(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176082
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】レーザ式ガス分析計及びレーザ式ガス分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/39 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
G01N21/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094312
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉峰 郁洋
(72)【発明者】
【氏名】武田 直希
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 佑恭
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059EE01
2G059GG02
2G059GG06
2G059GG09
2G059HH09
2G059JJ11
2G059KK01
2G059MM04
2G059MM14
2G059NN05
(57)【要約】
【課題】本開示は、レーザ発光波長制御のずれを抑制するレーザ式ガス分析計を提供する。
【解決手段】波長可変レーザ分光法及び波長変調光分光法により測定対象空間に存在する測定対象ガスのガス濃度を測定するレーザ式ガス分析計であって、レーザ素子と、変調光生成部と、を有する発光部と、受光信号処理部を有する受光部と、を備え、受光信号処理部は、ロックイン検波の入力信号の位相を検出する機能と、前記入力信号と参照信号の位相差を所望の値に一定に調整する機能と、を有する位相調整部を備え、前記発光部は、前記受光信号処理部で入力信号と参照信号の位相差を調整したロックイン検波波形のX波、Y波又は前記X波及び前記Y波を組み合わせた波形から吸収ピーク位置を取得し、波長掃引の所定のタイミングに吸収ピーク波長が合うようにレーザ温度設定を行って、レーザ素子の発光波長制御を行うレーザ式ガス分析計。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長可変レーザ分光法及び波長変調光分光法により測定対象空間に存在する測定対象ガスのガス濃度を測定するレーザ式ガス分析計であって、
前記測定対象ガスの吸収スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域のレーザ光を出射するレーザ素子と、
前記測定対象ガスの吸収スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域で波長が掃引され、かつ変調周波数により変調されるように駆動電流を前記レーザ素子に供給するレーザ素子駆動部及び前記レーザ素子の温度を制御するレーザ素子温調部からなる変調光生成部と、
を有する発光部と、
前記測定対象空間を通過した前記レーザ光を受光する受光素子と、
前記受光素子から出力された検出信号に対し、前記変調周波数又は前記変調周波数の逓倍の周波数の信号成分を取得する受光信号取得部及び取得した信号をロックイン検波して、得られたロックイン検波波形の振幅に基づいて測定対象ガスの分析を行う演算処理部からなる受光信号処理部と、
を有する受光部と、
を備え、
前記受光信号処理部は、ロックイン検波の入力信号の位相を検出する入力信号位相検出部と、前記入力信号と参照信号の位相差を所望の値に一定に調整する参照信号位相設定部と、を備え、
前記発光部は、前記受光信号処理部で入力信号と参照信号の位相差を調整したロックイン検波波形のX波、Y波又は前記X波及び前記Y波を組み合わせた波形から吸収ピーク位置を取得し、波長掃引の所定のタイミングに吸収ピーク波長が合うようにレーザ温度設定を行って、レーザ素子の発光波長制御を行う、
レーザ式ガス分析計。
【請求項2】
前記受光信号処理部は、ロックイン検波波形X波、Y波の吸収ピークが同じ向き、かつ両方の波形の振幅がバランスするように一定に調整し、X波、Y波を平均することでベースライン歪みを打ち消した平均波形の振幅に基づいて測定対象ガスの分析を行う、
請求項1に記載のレーザ式ガス分析計。
【請求項3】
波長可変レーザ分光法及び波長変調光分光法により測定対象空間に存在する測定対象ガスのガス濃度を測定するレーザ式ガス分析方法であって、
(a)レーザ素子から、前記測定対象ガスの吸収スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域を含み、前記測定対象ガスの吸収スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域で波長が掃引され、かつ変調周波数により変調されるように検出光を出射する工程と、
(b)受光素子により、前記測定対象空間を通過した前記検出光を受光する工程と、
(c)前記受光素子から出力された検出信号に対し、前記変調周波数又は前記変調周波数の逓倍の周波数の信号成分を取得し、取得した信号をロックイン検波して、得られたロックイン検波波形の振幅に基づいて測定対象ガスの分析を行う工程と、
を含み、
前記(c)工程は、
ロックイン検波の入力信号の位相を検出する工程と、
前記入力信号と参照信号の位相差を所望の値に一定に調整する工程と、
を含み、
前記(a)工程は、
入力信号と参照信号の位相差を調整したロックイン検波波形のX波、Y波又は前記X波及び前記Y波を組み合わせた波形から吸収ピーク位置を取得する工程と、
