(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176151
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】垂直離着陸機
(51)【国際特許分類】
B64C 27/08 20230101AFI20241212BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B64C27/08
B64C39/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094449
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 瑛明
(72)【発明者】
【氏名】保江 かな子
(72)【発明者】
【氏名】田辺 安忠
(72)【発明者】
【氏名】亀田 正治
(57)【要約】
【課題】小型化及び高速化が可能な垂直離着陸機を提供する。
【解決手段】本発明の一形態に係る垂直離着陸機は、左右一対の棒状支持部材と、推進プロペラと、垂直昇降用のロータと、制御部とを具備する。上記左右一対の棒状支持部材は、前後方向に延び、左右両側に設けられる。上記ロータは、上記棒状支持部材それぞれに前後方向に2以上配置され、それぞれが複数のブレードを有し、所定の回転方向で回転して揚力を発生させる。上記制御部は、前進飛行時に上記ロータを回転させ、上記ロータの実効揚抗比が閾値以上になる、飛行速度と上記ロータの翼端速度との比を表す前進率となるように、上記ロータの回転数及び上記ブレードのピッチ角を制御する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延び、左右両側に設けられた左右一対の棒状支持部材と、
推進プロペラと、
前記棒状支持部材それぞれに前後方向に2以上配置され、それぞれが複数のブレードを有し、所定の回転方向で回転して揚力を発生させる垂直昇降用のロータと、
前進飛行時に前記ロータを回転させ、前記ロータの実効揚抗比が閾値以上になる、飛行速度と前記ロータの翼端速度との比を表す前進率となるように、前記ロータの回転数及び前記ブレードのピッチ角を制御する制御部と
を具備する垂直離着陸機。
【請求項2】
請求項1に記載の垂直離着陸機であって、
前記制御部は、
前記垂直離着陸機の飛行速度情報を取得し、
前記飛行速度情報を用い、予め準備した前記ロータの実効揚抗比と前記前進率との関係を示す第1のデータに基づいて、前記ロータの実効揚抗比が閾値以上になる前進率となるように、前記ロータの回転数の範囲を算出し、
前記飛行速度情報を用いて、前記算出したロータの回転数の範囲内で、前記ロータに必要な揚力を生じさせる前記ブレードのピッチ角の範囲を算出し、
算出した前記ロータの回転数の範囲内かつ前記ブレードのピッチ角の範囲内で、前記ロータの回転数及び前記ブレードのピッチ角を決定する
垂直離着陸機。
【請求項3】
請求項2に記載の垂直離着陸機であって、
前記制御部は、
前記垂直離着陸機の姿勢情報を取得し、
前記姿勢情報を加味して、前記ロータの回転数と前記ブレードのピッチ角を決定する
垂直離着陸機。
【請求項4】
請求項2に記載の垂直離着陸機であって、
予め準備した、前記第1のデータと、飛行速度毎の、前記ロータの回転数、前記ブレードのピッチ角及び前記ロータの実効揚抗比との関係を示す第2のデータとを記憶する記憶装置を更に具備し、
前記制御部は、
前記ロータの回転数の算出において、前記飛行速度情報を用い、前記第1のデータに基づいて、前記ロータの実効揚抗比が閾値以上になる前進率となる前記ロータの回転数の範囲を算出し、
前記ブレードのピッチ角の範囲の算出において、前記飛行速度情報を用い、前記第2のデータに基づいて、前記算出したロータの回転数の範囲内で、前記ロータに必要な揚力を生じさせる前記ブレードのピッチ角の範囲を算出する
垂直離着陸機。
【請求項5】
請求項1に記載の垂直離着陸機であって、
前記ロータの実効揚抗比が閾値以上となる前進率は0.5以上である
垂直離着離着陸機。
【請求項6】
請求項2に記載の垂直離着陸機であって、
前記ロータは、左右一対のロータからなるロータ群を複数形成するように、前記棒状支持部材それぞれに同数配置され、
前記制御部は、前記ロータそれぞれの回転数が前記算出したロータの回転数の範囲内となる条件下で、前記複数のロータ群のうち1つのロータ群に属するロータの回転数を、他のロータ群に属するロータの回転数と異なるように制御する
垂直離着陸機。
【請求項7】
請求項1に記載の垂直離着陸機であって、
前記制御部は、所定速度以上の飛行速度での前進飛行時に、前記ロータの実効揚抗比が閾値以上になる前進率となるように、前記ロータの回転数及び前記ブレードのピッチ角を制御する
垂直離着陸機。
【請求項8】
請求項7に記載の垂直離着陸機であって、
前記所定速度は100km/hである
垂直離着陸機。
【請求項9】
請求項1に記載の垂直離着陸機であって、
前記制御部は、前進飛行時に、中心が前後方向に平行な同一直線上に前後に隣接して位置する2つの前記ロータを、互いの回転方向が逆となるように回転させる
垂直離着陸機。
【請求項10】
請求項9に記載の垂直離着陸機であって、
前記ロータは、前記棒状支持部材それぞれに、その中心が前後方向に平行な同一直線上に位置するように3つ配置され、
右側の前記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ右側第1ロータ、右側第2ロータ及び右側第3ロータであり、
左側の前記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ左側第1ロータ、左側第2ロータ及び左側第3ロータであり、
前記制御部は、前記右側第1ロータ、前記右側第3ロータ、前記左側第2ロータを、上から見て回転方向が反時計回りとなるように回転させ、前記右側第2ロータ、前記左側第1ロータ及び前記左側第3ロータを、回転方向が時計周りとなるように回転させる
垂直離着陸機。
【請求項11】
請求項1に記載の垂直離着陸機であって、
前記棒状支持部材それぞれに配置される2以上のロータのうち前後方向に隣り合って位置する2つのロータは、一方のロータの中心が他方のロータの中心よりも左右方向にずれて位置する
垂直離着陸機。
【請求項12】
請求項11に記載の垂直離着陸機であって、
前記ロータは、前記棒状支持部材それぞれに、上下方向の位置が同じとなるように3つ配置され、
右側の前記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ右側第1ロータ、右側第2ロータ及び右側第3ロータであり、
左側の前記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ左側第1ロータ、左側第2ロータ及び左側第3ロータであり、
前記右側第2ロータは、前記右側第1ロータ及び前記右側第3ロータよりも左右方向外側に、前記ロータの回転面の半径分ずれて位置し、
前記左側第2ロータは、前記左側第1ロータ及び前記左側第3ロータよりも左右方向外側に、前記ロータの回転面の半径分ずれて位置し、
前記制御部は、前記右側第1ロータ、前記右側第2ロータ及び前記左側第3ロータを、上から見て回転方向が反時計回りとなるように回転させ、前記右側第3ロータ、前記左側第1ロータ及び前記左側第2ロータを、回転方向が時計周りとなるように回転させる
垂直離着陸機。
【請求項13】
請求項1に記載の垂直離着陸機であって、
前記ロータは、前記棒状支持部材それぞれに3以上配置される
垂直離着陸機。
【請求項14】
請求項13に記載の垂直離着陸機であって、
前記ロータは、左右一対のロータからなるロータ群を複数形成するように、前記棒状支持部材それぞれに同数配置され、
複数の前記ロータ群のうち1つのロータ群に属するロータは、他のロータ群に属するロータと上下方向の位置が異なる
垂直離着陸機。
【請求項15】
請求項14に記載の垂直離着陸機であって、
前記ロータは、前記棒状支持部材それぞれに、平面視で、前後方向に平行な同一直線上に位置するように3つ配置され、
右側の前記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ右側第1ロータ、右側第2ロータ及び右側第3ロータであり、
左側の前記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ左側第1ロータ、左側第2ロータ及び左側第3ロータであり、
前記右側第1ロータ、前記右側第2ロータ、前記左側第1ロータ及び前記左側第2ロータは上下方向の位置が同じであり、前記右側第3ロータ及び前記左側第3ロータは、前記右側第1ロータ、前記右側第2ロータ、前記左側第1ロータ及び前記左側第2ロータよりも上方に位置し、
前記制御部は、前記右側第1ロータ、前記右側第3ロータ、前記左側第2ロータを、上から見て回転方向が反時計回りとなるように回転させ、前記右側第2ロータ、前記左側第1ロータ及び前記左側第3ロータを、回転方向が時計周りとなるように回転させる
垂直離着陸機。
【請求項16】
請求項14に記載の垂直離着陸機であって、
前記ロータは、前記棒状支持部材それぞれに、平面視で、前後方向に平行な同一直線上に位置するように3つ配置され、
右側の前記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ右側第1ロータ、右側第2ロータ及び右側第3ロータであり、
左側の前記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ左側第1ロータ、左側第2ロータ及び左側第3ロータであり、
前記右側第1ロータ、前記右側第3ロータ、前記左側第1ロータ及び前記左側第3ロータは上下方向の位置が同じであり、前記右側第2ロータ及び前記左側第2ロータは、前記右側第1ロータ、前記右側第3ロータ、前記左側第1ロータ及び前記左側第3ロータよりも上方に位置し、
前記制御部は、前記右側第1ロータ、前記右側第2ロータ、前記左側第3ロータを、上から見て回転方向が反時計回りとなるように回転させ、前記右側第3ロータ、前記左側第1ロータ及び前記左側第2ロータを、回転方向が時計周りとなるように回転させる
垂直離着陸機。
【請求項17】
請求項1に記載の垂直離着陸機であって、
胴体と、
前記胴体と結合し、前記左右一対の棒状支持部材を連結する左右方向に延在する固定翼
を更に具備する垂直離着陸機。
【請求項18】
請求項17に記載の垂直離着陸機であって、
前記固定翼に配置された、前記ロータ由来の振動に対して逆位相の高調波振動を発生する動翼
を更に具備する垂直離着陸機。
【請求項19】
請求項1に記載の垂直離着陸機であって、
前記ロータは、前記棒状支持部材の下部に配置される
垂直離着陸機。
【請求項20】
請求項1に記載の垂直離着陸機であって、
前記棒状支持部材の下部後方に配置された下向きに延在する垂直尾翼を更に具備し、
