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特開2024-176073CD39発現促進剤及び肌免疫細胞の鎮静化作用を高める組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176073
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】CD39発現促進剤及び肌免疫細胞の鎮静化作用を高める組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20241212BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241212BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 31/11 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 31/07 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 31/09 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 31/341 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20241212BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20241212BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P17/00
A61K31/353
A61K31/7048
A61K31/11
A61K31/07
A61K31/19
A61K31/05
A61K31/09
A61K31/12
A61K31/341
A61K8/49
A61K8/67
A61K8/34
A61K8/35
A61Q19/08
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094294
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】591045471
【氏名又は名称】アピ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐溝 恭子
(72)【発明者】
【氏名】家垣 典幸
【テーマコード(参考)】
4C083
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AC211
4C083AC471
4C083AC841
4C083AD621
4C083CC02
4C083EE12
4C083EE13
4C084AA17
4C084MA52
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZC411
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA03
4C086BA08
4C086EA11
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZC41
4C206CA10
4C206CA19
4C206CA34
4C206CB03
4C206CB19
4C206DA12
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZA89
4C206ZC41
(57)【要約】
【課題】優れたCD39発現促進作用を発揮できるCD39発現促進剤等を提供する。
【解決手段】本発明のCD39発現促進剤は、フラバノン骨格を有する化合物、体内でビタミンA活性を有する化合物、カルコノイド骨格を有する化合物、リグナン類、及びスチルべノイドから選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラバノン骨格を有する化合物、体内でビタミンA活性を有する化合物、カルコノイド骨格を有する化合物、リグナン類、及びスチルべノイドから選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とするCD39発現促進剤。
【請求項2】
皮膚ランゲルハンス細胞におけるCD39の発現を促進する請求項1に記載のCD39発現促進剤。
【請求項3】
前記フラバノン骨格を有する化合物は、フラバノン類及びフラバノン類の配糖体から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のCD39発現促進剤。
【請求項4】
