IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-エアレスタイヤ 図1
  • 特開-エアレスタイヤ 図2
  • 特開-エアレスタイヤ 図3
  • 特開-エアレスタイヤ 図4
  • 特開-エアレスタイヤ 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176084
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】エアレスタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 7/00 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
B60C7/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094318
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】武田 亜衣
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA30
3D131BA03
3D131BA08
3D131BB01
3D131BB19
3D131BC31
3D131CC03
(57)【要約】
【課題】 フラットスポットの発生を抑えて振動性能を高めることができるエアレスタイヤを提供する。
【解決手段】 エアレスタイヤ1である。接地面2aを有する環状のトレッドリング2と、トレッドリング2のタイヤ半径方向内側に配されるハブ3と、トレッドリング2とハブ3とを連結するスポーク部4とを備えている。スポーク部4は、熱可塑性樹脂8を含んでいる。熱可塑性樹脂8は、JIS K6273に準拠した40℃における引張永久歪が60%以下であり、かつ、JIS K6262に準拠した40℃における圧縮永久歪が50%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアレスタイヤであって、
接地面を有する環状のトレッドリングと、前記トレッドリングのタイヤ半径方向内側に配されるハブと、前記トレッドリングと前記ハブとを連結するスポーク部とを備え、
前記スポーク部は、熱可塑性樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂は、JIS K6273に準拠した40℃における引張永久歪が60%以下であり、かつ、JIS K6262に準拠した40℃における圧縮永久歪が50%以下である、
エアレスタイヤ。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、30℃における複素弾性率が50~300MPaであり、かつ、30℃における損失正接が0.1以下である、請求項1に記載のエアレスタイヤ。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂又はポリウレタン樹脂を含む、請求項2に記載のエアレスタイヤ。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、軟化点が80~200℃である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のエアレスタイヤ。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、23℃における破断伸びが350%以上である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のエアレスタイヤ。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、23℃における降伏応力が100%延伸時のモジュラスよりも大きい、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のエアレスタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアレスタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、エアレスタイヤが記載されている。前記エアレスタイヤは、トレッドリングと、ハブと、前記トレッドリングと前記ハブとを連結するスポーク部とを備えている。