前記垂直尾翼の先端は前記推進プロペラの回転面より下方に位置する
垂直離着陸機。
【請求項21】
請求項1に記載の垂直離着陸機であって、
前記制御部は、前進飛行時に、最も前方に位置するロータを、その回転面を進行方向に対し前傾するように制御して、前記推進プロペラに加えて、又は、前記推進プロペラに替えて、推進用として機能させる
垂直離着陸機。
【請求項22】
請求項1に記載の垂直離着陸機であって、
前記制御部は、前進飛行時に、最も前方に位置するロータの揚力と空気抵抗が最小となるように、前記最も前方に位置するロータの回転数及び/又は当該ロータのブレードのピッチ角を制御する
垂直離着陸機。
【請求項23】
請求項1に記載の垂直離着陸機であって、
前記ロータは、左右一対のロータからなるロータ群を複数形成するように、前記棒状支持部材それぞれに同数配置され、
複数の前記ロータ群のうち1つのロータ群に属するロータの前記ブレードの数は、他のロータ群に属するロータと異なる
垂直離着陸機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直離着陸機に関する。
【背景技術】
【0002】
通常のマルチロータ型の垂直離着陸機は、複数のロータを備え、前進飛行時ではロータが前傾し、揚力と推進力を同時に発生させている。また、垂直離着陸用のロータと推進プロペラとを搭載し、固定翼を有する複合型(リフト&クルーズ型)マルチロータ垂直離着陸機(特許文献1~5参照。)は、前進飛行時、ロータの回転を停止し、推進プロペラによって推進力を発生させ、揚力を固定翼で発生させている。
【0003】
また、非特許文献1及び2には、前進飛行時に、ロータの回転により揚力を発生させ、推進プロペラによって前進させる、4つのロータと推進プロペラを備えたマルチロータの垂直離着陸機が記載されている。このような垂直離着陸機では、前方側のロータにより発生した後流(吹きおろし)がその後方にあるロータに干渉する流れ場干渉が生じ、流れ場干渉によるロータの性能低下を引き起こす可能性がある。非特許文献1及び2には4つのロータを用いた可変ピッチと可変回転数によるロータのリフトオフセット特性を利用してロータを高性能化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-151924号公報
【特許文献2】特開2022-148991号公報
【特許文献3】米国特許登録第10046853号公報
【特許文献4】米国特許公開2019-0127056号公報
【特許文献5】中国特許公開第115042968号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Proceedings of 47th European Rotorcraft Forum, Sayama, Y. Hayami, K., Tanabe, Y., Sugawara, H., Kameda, M., 7-9th Sept. 2021, Paper# 95, "PERFORMANCE OF A DUAL-CONTROLLED ROTOR IN LEVEL FLIGHT"
【非特許文献2】第54回流体力学講演会/第40回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウム講演集,佐山悠斗,菅原瑛明,田辺安忠,亀田正治,2022年6月29日~7月1日,JSASS-2022-2033-F+A-1B15, "前進飛行中のマルチロータの空力統制に及ぼす後方ロータ上下位置の影響"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マルチロータ型の垂直離着陸機では、揚力と推進力を同時に発生する必要があるため高速性能に課題がある。また、複合型マルチロータ垂直離着陸機では、前進飛行時は揚力を固定翼に発生させる必要があるため、固定翼の存在による機体サイズの大型化の課題がある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、小型化及び高速化が可能な垂直離着陸機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る垂直離着陸機は、左右一対の棒状支持部材と、推進プロペラと、垂直昇降用のロータと、制御部とを具備する。上記左右一対の棒状支持部材は、前後方向に延び、左右両側に設けられる。上記ロータは、上記棒状支持部材それぞれに前後方向に2以上配置され、それぞれが複数のブレードを有し、所定の回転方向で回転して揚力を発生させる。上記制御部は、前進飛行時に上記ロータを回転させ、上記ロータの実効揚抗比が閾値以上になる、飛行速度と上記ロータの翼端速度との比を表す前進率となるように、上記ロータの回転数及び上記ブレードのピッチ角を制御する。
【0009】
本発明の一形態に係わる垂直離着陸機では、前進飛行時に、ロータによって揚力を発生させ、推進プロペラによって推進力を発生させる。このようにロータによって前進飛行時の揚力を発生させることで、前進飛行時の揚力の一部又は全てをロータで確保することができ、機体の小型化が可能となる。また、推進プロペラを設けることで高速化が可能となる。更に、前進飛行時に、ロータの実効揚抗比が閾値以上にある前進率(飛行速度/翼端速度)となるようにロータの回転数を制御することで、ロータの回転面において、前進側では揚力が大きく生じる状態とし、後退側では揚力が生じない状態又はそれに近い状態となるように、揚力分布を調整することできる。これにより、ロータにより生じる後流分布(吹きおろし分布)を調整することができ、前方にあるロータの吹きおろしによる後方ロータへの干渉である流れ場干渉を低減し、流れ場干渉によるロータ性能の低下を抑制することができる。流れ場干渉によるロータ性能の低下が抑制されることで、ロータによって前進飛行時の揚力の一部又は全てをより確実に確保することができるので、機体の小型化が可能となる。
【0010】
上記制御部は、上記垂直離着陸機の飛行速度情報を取得し、上記飛行速度情報を用い、予め準備した上記ロータの実効揚抗比と上記前進率との関係を示す第1のデータに基づいて、上記ロータの実効揚抗比が閾値以上になる前進率となるように、上記ロータの回転数の範囲を算出し、上記飛行速度情報を用いて、上記算出したロータの回転数の範囲内で、上記ロータに必要な揚力を生じさせる上記ブレードのピッチ角の範囲を算出し、算出した上記ロータの回転数の範囲内かつ上記ブレードのピッチ角の範囲内で、上記ロータの回転数及び上記ブレードのピッチ角を決定してもよい。
【0011】
上記制御部は、上記垂直離着陸機の姿勢情報を取得し、上記姿勢情報を加味して、上記ロータの回転数と上記ブレードのピッチ角を決定してもよい。
【0012】
予め準備した、上記第1のデータと、飛行速度毎の、上記ロータの回転数、上記ブレードのピッチ角及び上記ロータの実効揚抗比との関係を示す第2のデータとを記憶する記憶装置を更に具備し、上記制御部は、上記ロータの回転数の算出において、上記飛行速度情報を用い、上記第1のデータに基づいて、上記ロータの実効揚抗比が閾値以上になる前進率となる上記ロータの回転数の範囲を算出し、上記ブレードのピッチ角の範囲の算出において、上記飛行速度情報を用い、上記第2のデータに基づいて、上記算出したロータの回転数の範囲内で、上記ロータに必要な揚力を生じさせる上記ブレードのピッチ角の範囲を算出してもよい。
【0013】
上記ロータの実効揚抗比が閾値以上となる前進率は0.5以上であってもよい。
【0014】
上記ロータは、左右一対のロータからなるロータ群を複数形成するように、上記棒状支持部材それぞれに同数配置され、上記制御部は、上記ロータそれぞれの回転数が上記算出したロータの回転数の範囲内となる条件下で、上記複数のロータ群のうち1つのロータ群に属するロータの回転数を、他のロータ群に属するロータの回転数と異なるように制御してもよい。
【0015】
上記制御部は、所定速度以上の飛行速度での前進飛行時に、上記ロータの実効揚抗比が閾値以上になる前進率となるように、上記ロータの回転数及び上記ブレードのピッチ角を制御してもよい。
【0016】
上記所定速度は100km/h(約28m/s)であってもよい。
【0017】
上記制御部は、前進飛行時に、中心が前後方向に平行な同一直線上に前後に隣接して位置する2つの上記ロータを、互いの回転方向が逆となるように回転させてもよい。
【0018】
上記ロータは、上記棒状支持部材それぞれに、その中心が前後方向に平行な同一直線上に位置するように3つ配置され、右側の上記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ右側第1ロータ、右側第2ロータ及び右側第3ロータであり、左側の上記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ左側第1ロータ、左側第2ロータ及び左側第3ロータであり、上記制御部は、上記右側第1ロータ、上記右側第3ロータ、上記左側第2ロータを、上から見て回転方向が反時計回りとなるように回転させ、上記右側第2ロータ、上記左側第1ロータ及び上記左側第3ロータを、回転方向が時計周りとなるように回転させてもよい。
【0019】
上記棒状支持部材それぞれに配置される2以上のロータのうち前後方向に隣り合って位置する2つのロータは、一方のロータの中心が他方のロータの中心よりも左右方向にずれて位置してもよい。
【0020】
上記ロータは、上記棒状支持部材それぞれに、上下方向の位置が同じとなるように3つ配置され、右側の上記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ右側第1ロータ、右側第2ロータ及び右側第3ロータであり、左側の上記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ左側第1ロータ、左側第2ロータ及び左側第3ロータであり、上記右側第2ロータは、上記右側第1ロータ及び上記右側第3ロータよりも左右方向外側に、上記ロータの回転面の半径分ずれて位置し、上記左側第2ロータは、上記左側第1ロータ及び上記左側第3ロータよりも左右方向外側に、上記ロータの回転面の半径分ずれて位置し、上記制御部は、上記右側第1ロータ、上記右側第2ロータ及び上記左側第3ロータを、上から見て回転方向が反時計回りとなるように回転させ、上記右側第3ロータ、上記左側第1ロータ及び上記左側第2ロータを、回転方向が時計周りとなるように回転させてもよい。
【0021】
上記ロータは、上記棒状支持部材それぞれに3以上配置されてもよい。
【0022】
上記ロータは、左右一対のロータからなるロータ群を複数形成するように、上記棒状支持部材それぞれに同数配置され、複数の上記ロータ群のうち1つのロータ群に属するロータは、他のロータ群に属するロータと上下方向の位置が異なってもよい。
【0023】
