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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176176
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 13/00 20060101AFI20241212BHJP
   B60C 15/00 20060101ALI20241212BHJP
   B60C 9/08 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B60C13/00 G
B60C15/00 K
B60C9/08 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094515
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川端 宏志
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA33
3D131AA39
3D131BA01
3D131BA02
3D131BB09
3D131BC05
3D131BC13
3D131BC31
3D131BC33
3D131BC40
3D131DA02
3D131DA32
3D131EA10V
3D131GA14
3D131GA15
3D131GA17
3D131KA05
3D131KA06
3D131LA22
(57)【要約】
【課題】剛性を確保しながら軽量化を達成できる、タイヤ2の提供。
【解決手段】タイヤ2は、一対のビード10と、カーカス12と、一対のコード補強層22と、一対の第一ゴム補強層24と、一対の第二ゴム補強層26と、を備える。カーカス12は一枚のカーカスプライ34で構成される。カーカスプライ34は、プライ本体40と、一対の折り返し部42とを備える。各コード補強層22はプライ本体40の軸方向内側に位置する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアの径方向外側に位置するエイペックスとを備える、一対のビードと、
一対の前記ビードである第一ビードと第二ビードとの間を架け渡す、カーカスと、
並列した多数のフィラーコードを含む、一対のコード補強層と、
各前記コード補強層の軸方向内側に位置する、一対の第一ゴム補強層と、
各前記第一ゴム補強層のさらに軸方向内側に位置する、一対の第二ゴム補強層と、
を備え、
前記カーカスが、並列した多数のカーカスコードを含む、一枚のカーカスプライで構成され、
前記カーカスプライが、前記第一ビードのコアと前記第二ビードのコアとの間を架け渡す、プライ本体と、それぞれのコアで折り返される一対の折り返し部とを備え、
各前記コード補強層が前記プライ本体の軸方向内側に位置する、
タイヤ。
【請求項2】
前記カーカスコードのヤング率が、前記フィラーコードのヤング率よりも低い、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記第二ゴム補強層が前記コアで折り返される、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項4】
下記の基準線と前記プライ本体との交点が、前記コード補強層の内端の径方向内側に位置する、
請求項1に記載のタイヤ。
基準線:コアの軸方向外側から前記コアに外接し、径方向にのびる直線
【請求項5】
前記第一ゴム補強層の外端がタイヤ最大幅位置の径方向外側に位置する、
請求項1から4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
前記コード補強層の外端が、前記第一ゴム補強層の外端の径方向外側に位置し、前記第二ゴム補強層の外端が前記コード補強層の外端の径方向外側に位置する、
請求項5に記載のタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤに関する。詳細には、本発明はレースで使用される車両に装着されるタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
レースのように限界で走行する車両に装着されるタイヤには、エンジンパワーをロスなく路面に伝えるために、軽量化が求められる。
タイヤを軽量化する手法として、薄いサイドウォールを採用する、カーカスプライの折り返し部を短尺化する等の手法がある。しかしこれらの手法は、操縦安定性や耐久性等のタイヤの走行性能を低下させるという懸念がある。
走行性能への影響を考量しながら、タイヤの軽量化に関する検討が行われている(例えば、下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-172104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、剛性を確保しながら軽量化を達成できる、タイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るタイヤは、コアと、前記コアの径方向外側に位置するエイペックスとを備える、一対のビードと、一対の前記ビードである第一ビードと第二ビードとの間を架け渡す、カーカスと、並列した多数のフィラーコードを含む、一対のコード補強層と、各前記コード補強層の軸方向内側に位置する、一対の第一ゴム補強層と、各前記第一ゴム補強層のさらに軸方向内側に位置する、一対の第二ゴム補強層と、を備える。前記カーカスは、並列した多数のカーカスコードを含む、一枚のカーカスプライで構成される。前記カーカスプライは、前記第一ビードのコアと前記第二ビードのコアとの間を架け渡す、プライ本体と、それぞれのコアで折り返される一対の折り返し部とを備える。各前記コード補強層は前記プライ本体の軸方向内側に位置する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、剛性を確保しながら軽量化を達成できる、タイヤを提供できる。本発明のタイヤは、カーカスを1枚のカーカスプライで構成しているにもかかわらず、レースのように車両が限界で走行する場合においても、接地形状を安定に保持することができる。しかもトレッドを含む部分(以下、トレッド部)を薄くすることができるので、走行により生じる熱はトレッド部に蓄積しにくい。トレッド部の温度上昇が抑制されるので、トレッドによって発揮されるグリップ性能を、従来タイヤよりも長い時間にわたり、このタイヤは維持し続けることができる。
