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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176192
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】乗客コンベアシステム及び移動体
(51)【国際特許分類】
   B66B 31/00 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
B66B31/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094543
(22)【出願日】2023-06-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 涼介
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321AA02
3F321EA17
3F321EB07
3F321EC06
3F321HA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】移動体によって手摺りベルトの移動と踏段の移動が同期しているかを自動的に点検できる乗客コンベアシステム及び移動体を提供する。
【解決手段】移動体100は、踏段30に乗って移動する移動体本体102と、移動体本体102に設けられ、左右一対の識別シール68を検出する左センサ110と右センサ112と、移動体制御部104とを有し、左右一対の左センサ110と右センサ112は、移動体本体102が乗り口から降り口まで踏段30に乗って移動する間の定めた開始位置において取得した画像中の識別シール68の位置と、開始位置より降り口側にある終了位置において取得した画像中の識別シール68の位置とを検出し、移動体制御部104は、開始位置の画像中の識別シール68の位置と、終了位置の画像中の識別シール68の位置との前後方向の遅れ量を求め、遅れ量から踏段30の移動と手摺りベルト38の移動とが同期しているか否かを判断する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアと移動体を含む乗客コンベアシステムにおいて、
前記乗客コンベアは、
一方の乗降口から他方の乗降口の間を前後方向に設けられた左右一対の欄干と、
左右一対の前記欄干の間を前後方向に移動する踏段と、
左右一対の前記欄干の上部を前記踏段と同期して走行する左右一対の手摺りベルトと、
左右一対の前記手摺りベルト上に設けられた左右一対の識別子と、
を有し、
前記移動体は、
一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する移動体本体と、
前記移動体本体に設けられ、左右一対の前記識別子を検出する左右一対の画像センサと、
移動体制御部と、
を有し、
左右一対の前記画像センサは、前記移動体本体が一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する間の予め定めた開始位置において取得した画像中の前記識別子の位置と、前記開始位置より他方の前記乗降口側にある終了位置において取得した前記画像中の前記識別子の位置とを検出し、
前記移動体制御部は、前記開始位置の前記画像中の前記識別子の位置と、前記終了位置の前記画像中の前記識別子の位置との前後方向の遅れ量を求め、前記遅れ量から前記踏段の移動と前記手摺りベルトの移動とが同期しているか否かを判断する、
ことを特徴とする乗客コンベアシステム。
【請求項2】
前記移動体は、自らの移動体移動速度を検出する速度センサを有し、
前記移動体制御部は、
前記遅れ量から前記手摺りベルトの移動速度を計算し、
前記移動体移動速度と前記手摺りベルトの移動速度とを比較して、前記踏段の移動と前記手摺りベルトの移動とが同期しているか否かを判断する、
請求項1に記載の乗客コンベアシステム。
【請求項3】
乗客コンベアと移動体を含む乗客コンベアシステムにおいて、
前記乗客コンベアは、
一方の乗降口から他方の乗降口の間を前後方向に設けられた左右一対の欄干と、
左右一対の前記欄干の間を前後方向に移動する踏段と、
左右一対の前記欄干の上部を前記踏段と同期して走行する左右一対の手摺りベルトと、
を有し、
前記移動体は、
一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する移動体本体と、
