(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176117
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】高エネルギー効率・高清浄環境システム
(51)【国際特許分類】
A01G 18/69 20180101AFI20241212BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20241212BHJP
F24F 7/003 20210101ALI20241212BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20241212BHJP
A61L 9/16 20060101ALI20241212BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A01G18/69
F24F7/06 Z
F24F7/003
A01G7/00 601Z
A61L9/16 F
B01D53/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094379
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】509183729
【氏名又は名称】石橋 晃
(71)【出願人】
【識別番号】507139133
【氏名又は名称】シーズテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】512311100
【氏名又は名称】株式会社石橋建築事務所
(71)【出願人】
【識別番号】512311096
【氏名又は名称】飛栄建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515055421
【氏名又は名称】有限会社近代設備設計事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】石橋 晃
【テーマコード(参考)】
2B011
2B022
3L058
4C180
4D006
【Fターム(参考)】
2B011GA09
2B022DA15
3L058BE08
3L058BG03
4C180AA07
4C180AA16
4C180AA17
4C180AA18
4C180DD09
4C180HH05
4C180KK01
4C180KK03
4C180MM10
4D006GA47
4D006JA52
4D006MA03
4D006MB03
4D006MC11
4D006PA01
4D006PB17
4D006PB62
4D006PB64
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】クローズドエアシステムとしてのCO
2プッシュプル農業システムの要素技術を確立することができる高エネルギー効率・高清浄環境システムを提供する。
【解決手段】ガス交換ユニットと、ファンフィルターユニットとを備え、前記ガス交換ユニットは、外界との間で気流としてのガス交換のない孤立閉鎖系を構成する部屋または閉空間の気体と、前記外界の気体との間の少なくとも一部に配置され、前記部屋または閉空間の気体と前記外界の気体との濃度勾配によって気体分子を交換しダスト微粒子を実質的に通さないガス交換膜を有し、前記ファンフィルターユニットは、前記部屋または閉空間に配置され、前記部屋または閉空間の浮遊粒子数、ガス分子濃度、内外出入熱流の3つのパラメータに対し、前記3つのパラメータに内在または付随する拡散過程を制御して、前記部屋または閉空間にて人類への有用生物を育てる、高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス交換ユニットと、ファンフィルターユニットとを備え、
前記ガス交換ユニットは、外界との間で気流としてのガス交換のない孤立閉鎖系を構成する部屋または閉空間の気体と、前記外界の気体との間の少なくとも一部に配置され、前記部屋または閉空間の気体と前記外界の気体との濃度勾配によって気体分子を交換しダスト微粒子を実質的に通さないガス交換膜を有し、
前記ファンフィルターユニットは、前記部屋または閉空間に配置され、
前記部屋または閉空間の浮遊粒子数、ガス分子濃度、内外出入熱流の3つのパラメータに対し、前記3つのパラメータに内在または付随する拡散過程を制御して、前記部屋または閉空間にて人類への有用生物を育てる、高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【請求項2】
前記部屋または閉空間の体積をV、前記ガス交換膜における着目する気体のガス分子拡散係数をD
i、(i=1,..N)、前記ガス交換膜の厚みをLとした時、上記体積Vと前記ガス交換膜の面積Aとを、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設計が行われ、
前記部屋または閉空間における着目する気体の消費または発生消費レートをBi、前記外界と平衡状態にあり前記部屋または閉空間で当該着目する気体の消費または発生の無いときの当該着目する気体の体積をV
i、前記部屋または閉空間内における当該着目する気体の目標濃度をη
iとしたとき、前記ガス交換膜の面積Aが下記の式(3)を満足するように設定される、請求項1に記載の高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【数1】
【請求項3】
複数のガス交換ユニットと、複数のファンフィルターユニットとを備え、
前記複数のガス交換ユニットは、外界との間で気流としてのガス交換のない孤立閉鎖系を構成する複数の部屋または閉空間の気体と、前記外界の気体との間の少なくとも一部に配置され、前記複数の部屋または閉空間の気体と前記外界の気体との濃度勾配によって気体分子を交換しダスト微粒子を実質的に通さない複数の第1のガス交換膜を有し、
前記複数のファンフィルターユニットは、前記複数の部屋または閉空間に配置され、
CO2を排出する生物種(CO2-pusher)が存在する前記複数の部屋または閉空間内の空気と、CO2を吸収する生物種(CO2-puller)が存在する前記複数の部屋または閉空間内の空気とが、前記複数の部屋または閉空間の気体と前記外界の気体との濃度勾配によって気体分子を交換しダスト微粒子を実質的に通さない少なくとも1つの第2のガス交換膜を介して隣接しており、
前記複数の部屋または閉空間の浮遊粒子数、ガス分子濃度、内外出入熱流の3つのパラメータに対し、前記3つのパラメータに内在または付随する拡散過程を制御して、前記複数の部屋または閉空間にて人類への有用生物を育てる、高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【請求項4】
前記部屋または閉空間の内部気体を前記ガス交換膜の表面に沿う第1方向に流す送風機と、前記外界の気体を前記ガス交換膜の表面に沿う第2方向に流す送風機とを有するガス交換ユニットを備え、前記ガス交換ユニットにおいて前記第1方向に流れる気体と前記第2方向に流れる気体とが略反平行である対向流を形成し、着目する気体の当該ガス交換ユニット中の拡散係数をD,気体流方向のガス交換膜長さをl、集積されたガス交換膜の面間隔をd、気体の流速をv、ガス交換膜の厚みをLとした時に、次の式(37)を満たす、請求項1又は3に記載の高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【数2】
【請求項5】
前記CO2-pusherが菌類であり、前記CO2-pullerが光合成体である、請求項3に記載の高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【請求項6】
前記CO2-pusherが動物であり、前記CO2-pullerが光合成体である、請求項3に記載の高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【請求項7】
前記CO2-pusherがヒトであり、前記CO2-pullerが光合成体である請求項3に記載の高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【請求項8】
前記CO2-pullerが光合成体であり、
前記光合成体が存在する部屋または閉空間の壁の少なくとも一部に2次元受光・発電分離型(2DPRCS)太陽光発電が設けられている、請求項3に記載の高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高エネルギー効率・高清浄環境システムに関し、特に居住空間・食物生産をCO2の授受によって連結するクローズドエアフローシステムとしての高エネルギー効率・高清浄環境システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会は、SDGsなどの観点から、農薬などを使わずとも無菌環境を実現できるスマート農業を必要としている。スマート農業の進化・発展により、人間の活動、社会生活に限りない恩恵を与えることができる。
【0003】
キノコ栽培においては、i)二酸化炭素(CO2)の効果的排出と、ii)キノコの病害菌からの守りが重要課題となっており、この2つの独立した要請を両立できるスマート農業技術開発が必要とされている(即ち、ここではCO2はpush outすべきものである)。
【0004】
他方、施設園芸においては二酸化炭素の施用によって収量が大幅に向上する(即ち、ここではCO2はpull inすべきものである)ことが広く知られているが、このCO2は灯油燃焼方式、LPG燃焼方式、液化炭酸ガス方式等で供給されており、必ずしも環境にやさしいサステナブルなものとは言い難い。即ち、二酸化炭素の発生を逆手に取る意欲的な取り組みも必ずしもゼロエミッションにはつながっていない。
【0005】
本発明者は、クローズドエアシステムによる清浄環境を実現しており(特許文献1~3)、今回これを農業分野に応用することで、殺菌や除菌などの防除の必要性を限りなく小さくすることにより、農薬などの使用を極力避け、かつ、酸素・二酸化炭素のガス交換により、キノコなどの菌類にとっての過剰な二酸化炭素を排出するとともに、この二酸化炭素を野菜や果実栽培室に供給するシステムを構築し、その結果二酸化炭素のプッシュプル環境技術という新たなソリューションを提案する。これにより、これまで農業とは相いれなかった大都市はもとより、海中(深海)や宇宙空間での農業へと展開することが可能となる。本発明のクローズドエアシステムは閉空間との相性が良いので、近年問題となっている空き家やいわゆるシャッター街における空室などの有効利用を通じて、地域の活性化へとつなげることができる。
【0006】
特に、近年キノコ栽培も盛んになっているが、十分な注意を払わないと死亡事故が発生する事案が報告されている(非特許文献1)。特に、カナダとタイにおけるキノコ栽培工場での死亡事例は、掛かる事故が先進国か否かによらず発生し得る危険な状況であり、ニーズは極めて大きいことを示している。
【0007】
バイオマス産業推進においては、焼却炉より発生する二酸化炭素を利用したハウス野菜の成長促進の現状や課題に関し意見交換を行った。発生する二酸化炭素量の桁のレベルで差があるため、ゼロエミッションに向けた安定したシステム動作はまだ道遠しである。
有機農業や無農薬農業は得てして“草ぼうぼう”となってしまうなど理想と現実のギャップをはじめ)農業が抱える課題がある。農薬をできるだけ使わないことの必要性と同時にその困難さが存在する。また、ヒトの食料資源として動植物を育てる観点からすると、上記の植物に関するもの(農業)に加えて、動物に関しても大きな課題が存在する。例えば、家禽類における鳥インフルエンザの発生時においては、有効な撲滅法は、発生地点の5~10km範囲のニワトリ等を直ちに摘発淘汰することであるとされている(非特許文献2)。これは経済的な負担という観点のみならず、生命の尊厳を守るという観点から、人間への悪影響を未然に防ぐためとはいえ、大いなる悲劇であるといわざるを得ない。同様のことは、例えば、口蹄疫の発生時における豚や牛に関する対応においても課題として挙げられる。口蹄疫は、感染動物の全て組織、分泌物、糞便が感染源となり、病原体が付着した塵により空気感染もする。水疱が破裂した際に出たウイルスや糞便中のウイルスが塵と共に風に乗るなどして陸上では65km、海上では250km以上移動することもあるとされている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第10677483号明細書
【特許文献2】国際公開第2014/0084086号
【特許文献3】特許第6292563号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Bangkok Post,PRASIT TANGPRASERT,2021年7月11日,インターネット<https://www.bangkokpost.com/thailand/general/2146967/3-founddead-in-mushroom-cultivation-nursery>
【非特許文献2】鳥インフルエンザ、2023年5月27日,インターネット<https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B3%A5%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AB%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B6>
【非特許文献3】口蹄疫、2023年5月27日,インターネット<https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A3%E8%B9%84%E7%96%AB>