このタイヤは、良好なグリップ性能を安定して発揮し続けることができるとともに、レースにおけるタイヤの交換頻度を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態にタイヤの一部を示す断面図である。
図2図1の一部を示す断面図である。
図3】カーカス及びコード補強層の構成を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のタイヤはリムに組まれる。タイヤの内側には空気が充填され、タイヤの内圧が調整される。リムに組まれたタイヤはタイヤ-リム組立体とも呼ばれる。タイヤ-リム組立体は、リムと、このリムに組まれたタイヤとを備える。
【0009】
本発明において、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけていない状態は、正規状態と呼ばれる。
本発明の対象が、公道で走行させることができない、例えばレースで使用されるタイヤである場合においては、18×13.0Jのリムサイズを有するリムにタイヤを組み、タイヤの内圧を180kPaに調整し、タイヤに荷重をかけていない状態が、このタイヤの正規状態である。
【0010】
本発明においては、特に言及がない限り、タイヤ各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
正規リムにタイヤを組んだ状態で測定できない、タイヤの子午線断面における各部の寸法及び角度は、回転軸を含む平面に沿ってタイヤを切断することにより得られる、タイヤの切断面において、測定される。この測定では、左右のビード間の距離が、正規リムに組んだタイヤにおけるビード間の距離に一致するように、タイヤはセットされる。なお、正規リムにタイヤを組んだ状態で確認できないタイヤの構成は、前述の切断面において確認される。
【0011】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0012】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0013】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0014】
本発明において、タイヤを構成する要素のうち、架橋ゴムからなる要素の硬さは、JIS K6253の規定に準じて、23℃の温度条件下でタイプAデュロメータを用いて測定される。本発明において硬さは、23℃での硬さで表される。
【0015】
本発明において、カーカスコードやフィラーコードのようなコードに用いられる有機繊維からなるコードのヤング率は、JIS L1017 8.8項に規定される初期引張抵抗度を用いて得られる、見掛けヤング率で表される。スチールコードのような金属コードのヤング率は、JIS G3510 6.4項に規定される切断荷重及び切断時全伸びを得る場合と同様の試験を行い、荷重―伸張曲線を描き、その直線部分の傾きから算出される。ヤング率の単位は、N/mmである。
【0016】
本発明において、タイヤのトレッド部とは、路面と接地する、タイヤの部位である。ビード部とは、リムに嵌め合わされる、タイヤの部位である。サイドウォール部とは、トレッド部とビード部との間を架け渡す、タイヤの部位である。タイヤは、部位として、トレッド部、一対のビード部及び一対のサイドウォール部を備える。
トレッド部の中央部分はクラウン部分とも呼ばれる。トレッド部の端の部分はショルダー部分とも呼ばれる。
ビード部及びサイドウォール部からなる部分はサイド部とも呼ばれる。
【0017】
[本発明の基礎となった知見]
タイヤは、一対のビードである第一ビードと第二ビードとの間を架け渡すカーカスを備える。カーカスは少なくとも1枚のカーカスプライを含み、カーカスプライは並列した多数のカーカスコードを含む。
タイヤにおいては通常、カーカスプライはビードで折り返される。カーカスプライは、第一ビードと第二ビードとの間を架け渡すプライ本体と、プライ本体に連なりビードで折り返される一対の折り返し部とを備える。
【0018】
タイヤの剛性確保のために、カーカスは通常、2枚のカーカスプライで構成される。2枚のカーカスプライで構成されるカーカスにおいて、一方を第一カーカスプライとし、トレッドの径方向内側において第一カーカスプライの径方向外側に位置する他方を第二カーカスプライとしたとき、カーカスの構造としては、例えば、第一カーカスプライ及び第二カーカスプライのそれぞれをビードで軸方向内側から外側へ折り返す構造(以下、2-0構造)と、第一カーカスプライをビードで軸方向内側から外側へ折り返し、第二カーカスプライをビードで折り返すことなく、折り返した第一カーカスプライの外側に第二カーカスプライの端部を配置させる構造(以下、1-1構造)と、がある。
両構造の第二カーカスプライに着目した場合、2-0構造の第二カーカスプライはプライ本体と一対の折り返し部とを有するのに対し、1-1構造の第二カーカスプライはそれ全体がプライ本体である。そして、タイヤのビード部におけるカーカスの構造に着目すると、1-1構造の第二カーカスプライは2-0構造の第二カーカスプライのプライ本体よりもタイヤの外面に近い位置に配置される。
【0019】
本発明者は、タイヤの剛性を確保しながら軽量化を達成できる技術を確立するために、カーカスプライのプライ本体に生じる張力に着目し、横方向の力をタイヤに作用させた場合の、プライ本体の張力変化を、有限要素法(Finite Element Method;FEM)を用いたシミュレーションによって算出している。その結果、2-0構造では、横方向の力がタイヤに作用しても、第一カーカスプライ及び第二カーカスプライのそれぞれのプライ本体の張力に変化はほとんど見られなかったのに対し、1-1構造では、第一カーカスプライのプライ本体の張力に変化はほとんど見られなかったものの、プライ本体としての第二カーカスプライでは張力が高まることを、本発明者は確認し、以下に説明する発明を完成するに至っている。