前記移動体本体に設けられ、左右一対の前記欄干を撮影する左右一対のカメラと、
移動体制御部と、
を有し、
前記移動体制御部は、前記移動体本体が一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する間に左右一対の前記カメラが撮影した画像と、予め記憶した基準画像とを比較し、前記欄干の破損状態を検出する、
ことを特徴とする乗客コンベアシステム。
【請求項4】
乗客コンベアの一方の乗降口から他方の乗降口まで踏段に乗って前後方向に移動する移動体本体と、
前記移動体本体に設けられ、前記乗客コンベアの左右一対の手摺りベルトにそれぞれ設けられた左右一対の識別子を検出する左右一対の画像センサと、
移動体制御部と、
を有し、
左右一対の前記画像センサは、前記移動体本体が一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する間の予め定めた開始位置において取得した画像中の前記識別子の位置と、前記開始位置より他方の前記乗降口側にある終了位置において取得した前記画像中の前記識別子の位置とを検出し、
前記移動体制御部は、前記開始位置の前記画像中の前記識別子の位置と、前記終了位置の前記画像中の前記識別子の位置との前後方向の遅れ量を求め、前記遅れ量から前記踏段の移動と前記手摺りベルトの移動とが同期しているか否かを判断する、
ことを特徴とする移動体。
【請求項5】
乗客コンベアの一方の乗降口から他方の乗降口まで踏段に乗って移動する移動体本体と、
前記移動体本体に設けられ、左右一対の欄干を撮影する左右一対のカメラと、
移動体制御部と、
を有し、
前記移動体制御部は、前記移動体本体が一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する間に左右一対の前記カメラが撮影した画像と、予め記憶した基準画像とを比較し、前記欄干の破損状態を検出する、
ことを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、乗客コンベアシステムと、それに用いられる移動体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアにおいて、踏段と手摺りベルトは同じ速度で同期して移動している。しかし、乗客コンベアの駆動機構の経年劣化等により手摺りベルトの移動速度が踏段より遅くなることがある。そのため従来は、毎月の点検において、作業員が手摺りベルトの速度と踏段の速度をそれぞれ測定し、遅れが発生していないか点検していた。
【0003】
また、作業員は、手摺りベルトが走行する欄干に関して、破損やひびが有るか否かも点検していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-181365号公報
【特許文献2】特開2000-255962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように手摺りベルトの速度と踏段の速度を点検する場合には、作業員が主に手作業で行う必要があるという問題点があった。
【0006】
また、欄干に関しても、破損やひびが有るか否かを作業員が点検する必要があるという問題点があった。
【0007】
そこで本発明の実施形態は、移動体によって手摺りベルトの移動と踏段の移動が同期しているか否かを自動的に点検することができ、また、欄干が破損しているか否かも自動的に点検できる乗客コンベアシステム及び移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、乗客コンベアと移動体を含む乗客コンベアシステムにおいて、前記乗客コンベアは、一方の乗降口から他方の乗降口の間を前後方向に設けられた左右一対の欄干と、左右一対の前記欄干の間を前後方向に移動する踏段と、左右一対の前記欄干の上部を前記踏段と同期して走行する左右一対の手摺りベルトと、左右一対の前記手摺りベルト上に設けられた左右一対の識別子と、を有し、前記移動体は、一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する移動体本体と、前記移動体本体に設けられ、左右一対の前記識別子を検出する左右一対の画像センサと、移動体制御部と、を有し、左右一対の前記画像センサは、前記移動体本体が一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する間の予め定めた開始位置において取得した画像中の前記識別子の位置と、前記開始位置より他方の前記乗降口側にある終了位置において取得した前記画像中の前記識別子の位置とを検出し、前記移動体制御部は、前記開始位置の前記画像中の前記識別子の位置と、前記終了位置の前記画像中の前記識別子の位置との前後方向の遅れ量を求め、前記遅れ量から前記踏段の移動と前記手摺りベルトの移動とが同期しているか否かを判断する、ことを特徴とする乗客コンベアシステムである。
