(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176072
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ウォーム減速機
(51)【国際特許分類】
F16H 55/24 20060101AFI20241212BHJP
F16H 1/16 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
F16H55/24
F16H1/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094291
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】川村 尚史
(72)【発明者】
【氏名】菊地 新
(72)【発明者】
【氏名】上田 浩央
(72)【発明者】
【氏名】加藤 嵩裕
【テーマコード(参考)】
3J009
3J030
【Fターム(参考)】
3J009DA09
3J009DA11
3J009EA06
3J009EA19
3J009EA32
3J009ED14
3J009FA08
3J030AA07
3J030AA14
3J030AB05
3J030BA03
(57)【要約】
【課題】静粛性を向上させることのできるウォーム減速機を提供する。
【解決手段】ウォーム減速機は、ウォーム軸と、ウォーム軸と噛合するウォームホイールと、ウォーム軸及びウォームホイールを収容するハウジングと、ウォーム軸の第2端部を支持する第2軸受と、第2軸受を介してウォーム軸をウォームホイールに向けて付勢するコイルばねと、を備える。ハウジングは、ウォーム軸を収容するウォーム軸収容部33を有する。ウォーム軸収容部33には、ウォーム軸収容部33の内周面に開口するとともにコイルばね62を収容するばね穴81が設けられる。ウォーム軸収容部33の内周面におけるばね穴81の縁部には、ばね穴81の中心に対してウォーム軸の周方向両側に位置する凹部87が設けられる。コイルばね62における第2軸受54と接触する先端部の一部は、凹部87内に進入可能である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータに連結される第1端部、及び前記第1端部と反対側の第2端部を有するウォーム軸と、
前記ウォーム軸と噛合するウォームホイールと、
前記ウォーム軸及び前記ウォームホイールを収容するハウジングと、
前記第2端部を支持する軸受と、
前記軸受を介して前記ウォーム軸を前記ウォームホイールに向けて付勢するコイルばねと、を備えるウォーム減速機であって、
前記ハウジングは、前記ウォーム軸を収容するウォーム軸収容部と、前記ウォームホイールを収容するウォームホイール収容部と、を有し、
前記ウォーム軸収容部には、前記ウォーム軸収容部の内周面に開口するとともに前記コイルばねを収容するばね穴が設けられ、
前記ウォーム軸収容部の内周面における前記ばね穴の縁部には、前記ばね穴の中心に対して前記ウォーム軸の周方向両側に位置する凹部が設けられ、
前記コイルばねにおける前記軸受と接触する先端部の一部は、前記凹部内に進入可能である、ウォーム減速機。
【請求項2】
前記凹部は、前記ばね穴の全周に亘って設けられる、請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項3】
前記ウォーム軸収容部の内周面には、前記ウォーム軸の周方向に延びる溝部が設けられ、
前記溝部には、前記溝部の底面と前記軸受の外周面との間に挟持される弾性部材が配置され、
前記溝部は、前記ウォーム軸の軸方向において前記ばね穴の一部と重なっている、請求項1又は2に記載のウォーム減速機。
【請求項4】
前記ばね穴は、前記ウォーム軸収容部の一部によって構成される、請求項1又は2に記載のウォーム減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォーム減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウォーム軸及びウォームホイールを有するウォーム減速機が知られている。ウォーム減速機は、例えば電動パワーステアリング装置において、モータの回転を減速して操舵軸に伝達するために用いられる。
【0003】