上記ロータは、上記棒状支持部材それぞれに、平面視で、前後方向に平行な同一直線上に位置するように3つ配置され、右側の上記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ右側第1ロータ、右側第2ロータ及び右側第3ロータであり、左側の上記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ左側第1ロータ、左側第2ロータ及び左側第3ロータであり、上記右側第1ロータ、上記右側第2ロータ、上記左側第1ロータ及び上記左側第2ロータは上下方向の位置が同じであり、上記右側第3ロータ及び上記左側第3ロータは、上記右側第1ロータ、上記右側第2ロータ、上記左側第1ロータ及び上記左側第2ロータよりも上方に位置し、上記制御部は、上記右側第1ロータ、上記右側第3ロータ、上記左側第2ロータを、上から見て回転方向が反時計回りとなるように回転させ、上記右側第2ロータ、上記左側第1ロータ及び上記左側第3ロータを、回転方向が時計周りとなるように回転させてもよい。
【0024】
上記ロータは、上記棒状支持部材それぞれに、平面視で、前後方向に平行な同一直線上に位置するように3つ配置され、右側の上記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ右側第1ロータ、右側第2ロータ及び右側第3ロータであり、左側の上記棒状支持部材に配置される3つのロータは、前方から後方にむかって順に並ぶ左側第1ロータ、左側第2ロータ及び左側第3ロータであり、上記右側第1ロータ、上記右側第3ロータ、上記左側第1ロータ及び上記左側第3ロータは上下方向の位置が同じであり、上記右側第2ロータ及び上記左側第2ロータは、上記右側第1ロータ、上記右側第3ロータ、上記左側第1ロータ及び上記左側第3ロータよりも上方に位置し、上記制御部は、上記右側第1ロータ、上記右側第2ロータ、上記左側第3ロータを、上から見て回転方向が反時計回りとなるように回転させ、上記右側第3ロータ、上記左側第1ロータ及び上記左側第2ロータを、回転方向が時計周りとなるように回転させてもよい。
【0025】
胴体と、上記胴体と結合し、上記左右一対の棒状支持部材を連結する左右方向に延在する固定翼を更に具備してもよい。
【0026】
上記固定翼に配置された、上記ロータ由来の振動に対して逆位相の高調波振動を発生する動翼を更に具備してもよい。
【0027】
上記ロータは、上記棒状支持部材の下部に配置されてもよい。
【0028】
上記棒状支持部材の下部後方に配置された下向きに延在する垂直尾翼を更に具備し、上記垂直尾翼の先端は上記推進プロペラの回転面より下方に位置してもよい。
【0029】
上記制御部は、前進飛行時に、最も前方に位置するロータを、その回転面を進行方向に対し前傾するように制御して、上記推進プロペラに加えて、又は、上記推進プロペラに替えて、推進用として機能させてもよい。
【0030】
上記制御部は、前進飛行時に、最も前方に位置するロータの揚力と空気抵抗が最小となるように、上記最も前方に位置するロータの回転数及び/又は当該ロータのブレードのピッチ角を制御してもよい。
【0031】
上記ロータは、左右一対のロータからなるロータ群を複数形成するように、上記棒状支持部材それぞれに同数配置され、複数の上記ロータ群のうち1つのロータ群に属するロータの上記ブレードの数は、他のロータ群に属するロータと異なってもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、小型化及び高速化が可能な垂直離着陸機とすることができる。
【0033】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の第1実施形態に係わる垂直離着陸機の模式斜視図である。
【
図2】第1実施形態の垂直離着陸機の模式平面図である。
【
図3】第1実施形態の垂直離着陸機の模式側面図である。
【
図4】本発明の各実施形態の垂直離着陸機のロータの制御系の構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の各実施形態の垂直離着陸機でのロータの制御を説明するための図である。
【
図6】本発明の各実施形態の垂直離着陸機でのロータの制御を説明するための図である。
【
図7】本発明の各実施形態の垂直離着陸機での制御部による制御フロー図である。
【
図8】(A)は本発明の回転数制御を行わない垂直離着陸機での前後ロータの流れ場干渉の概念図であり、(B)は本発明の回転数制御を行う各実施形態の垂直離着陸機での前後ロータの流れ場干渉の概念図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係わる垂直離着陸機の模式平面図である。
【
図10】(A)は第1実施形態の垂直離着陸機におけるロータの流れ場干渉の概念図であり、(B)は第2実施形態の垂直離着陸機におけるロータの流れ場干渉の概念図である。
【
図11】(A)及び(B)は、それぞれ、本発明の第3実施形態に係わる垂直離着陸機の模式側面図である。
【
図12】本発明の第4実施形態に係わる垂直離着陸機の動翼の動きを説明するための固定翼の断面図である。
【
図13】(A)及び(B)は、第4実施形態に係わる垂直離着陸機の動翼を高調波振動させることにより垂直離着陸機全体の振動の変化を説明するグラフである。
【
図14】(A)は第1実施形態に係わる垂直離着陸機における離着陸時の際に生じるロータ下方への吹きおろしの様子を示す模式側面図であり、(B)は本発明の第5実施形態に係わる垂直離着陸機における離着陸時の際に生じるロータ下方への吹きおろしの様子を示す模式側面図である。
【
図15】本発明の第6実施形態に係わる垂直離着陸機の模式側面図である。
【
図16】本発明の第7実施形態に係わる垂直離着陸機の模式側面図である。
【
図17】本発明の第9実施形態に係わる垂直離着陸機の模式平面図である。
【
図18】(A)はロータのブレードの数の違いによる、ロータ回転時の音圧変動を示すグラフであり、(B)は第1及び第8実施形態それぞれにおけるロータ回転時の音圧変動を示すグラフである。
【
図19】(A)及び(B)は、ロータのリフトオフセット状態を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。以下の説明において、既出の構成については同様の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0036】
<第1実施形態>
【0037】
[垂直離着陸機の全体構成]
【0038】
図1は、本発明の第1実施形態に係わる垂直離着陸機の模式斜視図である。
図2は、第1実施形態の垂直離着陸機の模式平面図である。
図3は、第1実施形態の垂直離着陸機の模式側面図である。
図4は、垂直離着陸機のロータの制御系の構成を示すブロック図である。
【0039】
垂直離着陸機1は、複数の垂直昇降用のロータ(以下、単に「ロータ」という。)と推進プロペラを搭載するリフト&クルーズ型マルチロータ垂直離着陸機である。
【0040】
本明細書において、垂直離着陸機1が水平方向に移動(前進飛行)するときの移動方向を前方向とし、その逆方向を後方向とする。また、前方に向いた状態で垂直離着陸機1からみた垂直離着陸機1の幅方向の右側の方向を右方向とし、左側の方向を左方向とする。また、鉛直上向きを上方向とし、鉛直下向きを下方向とする。前後方向、左右方向及び上下方向は互いに直交する。また、本明細書において、垂直離着陸機1の平面視とは、垂直離着陸機1を上方からみたときをいう。また、「左右方向外側」とは、平面視したときに、垂直離着陸機1を左右方向(幅方向)に2等分する縦中心線A(
図2参照。)から遠ざかる側を意味し、「左右方向内側」とは、平面視したときに、縦中心線Aに近づく側を意味する。また、ロータ2の「回転方向」は、平面視したときの回転方向を意味する。
【0041】
図1~
図3に示すように、垂直離着陸機1は、胴体3と、2つの固定翼4と、左右一対の棒状支持部材5と、複数(本実施形態では6つ)のロータ2と、2つの推進プロペラ6と、2つの垂直尾翼7と、を有する。
【0042】
[垂直離着陸機の各部構成]
【0043】
(胴体)
【0044】
胴体3は、前後方向に長い形状を有し、前進飛行時に空気抵抗が小さい流線形の形状を有する。胴体3には、操縦席が設けられていてもよい。垂直離着陸機1は、有人機であってもよいし、地上のオペレータによって無線通信を介して制御される無人機であってもよい。
【0045】
(固定翼)
【0046】
固定翼4は左右方向に延在する形状を有し、後述する左右一対の棒状支持部材5R及び5Lを連結する。2つの固定翼4は、それぞれ胴体3の前方側及び後方側に位置し、胴体3と結合する。前方に位置する固定翼4を前方固定翼41といい、後方に位置する固定翼4を後方固定翼42といい、両者を特に区別する必要がない場合は固定翼4という。固定翼4は、揚力の一部を発生させる。各固定翼4の後方端には、左右一対の動翼8が設けられていても良い。動翼8については後述する。
【0047】
機体の安定性の観点から、前方固定翼41と後方固定翼42の取り付け角を変更することが好ましい。例えば、後方固定翼42の取り付け角を前方固定翼41の取り付け角よりも1度程度大きく設定してもよい。これにより、固定翼4で発生する揚力を前方よりも機体後方で大きくして機体の頭下げモーメントを発生させることができ、機体の静安定性の向上に寄与させることができる。また、前方固定翼41と後方固定翼42の取り付け角を同じとした場合、前方固定翼41により発生する吹きおろしにより後方固定翼42で発生する揚力を低減させてしまうが、後方固定翼42の取り付け角を前方固定翼41よりも大きくすることで、後方固定翼42で発生する揚力を補正し、確保することができる。
【0048】
(棒状支持部材)
【0049】
左右一対の棒状支持部材5は、前後方向に延びる形状を有し、平面視で胴体3の左右両側に設けられる。左右一対の棒状支持部材5のうち右側に位置する棒状支持部材に符号5Rを付し、左側に位置する棒状支持部材に符号5Lを付すが、特に区別する必要がない場合は棒状支持部材5という。本明細書において、棒状支持部材5が「前後方向に延びる」とは、棒状支持部材5が前後方向に平行に延在する態様に限定されず、全体として前後方向に延びていればよく、後述する第2実施形態の棒状支持部材5Aのように湾曲していてもよい。本実施形態では、棒状支持部材5は、前後方向に平行に一直線上に延びる形状を有する。
【0050】
右側棒状支持部材5Rは、前方固定翼41の右端側及び後方固定翼42の右端側に固定される。左側棒状支持部材5Lは、前方固定翼41の左端側及び後方固定翼42の左端側に固定される。棒状支持部材5は、上部でロータ2を支持し、下部後方で垂直尾翼7を支持し、後部で推進プロペラ6を支持する。
【0051】
(ロータ)
【0052】
左右一対の棒状支持部材5R及び5Lそれぞれには、前後方向に2以上のロータ2が配置される。「前後方向に2以上のロータが配置される」とは、前後方向に平行な同一直線上に2以上のロータが配置される形態の他、前後方向に延びる湾曲した曲線上に2以上のロータが配置される形態も含み、全体として前後方向に2以上のロータが配置されていればよい。