【0009】
また、本発明の一実施形態は、乗客コンベアと移動体を含む乗客コンベアシステムにおいて、前記乗客コンベアは、一方の乗降口から他方の乗降口の間を前後方向に設けられた左右一対の欄干と、左右一対の前記欄干の間を前後方向に移動する踏段と、左右一対の前記欄干の上部を前記踏段と同期して走行する左右一対の手摺りベルトと、を有し、前記移動体は、一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する移動体本体と、前記移動体本体に設けられ、左右一対の前記欄干を撮影する左右一対のカメラと、移動体制御部と、を有し、前記移動体制御部は、前記移動体本体が一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する間に左右一対の前記カメラが撮影した画像と、予め記憶した基準画像とを比較し、前記欄干の破損状態を検出する、を有することを特徴とする乗客コンベアシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態のエスカレータの右側から見た説明図である。
図2】移動体が踏段に乗ってエスカレータを移動しているときの縦断面図である。
図3】移動体とエスカレータのブロック図である。
図4】移動体がエスカレータを点検するときのフローチャートである。
図5】手摺りベルトの遅れ量を説明する手摺りベルトの平面図であり、(a)は撮影開始位置における平面図であり、(b)は撮影終了位置における平面図である。
図6】欄干を点検するときの右側から見た側面図であり、(a)は正常な状態の基準画像であり、(b)は撮影した画像の右側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態の乗客コンベアシステムであるエスカレータ10と移動体100について図1図6を参照して説明する。
【0012】
(1)エスカレータ10
エスカレータ10の全体の構造について図1を参照して説明する。図1は、エスカレータ10を左側面から見た説明図である。但し、エスカレータ10の内部構造をわかりやすくするために、エスカレータ10の右側の部材の図示を省略している。なお、エスカレータ10の前後方向を説明するときは、下階から上階を見上げ、上階が前側、下階が後側であるものとする。
【0013】
図1に示すように、エスカレータ10の枠組みであるトラス12が、建屋1の上階と下階に跨がって、支持アングル2,3を用いて前後方向に支持されている。トラス12の上端部にある上階側の機械室14内部には、踏段30を走行させる駆動装置18、左右一対の踏段スプロケット24,24、不図示の左右一対のベルトスプロケットが設けられている。この駆動装置18は、モータ20と、減速機21と、この減速機21の出力軸に取り付けられた駆動小スプロケット19と、モータ20の回転を停止させ、かつ、停止状態を保持するディスク式の電磁ブレーキ23とを有している。左右一対の踏段スプロケット24,24には、同軸に駆動大スプロケット17が取り付けられ、駆動小スプロケット19との間に無端状の駆動チェーン22が架け渡されている。また、上階側の機械室14内部には、モータ20や電磁ブレーキ23などを制御する主制御部である制御装置50が設けられている。
【0014】
トラス12の下端部にある下階側の機械室16内部には、左右一対の従動スプロケット26,26が設けられている。上階側の左右一対の踏段スプロケット24,24と下階側の左右一対の従動スプロケット26,26との間には、左右一対の無端状の踏段チェーン28,28が架け渡されている。左右一対の踏段チェーン28,28の間には、複数の踏段30の左右一対の第1輪301,301が一定間隔毎に連結されている。モータ20が回転すると踏段30の第1輪301は、トラス12に固定された不図示の第1輪専用の案内レールを走行し、踏段30の第2輪302は、トラス12に固定された第2輪専用の案内レール25を走行する。
【0015】