波長掃引の所定のタイミングに吸収ピーク波長が合うようにレーザ温度設定を行って、前記レーザ素子の発光波長制御を行う工程と、
を含む、
レーザ式ガス分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ式ガス分析計及びレーザ式ガス分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、波長可変レーザ分光法及び波長変調光分光法により、測定対象空間に存在する測定対象ガスのガス濃度を測定するレーザ式ガス分析計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザ式ガス分析計により測定を行っている環境において、例えば、周囲温度が変化するとロックイン検波波形が変形する場合がある。ロックイン検波波形が変形すると、レーザ発光波長制御がずれる場合がある。
【0005】
本開示は、レーザ発光波長制御のずれを抑制するレーザ式ガス分析計を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、波長可変レーザ分光法及び波長変調光分光法により測定対象空間に存在する測定対象ガスのガス濃度を測定するレーザ式ガス分析計であって、前記測定対象ガスの吸収スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域のレーザ光を出射するレーザ素子と、前記測定対象ガスの吸収スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域で波長が掃引され、かつ変調周波数により変調されるように駆動電流を前記レーザ素子に供給するレーザ素子駆動部及び前記レーザ素子の温度を制御するレーザ素子温調部からなる変調光生成部と、を有する発光部と、前記測定対象空間を通過した前記レーザ光を受光する受光素子と、前記受光素子から出力された検出信号に対し、前記変調周波数又は前記変調周波数の逓倍の周波数の信号成分を取得する受光信号取得部及び取得した信号をロックイン検波して、得られたロックイン検波波形の振幅に基づいて測定対象ガスの分析を行う演算処理部からなる受光信号処理部と、を有する受光部と、を備え、前記受光信号処理部は、ロックイン検波の入力信号の位相を検出する入力信号位相検出部と、前記入力信号と参照信号の位相差を所望の値に一定に調整する参照信号位相設定部と、を備え、前記発光部は、前記受光信号処理部で入力信号と参照信号の位相差を調整したロックイン検波波形のX波、Y波又は前記X波及び前記Y波を組み合わせた波形から吸収ピーク位置を取得し、波長掃引の所定のタイミングに吸収ピーク波長が合うようにレーザ温度設定を行って、レーザ素子の発光波長制御を行うレーザ式ガス分析計を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示のレーザ式ガス分析計によれば、レーザ発光波長制御のずれを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計における変調光生成部及び受光信号処理部の概略構成を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計におけるロックイン検波部の概略構成を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計における信号波形及び同期信号のタイムチャートを示す図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計における入力信号から位相検出する方法の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、レーザ式ガス分析計におけるガスの吸収による乗算波形の位相シフトの一例を示す図である。
【
図7】
図7は、レーザ式ガス分析計における2位相ロックイン検波における出力信号と位相の関係を示す図である。
【
図8】
図8は、レーザ式ガス分析計における入力信号と参照信号の位相差による検波波形の変化の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、レーザ式ガス分析計における波形の位相シフトにより吸収ピークの検出位置がずれる一例を示す図である。
【
図10】
図10は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計における位相調整したロックイン検波波形の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計におけるXY平均波形により吸収ピーク取得位置の誤差を低減する一例を示す図である。
【
図12】
図12は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計におけるXY平均波形によりベースライン歪みを打ち消す一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0010】
なお、各実施形態に係る明細書及び図面の記載に関して、実質的に同一の又は対応する機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する場合がある。また、理解を容易にするために、図面における各部の縮尺は、実際とは異なる場合がある。
【0011】
平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右及び前後等の方向には、実施形態の効果を損なわない程度のずれが許容される。角部の形状は、直角に限られず、丸みを帯びてもよい。平行、直角、直交、水平、垂直には、それぞれ略平行、略直角、略直交、略水平、略垂直が含まれてもよい。
