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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176070
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】情報処理装置、及び推定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20241212BHJP
   G16H 50/20 20180101ALI20241212BHJP
【FI】
A61B10/00 H
G16H50/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094289
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】佐野 佑子
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】注意の調整能力を評価することによって、軽度認知障害の前段階に生じる主観的な認知機能の低下を推定する。
【解決手段】主観的な認知機能の低下を推定する情報処理装置であって、主観的な認知機能の低下の測定対象である測定者が発する生体情報を示す生体指標データ、及び測定者が実施した行動の内容を示す行動指標データを受け付け、生体指標データから複数の特徴の特徴量を算出し、及び行動指標データから複数の特徴の特徴量を算出し(S703)、生体指標データの複数の特徴及び行動指標データの複数の特徴の中から、それぞれが時間的に同期し且つ互いに相関する複数の特徴を選択し(S704)、選択した複数の特徴の特徴量と所定の判定基準とを比較することによって、測定者の注意の調整能力を評価し(S705)、評価した注意の調整能力に基づいて、主観的な認知機能の低下を推定する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主観的な認知機能の低下を推定する情報処理装置であって、
主観的な認知機能の低下の測定対象である測定者が発する生体情報を示す生体指標データ、及び前記測定者が実施した行動の内容を示す行動指標データを受け付ける受付部と、
プロセッサとメモリとを含む制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記生体指標データから複数の特徴の特徴量を算出し、及び前記行動指標データから複数の特徴の特徴量を算出し、
前記生体指標データの複数の特徴及び前記行動指標データの複数の特徴の中から、それぞれが時間的に同期し且つ互いに相関する複数の特徴を選択し、
選択した複数の特徴の特徴量と所定の判定基準とを比較することによって、前記測定者の注意の調整能力を評価し、
前記評価した注意の調整能力に基づいて主観的な認知機能の低下を推定する
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記主観的な認知機能の低下の推定結果を出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記主観的な認知機能の低下の推定結果の履歴を出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記制御部は、
推定した前記主観的な認知機能の低下の推定結果に対応した主観的な認知機能の低下を改善するための改善推奨情報を出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記受付部は、前記測定者の概日リズムを示す概日リズムデータを受け付け、
前記制御部は、前記概日リズムデータを用いて、前記測定者の概日リズムを評価し、
前記評価した注意の調整能力及び前記評価した概日リズムに基づいて前記測定者の主観的な認知機能の低下を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記生体指標データの複数の特徴は、注意の調整能力の選択、転換、集中、又は分配の要素に分類され、且つ分類された要素に応じてスコアが設定され、
前記制御部は、前記所定の判定基準との比較によって選択された1又は複数の特徴に設定されたスコアの合計点に従って前記測定者の注意の調整能力を評価する
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記受付部によって受け付けられた前記生体指標データと前記行動指標データとの測定時間のずれが所定時間以内であり、且つ前記生体指標データ及び前記行動指標データのそれぞれが前記測定時間の中で所定時間の平均データが複数計測されていることを条件に前記生体指標データと前記行動指標データとが注意の調整能力の評価に用いることができる質か否かを判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記生体指標データと前記行動指標データが前記条件を満たさない場合、アラートを発行する
ことを特徴とする請求項7に記載の情報処理装置。
【請求項9】
主観的な認知機能の低下を推定する推定方法であって、
主観的な認知機能の低下の測定対象である測定者が発する生体情報を示す生体指標データ、及び前記測定者が実施した行動の内容を示す行動指標データを受け付けること、
前記生体指標データから複数の特徴の特徴量を算出し、及び前記行動指標データから複数の特徴の特徴量を算出すること、
前記生体指標データの複数の特徴及び前記行動指標データの複数の特徴の中から、それぞれが時間的に同期し且つ互いに相関する複数の特徴を選択すること、
選択した複数の特徴の特徴量と所定の判定基準とを比較することによって、前記測定者の注意の調整能力を評価すること、及び
前記評価した注意の調整能力に基づいて主観的な認知機能の低下を推定すること、を有する
ことを特徴とする推定方法。
【請求項10】
前記主観的な認知機能の低下の推定結果を出力すること、をさらに有する
ことを特徴とする請求項9に記載の推定方法。
【請求項11】
前記主観的な認知機能の低下の推定結果の履歴を出力すること、をさらに有する
ことを特徴とする請求項9に記載の推定方法。
【請求項12】
推定した前記主観的な認知機能の低下の推定結果に対応した主観的な認知機能の低下を改善するための改善推奨情報を出力すること、をさらに有する
ことを特徴とする請求項9に記載の推定方法。
【請求項13】
前記測定者の概日リズムを示す概日リズムデータを受け付けること、及び
前記概日リズムデータを用いて、前記測定者の概日リズムを評価すること、をさらに有し、
前記測定者の注意の調整能力を評価することは、前記評価した注意の調整能力及び前記評価した概日リズムに基づいて前記測定者の主観的な認知機能の低下を推定すること、を含む