前記体内でビタミンA活性を有する化合物は、レチナール、レチノール、レチノイン酸、及びプロビタミンAから選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のCD39発現促進剤。
【請求項5】
前記スチルべノイドは、レスベラトロール、ピセアタンノール、プテロスチルベン、及びそれらのオリゴマーから選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のCD39発現促進剤。
【請求項6】
フラバノン骨格を有する化合物、体内でビタミンA活性を有する化合物、カルコノイド骨格を有する化合物、リグナン類、及びスチルべノイドから選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする肌免疫細胞の鎮静化作用を高める組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD39発現促進剤及び肌免疫細胞の鎮静化作用を高める組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の最外層である表皮は、厚さが約0.2mmの薄膜であり、外部からの異物の侵入、水分の蒸散を防ぐバリアとしての役割を有する。表皮は、外側から角層、顆粒層、有棘層、基底層の4層から形成され、ケラチノサイト、顆粒細胞、表皮内樹状細胞であるランゲルハンス細胞、メラノサイト等の細胞により構成されている。
【0003】
近年の研究により、ランゲルハンス細胞が、皮膚免疫機能における重要な役割を果たすことが分かってきている。ランゲルハンス細胞の表面は、ATPaseとして働くCD39という酵素で覆われている。このCD39が刺激応答因子であるATP量を低下させ、炎症の鎮静化に寄与し、紫外線や物理的刺激による皮膚障害を低減すると考えられている。ランゲルハンス細胞が刺激応答因子を鎮静化する自己防御機能は、加齢、ストレス等によって低下することが知られている。加齢、ストレス等により、自己防御機能が低下した肌では、角層のバリア機能の低下、真皮のコラーゲン線維の破壊等により、肌あれ、肌の弾力低下といった肌の不調が生ずる。
【0004】
従来より、CD39の発現量を増加させる成分、ランゲルハンス細胞の減少抑制又は活性化させる成分が研究されてきた。特許文献1は、カルボキシメチル・βグルカン又はその塩、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンランダム共重合体ジメチルエーテル、及びローズ水からなる3成分を含む、CD39遺伝子発現促進剤について開示する。特許文献2は、ダルマギク抽出物を含有することを特徴とする皮膚ランゲルハンス細胞におけるCD39発現促進剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2017-511790号公報
【特許文献2】特許第6887649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
優れたCD39発現促進作用を発揮できるCD39発現促進剤及び肌免疫細胞の鎮静化作用を高める組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、フラバノン骨格を有する化合物等の特定の化合物が、優れたCD39発現促進作用を発揮することを新たに見出した。
上記課題を解決する各態様を記載する。
【0008】
態様1のCD39発現促進剤は、フラバノン骨格を有する化合物、体内でビタミンA活性を有する化合物、カルコノイド骨格を有する化合物、リグナン類、及びスチルべノイドから選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする。
【0009】
態様2は、態様1に記載のCD39発現促進剤において、皮膚ランゲルハンス細胞におけるCD39の発現を促進する。
態様3は、態様1又は2に記載のCD39発現促進剤において、前記フラバノン骨格を有する化合物は、フラバノン類及びフラバノン類の配糖体から選ばれる少なくとも一種である。
【0010】
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載のCD39発現促進剤において、前記体内でビタミンA活性を有する化合物は、レチナール、レチノール、レチノイン酸、及びプロビタミンAから選ばれる少なくとも一種である。
【0011】
態様5は、態様1~4のいずれか一態様に記載のCD39発現促進剤において、前記スチルべノイドは、レスベラトロール、ピセアタンノール、プテロスチルベン、及びそれらのオリゴマーから選ばれる少なくとも一種である。
【0012】