前記スポーク部は、熱可塑性樹脂で成形されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-34665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エアレスタイヤが車両に装着されると、スポーク部のうち、そのタイヤ回転軸の下側のスポーク部には圧縮応力が作用し、スポーク部のうち、タイヤ回転軸の上側のスポーク部には引張応力が作用する。このため、車両が長時間駐車された場合、下側のスポーク部には圧縮永久歪が生じ、上側のスポーク部には引張永久歪が生じる場合がある。とりわけ、車両走行後では、樹脂からなるスポーク部が高温になり、モジュラスが低下することから圧縮永久歪及び引張永久歪が大きくなりやすい。そして、スポーク部に生じた上記永久歪は、トレッドリングの接地面を平らに変形させる、いわゆるフラットスポットを招くなど、エアレスタイヤの振動性能を悪化させるという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、フラットスポットの発生を抑えて振動性能を高めることができるエアレスタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エアレスタイヤであって、接地面を有する環状のトレッドリングと、前記トレッドリングのタイヤ半径方向内側に配されるハブと、前記トレッドリングと前記ハブとを連結するスポーク部とを備え、前記スポーク部は、熱可塑性樹脂を含み、前記熱可塑性樹脂は、JIS K6273に準拠した40℃における引張永久歪が60%以下であり、かつ、JIS K6262に準拠した40℃における圧縮永久歪が50%以下である、エアレスタイヤである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のエアレスタイヤは、上記の構成を採用することで、フラットスポットの発生を抑えて振動性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の製造方法で製造されたエアレスタイヤの斜視図である。
図2図1のA-A線断面の拡大図である。
図3】金型の断面図である。
図4】本実施形態の製造方法のフロー図である。
図5】配置工程での金型の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。図面は、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれている。また、複数の実施形態がある場合、明細書を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。
【0010】
[エアレスタイヤの基本構造]
図1は、本発明のエアレスタイヤ(以下、単に「タイヤ」という場合がある)1の一実施形態の斜視図である。図2は、図1のタイヤ1のA-A線断面の拡大図である。図1及び図2に示されるように、タイヤ1は、路面と接触する接地面2aを有するトレッドリング2と、トレッドリング2のタイヤ半径方向内側に配されるハブ3と、トレッドリング2とハブ3とを連結するスポーク部4とを備えている。
【0011】
トレッドリング2は、環状のゴム部材である。前記ゴム部材としては、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム等、周知のものが採用される。トレッドリング2は、例えば、加硫ゴムで形成される。トレッドリング2のタイヤ半径方向の内周面2bには、スポーク部4が連結されている。トレッドリング2は、本実施形態では、第1接着剤31でスポーク部4と接着されている。
【0012】
トレッドリング2は、例えば、内部に補強コード2c(図3に示す)が配されていてもよい。補強コード2cは、例えば、複数の有機繊維コード又はスチールコードが所定の向きに配向される。トレッドリング2には、一部に樹脂材料が添加又は複合されても良い。
【0013】
ハブ3は、図示しない車両の車軸(ドライブシャフト)に接続される。本実施形態のハブ3は、金属製である。前記金属としては、アルミニウム系、マグネシウム系、銅系及びチタン系など周知のものが採用される。ハブ3は、例えば、ディスク部3aと、そのタイヤ半径方向の外側に形成された円筒状部3bとを一体に備えている。ディスク部3aは、トレッドリング2と同芯に配されている。円筒状部3bの外周面3eに、スポーク部4が連結される。ハブ3は、第2接着剤32でスポーク部4と接着されている。
【0014】
本実施形態のスポーク部4は、熱可塑性樹脂8を含んでいる。このようなスポーク部4は、タイヤ走行時の振動を吸収し、高い振動性能を有する。スポーク部4は、本実施形態では、硬化された熱可塑性樹脂8で構成されている。
【0015】