ことを特徴とする請求項9に記載の推定方法。
【請求項14】
前記生体指標データの複数の特徴は、注意の調整能力の選択、転換、集中、又は分配の要素に分類され、且つ分類された要素に応じてスコアが設定され、
前記測定者の注意の調整能力を評価することは、前記所定の判定基準との比較によって選択された1又は複数の特徴に設定されたスコアの合計点に従って前記測定者の注意の調整能力を評価すること、を含む
ことを特徴とする請求項9に記載の推定方法。
【請求項15】
受け付けられた前記生体指標データと前記行動指標データとの測定時間のずれが所定時間以内であり、且つ前記生体指標データ及び前記行動指標データのそれぞれが前記測定時間の中で所定時間の平均データが複数計測されていることを条件に前記生体指標データと前記行動指標データとが注意の調整能力の評価に用いることができる質か否かを判定すること、をさらに有する
ことを特徴とする請求項9に記載の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主観的な認知機能の低下を推定する情報処理装置、及び推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症の前段階の症状として外部に認知症の兆候が表れる軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)が生じることが知られている。
【0003】
特許文献1には、認知症の兆候を判別する技術として、「被検者の認知症の兆候を判別する認知症兆候判別プログラムにおいて、被検者の表情を撮像することで得られた表情画像情報を取得する情報取得ステップと、過去の被検者の表情を撮像することで得られた参照用表情画像情報と、認知症の兆候の判別類型との3段階以上の連関度を参照し、上記情報取得ステップにより取得された表情画像情報に基づき、上記被検者の認知症の兆候を判別する判別ステップとをコンピュータに実行させる」認知症兆候判別プログラムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-113072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、外部に認知症の兆候が表れる上記した軽度認知障害(MCI)よりも前に、主観的な認知機能の低下(SCD:Subjective cognitive decline)が生じることが知られている。主観的な認知機能の低下には、主観的な認知機能の低下、主観的な記憶の障害、主観的な記憶の不安などの概念があるが、変化を感じるのは自分自身だけであり、周囲には気づかれない。
【0006】
主観的な認知機能の低下、主観的な記憶の障害、主観的な記憶の不安などは、自分自身で気づいたり気づかなかったりする。また、主観的な認知機能の低下が生じている状況では、漠然とした不安感やうつ気分を感じることがあるが、それを認知症の兆候として捉えることは難しい。したがって、主観的な認知機能の低下が生じたとしても、医療機関にて診療を受けることも少ない。このような主観的な認知機能の低下の症状が進むと、軽度認知障害(MCI)や認知症としての対応が迫られることになる。
【0007】
主観的な認知機能の低下に気づきにくい要因として、注意の調整能力による補償機能が挙げられる。補償とは、ある機能が低下したときに、他の機能が代替してその役割をすることであり、その調整を担っているのが注意機能である。認知機能が低下する場面において、例えば、注意を一点に集中させる、必要な情報に注意を切り替える、注意を分配して順序立てる、などと言った注意の調整能力が働くことで、認知機能の低下を補っている。
【0008】
すなわち、注意の調整能力が認知機能の基盤となっており、注意の調整能力の低下が認知機能の低下をもたらすと考えられる。主観的な認知機能の低下(SCD)の場合、外部情報と自己の記憶とを照合する機能がある後部帯状回の代謝低下の可能性があるため、注意機能のうち記憶を照合して判定する「選択」、情報処理するために注意を分ける「分配」の機能が特に低下すると示唆される。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、注意の調整能力を評価することによって、軽度認知障害の前段階に生じる主観的な認知機能の低下を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の情報処理装置は、主観的な認知機能の低下を推定する情報処理装置であって、主観的な認知機能の低下の測定対象である測定者が発する生体情報を示す生体指標データ、及び測定者が実施した行動の内容を示す行動指標データを受け付ける受付部と、プロセッサとメモリとを含む制御部と、を備え、制御部は、生体指標データから複数の特徴の特徴量を算出し、及び行動指標データから複数の特徴の特徴量を算出し、生体指標データの複数の特徴及び行動指標データの複数の特徴の中から、それぞれが時間的に同期し且つ互いに相関する複数の特徴を選択し、選択した複数の特徴の特徴量と所定の判定基準とを比較することによって、測定者の注意の調整能力を評価し、評価した注意の調整能力に基づいて主観的な認知機能の低下を推定する。
【0011】
本発明の推定方法は、主観的な認知機能の低下を推定する推定方法であって、主観的な認知機能の低下の測定対象である測定者が発する生体情報を示す生体指標データ、及び測定者が実施した行動の内容を示す行動指標データを受け付けること、生体指標データから複数の特徴の特徴量を算出し、及び行動指標データから複数の特徴の特徴量を算出すること、生体指標データの複数の特徴及び行動指標データの複数の特徴の中から、それぞれが時間的に同期し且つ互いに相関する複数の特徴を選択すること、選択した複数の特徴の特徴量と所定の判定基準とを比較することによって、測定者の注意の調整能力を評価すること、及び評価した注意の調整能力に基づいて主観的な認知機能の低下を推定すること、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、注意の調整能力を評価することによって、軽度認知障害の前段階に生じる主観的な認知機能の低下を推定することができる。
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】主観的な認知機能の低下を推定する推定装置2を備える情報処理システム1の全体構成を示した図である。
図2】推定装置2のハードウェアブロック図である。
図3】推定装置2の制御部20のソフトウェアブロック図である。
図4】情報処理端末3のハードウェアブロック図である。
図5】SCD判定アプリ461が表示装置43に表示する設定画面50を示した図である。
図6】主観的な認知機能の低下を推定するフローチャートである。
