(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176183
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】超電導加速空洞管、超電導加速装置、および超電導加速空洞管の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05H 7/20 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
H05H7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094527
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】金 太▲げん▼
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085AA04
2G085BA05
2G085BE02
2G085BE10
2G085EA02
2G085EA04
(57)【要約】
【課題】十分な強度を確保しつつ製造コストを低減できる超電導加速空洞管、超電導加速装置、および超電導加速空洞管の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示に係る超電導加速空洞管の一つの態様は、荷電粒子をビーム軸に沿って加速させる超電導加速空洞管であって、前記ビーム軸の軸方向に延びる管本体を備え、前記管本体は、ステンレス鋼からなる補強層と、前記補強層の内表面に接合される基材層と、前記基材層の内表面に成膜される超電導層と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子をビーム軸に沿って加速させる超電導加速空洞管であって、
前記ビーム軸の軸方向に延びる管本体を備え、
前記管本体は、
ステンレス鋼からなる補強層と、
前記補強層の内表面に接合される基材層と、
前記基材層の内表面に成膜される超電導層と、を有する、
超電導加速空洞管。
【請求項2】
前記基材層は、銅、又は銅合金からなり、
前記超電導層は、ホウ化マグネシウムからなる、
請求項1に記載の超電導加速空洞管。
【請求項3】
前記管本体は、前記軸方向に並ぶ複数の膨らみ部と、前記軸方向において前記膨らみ部同士の間に位置し前記膨らみ部よりも直径が小さい複数のくびれ部と、を有する、
請求項1に記載の超電導加速空洞管。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の超電導加速空洞管と、
前記超電導加速空洞管を収納するとともに、内部に前記補強層の外表面に接触する冷媒を満たす圧力容器と、を備える、
超電導加速装置。
【請求項5】
ビーム軸の軸方向に延びる管本体を備える超電導加速空洞管の製造方法であって、
前記管本体は、
ステンレス鋼からなる補強層と、
前記補強層の内表面に接合される基材層と、
前記基材層の内表面に成膜される超電導層と、を有し、
ステンレス鋼と前記基材層を構成する材料とを加熱しながら加圧することで接合して前記補強層と前記基材層とのクラッド材を成形するクラッド材成形工程と、
前記基材層を内側として前記クラッド材を管状に成形する管成形工程と、を有する、
超電導加速空洞管の製造方法。
【請求項6】
前記管成形工程の後に行われる成膜工程をさらに有し、
前記成膜工程は、真空雰囲気下で前記基材層の内表面に前記超電導層を堆積させる工程である、
請求項5に記載の超電導加速空洞管の製造方法。
【請求項7】
前記基材層は、銅、又は銅合金からなり、
前記超電導層は、ホウ化マグネシウムからなる、
請求項5に記載の超電導加速空洞管の製造方法。
【請求項8】
前記管本体は、前記軸方向に並ぶ複数の膨らみ部と、前記軸方向において前記膨らみ部同士の間に位置し前記膨らみ部よりも直径が小さい複数のくびれ部と、を有する、
