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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176162
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】植物の育成方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/42 20180101AFI20241212BHJP
   A01G 24/12 20180101ALI20241212BHJP
【FI】
A01G24/42
A01G24/12
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094487
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】593124406
【氏名又は名称】株式会社広瀬
(74)【代理人】
【識別番号】100084696
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 直人
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 満
(72)【発明者】
【氏名】赤井 裕
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 真奈美
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022BA02
2B022BB01
(57)【要約】
【課題】植物の周囲に埋設する焼結粒子において、隙間を形成する微細孔の平均粒径の上限値を設定することによって、育成する植物の疾病の原因となる細菌又は真菌を減殺するという効果を発揮し得る植物の育成方法を提供すること。
【解決手段】土壌Sを構成する土を原料とし、平均粒径の上限値が10μm以下の微細孔が粒子表面にて開口し、かつ当該粒子内にて隙間を形成することによって、土壌Sの中の好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアが生息することができ、かつ平均径が3~5mmであることによって微細孔における前記平均径の上限値を形成している焼結粒子1を、育成する植物Pの根の周囲に埋設することによって、前記課題を達成し得る植物の育成方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌を構成する土を原料とし、平均粒径の上限値が10μm以下であって、かつ粒子表面にて開口している微細孔による隙間の形成によって、土壌中の好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアが生息し得る焼結粒子を、育成する植物の根の周囲に埋設することを特徴とする植物の育成方法。
【請求項2】
粒子表面に開口している微細孔以外に、微細孔同士の接続によって隙間が形成されていることを特徴とする請求項1記載の植物の育成方法。
【請求項3】
微細孔の平均粒径の下限値が0.1μmであることを特徴とする請求項1、2の何れか一項に記載の植物の育成方法。
【請求項4】
育成する植物の成長を促進することができることを特徴とする請求項1、2の何れか一項に記載の植物の育成方法。
【請求項5】
育成する植物の収穫量が増加することを特徴とする請求項4記載の植物の育成方法。
【請求項6】
焼結粒子の平均径が3~5mmであることを特徴とする請求項1、2の何れか一項に記載の植物の育成方法。
【請求項7】
焼結粒子を地表から10cmの深さにて5重量%程度の割合にて埋設していることを特徴とする請求項1、2の何れか一項に記載の植物の育成方法。
【請求項8】
請求項1、2の何れか一項に記載の植物の育成方法に使用する焼結粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結粒子の埋設によって、植物の成長を阻害する細菌又は真菌による疾病を減殺することができる植物の育成方法を対象としている。
【背景技術】
【0002】
植物の育成において、多孔質焼結粒子を所定の深さに埋設することによって、植物の育成を促進させることは、公然と知られている。
因みに、本特許出願人の代表者を発明者とする特許文献1においては、「地表から5cmまでの深さの領域にて、アルミナ(Al)を18.0重量%以上含有する土を原材料とする多孔質焼結粒子を4.0重量%以上含有している」という基本構成(請求項1)を採用し、かつ焼結粒子中のバクテリアの活動によって、作物の増産に寄与することが確認されている(段落[0014]~[0016]の発明の効果の欄)。