トラス12の上部の左右両側には、ガラス製の左右一対の欄干36,36が立設されている。この欄干36の上部には手摺りレール39が設けられ、この手摺りレール39に沿って無端状の手摺りベルト38が移動する。
【0016】
左右一対の手摺りベルト38,38は、不図示の左右一対のベルトスプロケットが左右一対の踏段スプロケット24,24と共に回転することにより踏段30と同期して移動する。そして、左右一対の手摺りベルト38,38が踏段30と同期して移動しているか否かを点検するために、左右一対の手摺りベルト38,38の表面には、左右一対の円形の識別シール(識別子)68がそれぞれ貼られている。この識別シール68は、乗客に目立たないように小さいサイズである(なお、図面ではわかりやすく説明するために識別シール68は大きく描いている)。
【0017】
左右一対の欄干36の上階側の正面下部には上階側の正面スカートガード40が設けられ、下階側の正面下部には下階側の正面スカートガード42が設けられている。正面スカートガード40,42から手摺りベルト38の出入口であるインレット部46,48がそれぞれ突出している。左右一対の欄干36の側面下部には、スカートガード44がそれぞれ設けられ、左右一対のスカートガード44,44の間を踏段30が走行する。
【0018】
上階側の左右一対のスカートガード44,44の間の乗降口である、機械室14の天井面には、上階側の乗降板32が水平に設けられている。下階側の左右一対のスカートガード44,44の間の乗降口である、機械室16の天井面には、下階側の乗降板34が水平に設けられている。上階側の乗降板32の先端には櫛歯状のコム60が設けられ、踏段30がこのコム60に進入したり、このコム60から引き出されたりする。また、下階側の乗降板34の先端にも櫛歯状のコム62が設けられている。
【0019】
(2)移動体100
次に、エスカレータ10の左右一対の手摺りベルト38,38と踏段30が同期して移動しているか否かと、左右一対の欄干36の破損状態の点検を行うための移動体100について、図2を参照して説明する。この移動体100は、自律走行可能なロボットであり、その目的は無人でエスカレータ10の点検を行うことである。
【0020】
図2に示すように、移動体100は、ほぼ立方体の移動体本体102を有し、この移動体本体102の大きさは、一段の踏段30に乗ることができる大きさに設計されている。その移動体本体102の内部には、コンピュータなどよりなる移動体制御部104が設けられ、また、移動体制御部104の記憶部114、移動体通信部116、速度センサ128が設けられている。移動体本体102の下部には、4個の車輪106が設けられ、この4個の車輪106は移動モータ108で回転する。移動体制御部104は、移動モータ108の回転、停止、回転方向を制御することにより、移動体100を前進、後進、又は右若しくは左に回転させることができる。
【0021】
移動体100の移動体本体102の上面には、垂直方向に支持柱118が立設され、この支持柱118の上端から左に向かって左水平部120が水平に突出し、この支持柱118の上端から右に向かって右水平部122が水平に突出している。移動体100を後方から見た場合に、左水平部120と右水平部122と支持柱118は、ほぼT字状をなしている。左水平部120の先端には、左側の画像センサ(以下、「左センサ」という)110が取り付けられている。また、右水平部122の先端にも、右側の画像センサ(以下、「右センサ」という)112が取り付けられている。左センサ110と右センサ112が検出した画像はそれぞれ移動体制御部104に送られる。左水平部120と右水平部122の高さは、移動体100を踏段30に載せた場合に、左センサ110と右センサ112の高さが、左右一対の手摺りベルト38,38の上方になるように設定されている。
【0022】
移動体本体102の左右両側面には、左カメラ124と右カメラ126がそれぞれ設けられ、左カメラ124は、左側の欄干36を撮影し、右カメラ126は、右側の欄干36を撮影する。左カメラ124と右カメラ126が撮影した画像はそれぞれ移動体制御部104に送られる。
【0023】
(3)エスカレータ10と移動体100の電気的構成
次に、エスカレータ10と移動体100の電気的構成について、図3のブロック図を参照して説明する。
【0024】
図3に示すように、上階側の機械室14内部にある制御装置50には、後述する移動体100の移動体通信部116や外部にある保守センタの監視装置200と連絡を取るための通信部64と、モータ20と電磁ブレーキ23を制御するための駆動回路66が接続されている。
