(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176160
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】情報処理システム、情報処理方法および情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 60/00 20190101AFI20241212BHJP
G01N 23/2251 20180101ALI20241212BHJP
G01N 23/20091 20180101ALI20241212BHJP
【FI】
G16C60/00
G01N23/2251
G01N23/20091
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094480
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】加藤 光樹
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 貴寛
(72)【発明者】
【氏名】後藤 邦博
(72)【発明者】
【氏名】清水 司
(72)【発明者】
【氏名】奥村 文洋
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亮暢
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA05
2G001BA07
2G001CA01
2G001CA03
2G001DA06
2G001EA03
2G001GA06
2G001HA13
2G001LA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】よりよい対象物質の観測結果を解析する情報処理システム、情報処理方法及び情報処理プログラムを提供する。
【解決手段】情報処理システム1において、情報処理装置2の取得部は、対象物質に対する第1の観測結果と第2の観測結果とを取得する。第1の観測結果は、対象物質を含む第1の領域に対して観測を行った結果であり、第1の領域内での位置を示す第1の位置情報と、位置毎の観測値である第1の観測値と、第1の位置情報に対応する属性とを含み、第2の観測結果は、対象物質を含む第2の領域に対して観測を行った結果であり、第2の領域内での位置を示す第2の位置情報と、位置毎の観測値である第2の観測値とを含み、第1の位置情報と第2の位置情報とは、互いに位置決め可能に構成される。出力部は、第1の位置情報の属性に基づき第2の位置情報の属性を特定し、第2の位置情報の属性毎の第2の観測値の分布に関する、分布情報を出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理システムであって、
次の各ステップを実行するようなプログラムを実行可能に構成されるプロセッサを備え、
取得ステップでは、対象物質に対する第1の観測結果と第2の観測結果とを取得し、ここで、
前記第1の観測結果は、前記対象物質を含む第1の領域に対して第1の観測を行った結果であり、
前記第1の領域内での位置を示す第1の位置情報と、当該位置ごとの観測値である第1の観測値と、前記第1の位置情報に対応する属性とを含み、
前記属性は、前記第1の観測結果に基づき特定され、
前記第2の観測結果は、前記対象物質を含む第2の領域に対して第2の観測を行った結果であり、
前記第2の領域内での位置を示す第2の位置情報と、当該位置ごとの観測値である第2の観測値とを含み、
前記第1の位置情報と前記第2の位置情報とは、互いに位置決め可能に構成され、
出力ステップでは、前記第1の位置情報の属性に基づき前記第2の位置情報の属性を特定し、当該第2の位置情報の属性ごとの前記第2の観測値の分布に関する、分布情報を出力する、情報処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記分布情報は、前記属性ごとの、前記第2の観測値に対応する前記第2の位置情報の数に関する分布を視覚的に示す分布視覚情報を含む、もの。
【請求項3】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記出力ステップでは、異なる2つの前記属性の間での前記第2の観測値の分布間の距離に関する情報を出力する、もの。
【請求項4】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記第1の観測結果は、前記対象物質の外観の撮像結果を含み、
前記属性は、前記外観の特徴量を含み、
前記第2の観測結果は、前記第2の位置情報に対応する前記対象物質の物性値を含む、もの。
【請求項5】
請求項4に記載の情報処理システムにおいて、
前記物性値は、前記第2の位置情報に対応する前記対象物質の組成に関する情報を含む、もの。
【請求項6】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記取得ステップでは、複数の対象物質のそれぞれに対応する、前記第1の観測結果と前記第2の観測結果とを取得し、
前記出力ステップでは、前記対象物質のそれぞれに対応する前記分布情報を出力する、もの。
【請求項7】
請求項6に記載の情報処理システムにおいて、
前記第1の観測結果または前記第2の観測結果は、対応する前記対象物質に応じて予め付与される所定のラベルに関するラベル情報と対応付けられ、
前記出力ステップでは、前記ラベルごとに前記分布情報を出力し、異なる前記ラベルごとの前記分布情報の比較結果を出力する、もの。
【請求項8】
請求項1に記載の情報処理システムにおいて、
前記対象物質は、蓄電池の正極材料または負極材料であり、
前記第1の観測結果は、前記対象物質に対するSEM測定の結果を示すSEM画像データを含み、
前記第2の観測結果は、前記対象物質に対するEDS測定の結果を示すEDSデータを含む、もの。
【請求項9】
情報処理方法であって、
請求項1~請求項8の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを含む、方法。
【請求項10】
情報処理プログラムであって、