請求項5~7の何れか一項に記載の超電導加速空洞管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超電導加速空洞管、超電導加速装置、および超電導加速空洞管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子、あるいは陽子などの荷電粒子を加速させるための装置として、共振させた電界を荷電粒子に作用させ、荷電粒子を加速させる加速空洞管が知られている。加速空洞管の例として、超電導材料を用いた超電導加速空洞管が知られている。超電導加速空洞管は、内表面に超電導層が設けられるため荷電粒子を加速させる際の電力損失が大幅に低減される。特許文献1には、ホウ化マグネシウム(MgB2)などの超電導物質を、銅などからなる基材層の内表面に成膜することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に超電導層が成膜される基材層の材料としては、超電導層との密着性などの観点から銅などの特定の金属材料が選択される。また、基材層は、超電導層を冷却するための液体ヘリウム等の冷媒で周囲を囲まれる。このため従来の超電導加速空洞管では、冷媒の圧力に抗する十分な強度を確保するために、基材層の厚さを大きくする必要があった。これにより、基材層の材料コストがかさみ超電導加速空洞管の製造コストが増大してしまうという問題があった。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みて、十分な強度を確保しつつ製造コストを低減できる超電導加速空洞管、超電導加速装置、および超電導加速空洞管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る超電導加速空洞管の一つの態様は、荷電粒子をビーム軸に沿って加速させる超電導加速空洞管であって、前記ビーム軸の軸方向に延びる管本体を備え、前記管本体は、ステンレス鋼からなる補強層と、前記補強層の内表面に接合される基材層と、前記基材層の内表面に成膜される超電導層と、を有する。
【0007】
本開示に係る超電導加速装置の一つの態様は、上記の超電導加速空洞管と、前記超電導加速空洞管を収納するとともに、内部に前記補強層の外表面に接触する冷媒を満たす圧力容器と、を備える。
【0008】
本開示に係る超電導加速空洞管の製造方法の一つの態様は、ビーム軸の軸方向に延びる管本体を備える超電導加速空洞管の製造方法であって、前記管本体は、ステンレス鋼からなる補強層と、前記補強層の内表面に接合される基材層と、前記基材層の内表面に成膜される超電導層と、を有し、ステンレス鋼と前記基材層を構成する材料とを加熱しながら加圧することで接合して前記補強層と前記基材層とのクラッド材を成形するクラッド材成形工程と、前記基材層を内側として前記クラッド材を管状に成形する管成形工程と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、十分な強度を確保しつつ製造コストを低減できる超電導加速空洞管、超電導加速装置、および超電導加速空洞管の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態の超電導加速装置の断面模式図である。
【
図2】実施の形態の超電導加速空洞管の斜視図である。
【
図4】実施の形態の超電導加速空洞管の製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】実施の形態の管成形工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施の形態について説明する。なお、本開示の範囲は、以下の実施の形態に限定されず、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、各構造における縮尺および数などを、実際の構造における縮尺および数などと異ならせる場合がある。また、以下の説明において、
図1に示すビーム軸Jと平行な方向を単に軸方向と呼び、ビーム軸Jに対する径方向を単に径方向と呼ぶ場合がある。
【0012】
<超電導加速装置>
図1は、本実施の形態の超電導加速装置1の断面模式図である。
超電導加速空洞管10は、ビーム軸Jに沿って荷電粒子を加速させる。超電導加速装置1は、軸方向に延びる管状の超電導加速空洞管10と、超電導加速空洞管を収納する圧力容器2と、を有する。また、図示を省略するが、超電導加速装置1には、さらにビーム軸Jに沿って荷電粒子を出射する出射部と、圧力容器2の内部に冷媒Rを供給する冷媒供給部と、が設けられる。また、超電導加速装置1は、内部を真空とすることができる筐体(図示略)内に配置される。