【0012】
例えば、略平行は、2つの線又は2つの面が互いに完全に平行でなくても、製造上許容される範囲内であれば互いに平行として扱うことができることを意味する。他の略直角、略直交、略水平及び略垂直のそれぞれについても、略平行と同様に、2つの線又は2つの面の相互の位置関係が製造上許容される範囲内であればそれぞれに該当することが意図される。
【0013】
≪本実施形態に係るレーザ式ガス分析計≫
本実施形態に係るレーザ式ガス分析計は、波長可変レーザ分光法及び波長変調光分光法により測定対象空間に存在する測定対象ガスのガス濃度を測定するレーザ式ガス分析計である。本実施形態に係るレーザ式ガス分析計は、発光部と、受光部と、を備える。
【0014】
本実施形態に係るレーザ式ガス分析計における発光部は、測定対象ガスの吸収スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域のレーザ光を出射するレーザ素子を有する。また、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計における発光部は、変調光生成部を有する。本実施形態に係るレーザ式ガス分析計における変調光生成部は、測定対象ガスの吸収スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域で波長が掃引され、かつ変調周波数により変調されるように駆動電流をレーザ素子に供給するレーザ素子駆動部を有する。さらに、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計における変調光生成部は、レーザ素子の温度を制御するレーザ素子温調部を有する。
【0015】
本実施形態に係るレーザ式ガス分析計における受光部は、測定対象空間を通過したレーザ光を受光する受光素子を有する。また、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計における受光部は、受光信号処理部を有する。本実施形態に係るレーザ式ガス分析計における受光信号処理部は、受光素子から出力された検出信号に対し、変調周波数又は変調周波数の逓倍の周波数の信号成分を取得する受光信号取得部を有する。また、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計における受光信号処理部は、取得した信号をロックイン検波して、得られたロックイン検波波形の振幅に基づいて測定対象ガスの分析を行う演算処理部を有する。
【0016】
本実施形態に係るレーザ式ガス分析計における受光信号処理部は、ロックイン検波の入力信号の位相を検出する機能と、入力信号と参照信号の位相差を所望の値に一定に調整する機能と、を有する位相調整部を備える。また、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計における発光部は、受光信号処理部で入力信号と参照信号の位相差を調整したロックイン検波波形のX波、Y波又はX波及びY波を組み合わせた波形から吸収ピーク位置を取得し、波長掃引の所定のタイミングに吸収ピーク波長が合うようにレーザ温度設定を行って、レーザ素子の発光波長制御を行う。
【0017】
図1は、第1実施形態に係るレーザ式ガス分析計の一例であるレーザ式ガス分析計1の構成を示す図である。第1実施形態に係るレーザ式ガス分析計について、レーザ式ガス分析計1を用いて説明する。
【0018】
気体状のガス分子は、それぞれ固有の光吸収波長及び吸収強度を表す吸収スペクトルを有する。また、レーザ光は、特定の波長でスペクトル線幅が狭い光である。レーザ式ガス分析計は、レーザ素子が、気体状のガス分子である測定対象ガスが吸収する光吸収波長のレーザ光を発光し、測定対象ガスにレーザ光を吸収させる。そして、レーザ式ガス分析計は、光吸収波長におけるレーザ光の吸収量に基づいて測定対象ガスの有無を検出する。加えて、レーザ式ガス分析計は、光吸収波長におけるレーザ光の吸収量が測定対象ガスの濃度に比例するため濃度を検出できる。
【0019】
レーザ式ガス分析計1は、壁50aと壁50bとの内部を流通するガスに含まれる特定のガスの濃度を測定する。また、レーザ式ガス分析計1は、ガス濃度が0又は所定値以下であるならばガスが無いことを検出できる。言い換えると、レーザ式ガス分析計1は、ガスの有無も検出できる。
【0020】
レーザ式ガス分析計1は、発光部10と、受光部20と、通信線30と、を備える。通信線30は発光部10と受光部20との間で電気信号により通信する。なお、通信線30に換えて無線や光通信のような通信部を採用してもよい。レーザ式ガス分析計1は、これら通信線、無線、光通信による通信部を採用できる。
【0021】
レーザ式ガス分析計1は、発光部10から検出光40を出射する。そして、検出光40は壁50aと壁50bとの内部の測定対象空間に投光される。
【0022】
検出光40が測定対象空間内に投光されると、検出光40の光量の一部は、特定のガスによって吸収される。発光部10から投光された検出光40において吸収されなかった残りの光、すなわち透過光が、受光部20に入射する。受光部20は、入射した透過光の光量を検出する。受光部20は、検出された透過光の光量から特定のガス濃度を求める。
【0023】
続いて各部の詳細について説明する。
【0024】
[発光部10]
発光部10の光学的機能について説明する。測定対象ガスが吸収する特定の吸収スペクトルの中心波長をλとする。発光部10は、中心波長λ及びその周辺の波長で、波長を変調しながら、検出光40を受光部20に向けて出射する。略平行光である検出光40は、発光部窓板14を透過し、壁50a,50bの内部、すなわち測定対象ガスを含むガスが流通する空間に伝播する。
