(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176111
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】レーザ溶接継手の製造方法及びレーザ溶接継手
(51)【国際特許分類】
B23K 26/322 20140101AFI20241212BHJP
B23K 26/36 20140101ALI20241212BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20241212BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20241212BHJP
【FI】
B23K26/322
B23K26/36
B23K26/21 G
B23K26/082
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094370
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭兵
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD00
4E168BA02
4E168BA88
4E168CB04
4E168DA28
4E168DA32
4E168DA38
4E168EA15
(57)【要約】
【課題】鋼板表面のめっき層を除去する際の鋼板の変形を抑制することができ、これにより、溶接時のブローホールの発生を防止することができる、レーザ溶接継手の製造方法を提供する。
【解決手段】レーザ溶接継手の製造方法は、第1鋼板1における第1領域1a及び第2鋼板2における第2領域のめっき層に対してレーザ光12を照射し、めっき層を除去する除去工程を有する。この除去工程において、めっき層が除去される除去領域における短手方向の長さを幅W
A(mm)とし、除去領域における板厚をt(mm)とする場合に、幅W
Aが、下記式(1)により算出される値W
C以下となるようにレーザ光12を照射する。その後、第1領域1aと第2領域とを対向させて配置し、接合工程において、除去領域よりも内側の範囲に対して溶接金属が形成されるようにレーザ溶接を実施する。式(1):W
C=0.70t
6-0.37t
3+6.00
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1鋼板の第1領域と第2鋼板の第2領域とを対向させて、重ねて配置する配置工程と、前記第1鋼板と前記第2鋼板とをレーザ溶接により接合する接合工程と、を有するレーザ溶接継手の製造方法であって、
前記第1鋼板及び前記第2鋼板のうち、少なくとも一方は亜鉛系めっき層を有し、
前記配置工程より前に、前記第1領域及び前記第2領域における亜鉛系めっき層に対してレーザ光を照射し、前記第1領域及び前記第2領域における亜鉛系めっき層を除去する除去工程を有し、
前記除去工程において、前記亜鉛系めっき層が除去される除去領域における短手方向の長さを幅WA(mm)とし、前記除去領域における板厚をt(mm)とする場合に、前記幅WAが、下記式(1)により算出される値WC以下となるように前記レーザ光を照射し、
前記接合工程において、前記除去領域よりも内側の範囲に対して溶接金属が形成されるようにレーザ溶接を実施することを特徴とする、レーザ溶接継手の製造方法。
式(1):WC=0.70t6-0.37t3+6.00
【請求項2】
前記除去工程において、マルチモードレーザを用いて前記レーザ光を照射することを特徴とする、請求項1に記載のレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項3】
前記除去工程において、前記レーザ光を連続発振することを特徴とする、請求項1に記載のレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項4】
前記除去工程において、複数の前記除去領域を形成し、隣り合う除去領域間の距離は5mm以上であることを特徴とする、請求項1に記載のレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項5】
前記除去工程において、ウォブリング又はウィービング走査しつつレーザ光を照射することを特徴とする、請求項1に記載のレーザ溶接継手の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたレーザ溶接継手であって、
前記第1鋼板における前記亜鉛系めっき層を有しない前記第1領域と、前記第2鋼板における前記亜鉛系めっき層を有しない前記第2領域とが対向するように、前記第1鋼板と前記第2鋼板とが重ねられて配置されており、
