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特開2024-176056電力変換装置の異常判定方法、及び電力変換装置の異常判定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176056
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】電力変換装置の異常判定方法、及び電力変換装置の異常判定システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241212BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094265
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立石 義和
(72)【発明者】
【氏名】小川 浩司
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA02
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA07Z
5H770JA17W
5H770LA07X
5H770LB05
5H770LB09
(57)【要約】
【課題】モータを回転させることなく電力変換装置の異常判定が可能な電力変換装置の異常判定方法、及び電力変換装置の異常判定システムを提供する。
【解決手段】2つのスイッチング素子が直列に接続された直列回路がバッテリ1に対して複数並列に接続され、直列回路において2つのスイッチング素子のうちの一方と他方との接続中点がモータ4に接続され、2つのスイッチング素子の動作を制御することでバッテリ1とモータ4との間で電力の授受を行う電力変換装置の異常判定方法であって、複数の直列回路において選択した1つのスイッチング素子以外の残余のスイッチング素子をオフ状態とし、選択した1つのスイッチング素子をオフ状態からオン状態に切り替えたときに複数の直列回路又はモータ4に流れる電流値を測定し、電流値に基づいて選択したスイッチング素子の異常の有無を判定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのスイッチング素子が直列に接続された直列回路がバッテリに対して複数並列に接続され、前記直列回路において前記2つのスイッチング素子のうちの一方と他方との接続中点がモータに接続され、前記2つのスイッチング素子の動作を制御することで前記バッテリと前記モータとの間で電力の授受を行う電力変換装置の異常判定方法であって、
複数の前記直列回路から1つのスイッチング素子を選択し、
複数の前記直列回路において選択したスイッチング素子以外の残余のスイッチング素子をオフ状態とし、
選択したスイッチング素子をオフ状態からオン状態に切り替えたときに複数の前記直列回路又は前記モータに流れる電流値を測定し、
前記電流値に基づいて選択したスイッチング素子の異常の有無を判定する電力変換装置の異常判定方法。
【請求項2】
複数の前記直列回路から選択するスイッチング素子を順次切り替えて前記電流値を測定することで複数の前記直列回路を構成する全てのスイッチング素子の異常の有無を判定する請求項1に記載の電力変換装置の異常判定方法。
【請求項3】
選択したスイッチング素子に関してオン状態とオフ状態の間で相互に切り替える動作を所定回数繰り返すことで前記電流値の総和を算出し、
当該総和に基づいて選択したスイッチング素子の異常の有無を判定する請求項1又は請求項2に記載の電力変換装置の異常判定方法。
【請求項4】
複数の前記直列回路が平滑コンデンサに並列に接続され且つ前記バッテリから遮断されている場合において、
選択したスイッチング素子をオフ状態からオン状態に切り替えたときの前記平滑コンデンサに印加された電圧の変化量に基づいて前記電流値を算出する請求項1に記載の電力変換装置の異常判定方法。
【請求項5】
前記直列回路の前記2つのスイッチング素子のうち前記バッテリの一方の端子に接続された方を第1のスイッチング素子とし前記バッテリの他方の端子に接続された方を第2のスイッチング素子としたとき、
複数の前記直列回路から一つの前記第1のスイッチング素子と一つの前記第2のスイッチング素子を選択し、
選択した前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子のオン・オフ状態が互いに異なるタイミングで前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子をオン状態とオフ状態の間で相互に切り替える動作を所定回数繰り返すことで、選択した前記第1のスイッチング素子に係る前記電流値の第1の総和と、選択した前記第2のスイッチング素子に係る前記電流値の第2の総和と、を算出し、
前記第1の総和に基づいて選択した前記第1のスイッチング素子の異常の有無を判定し、
前記第2の総和に基づいて選択した前記第2のスイッチング素子の異常の有無を判定する請求項1に記載の電力変換装置の異常判定方法。
【請求項6】
複数の前記直列回路のうちの一つが、電流センサと前記2つのスイッチング素子の一方となる特定のスイッチング素子を直列に接続した第2の直列回路と前記2つのスイッチング素子の他方とが直列に接続して形成され、前記第2の直列回路と前記2つのスイッチング素子の他方との接続中点が前記モータに接続されている場合において、
複数の前記直列回路のうち前記特定のスイッチング素子を選択した場合において、
前記特定のスイッチング素子以外の残余のスイッチング素子をオフ状態とし、前記特定のスイッチング素子をオフ状態からオン状態に切り替えたときに、前記電流センサにより第1の電流値を測定し、
前記第1の電流値に基づいて前記特定のスイッチング素子の異常の有無を判定し、
複数の前記直列回路のうち、前記特定のスイッチング素子以外のスイッチング素子のいずれかを選択した場合において、
複数の前記直列回路において選択したスイッチング素子以外の残余のスイッチング素子をオフ状態とし、選択したスイッチング素子をオフ状態からオン状態に切り替えたときに、前記電流センサにより第2の電流値を測定し、
前記第2の電流値に基づいて選択したスイッチング素子の異常の有無を判定し、
前記特定のスイッチング素子の異常の有無を判定するための前記第1の電流値の判定閾値と、前記特定のスイッチング素子以外に選択したスイッチング素子の異常の有無を判定するための前記第2の電流値の判定閾値と、が互いに異なるように設定する請求項1に記載の電力変換装置の異常判定方法。
【請求項7】
2つのスイッチング素子が直列に接続された直列回路がバッテリに対して複数並列に接続され、前記直列回路において前記2つのスイッチング素子のうちの一方と他方との接続中点がモータに接続された電力変換装置と、
前記2つのスイッチング素子の動作を制御することで前記バッテリと前記モータとの間で電力の授受を行う制御部と、を備える電力変換装置の異常判定システムであって、
前記制御部は、
複数の前記直列回路から1つのスイッチング素子を選択し、
複数の前記直列回路において選択したスイッチング素子以外の残余のスイッチング素子をオフ状態とし、
選択したスイッチング素子をオフ状態からオン状態としたときに、複数の前記直列回路又は前記モータに流れる電流値を測定し、
前記電流値に基づいて選択したスイッチング素子の異常の有無を判定する電力変換装置の異常判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置の異常判定方法、及び電力変換装置の異常判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、モータのコイルに流れる相電流を検出し、検出した相電流からインバータ(電力変換装置)の異常判定を行う技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-215328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、モータを駆動するためコイルに供給している電流値を検出する構成であるため、モータを駆動(回転)していない場合には電力変換装置の異常判定を実行できない。
【0005】