電動パワーステアリング装置に用いられるウォーム減速機では、例えば操舵方向の反転時に、ウォーム軸とウォームホイールとの間のバックラッシに起因して歯打ち音が発生することがある。こうした点を踏まえ、例えば特許文献1,2には、ウォーム軸の第1端部をモータ軸に対して傾動可能に連結するとともに、第2端部を付勢部材によってウォームホイールに向けて付勢するように構成されたウォーム減速機が開示されている。こうしたウォーム減速機では、ウォーム軸がウォームホイールに近接することでバックラッシが小さくなり、歯打ち音の発生を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-179237号公報
【特許文献2】特開2012-101638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ウォーム減速機に対する静粛性向上の要請が強まっており、上記のような構成を採用してもなお、要求される水準に達しているとは言い切れないのが実情である。そのため、より高い静粛性を実現することのできる新たな技術の創出が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するウォーム減速機は、モータに連結される第1端部、及び前記第1端部と反対側の第2端部を有するウォーム軸と、前記ウォーム軸と噛合するウォームホイールと、前記ウォーム軸及び前記ウォームホイールを収容するハウジングと、前記第2端部を支持する軸受と、前記軸受を介して前記ウォーム軸を前記ウォームホイールに向けて付勢するコイルばねと、を備えるものであって、前記ハウジングは、前記ウォーム軸を収容するウォーム軸収容部と、前記ウォームホイールを収容するウォームホイール収容部と、を有し、前記ウォーム軸収容部には、前記ウォーム軸収容部の内周面に開口するとともに前記コイルばねを収容するばね穴が設けられ、前記ウォーム軸収容部の内周面における前記ばね穴の縁部には、前記ばね穴の中心に対して前記ウォーム軸の周方向両側に位置する凹部が設けられ、前記コイルばねにおける前記軸受と接触する先端部の一部は、前記凹部内に進入可能である。
【0007】
例えばウォーム軸がその軸線周りに回転する場合に、コイルばねの基端部を支点として先端部がウォーム軸の周方向に振れることがある。その結果、コイルばねの先端部がハウジングに衝突することで打音が発生するおそれがある。この点、上記構成によれば、コイルばねの先端部がウォーム軸の周方向に振れた場合に凹部内に進入するため、先端部がハウジングに衝突しにくくなる。これにより、打音の発生を抑制できる。
【0008】
上記ウォーム減速機において、前記凹部は、前記ばね穴の全周に亘って設けられてもよい。
ウォーム軸がウォーム軸収容部内において軸方向に変位可能に収容される構成では、ウォーム軸の軸方向への変位に伴ってコイルばねの先端部が軸方向に振れることがある。上記構成によれば、このような場合にも、コイルばねの先端部がハウジングに衝突しにくくなり、打音が発生することを抑制できる。また、ウォーム軸の軸方向への変位が規制された構成において凹部をばね穴の全周に亘って設けることで、そのハウジングをウォーム軸の軸方向への変位が許容された構成で用いるハウジングと共通化できる。
【0009】
上記ウォーム減速機において、前記ウォーム軸収容部の内周面には、前記ウォーム軸の周方向に延びる溝部が設けられ、前記溝部には、前記溝部の底面と前記軸受の外周面との間に挟持される弾性部材が配置され、前記溝部は、前記ウォーム軸の軸方向において前記ばね穴の一部と重なっていてもよい。
【0010】
上記構成によれば、例えばウォーム軸と一体で軸受がウォームホイールから離れる方向に変位する場合に、弾性部材が圧縮されることで、軸受の変位速度(勢い)が減衰される。これにより、軸受がウォーム軸収容部の内周面に衝突することに起因する異音の発生を抑制できる。一方、上記構成では、ばね穴の内周面の一部が溝部によって切り欠かれるため、コイルばねの先端部が振れやすくなる。そのため、上記構成においてばね穴の縁部に凹部を設けることの効果は大である。
【0011】
上記ウォーム減速機において、前記ばね穴は、前記ウォーム軸収容部の一部によって構成されてもよい。