【0025】
発光部10は、変調光生成部11と、レーザ素子12と、コリメートレンズ13と、発光部窓板14と、発光部容器15と、を少なくとも備える。
【0026】
(変調光生成部11)
変調光生成部11は、信号処理・電流駆動回路である。発光部10は、測定対象ガスの吸光特性に応じたレーザ光を照射する必要がある。加えて、発光部10は、レーザ光を周波数変調された変調光とする必要がある。そこで、変調光生成部11は、測定対象ガスの吸光特性に応じたレーザ光を周波数変調された変調光として発光するための駆動電流信号を、レーザ素子12に供給する。
【0027】
(レーザ素子12)
レーザ素子12は中心波長λ及びその周辺の波長で発光する。レーザ素子12は、例えば、分布帰還型(DFB(Distributed Feedback))レーザである。また、レーザ素子12は、例えば、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser Diode)でもよい。さらに、レーザ素子12は、例えば、分布反射型(DBR(Distributed Bragg Reflector))レーザでもよい。
【0028】
レーザ素子12は、駆動電流と温度により、発光波長を可変制御可能である。したがって、レーザ素子12が発光するレーザ光の中心波長が、測定対象ガスの吸収スペクトルの中心波長となるように温度制御される。また、レーザ光の中心波長の周辺の波長が時間的に掃引されるように、駆動電流が制御される。さらに、波長変調分光法により高感度にて測定できるように、適切な波長変調振幅および周波数を有する正弦波が駆動電流に重畳される。
【0029】
レーザ素子12の発光点は、コリメートレンズ13の焦点付近に配置されている。レーザ素子12からの出射光は、拡散しつつコリメートレンズ13に入射して、略平行光である検出光40に変換される。
【0030】
(コリメートレンズ13)
コリメートレンズ13は、中心波長λ及びその周辺の波長において透過率が高い材料で構成される。コリメートレンズ13は、レーザ素子12から出射した検出光40を略平行光に変換する。コリメートレンズ13が検出光40を平行光に変換することにより、発光部10は、拡散による損失を抑えながら、検出光40を受光部20まで伝送できる。
【0031】
なお、本形態ではコリメートレンズ13を用いるものとして説明するが、コリメートレンズに限定する趣旨ではない。例えば、コリメートレンズの代わりに放物面鏡を用いることもできる。
【0032】
(発光部窓板14)
発光部窓板14は、発光部容器15の一部に穴を開けてそれを塞ぐように設けられている。発光部窓板14は、検出光40の光路内にあり、検出光40を透過させつつ、測定対象空間におけるガスが発光部10の内部に進入しないようにする。発光部窓板14は、内部に収納する光学素子、光学部品及び電気電子回路等が直接ガスに触れないようにする。発光部窓板14は、内部に収納する光学素子、光学部品及び電気電子回路等が直接ガスに触れないように保護する。
【0033】
(発光部容器15)
発光部容器15は、内部に光学素子、光学部品及び電気電子回路等を収容する。発光部容器15は、内部に収納する光学素子、光学部品及び電気電子回路等を外気から隔絶する。発光部容器15は、内部に収納する光学素子、光学部品及び電気電子回路等を風雨、塵埃及び汚れ等から保護する。
【0034】
図1に示すように、測定対象ガスを含むガスが流通する配管等の壁50a及び50bのそれぞれに穴が開けられている。フランジ51a及びフランジ51bのそれぞれは、溶接等によりそれらの穴に固定されている。
【0035】
発光部10は、発光部容器15に光軸調整フランジ52aを備える。光軸調整フランジ52aは、フランジ51aに対して機械的に移動可能に取り付けられる。発光部10は、光軸調整フランジ52aによりフランジ51aに取り付けられることによって、位置調整できる。光軸調整フランジ52aは、検出光40の出射角を調整する。光軸調整フランジ52aは、光軸調整フランジ52bとあわせて、発光部10から出射される検出光40が受光部20において最大の光量で受光されるように調整する。
【0036】
[受光部20]
次に、受光部20について説明する。受光部20は、受光部窓板24を透過した検出光40を受光し、測定対象ガスにより吸収された光量について分析する。受光部20は、受光信号処理部21と、受光素子22と、集光レンズ23と、受光部窓板24と、受光部容器25と、を少なくとも備える。
【0037】
(受光信号処理部21)
受光信号処理部21は、受信した検出光40に基づいて、測定対象ガスのガス濃度を算出する信号処理・受光回路である。受光信号処理部21は、受光素子22により検出光40を電気信号に変換した信号を処理して、測定対象ガスのガス濃度を算出する。より具体的に説明すると、受光信号処理部21は、受光素子22により検出光40を電気信号に変更した信号に対して、ロックインアンプにより検出光40の変調周波数の2倍の周波数成分を抽出する。そして、受光信号処理部21は、抽出した成分から測定対象ガスのガス濃度を算出する。
【0038】
(受光素子22)
受光素子22には、中心波長λ及びその周辺の波長において、感度を有する受光素子を選択できる。
【0039】
(集光レンズ23)
集光レンズ23は、中心波長λ及びその周辺の波長において、透過率が高い材料で構成する。集光レンズ23により、検出光40は受光素子22に集光されるため、高い信号強度を得ることができる。検出光40は、集光レンズ23の焦点付近に受光面が配置された受光素子22に入射する。なお、本形態では集光レンズ23を用いているが、集光レンズ23に代えて、放物面鏡、ダブレットレンズや回折レンズなどを採用することもできる。
