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特開2024-176101肥満を治療又は予防するための医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176101
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】肥満を治療又は予防するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20241212BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20241212BHJP
   C07D 311/32 20060101ALN20241212BHJP
   C12N 5/077 20100101ALN20241212BHJP
【FI】
A61K31/353
A61P3/04 ZNA
C07D311/32
C12N5/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094357
(22)【出願日】2023-06-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)発行物名:第25回インターフェックスWeek東京の発表要旨、掲載ウェブサイトのアドレス:https://www.interphex.jp/tokyo/ja-jp/search/2023/directory/directory-details.org-86ba677b-46d4-423a-9ded-b66deb786a05.html#/、掲載年月日:令和5年4月11日 (2)発行物名:第5回ファーマラボEXPO東京医薬品研究・開発展の出展要旨、掲載ウェブサイトのアドレス:https://ipjt2023.tems-system.com/exhiSearch/IPW/jp/DetailsForAD?id=TX34un54zcc%3D&type=4、掲載年月日:令和5年4月19日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】三浦 基文
(72)【発明者】
【氏名】和田 平
(72)【発明者】
【氏名】野伏 康仁
【テーマコード(参考)】
4B065
4C086
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BD26
4B065CA44
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA70
(57)【要約】
【課題】中性脂肪の蓄積を抑制することが可能な、肥満を治療又は予防するための医薬組成物を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物(1)又はその塩と、薬学的に許容される担体を含有する、肥満を治療又は予防するための医薬組成物。R及びRは、それぞれ独立に、置換基を表す。n1は、0~4の整数を表す。n2は、0~7の整数を表す。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物(1)又はその塩と、薬学的に許容される担体を含有する、肥満を治療又は予防するための医薬組成物。
【化1】
[式中、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を表し;n1は、0~4の整数を表し;n2は、0~7の整数を表す。]
【請求項2】
前記化合物(1)が、下記一般式(1-1)で表される化合物である、請求項1に記載の肥満を治療又は予防するための医薬組成物。
【化2】
[式中、R11、R12、及びR21は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。]
【請求項3】
前記一般式(1-1)中のR11、R12、及びR21が、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、オキシアルキレン構造含有基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子である、請求項2に記載の肥満を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項4】
前記一般式(1-1)中のR11、R12、及びR21が、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、メトキシ基、メトキシメトキシ基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子である、請求項3に記載の肥満を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項5】
前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化を誘導する、請求項1に記載の肥満を治療又は予防するための医薬組成物。
【請求項6】
白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への形質転換を誘導する、請求項1に記載の肥満を治療又は予防するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満を治療又は予防するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満治療には、バランスの取れた食事及び適度な運動が最も効果的である。しかしながら、多忙な日常生活においては、それらの継続は困難である。肥満治療の手段の一つとして薬物療法がある。肥満治療用の薬物候補として、ベージュ脂肪細胞を特異的に誘導する成分の探索が行われているが、十分な安全性と有効性とを兼ね備えた成分は、未だ得られていない。
【0003】
フラバノンは、植物に含有されるフラボノイドの一種であり、現在、約450種以上の化合物が天然に広く存在していることが知られている。近年、キク科植物及びコメ等の含まれるフラバノンであるサクラネチンに、脂肪組織を構成する脂肪細胞の形成を促進する作用があることが報告されている(非特許文献1)。また、柑橘類に含まれるフラバノンであるナリンゲニンに、脂肪細胞分化を抑制する作用が報告されている(非特許文献2)。
一方、本発明者らは、フッ化物イオン触媒を用いたフラバノンの効率的な化学合成法を確立している(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Saito et al., Sakuranetin induces adipogenesis of 3T3-L1 cells through enhanced expression of PPARgamma2. 2008. Biochem Biophys Res Commun. 2008 Aug 8;372(4):835-9.
【非特許文献2】Dayarathne et al., Restoration of the adipogenic gene expression by naringenin and naringin in 3T3-L1 adipocytes. J Vet Sci. 2021 Jul; 22(4): e55.
【非特許文献3】Miura et al., Convenient synthesis of flavanone derivatives via oxa-Michael addition using catalytic amount of aqueous cesium fluoride. Tetrahedron Letters Volume 85, 23 November 2021, 153480.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中性脂肪の蓄積を抑制可能な化合物は、肥満を効果的に治療及び/又は予防できると期待される。
【0006】
そこで、本発明は、中性脂肪の蓄積を抑制することが可能な、肥満を治療又は予防するための医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を含む。
[1]下記一般式(1)で表される化合物(1)又はその塩と、薬学的に許容される担体を含有する、肥満を治療又は予防するための医薬組成物。
【0008】
【化1】
[式中、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を表し;n1は、0~4の整数を表し;n2は、0~7の整数を表す。]
【0009】
[2]前記化合物(1)が、下記一般式(1-1)で表される化合物である、[1]に記載の肥満を治療又は予防するための医薬組成物。
【0010】
【化2】
[式中、R11、R12、及びR21は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。]
【0011】
[3]前記一般式(1-1)中のR11、R12、及びR21が、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、オキシアルキレン構造含有基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子である、[2]に記載の肥満を治療又は予防するための医薬組成物。
[4]前記一般式(1-1)中のR11、R12、及びR21が、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、メトキシ基、メトキシメトキシ基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子である、[3]に記載の肥満を治療又は予防するための医薬組成物。
[5]前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化を誘導する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の肥満を治療又は予防するための医薬組成物。
[6]白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への形質転換を誘導する、[1]~[5]のいずれか1つに記載の肥満を治療又は予防するための医薬組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、中性脂肪の蓄積を抑制することが可能な、肥満を治療又は予防するための医薬組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】脂肪細胞の分化及び形質転換を説明する模式図である。
図2】実施例1において、前駆脂肪細胞の分化誘導に対する2NCの影響を評価した結果を示す顕微鏡画像である。
図3】実施例1において、前駆脂肪細胞の分化誘導に対する2NCの影響を脂肪蓄積量により定量的に評価した結果を示す図である。
図4】実施例2において、前駆脂肪細胞の分化誘導に対する2NCの影響を、遺伝子発現量により評価した結果を示す図である。白色脂肪細胞の分化マーカー:Pparγ2、aP2、C/ebpα;ベージュ脂肪細胞の分化マーカー:Ucp1;ベージュ脂肪細胞関連遺伝子:Elovl3、Pgc1α。
図5】実施例3における各処理群の詳細を示す図である。
図6A】実施例3において、2NCによるベージュ脂肪細胞分化誘導に関与する因子を検証した結果を示す図である。
図6B】実施例3において、2NCによるベージュ脂肪細胞分化誘導に関与する因子を検証した結果を示す図である。
図6C】実施例3において、2NCによるベージュ脂肪細胞分化誘導に関与する因子を検証した結果を示す図である。
図7】実施例4において、2NCによるベージュ化過程におけるFgf9遺伝子の発現量の変化を評価した結果を示す図である。
図8】実施例5において、2NCによるベージュ化過程におけるミトコンドリア量の変化を評価した結果を示す図である。
図9】実施例6において、2NCによる白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への形質転換を検証した結果を示す図である。
図10】実施例7において、2NCによるベージュ脂肪細胞への形質転換についてミトコンドリア量の観点から検証した結果を示す図である。
図11】実施例8において、2NCを投与したマウスの体重量の変動を示す図である。
図12】実施例8において、2NCを投与したマウスの組織重量の変動を示す図である。eWAT:精巣上体周囲の脂肪組織重量;sWAT:皮下脂肪組織重量。
図13】実施例9において、2NCを投与したマウスの脂肪組織の病理組織画像である。
図14】実施例10において、2NCを投与したマウスの皮下脂肪組織におけるUCP1のタンパク質量を評価した結果を示す図である。
図15】実施例11において、2NCを投与したマウスの脂肪組織におけるミトコンドリア量の変化を評価した結果を示す図である。
図16】実施例12及び13で用いた、2NC誘導体を示す。フラバノン骨格のA環を修飾した2NC誘導体である。
図17】実施例12において、前駆脂肪細胞の分化誘導に対する2NC誘導体の影響を評価した結果を示す顕微鏡画像である。
図18A】実施例12において、前駆脂肪細胞の分化誘導に対する2NC誘導体の影響を、遺伝子発現量により評価した結果を示す図である。
図18B】実施例12において、前駆脂肪細胞の分化誘導に対する2NC誘導体の影響を、遺伝子発現量により評価した結果を示す図である。
図19】実施例12において、前駆脂肪細胞の分化誘導に対する2NC誘導体の影響を、ミトコンドリア量により評価した結果を示す図である。
図20】実施例12及び13で用いた、2NC誘導体を示す。フラバノン骨格のB環を修飾した2NC誘導体である。
図21】実施例12において、前駆脂肪細胞の分化誘導に対する2NC誘導体の影響を評価した結果を示す顕微鏡画像である。
図22】実施例12において、前駆脂肪細胞の分化誘導に対する2NC誘導体の影響を、遺伝子発現量により評価した結果を示す図である。
図23】実施例12において、前駆脂肪細胞の分化誘導に対する2NC誘導体の影響を、ミトコンドリア量により評価した結果を示す図である。
図24】実施例13において、2NC誘導体による、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への形質転換促進作用を、遺伝子発現量により評価した結果を示す図である。
図25】実施例13において、2NC誘導体による、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への形質転換促進作用を、ミトコンドリア量の観点から検証した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「脂肪族」とは、芳香族に対する相対的な概念であって、芳香族性を持たない基、化合物等を意味するものと定義する。
「アルキル基」は、特に断りがない限り、直鎖状、分岐鎖状及び環状の1価の飽和炭化水素基を包含するものとする。アルコキシ基中のアルキル基も同様である。
「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
「置換基を有してもよい」と記載する場合、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
【0015】
