(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176189
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】凍結細胞解凍装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094537
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 大貴
(72)【発明者】
【氏名】亀野 峻介
(72)【発明者】
【氏名】初田 雅弘
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA12
4B029AA27
4B029BB11
4B029DG10
4B029GA02
(57)【要約】
【課題】凍結細胞の解凍にあたってできる限り凍結保護剤の影響を回避することができる凍結細胞解凍装置を提供する。
【解決手段】凍結細胞解凍装置11は、液体の培地26を案内する導入配管25と、凍結保護剤を含む凍結処理液を含有する凍結細胞12を収容しながら導入配管25から培地26を導入する容器13を保持し、凍結細胞12に接触する培地から凍結細胞12に融解熱を加える融解ユニット15と、凍結細胞12に対して培地の相対移動を生み出す液流れユニット34と、容器13に接続されて、解凍された細胞を含む培地の排出を案内する排出配管32とを備え、解凍された細胞が培地に分散する際に培地中で凍結保護剤の濃度は3vol%以下、好ましくは1vol%以下に維持される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の培地を案内する導入配管と、
凍結保護剤を含む凍結処理液を含有する凍結細胞を収容しながら前記導入配管から前記培地を導入する容器を保持し、前記凍結細胞に接触する前記培地から前記凍結細胞に融解熱を加える融解ユニットと、
前記凍結細胞に対して前記培地の相対移動を生み出す液流れユニットと、
前記容器に接続されて、解凍された細胞を含む前記培地の排出を案内する排出配管と
を備え、
解凍された前記細胞が前記培地に分散する際に前記培地中で前記凍結保護剤の濃度は3vol%以下に維持される
凍結細胞解凍装置。
【請求項2】
前記凍結細胞は、前記凍結保護剤を5vol%以上10vol%以下で含有する
請求項1に記載の凍結細胞解凍装置。
【請求項3】
解凍された前記細胞が前記培地に分散する際に前記培地中で前記凍結保護剤の濃度は1vol%以下に維持される
請求項1に記載の凍結細胞解凍装置。
【請求項4】
前記容器への導入に先立って前記培地を加熱する加温ユニットを備える
請求項1に記載の凍結細胞解凍装置。
【請求項5】
前記容器に接続されて、前記容器を加熱する顕熱変化ユニットを備える
請求項1に記載の凍結細胞解凍装置。
【請求項6】
前記凍結保護剤は、ジメチルスルホキシドを含有する
請求項1に記載の凍結細胞解凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結細胞を解凍して細胞を回収する凍結細胞解凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、バイアルを加熱するヒーターを備える凍結細胞解凍装置を開示する。細胞を含む懸濁液はバイアル内で凍結する。ヒーターからバイアルに凍結細胞の融解熱は伝達される。凍結細胞は外周から中心に向かって徐々に融解していく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細胞の凍結にあたって懸濁液には凍結保護剤が混ぜられる。凍結保護剤には一般にジメチルスルホキシド(DMSO)が含まれる。解凍後のジメチルスルホキシドは細胞にダメージを与えることから、できるだけ短時間で解凍は完了することが望まれる。とはいえ、細胞が42℃を超えた高温に曝されると、細胞は死滅してしまう。その一方で、低温の解凍に伴って細胞とジメチルスルホキシドとの接触時間が延びると、細胞は死滅してしまう。したがって、バイアルの加熱にあたって複雑かつ高度な温度制御が要求される。
【0005】
