(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176067
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】燃料電池用ガス拡散層及び燃料電池用ガス拡散層の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20241212BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20241212BHJP
D04H 1/4242 20120101ALI20241212BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20241212BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241212BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M4/96 B
H01M4/88 C
D04H1/4242
D04H1/728
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094285
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大平 純子
(72)【発明者】
【氏名】安江 寿洋
【テーマコード(参考)】
4L047
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4L047AA03
4L047AA17
4L047AB02
4L047AB08
4L047CC14
5H018AA06
5H018BB00
5H018BB01
5H018BB03
5H018DD06
5H018DD08
5H018EE08
5H018HH01
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】ガス拡散性、導電性、及びばね性を高めることができる。
【解決手段】燃料電池用ガス拡散層10は、主として500nm以上、1μm以下の繊維径の炭素繊維不織布により形成された複数枚の炭素シート12が積層された炭素シート積層体11と、互いに隣り合う炭素シート12同士の間に配置された多数の導電助剤粒子13とを備える。炭素シート12同士は、導電助剤粒子13を介して結合されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として500nm以上、1μm以下の繊維径の炭素繊維不織布により形成された複数枚の炭素シートが積層された炭素シート積層体と、
互いに隣り合う前記炭素シート同士の間に配置された多数の導電助剤粒子と、を備え、
前記炭素シート同士は、前記導電助剤粒子を介して結合されている、
燃料電池用ガス拡散層。
【請求項2】
前記炭素シートは、3枚以上であり、
前記導電助剤粒子は、全ての前記炭素シートについて互いに隣り合う前記炭素シート同士の間に位置している、
請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項3】
前記導電助剤粒子は、炭素微粒子である、
請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、
ポリアクリロニトリルを含む原料を用いてエレクトロスピニング法により紡糸することで前記炭素シートの前駆体である前駆体シートを準備する前駆体シート準備工程と、
複数枚の前記前駆体シートを積層することにより前駆体シート積層体を形成するとともに、前記前駆体シート同士の間に多数の前記導電助剤粒子を配置する積層配置工程と、
前記前駆体シート積層体をプレスするプレス工程と、
前記前駆体シート積層体を焼成することで前記炭素シート積層体を形成する焼成工程と、を備える、
燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用ガス拡散層及び燃料電池用ガス拡散層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、複数の単セルを積層して構成される燃料電池スタックを備える。単セルは、固体高分子電解質膜(以下、電解質膜という)及び電解質膜を挟む一対の触媒層からなる膜電極接合体と、膜電極接合体を挟む一対のガス拡散層と、一対のガス拡散層を挟むアノード側セパレータ及びカソード側セパレータとを有する。
【0003】
