタンク2からフィルタ110、第1バルブ室121を介して第1圧力制御室122に供給される。消費されたインクが供給される仕組みを、詳細に説明する。記録によって消費されたインクの分だけ循環経路内からインクが減ることで、第1圧力制御室内の圧力が減少し、結果として第1圧力制御室122内のインクも減少する。第1圧力制御室122内のインクの減少に伴い、第1圧力制御室122の内容積が減少する。この第1圧力制御室122の内容積の減少により、連通口191Aが開状態となり、第1バルブ室121から第1圧力制御室122にインクが供給される。この供給されるインクには、第1バルブ室121から連通口191Aを通過する際に圧力損失が発生する。それから、第1圧力制御室122に流入することで、正圧のインクは、負圧の状態に切り替わる。そして、第1圧力制御室122に第1バルブ室121からインクが流入することで、第1圧力制御室122内の圧力が上昇することで第1圧力制御室122の内容積が増加し、連通口191Aが閉状態となる。このように、インク消費に応じて連通口191Aは、開状態と閉状態とを繰り返すことになる。また、インクが消費されない場合には、連通口191Aは、閉状態に維持される。
【0078】
図10(b)は、記録動作が終了し、循環ポンプ500がOFFの状態(停止状態)となった直後のインクの流れを模式的に示したものである。記録動作が終了し、循環ポンプ500がOFFとなった時点では、第1圧力制御室122の圧力及び第2圧力制御室152の圧力は、いずれも記録動作中の制御圧となっている。このため、第1圧力制御室122の圧力と第2圧力制御室152の圧力との差圧に応じて、
図10(b)に示すようなインクの移動が生じる。具体的には第1圧力制御室122から供給流路130を介して吐出モジュール300に供給され、その後、回収流路140を経て第2圧力制御室152に至るインクの流れが引き続き発生する。また、第1圧力制御室122からバイパス流路160及び第2バルブ室151を経て第2圧力制御室152に至るインクの流れも引き続き発生する。
【0079】
これらのインクの流れによって第1圧力制御室122から第2圧力制御室152へ移動したインクと同量のインクが、インクタンク2からフィルタ110及び第1バルブ室121を経て第1圧力制御室122に供給される。このため第1圧力制御室122内の内容量は一定に保たれる。前述した式2の関係から、第1圧力制御室122の内容量が一定の時は、バルブばね200のばね力F1、圧力調整ばね220のばね力F2、バルブ190の受圧面積S1、圧力板210の受圧面積S2は一定に保たれる。このため、第1バルブ室121の圧力(ゲージ圧)P1の変化に応じて第1圧力制御室122の圧力が決定される。よって第1バルブ室121の圧力P1の変化がない場合には、第1圧力制御室122の圧力P2は記録動作中の制御圧と同じ圧力に保たれる。
図10(b)に示す状態においては、第2連通口191Bは開状態であり、第2圧力板210Bと第2バルブ190Bは当接状態であるので、式2に従って第2圧力制御室122Bの圧力は変化する。
【0080】
一方、第2圧力制御室152の圧力は、第1圧力制御室122からのインクの流入に伴う内容量の変化に応じて経時的に変化する。具体的には、
図10(b)の状態から、
図10(c)に示すように、連通口191Bが閉状態となって第2バルブ室151と第2圧力制御室152とが非連通状態となるまでの間は、式2に従って第2圧力制御室152の圧力は変化する。その後、圧力板210とバルブシャフト193Aが非当接状態となって連通口191Bが閉状態となる。そして、
図10(d)に示すように、回収流路140から第2圧力制御室152へインクが流入する。このインク流入によって圧力板210及び可撓性部材230が変位し、第2圧力制御室152の内容積が最大に達するまでの間は、式4に従って第2圧力制御室152の圧力は変化する。即ち上昇する。
【0081】
尚、
図10(c)の状態になると、第1圧力制御室122からバイパス流路160及び第2バルブ室151を経て第2圧力制御室152に至るインクの流れは発生しない。従って、第1圧力制御室122内のインクが、供給流路130を介して吐出モジュール300に供給された後、回収流路140を経て第2圧力制御室152に至る流れのみが生じる。
【0082】
前述のように、第1圧力制御室122から第2圧力制御室152へのインクの移動は、第1圧力制御室122内の圧力と第2圧力制御室152内の圧力との差圧に応じて生じる。このため、第2圧力制御室152内の圧力が第1圧力制御室122内の圧力と等しくなるとインクの移動は停止する。
【0083】
また、第2圧力制御室152内の圧力が第1圧力制御室122内の圧力と等しくなる状態においては、第2圧力制御室152が、
図10(d)に示す状態まで拡張する。
図10(d)に示すように第2圧力制御室152が拡張した場合、第2圧力制御室152には、インクを貯留できる貯留部が形成される。尚、循環ポンプ500の停止から
図10(d)の状態に移行するまでは、流路の形状及びサイズ並びにインクの性質に応じて変わり得るが、概ね1~2分程度の時間で移行する。貯留部にインクを貯留した
図10(d)に示す状態から循環ポンプ500を駆動すると、第2圧力制御室152に形成された貯留部のインクは循環ポンプ500によって第1圧力制御室122に供給される。これにより
図10(e)に示すように第1圧力制御室122のインク量は増加し、第1圧力制御機構120の可撓性部材230及び圧力板210は拡張方向へと変位する。そして、循環ポンプ500の駆動が引き続き行われると、循環経路内の状態が
図10(a)に示すようになるまで変化することになる。
【0084】
尚、上記説明においては、
図10(a)は、記録動作時の例として説明したが、前述したように、記録動作を伴わずにインクの循環が行われてもよい。この場合であっても、循環ポンプ500の駆動及び停止に応じて、インク循環経路は、
図10(a)から
図10(e)に示すように遷移する。
【0085】
また上述したように、本実施形態では、第2圧力調整手段150における連通口191Bは、循環ポンプ500が駆動されてインクの循環が行われる場合に開状態になり、インクの循環が停止すると、閉状態になる例を用いるが、これに限られない。第2圧力調整手段150における連通口191Bは、循環ポンプ500が駆動されてインクの循環が行われている場合であっても、閉状態であるように制御圧力を設定してもよい。以下、バイパス流路160の役割と併せて具体的に説明する。
【0086】