【非特許文献4】温度と光合成、2023年4月28日,インターネット<http://www.biology.tohoku.ac.jp/lab-www/hikosaka_lab/hikosaka/temp-short.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、高効率のエネルギー・環境一体化システムを実現することである。QOL向上やSDGsの達成、特に、食料の安定した需給を支えるスマート農業を実現するという全人類的目標に向けて、閉空間において、1.(空気中の浮遊粒子数[塵埃・菌数]の制御による)高清浄度、2.([酸素、二酸化炭素など空気中の]ガス分子濃度の制御による)高空気質、及び、3.(室内外出入熱流の制御による)高効率熱マネジメントという3本柱(3項目)の実現を行う。エネルギー・環境システムの高効率化において、まず環境面に関して、旧来の気流による換気に代わる新しい効率的な換気である拡散換気システムを構築し、これに基づいて、クローズドエアシステムとしてのCO2プッシュプル農業システムの要素技術を確立することができる空気清浄システムを提供することである。CO2発生体の一例としてキノコを選択し、野菜・果実栽培の結合について実行し、試験プラントの動作実証を行う。
クローズドエアシステムとしてのCO2プッシュプル農業システムのCO2発生体の他の一例として、養鶏や養豚を選択する場合の要素技術を確立することもできる。更に、クローズドエアシステムCO2プッシュプル農業システムは、その成り立ちから、スタンドアローンの閉鎖系システムとの相性が良いので、究極の閉鎖空間である宇宙での農業の産業化の一番乗りを果たすための要素技術の同定を行い、狭い国土の日本だからこそ宇宙農業の実現を可能とする画期的な高エネルギー効率・高清浄環境システムを提供することができる。
【0011】
また、この発明が解決しようとする他の課題は、高効率のエネルギー・環境システムにおけるエネルギー面において、グリーンハウスなどの太陽光の導入を許容する部屋または閉空間における太陽光利用において、太陽光のうち赤色の光成分と青色の光成分を光合成用に使用し、緑色の光成分を太陽光発電に用いて蓄電することで、夜間や補助光源としての人工光(LED光)栽培における電力としての使用を実現する高エネルギー効率・高清浄環境システムを提供することである。
【0012】
更に、この発明が解決しようとする他の課題は、上記の環境面におけるものとエネルギ―面におけるものを結合して、新しいエネルギー・環境システム(New Energo-environmental system)を実現して、省エネルギーかつエネルギー効率の高い、高清浄環境にもとづく次世代の農業、さらには、海中や宇宙空間のような閉環境における人類のサステナブルな活動・生活を可能とする高エネルギー効率・高清浄環境システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者が実現したClean Unit System Platform(CUSP)では、用いるファンフィルターユニット(FFU)の吐出エアの全量をその給気側へ戻す100%循環システムを構成し、内外で気流としての空気のやり取りのない孤立・閉鎖系を構成する。フィルターの目詰まりの僅少なサステブルな高清浄システムであり、施設農業に世界で初めて適用することで、殺菌の必要性を極限まで低減することで農薬の使用を極力下げることができる。更に、本発明は、CUSP機構により空気中を漂う塵埃が僅少であることを利用して、部屋内部のあらゆる2次元面の表面の除菌を実現できる。
従来型の機械換気によらず、キノコの排出する二酸化炭素を拡散換気により排出することのできるCUSP/GEUシステムにより、室内と外界の間で気流に拠る空気のやり取りの無いクローズドエアシステムが実現し、雑菌の入り込む余地を残さない。閉空間であるキノコ栽培室から二酸化炭素を外部に排出(push)するとともに、この排出された二酸化炭素を、光合成を行う野菜や果実の栽培の栽培室へ引き込む(pull)することでその収量を高めると共に、CO2ゼロエミッション農業に近づけることができる。すなわち本システムにより、二酸化炭素を資源としてリユース・リサイクルすることができる。
【0014】
本空気清浄システムは孤立系・閉鎖系であり、内気がフィルタを何度も通過するため清浄度度が高く(後述の
図1B参照)、かつ清浄化後は無負荷運転となるためフィルタの寿命が長く、維持コストが安い。在来クリーンルームに比べて10分の1価格で,10倍以上の高清浄度を実現できる。短時間に清浄度US209Dクラス 100 (粒径0.5μm以上の粒子の総数が1立方フィートあたり100個以下)になり性能も高い。PM2.5はもとより,細菌を含む浮遊塵埃数を抑えることができるため、農薬等の使用の低減に大きく役立つと期待される。
【0015】
CUSPの孤立性・閉鎖性を活用して、非接触、非侵襲にてCUSP内に格納された生物体(動物、植物、菌類)の内部や体表面から出てくる(ガス・揮発性)分子を検出し、定量的にモニタリング・分析することにより、内部の高清浄性・無塵性・無菌性を維持したまま、これに加えて、上記対外排出分子(ガス、揮発性分子)の情報を加えた高付加価値の総合的農業・畜産・養鶏(スマート農業・畜産・養鶏・食用昆虫養育)を実現することができ、SDGsに配慮した次世代1次産業並びに第二次産業的、第三次産業的な農業(アグリビジネス)も可能とする。
【0016】
更に、熱流の制御の観点からもクローズドエアフローシステムは、折角温めたり、冷房したりした内部の空気を気流として外に排出してしまう在来型のオープンエアフローシステムに比べ、格段に熱効率が良い。特に、湿度や温度を制御したキノコ栽培においては、内部の空気を外に逃すのは、エネルギー的に損であり、かつ、換気で外に出した分、外気が入ってくるので、防除などの面でもリスクが高いことに留意すべきである。本発明におけるクローズドエアフローシステムにおいては、以上の課題を併せて解決し、高効率のガス交換ユニット(対向流GEU)を実現できることを見出した。
【0017】
すなわち、上記の課題を解決するために、本発明は、下記の態様を提供する。
[1]ガス交換ユニットと、ファンフィルターユニットとを備え、
前記ガス交換ユニットは、外界との間で気流としてのガス交換のない孤立閉鎖系を構成する部屋または閉空間の気体と、前記外界の気体との間の少なくとも一部に配置され、前記部屋または閉空間の気体と前記外界の気体との濃度勾配によって気体分子を交換しダスト微粒子を実質的に通さないガス交換膜を有し、
前記ファンフィルターユニットは、前記部屋または閉空間に配置され、
前記部屋または閉空間の浮遊粒子数、ガス分子濃度、内外出入熱流の3つのパラメータに対し、前記3つのパラメータに内在または付随する拡散過程を制御して、前記部屋または閉空間にて人類への有用生物を育てる、高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【0018】
[2]前記部屋または閉空間の体積をV、前記ガス交換膜における着目する気体のガス分子拡散係数をD
i、(i=1,..N)、前記ガス交換膜の厚みをLとした時、上記体積Vと前記ガス交換膜の面積Aとを、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設計が行われ、
前記部屋または閉空間における着目する気体の消費または発生消費レートをBi、前記外界と平衡状態にあり前記部屋または閉空間で当該着目する気体の消費または発生の無いときの当該着目する気体の体積をV
i、前記部屋または閉空間内における当該着目する気体の目標濃度をη
iとしたとき、前記ガス交換膜の面積Aが下記の式(3)を満足するように設定される、上記[1]に記載の高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【数1】
【0019】
[3]複数のガス交換ユニットと、複数のファンフィルターユニットとを備え、
前記複数のガス交換ユニットは、外界との間で気流としてのガス交換のない孤立閉鎖系を構成する複数の部屋または閉空間の気体と、前記外界の気体との間の少なくとも一部に配置され、前記複数の部屋または閉空間の気体と前記外界の気体との濃度勾配によって気体分子を交換しダスト微粒子を実質的に通さない複数の第1のガス交換膜を有し、
前記複数のファンフィルターユニットは、前記複数の部屋または閉空間に配置され、
CO2を排出する生物種(CO2-pusher)が存在する前記複数の部屋または閉空間内の空気と、CO2を吸収する生物種(CO2-puller)が存在する前記複数の部屋または閉空間内の空気とが、前記複数の部屋または閉空間の気体と前記外界の気体との濃度勾配によって気体分子を交換しダスト微粒子を実質的に通さない少なくとも1つの第2のガス交換膜を介して隣接しており、
前記複数の部屋または閉空間の浮遊粒子数、ガス分子濃度、内外出入熱流の3つのパラメータに対し、前記3つのパラメータに内在または付随する拡散過程を制御して、前記複数の部屋または閉空間にて人類への有用生物を育てる、高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【0020】
[4]前記部屋または閉空間の内部気体を前記ガス交換膜の表面に沿う第1方向に流す送風機と、前記外界の気体を前記ガス交換膜の表面に沿う第2方向に流す送風機とを有するガス交換ユニットを備え、前記ガス交換ユニットにおいて前記第1方向に流れる気体と前記第2方向に流れる気体とが略反平行である対向流を形成し、着目する気体の当該ガス交換ユニット中の拡散係数をD,気体流方向のガス交換膜長さをl、集積されたガス交換膜の面間隔をd、気体の流速をv、ガス交換膜の厚みをLとした時に、次の式(37)を満たす、上記[1]又は[3]に記載の高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【数2】
【0021】
[5]前記CO2-pusherが菌類であり、前記CO2-pullerが光合成体である、上記[3]に記載の高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【0022】
[6]前記CO2-pusherが動物であり、前記CO2-pullerが光合成体である、上記[3]に記載の高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【0023】
[7]前記CO2-pusherがヒトであり、前記CO2-pullerが光合成体である上記[3]に記載の高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【0024】
[8]前記CO2-pullerが光合成体であり、
前記光合成体が存在する部屋または閉空間の壁の少なくとも一部に2次元受光・発電分離型(2DPRCS)太陽光発電が設けられている、上記[3]に記載の高エネルギー効率・高清浄環境システム。
【発明の効果】
【0025】
本発明の高エネルギー効率・高清浄環境システムによれば、以下を実現することができる。
(a)クローズドエアフローシステムを用いることで、防除剤の使用を極力低減したキノコなどの菌類栽培や、野菜、果実などの植物栽培を可能とする;
(b)クローズドエアフローシステムを用いることで栽培環境制御・空調使用電力を低減する;
(c)クローズドエアフローシステムを用いることでCO2の排除を必要とする(以下、「CO2-push」ともいう)食糧生産と、CO2の供与を求める(以下、「CO2-pull」ともいう)食糧生産とを結合することで、農業におけるCO2産出を低減する;
(d)農業におけるCO2ゼロエミッションの要素技術を確立する;及び
(e)クローズドエアフローシステムを展開することで、将来の宇宙農業のコア技術・要素技術を同定するとともに、これらを確立する。
【0026】
クローズドエアフローシステムを活用することで、次世代農業のスタンダード、世界標準を確立する。クローズドエアフローシステムの究極は、宇宙空間(ほぼ真空)における人類の活動・生活、及び食糧生産と捉えることができるので、本事業により数十年スケールでのマクロ的な経済効果をえることができる(本コンソーシアムでのニックネームはけい姑春秋(けいこしゅんじゅう)であるが、この故事成語にあやかり、本事業の短句はあるが貴重な経過時間を蝉に、数十年スケールの遠望深慮を春秋とするものである)
【0027】
また、クローズドエアフローシステムを活用することで、あらゆるCO2の排除を必要とするCO2-pushプロセスと、CO2の供与を求めるCO2-pullプロセスの効率的な結合が可能となる。CO2-pushプロセスは、食糧生産(菌類[キノコ、納豆、酵母発酵]、昆虫、養鶏、養豚)から、ヒト宇宙生活活動へと展開できる。CO2-pullプロセスでは、食糧生産(野菜、果実)を採り、両者の結合で、生産力の向上、そして究極的には宇宙農業へ繋げることができる。
【0028】
CO2-pushの食糧生産として、例えばキノコ栽培(特に、高付加価値品である黒舞茸)を取りあげ、CO2-pullの食糧生産として、特にレタスなどの野菜を取りあげて、各々CUSP/GEU技術のもとで生産効率・安定性を向上することができる。これをベースに、CO2-pushの食糧生産では、シメジ、エリンギ、その他の菌類に、CO2-pullの食糧生産では、イチゴやキャベツなどに展開できる。
【0029】
また、CO2-push側を、納豆の発酵過程、パンの酵母発酵過程に、CO2-pull側をミドリムシなど微細藻類及び光合成緑藻類(photosynthetic green algae)に展開することもできる。更に、CO2-push食糧生産過程として、近未来の蛋白源として期待される食用昆虫生産、或いは該食用昆虫生産における防除剤の使用量低減に展開することもできる。
【0030】