本明細書及び本特許請求の範囲において、化学式で表される構造によっては、不斉炭素が存在し、エナンチオ異性体(enantiomer)やジアステレオ異性体(diastereomer)が存在し得るものがある。その場合は一つの化学式でそれら異性体を代表して表す。それらの異性体は単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
【0016】
[肥満を治療又は予防するための医薬組成物]
本発明の第1の態様は、肥満を治療又は予防するための医薬組成物である。本態様の医薬組成物は、下記一般式(1)で表される化合物(1)又はその塩を有効成分として含有する。
【0017】
【化3】
[式中、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を表し;n1は、0~4の整数を表し;n2は、0~7の整数を表す。]
【0018】
(化合物(1))
化合物(1)は、中性脂肪の蓄積を抑制する作用を有し、中性脂肪の蓄積抑制剤として機能する。化合物(1)による中性脂肪の蓄積の抑制は、ベージュ化の誘導によるものでもよく、前駆脂肪細胞から白色脂肪細胞への分化の抑制によるものであってもよい。
【0019】
化合物(1)がベージュ化誘導作用を有する場合、化合物(1)は、ベージュ化誘導剤として機能する。「ベージュ化」とは、前駆脂肪細胞の分化によりベージュ脂肪細胞が誘導されること、及び白色脂肪細胞の形質転換によりベージュ脂肪細胞が誘導されること、の両方を包含する概念である。ベージュ化誘導剤は、前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導、及び白色脂肪細胞の形質転換によるベージュ脂肪細胞の誘導のいずれか又は両方を促進する作用を有する薬剤である。
図1は、脂肪細胞の分化及び形質転換を説明する模式図である。前駆脂肪細胞は、白色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞に分化する。ベージュ脂肪細胞は、白色脂肪細胞の可逆的な形質転換によっても誘導される。白色脂肪細胞は、中性脂肪を蓄積する脂肪細胞であり、中性脂肪の含有量が多い。ベージュ脂肪細胞は、ミトコンドリア含有量が多く、中性脂肪を消費して、エネルギーを産生する。そのため、ベージュ化を誘導することにより、中性脂肪の蓄積を抑制し、肥満を治療又は予防することができる。
【0020】
化合物(1)は、前記一般式(1)で表される化合物である。
前記一般式(1)中、R及びRにおける置換基は、芳香環の水素原子を置換する1価の基である。R及びRにおける置換基としては、例えば、置換基を有してもよい炭化水素基、ヒドロキシ基、及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0021】
置換基を有してもよい炭化水素基は、脂肪族炭化水素基でもよく、芳香族炭化水素基でもよいが、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和でもよく、不飽和でもよいが、飽和が好ましい。
脂肪族炭化水素基は、炭素原子数1~10が好ましく、炭素原子数1~6がより好ましく、炭素原子数1~3がさらに好ましく、炭素原子数1又は2が特に好ましい。
脂肪族炭化水素基は、鎖状の脂肪族炭化水素基でもよく、環状の脂肪族炭化水素基でもよいが、鎖状の脂肪族炭化水素基が好ましい。鎖状の脂肪族炭化水素基は、直鎖状の脂肪族炭化水素基でもよく、分岐鎖状の脂肪族炭化水素基でもよい。
鎖状の脂肪族炭化水素基としては、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。直鎖状アルキル基としては、炭素原子数1~10が好ましく、炭素原子数1~6がより好ましく、炭素原子数1~3がさらに好ましく、炭素原子数1又は2が特に好ましい。分岐状アルキル基としては、炭素原子数3~10が好ましく、炭素原子数3~6がより好ましく、炭素原子数3がさらに好ましい。
【0022】
直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基は、置換基を有してもよく、有していなくてもよい。アルキル基の水素原子を置換する置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基等が挙げられる。アルキル基のメチレン基を置換する置換基としては、カルボニル基(-CO-)、酸素原子(-O-)、エステル結合(-COO-)、アミド結合(-CONH-)等が挙げられ、酸素原子が好ましい。アルキル基のメチレン基が酸素原子で置換された基としては、例えば、アルコキシ基、オキシアルキレン構造含有基等が挙げられる。
【0023】
環状の脂肪族炭化水素基は、多環式でもよく、単環式でもよいが、単環式が好ましい。単環式基である脂肪族炭化水素基としては、モノシクロアルカンから1個の水素原子を除いた基が好ましい。該モノシクロアルカンとしては、炭素原子数3~6が好ましい。該モノシクロアルカンの具体例としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0024】
芳香族炭化水素基は、芳香環を少なくとも1つ有する炭化水素基である。この芳香環は、4n+2個のπ電子をもつ環状共役系であれば特に限定されず、単環式でも多環式でもよい。芳香環の炭素原子数は5~12が好ましく、炭素原子数6~12がより好ましい。芳香環の具体例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等が挙げられる。芳香環は、芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子(硫黄原子、窒素原子、酸素原子等)で置換された芳香族複素環でもよい。
【0025】
及びRにおける置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、オキシアルキレン構造含有基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子が好ましい。
アルキル基としては、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基が好ましく、直鎖状のアルキル基がより好ましく、炭素原子数1~3の直鎖状のアルキル基がさらに好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。
アルコキシ基としては、直鎖状若しくは分岐鎖状のアルコキシ基が好ましく、直鎖状のアルコキシ基がより好ましく、炭素原子数1~3の直鎖状のアルコキシ基がさらに好ましく、メトキシ基又はエトキシ基がより好ましい。
オキシアルキレン構造含有基は、オキシアルキレン構造(-O-(CH-)を含むきである。前記式中、mは、1以上の整数であり、1~3の整数が好ましく、1又は2がより好ましく、1がさらに好ましい。オキシアルキレン構造含有基が含むオキシアルキレン構造の数は、1~5個が挙げられ、1~3個が好ましく、1個又は2個がより好ましい。オキシアルキレン構造含有基の炭素原子数は、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、2がさらに好ましい。オキシアルキレン構造含有基としては、-O-[(CH-O]-CH(mは1~3の整数、nは1~10の整数)で表される基が挙げられる。前記式中、mは1又は2が好ましく、1がより好ましい。前記式中、nは1~5の整数が好ましく、1~3の整数がより好ましく、1又は2がさらに好ましく、1がより好ましい。
中でも、R及びRにおける置換基としては、メチル基、メトキシ基、メトキシメトキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子が好ましい。
【0026】
における置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、オキシアルキレン構造含有基、又はハロゲン原子が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、及び臭素原子が好ましく、塩素原子、及びフッ素原子がより好ましい。Rにおける置換基は、ベージュ化誘導の観点から、アルキル基、アルコキシ基、又はオキシアルキレン構造含有基が好ましく、アルキル基又はオキシアルキレン構造含有基がより好ましい。
における置換基としては、アルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子が好ましく、ハロゲン原子がより好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、及び臭素原子が好ましく、臭素原子がより好ましい。
【0027】
前記式(1)中、n1は、0~3の整数が好ましく、0~2の整数がより好ましく、0又は1がさらに好ましい。低用量で中性脂肪抑制効果を発揮させる観点からは、n1は1が好ましい。ミトコンドリア含有量を増加させる観点からは、n1は0が好ましい。
前記式(1)中、n2は、0~5の整数が好ましく、0~3の整数がより好ましく、0~2の整数がさらに好ましく、0又は1が特に好ましい。低用量で中性脂肪抑制効果を発揮させる観点からは、n2は1が好ましい。ミトコンドリア含有量を増加させる観点からは、n2は0が好ましい。
【0028】
化合物(1)は、下記一般式(1-1)で表される化合物が好ましい。
【0029】
【化4】
[式中、R11、R12、及びR21は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。]
【0030】
前記式(1-1)中のR11、R12、及びR21における置換基は、芳香環の水素原子を置換する1価の基である。R11、R12、及びR21における置換基としては、前記式(1)中のR及びRにおける置換基として挙げたものと同様のものが挙げられる。
中でも、R11、R12、及びR21における置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、オキシアルキレン構造含有基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子が好ましく、メチル基、メトキシ基、メトキシメトキシ基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子がより好ましい。
【0031】
11は、水素原子、アルコキシ基、又はハロゲン原子が好ましく、水素原子、メトキシ基、又はハロゲン原子がより好ましい。ハロゲン原子は、塩素原子又はフッ素原子が好ましい。低用量で中性脂肪抑制効果を発揮させる観点からは、R11は、アルコキシ基、又はハロゲン原子が好ましい。ベージュ化を誘導する観点から、R11は、水素原子又はアルコキシ基が好ましい。ミトコンドリア含有量を増加させる観点からは、R11は、水素原子が好ましい。
12は、水素原子、アルキル基、オキシアルキレン構造含有基、又はハロゲン原子が好ましく、水素原子、メチル基、メトキシメトキシ基、又はハロゲン原子がより好ましい。ハロゲン原子は、塩素原子又はフッ素原子が好ましい。低用量で中性脂肪抑制効果を発揮させる観点からは、R12は、アルキル基、オキシアルキレン構造含有基、又はハロゲン原子が好ましい。ベージュ化を誘導する観点から、R12は、水素原子、アルキル基、又はオキシアルキレン構造含有基が好ましい。ミトコンドリア含有量を増加させる観点からは、R12は、水素原子が好ましい。
21は、水素原子、アルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子が好ましく、水素原子、メトキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子がより好ましく、水素原子又はハロゲン原子がさらに好ましい。ハロゲン原子は、臭素原子が好ましい。低用量で中性脂肪抑制効果を発揮させる観点からは、R21は、アルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子が好ましく、ハロゲン原子がより好ましい。ベージュ化を誘導する観点から、R21は、水素原子、アルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子が好ましく、ハロゲン原子がより好ましい。ミトコンドリア含有量を増加させる観点からは、R21は、水素原子が好ましい。
【0032】
化合物(1)としては、下記一般式(1-1-1)~(1-1-3)のいずれかで表される化合物が好ましい。
【0033】
【化5】
[式中、R111、R121、及びR211は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。]
【0034】
前記式(1-1-1)~(1-1-3)中、R111、R121、及びR211における置換基としては、前記式(1)中のR及びRと同様のものが挙げられる。R111、R121、及びR211における置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、オキシアルキレン構造含有基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子が好ましく、メチル基、メトキシ基、メトキシメトキシ基、ヒドロキシ基又はハロゲン原子がより好ましい。
【0035】
111は、水素原子、アルコキシ基、又はハロゲン原子が好ましく、水素原子、メトキシ基、又はハロゲン原子がより好ましい。ハロゲン原子は、塩素原子又はフッ素原子が好ましい。低用量で中性脂肪抑制効果を発揮させる観点からは、R111は、アルコキシ基、又はハロゲン原子が好ましい。ベージュ化を誘導する観点から、R111は、水素原子又はアルコキシ基が好ましい。前駆脂肪細胞からベージュ細胞への分化誘導を促進させる観点からは、R111は、アルコキシ基が好ましい。ミトコンドリア含有量を増加させる観点からは、R111は、水素原子が好ましい。
121は、水素原子、アルキル基、オキシアルキレン構造含有基、又はハロゲン原子が好ましく、水素原子、メチル基、メトキシメトキシ基、又はハロゲン原子がより好ましい。ハロゲン原子は、塩素原子又はフッ素原子が好ましい。低用量で中性脂肪抑制効果を発揮させる観点からは、R121は、アルキル基、オキシアルキレン構造含有基、又はハロゲン原子が好ましい。ベージュ化を誘導する観点から、R121は、水素原子、アルキル基、又はオキシアルキレン構造含有基が好ましい。前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導を促進させる観点からは、アルキル基、又はオキシアルキレン構造含有基R121は、アルコキシ基が好ましい。ミトコンドリア含有量を増加させる観点からは、R12は、水素原子が好ましい。
211は、水素原子、アルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子が好ましく、水素原子、メトキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子がより好ましく、水素原子又はハロゲン原子がさらに好ましい。ハロゲン原子は、臭素原子が好ましい。低用量で中性脂肪抑制効果を発揮させる観点からは、R211は、アルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子が好ましく、ハロゲン原子がより好ましい。ベージュ化を誘導する観点から、R211は、水素原子、アルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子が好ましく、ハロゲン原子がより好ましい。白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞へ形質転換を誘導する観点からは、R211は、アルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子が好ましい。ミトコンドリア含有量を増加させる観点からは、R211は、水素原子が好ましい。
