(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176114
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】横編機の可動シンカー装置および可動シンカー
(51)【国際特許分類】
D04B 15/06 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
D04B15/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094376
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(72)【発明者】
【氏名】小▲高▼憲夫
(72)【発明者】
【氏名】島崎 宜紀
【テーマコード(参考)】
4L054
【Fターム(参考)】
4L054AA01
4L054AB02
4L054KA23
4L054NA02
(57)【要約】
【課題】 歯口に進退する先端部が対向する針床側に越境しないで、歯口の間隔も広げる必要がない横編機の可動シンカー装置および可動シンカーを提供する。
【解決手段】 シンカー溝13の底部には、先端部11aが歯口3に進入する際に、平坦区間11eから凹区間11fに当接する位置を変える凸部13が設けられる。平坦区間11eが凸部13aに当接している区間は、可動シンカー11が直動するように案内される直動区間となる。凸部13aが凹区間11fと当接すると、揺動区間となる。可動シンカー11の底部とシンカー溝13とは、直動区間と揺動区間とを備える進退案内機構となる。先端部11aが歯口3に直動で進退しても、編糸受け11abによる旧ループの押込みは揺動で行うので、歯口3の間隔を広げなくても、対向する針床2側へ越境しない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の針床が歯口を挟んで対向して設けられる横編機の可動シンカー装置であって、
可動シンカー装置は、可動シンカーを歯口に進退する方向に延びるシンカー溝に収容して先端部を歯口に進退させ、
可動シンカーの先端部は、新たな編目形成の際にシンカーループが掛かるループ形成縁と、ノックオーバーされる旧ループの編糸を捕捉して歯口下方に押込む編糸受けとを有する、
横編機の可動シンカー装置において、
可動シンカーの進退を案内する進退案内機構であって、
可動シンカーとシンカー溝との間に設けられ、
先端部が直線状の軌跡となるように可動シンカーを直動させる直動区間と、
直動で歯口に進入する直動区間の終端に設けられ、駆動される可動シンカーの先端部が弧状の軌跡となるように可動シンカーを揺動させる揺動区間と、
を備える進退案内機構を有する、
ことを特徴とする横編機の可動シンカー装置。
【請求項2】
前記進退案内機構は、前記可動シンカーの底部と前記シンカー溝の底面とのうちの一方を基準平面として、他方側に形成される平坦区間および凹区間と、基準平面から他方側に突出する凸部とを含み、
凸部が基準平面から他方側に突出する高さに対し、基準平面から他方側の平坦区間までの高さは小さく、基準平面から他方側の凹区間の頂部までの高さは同じかまたは大きくなり、
前記直動区間では、凸部が平坦区間に当接し、平坦区間が基準平面と平行となり、
前記揺動区間では、凸部が凹区間に嵌合する、
ことを特徴とする請求項1記載の横編機の可動シンカー装置。
【請求項3】
前記シンカー溝は、前記針床とは別のシンカー床に設けられる、
ことを特徴とする請求項1または2記載の横編機の可動シンカー装置。
【請求項4】
前記可動シンカーを、前記揺動で、前記先端部の前記編糸受けが前記旧ループを前記歯口下方に押し込むように付勢するばねを含む、
ことを特徴とする請求項3記載の横編機の可動シンカー装置。
【請求項5】
少なくとも一対の針床が歯口を挟んで対向して設けられる横編機での新たな編目形成の際に使用され、シンカーループが掛かるループ形成縁と、ノックオーバーされる旧ループの編糸を受けて歯口下方に押込む編糸受けとを有する先端部を、歯口に進退させることが可能で、歯口に進退する方向に延びるシンカー溝に収容される状態で使用される横編機の可動シンカーにおいて、
シンカー溝の底部には、凸部が設けられ、
シンカー溝への収容時に、シンカー溝の底部に臨んで、
先端部側に、シンカー溝の底面から凸部の高さよりも小さい間隔をあけるように形成され、凸部に当接して直動するように案内される平坦区間と、