上記構成によれば、例えばウォーム軸収容部に取り付けられる筒状の部材によってばね穴を構成する場合と異なり、ウォーム減速機の部品点数の増加を防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ウォーム減速機の静粛性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態の電動パワーステアリング装置の概略構成図である。
【
図2】
図1の電動パワーステアリング装置に設けられたウォーム減速機のウォーム軸の軸方向に沿った部分断面図である。
【
図3】
図2のウォーム減速機におけるコイルばね近傍の拡大断面図である。
【
図4】
図2のウォーム減速機のウォーム軸収容部を、エンドカバー及び弾性部材を外した状態で軸方向から見た側面図である。
【
図5】
図2のウォーム減速機におけるウォーム軸収容部の一部、コイルばね、キャップ、及び弾性部材の分解斜視図である。
【
図6】
図3のVI-VI線断面図であって、ウォーム減速機における弾性部材近傍のウォーム軸の軸方向と直交する断面図である。
【
図7】
図3のVII-VII線断面図であって、ウォーム減速機におけるコイルばね近傍のウォーム軸の軸方向と直交する断面図である。
【
図8】変形例のウォーム減速機におけるコイルばね近傍のウォーム軸の軸方向と直交する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、ウォーム減速機を電動パワーステアリング装置に適用した一実施形態を図面に従って説明する。
本明細書における「筒状」は、全体として筒状と見なせればよく、複数の部品又は部分を組み合わせて筒状をなすものや、C字状のように一部に切欠き等を有するものも含む。「筒状」の形状には、軸方向視で、円形、楕円形、及び鋭い又は丸い角を持つ多角形が含まれるが、これらに限定されない。また、本明細書における「対向」とは、面同士又は部材同士が互いに正面の位置にあることを指し、互いが完全に正面の位置にある場合だけでなく、互いが部分的に正面の位置にある場合を含む。また、本明細書における「対向」とは、2つの部分の間に、2つの部分とは別の部材が介在している場合と、2つの部分の間に何も介在していない場合の両方を含む。
【0015】
(全体構成)
図1に示すように、電動パワーステアリング装置1は、運転者によるステアリングホイール2の操作に基づいて転舵輪3を転舵させる操舵機構4と、操舵機構4にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置5を備えている。
【0016】
操舵機構4は、ステアリングホイール2が固定される操舵軸11と、操舵軸11に連結されたラック軸12と、操舵軸11の回転をラック軸12の往復動に変換するラックアンドピニオン機構13を備えている。なお、操舵軸11は、ステアリングホイール2が位置する側から順にコラム軸14、中間軸15及びピニオン軸16を連結することにより構成されている。
【0017】
ラックアンドピニオン機構13は、ラック軸12のラック歯をピニオン軸16のピニオン歯に噛合させることにより構成されている。ラック軸12の両端には、図示しないボールジョイントを介してタイロッド17がそれぞれ回動自在に連結されている。タイロッド17の先端は、転舵輪3が組付けられた図示しないナックルに連結される。したがって、電動パワーステアリング装置1では、ステアリング操作に伴う操舵軸11の回転がラックアンドピニオン機構13によりラック軸12の軸方向移動に変換される。そして、ラック軸12の軸方向移動がタイロッド17を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪3の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0018】
操舵力補助装置5は、駆動源であるモータ21と、ウォーム減速機22とを備えている。ウォーム減速機22は、モータ21に連結されたウォーム軸23と、コラム軸14に連結されたウォームホイール24とを備えている。そして、電動パワーステアリング装置1は、モータ21の回転をウォーム減速機22により減速してコラム軸14に伝達することで、操舵機構4にアシスト力を付与する。
【0019】
(ウォーム減速機22)