前記溶接金属は、前記第1領域と前記第2領域とが重ねられた領域内に形成されており、
前記亜鉛系めっき層が除去された除去領域における短手方向の長さを幅WA(mm)とし、前記除去領域における板厚をt(mm)とする場合に、前記幅WAが、下記式(1)により算出される値WC以下であることを特徴とする、レーザ溶接継手。
式(1):WC=0.70t6-0.37t3+6.00
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接継手の製造方法及びレーザ溶接継手に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板は、自動車部材等に広く使用されている。この亜鉛系めっき鋼板の接合方法としては、例えば、レーザ溶接による重ね溶接が挙げられる。亜鉛系めっき鋼板をレーザ溶接により接合する際に、亜鉛系めっき層が存在する領域でレーザ溶接を実施すると、亜鉛が蒸気化して、溶接金属にブローホールが発生する。
【0003】
ブローホールの発生を低減する方法として、鋼板間に隙間(以下、板隙という。)を設けることが有効であるが、レーザ溶接は溶融部が小さいため、板隙が大きいと溶接が不安定となりやすい。また、生産現場でこの板隙を管理するためには、高度な技術や高精度な冶具を要する。そこで、レーザ光を利用して、事前に鋼板のめっき層を除去した後に、溶接する技術が実用化されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、レーザ光を使用して、部材加工後の残留物を除去する方法が記載されている。また、特許文献2には、レーザ光を導線の溶接対象領域表面に照射して、溶接対象領域表面の被覆を除去する制御を行うレーザ溶接装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-275889号公報
【特許文献2】特開2010-253492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レーザ光を照射することにより、亜鉛系めっき鋼板のめっき層を除去しようとすると、レーザ光の照射によって鋼板が変形することがある。また、鋼板の変形を抑制しつつ、レーザ光によりめっき層を除去するためには、専用のレーザ加工機(フェムト~ナノ秒パルス発振が可能なシングルモードレーザ)が必要であり、高価な装置導入が必要となる。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、特定のレーザ加工機を使用することなく鋼板表面のめっき層を除去する際の鋼板の変形を抑制することができ、これにより、板隙を設けることなく溶接時のブローホールの発生を防止することができる、レーザ溶接継手の製造方法、及びこの製造方法により製造されるレーザ溶接継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、レーザ溶接継手の製造方法に係る下記[1]の構成により達成される。
【0009】
[1] 第1鋼板の第1領域と第2鋼板の第2領域とを対向させて、重ねて配置する配置工程と、前記第1鋼板と前記第2鋼板とをレーザ溶接により接合する接合工程と、を有するレーザ溶接継手の製造方法であって、
前記第1鋼板及び前記第2鋼板のうち、少なくとも一方は亜鉛系めっき層を有し、
前記配置工程より前に、前記第1領域及び前記第2領域における亜鉛系めっき層に対してレーザ光を照射し、前記第1領域及び前記第2領域における亜鉛系めっき層を除去する除去工程を有し、
前記除去工程において、前記亜鉛系めっき層が除去される除去領域における短手方向の長さを幅WA(mm)とし、前記除去領域における板厚をt(mm)とする場合に、前記幅WAが、下記式(1)により算出される値WC以下となるように前記レーザ光を照射し、
前記接合工程において、前記除去領域よりも内側の範囲に対して溶接金属が形成されるようにレーザ溶接を実施することを特徴とする、レーザ溶接継手の製造方法。
式(1):WC=0.70t6-0.37t3+6.00
【0010】
また、レーザ溶接継手の製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[5]に関する。
【0011】
[2] 前記除去工程において、マルチモードレーザを用いて前記レーザ光を照射することを特徴とする、[1]に記載のレーザ溶接継手の製造方法。
【0012】
[3] 前記除去工程において、前記レーザ光を連続発振することを特徴とする、[1]又は[2]に記載のレーザ溶接継手の製造方法。
【0013】