【0053】
本実施形態では、各棒状支持部材5に3つのロータ2が配置され、計6つのロータ2が配置される。各棒状支持部材5に配置される3つのロータ2の中心は、前後方向に平行な同一直線上に位置する。各ロータ2の中心は、左右方向における縦中心線Aからの距離が同じところに位置し、また、上下方向で同位置となっている。このように同一直線上にロータ2を配置することで、垂直離着陸機1の横幅(左右方向の寸法)を小さくすることができる。
【0054】
ロータ2は、各棒状支持部材5の上部にそれぞれ同数配置される。右側棒状支持部材5Rに配置される3つのロータ2を、前方から後方に向かって順に、右側第1ロータ21R、右側第2ロータ22R、右側第3ロータ23Rという。左側棒状支持部材5Lに配置される3つのロータ2を、前方から後方に向かって順に、左側第1ロータ21L、左側第2ロータ22L、左側第3ロータ23Lという。これらを特に区別する必要がない場合は、ロータ2という。右側第1ロータ21Rと左側第1ロータ21L、右側第2ロータ22Rと左側第2ロータ22L、右側第3ロータ23Rと左側第3ロータ23Lとは、それぞれ、前後方向の位置が同位置であり、対をなす。つまり、垂直離着陸機1は、左右一対のロータ2からなるロータ群を3つ有する。右側第1ロータ21Rと左側第1ロータ21Lとからなるロータ群を第1ロータ群210、右側第2ロータ22Rと左側第2ロータ22Lとからなるロータ群を第2ロータ群220、右側第3ロータ23Rと左側第3ロータ23Lとからなるロータ群を第3ロータ群230という。第1ロータ群210に属する2つのロータ2を右側第1ロータ21R及び左側第1ロータ21Lというように区別する必要がない場合、第1ロータ21という。第2ロータ群220及び第3ロータ群230についても同様である。
【0055】
ロータ2は、垂直昇降用のロータである。各ロータ2は、所定方向に回転することで、垂直上昇、垂直下降及びホバリング(空中停止)する際の揚力(上方向の推進力)を発生する。更に、各ロータ2は前進飛行時(水平飛行時)にも回転を停止せず、回転し続けて揚力を発生する。このように、本実施形態及び後述する各実施形態では、ロータ2は固定翼4とともに前進飛行時の揚力発生を担う。また、ロータ2の回転数及びブレード25のピッチ角は、ロータ2毎に個別に制御される。ロータ2の回転方向はロータの配置位置に応じて設定される。
【0056】
本実施形態及び後述する各実施形態では、ロータを用いて前進飛行時の揚力を発生させることで、全機揚力を固定翼に頼る必要がないため、固定翼のスパン長(横幅)を小さくすることができ、全体的に垂直離着陸機の横幅サイズを小さくすることができる。また、詳細については後述するが、本実施形態及び後述する各実施形態では、前進率(飛行速度/翼端速度)とロータの実効揚抗比との関係を用いて、ロータの回転数とブレードのピッチ角を制御することで、流れ場干渉によるロータ性能の低下を抑制し、ロータ性能を向上させることができる。ロータ性能を向上させることで、全機揚力のうち固定翼で発生させる揚力の割合を低減させることができ、固定翼の小型化、ひいては垂直離着陸機の小型化が可能となる。尚、本実施形態及び後述する各実施形態では、固定翼を有する垂直離着陸機を例にあげるが、本発明は固定翼を有さない垂直離着陸機にも適用できる。ロータのみで前進飛行時の揚力を発生させることで、固定翼を省略することでき、垂直離着陸機の小型化が可能となる。
【0057】
前後方向に隣接する2つのロータにおいて、前進飛行時、後方側のロータは、前方側のロータにより発生したやや下向きの後流(吹きおろし)の影響を受ける。これを、流れ場干渉という。一般に、後方側のロータは、流れ場干渉により、当該ロータに必要な揚力を発生させるためにロータ回転パワーを増加させる必要があり、後方のロータ性能が低下する。
【0058】
これに対し、本実施形態及び後述の各実施形態に係わる垂直離着陸機では、前進飛行時に、ロータを所定方向に回転させ、ロータの実効揚抗比が閾値以上になる前進率(飛行速度/翼端速度)となるように、ロータの回転数及びブレードのピッチ角を制御する。これにより、ロータ2に必要な揚力を発生させつつ、流れ場干渉によるロータ性能低下を最小限に抑制することができる。詳細については後述する。
【0059】
図3及び
図4に示すように、各ロータ2は、モータ28と、モータ28の出力軸に接続される図示しないハブと、ハブに取り付けられる複数のブレード25とを有する。モータ28は、ロータ2を回転させるための動力源である。モータ28、当該モータ28へ電力を供給するバッテリー(不図示)及び制御部10は胴体3に設けられる。
【0060】
各ロータ2は、4枚のブレード25を有する。各ロータ2の回転面30は、水平となっている。ブレード25の長手方向の一端はハブに取り付けられる。ブレード25の長手方向の他端は、ブレード25の先端であり、翼端27という。各ロータ2は、回転数が可変、かつ、ブレード25のピッチ角が可変となるように構成される。ブレード25のピッチ角は、ロータ2の回転軸に対するブレード表面の角度である。尚、ブレード数は4枚に限定されず、2枚以上であればよい。
【0061】
ここで、ロータ2の回転面30における揚力分布について
図19(A)及び(B)を用いて説明する。
図19(A)はロータ2の平面図であり、回転方向11が反時計周りの場合を示す。
図19(B)は、
図19(A)のB-B線における、前進飛行中の垂直離着陸機1の前方から垂直離着陸機1をみたときの概念的なロータ2の回転面30の揚力分布を示す。符号33は回転面20の中心である。
【0062】
図19(A)のロータ2において、回転面30の右半分の細かいドットで埋めた領域が、ブレード25が前進方向(機体前方方向)に回転する領域であり、「前進側」という。回転面30の左半分の無地の領域が、ブレード25が後退方向(機体後方方向)に回転する領域であり、「後退側」という。尚、時計周りに回転するロータでは、回転面における右半分が後退側となり、左半分が前進側となる。
【0063】
前進飛行中の垂直離着陸機1に搭載される各ロータ2は、各ロータ2の左右でブレード25上の相対速度が異なる。前進側では、水平飛行速度(V)とロータ半径方向rの回転速度(rΩ)が合成されるため、ブレード上の相対速度が速くなる。これに対し、後退側では、水平飛行速度(V)と回転速度(rΩ)とが相殺されるので、相対速度は遅くなる。これにより、
図19(B)に示すように、一般に、ロータ2では、発生揚力は前進側が大きく、後退側が小さく、回転面30全体で見た時に揚力分布に隔たりが生じ、揚力の作用点が中心からずれた状態となる(リフトオフセット状態)。尚、本明細書において、「水平飛行速度」を単に「飛行速度」ということがある。
【0064】
(推進プロペラ)
【0065】
図1~
図3に示すように、推進プロペラ6は、左右一対の棒状支持部材5R及び5Lそれぞれの後部に配置される。右側棒状支持部材5Rに配置される推進プロペラ6を右側推進プロペラ6Rといい、左側棒状支持部材5Lに配置される推進プロペラ6を左側推進プロペラ6Lといい、両者を特に区別する必要がない場合は、推進プロペラ6という。平面視で、右側第1ロータ21R、右側第2ロータ22R、右側第3ロータ23R、右側推進プロペラ6Rは、前後方向に平行な一直線上に位置する。平面視で、左側第1ロータ21L、左側第2ロータ22L、左側第3ロータ23L、左側推進プロペラ6Lは、前後方向に平行な同一直線上に位置する。
【0066】
図1及び
図4に示すように、各推進プロペラ6は、モータ68と、モータ68の出力軸に接続される図示しないハブと、ハブに取り付けられる複数のブレード65を有する。モータ68は、推進プロペラ6を回転させるための動力源である。モータ68、当該モータ68へ電力を供給するバッテリー(不図示)は胴体3に設けられる。尚、バッテリーの搭載位置は必ずしも胴体内に限定されない。例えば、動力配線の重さの観点から、バッテリーをなるべく個別モータの近くに配置するようにしてもい。また、バッテリーを支持部材内や支持部材の下に分散配置してもよい。本実施形態では、各推進プロペラ6は、4つのブレード65を有する。各推進プロペラ6の回転面は、垂直となっている。推進プロペラ6は、ブレード65の回転により前方へ進む推進力を発生させ、垂直離着陸機1は、前方への移動(前進飛行)が可能となっている。
【0067】
本実施形態及び後述する各実施形態に係わる垂直離着陸機では、推進プロペラ6により推進力を発生させ、複数のロータ2及び固定翼4で揚力を発生させることで、高速化が可能となっている。
【0068】
(垂直尾翼)
【0069】
垂直尾翼7は、左右一対の棒状支持部材5R及び5Lそれぞれの下部後方に連結して配置される。右側棒状支持部材5Rに連結し、下向きに延在する垂直尾翼7を右側垂直尾翼7Rといい、左側棒状支持部材5Lに連結し、下向きに延在する垂直尾翼7を左側垂直尾翼7Lといい、両者を特に区別する必要がない場合は、垂直尾翼7という。垂直尾翼7は、垂直離着陸機1の左右方向の安定性の維持等を担う。垂直尾翼は、棒状支持部材5の上部に上向きに延在して設けられていてもよい。
【0070】
[制御系の構成]
【0071】
図4に示すように、垂直離着陸機1は、ロータ2及び推進プロペラ6を制御する制御部10と、記憶装置16と、センサ類17を備える。
【0072】
(センサ類)
【0073】
センサ類17は、垂直離着陸機1の飛行状態を検出する各種センサにより構成される。センサ類17は、例えば、機体の角度を検知するジャイロセンサ、機体の加速度を検知する加速度センサ、対気速度計、GPSなどを含む。センサ類17でのセンシング結果から、機体の姿勢角(ピッチ、ロール、ヨー)、飛行速度、位置などを検出する。センサ類17によるセンシング結果情報は、制御部10に出力される。
【0074】
(制御部)
【0075】
垂直離着陸機1は、基本的に、昇降モード、前進飛行モード、ホバリングモードのいずれかで制御される。昇降モードは、垂直離着陸機1が垂直上昇又は垂直下降する際の制御モードである。垂直離着陸機1では、離陸時に垂直上昇し、着陸時に垂直下降する。前進飛行モードは、機体を水平姿勢に維持して前進飛行する際の制御モードである。前進飛行モードは、更にロータの回転数が一定で制御される回転数一定モードと、ロータの回転数が変更し得る回転数変更モードを有する。ホバリングモードはホバリング時の制御モードである。尚、本実施形態では、垂直に上昇又は下降する例を挙げるが、固定翼機のように、斜めに上昇又は下降するようにしてもよい。
【0076】