【0036】
前記式(1-1-1)又は(1-1-2)で表される化合物は、前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導能が高い傾向がある。前記式(1-1-3)で表される化合物は、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への形質転換誘導能が高い傾向がある。
【0037】
化合物(1)の具体例を以下に示すが、これらに限定されない。
【0038】
【化6】
【0039】
【化7】
【0040】
上記の中でも、化合物(1)としては、2NC、2NC-A2、2NC-A3、2NC-A4、2NC-B4、2NC-B6、及び2NC-B7が好ましく、2NC、2NC-A2、2NC-A4、及び2NC-B7がより好ましい。ベージュ化誘導剤としては、2NC、2NC-A2、2NC-A3、2NC-A4、2NC-B4、2NC-B6、及び2NC-B7が好ましい。前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導剤としては、2NC、2NC-A2、2NC-A3、及び2NC-A4が好ましい。白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への形質転換誘導剤としては、2NC、2NC-B4、2NC-B6、及び2NC-B7が好ましい。
【0041】
化合物(1)は、塩の形態であってもよい。塩としては、薬学的に許容される塩が挙げられる。「薬学的に許容可能な塩」とは、化合物(1)の薬理作用を阻害しない塩の形態をいう。化合物(1)の薬理機作用能としては、中性脂肪蓄積低減作用、ベージュ化誘導作用等が挙げられる。化合物(1)の薬学的に許容可能な塩としては、特に制限されず、例えば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)との塩;アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)との塩;有機塩基(ピリジン、トリエチルアミンなど)との塩、アミンとの塩、有機酸(酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸など)との塩、及び無機酸(塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸など)との塩等が挙げられる。
【0042】
化合物(1)は、溶媒和物の形態であってもよく、化合物(1)の塩の溶媒和物の形態であってもよい。溶媒和物としては、特に制限されず、例えば、水和物、エタノール溶媒和物等が挙げられる。
【0043】
本実施形態の医薬組成物は、化合物(1)及びその塩からなる群より選択される化合物を1種以上含有する。化合物(1)及びその塩からなる群より選択される化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
本実施形態の医薬組成物は、単位投与形態あたり、治療的有効量の化合物(1)及び/又はその塩を含んでもよい。「治療的有効量」とは、対象疾患の治療又は予防のために有効な薬剤の量を意味する。本実施形態の医薬組成物において、化合物(1)及び/又はその塩の治療的有効量は、肥満の治療又は予防に有効な量であり得る。治療的有効量は、患者の症状、体重、年齢、及び性別等、並びに医薬組成物の剤型、及び投与方法等によって適宜決定すればよい。本実施形態の医薬組成物は、単位投与形態あたり、0.01~2000mgの前記化合物(1)及び/又はその塩を含有してもよい。本実施形態の医薬組成物において、化合物(1)及び/又はその塩の含有量は、0.01~90質量%であってもよく、0.05~80質量%であってもよく、0.1~60質量%であってもよい。
【0045】
(任意成分)
本実施形態の医薬組成物は、化合物(1)又はその塩に加えて、他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、薬学的に許容される担体が挙げられる。
「薬学的に許容される担体」とは、有効成分の生理活性を阻害せず、且つ、その投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体を意味する。「実質的な毒性を示さない」とは、その成分が通常使用される投与量において、投与対象に対して毒性を示さないことを意味する。本実施形態の医薬組成物においては、薬学的に許容される担体は、化合物(1)又はその塩の薬理作用を阻害せず、且つその投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体である。薬学的に許容される担体は、典型的には非活性成分とみなされる、公知のあらゆる薬学的に許容され得る成分を包含する。薬学的に許容される担体は、特に限定されないが、例えば、溶媒、希釈剤、ビヒクル、賦形剤、流動促進剤、結合剤、造粒剤、分散化剤、懸濁化剤、湿潤剤、滑沢剤、崩壊剤、可溶化剤、安定剤、乳化剤、充填剤等が挙げられる。薬学的に許容される担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
本実施形態の医薬組成物は、上記成分に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分は、特に限定されず、医薬分野において常用されるものを特に制限なく使用することができる。他の成分としては、例えば、上記以外の医薬品添加剤が挙げられる。医薬品添加剤としては、例えば、保存剤(例えば、酸化防止剤)、キレート剤、矯味矯臭剤、甘味剤、増粘剤、緩衝剤、着色剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
本実施形態の医薬組成物は、化合物(1)又はその塩以外の活性成分を含んでいてもよい。活性成分としては、例えば、抗生物質、抗炎症剤、解熱剤、鎮痛剤等が挙げられるが、これらに限定されない。他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
(剤型、投与方法等)
本実施形態の医薬組成物の剤型は、特に制限されず、医薬品製剤として一般的に用いられる剤型とすることができる。本実施形態の医薬組成物は、経口製剤であってもよく、非経口製剤であってもよい。経口製剤としては、例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、細粒剤、液剤、ドロップ愛、乳剤等が挙げられる。非経口製剤としては、例えば、注射剤、坐剤、点鼻剤、経腸剤、吸入剤等が挙げられる。これらの剤型の医薬組成物は、定法(例えば、日本薬局方記載の方法)に従って、製剤化することができる。
【0048】
本実施形態の医薬組成物の投与経路は、特に限定されず、経口又は非経口経路で投与することができる。非経口投与としては、静脈投与、鼻腔内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、経腸投与等が挙げられる。
【0049】
本実施形態の医薬組成物は、化合物(1)及び/又はその塩の治療的有効量を投与することができる。例えば、本実施形態の医薬組成物は、1回の投与量として、投与対象の体重1kgあたり、0.01~2000mgの化合物(1)及び/又はその塩を投与することができる。前記投与量は、0.05~1500mg/kgであってもよく、0.1~1000mg/kgであってもよく、0.2~500mg/kgであってもよく、0.3~300mg/kgであってもよい。
【0050】
本実施形態の医薬組成物は、単回投与であってもよく、反復投与であってもよい。反復投与である場合、投与間隔は、患者の症状、体重、年齢、及び性別等、並びに医薬組成物の剤型、及び投与方法等によって適宜決定すればよい。投与間隔は、例えば、数時間毎、1日2~3回、1日1回、2~3日に1回、1週間に1回、1月に1回、数カ月に1回等とすることができる。
【0051】
本実施形態の医薬組成物の投与対象は、特に限定されない。医薬組成物の投与対象は、哺乳動物が好ましく、ヒトであってもよく、ヒト以外の哺乳動物であってもよい。ヒト以外の哺乳動物としては、ヒト以外の霊長類(サル、アカゲザル、カニクイザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー等)、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモット等)、ウサギ目(ウサギ等)、有蹄目(ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等)、ネコ目(イヌ、ネコ等)等が挙げられる。
【0052】
本実施形態の医薬組成物は、肥満を治療又は予防するために用いることができる。化合物(1)は、中性脂肪の蓄積を抑制する作用を有するため、肥満の治療又は予防に有効である。化合物(1)は、ベージュ化の誘導により、脂肪燃焼を促進させて、抗肥満作用を示し得る。そのため、本実施形態の医薬組成物は、摂食抑制、又は脂肪吸収阻害作等を作用機序とする従来の抗肥満薬とは、異なる作用機序により、肥満を治療又は予防し得る。
化合物(1)は、PPARγのパーシャルなアゴニスト活性を有するため、インスリン抵抗性改善作用を有し得る。化合物(1)は、天然化合物であるフラバノンの類縁体であるため、安全性の面でも優れていると考えられる。本実施形態の医薬組成物は、化合物(1)又はその塩を有効成分として含有するため、インスリン抵抗性改善作用を期待でき、且つ安全性が高いと考えられる。
【0053】
[他の態様]
一態様において、本発明は、化合物(1)又はその塩の有効量を、対象に投与することを含む、肥満を治療又は予防する方法を提供する。前記有効量は、化合物(1)又はその塩の治療的有効量であり得る。前記対象は、肥満の治療又は予防が必要な対象である。
一態様において、本発明は、肥満を治療又は予防するための医薬組成物の製造における、化合物(1)又はその塩の使用を提供する。
一態様において、本発明は、肥満の治療又は予防に使用するための、化合物(1)又はその塩を提供する。
一態様において、本発明は、肥満を治療又は予防するための化合物(1)又はその塩の使用を提供する。
一態様において、本発明は、化合物(1)又はその塩を含有する、中性脂肪低減剤を提供する。
一態様において、本発明は、化合物(1)又はその塩を含有する、ベージュ化誘導剤を提供する。
一態様において、本発明は、化合物(1)又はその塩を、前駆脂肪細胞及び/又は白色脂肪細胞に接触させることを含む、ベージュ化誘導方法を提供する。
一態様において、本発明は、化合物(1)又はその塩を、前駆脂肪細胞に接触させることを含む、前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導方法を提供する。
一態様において、本発明は、化合物(1)又はその塩を、白色脂肪細胞に接触させることを含む、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への形質転換誘導方法を提供する。
【実施例0054】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
(合成例1:2NCの合成)
<カルコン(3Aa)の合成>
2’-ヒドロキシアセトフェノン(1A)(1.20mL,0.01mol)と1-ナフトアルデヒド(2a)(1.07g,0.01mol)をエタノール30mLに溶解させ、そこに水酸化ナトリウム1.20g(0.03mol)を加え、室温で20時間攪拌した。生じた黄色の懸濁溶液を濃塩酸10mL及び氷200gに加えて2時間攪拌した後、生成した黄色固体を吸引濾過した。得られた固体を沸騰したエタノールから再結晶することでナフタレン骨格を有したカルコン(3Aa)を2.60g(収率95%)得た。得られた化合物データは文献(Tetrahedron Letters 2021年85巻 153480ページ)と一致した。
【0056】
【化8】
【0057】
<2NCの合成>
耐圧性ガラス容器に、カルコン(3Aa)(2.60g,0.095mol)とアセトニトリル100mLおよび1.0mol/L CsF水溶液を1mL加えて密栓し、80℃の温浴で2時間加熱攪拌を行った。反応液を室温まで戻し、エバポレーターにて溶媒を留去した後、得られた黄色の残渣を沸騰したエタノールから再結晶することで微黄色固体である2NC(4Aa)を2.21g(収率85%)で得た。得られた化合物データは文献(Tetrahedron Letters 2021年85巻 153480ページ)と一致した。
【0058】
【化9】
【0059】
(合成例2:2NC-A2~A7の合成)
<カルコン(3Ba~3Ga)の合成>
2’-ヒドロキシアセトフェノン誘導体(1B~1G)(いずれも0.005mol)のそれぞれに対し、1-ナフトアルデヒド(2a)(0.54g,0.005mol)を加えてエタノール15mLに溶解させた。そこに水酸化ナトリウム0.6g(0.015mol)を加え、室温で20時間攪拌し、生じた黄色の懸濁溶液を濃塩酸5mL及び氷100gに加えて2時間攪拌した後、生成した黄色固体を吸引濾過した。得られた固体を沸騰したエタノールから再結晶することでナフタレン骨格を有したカルコン(3Ba~3Ga)を得た。
【0060】
【化10】
【0061】
(E)-1-(2-Hydroxy-4-methylphenyl)-3-(naphthalen-1-yl)prop-2-en-1-one:3Ba
収量・収率0.82g・57%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.78(d,J=15.2Hz,1H),8.29(d,J=8.3Hz,1H),7.91-7.97(m,3H),7.76(d,J=15.2Hz,2H),7.58-7.64(m,3H),7.56(d,J=7.6Hz,1H),6.97(d,J=8.9Hz,1H),2.36(s,3H).
【0062】
(E)-1-(2-Hydroxy-5-methoxyphenyl)-3-(naphthalen-1-yl)prop-2-en-1-one:3Ca
収量・収率1.06g・70%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:12.4(s,1H),8.79(d,J=15.1Hz,1H),8.28(d,J=8.2Hz,1H),7.91-7.97(m,3H),7.70(d,J=15.1Hz,1H),7.54-7.64(m,3H),7.40(d,J=2.1Hz,1H),7.17(dd,J=9.0,2.8Hz,1H),7.01(d,J=9.7Hz,1H),3.84(s,3H).
【0063】
(E)-1-(2-Hydroxy-4-(methoxymethoxy)phenyl)-3-(naphthalen-1-yl)prop-2-en-1-one:3Da
収量・収率1.22g・73%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.75(d,J=15.1Hz,1H),8.28(d,J=8.2Hz,1H),7.88-7.95(m,4H,7.67(d,J=15.1Hz,1H),7.53-7.62(m,3H),6.68(d,J=2.7Hz,1H),6.61(dd,J=8.9,2.1Hz,1H),5.24(s,2H),3.50(s,3H).