第1圧力調整手段120と第2圧力調整手段150とを接続するバイパス流路160は、例えば循環経路内に生じた負圧が既定値よりも強まる場合に、その影響を吐出モジュール300に及ぼさないようにするために設けられている。また、バイパス流路160は、供給流路130及び回収流路140の両側から圧力室12にインクを供給するためにも設けられている。
【0087】
まず、負圧が既定値よりも強まる場合に、バイパス流路160を設けていることで、その影響を吐出モジュール300に及ぼさないようにする例を説明する。例えば、環境温度の変化によりインクの特性(例えば粘度)が変化することがある。インクの粘度が変化すると、循環経路内の圧力損失も変化する。例えば、インクの粘性が下がると、循環経路内の圧力損失分が減少する。この結果、一定の駆動量で駆動している循環ポンプ500の流量が増加し、吐出モジュール300を流れる流量が増えることになる。一方で、吐出モジュール300は、不図示の温度調整機構により一定温度に保たれるため、吐出モジュール300内のインクの粘度は、環境温度が変化しても一定に維持される。吐出モジュール300内のインクの粘度に変化がない一方で吐出モジュール300内を流れるインクの流量が増加する分、流抵抗により、吐出モジュール300における負圧が強まる。このようにして、吐出モジュール300における負圧が既定値よりも強まると、吐出口13のメニスカスが破壊され、外部の空気が循環経路内に引き込まれて、正常な吐出が行えなくなる虞がある。また、メニスカスが破壊されないとしても、圧力室12の負圧が所定よりも強まり、吐出に影響を及ぼす虞がある。
【0088】
このため、本実施形態では、バイパス流路160を循環経路内に形成している。バイパス流路160を設けることで、負圧が既定値よりも強まる場合には、バイパス流路160にもインクが流れるため、吐出モジュール300の圧力を一定に保つことができる。従って、例えば第2圧力調整手段150における連通口191Bは、循環ポンプ500を駆動中の場合であっても、閉状態を維持するような制御圧力で構成してもよい。そして、既定値よりも負圧が強まる場合に、第2圧力調整手段150における連通口191が開状態となるように、第2圧力調整手段における制御圧力を設定してもよい。つまり、環境変化などの粘度変化によるポンプの流量変化によってもメニスカスが崩壊しないか、または、所定の負圧が維持されるのであれば、循環ポンプ500が駆動している場合に、連通口191Bが閉状態であってもよい。
【0089】
次に、バイパス流路160が、供給流路130及び回収流路140の両側から圧力室12にインクを供給するために設けられている例を説明する。循環経路内の圧力変動は、吐出素子15による吐出動作によっても生じ得る。吐出動作に伴い、圧力室にインクを引き込む力が生じるからである。
【0090】
以下、高いデューティの記録を続ける場合に、圧力室12に供給されるインクが、供給流路130側と回収流路140側との両側供給となる点を説明する。尚、デューティは、各種条件によって定義が変わり得るが、ここでは、1200dpi格子に4plのインク滴を1発記録した状態を100%として扱うものとする。高いデューティの記録とは、例えば100%のデューティで記録が行われるものとする。
【0091】
高いデューティの記録を続けると、圧力室12から回収流路140を通じて第2圧力制御室152内に流入するインク量が減る。一方で、循環ポンプ500は一定量でインクの流出を行うため、第2圧力制御室152内での流入と流出とのバランスが崩れ、第2圧力制御室152内のインクが減少し、第2圧力制御室152内の負圧が強くなり、第2圧力制御室152が縮小する。そして、第2圧力制御室152内の負圧が強くなることで、バイパス流路160を介して第2圧力制御室152へ流入するインクの流入量が増え、流出と流入とがバランスした状態で第2圧力制御室152が安定する。このように、結果的に、デューティに応じて第2圧力制御室152内の負圧は強くなっていく。また、上述したように、循環ポンプ500が駆動している場合に、連通口191Bが閉状態である構成においては、デューティに応じて連通口191Bが開状態となり、バイパス流路160から第2圧力制御室152にインクが流入することになる。
【0092】
そして、更に高いデューティの記録を続けると、圧力室12から回収流路140を通じて第2圧力制御室152に流入する量が減り、代わりに、バイパス流路160を経由して連通口191Bから第2圧力制御室152内に流入する量が増えていく。この状態が更に進むと、圧力室12から回収流路140を通じて第2圧力制御室152に流入するインク量が、ゼロになり、循環ポンプ500に流出するインクは全て連通口191Bから流入するインクとなる。この状態が更に進むと、今度は第2圧力制御室152から回収流路140を通じて圧力室12にインクが逆流する。この状態では、第2圧力制御室152から循環ポンプ500に流出するインクと圧力室12に流出するインクとが、バイパス流路160を通じて連通口191Bから第2圧力制御室152に流入することになる。この場合、圧力室12には、供給流路130からのインク及び回収流路140からのインクが充填されて、吐出されることになる。
【0093】
尚、この記録デューティが高い場合に生じるインクの逆流は、バイパス流路160を設けていることで生じる現象である。また、上記では、インクの逆流に応じて第2圧力調整手段150における連通口191Bが開状態となる例を説明したが、第2圧力調整手段150における連通口191Bが開状態となっている状態においてインクの逆流が生じることもある。また、第2圧力調整手段150を設けない構成においても、バイパス流路160を設けていることで、上記のインクの逆流は発生し得るものである。尚、バイパス流路160は上流側流路又は第1圧力調整手段120の少なくとも一方と下流側流路とを圧力室12を介さずに連通していればよい。
【0094】
<吐出ユニットの構成>
図11は、本実施形態の吐出ユニット3におけるインク1色分の循環経路を示した模式図である。
図11(a)は、吐出ユニット3を第1支持部材4側から見た分解斜視図であり、
図11(b)は、吐出ユニット3を吐出モジュール300側から見た分解斜視図である。尚、図中のIN、OUTで示した矢印はインクの流れを示しており、インクの流れは1色分のみ説明するが、他の色も同様の流れである。また、
図11では第2支持部材7と電気配線部材5との記載を省略し、以下の吐出ユニットの構成の説明においてもその省略している。また、
図11(a)における第1支持部材4については、
図3のXI-XIにおける断面を示している。吐出モジュール300は、吐出素子基板340と開口プレート330と吐出口形成部材320とを備えている。