機体は昇降モードで垂直上昇し(又は斜めに上昇し)、ある一定の高度になると推進プロペラ6が作動し、前進飛行モードに遷移する。前進飛行モードでは、所定の飛行速度(本実施形態では100km/h(約28m/s))となるまでは、ロータの回転数が一定の回転数一定モードで飛行し、所定の飛行速度(本実施形態では100km/h)以上になると回転数変更モードに遷移し、本発明に係わるロータの回転数及びブレードのピッチ角の制御が行われる。着陸態勢では、機体は、前進飛行モードで飛行速度を落としていき、飛行速度が所定の飛行速度未満になると、回転数変更モードから回転数一定モードに変更し、更に徐々に飛行速度を落としていく。その後、昇降モードに遷移し垂直下降し、着陸する。前進飛行モードの回転数変更モードのときのロータの回転数は、昇降モード及び前進飛行モードの回転数一定モードのときのロータの回転数よりも小さくなるように制御される。
【0077】
制御部10は、各モードに応じて、各ロータ2及び各推進プロペラ6を個別に制御する。制御部10は推進プロペラ6の回転数等を制御し、垂直離着陸機1の飛行速度等を制御する。制御部10は、ロータ2の回転数及びブレード25のピッチ角を制御する。
【0078】
制御部10は、前進飛行モードにおいて、100km/h以上の飛行速度での前進飛行時に、ロータ2をその配置位置に応じた回転方向で回転させ、飛行速度情報を用い、ロータの実効揚抗比が閾値以上になる前進率(飛行速度/翼端速度)となるように、ロータ2の回転数及びブレード25のピッチ角を制御する。
【0079】
詳細には、制御部10は、飛行速度情報を用い、予め準備したロータの実効揚抗比と前進率(飛行速度/翼端速度)との関係を示す第1のデータに基づいて、ロータの実効揚抗比が閾値以上になる前進率となるように、ロータの回転数の範囲を算出する。そして、制御部10は、飛行速度情報を用い、算出したロータの回転数の範囲内で、ロータに必要な揚力を生じさせるブレードのピッチ角の範囲を算出する。続いて、制御部10は、算出したロータの回転数の範囲内かつブレードのピッチ角の範囲内で、各ロータの回転数及びブレードのピッチ角を決定し、当該決定したロータ2の回転数及びブレード25のピッチ角に基づいて、ロータ2を制御する。
【0080】
ロータの回転数の範囲及びブレードのピッチ角の範囲の算出、並びに、ロータの回転数及びブレードのピッチ角の決定では、後述する記憶装置16に記憶されるデータが用いられる。
【0081】
前進飛行時では、機体が水平姿勢をとるように、各ロータ2が発生する揚力が制御される。制御部10は、記憶装置16に記憶されるデータに加え、垂直離着陸機1の姿勢情報を加味して、水平姿勢を維持するように、ロータ2の回転数及びブレード25のピッチ角を決定してもよい。
【0082】
垂直離着陸機1の飛行速度情報及び姿勢情報は、センサ類17でのセンシング結果を用いて取得することができる。飛行速度情報及び姿勢情報はリアルタイムで取得される。
【0083】
更に、制御部10は、前進飛行モードにおいて、ロータ2の配置位置に応じた回転方向で各ロータの回転方向を制御する。ロータの回転方向は、その前方にあるロータによる吹きおろし分布に応じて、流れ場干渉が低減されるように決定される。
【0084】
(記憶装置)
【0085】
図5及び
図6は、ロータ2の制御に用いられる記憶装置16が記憶するデータの一例である。
図4に示すように、記憶装置16は、第1のデータとしての回転数算出用データ161と、第2のデータとしてのピッチ角算出用データ162とを記憶する。
図5は、回転数算出用データ161を示す。
図6(A)及び(B)は、概念的なピッチ角算出用データ162を示す。回転数算出用データ161及びピッチ角算出用データ162は、予め準備され、記憶装置16に記憶される。
【0086】
((回転数算出用データ))
【0087】
第1のデータとしての回転数算出用データ161は、流れ場干渉による空力性能の低下を最小限にするためのロータの回転数の範囲を算出する際に用いる。回転数算出用データ161は、前進率とロータの実効揚抗比との関係を示す。
【0088】
本発明者らは、複数の垂直昇降用のロータ2と推進プロペラ6とを搭載する垂直離着陸機1の飛行速度が100km/h以上の前進飛行時では、
図5に示す回転数算出用データ161のように、前進率(飛行速度/ロータ翼端速度)が所定の数値(0.5)以上となると、ロータの実効揚抗比が閾値以上で安定するというロータの実効揚抗比と前進率との相関関係を見出した。
【0089】
飛行速度情報を用い、回転数算出用データ161に基づいて、ロータの回転数を制御することで、ロータ2の回転面30に発生する揚力の分布(揚力分布)を調整することができ、ひいては吹きおろし分布を調整することができる。ロータの実効揚抗比が閾値以上になる前進率(0.5以上)となるロータの回転数でロータ2を制御することで、ロータ2の回転面30において、前進側では揚力が大きく生じる状態とし、後退側では揚力が生じない状態又はそれに近い状態となるように、揚力分布(
図8における符号18)を調整することでき、ひいては吹きおろし分布(
図8における符号12)を調整することができる。そして、当該吹きおろし分布とロータの配置位置を考慮して、ロータの回転方向を制御することで、流れ場干渉によるロータ性能の低下を抑制し、空力性能の低下を最小限に抑制することができる。
【0090】
図5に示すように、回転数算出用データ161は、前進率(μ)に対する、ロータ2の実効揚抗比(L/D
E)のデータである。前進率(μ)は、水平飛行速度(V)を翼端速度RΩ(Rはロータ半径、Ωは回転速度を示す。)で割った比率で表される。翼端速度は、ブレード25の先端に対応する翼端27の速度である。
【0091】
ロータ2の実効揚抗比(L/DE)は、揚力Lと実効抗力DEの比である。ロータ2の実効揚抗比は、ロータの性能を示す指標であり、実行揚抗比の値が大きいほど、空気抵抗が小さくなり、エネルギー効率が高くロータの性能が良いことを示す。実効抗力DEを次のように定義する。
【0092】
DE=P/V-X=P/V+D (Pはロータ回転パワー、Vは水平飛行速度、Xは推進力、Dは抗力を示す。)
【0093】
図5の回転数算出用データ161に示すように、前進率(飛行速度/ロータ翼端速度)が0.2以上の範囲において、前進率の値が大きくなると実効揚抗比の数値が高くなる傾向となる。更に、前進率が0.5以上となると、ロータの実効揚抗比がおおよそ6.0~6.5の範囲となるように安定する。つまり、ロータの実効揚抗比が閾値(
図5に示す例では閾値は6.0である。)以上になる前進率(0.5以上)となるロータの回転数でロータ2を制御することで、ロータ性能の変化が少なくなり、ロータ性能が良好な状態で安定する。ある飛行速度に対して前進率が大きくなるということは、ロータの回転数が小さくなることであり、回転数を小さくすることでロータの実効揚抗比を高くすることができる。
【0094】
ここで、「ロータの実効揚抗比が閾値以上」の「閾値」とは、ロータの実効揚抗比が安定した状態となり始めたときの値であり、
図5に示す例では閾値は6.0である。尚、ロータ2の配置位置によって、当該閾値は変更し得る。例えば、本実施形態のようにロータを同一直線上に配置する場合、第1ロータ21及び第2ロータ22と、第3ロータ23とでは、ロータの実効揚抗比の閾値は第3ロータ23の方が低くなるが、前進率とロータの実効揚抗比との相関関係を示すグラフ(
図5参照)の形状は同様の形状となり、変化の仕方は同じとなる。いずれのロータにおいても、ロータの実効揚抗比が閾値以上となる、つまり、ロータ性能が安定するのは、前進率が0.5以上のときである。尚、第3ロータ23で実効揚抗比の閾値が低くなるのは、
図10(A)に示すように、第3ロータ23は、第1ロータ21及び第2ロータ22の吹きおろしによる影響をうけるためである。
【0095】
各ロータ2の回転数の範囲は、同じ回転数算出用データ161を用いて算出することができるが、記憶装置16は、例えば、第1ロータ21及び第2ロータ22と、第3ロータ23とで、別々の回転数算出用データ161を記憶していてもよい。
【0096】
((ピッチ角算出用データ))
【0097】
第2のデータとしてのピッチ角算出用データ162は、ブレード25のピッチ角の範囲の算出、並びに、ロータ2の回転数及びブレード25のピッチ角の決定に用いる。ピッチ角算出用データ162は、ロータ2の回転数、ブレード25のピッチ角及びロータ2の実効揚抗比との関係を示すデータである。
【0098】
制御部10は、飛行速度情報を用い、ピッチ角算出用データ162に基づいて、回転数算出用データ161を用いて算出したロータの回転数の範囲内で、ロータ2に必要な揚力を生じさせるブレード25のピッチ角の範囲を算出する。そして、算出したロータの回転数の範囲内かつピッチ角の範囲内で、ロータの実効揚抗比が最適となるように、ロータ2の回転数とブレード25のピッチ角を決定する。
【0099】
ピッチ角算出用データ162は、
図6(A)に示すブレードピッチ角(ブレードのピッチ角)とロータの回転数との関係を示すデータと、
図6(B)に示すブレードピッチ角とロータの実効揚抗比との関係を示すデータとを含む。
図6(A)に示すデータにおけるブレードピッチ角を示す横軸と、
図6(B)に示すデータにおけるブレードピッチを示す横軸とは対応している。
図6(A)は、同じ揚力を生じさせることができるピッチ角と回転数との関係を示す。例えば、ロータの回転数を変えても、
図6(A)に基づいて回転数に応じてブレードのピッチ角を変えることで、同じ揚力が得られるように調整することができる。
図6(A)及び(B)に示す、ロータの回転数、ブレードのピッチ角及びロータの実効揚抗比との関係を示すデータ(ピッチ角算出用データ162)は、飛行速度毎に異なっている。記憶装置16は、ピッチ角算出用データ162を飛行速度毎に予め記憶する。
【0100】
(制御部による制御の詳細)
【0101】
以下、ロータ2の回転方向がどのように制御されるかを
図2及び
図10(A)を用いて説明する。その後、制御部10による、所定の速度(100km/h)以上の飛行速度での前進飛行時のロータ2の制御に用いるロータ2の回転数及びブレード25のピッチ角の決定について、
図7の制御フローに沿って、
図5、
図6及び
図8を用いて説明する。
【0102】
図10(A)は、回転方向と流れ場干渉との関係を説明するための本実施形態の垂直離着陸機1の右側部分平面図である。
図7は、制御部10による制御フロー図である。
図8(A)及び(B)は、前後方向に平行な同一直線上に前後に隣接して位置する2つのロータの流れ場干渉を説明するための概念図であり、ロータの回転面に生じる揚力分布と吹きおろし分布を示す。
図8(A)及び(B)を用いた説明において、2つのロータ2のうち前方に位置するロータ(以下、前方ロータという。)に符号2Fを付し、後方に位置するロータ(以下、後方ロータという。)に符号2Rを付して説明する。
【0103】
図8(A)は、比較例としての推進プロペラを備えないマルチロータ機の流れ場干渉の概念図であり、本発明に係わるロータの回転数制御を行わない場合を示す。マルチロータ機では、前進飛行時にロータが前傾し、ロータによって揚力と推進力を同時に発生する必要があり、例えば前進率が0.2~0.4程度となる。