熱可塑性樹脂8は、JIS K6273:2018に準拠した40℃における引張永久歪が60%以下であり、かつ、JIS K6262:2013に準拠した40℃における圧縮永久歪が50%以下である。このように、本発明では、前記40℃における引張永久歪及び前記40℃における圧縮永久歪が一定の範囲に制限されているので、走行後に長時間駐車された場合でも、スポーク部4に生じる永久歪を小さくできる。このため、本発明のエアレスタイヤは、トレッドリング2のフラットスポットを抑えることができ、ひいては、振動性能を向上することができる。また、近年、夏場の外気温は、およそ40℃前後となる。このため、前記40℃における引張永久歪及び前記40℃における圧縮永久歪を採用することにより、両永久歪が大きくなる傾向にある夏場での車両走行後かつ長時間駐車後におけるトレッドリング2のフラットスポットを効果的に抑えることができる。
【0016】
前記40℃における引張永久歪は、下記サイズの短冊状試験片(熱可塑性樹脂8)を用い、10%の伸長率で前記短冊状試験片を40℃の雰囲気中で22時間固定した後に解放し、30分経過後に測定した値で算出される。また、前記40℃における圧縮永久歪は、下記サイズの円柱状試験片(熱可塑性樹脂)を用い、10%の圧縮率で前記円柱状試験片を40℃の雰囲気中で22時間固定した後に解放し、30分経過後に測定した値で算出される。
短冊状試験片(長さ×幅×厚さ):100mm×10mm×2mm
円柱状試験片(直径×厚さ):29mm×12mm
【0017】
前記40℃における引張永久歪及び圧縮永久歪が過度に小さくなると、熱可塑性樹脂8は弾性を喪失しかつその硬度が過度に大きくなる傾向にあり、乗り心地が悪化するおそれがある。振動性能と乗り心地とを両立するために、前記40℃における引張永久歪は、55%以下が望ましく、1.0%以上が望ましく、2.0%以上がさらに望ましい。また、前記40℃における圧縮永久歪は、45%以下が望ましく、1.0%以上が望ましく、2.0%以上がさらに望ましい。
【0018】
熱可塑性樹脂8(硬化後)の30℃における複素弾性率は、50MPa以上が望ましく、100MPa以上がさらに望ましく、300MPa以下が望ましく、250MPa以下がさらに望ましい。複素弾性率が50MPa以上であるので、タイヤ1としての剛性が維持される。複素弾性率が300MPa以下であるので、振動性能を高く維持することができる。
【0019】
同様の観点より、熱可塑性樹脂8の30℃に置ける損失正接は、0.001以上が望ましく、0.005以上がさらに望ましく、0.1以下が望ましく、0.08以下がさらに望ましい。前記複素弾性率及び前記損失正接は、本明細書では、JIS K6394:2007に準拠して、GABO社製「イプレクサー(登録商標)」などの粘弾性スペクトロメーターを用い、以下に示される条件下で測定された値である。複素弾性率及び損失正接を30℃で測定する理由としては、走行時のタイヤ1のスポーク部4の温度が30℃よりも小さくなることによる。
初期歪:5%
振幅:±1%
周波数:10Hz
変形モード:引張
温度:30℃
【0020】
また、熱可塑性樹脂8の軟化点は、80℃以上が望ましく、100℃以上がさらに望ましく、200℃以下が望ましく、180℃以下がさらに望ましい。軟化点が80℃以上であるので、タイヤ1の高速耐久性能を確保することができる。軟化点が200℃以下であるので、スポーク部4の硬度が高くなりすぎることが抑えられ、振動性能を高めることができる。軟化点は、ASTM-D1525で規定されるVicat法で測定される。
【0021】
さらに、熱可塑性樹脂8の23℃における破断伸びは、350%以上が望ましく、400%以上がさらに望ましく、800%以下が望ましく、700%以下がさらに望ましい。23℃における破断伸びが350%以上であるので、熱可塑性樹脂8の強度が高く、高速耐久性能を維持することができる。23℃における破断伸びが800%以下であるので、引張永久歪や圧縮永久歪が小さく維持され振動性能を高めることができる。破断伸びは、JIS K6251:2017に準拠し、硬化後の熱可塑性樹脂8からなる3号ダンベル型の試験片を用いて、23℃で引張試験を実施して測定することができる。
【0022】
熱可塑性樹脂8は、23℃における降伏応力が100%延伸時のモジュラスよりも大きいのが望ましい。このような熱可塑性樹脂8で構成されるスポーク部4は、走行後の長期間駐車による変形(永久歪)を小さくすることができる。降伏応力は、5.0MPa以上が望ましく、6.5MPa以上がさらに望ましく、10.0MPa以下が望ましく、9.0MPa以下がさらに望ましい。23℃における降伏応力σ1と100%延伸時のモジュラスσ2との差(σ1-σ2)は、0.5MPa以上が望ましく、1.0MPa以上がさらに望ましく、5.0MPa以下が望ましく、4.0MPa以下がさらに望ましい。