先端部から離れる方向となる平坦区間の端に、凸部の高さと同じかまたは大きい高さまで窪む凹区間とを有する、
ことを特徴とする横編機の可動シンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向する針床間の歯口で編地を編成する横編機に備えられて、歯口に進退する先端部にループ形成縁と旧ループの編糸を歯口下方に押込む編糸受けとを有する可動シンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、少なくとも一対の針床が歯口を挟んで対向して設けられる横編機は、新たな編目形成時にシンカーループが掛かるループ形成縁とともに、ノックオーバーされる旧ループの編糸を歯口下方に押込む編糸受けとを有する可動シンカーを備えるものが知られている(たとえば、本件出願人による特許文献1および特許文献2参照)。特許文献1の可動シンカーは、針床の針溝に収容される編針間に設けられ、編糸受けを有する先端部を円弧状の軌跡となる揺動で歯口に進退させる機構とともに使用する。特許文献2の可動シンカーは、手袋編機に備えられ、針床に対して傾斜したシンカー床に収容される可動シンカーを直線状の軌跡となる直動で歯口に進退させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-094266号公報
【特許文献2】特開2019-073819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2のような直動する可動シンカーは、編糸受けによる編糸の押し込み量を大きくしようとすると、歯口の前後の中心を越境して対向する針床側まで進入してしまう。越境させないためには、歯口の間隔を広げる必要があるが、前後の針床の編針間で編出しを行ったり、リブ編みを編成したりする場合に、編目の間隔を詰めて密度を高める度詰めが効かなくなる。特許文献1のような揺動する可動シンカーは、越境しないようにすることができるが、ループ形成縁や編糸受けなどの各部は揺動支点からの半径に応じた軌跡で移動することで、制約を受ける。
【0005】
本発明の目的は、歯口に進退する先端部が対向する針床側に越境しないで、歯口の間隔も広げる必要がない横編機の可動シンカー装置および可動シンカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも一対の針床が歯口を挟んで対向して設けられる横編機の可動シンカー装置であって、
可動シンカー装置は、可動シンカーを歯口に進退する方向に延びるシンカー溝に収容して先端部を歯口に進退させ、
可動シンカーの先端部は、新たな編目形成の際にシンカーループが掛かるループ形成縁と、ノックオーバーされる旧ループの編糸を捕捉して歯口下方に押込む編糸受けとを有し、
可動シンカーの駆動は、歯口での編地編成に連動するように行う、横編機の可動シンカー装置において、
可動シンカーの進退を案内する進退案内機構であって、
可動シンカーとシンカー溝との間に設けられ、
先端部が直線状の軌跡となるように可動シンカーを直動させる直動区間と、
直動で歯口に進入する直動区間の終端に設けられ、駆動される可動シンカーの先端部が弧状の軌跡となるように可動シンカーを揺動させる揺動区間と、
を備える進退案内機構を有する、
ことを特徴とする横編機の可動シンカー装置である。
【0007】
また本発明で、前記進退案内機構は、前記可動シンカーの底部と前記シンカー溝の底面とのうちの一方を基準平面として、他方側に形成される平坦区間および凹区間と、基準平面から他方側に突出する凸部とを含み、
凸部が基準平面から他方側に突出する高さに対し、基準平面から他方側の平坦区間までの高さは小さく、基準平面から他方側の凹区間の頂部までの高さは同じかまたは大きくなり、
前記直動区間では、凸部が平坦区間に当接し、平坦区間が基準平面と平行となり、
前記揺動区間では、凸部が凹区間に嵌合する、
ことを特徴とする。
【0008】
また本発明で、前記シンカー溝は、前記針床とは別のシンカー床に設けられる、
ことを特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記可動シンカーを、前記揺動で、前記先端部の前記編糸受けが前記旧ループを前記歯口下方に押し込むように付勢するばねを含む、
ことを特徴とする。
【0010】