CO2-push食糧生産として、クローズドエアフローシステムを養鶏、養豚における抗生物質等の使用量低減に展開し、抗生物質耐性を有する細菌等の発生のリスクフリーな糞などの堆肥利用の道を開拓し、次世代有機農業の要素技術を確立する。また、CO2-pushプロセスとしてヒトの活動自体を取り上げると共に、上記で培ったクローズドエアフローシステムと結合することで、究極の閉鎖環境である深海や宇宙における人間活動を支えると共に、深海並びに宇宙における農業の基幹技術を開発可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1A】
図1Aは、本発明の第1実施形態に係る高エネルギー効率・高清浄環境システムを閉空間に適用した実施例を示す断面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の第1実施形態において用いる中性能フィルターがもたらすシステムとしてのトータルな塵埃捕集効率および同透過率の粒径依存性を示すプロットである。
【
図2】
図2は、本発明の第2実施形態に係る高エネルギー効率・高清浄環境システムを複数の閉空間に適用した実施例を示す平面図である。
【
図3B】平行流時の酸素濃度の計算結果を示すグラフである。
【
図3C】反平行流時の酸素濃度の計算結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、野菜栽培を行うグリーンハウスのガラス板を利用した2次元受光・発電分離型(2DPRCS)太陽光発電を説明する模式図である。
【
図5A】
図5Aは、
図4の太陽光進行の配置において、散乱体が横棒配置となっている場合のガラス板の構成を示す部分拡大模式図である。
【
図5B】
図5Bは、
図5Aの散乱体配置においてX軸方向から見たガラス板の構成を示す部分拡大模式図である。
【
図5C】
図5Cは、グリーンハウスの側壁を構成するガラス板或いは樹脂板中を進行する光に対して、上記散乱体が横棒として配置される(
図5A)場合と縦棒として配置される(
図5B)場合における相対透過効率を、散乱体の長手方向の長さ(棒長)で規格化した波長の関数として示す計算結果の図である。
【
図6A】
図6Aは、CO
2pushierである各種キノコの二酸化炭素産生量をプロットした結果を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、CO
2pullerである各種野菜や果実の酸素消費過程のインディケーターとして、その逆過程である二酸化炭素産生量をプロットした結果を示す図である。
【
図7】
図7は、キノコと野菜のペアリングの最適化を行った結果を示す図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態に係る高エネルギー効率・高清浄環境システムの構成を示す模式図である。
【
図9A】
図9Aは、
図8の高エネルギー効率・高清浄環境システムの一方のブース内部で当該ミストを発生させたとき粒子の経時変化を示す図である。
【
図9B】
図9Bは、
図8の高エネルギー効率・高清浄環境システムの他方のブース内部で当該ミストを発生させたとき粒子の経時変化を示す図である。
【
図10】
図10は、
図8の高エネルギー効率・高清浄環境システムの内部で当該ミストを発生させたとき粒子の経時変化を示す図である。
【
図11A】
図11Aは、クリーンユニットシステムプラットフォーム(CUSP)を適用したキノコのミニモデルによって実験した際のCO
2濃度及び温度の経時変化の結果を示す図である。
【
図11B】
図11Bは、クリーンユニットシステムプラットフォーム(CUSP)を適用したキノコのミニモデルによって実験した際の粒子数の経時変化の結果を示す図である。
【
図11C】
図11Cは、クリーンユニットシステムプラットフォーム(CUSP)を適用したキノコのミニモデルによって実験した際の湿度の経時変化の結果を示す図である。
【
図11D】
図11Dは、ガス交換膜を背面に備えた小形の直方体状のCUSP構成のボックスに消毒機能付き高清浄環境システムを適用した一例を示す側面画像である。
【
図11E】
図11Eは、ガス交換膜を背面に備えた小形の直方体状のCUSP構成のボックスに消毒機能付き高清浄環境システムを適用した一例を示す斜視画像である。
【
図12】
図12は、ブナシメジの二酸化炭素発生量を計算した結果をプロットしたものを示す図である。
【
図13】
図13は、キノコの代謝分析において検出された各物質の濃度を示す図である。
【
図14】
図14は、
図11のCUSPボックスを用いて、その中でアルコールを燃焼させた際の内部のガス分子濃度、湿度、温度の時間変化を示す図である。
【
図15】
図15は、
図11のCUSPボックスを用いて、その中でアルコールを燃焼させた際の内部のガス分子濃度、湿度、温度の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。また、下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0033】
図1Aは、本発明の第1実施形態に係る高エネルギー効率・高清浄環境システム(以下、単に「清浄環境システム」ともいう)を閉空間に適用した実施例を示す断面図である。
図1において、清浄環境システム100は、ガス交換ユニット20と、ファンフィルターユニット30とを備える。ガス交換ユニット20と、ファンフィルターユニット30とは、閉空間10に配置されている。閉空間10は、例えば、プレハブ、倉庫、テント、ビニルハウスのような壁または仕切部材で閉じられた空間を意味する。清浄環境システム100は、濾過機能(ダスト微粒子の除去)とフレッシュエア導入機能(酸素の吸気と二酸化炭素の排気)の両機能の空間的な機能縮退が解かれている。即ち、濾過機能は、閉空間10(閉空間10の内部11)に置かれたファンフィルターユニット30によって発現され、フレッシュエア導入機能は、閉空間10と外界12との間でダスト微粒子を実質的に通さず、気体分子は通す膜(ガス交換膜)で隔てるガス交換ユニット20によって発現される。これにより、濾過機能とフレッシュエア導入機能とが物理的に離れた別の場所で発現される。清浄環境システム100が適用される閉空間10は、外界12との間に気流としてのガス交換のない孤立閉鎖系(クローズド・エアフロー・システム)であるが、分子としてのやり取りは存在する。分子導通的には、オープンシステムになる(即ちオープン・モレキュラー・ディフュージョン・システムである)ということで、在来換気とは一線を画するシステムである。なお、閉空間10は、窓や扉を有していてもよい。本実施形態において孤立閉鎖系(クローズド・エアフロー・システム)とは、窓や扉を閉じた状態で、内部11と外界12との間で気流としての気体の出入りが無い系であるが、ガス交換膜やガス交換ユニットを通じて、分子としての気体の出入りは許容する系である。
【0034】
ここで、在来換気とは、建築基準法など法令で定められた換気を意味する。建築基準法では、換気回数を住居の居室等は0.5回/h以上、これ以外(非居住等)は0.3回/h以上とすることが求められている。換気回数は、居室等の全体の空気が1時間あたりに入れ替わる回数が「換気回数」である。また、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル管理法)では、二酸化炭素濃度を1000ppm以下と設定することで、居室の適切な換気量を確保することが求められている。また、学校環境衛生基準では、換気の基準として、二酸化炭素濃度を1500ppm以下とすることが求められている。
【0035】
ガス交換ユニット20(GEU)は、ガス交換膜25を備える。ガス交換膜25は、閉空間10の内部11と外界12との境界面、すなわち閉空間10の気体(内気1a)と外界12の気体(外気2a)との間の少なくとも一部に配置されている。ガス交換膜25は、閉空間10の気体(内気1a)と外界12の気体(外気2a)の濃度勾配によって気体分子を交換する。閉空間10の内部11で酸素が消費されて酸素濃度が低下し、二酸化炭素が排出されて二酸化炭素濃度が上昇した場合、ガス交換膜25は、外気2aから内気1aに向けて酸素を移動させ、内気1aから外気2aに向けて二酸化炭素を移動させることによってフレッシュエアを導入する。ガス交換ユニット20は、内気1aを取り込む内気入口と、ガス交換膜25によって生成したフレッシュエア1bを放出するフレッシュエア出口とを有する。また、ガス交換ユニット20は、外気2aを取り込む外気入口と、ガス交換膜25によって生成した酸素濃度が低く、二酸化炭素濃度が高い排ガス2bを放出する排ガス出口とを有する。ガス交換ユニット20は、外気2aをガス交換膜25の外界12側の表面に沿う方向に流す外界用送風装置(不図示)と、内部11の気体をガス交換膜25の内部11側の表面に沿う方向に流す内部用送風装置(不図示)とを備える。空気の約78体積%を占める窒素は、閉空間10の内部11と外界12で濃度に差がないかあってもごくわずかである。このため、ガス交換ユニット20では、内気1aと外気2aとの間で窒素は移動しないか移動してもごくわずかである。閉空間10の内部11と外界12との間で交換される気体分子は、ほぼ酸素と二酸化炭素である。このため、閉空間10と外界12との気体分子の交換に伴う熱の拡散が起こりにくい。また、内気1aおよび外気2aは、ガス交換膜25の表面に沿う方向に対向して対称的に流れ、ガス交換膜の両側での圧力差はほぼゼロであるので、気流に乗って移動する気中のダスト微粒子がガス交換膜を横切るための気流がゼロである。更に、内気1aおよび外気2a中のダスト微粒子は(エアロゾルとして空気中を浮遊する新型コロナ等のウイルスを含め)空気の構成分子に比べ桁違いの大きさでありこれらが不織布等からなる目の極めて細かいガス交換膜をブラウン運動を伴う微粒子拡散プロセスによって横切る確率もほぼゼロである。こうして、ガス交換膜25の厚み方向の(エアロゾルとして空気中を浮遊する新型コロナ等のウイルスを含む)ダスト微粒子拡散はほぼ無視することができる。即ち、ガス交換膜25は、ダスト微粒子を実質的に通さない。
【0036】
ガス交換膜25としては、例えば、不織布や和紙を用いることができる。特に不織布がポーラスな構造を持ち、空気層がガス交換膜面に垂直方向には相対的に大きな比率を占めると共に、不織布繊維は、専らガス交換膜面に沿った方向に延び、繊維に沿って走るフォノンが額交換膜面に垂直では無く、水平方向に主に伝搬するよう構成されたものが断熱性向上に向けて有効である(
図3Aの構造は、この一つの極限的な例であると見做せる)。
【0037】
清浄環境システム100で用いるガス交換ユニット20は、分子拡散と熱拡散を独立に制御する。次に、従来換気とガス交換ユニット20とを分子拡散と熱拡散の観点から説明する。
【0038】
従来換気として、温度がToutにある外界の空気を、閉空間の内部に風量F(単位:m3/s)で導入する場合を想定する。時刻t+δtにおける部屋の内部温度をT(t+δt)とし、閉空間の内部体積をV(単位:m3)、空気の密度をρ(単位:kg/m3)、比熱をCp(単位:J/(kg・K))とすると、時刻t+δtにおける閉空間の内部の熱量ρVCpT(t+δt)(単位:J)は、下記の式(I)で表される。
【0039】
【0040】
式(I)から、下記の式(II)が得られる。
【0041】
【0042】
さらに、式(II)から、下記の式(III)が得られる。
【0043】
【0044】
これに対して、ガス交換ユニット20を適用した閉空間10において、内部11に人がいて酸素を消費し、二酸化炭素を排出している場合を想定する。閉空間10の壁や窓(図示せず)など外界12と接する構造体部分の断熱性は十分高く、これらを介した熱の出入りはゼロとみなせるものとする。またガス交換ユニット20に関しても、ガス交換膜以外の部分、即ち筐体やダクト継手など部分の断熱性も十分高く、これらを介した熱の出入りは近似的にゼロとみなせるものとする。この場合、熱の出入りはガス交換膜25を介してのものとなり、ガス交換膜25の密度をρM、ガス交換膜25の比熱をCMとしてガス交換膜25の熱伝導及び気体分子の出入りに伴う熱量の増減を考慮すると、時刻t+δtにおける閉空間内の熱量ρVCpT(t+δt)(単位:J)は、下記の式(IV)で表される(内部で例えば人が活動しているとすると、ガス交換膜25を介して酸素分子は流入、二酸化炭素分子は流出する)。
【0045】
【0046】
ただし、式(IV)において、Vは閉空間10の内部11の体積(単位:m3)、T(t)は時刻tにおける閉空間内部の温度(単位:K)、Aはガス交換膜25の面積(単位:m2)、DTはガス交換膜25の熱拡散係数(単位:m2/s)、Jiは、閉空間10の内部11と外界12の濃度勾配(濃度差)に応じてガス交換膜を介して出入りするガス分子種iのフラックス(流束)(単位:1/(m2・s))である。もし、ガス交換ユニットのガス交換膜以外の部分、即ち筐体やダクト継手などその他の部分を通じて部屋(閉空間)と外界の間に有限の熱伝導が残存する場合でも、これらの部分からの熱伝導分をガス交換膜を介した熱伝導分に加えたガス交換ユニット全体での熱伝導に対して改めてDTと定義することで以下の解析式はそのまま成立する。右辺第2項は、ガス交換膜25を介した熱伝導による熱の出入りを、また、第3項は、分子一個あたり、オーダーにして約1kTの熱エネルギーを運ぶとして、閉空間10を出入りする分子に伴う熱の出入りを示す(εiは、分子が流出する際には-1、流入する際には、+1を取る)。ここで、温度Tiは、分子種iの分子の移動元の温度、即ち、分子が流出するときは閉空間内部の温度Tin、流入する際には、外部温度Toutを取る。人の活動に関わらない窒素の濃度は閉空間10の内部11と外界12で共通であり、通常は、酸素と二酸化炭素を考えればよいので、式(IV)は、下記の式(V)に示すように簡略化できる。
【0047】
【0048】
ただし、式(V)において、JO2は酸素のフラックス(単位:1/(m2・s))、JCO2は二酸化炭素のフラックス(単位:1/(m2・s))であり、関数形としては、各々の拡散係数を用いて、下記の式(VI)で与えられる。δT/δxを考えるに際しては、位置座標の原点として内外界面を取り、外側を正、内側を負ととる。右辺の第3項、第4項は、ガス交換膜25を介した各々酸素分子、二酸化炭素分子の移動(拡散)に伴う熱量の出入りである。例えば、菌類・植物の成長やヒトの呼吸等に伴う水分の発生も厳密に考慮する場合は、上式の二酸化炭素の項の後に、同じく負号を伴う水蒸気のフラックスの項を追加してもよい。