本発明は、モータを回転させることなく電力変換装置の異常判定が可能な電力変換装置の異常判定方法、及び電力変換装置の異常判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による電力変換装置の異常判定方法は、2つのスイッチング素子が直列に接続された直列回路がバッテリに対して複数並列に接続され、直列回路において2つのスイッチング素子のうちの一方と他方との接続中点がモータに接続され、2つのスイッチング素子の動作を制御することでバッテリとモータとの間で電力の授受を行う電力変換装置の異常判定方法である。この異常判定方法では、複数の前記直列回路から1つのスイッチング素子を選択する。そして、複数の直列回路において選択したスイッチング素子以外の残余のスイッチング素子をオフ状態とし、選択したスイッチング素子をオフ状態からオン状態に切り替えたときに複数の直列回路又はモータに流れる電流値を測定し、電流値に基づいて選択したスイッチング素子の異常の有無を判定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、選択したスイッチング素子に異常がなければスイッチング素子等に含まれる寄生容量を介して電流が流れ、異常があれば電流は流れないので、その差を利用して異常の有無を検知できる。また、寄生容量を介して流れる電流は非常に小さいのでモータを回転させることはない。よって、モータを回転させることなくスイッチング素子の異常の有無を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態の電力変換装置の異常判定システムの概略図である。
図2図2は、第1実施形態の電力変換装置の異常判定システムの全体制御フローである。
図3図3は、スイッチング素子(Tr1)をオン状態に設定し、スイッチング素子(Tr2-Tr6)をオフ状態に設定したときに寄生状態を介して流れる電流を示す図である。
図4図4は、図3の状態でスイッチング素子(Tr1)をオフ状態に設定したときの状態を示す図である。
図5図5は、第1実施形態の電力変換装置の異常判定システムのオープン異常判定の制御フローである。
図6図6は、第1実施形態の電力変換装置の異常判定システムのオープン異常判定の制御フローの変形例である。
図7図7は、第1実施形態の電力変換装置の異常判定システムのタイムチャートであってスイッチング素子に異常がない場合を示す図である。
図8図8は、第1実施形態の電力変換装置の異常判定システムのタイムチャートであってスイッチング素子に異常がある場合を示す図である。
図9図9は、第2実施形態の電力変換装置の異常判定システムにおいて、図5の状態でスイッチング素子(Tr1)をオフ状態に設定し、その直後にスイッチング素子(Tr2)をオン状態に設定したときに寄生容量を介して流れる電流を示す図である。
図10図10は、第2実施形態の電力変換装置の異常判定システムの異常判定制御フロー(前段)である。
図11図11は、第2実施形態の電力変換装置の異常判定システムの異常判定制御フロー(後段)である。
図12図12は、第2実施形態の電力変換装置の異常判定システムのタイムチャートであってスイッチング素子(Tr1、Tr2)に異常がない場合を示す図である。
図13図13は、第2実施形態の電力変換装置の異常判定システムのタイムチャートであってスイッチング素子(Tr1)に異常がありスイッチング素子(Tr2)に異常がない場合を示す図である。
図14図14は、第2実施形態の電力変換装置の異常判定システムのタイムチャートであってスイッチング素子(Tr1、Tr2)に異常がある場合を示す図である。
図15図15は、第3実施形態の電力変換装置の異常判定システムの概略図である。
図16図16は、スイッチング素子(Tr1、Tr2、Tr3、Tr4、Tr5、Tr6)をそれぞれ選択してオン状態に設定したときに電流センサ(A1)が検出する電流を示す。
図17図17は、第3実施形態の電力変換装置の異常判定システムの異常判定制御フローである。
図18図18は、第3実施形態の電力変換装置の異常判定システムの変形例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムの概略図である。第1実施形態の電力変換装置の異常判定システムは、バッテリ1、リレー2、インバータ3(電力変換装置)、モータ4、平滑コンデンサ5、電流センサ6、磁極位置検出センサ7、電圧センサ8、ゲート駆動回路9、モータコントローラ10、車両コントローラ11により構成され、電動車両(又はハイブリッド車両)に搭載される。
【0011】
バッテリ1は、リレー2を介してインバータ3の直流側に接続されている。
【0012】
リレー2は、車両のキースイッチがオン状態のときにオン状態(導通状態)となり、キースイッチがオフ状態のオフ状態(非導通状態)となる。
【0013】
インバータ3は、複数のスイッチング素子(IGBT:Inslated Gate Bipolar Transitor)(Tr1-Tr6)と、帰還ダイオード(D1-D6)により構成される。
【0014】
より詳細には、例えばNPN型のスイッチング素子(Tr1)と、スイッチング素子(Tr1)のエミッタとコレクタとを接続しエミッタからコレクタへの電流を許容しその逆方向の電流を遮断する帰還ダイオード(D1)との第1の並列回路と、同様に接続したスイッチング素子(Tr2)と帰還ダイオード(D2)の第1の並列回路とを直列に接続したU相用の直列回路が構築される。そして、第1の並列回路がバッテリ1(平滑コンデンサ5)の正極側に接続され、第2の並列経路がバッテリ1(平滑コンデンサ5)の負極側に接続され、第1の並列回路と第2の並列回路の接続中点(UM)がモータ4のU相に接続されている。
【0015】
また、インバータ3は、U相用の直列回路と同様の構成でV相用の直列回路及びW相用の直列回路を有し、U相用の直列回路、V相用の直列回路、W相用の直列回路がバッテリ1(平滑コンデンサ5)に対して並列に接続されている。なお、V相用の直列回路の接続中点(VM)はモータ4のV相に接続され、W相用の直列回路の接続中点(WM)はモータ4のW相に接続されている。
【0016】
インバータ3は、ゲート駆動回路9からゲート信号(GUP、GUN、GVP、GVN、GWP、GWN)が入力されることで、バッテリ1が出力する直流電力を交流電力に変換してモータ4に出力し、又はモータ4で発生した回生電力を直流電力に変換してバッテリ1に出力する。
【0017】
モータ4は、例えば永久磁石型三相同期モータであり、車両の動力源として用いる。
【0018】
平滑コンデンサ5は、リレー2とインバータ3との間においてバッテリ1と並列に接続されている。平滑コンデンサ5は、直流電力を平滑化する。
【0019】
電流センサ6は、モータ4の各相に流れる電流Iu、Iv、Iwを検出し、その検出信号をモータコントローラ10に出力する。
【0020】
磁極位置検出センサ7は、レゾルバ等が適用されモータ4(ロータ)の電気角を検出し、その検出信号をモータコントローラ10に出力する。
【0021】
電圧センサ8は、平滑コンデンサ5の電圧を検出し、その検出信号をゲート駆動回路9に出力する。
【0022】
車両コントローラ11は、車両のアクセル信号、ブレーキ信号、シフトポジション信号等に基づいてトルク指令値を算出し、モータコントローラ10に出力するとともに、起動要求指令と停止要求指令をモータコントローラ10に出力する。また、車両コントローラ11は、シフトポジション信号に基づいてリレー2を開閉するリレー制御信号を出力し、これと同時にリレー開閉情報をモータコントローラ10へ出力する。車両コントローラ11は、シフトポジション信号が例えばパーキングの場合に、リレー2を遮断するリレー制御信号をリレー2に出力するとともにリレー2が遮断されたことを示すリレー開閉情報をモータコントローラ10に出力する。また、車両コントローラ11は、シフトポジションが例えばパーキング以外の場合に、リレー2を接続するリレー制御信号をリレー2に出力し、リレー2が接続したことを示すリレー開閉情報をモータコントローラ10に出力する。
【0023】
モータコントローラ10は、インバータ3の動作を制御する。モータコントローラ10は、車両コントローラ11から入力されたトルク指令値に基づいてパルス幅変調(PWM)信号を生成し、これをゲート駆動回路9へ出力する。
【0024】
ゲート駆動回路9は、モータコントローラ10から入力されたPWM信号に基づいてインバータ3を構成する各スイッチング素子(Tr1-Tr6)を所定のタイミングでオン・オフ制御する。また、ゲート駆動回路9は、スイッチング素子(Tr1-Tr6)の過熱異常や過電流異常状態を検出し、IGBT異常信号をモータコントローラ10へ出力する機能を備える。
【0025】
[異常判定システムの全体制御フロー]
図2は、第1実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムの全体制御フローである。本実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムの制御は例えばモータコントローラ10が実行する。
【0026】
ステップS101において、モータコントローラ10は、車両コントローラ11から入力されたリレー開閉情報に基づいてリレー2の遮断が完了しているか否かを判定し、YESであればステップS102に移行し、NOであればステップS101に留まる。
