(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176091
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】合成樹脂製容器蓋
(51)【国際特許分類】
B65D 51/24 20060101AFI20241212BHJP
B65D 41/34 20060101ALI20241212BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20241212BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B65D51/24
B65D41/34
B29C45/00
B29C45/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094327
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000228442
【氏名又は名称】日本クロージャー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 理
(72)【発明者】
【氏名】萩 英俊
(72)【発明者】
【氏名】大岡 新治
【テーマコード(参考)】
3E084
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
3E084AA02
3E084AA12
3E084AA24
3E084AA32
3E084BA01
3E084CA01
3E084CC03
3E084DA01
3E084DB12
3E084DC03
3E084FA09
3E084FB01
3E084GA01
3E084GB01
3E084JA20
3E084KA20
3E084LA17
3E084LB02
3E084LB07
3E084LC01
3E084LD01
4F202AA24
4F202AF01
4F202AF07
4F202AG05
4F202AH57
4F202AM36
4F202CA11
4F202CB01
4F202CD23
4F206AA24
4F206AF01
4F206AF07
4F206AG05
4F206AH57
4F206AM36
4F206JA07
4F206JL02
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】スカート壁の内周面の上端部にフローマークが発生することが防止される、新規の合成樹脂製容器蓋を提供すること。
【解決手段】スカート壁6の内周面の上端部(番号30で示す部分)を梨地にする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形天面壁と該天面壁の外周縁から垂下する円筒形スカート壁とを具備し、該スカート壁の内周面の上下方向中間部には雌螺条が形成されている合成樹脂製容器蓋において、
該スカート壁の内周面の上端部が梨地である、ことを特徴とする合成樹脂製容器蓋。
【請求項2】
射出成形により形成される、請求項1に記載の合成樹脂製容器蓋。
【請求項3】
該スカート壁の内周面の該上端部は、該天面壁の下面の外周縁から下方に向かって径方向外側に傾斜して延出した後に鉛直下方に延出する、請求項1に記載の合成樹脂製容器蓋。
【請求項4】
該スカート壁の内周面の該上端部における、JIS B 0601で定義されている最大断面高さ(表面粗さ)は2.0乃至12.0μmである、請求項1に記載の合成樹脂製容器蓋。
【請求項5】
該スカート壁には周方向に延びる破断ラインが形成されていて、該スカート壁は該破断ラインよりも上方の主部と該破断ラインよりも下方のタンパーエビデント裾部とに区画されており、該雌螺条は該スカート壁の該主部の内周面に形成されていて、該タンパーエビデント裾部の内周面には係止手段が配設されている、請求項1に記載の合成樹脂製容器蓋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製容器蓋、更に詳しくは円形天面壁とこの天面壁の外周縁から垂下する円筒形スカート壁とを具備し、スカート壁の内周面の上下方向中間部には雌螺条が形成されている合成樹脂製容器蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には上述した形態の合成樹脂製容器蓋の典型例が示されている。