【0003】
しかしながら、土壌内のバクテリアは、前記焼結粒子の素材であるアルミナ(Al)に特に親和性を有する訳ではないにも拘らず、特許文献1の焼結粒子は、アルミナ(Al)を18.0%以上という材料及び数値限定を採用している点において、バクテリア育成用の焼結粒子としての技術的範囲は、極めて狭小である。
【0004】
更には、植物育成に有用な好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアが生息するために必要にして十分な平均粒径の上限値を設定していない点において不十分である。
因みに、市販されているセラミック粒子の空隙における平均粒径は、15~40μmであるが、このような平均粒径の場合には、栽培する植物の育成に資するような好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアの生息、更には、栽培する植物の育成を促すような作用を発揮することは不可能な状況にある。
【0005】
更には、特許文献1においては、前記焼結粒子による作用効果として、植物の疾病の原因となる細菌及びカビ等の真菌との関係に関する作用効果については、全く検討されていない。
【0006】
このように、特許文献1においてはもとより、他の公知技術においても、焼結粒子中に生息する好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアによって、育成植物に対する細菌又は真菌による疾病を減殺することによる植物の育成方法については、これまで開示及び示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5959712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、植物の周囲に埋設する焼結粒子において、隙間を形成する微細孔の平均粒径の上限値を設定することによって、育成する植物の疾病の原因となる細菌又は真菌を減殺するという効果を発揮し得る植物の育成方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明の基本構成は、
(1)土壌を構成する土を原料とし、平均粒径の上限値が10μm以下であって、かつ粒子表面にて開口している微細孔による隙間の形成によって、土壌中の好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアが生息し得る焼結粒子を、育成する植物の根の周囲に埋設することを特徴とする植物の育成方法、
(2)粒子表面に開口している微細孔以外に、微細孔同士の接続によって隙間が形成されていることを特徴とする前記(1)の植物の育成方法、
からなる。
【発明の効果】
【0010】
植物を育成する地表及びその近傍、更には地中においては、植物の疾病の原因となる細菌及び真菌が生息している。
【0011】
これに対し、好気性バクテリア及び嫌気性バクテリアは共に、前記細菌及び真菌を減殺する作用を発揮することが知られている。
【0012】
しかも、表面に開口している微細孔の上限値が所定の数値以下である焼結粒子の場合には、多種類の好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアの生息が可能とされている。
【0013】
基本構成(1)、(2)においては、平均粒径の上限値を10μmとする焼結粒子を植物の周囲、具体的には、当該周囲の地表の近傍及び/又は地中に埋設することによって、前記細菌及び真菌の活性を減殺する作用が明瞭に発揮され、ひいては、育成植物の円滑な育成に寄与することができる。
【0014】
その結果、細菌及び真菌の繁殖を防止するための農薬は不要と化し、しかも有機溶媒を実現することも可能となる。
尚、前記減殺とは、細菌及び真菌の活性を完全に防止する場合と、減縮させる場合との双方を包摂しているが、このような減殺の具体的状況については、各実施形態に即して後述する通りである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】焼結粒子を育成する植物の周囲に埋設した状況を示しており、(a)は、地表の近傍に埋設した場合を示し、(b)は、地中に埋設した場合を示す。
図2】焼結粒子の断面図であって、(a)は、隙間が粒子表面に開口している微細孔による基本構成(1)の場合を示し、(b)は、隙間が表面に開口している微細孔だけでなく、相互に接続し合う微細孔による基本構成(2)の場合を示す。
図3】焼結粒子の写真であって、(a)は、平均粒径が0.1~10μmであって、基本構成(1)、(2)の焼結粒子に該当する場合を示し、(b)は、平均粒径が20~100μmであって、焼結粒子が、前記基本構成(1)、(2)に該当しない場合を示す。