図7】注意の調整能力を評価する処理の詳細を示したフローチャートである。
図8】測定データの質を判別する判別基準を示した図である。
図9】複数の特徴の特徴量の交差相関処理の結果90を示した図である。
図10A】選択した複数の特徴と各特徴に設定された判定基準101とを示した図である。
図10B】判定基準を設定する際に参照される健常者の測定データの各特徴の特徴量102を示した図である。
図11】概日リズムを評価する処理の詳細を示したフローチャートである。
図12】概日リズムデータ269と各データに設定されたスコア120とを示した図である。
図13】主観的な認知機能の低下を推定する処理の詳細を示したフローチャートである。
図14A】注意の調整能力に係る合計点、概日リズムに係る合計点、及び主観的な認知機能の低下の兆候の程度を関連付けたテーブル141を示した図である。
図14B】主観的な認知機能の低下の兆候の程度として表示されるメッセージを記憶するメッセージテーブル142を示した図である。
図15A】主観的な認知機能の低下の推定結果を示す画面1510である。
図15B】主観的な認知機能の低下の推定結果(グラフ)を示す画面1520である。
図15C】主観的な認知機能の低下を改善するための改善策を提案する画面1530である。
図15D】主観的な認知機能の推定結果の推移を示す画面1540である。
図15E】他のサービスと連携を設定する画面1550である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
【0015】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0016】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合及び原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0017】
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは特に明示した場合及び原理的に明らかにそうではないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値及び範囲についても同様である。
【0018】
また、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
(情報処理システム1)
図1は、主観的な認知機能の低下を推定する推定装置2を備える情報処理システム1の全体構成を示した図である。図1に示すように、情報処理システム1は、主観的な認知機能の低下(SCD)を推定する推定装置2(情報処理装置)と、主観的な認知機能の低下の測定対象である測定者が使用する情報処理端末3と、推定装置2によって計算された各種結果を閲覧するための閲覧装置4と、を備える。推定装置2、情報処理端末3、及び閲覧装置4は、ネットワーク5を介して互いに通信可能に接続されている。
【0020】
(推定装置2)
図2は、推定装置2のハードウェアブロック図である。図3は、推定装置2の制御部20のソフトウェアブロック図である。図2及び図3を参照して、推定装置2の詳細を説明する。推定装置2は、情報処理端末3で測定された測定データ(生体指標データ、行動指標データ)を受け付け、受け付けた測定データに基づいて注意の調整能力や概日リズムを評価し、主観的な認知機能の低下を推定する。推定装置2は、推定した主観的な認知機能の低下の評価結果などを情報処理端末3や閲覧装置4に提供し、情報処理端末3や閲覧装置4の表示部に表示する。推定装置2は、クラウドサーバであってもよいし、医療施設内のオンプレミスサーバであってもよい。
【0021】
まず、図2を参照して、推定装置2のハードウェア構成を説明する。図2に示すように、推定装置2は、プロセッサ21及びメモリ22を有する制御部20と、入力装置23と、出力装置24と、通信装置25と、ストレージ装置26と、バス27とを有する。プロセッサ21は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASICなどである。メモリ22は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などであって、プロセッサ21の作業領域として使用される。入力装置23は、キーボードやマウスなどであり、出力装置24は、表示部などである。通信装置25は、ネットワーク5と通信するNIC(Network Interface Controller)などである。
【0022】
通信装置25(受付部)は、情報処理端末3からネットワーク5を介して、主観的な認知機能の低下の測定者が発する生体情報を示す生体指標データ267、測定者が実施した行動の内容を示す行動指標データ268、及び概日リズムデータ269を受け付ける。なお、推定装置2は、ネットワーク5を下位さずにローカルで、生体指標データ267、行動指標データ268、及び概日リズムデータ269を受け付けてもよい。
【0023】
ストレージ装置26は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はそれらの組み合わせ等であって、各種プログラム及び各種データを記憶する。ストレージ装置26は、注意調整能力評価プログラム261、概日リズム評価プログラム262、及びSCD推定プログラム263を記憶する。また、ストレージ装置26は、注意調整能力評価DB264、概日リズム評価DB265、及びSCD推定DB266を記憶する。プロセッサ21は、注意調整能力評価プログラム261を実行して、注意調整能力評価DB264を参照し、注意の調整能力を評価する。また、プロセッサ21は、概日リズム評価プログラム262を実行して、概日リズム評価DB265を参照し、概日リズムを評価する。また、プロセッサ21は、SCD推定プログラム263を実行して、SCD推定DB266を参照し、主観的な認知機能の低下(SCD)を推定する。
【0024】
また、ストレージ装置26は、情報処理端末3から受け付けた生体指標データ267及び行動指標データ268を記憶する。また、ストレージ装置26は、情報処理端末3から受け付けた睡眠に関するデータを、概日リズムデータ269として記憶する。
【0025】
生体指標データ267は、主観的な認知機能の低下の測定者が発する生体情報を示すデータであって、例えば、人の視線、表情、音声、心拍数、発汗、呼吸などに係るデータである。また、視線に係るデータは、例えば、視線の滞留時間、視線の切り替え頻度、瞬目量、視線の振り戻り頻度などの特徴を含む。表情に係るデータは、例えば、表情筋の変化率、顔上部の変化率、顔下部の変化率、顔の傾き回数、頭部の滞留時間などの特徴を含む。音声に係るデータは、例えば、特定の単語の発生率、応答遅延時間、単語同一率などの特徴を含む。心拍数に係るデータは、心拍数、心拍変動、呼吸変動に対応する低周波変動成分LF/高周波変動成分HFなどの特徴を含む。発汗に係るデータは、例えば、測定者が装着したウェアラブルデバイスが取得するデータであって、精神的発汗率などの特徴を含む。呼吸に係るデータは、例えば、測定者が装着したウェアラブルデバイスが取得するデータであって、呼吸安定率などの特徴を含む。