図8(A)は、例えば前進率が約0.3、ロータ実効揚抗比が約4の場合の流れ場干渉の概念図を示す。
【0104】
図8(B)は、本発明に係わるロータの回転数制御を行う場合の流れ場干渉の概念図であり、前進率が0.5、ロータ実効揚抗比が約6の場合の概念図である。本実施形態及び後述する各実施形態に係わる垂直離着陸機は、推進プロペラ6を備え、前進飛行時の推力を推進プロペラ6で得、複数のロータ2は揚力の発生のみに寄与する形態となっている。このため、所定の速度以上の飛行速度での前進飛行時に、ロータ2の回転数を下げるように変えることができ、前進率を高くすることができる。
【0105】
(回転方向の制御)
【0106】
図10(A)に示すように、平面視したときに、前後方向に隣接する2つのロータ2の中心が前後方向に平行な同一直線上に位置する場合、制御部10は、当該2つのロータ2を、その回転方向が互いに逆向きとなるように制御する。垂直離着陸機1において、前後方向に隣接する2つのロータ2とは、右側第1ロータ21Rと右側第2ロータ22R、右側第2ロータ22Rと右側第3ロータ23R、左側第1ロータ21Lと左側第2ロータ22L、左側第2ロータ22Lと左側第3ロータ23Lである。
【0107】
図2及び
図10(A)に示すように、右側第1ロータ21R及び右側第3ロータ23Rは反時計回りに、右側第2ロータ22Rは時計周りに回転するように制御される。同様に、左側第1ロータ21L及び左側第3ロータ23Lは時計周りに、左側第2ロータ22Lは反時計周りに回転するように制御される。
【0108】
垂直離着陸機1を平面視したときに、右側第1ロータ21Rの後退側(左半分)のすぐ後方に右側第2ロータ22Rの前進側(左半分)が位置し、右側第2ロータ22Rの後退側(右半分)のすぐ後方に右側第3ロータ23Rの前進側(右半分)が位置するように、各ロータの配置位置に応じてロータの回転方向が決定する。同様に、左側第1ロータ21Lの後退側(右半分)のすぐ後方に左側第2ロータ22Lの前進側(右半分)が位置し、左側第2ロータ22Lの後退側(左半分)のすぐ後方に左側第3ロータ23Lの前進側(左半分)が位置するように、各ロータの配置位置に応じてロータの回転方向が決定する。
【0109】
尚、前後方向に隣接する2つのロータ2の中心が左右方向にずれて位置する場合での回転方向の制御については、第2実施形態で説明する。
【0110】
(ロータの回転数及びブレードのピッチ角の決定)
【0111】
制御部10は、前進飛行モードとなり、所定の速度(100km/h)以上の飛行速度での前進飛行になると、センサ類17で取得されたセンシング結果に基づく飛行速度情報を用い、
図5の回転数算出用データ161に基づいて、ロータの実効揚抗比が閾値以上となるロータの回転数の範囲を算出する(ST1)。具体的には、制御部10は、
図5に示す例では、回転数算出用データ161に基づいて、ロータの実効揚抗比が6以上になる前進率0.5以上となるように、飛行速度情報を用いてロータ2の回転数の範囲を算出する。
【0112】
このように算出した回転数でロータ2を制御することで、
図8(B)に示すように、各ロータ2の回転面30において、前進側では揚力が大きく生じる状態とし、後退側では揚力が生じない状態又はそれに近い状態となる揚力分布18となるように、揚力分布を調整することできる。従って、吹きおろし分布12においても、前方ロータ2Fの前進側の後方では吹きおろしが大きく、前方ロータ2Fの後退側の後方では吹きおろしが生じない状態又はそれに近い状態となるように調整することができる。
【0113】
このようにロータの回転面の揚力分布、そして吹きおろし分布が調整され、上述のようにロータの回転方向が制御されることで、前後方向に隣接する2つのロータにおいて、前方ロータ(例えば右側第1ロータ21R)の回転面30の後退側の後方に、後方ロータ(例えば右側第2ロータ22R)の回転面30の前進側が位置することになる。これにより、後方ロータは、その回転面において揚力が主に発生する前進側は、前方のロータによる吹きおろしの影響を受けにくくなり、流れ場干渉を低減することができる。
【0114】
尚、
図10(A)に示すように、第3ロータ23は、その前方にある第1ロータ21及び第2ロータ22の吹きおろしの影響を受ける。しかしながら、第2ロータ22と第3ロータ23との回転方向を逆にすることで、第3ロータ23は、同じ回転方向の第1ロータ21による吹きおろしの影響は受けるものの、第2ロータ22による吹きおろしの影響は受けにくく、流れ場干渉を低減することができる。
【0115】
このように、前進飛行モードにおいて、ロータの実効揚抗比が閾値以上となるロータの回転数の範囲となり、かつ、ロータの配置位置に応じて各ロータの回転方向が制御されることで、吹きおろしの影響によって必要な揚力を発生するために後方ロータ2Rのロータ回転パワーを増加させる必要がなくなり、流れ場干渉による後方ロータ2Rのロータ性能低下を抑制することができ、空力性能の低下を最小限に抑制することができる。
【0116】
これに対し、
図8(A)に示すように、本実施形態のロータの回転数の制御を行わない比較例では、例えば前進率が0.3の場合、前方ロータ2Fの後退側でも揚力が大きくでやすく、吹きおろし分布12では、前方ロータ2Fの後退側の後方に吹きおろしが大きく生じ、当該吹きおろしが後方ロータ2Rの前進側に大きく影響してしまう。このため、後方ロータ2Rに必要な揚力を発生させるために、後方ロータ2Rのロータ回転パワーを増加させる必要が生じ、ロータ性能が低下してしまう。
【0117】
次に、制御部10は、センサ類17によるセンシング結果に基づく機体の姿勢情報を取得する(ST2)。
【0118】
次に、制御部10は、姿勢情報に基づいて、ロータ2それぞれについて、機体を水平姿勢とするために必要な揚力を求め、当該必要な揚力を得るためのブレード25のピッチ角の範囲を算出する(ST3)。詳細には、制御部10は、ロータ2毎に、当該ロータ2が必要な揚力が得られる範囲で、飛行速度情報を用い、
図6(A)に示す回転数とブレードピッチ角との関係を示すデータに基づいて、ST1で算出したロータの回転数の範囲に対応するブレードのピッチ角の範囲を算出する。
【0119】
続いて、制御部10は、ロータ2それぞれについて、
図6(B)に示すデータに基づいて、算出したブレードのピッチ角の範囲内でロータの実効揚抗比が高くなるブレードのピッチ角を決定し、決定したブレードのピッチ角に応じてロータの回転数を決定する(ST4)。各ロータ2は、決定されたロータの回転数及びブレードのピッチ角で制御される。ロータ2は、ブレードのピッチ角の調整によって必要な揚力を発生し、少ない回転数でロータ2の空気抵抗が小さくなるように調整される。
【0120】
ここで、ロータの回転数及びブレードのピッチ角の決定に際し、各ロータ2の回転数を同じにするとロータ2由来の振動による騒音が生じる場合がある。このため、低騒音化の観点から、各ロータ2の回転数を、ST1で算出したロータ2の回転数の範囲内で、音が共鳴しない程度にずらしてもよい。
【0121】
尚、回転数算出用データ161とピッチ角算出用データ162を用いたロータの回転数及びブレードのピッチ角の制御は、飛行速度が100km/h以上の場合に好ましく用いられる。飛行速度が100km/h未満の場合に、上記制御を行うと、ロータで十分な揚力を発生させることが難しい。
【0122】
以上のように、垂直離着陸機は、前進飛行時の揚力を発生するロータと推進プロペラとを備え、流れ場干渉によるロータ性能低下が抑制されてロータ性能が向上するので、小型化及び高速化が可能となる。
【0123】
尚、固定翼4を有さない垂直離着陸機としてもよく、上記のようにロータの回転数及びブレードのピッチ角を制御することで、本実施形態と同様に、流れ場干渉によるロータ性能低下が抑制され、小型化が可能となる。
【0124】
本実施形態及び後述する各実施形態の垂直離着陸機は、ロータ2を6つ有する。これにより、冗長性が向上し、安全性を向上させることができる。仮にロータ2が1つ故障しても残りのロータ2によって継続してロータ2による揚力を得ることができる。ロータ2が1つ故障した場合、当該故障したロータ2と対になるロータ2を停止して4つのロータ2を用いてもよいし、残りの5つのロータ2を続けて回転し続けてもよい。
【0125】
本実施形態及び後述する各実施形態の垂直離着陸機は、ロータ2を6つ有するが、4つ以上であればよく、左右一対の2つのロータからなるロータ群が前後方向に複数配置されていればよく、本発明を適用することができる。
【0126】
以下、他の実施形態について説明するが、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。同様の構成については同様の符号を付して、説明を省略する場合がある。以下の各実施形態においても、第1実施形態と同様に、所定速度以上の飛行速度での前進飛行時に、前進率とロータの実効揚抗比との関係を用いて、ロータの回転数とブレードのピッチ角が制御される。
【0127】
<第2実施形態>
【0128】
図9を用いて、第2実施形態に係わる垂直離着陸機1Aについて説明する。
図9は、垂直離着陸機1Aの平面図である。
【0129】
第1実施形態では、棒状支持部材5が前後方向に平行に一直線状に延びる形状を有していたが、
図9に示す垂直離着陸機1Aのように、左右一対の棒状支持部材5A及び5Bが平面視で湾曲して前後方向に延びる曲線形状であってもよい。平面視で、右側棒状支持部材5AR及び左側棒状支持部材5ALは、それぞれ、前後方向中央が左右方向外側に向かって凸となる湾曲状を有する。
【0130】
左右一対の棒状支持部材5AR及び5ALそれぞれに支持される3つのロータの中心は、前後方向に並び、前後方向に平行な一直線上には位置せず、曲線上に沿って左右方向にずれて位置する。
図9に示すように、平面視で、右側第2ロータ22Rは、右側第1ロータ21R及び右側第3ロータ23Rよりも左右方向外側に回転面30の半径分ずれて位置する。右側第1ロータ21R及び右側第3ロータ23Rは、左右方向における縦中心線Aからの距離が同じところに位置する。同様に、左側第2ロータ22Lは、左側第1ロータ21L及び左側第3ロータ23Lよりも左右方向外側に回転面30の半径分ずれて位置する。左側第1ロータ21L及び左側第3ロータ23Lは、左右方向における縦中心線Aからの距離が同じところに位置する。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、右側第1ロータ21Rと左側第1ロータ21L、右側第2ロータ22Rと左側第2ロータ22L、右側第3ロータ23Rと左側第3ロータ23Lとは、それぞれ対をなし、第1ロータ群210、第2ロータ群220及び第3ロータ群230を形成する。6つのロータ2は、上下方向の位置が同位置となっている。
【0131】