図4(a)】図3(b)に示す焼結粒子を、バラの周囲における地表近傍に埋設したにも拘らず、黒星病を呈しているバラの葉の状態を示す写真である。
図4(b)】図3(a)に示す焼結粒子を、バラの周囲における地表近傍に埋設したことによって育成した場合のバラの葉及び花の状態を示す写真である。
図5(a)】イチゴの栽培によって、病原菌を地表に貼布すると共に、図3(a)に示す焼結粒子を地中に埋設した場合の育成状態のうち、苗の植え付け直後の状態を示す。
図5(b)】前記イチゴの育成状態のうち、苗を植え付けてから、43日後の開花状態を示す。
図5(c)】前記イチゴの育成状態のうち、172日後の結実状態を示す。
図6(a)】大豆の育成において、基本構成に係る焼結粒子を地中に埋設せずに育成された大豆の葉、茎、根の写真を左側に示し、前記焼結粒子を地中に埋設して育成された大豆の葉、茎、根の写真を右側に示す。
図6(b)】大豆の育成において、基本構成に係る焼結粒子を地中に埋設せずに育成された大豆のさやの写真を示し、前記焼結粒子を地中に埋設して育成された大豆のさやを右側の写真に示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
基本構成(1)は、図1(a)、(b)及び図2(a)、(b)に示すように、土壌Sを構成する土を原料とし、平均粒径の上限値が10μm以下であって、かつ粒子表面にて、開口している微細孔2による隙間の形成によって、土壌Sの中の好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアが生息し得る焼結粒子1を、育成する植物Pの根の周囲に埋設することを特徴とする植物の育成方法である。
【0017】
既に説明したように、表面に開口している微細孔の平均粒径が所定の数値以下の焼結粒子の場合には、多種類の好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアの生息が可能であるが、発明者の経験によれば、これらのバクテリアが生息し易い焼結粒子の平均粒径の上限値は、10μmである。
【0018】
基本構成(1)において、好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアを要件としている根拠は、土壌Sと地表との距離、pH値、水分の含有量等によって、好気性バクテリア及び嫌気性バクテリアの双方が生息する場合と、一方が生息する場合との双方が想定され、かつ実現しているが、何れの場合であっても、前記細菌及び真菌を減殺する効果を有していることに由来している。
【0019】
基本構成(1)における微細孔2は、図2(a)に示すように、表面にて開口するような隙間を形成することを要件としており、当該要件によって、細菌及び真菌の減殺作用を発揮することができる。
【0020】
しかしながら、実際の焼結粒子1においては、基本構成(2)のように、表面にて開口している微細孔2だけでなく、粒子内部において開口が順次接続している場合を示すが、大抵の焼結粒子1の場合には、図2(b)に示すように、微細孔2同士の接続によって隙間が形成される場合が多い。
【0021】
但し、焼結粒子1の平均径が微小である場合には、図2(a)のような状態を呈する場合があるが、平均径が増加するに従って、図2(b)のような状態を示すという傾向にある。
【0022】
焼結粒子における微細孔の平均径は、材料である土の種類、焼結温度及び焼結前の水分の含有量によって左右されるが、焼結温度が高く、かつ水分の含有量が多いほど、平均粒径は大きくなる傾向にある。
【0023】
更には、焼結粒子全体の径もまた、使用する土の種類、焼結温度及び焼結前の水分の含有量によって左右されるが、焼結温度が高く、かつ水分の含有量が多いほど大きくなる傾向にある。
【0024】
前記傾向に即するならば、焼結粒子の微細孔が小さいほど、全体の径は小さいことに帰する。
【0025】
基本構成(1)、(2)においては、通常、焼結粒子1の平均径が3~5mmという実施形態が採用されているが、その根拠は、このような数値範囲の場合に、10μm以下の微細孔2を形成し易いことにある。
【0026】
何れにせよ、微細孔2を介して隙間が粒子表面に連通することによって好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアは、植物Pの根に侵入することによって、前記効果を発揮することができる。
【0027】
図3(a)は、空隙の平均粒径が0.1~10μmである基本構成(1)、(2)に該当する実施形態の写真を示す。
【0028】
これに対し、図3(b)は、空隙の平均粒径が20~100μmであって、基本構成(1)、(2)に該当しない焼結粒子1の写真を示す。
【0029】