【0040】
受光素子22からの受光信号は、受光信号処理部21に検出信号として送られる。受光信号処理部21では、この検出信号を処理して、ガス濃度を算出する。
【0041】
(受光部窓板24)
受光部窓板24は、受光部容器25の一部に穴を開けてそれを塞ぐように設けられている。受光部窓板24は、検出光40の光路内にあり、検出光40を透過させつつ、測定対象空間におけるガスが受光部20の内部に進入しないようにする。受光部窓板24は、内部に収納する光学素子、光学部品及び電気電子回路等が直接ガスに触れないようにする。受光部窓板24は、内部に収納する光学素子、光学部品及び電気電子回路等が直接ガスに触れないように保護する。
【0042】
(受光部容器25)
受光部容器25は、内部に光学素子、光学部品及び電気電子回路等を収容する。受光部容器25は、内部に収納する光学素子、光学部品及び電気電子回路等を外気から隔絶する。受光部容器25は、内部に収納する光学素子、光学部品及び電気電子回路等を風雨、塵埃、及び汚れ等から保護する。
【0043】
受光部20は、受光部容器25に光軸調整フランジ52bを備える。光軸調整フランジ52bは、フランジ51bに対して機械的に移動可能に取り付けられる。受光部20は、光軸調整フランジ52bによりフランジ51bに取り付けられることによって、位置調整できる。光軸調整フランジ52bは、検出光40の入射角を調整する。光軸調整フランジ52bは、光軸調整フランジ52aとあわせて、発光部10から出射される検出光40が受光部20において最大の光量で受光されるように調整する。
【0044】
<変調光生成部11及び受光信号処理部21における処理>
次に、変調光の変調条件(振幅、周波数)の決定方法について説明する。
図2は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計の一例であるレーザ式ガス分析計1における変調光生成部11及び受光信号処理部21の概略構成を示す図である。
【0045】
[変調光生成部11]
変調光生成部11は、レーザ素子駆動部110と、レーザ素子温調部120と、を備える。
【0046】
レーザ素子駆動部110は、レーザ素子12が発光するレーザ光(検出光40)の波長を制御するための駆動電流Idrを、レーザ素子12に出力する。レーザ素子駆動部110は、電流制御回路111と、デジタル-アナログ変換器DAC112と、を備える。検出パラメータ設定部310で設定された電流制御値MVIが、デジタル-アナログ変換器112により、制御値MVIaに変換される。そして、変換された制御値MVIaが電流制御回路111に入力される。電流制御回路111は、入力された制御値MVIaに基づいて、駆動電流Idrをレーザ素子12に出力する。
【0047】
レーザ素子温調部120は、レーザ素子12が発光するレーザ光(検出光40)の波長を制御するために、レーザ素子12を温度調節する。レーザ素子温調部120は、温度制御回路121と、デジタル-アナログ変換器DAC122と、を備える。検出パラメータ設定部310で設定された温度制御値MVTが、デジタル-アナログ変換器122により、制御値MVTaに変換される。そして、変換された制御値MVTaが温度制御回路121に入力される。温度制御回路121は、入力された制御値MVTaに基づいて、レーザ素子12の温度を調節する制御信号Tdrを出力する。
【0048】
レーザ素子12は、例えば、ペルチェ素子を備える。レーザ素子温調部120は、レーザ素子12が備えるペルチェ素子に供給する電流を制御することにより、レーザ素子12の温度を調節する。
【0049】
レーザ素子12は、検出パラメータ設定部310で設定される駆動電流Idr及び制御信号Tdrに応じた変調光である検出光40を出射する。
【0050】
なお、変調光生成部11に用いられるデジタル-アナログ変換器112は、低歪であることが望ましい。例えば、特許文献1のようなレーザ式ガス分析計では、変調されたレーザ光が測定対象ガスの吸収により歪が生じることを利用し、変調周波数の高調波成分(一般的には第2高調波)を測定することで濃度検出しているという性質から、特定の周波数で発振する低歪アナログ発振器を用いること多い。一方で、近年はハイレゾリューションオーディオ等の分野でDAC素子の高精度、低歪化が進んでいる。そして、従来の低歪アナログ発振器の全高調波歪率(-80~-90dB程度)を大きく下回る低歪率を達成しているものが発売されている(例えば、旭化成製AK4499EQ、全高調波歪率-125dB)。上述のような低歪率の高精度DACを用いることで、ガス濃度測定に必要な低歪の変調性能を備えながら、任意の波形でレーザを駆動することが可能となる。また、上述のような低歪率の高精度DACを用いることにより、回路の大規模化を抑制できる。
【0051】
[受光信号処理部21]
受光信号処理部21は、受光信号取得部210と、演算処理部220と、を備える。
【0052】
受光信号取得部210は、増幅部211と、フィルタ部212及びフィルタ部213と、増幅部214と、アナログ-デジタル変換器(ADC)215と、を備える。
【0053】
受光信号取得部210は、受光素子22からの受光信号Smを検出光40の強度に応じて増幅部211で増幅する。増幅部211における増幅率は、検出パラメータ設定部310により設定される。増幅部211は、受光信号Smを増幅した信号Sm1をフィルタ部212に出力する。
【0054】