少なくとも1つのコンピュータに、請求項1~請求項8の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを実行させる、もの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム、情報処理方法および情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、リチウムイオンパウチフルセルの劣化挙動に関する調査結果が開示されている。当該調査結果は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いた試料のSEM画像、および当該試料に対するエネルギー分散型X線分光法(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)の結果を用いて行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Li H., Chen L. and Chen Z. "High-temperature storage deterioration behaviors of lithium-ion batteries using nickel-rich cathode and SiO-C composite anode." SN Appl. Sci. 2, 1136 (2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、リチウムイオン材料等の対象物質の観測結果を解析する技術には、未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明では上記事情に鑑み、よりよい対象物質の観測結果を解析する技術を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、情報処理システムが提供される。この情報処理システムは、次の各ステップを実行するようなプログラムを実行可能に構成されるプロセッサを備える。取得ステップでは、対象物質に対する第1の観測結果と第2の観測結果とを取得する。第1の観測結果は、対象物質を含む第1の領域に対して第1の観測を行った結果である。第1の領域内での位置を示す第1の位置情報と、当該位置ごとの観測値である第1の観測値と、第1の位置情報に対応する属性とを含む。属性は、第1の観測結果に基づき特定される。第2の観測結果は、対象物質を含む第2の領域に対して第2の観測を行った結果である。第2の領域内での位置を示す第2の位置情報と、当該位置ごとの観測値である第2の観測値とを含む。第1の位置情報と第2の位置情報とは、互いに位置決め可能に構成される。出力ステップでは、第1の位置情報の属性に基づき第2の位置情報の属性を特定し、当該第2の位置情報の属性ごとの第2の観測値の分布に関する、分布情報を出力する。
【0007】
このような構成によれば、よりよい対象物質の観測結果を解析する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】情報処理装置2のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】ユーザ端末3のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】計測装置4のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図5】プロセッサ23が備える機能部の一例を示す図である。
【
図6】情報処理システム1において実行される情報処理の流れの一例を示すアクティビティ図である。
【
図7】分布情報IF1および分布視覚情報IF2の出力プロセスおよび出力態様の一例を示す図である。
【
図8】分布間の距離に関する情報の出力プロセスおよび出力態様の一例を示す図である。
【
図9】分布間の距離に関する情報の出力態様の別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0010】
ところで、一実施形態に登場するソフトウェアを実現するためのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体(Non-Transitory Computer-Readable Medium)として提供されてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよいし、外部のコンピュータで当該プログラムを起動させてクライアント端末でその機能を実現(いわゆるクラウドコンピューティング)するように提供されてもよい。
【0011】
また、一実施形態において「部」とは、例えば、広義の回路によって実施されるハードウェア資源と、これらのハードウェア資源によって具体的に実現されうるソフトウェアの情報処理とを合わせたものも含みうる。また、一実施形態においては様々な情報を取り扱うが、これら情報は、例えば電圧・電流を表す信号値の物理的な値、0または1で構成される2進数のビット集合体としての信号値の高低、または量子的な重ね合わせ(いわゆる量子ビット)によって表され、広義の回路上で通信・演算が実行されうる。
【0012】
また、広義の回路とは、回路(Circuit)、回路類(Circuitry)、プロセッサ(Processor)、およびメモリ(Memory)等を少なくとも適当に組み合わせることによって実現される回路である。すなわち、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、およびフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等を含むものである。
【0013】
1.ハードウェア構成
本節では、ハードウェア構成について説明する。
【0014】
<情報処理システム1>
図1は、情報処理システム1を表す構成図である。情報処理システム1は、情報処理装置2と、ユーザ端末3とを備える。情報処理装置2と、ユーザ端末3と、計測装置4とは、電気通信回線を通じて通信可能に構成されている。一実施形態において、情報処理システム1とは、1つまたはそれ以上の装置または構成要素からなるものである。仮に例えば、情報処理装置2のみからなる場合であれば、情報処理システム1は、情報処理装置2となりうる。以下、これらの構成要素について説明する。
【0015】
<情報処理装置2>
図2は、情報処理装置2のハードウェア構成を示すブロック図である。情報処理装置2は、通信部21と、記憶部22と、少なくとも1つのプロセッサ23とを備え、これらの構成要素が情報処理装置2の内部において通信バス20を介して電気的に接続されている。各構成要素についてさらに説明する。