本発明は、凍結細胞の解凍にあたってできる限り凍結保護剤の影響を回避することができる凍結細胞解凍装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の凍結細胞解凍装置は、液体の培地を案内する導入配管と、凍結保護剤を含む凍結処理液を含有する凍結細胞を収容しながら前記導入配管から前記培地を導入する容器を保持し、前記凍結細胞に接触する前記培地から前記凍結細胞に融解熱を加える融解ユニットと、前記凍結細胞に対して前記培地の相対移動を生み出す液流れユニットと、前記容器に接続されて、解凍された細胞を含む前記培地の排出を案内する排出配管とを備え、解凍された前記細胞が前記培地に分散する際に前記培地中で前記凍結保護剤の濃度は3vol%以下に維持される。
【発明の効果】
【0007】
以上のように開示の凍結細胞解凍装置によれば、凍結細胞の解凍にあたってできる限り凍結保護剤の影響を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る凍結細胞解凍装置の構成を概略的に示す全体図である。
【
図2】凍結細胞の顕熱変化の様子を概略的に示す模式図である。
【
図3】凍結細胞の潜熱変化の様子を概略的に示す模式図である。
【
図4】凍結細胞解凍装置での解凍に費やされる時間のシミュレーションに用いた凍結細胞を収容した容器を説明する図である。
【
図5】凍結細胞解凍装置での解凍における時間経過と解凍の様子の一例を示す図である。
【
図6】凍結細胞解凍装置での解凍における時間経過と温度変化の一例を示す図である。
【
図7】実施例に係る凍結細胞解凍装置での培地投入動作のパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。
【0010】
(凍結細胞解凍装置11の構成)
図1は本発明の一実施形態に係る凍結細胞解凍装置の構成を概略的に示す。凍結細胞解凍装置11は、凍結細胞12を収容する第1容器13を保持し、第1容器13に収容される凍結細胞12に第1容器13内の培地14から融解熱を加える融解ユニット15を備える。ここでは、第1容器13は、例えばガラス製のバイアル13aと、バイアル13aの開口を塞ぐキャップ13bとで構成されることができる。バイアル13aに凍結細胞12は収容される。細胞の凍結にあたってバイアル13aには懸濁液が収容される。懸濁液はバイアル13aとともに凍結される。凍結細胞12の保存にあたって例えば凍結細胞12は液体窒素で冷却されることができる。このとき、凍結細胞12の温度はマイナス196℃付近まで低下する。キャップ13bには導入ポート16および排出ポート17が形成される。
【0011】
懸濁液は凍結処理液と当該凍結処理液に分散する細胞とで構成される。凍結処理液は培地と細胞凍結保存液とヒト血清アルブミンとを含有する。細胞凍結保存液には凍結保護剤として、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)が含有される。ジメチルスルホキシドの濃度は例えば凍結処理液の5vol%以上10vol%以下であり、具体的には5vol%に設定される。ジメチルスルホキシドは細胞の凍結にあたって細胞内で凝固する水分の膨張を防止することができる。ジメチルスルホキシドは良好に細胞の死滅を防止することができる。凍結保護剤としては、ジメチルスルホキシドの他にグリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。上記の凍結保護剤は細胞膜透過性であり、細胞内へ浸透し氷晶形成を抑制する効果がある反面、細胞内で代謝により有害物質へ変化し、生物学的毒性を発現することが知られている。
【0012】
第1容器13には、外側からバイアル13aを加熱する顕熱変化ユニット23が結合される。顕熱変化ユニット23は、例えば、凍結細胞12の融解温度未満でバイアル13aを加熱するヒーター24を備える。ヒーター24は、例えば、バイアル13aを受け止めバイアル13aを支持する形状を有することができる。ヒーター24の温度は凍結細胞12の融解温度未満に制限されることから、バイアル13aからの熱伝達で凍結細胞12の融解は回避されることができる。その一方で、凍結細胞12の温度は顕熱変化で可能な限り融解温度に近づくことができる。ここでは、ヒーター24の温度は例えばマイナス1℃に設定される。あるいは、ヒーター24の温度は、顕熱変化を早めるために細胞を死滅させない範囲の高温、例えば37℃~42℃、具体的には42℃に設定しても良い。
【0013】
顕熱変化ユニット23によって、凍結細胞12の温度は融解に先立って顕熱変化でできる限り高温まで加熱されることから、培地の熱エネルギーは効率的に潜熱変化に利用されることができ、培地に基づく凍結細胞12の解凍は促進されることができる。凍結細胞12の温度が培地の融解温度よりも低温であると、凍結細胞12に接触する培地は凍結してしまい、凍結細胞12の解凍に支障を来してしまうが、凍結細胞12の温度が高まれば、凍結細胞12に培地が接触しても培地の凍結は回避されることができ、培地は効率的に凍結細胞12を解凍することができる。