図2に示すように、ウォーム減速機22は、ウォーム軸23及びウォームホイール24に加え、これらを収容するハウジング31を備えている。ハウジング31は、モータ21を固定するためのモータ取付部32と、ウォーム軸23を収容するウォーム軸収容部33と、ウォームホイール24を収容するウォームホイール収容部34とを有している。
【0020】
モータ取付部32は、例えば一端に端壁を有する筒状をなしている。ウォーム軸収容部33は、例えば長尺の筒状をなしている。ウォーム軸収容部33は、モータ取付部32と同軸上に配置されるように、モータ取付部32の端壁に連続して設けられている。ウォーム軸収容部33は、軸方向の両側に開口しており、ウォーム軸収容部33の内部は、モータ取付部32の内部と連通している。以下の説明では、ウォーム軸収容部33におけるモータ取付部32に連続する側(
図2における右側)を第1側といい、その反対側(
図2における左側)を第2側という。すなわち、ウォーム軸収容部33における第1側の第1開口部35は、モータ取付部32における端壁の内底面に開口している。ウォーム軸収容部33における第2側の第2開口部36は、エンドカバー37によって閉塞されている。ウォームホイール収容部34は、例えば筒状をなしている。ウォームホイール収容部34は、ウォーム軸収容部33の周壁の一部と重なるように設けられている。これにより、ウォームホイール収容部34の内部は、ウォーム軸収容部33の内部と連通している。
【0021】
モータ取付部32には、モータ21の一部がモータ取付部32の開口端に嵌合して固定されている。モータ21の回転軸であるモータ軸41は、モータ21がモータ取付部32に固定された状態で、モータ取付部32の内部に突出している。
【0022】
ウォーム軸収容部33には、ウォーム軸23がその軸線周りに回転可能に収容されている。具体的には、ウォーム軸23は、モータ軸41に連結される第1端部51と、第1端部51と反対側の第2端部52とを有している。そして、第1端部51は、ウォーム軸収容部33の第1開口部35に設けられた第1軸受53により回転可能に支持されるとともに、第2端部52はウォーム軸収容部33の第2開口部36に設けられた第2軸受54により回転可能に支持されている。第1及び第2軸受53,54は、例えばボール軸受であってもよい。
【0023】
ウォームホイール収容部34には、ウォーム軸23と噛合した状態のウォームホイール24が回転可能に収容されている。ウォームホイール24は、コラム軸14と一体回転可能に連結に連結されている。これにより、モータ21の回転は、ウォーム軸23及びウォームホイール24により減速されてコラム軸14に伝達される。
【0024】
ここで、ウォーム軸23は、軸継手61を介して第1端部51がモータ軸41に対して傾動可能に連結されるとともに、第2端部52が付勢部材であるコイルばね62によりウォームホイール24に向けて(
図2における略下方向)に付勢されている。本実施形態では、コイルばね62は、その座巻部が第2軸受54の外輪の外周面に直接接触して第2軸受54を付勢している。つまり、コイルばね62の座巻部が先端部に相当する。これにより、ウォーム減速機22では、ウォーム軸23とウォームホイール24との間の軸間距離を調整してバックラッシを減少させている。以下、バックラッシ減少構造について、詳細に説明する。
【0025】
(バックラッシ減少構造)
ウォーム軸23の第1端部51を支持する第1軸受53は、その内部隙間が比較的大きく設定されており、ウォーム軸23の傾動が許容されている。第1軸受53は、固定部材55によってウォーム軸収容部33の第1開口部35に固定されている。具体的には、第1軸受53は、固定部材55によって、第1開口部35とウォーム軸収容部33の中央部との間の段差に押さえつけられることで、第1開口部35に固定されている。これにより、本実施形態では、ウォーム軸23の軸方向への変位が規制されている。
【0026】
ウォーム軸収容部33の第2開口部36の内径は、ウォーム軸23の第2端部52を支持する第2軸受54の外径よりも大きく設定されている。これにより、第2軸受54は、第2開口部36内において、径方向に移動可能に設けられている。したがって、ウォーム軸23は、第1及び第2軸受53,54によってモータ軸41に対する傾動が許容された状態で回転可能に支持されている。なお、第2軸受54の外輪の外周面と第2開口部36の内周面との間には、後述するように弾性部材63が設けられている。
【0027】