【0027】
ステップS102において、モータコントローラ10は、磁極位置検出センサ7の検出信号から算出されるモータ回転数が、所定値(停止したとみなせる回転数)よりも低くなったか否かを判定し、YESであればステップS103に移行し、NOであればステップS102に留まる。
【0028】
ステップS103において、モータコントローラ10は、電圧センサ8から入力された電圧センサ信号が表す平滑コンデンサ5の電圧が、後段のステップS104を実行するために必要な判定可能電圧よりも高いか否かを判定し、YESであればステップS104に移行し、NOであればENDに移行する。
【0029】
ステップS104において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(Tr1-Tr6)のオープン異常判定を実行する。オープン異常判定の詳細は後述する。
【0030】
ステップS105において、モータコントローラ10は、ステップS104のオープン異常判定からスイッチング素子(Tr1-Tr6)のオープン異常の有無を判定する。
【0031】
ステップS106において、モータコントローラ10は、ステップS105でオープン異常を検出した場合にゲート駆動回路9を停止させる。
【0032】
[オープン異常の判定方法]
図3は、スイッチング素子(Tr1)をオン状態に設定し、スイッチング素子(Tr2-Tr6)をオフ状態に設定したときに寄生状態を介して流れる電流を示す図である。図4は、図3の状態でスイッチング素子(Tr1)をオフ状態に設定したときの状態を示す図である。
【0033】
図3に示すように、スイッチング素子(Tr1-Tr6)及び帰還ダイオード(D1-D6)には、それぞれ寄生容量(C1―C6)が存在し、平滑コンデンサ5の放電時には寄生容量(C1-C6)を介して過渡的な電流、すなわち寄生容量が電荷を蓄えるまでの電流、又は寄生容量が蓄えた電荷を放電する際の電流が流れる。
【0034】
図3図4は、スイッチング素子(Tr1-Tr6)にオープン異常がない場合を図示している。なお、スイッチング素子(Tr1、Tr3、Tr5)を第1のスイッチング素子、スイッチング素子(Tr2、Tr4、Tr6)を第2のスイッチング素子と呼ぶ場合がある。
【0035】
例えば、図3に示すように、スイッチング素子(Tr1)をオン状態とし、他のスイッチング素子(Tr2-Tr6)をオフ状態とすると、平滑コンデンサ5の電荷、スイッチング素子(Tr1)の寄生容量(C1)の電荷、スイッチング素子(Tr3)の寄生容量(C3)の電荷、スイッチング素子(Tr5)の寄生容量(C5)の電荷がスイッチング素子(Tr1)に向かって流れ込む態様でインバータ3に電流が流れる。
【0036】
このとき、モータ4に対してはU相がV相及びW相に対して高電位となるので、U相からV相及びW相へと電流が流れるが、当該電流は非常に小さいのでこれによりモータ4が回転することはない。
【0037】
また、第2のスイッチング素子(Tr2、Tr4、Tr6)は全てオフ状態であるので、スイッチング素子(Tr2)の寄生容量(C2)、スイッチング素子(Tr4)の寄生容量(C4)、スイッチング素子(Tr6)の寄生容量(C6)を通じて平滑コンデンサ5に電流が流れ、寄生容量(C2)、寄生容量(C4)、寄生容量(C6)に電荷が蓄えられる。
【0038】
その後、図4に示すように、スイッチング素子(Tr1)をオフ状態とすると、全てのスイッチング素子(Tr1-Tr6)がオフ状態となるため、インバータ3において電流は流れなくなる。しかし、寄生容量(C2)、寄生容量(C4)、寄生容量(C6)に蓄えられた電荷は非常に小さいので、これらの電荷は自然放電する。よって、図3及び図4に示す状態を繰り返すことで、寄生容量(C1-C6)を介して平滑コンデンサ5の電荷を放電する形でインバータ3に電流を流すことができる。
【0039】
ここで、平滑コンデンサ5の容量(C)、平滑コンデンサ5の電圧(V)を用いると平滑コンデンサ5に蓄えられる電荷(Q)はQ=CVとなり、平滑コンデンサ5に流れる電流(Icap)は、Icap=C(dV/dt)となる。ここで、dV/dtは、電圧変化量(後述のΔV)とみなせるので、平滑コンデンサ5の電圧変化量から平滑コンデンサ5に流れる電流(Icap)を簡易的に算出できる。
【0040】
また、スイッチング素子(Tr1-Tr6)及び帰還ダイオード(D1-D6)の特性が同一であり、寄生容量(C1-C6)も同一と考えると、選択したスイッチング素子に流れる電流はIcap×2となる。
【0041】
また、図3において、U相に流れる電流(Iu)、V相に流れる電流(Iv)、W相に流れる電流(Iw)は、Iu+Iv+Iw=0となるが、上記のように特性が同一と考えると、|Iu|=2|Iv|=2|Iw|となる。
【0042】
一方、選択したスイッチング素子(Tr1)にオープン異常が有る場合、スイッチング素子(Tr1)のゲート信号(GUP)をHIGH(高電位)としてもスイッチング素子(Tr1)がオン状態にはならない。よって、図3に示すように、スイッチング素子(Tr1)に対して、平滑コンデンサ5の電荷、スイッチング素子(Tr1)の寄生容量(C1、C3、C5)の電荷が流れこむことはなく、結果的に寄生容量(C2、C4、C6)を介して平滑コンデンサ5に電流が流れることもない。
【0043】
また、選択していないスイッチング素子(Tr2-Tr6のいずれか)にオープン異常が有る場合、そもそも選択していないスイッチング素子はオフ状態に設定しているため、インバータ3に流れる電流に影響を与えない。
【0044】
以上より、選択したスイッチング素子が正常時はインバータ3に電流が流れ、異常時はインバータ3に電流が流れないので、この電流差を利用して選択したスイッチング素子に異常があるか否かを判定することができる。なお、従来技術ではスイッチング素子のオープン異常を検出するためのモータ4を回転させる必要があった。この場合、車両が停車している状態から運転を開始するシーンなどにおいてオープン異常の判定が遅れてしまい、始動トルクが出せずモータ4が回転しない、又はオープン異常の状態でモータ4を回転させ、予期せず振動や騒音などを起こし、ドライバに不快感を与える可能性があった。しかし、本実施形態では、モータ4の回転させることなく、すなわち車両の始動前にスイッチング素子のオープン異常の有無を判定するので、ドライバに与える不快感を低減できる。
【0045】
なお、選択したスイッチング素子に異常がある場合でも、スイッチング素子(Tr1-Tr6)及び帰還ダイオード(D1-D6)の特性のばらつき、モータ4の中性点電位の変動等により、寄生容量(C1-C6)を介してわずかに電流が流れる場合がある。
【0046】
そこで、本実施形態では、選択したスイッチング素子のオン状態とオフ状態の切り替えを所定回数繰り返した上で平滑コンデンサ5の電圧変化量(ΔV)を取得し、インバータ3及びモータ4の特性に起因して現れる電圧変化量(ΔV)と、スイッチング素子のオープン異常に起因して現れる電圧変化量(ΔV)と、を容易に識別できるようにしている。
【0047】
また、本実施形態では、選択したスイッチング素子のオン状態とオフ状態の切り替えを繰り返すたびにインバータ3に流れる電流値を取得し、スイッチング素子のオン状態とオフ状態の切り替えを所定回数繰り返すことで当該電流値の総和を算出し、インバータ3及びモータ4の特性に起因して現れる電流値の総和と、スイッチング素子のオープン異常に起因して現れる電流値の総和と、を容易に識別できるようにしている。
【0048】
車両のシステム停止時には、上記の寄生容量(C1-C6)を利用して平滑コンデンサ5を放電させることができる。例えば、全ての第1のスイッチング素子(Tr1、Tr3、Tr5)をオン状態に設定し、全ての第2のスイッチング素子(Tr2、Tr4、Tr6)をオフ状態に設定する。すると、全ての第1のスイッチング素子がオン状態のため、全ての第1のスイッチング素子経由で電流が流れ、その際に寄生容量(C1、C3、C5)に蓄えられた電荷が放電する。そして、モータ4に対してはU相、V相、W相が等電位となるため、電圧が印加されず、モータ4に電流は流れない。一方、全ての第2のスイッチング素子はオフ状態のため、寄生容量(C2、C4、C6)に電荷が充電されるように電流が流れる。そして、上記の電流の発生により平滑コンデンサ5が放電する。
【0049】
次に、全ての第1のスイッチング素子(Tr1、Tr3、Tr5)をオフ状態に設定し、全ての第2のスイッチング素子(Tr2、Tr4、Tr6)をオン状態に設定する。すると、全ての第2のスイッチング素子がオン状態のため、全ての第2のスイッチング素子経由で電流が流れ、その際に寄生容量(C2、C4、C6)に蓄えられた電荷が放電する。そして、モータ4に対してはU相、V相、W相が等電位となるため、電圧が印加されず、モータ4に電流は流れない。一方、全ての第1のスイッチング素子はオフ状態のため、寄生容量(C1、C3、C5)に電荷が充電されるように電流が流れる。そして、上記の電流の発生により平滑コンデンサ5が放電する。