態様6の肌免疫細胞の鎮静化作用を高める組成物は、フラバノン骨格を有する化合物、体内でビタミンA活性を有する化合物、カルコノイド骨格を有する化合物、リグナン類、及びスチルべノイドから選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると優れたCD39発現促進作用又は肌免疫細胞の鎮静化作用を高める作用を発揮できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るCD39発現促進剤を具体化した実施形態について説明する。本実施形態のCD39発現促進剤は、フラバノン骨格を有する化合物、体内でビタミンA活性を有する化合物、カルコノイド骨格を有する化合物、リグナン類、及びスチルべノイドから選ばれる少なくとも一種を含有する。これらの化合物は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0015】
(有効成分)
フラバノン骨格を有する化合物としては、例えばフラバノン類、7位が二糖でグリコシル化されたフラバノン類の配糖体等が挙げられる。
【0016】
フラバノン骨格を有する化合物の具体例としては、例えば、7-ヒドロキシフラバノン、ブチン、エリオジクチオール、ヘスペレチン、イソサクラネチン、ホモエリオジクチオール、ナリンゲニン、サクラネチン、ステルビン、ピノセムブリン等のフラバノン類、3-ヒドロキシフラバノン(フラバノノール)等が挙げられる。
【0017】
これらの中で、より優れたCD39発現促進作用を有する観点からフラバノン類及びフラバノン類の配糖体が好ましく、ナリンゲニン、7-ヒドロキシフラバノン、イソサクラネチン、ヘスペレチンがより好ましい。
【0018】
体内でビタミンA活性を有する化合物の具体例としては、例えばレチノール(ビタミンA)、レチナール、レチノイン酸、トレチノイン、ビタミンA誘導体等のレチノイド、α-カロテン、β-カロテン、γ-カロテン、β-クリプトキサンチン、レチニルエステル等のプロビタミンAが挙げられる。
【0019】
これらの中で、より優れたCD39発現促進作用を有する観点からレチナール、レチノール、レチノイン酸、プロビタミンAが好ましく、レチナール、レチノール、レチノイン酸、β-カロテンがより好ましい。
【0020】
カルコノイド骨格を有する化合物としては、例えばカルコン又はその誘導体であるカルコン類が挙げられる。カルコノイド骨格を有する化合物の具体例としては、例えばカルコン、イソリキリチゲニン、ブテイン、カルタミン、ロットレリン、2,2’,4’-トリヒドロキシカルコン等が挙げられる。
【0021】
これらの中で、より優れたCD39発現促進作用を有する観点からイソリキリチゲニン、ブテイン、2,2’,4’-トリヒドロキシカルコンが好ましい。
リグナン類は、ベンゼン環とそれに結合する3つの炭素鎖、すなわちフェニルプロパノイドであるC6-C3単位が2又は3単位結合した天然物有機化合物群を示す。リグナン類の具体例としては、例えばセサミン、セサモール、セサミノール、セサモリノール、セサモリン、ホノキオール、マグノロール、ピノレシノール、ポドフィロトキシン、ステガナシン、エンテロジオール、エンテロラクトン、ラリシレシノール、セコイソラリシレシノール、マタイレシノール、ヒドロキシマタイレシノール、シリンガレシノール、アルクチゲニン等が挙げられる。これらの中で、より優れたCD39発現促進作用を有する観点から、セサミン、セサモール、ホノキオール、マグノロールが好ましい。
【0022】
スチルべノイドの具体例としては、例えばレスベラトロール、ピセアタンノール、プテロスチルベン、ピノシルビン等が挙げられる。スチルベノイドは、アグリコン型の他、それらのオリゴマー、それらの配糖体等であってもよい。
【0023】
これらの中で、より優れたCD39発現促進作用を有する観点からレスベラトロール、ピセアタンノール、プテロスチルベン、それらのオリゴマー、それらの配糖体等が挙げられる。
【0024】
フラバノン骨格を有する化合物、体内でビタミンA活性を有する化合物、カルコノイド骨格を有する化合物、リグナン類、及びスチルべノイドから選ばれる少なくとも一種の配合形態としては、特に限定されず、例えば天然素材からの抽出品、精製品、生化学品、及び化学合成品を適用することができる。また、市販品を適用してもよい。
【0025】
(他の有効成分)
本発明に係るCD39発現促進作用を有する他の有効成分として下記が挙げられる。他の有効成分としては、イソフラボン類のダイゼイン、セスキテルペン類のファルネソール、トリテルペン類のギンセノシドRg1、オリゴ糖類のコージビオース、タンニン類のウロリチンAが挙げられる。
【0026】
(作用)
