(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176214
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】異常検出装置および異常検出方法
(51)【国際特許分類】
E02B 7/20 20060101AFI20241212BHJP
E02B 7/42 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
E02B7/20 108
E02B7/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094595
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】カナデビア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】本浪 雅史
(72)【発明者】
【氏名】岡田 潤
(72)【発明者】
【氏名】森田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】吉識 竜太
(72)【発明者】
【氏名】宮本 訓兄
【テーマコード(参考)】
2D019
【Fターム(参考)】
2D019AA55
2D019CA11
(57)【要約】
【課題】脚柱の温度を考慮して脚柱の異常を適切に検出する。
【解決手段】異常検出装置40は、スキンプレートが複数の脚柱により支持されるラジアルゲートにおいて、脚柱の異常を検出する装置である。異常検出装置40は、複数の脚柱に含まれる一の脚柱を注目脚柱として、注目脚柱にかかる応力を示す応力評価値を測定する評価値測定部46と、注目脚柱の温度を測定する脚柱温度測定部47と、注目脚柱の温度から導かれる温度関連値と、注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す温度-応力情報421を記憶する記憶部42と、脚柱温度測定部47による注目脚柱の温度の測定値を用いて温度-応力情報421を参照することにより、注目脚柱の応力評価値の正常値を特定し、評価値測定部46による注目脚柱の応力評価値の測定値と、当該正常値とを比較することにより、異常の有無を判定する判定部41とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキンプレートが複数の脚柱により支持されるラジアルゲートにおいて、脚柱の異常を検出する異常検出装置であって、
前記複数の脚柱に含まれる一の脚柱を注目脚柱として、前記注目脚柱にかかる応力を示す応力評価値を測定する評価値測定部と、
前記注目脚柱の温度を測定する脚柱温度測定部と、
前記注目脚柱の温度から導かれる温度関連値と、前記注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す温度-応力情報を記憶する記憶部と、
前記脚柱温度測定部による前記注目脚柱の温度の測定値を用いて前記温度-応力情報を参照することにより、前記注目脚柱の応力評価値の正常値を特定し、前記評価値測定部による前記注目脚柱の応力評価値の測定値と、前記正常値とを比較することにより、異常の有無を判定する判定部と、
を備える異常検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の異常検出装置であって、
前記脚柱温度測定部が、前記注目脚柱を含む2以上の脚柱の温度を個別に測定し、
前記温度関連値が、前記2以上の脚柱の温度から導かれ、
前記判定部が、前記2以上の脚柱の温度の測定値を用いて、前記注目脚柱の応力評価値の前記正常値を特定する異常検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の異常検出装置であって、
前記温度関連値が、前記注目脚柱を含む2つの脚柱の温度差である異常検出装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の異常検出装置であって、
前記ラジアルゲートの水位を測定する水位計をさらに備え、
前記記憶部が、複数の水位における前記関係を示す複数の温度-応力情報を記憶し、
前記判定部が、前記正常値の特定に利用する温度-応力情報を、前記水位計による水位の測定値を用いて前記複数の温度-応力情報から選択する異常検出装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の異常検出装置であって、
前記ラジアルゲートの水位を測定する水位計をさらに備え、
前記温度-応力情報が、一定の水位における前記関係を示し、