【0020】
[本発明の実施形態の概要]
[構成1]
本発明の一態様に係るタイヤは、コアと、前記コアの径方向外側に位置するエイペックスとを備える、一対のビードと、一対の前記ビードである第一ビードと第二ビードとの間を架け渡す、カーカスと、並列した多数のフィラーコードを含む、一対のコード補強層と、各前記コード補強層の軸方向内側に位置する、一対の第一ゴム補強層と、各前記第一ゴム補強層のさらに軸方向内側に位置する、一対の第二ゴム補強層と、を備え、前記カーカスが、並列した多数のカーカスコードを含む、一枚のカーカスプライで構成され、前記カーカスプライが、前記第一ビードのコアと前記第二ビードのコアとの間を架け渡す、プライ本体と、それぞれのコアで折り返される一対の折り返し部とを備え、各前記コード補強層が前記プライ本体の軸方向内側に位置する。
【0021】
このようにタイヤを整えることにより、タイヤは、剛性を確保しながら軽量化を達成できる。
【0022】
[構成2]
好ましくは、前述の[構成1]に記載のタイヤにおいて、前記カーカスコードのヤング率が、前記フィラーコードのヤング率よりも低い。
【0023】
[構成3]
好ましくは、前述の[構成1]又は[構成2]に記載のタイヤにおいて、前記第二ゴム補強層が前記コアで折り返される。
【0024】
[構成4]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成3]のいずれかに記載のタイヤにおいて、下記の基準線と前記プライ本体との交点が、前記コード補強層の内端の径方向内側に位置する。
基準線:コアの軸方向外側から前記コアに外接し、径方向にのびる直線
【0025】
[構成5]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成4]のいずれかに記載のタイヤにおいて、前記第一ゴム補強層の外端がタイヤ最大幅位置の径方向外側に位置する。
【0026】
[構成6]
好ましくは、前述の[構成5]に記載のタイヤにおいて、前記コード補強層の外端が、前記第一ゴム補強層の外端の径方向外側に位置し、前記第二ゴム補強層の外端が前記コード補強層の外端の径方向外側に位置する。
【0027】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ2の一部を示す。このタイヤ2は、サーキットを走行するレース用の車両に装着される。このタイヤ2はレース用の空気入りタイヤである。
【0029】
図1は、タイヤ2の回転軸(図示されず)を含む平面に沿った、このタイヤ2の断面の一部を示す。図1に示された断面は子午線断面とも呼ばれる。両矢印ADで示される方向は、タイヤ2の軸方向である。タイヤ2の軸方向とはタイヤ2の回転軸に平行な方向を意味する。両矢印RDで示される方向は、タイヤ2の径方向である。図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。
図1において径方向にのびる一点鎖線CLは、タイヤ2の赤道面を表す。
【0030】
図1においてタイヤ2はリムRに組まれている。リムRは正規リムである。軸方向に延びる実線BBLは、ビードベースラインである。ビードベースラインはリムRのリム径(JATMA等参照)を規定する線である。
【0031】
図1において符号PCで示される位置は、タイヤ2の外面と赤道面との交点である。交点PCはタイヤ2の赤道とも呼ばれる。赤道面上に溝が位置する場合は、溝がないと仮定して得られる仮想外面に基づいて赤道PCは特定される。赤道PCはタイヤ2の径方向外端でもある。
図1において両矢印HSで示される長さは、ビードベースラインから赤道PCまでの径方向距離である。正規状態のタイヤ2において得られる径方向距離HSがこのタイヤ2の断面高さ(JATMA等参照)である。
【0032】
図1において符号PWで示される位置はタイヤ2の軸方向外端である。この外端PWはタイヤ2の最大幅位置(以下、タイヤ最大幅位置)とも呼ばれる。タイヤ最大幅位置PWは、正規状態のタイヤ2において特定される。模様や文字等の装飾がタイヤ2の外面にある場合、タイヤ最大幅位置PWは、装飾がないと仮定して得られる仮想外面に基づいて特定される。
図1において両矢印HWで示される長さは、ビードベースラインからタイヤ最大幅位置PWまでの径方向距離である。径方向距離HWはタイヤ最大幅高さとも呼ばれる。
このタイヤ2では、タイヤ最大幅高さHWの断面高さHSに対する比(HW/HS)は、0.40以上0.60以下である。
【0033】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のクリンチ8、一対のビード10、カーカス12、ベルト14、バンド16、インナーライナー18、一対のチェーファー20、一対のコード補強層22、一対の第一ゴム補強層24、及び一対の第二ゴム補強層26を備える。
【0034】
図2は、図1に示されたタイヤ2の一部を示す。図3は、軸方向外側からこのタイヤ2の側面を見た場合の、タイヤ最大幅位置PWにおける、カーカス12及びコード補強層22の構成を示す。
図1-3を用いて、タイヤ2を構成するトレッド4等の各要素が説明される。
【0035】
トレッド4はカーカス12の径方向外側に位置する。トレッド4は周方向にのびる。タイヤ2はトレッド4において路面と接地する。トレッド4の外周面は、路面と接地するトレッド面28を含む。トレッド面28は前述の赤道PCを含む。
トレッド4は架橋ゴムからなる。詳述しないが、トレッド4のトレッド面28を含む部分は、グリップ性能を考慮した架橋ゴムからなる。
【0036】
図1に示されたトレッド4には溝は刻まれていない。このタイヤ2はスリックタイプである。このトレッド4に溝が刻まれて、トレッドパターンが構成されてもよい。
【0037】
それぞれのサイドウォール6はトレッド4に連なる。サイドウォール6はカーカス12の軸方向外側に位置する。サイドウォール6はタイヤ2の外面(詳細には、タイヤ2の側面)を構成する。サイドウォール6は、架橋ゴムからなる。サイドウォール6はカーカス12を保護する。