【0025】
移動体100の移動体制御部104には、移動モータ108、左センサ110、右センサ112、記憶部114、移動体通信部116、左カメラ124、右カメラ126、及び速度センサ128が接続され、移動体通信部116は上記の通り通信部64と通信する。
【0026】
(4)手摺りベルト38の移動と踏段30の移動の同期状態の点検
左右一対の手摺りベルト38,38は、不図示の左右一対のベルトスプロケットによって移動しているが、経年劣化等により手摺りベルト38の移動速度が次第に遅くなり、踏段30の移動速度と同期しなくなることがある。そこで、移動体100が、手摺りベルト38の移動と踏段30の移動の同期状態を点検する方法について説明する。
【0027】
上記したように左右一対の手摺りベルト38,38の表面には、図2図5に示すように、左右一対の識別シール68,68が貼られている。
【0028】
エスカレータ10が上昇運転している場合には、移動体100を下階側の乗降板34に移動させる。
【0029】
この乗降板34上において、図1に示すように、左側の手摺りベルト38が欄干36の下階側の半円形の周面を移動して、左側の手摺りベルト38にある識別シール68が、半円形の最も突出した位置Aに到達したときに、移動体100の左センサ110は識別シール68を発見する。
【0030】
次に、移動体100は、下階側の乗降板34から踏段30に乗る。移動体100が、乗降板34から踏段30に移動する間に、左側の識別シール68も手摺りベルト38の水平移動部分に移動し、左センサ110は、水平に移動する識別シール68を真上から撮影してその画像を取得できる。この識別シール68の画像を撮影して取得する位置を「開始位置B」とし、図5(a)に示すように、ここで撮影した画像を「開始位置Bの画像」という。なお、水平に移動する識別シール68を真上から撮影できる位置を開始位置としたのは、この位置においては、移動体本体102と手摺りベルト38とが、ほぼ水平かつ平行に移動するためである。
【0031】
踏段30に乗った移動体100は、図1に示すように上昇していき、手摺りベルト38の識別シール68も同様に移動するため、図2に示すように、左センサ110で左の識別シール68を撮影し続け、記憶部114に記憶する。また、移動体100は、自己が所有している速度センサ128で、開始位置Bからの移動速度Vを検出しており、この移動速度Vが、踏段30の移動速度となる。
【0032】
次に、上階に到達して移動体100が踏段30から上階の乗降板32に移動する直前を、左側の識別シール68の撮影が終了する「終了位置C」とし、図5(b)に示すように、ここで撮影して取得した画像を「終了位置Cの画像」という。なお、ここを「終了位置C」としたのは、水平に移動する識別シール68を真上から撮影できる最後の位置だからである。
【0033】
次に、移動体制御部104は、開始位置Bの画像における画像中の識別シール68の位置と、終了位置Cの画像における画像中の識別シール68の位置を検出する。そして、開始位置Bの画像中での識別シール68の位置と、終了位置Cの画像中での識別シール68の位置との前後方向の差を遅れ量Pとする。
【0034】
次に、移動体制御部104は、遅れ量Pから左側の手摺りベルト38の移動速度Wを算出する。開始位置Bから終了位置Cまでの左側の識別シール68の移動距離は予め判明しているため、この距離をLとする。また、移動体100(すなわち踏段30)の開始位置Bから終了位置Cまでの移動時間をtとする。さらに、移動体100に設けた速度センサ128の検出速度Vを踏段30の移動速度とする。すると、

V×t=L ・・・(1)

となる。また、

W×t=(L-P) ・・・(2)

となる。これら式(1)と式(2)を変形して、

t=L/V=(L-P)/W ・・・(3)

となる。これをWで整理すると、

W=(L-P)V/L

となる。以上により、左側の手摺りベルト38の移動速度Wを算出できる。そして、手摺りベルト38が遅れて、移動速度W<閾値W0であれば、移動体制御部104は、左側の手摺りベルト38の移動と踏段30の移動とが同期がとれていないと判断し、移動体通信部116を介して制御装置50の通信部64に伝え、通信部64から外部にある監視装置200に報知する。これにより、外部の監視装置200において、踏段30と手摺りベルト38とが同期していないと判断できる。
【0035】