【0050】
よって、全ての第1のスイッチング素子(Tr1、Tr3、Tr5)と全ての第2のスイッチング素子(Tr2、Tr4,Tr6)のオン・オフ状態の振動が互いに逆位相となる態様で、全ての第1のスイッチング素子(Tr1、Tr3、Tr5)及び全ての第2のスイッチング素子(Tr2、Tr4,Tr6)においてオン状態及びオフ状態の間で切り替える動作を繰り返すことで、寄生容量(C1-C6)を介してインバータ3に電流が流れて発熱し、平滑コンデンサ5の電荷が放電される。
【0051】
[第1実施形態のオープン異常判定の制御フロー]
図5は、第1実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムのオープン異常判定の制御フローである。第1実施形態において、図2のステップS104のオープン異常判定は、図5に示すステップS201-ステップS213により構成される。
【0052】
ステップS201において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(Tr1-Tr6)からオープン異常判定を行うスイッチング素子(X)(X:Tr1-Tr6のいずれか)を選択する。スイッチング素子(X)を選択する順番は任意に設定できる。例えば選択されたスイッチング素子(X)がスイッチング素子(Tr1)の場合、ゲート信号(GUP)がHIGH(高電位)又はLOW(低電位)の状態に設定される。
【0053】
ステップS202において、モータコントローラ10は、非選択のスイッチング素子をオフ状態に設定する。例えば選択されたスイッチング素子(X)がスイッチング素子(Tr1)の場合、ゲート信号(GUN、GVP、GVN、GWP、GWN)がLOW(低電位)に設定される。
【0054】
ステップS203において、モータコントローラ10は、電圧センサ8が検知する電圧値を異常判定前の平滑コンデンサ5の電圧の初期値(V)として取得する。
【0055】
ステップS204において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(X)をオン状態に設定する。このとき、前記のようにスイッチング素子(Tr1-Tr6)等の寄生容量(C1-C6)を介して電流が流れ、平滑コンデンサ5が放電する。
【0056】
ステップS205において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(X)をオフ状態に設定する。
【0057】
ステップS206において、モータコントローラ10は、スイッチング回数kをカウントアップする。
【0058】
ステップS207において、モータコントローラ10は、スイッチング回数kが所定回数に到達したか否かを判定し、YESであればステップS208に移行し、NOであればステップS204に移行する。所定回数については、使用する平滑コンデンサ5の抵抗温度特性、スイッチング素子の寄生容量成分の大きさ、平滑コンデンサ5の電圧の時間変化等に基づいて事前に決定するが、1回でも2回以上でもよい。
【0059】
ステップS208において、モータコントローラ10は、電圧センサ8が検知する電圧値を異常判定後の平滑コンデンサ5の電圧の最終値(V)として取得する。
【0060】
ステップS209において、モータコントローラ10は、初期値(V)と最終値(V)との差分となる電圧変化量(ΔV=V-V)を算出する。
【0061】
ステップS210において、モータコントローラ10は、電圧変化量(ΔV)が所定未満か否かを判定し、YESであればステップS211に移行し、NOであればステップS212に移行する。電圧変化量(ΔV)が所定値未満の場合、流れた電流(寄生容量から放電された電荷量)が想定よりも小さいと判定し、選択したスイッチング素子(X)はオープン異常(オープン故障:オン状態とならない、又はオン状態が不完全)ありと判定する。逆に電圧変化量(ΔV)が所定値以上の場合、スイッチング素子(X)は正常と判定する。電圧変化量(ΔV)の基準となる所定値は、前記の所定回数と同様に使用する平滑コンデンサ5の抵抗温度特性、スイッチング素子の寄生容量成分の大きさ、平滑コンデンサ5の電圧の時間変化等に基づいて事前に決定する。
【0062】
ステップS211において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(X)に異常があると判定する。
【0063】
ステップS212において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(X)に異常はないと判定する。
【0064】
ステップS213において、モータコントローラ10は、全てのスイッチング素子のオープン異常判定が完了したか否かを判定し、YESであればENDに移行し、NOであればステップS201に移行する。なお、オープン異常判定が終了すると、モータコントローラ10は、判定情報を車両コントローラ11に出力する。判定情報は、例えばスイッチング素子(Tr1-Tr6)の個数と同数(6個)の桁数を有しスイッチング素子(Tr1-Tr6)の順に並べられた情報であり、各桁において例えばオープン異常がある場合に「1」と表示し、オープン異常がない場合に「0」と表示するものである。例えばスイッチング素子(Tr1)にオープン異常があり、他のスイッチング素子(Tr2-Tr6)にオープン異常がない場合、判定情報は「100000」となる。車両コントローラ11は、前記の判定情報「100000」を受けるとスイッチング素子(Tr1)にオープン異常があることを車両のドライバ用の表示パネルに表示する。
【0065】
[第1実施形態のオープン異常判定の制御フローの変形例]
図6は、第1実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムのオープン異常判定の制御フローの変形例である。第1実施形態において、図2のステップS104のオープン異常判定の変形例は、図6に示すステップS301-ステップS316により構成される。
【0066】
ステップS301において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(Tr1-Tr6)からオープン異常判定を行うスイッチング素子(X)(X:Tr1-Tr6のいずれか)を選択する。
【0067】
ステップS302において、モータコントローラ10は、非選択のスイッチング素子をオフ状態に設定する。
【0068】
ステップS303において、モータコントローラ10は、スイッチング回数kをカウントアップする。
【0069】
ステップS304において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(X)をオン状態に設定する。
【0070】
ステップS305において、モータコントローラ10は、選択したスイッチング素子(X)がスイッチング素子(Tr1)又はスイッチング素子(Tr2)であるか否かを判定し、YESであればステップS307に移行し、NOであればステップS306に移行する。
【0071】
ステップS306において、モータコントローラ10は、選択したスイッチング素子(X)がスイッチング素子(Tr3)又はスイッチング素子(Tr4)であるか否かを判定し、YESであればステップS308に移行し、NOであればステップS309に移行する。
【0072】
ステップS307において、モータコントローラ10は、電流センサ6においてU相に流れる電流(I)を取得する。
【0073】
ステップS308において、モータコントローラ10は、電流センサ6においてV相に流れる電流(I)を取得する。
【0074】
ステップS309において、モータコントローラ10は、電流センサ6においてW相に流れる電流(I)を取得する。
【0075】
ステップS310において、モータコントローラ10は、電流(I)の総和(S=Sk-1+I)を算出する。
【0076】
ステップS311において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(X)をオフ状態に設定する。
【0077】
ステップS312において、モータコントローラ10は、スイッチング回数kが所定回数に到達したか否かを判定し、YESであればステップS313に移行し、NOであればステップS303に移行する。
【0078】