【0023】
前記100%延伸時のモジュラスは、JIS K6251:2017に準拠し、23℃雰囲気下にて、引張速度3.3mm/秒の条件で測定された、列理方向(押出しまたはせん断処理により熱可塑性樹脂8を形成する際の圧延方向)への伸び100%時の引張応力である。100%延伸時のモジュラス測定用サンプルは、厚さ1mmのダンベル状7号形の試験片である。前記降伏応力は、JIS K6251:2017に準拠して計測した引張試験により得られる応力-ひずみ曲線から測定される。具体的には、熱可塑性樹脂8を用いて、射出成形により、厚み2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した前記シートからダンベル型試験片を作製し、この試験片について前記応力-ひずみ曲線が得られた。この得られた曲線を用いて、ひずみの増加に伴い応力が低下した最初の応力が降伏応力とされた。
【0024】
このような熱可塑性樹脂8としては、例えば、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、メタクリル樹脂等が好ましく、とりわけ、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂又はポリウレタン樹脂が採用されるのが望ましい。なお、「樹脂」には、エラストマーが含まれるものとする。
【0025】
前記「熱可塑性樹脂」とは、弾性を有する高分子化合物であって、結晶性で融点の高いハードセグメントを構成するポリマーと、非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーとを有する共重合体からなる熱可塑性樹脂材料を意味する。熱可塑性樹脂は結晶性で融点の高いハードセグメントが、擬似的な架橋点として振る舞い弾性を発現する。熱可塑性樹脂は、加熱してハードセグメントを一旦溶融させた後これを冷却すれば、擬似的な架橋点を再生することができるので、再利用が可能である。ハードセグメントは、例えば、低分子量ポリオール由来部位等である。ソフトセグメントは、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール由来の部位等である。本発明の熱可塑性樹脂は、ゴム成分を含まないものとする。
【0026】
引張永久歪、圧縮永久歪、複素弾性率、損失正接、軟化点温度、破断伸び、降伏応力及び100%延伸時のモジュラスを調整する手法は、例えば、以下のとおりである。前記調整する手法は、例えば、熱可塑性樹脂におけるハードセグメント、ソフトセグメントの種類を適宜選択する方法、熱可塑性樹脂中のハードセグメント、ソフトセグメントの構成単位量を調整する方法がある。また、前記調整する手法は、例えば、ソフトセグメントの種類を2種類以上組み合わせる方法、熱可塑性樹脂と、添加剤としての架橋剤とを組み合わせる方法、フィラーの種類や含有量を調整する方法などでもよい。さらに、前記調整する手法は、好ましい態様として、ハードセグメント及びソフトセグメントを持つ熱可塑性樹脂を配合することや、熱可塑性樹脂と架橋剤(添加剤)とを組み合わせることなどがある。
【0027】
このような熱可塑性樹脂8で構成されるスポーク部4は、例えば、タイヤ半径方向の外側のアウターリング部4aと、タイヤ半径方向の内側のインナーリング部4bと、複数のスポークエレメント4cとを一体に備えている。アウターリング部4aは、例えば、トレッドリング2の内周面2bに連結された環状体である。インナーリング部4bは、ハブ3の円筒状部3bの外周面3eに連結された環状体である。このように、スポーク部4のタイヤ半径方向の外側にトレッドリング2が連結され、スポーク部4のタイヤ半径方向の内側にハブ3が連結される。各スポークエレメント4cは、例えば、タイヤ半径方向に延びる板状体であり、アウターリング部4aとインナーリング部4bとに繋がる。スポークエレメント4cは、図示の態様に限定されるものではなく、周知の種々の形態が採用される。
【0028】
[エアレスタイヤの製造方法]
次に、タイヤ1の製造方法が説明される。タイヤ1の製造には、金型10が用いられる。図3は、金型10の一実施形態の断面図である。図3に示されるように、金型10は、下型10Aと、下型10Aに対して相対的に上下方向に移動可能な上型10Bとを含んでいる。下型10Aは、円柱状の凹部からなるキャビティ20と、上型10Bが合わさる合わせ面11とを含んでいる。図3は、具体的には、上型10Bと下型10Aとを閉じて、合わせ面11で切断したときの断面図であり、下型10Aと、合わせ面11よりも下側に位置する上型10Bの部分10eとが示される。金型10は、例えば、キャビティ20に熱可塑性樹脂8を射出するための周知構造の射出ゲート26を備えている。