【0016】
通信部21は、USB、IEEE1394、Thunderbolt(登録商標)、有線LANネットワーク通信等といった有線型の通信手段が好ましいものの、無線LANネットワーク通信、3G/LTE/5G等のモバイル通信、BLUETOOTH(登録商標)通信等を必要に応じて含めてもよい。すなわち、これら複数の通信手段の集合として実施することがより好ましい。すなわち、情報処理装置2は、通信部21およびネットワークを介して、外部から種々の情報を通信してもよい。
【0017】
記憶部22は、前述の記載により定義される様々な情報を記憶する。これは、例えば、プロセッサ23によって実行される情報処理装置2に係る種々のプログラム等を記憶するソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等のストレージデバイスとして、あるいは、プログラムの演算に係る一時的に必要な情報(引数、配列等)を記憶するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)等のメモリとして実施されうる。記憶部22は、プロセッサ23によって実行される情報処理装置2に係る種々のプログラムや変数等を記憶している。
【0018】
プロセッサ23は、情報処理装置2に関連する全体動作の処理・制御を行う。プロセッサ23は、例えば不図示の中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)である。プロセッサ23は、記憶部22に記憶された所定のプログラムを読み出すことによって、情報処理装置2に係る種々の機能を実現する。すなわち、記憶部22に記憶されているソフトウェアによる情報処理が、ハードウェアの一例であるプロセッサ23によって具体的に実現されることで、プロセッサ23に含まれる各機能部として実行されうる。これらについては、次節においてさらに詳述する。なお、プロセッサ23は単一であることに限定されず、機能ごとに複数のプロセッサ23を有するように実施してもよい。またそれらの組合せであってもよい。
【0019】
<ユーザ端末3>
図3は、ユーザ端末3のハードウェア構成を示すブロック図である。ユーザ端末3は、通信部31と、記憶部32と、プロセッサ33と、表示部34と、HMIデバイス35とを備え、これらの構成要素がユーザ端末3の内部において通信バス30を介して電気的に接続されている。通信部31、記憶部32およびプロセッサ33の説明は、情報処理装置2における各部の説明と同様のため省略する。
【0020】
表示部34は、ユーザ端末3筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。表示部34は、ユーザが操作可能なグラフィカルユーザインターフェース(Graphical User Interface:GUI)の画面を表示する。これは例えば、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示デバイスを、ユーザ端末3の種類に応じて使い分けて実施することが好ましい。
【0021】
HMIデバイス35は、ヒューマン・マシン・インターフェースデバイスである。HMIデバイス35は、ユーザ端末3の筐体に含まれるものであってもよいし、外付けされるものであってもよい。例えば、HMIデバイス35は、表示部34と一体となってタッチパネルとして実施されてもよい。タッチパネルであれば、ユーザは、タップ操作、スワイプ操作等を入力することができる。もちろん、タッチパネルに代えて、スイッチボタン、マウス、QWERTYキーボード、音声認識装置、ジェスチャ検出装置、視線検出装置、生体信号検出装置、撮像装置などを採用してもよい。すなわち、HMIデバイス35がユーザによってなされた操作入力を受け付ける。HMIデバイス35は、応答として、通信バス30を介し操作入力に対応する信号をプロセッサ33に転送する。プロセッサ33が必要に応じて所定の制御や演算を実行しうる。HMIデバイス35は、ユーザからの入力を受付可能に構成されている入力部を含むともいえる。
【0022】
<計測装置4>
図4は、計測装置4のハードウェア構成を示すブロック図である。計測装置4は、対象物質Obに対して種々の空間的な計測を実行するように構成され、例えば、対象物質Obの外観と、外観のそれぞれの位置での組成を計測するためのSEM-EDSを実行するように構成される。対象物質Obは、蓄電池の正極材料、例えば、リチウムイオン蓄電池の正極材料に用いられる、リチウム元素含有物質など、である。一実施形態では、計測装置4は、電子銃40と、第1の計測部41と、第2の計測部42と、を備える。
【0023】
電子銃40は、対象物質Obに対し電子線B1を照射するように構成される。
【0024】
第1の計測部41は、第1の観測としてのSEM(Scanning Electron Microscopy)測定を実行可能に構成され、第1の観測値として、対象物質Obから射出される反射電子線B2の強度を計測可能に構成されている。これにより、第1の計測部41は、対象物質Obの外観を示すSEM画像を構築可能なSEM画像データD1を生成することができる。SEM画像データD1は、対象物質Obを含む第1の領域に対してSEM測定を行った結果である。SEM測定は、第1の観測の一例である。言い換えれば、第1の観測結果は、対象物質Obに対するSEM測定の結果を示すSEM画像データD1を含む。SEM画像データD1は、第1の領域内での位置を示す第1の位置情報と、当該位置ごとの観測値である第1の観測値と、を含む。SEM画像データD1は、対象物質Obの外観の撮像結果を含む。一実施形態では、SEM画像データD1によって表される外観は、第1の位置情報と、当該第1の位置情報における反射電子線B2の強度によって表される、2次元平面上の画像モデルとして表現されるが、これに限られず、当該外観は、二次元曲面上の画像モデルとして表現されても、三次元立体モデルとして表現されてもよい。すなわち、第1の位置情報は、2次元的に表現されるものに限られず、3次元的に表現されるものであってもよい。SEM画像データD1は、表示部34等に表示される画像そのものに限られず、当該画像を生成するための指令符号、バイナリデータ等も含み得る。
【0025】