【0038】
それぞれのクリンチ8は最大幅位置PWの径方向内側に位置する。クリンチ8はカーカス12の軸方向外側に位置する。クリンチ8はカーカス12とリムRとの間に位置する。クリンチ8は架橋ゴムからなる。クリンチ8はサイドウォール6の剛性よりも高い剛性を有する。このタイヤ2のクリンチ8はサイドウォール6で覆われる。
【0039】
それぞれのビード10は、クリンチ8の軸方向内側に位置する。ビード10はクリンチ8の径方向内側に位置する。
ビード10は、コア30と、エイペックス32とを備える。
コア30は、円形の断面形状を有するケーブルビードである。図示されないが、コア30は、芯線の周囲に複数のシース線を螺旋状に巻き付けて形成される。図2において符号CGで示される位置はコア30の径方向外端である。
エイペックス32はコア30の径方向外側に位置する。エイペックス32は先細りである。エイペックス32は、高い硬さを有する架橋ゴムからなる。具体的には、エイペックス32の硬さは80以上95以下である。
【0040】
カーカス12はトレッド4及び一対のサイドウォール6の内側に位置する。カーカス12は、一対のビード10である第一ビード10(図示されず)と、第二ビード10との間を架け渡す。このタイヤ2のカーカス12は、1枚のカーカスプライ34で構成される。
【0041】
図3に示されるように、カーカスプライ34は、並列した多数のカーカスコード36を含む。説明の便宜のために、カーカスコード36は実線で表されるが、カーカスプライ34においてカーカスコード36はトッピングゴム38で覆われる。
図示されないが、カーカスコード36は赤道面と交差する。カーカスコード36が赤道面に対してなす角度(以下、交差角度)は、70度以上90度以下である。このタイヤ2のカーカス12はラジアル構造を有する。
このタイヤ2のカーカス12において、カーカスコード36の交差角度は90度である。図3に示されたカーカスコード36は径方向にのびる。
【0042】
カーカスコード36は、有機繊維からなるコード(有機繊維コード)である。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が挙げられる。
【0043】
カーカスプライ34はそれぞれのビード10で折り返される。このタイヤ2のカーカスプライ34はそれぞれのビード10で軸方向内側から外側に向けて折り返される。
カーカスプライ34は、プライ本体40と、一対の折り返し部42とを備える。プライ本体40は、第一ビード10のコア30と第二ビード10のコア30との間を架け渡す。それぞれの折り返し部42は、プライ本体40に連なり、コア30で折り返される。
図2に示されるように、このタイヤ2の折り返し部42の端42eは、タイヤ最大幅位置PWの径方向内側に位置する。折り返し部42の端42eは、エイペックス32の外端32eの径方向外側において、プライ本体40に接合される。このタイヤ2のビード10はその全体が、カーカスプライ34で覆われる。
【0044】
図1において符号PMで示される位置は、プライ本体40の軸方向外端である。この軸方向外端PMはプライ最大幅位置とも呼ばれる。プライ最大幅位置PMは、正規状態のタイヤ2において、折り返し部42を含むカーカスプライ34の、プライ本体40の軸方向外端で表される。この折り返し部42は、カーカスプライ34をコア30で軸方向内側から外側に向かって折り返すことで構成される。
【0045】
プライ最大幅位置PMはタイヤ最大幅位置PWの近くに位置する。このタイヤ2のプライ最大幅位置PMは、径方向において、タイヤ最大幅位置PWと一致する。このプライ最大幅位置PMが、タイヤ最大幅位置PWの径方向外側に位置していてもよい。この場合、プライ最大幅位置PMからタイヤ最大幅位置PWまでの径方向距離は3mm以下であるのが好ましい。
【0046】
ベルト14は、径方向においてトレッド4とカーカス12との間に位置する。このベルト14は、トレッド4の径方向内側においてカーカス12に積層される。ベルト14は径方向に積層された2枚のベルトプライ44で構成される。内側に位置するベルトプライ44(以下、内側ベルトプライ44u)は、外側に位置するベルトプライ44(以下、外側ベルトプライ44s)の軸方向幅よりも大きな軸方向幅を有する。
図示されないが、内側ベルトプライ44u及び外側ベルトプライ44sはそれぞれ、並列した多数のベルトコードを含む。それぞれのベルトコードは、赤道面に対して傾斜する。このタイヤ2では、ベルトコードはスチールコードである。
【0047】
バンド16は、径方向において、トレッド4とベルト14との間に位置する。バンド16は、トレッド4の径方向内側においてベルト14に積層される。
図示されないが、バンド16はらせん状に巻かれたバンドコードを含む。バンドコードは実質的に周方向にのびる。バンドコードが周方向に対してなす角度は、5度以下である。バンド16はジョイントレス構造を有する。バンドコードは、有機繊維コードである。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が挙げられる。
【0048】
バンド16はベルト14全体を覆う。このバンド16はフルバンドである。このバンド16が、ベルト14のそれぞれの端を覆う、一対のエッジバンドで構成されてもよい。このバンド16が、フルバンドと一対のエッジバンドとで構成されてもよい。
【0049】
インナーライナー18はカーカス12の内側に位置する。インナーライナー18は、タイヤ2の内面を構成する。インナーライナー18は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー18は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0050】
それぞれのチェーファー20は、ビード10の径方向内側に位置する。チェーファー20の一部はリムRと接触する。このタイヤ2のチェーファー20は布とこの布に含浸したゴムとからなる。
【0051】