また。手摺りベルト38が遅れず、移動速度W=>閾値W0であれば、移動体制御部104は、左側の手摺りベルト38の移動と踏段30の移動とが同期していると判断する。
【0036】
また、移動体制御部104は、右側の手摺りベルト38についても右側の識別シール68と右センサ112を用いて、右側の手摺りベルト38の移動と踏段30の移動とが同期しているか否かを同様に判断できる。
【0037】
(5)欄干36の破損状態の点検
次に、ガラス製の欄干36は、図1に示すように、破損やひび4が発生することがあるので、これを検出するために、移動体100が自動で点検を行う。 移動体100は、下階側の乗降板34から上階側の乗降板32に移動するまでの間、左カメラ124で左側の欄干36を動画像で撮影し、記憶部114に記憶する。
【0038】
図6(a)に示すように、予め撮影している正常状態の左側の欄干36の基準画像と、撮影した左側の欄干36の動画像をフレーム毎に比較し、左側の欄干36に破損やひび4が有るか否かを点検する。そして比較した結果、図6(b)に示すように、欄干36に破損やひび4が有った場合には、その旨を監視装置200に報知する。破損やひび4の位置は、移動体100の移動速度Vを用いて、下階側の乗降板34の位置から何m先に有るかが分かるため、その位置を同時に報知する。
【0039】
右側の欄干36についても、左カメラ124と同様に右カメラ126で撮影して、基準画像と比較し、破損やひびが有るか無いかを点検する。
【0040】
(6)点検時の移動体100の動作状態
次に、移動体100が、エスカレータ10を点検するときの動作を図4のフローチャートを参照して説明する。
【0041】
ステップS1において、エスカレータ10が運転され、かつ、乗客がいない場合に点検モードを開始する。そしてステップS2に進む。
【0042】
ステップS2において、移動体100を待機位置から下階側の乗降板34に移動させ、ステップS3に進む。
【0043】
ステップS3において、左右一対の左センサ110と右センサ112が左右一対の識別シール68,68を位置Aで発見し、ステップS4に進む。
【0044】
ステップS4において、左右一対の左センサ110と右センサ112が、左右一対の識別シール68,68の撮影を開始し、左右一対の左カメラ124と右カメラ126が左右一対の欄干36,36の撮影を開始し、ステップS5に進む。
【0045】
ステップS5において、移動体100が下階側の乗降板34から踏段30に乗り、乗った直後の識別シール68の開始位置Bでの画像を撮影して取得する。そして、ステップS6に進む。
【0046】
ステップS6において、踏段30に乗った移動体100は、左右一対の識別シール68,68を左センサ110と右センサ112で撮影すると共に、左右一対の欄干36,36を左カメラ124と右カメラ126でそれぞれ撮影しながら上昇する。そして、移動体100が乗る踏段30が上階側の乗降板32付近に上昇したか否かを検出し、上階まで到達していなければステップS6の動作を続け、踏段30が上階側の乗降板32まで到達するとステップS7に進む。
【0047】
ステップS7において、移動体100を踏段30から上階側の乗降板32に移動させ、その移動させる直前で撮影した画像を、左右一対の識別シール68,68の終了位置Cでの画像として取得する。そして、ステップS8に進む。
【0048】
ステップS8において、移動体制御部104は、上階側の乗降板32に乗ると、左右一対の識別シール68,68の撮影と左右一対の欄干36,36の撮影を停止し、ステップS9に進む。
【0049】
ステップS9において、移動体制御部104は、左右それぞれの手摺りベルト38の遅れ量Pを計算し、さらに踏段30の移動と同期しているかを判断し、ステップS10に進む。
【0050】
ステップS10において、移動体制御部104は、左右一対の欄干36の下階から上階までの異常の有無をそれぞれ点検し、ステップS11に進む。
【0051】
ステップS11において、左右一対の手摺りベルト38,38の移動と踏段30の移動とが同期していない場合や、また、左右一対の欄干36,36に破損がある場合に、監視装置200に点検結果を報知し、ステップS12に進む。
【0052】
ステップS12において、移動体100を待機位置に移動させ、点検モードを終了する。
【0053】
(7)効果
本実施形態によれば、移動体100を下階側から上階側に踏段30に乗って移動させるだけで、左右一対の手摺りベルト38,38の移動と踏段30の移動とが同期しているか否かを判断でき、また、左右一対の欄干36,36の破損状態を点検できる。