次に、受光信号取得部210は、フィルタ特性をデジタル制御可能なフィルタ素子を有するフィルタ部212及びフィルタ部213において、検出パラメータ設定部310で設定されたフィルタ特性により変調周波数の2倍の周波数信号を抽出する。フィルタ部212は、ハイパスフィルタである。フィルタ部213は、ローパスフィルタである。フィルタ部212は、信号Sm1をフィルタリングした信号Sm2をフィルタ部213に出力する。フィルタ部213は、信号Sm2をフィルタリングした信号Sm3を増幅部214に出力する。
【0055】
次に、受光信号取得部210は、抽出した信号を増幅部214で増幅する。増幅部214は、信号Sm3を増幅した信号Sm4をアナログ-デジタル変換器215に出力する。
【0056】
次に、受光信号取得部210は、アナログ-デジタル変換器215により、信号Sm4をデジタル信号である入力信号DSに変換する。受光信号取得部210は、変換したデジタル信号である入力信号DSを演算処理部220に出力する。
【0057】
演算処理部220は、ロックイン検波部221と、ピーク検出部222と、濃度演算部223と、を備える。演算処理部220は、ロックイン検波部221により変調周波数の2倍周波数成分のロックイン検波信号LSを取得する。そして、演算処理部220は、ピーク検出部222によりロックイン検波信号LSの強度のピークを検出する。また、演算処理部220は、濃度演算部223によりロックイン検波信号LSを処理してガス濃度を算出する。
【0058】
なお、受光信号処理部21に用いられるフィルタ素子は、1から150キロヘルツの高周波帯までを柔軟にフィルタ特性をデジタル制御可能であることが望ましい。受光信号処理部21に用いられるフィルタ素子は、例えば、MAXIM製MAX263/264、MAX267/268等が望ましい。プログラマブルなフィルタ素子を用いることで、共通の回路構成を用いてソフトウェア制御のみで、変調光の設定周波数に応じた2倍周波数信号を抽出することが可能となる。
【0059】
<本実施形態に係るレーザ式ガス分析計におけるロックイン検波>
続いて、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計におけるロックイン検波の位相調整方法について説明する。
図3は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計の一例であるレーザ式ガス分析計1におけるロックイン検波部221の概略構成を示す図である。
【0060】
ロックイン検波部221は、入力信号位相検出部221aと、参照信号位相設定部221bと、信号発生部221cと、乗算器221d及び乗算器221fと、ローパスフィルタ221e及びローパスフィルタ221gと、を備える。
【0061】
受光信号取得部210は、受光信号Smにおける取得した変調周波数の2倍周波数成分を抽出して増幅する。ロックイン検波部221は、受光信号取得部210から信号Sm4をアナログ-デジタル変換した入力信号DSを取得する。
【0062】
入力信号位相検出部221aは、入力信号DSから、変調周波数の2倍の周波数成分の基準位相θ1を抽出する。
【0063】
参照信号位相設定部221bは、基準位相に対して一定の位相差Δθとなるように参照信号の位相θ2を設定する。
【0064】
図4は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計の一例であるレーザ式ガス分析計1における信号波形及び同期信号のタイムチャートを示す図である。
図4は、変調光生成部11および受光信号処理部21の各部の信号波形と両者を同期するトリガ信号のタイムチャートを示す。
図4における横軸は時間、縦軸は強度等を模式的に示す。
図4におけるTmは、測定周期を示す。
【0065】
図4(a)は、発光部10及び受光部20のそれぞれの動作を同期させるためのトリガ信号を示す。
図4(b)は、レーザ素子12を駆動する電流信号を示す。
図4(c)は、受光素子22によって検出される受光信号を示す。
図4(d)は、ロックイン検波部221に入力されるロックイン入力信号を示す。
図4(e)は、ロックイン検波部221から出力されるロックイン検波出力波形を示す。
【0066】
入力信号位相検出部221aは、変調周波数の2倍の周波数成分の基準位相θ1を、各測定周期Tmにおけるトリガ信号の立ち上がり又は立ち下がりを基準時刻t=0とし、入力信号DSが変調周波数の2倍周波数かつ時刻t=0における基準位相θ1の正弦波信号であるとしてフィッティング計算などにより取得する。
【0067】
水分の吸収波形を含む入力信号から基準位相を検出した一例を
図5に示す。
図5は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計の一例であるレーザ式ガス分析計1における入力信号から位相検出する方法の一例を示す図である。
【0068】
入力信号位相検出部221aは、ガスによる吸収を含まない領域のデータを用いて、基準位相θ1を算出する。入力信号位相検出部221aが、ガスによる吸収を含まない領域のデータを用いて、基準位相θ1を算出する理由について説明する。
図6は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計の一例であるレーザ式ガス分析計1におけるガスの吸収による乗算波形の位相シフトの一例を示す図である。
図6に示すように、ガスの吸収がある領域においては、変調信号にガス吸収の信号成分が重畳して位相のシフトが生じる。したがって、入力信号位相検出部221aは、変調信号にガス吸収の信号成分が重畳して位相のシフトが生じる領域を避けて、ガスによる吸収を含まない領域のデータを用いる。
【0069】
次に、参照信号位相設定部221bは、入力信号位相検出部221aが算出した基準位相である基準位相θ1と参照信号である位相θ2の位相差Δθを決定する。ロックインアンプから出力される同相成分(X波)及び直交位相成分(Y波)と、絶対値R=√(X