第2の計測部42は、第2の観測としてのEDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を実行し、第2の観測値として、対象物質Obに対して照射された電子線B1によって生じる特性X線B3の強度を計測可能に構成されている。これにより、第2の計測部42は、第2の観測結果としてEDSデータD2を生成することができる。EDSデータD2は、対象物質Obを含む第2の領域に対してEDS測定を行った結果であり、対象物質Obに対する第2の観測結果の一例である。言い換えれば、第2の観測結果は、対象物質Obに対するEDS測定の結果を示すEDSデータD2を含む。このような構成によれば、蓄電池の材料特性を、SEM画像から得られる外観との相関から直感的に把握することができる。EDSデータD2は、第2の位置情報と、第2の観測値とを含む。第2の位置情報は、第2の領域内での位置を示す。第2の観測値は、当該位置ごとのEDS測定(第2の観測)の観測値であり、例えば、第2の観測値は、当該位置に含まれる元素の特性X線B3の計測数から得られる組成、例えば、ある元素の含有比率を含む。特性X線B3の計測数は、対象物質における特定領域の元素の含有量の増加に応じて増加する。そのため、物性値は、第2の位置情報に対応する対象物質Obの組成に関する情報を含む。このような構成によれば、対象物質Obの外観と対象物質Obの組成との間の相関を解析しやすくなるため、例えば、外観検査などでの対象物質Obの解析の際に得られる情報を増やすことができる。EDSデータD2は、表示部34等に表示される画像そのものに限られず、当該画像を生成するための指令符号、バイナリデータ等も含み得る。
【0026】
一実施形態では、第1の観測(SEM)によって観測される領域である第1の領域と、第2の観測(EDSに)によって観測される領域である第2の領域とは、ほぼ一致するように構成される。これにより、第1の位置情報と第2の位置情報とは、互いに位置決め可能に構成される。
【0027】
2.情報処理装置2の機能構成
図5は、プロセッサ23が備える機能部の一例を示す図である。
図5に示すように、プロセッサ23は、取得部231と、特定部232と、出力部233とを備える。本節では、これらの機能部の概要を説明する。各機能部の詳細は、後述の情報処理と合わせて説明される。
【0028】
取得部231は、ユーザ端末3または他のデバイスからの情報を取得可能に構成される。取得部231は、記憶部22の少なくとも一部であるストレージ領域に記憶されている種々の情報を読み出し、読み出された情報を記憶部22の少なくとも一部である作業領域に書き込むことで、種々の情報を取得可能に構成されている。ストレージ領域とは、例えば、記憶部22のうち、SSD等のストレージデバイスとして実施される領域である。作業領域とは、例えば、RAM等のメモリとして実施される領域である。なお、取得部231による取得は、プロセッサ23に含まれる各機能部の出力結果を取得することを含む。
【0029】
特定部232は、取得部231が取得した情報等に基づき種々の情報を特定可能に構成される。
【0030】
出力部233は、SEM画像データD1、EDSデータD2、特定部232の特定結果等に基づき種々の情報を出力可能に構成される。
【0031】
3.情報処理について
本節では、上記情報処理システム1において実行される情報処理について説明する。
【0032】
3.1.情報処理の流れについて
図6は、情報処理システム1において実行される情報処理の流れの一例を示すアクティビティ図である。なお、当該情報処理は、図示されない任意の例外処理を含みうる。例外処理は、当該情報処理の中断や、各処理の省略を含む。当該情報処理にて行われる選択または入力は、ユーザによる操作に基づくものでも、ユーザの操作に依らず自動で行われるものでもよい。
【0033】
[アクティビティA1]
まず、アクティビティA1にて、出力部233は、ユーザからの操作に応じて、対象物質Obへの測定を行う指令を計測装置4に対して出力する。
【0034】
[アクティビティA11、アクティビティA12]
次に、処理がアクティビティA11に進み、計測装置4は、当該指令に基づき対象物質Obに対する測定を実行する。詳細には、第1の計測部41が対象物質Obに対するSEM測定を行い、第2の計測部42が対象物質Obに対するEDS測定を行う。これにより、処理がアクティビティA12に進み、計測装置4は、SEM画像データD1とEDSデータD2とを生成する。
【0035】
[アクティビティA2]
次に、処理がアクティビティA2に進み、取得部231は、SEM画像データD1とEDSデータD2を取得する。
【0036】
[アクティビティA3]
次に、処理がアクティビティA3に進み、プロセッサ23は、取得されたSEM画像データD1に基づき属性特定処理を実行する。属性特定処理は、これにより、プロセッサ23は、第1の位置情報に応じたSEM画像データD1の属性を特定する。属性は、第1の観測結果に基づき特定され、例えば、外観の特徴量を含む。外観の特徴量とは、例えば、対象物質Obの外観の触感、粒径、乱雑さなどと相関のある量である。このような特徴量としては、例えば、GLCM特徴量やSIFT特徴量などのハンドクラフト特徴量、機械学習等で得られた特徴量などが挙げられる。特徴量は、例えば、第1の位置情報と、第1の位置情報で示される位置における反射電子線B2の強度に基づき特定される。ここでは、予め学習された学習済みモデルを用いた特徴量特定処理の一例について説明する。学習済みモデルは、画像データを入力として、外観の特徴量を少なくとも出力可能に構成され、入力層と、隠れ層と、出力層とを含む。学習済みモデルは、記憶部22に格納されていても、情報処理装置2以外の外部装置に格納されていてもよい。また、属性特定処理は、情報処理システム1の外部に存在する装置によって行われてもよい。
【0037】
まず、プロセッサ23は、予め設定された単位に応じて、取得されたSEM画像データD1を分割する。当該単位は、例えば、学習済みモデルが画像データを処理可能な解像度などによって規定される。ここでは、SEM画像データD1は、一定の大きさの矩形の画像データに分割される。以下、説明の便宜上、分割された画像データのそれぞれを、パッチ画像データD11ということがある。パッチ画像データD11は、第1の位置情報との対応関係を判別可能な態様で規定される。したがって、パッチ画像データD11は、第1の位置情報を示すデータを含む。
【0038】