【0049】
【0050】
ただし、式(VI)において、φは閉空間10の内部11の単位体積当たりの当該ガス分子数(単位:1/m3)、Dはガス分子拡散係数(単位:m2/s)であり、ガス交換膜25に垂直な方向をx軸としたとき、∇はこのx軸方向の微分演算子である。
【0051】
式(V)より、下記の式(VII-a)と、酸素と二酸化炭素以外のガス分子も考慮した一般式(VII-b)が得られる。
【0052】
【0053】
【0054】
前段の議論から分かるように、上記の式(VII-a)及び、式(VII-b)において、右辺第1項はガス交換膜の熱伝導による項で、右辺第2項は、ガス分子交換による熱伝導による項である。ガス交換時における熱移動(温度変化)に対し、何が支配的な要素であるかが示された。即ち、熱流の支配要素が、(部屋全体およびガス交換ユニットGEU筐体の断熱性が担保された上では)ガス交換膜の熱伝導による寄与とガス分子交換による熱伝導による寄与の2つであることが解析的に明らかになった。また、第2項と3項は、独立に制御できる(同じガス交換能力を持ちながら、異なる伝導率を持つ不織布は無数に存在し得る)。更に、本発明では、この2つ項の存在が明示的に示され、峻別されたことで、エネルギー効率最適化に向けて、その技術思想の具現化を行うことができる。即ち、ガス交換に伴い分子が運ぶ熱量(上記式VII-bの右辺第2項)は、最低限の熱移動として甘受せざるを得ないが、ガス交換膜を通じての熱伝導による寄与(同式の右辺第1項)は、同第2項の分子移動とは独立であるので(ガス交換膜の面積A、厚みL、密度ρM、前記ガス交換膜の比熱CM、前記ガス交換膜の熱拡散係数DTを適切に設定することで)これを適切に制御できる(関連して、後出の式(X)及び式(1)参照のこと)。これにより、当該ガス交換膜を伝導により横切る熱量、すなわち内外出入熱流を制御することが可能となり、本発明における換気に於いて失われる熱量を、在来換気を適用した場合の換気で失われる熱量に比べ、制御性良く小さくすることが可能となり、高エネルギー効率・高清浄環境システムが実現する。
【0055】
呼吸または燃焼による酸素、二酸化炭素の変化の比は、呼吸商の値からも分かる通り、良い近似で1とみなせるので、δt→0の極限を取ると、式(VII-a)と、一般形の式(VII-b)から式(VIII-a)と、一般形の式(VIII-b)が得られる(クローズドエアフローシステムを用いた本発明の技術思想では、更に精度を上げて糖質、脂質、たんぱく質に対する呼吸商の差を弁別した高位の二酸化炭素プッシュプル・スマート農業が可能であることに留意されたい)。
【0056】
【0057】
【0058】
ガス交換膜25の厚みLは、閉空間10のサイズに比べると2桁以上小さいので、δT/δxは、下記の式(IX)で示す差分で置き換えることがよい近似となる。
【0059】
【0060】
在来換気の熱流入の式(II)と、ガス交換ユニット20を用いた拡散換気の熱流入の式(VIII-a)と比較すると、式(IX)を踏まえて、下記の式(X)が得られる。
【0061】
【0062】
また、在来換気の熱流入の式(II)と、ガス交換ユニット20を用いた拡散換気の熱流入の式(VIII-b)と比較すると、同じく式(IX)を踏まえて、下記の式(1)が得られる。
【0063】
【0064】
上記の式(X)または式(1)を満たすようにガス交換膜(或いは段落0052に記したガス交換ユニット全体)の熱拡散係数DTを有するガス交換ユニット20は、在来換気と比較して温度変化を小さくすることができ、空調の消費電力を下げることができる。
【0065】
ここで、式(X)は、後述の式(XIV)と式(XV)を結んだ際と同様の式変形によって、更に下記の式(XI)へと導かれる。
【0066】
【0067】
さらに、式(XI)は、下記の式(XII)で表すことができる。
【0068】
【0069】
これまでの式変形及び議論から分かるように、式(XII)において、左辺第1項はガス交換膜の熱伝導に起因する項で、左辺第2項は、ガス分子交換による熱伝導に起因する項である。ガス交換膜の熱伝導に起因する式(XII)の左辺第1項は、DTを小さくすることで十分小さくできる。他方、左辺第2項のkNAは気体定数R(=8.314Jmol-1K-1)に等しい。Cは、気体1モルあたりの体積で、22.4L/molが良い近似である。ρは気体の密度で空気では1.3Kg/m3(二酸化炭素もほぼ等しいオーダーであり1.9Kg/m3)である。比熱Cpは、空気では約1000JKg-1K-1(二酸化炭素は、約837JKg-1K-1)である。よって、式(XVIII)中のKNA/CρCpは、8.314Jmol-1K-1/(22.4L/mol・1.9Kg/m3・8370JKg-1K-1)=0.233~O(1)、即ち1のオーダーの数である。ADCO2/Lは、クリーンユニットシステムプラットフォーム(CUSP)の換気性能への要求から在来系の要求換気風量(即ち、式(XII)の右辺のF)に等しいかややこれより大きいが、いずれにせよオーダーFの量である。他方、ηin-ηoutは、閉空間10の内部11の二酸化炭素のバックグラウンド(或いは外界12の二酸化炭素濃度)からの増分で、法令などにより1000或いは1500ppmであることが求められ、通常は、多くても数千ppm以下であり、1万ppm(1%)を超えることは健康維持の観点からも厳に忌避されている。従って、ガス分子交換による熱伝導に起因する式(XII)の左辺第2項は右辺に比べ2桁以上小さく、(上述の十分小さくできる式(XII)左辺第1項と相俟って)機械換気に比べて部屋内と外界の間で入れ替える気体分子の総量が圧倒的に小さいGEUに基づく拡散換気の有効性が定量的に示された。なお、ηin-ηoutが1万ppmである場合、式(XII)は下記の式(2)で表される。
【0070】
【0071】
上記の式(XII)および式(2)から、ガス交換を実現する分子移動に伴う熱量の移動は、つまり、左辺第2項の大きさは、本発明の技術的思想である拡散換気では、室内空気を全部入れ変えることによる在来換気に比べ、百分の一以下とできることが判る。トータルでの熱のロスを最小にするには、式(XII)および式(2)の左辺第1項が示す、ガス交換膜25を介した熱伝導を極力小さくすることが有効であることが判る。上述の通り、薄手のガス交換膜25を間に空気層を挟んで二重にしたり、ポーラスな不織布、あるいは長めの繊維がガス交換膜の膜面方向に走ることで、面に垂直な方向のフォノン伝導が抑えられた不織布などがこれに寄与する。これにより、式(XII)の不等式が成立し、在来換気に比べ、換気に伴う熱量の損失を少なくすることができる(SDGs実現などに向け、貢献することができる)。
【0072】
ガス交換ユニット20は、外界12との間で気流としてのガス交換のない孤立閉鎖系を構成する閉空間10の気体と、外界12の気体との間の少なくとも一部に配置され、閉空間10の気体と外界の気体との濃度勾配によって気体分子を交換しダスト微粒子を実質的に通さないガス交換膜25を有し、ガス交換膜25を伝導により横切る熱量は、在来換気法を適用した場合の換気で失われる熱量に比べて十分に小さい。
【0073】
ガス交換ユニット20はまた、外界12との間で気流としてのガス交換のない孤立閉鎖系を構成する閉空間10の気体と、外界12の気体との間の少なくとも一部に配置され、閉空間10の気体と外界の気体との濃度勾配によって気体分子を交換しダスト微粒子を実質的に通さないガス交換膜25を有し、ガス交換膜25の面積をA(単位:m2)、ガス交換膜25の厚みをL(単位:m)、ガス交換膜25の密度をρM(単位:kg/m3)、ガス交換膜25の比熱をCM(単位:J/(kg・K))、ガス交換膜25の熱拡散係数をDT(単位:m2/s)とし、kをボルツマン定数、空気の比熱をCp(単位:J/(kg・K))、空気の密度をρ(単位:kg/m3)、分子種iの拡散係数をDi(単位:m2/s)、空気中の分子種iの単位体積当たりの数をφi(単位:1/m3)、ガス交換膜25を横切る方向の微分演算子をδ/δx、閉空間10に在来換気を適用した場合の必要換気風量をF(単位:m3/s)としたときに、上記の式(1)を満足する構成とされている。
【0074】
また、ガス交換ユニット20は、アボガドロ数をNA、系内の圧力における1モル当たりの気体体積をC(単位:m3)、二酸化炭素の熱拡散係数をDCO2(単位:m2/s)としたときに、上記の式(2)を満足する構成とされている。
【0075】
次に、閉空間10の内部11のガス分子濃度について説明する。閉空間10の内部11のガス分子濃度η(t)は、下記の式(XIII)の微分方程式を満足する。
【0076】
【0077】
ただし、式(XIII)において、Aはガス交換膜25の面積(単位:m2)、Lはガス交換膜25の厚み(単位:m)、Dはガス交換膜25中の注目するガス分子(酸素分子等)の拡散係数(単位:m2/s)、Bは閉空間10の内部11での呼吸等による酸素消費・二酸化炭素発生レート(消費される酸素では正の値となり、二酸化炭素やその他の体外に放出されるガスでは負の値となる)(単位:m3/s)、η0は閉空間10の外界12の当該ガス分子濃度(単位:無次元)である。
【0078】
孤立閉鎖系を構成する閉空間10の内部11においては、アボガドロ数をNA、系内の圧力(~1気圧)における1モル当たりの気体体積をC(単位:m3)、ガス交換膜25を通して閉空間10の内部11に導入される注目するガス(酸素等)のフラックス(流束)をj(単位:1/(m2・s))とすると、時刻t+δtにおける当該ガスの体積Vη(t+δt)は、時刻tにおける当該ガスの体積Vη(t)を使って、下記の式(XIV)で表される。
【0079】
【0080】
閉空間10の内部11では、ファンフィルターユニット30により発生する空気流により、閉空間10の内部の空気は十分早くかき回され十分早く空間的に均一化するので、閉空間10の内部11内の空気を構成するガス分子濃度の空間座標依存性を良い近似で無視することができる。上記式(XIV)の右辺第3項は、ガス交換膜25の両側(即ち閉空間10の内部11と外界12)での当該ガスの濃度差(濃度勾配)のために流入してくる当該ガスの分子の数である(空気流としてではなく、分子の拡散として当該ガスが閉空間10の内部11に入ってくるのである)。式(XIV)において、jは、前出の式(VI)で与えられる。式(XIII)中のLは、ガス交換膜25の厚みであり、100μmオーダーであり、極めて薄く、閉空間10の空間の差し渡し(数m~数十m)に比べ3桁以上程度小さい。このため、式(XIV)は、下記の式(XV)と高い精度で近似することができる。
【0081】
【0082】
境界条件としてt=0の時の濃度η(0)は、外部の濃度η0に等しく、式(XIII)と式(XIV)におけるのと同様に、当該ガスが酸素(または二酸化炭素)である場合は通常20.9%程度(または440ppm)である。式(XIV)より、下記の式(XVI)の微分方程式が導かれる。
【0083】
【0084】
式(V)式の厳密解は、下記の式(XVII)で表される。
【0085】
【0086】
ここで、右辺のexp(-[AD/L]t/V)=0とおくと、時刻tにおける当該ガスの濃度(例えば酸素濃度)は、下記の式(XVIII)で表される(式(XVII)でt→∞とした場合に一致する)。
【0087】
【0088】
例えば、式(XVIII)において、人が閉空間10の内部11に滞在することで、消費される酸素のようなガスの場合は、Bは正であるが、二酸化炭素のように閉空間内で生成するガスの場合は、Bは負の値を取る。
【0089】
式(XVIII)より、在来換気における機械換気風量F(単位:m3/s)に当たる量は拡散換気ではAD/L[次元解析を行うと、m2・m2/s・1/m=m3/sであり、風量の次元に一致するもの]であり、F=AD/Lの対応関係が成り立つ。当該拡散は、室温Tに対応する熱エネルギーkTによって、熱力学第2法則に従ってエントロピー増大の方向に生じるもので、原理的には電力を必要としない。拡散換気は、機械換気に比べ圧倒的に消費電力はより少なくて済む。
【0090】
即ち、
図1に示す清浄環境システム100のガス交換ユニット20では、孤立閉鎖系を構成する閉空間10の一部にガス交換膜25を用いた分子拡散を通じて、閉空間10の内部11のガス分子濃度を制御することができる。ガス交換ユニット20では、少なくともその一部に面積A、厚みL、分子拡散係数Dを有するガス交換膜25を用いることで、上記のF=AD/Lなる対応原理(スケーリング則)に従って機械換気風量Fと同等の換気が実現できる。ガス分子濃度を空気流の出し入れに頼ることなく、対応の必要な分子のみに着目してその濃度を制御できる。窒素や室内空気に含まれる水蒸気成分も含め一回合切を入れ替えていた在来型機械換気と対照的に、本発明では、環境中立な成分である窒素を動かさず(かつ、内気の水蒸気成分も室内外水分子濃度に応じて、その差分のみ出し入れし)、また拡散を引き起こすものは空気を構成するガス分子の熱運動であるので特に付加的な電力も要しない、極めて省エネ効果の大きい重要な技術である。
【0091】
ガス交換ユニット20において、閉空間10の体積をV、ガス交換膜25における着目する気体のガス分子拡散係数をDi、(i=1,..N)(単位:m2/s)、ガス交換膜25の厚みをL(単位:m)とした時、上記体積Vとガス交換膜25の面積A(単位:m2)とを、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設計が行われ、閉空間における当該着目する気体の消費または発生消費レートをBi(単位:m3/s)、外界12と平衡状態にあり閉空間10で当該着目する気体の消費または発生の無いときの当該ガスの体積をVi(単位:m3)、閉空間10内における当該着目する気体の目標濃度をηi(単位:無次元)としたとき、ガス交換膜25の面積Aが下記の式(3)を満足するように設定されている構成とされている。