本実施形態のCD39発現促進剤は、上述した各化合物により優れたCD39遺伝子の発現量を促進する作用を有する。特に皮膚ランゲルハンス細胞におけるCD39遺伝子の発現量を促進する。ランゲルハンス細胞の表面は、ATPaseとして働くCD39という酵素で覆われている。本実施形態のCD39発現促進剤は、このCD39が鎮静化酵素として細胞外の刺激応答因子であるATP量を低下させる。CD39発現促進作用により、ランゲルハンス細胞が細胞外のATPの分解を介して、肌免疫細胞の鎮静化作用の向上、炎症刺激応答の鎮静化に寄与することが期待される。それにより、例えば紫外線、物理的刺激による皮膚障害を低減する作用を発揮することが期待される。また、例えば加齢、ストレス等により、ランゲルハンス細胞による炎症刺激応答を鎮静化する自己防御機能が低下した肌において、角層のバリア機能の低下、真皮のコラーゲン線維の破壊等により、肌あれ、肌の弾力低下といった肌の不調が生ずることが知られている。そのため、CD39発現促進剤により、炎症、肌あれ、肌の弾力低下、肌の老化、しみ、シワ、たるみ、菲薄化等の各症状の抑制、低減、悪化の防止等の効能の発揮が期待される。
【0027】
(使用形態)
本実施形態のCD39発現促進剤の具体的な配合形態としては、上記の作用効果を得ることを目的とした皮膚外用剤、医薬品、医薬部外品、化粧料、飲食品、及び試験・研究用試薬等として適用することができる。皮膚は、外側から表皮、基底膜、及び真皮から主に構成される。本実施形態のCD39発現促進剤は、特に皮膚表面への塗布により、その作用効果を有効に発揮することができる。したがって、上記配合形態のうち、CD39発現促進作用を得ることを目的とした化粧料又は皮膚外用剤として適用されることが好ましい。尚、本実施形態のCD39発現促進剤を皮膚外用剤、化粧料、及び飲食品として適用する場合は、従来品と区別するために、上記作用・効果、例えばCD39発現促進、肌免疫細胞の鎮静化作用の向上、炎症刺激応答の鎮静化の他、それらの作用・効果に伴う炎症、肌あれ、肌の弾力低下、肌の老化、しみ、シワ、たるみ、菲薄化等の各症状の抑制、低減、悪化の防止等の効果を得ることを目的とする旨の表示を付すことが好ましい。
【0028】
本実施形態のCD39発現促進剤を化粧料に適用する場合、化粧料基材に配合することにより製造することができる。化粧料の形態は、乳液状、クリーム状、粉末状等のいずれであってもよい。このような化粧料を肌に適用することにより、CD39発現促進の効果を得ることができる。化粧料基剤は、一般に化粧料に共通して配合されるものであって、例えば、油分、精製水及びアルコールを主要成分として、界面活性剤、保湿剤、酸化防止剤、増粘剤、抗脂漏剤、血行促進剤、美白剤、pH調整剤、色素顔料、防腐剤及び香料から選択される少なくとも一種が適宜配合される。
【0029】
本実施形態のCD39発現促進剤を医薬品又は医薬部外品として使用する場合は、好ましくは皮膚外用剤の形態が採用される。剤形としては、特に限定されないが、例えば、軟膏、液剤、スプレー剤、シート剤、散剤、粉剤が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。その他、本実施形態のCD39発現促進剤を医薬品又は医薬部外品として使用する場合は、服用(経口摂取)により投与する場合の他、皮下注射、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0030】
本実施形態のCD39発現促進剤を飲食品に適用する場合、CD39発現促進剤を飲食品そのものとして、又は種々の食品素材又は飲料品素材に配合して使用することができる。飲食品の形態としては、特に限定されず、液状、粉末状、ゲル状、固形状のいずれであってもよく、また剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤のいずれであってもよい。その中でも、吸湿性が抑えられることから、カプセル剤であることが好ましい。前記飲食品としては、その他の成分としてゲル化剤含有食品、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
【0031】
食品組成物の用途としては、特に限定されず、いわゆる(1)一般食品、(2)栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品、サプリメント等の健康食品、(3)特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、機能性食品等の保健機能食品、(4)病者用食品等の特別用途食品等が挙げられる。飲食品において用途の表示を付す場合、各種法律、施行規則、ガイドライン等によって定められた表示が挙げられる。飲食品において用途の表示をする場合、飲食品において用途の表示には、包装、容器等のパッケージへの表示の他、パンフレット等の広告媒体への表示も含まれる。CD39発現促進剤の用途の表示をする場合、CD39発現促進作用、肌免疫細胞の鎮静化作用の向上、炎症刺激応答の鎮静化等の表示が挙げられる。また、それらの作用・効果に伴う炎症、肌あれ、肌の弾力低下、肌の老化、しみ、シワ、たるみ、菲薄化等の各症状の抑制、低減、悪化の防止等の表示が挙げられる。