軸継手61は、ウォーム軸23をモータ軸41に対して傾動可能かつトルク伝達可能に連結している。本実施形態の軸継手61は、互いに対向する方向に突出する複数の係合爪71,72を有する一対の継体(ヨーク)73,74と、継体73,74間に介在される弾性体75とを備えている。継体73は、モータ軸41と一体回転するように連結され、継体74は、ウォーム軸23と一体回転するように連結されている。軸継手61は、継体73,74間で弾性体75が圧縮されることにより、モータ軸41に対するウォーム軸23の傾動を許容している。また、軸継手61は、弾性体75を介して係合爪71,72同士が係合することによりモータ軸41とウォーム軸23との間でトルクを伝達する。
【0028】
図3に示すように、ウォーム軸収容部33の第2開口部36には、ウォーム軸収容部33の内周面に開口するとともに、コイルばね62を収容するばね穴81が設けられている。ばね穴81の内径は、コイルばね62の外径よりも僅かに大きく設定されている。これにより、ばね穴81は、コイルばね62が圧縮される際に座屈しないように、該コイルばね62の伸縮をガイドする。また、ばね穴81の内径は、第2軸受54の軸方向に沿った長さよりも小さい。ばね穴81の中心は、第2軸受54の軸方向における中央と径方向に対向している。そのため、ばね穴81の全体が第2軸受54と径方向に対向している。ばね穴81は、ウォーム軸23の軸線を基準として、ウォーム軸収容部33におけるウォームホイール24と反対側の部位に設けられている。以下の説明では、ウォーム軸23の軸線に対してばね穴81が設けられた側を上側といい、その反対側、すなわちウォームホイール24が配置された側を下側ということがある。
【0029】
ウォーム軸収容部33は、ばね穴81の上側に連続するとともに、ウォーム軸収容部33の外部に開口する挿入孔82を有している。図示の例では、挿入孔82の内径は、ばね穴81の内径よりも大きく設定されている。挿入孔82は、例えば円柱状のキャップ83が挿入されることにより閉塞されている。
【0030】
図3、
図4及び
図5に示すように、ウォーム軸収容部33の第2開口部36の内周面には、第1側から順に、溝部84と嵌合部85とが設けられている。なお、
図5では、説明の便宜上、ウォーム軸収容部33の一部を半断面図で示すとともに、コイルばね62、キャップ83、及び弾性部材63以外の部材の図示を省略している。
【0031】
溝部84は、ウォーム軸収容部33の内周面の全周に亘って延びている。溝部84は、第2軸受54の軸方向範囲全体ではなく、第2軸受54の軸方向範囲の一部のみと径方向に対向している。図示の例では、溝部84は、第2軸受54の軸方向範囲における第2側の半分よりもやや狭い範囲と対向している。これにより、溝部84は、ウォーム軸23の軸方向においてばね穴81の一部と重なっている。すなわち、ウォーム軸収容部33において、溝部84の設けられた軸方向範囲は、ばね穴81の設けられた軸方向範囲と重複している。そして、ウォーム軸収容部33におけるばね穴81の内周面を規定する部分のうち、第2側寄りの部分が溝部84によって切り欠かれている。また、溝部84の内周面における上側部分には、係合穴86が設けられている。係合穴86は、例えばウォーム軸収容部33の内周側から見て長方形状をなすとともに、溝部84の内周面及び第2側に開口している。
【0032】
嵌合部85は、溝部84の第2側に連続して設けられている。嵌合部85は、ウォーム軸収容部33の内周面の全周に亘って延びている。嵌合部85の内径は、溝部84の内径よりも大きく設定されている。嵌合部85には、エンドカバー37が固定されている。
【0033】
図3、
図5及び
図6に示すように、溝部84には、例えばゴム材料等からなる弾性部材63が設けられている。弾性部材63は、概ね半円筒状の本体部91と、本体部91の周方向両端部同士を本体部91の第2側において連結する連結部92と、本体部91の周方向中央部から径方向外側に突出する突出部93とを有している。本体部91におけるコイルばね62と対向する位置には、第1側に開口した切欠き94が設けられている。切欠き94は、例えば半円状をなしている。そして、
図6に示すように、弾性部材63は、本体部91が溝部84の底面と第2軸受54の外輪の外周面との間で挟持されるようにウォーム軸収容部33に取り付けられている。本実施形態の本体部91は、第2軸受54の上側半分よりもやや大きな周方向範囲に亘って延在している。切欠き94により、弾性部材63がコイルばね62に干渉することが防止されている。