【0026】
行動指標データ268は、測定者が実施した行動の内容を示すデータであって、例えば、人が対象物を操作する操作量、人の活動量、人の動作範囲などに係るデータである。また、操作量に係るデータは、対象物(例えば、スマートフォン、IoT家電、TVリモコン)などの情報処理端末3に対する接触操作回数や接触操作移動量などの特徴を含む。人の活動量に係るデータは、スマートフォンやウェアラブルデバイスが取得するデータであって、歩数、消費カロリー、歩行スタイル、歩幅変化率、スピード、バランスなどの特徴を含む。人の動作範囲に係るデータは、スマートフォンやドライブレコーダが取得するデータであって、移動距離、反復移動回数、滞留時間などの特徴を含む。
【0027】
概日リズムデータ269は、測定者が申告した睡眠に関する情報であって、例えば、測定者が申告した連続睡眠時間、及び睡眠満足度などを含む。
【0028】
次に、図3を参照して、推定装置2の制御部20のソフトウェア構成を説明する。図3に示すように、推定装置2の制御部20は、注意の調整能力を評価する注意調整能力評価部31と、概日リズムを評価する概日リズム評価部32と、主観的な認知機能の低下(SCD)を推定するSCD推定部33と、各種情報を出力する出力部34と、を有する。
【0029】
注意調整能力評価部31は、
生体指標データ267から複数の特徴(例えば、上記した視線の滞留時間、視線の切り替え頻度、瞬目量、視線の振り戻り頻度など)の特徴量を算出し、及び行動指標データ268から複数の特徴(上記した接触操作回数、接触操作移動量など)の特徴量を算出し、
生体指標データ267の複数の特徴及び行動指標データ268の複数の特徴の中から、それぞれが時間的に同期し且つ互いに相関する複数の特徴を選択し、
選択した複数の特徴の特徴量と所定の判定基準とを比較することによって、測定者の注意の調整能力を評価する。
【0030】
概日リズム評価部32は、概日リズムデータ269を用いて、測定者の概日リズムを評価する。
【0031】
SCD推定部33は、注意調整能力評価部31によって評価された注意の調整能力及び概日リズム評価部32によって評価された概日リズムに基づいて測定者の主観的な認知機能の低下を推定する。
【0032】
出力部34は、SCD推定部33によって推定された主観的な認知機能の低下の推定結果などを出力する。出力された推定結果は、例えば、情報処理端末3の表示装置43(図4参照)や閲覧装置4の表示部に表示される。また、出力部34は、主観的な認知機能の低下の推定結果の履歴を出力してもよい。また、出力部34は、推定した主観的な認知機能の低下に対応した主観的な認知機能の低下を改善するための改善推奨情報を出力してもよい。
【0033】
(情報処理端末3)
図4は、情報処理端末3のハードウェアブロック図である。図4を参照して、情報処理端末3の詳細を説明する。情報処理端末3は、生体指標データ267や行動指標データ268を取得したり、概日リズムデータ269を取得したりするために用いられる。情報処理端末3は、主観的な認知能力の低下の測定者が使用する端末装置であって、例えばスマートフォン、タブレット、ノートPCなどである。
【0034】
図4に示すように、情報処理端末3は、プロセッサ41と、メモリ42と、表示装置43と、タッチセンサ44と、通信装置45と、ストレージ装置46と、カメラ47と、バス48とを有する。プロセッサ41は、CPU、GPU、DSP、ASICなどである。メモリ42は、DRAMなどであって、プロセッサ41の作業領域として使用される。表示装置43は、各種情報を表示し、タッチセンサ44は、情報処理端末3の使用者による表示装置43へのタッチ操作を検知する。通信装置45は、ネットワーク5と通信するNICなどである。
【0035】
ストレージ装置46は、フラッシュメモリ等であって、各種プログラム及び各種データを記憶する。ストレージ装置46は、主観的な認知機能の低下(SCD)を判定するためのSCD判定アプリ461を記憶する。SCD判定アプリ461は、Webアプリであってもよいし、ネイティブアプリであってもよい。SCD判定アプリ461の詳細は、後述する。
【0036】
カメラ47は、写真や動画を撮像する。タッチセンサ44やカメラ47は、主観的な認知機能の低下(SCD)を推定するための測定データ(生体指標データ267、行動指標データ268)を取得するために利用される。
【0037】
(閲覧装置4)
閲覧装置4は、推定装置2によって提供される主観的な認知機能の低下の推定結果を閲覧するための装置である。閲覧装置4は、例えば、遠方の家族、かかりつけ医師、薬剤師などによるモニタリング、経過観察、及びヘルスケアサービスなどに利用される。
【0038】
(設定画面50)
図5は、SCD判定アプリ461が表示装置43に表示する設定画面50を示した図である。情報処理端末3においてSCD判定アプリ461が実行されると、設定画面50が表示される。この設定画面50は、推定装置2がWebサーバとして情報処理端末3のウェブブラウザに表示する画面であってもよい。設定画面50では、主観的な認知機能の低下(SCD)を判定するためのデータを取得するための各種条件を設定する。設定画面50は、測定情報を設定する設定部51、注意の調整能力を評価するための基礎情報を設定する設定部52、概日リズムを評価するための基礎情報を設定する設定部53、及び結果表示の内容を設定する設定部54を有する。
【0039】
設定部51は、測定対象を「個別」又は「対話」に設定する測定対象設定部511と、測定時間を設定する測定時間設定部512、及び対象デバイスを設定する対象デバイス設定部513を有する。図5の設定部51では、測定対象が「個別」、測定時間が「5分」、及び対象デバイスが「スマートフォン」となっている。測定対象設定部511では、対象デバイスを操作する操作者を測定対象とする「個別」と、オペレータなどと音声通話やビデオ通話を行う対話者を測定対象とする「対話」と、を設定することができる。また、測定時間設定部512では、任意の時間、又は予め設定された複数の時間の中から選択した時間を、測定時間として設定することができる。また、対象デバイス設定部513では、測定データの測定に使用するデバイスを選択することができる。測定に使用するデバイスは、例えば、スマートフォン、TV、パソコン、ウェアラブルデバイス、IoT家電、防犯カメラ、及びドライブレコーダなどである。
【0040】