それぞれのコード補強層22は、軸方向においてカーカス12とインナーライナー18との間に位置する。コード補強層22はその全体が、プライ本体40に積層される。コード補強層22の外端22gはタイヤ最大幅位置PWの径方向外側に位置する。コード補強層22の内端22nは折り返し部42の端42eの径方向内側に位置する。コード補強層22の内端22nは、エイペックス32の外端32eの径方向内側に位置する。
【0052】
図3に示されるように、コード補強層22は、並列した多数のフィラーコード46を含む。説明の便宜のために、この図3は、カーカスプライ34の内側に位置するコード補強層22の一部を示すとともに、トッピングゴム48で覆われるフィラーコード46を実線で表している。
【0053】
フィラーコード46は、スチールコード又は有機繊維コードである。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が挙げられる。コード補強層22はビード部を補強する。この観点から、フィラーコード46は、アラミド繊維からなるコード、又は、スチールコードであるのが好ましい。
図3に示されるように、フィラーコード46はカーカスコード36に対して傾斜する。図3において符号θで示される角度は、最大幅位置PWにおいて、フィラーコード46がカーカスコード36に対してなす角度(以下、フィラーコード46の傾斜角度)である。
このタイヤ2のフィラーコード46の傾斜角度θは70度以上80度以下である。
【0054】
それぞれの第一ゴム補強層24は、コード補強層22の軸方向内側に位置する。第一ゴム補強層24はエイペックス32の径方向外側に位置する。コード補強層22の内端22nの径方向内側では、第一ゴム補強層24とエイペックス32との間にプライ本体40が位置する。第一ゴム補強層24は硬質な架橋ゴムからなる。
【0055】
図2に示されるように、第一ゴム補強層24は、その中央部分において厚く、中央部分から内向きに先細りであり、外向きに先細りである。この第一ゴム補強層24は、胴部50と、この胴部50の径方向内側に位置する内側先細り部52と、この胴部50の径方向外側に位置する外側先細り部54とを備える。内側先細り部52は第一ゴム補強層24の内端24nを含み、胴部50から内端24nに向かって先細りである。外側先細り部54は第一ゴム補強層24の外端24gを含み、胴部50から外端24gに向かって先細りである。
【0056】
第一ゴム補強層24の内端24nはコード補強層22の内端22nの径方向内側に位置する。このタイヤ2の第一ゴム補強層24の内端24nは、コア30の外端CGの径方向内側に位置する。第一ゴム補強層24の外端24gは、コード補強層22の外端22gの径方向内側に位置する。
【0057】
図1において両矢印HPで示される長さは、第一ゴム補強層24の径方向高さである。径方向高さHPは、ビードベースラインから第一ゴム補強層24の外端24gまでの径方向距離である。
第一ゴム補強層24の外端24gは、タイヤ最大幅位置PWの径方向外側に位置する。具体的には、第一ゴム補強層24の径方向高さHPの、タイヤ最大幅高さHWに対する比(HP/HW)は、1.05以上1.10以下である。
【0058】
それぞれの第二ゴム補強層26は、第一ゴム補強層24のさらに軸方向内側に位置する。第二ゴム補強層26は硬質な架橋ゴムからなる。
このタイヤ2の第二ゴム補強層26の外端26gは、コード補強層22の外端22gの径方向外側に位置する。第一ゴム補強層24の外端24gの径方向内側部分では、第二ゴム補強層26はシート状である。第一ゴム補強層24の内端24nの径方向内側部分においては、カーカスプライ34に沿って、第二ゴム補強層26はコア30で折り返される。このタイヤ2の第二ゴム補強層26の内端26nは、折り返し部42の軸方向外側に位置する。径方向においてコア30の外端CGとエイペックス32の外端32eとの間に位置する。第二ゴム補強層26の内端26nは、径方向においてコア30の外端CGとエイペックス32の外端32eとの間に位置する。
【0059】
図2に示されるように、第二ゴム補強層26とプライ本体40とで囲まれる空間に、第一ゴム補強層24及びコード補強層22が位置する。第一ゴム補強層24及びコード補強層22は、第二ゴム補強層26とプライ本体40とで囲まれる空間を満たす。インナーライナー18とプライ本体40との間に、第二ゴム補強層26、第一ゴム補強層24及びコード補強層22が位置する。
【0060】
前述したように、カーカスプライ34はそれぞれのビード10で軸方向内側から外側に向かって折り返される。これにより、カーカスプライ34にプライ本体40と一対の折り返し部42とが構成される。このタイヤ2のカーカス12はラジアル構造を有するので、プライ本体40に含まれるカーカスコード36は第一ビード10のコア30と第二ビード10のコア30との間を架け渡す。
タイヤ2に作用する荷重によって、タイヤ2のサイド部は撓む。これにより、プライ本体40に含まれるカーカスコード36の張力が高まる。この張力の高まりは、タイヤ2の剛性を高める。
【0061】
タイヤ2のサイド部が撓むと、サイド部の内側部分は圧縮され、その外側部分は引っ張られる。
プライ本体40の軸方向内側には、サイドウォール6側からインナーライナー18側に向かって、コード補強層22、第一ゴム補強層24及び第二ゴム補強層26が位置する。コード補強層22、第一ゴム補強層24及び第二ゴム補強層26が設けられていない従来タイヤのプライ本体に比べて、このタイヤ2のプライ本体40はタイヤ2の外面に近い位置に配置される。このタイヤ2のプライ本体40には、従来タイヤのプライ本体に比べて引張方向の力が効果的に作用する。このタイヤ2のプライ本体40に生じる張力は、従来タイヤのプライ本体に生じる張力よりも高い。
【0062】
このタイヤ2では、プライ本体40が従来タイヤのそれに比べてタイヤ2の外面に近い位置に配置されるだけでなく、このプライ本体40の軸方向内側にコード補強層22が位置する。コード補強層22がプライ本体40の内側で引張方向に作用する力に対して抗するように作用するので、プライ本体40に引張方向の力が効果的に作用する。このタイヤ2のプライ本体40では張力が効果的に高められる。
【0063】