【0013】
圧力容器2は、略直方体形状の箱状である。圧力容器2はビーム軸Jと直交する一対の側壁部2aを有する。一対の側壁部2aは、軸方向において互いに対向する。一対の側壁部2aは、それぞれ超電導加速空洞管10の両端部を支持する。圧力容器2の内部であって超電導加速空洞管10の周囲には、冷媒Rが満たされる。冷媒Rは、例えば、液体ヘリウム、液体水素、気体状態のヘリウム、又は気体状態の水素である。圧力容器2は、冷媒Rの圧力に抗することができる程度に十分な強度を有する。
【0014】
<超電導加速空洞管>
図2は、本実施の形態の超電導加速空洞管10の斜視図である。超電導加速空洞管10は、管本体10Aと、一対のフランジ部18、19と、を有する。管本体10Aは、ビーム軸Jを中心とする軸対称形状である。管本体10Aは、第1パイプ部11と、第2パイプ部12と、多連セル部20と、を有する。第1パイプ部11、第2パイプ部12、および多連セル部20の内部空間は、ビーム軸Jに沿って連通している。
【0015】
第1パイプ部11および第2パイプ部12は、超電導加速空洞管10の両端部を構成する。第1パイプ部11は、多連セル部20の一端側に接続され、第2パイプ部12は、多連セル部20の他端側に接続される。
【0016】
図1に示すように、第1パイプ部11および第2パイプ部12は、圧力容器2の側壁部2aに支持される。第1パイプ部11の多連セル部20と反対側の端部には、フランジ部18が設けられる。また、第1パイプ部11には、図示略のポート管が設けられる。同様に、第2パイプ部12の多連セル部20と反対側の端部には、フランジ部19が設けられる。また、第2パイプ部12には、図示略のポート管が設けられる。第1パイプ部11および第2パイプ部12のポート管は、例えばビーム管である。
【0017】
多連セル部20は、ビーム軸Jを中心として軸方向に延びる。多連セル部20は、複数の膨らみ部21と複数のくびれ部22と、を有する。すなわち、管本体10Aは、複数の膨らみ部21および複数のくびれ部を有する。本実施の形態の多連セル部20には、4個の膨らみ部21と3個のくびれ部22とが設けられるが、膨らみ部21およびくびれ部22の数は本実施の形態に限定されない。
【0018】
複数の膨らみ部21は、軸方向に並ぶ。また、くびれ部22は、軸方向において膨らみ部21の間に配置される。したがって、膨らみ部21とくびれ部22とは、軸方向において交互に配置される。膨らみ部21とくびれ部22とは、一体的に構成される。膨らみ部21は、くびれ部22に対してビーム軸Jの径方向外側に膨らんだ形状を有する。一方で、くびれ部22は、膨らみ部21に対して径方向内側にくびれた形状を有する。したがって、くびれ部22は、膨らみ部21よりもビーム軸Jを中心とする直径が小さい。膨らみ部21の外表面は、外側に向かって凸状の曲面となっており、一方でくびれ部22の外表面は、外側から見て凹状の曲面となっている。膨らみ部21とくびれ部22とは、連続的に変化する曲率半径で滑らかに接続されている。
【0019】
図3は、本実施の形態の管本体10Aの部分断面図である。
図3に示すように管本体10Aは、補強層31と、基材層32と、超電導層33と、を有する。補強層31、基材層32、および超電導層33は、径方向外側から径方向内側に向かってこの順で重なる。補強層31、基材層32、および超電導層33は、それぞれ管本体10Aの全長に亘って略一様な厚さで形成される。補強層31の厚さは、基材層32、および超電導層33の厚さよりも大きい。また、超電導層33は薄膜であり、超電導層33の厚さは、補強層31および基材層32の厚さよりも十分に小さい。
【0020】
補強層31の厚さを適切な範囲で略均一とすることで、管本体10Aの十分な強度を確保しつつ、冷媒Rによる超電導層33の冷却を補強層31が阻害することを抑制できる。基材層32の厚さを適切な範囲で略均一とすることで、基材層32を構成する材料の使用量を低減しつつ、超電導層33に欠陥が生じ基材層32を迂回して電流が流れる場合であっても電気抵抗を十分に抑制することができる。超電導層33の厚さを適切な範囲で略均一とすることで、超電導特性を十分に発揮させることができる。