かような形態の合成樹脂製容器蓋を容器の口頸部に装着する際、容器蓋は口頸部に被嵌された後にこれに対して閉栓方向に回動せしめられ、口頸部の外周面に形成された雄螺条とスカート壁の内周面に形成された雌螺条との螺合により、天面壁の下面が口頸部の頂面と当接するまで、口頸部に対して降下せしめられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記形態の合成樹脂製容器蓋にあっては、天面壁の下面が口頸部の頂面と当接した後更に、口頸部に対し閉栓方向へ回動せしめられると、上記螺合によりスカート壁は口頸部に対して降下しようとするが天面壁は口頸部の頂面によって口頸部に対して降下することが阻止されるため、スカート壁には引張応力が作用する。このとき、雌螺条はスカート壁の内周面に形成されていることに起因してスカート壁は幾分径方向内側に傾斜して下方に引っ張られることから、スカート壁の内周面の上端部に負荷が集中する。
【0005】
ところで、上記形態の合成樹脂製容器蓋の表面(ここでいう「表面」とは空気に触れる面のことであって、容器蓋の外面だけでなく内面も含む)には、成形不良の一種であるフローマークと称される特異な模様の溝が形成されることがある。本発明者等の経験によれば、かようなフローマークの発生しやすい部位の一つとして、スカート壁の内周面の上端部がある。通常、成形時に成形型内で軟化状態の合成樹脂材料は天面壁を規定する空間からスカート壁を規定する空間へ移動する。軟化状態の合成樹脂材料が天面壁を規定する空間からスカート壁を規定する空間へ進入する際、軟化状態の合成樹脂材料の流れは略90度屈曲せしめられる。このとき、軟化状態の合成樹脂材料は流体であることから、上記屈曲せしめられる部分における流体の速さは流れ方向に見て内側の方が外側よりも速い。内側の方が外側よりも圧力が低下するためである。流体の圧力が低下すると密度つまり単位空間当たりの樹脂の量も低下することから、上記屈曲せしめられる部分の内側にて成形不良即ちフローマークが形成されやすい。従って、フローマークはスカート壁の内周面の上端部に発生しやすい。なお、フローマークは射出成形時に発生することが殆どであるが、成形条件によっては圧縮成形時に発生することもあり得る。
【0006】
上記形態の合成樹脂製容器蓋にあっては、スカート壁の内周面の上端部にフローマークが発生していると、上述したとおりにスカート壁の内周面の上端部に負荷が集中した際に、溝であるフローマークを基点としてクラックが発生する虞がある。
【0007】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、スカート壁の内周面の上端部にフローマークが発生することが防止され、これにより、閉栓時に天面壁の下面が口頸部の頂面と当接した後更に、口頸部に対し閉栓方向へ回動せしめられたとしても、スカート壁の内周面の上端部にクラックが発生することが防止される、新規且つ改良された合成樹脂製容器蓋を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討の結果、スカート壁の内周面の上端部を梨地とすることによって、上記主たる技術的課題を解決できることを見出した。
【0009】
即ち、本発明によれば、上記主たる技術的課題を解決する合成樹脂製容器蓋として、円形天面壁と該天面壁の外周縁から垂下する円筒形スカート壁とを具備し、該スカート壁の内周面の上下方向中間部には雌螺条が形成されている合成樹脂製容器蓋において、
該スカート壁の内周面の上端部が梨地である、ことを特徴とする合成樹脂製容器蓋が提供される。
【0010】
好ましくは、射出成形により形成される。該スカート壁の内周面の該上端部は、該天面壁の下面の外周縁から下方に向かって径方向外側に傾斜して延出した後に鉛直下方に延出するのがよい。好適には、該スカート壁の内周面の該上端部における、JIS B 0601で定義されている最大断面高さ(表面粗さ)は2.0乃至12.0μmである。該スカート壁には周方向に延びる破断ラインが形成されていて、該スカート壁は該破断ラインよりも上方の主部と該破断ラインよりも下方のタンパーエビデント裾部とに区画されており、該雌螺条は該スカート壁の該主部の内周面に形成されていて、該タンパーエビデント裾部の内周面には係止手段が配設されているのがよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の合成樹脂製容器蓋にあっては、スカート壁の内周面の上端部が梨地である、換言すれば、本発明の合成樹脂製容器蓋を形成するための成形型においてスカート壁の内周面の上端部を規定する部位が梨地であることに起因して、成形時に成形型内を流動する軟化状態の合成樹脂材料は上記部位近傍にて減速せしめられる。