図12は、開口プレート330を示した図であり、
図13は、吐出素子基板340を示した図である。
【0095】
吐出ユニット3には、循環ユニット54からジョイント部材8(
図3参照)を介してインクが供給される。インクがジョイント部材8を通過した後から、ジョイント部材8に戻るまでのインクの経路について説明する。尚、以下の図面では、ジョイント部材8の記載を省略する。
【0096】
吐出モジュール300は、上述した通り、吐出素子基板340と開口プレート330と吐出口形成部材320を備えている。吐出素子基板340と開口プレートは一体化した又は別々のシリコン基板310により構成される。吐出素子基板340と開口プレート330と吐出口形成部材320とは、各インクの流路が連通するように重なり接合されることで吐出モジュール300となり、第1支持部材4に支持される。吐出モジュール300が第1支持部材4に支持されることで、吐出ユニット3が形成される。吐出素子基板340は、吐出口形成部材320を備えており、吐出口形成部材320は、複数の吐出口13が列を成した複数の吐出口列を備えており、吐出モジュール300内のインク流路を介して供給されたインクの一部を吐出口13から吐出する。吐出されなかったインクは、吐出モジュール300内のインク流路を介して回収される。
【0097】
図11及び
図12に示すように、開口プレート330は、複数の配列されたインク供給口311と複数の配列されたインク回収口312とを備えている。
図13及び
図14に示すように、吐出素子基板340は、複数の配列された供給接続流路323と、複数の配列された回収接続流路324とを備えている。更に吐出素子基板340は、複数の供給接続流路323と連通する共通供給流路18と、複数の回収接続流路324と連通する共通回収流路19とを備えている。吐出ユニット3内のインク流路は、第1支持部材4に設けられたインク供給流路48やインク回収流路49(
図3参照)と、吐出モジュール300に設けられた流路と、を連通させることで形成されている。支持部材供給口211(
図11(a)、
図14(a)参照)は、インク供給流路48を形成している断面開口であり、支持部材回収口212(
図11(a)、
図14(b)参照)は、インク回収流路49を形成している断面開口である。
【0098】
吐出ユニット3に供給されるインクは、循環ユニット54(
図3(a)参照)側から第1支持部材4のインク供給流路48(
図3(a)参照)に供給される。インク供給流路48内の支持部材供給口211を経て流れたインクは、インク供給流路48(
図3(a)参照)と開口プレート330のインク供給口311とを介して吐出素子基板340の共通供給流路18に供給され、供給接続流路323に入る。ここまでが供給側流路となる。その後、インクは、吐出口形成部材320の圧力室12(
図3(b)参照)を経て回収側流路の回収接続流路324へと流れる。圧力室12におけるインクの流れの詳細は後述する。
【0099】
回収側流路において、回収接続流路324に入ったインクは、共通回収流路19に流れる。その後、インクは、共通回収流路19から開口プレート330のインク回収口312を介して第1支持部材4のインク回収流路49に流れ、支持部材回収口212を経て、循環ユニット54に回収される。
【0100】
開口プレート330におけるインク供給口311やインク回収口312が無い領域は、第1支持部材4において支持部材供給口211及び支持部材回収口212を仕切るための領域と対応している。また、当該領域は、第1支持部材4も開口を有さない。そのような領域は、吐出モジュール300と第1支持部材4とを接着する場合の接着領域として使用される。
【0101】
図12において開口プレート330は、X方向に配列された複数の開口の列が、Y方向に複数列設けられており、供給用(IN)の開口と回収用(OUT)の開口とが、X方向に半ピッチずれるように、Y方向に交互に配列されている。
図13において吐出素子基板340は、Y方向に配列された複数の供給接続流路323と連通する共通供給流路18と、Y方向に配列された複数の回収接続流路324と連通する共通回収流路19と、がX方向に交互に配列されている。共通供給流路18、共通回収流路19はインクの種類毎に分かれており、更に、各色の吐出口列の数に応じて共通供給流路18及び共通回収流路19の配置数が決まる。また、供給接続流路323及び回収接続流路324も吐出口13に対応した数だけ配置される。尚、必ずしも1対1対応していなくてもよく、複数の吐出口13に対して一つの供給接続流路323及び回収接続流路324が対応してもよい。
【0102】
このような開口プレート330と、吐出素子基板340とが各インクの流路が連通するように重なり接合されることで吐出モジュール300となり、第1支持部材4に支持されることで、上記のような供給流路と回収流路とを備えたインク流路が形成される。
【0103】
図14(a)から
図14(c)は、吐出ユニット3の異なる部分におけるインク流れを示した断面図である。
図14(a)は、
図11(a)のXIVa-XIVaで示す断面であり、吐出ユニット3におけるインク供給流路48とインク供給口311とが連通した部分の断面を示している。また、
図14(b)は、
図11(a)のXIVb-XIVbで示す断面であり、吐出ユニット3におけるインク回収流路49とインク回収口312とが連通した部分の断面を示している。また、
図14(c)は、
図11(a)のXIVc-XIVcで示す断面であり、インク供給口311とインク回収口312とが第1支持部材4の流路と連通していない部分の断面を示している。
【0104】
インクを供給する供給流路では、
図14(a)のように、第1支持部材4のインク供給流路48と開口プレート330のインク供給口311とが重なり連通した部分からインクが供給される。また、インクを回収する回収流路では、
図14(b)のように、第1支持部材4のインク回収流路49と開口プレート330のインク回収口312とが重なり連通した部分からインクが回収される。また、
図14(c)のように、吐出ユニット3では、部分的に開口プレート330に開口が設けられていない領域もある。そのような領域では、吐出素子基板340と第1支持部材4間でのインクの供給や回収は成されない。
図14(a)のようにインク供給口311が設けられた領域でインクの供給が成され、
図14(b)のようにインク回収口312が設けられた領域でインクの回収が成される。尚、本実施形態では、開口プレート330を用いた構成を例に説明したが、開口プレート330を用いない形態としてもよい。例えば、インク供給流路48及びインク回収流路49に対応した流路を第1支持部材4に形成し、第1支持部材4に吐出素子基板340を接合する構成であってもよい。