【0014】
第1容器13には水平軸線18回りに第1容器13の回転を生み出す傾斜ユニット21が結合される。傾斜ユニット21は、例えばヒーター24に接続されて、水平軸線18回りでヒーター24を駆動するモーター22を備える。モーター22は、例えば、電力の供給に応じて軸心回りで回転する駆動軸を備える。駆動軸の回転力は歯車機構を介してヒーター24に伝達されることができる。傾斜ユニット21の働きで第1容器13の姿勢は水平軸線18回りに変化することができる。第1容器13は、バイアル(円筒)13aの中心軸線が鉛直方向に一致する第1位置と、バイアル13aの底よりもキャップ13bが下方に位置する第2位置とで保持されることができる。第2位置では導入ポート16よりも排出ポート17は下方に位置する。
【0015】
キャップ13bの導入ポート16には、1本の流路を区画する導入配管25の一端が連結される。導入配管25は例えば軟質樹脂製のチューブで構成されることができる。導入配管25の他端には、液体の培地26を保持する第2容器27が接続される。培地26には、凍結細胞12に含まれる細胞に適した培地が用いられる。培地26は例えば常温で細胞の生存環境を提供することができる。第1容器13には導入配管25から液体の培地26が導入される。導入された培地は凍結細胞12に接触する。こうして培地26から凍結細胞12に融解熱は伝達される。
【0016】
第2容器27には第2容器27に収容される培地26を加熱する加温ユニット31が結合される。加温ユニット31の働きで第2容器27内の培地26は室温以上に温められることができる。培地26に熱エネルギーは供給される。培地26は第1容器13への導入に先立って加熱される。ただし、培地26の温度は細胞の死滅温度未満に維持される。ここでは、培地26の温度は37℃以下に制限される。
【0017】
キャップ13bの排出ポート17には、1本の流路を区画する排出配管32の一端が連結される。排出配管32の他端には、解凍された細胞を回収する第3容器33が接続される。排出配管32は、第1容器13から第3容器33に、解凍された細胞を含む培地の排出を案内する。第3容器33には、解凍されて培地で希釈化された懸濁液が流れ込む。
【0018】
導入配管25には第2容器27から第1容器13に向かって培地を動かすポンプ34が結合される。ポンプ34は第1容器13内で凍結細胞12に対して培地の相対移動を生み出す液流れユニットとして機能することができる。ポンプ34には例えばチューブポンプが用いられることができる。第1容器13は密閉されることから、ポンプ34の圧力は第1容器13から希釈化された懸濁液の排出を促すことができる。ポンプ34の働きに応じて、培地の流量は調整されることができる。こうして流量が調整されることで、第1容器13内で解凍された細胞が培地に分散する際に培地中でジメチルスルホキシドの濃度は3vol%以下に維持されることができる。解凍された細胞は3vol%以下の濃度でジメチルスルホキシドを含む培地に接触するので、培地との接触時間に関係なくジメチルスルホキシドに基づく細胞の死滅は低減されることができる。細胞は良好に解凍されることができる。
【0019】
凍結細胞解凍装置11では、解凍された細胞が培地に分散する際に培地中でジメチルスルホキシドの濃度は、好ましくは1vol%以下に維持される。細胞の死滅はさらに低減され、細胞は良好に解凍されることができる。
【0020】
モーター22、ヒーター24、加温ユニット31およびポンプ34には制御ユニット35が接続される。制御ユニット35は、モーター22、ヒーター24、加温ユニット31およびポンプ34にそれぞれ制御信号を供給する。モーター22は制御信号の供給に応じて第1位置および第2位置の間で水平軸線18回りに第1容器13を駆動する。ヒーター24は制御信号の供給に応じて制御信号で特定される温度で第1容器13に接触する。制御信号は、例えば、バイアル13aに装着される温度センサーの出力に基づき生成されることができる。加温ユニット31は制御信号の供給に応じて制御信号で特定される温度で第2容器27に接触する。制御信号は、例えば、第2容器27に組み込まれて培地26の温度を検出する温度センサーの出力に基づき生成されることができる。制御ユニット35は例えばマイクロプロセッサーユニット(MPU)から構成されることができる。このとき、制御ユニット35の動作は制御ユニット35内のメモリーに格納されるソフトウエアに基づき実現されることができる。