設定部52は、注意の調整能力の評価に生体指標を用いるか否かを設定する生体指標設定部521、及び注意の調整能力の評価に行動指標を用いるか否かを設定する行動指標設定部522を有する。図5の設定部52では、生体指標及び行動指標を用いることが設定されている。また、生体指標設定部521では、生体指標を用いる設定がなされた場合に、生体指標の具体的内容を指定することができる。生体指標の具体的内容は、例えば、視線、表情、音声、心拍数、発汗、及び呼吸である。視線や表情のデータは、スマートフォンに搭載されるカメラ47などによって取得される。また、音声のデータは、図示しないマイクなどによって取得される。また、心拍数、発汗、及び呼吸のデータは、ウェアラブルデバイスのセンサによって取得される。行動指標設定部522では、行動指標を用いる設定がなされた場合に、行動指標の具体的内容を指定することができる。行動指標の具体的内容は、例えば、操作量、活動量、及び動作範囲量である。操作量は、対象デバイス(例えば、スマートフォン、IoT家電、TVリモコン)の操作量である。活動量は、対象デバイス(例えば、スマートフォン、ウェアラブルデバイス)を使用する使用者の活動量であって、例えば、歩数、消費カロリー、歩行スタイル、歩幅変化率、スピード、バランスなどである。また、動作範囲量は、例えば、スマートフォンやドライブレコーダのGPS、又は防犯カメラなどを使用した対象者の動作範囲であって、例えば、移動距離、反復移動回数、滞留時間などである。
【0041】
設定部53は、概日リズムの評価に用いる連続睡眠時間や睡眠満足度を設定する。図5の例では、連続睡眠時間が「4時間」、睡眠満足度が「あまり満足でない」が設定されている。連続睡眠時間は、任意の時間、又は予め設定された複数の時間の中から選択した時間を設定することができる。睡眠満足度は、予め用意された複数の選択肢(例えば、「満足していない」、「あまり満足でない」、「だいたい満足している」、「かなり満足している」、「非常に満足している」)の中からタブ形式で選択することができる。また、ウェアラブルデバイスを用いて自動的に睡眠情報を入力するように設定してもよい。測定者は、当該設定部53において、連続睡眠時間や睡眠満足度を申告する。
【0042】
設定部54は、主観的な認知機能の低下の推定結果を示す画面1510(図15A参照)を表示するか否か、主観的な認知機能の低下の推定結果(グラフ)を示す画面1520(図15B参照)を表示するか否か、主観的な認知機能の低下を改善するための改善策を提案する画面1530(図15C参照)を表示するか否か、主観的な認知機能の推定結果の推移を示す画面1540(図15D参照)を表示するか否か、及び他のサービスと連携を設定する画面1550(図15E参照)を表示するか否か、を設定する。各画面の詳細は、後述する。
【0043】
また、設定画面50は、生体指標データや行動指標データを取り込む外部デバイスや外部機器を選択するデバイス選択ボタン55を有する。また、設定画面50は、測定データの測定を開始するための測定開始ボタン56、及び設定部54で設定した画面を表示するための結果表示ボタン57を有する。
【0044】
例えば、測定開始ボタン56が選択されると、普段使用しているWebブラウザが起動し、情報処理端末3の操作者(測定者)は、Webブラウザを用いて検索やブラウジングを行う。操作者が検索やブラウジングを行っている間、情報処理端末3のセンサ(タッチセンサ44やカメラ47)によって生体指標データや行動指標データが取得される。なお、測定開始ボタン56によって起動されるソフトはWebブラウザでなくても、生体指標データや行動指標データを取得するための専用ソフトであってもよいし、ゲームソフトであってもよい。
【0045】
(主観的な認知機能の低下を推定するフローチャート)
図6は、主観的な認知機能の低下を推定するフローチャートである。図6を参照して、主観的な認知機能の低下を推定する処理の概要を説明する。
【0046】
まず、推定装置2は、情報処理端末3から、図5の設定画面50で設定された各種設定を取得する(S601)。図5の測定開始ボタン56が選択されると、設定画面50で設定された各種設定が、情報処理端末3から推定装置2に送信される。そして、推定装置2は、情報処理端末3から各種設定を取得する。このとき、推定装置2は、設定画面50の設定部53で設定された概日リズムデータ269(連続睡眠時間、睡眠満足度)を受け付ける。
【0047】
また、推定装置2は、生体指標データ及び行動指標データを受け付ける(S602)。なお、ここでは、推定装置2は、生体指標データ及び行動指標データの両方を取得する例を説明したが、設定部52で設定された内容に従って、生体指標データ又は行動指標データの何れか一方のみを取得してもよい。
【0048】
推定装置2は、注意調整能力評価プログラム261を実行して、生体指標データ267、行動指標データ268、及び注意調整能力評価DB264に基づいて、注意の調整能力を評価する処理を実行する(S603)。注意の調整能力を評価する処理の詳細は、後述する。
【0049】
推定装置2は、概日リズム評価プログラム262を実行して、概日リズムデータ269(連続睡眠時間、睡眠満足度)、及び概日リズム評価DB265に基づいて、概日リズムを評価する処理を実行する(S604)。概日リズムを評価する処理の詳細は、後述する。
【0050】
S603及びS604の実行後、推定装置2は、SCD推定プログラム263を実行して、注意の調整能力の評価結果、概日リズムの評価結果、及びSCD推定DB266に基づいて、主観的な認知機能の低下を推定する処理を実行する(S605)。主観的な認知機能の低下を推定する処理の詳細は、後述する。
【0051】
そして、推定装置2が出力した各結果を、推定装置2の表示部、情報処理端末3の表示装置43、又は閲覧装置4の表示部に表示する(S606)。
【0052】
(注意調整能力評価処理(S603)の詳細)
図7は、注意の調整能力を評価する処理の詳細を示したフローチャートである。図7を参照して、注意の調整能力を評価する処理の詳細を説明する。図7の各ステップは、制御部20のプロセッサ21が注意調整能力評価プログラム261を実行することによって、実行される。
【0053】
制御部20は、S602で受け付けた測定データ(生体指標データ267、行動指標データ268)を読み込む(S701)。
【0054】
次に、制御部20は、読み込んだ測定データが注意の調整能力の評価に用いることができる質か否かを判別する(S702)。図8は、測定データの質を判別する判別基準を示した図である。この判別基準80は、例えば、注意調整能力評価DB264に記憶される。推定装置2は、図8に示した判別基準に従って、生体指標データ及び行動指標データの質を判別する。
【0055】