こうしたガス拡散層としては、例えば特許文献1に開示のガス拡散電極がある。特許文献1に開示されるガス拡散電極は、シート状の多孔質基材と、多孔質基材の一方の面に接して配置されているマイクロポーラス層とを備える。多孔質基材は、カーボンペーパーや、カーボンクロス、カーボン不織布などである。マイクロポーラス層は、多孔質基材の一方の面に、導電性微粒子、バインダー、溶媒、増粘剤などを混合分散させたペースト状の塗液を塗工することにより形成される。導電性粒子は、平均粒径が20~150nmのアセチレンブラックなどのカーボンブラックである。バインダーは、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした燃料電池用ガス拡散層においては、ガス拡散性、導電性、及びばね性の向上が求められている。また、ガス拡散性、導電性、及びばね性に優れたガス拡散層を容易に製造することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための燃料電池用ガス拡散層は、主として500nm以上、1μm以下の繊維径の炭素繊維不織布により形成された複数枚の炭素シートが積層された炭素シート積層体と、互いに隣り合う前記炭素シート同士の間に配置された多数の導電助剤粒子と、を備え、前記炭素シート同士は、前記導電助剤粒子を介して結合されている。
【0007】
同構成によれば、複数枚の炭素シートを積層することで炭素シート積層体が形成されるとともに、互いに隣り合う炭素シート同士の間に炭素シート同士を結合する多数の導電助剤粒子が配置されることでガス拡散層が形成される。
【0008】
ここで、炭素シートが、主として500nmよりも小さい繊維径の炭素繊維不織布により形成される場合、炭素シートの空隙率が小さくなるためにガス拡散性が悪化する。一方、炭素シートが、主として1μmよりも大きい繊維径の炭素繊維不織布により形成される場合、炭素シートの厚みが大きくなるためにガス拡散性が悪化する。
【0009】
この点、上記構成によれば、炭素シートは、主として500nm以上、1μm以下の繊維径の炭素繊維不織布により形成されているため、炭素シートの空隙率が大きく、且つ炭素シートの厚みが小さくなる。これにより、数μmの繊維径の炭素繊維不織布により形成された基材と、当該基材の表面に重ね合わされたマイクロポーラスレイヤーとを有する従来のガス拡散層に比べて、ガス拡散層の厚みを小さくできる。このように炭素シートの空隙率が大きいこと、及びガス拡散層の厚みが小さいことによって、ガス拡散性を高めることができる。
【0010】
また、上記構成によれば、互いに隣り合う炭素シート同士が、多数の導電助剤粒子を介して結合されているので、ガス拡散層の導電性を高めることができる。
また、上記構成によれば、炭素シート同士の間には炭素シートが撓む空間が形成されているので、ばね性を高めることができる。
【0011】
さらに、炭素シート積層体を構成する炭素シートの枚数を適宜設定することによりガス拡散層の厚みを調節することができる。
また、炭素シートを構成する炭素繊維不織布の繊維径が500nm以上、1μm以下であるため、従来のガス拡散層を構成する基材、すなわち数μmの繊維径の炭素繊維不織布により形成された基材を焼成して形成する場合に比べて、焼成温度が低くて済む。
【0012】
したがって、ガス拡散性、導電性、及びばね性を高めることができる。
上記課題を解決するための燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、上記燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、ポリアクリロニトリルを含む原料を用いてエレクトロスピニング法により紡糸することで前記炭素シートの前駆体である前駆体シートを準備する前駆体シート準備工程と、複数枚の前記前駆体シートを積層することにより前駆体シート積層体を形成するとともに、前記前駆体シート同士の間に多数の前記導電助剤粒子を配置する積層配置工程と、前記前駆体シート積層体をプレスするプレス工程と、前記前駆体シート積層体を焼成することで前記炭素シート積層体を形成する焼成工程と、を備える。
【0013】
同方法によれば、請求項1に係るガス拡散層を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る燃料電池用ガス拡散層の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のガス拡散層の製造手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3(a)~
図3(d)は、
図2の積層配置工程の作業を順に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1~
図3を参照して、燃料電池用ガス拡散層(以下、ガス拡散層10)及びガス拡散層10の製造方法の一実施形態について説明する。