【0092】
【0093】
上記ガスの一例として酸素ガスに着目する。この場合、ガス交換ユニット20は、閉空間10の内部11の体積をV(単位:m3)、ガス交換膜25の酸素の拡散係数をD(単位:m2/s)、前記ガス交換膜25の厚みをL(単位:m)としたとき、体積Vとガス交換膜25の面積A(単位:m2)とを、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設計が行われ、閉空間10の内部11の酸素消費レート(単位:m3/s)をB、外界12と平衡状態にあり閉空間10の内部11で酸素消費の無いときの酸素体積をVO2(単位:m3)、閉空間10内における目標酸素濃度(単位:無次元)をη(η>0.18)としたとき、ガス交換膜25の面積Aが下記の式(4)を満足するように設定されている構成とされている。
【0094】
【0095】
ファンフィルターユニット30は、閉空間10の内気1aを吸引する開口と、吸引された内気1aを粒子数密度および分子濃度の双方に関して清浄化処理後、その全量を、清浄空気1cとして、再び、閉空間10の内部11に戻す吹き出し口とを有する。塵埃捕集効率γは0<γ<1である。ファンフィルターユニット30としては、中性能フィルターを用いたファンフィルターユニット(FFU)を利用することができる。ファンフィルターユニット30は、閉空間10の内気1aを取り込んで、内気1a中のダスト微粒子を捕集して、ダスト微粒子濃度が低減した清浄空気1cを閉空間10の内部11に導入する。ここで、ダスト微粒子には、閉空間10の内部11に浮遊する微生物(ウイルスや細菌)、粉塵(ダニ、花粉、放射性物質を含む塵埃等)等を含む微粒子全般が含まれる。
【0096】
図1に示すような、少なくとも内外境界面の一部がガス交換膜25により形成された閉空間10の内部11におけるダスト微粒子の数密度n(t)は、下記の式(XIX)なる微分方程式で表される。
【0097】
【0098】
ただし、式(XIX)において、Vは閉空間10の内部の体積(単位:m3)、Sは、使用者の衣服や家具などの外表面積と閉空間10の内部11の表面積の和(単位:m2)、σは単位面積・単位時間当たりのダスト微粒子発生量(単位:1/(m2・s))、Fcはファンフィルターユニットの風量(単位:m3/s)、γはファンフィルターユニットのダスト微粒子捕集効率(単位:無次元)である。
【0099】
式(XIX)を解くと、下記の式(XX)が得られる。
【0100】
【0101】
ただし、式(XX)において、t=0のときのダスト微粒子の数密度n(0)=N0とした。t=∞のときのダスト微粒子の数密度n(∞)は、下記の式(XXI)で表される。
【0102】
【0103】
在来系クリーンルームの濾過で使用されているHEPAフィルターやULPAフィルターは、γが極めて1に近く目詰まりしやすいのみならず、圧力損失も大きくならざるを得ないのに対し、本実施形態のシステムでは、式(XXI)より分かるように、γが1に近いことは、必ずしも重要ではない。実際、
図1Bに示すように、(後出の
図9A或いは
図10に示す実験で用いた)約95%の塵埃捕集効率のフィルター(中性能フィルター)を備えたファンフィル―ユニット(FFU)が、本発明のクローズドエアフローシステムにおいて齎すシステムとしてのトータルな塵埃捕集効率は、HEPA,ULPAフィルターに勝るとも劣らない高性能を発揮しうる。
図1Bで、粒径が大きいところで、捕集効率が高まるのは、粒径が大きいほど捕集されやすいというサイズ効果であり、粒径が非常に小さいところで、捕集効果が高まるのは、当該微粒と空気を構成する分子との衝突によるブラウン運動の振幅が大きくなる(衝突・散乱により微粒子の空間的な拡散が相対的に大きくなり、微粒子の方からフィルターの不織布繊維に突っ込んできて捕集される)ためである。内気が繰り返しFFUを通過するための、一回通過当たりの塵埃補修効率はHEPAやULPAに劣るものの、本システムはクローズドエアフローシステムであり、同じ空気が何度もFFUを通過するため、本系における塵埃数の総和は、公比1-γで減少する無限級数の和に比例し、その収束値は、1/{1-(1-γ)}=1/γに比例することとなり、まさに、上で求めた式(XXI)のγ依存性に一致する。例えば、今、簡単のため、γ=0.9の中性能フィルターであったとすると、1/γ=1/0.9=1.11であり、理想的なγ=1の場合(これは実際には目詰まり耐性の観点上、不可能である)に比べても、清浄度は11%しか劣化しないが、相対的なフィルターの“目の粗さ”のお陰で、圧力損失的には大きく減少して、静穏性を得るとともに消費電力が非常に少なくて済む。更に、実際には、ファンフィルターユニットの運転を開始してから十分に時間が経った時(t>10V/γF
c)には実質的に式(XXI)の究極のダスト微粒子数密度が得られる。すなわち高効率の浮遊粒子数制御が可能となることが分かった。またこれにより、重要な3つのパラメータのひとつである浮遊塵埃数(浮遊菌や菌含有エアロゾルを含む)の制御において、フィルターの目詰まりが僅少で痛まない、電力消費も極小の静穏清浄空間が実現し、SDGsに大いに資することができる。この事実に、段落0054に述べた、3つのパラメータのもう一つである内外出入熱流の制御において、極小の熱エネルギー損失性を実現できることに加え、更に、3つのパラメータの残る一つである段落0090にも示したガス分子濃度の制御において、分子拡散が室温における熱エネルギーkTにより実現すること(在来の機械換気におけるファン駆動電力などの余分な電力を要しないこと)の計3つの相乗効果により、超低消費電力にて高清浄度、高空気質、高効率熱マネジメントが実現する。この重要3項目には、上述の通り、共通して拡散過程が内在または付随しており、本発明における3項目の飛躍的向上の実現には、発明者による浮遊粒子数、高空気質、内外出入熱流の3パラメータに内在または付随する拡散過程の制御の実現が大きく寄与している。すなわち本発明では、当該閉空間の浮遊粒子数、ガス分子濃度、内外出入熱流の3つのパラメータに対し、当該3つのパラメータに内在または付随する拡散過程一気通貫で同時制御する高エネルギー効率・高清浄環境システムを実現することが可能となっている。上記3つのパラメータに内在または付随する拡散過程の制御として、(上記3パラメータの順に)“数式(XIX)~数式(XXI)と
図1Bに示す結果”、“数式(XIII)~数式(XVIII)と数式(3)”、及び“数式(IV)~(XII)或いは数式(1)と数式(2)”をベースとして、清浄環境システム100は、例えば、浮遊粒子計測器、ガス分子濃度計測器、湿度・温度計測器(制御器)の各種センサー及びファンフィルターユニットに電気的に接続されたコンピュータを備え、上記複数のセンサーからの入力信号に基づいて1又は複数のファンフィルターユニットの駆動を制御することができる。また、清浄環境システム100は、上記入力信号に加えて、
図2に示す環境モニタリング装置や
図14,
図15に示す各物質量を計測する計測器等の他の装置、センサーのうちの1又は複数からの入力信号に基づいて、1又は複数のファンフィルターユニットの駆動を制御してもよい。
【0104】
清浄環境システム100は、クローズドエアフローシステムであるため、ファンフィルターユニット30から導入された清浄空気1cの全量が、内気1aとしてファンフィルターユニット30の吸気口に還流する。このため、ファンフィルターユニット30を連続的に作動させて、ファンフィルターユニット30に内気1aを繰り返し通過させることによって高い濾過効果を得ることができる。
【0105】
本実施形態の清浄環境システム100では、ファンフィルターユニット30が配置された閉空間10で人類への有用生物を育てる。人類への有用生物とは、人類が有用し得る菌類、植物、動物などの生物を意味する。菌類としては、例えばキノコ類、植物としては、例えば野菜、果実などが挙げられる。人類とは、典型的にはヒトである。これにより、以下を実現可能とする。
(1)CO2-pullの食糧生産として、光合成を行う野菜の栽培や果実の栽培を取り、これと上記のCO2-pushの食糧生産と結合することで、キノコ栽培の効率化と光合成増大による収量増加を両立する。
(2)資源としてのCO2のリユース・リサイクルに向けた体制を構築する。
(3)高い生産性と両立する持続的生産体系へ転換し、新システムを確立する。
(4)データ・AIの活用による加工・流通の合理化を行うことで、CO2-pushの食糧生産、CO2-pullの食糧生産の各々、並びにその結合系で最適化する。
(5)クローズドエアフローシステムをデータ・AIの活用した施設農業に組み込むことで、食糧生産を工業化し、食品ロスの削減など持続可能な消費の拡大を実現する。
(6)抗生物質耐性を有する細菌等の発生のリスクフリーな糞などの堆肥利用、次世代有機農業を実現する。
(7)鳥インフルエンザや口蹄疫などの病液のリスクの小さい、次世代CO2-push農業とCO2-pull食糧生産を結合する。
(8)上記の要素技術を展開することで、狭い国土の日本が、将来の宇宙農業実用化の一番乗りを果たすための要素技術を確立する。
【0106】
クリーンユニットシステムプラットフォーム(CUSP)の孤立性・閉鎖性を活用して、非接触、非侵襲にてCUSP内に格納された生物種(動物、植物、菌類)の内部や体表面から出てくるガス或いは揮発性分子を検出し、定量的にモニタリング・分析することにより、例えば
図2のような清浄環境システムにより、内部の高清浄性・無塵性・無菌性を維持しつつ、二酸化炭素を出す側(キノコ等)と二酸化炭素を引き込む側(野菜、果実)の栽培を結合させた二酸化炭素プッシュプル農業を実現することができる。
【0107】
図2は、本発明の第2実施形態に係る清浄環境システムを複数の閉空間に適用した実施例を示す平面図である。
図2に示すように、清浄環境システム200は、ガス交換ユニット20A,20B,20C,20Dと、ファンフィルターユニット30A,30B,30C,30Dとを含む。ガス交換ユニット20A,20B,20C,20Dと、ファンフィルターユニット30A,30B,30C,30Dとは、それぞれ部屋10A,10B,10C,10Dに配置されている。部屋10A,10B,10C,10Dの各々は、壁または仕切部材で閉じられた空間を意味する。
【0108】
部屋10A,10B,10C,10Dの各々は、扉61を介して通路62と隣接している。部屋10A,10B,10C,10Dの各々と外部との間には前室63が設けられており、部屋10A,10B,10C,10Dの各々は、扉64を介して前室63とも隣接している。前室63と外部との間には扉65が設けられている。通路62にはファンフィルターユニット66が、前室63にはファンフィルターユニット67がそれぞれ配置されている。
【0109】
ガス交換ユニット20A,20B,20C,20Dは、外界との間で気流としてのガス交換のない孤立閉鎖系を構成する部屋10A,10B,10C,10Dの気体と、前記外界の気体との間の少なくとも一部に配置され、部屋10A,10B,10C,10Dの気体と外界の気体との濃度勾配によって気体分子を交換しダスト微粒子を実質的に通さないガス交換膜25A,25B,25C,25D(第1のガス交換膜)を有している。ファンフィルターユニット30A,30B,30C,30Dは、それぞれ部屋10A,10B,10C,10Dに配置される。
【0110】
また、清浄環境システム200は、ガス交換ユニット20E,20Fを更に含む。ガス交換ユニット20Eは、部屋10Aの気体と部屋10Bの気体との間の少なくとも一部に配置され、部屋10Aの気体と部屋10Bの気体との濃度勾配によって気体分子を交換しダスト微粒子を実質的に通さないガス交換膜26A(第2のガス交換膜)を有している。ガス交換ユニット20Fは、部屋10Cの気体と部屋10Dの気体との間の少なくとも一部に配置され、部屋10Cの気体と部屋10Dの気体との濃度勾配によって気体分子を交換しダスト微粒子を実質的に通さないガス交換膜26B(第2のガス交換膜)を有している。ガス交換ユニット20Eは、部屋10Aと部屋10Bとを連通又は遮断する開口部を有していてもよい。また、ガス交換ユニット20Fは、部屋10Cと部屋10Dとを連通又は遮断する開口部を有していてもよい。
そして、CO2を排出する生物種(CO2 pusher)、例えばキノコが存在する部屋10B,10D内の空気と、CO2を吸収する生物種(CO2 puller)、例えば野菜が存在する部屋10A,10C内の空気とが、ガス交換膜26A,26Bを介して隣接している。
【0111】
図3Aは、
図2におけるガス交換ユニット20Aの模式図である。ガス交換ユニット20Aの構成は、内気1aおよび外気2aがガス交換膜25の表面に沿う方向に並行して流れること以外は、第1実施形態のガス交換ユニット20の構成と基本的に同じである。ガス交換ユニット20B,20C,20Dの構成は、ガス交換ユニット20Aと同一である。
【0112】
ガス交換ユニット20E(
図2)では、部屋10A内の空気および部屋10B内の空気がガス交換膜26Aの表面に沿う方向に並行して流れてもよいし、ガス交換膜26Aの表面に沿う方向に対向して対称的に流れてもよい。同様に、ガス交換ユニット20Fでは、部屋10C内の空気および部屋10D内の空気がガス交換膜26Bの表面に沿う方向に並行して流れてもよいし、ガス交換膜26Bの表面に沿う方向に対向して対称的に流れてもよい。
【0113】
部屋10A,10B,10C,10Dのうちの少なくとも1つは、太陽光の導入が許容されるように透明部材で閉じられた空間である。例えば、部屋10A,10B,10C,10Dのうちの部屋10A,10Cは、典型的には、ガラス板で画定され、野菜などの光合成体を収容するグリーンハウスである。
【0114】
清浄環境システム200は、部屋10Aを画定すると共に光導波路を構成するガラス板41A,42Aと、ガラス板41A,42Aのそれぞれに光学的に接続され、ガラス板41A,41Bから太陽光のうちの一部の光成分が導入される太陽電池43A,44Aを備えている。清浄環境システム200は、部屋10Cを画定すると共に光導波路を構成するガラス板41C,42Cと、ガラス板41C,42Cのそれぞれに光学的に接続され、ガラス板41C,42Cから太陽光のうちの一部の光成分が導入される太陽電池43C,44Cを備えている。