図3(a)及び図3(b)は、それぞれ焼結した粒子のうち、レーザービームの照射による粒度分布によって、微細孔2の平均径がそれぞれ0.1~10μm及び20~100μmの場合を選択した場合の写真である。
【0030】
図3(a)と図3(b)との対比によって、平均粒径が小さいほど、焼結粒子1の全体の径が小さいという傾向が裏付けられている。
【0031】
図3(a)の焼結粒子1の空隙率は、約60%であるのに対し、図3(b)の前記各焼結粒子1の空隙率は、約30%である。
【0032】
前記各空隙率は、焼結前の土の体積、即ち、水を含有する泥状の土から加えた水の体積を差し引くことによる体積と、焼結後の体積との比率を1から差し引くことによる数値に対応するパーセント(%)によって算定されるが、このような空隙率の相違は、基本構成(1)、(2)に該当している図3(a)の場合の方が当該基本構成に該当していない図3(b)の場合よりも、好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアの生息し易いことを明瞭に裏付けている。
【0033】
以下、細菌及び真菌に対する減殺作用につき、具体的な実施形態に即して説明する。
【0034】
バラに対する黒星病病原菌(Diplocar pon Rosae)を育成するバラの周囲に貼布した上で、図3(b)の焼結粒子1を前記貼布した領域の地表近傍に埋設した。
【0035】
ところが、バラの葉は、図4(a)に示すような黒星病を呈し、しかも花自体も極めて不十分な形成状況にあった。
【0036】
これに対し、図3(a)の焼結粒子1を、黒星病菌を貼布した地表近傍に埋設した場合には、図4(b)に示すように、黒星病は防止され、健全な育成が実現しており、しかも十分な開花状態を形成していた。
【0037】
イチゴの栽培において、イチゴ炭疽病(Glomerella Cingulata)、及び萎黄病(Fusarium Oxysporum)が発生しており、イチゴの正常な発育及び結実を妨害することは周知である。
【0038】
通常の畑土において、イチゴ炭疽病病原菌、萎黄病病原菌を1:1の割合にて地表に貼布した上で、当該貼布した領域の地下に対し、空隙を形成する微細孔の平均粒径が2μmである基本構成(1)、(2)の焼結粒子1を、5.0重量%含有する状態にて埋設した。
尚、前記平均粒径もまた、レーザービームの照射による粒度分布の測定に立脚している。
【0039】
図5(a)、(b)、(c)は、それぞれイチゴの苗を地中に植え付けた段階、43日後の開花段階、151日後の結実段階の状態を示す。
【0040】
図5(b)に示すように、開花段階では、前記病原菌の影響を受け、イチゴの葉は、植え付けた段階よりも緑色状態が減少していた。
【0041】
然るに、図5(c)に示すように、結実段階においては、イチゴの葉の緑色状態は回復しており、基本構成による細菌に対する減殺効果を客観的に証明している。
【0042】
基本構成(1)、(2)においては、育成する植物Pの成長を促進することを特徴とする実施形態を採用することができる。
【0043】
現に、特許文献1においては、アルミナ(Al)を一定重量%以上含有する土を原材料とする多孔質焼結粒子を含有している土壌の場合に、ほうれん草の成長が含有しないよりも明らかに高いことが説明されている(この点については、特許文献1の図2(a)、(b)、図3(a)、(b)、図4(a)、(b)の各写真を参照することによって容易に理解し得るところである。)。
【0044】
基本構成(1)、(2)の植物育成方法においても、同様の早期の育成を確認することができる。
【0045】
図6(a)の左側の写真は、基本構成による焼結粒子1を埋設せずに成長した大豆の葉、茎、根の状態を示し、右側の写真は、基本構成による焼結粒子1を周囲の地表近傍に埋設した場合の大豆の成長した葉、茎、根の状態を示す。
【0046】
双方は、同一の育成期間であるにも拘らず、葉及び根の量、更には根粒菌の付着状況において、前記焼結粒子1を埋設した右側の写真の方が大きいことが判明する。
【0047】
図6(b)は、図6(a)の成長した大豆から取得した枝豆の状態を示しており、左側は、基本構成に係る焼結粒子1を埋設した場合の個々の枝豆の状態を示す。
【0048】
これらの写真からも明らかなように、焼結粒子1を埋設した場合の方が大きな結実を実現しており、現に枝豆の重量は、32%増加していることが判明している。
【0049】
このように、基本構成(1)、(2)の方法によって、育成植物Pの成長を促進するような実施形態、更には、当該実施形態において、当該植物Pの収穫量が増加するような実施形態を採用することができる。
【0050】
育成する植物Pの周囲の地表近傍及び/又は地中に、基本構成(1)、(2)の焼結粒子1を埋設する場合の深さについては、育成する植物Pの種類によって左右されるが、発明者の経験では、地表から10cmの深さの埋設を以って、大抵の場合に、細菌又は真菌による疾病を減殺することができる。