【0021】
補強層31は、径方向外側を向く外表面31aと、径方向内側を向く内表面31bと、を有する。補強層31の外表面31aは、冷媒Rと接触する。補強層31の内表面31bは、基材層32と接合される。補強層31は、ステンレス鋼から構成される。補強層31として使用されるステンレス鋼は、非磁性材料であるオーステナイト系ステンレス鋼であることが好ましい。補強層31を非磁性材料から構成することで、超電導加速空洞管10の内部の磁場に補強層31の磁性が影響を与えることを抑制でき、荷電粒子の加速を効率的に行うことができる。
【0022】
基材層32は、径方向外側を向く外表面32aと、径方向内側を向く内表面32bと、を有する。基材層32の外表面32aは、補強層31と接合される。基材層32の内表面32bには、超電導層33が成膜される。基材層32は、銅、又は銅合金からなる。基材層32としては、銅を主成分とするものであって、超電導層33を緻密にできるものから選択される。基材層32を銅合金から構成する場合、銅合金に含まれる金属材料は特に限定されない。
【0023】
超電導層33は、ホウ化マグネシウム(MgB2)からなる。ホウ化マグネシウムは、六方晶の層状物質であり、約20K~約30Kに冷却することで安定的な超電導特性を示す。超電導層33は、補強層31および基材層32を介して冷媒Rによって冷却される。超電導層33は、真空蒸着法、又はスパッタリング法など、真空雰囲気下で基材層32の内表面32bにホウ化マグネシウムを堆積させる方法で成膜される。
【0024】
図1に示すように、超電導加速空洞管10の内部には、複数の加速電界発生領域Aが設けられる。複数の加速電界発生領域Aは、ビーム軸J上に並んで配置される。加速電界発生領域Aは、軸方向において、膨らみ部21の径方向内側に位置する。本実施の形態の超電導加速空洞管10は、4個の膨らみ部21を有するため、超電導加速空洞管10の内部には、4か所の加速電界発生領域Aが設けられる。超電導層33に高周波電流を流すことで、加速電界発生領域Aには、ビーム軸J上に位置する荷電粒子を加速させる電界が発生する。
【0025】
<超電導加速空洞管の製造方法>
次に本実施の形態の超電導加速空洞管10の製造方法について説明する。
図4は、本実施の形態の超電導加速空洞管10の製造方法を示すフローチャートである。超電導加速空洞管10は、クラッド材成形工程S10と、管成形工程S20と、成膜工程と、を有する。
【0026】
図5は、クラッド材成形工程S10で成形されるクラッド材40の模式図である。本実施の形態のクラッド材40は、板状である。クラッド材40は、ステンレス鋼からなる補強層31と、銅又は銅合金からなる基材層32と、を有する。クラッド材40は、補強層31を構成する材料であるステンレス鋼と、基材層32を構成する材料である銅又は銅合金とを加熱しながら加圧することで接合して成形される。より具体的な接合方法としては、例えば、爆発圧着法、圧延法、拡散接合法など従来公知の方法が採用できる。
【0027】
図6は、管成形工程S20を示す模式図である。管成形工程S20は、基材層32を内側としてクラッド材40を管状に成形する工程である。管成形工程S20は、塑性変形工程S21と、接合工程S22と、熱処理工程S23と、研磨工程S24と、を有する。
【0028】
塑性変形工程S21は、クラッド材40を塑性変形させて複数の凹状部材41と一対のパイプ状部材42とを成形する工程である。凹状部材41は、基材層32を内側とした略半球状に形成される。凹状部材41は、軸方向の両側に開口する。凹状部材41は、第1開口41aと、軸方向において第1開口41aの反対側を向く第2開口41bと、を有する。第1開口41aは、第2開口41bよりも直径が大きい。本実施の形態の塑性変形工程S21では、8つの凹状部材41が成形される。凹状部材41は、例えばプレス加工によって成形される。また、凹状部材41は、搾り加工によって成形されていてもよい。一対のパイプ状部材42は、例えば、基材層32を内側にして円管状に塑性変形させ端部同士を溶接などの接合手段で接合することで成形される。
【0029】