例えば、制御部20は、計測時間が5分の場合に1分間の平均データが3つ以上計測されていることを生体指標データ267の質の判別基準とする。測定時間の「5分」は、設定画面50の測定時間設定部512で設定される測定時間である。平均データは、1分間以外の平均データであってもよいし、計測数は4つ以上であってもよいし、2つ以下であってもよい。また、複数の平均データを計算するための時間は、オーバーラップしていなくてもよいし、オーバーラップしていてもよい。
【0056】
また、制御部20は、生体指標データ267と同様に、計測時間が5分の場合に1分間の平均データが3つ以上計測されていることを行動指標データ268の質の判別基準の一つとする。平均データは、1分間以外の平均データであってもよいし、計測数は4つ以上であってもよいし、2つ以下であってもよい。また、複数の平均データを計算するための時間は、オーバーラップしていなくてもよいし、オーバーラップしていてもよい。さらに、制御部20は、生体指標データ267と行動指標データ268との時間のずれが30秒以内であることを、もう一つの判別基準とする。時間のずれの「30秒」は、30秒より小さくてもよいし、30秒より大きくてもよい。
【0057】
なお、図8の判別基準80を満たす生体指標データ267又は行動指標データ268を取得することができない場合には、図5の設定画面50上に生体指標データ267又は行動指標データ268を取得することができなかったことを示すメッセージを表示(アラートを発行)してもよい。
【0058】
図7に戻って、制御部20は、判別基準80を満たす質の生体指標データ267の特徴の特徴量、及び判別基準80を満たす質の行動指標データ268の特徴の特徴量を算出する処理を実行する(S703)。例えば、生体指標データ267が視線データである場合、その特徴は、滞留時間、視線の切り替え頻度、瞬目量、及び視線振り戻り頻度などである。また、生体指標データ267が表情データである場合、その特徴は、表情筋変化率、顔上部変化率、顔下部変化率、顔傾き回数、及び頭部滞留時間などである。また、行動指標データ268が操作量データである場合、その特徴は、操作繰り返し回数、操作移動量などである。制御部20は、取得した生体指標データ267の各特徴の特徴量を算出するとともに、取得した行動指標データ268の各特徴の特徴量を算出する。
【0059】
次に、制御部20は、生体指標データ267の複数の特徴及び行動指標データ268の複数の特徴の中から、それぞれが時間的に同期し且つ互いに相関する複数の特徴を選択する(S704)。具体的には、制御部20は、複数の特徴の特徴量の交差相関処理を行う。交差相関処理では、2つの時系列データのいずれかの時間軸をずらした場合の相関を算出する処理であり、本実施例では、1~10の交差相関係数を算出する。交差相関係数が高い特徴は、時間的に同期し且つ互いに相関が高い特徴であり、交差相関係数が低い特徴は、時間的に同期せず且つ互いに相関が低い特徴であるとする。図9は、複数の特徴の特徴量の交差相関処理の結果90(交差相関係数)を示した図である。図9の交差相関処理の結果90では、交差相関係数を1~10で示している。制御部20は、図9の交差相関処理の結果90に従って、事前に設定された閾値(例えば、閾値=6)以上の特徴を、時間的に同期し且つ互いに相関する特徴として選択する。なお、この閾値は、変更可能である。
【0060】
例えば、閾値が6の場合、生体指標データ267の滞留時間は、生体指標データの視線切替頻度、瞬目量、及び視線振り戻り頻度、並びに行動指標データの操作繰り返し回数、及び操作移動量と、時間的に同期し且つ互いに相関する。本実施形態では、生体指標データ267の複数の特徴(滞留時間、視線切替頻度、瞬目量、及び視線振り戻り頻度)と行動指標データ268の複数の特徴(操作繰り返し回数、及び操作移動量)とは、それぞれが時間的に同期し且つ互いに相関するものとして説明する。
【0061】
次に、制御部20は、選択した複数の特徴量と所定の判定基準とを比較することによって、測定者の注意の調整能力を評価する(S705)。図10Aは、選択した複数の特徴と各特徴に設定された判定基準101とを示した図である。この判定基準101は、例えば、注意調整能力評価DB264に記憶される。図10Aの例では、行動指標データ268の特徴である接触操作回数に対する判定基準(例えば、40回以上)、及び接触操作移動量に対する判定基準(例えば、5000ピクセル以上)が設定されている。また、図10Aの例では、生体指標データ267の特徴である滞留時間に対する判定基準(例えば、40秒以上)、視線の切り替え頻度に対する判定基準(例えば、20回以上)、瞬目量に対する判定基準(例えば、20回未満)、及び視線の振り戻り頻度に対する判定基準(例えば、10回以上)が設定されている。
【0062】
また、図10Aに示すように、生体指標データ267の複数の特徴は、注意の調整能力の選択、転換、集中、又は分配の要素に分類され、且つ分類された要素に応じてスコアが設定されている。このスコアは、合計が10となるように設定されており、例えば、注意の調整能力に大きく起因する要素である選択や分配に対して、他の要素(転換や集中)より高いスコアが設定されている。
【0063】
図10Bは、判定基準101を設定する際に参照される健常者の測定データの各特徴の特徴量102を示した図である。具体的内容は、図10Bに示す通りである。
【0064】
制御部20は、S704で選択した複数の特徴の各特徴量と各特徴に設定された判定基準とを比較して、判定基準を超える特徴に設定されたスコアの合計点を算出する。例えば、制御部20は、測定データの滞留時間の特徴量が判定基準を超え、視線切り替え頻度の特徴量が判定基準を超え、且つその他の特徴の特徴量が判定基準を超えない場合には、滞留時間に設定されたスコア「4」と視線切り替え頻度に設定されたスコア「2」とを合計した合計点「6」を算出する。そして、制御部20は、算出した合計点に従って、測定者の注意の調整能力を評価する(S705)。
【0065】
なお、図10Aの例では、生体指標データ267の特徴に対してスコアを設定したが、生体指標データ267及び行動指標データ268の両方の特徴にスコアを設定してもよい。
【0066】
(概日リズム評価処理(S604)の詳細)
図11は、概日リズムを評価する処理の詳細を示したフローチャートである。図11を参照して、概日リズムを評価する処理の詳細を説明する。図11の各ステップは、制御部20のプロセッサ21が概日リズム評価プログラム262を実行することによって、実行される。
【0067】
制御部20は、S601で受け付けた概日リズムデータ269(連続睡眠時間、睡眠満足度)を読み込む(S1101)。
【0068】