さらに、プライ本体40の軸方向内側にコード補強層22が位置し、コード補強層22の軸方向内側に第一ゴム補強層24が位置し、この第一ゴム補強層24の軸方向内側に第二ゴム補強層26が位置する。言い換えれば、プライ本体40の軸方向内側に位置する、コード補強層22、第一ゴム補強層24及び第二ゴム補強層26のうち、コード補強層22が、プライ本体40に最も近い位置に配置される。このコード補強層22の配置は、プライ本体40に生じる張力を高めることに貢献できる。
【0064】
このタイヤ2のプライ本体40には、従来タイヤのそれに比べて、高い張力が生じる。高い張力はタイヤ2の剛性を高める。このタイヤ2は、レースのように車両が限界で走行する場合においても、接地形状を安定に保持することができる。このタイヤ2のトレッド4はその機能を十分に発揮できる。このタイヤ2はグリップ性能の向上を図ることができる。
しかも前述したように、このタイヤ2のカーカス12は1枚のカーカスプライ34で構成される。このタイヤ2は、カーカス12を1枚のカーカスプライ34で構成しているにもかかわらず、レースのように車両が限界で走行する場合においても、接地形状を安定に保持することができる。
カーカス12が1枚のカーカスプライ34で構成されるので、2枚のカーカスプライで構成される従来のカーカスに比べて、このカーカス12は軽い。
このタイヤ2は、剛性を確保しながら軽量化を達成できる。
【0065】
さらにこのタイヤ2は、カーカス12が1枚のカーカスプライ34で構成されるので、トレッド部を薄くすることができる。走行により生じる熱はトレッド部に蓄積しにくい。トレッド部の温度上昇が抑制されるので、トレッド4によって発揮されるグリップ性能を、従来タイヤよりも長い時間にわたり、このタイヤ2は維持し続けることができる。
このタイヤ2は、良好なグリップ性能を安定して発揮し続けることができるとともに、レースにおけるタイヤ2の交換頻度を低減できる。
【0066】
サイド部が撓む際、その内側部分には圧縮方向の力が作用する。コード補強層22の軸方向内側に位置する第一ゴム補強層24及び第二ゴム補強層26は、エイペックス32と同様、硬質な架橋ゴムからなる。このサイド部はしなやかに撓む。そして、この撓みに連動するように、プライ本体40における張力が変化する。プライ本体40に生じる張力が、タイヤ2のグリップ性能の発揮に効果的に貢献できる。この観点から、第一ゴム補強層24及び第二ゴム補強層26は、エイペックス32と同程度の硬さを有するのが好ましい。具体的には、第一ゴム補強層24の硬さとエイペックス32の硬さとの差は、-5以上5以下であり、第二ゴム補強層26の硬さとエイペックス32の硬さとの差は、-5以上5以下であるのが好ましい。第一ゴム補強層24の硬さとエイペックス32の硬さとの差は、-3以上3以下であり、第二ゴム補強層26の硬さとエイペックス32の硬さとの差は、-3以上3以下であるのがより好ましい。
【0067】
このタイヤ2では、カーカスコード36のヤング率Ycはフィラーコード46のヤング率Yfよりも低いのが好ましい。プライ本体40の内側に位置するコード補強層22が高い剛性を有するので、コード補強層22に比べて低い剛性を有するプライ本体40が効果的に引き伸ばされる。引張方向の力がプライ本体40に効果的に作用するので、プライ本体40に生じる張力が効果的に高められる。プライ本体40に生じる張力が効果的に高まるので、このタイヤ2はグリップ性能の向上を図ることができる。この観点から、カーカスコード36のヤング率Ycの、フィラーコード46のヤング率Yfに対する比(Yc/Yf)は0.8以下であるのがより好ましい。プライ本体の剛性確保の観点から、比(Yc/Yf)は0.6以上であるのがより好ましい。
【0068】
高いヤング率Yfを有するフィラーコード46が得られ、低いヤング率Ycを有するカーカスコード36が得られる観点から、フィラーコード46がスチールコード又はアラミド繊維からなるコードであり、フィラーコード46がスチールコードである場合は、カーカスコード36は、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維又はアラミド繊維からなるコードであり、フィラーコード46がアラミド繊維からなるコードである場合は、カーカスコード36は、ナイロン繊維、レーヨン繊維又はポリエステル繊維からなるコードであるのが好ましい。フィラーコード46がスチールコードであり、カーカスコード36がポリエステル繊維からなるコードであるのがさらに好ましい。
【0069】
タイヤ2のグリップ性能を効果的に向上できる観点から、カーカスコード36のヤング率Ycは1400N/mm以上であるのが好ましく、1600N/mm以上であるのがより好ましく、1600N/mm以上であるのがさらに好ましい。サイド部の撓みの確保の観点から、カーカスコード36のヤング率Ycは2800N/mm以下であるのが好ましい。
【0070】
図1において両矢印HPで示される長さは、第一ゴム補強層24の径方向高さである。径方向高さHPは、ビードベースラインから第一ゴム補強層24の外端24gまでの径方向距離である。両矢印HQで示される長さは、コード補強層22の径方向高さである。径方向高さHQは、ビードベースラインからコード補強層22の外端22gまでの径方向距離である。両矢印HRで示される長さは、第二ゴム補強層26の径方向高さである。径方向高さHRは、ビードベースラインから第二ゴム補強層26の外端26gまでの径方向距離である。
【0071】
コード補強層22の外端22gは第一ゴム補強層24の外端24gの径方向外側に位置する。言い換えれば、コード補強層22の外端22gは、第一ゴム補強層24の外端24gから離して配置される。これにより、コード補強層22の外端22g、又は、第一ゴム補強層24の外端24gへの歪みの集中が抑制される。このタイヤ2は良好な耐久性を維持できる。このタイヤ2は、プライ本体40をタイヤ2の外面に近い位置に配置させたことによる効果を安定して発揮できる。この観点から、コード補強層22の外端22gは第一ゴム補強層24の外端24gの径方向外側に位置するのが好ましい。具体的には、コード補強層22の径方向高さHQの、第一ゴム補強層24の径方向高さHPに対する比(HQ/HP)は1.10以上であるのが好ましく、1.15以上であるのが好ましい。良好な乗り心地の維持の観点から、この比(HQ/HP)は、1.30以下であるのが好ましく、1.25以下であるのがより好ましい。