さらに本発明は、少なくとも一対の針床が歯口を挟んで対向して設けられる横編機での新たな編目形成の際に使用され、シンカーループが掛かるループ形成縁と、ノックオーバーされる旧ループの編糸を受けて歯口下方に押込む編糸受けとを有する先端部を、歯口に進退させることが可能で、歯口に進退する方向に延びるシンカー溝に収容される状態で使用される横編機の可動シンカーにおいて、
シンカー溝の底部には、凸部が設けられ、
シンカー溝への収容時に、シンカー溝の底部に臨んで、
先端部側に、シンカー溝の底面から凸部の高さよりも小さい間隔をあけるように形成され、凸部に当接して直動するように案内される平坦区間と、
先端部から離れる方向となる平坦区間の端に、凸部の高さと同じかまたは大きい高さまで窪む凹区間とを有する、
ことを特徴とする横編機の可動シンカーである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、横編機の可動シンカー装置の可動シンカーは、先端部が歯口に直動で進退しても、編糸受けによる旧ループの編糸の歯口下方への押込みは揺動で行うので、歯口の間隔を広げなくても、対向する針床側へ先端部が越境しない。
【0012】
また本発明によれば、可動シンカーの底部と可動シンカーを収容するシンカー溝の底面との間に進退案内機構を設けるので、直動区間と揺動区間とを容易に設けることができる。
【0013】
また本発明によれば、針床とは別のシンカー床に設けるシンカー溝に可動シンカーを収容するので、進退案内機構を設け易く、組立や交換が容易となる。
【0014】
また本発明によれば、可動シンカーの編糸受けが旧ループの編糸を歯口下方に押込む作用をばね付勢で行い、旧ループを押上げる反力などもばねで吸収することができる。
【0015】
さらに本発明によれば、可動シンカーは、歯口への進退時に、直動と揺動との間で移行するので、歯口の間隔を広げなくても、対向する針床側に先端部が越境しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例である横編機1の可動シンカー装置10の概略的な構成を示す右側面断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の可動シンカー11の構成および動作を示す右側面図である。
【
図3】
図3は、
図1の可動シンカー装置10に含まれるシンカーカム14の構成を示す正面図である。
【
図4】
図4は、
図1の横編機1の主要な構成部品の形状を示す側面図である。
【
図5】
図5は、
図1の横編機1で、針床2の歯口3側の構成を示す部分的な正面図である。
【
図6】
図6は、
図1の横編機1で、可動シンカー装置10の動作の一例を示す部分的な正面図である。
【
図7】
図7は、
図1の横編機1で、
図6の可動シンカー装置10の動作に連動する編針4の動作を示す部分的な正面図である。
【
図8】
図8は、
図6のaおよびbの位相に対応する可動シンカー装置10の動作状態を示す部分的な側面断面図である。
【
図9】
図9は、
図6のcおよびdの位相に対応する可動シンカー装置10の動作状態を示す部分的な側面断面図である。
【
図10】
図10は、
図6のeおよびfの位相に対応する可動シンカー装置10の動作状態を示す部分的な側面断面図である
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、
図1から
図10は、本発明の一実施例である可動シンカー装置10および横編機1に関連する構成および動作を示す。各図で対応する部分は,同一の参照符を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。また説明の便宜上、説明対象の図には記載されていない部分について、他の図に記載される参照符を付して言及する場合がある。
【実施例0018】
図1は、本発明の一実施例である横編機1の可動シンカー装置10の概略的な構成を示す。横編機1には、少なくとも一対の針床2が歯口3を挟んで対向して設けられる。各針床2には、編針4を収容する針溝2aが設けられる。針溝2aは、針床2に立設されるニードルプレート5間に形成される。ニードルプレート5には、ヤーンガイド6を収容する薄肉部5aが設けられる。ニードルプレート5間で、編針4の上方の空間は、ニードルスペーサー7で埋められる。図の紙面に垂直な方向には、部分的に示すキャリッジ8が走行し、給糸口9を連行する。給糸口9は、歯口3に進入する編針4の先端に設けるフック4aに編糸を供給して編目を形成させる。編針4には、針幹に目移し片4bも設けられ、目移し片4bまで歯口3に進入させれば、対向する針床2の編針4のフック4aを中心3aを越えて目移し片4b内に進入させ、目移しを行うことができる。可動シンカー装置10は、可動シンカー11を有する。可動シンカー11は、針床2とは別に設けるシンカー床12のシンカー溝13に収容され、実線、一点鎖線、および二点鎖線で示す状態間で移動可能である。キャリッジ8は、編針2を駆動するカムシステムを搭載しているけれども、本図ではその図示を省略している。キャリッジ8は、可動シンカー11を駆動するシンカーカム14を搭載している。