[4] 前記除去工程において、複数の前記除去領域を形成し、隣り合う除去領域間の距離は5mm以上であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載のレーザ溶接継手の製造方法。
【0014】
[5] 前記除去工程において、ウォブリング又はウィービング走査しつつレーザ光を照射することを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1つに記載のレーザ溶接継手の製造方法。
【0015】
本発明の上記目的は、レーザ溶接継手に係る下記[6]の構成により達成される。
【0016】
[6] [1]~[5]のいずれか1つに記載の製造方法により製造されたレーザ溶接継手であって、
前記第1鋼板における前記亜鉛系めっき層を有しない前記第1領域と、前記第2鋼板における前記亜鉛系めっき層を有しない前記第2領域とが対向するように、前記第1鋼板と前記第2鋼板とが重ねられて配置されており、
前記溶接金属は、前記第1領域と前記第2領域とが重ねられた領域内に形成されており、
前記亜鉛系めっき層が除去された除去領域における短手方向の長さを幅WA(mm)とし、前記除去領域における板厚をt(mm)とする場合に、前記幅WAが、下記式(1)により算出される値WC以下であることを特徴とする、レーザ溶接継手。
式(1):WC=0.70t6-0.37t3+6.00
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特定のレーザ加工機を使用することなく鋼板表面のめっき層を除去する際の鋼板の変形を抑制することができ、これにより、板隙を設けることなく溶接時のブローホールの発生を防止することができる、レーザ溶接継手の製造方法、及びこの製造方法により製造されるレーザ溶接継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施形態に係るレーザ溶接継手の製造方法を示す図であり、除去工程を示す斜視図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の実施形態に係るレーザ溶接継手の製造方法を示す図であり、除去工程により亜鉛系めっき層が除去された鋼板を示す斜視図である。
【
図1C】
図1Cは、本発明の実施形態に係るレーザ溶接継手の製造方法を示す図であり、配置工程を示す斜視図である。
【
図1D】
図1Dは、本発明の実施形態に係るレーザ溶接継手の製造方法を示す図であり、接合工程を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る製造方法により製造されたレーザ溶接継手を断面で示す図面代用写真である。
【
図3】
図3は、除去領域における板厚tの3乗と、式(1)により得られる値W
Cとの関係を示すグラフ図である。
【
図4】
図4は、複数の除去領域を形成した鋼板を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、鋼板の変形量の評価方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者は、レーザ光を照射することにより亜鉛系めっき鋼板のめっき層を除去する際に、鋼板の変形を抑制することができる方法について、鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、レーザ光を照射する領域の幅と、レーザ光を照射する鋼板の板厚との関係を制御することにより、上記課題を解決することができることを見出した。本発明は、これら知見に基づいてなされたものである。
【0020】
以下、本発明に係るレーザ溶接継手の製造方法について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。また、本明細書において、亜鉛系めっき鋼板を、単にめっき鋼板又は鋼板ということがあり、亜鉛系めっき層を、単にめっき層ということがある。
【0021】
[レーザ溶接継手の製造方法]
図1A~
図1Dは、本発明の実施形態に係るレーザ溶接継手の製造方法を工程順に示す斜視図である。また、
図2は、本発明の実施形態に係る製造方法により製造されたレーザ溶接継手を断面で示す図面代用写真である。本実施形態においては、第1鋼板1及び第2鋼板2を接合することにより得られるレーザ溶接継手について説明しており、第1鋼板1及び第2鋼板2は、いずれも亜鉛系めっき層を有する亜鉛系めっき鋼板である。
【0022】
<除去工程>
除去工程は、後述する配置工程の前に実施される。まず、
図1Aに示すように、第1鋼板1の表面における溶接対象領域である第1領域1a、及び第2鋼板2(
