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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176086
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20241212BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
F16H25/24 J
F16H25/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094320
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 大輔
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA12
3J062BA27
3J062CD06
3J062CD33
3J062CD75
(57)【要約】
【課題】ナットの全長を長くすることなく固体潤滑剤を組み付けることができ、潤滑油を長期間に亘って安定して自動的に供給する。また、ねじ軸に対する固体潤滑剤の接触力の管理を容易にしてトルク上昇及び異常発熱を抑制するとともに、固体潤滑剤の取付けや交換が容易なボールねじ装置を提供する。
【解決手段】ボールねじ装置10は、ねじ軸20と、ナット30と、複数のボール26と、を備える。ナット30は、ボール26が無限循環するサーキットCの外部に、ナット30の外周面から内周面に貫通して固体潤滑剤50を収容可能な収容室33を備える。固体潤滑剤50は、突条部52をねじ軸20の外周ねじ溝21に摺接させ、凹条部53をねじ軸20のランド部22に摺接させて、収容室33に収容される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に形成された螺旋状の外周ねじ溝と、軸方向に隣り合う前記外周ねじ溝間に形成されたランド部と、を有するねじ軸と、
前記ねじ軸の前記外周ねじ溝に対向するように内周面に形成された螺旋状の内周ねじ溝を有するナットと、
前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とで形成されたボール転動路と、
前記ボール転動路を転動する複数のボールと、
前記ボール転動路を転動する前記ボールを循環させるボール循環通路を有する少なくとも1つの循環部品と、
前記ボール転動路と前記ボール循環通路とによって形成され、前記ボールが循環する少なくとも1つのサーキットと、
を備えるボールねじ装置であって、
前記ナットは、前記ナットの外周面から前記内周面に貫通して固体潤滑剤を収容可能な収容室をサーキット外に備え、
前記固体潤滑剤は、前記ねじ軸の前記外周ねじ溝に摺接する突条部と、前記ねじ軸の前記ランド部に摺接する凹条部と、を備える、
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記収容室に収容された前記固体潤滑剤は、前記ナットの前記外周面に露出する露出面を有し、
前記露出面の少なくとも一部が、前記循環部品を前記ナットに固定する固定部材で押えられる、
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記固体潤滑剤の前記露出面と前記固定部材との間には、前記固体潤滑剤の前記露出面を押さえる押え板をさらに備える、
請求項2に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
前記ナットは、軸方向側面から前記収容室に貫通して前記ナットの中心軸と平行に形成された固定孔を備え、
前記固体潤滑剤は、前記ナットの中心軸と平行に形成されたピン孔を備え、
前記固定孔と前記ピン孔とは、軸方向から見て互いに中心がずれて配置され、
前記固体潤滑剤は、前記収容室に収容され、前記固定孔に挿通する固定ピンが前記ピン孔に挿通されることで位置決め固定される、
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
前記固体潤滑剤は、合成樹脂と潤滑剤が一体成形されてなる潤滑油含有ポリマ部材である、
請求項1~4のいずれか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項6】
前記サーキットは、連続する前記ボール転動路と前記ボール循環通路とで形成され、前記複数のボールが循環転動する無限循環路であり、