6つの各ロータ2の回転方向について説明する。本実施形態のように、上下方向の高さが同じで前後方向に隣接する2つのロータ2の中心が左右方向にロータの回転面30の半径分ずれて位置する場合、以下の(1)、(2)の形態となるようにロータ2の回転方向を制御する。本実施形態では、前後方向に隣接する2つのロータ2とは、右側第1ロータ21Rと右側第2ロータ22R、右側第2ロータ22Rと右側第3ロータ23R、左側第1ロータ21Lと左側第2ロータ22L、左側第2ロータ22Lと左側第3ロータ23Lである。前後方向に隣接する2つのロータにおいて、前方に位置するロータを前方ロータ、後方に位置するロータを後方ロータという。
【0132】
(1)後方ロータが前方ロータよりも回転面の半径分左右方向外側に位置する場合、後方ロータの回転面30の前進側の前方に前方ロータが位置せず、前方ロータの回転面30の前進側の後方に、後方ロータの回転面30の後退側が位置するように、前方ロータと後方ロータの回転方向が同じとなるように制御する。このように制御することで、後方ロータは、その回転面30における主に揚力が発生する前進側で前方ロータによる吹きおろしの影響をうけにくい。
【0133】
(2)後方ロータが前方ロータよりも回転面の半径分左右方向内側に位置する場合、後方ロータの回転面30の前進側のすぐ前方には前方ロータが位置せず、前方ロータの回転面30の後退側の後方に、後方ロータの回転面30の後退側が位置するように、前方ロータと後方ロータの回転方向が逆になるように制御する。このように制御することで、後方ロータは、その回転面30における主に揚力が発生する前進側で前方ロータによる吹きおろしの影響をうけにくい。
【0134】
本実施形態では、
図9に示すように、右側第1ロータ21R及び右側第2ロータ22Rは反時計回り方向に、右側第3ロータ23Rは時計周り方向に、回転する。左側第1ロータ21L及び左側第2ロータ22Lは時計周り方向に、左側第3ロータ23Lは反時計周り方向に回転するように制御される。このように回転方向が制御されることで、各ロータは、自身の回転面の前進側の前方に他のロータが位置しない、又は、前方に他のロータが位置していたとしても自身の回転面の前進側の前方に他のロータの後退側が位置するように、配置される。
【0135】
図9及び
図10(B)に示すように、右側第1ロータ21Rと右側第2ロータ22Rとの位置関係及び回転方向関係、及び、左側第1ロータ21Lと左側第2ロータ22Lとの位置関係及び回転方向関係は、上記(1)を満たす。このようにロータの配置位置に応じてロータの回転方向を制御することで、第2ロータ22(後方ロータ)は、その回転面30における主に揚力が発生する前進側に第1ロータ21(前方ロータ)による吹きおろしの影響を受けにくい。
【0136】
図9及び
図10(B)に示すように、右側第2ロータ22Rと右側第3ロータ23Rとの位置関係及び回転方向関係、及び、左側第2ロータ22Lと左側第3ロータ23Lとの位置関係及び回転方向関係は、上記(2)を満たす。このようにロータの配置位置に応じてロータの回転方向を制御することで、第3ロータ23(後方ロータ)は、その回転面30における主に揚力が発生する前進側に第2ロータ22(前方ロータ)による吹きおろしの影響を受けにくい。
【0137】
更に、
図9及び
図10(B)に示すように、垂直離着陸機1Aでは、上記のように回転方向が制御されることで、右側第1ロータ21Rと右側第3ロータ23Rとは回転方向が逆になる。右側第1ロータ21Rと右側第3ロータ23Rとは、その中心が前後方向に平行な同一直線上で隣接するように配置される。このような配置では、右側第3ロータ23Rは、右側第1ロータ21Rの吹きおろしの影響を受けるが、本実施形態では、右側第3ロータ23Rの前進側の前方に、右側第1ロータ21Rの揚力が生じない状態又はそれに近い状態となっている後退側が位置するように回転方向が制御されるので、右側第3ロータ23Rは右側第1ロータ21Rの吹きおろしの影響を受けにくい。従って、右側第3ロータ23Rは、その前方にある右側第1ロータ21R及び右側第2ロータ22R両方の吹きおろしの影響を受けにくくなっている。左側についても同様である。
【0138】
このように、本実施形態では、一部のロータが他のロータよりも左右方向外側に位置して配置されるため、機体の横幅サイズが第1実施形態よりも大きくなるものの、上述のように6つのロータ2のいずれをも、流れ場干渉を回避するように配置することができ、ロータ性能を向上させることができる。
【0139】
<第3実施形態>
【0140】
図11を用いて、第3実施形態に係わる垂直離着陸機1B及び1Cについて説明する。
図11(A)は垂直離着陸機1Bの概略側面図であり、10(B)は垂直離着陸機1Bの概略側面図である。垂直離着陸機1B及び1Cは、いずれも第1実施形態と同様に左右一対の棒状支持部材5が前後方向に平行な直線状を有し、各棒状支持部材5に設けられる3つのロータは、平面視で前後方向に平行な同一直線上に位置する。
【0141】
第1実施形態では、6つのロータ2が、上下方向の位置が同位置となっている例をあげたが、
図11(A)及び(B)に示すように、上下方向の位置が異なっていてもよい。前後方向に隣接する2つのロータにおいて、後方ロータの高さを、前方ロータよりも上方となるように変更することで、後方ロータの前方ロータの吹きおろしによる流れ場干渉の影響を低減することができ、後方ロータの回転方向が制限されず、設計の範囲が広くなる。後方ロータは、前方ロータよりもロータ2の回転面30の半径分程度上方に位置するように配置される。
【0142】
[垂直離着陸機1B]
【0143】
図11(A)に示す垂直離着陸機1Bでは、第1ロータ21と第2ロータ22は、上下方向の位置が同位置となっている。第3ロータ23の上下方向の位置は、第1ロータ21及び第2ロータ22よりも上方になっている。第3ロータ23の高さは、棒状支持部材5にロータ高さを変更する構造体29を追加することで調整してもよい。構造体29を追加する場合、空気抵抗の増加を回避するために、構造体29を流線形状とすることが好ましい。各ロータ2の回転方向は、第1実施形態と同様に、
図8(B)に示すような前後ロータの流れ場干渉の概念図に基づく吹きおろし分布を考慮して決定することが好ましい。
【0144】
各棒状支持部材5に配置される3つのロータ2を平面視で前後方向に平行な同一直線上に位置させ、
図11(A)に示すように、第3ロータ23を第1ロータ21及び第2ロータ22よりも上方に位置させることで、前から3つめに位置する第3ロータ23は、その前方にある第1ロータ21及び第2ロータ22による吹きおろしの影響を受けにくい。更に、上下方向の位置が同じであり、前後に隣接する第1ロータ21と第2ロータ22の回転方向を、第1実施形態の第1ロータ21と第2ロータ22と同様に、互いに逆にすることで、第2ロータ22は第1ロータ21の吹きおろしの影響を受けにくくなっている。
【0145】
以上のように、垂直離着陸機1Bは、全てのロータが流れ場干渉を回避する形態となっている。このようにロータの上下方向の位置を異ならせ、ロータの配置位置に応じて回転方向を制御することで、流れ場干渉を小さくすることができる。
【0146】
[垂直離着陸機1C]
【0147】
図11(B)に示す垂直離着陸機1Cでは、第1ロータ21と第3ロータ23は、上下方向の位置が同位置となっている。第2ロータ22の上下方向の位置は、第1ロータ21及び第3ロータ23よりも上方になっている。第2ロータ22のロータの高さは、棒状支持部材5にロータ高さを変更する構造体29を追加することで調整してもよい。
【0148】
各棒状支持部材5に配置される3つのロータ2を平面視で前後方向に平行な同一直線上に位置させ、
図11(B)に示すように、第2ロータ22を第1ロータ21及び第3ロータ23よりも上方に位置させる場合、各棒状支持部材5において、第2ロータ22の回転方向を、第1ロータ21と同じ回転方向とし、第3ロータ23の回転方向を第2ロータ22と逆の回転方向とする。
【0149】
図11(B)に示す例では、右側第1ロータ21R及び右側第2ロータ22Rの回転方向を反時計周りとし、右側第3ロータ23Rの回転方向を時計周りとし、左側第1ロータ21L及び左側第2ロータ22Lの回転方向を時計周りとし、左側第3ロータ23Lの回転方向を反時計周りとする。
【0150】
第2ロータ22は、第1ロータ21よりも上方に位置するため、第2ロータ22は、第1ロータ21により生じる吹きおろしの影響を受けにくくなる。
【0151】
更に、各ロータ2の回転方向を上記のようにすることで、第2ロータ22と第3ロータ23とは、互いの回転方向が逆となる。つまり、右側第2ロータ22Rの回転面の後退側(回転面の左側半分)の後方に、右側第3ロータ23Rの回転面30の前進側(回転面の左側半分)が位置する。後退側で揚力が生じない状態又はそれに近い状態となる揚力分布となるようにロータは制御されるので、右側第2ロータ22Rによる吹きおろしは、右側第2ロータ22Rの回転面30の後退側の後方で吹きおろしが生じない状態又はそれに近い状態となる吹きおろし分布となり、右側第3ロータ23Rは右側第2ロータ22Rの吹きおろしの影響を受けにくくなる。左側においても同様である。
【0152】
そのうえ、各ロータ2の回転方向を上記のようにすることで、中心が前後方向に平行な同一直線上で前後に隣接する第1ロータ21及び第3ロータ23は、上下方向の位置が同じで、互いの回転方向が逆となる。つまり、右側第1ロータ21Rの回転面の後退側(回転面の左側半分)の後方に、右側第3ロータ23Rの回転面30の前進側(回転面の左側半分)が位置する。後退側で揚力が生じない状態又はそれに近い状態となる揚力分布となるようにロータは制御されるので、右側第1ロータ21Rによる吹きおろしは、右側第1ロータ21Rの回転面30の後退側の後方で吹きおろしが生じない状態又はそれに近い状態となる吹きおろし分布となり、右側第3ロータ23Rは右側第1ロータ21Rの吹きおろしの影響を受けにくくなる。従って、右側第3ロータ23Rは、その前方にある右側第1ロータ21R及び右側第2ロータ22Rの吹きおろしの影響を受けにくくなっている。左側においても同様である。
【0153】
以上のように、垂直離着陸機1Cは、全てのロータが流れ場干渉を回避する形態となっている。このようにロータの上下方向の位置を異ならせ、ロータの配置位置に応じて回転方向を制御することで、流れ場干渉を小さくすることができる。
【0154】
<第4実施形態>
【0155】
図12は、
図1のXII-XII線で切断した動翼8が設けられた固定翼4の模式断面図である。
図13(A)はロータ由来の振動(細い実線で示す。)と動翼単独の振動(破線で示す。)を示す概念図であり、
図13(B)はロータ由来の振動(細い実線で示す。)と、ロータ由来の振動と動翼による高調波振動との合成による振動(太い実線で示す。)を示す概念図である。
図13(A)及び(B)において、各振動は固定翼4に発生する揚力の変動に対応する。
【0156】
ロータ2由来の振動は、ロータ2の回転面30において揚力が前進側で大きくでるといった揚力分布が生じることで発生し、機体の振動の原因となる。