接合工程S22は、複数の凹状部材41、および一対のパイプ状部材42を溶接などの接合手段で接合する工程である。複数の凹状部材41は、第1開口41aと第2開口41bとを交互に反転させて並べられて、互いに向かい合う第1開口41a同士、および第2開口41b同士が接合される。これにより、4つの膨らみ部21が設けられる多連セル部20(
図1参照)が構成される。さらに、多連セル部20の両端部に一対の第2開口41bにパイプ状部材42を接合することで管本体10Aの外形が形成される。
【0030】
熱処理工程S23は、塑性変形工程S21および接合工程S22を経ることで成形された管本体10Aに対して熱処理を施す工程である。クラッド材40の補強層31を構成するステンレス鋼としては、オーステナイト系のステンレス鋼が用いられる。しかしながら、補強層31は、クラッド材40を成形する加圧および加熱、並びに管本体10Aを成形するための塑性加工によってステンレス鋼の結晶構造に変化が生じ補強層31が非磁性の特性を示さなくなることが懸念される。熱処理工程S23では、管本体10Aの補強層31に熱処理を施すことで金属組織を整えて補強層31をオーステナイト系のステンレス鋼とする。熱処理の時間および温度としては、補強層31をオーステナイト系の結晶構造とするための従来公知の方法が採用される。
【0031】
研磨工程S24は、基材層32の内表面32bに対して研磨加工を行う工程である。研磨工程S24を行うことで、基材層32の内表面32bの表面性状を整えることができ、内表面32bに対する超電導層33の成膜を安定させることができる。研磨工程S24における研磨法としては、従来公知の方法を採用することができる。
【0032】
以上に本実施の形態で採用可能な管成形工程S20について説明した。ここで説明した本実施の形態の管成形工程S20は一例であり、管成形工程S20はその他の手順を経て管本体10Aの外形を成形するものであってもよい。例えば、管成形工程S20は、補強層31と基材層32とを有する円管状のクラッド材に対し、ネッキング加工を行った後に内部に油圧を付与する液圧成形を行うことで管本体10Aの外形を成形するものであってもよい。この場合、管本体10Aを、溶接部分を有さないシームレス管とすることができる。
【0033】
図7は、成膜工程S30を示す模式図である。
成膜工程S30は、真空雰囲気下で基材層32の内表面32bに超電導層33を堆積させる工程である。本実施の形態の成膜工程S30は、マグネトロンスパッタリング法によって行われる。本実施の形態において、成膜工程S30は、成膜装置50を用いて行われる。成膜装置50は、ビーム軸Jに沿って軸方向に延びる軸部52と、軸部52の先端に取り付けらえるスパッタリングターゲット51と、を有する。軸部52は、軸方向に移動可能である。また、軸部52は、ビーム軸Jを中心として回転可能である。スパッタリングターゲット51は、ホウ化マグネシウムからなる。スパッタリングターゲット51を構成するホウ化マグネシウムは、軸部52の先端に形成される磁場によって径方向外側にスパッタリング粒子51aとして飛び出して基材層32の内表面32bに堆積する。成膜装置50は、軸部52を回転させることでスパッタリング粒子51aの飛散方向を周方向に分散させることができる。また、成膜装置50は、軸方向に移動することで内表面32bの全長に亘って超電導層33を成膜することができる。なお、本実施の形態では、スパッタリング法によって行われる成膜工程について説明した。しかしながら、成膜工程は、真空蒸着法又は原子層堆積(ALD: Atomic Layer Deposition)成膜法など他の方法によって行われていてもよい。
【0034】
<まとめ>