【0064】
(E)-1-(2-Hydroxy-5-chlorophenyl)-3-(naphthalen-1-yl)prop-2-en-1-one:3Ea
収量・収率0.43g・28%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.83(d,J=15.1Hz,1H),8.28(d,J=8.3Hz,1H),7.91-7.97(m,4H),7.57-7.69(m,4H),7.47(d,J=8.9Hz,1H),7.02(d,J=9Hz,1H)
【0065】
(E)-1-(2-Hydroxy-4-chlorophenyl)-3-(naphthalen-1-yl)prop-2-en-1-one:3Fa
収量・収率1.07g・69%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.51(d,J=15.1Hz,1H),8.28(d,J=9Hz,1H),7.97(d,J=8.2Hz,1H),7.89-7.93(m,3H),7.82(d,J=19.2 Hz,1H),7.62-7.64(m,1H),7.54-7.58(m,2H),7.08(d,J=2.1Hz,1H),6.94(dd,J=2.1,8.9Hz,1H)
【0066】
(E)-1-(2-Hydroxy-5-fluorophenyl)-3-(naphthalen-1-yl)prop-2-en-1-one:3Ga
収量・収率0.50g・34%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.83(d,J=15.1Hz,1H),8.28(d,J=8.2Hz,1H),7.98(d,J=8.3Hz,1H),7.91-7.95(m,2H),7.62-7.66(m,3H),7.59(q,J=8.2Hz,2H),7.26-7.29(m,3H),7.02-7.04(m,1H)
【0067】
<2NC-A2~A7(4Ba~4Ga)の合成>
耐圧性ガラス容器に、得られたカルコン(3Ba~3Ga)(いずれも0.001mol)を入れ、それぞれのカルコンに対し、アセトニトリル5mLおよび1.0mol/LCsF水溶液を30μL加えて密栓し、60℃の温浴で2時間加熱攪拌を行った。反応液を室温まで戻し、エバポレーターにて溶媒を留去した後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:10%酢酸エチル/ヘキサン溶液)にて精製を行い、2NC―A2~A7(4Ba~4Ga)を得た。
【0068】
【化11】
【0069】
7-Methyl-2-(naphthalen-1-yl)chroman-4-one:4Ba
白色固体
収量・収率0.23g・80%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.06(d,J=8.3Hz,1H),7.88-7.93(m,3H),7.77(d,J=6.9Hz,1H),7.52-7.57(m,3H),6.91(d,J=10.3Hz,2H),6.21(dd,J=13.1,2.7Hz,1H),3.22-3.27(m,1H),3.08(dd,J=17.1,2.8Hz,1H),2.39(s,3H).
13C-NMR(150MHz:CDCl)δppm:192.2,162.0,148.0,137.5,134.5,134.1,130.4,129.6,129.3,127.3,127.0,126.9,126.2,125.6,124.1,123.4,123.1,119.1,118.4,118.2,76.8,44.2,44.1,22.2,20.7.
【0070】
6-Methoxy-2-(naphthalen-1-yl)chroman-4-one:4Ca
白色固体
収量・収率0.14g・46%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.05(d,J=8.3Hz,1H),7.89-7.93(m,2H),7.78(d,J=7.6Hz,1H),7.52-7.57(m,3H),7.43(d,J=3.4Hz,1H),7.16(dd,J=8.9,2.9Hz,1H),7.04(d,J=9.0Hz,1H),6.19(dd,J=13.8,2.8Hz,1H),3.85(s,3H),3.23-3.28(m,1H),3.09(dd,J=17.1,2.8Hz,1H).
13C-NMR(150MHz:CDCl)δppm192.6,156.7,154.6,134.5,134.1,130.4,129.6,129.3,126.9,126.2,125.6,125.6,124.1,123.0,121.1,119.7,107.7,56.1,44.1.
【0071】
7-(Methoxymethoxy)-2-(naphthalen-1-yl)chroman-4-one:4Da
白色固体
収量・収率0.14g・42%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.05(d,J=8.3Hz,1H),7.89-7.96(m,3H),7.78(d,J=6.9Hz,1H),7.53-7.58(m,3H),6.73-6.77(m,2H),6.22(dd,J=13.1,2.7Hz,1H),3.49(s,3H),3.19-3.24(m,1H),3.05(dd,J=17.2,2.8Hz,1H).
13C-NMR(150MHz,CDCl)δppm:191.2,163.9,163.7,134.4,134.1,130.4,129.6,129.3,129.1,126.9,126.2,125.6,124.1,123.0,116.0,111.5,104.0,94.3,56.6,44.0.
【0072】
6-Chloro-2-(naphthalen-1-yl)chroman-4-one:4Ea
白色固体
収量・収率0.22g・72%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.02(d,J=7.7 Hz,1H),7.90-7.96(m,3H),7.76(d,J=7.5Hz,1H),7.53-7.58(m,3H),7.44(dd,J=2.8,8.2Hz,1H),7.06(d,J=9Hz,1H),6.22(dd,J=2.8,13.0Hz,1H),3.23-3.28(m,1H),3.12(dd,J=2.7,17.2Hz,1H)
【0073】
7-Chloro-2-(naphthalen-1-yl)chroman-4-one:4Ca
白色固体
収量・収率0.11g・37%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.03(d,J=8.2Hz,1H),7.89-7.94(m,3H),7.74(d,J=6.9Hz,1H),7.54-7.59(m,3H),7.12(d,J=2.1Hz,1H),7.08-7.09(m,1H),6.25(dd,J=2.8,13.1Hz,1H),3.24-3.29(m,1H),3.12(dd,J=2.8,17.2Hz,1H)
【0074】
6-Fluoro-2-(naphthalen-1-yl)chroman-4-one:4Da
白色固体
収量・収率0.29g・99%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.04(d,J=8.2Hz,1H),7.90-7.94(m,2H),7.77(d,J=7.6Hz,1H),7.64-7.66(m,1H),7.53-7.58(m,3H),7.25-7.28(m,4H),7.07-7.09(m,1H),6.22(dd,J=3.1,13.1Hz,1H),3.24-3.29(m,1H),3.12(dd,J=2.7,17.2Hz,1H)
【0075】
(合成例3:2NC-B2、B4、B7の合成)
<カルコン(3Ab~3Ad)の合成>
2’-ヒドロキシアセトフェノン(1A)(0.6mL,0.005mol)と1-ナフトアルデヒド誘導体(2b~2d)(0.005mol)をそれぞれ加えてエタノール15mLに溶解させた。そこに水酸化ナトリウム0.6g(0.015mol)を加え、室温で20時間攪拌した。反応液を濃塩酸5mL及び氷100gに加えた後、分液漏斗に移し、酢酸エチル100mLで2回抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、ろ過後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:3Abおよび3Acはトルエン,3Adは50%酢酸エチル/ヘキサン)にて精製することでナフタレン骨格を有したカルコン(3Ab~3Ad)を得た。
【0076】
【化12】
【0077】
(E)-1-(2-Hydroxyphenyl)-3-(2-methoxynaphthalen-1-yl)prop-2-en-3-one:3Ab
収量・収率0.82g・54%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.63(d,J=15.1Hz,1H),8.28(d,J=8.9Hz,1H),8.07(d,J=15.1Hz,1H),7.94-7.92(m,2H),7.83(d,J=8.2Hz,1H),7.57(t,J=7.2Hz,1H),7.50(t,J=6.9Hz,1H),7.42(t,J=7.9Hz,1H),7.35(d,J=8.9Hz,1H),7.05(d,J=8.3Hz,1H),6.95(t,J=7.6Hz,1H),4.09(s,3H).
【0078】
(E)-1-(2-Hydroxyphenyl)-3-(4-methoxymethoxynaphthalen-1-yl)prop-2-en-3-one:3Ac
収量・収率0.75g・45%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:(d,J=15.2Hz,1H),8.36(d,J=8.2Hz,1H),8.28(d,J=8.3Hz,1H),7.97(d,J=6.2Hz,1H),7.92(d,J=8.2Hz,1H),7.70(d,J=15.1Hz,1H),7.65(dd,J=6.2,1.4Hz,1H),7.57(t,J=7.6Hz,1H),7.51(t,J=6.9Hz,1H),7.17(d,J=8.2Hz,1H),7.05(d,J=7.5Hz,1H),6.96(t,J=7.6Hz,1H),5.47(s,2H),3.57(s,3H).
【0079】
(E)-1-(2-Hydroxyphenyl)-3-(2-bromonaphthalen-1-yl)prop-2-en-3-one:3Da
収量・収率1.10g・63%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.27(d,J=15.8Hz,1H),8.14(d,J=9.6Hz,1H),7.89-7.84(m,2H),7.72(dd,J=11.0,8.9Hz,2H),7.60-7.52(m,4H),7.07(d,J=8.2Hz,1H),6.93(t,J=7.2Hz,1H).
【0080】
<2NC-B4、B7(4Ab、4Ad)、4Acの合成>
耐圧性ガラス容器に、得られたカルコン(3Ab~3Ad)(いずれも0.001mol)を入れ、それぞれのカルコンに対し、アセトニトリル5mLおよび1.0mol/LCsF水溶液を100μL加えて密栓し、80℃の温浴で3時間加熱攪拌を行った。反応液を室温まで戻し、エバポレーターにて溶媒を留去した後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:トルエン)にて精製を行い、2NC-B4、B7(4Ab、4Ad)、及び4Acを得た。
【0081】
<2NC-B6(5Ac)の合成>
50mLのナス型フラスコに、4Ac(0.20g,0.0006mol)を入れ、そこに10%塩化水素・メタノール溶液5mLを加え80℃で1時間加熱還流を行った。室温に戻し、溶液を減圧下で濃縮したのち、酢酸エチル50mLおよび飽和炭酸水素ナトリウム水溶液20mLを加えて分液操作を行い、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒50%酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、目的物である2NC-B6(5Ac)を37mg(収率21%)で得た。
【0082】
【化13】
【0083】
2-(2-Methoxynaphthalen-1-yl)chroman-4-one:4Ab
白色固体
収量・収率0.13g・42%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.46(d,J=8.9Hz,1H),8.03(dd,J=6.2,1.7Hz,1H),7.90(d,J=9.6Hz,1H),7.84(d,J=8.3Hz,1H),7.52(t,J=6.9Hz,1H),7.48(t,J=7.2Hz,1H),7.39(t,J=7.9Hz,1H),7.31(d,J=8.9Hz,1H),7.09(t,J=6.9Hz,1H),7.06(d,J=8.2Hz,1H),6.59(dd,J=11.7,3.1Hz1H),3.95(s,3H),3.74(dd,J=14.4,2.8Hz,1H),2.76(dd,J=14.4,3.1Hz,1H).
13C-NMR(150MHz:CDCl)δppm:193.2,162.4,154.8,136.2,132.3,131.5,130.0,129.2,127.5,127.0,124.7,123.9,121.7,121.4,118.6,118.3,113.2,74.2,56.7,42.5.
【0084】
2-(2-Methoxymethoxynaphthalen-1-yl)chroman-4-one:4Ac
白色固体
収量・収率0.20g・59%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.48(d,J=8.9Hz,1H),8.04(dd,J=6.2,1.7Hz,1H),7.86(t,J=9.3Hz,2H),7.55-7.46(m,3H),7.42(t,J=7.6Hz,1H),7.11(t,J=7.6Hz,1H),7.07(d,J=8.2Hz,1H),6.62-6.59(dd,J=11.6,3.1Hz,1H),5.30(s,2H),3.77(dd,J=2.8,14.4Hz,1H),3.49(s,3H),2.79(dd,J=14.5,3.1Hz,1H).
13C-NMR(150MHz:CDCl)δppm:193.1,162.3,152.7,136.3,132.1,131.5,130.6,129.2,127.6,127.0,124.9,124.4,121.7,121.3,119.5,118.5,116.1,95.5,74.3,56.7,42.5.
【0085】
2-(2-Bromonaphthalen-1-yl)chroman-4-one:4Ad
白色固体
収量・収率0.19g・55%
H-NMR(600MHz:CDCl)δppm:8.62(d,J=8.9Hz,1H),8.05(d,J=8.3Hz,1H),7.89(t,J=4.8Hz,1H),7.73(d,J=8.9Hz,1H),7.66(d,J=8.9Hz,1H),7.58-7.52(m,3H),7.14(t,J=7.6Hz,1H),7.08(d,J=8.2,1H),6.58(dd,J=11.7,3.4Hz,1H),3.63(t,J=16.1Hz,1H),2.89(dd,J=14.4,3.5Hz,1H).