【0072】
第二ゴム補強層26の外端26gはコード補強層22の外端22gの径方向外側に位置する。言い換えれば、第二ゴム補強層26の外端26gは、コード補強層22の外端22gから離して配置される。これにより、第二ゴム補強層26の外端26g、又は、コード補強層22の外端22gへの歪みの集中が抑制される。このタイヤ2は良好な耐久性を維持できる。このタイヤ2は、プライ本体40をタイヤ2の外面に近い位置に配置させたことによる効果を安定して発揮できる。この観点から、第二ゴム補強層26の外端26gはコード補強層22の外端22gの径方向外側に位置するのが好ましい。具体的には、第二ゴム補強層26の径方向高さHRの、コード補強層22の径方向高さHQに対する比(HR/HQ)は1.15以上であるのが好ましく、1.20以上であるのが好ましい。良好な乗り心地の維持の観点から、この比(HR/HQ)は、1.35以下であるのが好ましく、1.30以下であるのがより好ましい。
【0073】
タイヤ2が良好な耐久性を維持でき、プライ本体40をタイヤ2の外面に近い位置に配置させたことによる効果を安定して発揮できる観点から、コード補強層22の外端22gは第一ゴム補強層24の外端24gの径方向外側に位置し、第二ゴム補強層26の外端26gはコード補強層22の外端22gの径方向外側に位置するのがより好ましい。具体的には、コード補強層22の径方向高さHQの、第一ゴム補強層24の径方向高さHPに対する比(HQ/HP)は1.10以上1.30以下であり、第二ゴム補強層26の径方向高さHRの、コード補強層22の径方向高さHQに対する比(HR/HQ)は1.15以上1.35以下であるのがより好ましい。
【0074】
前述したように、このタイヤ2では、第一ゴム補強層24の内端24nの径方向内側部分においては、カーカスプライ34に沿って、第二ゴム補強層26はコア30で折り返される。第二ゴム補強層26は、ビード10周りの剛性を効果的に高める。コア30が安定に保持されるので、引張方向の力がプライ本体40に効果的に作用する。このタイヤ2は、プライ本体40に生じる張力を効果的に高めることができる。このタイヤ2は良好なグリップ性能を発揮できる。この観点から、第二ゴム補強層26はコア30で折り返されるのが好ましい。
【0075】
前述したように、第二ゴム補強層26はエイペックス32と同程度の硬さを有する。エイペックス32と同程度の硬さを有する第二ゴム補強層26がコア30で折り返される。コア30はより安定に保持されるので、引張方向の力がプライ本体40により効果的に作用する。この観点から、エイペックス32と同程度の硬さを有する第二ゴム補強層26がコア30で折り返されるのがより好ましい。
【0076】
図2において、実線RLは、コア30の軸方向外側からコア30に外接し、径方向にのびる直線である。本発明においては、この直線RLは基準線とも呼ばれる。符号PRで示される位置は、基準線RLとプライ本体40との交点である。
図2に示されるように、交点PRは、コード補強層22の内端22nの径方向内側に位置する。これにより、このタイヤ2のプライ本体40は、従来タイヤのそれよりもタイヤ2の外面に近い位置に配置される。このタイヤ2のプライ本体40には、従来タイヤのプライ本体に比べて引張方向の力が効果的に作用する。このタイヤ2は、プライ本体40に生じる張力を効果的に高めることができる。このタイヤ2は、良好なグリップ性能を発揮できる。この観点から、コア30の軸方向外側からコア30に外接し、径方向にのびる直線を基準線RLとしたとき、基準線RLとプライ本体40との交点PRは、コード補強層22の内端22nの径方向内側に位置するのが好ましい。
【0077】
図2において符号WLで示される実線は、タイヤ最大幅位置PWを通り、軸方向にのびる直線である。両矢印TWで示される長さは、この直線WLにそって計測されるこのタイヤ2の厚さである。この厚さTWは最大幅位置厚さとも呼ばれる。符号ALで示される実線は、エイペックス32の外端32eを通り、軸方向にのびる直線である。両矢印TAで示される長さは、この直線ALにそって計測されるこのタイヤ2の厚さである。この厚さTAはエイペックス外端位置厚さとも呼ばれる。両矢印TBで示される長さは、エイペックス32の外端32eから外側部分の厚さである。この厚さTBは、直線ALにそって計測される、エイペックス32の外端32eからタイヤ2の外面までの距離である。
【0078】
このタイヤ2のサイド部は、その厚さが、リムRのフランジの近くにおいて最大の厚さを示し、この最大厚さを示す位置から第二ゴム補強層26の外端26g付近まで漸減するように構成される。このタイヤ2では、エイペックス外端位置厚さTAは最大幅位置厚さTWよりも厚い。具体的には、エイペックス外端位置厚さTAの、最大幅位置厚さTWに対する比(TA/TW)は2.3以上2.9以下である。
このタイヤ2では、プライ本体40の内側部分の厚さを調整し、プライ本体40がタイヤ2の外面に近い位置に配置される。これにより、引張方向の力をプライ本体40に効果的に作用させ、プライ本体40に生じる張力が効果的に高められる。この観点から、エイペックス32の外端32eから外側部分の厚さTBは、エイペックス32の外端32eから内側部分の厚さ同等か、それよりも薄いのが好ましい。言い換えれば、エイペックス32の外端32eから外側部分の厚さTBは、エイペックス外端位置厚さTAの半分以下であるのが好ましい。
そして、プライ本体40に生じる張力がより効果的に高められる観点から、エイペックス32の外端32eから外側部分の厚さTBの、エイペックス外端位置厚さTAに対する比(TB/TA)は、0.48以下であるのがより好ましい。
図2に示されるように、サイド部においてプライ本体40は外向きに湾曲した形状を有する。プライ本体40が湾曲した形状を安定に保持できる観点から、この比(TB/TA)は0.40以上であるのが好ましく、0.44以上であるのがより好ましい。
【0079】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、剛性を確保しながら軽量化を達成できる、タイヤが得られる。本発明は、300/680R18~330/710R18のタイヤサイズと、30~45%の偏平率とを有するタイヤにおいて、顕著な効果を奏する。