次に、プロセッサ23は、分割によって得られる複数のパッチ画像データD11を、学習済みモデルに入力する。学習済みモデルは、入力されたパッチ画像データD11から入力層に入力可能なパラメータに変換し、当該パラメータを少なくとも1つの隠れ層を介して出力層に伝達する。その結果、出力層から、パッチ画像データD11ごとに少なくとも1つの特徴量が出力される。パッチ画像データD11は、SEM画像データD1を分割することによって得られているため、第1の位置情報と対応付け可能に構成されている。そのため、パッチ画像データD11から出力される特徴量は、第1の位置情報と対応付け可能に構成され、第1の位置情報の属性ともいえる。学習済みモデルから出力される特徴量は、所定の基準に基づき複数のグループにグルーピングされてもよい。当該グルーピングされた特徴量を表すグループもまた、特徴量の1つである。これにより、複雑な系をより少ない属性で表現することができるため、ユーザに対する解析負荷を低減することができる。
【0039】
なお、上記属性特定処理に用いられる学習済みモデルの学習方法は、教師あり学習、教師なし学習、強化学習など任意である。学習済みモデルの種類として、線形回帰、ロジスティック回帰、ランダムフォレスト、ブースティング、サポートベクターマシン、ニューラルネットワークなどが採用可能である。特に入力が画を含む場合、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いることが好ましい。入力が時系列データを含む場合、リカレントニューラルネットワーク(RNN)を用いることが好ましい。クラスタリング技術として、スペクトラルクラスタリング、DBSCAN(Density-Based Spatial Clustering of Applications with Noise)、k-means法などが採用可能であり、セグメンテーション技術としてはU-Netなどが採用可能である。当該学習は、プロセッサ23自身によって行われても、プロセッサ23以外のデバイスによって行われてもよい。
【0040】
また、上記属性特定処理は、学習済みモデルを用いて行われるものに限られず、ルックアップテーブルまたは関数等の、SEM画像データD1と属性との対応関係を示す任意の参照情報を用いて行われるものであってもよい。このような参照情報は、例えば、観測される第1の観測結果に対応するシミュレーション、校正実験等により得られる。
【0041】
[アクティビティA4]
次に、処理がアクティビティA4に進み、取得部231は、上記属性特定処理に基づき得られる属性としての特徴量を取得する。
【0042】
[アクティビティA5]
次に、処理がアクティビティA5に進み、特定部232は、SEM画像データD1中の第1の位置情報に対応する特徴量、言い換えれば第1の位置情報の属性、に基づき第2の位置情報の特徴量(すなわち属性)を特定する。ここでは、SEM画像データD1の第1の位置情報は、EDSデータD2の第2の位置情報と予め対応付けられているので、特定部232は、第2の位置情報の特徴量が、当該第2の位置情報に対応する第1の位置情報の属性と同一であるものとして、第2の位置情報の特定を行う。
【0043】
[アクティビティA21]
その後、アクティビティA21にて、ユーザ端末3のプロセッサ33は、当該特定結果に基づき、表示部34に特徴量を重畳させたSEM画像を表示する。
【0044】
[アクティビティA6]
また、アクティビティA6にて、出力部233は、当該第2の位置情報の属性(例えば、特徴量)ごとの第2の観測値の分布に関する、分布情報IF1を出力する。分布情報IF1は、例えば、特徴量と、第2の位置情報と、第2の観測値との対応関係を示すテーブルデータ、または当該テーブルデータを集計した統計値として出力される。一実施形態の分布情報IF1は、分布視覚情報IF2を含む。分布視覚情報IF2は、属性ごとの、第2の観測値に対応する第2の位置情報の数に関する分布を視覚的に示す。このような構成によれば、第1の位置情報と相関を有する属性と第2の観測値の相関関係を特定しやすくなる。分布視覚情報IF2は、例えば、ヒストグラム、折れ線グラフ、円グラフ、散布図など、ユーザが分布に関する全体像を把握可能な態様で出力される。
【0045】
[アクティビティA22]
アクティビティA6の処理の後、アクティビティA22にて、ユーザ端末3のプロセッサ33は、アクティビティA6での出力結果に基づき、表示部34にEDSデータD2の分布視覚情報IF2を表示する。
【0046】
[アクティビティA7]
次に、処理がアクティビティA7に進み、出力部233は、上記分布情報IF1に基づき、特徴量ごとの、分布間の距離を出力する。言い換えれば、出力部233は、異なる2つの属性(例えば、特徴量)の間での第2の観測値の分布間の距離を出力する。このような構成によれば、対象物質Obに内在する異なる属性ごとの、含有元素固有の特性X線B3の分布の相違を定量的に評価することができる。分布間の距離の計算方法は、ワッサースタイン距離、KLダイバージェンスなど、任意の手法を採用可能である。一実施形態では、当該距離に関する情報は、距離視覚情報として、ユーザが視認可能な情報を出力可能な態様で出力される。
【0047】
[アクティビティA23]
その後、アクティビティA23にて、ユーザ端末3のプロセッサ33は、表示部34に、当該距離に関する距離視覚情報を表示する。
【0048】
以上のような構成によれば、第1の観測値に応じて特定される属性ごとの第2の観測値の傾向を分布として把握することができる。したがって、第1の観測値と第2の観測値との相関関係に基づく解析をしやすくなる。
【0049】
3.3.情報処理の詳細
本節では、上述した情報処理の詳細について説明する。
【0050】
3.3.1.分布情報IF1および分布視覚情報IF2の出力プロセスおよび出力態様について
図7は、分布情報IF1および分布視覚情報IF2の出力プロセスおよび出力態様の一例を示す図である。
図7に示すように、プロセッサ23は、まずSEM画像データD1を複数のパッチ画像データD11に分割する。SEM画像データD1に対応する画像は、第1のSEM画像IM1aとして