【0051】
以下、実施例に即して説明する。
【実施例0052】
実施例は、基本構成(1)、(2)の植物育成方法に使用する焼結粒子1を対象としている。
【0053】
当該焼結粒子1は、基本構成(1)、(2)の方法において不可欠な構成要素であると共に、微細孔2の数値要件及び粒子表面にて開口するという必要不可欠な要件の下に、基本構成(1)、(2)の効果を実現している以上、基本構成(1)、(2)の方法に立脚しており、かつ物として独立した構成と評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
このように、本焼結粒子は、育成植物の疾病を減殺し得る一方、植物の育成の促進、更には収穫量の増加を実現することができ、農業分野において多大な利用価値を提供することができる。
【符号の説明】
【0055】
P 植物(プラント)
S 土壌(ソイル)
1 焼結粒子
2 微細孔
図1
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】
図5(a)】
図5(b)】
図5(c)】
図6(a)】
図6(b)】
【手続補正書】
【提出日】2023-09-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌を構成する土を原料とし、平均径の上限値が10μm以下の微細孔が粒子表面にて開口し、かつ当該粒子内にて隙間を形成することによって、土壌中の好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアが生息することができ、かつ平均径が3~5mmであることによって微細孔における前記平均径の上限値を形成している焼結粒子を、育成する植物の根の周囲に埋設することを特徴とする植物の育成方法。
【請求項2】
粒子表面に開口している微細孔以外に、微細孔同士の接続によって隙間が形成されていることを特徴とする請求項1記載の植物の育成方法。
【請求項3】
微細孔の平均粒径の下限値が0.1μmであることを特徴とする請求項1、2の何れか一項に記載の植物の育成方法。
【請求項4】
育成する植物の成長を促進することができることを特徴とする請求項1、2の何れか一項に記載の植物の育成方法。
【請求項5】
育成する植物の収穫量が増加することを特徴とする請求項4記載の植物の育成方法。
【請求項6】
焼結粒子を地表から10cmの深さにて5重量%程度の割合にて埋設していることを特徴とする請求項1、2の何れか一項に記載の植物の育成方法。
【請求項7】
請求項1、2の何れか一項に記載の植物の育成方法に使用する焼結粒子。
【請求項8】
アルミナ(Al )を含有する請求項7記載の焼結粒子。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結粒子の埋設によって、植物の成長を阻害する細菌又は真菌による疾病を減殺することができる植物の育成方法を対象としている。
【背景技術】
【0002】
植物の育成において、多孔質焼結粒子を所定の深さに埋設することによって、植物の育成を促進させることは、公然と知られている。
因みに、本特許出願人の代表者を発明者とする特許文献1においては、「地表から5cmまでの深さの領域にて、アルミナ(Al)を18.0重量%以上含有する土を原材料とする多孔質焼結粒子を4.0重量%以上含有している」という基本構成(請求項1)を採用し、かつ焼結粒子中のバクテリアの活動によって、作物の増産に寄与することが確認されている(段落[0014]~[0016]の発明の効果の欄)。
【0003】
しかしながら、土壌内のバクテリアは、前記焼結粒子の素材であるアルミナ(Al)に特に親和性を有する訳ではないにも拘らず、特許文献1の焼結粒子は、アルミナ(Al)を18.0%以上という材料及び数値限定を採用している点において、バクテリア育成用の焼結粒子としての技術的範囲は、極めて狭小である。
【0004】
更には、植物育成に有用な好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアが生息するために必要にして十分な平均粒径の上限値を設定していない点において不十分である。
因みに、市販されているセラミック粒子の空隙における平均粒径は、15~40μmであるが、このような平均粒径の場合には、栽培する植物の育成に資するような好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアの生息、更には、栽培する植物の育成を促すような作用を発揮することは不可能な状況にある。
【0005】
更には、特許文献1においては、前記焼結粒子による作用効果として、植物の疾病の原因となる細菌及びカビ等の真菌との関係に関する作用効果については、全く検討されていない。