【0032】
本実施形態のCD39発現促進剤は、CD39発現促進作用を有する試薬の形態で実験用・研究用試薬として適用してもよい。CD39発現が関係する生理作用のメカニズムの解明又は各種症状の治療法等の研究・開発等の分野において、好適に用いられる。
【0033】
本実施形態のCD39発現促進剤中における上記有効成分(固形分)の含有量は、使用する溶媒等の他の含有成分、目的等に応じ、適宜決定されるが、前記有効成分によるCD39発現促進作用を高める観点及び経済性の観点から、好ましくは0.0001~10質量%含有する。
【0034】
本実施形態のCD39発現促進剤の効果について説明する。
(1)本実施形態のCD39発現促進剤では、上述したフラバノン骨格を有する化合物、体内でビタミンA活性を有する化合物、カルコノイド骨格を有する化合物、リグナン類、及びスチルべノイドから選ばれる少なくとも一種を含有するように構成した。したがって、優れたCD39発現促進作用を発揮する。特に、皮膚ランゲルハンス細胞におけるCD39の発現を促進する。CD39発現促進により、ランゲルハンス細胞が細胞外のATPの分解を介して、肌免疫細胞の鎮静化作用の向上、炎症刺激応答の鎮静化に寄与する。そして、紫外線や物理的刺激による皮膚障害を低減する作用を発揮することが期待される。また、CD39発現促進剤により、炎症、肌あれ、肌の弾力低下、肌の老化、しみ、シワ、たるみ、菲薄化等の各症状の抑制、低減、悪化の防止等の効能の発揮が期待される。
【0035】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態において、CD39発現促進作用を得る観点から有効成分としてフラバノン骨格を有する化合物等を使用した。
【0036】
その他、有効成分として、フラバノン骨格を有する化合物、体内でビタミンA活性を有する化合物、カルコノイド骨格を有する化合物、リグナン類、及びスチルべノイドから選ばれる少なくとも一種を含有する肌免疫細胞の鎮静化作用を高める組成物、炎症刺激応答の鎮静化作用を高める組成物、肌の老化抑制剤、又はランゲルハンス細胞活性化剤として構成してもよい。
【実施例0037】
以下、本発明の構成及び効果について実施例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<試験例1:CD39遺伝子発現量の測定>
下記に示される方法及び被験試料を使用し、各被験試料の添加によりCD39遺伝子の発現増加量を測定した。
【0038】
(細胞)
ランゲルハンス細胞の代替として用いられる、ヒト単球・マクロファージ様細胞であるTHP-1細胞(以下、「THP-1」という)(JCRB細胞バンク)を、RPMI 1640 medium(10% FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシン含有)を用いて継代し、試験に用いた。
【0039】
(被験試料)
下記表1,2に示される化合物を使用した。
CD39遺伝子発現量を増加する作用を有する化合物として、フラバノン類、カルコン類、イソフラボン類、セスキテルペン類(C15)、トリテルペン類(C30)、体内でビタミンA活性を有する化合物(カロテノイド類、レチノイド類)、リグナン類、スチルベノイド類、オリゴ糖類、タンニン類が挙げられる。より具体的には、ナリンゲニン、7-ヒドロキシフラバノン、イソサクラネチン、ヘスペレチン、イソリキリチゲニン、ブテイン、2,2',4'-トリヒドロキシカルコン、β-カロテン、レチナール、レチノール、レチノイン酸、セサモール、ホノキオール、セサミン、マグノロール、レスベラトロール、プテロスチルベン、ピセアタンノール、ダイゼイン、ファルネソール、ギンセノシドRg1、コージビオース、ウロリチンAを使用した。なお、ダイゼイン、ファルネソール、ギンセノシドRg1、コージビオース、ウロリチンAは、参考例として示す。
【0040】