図7中に示される。パッチ画像データD11のそれぞれは、矩形領域に分割され、それぞれがある規定のサイズ以下となるように構成される。このように分割されたパッチ画像データD11のそれぞれに対してある特徴量が特定される。出力部233は、特定された特徴量とSEM画像データD1とに基づき、SEM画像IM1aに、パッチ画像データD11のそれぞれに対して特定された特徴量に対応する色を重畳表示させる。その結果、第1のSEM画像IM1aに対して、パッチ画像データD11に対応する位置ごとに特徴量に対応する色が重畳表示された第2のSEM画像IM1bが、表示部34に表示される。なお、当該第2のSEM画像IM1bを表示させるか否かは任意である。本実施形態では、当該特徴量はグルーピング化後の特徴量として、3つのグループ(「グループ1」、「グループ2」、「グループ3」)に分類され、当該グループ毎に異なる表示態様、例えば異なる色、で判別可能に表示される。
【0051】
一方、取得部231は、EDSデータD2を取得する。
図7中では、EDSデータD2に基づき表示部34に表示される画像は、EDSマップIM2として示されている。EDSマップIM2は、ある1種の元素、例えば、フッ素元素、の分布を、輝度マップによって表現するものである。なお、フッ素元素に限らず、炭素元素や酸素元素等の任意の元素の分布であってもよく、複数の元素の分布であってもよい。その後、特定部232は、上記SEM画像データD1の第1の位置情報と対応付けられた第2の位置情報を有するEDSデータD2に対して、パッチ画像データD11と同様の分割を行う。当該分割は、EDSデータD2から複数の分割されたデータを生成しても、当該EDSデータD2に対して第2の位置情報に基づき仮想的な領域分けを行うことによって行われてもよい。その後、特定部232は、第1の位置情報と第2の位置情報との対応関係、例えば画像データのインデックスや境界となる位置の位置情報など、に基づき、EDSデータD2中で分割された領域のそれぞれに対応するパッチ画像データD11を特定し、対応するパッチ画像データD11の特徴量を、当該領域の特徴量として特定する。これにより、EDSデータD2の第2の位置情報と、当該位置におけるフッ素元素含有量と、当該第2の位置情報に対応する特徴量との対応関係が得られる。
【0052】
その後、出力部233は、当該対応関係に基づき、分布視覚情報IF2を出力し、当該分布視覚情報IF2を表示部34に表示させる。本実施形態の分布視覚情報IF2は、上記3つのグルーピングされたそれぞれの特徴量の分布(具体的には、第1のグループに対応する分布H1、第2のグループに対応する分布H2、第3のグループに対応する分布H3)、および特徴量で区別しない、EDSデータD2全体の分布HTとが一覧可能な態様、例えば、ヒストグラム、で表示される。これにより、特徴量によらない系全体の情報と、特徴量ごとの情報とを、その分布形状の差異から容易に比較することができるため、系全体の傾向と異なる傾向を示す特徴量を特定しやすくなる。なお、分布情報IF1は、このような分布視覚情報IF2以外にも、各分布H1,H2,H3,HTのそれぞれの平均値、中央値、分散などの統計量を含んでいてもよい。
【0053】
3.3.2.分布間の距離に関する情報の出力プロセスおよび出力態様について
図8は、分布間の距離に関する情報の出力プロセスおよび出力態様の一例を示す図である。なお、
図8では、分布視覚情報IF2に基づき分布間の距離に関する情報の一例である距離視覚情報IF3が出力されるように図示されているが、あくまで説明の便宜上であり、分布視覚情報IF2そのものから距離視覚情報IF3を出力する必要はない。
【0054】
まず、プロセッサ23は、EDSデータD2全体の分布HTから、各特徴量に対応するEDSデータD2の分布H1~H3を抽出する。その後、プロセッサ23は、EDSデータD2全体の分布HTに対する各特徴量に対応するEDSデータD2の分布H1~H3のそれぞれの距離を計算する。当該距離として、上述したワッサースタイン距離が用いられる。その後、出力部233は、計算された各分布H1~H3の分布間の距離を出力し、それぞれを比較可能な態様で表示部34に表示させる。ここでは、各分布H1~H3の分布間の距離が、棒グラフとして比較可能な態様で表示される。このように、基準となる特定の分布に対する各特徴量の分布間の距離を出力することにより、各特徴量の分布に関するより定量的な評価を行うことができる。特に、本実施形態のように、EDSデータD2全体の分布HTを基準とすることにより、各分布H1~H3の傾向をより客観的に分析しやすくなる。なお、分布間の距離に関する情報は、EDSデータD2全体の分布HTに対する各特徴量に対応するEDSデータD2の分布H1~H3のそれぞれの距離に限られず、各分布H1~H3の間での分布間の距離に関する情報を含んでいてもよい。
【0055】
なお、分布間の距離に関する情報の出力態様は任意であり、
図8に示される態様に限られない。例えば、
図9は、分布間の距離に関する情報の出力態様の別例を示す図である。以下、説明の便宜上、
図8に示す距離視覚情報IF3を第1の距離視覚情報IF3といい、
図9に示す距離視覚情報IF4を第2の距離視覚情報IF4ということがある。
【0056】
3.3.3.複数のSEM画像データD1およびEDSデータD2が取得された場合の処理について
上記情報処理は、複数のSEM画像データD1およびEDSデータD2が取得された場合、例えば、複数の対象物質Obが存在する場合や、同一の対象物質Obに対して複数のSEM-EDS測定が行われている場合など、についても同様に適用可能である。
【0057】
例えば、アクティビティA3にて、取得部231は、複数の対象物質Obのそれぞれに対応する、SEM画像データD1とEDSデータD2とを取得してもよい。この場合、出力部233は、対象物質Obのそれぞれに対応する分布情報IF1を出力してもよい。このような構成によれば、異なる対象物の間で、属性と第2の観測結果との対応関係を比較することができるため、対象物質Obの個体による分布の偏りを取り除きやすくなる。
【0058】
ここでは、複数のSEM画像データD1およびEDSデータD2が取得された場合における分布情報IF1の出力態様の一例として、距離視覚情報IF4の出力態様について説明する。ここでは、取得部231が、3つの対象物質Obとして、第1の対象物質Ob1、第2の対象物質Ob2、および第3の対象物質Ob3のそれぞれに関する、SEM画像データD1およびEDSデータD2を取得する場合について説明する。
【0059】
本実施形態では、プロセッサ23は、各対象物質Ob1~Ob3のそれぞれについて、EDSデータD2全体の分布HTに対する各特徴量に対応するEDSデータD2の分布H1~H3のそれぞれの距離と、各分布H1~H3の間での分布間の距離とを計算する。その後、プロセッサ23は、異なる対象物質Ob1~Ob3の間でのEDSデータD2全体の分布HTの分布間の距離を計算する。その後、出力部233は、第2の距離視覚情報IF4として、対象物質Ob1~Ob3のそれぞれの各分布H1,H2,H3,HTに対応するノードと、計算された分布間の距離に応じた長さのエッジとを有するグラフネットワークを表示部34に表示させる。