前記サーキット外は、前記無限循環路の軸方向外側の前記ボール転動路の部分、及び複数の前記無限循環路の間の前記ボール転動路の部分によって形成され、前記ボールが転動しないボール非循環路である、
請求項1に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置に関し、特に長期間に亘って潤滑剤を供給可能なボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な環境で使用されるボールねじは、ねじ軸と多数のボールを介して螺合されたナットとの間の空間部にグリースや潤滑油を充填して潤滑している。また、粉塵等がナット内に侵入することを防止する目的で、ナットの端部に環状の凹部を設け、そこにシール部材が嵌着されている。
【0003】
しかしながら、このような従来の潤滑油またはグリース潤滑方式のボールねじは、特に高温環境で使用されるような場合に、ナット内部に充填されている潤滑剤が外部に流れ出してしまうため消耗が早く、短期間に潤滑剤の補給を繰り返さなければならないという問題点があった。
【0004】
この問題を解決するため、特許文献1には、シール形状の固体潤滑剤を、ねじ軸の外径部(ランド部)のみに摺接させてナットに配置し、固体潤滑剤から潤滑剤を供給するとともに、ねじ軸の往復動作時にねじ溝に付着した潤滑剤の掻き落としを防止して、潤滑剤を効果的に保持できるようにしたボールねじ用の潤滑装置が開示されている。また、特許文献2には、ボールが循環する通路以外の部分であるサーキット外に、ねじ軸のねじ溝に摺接するバックアップデフレクタ形状の固体潤滑剤を配置し、経時的に固体潤滑剤から潤滑剤をねじ軸に供給して長期間に亘って潤滑作用を行うようにした、含油ポリマ潤滑ボールねじが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3796972号公報
【特許文献2】特開平11-201258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のボールねじでは、固体潤滑剤を配置するためにナットの全長を長くする必要があり、既存機種への置き換えが困難であるなど、装置スペース上の制約が大きい。また、特許文献2のボールねじでは、ナット寸法に与える影響が少ないものの、固体潤滑剤の形状が複雑であり、また固体潤滑剤のねじ軸に対する接触力の管理が難しいため、例えば、接触力が大きいと、ボールねじのトルクの上昇やそれに伴う発熱が問題となる虞がある。また、接触力が小さいと、潤滑機能が得られ難くなる可能性がある。また、特許文献1及び2のいずれも、異物環境下や熱の影響などによって固体潤滑剤の枯渇や変形が生じた場合、ナットを分解しなければ固体潤滑剤を交換することができず、潤滑性能が失われた状態で継続使用される虞がある。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ナットの全長を長くすることなく固体潤滑剤を配置することができ、潤滑油を長期間に亘って安定して自動的に供給することができ、また、ねじ軸に対する固体潤滑剤の接触力の管理を容易にしてトルク上昇や異常発熱を抑制するとともに、固体潤滑剤の取付けや交換が容易なボールねじ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明の上記目的は、ボールねじ装置に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 外周面に形成された螺旋状の外周ねじ溝と、軸方向に隣り合う前記外周ねじ溝間に形成されたランド部と、を有するねじ軸と、
前記ねじ軸の前記外周ねじ溝に対向するように内周面に形成された螺旋状の内周ねじ溝を有するナットと、
前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とで形成されたボール転動路と、
前記ボール転動路を転動する複数のボールと、
前記ボール転動路を転動する前記ボールを循環させるボール循環通路を有する少なくとも1つの循環部品と、
前記ボール転動路と前記ボール循環通路とによって形成され、前記ボールが循環する少なくとも1つのサーキットと、
を備えるボールねじ装置であって、
前記ナットは、前記ナットの外周面から前記内周面に貫通して固体潤滑剤を収容可能な収容室をサーキット外に備え、
前記固体潤滑剤は、前記ねじ軸の前記外周ねじ溝に摺接する突条部と、前記ねじ軸の前記ランド部に摺接する凹条部と、を備える、