13C-NMR(150MHz:CDCl)δppm:191.8,161.5,136.5,133.9,132.1,132.0,131.1,130.5,129.5,127.7,127.2,126.5,125.4,122.2,122.1,121.3,118.6,41.8.
【0086】
H-NMR(600MHz,DMSO-d6)δppm:10.42(s,1H),8.22(d,J=8.2Hz,1H),8.16(d,J=8.9Hz,1H),7.85(dd,J=6.2,1.7Hz,1H),7.61-7.49(m,4H),7.12(t,J=7.6Hz,1H),7.07(d,J=8.2Hz,1H),6.91(d,J=7.6Hz,1H),6.32(dd,J=11.0,2.1Hz,1H),3.46(dd,J=13.1,4.1Hz,1H),2.90(dd,J=13.7,2.8Hz,1H).
13C-NMR(150MHz,DMSO-d6)δppm:192.1,161.3,153.9,136.0,131.7,126.7,126.3,125.3,124.6,124.5,124.2,123.3,122.5,121.3,120.8,117.9,106.9,75.7,42.5.
【0087】
2-(2-Hydroxynaphthalen-1-yl)chroman-4-one:5Ac
白色固体
収量・収率37mg・21%
H-NMR(600MHz,DMSO-d6)δppm:10.42(s,1H),8.22(d,J=8.2Hz,1H),8.16(d,J=8.9Hz,1H),7.85(dd,J=6.2,1.7Hz,1H),7.61-7.49(m,4H),7.12(t,J=7.6Hz,1H),7.07(d,J=8.2Hz,1H),6.91(d,J=7.6Hz,1H),6.32(dd,J=11.0,2.1Hz,1H),3.46(dd,J=13.1,4.1Hz,1H),2.90(dd,J=13.7,2.8Hz,1H).
13C-NMR(150MHz,DMSO-d6)δppm:192.1,161.3,153.9,136.0,131.7,126.7,126.3,125.3,124.6,124.5,124.2,123.3,122.5,121.3,120.8,117.9,106.9,75.7,42.5.
【0088】
(実施例1:フラバノン誘導体2-(Naphthalen-1-yl)chroman-4-one(2NC)による前駆脂肪細胞の脂肪細胞分化についての検証)
3T3-L1前駆脂肪細胞は、通常、分化誘導を経て白色脂肪細胞へと分化する。近年、寒冷刺激、又は食事の摂取などによって、白色脂肪組織に存在する前駆脂肪細胞がベージュ脂肪細胞へと分化すると共に、白色脂肪細胞がベージュ脂肪細胞に形質転換することが報告されている。そこで、まず初めに、2NCによる前駆脂肪細胞のベージュ化誘導作用を評価するために、マウス由来前駆脂肪細胞である3T3-L1細胞を用いて試験を実施した。
【0089】
フラバノン誘導体2NCは、ジメチルスルホキシド(DMSO、富士フイルム和光純薬(株)社製)に、10mM又は20mMの濃度で溶解させて実験に使用した。
細胞の培養は、10%仔ウシ血清(Calf Serum,サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)社製)含有ダルベッコ変法イーグル(DMEM,日水製薬(株)社製)・ペニシリン-ストレプトマイシン-Lグルタミン溶液(PSG,サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)社製)を用いて、37℃、5%CO環境下で行った。細胞は、80%コンフルエントになるまで培養し、実験に用いた。
【0090】
脂肪細胞への分化は、以下のように行った。
細胞が100%コンフルエントに達したことを顕微鏡下で確認後、培地を除去し、1.6μMインスリン(富士フイルム和光純薬(株)社製)、0.25μMデキサメタゾン(富士フイルム和光純薬(株)社製)、及び500μM 3-イソブチル-1-メチルキサンチン(富士フイルム和光純薬工業(株)社製)を含む10%ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum,コスモ・バイオ(株)社製)含有DMEM・ハムF12(日水製薬(株)社製)・PSG・トリヨードチロシン(シグマアルドリッチジャパン(合)社製、T3)培地を添加し、脂肪細胞への分化誘導を行った。この時点を培養0日目とし、培養2日目に、インスリンを含む10%ウシ胎児血清含有DMEM・ハムF12・PSG・T3培地に交換し、以後2日毎に培地交換した。
【0091】
3T3-L1前駆脂肪細胞への影響を評価するために、リピットアッセイキット(コスモ・バイオ(株)社製)を用いてOil Red O染色を以下のように行った。組織培養マルチウェルプレート(12wells,AGCテクノグラス(株)社製)に1×10cells/wellの密度で播種した細胞を、上記の方法で培養した。2NCは、終濃度が10μM又は20μMになるように培地で希釈して、0日目、2日目、及び4日目に細胞培養液に添加した。なお、溶媒であるDMSOのみを0.1%添加したものをコントロール(Control)とし、同様に処理した。
【0092】
細胞の培養終了後(6日目)、1xリン酸緩衝液(1xPBS)で細胞を1回洗浄し、固定液(4%ホルムアルデヒド溶液)で細胞を1晩固定させた。固定液を精製水で洗浄した後、オイルレッドO液で細胞を染色し、乾燥させて顕微鏡(Olympus IX71 microscope,オリンパスライフサイエンス(株)社製)で細胞を観察した。脂肪滴の定量は、乾燥させたwellに細胞抽出液(リピットアッセイキットの付属品)を加えて色素を溶出させ、マイクロプレートリーダー(FLUO star Omega,BMG LAB TECH(有)社製)を用いて540nmの吸光度を測定することにより行った。色素の溶出時間は60分とした。Control細胞とそれぞれの処理群との比較は一元配置分散分析(One way ANOVA)で検定し、post hoc testとしてDunnett検定を用いた(Controlと比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.01の場合を統計学的に有意とした)。
【0093】
結果を図2に示した。脂肪細胞への分化誘導と共に、2NCを6日間処理した細胞では、DMSOを処理したControl細胞に比較して、中性脂肪を蓄積した細胞の数が少ないことが顕微鏡下で観察された。さらに、2NCを6日間処理した細胞では、定量的にも脂肪滴蓄積量の有意な減少が確認された(図3)。すなわち、2NCは、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化に伴う中性脂肪の蓄積を抑制することが示された。
【0094】
(実施例2:2NCを処理した細胞における遺伝子発現量の測定)
実施例1の結果からは、2NCを処理した3T3-L1脂肪細胞における中性脂肪蓄積量の低下が、直接的に前駆脂肪細胞から白色脂肪細胞への分化の抑制に由来するのか、あるいはベージュ化誘導作用による脂質燃焼能の増加に依存しているのかは明らかではない。そこで、2NCによる脂肪蓄積抑制作用を明らかにするため、2NCを処理した細胞における遺伝子発現量を測定した。白色脂肪細胞の分化マーカーであるPeroxisome proliferator-activated receptorγ2(Pparγ2)遺伝子及びCCAAT/Enhancer-binding proteinα(C/ebpα)遺伝子、adipocyte Protein2(aP2)遺伝子とともに、ベージュ脂肪細胞化の分子マーカーであるUncoupling Protein 1(Ucp1)遺伝子、ベージュ脂肪細胞関連遺伝子であるElongation of very long chain fatty acid(Elovl3)遺伝子、Peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-alpha(Pgc1α)遺伝子の発現量を測定した。
【0095】
実験は以下のように行った。細胞培養ディッシュ60mm(ビーエム機器(株)社製)に1×10cellsの密度で播種した細胞を、上記の方法で分化誘導処理した。2NCは、終濃度が20μMになるように分化用培地で希釈して、0日目、2日目、及び4日目に細胞培養液に添加した。なお、溶媒であるDMSOのみを0.1%添加したものをControlとした。
【0096】
0日目、2日目、4日目及び6日目の細胞から、RNAiso Plus(タカラバイオ(株)社製)を用いてTotal RNAを抽出して精製した。1μg相当のTotal RNAを鋳型とし、ReverTra Ace RT(東洋紡(株)社製)、Oligo dTプライマー(シグマアルドリッチジャパン(合)社製)、dNTP mix((株)ニッポンジーン社製)を用いて逆転写反応により、cDNAの合成を行った。5×RT Buffer 4μL(ReverTra Ace RTの付属品)、滅菌精製水 2μL、10mM dNTP mix 2μL、10μM Oligo dTプライマー 1μL、ReverTra Ace 1μL(ReverTra Ace RTの付属品)、及びTotal RNA 1μg相当10μLを混合し、全量を20μLとして、反応液とした。PCR用サーマルサイクラー(商品名:Applied Biosystems(登録商標) thermal cycler、Applied Biosystems Japan(株)社製)を使用して、「42℃×40分→99℃×5分」で逆転写反応を行った。反応後の逆転写反応液を滅菌精製水にて3倍希釈し、リアルタイムRT-PCR解析に使用した。
【0097】
リアルタイムRT-PCR解析には、Mx3000 quantitative RT-PCR system(アジレント・テクノロジー社製)を使用した。
プライマーには、Pparγ2フォワードプライマー(5’-GCTGTTATGGGTGAAACTCTG-3’)(配列番号1)、Pparγ2リバースプライマー(5’-ATAATAAGGTGGAGATGCAGG-3’)(配列番号2)、aP2フォワードプライマー(5’-ATGAAATCACCGCAGACGACAGGA-3’)(配列番号3)、aP2リバースプライマー(5’-TGTGGTCGACTTTCCATCCCACTT-3’)(配列番号4)、C/ebpαフォワードプライマー(5’-TGGACAAGAACAGCAACGAG-3’)(配列番号5)、C/ebpαリバースプライマー(5’-TCACTGGTCAACTCCAGCAC-3’)(配列番号6)、Ucp1フォワードプライマー(5’-GGGCCCTTGTAAACAACAAA-3’)(配列番号7)、Ucp1リバースプライマー(5’-CTCGGTCCTTCCTTGGTGTA-3’)(配列番号8)、Elovl3フォワードプライマー(5’ -ATGAACTTTGGCGTCCATTC-3’)(配列番号9)、Elovl3リバースプライマー(5’-CTTTCTCCTGCCTCCAGATG-3’)(配列番号10)、Pgc1αフォワードプライマー(5’-AATCAGACCTGACACAACGC-3’)(配列番号11)、Pgc1αリバースプライマー(5’-GCATTCCTCAATTTCACCAA-3’)(配列番号12)を使用した。内部標準として、36b4フォワードプライマー(5’-AAGCGCGTCCTGGCATTGTCT-3’)(配列番号13)、36b4リバースプライマー(5’-CCGCAGGGGCAGCAGTGGT-3’)(配列番号14)を使用した。プライマーはいずれもシグマアルドリッチジャパン(合)社製を使用した。
【0098】
リアルタイムRT-PCR反応には、Go Taq qPCR Master mix(プロメガ(株)社製)を使用した。0.2mLキャップ一体型PCR8連チューブフラット120(日本ジェネティクス(株)社製)中に、Go-Taq qPCR Master Mix 10μL、0.1mM フォワードプライマー0.1μL、0.1mM リバースプライマー0.1μL、cDNA溶液2μL、及び滅菌精製水 7.8μLを混合して入れて反応液とした。{95℃×30秒(前処理)→「変性:95℃×30秒→アニーリング:58℃×30秒→伸長反応72℃×30秒」×40サイクル(増幅)、95℃×15秒→60℃×30秒→95℃×15秒×1サイクル(融解曲線解析)}のプログラムにてPCR反応を行った。
【0099】
測定して得られた36b4のCt値(Threshold Cycle:一定の増幅量(閾値)に達するサイクル数)と、Pparγ2、aP2、C/ebpα、Ucp1、Elovl3及びPgc1αのCt値とから、各遺伝子発現量の相対値をデルタ・デルタCt(ΔΔCt)法により算出した。2NCを処理した細胞とControl細胞との同日間における遺伝子発現量の比較をStudentのT検定を用いて行った(Control細胞と比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.05の場合を統計学的に有意とした)。