【0019】
図2は、
図1の可動シンカー11の構成を
図2(a)で、
図1の実線、一点鎖線および二点鎖線で示す状態に対応する動作を
図2(b)、
図2(c)および
図2(d)で示す。
図2(a)に示すように、可動シンカー11の先端部11aは、ループ形成縁11aaと編糸受け11abとを有する。ループ形成縁11aaには、新たな編目形成の際にシンカーループが掛かる。編糸受け11abは、ノックオーバーされる旧ループの編糸を捕捉して歯口下方に押込む。先端部11aを押込む方向の付勢は、一体的に形成されているばね11bで行われる。線ばねなどを別体で設けてもよい。先端部11aを歯口3に進入させるための駆動は、進入駆動部11cに対して行われる。先端部11aを歯口3から退出させるための駆動は、退出駆動部11dに対して行われる。可動シンカー11の底部は、平坦区間11e、凹区間11f、底部先端11g、弧状部11hを有する。弧状部11hは、退出駆動部11dの頂部11iとともに、円弧中心11jから一定の半径の円弧11kの一部として設けられ、可動シンカー11が直動や揺動しても、シンカー溝13の底面13bと退出駆動部11dを駆動するカムとの接触を継続することができる。
【0020】
図1に示すように、可動シンカー11は、歯口3に進退する方向に延びるシンカー溝13に収容される状態で使用される。
図2(b)、
図2(c)および
図2(d)に示すように、シンカー溝13の底部には、先端部11aが歯口3に進入する際に、平坦区間11eから凹区間11fに当接する位置を変える凸部13aが設けられる。凸部13aは、紙面に垂直な方向に貫通する鋼線を、平坦な底面13bに形成する溝に嵌合させて支持する形態である。底面13bの一部が突出するような形態でもよい。
図2(b)から
図2(c)に示すように、平坦区間11eに凸部13aが当接している状態では、可動シンカー11が直動するように案内される。可動シンカー11の底部は、弧状部11hが底面13bで支持され、平坦区間11eは底面13bと平行となる。ループ形成縁11aaも底面13bと平行になる。
図2(d)に示すように、凸部13aが凹区間11fと当接する状態で、可動シンカー11の底部は、底部先端11gと弧状部11hとが底面13bで支持される。なお、平坦区間11eは、底面13bからの高さが、凸部13aの高さよりも小さい。凹区間11fは、可動シンカー11の底部に対し、シンカー溝13の底面13bからの凸部13aの高さと同じかまたは大きい高さまで窪む。
図2(c)を過ぎてから、凸部13aが凹区間11fへの嵌合を開始して
図2(d)に至る間、可動シンカー11は揺動するように案内される。本実施例の可動シンカー装置10の可動シンカー11は、先端部11aが歯口3に直動で進退しても、編糸受け11abによる旧ループの編糸の歯口3下方への押込みは揺動で行うので、歯口3の間隔を広げなくても、対向する針床2側へ先端部11aが歯口3の中心3aを越境しない。
【0021】
図3は、
図1の可動シンカー装置10に含まれるシンカーカム14の構成を示す。シンカーカム14は、可動シンカー11の進入駆動部11cに作用する進入カム面14aと、退出駆動部11dに作用する退出カム面14b、移動カム面14c、出没カム面14dとを有する。移動カム面14cは、断面A-Aで示すように、摺動移動可能に形成されており、可動シンカー11の退出駆動部11dに作用すると、退出駆動部11dからの反力で、キャリッジ8の走行方向と逆方向に移動する。出没カム面14dは、ソレノイドなどのアクチュエータで、退出駆動部11dに作用する突状態と、作用しない没状態とを切替え可能である。出没カム面14dを突状態にすると、キャリッジ8が抜けると可動シンカー11が退出状態となって、先端部11aが歯口3から退避する。手袋編成に使用する横編機1では、特許文献2に記載されているようなルーパー装置も歯口3で使用するので、先端部11aを退避させておく必要がある。出没カム面14dを没状態にすると、キャリッジ8が抜けると可動シンカー11がばね付勢で旧ループを押込む状態を継続し、旧ループを押上げる反力などもばね11bで吸収することができる。