図1C参照)の表面における溶接対象領域である第2領域の亜鉛系めっき層に対してレーザ光12を照射する。これにより、第1領域1a及び第2領域における亜鉛系めっき層を除去する。レーザ光12を照射する装置としては、例えば、マルチモードレーザ用のガルバノスキャナ11を使用することができ、矢印A1の方向にウォブリング又はウィービング走査しつつ、矢印A2の方向に照射範囲を進めることができる。なお、第1鋼板1の第1領域1a、及び第2鋼板2の第2領域は、第1鋼板1と第2鋼板2とを接合する際に互いに対向させて接触させる領域であって、溶接金属を作成する位置を含む領域である。これにより、
図1B及び
図1Cに示すように、レーザ光12が照射されて亜鉛系めっき層が除去された除去領域1b、2bが形成される。本実施形態においては、上記第1領域1a及び第2領域、すなわち除去領域1b、2bのそれぞれにおける短手方向の長さ(幅W
A)と、この除去領域における板厚(板厚t)との関係を適切に制御する。除去領域における幅W
Aと、板厚(板厚t)との関係については、後に詳述する。
【0023】
<配置工程>
次に、
図1Cの矢印A3で示すように、第1鋼板1の除去領域1b(第1領域1a)と、第2鋼板2の除去領域2b(第2領域)とを対向させ、除去領域1bと除去領域2bとが接するように重ねて配置する。
【0024】
<接合工程>
その後、
図1Dに示すように、第1鋼板1と第2鋼板2とが対向している面において、第1鋼板1の除去領域1bと、第2鋼板2の除去領域2bとが重ねられた領域よりも内側の範囲に溶接金属3が形成されるように、第2鋼板2の上方からレーザ光12を照射する。本実施形態において、レーザ光12を照射する装置としては、上記除去工程と同一のマルチモードレーザ用のガルバノスキャナ11を使用することができ、除去領域1b及び除去領域2bが延びる方向に照射位置を移動させる。これにより、
図2に示すように、第1鋼板1と第2鋼板2とが溶接金属3により接合された、レーザ溶接継手4を製造することができる。
【0025】
上記レーザ溶接継手の製造方法によると、溶接金属3を形成する位置における亜鉛系めっき層が除去されているため、レーザ溶接の熱により亜鉛が蒸気化して、溶接金属にブローホールが発生することを防止することができる。また、除去工程において、除去領域1b、2bのそれぞれにおける幅WAと、板厚tとの関係を適切に制御しているため、除去工程のレーザ熱によって第1鋼板1及び第2鋼板2が変形することを抑制することができる。
【0026】
(除去領域の幅W
A≦式(1)により得られる値Wc)
除去領域1b、2bのそれぞれにおける幅W
Aと板厚tとの関係について、以下に詳細に説明する。本発明者らは、亜鉛系めっき鋼板に対してレーザ光を照射した場合に、鋼板の変形を抑制することができる、除去領域の幅W
Aと板厚tとの関係を見出した。具体的に、鋼板の曲げ剛性は、鋼板の板厚tの3乗に比例するため、鋼板の変形を抑制することができる除去領域の幅W
Aの範囲を、板厚tの3乗を用いた式で導き出した。
図3は、除去領域における板厚tの3乗と、式(1)により得られる値W
Cとの関係を示すグラフ図である。式(1)は、以下の通りである。
式(1):W
C=0.70t
6-0.37t
3+6.00
【0027】
除去領域の幅W
Aが、板厚tによって変化するW
Cの値よりも大きい値になると、レーザ光を照射した鋼板の変形が大きくなり、所望の形状を有するレーザ溶接継手を製造することが困難になる。また、継手強度も低下することがある。したがって、板厚がt(mm)である鋼板に対して、レーザ光を照射することにより亜鉛系めっき層を除去する場合に、除去領域の幅W
A(mm)は、式(1)により得られる値W
C以下とする。すなわち、
図3で示す破線が式(1)を示し、板厚tの時に、除去領域の幅W
Aが破線上であるか又は破線よりも下の領域に位置していればよい。なお、除去領域の幅W
A(mm)を狭くするほど、めっき層を除去するための処理時間を減少させることができるため、除去領域の幅W
A(mm)は、0.9×W
C以下とすることが好ましく、0.8×W
C以下とすることがより好ましい。
【0028】
一方、除去領域の幅WAの下限は特に限定しないが、上記接合工程においてレーザ光12による溶接が可能な幅、すなわち、レーザ光12のビーム径以上であればよく、除去領域1bと除去領域2bとを対向させて重ねて容易に配置できる幅とすればよい。
【0029】
(マルチモードレーザの使用)
従来、亜鉛系めっき鋼板のめっき層を除去する際には、シングルモードレーザが使用され、その後の接合工程においては、マルチモードレーザが使用されていた。これは、マルチモードレーザを使用した場合に、鋼板への熱影響が大きくなり、めっき層を除去することができないと考えられていたからである。本実施形態に係るレーザ溶接継手の製造方法によると、上述のとおり、除去領域の幅WAと鋼板の板厚tとの関係を適切に制御しているため、マルチモードレーザを使用した場合であっても、鋼板の変形を抑制しつつめっき層を除去することができる。