【0006】
このように、特許文献1においてはもとより、他の公知技術においても、焼結粒子中に生息する好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアによって、育成植物に対する細菌又は真菌による疾病を減殺することによる植物の育成方法については、これまで開示及び示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5959712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、植物の周囲に埋設する焼結粒子において、隙間を形成する微細孔の平均粒径の上限値を設定することによって、育成する植物の疾病の原因となる細菌又は真菌を減殺するという効果を発揮し得る植物の育成方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明の基本構成は、
(1)土壌を構成する土を原料とし、平均径の上限値が10μm以下の微細孔が粒子表面にて開口し、かつ当該粒子内にて隙間を形成することによって、土壌中の好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアが生息することができ、かつ平均径が3~5mmであることによって微細孔における前記平均径の上限値を形成している焼結粒子を、育成する植物の根の周囲に埋設することを特徴とする植物の育成方法、
(2)粒子表面に開口している微細孔以外に、微細孔同士の接続によって隙間が形成されていることを特徴とする前記(1)の植物の育成方法、
からなる。
【発明の効果】
【0010】
植物を育成する地表及びその近傍、更には地中においては、植物の疾病の原因となる細菌及び真菌が生息している。
【0011】
これに対し、好気性バクテリア及び嫌気性バクテリアは共に、前記細菌及び真菌を減殺する作用を発揮することが知られている。
【0012】
しかも、表面に開口している微細孔の上限値が所定の数値以下である焼結粒子の場合には、多種類の好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアの生息が可能とされている。
【0013】
基本構成(1)、(2)においては、微細孔の平均径の上限値を10μmとし、かつ平均径が3~5mmである焼結粒子を植物の周囲、具体的には、当該周囲の地表の近傍及び/又は地中に埋設することによって、前記細菌及び真菌の活性を減殺する作用が明瞭に発揮され、ひいては、育成植物の円滑な育成に寄与することができる。
【0014】
その結果、細菌及び真菌の繁殖を防止するための農薬は不要と化し、しかも有機溶媒を実現することも可能となる。
尚、焼結粒子の平均径が3~5mmである根拠は、このような焼結粒子の平均径の場合には平均径が10μm以下の微細孔を形成し易いことにある。
前記減殺とは、細菌及び真菌の活性を完全に防止する場合と、減縮させる場合との双方を包摂しているが、このような減殺の具体的状況については、各実施形態に即して後述する通りである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】焼結粒子を育成する植物の周囲に埋設した状況を示しており、(a)は、地表の近傍に埋設した場合を示し、(b)は、地中に埋設した場合を示す。
図2】焼結粒子の断面図であって、(a)は、隙間が粒子表面に開口している微細孔による基本構成(1)の場合を示し、(b)は、隙間が表面に開口している微細孔だけでなく、相互に接続し合う微細孔による基本構成(2)の場合を示す。
図3】焼結粒子の写真であって、(a)は、平均粒径が0.1~10μmであって、基本構成(1)、(2)の焼結粒子に該当する場合を示し、(b)は、平均粒径が20~100μmであって、焼結粒子が、前記基本構成(1)、(2)に該当しない場合を示す。
図4(a)】図3(b)に示す焼結粒子を、バラの周囲における地表近傍に埋設したにも拘らず、黒星病を呈しているバラの葉の状態を示す写真である。
図4(b)】図3(a)に示す焼結粒子を、バラの周囲における地表近傍に埋設したことによって育成した場合のバラの葉及び花の状態を示す写真である。
図5(a)】イチゴの栽培によって、病原菌を地表に貼布すると共に、図3(a)に示す焼結粒子を地中に埋設した場合の育成状態のうち、苗の植え付け直後の状態を示す。
図5(b)】前記イチゴの育成状態のうち、苗を植え付けてから、43日後の開花状態を示す。
図5(c)】前記イチゴの育成状態のうち、172日後の結実状態を示す。
図6(a)】大豆の育成において、基本構成に係る焼結粒子を地中に埋設せずに育成された大豆の葉、茎、根の写真を左側に示し、前記焼結粒子を地中に埋設して育成された大豆の葉、茎、根の写真を右側に示す。