【0054】
また、左右一対の手摺りベルト38,38の移動と踏段30の移動とが同期していない場合や、また、左右一対の欄干36,36に破損がある場合に監視装置200に報知されるため、作業員は、欄干36のパネルなどの部品の交換実施、重点検査項目、部品の交換必要の有無などを事前に知ることができる。
【0055】
(8)変更例
上記実施形態では、移動体100で、手摺りベルト38の移動と踏段30の移動の同期状態と、欄干36の破損状態の両方を点検したが、これに代えて手摺りベルト38の同期速度だけの点検、又は、欄干36の破損状態だけの点検を行ってもよい。
【0056】
また、上記実施形態ではエスカレータ10が上昇するときで説明したが、下降する場合には、移動体100を踏段30に乗せて上階から下階に移動させて、手摺りベルト38の移動と踏段30の移動の同期状態と、欄干36の破損状態を点検してもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、手摺りベルト38の移動速度Wを算出したが、これに代えて、遅れ量Pが、予め定めた閾値P1と比較し、P<=P1のときに踏段30の移動と同期していないと判断してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、識別子として円形の識別シール68を用いたが、これに代えて他の形状の識別シールを用いてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、移動体100に速度センサ128を設けて、その検出速度を踏段30の移動速度Vとしたが、これに代えて踏段30の移動速度Vを踏段スプロケット24の回転速度などから求めてもよい。
【0060】
また、上記実施形態における「開始位置」と「終了位置」は上記の例に限らず、手摺りベルト38が走行し、かつ、移動体100が踏段30に乗って移動している、一方の乗降口から他方の乗降口までの間に設定すればよい。
【0061】
また、上記実施形態では、エスカレータ10に適用して説明したが、これに代えて動く歩道に適用してもよい。なお、動く歩道では、踏段を「ステップ」という。
【0062】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
10・・・エスカレータ、30・・・踏段、32・・・乗降板、36・・・欄干、38・・・手摺りベルト、68・・・識別シール、100・・・移動体、102・・・移動体本体、104・・・移動体制御部、110・・・左センサ、112・・・右センサ、124・・・左カメラ、126・・・右カメラ、128・・・速度センサ、200・・・監視装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-01-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアと移動体を含む乗客コンベアシステムにおいて、
前記乗客コンベアは、
一方の乗降口から他方の乗降口の間を前後方向に設けられた左右一対の欄干と、
左右一対の前記欄干の間を前後方向に移動する踏段と、
左右一対の前記欄干の上部を前記踏段と同期して走行する左右一対の手摺りベルトと、
左右一対の前記手摺りベルト上に設けられた左右一対の識別子と、
を有し、
前記移動体は、
一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する移動体本体と、
前記移動体本体に設けられ、左右一対の前記識別子を検出する左右一対の画像センサと、
移動体制御部と、
を有し、
左右一対の前記画像センサは、前記移動体本体が一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する間の予め定めた開始位置において取得した画像中の前記識別子の位置と、前記開始位置より他方の前記乗降口側にある終了位置において取得した前記画像中の前記識別子の位置とを検出し、
前記移動体制御部は、前記開始位置の前記画像中の前記識別子の位置と、前記終了位置の前記画像中の前記識別子の位置との前後方向の遅れ量を求め、前記遅れ量から前記踏段の移動と前記手摺りベルトの移動とが同期しているか否かを判断する、
ことを特徴とする乗客コンベアシステム。
【請求項2】
前記移動体は、自らの移動体移動速度を検出する速度センサを有し、
前記移動体制御部は、