【0100】
結果を図4に示した。2NCを6日間処理した細胞におけるPparγ2遺伝子、aP2遺伝子及びC/ebpα遺伝子の発現量が、Control細胞に比較して有意に増加していることが示された。また、2NCを処理した細胞において、Ucp1遺伝子及びElovl3遺伝子の発現量が顕著に増加していた。一方、分化誘導に伴うPgc1α遺伝子の発現誘導は、2NCを処理した細胞において抑制された。これらのことから、2NCによる脂肪滴蓄積抑制は、前駆脂肪細胞から白色脂肪細胞への分化誘導の抑制によるものではなく、前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化促進作用によるものであることが示唆された。
【0101】
(実施例3:2NCによるベージュ脂肪細胞分化誘導作用に関わる因子の探索)
実施例2では2NCのベージュ脂肪細胞への分化促進作用が示された。脂肪細胞のベージュ化の促進因子として、PPARγ、甲状腺刺激ホルモン受容体Thyroid hormone receptor(TR)、及びβアドレナリン受容体の活性化に加えて、線維芽細胞成長因子Fibroblast Growth Factors(FGFs)などが報告されている。そこで、実施例3では2NCによるベージュ脂肪細胞分化誘導に関与する因子を検証した。
【0102】
実施例2と同様に3T3-L1前駆脂肪細胞を播種し、細胞がコンフルエントになるまで培養した。実施例3では、実施例2で用いた分化培地から、甲状腺刺激ホルモンであるトリヨードチロシン(T3)を除いたものを基本分化誘導培地とした(1.6μMインスリン、0.25μMデキサメタゾン、500μM 3-イソブチル-1-メチルキサンチンを含む10%FBS,含有DMEM・ハムF12・PSG含有)。PPARγのアゴニストであるピオグリタゾン塩酸塩(富士フイルム和光純薬(株)社製,Pio)を、5mMとなるようにDMSOに溶解し、実験に用いた。
【0103】
実験は以下のように行った。細胞は実施例1と同様の方法で培養し、2NC、Pio、及びT3を、終濃度がそれぞれ20μM、5μM及び0.02nMなるように、0日目にそれぞれ添加し、2日目、及び4日目にも添加した。なお、溶媒であるDMSOのみを0.1%添加したものをControlとした。それぞれの処理群の詳細については、図5に示した。
【0104】
分化6日目の細胞から、実施例2と同様の方法でtotal RNAを抽出して、逆転写反応によりcDNAを作製し、リアルタイムPCR解析を実施した。実施例2で測定したPparγ2遺伝子、C/ebpα遺伝子、aP2遺伝子、Ucp1遺伝子、及びElovl3遺伝子に加え、Adrenoceptor Beta 1-3(Adrb1-3)遺伝子、Fgf6遺伝子、Fgf9遺伝子、及びFgf receptor1(Fgfr1)遺伝子について遺伝子発現量を解析した。
解析にはAdrenoceptor Beta 1(Adrb1)フォワードプライマー(5’-CAGCATTGAGACCCTGTGTG-3’)(配列番号15)、Adrenoceptor Beta 1(Adrb1)リバースプライマー(5’-AGCACTTGGGGTCGTTGTAG-3’)(配列番号16)、Adrenoceptor Beta 2(Adrb2)フォワードプライマー(5’-GAGCACAAAGCCCTCAAGAC-3’)(配列番号17)、Adrenoceptor Beta 2(Adrb2)リバースプライマー(5’-GCTCTTGAAAGGCAATCCTG-3’)(配列番号18)Adrenoceptor Beta 3(Adrb3)フォワードプライマー(5’-GGCAACCTGCTGGTAATCAT-3’)(配列番号19)、Adrenoceptor Beta 3(Adrb3)リバースプライマー(5’-TCCACTGACGTCCACAGTTC-3’)(配列番号20)、Fgf6フォワードプライマー(5’-GCATCAGTGGAACACACGAGGA-3’)(配列番号21)、Fgf6リバースプライマー(5’-CAGTCTTCCTTTACTGTTCATGGC-3’)(配列番号22)、Fgf9フォワードプライマー(5’-GGGGAGCTGTATGGATCAGA-3’)(配列番号23)、Fgf9リバースプライマー(5’-CTTTGTCAGGGTCCACTGGT-3’)(配列番号24)、Fgf receptor1(Fgfr1)フォワードプライマー(5’-ATGGTTGACCGTTCTGGAAG-3’)(配列番号25)、Fgf receptor1(Fgfr1)リバースプライマー(5’-GGAAGTCGCTCTTCTTGGTG-3’)(配列番号26)を使用した。プライマーはいずれもシグマアルドリッチジャパン(合)社製を使用した。
【0105】
測定して得られた各細胞中の36b4のCt値とUcp1、Elovl3、Pparγ2、aP2、C/ebpα、Adrb1、Adrb2、Adrb3、Fgf6、Fgf9、及びFgfr1のCt値とから、各遺伝子発現量の相対値を実施例2と同様に算出した。Control細胞とそれぞれの処理群との比較は、一元配置分散分析(One way ANOVA)で検定し、post hoc testとしてDunnett検定を用いた(Control細胞と比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.01の場合を統計学的に有意とした)。
【0106】
結果は図6A~6Cに示した。2NC(2)、ピオグリタゾン(3)及びT3(4)の単独処理した細胞におけるUcp1遺伝子発現量を比較すると、2NC処理において顕著な発現誘導が認められた。また、2NC+T3(5)、ピオグリタゾン+T3(6)及び2NC+ピオグリタゾン(7)の共処理した細胞における発現量を比較すると、2NCを処理した細胞でのUcp1遺伝子発現量が顕著に増加していることが示された。しかしながら、2NCによるUcp1遺伝子発現量の増加に対してピオグリタゾンおよびT3の相加効果および相乗効果は認められなかった。ベージュ化誘導作用を示すピオグリタゾンを単独処理(3)あるいはT3との共処理(6)した細胞においてUcp1遺伝子発現量の有意な増加が見られたが、2NCによる発現誘導と比較してその程度は弱いものであった。このことから、2NCは優れたベージュ脂肪細胞分化促進作用を有する化合物である可能性が示された。
一方、2NCを処理した細胞においてElovl3遺伝子発現量の増加が見られたが、その増加はピオグリタゾン処理においても認められた。また、脂肪細胞分化のマーカーであるPparγ2、C/ebpα及びaP2の各遺伝子発現量を測定したところ、2NC単独処理(2)およびT3との共処理(5)によってPparγ2遺伝子発現量の増加または増加傾向が示された。さらに、aP2遺伝子発現量においてはControl細胞に比較していずれの細胞においても増加が見られ、C/ebpα遺伝子発現量では2NC処理(2)において増加が認められた。次に、アドレナリン受容体の遺伝子発現量について検証したところ、2NCを処理した細胞においてAdrb1遺伝子及びAdrb2遺伝子の発現量の増加は認められなかった。Adrb3遺伝子発現量は2NC処理(2)によって増加がみられたが、ピオグリタゾンあるいはT3との共処理ではその増加は消失した。
最後に線維芽細胞増殖因子関連遺伝子の発現量を検証した。2NCを処理した細胞のFgf6遺伝子発現量において有意な変化はみられなかったが、Fgf9の遺伝子発現量が有意に増加を示した(2,5,7)。ピオグリタゾン単独あるいはピオグリタゾン+T3の共処理した細胞においてFgf9遺伝子の発現量の増加は見られたが、2NC処理に比較してその誘導は軽度なものであった。FGF受容体であるFgf1R遺伝子発現量は、2NC処理(2)によって増加がみられたが、ピオグリタゾンあるいはT3との共処理においてはその増加は消失した。これらのことから、2NCによる前駆脂肪細胞のベージュ化誘導作用にはFgf9遺伝子発現誘導の関与が示唆された。
【0107】
(実施例4:2NCによるベージュ化過程におけるFgf9遺伝子の発現量の変化)
実施例3より、2NCを処理した細胞においてFgf9発現量の増加が確認された。そこで、実施例2で作製したcDNAを用いて2NCによるベージュ化過程におけるFgf9遺伝子の発現変化をリアルタイムRT-PCR法によって解析した。2NCを処理した細胞とControl細胞との同日間における遺伝子発現量の比較をStudentのT検定を用いて行った(Control細胞と比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.05の場合を統計学的に有意とした)。
【0108】
結果を図7に示した。図6に示す結果から、2NC処理した細胞の分化誘導開始から4日目及び6日目においてFgf9遺伝子発現量の有意な増加が示された。これらのことから、2NCによる前駆脂肪細胞に対するベージュ化誘導作用へのFGF9の関与が示唆された。
【0109】
(実施例5:2NCによる脂肪細胞のベージュ化に伴うミトコンドリア量の変化)
ベージュ脂肪細胞は、白色脂肪細胞に比較してミトコンドリア量が多く、高い脂肪燃焼能を有することが報告されている。そこで、2NC処理した細胞におけるミトコンドリア含量を検証した。
【0110】
実施例1と同様に6日目まで2NCを処理した細胞及びControl細胞を採取した後、Proteinase K((株)ニッポンジーン社製)で処理した。Protein precipitation solution(タカラバイオ(株)社製)を加えてタンパク質を沈澱させた後、イソプロパノール、及び70%エタノール溶液(富士フイルム和光純薬(株)社製)を用いてゲノムDNAを精製及び抽出した。ゲノムDNA 10ng相当を用いてミトコンドリア特異的遺伝子であるCytochrome c oxidase subunit 2(Cox2)遺伝子ならびに核に存在するβ-actin遺伝子の相当量を実施例2と同様にリアルタイムPCR法によって測定した。プライマーには、Cox2フォワードプライマー(5’-AATTGCTCTCCCCTCTCTACG-3’)(配列番号27)、Cox2リバースプライマー(5’-GTAGCTTCAGTATCATTGGTGC-3’)(配列番号28)、β-actinフォワードプライマー(5’-GACCCAGATCATGTTTGAGACC-3’)(配列番号29)、β-actinリバースプライマー(5’-ATCAGAATGCCTGTGGTACGAC-3’)(配列番号30)を用いた。プライマーはいずれもシグマアルドリッチジャパン(合)社製を使用した。StudentのT検定を用いて統計解析を行った(Control細胞と比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.05の場合を統計学的に有意とした)。
【0111】
結果を図8に示した。2NCを6日間処理した細胞におけるミトコンドリア量は、Control細胞に比較して有意に増加を示した。これらのことから、2NCによるベージュ化促進作用は、Ucp1遺伝子の発現増加のみならず、ミトコンドリア量を増加させることが示された。
【0112】
(実施例6:2NCによる白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への形質転換の検証)
実施例1~5では2NCの前駆脂肪細胞に対する脂肪細胞のベージュ化促進作用について示した。次に、2NCの形質転換能(白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞に形質転換させる作用)について検証した。
【0113】
細胞培養に関しては以下のように行った。細胞培養ディッシュ60mm(ビーエム機器(株)社製)に1×10cells/wellの密度で細胞を播種した。次いで、実施例1の方法と同様に細胞の分化誘導をして2日毎に培地交換を行い、白色脂肪細胞に分化させた(10日目)。白色脂肪細胞に、2NCは終濃度が20μMになるように、ピオグリタゾンは終濃度が5μMになるように、分化誘導10日目から培地に添加し、12日目、14日目、16日目にも同様に培地交換を行った。なお、溶媒であるDMSOのみを0.1%添加したものをControlとした。
【0114】
18日目の細胞から実施例2と同様の方法でTotal RNAを抽出し、逆転写反応を行い、リアルタイムPCR解析を実施した。解析は実施例2で測定した遺伝子の発現量を同様の方法で解析した。Control細胞とそれぞれの処理群との比較は一元配置分散分析(One way ANOVA)で検定し、post hoc testとしてDunnett検定を用いた(Control細胞と比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.01の場合を統計学的に有意とした)。
【0115】