ボールねじ装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明のボールねじ装置によれば、潤滑油を長期間に亘って安定して自動的に供給でき、ねじ軸に対する固体潤滑剤の接触力の管理が容易でトルク上昇や異常発熱が抑制され、かつ固体潤滑剤の取付けや交換を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るボールねじ装置の斜視図である。
図2図2は、図1に示すナットの斜視図である。
図3図3は、ナットの分解斜視図である。
図4図4は、図5A及び図5Bの断面位置を示すボールねじ装置の斜視図である。
図5A図5Aは、図4のA-A断面図である。
図5B図5Bは、図4のB-B断面図である。
図6A図6Aは、収容室の拡大斜視図である。
図6B図6Bは、固体潤滑剤の斜視図である。
図7図7は、収容室に収容された固体潤滑剤が固定部材により押えられた状態を示す斜視図である。
図8A図8Aは、ねじ軸と固体潤滑剤との位置関係を示す側面図である。
図8B図8Bは、固体潤滑剤の斜視図である。
図9A図9Aは、ねじ軸と他の固体潤滑剤との位置関係を示す側面図である。
図9B図9Bは、他の固体潤滑剤の斜視図である。
図10図10は、変形例のナットの斜視図である。
図11図11は、図10に示す変形例のナットの分解斜視図である。
図12A図12Aは、本発明の第2実施形態に係るボールねじ装置のナットの側面図である。
図12B図12Bは、固体潤滑剤の斜視図である。
図13図13は、第2実施形態のナットの固定孔と固体潤滑剤のピン孔との位置関係を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るボールねじ装置の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1図5Bに示すように、ボールねじ装置10は、外周面に螺旋状の外周ねじ溝21が形成されたねじ軸20と、ねじ軸20の外周ねじ溝21に対向して螺旋状の内周ねじ溝31が内周面に形成されたナット30と、ねじ軸20の外周ねじ溝21とナット30の内周ねじ溝31とで形成されるボール転動路25に転動可能に介装された多数のボール26とを備え、回転運動を直線運動に変換する機構である。
【0012】
ナット30には、ボール転動路25を転動したボール26をボール転動路25の所定位置に戻すための循環部品である略U字形の循環チューブ40(図に示す実施形態では4つ)が取り付けられている。
【0013】
ナット30は、外周面の一部が切り欠かれた切欠き平面32を有し、該切欠き平面32には、複数の雌ねじ13が径方向に形成されている(図11参照)。循環チューブ40は、固定部材であるチューブ押さえ12を介して、雌ねじ13に螺合する止めねじ11により切欠き平面32に固定されている。
【0014】
図5Aに示すように、循環チューブ40は、その内部に、ボール転動路25を転動するボール26を循環させるためのボール循環通路41が設けられており、ボール循環通路41とボール転動路25とにより、ボール26を無限循環させる無限循環路であるサーキットC(図に示す実施形態では4つ)が形成される。
【0015】
また、ボール転動路25とボール循環通路41からなる4つのサーキットCのそれぞれの軸方向両側には、ねじ軸20の外周ねじ溝21とナット30の内周ねじ溝31とが対向しているがボール26が転動しない、サーキット外となるボール非循環路が形成される。
【0016】
換言すれば、サーキットCは、ボール転動路25とボール循環通路41とが連続しており、その内部を複数のボール26が循環転動する無限循環路(図に示す実施形態では4つ)であり、サーキット外は、4つの無限循環路の軸方向外側(ナット30の軸方向両端部)に位置するボール転動路25の部分、及び各無限循環路の間に位置するボール転動路25の部分によって形成され、ボール26が転動しないボール非循環路である。
【0017】
ナット30は、4つのサーキットCの軸方向両側、即ち、ナット30の軸方向両端部、かつ切欠き平面32の軸方向中心線CLに対して互いに逆側に、切欠き平面32とナット30の内周面とを貫通する、矩形孔である2つの収容室33が設けられている。
【0018】
収容室33には、後に詳述する板状の固体潤滑剤50が収容され、切欠き平面32から覗く固体潤滑剤50の上面51の一部が、チューブ押さえ12により押さえられて収容室33からの抜け及びガタツキが防止されている。
【0019】
次に、図4図8を参照して収容室33及び固体潤滑剤50について説明する。収容室33の深さHは、ナット30の内周ねじ溝31に達する深さを有しており、そのねじ軸20側の一部がナット30の内周面に貫通するとともに、ねじ軸20から径方向に離れた他の一部が切欠き平面32と略平行な底部34を形成する。底部34は、収容室33に収容された固体潤滑剤50の位置決め用座面として機能する(図5B図6A参照)。