【0029】
キャビティ20は、例えば、トレッドリング2とハブ3とが配置される領域、及び、スポーク部4を成型するための熱可塑性樹脂8が充填される領域を含んでいる。このように、金型10は、本実施形態では、周知構造のものが採用される。
【0030】
図4は、本実施形態の製造方法のフロー図である。図4に示されるように、製造方法は、本実施形態では、準備工程S1と処理工程S2と第1塗布工程S3と第2塗布工程S4と配置工程S5と射出工程S6と成型工程S7とアニール工程S8とを含んでいる。また、製造方法は、例えば、を含んでいる。
【0031】
本実施形態の製造方法は、先ず、準備工程S1が行われる。準備工程S1は、例えば、トレッドリング2とハブ3とが準備される。トレッドリング2は、例えば、慣例にしたがって、未加硫のゴム部材や補強コード2c等を所定形状に成型し、これを金型等で加硫することにより得られる。一方、ハブ3は、鋳造、鍛造、切削等の各種の周知の方法により製造される(図示省略)。
【0032】
次に、処理工程S2が行われる。処理工程S2は、例えば、ハブ3の外周面3e(図2に示す)をブラスト処理する工程である。ブラスト処理は、例えば、外周面3eに非金属粒又は金属粒を高速で吹き付けて、外周面3eを粗面化するものである。これにより、ハブ3とスポーク部4との間の接着強度を高めることができる。また、処理工程S2は、本実施形態では、トレッドリング2の内周面2bをブラスト処理してもよい。なお、本発明の製造方法では、ブラスト処理以外の周知の粗面化の処理工程S2がなされてもよいし、処理工程が省略されてもよい。
【0033】
次に、第1塗布工程S3が行われる。第1塗布工程S3は、本実施形態では、ハブ3の外周面3eに第2接着剤32(図2に示す)が塗布される。第2接着剤32は、本実施形態では、周知の方法によって、外周面3eに塗布される。
【0034】
第2接着剤32は、例えば、接着強度を高めるために、加硫接着剤であるのが望ましい。第2接着剤32は、具体的には、ロード・ファー・イーストコーポレーション製の商品名「ケムロック218E」、「IMB1040」や、株式会社東洋化学研究所製の商品名「メタロックUA」、「メタロックC-12」が好適に採用される。
【0035】
第1塗布工程S3では、第2接着剤32が30~100μmの厚さd1(図2に示す)で塗布されるのが望ましい。厚さd1が30μm以上であるので、第2接着剤32が外周面3eに十分に塗布されるため、接着強度を確保することができる。厚さd1が100μm以下であるので、射出工程において、熱可塑性樹脂8が射出されたときに、第2接着剤32が熱可塑性樹脂8に押し流されることが抑えられ、接着強度を高めることができる。厚さd1で塗布された第2接着剤32は、成型工程S7の後においても、同じ厚さの範囲とされる。
【0036】
なお、第1塗布工程S3では、予め予熱処理された第2接着剤32をハブ3の外周面3eに塗布するのが望ましい。これにより、第2接着剤32をなじませて、金属製のハブ3との接着性を高めるとともに、第2接着剤32に含まれる溶剤を除去することができる。第2接着剤32は、例えば、図示しない周知の加温機によって、10~60分の予熱時間で、30~150℃に昇温される。
【0037】
次に、第2塗布工程S4が行われる。第2塗布工程S4は、本実施形態では、トレッドリング2の内周面2bに第1接着剤31(図2に示す)が塗布される。第1接着剤31は、本実施形態では、周知の方法によって、内周面2bに塗布される。第1接着剤31は、例えば、第2接着剤32と同じものであってもよい。また、第1接着剤31は、第2接着剤32とは異なる加硫接着剤であってもよい。具体的には、第1接着剤31は、ロード・ファー・イーストコーポレーション製の商品名「ケムロック210」、「ケムロック6108」や、株式会社東洋化学研究所製の商品名「メタロックUA」、「メタロックC-12」が好適に採用される。なお、第2塗布工程S4は、処理工程S2と配置工程S5との間で行われていればよい。
【0038】
第1接着剤31の厚さd2は、第2接着剤32の厚さd1よりも小さくてもよい。一般に、熱可塑性樹脂8の流路によって、熱可塑性樹脂8で形成されるスポーク部4と加硫ゴムで形成されるトレッドリング2との接着は、スポーク部4と金属製のハブ3との接着よりも遅れることになる。これにより、トレッドリング2と接着する熱可塑性樹脂8の圧力が相対的に小さく、この熱可塑性樹脂8によって流される第1接着剤31は小さくなる。したがって、第1接着剤31の厚さd2を第2接着剤32の厚さd1よりも小さくすることで、第1接着剤31の使用量を低減しつつ、スポーク部4とトレッドリング2との接着強度と、スポーク部4とハブ3との接着強度とを同等程度とすることができる。このような観点より、第2塗布工程S4では、第1接着剤31が10~50μmの厚さd2で塗布されるのが望ましい。