【0115】
図4は、野菜栽培を行うグリーンハウスのガラス板41Aを利用した2次元受光・発電分離型(2DPRCS)太陽光発電を説明する模式図であり、
図5Aは、
図4の太陽光進行の配置において、散乱体が横棒配置となっている場合を示す部分拡大模式図、
図5Bは、
図5Aの散乱体配置においてX軸方向から見たガラス板41Aの構成を示す部分拡大模式図である。代表して、部屋10Aの一面に設けられる2次元受光・発電分離型(2DPRCS)太陽光発電を説明する。本実施形態では、部屋10Cの一面にも、上記と同様の構成を有する2次元受光・発電分離型(2DPRCS)太陽光発電が設けられている。
図4に示すように、部屋10Aを画定するガラス板41Aは、例えば、SiO
2を主成分とする母材411Aと、母材411A中に含有され、異方性をもって分散配置された長尺状の散乱体412Aとを有している(
図5A及び
図5B)。本実施形態では、散乱体412Aは、その長手方向がX軸方向に沿って配向している。散乱体412Aの材料は、例えば、効率的な散乱体として、気泡があげられる。ガラス板41Aの形成方法としては、例えば、母材前駆体中に存在する球形の気泡をガラスの延伸により延伸方向に沿って紡錘体或いは棒状の構造を形成することができる。部屋10Aを画定する部材は、ガラス板41Aに限らず、樹脂板であってもよい。また、ガラス板や樹脂板での散乱体は、気泡に限られず、導波路の母材であるガラスや樹脂と異なる屈折率を持つ(考慮する波長隊の光に対しできるだけ透明に近い)物質が母材に添加されていてもよい。
【0116】
図5Cは、グリーンハウスの側壁を構成するガラス板或いは樹脂板中を進行する光に対して、上記散乱体が横棒として配置される(
図5A)場合と縦棒として配置される(
図5B)場合における相対透過効率を、散乱体の長手方向の長さ(棒長)で規格化した波長の関数として示す計算結果の図である。
図5Cより、上記の気泡が横棒として配置される場合は、相対的に赤、青に比べ緑色帯の光波長に対して散乱が増えるが、縦棒として配置される場合はあまり波長(色)に依存することなく散乱が少ないことが分る。ガラス板41Aの主面に太陽光が入射すると、該太陽光のうち緑色の光成分が、ガラス板41A内で散乱体412Aによって当該散乱体412Aの配向方向、すなわちガラス板41Aの面内方向(X軸方向)に沿って進行する。このようにガラス板41Aは、太陽光のうち赤色の光成分と青色の光成分を透過し、緑色の光成分を当該ガラス板41A内を端面に向かって導波させる2次元導波路をなしている。赤色の光成分及び青色の光成分はグリーンハウス内の植物の育成に使用され、また緑色の光成分は、ガラス板41A内を導波して、ガラス板41Aの端面に配置された太陽電池の光電変換素子により電力に転換される。本構成によれば、部屋10A,10C内に存在する野菜の成長にはほとんど影響を与えず、太陽光のうちの緑色の光成分を使って2次元導波路を用いた2次元受光・発電分離型(2DPRCS)太陽光発電を行い、この電力を蓄電することで、夜間のLED光による人工栽培の電力の一部を賄うことができる。
【0117】
本実施形態では、太陽光あるいは人工光を併用することを想定しており、太陽光利用時には、赤色の光成分と青色の光成分は、グリーンハウス内に透過させるものの、葉緑素が緑色であることからも分かるように光合成であまり用いられない緑色の光成分は、2DPRCSの導波路としてのガラス板の端面へガラス面自体を導波路として導き、ガラス板の端面に設置されている太陽電池で電力に変換して蓄電することで、夜間の人工光による野菜栽培時の電力の一部として利用することができる。これにより、太陽光発電と農業を同時に且つ同じ場所で行うことができるという核心的かつ革新的な技術が提供される。キノコ、野菜ともに計画生産が可能となるので、食品ロスの削減になり、価格の安定と相俟って、持続可能な消費の拡大へ繋げることができる。更に、高付加価値の総合的農業・畜産・養鶏(スマート農業・畜産・養鶏・食用昆虫養育)を実現し、最終的には、CUSP閉鎖環境と親和性のある宇宙空間CO2ゼロエミッション農業を実現する。
【0118】
また、清浄環境システム200は、部屋10A,10B,10C,10Dのそれぞれに配置された環境モニタリング装置50A,50B,50C,50Dを備えていてもよい。ユーザは、外部に設置された遠隔環境制御・モニタリング室51にて、環境モニタリング装置50A,50B,50C,50Dによって、部屋10A,10B,10C,10Dのそれぞれに存在する1又は複数の生物種をモニタリングすることができる。更に、清浄環境システム200は、部屋10A,10B,10C,10Dのそれぞれに対応して設置された湿度・温度制御器52A,52B,52C,52Dを備えていてもよい。これにより、部屋10A,10B,10C,10Dの湿度及び/又は温度を制御することができる。
【0119】
図1に示すガス交換ユニット20(以下、単にGEUともいう)は、以下のような構造を持つ。
GEUのガス交換能力を最大化する為に、以下の理論考察を行い有用な結果を得た。今、GEUにおける分子拡散による換気(室内気と外気間のガス交換)を考える。前出の式(XIV)、
【0120】
【数30】
において、微小時間変化dtは、GEUの気体の流速vを用いて、dx/vでおきかえることができる。また、
図3AのGEUにおいて、ガス交換が定常状態に達しているとすると、時間に対する変化はないとして、空間に沿っての分布のみを考えればよい(上記の場合は、フィルトレーション用のFFUの風量Fで室内気がかき混ぜられ、拡散と相まって、濃度が室内で空間的に一定であり、時間変化のみを考えればよかったのと、時間変数tと空間変数xを丁度入れ替えた状況になっていることは極めて好対照であり、興味深い)。
【0121】
さて、まず平行流の場合は、区間(x、x+dx)において、外気側と内気側で気体分子拡散により酸素濃度が変化するが、外気については、xからx+dxに位置が変わるとその地点の酸素濃度は、内気側の酸素濃度が外気に比べて相対的に低いので、その濃度差に応じて、酸素分子は内気側に拡散するので、酸素濃度はその分低下し、x=x+dxにおける酸素濃度は
【0122】
【数31】
で与えられる。他方、GEUにおける内気側の酸素濃度は、外気側で減った分、増加して
【0123】
【0124】
ここで、区間(x,x+dx)と奥行き(y)方向の単位長さで張られる面積がAであり、これにz方向の長さ(
図3Aのガス交換膜と筐体壁の間の距離d)で張られる空間の体積がVであるので、A/V=1/dと置き換えることができる。上記式(6)において、右辺第一項を左辺に移項して、δxで除し、δx→0の極限を取ることにより、2つの微分方程式が得られる。GEUの外気通路においては、
【0125】
【0126】
【数34】
となる。式(7),式(8)を足し引きすると
【0127】
【0128】
【0129】
まず式(9)は、簡単に積分され、C1を積分定数として、
【0130】
【数37】
が得られる。次に、式(10)は、η
out(x)- η
in(x)=Xと変数変換すると、
【0131】
【数38】
となることから、C
2を積分定数として、
【0132】
【0133】
【数40】
が得られる。
式(12)と式(8’)より
【0134】
【0135】
【数42】
が得られる。
境界条件として、GEUの入口=0で、外気、内気は、各々、η
high及びη
lowなる一定値であるとすると
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【数48】
が得られる。式(20),式(21)より、xが大きいとき(即ちGEUの風流方向の長さlを十分長くすると)、内気、外気ともに、各々のx=0における値の平均値である(η
high+η
low)/2に収束することがわかる。実際、
図3Bに示すように、平行流において相対的に流速が遅く十分拡散が起こると、酸素濃度は、室内機と外気の平均の値に収束することが分かる。
【0142】
次に、GEUにおける内気と外気が反平行流である場合を考える。外気は、平行流の場合と同じようにx=0において導入されるものとし、内気側は、平行流の場合と180度方向を転換し、x=lから、x=0に向かって流すことで、反平行流を形成するものとする。
上記の反平行流の設定の下では、外気については平行流の場合と同様に、xからx+dxに位置が変わるとその地点の酸素濃度は、内気側の酸素濃度が外気に比べて相対的に低いので、両者の濃度差に応じて、酸素分子は内気側に拡散するので、x=x+dxにおける酸素濃度は、式(5)と全く同じく
【0143】
【数49】
で与えられる(ここでA/V=1/dを用いた)。
【0144】
他方、内気については、平行流の場合と180度異なる方向に気体が流れるので、式(6)でvを-vで置き換えて
【0145】
【数50】
を得る(ここでもA/V=1/dを用いた)。右辺第一項を左辺に移項して、δxで除し、δx→0の極限を取ることにより、2つの微分方程式が得られる。GEUの外気通路においては、式(7)と同形で、
【0146】
【数51】
となり、内気側においては、式(8)と(v→-vにより)右辺の符号が逆転し、
【0147】
【数52】
となる。
式(24)と式(25)の右辺は同一なので、両式の差をとることで
【0148】
【0149】
【数54】
が求まる。他方、式(27)を式(24)に代入すると、
【0150】
【0151】
【数56】
と求まる。
ここでも境界条件としては、GEUの外気、内気各々の入口で、それぞれη
high及びη
lowなる一定値であるので、
【0152】
【0153】
【数58】
である。
式(29)と式(30)より、C’=η
highとわかるので、式(29)は
【0154】
【数59】
となり、また式(27),式(31),式(32)より
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【数63】
と求まる。
式(36)より、内気出口での内気の酸素濃度η
in(l)は、Lvd/Dlが小さいほど、η
highに近づくことが分かる。実際、
図3Cに示すように、反平行流において十分拡散が起こるよう(低流速や薄いガス交換膜厚など)に設定すると、内気と外気の間で酸素濃度を(従って二酸化炭素濃度も同時に)完全に入れ替えることができるという世界初の重要な結果が得られた(ここで、線のオーバーラップを回避して明瞭に示すべく、横軸は各入口からの距離をとってプロットしている。外気については、
図3Bと全く同様であるが、内気については、
図3Cでは、l-xについてのプロットとなっていることに留意されたい)。ここでは、空気の構成気体であり、人間を含む動植物生命体の活動により消費される酸素について例示したが、同じく空気の構成気体であり、人間を含む動植物生命体の活動により産生される二酸化炭素についても、全く同様に成り立つ(一般に、この他の含有分子濃度についても同様である)ことに留意されたい。当然、酸素、二酸化炭素と同様に空気の主要構成体である窒素に関しても成立するが、酸素や二酸化炭素と違って、人間を含む動植物生命体の活動によってその濃度が増減することはなく、従って濃度勾配による拡散が生起せず、よって(ガス交換ユニット内の)ガス交換膜を横切って室内気と外気の間で遣り取りされることが無く、窒素は不動であることが極めて重要である(このことが、換気に置ける熱損(エネルギー損失)の極小化に大きく寄与する)。部屋と外界を間仕切る壁の断熱性が十分高い部屋に対しては、ガス交換ユニットを通じての拡散換気においては、生命活動に伴って変動する酸素と二酸化炭素のみが、高々最大でも、各々5000ppm程度、従って合計でも空気の約1%程度が室内外間でやり取りされるにすぎず、暖房あるいは冷房された室内と外界の間で換気に伴って出入りする熱流のロスは、空気全体を入れ替える在来型換気に比べ、究極的に1%程度に抑えることができる(解析式及び定量的分析については、段落0053~0055参照のこと)。塵埃数、ガス分子濃度、及び熱流の制御が三位一体で可能な高エネルギー効率・高清浄環境システムが実現できる。
【0159】
上記を踏まえて、第1実施形態のガス交換ユニット20を最適化することができる。
ガス交換ユニット20は、閉空間10の内部気体(内気1a)をガス交換膜25の表面に沿う第1方向に流す送風機と、外界の気体(外気2a)をガス交換膜25の表面に沿う第2方向に流す送風機とを有し、該ガス交換ユニット20において上記第1方向に流れる気体と上記第2方向に流れる気体とが略反平行(好ましくは反平行)である対向流を形成し、着目する気体の当該ガス交換ユニット20中の拡散係数をD,気体流方向のガス交換膜長さをl、集積されたガス交換膜の面間隔をd、気体の流速をv、ガス交換膜の厚みをLとした時に、次の式(37)を満たすことが好ましい。
【0160】
【数64】
式37の左不等式において、等号を含まないのは、(DL/dvL=1の時には式36からわかるようにGEU出口で外気と内気の平均値となり、平行流の場合と同一結果となることから)最低限平行流の場合よりも高いガス交換効率を得るためである。また、式37の左不等式における数字については、下限値が4であれば、GEU出口において外気のガス分子濃度の約8割まで達しうるからである。
【0161】
第2実施形態のガス交換ユニット20Aを最適化することもできる。
具体的には、ガス交換ユニット20Aは、部屋10Aの内部気体(内気1a)をガス交換膜25Aの表面に沿う第1方向に流す送風機と、外界の気体(外気2a)をガス交換膜25Aの表面に沿う第2方向に流す送風機とを有し、該ガス交換ユニット20Aにおいて上記第1方向に流れる気体と上記第2方向に流れる気体とが略反平行(好ましくは反平行)である対向流を形成し、着目する気体の当該ガス交換ユニット20A中の拡散係数をD,気体流方向のガス交換膜長さをl、集積されたガス交換膜の面間隔をd、気体の流速をv、ガス交換膜の厚みをLとした時に、式(37)を満たすことが好ましい。