【0105】
図15(a)、
図15(b)は、吐出モジュール300における吐出口13の近傍を示した断面図であり、
図16は、比較例として共通供給流路18と共通回収流路19とをX方向に広げた構成の吐出モジュールを示した断面図である。尚、
図15、
図16における共通供給流路18、共通回収流路19内に示した太矢印は、シリアル型の液体吐出装置50を用いる形態におけるインクの揺動を示すものである。共通供給流路18、供給接続流路323を経て圧力室12に供給されたインクは、吐出素子15が駆動されることで吐出口13から吐出される。吐出素子15が駆動されない場合は、インクは、圧力室12から回収流路である回収接続流路324を経て共通回収流路19へと回収される。
【0106】
シリアル型の液体吐出装置50を用いる形態において、このように循環するインクから吐出を行う場合、インクの吐出は、少なからず液体吐出ヘッド1の主走査によるインク流路内におけるインクの揺動の影響を受ける。具体的には、インク流路内のインクの揺動の影響は、インクの吐出量の違いや吐出方向のずれとなって現れることがある。
図16のように、共通供給流路18と共通回収流路19とが、主走査方向であるX方向に幅広の断面形状を備えている場合、共通供給流路18、共通回収流路19内のインクは、主走査方向に慣性力を受け易くなりインクに大きな揺動が生じる。その結果、インクの揺動が吐出口13からのインクの吐出に影響を及ぼす虞がある。また、共通供給流路18と共通回収流路19とをX方向に広げてしまうと、色同士の距離を広げることとなり、印刷効率が落ちる可能性がある。
【0107】
そこで、本実施形態の共通供給流路18及び共通回収流路19は、
図15に示す断面において共に、Y方向に延在しているが、主走査方向であるX方向に対して垂直であるZ方向にも延在する構成としている。このような構成とすることで、共通供給流路18及び共通回収流路19の主走査方向における各流路幅を小さくすることができる。共通供給流路18及び共通回収流路19の主走査方向における各流路幅を小さくすることで、主走査中における共通供給流路18及び共通回収流路19内のインクに作用する主走査方向と反対側に働く慣性力(図中黒太矢印)によるインクの揺動を少なくしている。これによって、インクの揺動によるインクの吐出への影響を抑制することができる。また、共通供給流路18及び共通回収流路19をZ方向に延在させることでの断面積を増やし、流路圧損を低減させている。
【0108】
上述の通り、共通供給流路18及び共通回収流路19の主走査方向における各流路幅を小さくすることで、主走査時の共通供給流路18及び共通回収流路19内のインクの揺動が少なくなるように構成されているが、揺動が無くなるわけではない。そこで、少なくなった揺動によってもなお生じ得るインク種類ごとの吐出に差が生じることを抑制すべく、本実施形態では、共通供給流路18と共通回収流路19とは、X方向に対して重なる位置に配置されるよう構成されている。
【0109】
前述した通り本実施形態では、供給接続流路323及び回収接続流路324は吐出口13に対応して設けられ、かつ供給接続流路323と回収接続流路324とは吐出口13を挟んでX方向に並んで配置される対応関係となっている。そのため、共通供給流路18と共通回収流路19とがX方向において重ならない部分があり、X方向における供給接続流路323と回収接続流路324との対応関係が崩れると、圧力室12におけるX方向へのインクの流れや吐出に影響を及ぼす。そこにインクの揺動の影響が加わることで、更に、吐出口毎のインクの吐出に影響を及ぼす虞がある。
【0110】
そのため、共通供給流路18と共通回収流路19とをX方向に対して重なる位置に配置することで、吐出口13が配列されるY方向におけるどの位置においても、共通供給流路18と共通回収流路19とにおける主走査時のインク揺動がほぼ同等となる。その結果、圧力室12内で生じる共通供給流路18側と共通回収流路19側との圧力差が大きくばらつくことは無く、安定した吐出を行うことができる。
【0111】
また、インクを循環させる液体吐出ヘッドでは、液体吐出ヘッドへインクを供給する流路と回収する流路とが同じ流路で構成されているものもあるが、本実施形態においては、共通供給流路18と共通回収流路19とがそれぞれ別流路になっている。そして、供給接続流路323と圧力室12とが連通しており、圧力室12と回収接続流路324とが連通しており、圧力室12の吐出口13からインクが吐出される。つまり供給接続流路323と回収接続流路324とをつなぐ経路である圧力室12が、吐出口13を備えた構成となっている。そのため圧力室12には供給接続流路323側から回収接続流路324側へ流れるインク流れが発生しており、圧力室12内のインクは効率よく循環されている。圧力室12内のインクが効率よく循環されることで、吐出口13からのインクの蒸発による影響を受けやすい圧力室12のインクをフレッシュな状態に保つことができる。
【0112】
また、共通供給流路18及び共通回収流路19の2つの流路が、圧力室12と連通していることで、もし高流量で吐出を行うことが必要になった場合には、両方の流路からインクを供給することも可能となる。つまり、インクの供給と回収とを1流路だけで構成する構成と比べて、本実施形態における構成は、循環を効率的に行えるだけでなく、高流量の吐出にも対応することができるというメリットがある。
【0113】
また、共通供給流路18と共通回収流路19とは、X方向において近い位置に配置された方が、よりインクの揺動による影響が生じにくい。望ましくは、流路間が75μm~100μmで構成されているとよい。
【0114】
図17は、比較例としての吐出素子基板340を示した図である。尚、
図17では、供給接続流路323と回収接続流路324との記載を省略している。共通回収流路19には、圧力室12で吐出素子15による熱エネルギーを受けたインクが流れ込むため、共通供給流路18内のインクの温度に対して、比較的温度の高いインクが流れる。このとき、比較例では、
図17の一点鎖線で囲んだα部のように、吐出素子基板340のX方向における一部分において、共通回収流路19だけが存在している部分がある。この場合、その部分で局所的に温度が高まり、吐出モジュール300内に温度ムラが生じ、吐出に影響を与える可能性がある。
【0115】