【実施例0080】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0081】
[実施例1]
図1-3に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた空気入りタイヤ(タイヤサイズ=330/710R18)を得た。
【0082】
カーカスは1枚のカーカスプライで構成されている。カーカスプライの厚さは1.05mmに設定されている。カーカスコードは、ポリエステル繊維からなるコードであり、そのヤング率は1400N/mmである。
このタイヤ2のトレッド部の厚さは10.95mmである。
コード補強層のフィラーコードはスチールコードである。第一ゴム補強層及び第二ゴム補強層は、エイペックスと同じ架橋ゴムで構成されている(硬さは90)。
コード補強層がプライ本体の軸方向内側に位置することが、「コード補強層」の欄に「in」で示されている。コアの軸方向外側からコアに外接し、径方向にのびる基準線とプライ本体との交点が、コード補強層の内端の径方向内側に位置することが、「交点」の欄に「in」で示されている。
【0083】
[実施例2-3]
カーカスコードの太さを変えて、ヤング率、カーカスプライの厚さ、及びトレッド部の厚さを下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2-3のタイヤを得た。
【0084】
[比較例1]
比較例1のタイヤサイズは、実施例1のそれと同じである。
比較例1のカーカスの構造は1-1構造である。2枚のカーカスプライのカーカスコードには、実施例1のカーカスコードと同じコードが使用されている。
トレッド部の厚さは12.00mmである。
比較例1は、第一ゴム補強層及び第二ゴム補強層を有していない。エイペックスは、実施例1のエイペックスと同じ材質で構成されているが、エイペックスの外端位置は、実施例1の第一ゴム補強層の外端位置と同じ位置に配置されている。
比較例1には、実施例1のコード補強層と同じ仕様を有するコード補強層が採用されているが、ビードの軸方向外側に配置されている。したがって、第一プライのプライ本体の軸方向外側に配置されている。このことが、「コード補強層」の欄に「out」で示されている。コアの軸方向外側からコアに外接し、径方向にのびる基準線とプライ本体との交点は、コード補強層の内端の径方向外側に位置するので、このことが、「交点」の欄に「out」で示されている。
【0085】
[比較例2]
カーカスコードの太さを変えて、ヤング率、カーカスプライの厚さ、及びトレッド部の厚さを下記の表1に示される通りとした他は比較例1と同様にして、比較例2のタイヤを得た。
【0086】
[比較例3]
カーカスの構造を「1-0」構造として、トレッド部の厚さを10.95mmとした他は比較例1と同様にして、比較例3のタイヤを得た。
【0087】
[横ばね]
試作タイヤの横ばねが、下記の条件で静的試験機にて測定された。結果は、比較例1を100とする指数で下記の表1に示されている。数値が大きい程、横ばねが大きく、好ましい。
装着リム:18×13.0J
内圧:180kPa
縦荷重:5.88kN
【0088】
[コーナリングフォース(CF)]
試作タイヤをリム(サイズ=18×13.0J)に組み込み、このタイヤに空気を充填して、内圧を180kPaに調整した。このタイヤをフラットベルト試験機に装着し、低荷重として1.96kN、高荷重として7.84kNの荷重を負荷して、4度のスリップ角を付与して時速80kmで走行させたときのコーナリングフォースを計測した。結果は、比較例1を100とする指数で下記の表1に示されている。数値が大きいほどコーナリングフォースは高く、好ましい。
【0089】
[耐摩耗性]
試作タイヤをリム(サイズ=18×13.0J)に組み込み、このタイヤに空気を充填して、内圧を180kPaに調整した。このタイヤをレース用車両に装着した。プロ相当の技量を有するドライバーにこの自動車をレーシングサーキットで走行させた。30周走行後、最も摩耗している箇所のトレッド厚さを計測し、トレッドの残存率を得た。結果は、下記の表1に示されている。数値が大きいほど摩耗が抑制されており、好ましい。
【0090】
[放熱性]
試作タイヤをリム(サイズ=18×13.0J)に組み込み、このタイヤに空気を充填して、内圧を180kPaに調整した。このタイヤをレース用車両に装着した。プロ相当の技量を有するドライバーにこの自動車をレーシングサーキットで走行させた。リムのバルブに取り付けた非接触式温度計によって、トレッド部の内面の温度を計測し、飽和温度を得た。結果は、比較例1を100とする指数で下記の表1に示されている。数値が小さいほど放熱が促されており、好ましい。
【0091】
[ラップタイムの低下率]
試作タイヤをリム(サイズ=18×13.0J)に組み込み、このタイヤに空気を充填して、内圧を180kPaに調整した。このタイヤをレース用車両に装着した。プロ相当の技量を有するドライバーにこの自動車をレーシングサーキットで走行させた。30周走行し、ラップタイムを計測した。30周目のラップタイムの、ベストタイム(最速タイム)に対する比率(ラップタイムの低下率)を算出した。その結果が下記の表1に指数で示されている。数値が100.0に近いほど、ラップタイムの低下が抑制されており、好ましい。
【0092】
【表1】
【0093】
表1及び2に示されるように、実施例は、比較例に比して評価が高い。特に、実施例では、操縦安定性の低下を抑えながら、高速耐久性の向上が達成されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上説明された、剛性を確保しながら軽量化を達成できる技術は、種々のタイヤに適用されうる。
【符号の説明】
【0095】
2・・・タイヤ
4・・・トレッド
6・・・サイドウォール
8・・・クリンチ
10・・・ビード
12・・・カーカス
22・・・コード補強層
24・・・第一ゴム補強層
26・・・第二ゴム補強層
34・・・カーカスプライ
36・・・カーカスコード
40・・・プライ本体
42・・・折り返し部
46・・・フィラーコード
図1
図2
図3