図6(b)】大豆の育成において、基本構成に係る焼結粒子を地中に埋設せずに育成された大豆のさやの写真を示し、前記焼結粒子を地中に埋設して育成された大豆のさやを右側の写真に示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
基本構成(1)は、図1(a)、(b)及び図2(a)、(b)に示すように、土壌Sを構成する土を原料とし、平均径の上限値が10μm以下の微細孔2が粒子表面にて開口し、かつ当該粒子内にて隙間を形成することによって、土壌S中の好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアが生息することができ、かつ平均径が3~5mmであることによって微細孔における前記平均径の上限値を形成している焼結粒子1を、育成する植物の根の周囲に埋設することを特徴とする植物Pの育成方法である。
【0017】
既に説明したように、表面に開口している微細孔2の平均径が所定の数値以下の焼結粒子の場合には、多種類の好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアの生息が可能であるが、発明者の経験によれば、これらのバクテリアが生息し易い焼結粒子の平均粒径の上限値は、10μmである。
【0018】
基本構成(1)において、好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアを要件としている根拠は、土壌Sと地表との距離、pH値、水分の含有量等によって、好気性バクテリア及び嫌気性バクテリアの双方が生息する場合と、一方が生息する場合との双方が想定され、かつ実現しているが、何れの場合であっても、前記細菌及び真菌を減殺する効果を有していることに由来している。
【0019】
基本構成(1)における微細孔2は、図2(a)に示すように、表面にて開口するような隙間を形成することを要件としており、当該要件によって、細菌及び真菌の減殺作用を発揮することができる。
【0020】
しかしながら、実際の焼結粒子1においては、基本構成(2)のように、表面にて開口している微細孔2だけでなく、粒子内部において開口が順次接続している場合を示すが、大抵の焼結粒子1の場合には、図2(b)に示すように、微細孔2同士の接続によって隙間が形成される場合が多い。
【0021】
但し、焼結粒子1の平均径が微小である場合には、図2(a)のような状態を呈する場合があるが、平均径が増加するに従って、図2(b)のような状態を示すという傾向にある。
【0022】
焼結粒子における微細孔2の平均径は、材料である土の種類、焼結温度及び焼結前の水分の含有量によって左右されるが、焼結温度が高く、かつ水分の含有量が多いほど、平均粒径は大きくなる傾向にある。
【0023】
更には、焼結粒子全体の径もまた、使用する土の種類、焼結温度及び焼結前の水分の含有量によって左右されるが、焼結温度が高く、かつ水分の含有量が多いほど大きくなる傾向にある。
【0024】
前記傾向に即するならば、焼結粒子1の微細孔2が小さいほど、焼結粒子1の全体の径は小さいことに帰する。
【0025】
何れにせよ、微細孔2を介して隙間が粒子表面に連通することによって好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアは、植物Pの根に侵入することによって、前記効果を発揮することができる。
【0026】
図3(a)は、空隙の平均粒径が0.1~10μmである基本構成(1)、(2)に該当する実施形態の写真を示す。
【0027】
これに対し、図3(b)は、空隙の平均粒径が20~100μmであって、基本構成(1)、(2)に該当しない焼結粒子1の写真を示す。
【0028】
図3(a)及び図3(b)は、それぞれ焼結した粒子のうち、レーザービームの照射による粒度分布によって、微細孔2の平均径がそれぞれ0.1~10μm及び20~100μmの場合を選択した場合の写真である。
【0029】
図3(a)と図3(b)との対比によって、平均粒径が小さいほど、焼結粒子1の全体の径が小さいという傾向が裏付けられている。
【0030】
図3(a)の焼結粒子1の空隙率は、約60%であるのに対し、図3(b)の前記各焼結粒子1の空隙率は、約30%である。
【0031】
前記各空隙率は、焼結前の土の体積、即ち、水を含有する泥状の土から加えた水の体積を差し引くことによる体積と、焼結後の体積との比率を1から差し引くことによる数値に対応するパーセント(%)によって算定されるが、このような空隙率の相違は、基本構成(1)、(2)に該当している図3(a)の場合の方が当該基本構成に該当していない図3(b)の場合よりも、好気性バクテリア及び/又は嫌気性バクテリアの生息し易いことを明瞭に裏付けている。