【0030】
なお、本実施形態においては、除去工程において、マルチモードレーザ用のガルバノスキャナ11を使用することができる。すなわち、ガルバノスキャナ11を使用すれば、ウォブリング又はウィービング走査しつつ、マルチモードのレーザ光12を高速で所望の範囲に照射することができ、めっき層を完全に除去することができる。レーザ走査速度は、例えば、0.6(m/秒)以上4.8(m/秒)以下とすることができる。ただし、除去工程におけるレーザ出力やレーザ走査速度は、レーザ光のスポット径等によって最適値が異なるため、除去工程における条件によって適宜調整することが好ましい。
【0031】
なお、本実施形態において、除去領域の幅WAと鋼板の板厚tとの関係を上述のとおり制御していれば、シングルモードレーザを使用しても、マルチモードレーザを使用した場合と同様に、鋼板の変形を抑制することができる。したがって、レーザの種類はシングルモードレーザを使用しても、マルチモードレーザを使用してもよい。ただし、上記接合工程においては、マルチモードレーザが使用されるため、上記除去工程においてもマルチモードレーザを使用することにより、作業効率を向上させることができる。
【0032】
また、マルチモードレーザを使用して亜鉛系めっき鋼板のめっき層を除去すると、第1鋼板1の除去領域1b及び第2鋼板2の除去領域2bの表面に微細な凹凸が形成される。そして、除去領域1bと除去領域2bとを対向させて重ね合わせると、第1鋼板1と第2鋼板2との間に空隙部が形成される。その後、接合工程において、レーザ光12が照射されると、発生した僅かなガスも空隙部を介して外部に排出させることができる。したがって、溶接金属3のブローホールの発生を抑制する観点においても、マルチモードレーザを使用することが好ましい。
【0033】
(レーザ光の連続発振)
従来、亜鉛系めっき鋼板のめっき層を除去する際には、鋼板への熱影響を低減するために、パルス発振によりレーザ光の照射が実施されていた。本実施形態においては、除去領域の幅WAと鋼板の板厚tとの関係を上述のとおり制御しているため、除去工程において連続発振によりレーザ光を照射しても、鋼板への熱影響をほとんど与えることなくめっき層を除去することができる。
【0034】
上記実施形態においては、第1鋼板1及び第2鋼板2のそれぞれ1箇所の領域のみに対してレーザ光12を照射し、めっき層を除去しているが、めっき層を除去する領域は1箇所に限定されず、複数の箇所に対してレーザ光12を照射してもよい。
図4は、複数の除去領域を形成した鋼板を示す斜視図である。
図4に示すように、第1鋼板1の表面の2箇所にレーザ光を照射し、除去領域1b、1cを形成することもできる。このような場合に、互いに隣り合う除去領域1bと除去領域1cとが接近しすぎていると、熱影響により第1鋼板1が変形するおそれがある。したがって、鋼板に複数の除去領域を形成する場合に、隣り合う除去領域1bと除去領域1cとの間の間隔dは、5mm以上であることが好ましい。
【0035】
また、上記実施形態においては、第1鋼板1及び第2鋼板2のいずれも亜鉛系めっき鋼板を使用していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1鋼板1及び第2鋼板2のうち、少なくとも一方、例えば第1鋼板1のみ亜鉛系めっき層を有する場合であっても本発明を適用することができる。この場合に、除去工程において、第1鋼板1の第1領域1aにおける亜鉛系めっき層に対して、上述の条件でレーザ光を照射し、第1領域1aにおける亜鉛系めっき層を除去すればよい。さらに、上記実施形態においては、重ね溶接の例について示したが、本発明に係るレーザ溶接継手の製造方法は、継手形状に影響されず、例えば重ね隅肉溶接においても適用することができる
【0036】
[レーザ溶接継手]
本実施形態に係るレーザ溶接継手は、上記本実施形態に係るレーザ溶接継手の製造方法により製造されたものである。
図1C及び
図2に示すように、レーザ溶接継手4は、亜鉛系めっき層を有する第1鋼板1と、亜鉛系めっき層を有する第2鋼板2とが、レーザ溶接による溶接金属3により接合されたものである。具体的には、第1鋼板1における亜鉛系めっき層を有しない第1領域と、第2鋼板2における亜鉛系めっき層を有しない第2領域とが対向するように、第1鋼板1と第2鋼板2とが重ねられて配置されている。そして、溶接金属3は、第1領域と第2領域とが重ねられた領域内に形成されている。また、第1鋼板1における亜鉛系めっき層が除去された除去領域1b、及び第2鋼板2における亜鉛系めっき鋼板が除去された除去領域1cは、それぞれ以下の条件を満足する。