【0021】
次に凍結細胞解凍装置11の動作を説明する。凍結細胞12は準備される。凍結細胞12は懸濁液の凝固体に相当する。懸濁液は第1容器13に収容されて第1容器13ともども凍結される。懸濁液の調製にあたって凍結処理液に細胞は混入される。凍結処理液は、例えば、50vol%の培地、34vol%の細胞凍結保存液および16vol%のヒト血清アルブミンで形成される。ここでは、凍結処理液は5vol%の濃度でジメチルスルホキシドを含有する。ジメチルスルホキシドは細胞の凍結時に良好に細胞の死滅を防止することができる。凍結細胞12の保存にあたって凍結細胞12を収容する第1容器13は例えば液体窒素で冷却される。
【0022】
凍結細胞12の第1容器13は融解ユニット15にセットされる。第1容器13は例えばヒーター24に装着され支持される。キャップ13bの導入ポート16には導入配管25が結合される。導入配管25は第1容器13に第2容器27を接続する。キャップ13bの排出ポート17には排出配管32が結合される。排出配管32は第1容器13に第3容器33を接続する。制御ユニット35は傾斜ユニット21を制御する。ここでは、第1容器13は水平軸線18回りに第1位置に位置決めされる。
【0023】
第2容器27には液体の培地26が保持される。制御ユニット35は加温ユニット31を制御する。加温ユニット31には制御ユニット35から制御信号が供給される。加温ユニット31は第2容器27内の培地26を加熱する。培地26は室温よりも高温に温められることができる。ここでは、加温ユニット31は例えば37℃に維持される。
【0024】
制御ユニット35は顕熱変化ユニット23を制御する。ヒーター24には制御ユニット35から制御信号が供給される。ヒーター24はバイアル13a内の凍結細胞12を加熱する。
図2に示されるように、凍結細胞12にはバイアル13aから熱エネルギーが伝達される。凍結細胞12では顕熱変化が実現される。凍結細胞12の温度は上昇していく。凍結細胞12は融解温度未満まで温められる。凍結細胞12の温度は融解温度未満で維持される。
【0025】
制御ユニット35はポンプ34を制御する。液体の培地26は第2容器27から第1容器13に流入する。
図3に示されるように、第1容器13内で培地38は凍結細胞12の表面に接触する。凍結細胞12の表面には培地38から熱エネルギー(融解熱)39が伝達される。凍結細胞12は融解する。解凍された懸濁液はすぐさま培地38に分散することができる。融解した懸濁液は培地38で希釈化される。細胞41は培地38に分散する。培地38の流れで懸濁液は凍結細胞12の表面から押しのけられることから、凍結保護剤の濃度は良好な範囲で規制されることができる。こうして細胞41に対してできる限り凍結保護剤の影響は回避されることができる。解凍の継続時間に関係なく、凍結保護剤に基づく細胞41の死滅は低減されることができる。細胞41は良好に解凍されることができる。培地38の導入に先立って培地38は室温よりも高温に温められることができる。凍結細胞12の融解は促進されることができる。
【0026】
ここでは、制御ユニット35は凍結細胞12の温度に応じてポンプ34の動作を制御する。ポンプ34には制御ユニット35から制御信号が供給される。制御信号は、培地38の対流熱伝達で融解する懸濁液の容量に基づきポンプ34の動作量を特定する。ポンプ34の動作量は培地38の流量を決定する。決定された流量に基づき、解凍された細胞41が培地38に分散する際に培地38中でジメチルスルホキシドの濃度は1vol%以下に維持される。解凍された細胞41は3vol%以下、好ましくは1vol%以下の濃度でジメチルスルホキシドを含む培地38に接触するので、培地38との接触時間に関係なく凍結保護剤に基づく細胞41の死滅は低減されることができる。細胞41は良好に解凍されることができる。
【0027】
解凍された細胞41を含有する培地38は第1容器13から第3容器33に流入する。こうして細胞41は第3容器33に回収される。細胞41は例えば遠心分離機の働きで培地38から分離されることができる。凍結細胞12の解凍中に制御ユニット35は傾斜ユニット21を制御してもよい。制御に応じて第1容器13は水平軸線18回りで第2位置に位置決めされることができる。第2位置ではキャップ13bの排出ポート17は凍結細胞12よりも下方に位置することから、解凍された細胞41の排出は促進されることができる。
【0028】