CD39遺伝子発現量を増加する作用を示さない化合物として、フラバン3オール類、フラボン類、フラボノール類、ジヒドロフラボノール類、ジヒドロカルコン類、アントシアニン類、モノテルペン類(C10)、ジテルペン類(C20)、ステロイド類、モノリグナン類、クマリン類、シキミ酸経路関連化合物、ポリケチド類、カルボン酸類、インドールアルカロイド類、イソキノリンアルカロイド類、ピリジンアルカロイド類、プリンアルカロイド類、カプサイシン類、単糖類、アミノ酸脂肪酸類、イノシトール類、イソチオシアネート類、ポリアミン類、グアニジン類、コリン類、補酵素類、ガロイル誘導体類が挙げられる。また、上記以外のイソフラボン類、セスキテルペン類(C15)、トリテルペン類(C30)、カロテノイド類、オリゴ糖類、タンニン類が挙げられる。より具体的には、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、ルテオリン、バイカリン、ケンフェロール、フィセチン、ケルセチン、イソラムネチン、シリビニン、タキシフォリン、ジヒドロケンフェロール、フロレチン、フロリジン、シアニジン3-グルコシド、塩化シアニン、塩化イデアイン、ビオカニンA、ホルモノネチン、ゲラニオール、D-リモネン、シネオール、カリオフィレン、アビエチン酸、カルノシン酸、リモニン、オレアノール酸、アスタキサンチン、チモサポニンA-III、カフェ酸フェネチルエステル、ロスマリン酸、イソクロロゲン酸A、p-クマル酸、ウンベリフェロン、クマリン、クルクミン、[6]-ギンゲロール、エモジン、α-マンゴスチン、DL-リンゴ酸、L-乳酸、クエン酸、酪酸ナトリウム、メラトニン、インドール-3-カルビノール、ブラシニン、ベルベリン、ニコチン酸、ニコチンアミド、カフェイン、カプサイシン、D(-)-マンニトール、D-グルコサミン、キシリトール、D(+)-トレハロース、パラチノース、5-アミノレブリン酸、フィチン酸、D-ピニトール、DL-スルフォラファン、アリルイソチオシアネート、スペルミジン、スペルミン、クレアチン、塩化グアニジウム、L-アルギニン、α-グリセロホスホコリン、ピロロキノリンキノン二ナトリウム、ベルゲニンを使用した。なお、CD39遺伝子発現量を増加する作用を示さない化合物において、フラボノール類、ジヒドロフラボノール類、及びカプサイシン類以外は、データの添付を省略する。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
(細胞試験)
96wellプレートにTHP-1を2×105cells/wellで播種し、被験試料を添加してCO2インキュベーター内(37℃、5% CO2)で24時間培養した。
【0043】
培養後の細胞を回収し、Cell AmpTMDirect RNA Prep Kit for RT-PCR (Real Time)(タカラバイオ社製)を用いて細胞のRNAライセートを調製した。One Step TB Green Prime Script PLUS RT-PCR Kit (Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)を用いてRT-qPCRを実施した。PCRには以下に示したプライマーを用いた。
【0044】
h-ENTPD1(CD39)-forward: 配列番号1
h-ENTPD1(CD39)-reverse: 配列番号2
h-RPL37A-forward: 配列番号3
h-RPL37A-reverse: 配列番号4
h-RPS9-forward: 配列番号5
h-RPS9-reverse: 配列番号6
表3に示した被験試料をn=1で活性を確認し、コントロールの2SDを越えた試料については、n=3で、最終濃度30μM(30μMで評価できなかった化合物の場合は6μM)にて、CD39遺伝子発現量増加の有無を評価した。遺伝子発現量は、h-RPL37Aあるいはh-RPS9遺伝子で補正し、コントロールの平均を1とした相対値を求めた。得られた値より平均値及び標準偏差を算出した。結果を表3に示す。
【0045】
統計解析は、コントロールと被験試料処理群との間でF検定を行い、等分散であった場合はStudentのt検定を、不等分散であった場合はWelchのt検定を実施した。両側検定で有意水準 5%未満(p<0.05)をCD39発現増強作用有と判断した。統計解析には、(エクセル統計2016(SSRI社製))を用いた。統計解析結果について、*:P値<0.05、**:P値<0.01を表す。
【0046】
【表3】
表3に示されるように、フラバノン類、カルコン類、体内でビタミンA活性を有する化合物、リグナン類、スチルベノイド類に属する各被験試料は、コントロールに対して共通して有意に増加作用を示した。その他、ダイゼイン、ファルネソール、ギンセノシドRg1、コージビオース、ウロリチンAもコントロールに対して有意な増加作用を示した。フィセチン、シリビニン、タキシフォリン、ジヒドロケンフェロール、カプサイシンではコントロールに対して有意な増加作用が認められなかった。つまり、フラバノン骨格を有する化合物、体内でビタミンA活性を有する化合物、カルコノイド骨格を有する化合物、リグナン、又はスチルベノイドに属する特定の共通構造を有する化合物群についてCD39発現増加作用を有することが確認された。
【配列表】
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