共通供給流路18には、共通回収流路19に対して比較的低い温度のインクが流れている。そのため、共通供給流路18と共通回収流路19とが隣接していると、その近傍では、共通供給流路18と共通回収流路19とで一部の温度が相殺されることから、温度上昇抑えられる。よって、共通供給流路18と共通回収流路19とは、略同じ長さで互いにX方向において重なり合う位置に存在し、隣接していることが好ましい。
【0116】
図18(a)、
図18(b)は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3色のインクに対応した液体吐出ヘッド1の流路構成を示した図である。液体吐出ヘッド1には、
図18(a)のようにインクの種類ごとに循環流路が設けられている。圧力室12は、液体吐出ヘッド1の主走査方向であるX方向に沿って設けられている。また、
図18(b)のように、共通供給流路18と共通回収流路19とは、吐出口13が配列された吐出口列に沿って設けられており、共通供給流路18と共通回収流路19とで吐出口列を挟むようにY方向に延在して設けられている。
【0117】
<本体部と液体吐出ヘッドとの接続>
図19は、本実施形態の液体吐出装置50の本体部に設けられたインクタンク2及び外部ポンプ21と液体吐出ヘッド1との接続状態、及び循環ポンプ等の配置をより詳細に示す概略構成図である。本実施形態における液体吐出装置50は、液体吐出ヘッド1に不具合が発生した際に、液体吐出ヘッド1のみを簡単に交換できるような構成を備える。具体的には、外部ポンプ21に接続されているインク供給チューブ59と液体吐出ヘッド1との接続、離脱を簡単に行い得る液体接続部700を有している。これにより、液体吐出装置50に対し液体吐出ヘッド1のみを簡単に着脱することが可能になっている。
【0118】
液体接続部700は、
図19に示すように、液体吐出ヘッド1のヘッド筐体53に突設された液体コネクタ挿入口53aと、この液体コネクタ挿入口53aを差し込むことが可能な円筒状の液体コネクタ59aとを有する。液体コネクタ挿入口53aは液体吐出ヘッド1内に形成されたインク供給流路に流体的に接続されており、前述のフィルタ110を介して第1圧力調整手段120に接続されている。また、液体コネクタ59aは、インクタンク2のインクを液体吐出ヘッド1に加圧供給する外部ポンプ21に接続されたインク供給チューブ59の先端に設けられている。
【0119】
上記のように
図19に示す液体吐出ヘッド1は、液体接続部700によって、液体吐出ヘッド1の着脱及び交換作業を容易に行うことが可能となっている。但し、液体コネクタ挿入口53aと液体コネクタ59aとのシール性が低下した場合、外部ポンプ21によって加圧供給されたインクが液体接続部700から漏出する虞がある。液漏出したインクが循環ポンプ500等に付着した場合、電気系統に不具合が発生する可能性がある。そこで、本実施形態では、以下のように循環ポンプ等を配置している。
【0120】
図19および
図20は、本実施形態の特徴部について説明する図である。
図20(a)は、循環ポンプ500が稼働することによりインクが循環している期間(つまり、循環期間)における第2圧力制御機構150の断面模式図を示す。なお、
図20(a)において破線1230により、この期間における第1圧力制御機構120の圧力板210と可撓性部材230とシャフト193Aを示している。
【0121】
図20(a)に示すように、第2圧力制御室152のシャフト193Bが、第1圧力制御室122のシャフト193Aよりも短くなるようにシャフト193A、193Bの長さを決めている。こうすることによって、記録動作期間では、第1圧力制御室122の圧力板210は、破線1230で示した位置に配置され、第2圧力制御室152の圧力板210は、実線で示した位置に配置される。従って、記録動作期間では、第1圧力制御室122の圧力よりも第2圧力制御室152の圧力の方が低くなる。
【0122】
ただし、第1圧力制御室122の圧力よりも第2圧力制御室152の圧力を低くするための構成はこれに限られない。
【0123】
本開示の本質的な部分ではないため詳細には触れないが、第2圧力制御室152を構成する他の部品の変更によっても、第1圧力制御室152の圧力よりも第2圧力制御室152の圧力を低くすることが可能である。また、第1圧力制御室122と第2圧力制御室152の重力方向の位置関係の調整などによっても、第1圧力制御室152の圧力よりも第2圧力制御室152の圧力を低くすることが可能である。
【0124】
図19の矢印X~Zは、第1圧力制御室122と第2圧力制御室152とを連通する3つの流路と、循環ポンプ500を停止した後の流れ方向を示している。
【0125】
図19に示すように、第1圧力制御室122と第2圧力制御室152とを連通する流路としては、循環ポンプ500を経由する流路Xと、吐出ユニット300を経由する流路Yと、これらの何れも経由しない流路Zがある。ここで、流路Xは、ポンプ出口流路180と、循環ポンプ500と、ポンプ入口流路170を含む。流路Yは、供給流路130と圧力室12と回収流路140を含む。流路Zは、バイパス流路160を含む。
【0126】
図10を参照して説明したように、稼働していた循環ポンプ500を停止すると、第1圧力制御室122の圧力と第2圧力制御室152の圧力が等しくなるまで、第1圧力制御室122の流体は、第2圧力制御室152へ移動する。ここでいう流体は後述するようにインクと空気を含む。通常は、流体は主に流路Yおよび流路Zを通って移動する。流路Xは循環ポンプ500を含むが、循環ポンプ500は内部には逆止弁を有するので、通常は、流体は流路Xをほとんど流れない。
【0127】
ただし、循環ポンプ500の各逆止弁504a、504bはポンプ供給孔501及びポンプ排出孔502とポンプ室503の中間部分に置かれているが、密接する壁面に対して付勢されているものではない。
【0128】
これは、各逆止弁504a、504bをバネなどで付勢しノーマルクローズとなる構成を採用した場合、付勢力を解除する力が余分に必要となり、その分ポンプ能力を向上させるためにサイズやコストのUPに繋がるためである。
【0129】
そのため、循環ポンプ500が停止しているときは、付勢されていない各逆止弁504a、504bは、微少に流体をリークしている。このため、弁室の大きさや逆止弁の状態によっては流路Xを経由して第1圧力制御室122から第2圧力制御室152に流体が流れてしまう可能性がある。
【0130】
そのため、循環ポンプ500を停止させた時に、何らかの原因(例えば泡など)によって、流路Yの流抵抗が大きく上昇し、流路Xの流抵抗を上回ってしまった場合、第1圧力制御室122から流路Yへ流れるはずの流体が流路Xへ流れてしまう可能性がある。