【0032】
以下、細菌及び真菌に対する減殺作用につき、具体的な実施形態に即して説明する。
【0033】
バラに対する黒星病病原菌(Diplocar pon Rosae)を育成するバラの周囲に貼布した上で、図3(b)の焼結粒子1を前記貼布した領域の地表近傍に埋設した。
【0034】
ところが、バラの葉は、図4(a)に示すような黒星病を呈し、しかも花自体も極めて不十分な形成状況にあった。
【0035】
これに対し、図3(a)の焼結粒子1を、黒星病菌を貼布した地表近傍に埋設した場合には、図4(b)に示すように、黒星病は防止され、健全な育成が実現しており、しかも十分な開花状態を形成していた。
【0036】
イチゴの栽培において、イチゴ炭疽病(Glomerella Cingulata)、及び萎黄病(Fusarium Oxysporum)が発生しており、イチゴの正常な発育及び結実を妨害することは周知である。
【0037】
通常の畑土において、イチゴ炭疽病病原菌、萎黄病病原菌を1:1の割合にて地表に貼布した上で、当該貼布した領域の地下に対し、空隙を形成する微細孔の平均粒径が2μmである基本構成(1)、(2)の焼結粒子1を、5.0重量%含有する状態にて埋設した。
尚、前記平均粒径もまた、レーザービームの照射による粒度分布の測定に立脚している。
【0038】
図5(a)、(b)、(c)は、それぞれイチゴの苗を地中に植え付けた段階、43日後の開花段階、151日後の結実段階の状態を示す。
【0039】
図5(b)に示すように、開花段階では、前記病原菌の影響を受け、イチゴの葉は、植え付けた段階よりも緑色状態が減少していた。
【0040】
然るに、図5(c)に示すように、結実段階においては、イチゴの葉の緑色状態は回復しており、基本構成による細菌に対する減殺効果を客観的に証明している。
【0041】
基本構成(1)、(2)においては、育成する植物Pの成長を促進することを特徴とする実施形態を採用することができる。
【0042】
現に、特許文献1においては、アルミナ(Al)を一定重量%以上含有する土を原材料とする多孔質焼結粒子を含有している土壌の場合に、ほうれん草の成長が含有しないよりも明らかに高いことが説明されている(この点については、特許文献1の図2(a)、(b)、図3(a)、(b)、図4(a)、(b)の各写真を参照することによって容易に理解し得るところである。)。
【0043】
基本構成(1)、(2)の植物育成方法においても、同様の早期の育成を確認することができる。
【0044】
図6(a)の左側の写真は、基本構成による焼結粒子1を埋設せずに成長した大豆の葉、茎、根の状態を示し、右側の写真は、基本構成による焼結粒子1を周囲の地表近傍に埋設した場合の大豆の成長した葉、茎、根の状態を示す。
【0045】
双方は、同一の育成期間であるにも拘らず、葉及び根の量、更には根粒菌の付着状況において、前記焼結粒子1を埋設した右側の写真の方が大きいことが判明する。
【0046】
図6(b)は、図6(a)の成長した大豆から取得した枝豆の状態を示しており、左側は、基本構成に係る焼結粒子1を埋設した場合の個々の枝豆の状態を示す。
【0047】
これらの写真からも明らかなように、焼結粒子1を埋設した場合の方が大きな結実を実現しており、現に枝豆の重量は、32%増加していることが判明している。
【0048】
このように、基本構成(1)、(2)の方法によって、育成植物Pの成長を促進するような実施形態、更には、当該実施形態において、当該植物Pの収穫量が増加するような実施形態を採用することができる。
【0049】
育成する植物Pの周囲の地表近傍及び/又は地中に、基本構成(1)、(2)の焼結粒子1を埋設する場合の深さについては、育成する植物Pの種類によって左右されるが、発明者の経験では、地表から10cmの深さの埋設を以って、大抵の場合に、細菌又は真菌による疾病を減殺することができる。
【0050】
以下、実施例に即して説明する。
【実施例0051】
実施例は、基本構成(1)、(2)の植物育成方法に使用する焼結粒子1を対象としている。
【0052】
当該焼結粒子1は、基本構成(1)、(2)の方法において不可欠な構成要素であると共に、微細孔2の数値要件及び粒子表面にて開口するという必要不可欠な要件の下に、基本構成(1)、(2)の効果を実現している以上、基本構成(1)、(2)の方法に立脚しており、かつ物として独立した構成と評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
このように、本焼結粒子は、育成植物の疾病を減殺し得る一方、植物の育成の促進、更には収穫量の増加を実現することができ、農業分野において多大な利用価値を提供することができる。
【符号の説明】
【0054】
P 植物(プラント)
S 土壌(ソイル)
1 焼結粒子
2 微細孔