前記記憶部が、前記ラジアルゲートの水位と、前記注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す水位-応力情報を記憶し、
前記判定部が、前記水位計による水位の測定値と前記一定の水位との差に対応する補正量を前記水位-応力情報から取得し、前記注目脚柱の応力評価値の前記測定値と前記正常値との比較において、前記補正量を用いて前記測定値または前記正常値を補正する異常検出装置。
【請求項6】
スキンプレートが複数の脚柱により支持されるラジアルゲートにおいて、脚柱の異常を検出する異常検出装置であって、
前記複数の脚柱に含まれる一の脚柱を注目脚柱として、前記注目脚柱にかかる応力を示す応力評価値を測定する評価値測定部と、
前記注目脚柱の温度を測定する脚柱温度測定部と、
前記ラジアルゲートの水位を測定する水位計と、
前記ラジアルゲートの水位と、前記注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す水位-応力情報を記憶する記憶部と、
前記水位計による水位の測定値を用いて前記水位-応力情報を参照することにより、前記注目脚柱の応力評価値の正常値を特定し、前記評価値測定部による前記注目脚柱の応力評価値の測定値と、前記正常値とを比較することにより、異常の有無を判定する判定部と、
を備え、
前記記憶部が、前記注目脚柱の温度から導かれる温度関連値と、前記注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す温度-応力情報を記憶し、
前記水位-応力情報が、一定の温度関連値に対応し、
前記判定部が、前記注目脚柱の温度の測定値から導かれる温度関連値と前記一定の温度関連値との差に対応する補正量を前記温度-応力情報から取得し、前記注目脚柱の応力評価値の前記測定値と前記正常値との比較において、前記補正量を用いて前記測定値または前記正常値を補正する異常検出装置。
【請求項7】
スキンプレートが複数の脚柱により支持されるラジアルゲートにおいて、脚柱の異常を検出する異常検出方法であって、
a)前記複数の脚柱に含まれる一の脚柱を注目脚柱として、前記注目脚柱にかかる応力を示す応力評価値を測定する工程と、
b)前記注目脚柱の温度を測定する工程と、
c)前記注目脚柱の温度から導かれる温度関連値と、前記注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す温度-応力情報が予め準備されており、前記b)工程における前記注目脚柱の温度の測定値を用いて前記温度-応力情報を参照することにより、前記注目脚柱の応力評価値の正常値を特定する工程と、
d)前記a)工程における前記注目脚柱の応力評価値の測定値と、前記正常値とを比較することにより、異常の有無を判定する工程と、
を備える異常検出方法。
【請求項8】
スキンプレートが複数の脚柱により支持されるラジアルゲートにおいて、脚柱の異常を検出する異常検出方法であって、
a)前記複数の脚柱に含まれる一の脚柱を注目脚柱として、前記注目脚柱にかかる応力を示す応力評価値を測定する工程と、
b)前記注目脚柱の温度を測定する工程と、
c)前記ラジアルゲートの水位を測定する工程と、
d)前記ラジアルゲートの水位と、前記注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す水位-応力情報が予め準備されており、前記c)工程における水位の測定値を用いて前記水位-応力情報を参照することにより、前記注目脚柱の応力評価値の正常値を特定する工程と、
e)前記a)工程における前記注目脚柱の応力評価値の測定値と、前記正常値とを比較することにより、異常の有無を判定する工程と、
を備え、
前記注目脚柱の温度から導かれる温度関連値と、前記注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す温度-応力情報が予め準備されており、
前記水位-応力情報が、一定の温度関連値に対応し、
前記注目脚柱の温度の測定値から導かれる温度関連値と前記一定の温度関連値との差に対応する補正量が前記温度-応力情報から取得され、
前記e)工程における前記注目脚柱の応力評価値の前記測定値と前記正常値との比較において、前記補正量を用いて前記測定値または前記正常値が補正される異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検出装置および異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダム等においてラジアルゲートが用いられている。ラジアルゲートの脚柱は、常時、水圧による圧縮荷重を受ける。また、ラジアルゲートの設置から長時間が経過している場合、脚柱の劣化が懸念される。そこで、例えば、数年に1回の周期で定期検査が行われ、ラジアルゲートの柱脚の健全性が、ひずみ計測および目視等により確認される。また、特許文献1では、ラジアルゲートにおける異常を検出する異常検出装置が開示されている。当該装置では、扉体と駆動部とを連結する連結媒体にかかる荷重を示す値が支持荷重値として取得され、脚柱にかかる応力を示す値が脚柱評価値として取得される。ラジアルゲートの水位、扉体の開度、および、支持荷重値に基づいて脚柱評価値の正常値が推定され、取得される脚柱評価値と推定される正常値とを比較することにより、ラジアルゲートにおける異常の有無が判定される。