結果を図9に示した。2NCを8日間処理した白色脂肪細胞におけるUcp1、Elovl3、及びPgc1αの各遺伝子の発現量はControl細胞に比較して有意に増加を示した。一方、2NCを処理した細胞におけるPparγ2及びFgf9の各遺伝子発現量はControl細胞のそれと比較して違いは認められなかった。ベージュ脂肪細胞への形質転換能を有するピオグリタゾン(Pio)を処理した細胞においては、Ucp1、Elovl3、Pgc1α、Pparγ2及びFgf9の各遺伝子発現量の増加が見られた。これらの結果より、2NCは白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞へと形質転換させる作用を有していることが示された。
【0116】
(実施例7:2NCによるベージュ脂肪細胞への形質転換についてミトコンドリア量の観点からの検証)
実施例6と同様に白色脂肪細胞に分化させた後、2NCを8日間処理した。そして実施例5と同様の方法で、細胞よりDNAを精製及び抽出してCox2ならびβ-actin遺伝子の相当量をリアルタイムPCRにより解析した。2NCを処理した細胞とControl細胞における比較をStudentのT検定を用いて行った(Control細胞と比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.05の場合を統計学的に有意とした)。
【0117】
結果を図10に示した。2NCを処理した細胞におけるミトコンドリア含量は、Control細胞に比較して有意に増加を示した。このことから、2NCによるベージュ脂肪細胞への形質転換作用によってミトコンドリア量を増加させることが示された。以上の結果より、2NCは、前駆脂肪細胞をベージュ脂肪細胞への分化促進作用のみならず、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への形質転換能を有していることが示唆された。
【0118】
(実施例8:2NCを投与したマウスの体重量の変動及び組織重量の検証解析)
培養細胞を用いた上記実施例より、2NCのベージュ脂肪細胞分化ならびに形質転換の促進作用があることが示された。そこで、動物モデル(In vivo)における2NCのベージュ化作用について検証した。
【0119】
4週齢C57BL/6J雄マウス(日本エスエルシー(株)社製)を日本大学薬学部実験動物倫理規定に準じて飼育した。マウスは1ケージあたり3匹に分配し、温度23±1℃、相対湿度50±10%、明暗12時間周期の条件で飼育した。マウスの飼料は、通常食(NMF、オリエンタル酵母工業(株)社製)を用いて自由摂取とした。2NCを20% 2-Hydroxypropyl-β-cyclodextrin溶液(HPCD、富士フイルム和光純薬(株)社製)で懸濁し、1mg/mL溶液に調製し、10mg/kg/miceで投与した。溶媒である20% HPCD溶液をVehicleとして投与した。2NCの投与は、経口ゾンデ((有)フチガミ器械社製)を用いて6週間(2日毎)行った。投与開始より1週間毎に体重量を測定した(動物実験承認番号:AP22PHA019-1)。
【0120】
マウス体重量の変化を図11に示した。また、投与開始6週間後の解剖時に、精巣上体周囲の脂肪組織、及び皮下脂肪組織を採取してその重量を測定した。2NCを投与したマウスとVehicleを投与したマウスにおける比較をStudentのT検定を用いて行った(Controlマウスの各組織と比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.05の場合を統計学的に有意とした)。組織重量の結果を図12に示す。
【0121】
2NCを投与したマウスの体重変動は、Vehicleを投与したマウスのそれと比較して有意な違いは見られなかったが、投与6週目において体重増加の抑制傾向がみられた(図11)。また、2NCを投与したマウスの皮下脂肪組織重量(sWAT)において有意な減少が認められたが、精巣上体周囲の脂肪組織重量(eWAT)に違いはみられなかった(図12)。
【0122】
(実施例9:2NCを投与したマウスの脂肪組織の病理組織学的な解析)
上記において、2NCを投与したマウスの体重増加の抑制傾向ならびに皮下脂肪組織重量の減少が認められた。ベージュ脂肪細胞において細胞内に多房性脂肪滴が多くみられるとともに、UCP1を発現したミトコンドリアが多く存在することが報告されている。そこで、脂肪組織の病理切片を作製し、組織学的な解析を行った。
【0123】
実施例7の解剖時に採取した各脂肪組織(精巣上体周囲脂肪組織、皮下脂肪組織、褐色脂肪組織)の一部を用いて病理切片を作製した。組織断片をユニカセット(サクラファインテックジャパン(株)社製)に入れ、4%ホルムアルデヒド溶液(富士フイルム和光純薬(株)社製)に浸透させ、18時間固定した。パラフィンブロックの作製は、Tissue-Tek(登録商標)VIPTM 6AI(サクラファインテックジャパン(株)社製)を用いて、50%アルコール溶液(3時間)、70%アルコール溶液(24時間)、80%アルコール溶液(1時間)、90%アルコール溶液(1時間)、及び100%アルコール溶液(2時間)で処理した後、キシレン(武藤化学(株)社製)で2時間処理し、65℃で溶解させたパラフィン溶液(サクラファインテックジャパン(株)社製)に浸透(16時間)させることにより行った。そのパラフィンブロックを加湿しながらミクロトーム(サクラファインテックジャパン(株)社製)およびフェザーミクロトーム用替刃S35(東京硝子器械(株)社製)を用いて5μmに薄切りしてパラフィン切片とし、T-72パラフィン水浴伸展器(Takashima(株)社製)を45℃に設定し、パラフィン切片を浮かべて組織を伸展した。そのパラフィン切片をファインフロストスライドガラス(松浪硝子工業(株)社製)に接着固定させ、Tissue-tek(登録商標) Slide WarmerPS-53(サクラファインテックジャパン(株)社製)上にて40℃で12時間乾燥させた。
【0124】
病理切片を接着させたスライドガラスをキシレンに3分x3回→100%アルコール溶液1分x3回→90%アルコール溶液1分→80%アルコール溶液1分、70%アルコールに2分、順次浸けて脱パラフィンを行った。脱パラフィンを行ったサンプルを流水水洗した後、蒸留水に浸けて以下の染色を行った。マイヤーへマトキシリン溶液(サクラファインテックジャパン(株)社製)1分→流水水洗した後、蒸留水→エオジン溶液(サクラファインテックジャパン(株)社製)45秒。染色した試料を70%アルコール溶液2分→80%アルコール溶液1分→90%アルコール溶液1分→100%アルコール溶液1分x3回→キシレンに3回浸し、封入剤NEW MX(松浪硝子工業(株)社製)及びカバーガラス(松浪硝子工業(株)社製)を用いてスライドガラスを封入した。
【0125】
ヘマトキシリン・エオジン染色して封入したスライドガラスは、正立顕微鏡BX53(オリンパスライフサイエンス(株)社製)を用いて観察し、顕微鏡用デジタルカメラDP28(オリンパスライフサイエンス(株)社製)を用いて病理組織画像を撮影した(Scale bar:100μm)。LPF(Low power field:低倍率視野(100倍))は、HPF(High power field(100倍の一部を拡大した画像)。
【0126】
その結果を図13に示した。ベージュ脂肪細胞は細胞内に多房性脂肪滴を形成する特徴がある。2NCを処理したマウスの皮下脂肪組織(sWAT)において多房性の脂肪細胞が多く観察された。一方、精巣上体脂肪組織(eWAT)において多房性の脂肪細胞はいずれのマウスにおいてもほとんど観察されなかった。褐色脂肪組織(BAT)において病理学的な違いは観察されなかった。
【0127】
(実施例10:2NCを投与したマウスの皮下脂肪組織における脂肪細胞のベージュ化についての検証)
2NCを投与したマウスの皮下脂肪組織において組織重量の減少ならびに多房性の脂肪滴の形成が見られたことから、脂肪細胞のベージュ化が促進したことが推察される。そこで、2NCを投与したマウスの脂肪組織におけるUCP1のタンパク質発現量およびミトコンドリア量について検証した。
【0128】
タンパク質の抽出は以下のように行った。実施例7の解剖時に採取した皮下脂肪組織(約10mg)を300μLの組織抽出液(RIPA:150mM NaCl、50mM Tris-HCl(pH8.0)、0.1% SDS、1mM EDTA、1% TritonX-100、0.1%デオキシコール酸、Protease inhibitor cocktail(富士フイルム和光純薬(株)社製))に入れ、ダウンス型ホモジナイザー(アズワン(株)社製)、Bioruptor(超音波機器、コスモバイオ(株)社製)を用いてタンパク質を抽出した。抽出したタンパク質は、BCA Protein Assay Reagent(タカラバイオ(株)社製)を用いて反応させ、マイクロプレートリーダー(FLUO star Omega,BMG LAB TECH(有)社製)を用いて562nmの吸光度を測定し、タンパク質濃度を測定した。得られたタンパク質抽出液をWestern blotに用いた。
【0129】
2NC又はVehicleを投与したマウスの皮下脂肪組織より得られた20μg相当のタンパク質抽出液をWestern blotに用いた。Western blotはポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により行った。タンパク質分子量マーカーとしてExcelBand 3-color Regular Range Protein Marker(コスモバイオ(株)社製)を用いた。ポリアクリルアミドゲル電気泳動は、電気泳動槽AE-6500ラピダス・ミニスラブ(アトー(株)社製)を用いて行い、PVDFメンブレン(Millipore(株)社製)への転写はセミドライ式トランスファー装置(ホライズブロット2M-R、アトー(株)社製)を用いて行った。電気泳動後にポリアクリルアミドゲルからトランスファーしたPVDFメンブレンを以下のように反応させた。5%スキムミルク溶液(富士フイルム和光純薬(株)社製)(室温1時間)→1次抗体溶液(室温1時間)→1xPBST洗浄(1xPBSにTween20を0.05%添加した溶液、10分x3回)→2次抗体溶液(室温1時間)→1xPBST洗浄(10分x3回)して染色を行った。1次抗体はUCP抗体1(ab10983、アブカム社製)、β-ACTIN抗体(60008-1-Ig、Proteintec社製)、2次抗体はAnti-Rabbit IgG(H&L)HRP-linked Antibody(7074S、Cell Signaling Technology Japan(株)社製)、Anti-mouse IgG(H&L)HRP-linked Antibody(#7076、Cell Signaling Technology Japan(株)社製))を1xPBST溶液で希釈して反応させた。タンパク質の検出はAmersham ECL Prime(GE ヘルスケア・ジャパン(株))を用いて染色し、CCDイメージャー(Amersham ImageQuant 800、Cytiva社製)を用いて撮影した。UCP1及び内部標準タンパク質β-ACTINのタンパク質量を図14に示した。なお、各1-4レーンには異なるマウスから得たタンパク質抽出液を泳動した。
【0130】
2NCを投与したマウスの皮下脂肪組織においてUCP1タンパク質量の増加が見られた。このことから、2NCの投与によって皮下脂肪組織においてベージュ化が促進していることが示された。
【0131】
(実施例11:2NCを投与したマウス脂肪組織におけるミトコンドリア量の変化)
実施例7の解剖時に採取した脂肪組織(精巣上体周囲脂肪組織、皮下脂肪組織、褐色脂肪組織)から、実施例5と同様の方法によりDNAを抽出し、ミトコンドリア量をリアルタイムPCR法によって測定した。2NCを投与したマウスとVehicleを投与したマウスにおける比較をStudentのT検定を用いて行った(Controlマウスと比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.05の場合を統計学的に有意とした)。
【0132】
結果を図15に示した。2NCを投与したマウスの皮下脂肪組織(sWAT)においてミトコンドリア量が有意に増加を示した。一方、精巣上体周囲脂肪組織(eWAT)および褐色脂肪組織(BAT)におけるミトコンドリア量に大きな違いは見られなかった。これらのことから、2NCは、マウス皮下脂肪組織のベージュ化を促進する化合物であることが示された。
【0133】
(実施例12:2NC誘導体のベージュ脂肪細胞への分化促進作用の検証)
上記の実験により、2NCはベージュ化促進作用を示す化合物であることが示された。2NCはフェニルクロマン構造(C6-C3-C6)を有する化合物である。そこで、フラバノン骨格のA環あるいはB環を修飾した誘導体を合成することで、NC化合物の最適化(生理活性、安定性など)を目的として、2NC誘導体のベージュ化促進作用について構造活性相関を検証した。
【0134】