【0131】
この時、第1圧力制御室122から流路Xへ流れ出す流体が液体であれば問題ない。しかし、本例のように、第1圧力制御室122の上部に吐出モジュール300へのインク流出口を持たない構成では、インクの初期充填時に残留した空気や上流から流れ込んできた空気が、第1圧力制御室122の上部に留まっているおそれがある。
【0132】
つまり、本例のように、沈降対策などのために第1圧力制御室122の上方にポンプ流出口180aがある場合は、第1圧力制御室122から流路Xへ流れ出す流体が空気であるおそれがある。
【0133】
前述したように、本例の循環ポンプ500は小型の圧電ダイヤフラムポンプであり、内部に空気が流れ込むと、空気のダンパー効果等によってポンプ能力が低下してしまう可能性がある。そのため、循環ポンプ500への空気の流入を防ぐ必要がある。
【0134】
そのためには、ポンプ出口流路180の体積V2が体積VVとの間で以下の関係を満たしていればよい。
VV<V2
ここで、
体積VV:稼働している循環ポンプ500が停止してから第1圧力制御室122の圧力と第2圧力制御室152の圧力が等しくなるまでの期間において第1圧力制御室からポンプ出口流路180に向かう方向にポンプ流出口180aを通過する流体の体積
である。
また、ポンプ流出口180aは、第1圧力制御室122とポンプ出口流路180との連通口である。
【0135】
但し、体積VVは一般には変動する。そこで、体積VVの最大見積もり値である体積VTを体積VVの代わりに用いてもよい。ここで、体積VTは、稼働している循環ポンプ500が停止してから第1圧力制御室122の圧力と第2圧力制御室152の圧力が等しくなるまでの期間において、第1圧力制御室122から第2圧力制御室152に流入する流体の体積である。つまり、
VV<V2
の条件を、
VT<V2
に変更してもよい。なお、
VV≦VT
の関係が満たされるので、
VT<V2
の関係が満たされれば、上述した
VV<V2
の関係も満たされる。
【0136】
体積VTは、第2圧力制御機構150の圧力特性と、第1圧力制御室122の設定圧力によって、事前に算出可能である。
【0137】
図20(a)から
図20(c)は、循環ポンプ停止後の第2圧力制御室152の状態遷移を表している。また、
図21は、第2圧力制御室152の体積対圧力特性のグラフを示す。
図20(a)には、
図21のグラフにおける点Qa(Va、Pa)が対応し、
図20(b)には、
図21のグラフにおける点Qb(Vb、Pb)が対応し、
図20(c)には、
図21のグラフにおける点Qc(Vc、Pc)が対応する。
【0138】
図20(a)の実線は、循環期間における第2圧力制御機構150の形状を示す。
【0139】
図20(a)の破線1230は、上述したように、循環期間における第1圧力制御機構120の圧力板210と可撓性部材230とシャフト193Aを示している。ここで、第1圧力制御室122の圧力が常に一定であるならば、第1圧力制御室122の圧力と第2圧力制御室152の圧力が一致したときには第1圧力制御機構150の圧力板21と可撓性部材230も破線1230で示す位置に配置される。
【0140】
図20(b)は、第2圧力制御機構150においてバルブ190Bにより連通口191Bが閉められた時の第2圧力制御機構150の形状を示す。また、
図20(c)は、第1圧力制御室122の圧力と第2圧力制御室152の圧力が一致したときの第2圧力制御機構150の形状を示す。
【0141】
図21のグラフにおいて、循環期間では、第2圧力制御室152の体積と圧力は、点Qa(Va、Pa)の位置にある。圧力Paは、第1圧力制御室122の圧力Pcよりも小さい。
【0142】
また、第2圧力制御室152の圧力が第1圧力制御室122の圧力に等しくなったときには、第2圧力制御室152の体積と圧力は、点Qc(Vc、Pc)の位置にある。
【0143】
従って、流路Z(バイパス流路160)がない構成であれば、体積Vcから体積Vaを減じることにより得られる差分が流路X又は流路Yを経由して第1圧力制御室122から第2圧力制御室152へ流入する流体の流入量V1aとなる(V1a=Vc-Va)。
【0144】
特に、この構成において流路Yが閉じているならば、体積Vcから体積Vaを減じることにより得られる差分が流路Xを経由して第1圧力制御室122から第2圧力制御室152へ流入する流体の流入量V1aとなる(V1a=Vc-Va)。或いは、流路Yの流抵抗が流路Xの流抵抗よりも非常に大きいならば、この差分が流路Xを経由して第1圧力制御室122から第2圧力制御室152へ流入する流体の流入量V1aにほぼ等しくなる(V1a≒Vc-Va)。
【0145】
従って、
Vc-Va<V2
になるようにポンプ出口流路180の体積V2を設定すれば、流路Yと流路Z(バイパス流路160)の双方がない構成でも、第1圧力制御室122に存在する空気がポンプ出口流路180を経由して循環ポンプ500に到達することを回避することができる。つまり、循環ポンプ500を停止した直後から流路Yと流路Z(バイパス流路160)の双方がない構成でも、第1圧力制御室122に存在する空気がポンプ出口流路180を経由して循環ポンプ500に到達することを回避することができる。
【0146】
なお、いうまでもなく、流路Xに加えて流路Yがある構成、流路Xに加えて流路Zがある構成、及び、流路Xに加えて流路Y、Zがある構成においても、
Vc-Va<V2
になるようにポンプ出口流路180の体積V2を設定すれば、流路Yと流路Z(バイパス流路160)の双方がない構成でも、第1圧力制御室122に存在する空気がポンプ出口流路180を経由して循環ポンプ500に到達することを回避することができる。
【0147】
ここで、所定量以上のインクを吐出口13から吐出している期間に限らず循環期間において平均的に、
図20(a)に示すように、第2圧力制御機構150においてバルブ190により連通口191Bが閉じられていない構成もある。このような構成においては、循環ポンプ500を停止してから時間がある程度経過してから流路Z(バイパス流路160)が閉じる(消滅する)。流路Zが閉じてから第2圧力制御室152の圧力が第1圧力制御室122の圧力と等しくなるまでの期間においては、流路X又は流路Yを経由して第1圧力制御室122から第2圧力制御室152に液体が流入する。従って、流路Zが閉じてから第2圧力制御室152の圧力が第1圧力制御室122の圧力と等しくなるまでの期間において流路Xのみを経由して第1圧力制御室122から第2圧力制御室152に液体が流入することを仮定して、体積V2の下限値を規定する。これにより、第1圧力制御室122に存在する空気がポンプ出口流路180を経由して循環ポンプ500に到達することを回避することができる。なお、ここでは、循環ポンプ500を停止してから流路Zが閉じるまでの期間において流路Xに流れ込む流体を無視することができることを仮定している。