ステップS313において、モータコントローラ10は、電流(I)の総和(S)の絶対値(|S|)が所定値(Sth)未満か否かを判定し、YESであればステップS314に移行し、NOであればステップS315に移行する。電流(I)の総和(S)の絶対値(|S|)が所定値(Sth)未満の場合、流れた電流(寄生容量から放電された電荷量)が想定よりも小さいと判定し、選択したスイッチング素子(X)はオープン異常(オープン故障:オン状態とならない、又はオン状態が不完全)ありと判定する。逆に電流(I)の総和(S)の絶対値(|S|)が所定値(Sth)以上の場合、スイッチング素子(X)は正常と判定する。電流(I)の総和(S)の絶対値(|S|)の基準となる所定値は、前記の所定回数と同様に使用する平滑コンデンサ5の抵抗温度特性、スイッチング素子の寄生容量成分の大きさ、平滑コンデンサ5の電圧の時間変化等に基づいて事前に決定する。
【0079】
ステップS314において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(X)に異常があると判定する。
【0080】
ステップS315において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(X)に異常はないと判定する。
【0081】
ステップS316において、モータコントローラ10は、全てのスイッチング素子のオープン異常判定が完了したか否かを判定し、YESであればENDに移行し、NOであればステップS301に移行する。なお、変形例のように、電流(I)又はその総和(S)によりスイッチング素子(Tr1-Tr6)のオープン異常の有無を判定する場合、平滑コンデンサ5の電圧を用いて判定することはないので、リレー2が接続された状態でも実行可能である。
【0082】
[第1実施形態のタイムチャート]
図7は、第1実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムのタイムチャートであってスイッチング素子(Tr1)に異常がない場合を示す図である。図8は、第1実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムのタイムチャートであってスイッチング素子(Tr1)に異常がある場合を示す図である。
【0083】
図7及び図8は、スイッチング素子(Tr)を選択してこれをオン状態とオフ状態を繰り返し、スイッチング素子(Tr2-Tr6)をオフ状態に設定した場合を示している。
【0084】
図7に示すように、スイッチング素子(Tr1)にオープン異常がない場合、ゲート信号(GUP:HIGH or LOW)に従ってスイッチング素子(Tr1)はオン状態とオフ状態を繰り返す。そして、スイッチング素子(Tr1)がオン状態のときに、平滑コンデンサ5、寄生容量(C1、C3、C5)を介してスイッチング素子(Tr)に電流が流れ、電流センサ6がU相の電流(Iu)を検出し、U相と逆相であって絶対値が半分となるV相の電流(Iw)及びW相の電流(Iw)を検出する。このとき平滑コンデンサ5の電圧(V)が減少し、平滑コンデンサ5に電流(Icap)が流れ、電流センサ6が検知する電流値(I)の総和(S)が加算される。また、スイッチング素子(Tr1)がオフ状態のときはインバータ3において何ら電流は流れない。
【0085】
なお、スイッチング素子(Tr1)以外のスイッチング素子(Tr2-Tr6)にオープン異常があったとしても、これらのスイッチング素子(Tr2-Tr6)はオフ状態に設定され電流が流れないので、スイッチング素子(Tr1)のオープン異常判定に影響を及ぼすことは無い。
【0086】
図8に示すように、スイッチング素子(Tr1)にオープン異常が有る場合、ゲート信号(GUP:HIGH or LOW)に関わらずスイッチング素子(Tr1)はオン状態とはならず、電流センサ6が電流(Iu)、電流(Iw)及びW相の電流(Iw)を検出することはない。このとき平滑コンデンサ5の電圧(V)の減少はなく、平滑コンデンサ5に電流(Icap)が流れることはなく、電流センサ6が検知する電流値(I)の総和(S)も加算されることはない。
【0087】
以上より、オープン異常の有無により発生する電圧(V)の電圧変化量(ΔV)の差、又は電流値(I)の総和(Sk)の差を用いて、オープン異常の有無を判定できる。
【0088】
[第2実施形態]
図9は、第2実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムにおいて、図5の状態でスイッチング素子(Tr1)をオフ状態に設定し、その直後にスイッチング素子(Tr2)をオン状態に設定したときに寄生容量を介して流れる電流を示す図である。
【0089】
第2実施形態の電力変換装置の異常判定システムの構成は第1実施形態(図1)と同様である。そして、第2実施形態では、第1のスイッチング素子(Tr1、Tr3、Tt5)から1つスイッチング素子を選択し、第2のスイッチング素子(Tr2、Tr4、Tr6)から1つのスイッチング素子を選択し、選択した第1のスイッチング素子及び選択した第2のスイッチング素子のオン・オフ状態が互いに逆位相で振動するようにオン状態とオフ状態を交互に繰り返すことで選択した第1のスイッチング素子と選択した第2のスイッチング素子のオープン異常判定を行う。
【0090】
例えば、第1のスイッチング素子としてスイッチング素子(Tr1)を選択し、第2のスイッチング素子としてスイッチング素子(Tr2)を選択した場合であって、第1のスイッチング素子(Tr1)をオン状態とし第2のスイッチング素子(Tr2)をオフ状態とすると、インバータ3には図3と同様に電流が流れる。そして、第1のスイッチング素子(Tr1)をオン状態に設定したときに流れる電流(U相の電流)、又は平滑コンデンサ5の電圧を計測する。
【0091】
その後、図9に示すように、第1のスイッチング素子(Tr1)をオフ状態とし第2のスイッチング素子(Tr2)をオン状態とすると、全ての第1のスイッチング素子(Tr1、Tr3、Tr5)がオフ状態となるので平滑コンデンサ5の電荷が寄生容量(C1、C3、C5)を経由して流れる。
【0092】
このとき、第2のスイッチング素子(Tr2)がオン状態であるため、モータ4に対してはU相がV相及びW相に対して低電位となるので、寄生容量(C4)の電荷がV相を経由し、寄生容量(C6)の電荷がW相を経由してU相へ流れるが、当該電荷に伴う電流は非常に小さいのでこれによりモータ4が回転することはない。そして、第2スイッチング素子(Tr2)を経由して、寄生容量(C2、C4、C6)の電荷が平滑コンデンサ5に流れ込む。そして、第2のスイッチング素子(Tr2)をオン状態に設定したときに流れる電流(U相の電流)又は平滑コンデンサ5の電圧を計測する。
【0093】
選択したスイッチング素子(Tr1、Tr2)にそれぞれオープン異常が有る場合、図3及び図9に示すように電流が流れることはない。
【0094】
以上、選択した2つのスイッチング素子がオン状態のときに流れる電流を別々に計測しておき、選択したスイッチング素子が正常時は電流が流れ、異常時は電流が流れないため、この電流差を利用して、2つの選択したスイッチング素子に異常があるかどうかを同時に判定することができる。
【0095】
[第2実施形態のオープン異常判定の制御フローの変形例]
図10は、第2実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムの異常判定制御フロー(前段)である。図11は、第2実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムの異常判定制御フロー(後段)である。第2実施形態において、図2のステップS104のオープン異常判定の変形例は、図10及び図11に示すステップS401-ステップS424により構成される。
【0096】
ステップS401において、モータコントローラ10は、第1のスイッチング素子(Tr1、Tr3、Tr5)からオープン異常判定を行うスイッチング素子を選択する。
【0097】
ステップS402において、モータコントローラ10は、第2のスイッチング素子(Tr2、Tr4、Tr6)からオープン異常判定を行うスイッチング素子を選択する。
【0098】
ステップS403において、モータコントローラ10は、電圧センサ8が検知する電圧値を異常判定前の平滑コンデンサ5の電圧の初期値(V)として取得する。
【0099】
ステップS404において、モータコントローラ10は、スイッチング回数kをカウントアップする。
【0100】
ステップS405において、モータコントローラ10は、非選択のスイッチング素子をオフ状態に設定する。
【0101】
ステップS406において、モータコントローラ10は、選択した第1のスイッチング素子をオン状態に設定し、第2のスイッチング素子をオフ状態に設定する。
【0102】
ステップS407において、モータコントローラ10は、選択した第1のスイッチング素子がオン状態のときの電圧センサ8が検知する電圧値を平滑コンデンサ5の電圧(V1)として取得する。