ガス拡散層10は、膜電極接合体のアノード側の面とアノード側セパレータとの間、及び膜電極接合体のカソード側の面とカソード側セパレータ(いずれも図示略)との間にそれぞれ配置される。
【0016】
図1に示すように、ガス拡散層10は、炭素繊維不織布により形成された複数枚の炭素シート12が積層された炭素シート積層体11と、互いに隣り合う炭素シート12同士の間に配置された多数の導電助剤粒子13とを備える。上記炭素繊維不織布は、主として500nm以上、1μm以下の繊維径を有する。炭素シート12同士は、導電助剤粒子13を介して結合されている。なお、
図1は、ガス拡散層10の断面構造を模式的に示した図である。ガス拡散層10においては、炭素シート12同士が直接結合されている部分が存在していてもよい。
【0017】
炭素シート12は、3枚以上であることが好ましい。本実施形態の炭素シート積層体11は、例えば5枚の炭素シート12を備える。
導電助剤粒子13は、全ての炭素シート12について互いに隣り合う炭素シート12同士の間に位置している。
【0018】
導電助剤粒子13は、炭素微粒子であることが好ましい。本実施形態の導電助剤粒子13は、例えばアセチレンブラックである。導電助剤粒子13の一次粒子体の粒径は、例えば500nm以上、2000nm以下であることが好ましい。
【0019】
次に、
図2及び
図3を参照して、ガス拡散層10の製造手順について説明する。
図2に示すように、ガス拡散層10の製造方法は、前駆体シート準備工程、積層配置工程、プレス工程、及び焼成工程を備える。
【0020】
<前駆体シート準備工程>
前駆体シート準備工程では、ポリアクリロニトリルを含む原料を用いてエレクトロスピニング法により紡糸することで炭素シート12の前駆体である前駆体シート22を準備する。前駆体シート22は、所謂ナノファイバー不織布である。上記原料としては、1種類のモノマーの構造単位のみを重合させたホモポリマーを用いてもよいし、2種類以上のモノマーを共重合させたコポリマーを用いてもよい。
【0021】
<積層配置工程>
積層配置工程では、複数枚の前駆体シート22を積層することにより前駆体シート積層体21を形成するとともに、前駆体シート22同士の間に多数の導電助剤粒子13を配置する。
【0022】
詳しくは、まず、
図3(a)に示すように、1枚の前駆体シート22を作業台の上に配置する。
続いて、
図3(b)に示すように、前駆体シート22上に多数の導電助剤粒子13を配置する。
【0023】
続いて、
図3(c)に示すように、導電助剤粒子13の上に前駆体シート22を配置する。
こうした作業を繰り返すことで、
図3(d)に示すように、前駆体シート積層体21を形成する。
【0024】
<プレス工程>
図3(d)に示すように、プレス工程では、前駆体シート積層体21をプレスすることにより前駆体シート積層体21の厚みを調節する。
【0025】
<焼成工程>
焼成工程では、前駆体シート積層体21を焼成することで炭素シート積層体11を形成する。焼成工程では、例えば1000℃以上、2400℃以下の温度で前駆体シート積層体21を焼成する。これにより、前駆体シート22が黒鉛化されて炭素シート12が形成されるとともに、炭素シート12と導電助剤粒子13とが結合される。
【0026】
次に、本実施形態の作用について説明する。
複数枚の炭素シート12を積層することで炭素シート積層体11が形成されるとともに、互いに隣り合う炭素シート12同士の間に炭素シート12同士を結合する多数の導電助剤粒子13が配置されることでガス拡散層10が形成される。
【0027】
ここで、炭素シート12が、主として500nmよりも小さい繊維径の炭素繊維不織布により形成される場合、炭素シート12の空隙率が小さくなるためにガス拡散性が悪化する。一方、炭素シート12が、主として1μmよりも大きい繊維径の炭素繊維不織布により形成される場合、炭素シート12の厚みが大きくなるためにガス拡散性が悪化する。
【0028】
この点、本実施形態のガス拡散層10によれば、炭素シート12は、主として500nm以上、1μm以下の繊維径の炭素繊維不織布により形成されているため、炭素シート12の空隙率が大きく、且つ炭素シート12の厚みが小さくなる。これにより、数μmの繊維径の炭素繊維不織布により形成された基材と、当該基材の表面に重ね合わされたマイクロポーラスレイヤーとを有する従来のガス拡散層に比べて、ガス拡散層10の厚みを小さくできる。このように炭素シート12の空隙率が大きいこと、及びガス拡散層10の厚みが小さいことによって、ガス拡散性を高めることができる。
【0029】
また、本実施形態のガス拡散層10によれば、互いに隣り合う炭素シート12同士が、多数の導電助剤粒子13を介して結合されているので、導電性を高めることができる。