【0022】
図4は、
図1の横編機1の主要な構成部品である、ニードルスペーサー7、ヤーンガイド6、ニードルプレート5、編針4、針床2の形状を示す。ニードルプレート5は、紙面に垂直な方向に、針床2に一定ピッチで立設される。ニードルプレート5および針床2には、紙面に垂直な方向に貫通する鋼線2b,2c,5cや鋼帯5bも表示している。
【0023】
図5は、
図1の横編機1で、針床2の歯口3側の構成を、ニードルスペーサー7を除去した状態で示す。可動シンカー11を収容するシンカー床12も図示を省略し、先端部11aのみ示す。ヤーンガイド6は、歯口3に突出している部分で編糸を案内する。
【0024】
図6は、可動シンカー装置10の動作の一例を示す。
図7は、
図6の可動シンカー装置10の動作に連動する編針4の動作を示す。代表的な動作状態は、a,b,c,d,eの位相で示される。編針4は、キャリッジ8に搭載されるカムシステム20の作用を受けて、編成動作を行う。カムシステム20は、編成動作に関する編成カム21と目移し動作に関する目移しカム22とを含むけれども、ニットでの編目形成動作のみ示す。
【0025】
図8(a)および(b)と
図9(c)および(d)と
図10(e)および(f)とは、
図6のaおよびbの位相と、cおよびdの位相と、eおよびfの位相とに対応する可動シンカー装置10の動作状態をそれぞれ示す。ただし、編糸は図示を省略している。aの位相では、一旦、先端部11aを歯口3から退出させ、編糸受け11abによる編糸の押込みを解除する。bの位相では、編糸受け11abを直動から揺動で歯口3に進入させ、編糸を確実に押込む。編針4は、編成カム21の作用で歯口3に進入し、フック4aで保持されていた編目は、旧ループとして相対的にフック4aから離れるように移動し、針幹側に移る。cの位相では、フック4aに給糸口9から編糸を受けるために、先端部11aを歯口3から退避させる。dの位相では、給糸口9から編糸の給糸を受けたフック4aを歯口3から針床2側に引込んで度決めを行う際に、歯口3に進入させる編糸受け11abで旧ループの編糸を捕捉する。eの位相では、一旦、編糸受け11abを退避させ、捕捉していたループを編糸受け11abから解放する。fの位相で、編糸受け11abは、dの位相で形成した新たなシンカーループを捕捉する。fの位相の後、出没カム14dを没状態にしておけば、編糸受け11abがシンカーループを押込む状態でキャリッジ8から抜けることができる。
【0026】
なお、本実施例では、可動シンカー11の底部に平坦区間11eおよび凹区間11fを設け、シンカー溝13の底面13bに凸部13aを設けて、直動と揺動とで歯口3に進退させている。底面13bは、凸部13aが突出する高さや、平坦区間11fまでの高さに対する基準平面となる。これに対し、可動シンカーに凸部、シンカー溝に平坦区間および凹区間を設けるようにすることもできる。その場合、凸部を除く可動シンカーの底部は、基準平面となり、直動区間では、シンカー溝側の平坦区間と平行で、一定の間隔を保つ。また、シンカー溝の凹区間は、平坦区間の歯口3側の端部に設けられる。すなわち、前記可動シンカー11の底部と前記シンカー溝13の底面13bとのうちの一方を基準平面として、他方側に形成される平坦区間11eおよび凹区間11fと、基準平面から他方側に突出する凸部13aとは、可動シンカー11の進退を案内する進退案内機構として機能する。凸部13aが平坦区間11eに当接している区間は、先端部11aが基準平面に平行な直線状の軌跡となるように可動シンカー11を直動させる直動区間となる。凸部13aが凹区間11fと嵌合する区間は、直動で歯口3に進入する直動区間の終端に設けられ、駆動される可動シンカー11の先端部11aが弧状の軌跡となるように可動シンカー11を揺動させる揺動区間となる。凸部13aが基準平面から他方側に突出する高さに対し、基準平面から他方側の平坦区間までの高さは小さく、基準平面から他方側の凹区間の頂部までの高さは同じかまたは大きくなる。また、可動シンカー11は、シンカー床12のシンカー溝13に収容しているけれども、特許文献1のような、針床に編針と併設するようにしてもよい。特許文献1では、揺動する可動シンカーを、ニードルプレートに設ける薄肉部に収容している。さらに、進退案内機構は、シンカー溝の側面に形成される案内カムと、可動シンカーから側方に突出して案内カムの作用を受けるピンとの間などに形成することもできる。