【0148】
循環ポンプ500を停止してから流体が第1圧力制御室122から第2圧力制御室152に流入するので循環ポンプ500を停止してからある程度経過すると第2圧力調整手段150において連通口191Bはバルブ190Bにより閉じられる。この時に流路Z(バイパス流路160)が閉じる。なお、この時には、圧力板210は、バルブシャフト193Bに当接している。
図21のグラフにおいては、この時には、第2圧力制御室152の体積と圧力は、点Qb(Vb、Pb)の位置にある。その後、更に流体が第2圧力制御室152に流入することにより、第2圧力調整手段150は、
図20(c)に示すような形状になる。この形状においては、連通口191Bはバルブ190Bにより閉じられたままであり、圧力板210はバルブシャフト193Bから離間している。この時には、第2圧力制御室152の体積と圧力は、点Qc(Vc、Pc)の位置にある。
【0149】
点Qbから点Qcに至るまでの区間においては、流路Zであるバイパス流路160がない。従って、体積Vcから体積Vbを減じることにより得られる差分が流路X又は流路Yを経由して第1圧力制御室122から第2圧力制御室152へ流入する流体の流入量V1となる(V1=Vc-Vb)。
【0150】
特に、流路Zだけでなく流路Yもない構成であれば、体積Vcから体積Vbを減じることにより得られる差分が流路Xを経由して第1圧力制御室122から第2圧力制御室152への流入する流体の流入量V1となる(V1=Vc-Vb)。
【0151】
従って、
Vc-Vb<V2
になるようにポンプ出口流路180の体積V2を設定すれば、次のような何れの構成でも第1圧力制御室122に存在する空気がポンプ出口流路180を経由して循環ポンプ500に到達することを回避することができる。つまり、流路Yがなく流路Zが中途の時点からなくなる構成でも、第1圧力制御室122に存在する空気がポンプ出口流路180を経由して循環ポンプ500に到達することを回避することができる。また、循環ポンプ500を停止した直後から流路Y及び流路Zがない構成でも、第1圧力制御室122に存在する空気がポンプ出口流路180を経由して循環ポンプ500に到達することを回避することができる。
【0152】
なお、流路Yがあり流路Zが中途の時点からなくなる構成でも、
Vc-Vb<V2
になるようにポンプ出口流路180の体積V2を設定すれば、第1圧力制御室122に存在する空気がポンプ出口流路180を経由して循環ポンプ500に到達することを回避することができる。
【0153】
また、流路Yがあり流路Zが循環ポンプ500を停止した直後からない構成(例えば、流路であるバイパス流路160が設けられていない構成)でも、
Vc-Vb<V2
になるようにポンプ出口流路180の体積V2を設定すれば、第1圧力制御室122に存在する空気がポンプ出口流路180を経由して循環ポンプ500に到達することを回避することができる。ただし、このような構成においては、Qa=Qbであり、従って、Va=Vbであるので、この条件は、
Vc-Va<V2
と同じになる。
【0154】
更に、
Vc-Vb<V2
であれば、
Vc-Va<V2
である。従って、流路Zがある構成であっても、
Vc-Va<V2
を条件としてもよい。
【0155】
説明が一部重複するが、
図21を参照して次の説明をする。稼働していた循環ポンプ500を停止した時から第1圧力制御室122の圧力と第2圧力制御室152の圧力が等しくなるまでの期間において、第1圧力制御室122から第2圧力制御室152に流入する流体の体積V1aは、
V1a=Vc-Va
である。ここで、この期間において、流体は、流路X、流路Y、及び、流路Zから選択された1乃至3個の流路を流れる。
【0156】
従って、流路X、流路Y、及び、流路Zから選択された1乃至3個の何れの流路を通る場合であっても、
V1a=Vc-Va<V2
の条件が満たされているならば、第1圧力制御室122にある空気が循環ポンプ500に空気が到達することを避けることができる。
【0157】
従って、流路Zであるバイパス流路160が設けられている構成であっても、設けられていない構成であっても、
V1a=Vc-Va<V2
の条件が満たされているならば、第1圧力制御室122にある空気が循環ポンプ500に空気が到達することを避けることができる。
【0158】
また、
図21に示すように、循環ポンプ500を停止してから流路Zが閉じた時から第1圧力制御室122の圧力と第2圧力制御室152の圧力が等しくなるまでの期間において、第1圧力制御室122から第2圧力制御室152に流入する流体の体積V1は、
V1=Vc-Vb
である。ここで、この期間において、流体は、流路X、及び流路Yから選択された1又は2個の流路を流れる。
【0159】
従って、流路X、及び流路Yから選択された1又は2個の何れの流路を通る場合であっても、
V1=Vc-Vb<V2
の条件が満たされているならば、第1圧力制御室122にある空気が循環ポンプ500に空気が到達することを避けることができる。
【0160】
同様に、
図21に示すように、流路Zであるバイパス流路160がない構成においては次のようになる。循環ポンプ500を停止してから第1圧力制御室122の圧力と第2圧力制御室152の圧力が等しくなるまでの期間において、第1圧力制御室122から第2圧力制御室152に流入する流体の体積V1は、
V1=Vc-Vb
である。ここで、この期間において、流体は、流路X、及び流路Yから選択された1又は2個の流路を流れる。なお、流路Zであるバイパス流路160がない構成においてはVa=Vbである。
【0161】
従って、流路X、及び流路Yから選択された1又は2個の何れの流路を通る場合であっても、
V1=Vc-Vb<V2
の条件が満たされているならば、第1圧力制御室122にある空気が循環ポンプ500に空気が到達することを避けることができる。
【0162】
小型化のために、ポンプ出口流路180の体積V2を、少しでも小さくしたい場合は、
Vc-Va<V2
の条件の代わりに、
Vc-Vb<V2
の条件を選択することも可能である。つまり、ポンプ出口流路180の体積V2の許容範囲の下限を小さくすることも可能である。
【0163】
その場合、
図19のように、バイパス流路160の入り口260を、第1圧力制御室122の最下部に設け、バイパス流路160が泡で閉塞しないような構成をとることが望ましい。