これにより成形時に上記部位近傍を流れる合成樹脂材料の圧力は増大せしめられ、上記部位にて成形不良即ち溝からなるフローマークが発生することは防止される。それ故、閉栓時に天面壁の下面が口頸部の頂面と当接した後更に、口頸部に対し閉栓方向へ回動せしめられたとしても、スカート壁の内周面の上端部にクラックが発生することも防止される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に従って構成された合成樹脂製容器蓋の好適実施形態を示す半断面図。
【
図2】
図1に示す合成樹脂製容器蓋におけるスカート壁の内周面の上端部近傍を拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に従って構成された合成樹脂製容器蓋の好適実施形態を示す添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0014】
図1を参照して説明すると、適宜の合成樹脂から一体に成形することができる、全体を番号2で示す容器蓋は、円形天面壁4とこの天面壁4の外周縁から垂下する円筒形スカート壁6とを具備している。図示の実施形態においては、容器蓋2は所要成形金型を用いた射出成形により形成される。天面壁4の内面外周縁部には、同心状に配設された円筒形状の内側シール片8及び外側シール片10と共に半径方向に見て内側シール片8と外側シール片10との間に位置する環状突条12が形成されている。スカート壁6には周方向に延在する周方向破断ライン14が配設されており、スカート壁6は周方向破断ライン14よりも上方の主部16と周方向破断ライン14よりも下方のタンパーエビデント裾部18とに区画されている。周方向破断ライン14は、周方向に間隔をおいて周方向に直線状に延びる複数個のスリット20とかかるスリット20間に位置する複数個の破断可能な橋絡部22とから構成されている。周方向破断ライン14は上下方向に所要幅を備えており、スリット20中の周方向所要部位にあっては、主部16の下面から下方に又はタンパーエビデント裾部18の上面から上方に向かって夫々突出する突出部23が複数形成されている。スカート壁6の主部16の外周面には、そこに掛けられる指の滑りを防止するための凹凸形状から構成されるナール24が形成されている。また、主部16の内周面には雌螺条26が形成されている。タンパーエビデント裾部18の内周面には係止手段28が配設されている。図示の実施形態においては、係止手段28は周方向に間隔をおいて複数配置されたフラップ片により構成されている。
【0015】
ここで、本発明に従って構成される容器蓋2にあっては、スカート壁6の内周面の上端部(この部分を特異部分として番号30で示す)が梨地であることが重要である。その理由については後述する。図示の実施形態においては、上記特異部分30は、天面壁4の下面の外周縁から下方に向かって径方向外側に傾斜して延出した後に鉛直下方に延出している。特異部分30における、JIS B 0601で定義されている最大断面高さ(表面粗さ)は2.0乃至12.0μmであるのが好ましい。
【0016】
図1には、容器蓋2と共にこの容器蓋2が装着される容器の口頸部も二点鎖線で図示されている。ポリエチレンテレフタレートの如き適宜の合成樹脂或いはガラスから形成することができる容器の口頸部32は、全体として円筒形状であり、上面は開口されている。口頸部32の外周面には、雄螺条34、この雄螺条34の下方に位置する係止あご部36、及び係止あご部36の更に下方に位置するサポートリング38が形成されている。当業者には周知の如く、サポートリング38は容器を搬送する際に利用される。
【0017】
容器内に清涼飲料の如き内容物を充填した後に、口頸部32に容器蓋2を装着して口頸部32を密封する際には、口頸部32に容器蓋2を被嵌して容器蓋2を閉方向、即ち
図1において上方から見て時計方向に回転せしめる。かくすると、容器蓋2の雌螺条26が口頸部32の雄螺条34に螺合され、容器蓋2は回転と共に相対的に下降せしめられる。容器蓋2が所要位置、即ち
図1に図示する位置、まで下降せしめられると、容器蓋2の天面壁4の内面に形成されている環状突条12が口頸部32の頂面に当接せしめられると共に、容器蓋2の天面壁4の内面に形成されている内側シール片8及び外側シール片10が夫々口頸部32の内周面及び外周面に密接乃至当接せしめられ、かくして口頸部32が密封される。タンパーエビデント裾部18の内周面に形成されている係止手段28は口頸部32の係止あご部36を弾性的に乗り越えてその下方に位置せしめられる。