図3に示すように、弾性部材63が取り付けられた状態で、突出部93は、係合穴86内に配置されている。これにより、弾性部材63がウォーム軸23の軸線周りに回転することが規制されている。
【0034】
ここで、本発明者らは、鋭意研究の結果、ウォーム軸23がその軸線周りに回転する場合に、コイルばね62の基端部を支点として先端部がウォーム軸23の周方向に振れることがあることを発見した。より具体的には、例えば悪路走行時等において、ウォーム軸23がその軸線周りに繰り返し細かく回転する回転振動が発生した場合に、コイルばね62の先端部がウォーム軸23の周方向に振れることがあることを発見した。特に、本実施形態のようにウォーム軸収容部33におけるばね穴81の内周面を規定する一部が切り欠かれている構成では、コイルばね62が振れやすくなる。このようにコイルばね62の先端部が基端部を支点として振れる場合、先端部の変位(加速度)が大きくなるため、先端部がハウジング31に衝突すると、打音が発生するおそれがある。
【0035】
この点を踏まえ、
図7に示すように、ウォーム軸収容部33の内周面におけるばね穴81の縁部には、ばね穴81の中心に対してウォーム軸23の周方向両側に位置する凹部87が設けられている。本実施形態では、凹部87は、ばね穴81の中心に対してウォーム軸23の周方向両側の位置だけでなく、ばね穴81の全周に亘って設けられている。なお、上記のようにばね穴81の一部は溝部84と重なっていることから、凹部87も溝部84と重なっている。凹部87内には、他の部材が配置されておらず、コイルばね62の先端部の一部は、他の部材に接触することなく、凹部87内に進入可能となっている。
【0036】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)ウォーム軸収容部33の内周面におけるばね穴81の縁部には、ばね穴81の中心に対してウォーム軸23の周方向両側に位置する凹部87が設けられ、コイルばね62の先端部の一部は、凹部87内に進入可能である。上記構成によれば、コイルばね62の先端部がウォーム軸23の周方向に振れた場合に凹部87内に進入するため、先端部がハウジング31に衝突しにくくなる。これにより、打音の発生を抑制できる。なお、コイルばね62の先端部が基端部を支点として振れる場合、コイルばね62の中央部の変位は大きくないため、ハウジング31に接触しても打音は発生しにくい。
【0037】
(2)凹部87は、ばね穴81の全周に亘って設けられている。ここで、例えば特許文献2に記載のように、ウォーム軸23がウォーム軸収容部33内において軸方向に変位可能に収容される構成では、ウォーム軸23の軸方向への変位に伴ってコイルばね62の先端部が軸方向に振れることがある。上記構成によれば、コイルばね62の先端部が軸方向に振れる場合にも、コイルばね62の先端部がハウジング31に衝突しにくくなり、打音が発生することを抑制できる。また、本実施形態のようにウォーム軸23の軸方向への変位が規制された構成において凹部87をばね穴81の全周に亘って設けることで、ハウジング31をウォーム軸23の軸方向への変位が許容された構成で用いるハウジングと共通化できる。
【0038】
(3)ウォーム軸収容部33の内周面には、第2軸受54の周方向に延びる溝部84が設けられ、溝部84には、溝部84の底面と第2軸受54の外周面との間に挟持される弾性部材63が配置される。溝部84は、ウォーム軸23の軸方向においてばね穴81の一部と重なっている。
【0039】
上記構成によれば、例えばウォーム軸23と一体で第2軸受54がウォームホイール24から離れる方向に変位する場合に、弾性部材63が圧縮されることで、第2軸受54の変位速度(勢い)が減衰される。これにより、第2軸受54がウォーム軸収容部33の内周面に衝突することに起因する異音の発生を抑制できる。一方、上記構成では、ばね穴81の内周面の一部が溝部84によって切り欠かれるため、コイルばね62の先端部が振れやすくなる。そのため、上記構成においてばね穴81の縁部に凹部87を設けることの効果は大である。
【0040】