図9中のG1~G3は、特徴量ごとの分布H1~H3に対応するノードを表し、Tは、各対象物質Ob1~Ob3のそれぞれのEDSデータD2全体の分布HTに対応するノードを表す。これにより、複数の対象物質Obや1つの対象物質Obに対する複数の観測結果に対する直感的な解析をしやすくすることができる。なお、取得されたSEM画像データD1およびEDSデータD2が1つの場合にも、当該手法は適用可能である。
【0060】
4.その他
上記情報処理の態様はあくまで一例であり、これに限られない。
【0061】
SEM画像データD1またはEDSデータD2は、対応する対象物質Obに応じて予め付与される所定のラベルに関するラベル情報と対応付けられていてもよい。例えば、SEM画像データD1に対して容量測定や、学習済みモデルへの入力を行うことにより、容量の劣化度合いの大小に関するラベルが付与されていてもよい。この場合、出力部233は、ラベルごとに分布情報IF1を出力し、異なるラベルごとの分布情報IF1の比較結果を出力してもよい。このような構成によれば、予め設定されたラベルごとの第2の観測値の振る舞いを、異なるラベル同士で比較することができる。
【0062】
プロセッサ23は、SEM画像データD1をパッチ画像データD11に分割し、当該パッチ画像データD11を最小単位として特徴量等の属性を特定する必要はない。例えば、プロセッサ23は、SEM画像データD1の第1の位置情報のそれぞれに対して、例えば、ピクセル単位で、特徴量等の属性を特定してもよい。また、プロセッサ23は、複数のSEM画像データD1を分割してパッチ画像データD11のセットを生成し、当該パッチ画像データD11のそれぞれに対して特徴量等の属性の特定を行ってもよい。
【0063】
第2の観測結果は、EDSデータD2等によって表される物質の組成分布の観測結果に限られず、例えば、ヤング率、歪、応力、弾性定数、熱膨張率、抵抗値、誘電率、分極、ピエゾ定数、磁化、帯磁率、透磁率、反射率、透過率、ドメイン分布など、任意の観測値の分布に関する観測結果を含み得る。このような構成によれば、対象物質Obの外観と、当該外観の位置に対応する物性値との相関が、特徴量ごとの物性値の分布として表現することができる。したがって、当該対象物質Obの物性に関する特徴を、外観という直感的に把握可能な情報に基づき解析することが容易となる。言い換えれば、第2の観測結果は、第2の位置情報に対応する対象物質Obの物性値を含む。
【0064】
属性は、例えば、学習済みモデルから出力される上記特徴量に限られず、第1の観測結果を評価する評価者により付与される任意の属性を含み得る。
【0065】
第1の観測結果は、SEM画像データD1のように、SEM測定を用いたものに限られない。例えば、第1の観測結果は、第1の計測部41としてのAFM(Atomic Force Microscope)などの接触型顕微鏡を用いた外観の観測結果を示すものであってもよい。また、この場合、第2の観測結果は、PFM(Piezoresponse Force Microscopy)やMFM(Magnetic Force Microscopy)などのように、第2の観測値として圧電応答テンソルや磁気ドメインの向きなどを含むものであってもよい。また、第1の観測結果は、第1の計測部41としての光学機器、例えば、可視光カメラ、赤外線カメラなどを用いた、対象物質Obの外観の光学的な撮像結果を示すものであってもよい。
【0066】
第1の観測結果は、対象物質Obの外観の撮像結果を示すものに限られない。例えば、第1の観測結果は、任意の第1の観測値の実空間分布を含むものであってもよい。例えば、第1の観測結果は、第2の観測結果とは異なる元素の組成分布を示すものであってもよい。これにより、異なる元素の分布の間の相関の解析をより容易にすることができる。第1の観測結果は、第1の観測値の空間分布、特に実空間分布、の観測結果ともいえる。同様に、第2の観測結果は、第2の観測値の空間分布、特に実空間分布、の観測結果ともいえる。
【0067】
第1の計測部41と第2の計測部42とは、SEM-EDSを実行可能な計測装置4のように一体の装置として組み込まれていなくてもよく、それぞれが独立した装置として実装されていてもよい。また、第1の位置情報と第2の位置情報とは、第1の計測部41および第2の計測部42の測定段階で一致するように構成されていなくてもよい。例えば、対象物質Obや対象物質Obが載置されるステージに、位置合わせ用の特定のランドマーク、例えば、特定のパターン、を設けることにより、第1の位置情報と第2の位置情報とが位置決め可能に構成されてもよい。
【0068】
上記情報処理の適用対象となる対象物質Obは、蓄電池の正極材料に限られない。蓄電池の負極材料であってもよい。また、対象物質Obは、蓄電池に含まれる材料に限られず、無機材料、有機材料など、任意の材料により構成されていてもよい。また、対象物質Obは、多結晶に限られず、単結晶、準結晶、アモルファスなど、任意の構造を備えていてもよい。また、対象物質Obは、単体または化合物によって構成される物質に限らず、生体組織、構造物などの複雑系を構成するものであってもよい。
【0069】
情報処理装置2は、オンプレミス形態であってもよく、クラウド形態であってもよい。クラウド形態の情報処理装置2としては、例えば、SaaS(Software as a Service)、クラウドコンピューティングという形態で、上述の機能や処理を提供してもよい。
【0070】
上記実施形態では、情報処理装置2が種々の記憶・制御を行ったが、情報処理装置2に代えて、複数の外部装置が用いられてもよい。すなわち、種々の情報やプログラムは、ブロックチェーン技術等を用いて複数の外部装置に分散して記憶されてもよい。
【0071】
上記実施形態は、情報処理システム1に限定されず、情報処理方法であっても、情報処理プログラムであってもよい。情報処理方法は、情報処理システム1の各ステップを含む。情報処理プログラムは、少なくとも1つのコンピュータに、情報処理システム1の各ステップを実行させる。
【0072】
上記情報処理システム1等は、次に記載の各態様で提供されてもよい。
【0073】