2+Y
2)及び位相差Δθとの関係について説明する。
図7は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計の一例であるレーザにおける2位相ロックイン検波における出力信号と位相の関係を示す図である。ロックインアンプから出力される同相成分(X波)及び直交位相成分(Y波)と、絶対値R=√(X
2+Y
2)及び位相差Δθとは、
図7に示す関係にある。したがって、絶対値Rを算出することにより、位相差Δθによらず信号の振幅を得ることができる。
【0070】
なお、位相差Δθは、フィルタ回路の位相遅れ特性、部品の温度特性、許容誤差などにより変化する。位相差Δθの変化にともなってX波、Y波の形状も変化する。位相差Δθが変化したときにおけるロックイン出力の波形について説明する。
図8は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計の一例であるレーザ式ガス分析計1における入力信号と参照信号の位相差による検波波形の変化の一例を示す図である。
【0071】
図8に含まれるそれぞれの図における横軸は時間、縦軸はロックイン出力信号の電圧を示す。
図8(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)は、参照信号に対する位相差がそれぞれ0、1/4π、1/2π、3/4π、π、5/4π、3/2π、7/4πのときのX波及びY波のそれぞれの波形である。
【0072】
図5に示す入力信号に対して参照信号との位相差Δθを変化させた場合、
図8に示すように検出波形が変化する。入力信号に対して参照信号との位相差Δθを変化しても、前述のように、信号振幅は保存される。したがって、ガス濃度演算は、位相の変化の影響を受けずにできる。一方、レーザ式ガス分析計において、ロックイン検波波形のX波又はY波から吸収ピークを取得し、波長掃引の中心に吸収ピーク波長が合うようにレーザ温度設定によるレーザ素子の発光波長制御を行う場合がある。例えば、実際の測定現場で受光信号アンプゲイン変更によるフィルタ特性の変化や周囲温度の変化の影響などで位相がシフトして検波波形が変形した場合に、吸収ピーク自体を検出できない、又は、吸収ピークを誤検知するという場合がある。
【0073】
図9は、波形の位相シフトにより吸収ピークの検出位置がずれる一例を示す図である。
図9は、位相差Δθにより、吸収ピークの検出位置がずれる例を示している。波長掃引範囲においてX波の極大値あるいは極小値から吸収ピーク位置を抽出しようとした際に、
図9(a)の波形であれば正確に吸収ピークを捉えることができる。一方、
図9(b)の波形はX波の振幅が小さく、また反転している。
図9(b)のように一方の波形の振幅が小さく、波形が反転している場合、吸収ピークを誤検知する場合がある。吸収ピークを誤検知する結果、レーザ波長制御のずれが生じる場合がある。
【0074】
図10は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計の一例であるレーザ式ガス分析計1における位相調整したロックイン検波波形の一例を示す図である。レーザ式ガス分析計1は、
図10のように、参照信号と入力信号との位相差Δθを、X波、Y波の吸収ピークが同じ向きに現れ、かつ両方の波形の振幅が等しくなるように一定に調整する。具体的には、レーザ式ガス分析計1は、
図7に示した関係から位相差Δθが1/4π又は5/4πになるように、参照信号の位相θ2を設定する。言い換えると、レーザ式ガス分析計1は、参照信号の位相θ2をθ1+1/4π又はθ1+5/4πに設定する。
【0075】
レーザ式ガス分析計1が、位相差Δθが1/4π又は5/4πになるように、参照信号の位相θ2を設定することにより、吸収ピークの誤検知を抑制できる。
【0076】
また、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計において、X波、Y波の平均波形を取得するようにしてもよい。
図11は、XY平均波形により吸収ピーク取得位置の誤差を低減する一例を示す図である。
図11に示すようにすることで、位相シフトに対して信号の振幅を常に確保して吸収ピークの誤検知を抑制できる。なお、上述の位相設定と組み合わせて行ってもよい。
【0077】
図12は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計におけるXY平均波形によりベースライン歪みを打ち消す一例を示す図である。レーザ式ガス分析計のロックイン検波波形は、
図12に示すようにベースラインの歪み(傾き)が生じる場合がある。ベースラインの歪み(傾き)は、レーザ素子の駆動電流に対する波長の変化や回路の非線形性などにより、波長掃引範囲において波長掃引ピッチや変調振幅が一定でないために発生すると考えられる。ベースラインに歪み(傾き)があると、
図12の拡大図のように、吸光度の低い吸収波長や微小濃度のガスを測定しようとすると、吸収信号の振幅が小さいため、このベースラインが測定誤差の大きな要因となる。
【0078】
例えば、X波、Y波の本来の振幅をそれぞれAx、Ayとし、ベースライン歪みの重畳による振幅の化量をそれぞれdAx、dAyとすると、式1に示すような誤差e1が生じる。
【0079】
【0080】
例えば、
図10に示すように、位相差Δθを調整して、Ax=Ay、dAx=dAyとなる場合は、式2に示すように誤差e2となる。
【0081】
【0082】