【0103】
ステップS408において、モータコントローラ10は、選択した第1のスイッチング素子がオン状態のときの平滑コンデンサ5の電圧変化量(ΔV1=V2k-1-V1)を算出する。ここで、V2k-1は、第2のスイッチング素子がオン状態のときの電圧センサ8が検知する電圧値の前回値であるが、k=初期値(例えば1)の場合、当該前回値は初期値(V)となる。
【0104】
ステップS409において、モータコントローラ10は、第1のスイッチング素子がオン状態のときの平滑コンデンサ5の電圧変化量(ΔV1=V2k-1-V1)の総和(S1=S1k-1+ΔV1)を算出する。ここで、k=初期値(例えば1)の場合、S1k-1はゼロとなる。
【0105】
ステップS410において、モータコントローラ10は、選択した第1のスイッチング素子をオフ状態に設定し、第2のスイッチング素子をオン状態に設定する。
【0106】
ステップS411において、モータコントローラ10は、選択した第2のスイッチング素子がオン状態のときの電圧センサ8が検知する電圧値を平滑コンデンサ5の電圧(V2)として取得する。
【0107】
ステップS412において、モータコントローラ10は、選択した第2のスイッチング素子がオン状態のときの平滑コンデンサ5の電圧変化量(ΔV2=V1-V2)を算出する。ここで、V1は、ステップS407で取得した平滑コンデンサ5の電圧(V1)である。
【0108】
ステップS413において、モータコントローラ10は、第2のスイッチング素子がオン状態のときの平滑コンデンサ5の電圧変化量(ΔV2=V1k-1-V2)の総和(S2=S2k-1+ΔV2)を算出する。ここで、k=初期値(例えば1)の場合、S2k-1はゼロとなる。
【0109】
ステップS414において、モータコントローラ10は、スイッチング回数kが所定回数に到達したか否かを判定し、YESであればステップS415に移行し、NOであればステップS404に移行する。
【0110】
ステップS415において、モータコントローラ10は、電圧変化量(ΔV1)の総和(S1)が第1所定値未満であるか否かを判定し、YESであればステップS416に移行し、NOであればステップS417に移行する。前記の第1所定値は、前記の所定回数と同様に使用する平滑コンデンサ5の抵抗温度特性、スイッチング素子の寄生容量成分の大きさ、平滑コンデンサ5の電圧の時間変化等に基づいて事前に決定する。
【0111】
ステップS416において、モータコントローラ10は、選択した第1のスイッチング素子に異常があると判定する。
【0112】
ステップS417において、モータコントローラ10は、選択した第1のスイッチング素子に異常はないと判定する。
【0113】
ステップS418において、モータコントローラ10は、電圧変化量(ΔV1)の総和(S1)が第2所定値未満であるか否かを判定し、YESであればステップS419に移行し、NOであればステップS420に移行する。前記の第2所定値は、前記の第1所定値と同様に事前に決定する。
【0114】
ステップS419において、モータコントローラ10は、選択した第2のスイッチング素子に異常があると判定する。
【0115】
ステップS420において、モータコントローラ10は、選択した第2のスイッチング素子に異常はないと判定する。
【0116】
ステップS421において、モータコントローラ10は、全てのスイッチング素子のオープン異常判定が完了したか否かを判定し、YESであればENDに移行し、NOであればステップS401に移行する。
【0117】
なお、第2実施形態においても、第1実施形態の変形例に倣って、第1のスイッチン素子がオン状態のときの電流の総和と、第2のスイッチン素子がオン状態のときの電流の総和を算出し、各総和と対応する閾値と比較することで第1のスイッチング素子のオープン異常の有無、及び第2のスイッチング素子のオープン異常の有無を個別に判定する構成としてもよい。
【0118】
[第2実施形態のタイムチャート]
図12は、第2実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムのタイムチャートであってスイッチング素子(Tr1、Tr2)に異常がない場合を示す図である。図13は、第2実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムのタイムチャートであってスイッチング素子(Tr1)に異常がありスイッチング素子(Tr2)に異常がない場合を示す図である。図14は、第2実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムのタイムチャートであってスイッチング素子(Tr1、Tr2)に異常がある場合を示す図である。
【0119】
図12に示すように、第1のスイッチング素子(Tr1)及び第2のスイッチング素子(Tr2)にオープン異常はなく、第1のスイッチング素子(Tr1)はゲート信号(GUP)に従ってオン状態とオフ状態を交互に繰り返し、第2のスイッチング素子(Tr2)はゲート信号(GUN)に従ってオン状態とオフ状態を交互に繰り返している。なお、ゲート信号(GUP)とゲート信号(GUN)は互いに逆位相で振動している。
【0120】
このとき、第1のスイッチング素子(Tr1)が最初にオン状態となったところから平滑コンデンサ5の電圧は低下し、その後第1のスイッチング素子(Tr1)がオオフ状態となり第2のスイッチング素子(Tr2)がオン状態となっても平滑コンデンサ5の電圧(V)は低下する。よって、第1のスイッチング素子(Tr1)及び第2のスイッチング素子(Tr2)が互いに逆位相で振動するようにオン状態とオフ状態を交互に繰り返す間、平滑コンデンサ5には電流(Icap)が流れ、ゲート信号(GUP、GUN)の周期ごとに電圧変化量(ΔV1)の総和(S1)及び電圧変化量(ΔV2)の総和(S2)もステップ関数的に増加する。
【0121】
一方、図13に示すように、第1のスイッチング素子(Tr1)にオープン異常が有る場合、第1のスイッチング素子(Tr1)はゲート信号(GUP)に関わらずオン状態とはならない。よって、ゲート信号(GUP)がHIGHのときに平滑コンデンサ5の電圧(V)は低下せず、ゲート信号(GUN)がHIGHのとき、すなわち第2のスイッチング素子(Tr2)がオン状態のときに平滑コンデンサ5の電圧(V)が低下し電流(Icap)が流れる。また、ゲート信号(GUN)の周期ごとに電圧変化量(ΔV2)の総和(S2)は、ステップ関数的に増加するが、電圧変化量(ΔV1)の総和(S1)は増加しない。
【0122】
さらに、図14に示すように、第1のスイッチング素子(Tr1)及び第2のスイッチング素子(Tr2)にオープン異常が有る場合、第1のスイッチング素子(Tr1)はゲート信号(GUP)に関わらずオン状態とはならず、第2のスイッチング素子(Tr2)はゲート信号(GUN)に関わらずオン状態とはならない。よって、ゲート信号(GUP、GUN)に関わらず、平滑コンデンサ5の電圧(V)は低下せず電流(Icap)も流れない。また、電圧変化量(ΔV2)の総和(S2)及び電圧変化量(ΔV1)の総和(S1)も増加しない。
【0123】
[第3実施形態]
図15は、第3実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムの概略図である。図16は、スイッチング素子(Tr1-Tr6)をそれぞれ選択してオン状態に設定したときに電流センサ(A1)が検出する電流を示す。
【0124】
第3実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムの構成は、第1実施形態の構成において、スイッチング素子(Tr1-Tr6)のいずれかに対して電流センサを直列に接続したものとなっている。第3実施形態では、例えばスイッチング素子(Tr1)を特定のスイッチング素子とし、当該特定のスイッチング素子に電流センサ(A1)が直列に接続されている。より詳細には、特定のスイッチング素子(Tr1)と帰還ダイオード(D1)との第1の並列回路に電流センサ(A1)を直列に接続することで第2の直列回路を構築し、スイッチング素子(Tr2)と帰還ダイオード(D2)との第2の並列回路と第2の直列回路を直列に接続することでU相用の直列回路を構築している。そして、第2の直列回路と第2の並列回路の接続中点(UM)がモータ4のU相に接続されている。
【0125】
電流センサ(A1)としては、例えばスイッチング素子(Tr1)に内蔵された分流電流の検知素子を適用することが可能であり、またシャント抵抗やホールセンサを適用することも可能である。
【0126】