【0020】
固体潤滑剤50は、図5A図5B図6B及び図8Bに示すように、軸方向から見て矩形の一つの角部が円弧状に切り欠かれた略5角形の板状部材である。固体潤滑剤50の軸方向厚さtは、ねじ軸20の外周ねじ溝21の幅の略1/2と、隣り合う外周ねじ溝21間のランド部22の幅の略1/2と、の合計に相当する厚さとなっている。
【0021】
そして、固体潤滑剤50の円弧状切欠部の内、外周ねじ溝21に対応する部分には、外周ねじ溝21に摺接する突条部52が外周ねじ溝21と略同一形状に形成され、ランド部22に対応する部分には、ランド部22に摺接する凹条部53がランド部22と略同一形状に形成されている。
【0022】
固体潤滑剤50は、ボールねじ装置10が運転されると、突条部52が外周ねじ溝21と摺接し、凹条部53がランド部22と摺接して、固体潤滑剤50に含有する潤滑油が経時的に徐々に滲み出して自動的に供給され、外周ねじ溝21及び内周ねじ溝31とボール26との接触面を潤滑する。
【0023】
固体潤滑剤50は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン等の基本的に同じ化学構造を有するポリオレフィン系樹脂の群から選定された合成樹脂に、潤滑剤としてポリα-オレフィン油のようなパラフィン系炭化水素油、ナフテン系炭化水素油、鉱油、ジアルキルジフェニルエーテル油のようなエーテル油、フタル酸エステルのようなエステル油等の何れか単独若しくは混合油の形で混ぜて調製した原料を、樹脂の融点以上で加熱して可塑化し、その後冷却することで固形状にした潤滑剤含有ポリマであり、潤滑剤の中に予め酸化防止剤、錆止め剤、摩耗防止剤、あわ消し剤、極圧剤等の各種添加剤を加えたものでもよい。
【0024】
潤滑剤含有ポリマの組成比は、全質量に対してポリオレフィン系樹脂10~50質量%、潤滑剤90~50質量%である。ポリオレフィン系樹脂が10質量%未満の場合は、あるレベル以上の硬さ・強度が得られず、負荷がかかった時に初期の形状を維持するのが難しくなる。また、ポリオレフィン系樹脂が50質量%を超える場合(つまり、潤滑剤が50質量%未満の場合)は、潤滑剤の供給が少なくなり、ボールねじの寿命が短くなる。
【0025】
合成樹脂の群は、基本構造は同じでその平均分子量が異なっており、700~5×106の範囲に及んでいる。平均分子量700~1×10というワックス(例えばポリエチレンワックス)に分類されるものと、平均分子量1×10~1×10という比較的低分子量のものと、平均分子量1×10~5×10という超高分子量のものとを、単独若しくは必要に応じて混合して用いる。
【0026】
比較的低分子量のものと潤滑剤との組合わせによって、ある程度の機械的強度、潤滑剤供給能力、保油性を持つ潤滑剤含有ポリマが得られる。この中の比較的低分子量のものの一部を、ワックスに分類されるものに置き換えると、ワックスに分類されるものと潤滑油との分子量の差が小さいために潤滑油との親和性が高くなり、結果として潤滑剤含有ポリマの保油性が向上し、長期間にわたっての潤滑剤の供給が可能になる。但し、その反面で機械的強度は低下する。尚、ワックスとしては、ポリエチレンワックスのようなポリオレフィン系樹脂の他、融点が100~130℃以上の範囲にある炭化水素系のもの(例えばパラフィン系合成ワックス)であれば使用できる。
【0027】
一方、それに対して超高分子量のものに置き換えた場合、超高分子量のものと潤滑油との分子量の差が大きいために潤滑油との親和性が低くなり、結果として保油性が低下し、潤滑剤含有ポリマからの潤滑剤の滲み出しが速くなる。それによって、潤滑剤含有ポリマから供給可能な潤滑剤量に達する時間が短くなり、ボールねじの寿命が短くなる。ただし、機械的強度は向上する。
【0028】
成形性、機械的強度、保油性、潤滑剤供給量のバランスを考慮すると、潤滑剤含有ポリマの組成比は、ワックスに分類されるもの0~5質量%、比較的低分子量のもの8~48質量%、超高分子量のもの2~10質量%、かつ3つの樹脂分の合計10~50質量%(残りが潤滑剤90~50質量%)が好適である。
【0029】
本発明の潤滑剤含有ポリマの機械的強度を向上させるため、上述のポリオレフィン系樹脂には、以下のような熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を添加することができる。熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ABS樹脂等の各樹脂を使用することができる。