【0037】
前記亜鉛系めっき層が除去された除去領域における短手方向の長さを幅WA(mm)とし、除去領域における板厚をt(mm)とする場合に、幅WAが、下記式(1)により算出される値WC以下である。
式(1):WC=0.70t6-0.37t3+6.00
【0038】
このように構成された本実施形態に係るレーザ溶接継手4は、鋼板の変形が抑制されているとともに、ブローホールの発生が抑制された溶接金属によって第1鋼板1と第2鋼板2とが接合されている。したがって、レーザ溶接継手は、優れた形状及び強度を有し、継手性能に優れたものとなる。
【実施例0039】
以下、本実施形態に係るレーザ溶接継手の製造方法の実施例について、具体的に説明する。
【0040】
[レーザ溶接継手の製造]
<除去工程>
まず、種々の板厚を有する亜鉛系めっき鋼板を準備し、鋼板の一部にレーザ光を照射し、めっき層を除去した。亜鉛系めっき鋼板の種類、めっき層の形成量及び板厚、並びに除去工程におけるレーザ光の照射条件を以下に示す。
【0041】
(合金化溶融亜鉛めっき(GA)鋼板)
板厚t:0.6mm,めっき層の形成量:45g/m2
板厚t:1.8mm,めっき層の形成量:45g/m2
板厚t:1.4mm,めっき層の形成量:80g/m2
【0042】
(レーザ光の照射条件)
熱源:ファイバーレーザ(IPG photonics製 YLS-6000)
ガルバノスキャナ:株式会社ワイ・イー・データ製
スポット径:0.3mm
レーザ出力:750~1500W
レーザ走査速度:0.6~4.8m/s
除去領域の幅WA:3.4~30.0mm
除去領域の長さ:40mm又は60mm
クリーニング箇所:1箇所又は2箇所(間隔d:5~10mm)
レーザ照射位置:端部から5~10mmの位置
【0043】
<変形量の評価>
次に、表面における一部のめっき層が除去された鋼板に対して、変形量の評価を実施した。
図5は、鋼板の変形量の評価方法を示す模式図である。
図5に示すように、除去領域1bが形成された第1鋼板1を平面上に載置し、除去領域1bが延びる方向に直交する辺に向かって、0.5mmの板厚を有する鉄製シム板31を矢印A4に示す方向に移動させた。そして、鉄製シム板31が第1鋼板1の下に入り込んだ場合に、変形量が0.5mmを超えていると判断し、不良(×)とした。一方、鉄製シム板31が第1鋼板1の下に入らなかった場合に、変形量が0.5mm以下であると判断し、良好(○)とした。なお、鋼板に変形が発生した場合に、溶接が可能な板隙の限界(上限)値が約0.5mmであることから、本実施例においては変形量が0.5mm以下の場合を良好と判断した。除去工程における各条件及び変形の評価結果を下記表1に示す。
【0044】
【0045】
上記表1に示すように、発明例1~発明例8は、除去領域の幅WAが、式(1)により得られる値WC以下であるため、鋼板の変形が抑制された。また、2箇所以上の除去領域を形成した場合であっても、隣り合う除去領域の間隔が5mm以上であったため、鋼板の変形は5mm以下となった。一方、比較例1~比較例3は、除去領域の幅WAが値WCよりも大きい値となったため、5mm以上の変形が確認された。
【0046】
<配置工程・接合工程>
次に、上記変形量の評価が○となった発明例6について、
図1Cに示すように、板厚が互いに同じである鋼板(第1鋼板1及び第2鋼板2)同士を、除去領域1bと除去領域2bとが対向するように重ね合わせて配置した。その後、
図1Dに示すように、除去領域1bと除去領域2bとが重ね合わされた領域に溶接金属3が形成されるように、レーザ光12を照射して、第1鋼板1と第2鋼板2とを接合し、レーザ溶接継手を製造した。接合工程における溶接条件を以下に示す
【0047】
(溶接条件)
鋼板:板厚t 1.4mm(亜鉛系めっき層の除去済)
熱源:ファイバーレーザ(IPG photonics製 YLS-6000)
ガルバノスキャナ:株式会社ワイ・イー・データ製
スポット径:0.3mm
レーザ出力:3250W
レーザ走査速度:4m/min
溶接長:40mm(除去領域の短手方向の中央部で溶接)
継手形状:重ね溶接継手
【0048】
<ブローホールの評価>
図2に示すように、レーザ溶接継手4は、めっき層が除去された鋼板を使用して溶接したものであるため、大きなブローホールの発生は観察されなかった。また、同一のマルチモードレーザを使用して除去工程と接合工程を実施しているため、製造効率が優れたものとなった。さらに、除去工程において、除去領域の幅W
Aと板厚tとの関係が適切に制御されているため、変形が抑制され、優れた継手性能を有するレーザ溶接継手を得ることができた。