本実施の形態の超電導加速空洞管10は、荷電粒子をビーム軸Jに沿って加速させる超電導加速空洞管であって、ビーム軸Jの軸方向に延びる管本体10Aを備える。管本体10Aは、ステンレス鋼からなる補強層31と、補強層31の内表面31bに接合される基材層32と、基材層32の内表面32bに成膜される超電導層33と、を有する。この構成によれば、ステンレス鋼からなる補強層31によって基材層32を補強することができる。一般的に、ステンレス鋼は、基材層32を構成する材料、すなわち本実施の形態では銅又は銅合金よりも強度が高い。補強層31によって基材層32を補強することで、補強層31を有さずに同等の強度となるように基材層32を厚肉とした管本体と比較して、管本体10Aを大幅に薄肉化することができる。これにより、管本体10Aに用いられる基材層32の材料の使用量を削減することができ、超電導加速空洞管10の製造コストを低減できる。加えて、管本体10Aを薄肉化することで、管本体10Aの熱容量を低減することができ、補強層31および基材層32を介して補強層31の径方向外側に満たされる冷媒Rによって超電導層33を効率的に冷却することができる。結果的に、超電導層33を冷却するための冷媒Rの使用量を抑えることができ、超電導加速空洞管10の運転コストを低減できる。また、一般的に、ステンレス鋼は補強部材として工業分野全般に幅広く用いられており、補強層31としてステンレス鋼を採用することで補強構造を構成するための従来の知見を超電導加速空洞管10の設計に利用することできる。したがって、本実施の形態によれば、超電導加速空洞管10の圧力に対する強度設計が容易となる。
【0035】
本実施の形態の超電導加速空洞管10において、基材層32は、銅、又は銅合金からなり、超電導層33は、ホウ化マグネシウムからなる。ホウ化マグネシウムからなる超電導層33は、銅、又は銅合金の表面に成膜することで、緻密な結晶構造を形成し易い。このため、上述の構成によれば、基材層32の内表面32bに緻密な超電導層33を成膜することができる。また、ホウ化マグネシウムは、他の超電導物質と比較して、高い温度で超電導特性を示すことが知られている。超電導層33を構成する材料としてホウ化マグネシウムを採用することで、他の超電導物質を採用する場合と比較して、超電導層33を冷却する冷媒Rの使用量を抑えることができ、超電導加速空洞管10の運転コストを低減できる。
【0036】
本実施の形態の超電導加速空洞管10において、管本体10Aは、軸方向に並ぶ複数の膨らみ部21と、軸方向において膨らみ部21同士の間に位置し膨らみ部21よりも直径が小さい複数のくびれ部22と、を有する。この構成によれば、加速電界発生領域Aにおいて、荷電粒子を効率的に加速させることができる。さらに、本実施の形態のような膨らみ部21とくびれ部22とを有する多連セル構造を採用する場合においても、基材層32を補強層31で補強することで冷媒Rの圧力に対して基材層32を十分に補強できる。
【0037】
本実施の形態の超電導加速装置1は、超電導加速空洞管10と、超電導加速空洞管10を収納するとともに、内部に補強層31の外表面31aに接触する冷媒Rを満たす圧力容器2と、を備える。この構成によれば、低コストで製造、および運転可能が可能な超電導加速装置1を構成できる。
【0038】
本実施の形態の超電導加速空洞管10の製造方法は、ビーム軸Jの軸方向に延びる管本体10Aを備える超電導加速空洞管10の製造方法であって、管本体10Aは、ステンレス鋼からなる補強層31と、補強層31の内表面31bに接合される基材層32と、基材層32の内表面32bに成膜される超電導層33と、を有する。超電導加速空洞管10の製造方法は、クラッド材成形工程S10と、管成形工程S20と、を有する。クラッド材成形工程S10は、ステンレス鋼と基材層32を構成する材料とを加熱しながら加圧することで接合して補強層31と基材層とのクラッド材40を成形する工程である。管成形工程S20は、基材層32を内側としてクラッド材40を管状に成形する工程である。この構成によれば、管成形工程S20において、クラッド材40を用いて管本体10Aを成形するため、補強層31と基材層32とが密着して互いに接合する管本体10Aを製造することができる。これにより、基材層32の全体を補強層31によって十分に補強する事が可能となる。加えて、クラッド材40を用いて管本体10Aを成形することで、管本体10Aの各部の厚さを全長に亘って均一にし易い。この構成によれば、局所的に厚さに偏りがある場合と比較して、冷媒Rによって超電導層33を均一に冷却可能な超電導加速空洞管10を製造できる。
【0039】
本実施の形態の超電導加速空洞管10の製造方法は、管成形工程S20の後に行われる成膜工程S30をさらに有する。成膜工程S30は、真空雰囲気下で基材層32の内表面32bに超電導層33を堆積させる工程である。この構成によれば、管成形工程S20において管本体10Aの外形を成形した後に成膜工程S30において超電導層33を成膜することで、基材層32の内表面32bに沿って緻密な結晶構造を有する超電導層33を形成できる。