【0018】
ここで、容器蓋2が回転と共に相対的に下降せしめられる際、容器蓋2の天面壁4の内面に形成されている環状突条12が口頸部32の頂面に当接せしめられた後も更に容器蓋2が閉方向に回転せしめられると、上記螺合によりスカート壁6は口頸部32に対して降下しようとするが天面壁4は口頸部32の頂面によって口頸部32に対して降下することが阻止され、スカート壁6には引張応力が作用する。このとき、雌螺条26はスカート壁6の内周面に形成されていることに起因してスカート壁6は幾分径方向内側に傾斜して下方に引っ張られるため、スカート壁6の内周面の上端部つまり特異部分30に負荷が集中する。上述したとおり、この特異部分30はフローマークの発生しやすい場所であって、特異部分30にフローマークが発生した状態で負荷が集中すると、そのフローマークを基点としてクラックが発生する虞がある。
【0019】
然しながら、本発明に従って構成された容器蓋2にあっては、上記特異部分30つまりスカート壁6の内周面の上端部は梨地である、換言すれば、容器蓋2を形成するための成形型において特異部分30を規定する部位が梨地であることに起因して、成形時に成形型内を流動する軟化状態の合成樹脂材料は上記部位近傍にて減速せしめられる。これにより成形時に上記部位近傍を流れる合成樹脂材料の圧力は増大せしめられ、上記部位にて成形不良即ち溝からなるフローマークが発生することは防止される。それ故、閉栓時に天面壁4の下面が口頸部32の頂面と当接した後更に、口頸部32に対し閉栓方向へ回動せしめられたとしても、スカート壁6の内周面の上端部にクラックが発生することも防止される。図示の実施形態にあっては、特異部分30は、天面壁4の下面の外周縁から下方に向かって径方向外側に傾斜して延出した後に鉛直下方に延出しているため、成形時に軟化状態の合成樹脂材料は成形型の表面に沿って天面壁4の内面を規定する部位から特異部分30を規定する部位へ円滑に流動することができ、それ故に、特異部分30を規定する部位近傍を流れる合成樹脂材料の圧力低下が回避される。上記特異部分における表面粗さが12.0μm以上である場合には、成形型の上記部位の表面粗さが過剰に大きくなり、型抜きの際に成形型の上記部位が容器蓋の他の部位(例えば雌螺条)を損傷させてしまう虞があり好ましくない。
【0020】
<評価結果>
4つの異なる所要成形型を用いて、
図1及び
図2に示すとおりの形態の高密度(0.960g/cm3)ポリエチレン樹脂製容器蓋を射出成形した。上記4つの成形型は、スカート壁の内周面の上端部を規定する部位の表面粗さが異なることを除いて同一の構成である。つまり、4つの成形型の内の3つには夫々表面粗さの異なる梨地加工が施され、他の1つには特段の梨地加工は施されていない。上記4つの成形型の夫々により成形された容器蓋をA1乃至A4として、容器蓋A1乃至A4の夫々におけるスカート壁の内周面の上端部における表面粗さ(JIS B 0601で定義されている最大断面高さ)を計測すると共にスカート壁の内周面の上端部におけるフローマークの発生有無を目視により観察した。結果を表1に示す。なお、成形条件は以下のとおりである。
・メルトフローレート(MFR):6g/10min
・成形時の樹脂温度:220℃
・成形時の樹脂圧力:150MPa
【0021】
【0022】
表1に示される結果によれば、表面粗さの下限値は2.0μm以上である。この表面粗さの下限値について表1の結果から考察すると、表面粗さの下限値は、成形型に特段の梨地加工を施さずに同一の成形条件で成形したときに発生したフローマーク(スカート壁の内周面の上端部に発生したフローマーク)の溝の深さとも言える。なお、表面粗さの上限値は上述したとおり、離型時に他の部位を損傷せしめる観点から12.0μm程度であるのが好ましい。
【0023】
以上、本発明に従って構成された合成樹脂製容器蓋について添付した図面を参照して詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲内において適宜の修正や変更が可能である。例えば、図示の実施形態においては、天面壁の下面にパッキンは配設されていなかったが、容器に収容された内容物の種類等によっては、天面壁の下面にパッキンが配設されていてもよい。
【符号の説明】
【0024】
2:容器蓋
4:天面壁
6:スカート壁
26:雌螺条
30:特異部分(スカート壁の内周面の上端部であって梨地にせしめられた部分)