位相差を調整したX波及びY波は、ベースライン歪みが両信号の中間レベルに対して対象に反転して現れる。したがって、位相差を調整したX波及びY波の平均波形を取ることでベースライン歪みを打ち消しできる。ベースライン歪みを打ち消すことにより、平均波形の振幅に基づいて測定対象ガスの分析を行うことで、レーザ素子特性によるベースライン歪みの影響による測定誤差を低減できる。
【0083】
レーザ式ガス分析計が、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1のレーザ式ガス分析計は、波長変調分光法により検出を行う。駆動電流によって波長を掃引し、かつ特定の周波数で変調したレーザ光を波長可変レーザ素子が出射する。そして、波長可変レーザ素子から出射したレーザ光を受光素子が検出し、ロックインアンプが信号を変調周波数の2倍でロックイン検波し、このロックイン検波波形の振幅からガス濃度を算出する。特許文献1のレーザ式ガス分析計は、ロックイン検波により信号ノイズ比が向上するために微量ガスの計測に適している。
【0084】
測定対象空間に存在する複数ガスの組成が定まっている場合には、測定対象ガスの吸光によって得られるロックイン検波波長の振幅は波長変調振幅の関数であり、極大値が存在する。したがって、標準ガスを校正する際には、ロックイン検波波形の振幅が極大となるように波長変調振幅を調節して、信号ノイズ比を最大化することができる。そして、測定対象ガスのガス濃度とロックイン検波波形の振幅の対応関係(比例関係など)に基づき、ガス濃度を演算することができる。
【0085】
ロックインアンプは、参照信号と入力信号(被測定信号)の間に位相ずれが生じると、完全に位相がそろっている場合と比べて出力が低下するという問題があり、正確な出力を得るために位相調整が非常に重要である。しかし、この位相ずれは回路に位相遅れを引き起こすフィルタが含まれる場合に生じ、さらにその温度特性、部品の許容誤差によっても変動するため、単純に位相補償回路を追加するだけでは対応しきれない。そこで、2位相式ロックインアンプが多く用いられている。2位相式ロックインアンプでは、通常の参照信号に加えて位相が90°異なる参照信号を乗算し、続くローパスフィルタを通して得られた出力は、入力信号の同相成分(X波)と直交位相成分(Y波)の低周波信号となり、得られた測定値の絶対値および正接を算出することで,位相調整無しで入力信号の振幅が得られるとともに、入力信号と参照信号の位相差Δθが計測可能になる。
【0086】
ロックインアンプを用いた2f波長変調分光法においては、レーザの発光波長を制御する方法として、ロックイン検波波形に含まれる測定ガスの吸収ピークを検出し、レーザ波長掃引の所定のタイミングに吸収ピーク波長が合うようにレーザ温度設定を行って制御する方法が用いられる。2位相式ロックインアンプを用いる場合、X波又はY波の吸収ピークを検出して波長制御を行う。X波又はY波の吸収ピークを検出して波長制御を行うとき、入力信号と参照信号の位相差のずれ具合によっては、波長制御用の波形の吸収波形が反転したり、振幅が潰れたりする場合がある。また、ガス濃度が小さく相対的に波形のベースライン傾きが大きくなる場合に、吸収ピークを正しく検出できず、レーザ波長制御に誤差や誤動作が生じる場合がある。
【0087】
本実施形態に係るレーザ式ガス分析計によれば、参照信号の位相差を調節することによって、吸収ピークを正しく検出できる。また、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計によれば、吸収ピークを正しく検出することによって、レーザ発光波長制御のずれを抑制できる。本実施形態に係るレーザ式ガス分析計によれば、レーザ発光波長制御のずれを抑制することにより、レーザ波長制御に誤差や誤動作が生じることなく、ガス濃度を測定できる。
【0088】
本実施形態に係るレーザ式ガス分析計は、例えば、車・船等の内燃機関の排ガス(除テスタ)に適用できる。また、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計は、防災用[爆発性ガス検知、有毒ガス検知、新建築材燃焼ガス分析]、化学分析用[石油精製プラント、石油化学プラント、ガス発生プラント]に適用できる。また、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計は、環境測定用[着地濃度、トンネル内濃度、駐車場、ビル管理]、植物育成用、理化学各種実験用に適用できる。
【0089】
以上、レーザ式ガス分析計を実施形態により説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本開示の範囲内で可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 レーザ式ガス分析計
10 発光部
11 変調光生成部
12 レーザ素子
13 コリメートレンズ
14 発光部窓板
15 発光部容器
20 受光部
21 受光信号処理部
22 受光素子
23 集光レンズ
24 受光部窓板
25 受光部容器
30 通信線
40 検出光
50a 壁
50b 壁
51a、51b フランジ
52a、52b 光軸調整フランジ
110 レーザ素子駆動部
111 電流制御回路
112 デジタル-アナログ変換器
120 レーザ素子温調部
121 温度制御回路
122 デジタル-アナログ変換器
210 受光信号取得部
211、214 増幅部
212、213 フィルタ部
215 アナログ-デジタル変換器
220 演算処理部
221 ロックイン検波部
221a 入力信号位相検出部
221b 参照信号位相設定部
221c 信号発生部
221d、221f 乗算器
221e、221g ローパスフィルタ
222 ピーク検出部
223 濃度演算部
310 検出パラメータ設定部