そして、制御部20は、読み込んだ概日リズムデータ269に対するスコアの合計点に従って、概日リズムを評価する(S1102)。図12は、概日リズムデータ269と各データに設定されたスコア120とを示した図である。このスコア120は、例えば、概日リズム評価DB265に記憶される。図12のスコア120は、連続睡眠時間の長さや睡眠満足度の程度に応じて設定される。したがって、図5の例のように、連続睡眠時間が「4時間」であり、睡眠満足度が「あまり満足でない」場合には、制御部20は、連続睡眠時間に対するスコア「4」と睡眠満足度に対するスコア「4」とを合計した合計点「8」を算出する。そして、制御部20は、算出した合計点に従って、測定者の概日リズムを評価する。
【0069】
(主観的な認知機能の低下の推定処理(S605)の詳細)
図13は、主観的な認知機能の低下を推定する処理の詳細を示したフローチャートである。図13を参照して、主観的な認知機能の低下を推定する処理の詳細を説明する。本実施形態では、上記した注意の調整能力に係る合計スコアと、概日リズムに係る合計スコアとに基づいて、主観的な認知機能の低下を推定する。図13の各ステップは、制御部20のプロセッサ21がSCD推定プログラム263を実行することによって、実行される。
【0070】
制御部20は、S705で算出した注意の調整能力に係る合計点を入力する(S1301)。
【0071】
また、制御部20は、S1102で算出した概日リズムに係る合計点を入力する(S1302)。
【0072】
次に、制御部20は、注意の調整能力に係る合計点、概日リズムに係る合計点、及びSCD推定DB266に基づいて、主観的な認知機能の低下を推定する(S1303)。SCD推定DB266は、図14Aに示すように、注意の調整能力に係る合計点、概日リズムに係る合計点、及び主観的な認知機能の低下の兆候の程度を関連付けたテーブル141を記憶する。制御部20は、注意の調整能力に係る合計点が「1~5」且つ概日リズムに係る合計点が「1~5」の場合には、主観的な認知機能の低下の兆候がないと推定し、注意の調整能力に係る合計点が「1~5」且つ概日リズムに係る合計点が「6~10」の場合には、主観的な認知機能の低下の兆候がほぼないと推定し、注意の調整能力に係る合計点が「6~10」且つ概日リズムに係る合計点が「1~5」の場合には、主観的な認知機能の低下の兆候がややあると推定し、注意の調整能力に係る合計点が「6~10」且つ概日リズムに係る合計点が「6~10」の場合には、主観的な認知機能の低下の兆候があると推定する。
【0073】
そして、制御部20は、図14Bに示したメッセージテーブル142を参照して、情報処理端末3の表示装置43や閲覧装置4の表示部に、主観的な認知機能の低下の兆候に応じたメッセージを表示する(S1304)。このメッセージテーブル142は、例えば、SCD推定DB266に記憶される。例えば、制御部20は、注意の調整能力に係る合計点が「1~5」且つ概日リズムに係る合計点が「1~5」の場合には、「概日リズム・注意調整能力ともに問題なし」と表示し、注意の調整能力に係る合計点が「1~5」且つ概日リズムに係る合計点が「6~10」の場合には、「概日リズムの見直しが必要」と表示し、注意の調整能力に係る合計点が「6~10」且つ概日リズムに係る合計点が「1~5」の場合には、「注意調整能力の経過チェック要」と表示し、注意の調整能力に係る合計点が「6~10」且つ概日リズムに係る合計点が「6~10」の場合には、「主観的認知機能低下の兆候あり」と表示する。図14Bに示したメッセージの内容は、これらの文言に限定されるものではない。
【0074】
(各種画面1510~1550)
推定装置2は、図5の設定画面50の設定部54で設定した結果表示の内容に従って、情報処理端末3の表示装置43や閲覧装置4の表示部に、各種画面を表示する。推定装置2は、図15A図15Eに示すように、主観的な認知機能の低下の推定結果を示す画面1510、主観的な認知機能の低下の推定結果(グラフ)を示す画面1520、主観的な認知機能の低下を改善するための改善策を提案する画面1530、主観的な認知機能の推定結果の推移を示す画面1540、及び他のサービスと連携を設定する画面1550を表示することが可能である。
【0075】
(主観的な認知機能の低下の推定結果を示す画面1510)
主観的な認知機能の低下レベルの推定結果を表示する画面1510は、注意の調整能力に係る合計点を示すマーク1511をスコアバー1512上に示し、且つ概日リズムに係る合計点を示すマーク1513をスコアバー1514上に示す。また、この画面1510には、主観的な認知機能の低下の兆候に応じたメッセージ1515が表示される。図15Aの例では、注意の調整能力に係る合計スコアが「6~10」且つ概日リズムに係る合計スコアが「6~10」であるので、「主観的認知機能低下の兆候あり」(図14B参照)が表示される。
【0076】
(主観的な認知機能の低下の推定結果(グラフ)を示す画面1520)
主観的な認知機能の低下の推定結果(グラフ)を示す画面1520は、縦軸が注意の調整能力に係る合計点を示し、横軸が概日リズムに係る合計点を示すグラフ1521を表示する。このグラフ1521上には、注意の調整能力に係る合計点と概日リズムに係る合計点とで定義されるプロット1522が表示される。また、この画面1520には、主観的な認知機能の低下の兆候に応じたメッセージ1523が表示される。図15Bの例では、注意の調整能力に係る合計スコアが「6~10」且つ概日リズムに係る合計スコアが「6~10」であるので、「主観的認知機能低下の兆候あり」(図14B参照)が表示される。
【0077】
(主観的な認知機能の低下を改善するための改善策を提案する画面1530)
改善策を提案する画面1530は、注意の調整能力を改善するお薦めのサービスとして種々のトレーニングを紹介したり、概日リズムを改善するお薦めのサービスとして動画など各種情報を紹介したりする。例えば、当該画面1530では、生体指標データの特徴である滞留時間の特徴量が判定基準以上である場合には選択性に関わるトレーニングを紹介したり、視線振り戻り頻度が基準値以上の場合には分配性に関わるトレーニングを紹介したりする。
【0078】
(主観的な認知機能の推定結果の推移を示す画面1540)
主観的な認知機能の推定結果の推移を示す画面1540は、図15Bのグラフ1521と同様のグラフ1541上に、過去の推定結果1542(図中のプロット)を推定日時と共に表示したものである。
【0079】
(他のサービスと連携を設定する画面1550)
他のサービスと連携を設定する画面1550は、睡眠評価サービス、脳トレサービス、及びフィットネスサービスなど公知のサービスを用いて測定したデータを、主観的な認知機能の低下レベルを判定するためのデータとして連携するための画面である。
【0080】
(主観的な認知機能の低下を推定する推定方法)
次に、上記した各フローチャートを参照して、主観的な認知機能の低下を推定する推定方法について説明する。
【0081】
主観的な認知機能の低下を推定する推定方法は、