図12に示すように、本実施形態及び他の各実施形態において、動翼8は、ロータ2由来の振動に対して逆位相の高調波振動を生じるように、上下方向に可動するように構成されていてもよい。
図13(A)に示すように、ロータ2由来の振動と逆位相の振動を、動翼8によって発生させることで、
図13(B)に示す太線のように、機体の振動を低減させることができる。動翼8は、ロータ2の回転数よりも速く動かす。動翼8の高調波振動は、ロータ2の回転数の周波数の整数倍で制御し、ロータ由来の振動の周波数の位相をずらすように高調波制御を行う。
【0157】
このように、ロータ2由来の振動と逆位相の高調波振動を発生させる動翼8を設けることで、機体の振動を低減させることができる。これにより、機体への負荷が軽減され、機体の耐久性や安全性が向上し、加えて、垂直離着陸機に搭載されるセンサ等の各種機器の故障や誤動作のリスクを低減することができる。また、騒音を軽減し、乗客の快適性を向上させることができる。
【0158】
<第5実施形態>
【0159】
図14(A)は第1実施形態の垂直離着陸機1の模式側面図であり、
図14(B)は第5実施形態に係わる垂直離着陸機1Dの模式側面図である。
【0160】
上記各実施形態では、
図14(A)のように各ロータ2が棒状支持部材5の上方に配置される例を挙げたが、
図14(B)に示す垂直離着陸機1Dのように各ロータ2が棒状支持部材5の下方に配置されていてもよい。
図14(A)に示す垂直離着陸機1のように、ロータ2が棒状支持部材5の上部に配置される場合、離着陸時(垂直上昇時及び垂直下降時)やホバリング時にロータ2に揚力を発生させる際に、ロータ2の下方に向かって吹きおろしが生じる。この吹きおろしは棒状支持部材5と流れ場干渉を引き起こし、棒状支持部材5はロータ揚力と反対向きである機体の下向きの力を発生する。これをダウンロードという。当該ダウンロードにより、ロータ2に更に大きな揚力を発生させる必要があり、ダウンロードは、垂直離着陸性能やホバリング時のロータ性能の悪化の原因となる。
【0161】
上記ダウンロードを回避するために、
図14(B)に示すように、ロータ2を棒状支持部材5の下方に配置してもよい。このような構成とすることで、ロータ2から生じた吹きおろしは棒状支持部材5と流れ場干渉せず、ダウンロード発生を回避することができる。これにより、ロータ性能を向上させることができる。尚、前進飛行時において、ロータ2が棒状支持部材5の上部にあっても下部にあっても、ロータ性能に影響はない。
【0162】
有人機とする場合、
図14(A)に示すように、棒状支持部材5の上部にロータ2が設けられることが好ましい。これにより、垂直離着陸機1に搭乗している搭乗者からは、胴体3に設けられる窓からロータ2がみえにくく、ロータ2が飛散して飛んでくるのではないかといったロータが見えることによる心理的な不安感を払拭することができ、搭乗者に対して視覚的に安心感を与えることができる。また、棒状支持部材5の上部にロータ2を設けることで、地上に着陸している垂直離着陸機1の外にいる人や物体とロータ2との接触を回避しやすく、安全性を確保することができる。
【0163】
<第6実施形態>
【0164】
図15は、第6実施形態に係わる垂直離着陸機1Eの模式側面図である。
【0165】
図15の垂直離着陸機1Eのように、胴体3の下部に、地面Eに胴体3が直接接触しないように降着用のスキッド19が付設されていてもよい。スキッド19は、例えば、一対構成で左右方向に並び、前後方向に平行に延在する。スキッド19は、胴体3内に引き込めるタイプのものでもよい。
【0166】
図15に示すように、棒状支持部材5の下部後方には、下方に向かって延在する垂直尾翼7が設けられる。当該垂直尾翼7の先端部7aは、上下方向で、推進プロペラ6の回転面よりも下方に位置することが好ましい。より好ましくは、
図15に示すように、スキッド19の最後部19aと推進プロペラ6の回転面の最下端部とを通る仮想直線L1の水平な地面Eに対する傾きを、スキッド19の最後部19aと垂直尾翼7の先端部7aの最後方部とを通る仮想直線L2の水平な地面Eに対する傾きよりも大きくする。
【0167】
このような構成とすることで、機体着陸時に推進プロペラ6が地面Eに接触することを防ぐと同時に接触によって推進プロペラ6が破損して飛散することを防止することができ、機体安全性を高めることができる。また、着陸時の姿勢不安定による地面Eへのハードランディング時に、垂直尾翼7は推進プロペラ6よりも先に地面Eに接地するため、推進プロペラ6の破損を防止することができる。また、垂直尾翼7を棒状支持部材5の下部に取り付け、各ロータ2を棒状支持部材5の上部に配置することで、ロータ2による吹きおろしの流れ場干渉によって姿勢安定性が低下することを抑制し、前進飛行時の方向安定性を大幅に損なうことがない。
【0168】
<第7実施形態>
【0169】
制御部10は、前進飛行時に、
図16に示す垂直離着陸機1Fのように、最も前方に位置する第1ロータ21(右側第1ロータ21R及び左側第1ロータ21L)の回転面が進行方向に対して前傾するように制御して、第1ロータ21を、推進プロペラ6に加えて、又は、推進プロペラ6に替えて、推進用として機能させてもよい。すなわち、制御部10は、垂直離着陸するとき(昇降モード)は、回転面が水平姿勢31(上下方向に略垂直の姿勢)となるように第1ロータ21を制御する。一方、前進飛行時(前進飛行モード)は、制御部10は、回転面が進行方向に対して前傾するように、例えば進行方向に対して略垂直な垂直姿勢32となるように制御する。
【0170】
ここで、棒状支持部材5に設けられるロータ2は前進飛行時に頭上げモーメントを発生し、機体を頭上げ方向に姿勢変更しようとし、機体安定性を損なわせる場合がある。これに対し、
図16に示す垂直離着陸機1Fのように、機体の重心位置よりも前方にある機体最前方に配置される第1ロータ21を前進飛行時に前傾させ、推進プロペラとして機能させることで、推進力と同時に重心回りに頭下げモーメントを発生させることがでる。これにより、頭上げモーメントを低減させ、機体の安定性を向上させることができる。
【0171】
<第8実施形態>
【0172】
上述したように、棒状支持部材5に設けられるロータ2は前進飛行時に頭上げモーメントを発生し、機体を頭上げ方向に姿勢変更しようとし、機体安定性を損なわせる場合がある。これに対し、第1~第6実施形態において、前進飛行時に、制御部10は、重心位置よりも前方にある機体最前方に配置された第1ロータ21について、回転を停止させることなく、揚力と空気抵抗が最小となるように、ロータの回転数及び/又はブレードのピッチ角とを制御してもよい。これにより、頭上げモーメントを低減させ、機体の安定性を向上させることができる。また、本実施形態では、第1ロータ21は4つのブレード25を備えているため、第1ロータ21の回転を完全に止めてしまうと、ブレード25が棒状支持部材5に対して左右方向に突出した形態となり大きな空気抵抗が生じてしまうが、第1ロータ21を常に回転し続けるようにすることで、空気抵抗が小さくなるように調整することができる。
【0173】
<第9実施形態>
【0174】
上述の各実施形態では、各ロータ2のブレード数が同じである例をあげたが、
図17に示す本実施形態の垂直離着陸機1Gのように、ロータ2Gのブレード数が異なってもよい。この場合、ブレード数と各ブレードの面積とを乗じた値が各ロータ2Gで等しくなるようにすることが好ましく、各ロータ2Gで同等の揚力を得るように調整することが容易である。
【0175】
図17は第9実施形態の垂直離着陸機1Gの模式平面図である。
図18(A)は音圧変動を示す概念図であり、実線はブレードが3枚のロータの音圧変動を示し、破線はブレードが4枚のロータの音圧変動を示し、一点鎖線はブレードが5枚のロータの音圧変動を示す。
図18(B)は音圧変動を示す概念図であり、実線は第1実施形態に対応する各ロータのブレード枚数が同じ場合の音圧変動を示し、破線は本実施形態に係わる各ロータのブレード数が異なる場合の音圧変動を示す。
【0176】
垂直離着陸機1Gは、最前方に位置する2つの第1ロータ21G(右側第1ロータ21GR及び左側第1ロータ21GL)からなる第1ロータ群210Gと、前後方向の略中央に位置する2つの第2ロータ22G(右側第2ロータ22GR及び左側第2ロータ22GL)からなる第2ロータ群220Gと、最後方に位置する2つの第3ロータ23G(右側第3ロータ23GR及び左側第3ロータ23GL)からなる第3ロータ群230Gを有し、計6つのロータを備える。各ロータを特に区別しない場合、ロータ2Gという。各ロータ2Gの配置位置及び回転方向は第1実施形態のロータ2と同様である。
【0177】
第1ロータ21Gは3枚のブレード25を有する。第2ロータ22Gは4枚のブレード25を有する。第3ロータ23Gは5枚のブレード25を有する。
【0178】
図18(A)に示すように、ブレード数が異なることで、ブレード枚数に係わる音圧変動周期が各ロータで変化し、周波数が変化する。これにより、
図18(B)に示すように、各ロータのブレード数が異なる第9実施形態では、遠方に伝わる音圧変動は各ロータから発生する音圧変動が合成されたものとなり、各ロータのブレード数が同じ第1実施形態と比較して、音圧変動が小さくなるように音圧レベルが変化し、騒音を低減することができる。
【0179】
以上、本発明の様々な実施形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、本発明はここで開示された特定の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。例えば、上述の各実施形態では、垂直離着陸機が固定翼を有する例を挙げたが、固定翼を有さなくてもよく、前進飛行時の揚力をロータのみで発生させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0180】
1、1A、1B、1C、1D、1E、1F、1G……垂直離着陸機
2、2G…垂直昇降用のロータ、ロータ
3…胴体
4…固定翼
5、5A…棒状支持部材
6…推進プロペラ
7…垂直尾翼
7a…垂直尾翼の先端
8…動翼
10…制御部
11…ロータ回転方向
16…記憶装置
21…第1ロータ、ロータ、最も前方に位置するロータ
21R、21GR…右側第1ロータ、ロータ、最も前方に位置するロータ
21L、21GL…左側第1ロータ、ロータ、最も前方に位置するロータ
22…第2ロータ、ロータ
22R、22GR…右側第2ロータ、ロータ
22L、22GL…左側第2ロータ、ロータ
23…第3ロータ
23R、23GR…右側第3ロータ、ロータ
23L、23GL…左側第3ロータ、ロータ
25…ブレード
30…回転面
161…回転数算出用データ(第1のデータ)
162…ピッチ角算出用データ(第2のデータ)
210、210G…第1ロータ群
220、220G…第2ロータ群
230、230G…第3ロータ群