【0164】
これによって、万が一、流路Yの流抵抗が上昇してしまい、第1圧力制御室122の上部に溜まった空気が流路Xに流出しても、空気が循環ポンプ500まで届くことはない。そのため、循環ポンプが空気によって動作不良を起こすことはなく、吐出安定性を向上させることができる。
【0165】
<その他の実施形態>
上記の実施形態では、循環ポンプ500を停止してから第2圧力制御室152の圧力が第1圧力制御室122の圧力と等しくなった時には、
図20(c)に示すように、連通口191Bはバルブ190Bにより閉じられたままである。また、圧力板210はバルブシャフト193Bから離間している。しかし、この時に、連通口191Bはバルブ190Bにより閉じられたままであり、圧力板210がバルブシャフト193Bに当接しているような構成もある。このような構成においても、第2圧力制御室152の圧力が第1圧力制御室122の圧力と等しくなった時の第2圧力制御室152の体積と圧力として点QcにあるVcとPcをそのまま適用することができる。
上記の実施形態では、
図4に示すように循環ポンプ500は、循環ユニット54の内部に設置されているが、この限りではなく、循環ユニット54の外部に設置されていてもよい。
【0166】
<本開示の技術的特徴>本開示は、以下の構成、方法及びプログラムを含む。
[構成1]
液体の圧力を調整するための第1圧力調整手段であって、第1バルブ室と、第1圧力制御室と、前記第1バルブ室と前記第1圧力制御室とを連通させる第1連通口と、前記第1連通口を開閉する第1バルブと、前記第1圧力制御室の一部の面を構成し、変位可能に構成された第1可撓性部材と、前記第1圧力制御室の他の一部の面を構成し、前記第1可撓性部材と連動して変位可能に構成された第1圧力板と、を備える第1圧力調整手段と、
液体の圧力を調整するための第2圧力調整手段であって、第2バルブ室と、第2圧力制御室と、前記第2バルブ室と前記第2圧力制御室とを連通させる第2連通口と、前記第2連通口を開閉する第2バルブと、前記第2圧力制御室の一部の面を構成し、変位可能に構成された第2可撓性部材と、前記第2圧力制御室の他の一部の面を構成し、前記第2可撓性部材と連動して変位可能に構成された第2圧力板と、を備える第2圧力調整手段と、
圧力室と前記第1圧力制御室とを連通する第1流路と、
前記圧力室と前記第2圧力制御室とを連通する第2流路と、
前記第2圧力制御室と液体を循環させるための循環ポンプとを連通する第3流路と、
前記循環ポンプと前記第1圧力制御室とを連通する第4流路と、
を備え、
稼働している前記循環ポンプが停止してから前記第1圧力制御室の圧力と前記第2圧力制御室の圧力が等しくなるまでの期間において、前記第1圧力制御室から前記第4流路に向かう方向に前記第1圧力制御室と前記第4流路との連通口を通過する流体の体積をVVとし、前記第4流路の体積をV2としたとき、
VV<V2
である、
循環ユニット。
【0167】
[構成2]
稼働している前記循環ポンプが停止してから前記第1圧力制御室の圧力と前記第2圧力制御室の圧力が等しくなるまでの期間において、前記第1圧力制御室から前記第2圧力制御室に流入する流体の体積をVTとしたときに、
VT<V2
である、
構成1に記載の循環ユニット。
【0168】
[構成3]
前記循環ポンプが稼働している期間における前記第2圧力制御室の体積をVa、稼働している前記循環ポンプが停止してから前記第1圧力制御室の圧力と前記第2圧力制御室の圧力が等しくなった時の前記第2圧力制御室の体積をVcとしたときに、
Vc-Va<V2
である、
構成1に記載の循環ユニット。
【0169】
[構成4]
前記第1圧力制御室と前記第2バルブ室とを連通するバイパス流路を更に備え、
前記第2バルブによる前記第2連通口の開閉に応じて前記バイパス流路が開閉する、
構成1に記載の循環ユニット。
【0170】
[構成5]
稼働している前記循環ポンプが停止してから前記第1圧力制御室の圧力と前記第2圧力制御室の圧力が等しくなるまでの期間において、前記第1圧力制御室から前記第2圧力制御室に流入する流体の体積をVTとしたときに、
VT<V2
である、
構成4に記載の循環ユニット。
【0171】
[構成6]
前記循環ポンプが稼働している期間における前記第2圧力制御室の体積をVa、稼働している前記循環ポンプが停止してから前記第1圧力制御室の圧力と前記第2圧力制御室の圧力が等しくなった時の前記第2圧力制御室の体積をVcとしたときに、
Vc-Va<V2
である、
構成4に記載の循環ユニット。
【0172】
[構成7]
稼働している前記循環ポンプが停止してから前記バイパス流路が閉じられた時の前記第2圧力制御室の体積をVbとし、稼働している前記循環ポンプが停止してから前記第1圧力制御室の圧力と前記第2圧力制御室の圧力が等しくなった時の前記第2圧力制御室の体積をVcとしたときに、
Vc-Vb<V2
である、
構成4に記載の循環ユニット。
【0173】
[構成8]
前記バイパス流路は、前記第1圧力制御室の最下部において前記第1圧力制御室と連通している、
構成4乃至7の何れか1に記載の循環ユニット。
【0174】
[構成9]
前記第3流路は、第2圧力制御室の下部側において前記第2圧力制御室と連通している、
構成1乃至8の何れか1に記載の循環ユニット。
【0175】
[構成10]
前記第4流路は、前記第1圧力制御室の上部側において第1圧力制御室と連通している、
構成1乃至9の何れか1に記載の循環ユニット。
【0176】
[構成11]
構成1乃至10の何れか1項に記載の循環ユニットと、
前記循環ポンプと、
吐出モジュールと、
を備え、
前記吐出モジュールは、
液体を吐出するための吐出口と、
前記吐出口と連通した前記圧力室と、
前記圧力室を介して前記吐出口から液体を吐出させるための吐出素子と、
を備える、
液体吐出ヘッド。
【0177】
[構成12]
前記循環ポンプが前記循環ユニットの内部に設置されている、
構成11に記載の液体吐出ヘッド。
【0178】
[構成13]
構成11又は12に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドを主走査方向に走査させるためのキャリッジと、
記録媒体を副走査方向に搬送する搬送手段と、
を備える液体吐出装置。
【符号の説明】
【0179】
1 液体吐出ヘッド
12 圧力室
15 吐出素子
120 第1圧力制御機構
130 供給流路
140 回収流路
150 第2圧力制御機構
160 バイパス流路
170 ポンプ入口流路
180 ポンプ出口流路
500 循環ポンプ