本実施形態では、顕熱変化ユニット23のヒーター24は凍結細胞12の融解温度未満でバイアル13aを加熱する。ヒーター24からの熱伝達に基づく凍結細胞12の融解は回避されることができる。希釈化から分離された凍結細胞12の融解は阻止されることができる。こうして細胞41は高濃度の凍結保護剤から良好に保護されることができる。凍結保護剤に基づく細胞の死滅は低減されることができる。その一方で、凍結細胞12の温度は融解に先立って顕熱変化でできる限り高温まで加熱されることから、培地38の熱エネルギー39は効率的に潜熱変化に利用されることができる。培地38に基づく凍結細胞12の解凍は促進されることができる。しかも、凍結細胞12の温度ができる限り高まれば、凍結細胞12に培地38が接触しても培地38の凍結は回避されることができる。培地38は効率的に凍結細胞12を解凍することができる。凍結細胞12の温度が培地38の融解温度よりも低温であると、凍結細胞12に接触する培地38は凍結してしまう。凍結細胞12の解凍に支障を来してしまう。
【0029】
凍結細胞12の解凍にあたって「細胞の解凍に十分な熱量を持つ温度」は次式で表される。ただし、Miは凍結細胞12の質量[kg]、θiは凍結細胞の初期温度[℃]、Ciは凍結細胞の比熱[J/(kg・K)]、Lは凍結細胞の潜熱[J/kg]、Mwは培地の質量[kg]、θwは培地の初期温度[℃]、および、Cwは培地の比熱[J/(kg・K)]である。
【0030】
【0031】
【0032】
[数2]に基づき表1に示す「細胞の解凍に十分な熱量を持つ温度」が算出された。
【0033】
【0034】
ここでは、比熱Ci=2040[J/(kg・K)](氷0[℃]の比熱)、比熱Cw=4180[J/(kg・K)](水20[℃]の比熱)、および、潜熱L=3.336x105[J/kg]に設定された。
【0035】
次に、凍結細胞を収容した容器に培地を供給した状況を想定し、解凍に費やされる時間をシミュレーションしたところ、表2に示す計算結果が得られた。
【0036】
【0037】
図4に示されるように、円筒形の容器に凍結細胞および培地は収容された。なお、計算にあたって容器は断熱と仮定された。対流熱伝達は考慮されなかった。熱伝導に基づく温度変化(顕熱変化)および相変化(潜熱変化)のみが考慮された。円柱の半径方向に温度勾配はないものと仮定され一元的に計算は実施された。
図5に示されるように、例1では単位時間あたりの融解量は概ね一定に維持されることが算出された。
図6に示されるように、時間の経過に拘わらず凍結細胞の表面では温度は概ね一定に維持されることが算出された。
【0038】
(凍結細胞解凍装置11の作用・効果)
本実施形態の凍結細胞解凍装置11において、凍結細胞12には凍結細胞12に接触する培地から融解熱が伝達される。解凍された懸濁液はすぐさま培地に分散することができる。融解した懸濁液は培地で希釈化されることができる。培地の流れで懸濁液は凍結細胞12から押しのけられることから、細胞凍結保存液に含有されるジメチルスルホキシドの濃度は良好な範囲で規制されることができる。このようにして、凍結細胞の解凍にあたってできる限り凍結保護剤の影響を回避することができる。解凍の継続時間に関係なく、凍結保護剤に含有されるジメチルスルホキシドに基づく細胞の死滅は低減され、細胞は良好に解凍されることができる。
【0039】
(実施例)
本発明者は虹彩色素上皮細胞の懸濁液を調製した。細胞の濃度は凍結処理液中で1.0~2.0x10
6[live cells/mL]に設定された。凍結処理液は、50vol%の培地、34vol%の細胞凍結保存液および16vol%のヒト血清アルブミンで形成された。凍結処理液は5vol%の濃度でジメチルスルホキシドを含有した。懸濁液は5[mL]の保存容器に封入された。保存容器はマイナス80℃のフリーザーで緩慢冷却された。保存容器内で細胞は凍結した。凍結細胞および培地の総量は30[mL]に調整された。
図7に示されるように、培地はいくつかのパターンで保存容器に導入された。実施例7では2つの保存容器が直接に接続された。本検証では顕熱変化ユニット23に代えて加温ユニットが用いられた。実験条件及び結果を表3に示す。
【0040】
【0041】
表3中、「細胞生存率」では、残存する凍結細胞も含んで生存する細胞の総数が計数され、「細胞収率」では、排出配管32から排出された培地内に含まれる細胞が計数された。
【符号の説明】
【0042】
11 凍結細胞解凍装置
12 凍結細胞
13 容器(第1容器)
15 融解ユニット
23 顕熱変化ユニット
25 導入配管
26 (第2容器内の)培地
31 加温ユニット
32 排出配管
34 液流れユニット(ポンプ)
38 (第1容器内の)培地