(4)ばね穴81は、ウォーム軸収容部33の一部によって構成される。上記構成によれば、例えばウォーム軸収容部33に取り付けられる筒状の部材によってばね穴81を構成する場合と異なり、ウォーム減速機22の部品点数の増加を防止できる。
【0041】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、コイルばね62の座巻部が第2軸受54の外周面に接触して第2軸受54を付勢した。しかし、これに限らず、座巻部に対してコイルばね62の巻線部分とは別部材の受け部材を固定し、この受け部材を介して第2軸受54を付勢してもよい。このようにコイルばね62が受け部材を含む構成では、コイルばね62の先端部は受け部材を含み得る。
【0042】
・上記実施形態では、ウォーム軸収容部33(ハウジング31)の一部によってばね穴81を構成したが、これに限らず、ウォーム軸収容部33に取り付けられる筒状の部材によってばね穴81を構成してもよい。
【0043】
例えば、
図8に示す例では、ウォーム軸収容部33には、ばね穴81に代えて、コイルばね62の外径よりも十分に大きな内径を有する大径穴101が設けられている。そして、大径穴101には、筒状のカラー102が嵌合されている。カラー102は、例えば樹脂材料により構成されるが、これに限らず、金属材料やゴム材料等により構成されてもよい。カラー102は、その軸方向全域に亘って延びるスリットを有していてもよい。カラー102の内径は、コイルばね62の外径よりも僅かに大きく設定されている。つまり、この例では、カラー102の内周がばね穴81aとして用いられている。
【0044】
また、同図に示す例では、カラー102の軸方向に沿った長さは、大径穴101の軸方向に沿った長さよりも短い。そして、カラー102は、その一端部がキャップ83に当接するように大径穴101に嵌合されている。これにより、カラー102の他端部は、ウォーム軸収容部33の内周面までは延在しておらず、カラー102の他端部と第2軸受54の外輪との間には、隙間が形成されている。換言すると、カラー102の他端部、すなわちばね穴81aの縁部は、ウォーム軸収容部33の内周面に対して凹んでいる。この凹んだ部分には、コイルばね62の先端部の一部が進入可能であり、当該部分が凹部87aとして機能する。この構成では、ウォーム軸収容部33にばね穴81及び凹部87を設ける場合に比べ、ウォーム軸収容部33の形状を簡素化できる。
【0045】
・上記実施形態において、溝部84は、弾性部材63の本体部91が配置される周方向範囲に亘って延びていればよく、ウォーム軸収容部33の内周面における全周に亘って延びていなくてもよい。
【0046】
・上記実施形態において、弾性部材63は、溝部84の底面と第2軸受54の外周面との間に挟持される部分を有していればよく、その形状は適宜変更可能である。例えば、弾性部材63は、連結部92や突出部93を有していなくてもよい。また、本体部91は、半円筒状でなくてもよい。
【0047】
・上記実施形態において、ウォーム減速機22は、弾性部材63を備えていなくてもよい。この場合、ウォーム軸収容部33に溝部84を設けなくてもよい。
・上記実施形態において、凹部87は、ばね穴81の中心から見てウォーム軸23の周方向両側に設けられていればよく、例えばばね穴81の中心から見てウォーム軸23の軸方向に凹部が設けられていなくてもよい。
【0048】
・上記実施形態において、例えば第1軸受53の軸方向両側に弾性リングを設けることにより、ウォーム軸23をウォーム軸収容部33内において軸方向に変位可能に収容してもよい。
【0049】
・上記実施形態では、ウォーム減速機22を電動パワーステアリング装置1に適用したが、これに限らず、他の装置に適用してもよい。
次に、上記実施形態及び変形例から把握できる技術的思想について、その効果とともに以下に追記する。
【0050】
(付記1)前記ばね穴は、前記ウォーム軸収容部に取り付けられる筒状の部材によって構成されてもよい。
上記構成によれば、ウォーム軸収容部にばね穴及び凹部を設ける場合に比べ、ウォーム軸収容部の形状を簡素化できる。
【符号の説明】
【0051】
21…モータ
22…ウォーム減速機
23…ウォーム軸
24…ウォームホイール
31…ハウジング
33…ウォーム軸収容部
34…ウォームホイール収容部
51…第1端部
52…第2端部
62…コイルばね
63…弾性部材
81,81a…ばね穴
84…溝部
87,87a…凹部