主観的な認知機能の低下の測定対象である測定者が発する生体情報を示す生体指標データ267、及び測定者が実施した行動の内容を示す行動指標データ268を受け付けること(S602)、
生体指標データ267から複数の特徴の特徴量を算出し、及び行動指標データ268から複数の特徴の特徴量を算出すること(S703)、
生体指標データ267の複数の特徴及び行動指標データ268の複数の特徴の中から、それぞれが時間的に同期し且つ互いに相関する複数の特徴を選択すること(S704)、
選択した複数の特徴の特徴量と所定の判定基準とを比較することによって、測定者の注意の調整能力を評価すること(S705)、及び
評価した注意の調整能力に基づいて主観的な認知機能の低下を推定すること(S1303)、を有する。
【0082】
また、主観的な認知機能の低下を推定する推定方法は、主観的な認知機能の低下の推定結果を出力すること(S606、図15A図15B)、を有する。
【0083】
また、主観的な認知機能の低下を推定する推定方法は、主観的な認知機能の低下の推定結果の履歴を出力すること(S606、図15D)、を有する。
【0084】
また、主観的な認知機能の低下を推定する推定方法は、推定した主観的な認知機能の低下に対応した主観的な認知機能の低下を改善するための改善推奨情報を出力すること(S606、図15C)、を有する。
【0085】
また、主観的な認知機能の低下を推定する推定方法は、測定者の概日リズムを示す概日リズムデータ269を受け付けること(S1101)、及び概日リズムデータ269を用いて、測定者の概日リズムを評価すること(S1102)、をさらに有する。そして、測定者の注意の調整能力を評価すること(S705)は、評価した注意の調整能力及び前記評価した概日リズムに基づいて測定者の主観的な認知機能の低下を推定すること、を含む。
【0086】
また、測定者の注意の調整能力を評価すること(S705)は、所定の判定基準との比較によって選択された1又は複数の特徴に設定されたスコアの合計点に従って測定者の注意の調整能力を評価すること(図10A)、を含む。
【0087】
また、主観的な認知機能の低下を推定する推定方法は、受け付けられた生体指標データ267と行動指標データ268との測定時間のずれが所定時間以内であり、且つ生体指標データ267及び行動指標データ268のそれぞれが測定時間の中で所定時間の平均データが複数計測されていることを条件に生体指標データ267と行動指標データ268とが注意の調整能力の評価に用いることができる質か否かを判定すること(S702)、を有する。
【0088】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、生体指標データ267の複数の特徴及び行動指標データ268の複数の特徴の中から、それぞれが時間的に同期し且つ互いに相関する複数の特徴を選択し、選択した複数の特徴の特徴量と所定の判定基準101(図10A参照)とを比較することによって、測定者の注意の調整能力を評価することができる。そして、この評価した注意の調整能力に基づいて主観的な認知機能の低下を推定することができる。その結果、注意調整能力を用いることで客観的に身体負荷なく認知症の前兆を評価することができ、注意調整能力の改善支援により、超早期の認知症予防が可能となる。
【0089】
また、本実施形態では、主観的な認知機能の低下の推定結果を情報処理端末3の表示装置43や閲覧装置4の表示部に表示することができる(図15A及び図15B)。また、本実施形態では、主観的な認知機能の低下の推定結果の履歴を情報処理端末3の表示装置43や閲覧装置4の表示部に表示することができる(図15D)。これにより、主観的な認知機能の低下の改善又は悪化を把握することができる。
【0090】
また、本実施形態では、推定した主観的な認知機能の低下に対応した主観的な認知機能の低下を改善するための改善推奨情報を表示することができる(図15C)。
【0091】
また、本実施形態では、評価した注意の調整能力だけでなく、評価した注意の調整能力及び評価した概日リズムに基づいて測定者の主観的な認知機能の低下を推定することができる。
【0092】
また、本実施形態では、注意の調整能力の選択、転換、集中、又は分配の要素に応じてスコアを設定することによって、注意の調整能力に起因する要素に重みをつけることができる。これにより、注意の調整能力を正確に評価することができる。
【0093】
また、本実施形態では、生体指標データ267と行動指標データ268との測定時間のずれが所定時間以内であり、且つ生体指標データ267及び行動指標データ268のそれぞれが測定時間の中で所定時間の平均データが複数計測されていることを条件に生体指標データ267と行動指標データ268とが注意の調整能力の評価に用いることができる質か否かを判定する。これにより、質の高い生体指標データ267及び行動指標データ268を用いて、正確に注意の調整能力を評価することができる。
【0094】
<変形例>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0095】
例えば、図10Aの判定基準101の各判定基準(滞留時間の40秒以上など)は、あくまでも例示であって、測定データの蓄積によって各判定基準を変更してもよい。また、図14Aの主観的な認知機能の低下の兆候の程度を分けるスコアは、注意調整能力に係るスコア1~5及び6~10、並びに概日リズムに係るスコア1~5及び6~10に限らない。注意調整能力に係るスコアの幅は、概日リズムに係るスコアの幅と同じでなくてもよいし、注意調整能力に係るスコアの幅及び概日リズムに係るスコアの幅の個数は、1つでもよいし3つ以上でもよい。
【0096】
また、上記した実施形態では、注意の調整能力の評価結果と概日リズムの評価結果とを用いて、主観的な認知機能の低下を推定したが、注意の調整能力の評価結果を用いて(概日リズムの評価結果を用いずに)、主観的な認知機能の低下を推定してもよい。
【符号の説明】
【0097】
1:情報処理システム
2:推定装置(情報処理装置)
3:情報処理端末
4:閲覧装置
5:ネットワーク
20:制御部
21:プロセッサ
22:メモリ
23:入力装置
24:出力装置
25:通信装置
26:ストレージ装置
261:注意調整能力評価プログラム
262:概日リズム評価プログラム
263:SCD推定プログラム
264:注意調整能力評価DB
265:概日リズム評価DB
266:SCD推定DB
267:生体指標データ
268:行動指標データ
269:概日リズムデータ
31:注意調整能力評価部
32:概日リズム評価部
33:SCD推定部
34:出力部
41:プロセッサ
42:メモリ
43:表示装置
44:タッチセンサ
45:通信装置
46:ストレージ装置
461:SCD判定アプリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E