また、ガス交換ユニット20Aと同様、ガス交換ユニット20B,20C,20Dは、それぞれ、部屋10B,10C,10Dの内部気体(内気1a)をガス交換膜25B,25C,25Dの表面に沿う第1方向に流す送風機と、外界の気体(外気2a)をガス交換膜の表面に沿う第2方向に流す送風機とを有し、ガス交換ユニット20B,20C,20Dにおいて上記第1方向に流れる気体と上記第2方向に流れる気体とが略反平行(好ましくは反平行)である対向流を形成し、式(37)を満たすように構成されるのが好ましい。
【0162】
次に、クローズドエアフローシステムを利用したCO
2プッシュプル農業システムの要素技術について説明する。各種キノコが、5℃、10℃、20℃において単位重量当たり放出する二酸化炭素量が株式会社精工鮮度保持研究室より報告されているが、このデータを基に絶対温度に置き換えて、その逆数の関数として二酸化炭素産生量をプロットした結果を
図6Aに示す。これらは、二酸化炭素を産生するので、CO
2-pusherとすることができる。さて、これらのCO
2-pusherとしてのエリンギ、原木しいたけは傾きが大きく、舞茸やシメジなどのその他のキノコに比べ、活性化エネルギーが大きいことが示唆される。次に、二酸化炭素の濃度が高い方が光合成の効率が高まる植物や果実群は、CO
2-pullerと捉えることができる。今、CO
2-pullerとして、例えば野菜における光合成について考察する。光合成における光化学反応は、ほとんど温度依存性を示さないので(非特許文献4)、植物の呼吸と光合成は、同じ化学反応式の逆過程(=時間反転過程)であり、光の有無のみが差異であるので(上述の通り、光化学反応は、ほとんど温度依存性を示さない)良い近似で、植物の呼吸過程と光合成で同じ活性化エネルギーを持つと考えてよい。従って、野菜や果実群のCO
2-pullの過程、即ち、それらの光合成の結果としての酸素の産生量について、その逆過程(CO
2の産生量)を考察することで、その活性化エネルギーを良い近似で見積もることができる。植物や果実群について、
図6Aと同様のプロットを行うと、
図6Bを得る。
図6Aおよび
図6Bより、キノコ種、植物種に応じて、アレニウスプロットの傾きは各々異なるが、大きく分けて、やや大きめのものと小さめのものと、2つの傾きが存在することが見て取れる。
【0163】
傾きの等しいCO
2-pusherとCO
2-pullerを組み合わせて、隣接して栽培すると温度の変化に対しても、需給のバランスを崩すことなく、キノコ/野菜栽培を行うことができる。CO
2キノコと野菜のペアリングの最適化を行った結果を
図7に示すこの他にも、
図6Aと
図6Bの中から傾きの等しいキノコ/野菜を選択することで、他のいろいろなペアリングが可能である。当該活性化エネルギーの大きさが等しいか或いは近いキノコと野菜の組み合わせを選び、キノコの収穫安定と野菜(果物)の収量増大の結合を図る。
図7に示すように、舞茸、ブナシメジは、活性化エネルギーがエリンギに比べて小さく、レタスの活性化エネルギーとほぼ等しいことから、ペアリングの対象としてブナシメジ・レタス、或いは、舞茸・レタスが好ましい。また、上述の酸素産生量の活性化エネルギーと比べることで最適なキノコ・野菜のペアリングを決定することも可能である。即ち、CUSP・GEMによってもたらされるクローズドエアフローシステムの特徴を生かして、CO
2プッシュプル農業システムの要素技術の同定を実験結果を基に行う。CUSPを使ったキノコの代謝測定実験における粒径別浮遊塵埃粒子数を時間の関数として行う。キノコ存在下であっても、数分の内にクラス1000以下の高清浄に達する。
【0164】
CUSP・GEMによってもたらされるクローズドエアフローシステムの特徴を生かして、キノコ類、特に、黒舞茸の活性化エネルギーの算出を行い、高清浄環境下の黒舞茸のモデル生産システムを実現できる。なた、野菜(果実)用のモデル生産システムをCUSP・GEMによってもたらされるクローズドエアフローシステムを基に立ち上げ、野菜のO2発生の活性化エルギーの算出を行し、キノコのCO2発生の活性化エルギーと合わせて、最適ペアリングを選択できる。
【0165】
また、他の菌類や動物への展開も可能である。例えば、CO
2-push作物(CO
2発生源)として納豆、麹、パン酵母等を選択し、これらの発酵過程に、更には、動物(特に、昆虫から鶏、豚)へと拡張することもできる。特に、この場合、本システムのクローズドエアフローシステムにより、外界の影響を受けないので、上述したような動物の殺処分をも回避でき、生命倫理上も、かつ経済的損失を未然に防ぐ意味でも、その意義は極めて大きい。また、CO
2-pull作物(CO
2同化作物)として、ミドリムシや他の光合成緑藻類に展開することができる。これらのCO
2-pusherとCO
2-pullerの結合系のための要素項目を同定し、清浄空間の特性を生かして、抗生物質の使用の少ない養鶏や養豚と野菜栽培の結合のための基礎を築く。こうして育てた動物の糞は、抗生物質耐性菌の発生の心配が無いので、有機農業へと展開することができる。また、光合成緑藻類の収穫増大に成功すれば、燃料材への道が拓ける。更には、
図2に示すCO
2push-pullの構造に耐圧性や減圧下でも耐えうる高気密性を付与することで、この構造を転用して、閉空間である海中(深海)或いは宇宙空間への展開(宇宙農業)も可能である。即ち、CUSPクローズドエアフローシステムの特徴を生かし、当該CO
2-pusherの動物を「ヒト」とすることで、近未来に人類が、海中(深海)や宇宙空間に進出した際の高清浄な生活空間の創成と、人間活動による生成二酸化炭素の減縮と消費酸素の補充とを両立可能な効率的な野菜や果実の栽培を通じた食糧確保、即ち、閉空間[海中、宇宙]農業の基礎を築くことができる。実際、CO
2 push・pull 生物系互恵共存の観点から見た場合、
図7に示すように、ヒトの二酸化炭素産生量は、ブナシメジのラインと舞茸のラインの中間に位置しており、ヒトも、このCO
2 push・pullシステムに自然に組み込むことができることが見て取れる。このように、CO
2-pusherとCO
2-pullerの組合せは、特に制限されず、本実施形態に係る清浄環境システムが設置される環境やニーズに応じて選択可能である。
【0166】
また、クローズドエアフローシステムにおける環境モニタリングを実現することもかのうである。従来では、モニタリングを行いながらの栽培は原理的に不可能であるところ、本発明ではこれが可能となり、環境モニタリング装置によって取得した情報に基づいてフィードバックを行いながら、効率的な高品質のキノコ・野菜(果物)の栽培が可能となる。更に、環境モニタリング装置によって取得した情報を用いて、栽培上のビッグデータ蓄積を行うこともできる。
【0167】
クローズドエアフローシステムを利用したCO2プッシュプル農業システムの要素技術の確立については、従来、対応物が存在しないが、今回のキノコ・野菜栽培結合系を第1ステップとするCO2プッシュプル食物生産装置により、野菜の収量増加と二酸化炭素の気中排出量低減を両立することができる。
【0168】
また、本発明の清浄環境システムは、クローズドエアフローシステム、即ち、或る閉空間内に置かれた空気濾過装置(ファンフィルターユニット:FFU)を用いる際、その吐出量の全てが当該FFUの給気口に戻る100%循環フィードバックシステムを採用すると共に、フレッシュエア導入を空気流によるものではなく、ガス分子の拡散に基づくことで実現するクローズドエアフロー清浄環境(本発明者により、日本国及び外国で計20件以上の特許が成立済)がベースとなる技術である。今回、本発明の技術思想をキノコ栽培、野菜(果物)栽培に展開すると共に、これらの結合栽培システムにも応用する。
【0169】
更に、CUSP機構により空気中を漂う塵埃が僅少であることを利用して、部屋内部のあらゆる2次元面の表面の除菌を実現できる。
図8は、第3実施形態に係る清浄環境システムの構成を示す模式図である。清浄環境システム300は、ブース301A,301Bにそれぞれ配置されたファンフィルターユニット302A,302Bと、ブース301A,301Bの間仕切り部に設けられたガス交換膜303を有している。清浄環境システム300は、プッシュプル連結CUSPブースであり、ブース301AがCO
2-pusherとしてのキノコ用CUSP、ブース301BがCO
2-pullerとしての野菜用CUSPを構成している。ブース301A,301Bには、それぞれパーティクルカウンタ304A,304Bが設置されている。
【0170】
要時生成型亜塩素酸イオン水溶液(MA-T)などの有用成分を含む液体のミストを生成して、清浄環境システム300の内部で当該ミストを発生させたとき粒子の経時変化を
図9A,
図9B及び
図10に示す。この実験で用いたFFUは、パナソニックF-PDF35や、日立空気清浄機EP-JZ30であるが、本発明技術思想であるクローズドエアフローシステムにあっては両者はほぼ同等な清浄度を与えることが判った。この実験結果から、ミストの粒径分布を抑えつつ、定量的に噴霧量をモニターできていることが分かる。純水では粒径が大きいほど遠距離到達率が高く、化学物質含有ミストでは、遠距離到達率の粒径依存性が小さいことが判明している。よってキノコの培地や栽培室の内表面などあらゆる2次元面の除菌、殺菌などに有効であると期待される。3次元空間の防除はCUSP機構により行えるので、2次元的にも、3次元的にも、本事業の二酸化炭素プッシュプル農業の研究開発・改良することができている。
【0171】
図11A~
図11Cは、クリーンユニットシステムプラットフォーム(CUSP)を適用したキノコ栽培のモデルボックスによって実験した結果を示す図である。ミニモデルとしての生育器は、その大きさが約30cm×30cm×40cmであり、ガス交換膜と、ファンフィルターユニットとを有している。また、この生育器は、閉空間に収容されキノコの生育状況・代謝をモニタリングすることが可能に構成された生育器である。
図11A中、縦軸が二酸化炭素濃度で横軸が時間であり、
図11B中、縦軸が粒子数で横軸が時間、
図11C中、縦軸が閉空間内の湿度で縦軸が時間である。
時刻t=600分までは、温度約22.5度Cにおける生育状況であり、
図11Aより、この温度では二酸化炭素濃度が約3700ppm程度で飽和することが判る。t=600分を過ぎると夜半、温度が低下し、t=800分以降は温度が18度Cでほぼ一定で、この時の二酸化炭素濃度が約1800ppm程度で下げ止まることが分かった。また、一酸化炭素(CO)やVOC(揮発性有機化合物)、温度・湿度などキノコ栽培モニタリングに有用なパラメータの同定が可能であることが分かった。
【0172】
このモデルボックスは消毒機能付き清浄環境システムを組み込むことが可能で、各種の栽培生物体、特に、きのこ類や有用食物(食用植物、食用昆虫等)の栽培または育成に適用することができる。
図11D,
図11Eは、式(XX)におけるγF/Vや式(XVII)におけるAD/LVの項が示すスケーリング則にしたがって、20cm×10cmの大きさを有するガス交換膜13aを背面に備えた小形の直方体状のCUSP構成のボックスに消毒機能付き高清浄環境システムを適用した一例を示す画像である。このCUSPボックスは床が約30cm×40cmの矩形形状を有し、高さが約30cmである。このCUSPボックスでは、床に設置された小型のFFUを用いてCUSPが構成されている。ボックス内に殺菌ミスト発生器、粒子計測器、CO
2、O
2、CO、VOC(揮発性有機化合物)等の各種ガスの濃度を測定するガス濃度測定器(理研計器社製、ポケッタブルマルチガスモニター:GX-2009、及びGX-3R)、二酸化炭素測定器(LUTRON社製)、温度および湿度の計測が可能な温湿度計(ORION社製 Dew Point Monitor MG40)を設置した。栽培を行う栽培生物体はCUSPボックス床に置かれるようになっている。温度及び湿度のペデスタル値を制御するために、CUSPボックスの内部および外部(ボックスの設置環境)の各々に、ヒータ、加湿器、温度計、湿度計が設けられている。ここでは、外部に温湿度計(CEM社製、DT3321)を用いた。そして、CUSPボックス内のFFUを動作させて浮遊塵埃粒子数を減少させた後、殺菌ミスト発生器によりMA-T等の殺菌ミストを発生させてボックス内の全2次元表面を消毒した後、ボックスの床に置かれた紙製の入れ物に栽培生物体の例として重さ約350~500gのしめじを格納し、CUSPボックス内の各種環境数値をモニターした。
図11A~
図11Cはその実験結果である。本実験では、開始後600分後に、CUSPボックスが置かれた部屋の空調をストップし、暫時外界の温度を下げつつボックス内のCO
2濃度、温度および塵埃粒子数を測定した。塵埃粒子数測定には、MetOne HHPC3+を用いた。実験開始時t=0においては、CUSPボックスの設置環境温度は約21℃であったが、ボックス内は、しめじの生体活動により温度が約22.5℃と外界より約2度上昇している。
図11Bに示すように、CUSPボックス内部の浮遊塵埃粒子数が、数分で外界の約千分の一まで減少し、清浄度が急速に高まる(ほぼ無菌状態となっている)ことが分かる。その後、一旦塵埃粒子数が増加した後、10時間くらいかけて、ゆっくりと清浄度が上昇し、実験開始後800分で、US FED 209Dクラス20の高清浄度が達成できることが分かった。CO
2濃度は、実験開始後、しめじの生体活動を反映して上昇するが、飽和傾向にあることが分かる。これは、CO
2濃度差に応じてガス交換膜(
図11E中、CUSPボックス左側面の白い膜)が機能していることを示している。特に、このCUSPボックスを設置した部屋の空調が切れて室内温度が減少に転じる(最終的には約16℃まで低下する)と、しめじの代謝も減少し、CO
2濃度が
図11Aの右端に示すように約1800ppmまで減少することが分かる。後出の式(42)、式(46)からこの状況におけるCO
2発生量(とO
2濃度[O