【0030】
一方、熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラニン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の各樹脂を使用することができる。これらの樹脂は、単独または混合して用いてもよい。
【0031】
更に、ポリオレフィン系樹脂とそれ以外の樹脂とを、より均一な状態で分散させるために、必要に応じて適当な相溶化剤を加えても良い。また、機械的強度を向上させるために、充填材を添加しても良い。例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウムウィスカーやホウ酸アルミニウムウィスカー等の無機ウィスカー類、或いはガラス繊維や金属織維等の無機繊維類及びこれらを布状に編組したもの、また有機化合物では、カーボンブラック、黒鉛粉末、カーボン繊維、アラミド繊維やポリエステル繊維等を添加してもよい。
【0032】
更に、ポリオレフィン系樹脂の熱による劣化を防止する目的で、N,N'-ジフェニル-P-フェニルジアミン、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)等の老化防止剤、また光による劣化を防止する目的で、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-(2'-ヒドロキシ-3'-t-ブチル-5'-メチル-フェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤を添加してもよい。
【0033】
以上の全ての添加剤(ポリオレフィン系樹脂及び潤滑剤以外)の添加量としては、添加剤全体として、成形原料全量の20質量%以下であることが、潤滑剤の供給能力を維持する上で好ましい。
【0034】
図6A図8Bに示すように、固体潤滑剤50は、突条部52を外周ねじ溝21に当接させ、凹条部53をランド部22に当接させて2つの収容室33内にそれぞれ収容した後、上面51にチューブ押さえ12を当接させ、止めねじ11で切欠き平面32に固定して組み付けられる。
【0035】
固体潤滑剤50は、サーキットCに隣接して形成されたサーキット外となる収容室33内に収容されるので、潤滑剤含有ポリマ部材をシールキャップで覆い、ナットの端面にねじ固定され、さらにシールキャップにラビリンスシールが配置された特許文献1のボールねじと比較して、ナット30の軸方向長さを短くできる。
【0036】
図5Bに示すように、固体潤滑剤50は、突条部52及び凹条部53が、それぞれ外周ねじ溝21及びランド部22に当接して組み付けられたとき、固体潤滑剤50の上面51が切欠き平面32から僅かに突出し、かつ固体潤滑剤50の下面54と収容室33の底部34との間に僅かな隙間を有する寸法に設定されている。
【0037】
これにより、固体潤滑剤50は、チューブ押さえ12を介して切欠き平面32に固定するだけで、突条部52及び凹条部53が所定の接触力で外周ねじ溝21及びランド部22に押圧される。即ち、接触力の管理が容易であり、接触力過大によるトルク上昇や発熱の問題、及び接触力過小による潤滑機能の低下を防止でき、好適な潤滑性能が得られる。
【0038】
また、収容室33の底部34は、収容室33に収容された固体潤滑剤50の位置決め用座面として機能するので、ねじ軸20が組み込まれていないナット30単体の収容室33に固体潤滑剤50が挿入されても安定した姿勢を維持でき、固体潤滑剤50の組付けが容易になる。また、収容室33に収容された固体潤滑剤50の径方向ガタつきを防止できる。
【0039】
このように構成されたボールねじ装置10は、ねじ軸20が、ナット30に対して相対回転すると、ねじ軸20が軸方向に相対移動する。その際、ねじ軸20と固体潤滑剤50とが摺接することで発生する動摩擦熱により、固体潤滑剤50に含有する潤滑油が徐々に滲み出して、外周ねじ溝21及び内周ねじ溝31とボール26との接触面に自動的に供給されて潤滑する。
【0040】
また、固体潤滑剤50は、チューブ押さえ12を固定する止めねじ11を取り外すだけで交換することできるので、高温環境での使用や長期間の使用により固体潤滑剤50に枯渇が生じた場合にも容易に交換することができる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態のボールねじ装置10によれば、固体潤滑剤50から潤滑油が経時的に徐々に滲み出して外周ねじ溝21及び内周ねじ溝31とボール26との接触面にくまなく供給され、潤滑油を外部からボールねじ装置10に供給することなく、長期間に亘って安定した潤滑が行われ、低トルクで良好な運転が可能となる。これにより、潤滑油の補給期間を延長することができる。