また、本実施形態のガス拡散層10によれば、炭素シート12同士の間には炭素シート12が撓む空間が形成されているので、ばね性を高めることができる。
【0030】
さらに、炭素シート積層体11を構成する炭素シート12の枚数を適宜設定することによりガス拡散層10の厚みを調節することができる。
また、炭素シート12を構成する炭素繊維不織布の繊維径が500nm以上、1μm以下であるため、従来のガス拡散層を構成する基材、すなわち数μmの繊維径の炭素繊維不織布により形成された基材を焼成して形成する場合に比べて、焼成温度が低くて済む。
【0031】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)ガス拡散層10は、主として500nm以上、1μm以下の繊維径の炭素繊維不織布により形成された複数枚の炭素シート12が積層された炭素シート積層体11と、互いに隣り合う炭素シート12同士の間に配置された多数の導電助剤粒子13とを備える。炭素シート12同士は、導電助剤粒子13を介して結合されている。
【0032】
こうした方法によれば、上記作用を奏するので、ガス拡散性、導電性、及びばね性を高めることができる。
このようにガス拡散性が向上することによって、燃料電池の濃度過電圧を低減できる。また、導電性が向上することによって、燃料電池の抵抗過電圧を低減できる。また、ばね性が向上することによって、アノード側セパレータあるいはカソード側セパレータのリブへの形状追従性が向上するので、燃料電池の抵抗過電圧を低減できる。したがって、燃料電池の発電性能の向上を図ることができる。
【0033】
(2)炭素シート12は、3枚以上である。導電助剤粒子13は、全ての炭素シート12について互いに隣り合う炭素シート12同士の間に位置している。こうした構成によれば、ガス拡散層10のばね性を一層高めることができる。
【0034】
(3)導電助剤粒子13は、炭素微粒子である。こうした構成によれば、導電助剤粒子13が安価な炭素微粒子により構成されるので、燃料電池のコストを低減することができる。
【0035】
(4)ガス拡散層10の製造方法は、前駆体シート準備工程と、積層配置工程と、プレス工程と、焼成工程とを備える。こうした方法によれば、ガス拡散層10を容易に製造することができる。
【0036】
<変形例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0037】
・導電助剤粒子13は、アセチレンブラックに限定されない。他に例えば、ケッチェンブラックなどの他の炭素微粒子、すなわちカーボンブラックを採用することもできる。また、導電助剤粒子13は、炭素微粒子に限定されず、窒化チタンなどの導電性に優れたセラミック材料を採用することもできる。
【0038】
・炭素シート積層体11を構成する炭素シート12は、2枚、3枚、4枚であってもよいし、6枚以上であってもよい。
<付記>
上記各実施形態は、以下の付記に記載する構成を含む。
【0039】
[付記1]
主として500nm以上、1μm以下の繊維径の炭素繊維不織布により形成された複数枚の炭素シートが積層された炭素シート積層体と、互いに隣り合う前記炭素シート同士の間に配置された多数の導電助剤粒子と、を備え、前記炭素シート同士は、前記導電助剤粒子を介して結合されている、燃料電池用ガス拡散層。
【0040】
[付記2]
前記炭素シートは、3枚以上であり、前記導電助剤粒子は、全ての前記炭素シートについて互いに隣り合う前記炭素シート同士の間に位置している、付記1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【0041】
[付記3]
前記導電助剤粒子は、炭素微粒子である、付記1または付記2に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【0042】
[付記4]
付記1から付記3のいずれか一項に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、ポリアクリロニトリルを含む原料を用いてエレクトロスピニング法により紡糸することで前記炭素シートの前駆体である前駆体シートを準備する前駆体シート準備工程と、複数枚の前記前駆体シートを積層することにより前駆体シート積層体を形成するとともに、前記前駆体シート同士の間に多数の前記導電助剤粒子を配置する積層配置工程と、前記前駆体シート積層体をプレスするプレス工程と、前記前駆体シート積層体を焼成することで前記炭素シート積層体を形成する焼成工程と、を備える、燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【符号の説明】
【0043】
10…
10…ガス拡散層
11…炭素シート積層体
12…炭素シート
13…導電助剤粒子
21…前駆体シート積層体
22…前駆体シート