2減少量])からしめじの代謝量)を計算でき、しめじの代謝をモニターしつつ栽培することができることが示される。
【0173】
即ち、ここで体積Vを有する部屋内の時刻tにおける二酸化炭素量濃度をη(t)とすると、キノコの代謝による単位時間当たりの二酸化炭素発生量をm3/sとして、時刻t+δtにおける部屋内の二酸化炭素量は、時刻tにおけるそれを用いて、以下のように与えられる。
【0174】
【数65】
式(38)の右辺第2項が時間間隔tの間に発生する二酸化炭素量であり、第3項はガス交換膜を介して部屋内外を拡散に拠り出入りする二酸化炭素量である。jは二酸化炭素フラックスであり、Aはガス交換膜面積、N
Aはアボガドロ数で、Cは比例係数(気体1モルあたりの体積)である。これより、微分方程式
【0175】
【0176】
【数67】
で与えられることを用いた。ここでφは単位体積当たりの二酸化炭素分子数で、Dは二酸化炭素分子のガス交換膜内での拡散係数である。Vは、位置座標による微分演算子で、閉空間の外を+、内側を-と定義する。
ガス交換膜の厚みが空間サイズに比べ十分に小さい場合には、式(39)の微分演算子は、良い近似で厚みLのガス交換膜内外の差分で置き換えられるので、式(39)は以下の式(41)へと還元される。
【0177】
【数68】
ここでη
0外界の二酸化炭素濃度で、通常440ppm程度である。
時刻t=0で、内部の二酸化炭素濃度は外界で等しいとの境界条件を取ると、式(41)の解は、
【0178】
【数69】
と求まる。この式から、濃度飽和後の初期値からの増分は、
【0179】
【数70】
となることが分る。これから、キノコの代謝量(二酸化炭素発生レート)が
【0180】
【数71】
と求まる。CUSPという孤立閉鎖系を用いていることから、解析的に代謝量を求めることができ、CUSPの高清浄(=空中浮遊菌が僅少である)環境を利用した、定量的な農業が可能であることが初めて示された。
【0181】
CUSPボックスにて用いたガス交換膜の面積A=10cm×20cm=200cm^2であり、ガス交換膜厚みLは約160umである。また、Dは約1E-7m^2/sであることが分っている(文献1)。他方、
図11Aより、CUSPボックス設置温度T=23℃では、二酸化炭素濃度はt=580分でほぼ飽和し、増分は約3000ppmであることが分る。これらの値を式に代入すると
【0182】
【数72】
となる。使用ブナしめじは約387gであったので、これからブナシメジ1Kg当たりでは
m^3/s=1000L/s
22.4L=1mol
1mol=44g
1h=3600s
を代入すると
B=810mg/hour for 1Kg ブナシメジと求まる。
【0183】
次に、
図11Aに示す実験の後半部(t=600分以降)を解析する。この部分は、二酸化炭素濃度の初期値3500ppmから、雰囲気温度18℃での二酸化炭素発生量(これは、同23℃におけるそれよりも小さい)において、系が平衡状態になる場合として解析することができる。系が従う微分方程式である式(41)
【0184】
【数73】
はここでも成立するが、境界条件が(T=600分で、リセットし)この時点t=0として、この時点の初期二酸化炭素濃度η
(0)が上記の3500ppmとなる。
この時の解は
【0185】
【数74】
と求まる。十分時間がたった時、右辺は、η
0+B’L/ADに収束するので、バックグランドη
0からの増分をΔとすると、
【0186】
【数75】
により、B’が求まる。
図11から増分Δ=1500ppmとわかるので
B’=4.4E-8m^3/s
である。
【0187】
上記と同様に1Kgあたりに正規化すると、
B’=400mg/hour for 1Kg ブナシメジと求まる。これをプロットしたものを
図12に示す。
図12中、白丸のデータがブナシメジである。しめじのデータ直線とかなり良好な一致を示しており、クローズドエアフローシステムである本技術思想の汎用性ならびに優位性を示している。
【0188】
このように、清浄環境下でしめじ等キノコ類の栽培が可能であることが実証された。特に、
図11Bの1000分以降に示されているように、約t=800分で、最低塵埃粒子数に達した後、各粒径で塵埃粒子数が増加し、その数が最終的に粒径に依らないというしめじの活動状況が確認された。また、設置環境の湿度が25~27%であった場合に、クローズドエアフローシステムながら、ガス交換膜を介して分子的に外界と導通するCUSPボックス内は、
図11Cに示すように、典型的には約80%と外部より数十%高い値となることも分かった(この結果より式(42)[ここでBは、二酸化炭素の場合と同様、酸素の場合とは逆符号を取る]を基に、内部での水分子の発生量を定量的に把握することができる)。1400分後に一旦CUSPボックスを室内大気解放すると、
図11Bのt=1300分と1700分の間の断続部分に示されるように、粒径0.3μmおよび0.5μmの粒子数は、外界(室内のCUSP設置環境)の塵埃粒子数に等しい値まで上昇し、粒径2μmの粒子数は減少する。この状態をしばらく続けた後、再び、t=1700分でCUSPボックスを閉めて、本システムを動作させると、CUSP機構により、粒径0.3μmおよび0.5μmの粒子はt=0の実験開始直後の減少レートで、直ちに減少するが、この間、逆に、粒径2μmの粒子は増加し、再び、粒径に依らない塵埃粒子数が観測された。このように、当該状況におけるしめじの特異な活動状況を、高精度にモニタリングできていることが示された。これまでは、空気を入れ替えることにより内部環境の整備(特にCO
2濃度の制御)がなされて、温湿度のロスや、外界からの雑菌の流入のリスクにさらされていたのと大きく異なり、本発明では、式(42),(46)に基づき(基本的には分子毎に異なる拡散係数Dに留意しつつ、ガス交換膜の面積Aを適切に設定することで)、内部での浮遊塵埃・菌数を減少させることがもたらす無菌状態という好ましい生育環境において、CO
2濃度など環境パラメータをきちんと所定の値に制御したキノコ等菌類の他、有用植物や有用生物などの有用生物の栽培・育成が可能となることが示された。清浄環境であることにより農薬などの使用を極力抑え、かつ、クローズドエアフローシステムがもたらす内供ガス濃度の定量的な把握により、キノコを含む各種作物の生育もまた定量的にモニタリングすることを可能として、近未来のスマート農業の基礎となると期待される。
【0189】
また、CUSP・GEU系のクローズドエアフローシステム性の直接の帰結として、
図13に示すように、キノコの代謝分析において、二酸化炭素、酸素の濃度変化の他にも、一酸化炭素やVOC(揮発性有機物質)を時間の関数として定量的に検出することもできている。また
図14,
図15に示すように、農業応用時に必要な、各種ガスに加え、アルコールや湿度、温度の変化に対しても、適切なバックグランド(外挿値から求まる平衡状態の値)を差しい引いた後の値を用いることで、制度高く定量的な分子拡散係数や熱拡散系を求めることもできる。
図14及び
図15は、
図11のCUSPボックスを用いて、その中でアルコールを燃焼させた際の内部のガス分子濃度、湿度、温度の時間変化を示す図である。特にVOC(揮発性有機化合物)の測定は、植物の持つ事項防衛のための化学物質の放散や、「成熟ホルモン」「老化ホルモン」と言われるエチレンガスなどの測定も可能であることを示しており、クローズドエアフローシステムの農業(特に温室栽培などの閉鎖系での)応用時の有効性の証左である。また、一酸化炭素COの検出は、キノコ向上における死亡事故の報告(非特許文献1)にも関連が深いと考えられ、クローズドエアフローシステムであることを活用して、ガス濃度を精度よく測定することのできる本技術思想の、より安全なキノコ栽培を可能とする上での有為性を示している。即ち、近年キノコ栽培も盛んになっているが、十分な注意を払わないと死亡事故が発生する事案が報告されている。特に、カナダとタイにおけるキノコ栽培工場での死亡事例は、掛かる事故が先進国か否かによらず発生し得る危険な状況であることを示しているが、本発明の技術思想を以って、これらを未然に防ぎうる意義は非常に大きい。
【0190】
無菌・無塵環境の下、
図11Aに示すように、内部ガス分子濃度(特に二酸化炭素と酸素)の計測により代謝の分析を基に作物生産の安定化、最適化を可能とするモニタリングを行うことができる。栽培作物(CO
2-pusher及び、CO
2-puller)毎に必要なモニタリングパラメータを同定し、その測定装置、配置、データサンプリング、伝送、データ処理(AI,ビッグデータ活用)を確立できる。特に、CO
2-pusherとCO
2-pullerの結合系に対してのモニタリングシステムを構築することができる。
【0191】
キノコ栽培においては、キノコに害をもたらす菌の発生を抑える必要があるが、在来型のクリーンルームでは、非常に効率が悪いことが分かっている。
図11Bは
図11AのキノコCUSP実験時に同時に計測した内部の浮遊塵埃数であり、キノコ生育下でもクラス100程度の手術室なみの高清浄度、即ち、無菌環境が実現することが示された。キノコ等生物体の無菌環境下育成装置として使用しうることが実証されている。
【0192】
CUSP・GEU系により実現する(
図11B参照)無菌・無塵環境の下、今までは極めて難しかった、防除薬剤を用いずに得られる無菌環境の提供により、キノコと野菜の計画的な生産を実現する。これをベースに、食の安全性の高いスマート農業、スマート食用昆虫育成、スマート畜産業(養鶏、養豚)のための要素技術を確立した。また、CO
2プッシュプル農業システムの要素技術の同定を行うとともに、キノコ類の活性化エネルギーの算出を行い、黒舞茸モデル生産システムの立ち上げを実行し、モデル生産システムのキノコ・野菜用個別生産を行うことができる。
【0193】
また、CUSP・GEMによってもたらされるクローズドエアフローシステムの特徴を生かして、CO2プッシュプル農業システムにおける環境モニタリングの基礎実験をおこなうことで要素技術の同定を行うことができた。また、測定装置を導入して、データ処理スキーム(データ取得、伝送、解析&フィードバック)を実行する方法ならびにシステムを明らかにした。本発明において開示された、従来と一線を画するところの拡散に基づく革命的な換気技術により、空気を含むあらゆる閉空間へ適用を広げることができる。これまでの換気は、対流による自然換気や機械換気を含め、全て気流によって行われるオープンエアフローシステムであり、気体が分子からなるという科学的知見に基づく換気は残念ながらこれまでは一切実現していなかった。気体が分子から成ることを踏まえれば、オープンエアフローシステムにおけるメカニカル換気に代わって、クローズドエアフローシステムおける拡散換気が実現できる。クローズドエアフロー系であることにより、CO2プッシュプル農業応用のみならず、対放射性塵埃防御性や新型コロナを種々の感染症への効率的な対策を行うことができる。空気が関係するあらゆる空間、および分野に対し、省エネルギー性・高効率熱マネジメント性において、非連続的な跳躍・向上を可能とする。次世代の低消費電力の高清浄環境技術を(気体が分子から成るという、言わば当たり前であるが、しかし今まで換気においては全く活用されてこなかった科学的知見を生かして)抜本的に再構築することで、耐環境性の向上やSDGsの達成に本質的に寄与できる今までにない全く新しい省エネルギーでサステナブルなEnergo-envioronmental system(新エネルギー・環境系)を創造することを本発明は可能とする。
【0194】
以上、この発明の実施の形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0195】
例えば、2DPRCSの受光部の表面構造は平面型に限定されるものではない。受光部の表面構造は波状であってもよい。また、円柱側面を活用して、上に突、下に突の円柱側面を接続して波状の表面構造をとりながらも、建築物の側壁を覆うこともできる。ファンフィルターユニットは、雨露をしのげるなど耐候性が担保されれば、前記部屋または閉空間の外、即ち外界に配置することも可能である上述の実施の形態において挙げた数値、構造、構成、形状、配置等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、配置等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0196】
1a 内気
1b フレッシュエア
2a 外気
2b 排ガス
10 閉空間
10A 部屋
10B 部屋
10C 部屋
10D 部屋
11 内部
12 外界
13a ガス交換膜
20 ガス交換ユニット
20A ガス交換ユニット
20B ガス交換ユニット
20C ガス交換ユニット
20D ガス交換ユニット
20E ガス交換ユニット
20F ガス交換ユニット
25 ガス交換膜
25A ガス交換膜
25B ガス交換膜
25C ガス交換膜
25D ガス交換膜
26A ガス交換膜
26B ガス交換膜
30 ファンフィルターユニット
30A ファンフィルターユニット
30B ファンフィルターユニット
30C ファンフィルターユニット
30D ファンフィルターユニット
41A ガラス板
41B ガラス板
41C ガラス板
42A ガラス板
42C ガラス板
43A 太陽電池
43C 太陽電池
44A 太陽電池
44C 太陽電池
50A 環境モニタリング装置
50B 環境モニタリング装置
50C 環境モニタリング装置
50D 環境モニタリング装置
51 遠隔環境制御・モニタリング室
52A 湿度・温度制御器
52B 湿度・温度制御器
52C 湿度・温度制御器
52D 湿度・温度制御器
61 扉
62 通路
63 前室
64 扉
65 扉
66 ファンフィルターユニット
67 ファンフィルターユニット
100 清浄環境システム
200 清浄環境システム
300 清浄環境システム
301A ブース
301B ブース
302A ファンフィルターユニット
302B ファンフィルターユニット
303 ガス交換膜
304A パーティクルカウンタ
304B パーティクルカウンタ
411A 母材
412A 散乱材