(1)情報処理システムであって、次の各ステップを実行するようなプログラムを実行可能に構成されるプロセッサを備え、取得ステップでは、対象物質に対する第1の観測結果と第2の観測結果とを取得し、ここで、前記第1の観測結果は、前記対象物質を含む第1の領域に対して第1の観測を行った結果であり、前記第1の領域内での位置を示す第1の位置情報と、当該位置ごとの観測値である第1の観測値と、前記第1の位置情報に対応する属性とを含み、前記属性は、前記第1の観測結果に基づき特定され、前記第2の観測結果は、前記対象物質を含む第2の領域に対して第2の観測を行った結果であり、前記第2の領域内での位置を示す第2の位置情報と、当該位置ごとの観測値である第2の観測値とを含み、前記第1の位置情報と前記第2の位置情報とは、互いに位置決め可能に構成され、出力ステップでは、前記第1の位置情報の属性に基づき前記第2の位置情報の属性を特定し、当該第2の位置情報の属性ごとの前記第2の観測値の分布に関する、分布情報を出力する、情報処理システム。
【0074】
このような構成によれば、第1の観測値に応じて特定される属性ごとの第2の観測値の傾向を分布として把握することができる。したがって、第1の観測値と第2の観測値との相関関係に基づく解析をしやすくなる。
【0075】
(2)上記(1)に記載の情報処理システムにおいて、前記分布情報は、前記属性ごとの、前記第2の観測値に対応する前記第2の位置情報の数に関する分布を視覚的に示す分布視覚情報を含む、もの。
【0076】
このような構成によれば、第1の位置情報と相関を有する属性と第2の観測値の相関関係を特定しやすくなる。
【0077】
(3)上記(1)または(2)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前記出力ステップでは、異なる2つの前記属性の間での前記第2の観測値の分布間の距離に関する情報を出力する、もの。
【0078】
このような構成によれば、対象物質に内在する異なる属性ごとの第2の物理量の分布の相違を定量的に評価することができる。
【0079】
(4)上記(1)~(3)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前記第1の観測結果は、前記対象物質の外観の撮像結果を含み、前記属性は、前記外観の特徴量を含み、前記第2の観測結果は、前記第2の位置情報に対応する前記対象物質の物性値を含む、もの。
【0080】
このような構成によれば、対象物質の外観と、当該外観の位置に対応する物性値との相関が、特徴量ごとの物性値の分布として表現することができる。したがって、当該対象物質の物性に関する特徴を、外観という直感的に把握可能な情報に基づき解析することが容易となる。
【0081】
(5)上記(4)に記載の情報処理システムにおいて、前記物性値は、前記第2の位置情報に対応する前記対象物質の組成に関する情報を含む、もの。
【0082】
このような構成によれば、対象物質の外観と対象物質の組成との間の相関を解析しやすくなるため、例えば、外観検査などでの対象物質の解析の際に得られる情報を増やすことができる。
【0083】
(6)上記(1)~(5)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前記取得ステップでは、複数の対象物質のそれぞれに対応する、前記第1の観測結果と前記第2の観測結果とを取得し、前記出力ステップでは、前記対象物質のそれぞれに対応する前記分布情報を出力する、もの。
【0084】
このような構成によれば、異なる対象物の間で、属性と第2の観測結果との対応関係を比較することができるため、対象物質の個体による分布の偏りを取り除きやすくなる。
【0085】
(7)上記(6)に記載の情報処理システムにおいて、前記第1の観測結果または前記第2の観測結果は、対応する前記対象物質に応じて予め付与される所定のラベルに関するラベル情報と対応付けられ、前記出力ステップでは、前記ラベルごとに前記分布情報を出力し、異なる前記ラベルごとの前記分布情報の比較結果を出力する、もの。
【0086】
このような構成によれば、予め設定されたラベルごとの第2の観測値の振る舞いを、異なるラベル同士で比較することができる。
【0087】
(8)上記(1)~(7)の何れか1つに記載の情報処理システムにおいて、前記対象物質は、蓄電池の正極材料または負極材料であり、前記第1の観測結果は、前記対象物質に対するSEM測定の結果を示すSEM画像データを含み、前記第2の観測結果は、前記対象物質に対するEDS測定の結果を示すEDSデータを含む、もの。
【0088】
このような構成によれば、蓄電池の材料特性を、SEM画像から得られる外観との相関から直感的に把握することができる。
【0089】
(9)情報処理方法であって、上記(1)~(8)の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを含む、方法。
【0090】
このような構成によれば、入力データに基づき、物理現象を精度良く再現可能な非線形な物理モデルを構築することができる。
【0091】
(10)情報処理プログラムであって、少なくとも1つのコンピュータに、上記(1)~(8)の何れか1つに記載の情報処理システムの各ステップを実行させる、もの。
【0092】
このような構成によれば、入力データに基づき、物理現象を精度良く再現可能な非線形な物理モデルを構築することができる。
もちろん、この限りではない。
【0093】
最後に、本開示に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0094】
1 :情報処理システム
2 :情報処理装置
20 :通信バス
21 :通信部
22 :記憶部
23 :プロセッサ
231 :取得部
232 :特定部
233 :出力部
3 :ユーザ端末
30 :通信バス
31 :通信部
32 :記憶部
33 :プロセッサ
34 :表示部
35 :HMIデバイス
4 :計測装置
40 :電子銃
41 :第1の計測部
42 :第2の計測部
B1 :電子線
B2 :反射電子線
B3 :特性X線
D1 :SEM画像データ
D11 :パッチ画像データ
D2 :EDSデータ
H1 :分布
H2 :分布
H3 :分布
HT :分布
IF1 :分布情報
IF2 :分布視覚情報
IF3 :距離視覚情報
IF4 :距離視覚情報
IM1a :第1のSEM画像
IM2b :第2のSEM画像
IM2 :EDSマップ
Ob :対象物質
Ob1 :第1の対象物質
Ob2 :第2の対象物質
Ob3 :第3の対象物質