はじめに、フラバノン骨格のA環を変化させた誘導体のベージュ化促進作用を検証した。誘導体の構造式を図16に示した。2NC-A誘導体の前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化促進作用について、中性脂肪の蓄積量の変化を指標に評価した。2NC-A誘導体はDMSOを用いてそれぞれ5mMとなるように溶解した。2NC-A誘導体の終濃度が5μMになるように分化誘導培地で希釈し、実施例1と同様に分化誘導0日目、2日目、4日目の培地交換の際に添加した。なお、溶媒であるDMSOを0.1%添加した分化培養培地を同様に処理した細胞をControl(Con)とし、ベージュ化促進作用を示すピオグリタゾン(5μM)をポジティブコントロールとした。分化誘導6日目の細胞を1xPBSで1回洗浄し、固定液で1晩固定させ、Oil Red O染色した後、顕微鏡下で観察した。
【0135】
結果を図17に示す。脂肪細胞分化誘導と共に、2NC-A誘導体を6日間処理したところ、2NC-A2,A3,A4,A5,A6,A7を処理した細胞における中性脂肪の蓄積量が抑制された。
【0136】
中性脂肪蓄積の抑制作用を示した2NC-A2~A7について遺伝子発現量の観点から検証した。上記と同様に分化誘導時に2NC-A2~A7(5μM)を6日間処理した。6日目の細胞より実施例2の方法でTotal RNAを抽出し、逆転写反応を行い、cDNAを作製してリアルタイムPCR法によって遺伝子発現量を解析した。遺伝子発現量の解析は、実施例2で2NC処理によって増加が見られた遺伝子(Ucp1、Fgf9、Elovl3、Pparγ2、C/ebpαおよびaP2)について行った。Control(C)細胞と2NC-A2~A7誘導体を処理した細胞との比較は一元配置分散分析(One way ANOVA)で検定し、post hoc testとしてDunnett検定を用いた(Control細胞と比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.01の場合を統計学的に有意とした)。
【0137】
結果を図18A及び図18Bに示す。2NC-A2、2NC-A3、2NC-A4を処理した細胞におけるUcp1、Elovl3、Pparγ2、aP2の各遺伝子発現量は、Control細胞(C)のそれと比較して有意に増加を示した。また実施例2で、2NC処理によるUcp1発現誘導と相関性が見られたFgf9遺伝子発現量は、2NC-A2および2NC-A4を処理した細胞において顕著に増加した。
【0138】
2NC-A誘導体の中で、2NC-A2および2NC-A4が、Ucp1、Fgf9などのベージュ化関連遺伝子の発現誘導作用が亢進していたことから、2NC-A2と2NC-A4を処理した細胞におけるミトコンドリア量を実施例5の方法と同様に測定した。Control(C)細胞と2NC-A2および2NC-A4を処理した細胞との比較は一元配置分散分析(One way ANOVA)で検定し、post hoc testとしてDunnett検定を用いた(Control細胞と比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.01の場合を統計学的に有意とした)。
【0139】
結果を図19に示す。2NC-A2および2NC-A4をそれぞれ処理した細胞におけるミトコンドリア量は、Control細胞に比較して有意に増加した。これらのことから、2NC-A2および2NC-A4は、2NC(20μM)より低濃度(5μM)で前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化を促進させる化合物であることが示唆された。これらの結果より、2NC-A2および2NC-A4誘導体はUcp1遺伝子の発現増加作用とともに、ミトコンドリア量の調節にも関与していることが示された。
【0140】
次に、フラバノン骨格のB環を修飾した2NC誘導体のベージュ化促進作用を検証した。誘導体の構造式を図19に示した。2NC-B誘導体の前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化促進作用について、上記と同様に中性脂肪の蓄積量の変化を指標に評価した。2NC-B誘導体はDMSOを用いてそれぞれ5mMとなるように溶解した。2NC-B誘導体の終濃度が5μMになるように分化誘導培地で希釈し、実施例1と同様に分化誘導0日目、2日目、4日目の培地交換の際に添加した後、細胞を1xPBSで1回洗浄し、固定液で1晩固定させ、Oil Red O染色した後、顕微鏡下で観察した。
【0141】
結果を図21に示す。その結果、2NC-B4、B6およびB7を処理した細胞において中性脂肪蓄積量の抑制がみられた。特に、2NC-B7を処理した細胞における中性脂肪量の抑制は顕著に観察された。
【0142】
中性脂肪蓄積の抑制作用を示した2NC-B4、B6およびB7について遺伝子発現量の観点から検証した。上記と同様に分化誘導時に2NC-B4、B6およびB7(5μM)を6日間処理した。6日目の細胞よりTotal RNAを抽出し、逆転写反応により、cDNAを作製して上記と同様にリアルタイムPCR法によって遺伝子発現量を解析した。Control(C)細胞と2NC-B誘導体を処理した細胞との比較は一元配置分散分析(One way ANOVA)で検定し、post hoc testとしてDunnett検定を用いた(Control細胞と比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.01の場合を統計学的に有意とした)。
【0143】
結果を図22に示す。2NC-B4、B6およびB7を処理した細胞におけるUcp1、Elovl3、Fgf9などの各ベージュ化関連遺伝子発現量及びPparγ2、aP2およびC/ebpαの各遺伝子発現量は、Control細胞(C)のそれと比較して有意に増加を示した。
【0144】
2NC-B誘導体(B4、B6およびB7)についてミトコンドリア量の観点からベージュ化促進作用を検証した。上記と同様に2NC-B誘導体(B4、B6およびB7)を分化誘導時より処理し、分化誘導6日目の細胞より実施例5の方法と同様にDNAを抽出してミトコンドリアDNA量をリアルタイムPCR法によって測定した。Control(C)細胞と2NC-B4、B6および2NC-B7を処理した細胞との比較は一元配置分散分析(One way ANOVA)で検定し、post hoc testとしてDunnett検定を用いた(Control細胞と比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.01の場合を統計学的に有意とした)。
【0145】
その結果を図23に示す。Ucp1遺伝子などの発現誘導が見られた2NC-B4、B6およびB7のいずれの誘導体を処理した細胞においてもミトコンドリア量の増加は認められなかった。これらの結果より、2NC-B誘導体はUcp1遺伝子の発現増加作用を示すことから、前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化促進作用を有していることが示されたが、ミトコンドリア量の調節作用には影響が少ない化合物であることが示された。
【0146】
(実施例13:2NC誘導体のベージュ脂肪細胞への形質転換促進作用の検証)
実施例12では2NC誘導体(A,B)の前駆脂肪細胞に対する脂肪細胞のベージュ化促進作用について示した。次に、ベージュ化促進作用が見られた2NC誘導体(A,B)の形質転換能(白色脂肪細胞がベージュ脂肪細胞へと形質転換する作用)について検証した。
【0147】
細胞培養および分化誘導は実施例6と同様の方法で行った。ディッシュ60mm(ビーエム機器(株)社製)に1×10cells/wellの密度で細胞を播種し、上記の方法で分化誘導を行った。2NC-A誘導体(A2、A3、A4)および2NC-B誘導体(B4、B6、B7)の終濃度が5μMになるように分化培地で希釈し、分化誘導10日目の白色脂肪細胞に添加し、同様に12日目、14日目、及び16日目に培地交換時に添加処理した。なお、溶媒であるDMSOを0.1%添加した分化培養培地を同様に処理した細胞をControl(Con)とし、ベージュ化促進作用が示すピオグリタゾン(5μM)をポジティブコントロールとした。
【0148】
白色脂肪細胞に2NC誘導体を8日間処理した細胞より、上記と同様の方法でTotal RNAを抽出し、逆転写反応によってcDNAを作製した。そしてリアルタイムPCR法によってベージュ化マーカーであるUcp1およびFgf9遺伝子発現量を測定した。Control(C)細胞と2NC-A誘導体(A2、A3、A4)および2NC-B誘導体(B4、B6、B7)を処理した細胞との比較は一元配置分散分析(One way ANOVA)で検定し、post hoc testとしてDunnett検定を用いた(Control細胞と比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.01の場合を統計学的に有意とした)。
【0149】
結果を図24に示した。2NC-A誘導体(A2、A3、A4)および2NC-B誘導体(B4、B6、B7)をそれぞれ処理した細胞におけるUcp1遺伝子発現量は、Control(C)細胞のそれと比較して有意に増加を示した。その一方で、ピオグリタゾン(Pio)を処理した細胞に比較してUcp1遺伝子の発現誘導は軽度なものであった。Fgf9遺伝子発現量は、2NCおよび2NC-A誘導体を処理した白色脂肪細胞においても変化は見られなかった。
【0150】
白色脂肪細胞においてもUcp1の発現誘導を示したことから、2NC-A誘導体(A2、A3、A4)および2NC-B誘導体(B4、B6、B7)についてミトコンドリア量の観点から形質転換作用について検証した。上記と同様に2NC-A誘導体(A2、A3、A4)および2NC-B誘導体(B4、B6、B7)の終濃度が5μMになるように分化培地で希釈し、分化誘導10日目の白色脂肪細胞に添加し、同様に12日目、14日目、及び16日目に培地交換時に添加処理した。なお、溶媒であるDMSOを0.1%添加した分化培養培地を同様に処理した細胞をControl(Con)とし、ベージュ化促進作用が示すピオグリタゾン(5μM)をポジティブコントロールとした。
【0151】
分化誘導18日目の細胞より、実施例5の方法と同様にDNAを抽出してミトコンドリアDNA量をリアルタイムPCR法によって測定した。Control(C)細胞と2NC-A誘導体(A2、A3、A4)および2NC-B誘導体(B4、B6、B7)を処理した細胞との比較は一元配置分散分析(One way ANOVA)で検定し、post hoc testとしてDunnett検定を用いた(Control細胞と比較してそれぞれの有意水準(p)が*p<0.01の場合を統計学的に有意とした)。
【0152】
結果を図25に示す。Ucp1遺伝子などの発現誘導が見られた2NC誘導体において2NC-B7を処理した細胞のミトコンドリア量はControl細胞のそれと比較して有意な増加を示した。これらの結果より、2NC-B7はUcp1遺伝子の発現誘導とともに、ミトコンドリア量を増加させる形質転換促進作用を有していることが示された。
【0153】
以上の培養細胞を用いたIn vitro実験ならびにマウスを用いたIn vivo実験の結果より、フラバノン誘導体である2NCは、前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化促進作用と白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への形質転換促進作用を示す有能な化合物であることが示された。また、2NCによるベージュ脂肪細胞への分化促進作用にはベージュ化促進作用が報告されているFGF9の発現誘導と関連性が見られた。また、2NCの誘導体化に伴って、2NCと比較して低い濃度でもUcp1遺伝子の発現誘導を示した。A環へ官能基を導入した誘導体(2NC-A2,A4)は、前駆脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への分化促進作用が増大し、B環へ官能基を導入した誘導体(2NC-B7)は白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への形質転換作用が亢進した。2NCは構造活性相関の更なる解明により、ベージュ化促進作用を介した肥満治療薬の分子基盤を新たに提供するとともに、有能なシード化合物となることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明によれば、中性脂肪の蓄積を抑制することが可能な、肥満を治療又は予防するための医薬組成物が提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【配列表】
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