前記遅れ量から前記手摺りベルトの移動速度を計算し、
前記移動体移動速度と前記手摺りベルトの移動速度とを比較して、前記踏段の移動と前記手摺りベルトの移動とが同期しているか否かを判断する、
請求項1に記載の乗客コンベアシステム。
【請求項3】
乗客コンベアと移動体を含む乗客コンベアシステムにおいて、
前記乗客コンベアは、
一方の乗降口から他方の乗降口の間を前後方向に設けられた左右一対の欄干と、
左右一対の前記欄干の間を前後方向に移動する踏段と、
左右一対の前記欄干の上部を前記踏段と同期して走行する左右一対の手摺りベルトと、
を有し、
前記移動体は、
一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って所定の移動速度で移動する移動体本体と、
前記移動体本体に設けられ、左右一対の前記欄干を撮影する左右一対のカメラと、
移動体制御部と、
を有し、
前記移動体制御部は、前記移動体本体が一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する間において、左右一対の前記カメラが一方の前記乗降口から動画像の撮影を開始し、他方の前記乗降口で撮影を終了し、撮影した前記動画像と、予め撮影した基準画像とをフレーム毎に比較し、破損状態にある前記欄干を検出し、
一方の前記乗降口から破損状態にある前記欄干の位置までの距離を、前記移動速度を用いて求める、
ことを特徴とする乗客コンベアシステム。
【請求項4】
乗客コンベアの一方の乗降口から他方の乗降口まで踏段に乗って前後方向に移動する移動体本体と、
前記移動体本体に設けられ、前記乗客コンベアの左右一対の手摺りベルトにそれぞれ設けられた左右一対の識別子を検出する左右一対の画像センサと、
移動体制御部と、
を有し、
左右一対の前記画像センサは、前記移動体本体が一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する間の予め定めた開始位置において取得した画像中の前記識別子の位置と、前記開始位置より他方の前記乗降口側にある終了位置において取得した前記画像中の前記識別子の位置とを検出し、
前記移動体制御部は、前記開始位置の前記画像中の前記識別子の位置と、前記終了位置の前記画像中の前記識別子の位置との前後方向の遅れ量を求め、前記遅れ量から前記踏段の移動と前記手摺りベルトの移動とが同期しているか否かを判断する、
ことを特徴とする移動体。
【請求項5】
乗客コンベアの一方の乗降口から他方の乗降口まで踏段に乗って所定の移動速度で移動する移動体本体と、
前記移動体本体に設けられ、左右一対の欄干を撮影する左右一対のカメラと、
移動体制御部と、
を有し、
前記移動体制御部は、前記移動体本体が一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する間において、左右一対の前記カメラが一方の前記乗降口から動画像の撮影を開始し、他方の前記乗降口で撮影を終了し、撮影した前記動画像と、予め撮影した基準画像とをフレーム毎に比較し、破損状態にある前記欄干を検出し、
一方の前記乗降口から破損状態にある前記欄干の位置までの距離を前記移動速度を用いて求める、
ことを特徴とする移動体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
また、本発明の一実施形態は、乗客コンベアと移動体を含む乗客コンベアシステムにおいて、前記乗客コンベアは、一方の乗降口から他方の乗降口の間を前後方向に設けられた左右一対の欄干と、左右一対の前記欄干の間を前後方向に移動する踏段と、左右一対の前記欄干の上部を前記踏段と同期して走行する左右一対の手摺りベルトと、を有し、前記移動体は、一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って所定の移動速度で移動する移動体本体と、前記移動体本体に設けられ、左右一対の前記欄干を撮影する左右一対のカメラと、移動体制御部と、を有し、前記移動体制御部は、前記移動体本体が一方の前記乗降口から他方の前記乗降口まで前記踏段に乗って移動する間において、左右一対の前記カメラが一方の前記乗降口から動画像の撮影を開始し、他方の前記乗降口で撮影を終了し、撮影した前記動画像と、予め撮影した基準画像とをフレーム毎に比較し、破損状態にある前記欄干を検出し、一方の前記乗降口から破損状態にある前記欄干の位置までの距離を、前記移動速度を用いて求める、ことを特徴とする乗客コンベアシステムである。