また、図示は省略するが、電流センサ(A1)には、バイパス回路が配置され、シフトポジションが例えばパーキング以外のとき(インバータ3がモータ4と電力の授受を行っているとき)は、バイパス回路がスイッチング素子(Tr1)に接続され且つ電流センサ(A1)はスイッチング素子(Tr1)から切り離され、シフトポジションがパーキングのときに電流センサ(A1)がスイッチング素子(Tr1)に接続されバイパス回路がスイッチング素子(Tr1)から切り離される構成となっている。これにより電流センサ(A1)の破損を防止できる。
【0127】
ここで、スイッチング素子(Tr1)をオン状態とし、スイッチング素子(Tr2-Tr6)をオフ状態とすることで、平滑コンデンサ5、寄生容量(C1、C3、C5)からの電荷がスイッチング素子(Tr1)に流れ込む(図3参照)。ここで、平滑コンデンサ5から流れる電流は寄生容量(C2、C4、C6)の電荷が流れ込むことに起因するものと同等であるので、結果的にスイッチング素子(Tr1)には寄生容量(C1-C6)の電荷が流れ込む場合と同等の電流が流れ、電流センサ(A1)はその際の電流を検知できる。
【0128】
また、スイッチング素子(Tr1)以外の第1のスイッチング素子(Tr3、Tr5)のいずれかをオン状態にした場合も、寄生容量(C1)の電荷が流れ込むので、電流センサ(A1)はその際の電流を検知できる。
【0129】
さらに、第2のスイッチング素子(Tr2、Tr4、Tr6)のいずれかをオン状態にした場合、寄生容量(C1)に向かう電流が発生するので、電流センサ(A1)はその際の電流を検知できる。
【0130】
ここで、第1実施形態と同様に、スイッチング素子(Tr1-Tr6)及び帰還ダイオード(D1―D6)の特性が同一で寄生容量(C1-C6)も同一の場合を考える。
【0131】
この場合、図16に示すように、スイッチング素子(Tr2-Tr6)をそれぞれオン状態としたときに電流センサ(A1)が検知する電流値は同じ大きさとなる。
【0132】
しかし、スイッチング素子(Tr2、Tr4、Tr6)をそれぞれオン状態としたときに電流センサ(A1)が検知する電流の向きと、スイッチング素子(Tr3、Tr5)をそれぞれオン状態としたときに電流センサ(A1)が検知する電流の向きは逆となる。
【0133】
スイッチング素子(Tr1)をオン状態としたときに電流センサ(A1)が検知する電流の向きは、スイッチング素子(Tr2、Tr4、Tr6)をそれぞれオン状態としたときに電流センサ(A1)が検知する電流の向きと同じである。また、前記のようにスイッチング素子(Tr1)に流れる電流は、寄生容量(C1-C6)の電荷を放電する際の合計の電流と同等となるので、スイッチング素子(Tr1)をオン状態としたときに電流センサ(A1)が検知する電流値は、スイッチング素子(Tr2―Tr6)のいずれかをオン状態としたときに電流センサ(A1)が検知する電流値の6倍の大きさとなる。
【0134】
第3実施形態では、選択したスイッチング素子のオン状態及びオフ状態を交互に切り替える際に流れる電流を電流センサ(A1)で取得し、選択したスイッチング素子のオン状態及びオフ状態を交互に切り替える動作を所定回数繰り返したときの電流の総和を算出することで、選択したスイッチング素子のオープン異常の有無を検出する。その際、スイッチング素子(Tr1)を選択したときの電流の総和の基準となる判定閾値(Sth_tr1)を、スイッチング素子(Tr2-Tr6)を選択したときの電流の総和の基準となる判定閾値(Sth_tr2-Sth_tr6)の6倍の値に設定することができる。
【0135】
また、スイッチング素子(Tr1-Tr6)等の特性にばらつきがある場合は、各スイッチング素子(Tr1-Tr6)を選択したときに対応する判定閾値(Sth_tr1-Sth_tr6)を個別に設定することもできる。
【0136】
[第3実施形態のオープン異常判定の制御フロー]
図17は、第3実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムの異常判定制御フローである。第3実施形態において、図2のステップS104のオープン異常判定は、図17に示すステップS501-ステップS513により構成される。
【0137】
ステップS501において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(Tr1-Tr6)からオープン異常判定を行うスイッチング素子(X)(X:Tr1-Tr6のいずれか)を選択する。
【0138】
ステップS502において、モータコントローラ10は、非選択のスイッチング素子をオフ状態に設定する。
【0139】
ステップS503において、モータコントローラ10は、スイッチング回数kをカウントアップする。
【0140】
ステップS504において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(X)をオン状態に設定する。
【0141】
ステップS505において、モータコントローラ10は、電流センサ(A1)が検知する電流(I)を取得する。
【0142】
ステップS506において、モータコントローラ10は、電流(I)の総和(SXk=SX(k-1)+I)を算出する。ここで、k=初期値(例えば1)の場合、Sx(k-1)はゼロとなる。
【0143】
ステップS507において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(X)をオフ状態に設定する。
【0144】
ステップS508において、モータコントローラ10は、スイッチング回数kが所定回数に到達したか否かを判定し、YESであればステップS509に移行し、NOであればステップS503に移行する。
【0145】
ステップS509において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(Tr1-Tr6)ごとに設定された判定閾値(Sth_tr1、Sth_tr2、Sth_tr3、Sth_tr4、Sth_tr5、Sth_tr6)の中からスイッチング素子(X)の判定閾値(Sth_x)を抽出する。
【0146】
ステップS510において、モータコントローラ10は、電流(I)の総和(SXk)の絶対値(|SXk|)が判定閾値(Sth_X)未満か否かを判定し、YESであればステップS511に移行し、NOであればステップS512に移行する。電流(I)の総和(SXk)の絶対値(|SXk|)が判定閾値(Sth_X)未満の場合、流れた電流(寄生容量から放電された電荷量)が想定よりも小さいと判定し、選択したスイッチング素子(X)はオープン異常(オープン故障:オン状態とならない、又はオン状態が不完全)ありと判定する。逆に電流(I)の総和(SXk)の絶対値(|SXk|)が判定閾値(Sth_X)以上の場合、スイッチング素子(X)は正常と判定する。判定閾値は、前記の所定回数と同様に使用する平滑コンデンサ5の抵抗温度特性、スイッチング素子の寄生容量成分の大きさ、平滑コンデンサ5の電圧の時間変化等に基づいて事前に決定する。
【0147】
ステップS511において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(X)に異常があると判定する。
【0148】
ステップS512において、モータコントローラ10は、スイッチング素子(X)に異常はないと判定する。
【0149】
ステップS513において、モータコントローラ10は、全てのスイッチング素子のオープン異常判定が完了したか否かを判定し、YESであればENDに移行し、NOであればステップS501に移行する。
【0150】
[第3実施形態の変形例]
図18は、第3実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムの変形例の概略図である。
【0151】
第3実施形態の電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムの変形例の構成は、第1実施形態の構成において、全てのスイッチング素子(Tr1-Tr6)に対して電流センサ(A1-A6)を個別に直列に接続したものとなっている。第3実施形態では、スイッチング素子(Tr1)に電流センサ(A1)が直列に接続され、スイッチング素子(Tr2)に電流センサ(A2)が直列に接続され、スイッチング素子(Tr3)に電流センサ(A3)が直列に接続され、スイッチング素子(Tr4)に電流センサ(A4)が直列に接続され、スイッチング素子(Tr5)に電流センサ(A5)が直列に接続され、スイッチング素子(Tr6)に電流センサ(A1)が直列に接続されている。電流センサ(A2-A6)は、電流センサ(A1)と同様の構成を有する。
【0152】
第3実施形態の変形例のオープン異常判定の制御フローは、図17に示す制御フローに類似するが、ステップS505において、モータコントローラ10は、選択されたスイッチング素子(X)に直列に接続する電流センサ(X)(X=A1-A6)が検知する電流(IXk)を検知する。