【0040】
本実施の形態の超電導加速空洞管10の製造方法において、基材層32は、銅、又は銅合金からなり、超電導層33は、ホウ化マグネシウムからなる。この構成によれば、基材層32の内表面32bに緻密な超電導層33を成膜することができる。
【0041】
本実施の形態の超電導加速空洞管10の製造方法において、管本体10Aは、軸方向に並ぶ複数の膨らみ部21と、軸方向において膨らみ部21同士の間に位置し膨らみ部21よりも直径が小さい複数のくびれ部22と、を有する。この構成によれば、膨らみ部21とくびれ部22とを有する多連セル構造を採用する場合においても、基材層32を補強層31で補強した超電導加速空洞管10を製造できる。
【0042】
以上に本開示における実施の形態について説明したが、本開示は上述した各実施の形態の構成のみに限定されず、以下の構成および方法を採用することもできる。また、本明細書において説明した各構成および各方法は、相互に矛盾しない範囲内において、適宜組み合わせることができる。例えば、超電導加速空洞管10を構成する管本体10Aは、補強層31、基材層32、および超電導層33に加えて他の層を有していてもよい。また、超電導加速空洞管10は、膨らみ部21とくびれ部22とを有する多連セル構造のものに限らず、スポーク型、HWR型と呼ばれる他の種類の超電導加速空洞管であってもよい。
【0043】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0044】
(付記1)
荷電粒子をビーム軸に沿って加速させる超電導加速空洞管であって、
前記ビーム軸の軸方向に延びる管本体を備え、
前記管本体は、
ステンレス鋼からなる補強層と、
前記補強層の内表面に接合される基材層と、
前記基材層の内表面に成膜される超電導層と、を有する、
超電導加速空洞管。
(付記2)
前記基材層は、銅、又は銅合金からなり、
前記超電導層は、ホウ化マグネシウムからなる、
付記1に記載の超電導加速空洞管。
(付記3)
前記管本体は、前記軸方向に並ぶ複数の膨らみ部と、前記軸方向において前記膨らみ部同士の間に位置し前記膨らみ部よりも直径が小さい複数のくびれ部と、を有する、
付記1又は2に記載の超電導加速空洞管。
(付記4)
付記1~3の何れか一項に記載の超電導加速空洞管と、
前記超電導加速空洞管を収納するとともに、内部に前記補強層の外表面に接触する冷媒を満たす圧力容器と、を備える、
超電導加速装置。
(付記5)
ビーム軸の軸方向に延びる管本体を備える超電導加速空洞管の製造方法であって、
前記管本体は、
ステンレス鋼からなる補強層と、
前記補強層の内表面に接合される基材層と、
前記基材層の内表面に成膜される超電導層と、を有し、
ステンレス鋼と前記基材層を構成する材料とを加熱しながら加圧することで接合して前記補強層と前記基材層とのクラッド材を成形するクラッド材成形工程と、
前記基材層を内側として前記クラッド材を管状に成形する管成形工程と、を有する、
超電導加速空洞管の製造方法。
(付記6)
前記管成形工程の後に行われる成膜工程をさらに有し、
前記成膜工程は、真空雰囲気下で前記基材層の内表面に前記超電導層を堆積させる工程である、
付記5に記載の超電導加速空洞管の製造方法。
(付記7)
前記基材層は、銅、又は銅合金からなり、
前記超電導層は、ホウ化マグネシウムからなる、
付記5又は6に記載の超電導加速空洞管の製造方法。
(付記8)
前記管本体は、前記軸方向に並ぶ複数の膨らみ部と、前記軸方向において前記膨らみ部同士の間に位置し前記膨らみ部よりも直径が小さい複数のくびれ部と、を有する、
付記5~7の何れか一項に記載の超電導加速空洞管の製造方法。
【符号の説明】
【0045】
1…超電導加速装置、2…圧力容器、10…超電導加速空洞管、10A…管本体、21…膨らみ部、22…くびれ部、31…補強層、31a,32a…外表面、31b,32b…内表面、32…基材層、33…超電導層、40…クラッド材、J…ビーム軸、R…冷媒、S10…クラッド材成形工程、S20…管成形工程、S30…成膜工程