【0042】
また、固体潤滑剤50の取付けや交換が容易であると共に、固体潤滑剤50のねじ軸20に対する接触力の管理が容易であり、接触力過大によるトルク上昇及び異常発熱の抑制や接触力不足による供給不足を解消できる。
【0043】
なお、固体潤滑剤50は、図9A及び図9Bに示すように、板厚tを厚く形成することで、突条部52を外周ねじ溝21の幅の全幅に摺接させ、さらに、突条部52の両側に形成された凹条部53を外周ねじ溝21の両側のランド部22の幅の略1/2ずつに摺接させるようにしてもよい。この固体潤滑剤50によれば、図8Bに示す固体潤滑剤50と比較して、略2倍の潤滑油を含有することができ、さらに長期間に亘って給油性能を維持できる。
【0044】
(変形例)
図10及び図11に示すように、本変形例のナット30は、切欠き平面32に平面視で矩形の2つの浅溝35が形成されている。2つの浅溝35はそれぞれ、収容室33の全周を囲み、浅溝35の内側に収容室33を含むように形成されている。浅溝35の収容室33の外側の部分には、雌ねじ36が設けられている。また、ボールねじ装置10は、ねじ孔16を有し、浅溝35に嵌合可能な略矩形の押え板15を有する。押え板15は、ねじ孔16に挿通された止めねじ17により浅溝35内に固定される。
【0045】
本変形例の固体潤滑剤50の上面51は、突条部52及び凹条部53(図6B参照))が、それぞれ外周ねじ溝21及びランド部22に当接して固体潤滑剤50が収容室33に収容されたとき、浅溝35の底面から僅かに突出する寸法に設定されている。
【0046】
これにより、押え板15を浅溝35内にはめ込み、止めねじ17でナット30に固定するだけで、固体潤滑剤50とねじ軸20との間に接触力を付与できる。また、浅溝35の溝深さを調整することで、固体潤滑剤50と押え板15との間に締め代を設け、固体潤滑剤50とねじ軸20との間に接触力を調整できる。
【0047】
その他の構成及び効果は、第1実施形態のボールねじ装置10と同様であるので、同一部分には、同一符号又は相当符号を付して説明を省略する。
【0048】
(第2実施形態)
図12A図13に示すように、本実施形態のボールねじ装置10のナット30は、軸方向側面から収容室33に貫通する固定孔37が、ナット30の中心軸と平行に形成されている。また、固体潤滑剤50は、固定孔37に対応して、板厚方向に貫通するピン孔55を備える。固定孔37とピン孔55とは、軸方向から見てその一部が重なると共に、互いの中心C2、C3がずれて形成されている。固定孔37の中心C2は、ピン孔55の中心C3よりも径方向内側に配置されている。具体的には、ナット30の中心C1から固定孔37の中心C2までの半径R1が、ナット30の中心C1からピン孔55の中心C3までの半径R2より僅かに短く設定されている。
【0049】
そして、ナット30の固定孔37から不図示の固定ピンを挿入し、さらに収容室33に収容されている固体潤滑剤50のピン孔55にも挿通して、固体潤滑剤50をナット30に位置決め固定する。
【0050】
その際、ナット30の中心C1から固定孔37の中心C2までの半径R1は、ナット30の中心C1からピン孔55の中心C3までの半径R2より短いので、固定ピンの挿通により、固体潤滑剤50が内径方向に移動して、固体潤滑剤50の突条部52及び凹条部53と、ねじ軸20の外周ねじ溝21及びランド部22との間に接触力を付与する。なお、ナット30の中心C1と、固定孔37の中心C2と、の相互位置関係を調整することで、固体潤滑剤50とねじ軸20との接触力を調整できる。
【0051】
このように、固体潤滑剤50は、固定ピンによりナット30に組み付けられるので、組付けが容易であると共に、固定ピンを引き抜くだけで、固体潤滑剤50を簡単に交換できる。なお、固定ピンは、例えば、雄ねじやピン付き雄ねじなどであってもよい。また、上記の固定ピンによる固体潤滑剤50の固定方法は、収容室33に収容された固体潤滑剤50の径方向ガタつきを防止する収容室33の底部34と併用することできる(図6A参照)。
【0052】
尚、本発明は、前述した各実施形態及び変形例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。例えば、上記の実施形態では、固体潤滑剤50がナット30の軸方向両端部に配置された例について説明したが、固体潤滑剤50は、任意の一対のサーキットCの間にある、ボール26が転動しないボール非循環路(サーキット外)に配置されてもよい。この場合、ナット30の長さは、さらに短縮できる。また、固体潤滑剤50は、一つのナット30に対して3つ以上配置することもでき、さらに長期間に亘って給油性能を維持できる。