【0153】
[本実施形態の効果]
本実施形態の電力変換措置の異常判定方法は、2つのスイッチング素子((Tr1,Tr2)、(Tr3,Tr4)、(Tr5,Tr6))が直列に接続された直列回路がバッテリ1に対して複数並列に接続され、直列回路において2つのスイッチング素子のうちの一方(例えばTr1)と他方(例えばTr2)との接続中点(例えばUM)がモータ4に接続され、2つのスイッチング素子の動作を制御することでバッテリ1とモータ4との間で電力の授受を行う電力変換装置(インバータ3)の異常判定方法であって、複数の直列回路から1つのスイッチング素子(例えばTr1)を選択し、複数の直列回路において選択したスイッチング素子(例えばTr1)以外の残余のスイッチング素子(例えばTr2-Tr6)をオフ状態とし、選択したスイッチング素子(例えばTr1)をオフ状態からオン状態に切り替えたときに複数の直列回路又はモータ4に流れる電流値を測定し、当該電流値に基づいて選択したスイッチング素子(例えばTr1)の異常(オープン異常)の有無を判定する。
【0154】
上記方法により、選択したスイッチング素子(Tr1)に異常(オープン異常)がなければスイッチング素子(Tr1-Tr6)等に含まれる寄生容量(C1-C6)を介して電流が流れ、異常(オープン異常)があれば電流は流れないので、その差を利用して異常(オープン異常)の有無を検知できる。また、寄生容量(C1-C6)を介して流れる電流は非常に小さいのでモータ4を回転させることはない。よって、モータ4を回転させることなくスイッチング素子(Tr1)の異常(オープン異常)の有無を判定することができる。
【0155】
本実施形態において、複数の直列回路から選択するスイッチング素子を順次切り替えて電流値を測定することで複数の直列回路を構成する全てのスイッチング素子の異常の有無を判定する。
【0156】
上記方法により、いずれのスイッチング素子(Tr1-Tr6)に異常(オープン異常)があったかを特定できる。
【0157】
本実施形態において、選択したスイッチング素子に関してオン状態とオフ状態の間で相互に切り替える動作を所定回数繰り返すことで電流値の総和を算出し、当該総和に基づいて選択したスイッチング素子の異常の有無を判定する。
【0158】
上記方法により、異常(オープン異常)の有無の判定精度を高めることができる。
本実施形態において、複数の直列回路が平滑コンデンサ5に並列に接続され且つバッテリ1から遮断されている場合において、選択したスイッチング素子をオフ状態からオン状態に切り替えたときの平滑コンデンサ5に印加された電圧の変化量(電圧変化量(ΔV))に基づいて電流値を算出する。
【0159】
上記方法により、異常(オープン異常)の有無の判定を行うための専用の電流センサを取り付けることなく、異常(オープン異常)の有無の判定に必要な電流値を算出できるため、回路の簡素化及びコスト低減を実現できる。
【0160】
本実施形態において、直列回路の2つのスイッチング素子のうちバッテリ1の一方の端子に接続された方を第1のスイッチング素子(Tr1、Tr3、Tr5)としバッテリ1の他方の端子に接続された方を第2のスイッチング素子(Tr2、Tr4、Tr6)としたとき、複数の直列回路から一つの第1のスイッチング素子(例えばTr1)と一つの第2のスイッチング素子(例えばTr2)を選択し、選択した第1のスイッチング素子(Tr1)と第2のスイッチング素子(Tr2)のオン・オフ状態が互いに異なるタイミングで第1のスイッチング素子(Tr1)及び第2のスイッチング素子(Tr2)をオン状態とオフ状態の間で相互に切り替える動作を所定回数繰り返すことで、選択した第1のスイッチング素子(Tr1)に係る電流値の第1の総和(S1)と、選択した第2のスイッチング素子(Tr2)に係る電流値の第2の総和(S2)と、を算出し、第1の総和(S1)に基づいて選択した第1のスイッチング素子(Tr1)の異常の有無を判定し、第2の総和(S2)に基づいて選択した第2のスイッチング素子(Tr2)の異常の有無を判定する。
【0161】
上記方法により、選択した第2のスイッチング素子がオフ状態のときに選択した第1のスイッチング素子のオープン異常を判定するための電流値を取得し、選択した第1のスイッチング素子がオフ状態のときに選択した第2のスイッチング素子のオープン異常を判定するための電流値を取得できるので、一つのスイッチング素子のオープン異常の有無の判定にかかっていた時間で2つのスイッチング素子のオープン異常の有無の判定を行うことができ、精度の高い判定を短時間で実行できる。
【0162】
本実施形態において、複数の直列回路のうちの一つが、電流センサ(例えばA1)と2つのスイッチング素子の一方(例えばTr1)となる特定のスイッチング素子(Tr1)を直列に接続した第2の直列回路と2つのスイッチング素子の他方(例えばTr2)とが直列に接続して形成され、第2の直列回路と2つのスイッチング素子の他方(Tr2)との接続中点(UM)がモータ4に接続されている場合において、複数の直列回路のうち特定のスイッチング素子(Tr1)を選択した場合において、特定のスイッチング素子(Tr1)以外の残余のスイッチング素子(Tr2-Tr6)をオフ状態とし、特定のスイッチング素子(Tr1)をオフ状態からオン状態に切り替えたときに、電流センサ(A1)により第1の電流値(I)を測定し、第1の電流値(I)に基づいて特定のスイッチング素子(Tr1)の異常の有無を判定し、複数の直列回路のうち、特定のスイッチング素子(Tr1)以外のスイッチング素子(Tr2-Tr6)のいずれか(例えばTr2)を選択した場合において、複数の直列回路において選択したスイッチング素子(Tr2)以外の残余のスイッチング素子(Tr1、Tr3-Tr6)をオフ状態とし、選択したスイッチング素子(Tr2)をオフ状態からオン状態に切り替えたときに、電流センサにより第2の電流値(I)を測定し、第2の電流値(I)に基づいて選択したスイッチング素子(Tr2)の異常の有無を判定し、特定のスイッチング素子(Tr1)の異常の有無を判定するための第1の電流値(I)の判定閾値(Sth_tr1)と、特定のスイッチング素子(Tr1)以外に選択したスイッチング素子(Tr2-Tr6)の異常の有無を判定するための第2の電流値(I)の判定閾値(Sth_tr2-Sth_tr6)と、が互いに異なるように設定する。
【0163】
上記方法により、スイッチング素子に応じて判定閾値を設定することで、いずれか一つのスイッチング素子(例えばTr1)に電流センサ(例えばA1)を直列に接続することで、全てのスイッチング素子のオープン異常の有無の判定を行うことができる。従って、当該電流センサ(例えばA1)の個数を削減でき、回路の簡素化及びコスト低減を実現できる。
【0164】
本実施形態の電力変換装置の異常判定システムは、2つのスイッチング素子((Tr1,Tr2)、(Tr3,Tr4)、(Tr5,Tr6))が直列に接続された直列回路がバッテリ1に対して複数並列に接続され、直列回路において2つのスイッチング素子のうちの一方(例えばTr1)と他方(例えばTr2)との接続中点(UM)がモータ4に接続された電力変換装置(インバータ3)と、2つのスイッチング素子の動作を制御することでバッテリ1とモータ4との間で電力の授受を行う制御部(モータコントローラ10)と、を備える電力変換装置(インバータ3)の異常判定システムであって、制御部(モータコントローラ10)は、複数の直列回路から1つのスイッチング素子(例えばTr1)を選択し、複数の直列回路において選択したスイッチング素子(Tr1)以外の残余のスイッチング素子(Tr2-Tr6)をオフ状態とし、選択したスイッチング素子(Tr1)をオフ状態からオン状態としたときに、選択したスイッチング素子(Tr1)に流れる電流値を測定し、当該電流値に基づいて選択したスイッチング素子(Tr1)の異常の有無を判定する。
【0165】
上記構成により、選択したスイッチング素子(Tr1)に異常(オープン異常)がなければスイッチング素子(Tr1-Tr6)等に含まれる寄生容量(C1-C6)を介して電流が流れ、異常(オープン異常)があれば電流は流れないので、その差を利用して異常(オープン異常)の有無を検知できる。また、寄生容量(C1-C6)を介して流れる電流は非常に小さいのでモータ4を回転させることはない。よって、モータ4を回転させることなくスイッチング素子(Tr1)の異常(オープン異常)の有無を判定することができる。
【0166】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0167】
1 バッテリ、4 モータ、10 モータコントローラ、Tr1―Tr6 スイッチング素子
図1
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