【0039】
次に、配置工程S5が行われる。図5は、配置工程S5における金型10の下型10Aの平面図である。図5に示されるように、配置工程S5は、本実施形態では、下型10Aのキャビティ20内の予め定められた位置に第2接着剤32が塗布されたハブ3が配置される。また、配置工程S5では、例えば、第1接着剤31が塗布されたトレッドリング2がキャビティ20に配置されてもよい。このトレッドリング2は、例えば、キャビティ20内の予め定められた位置に配置される。この後、上型10Bが下型10Aに嵌合されて、金型10が閉じられる。
【0040】
次に、射出工程S6が行われる。射出工程S6は、本実施形態では、キャビティ20に熱可塑性樹脂8が射出される。射出工程S6は、例えば、熱可塑性樹脂8が、射出ゲート26(図3に示す)を介してキャビティ20内の予め定められた位置に充填される。
【0041】
熱可塑性樹脂8の射出には、例えば、周知構造の図示しない射出成形機が用いられる。この射出成形機は、熱可塑性樹脂8を加熱するためのシリンダー(図示省略)と、前記シリンダーの内部で回転し、かつ、熱可塑性樹脂8に圧力をかけながら射出するためのスクリュー(図示省略)とを含んでいる。前記シリンダーは、ヒーター等の加熱手段によって温調可能に構成されている。これにより、熱可塑性樹脂8は、加熱により軟化した状態で射出される。
【0042】
前記シリンダーの温度は、180℃以上が望ましく、200℃以上がさらに望ましく、300℃以下が望ましく、220℃以下が望ましい。シリンダーが300℃以下に温調されるので、熱可塑性樹脂8が必要以上に高い温度まで加熱されるのを防ぐことができるため、トレッドリング2、及び、第2接着剤32及び第1接着剤31の熱劣化を防ぐことができる。前記シリンダーが180℃以上に温調されるので、熱可塑性樹脂8の熱が第2接着剤32や第1接着剤31に与えられ、その反応基の活性が高められるため、接着強度が向上する。
【0043】
次に、成型工程S7が行われる。成型工程S7は、本実施形態では、キャビティ20内で熱可塑性樹脂8を硬化させてスポーク部4を形成する。これにより、ハブ3にスポーク部4が連結されたスポーク複合体7が得られる(図2に示す)。本実施形態の熱可塑性樹脂8は、冷却、例えば、自然冷却により硬化される。スポーク複合体7は、本実施形態では、円筒状部3bの外周面3eとインナーリング部4bとが第2接着剤32を介して連結されることで形成される。なお、熱可塑性樹脂8の硬化方法には、周知の方法が採用される。
【0044】
また、配置工程S5において、金型10にトレッドリング2が配置されているので、本実施形態の成型工程S7では、スポーク複合体7にトレッドリング2が連結される。成型工程S7では、例えば、トレッドリング2の内周面2bとスポーク部4のアウターリング部4aとが第1接着剤31を介して連結される。これにより、本実施形態の成型工程S7では、トレッドリング2とハブ3とスポーク部4とが一体成型されたタイヤ1が形成される。
【0045】
次に、アニール工程S8が行われる。アニール工程S8では、スポーク複合体7に熱が供給される。これにより、射出工程S6での熱可塑性樹脂8による熱等では反応が不足する傾向にあった第2接着剤32の反応基が、アニール工程S8での熱供給によって十分に活性化される。したがって、本発明のエアレスタイヤ1の製造方法は、スポーク複合体7の第2接着剤32の接着強度をさらに高めることができる。また、アニール工程S8は、第1接着剤31の反応基の活性を高める。
【0046】
アニール工程S8は、本実施形態では、スポーク複合体7、本実施形態ではタイヤ1が、50~100℃の雰囲気下に10~90分、置かれる。これにより、接着強度が高められるとともに、熱可塑性樹脂8の劣化やスポーク部4の変形が抑制される。
【0047】
アニール工程S8は、例えば、金型10からスポーク複合体7、本実施形態ではタイヤ1が取りだされた後に行われる。これにより、スポーク複合体7を確実に冷却することができる。また、金型10内でスポーク複合体7を冷却することで、熱可塑性樹脂8が金型10に貼り付くことが抑制される。アニール工程は、本実施形態では、少なくとも1本、好ましくは複数本のタイヤ1が、周知構造の加温機、例えば、熱風乾燥装置内に投入されてアニール処理される。