【0053】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 外周面に形成された螺旋状の外周ねじ溝と、軸方向に隣り合う前記外周ねじ溝間に形成されたランド部と、を有するねじ軸と、
前記ねじ軸の前記外周ねじ溝に対向するように内周面に形成された螺旋状の内周ねじ溝を有するナットと、
前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とで形成されたボール転動路と、
前記ボール転動路を転動する複数のボールと、
前記ボール転動路を転動する前記ボールを循環させるボール循環通路を有する少なくとも1つの循環部品と、
前記ボール転動路と前記ボール循環通路とによって形成され、前記ボールが循環する少なくとも1つのサーキットと、
を備えるボールねじ装置であって、
前記ナットは、前記ナットの外周面から前記内周面に貫通して固体潤滑剤を収容可能な収容室をサーキット外に備え、
前記固体潤滑剤は、前記ねじ軸の前記外周ねじ溝に摺接する突条部と、前記ねじ軸の前記ランド部に摺接する凹条部と、を備える、
ボールねじ装置。
上記の構成によれば、ボールねじ装置の作動に伴って、固体潤滑剤から潤滑油を徐々に滲み出させて、外周ねじ溝及び内周ねじ溝とボールとの接触面に長期間に亘って安定して自動的に供給できる。
【0054】
(2) 前記収容室に収容された前記固体潤滑剤は、前記ナットの前記外周面に露出する露出面を有し、
前記露出面の少なくとも一部が、前記循環部品を前記ナットに固定する固定部材で押えられる、
(1)に記載のボールねじ装置。
上記の構成によれば、固体潤滑剤を容易に取付け及び交換することができると共に、ねじ軸に対する固体潤滑剤の接触力の管理が容易になる。またこれにより、トルク上昇や異常発熱を抑制することができる。
【0055】
(3) 前記固体潤滑剤の前記露出面と前記固定部材との間には、前記固体潤滑剤の前記露出面を押える押え板をさらに備える、
(2)に記載のボールねじ装置。
上記の構成によれば、ねじ軸に対する固体潤滑剤の接触力の管理が容易になる。
【0056】
(4) 前記ナットは、軸方向側面から前記収容室に貫通して前記ナットの中心軸と平行に形成された固定孔を備え、
前記固体潤滑剤は、前記ナットの中心軸と平行に形成されたピン孔を備え、
前記固定孔と前記ピン孔とは、軸方向から見て互いに中心がずれて配置され、
前記固体潤滑剤は、前記収容室に収容され、前記固定孔に挿通する固定ピンが前記ピン孔に挿通されることで位置決め固定される、
(1)に記載のボールねじ装置。
上記の構成によれば、ナットの固定孔と固体潤滑剤のピン孔とに固定ピンを挿通して固体潤滑剤をナットに固定することで、固体潤滑剤の接触力の管理、及び固体潤滑剤の取付けや交換が容易になる。
【0057】
(5) 前記固体潤滑剤は、合成樹脂と潤滑剤が一体成形されてなる潤滑油含有ポリマ部材である、
(1)~(4)のいずれか1つに記載のボールねじ装置。
上記の構成によれば、潤滑剤を含有する固体潤滑剤を成形により製作できる。
【0058】
(6) 前記サーキットは、連続する前記ボール転動路と前記ボール循環通路とで形成され、前記複数のボールが循環転動する無限循環路であり、
前記サーキット外は、前記無限循環路の軸方向外側の前記ボール転動路の部分、及び複数の前記無限循環路の間の前記ボール転動路の部分によって形成され、前記ボールが転動しないボール非循環路である、
(1)に記載のボールねじ装置。
上記の構成によれば、ボールが循環転動するサーキットと、ボールが転動しないサーキット外とが、明確に区画できる。
【符号の説明】
【0059】
10 ボールねじ装置
12 チューブ押さえ(固定部材)
15 押え板(固定部材)
20 ねじ軸
21 外周ねじ溝
22 ランド部
25 ボール転動路
26 ボール
30 ナット
31 内周ねじ溝
32 切欠き平面(ナットの外周面)
33 収容室
37 固定孔
40 循環チューブ(循環部品)
41 ボール循環通路
50 固体潤滑剤(潤滑油含有ポリマ部材)
51 上面(露出面)
52 突条部
53 凹条部
55 ピン孔
C サーキット(無限循環路)
C2 固定孔の中心
C3 ピン孔の中心
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12A
図12B
図13