【0048】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。本実施形態では、ハブ3とトレッドリング2と熱可塑性樹脂8からなるスポーク部4とを金型10で一体成型したタイヤ1がアニール処理された。しかしながら、例えば、ハブ3と熱可塑性樹脂8からなるスポーク部4とで一体成型されたスポーク複合体7のみがアニール処理される。そして、このアニール処理されたスポーク複合体7に、第1接着剤31が塗布されたトレッドリング2を接着により連結することでタイヤ1が成型されてもよい(図示省略)。また、アニール処理されたスポーク複合体7と第1接着剤31が塗布されたトレッドリング2とを金型10に配置して、スポーク複合体7とトレッドリング2との間に熱可塑性樹脂8を射出してタイヤ1を成型してもよい(図示省略)。
【実施例0049】
図1及び図2の基本構造をなすエアレスタイヤ(タイヤサイズ145/70R12に相当)が試作された。そして、各テストタイヤの耐久性についてテストがされた。テスト方法は、次の通りである。
【0050】
<振動性能>
ドラム試験機を用い、各タイヤが下記仕様で走行されたのち、走行時の荷重が負荷されたまま、2週間に亘り自然冷却された。そして、このタイヤを同じ仕様で走行させ、走行の前後において、ラジアルフォースバリエーション(RFV)が測定された。結果は、走行前のラジアルフォースバリエーション(RFV1)と、走行後のラジアルフォースバリエーション(RFV2)との差(RFV1-RFV2)が算出されて、比較例1の差(RFV1-RFV2)を100とする指数で示される。数値が大きいほど、振動性能に優れている。ラジアルフォースバリエーションは、タイヤユニフォミティ試験機を用い、JASO C607:2000の「自動車用タイヤのユニフォミティ試験方法」に準拠して、タイヤの走行速度を60km/hに設定して得られる。
荷重:3.4kN
速度:60km/h
走行時間:1時間
【0051】
<高速耐久性能>
ドラム試験機を用い、各タイヤが、スポーク部に剥離やクラック等の損傷が発生するまで下記の条件にて走行された。結果は、タイヤが損傷したときの速度よりも10km/h小さい速度(破壊速度という)が用いられ、比較例1の破壊速度を100とする指数で評価された。数値が大きいほど、高速耐久性能に優れている。
荷重:3.4kN
速度:初期速度100km/hから10分毎に10km/hを付加
テストの結果が、表1に示される。
【0052】
【表1】
【0053】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比べて、振動性能に優れていることが理解される。また、実施例のタイヤは、高速耐久性能が高く維持されていることが理解される。また、複素弾性率、損失正接、軟化点及び23℃における破断伸びのそれぞれを好ましい範囲にする、又は、降伏応力を100%延伸時のモジュラスよりも大きくタイヤは、さらに振動性能に優れたものとなった。
【0054】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0055】
[本発明1]
エアレスタイヤであって、
接地面を有する環状のトレッドリングと、前記トレッドリングのタイヤ半径方向内側に配されるハブと、前記トレッドリングと前記ハブとを連結するスポーク部とを備え、
前記スポーク部は、熱可塑性樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂は、JIS K6273に準拠した40℃における引張永久歪が60%以下であり、かつ、JIS K6262に準拠した40℃における圧縮永久歪が50%以下である、
エアレスタイヤ。
[本発明2]
前記熱可塑性樹脂は、30℃における複素弾性率が50~300MPaであり、かつ、30℃における損失正接が0.1以下である、本発明1に記載のエアレスタイヤ。
[本発明3]
前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂又はポリウレタン樹脂を含む、本発明1又は2に記載のエアレスタイヤ。
[本発明4]
前記熱可塑性樹脂は、軟化点が80~200℃である、本発明1ないし3のいずれかに記載のエアレスタイヤ。
[本発明5]
前記熱可塑性樹脂は、23℃における破断伸びが350%以上である、本発明1ないし4のいずれかに記載のエアレスタイヤ。
[本発明6]
前記熱可塑性樹脂は、23℃における降伏応力が100%延伸時のモジュラスよりも大きい、本発明1ないし5のいずれかに記載のエアレスタイヤ。
【符号の説明】
【0056】
1 エアレスタイヤ
2 トレッドリング
2a 接地面
3 ハブ
4 スポーク部
8 熱可塑性樹脂
図1
図2
図3
図4
図5