【0003】
なお、特許文献2では、コンクリート構造物の表層部に生じる温度ひび割れを抑制するシステムが開示されている。当該システムでは、コンクリート構造物に設置された緊張構造が、緊張材に緊張力を導入する緊張手段を含む。コンクリート構造物の周辺の外気温に基づいて温度応力が算出され、緊張手段が緊張すべき緊張力が算出される。また、特許文献3では、マスコンクリートの温度ひび割れ管理を行う手法が開示されており、マスコンクリート構造物の温度およびひずみをそれぞれ計測する温度計およびひずみ計が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-37394号公報
【特許文献2】特開2015-212466号公報
【特許文献3】特開2001-207430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既述のように、特許文献1では、脚柱にかかる応力を示す評価値に基づいてラジアルゲートにおける異常の有無が判定されるが、脚柱にかかる応力は、温度の影響も受ける。したがって、脚柱の温度を考慮して脚柱の異常を適切に検出する手法が求められている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、脚柱の温度を考慮して脚柱の異常を適切に検出することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、スキンプレートが複数の脚柱により支持されるラジアルゲートにおいて、脚柱の異常を検出する異常検出装置であって、前記複数の脚柱に含まれる一の脚柱を注目脚柱として、前記注目脚柱にかかる応力を示す応力評価値を測定する評価値測定部と、前記注目脚柱の温度を測定する脚柱温度測定部と、前記注目脚柱の温度から導かれる温度関連値と、前記注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す温度-応力情報を記憶する記憶部と、前記脚柱温度測定部による前記注目脚柱の温度の測定値を用いて前記温度-応力情報を参照することにより、前記注目脚柱の応力評価値の正常値を特定し、前記評価値測定部による前記注目脚柱の応力評価値の測定値と、前記正常値とを比較することにより、異常の有無を判定する判定部とを備える。
【0008】
本発明の態様2は、態様1の異常検出装置であって、前記脚柱温度測定部が、前記注目脚柱を含む2以上の脚柱の温度を個別に測定し、前記温度関連値が、前記2以上の脚柱の温度から導かれ、前記判定部が、前記2以上の脚柱の温度の測定値を用いて、前記注目脚柱の応力評価値の前記正常値を特定する。
【0009】
本発明の態様3は、態様2の異常検出装置であって、前記温度関連値が、前記注目脚柱を含む2つの脚柱の温度差である。
【0010】
本発明の態様4は、態様1ないし3のいずれか1つの異常検出装置であって、前記ラジアルゲートの水位を測定する水位計をさらに備え、前記記憶部が、複数の水位における前記関係を示す複数の温度-応力情報を記憶し、前記判定部が、前記正常値の特定に利用する温度-応力情報を、前記水位計による水位の測定値を用いて前記複数の温度-応力情報から選択する。
【0011】
本発明の態様5は、態様1ないし3のいずれか1つの異常検出装置であって、前記ラジアルゲートの水位を測定する水位計をさらに備え、前記温度-応力情報が、一定の水位における前記関係を示し、前記記憶部が、前記ラジアルゲートの水位と、前記注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す水位-応力情報を記憶し、前記判定部が、前記水位計による水位の測定値と前記一定の水位との差に対応する補正量を前記水位-応力情報から取得し、前記注目脚柱の応力評価値の前記測定値と前記正常値との比較において、前記補正量を用いて前記測定値または前記正常値を補正する。
【0012】
本発明の態様6は、スキンプレートが複数の脚柱により支持されるラジアルゲートにおいて、脚柱の異常を検出する異常検出装置であって、前記複数の脚柱に含まれる一の脚柱を注目脚柱として、前記注目脚柱にかかる応力を示す応力評価値を測定する評価値測定部と、前記注目脚柱の温度を測定する脚柱温度測定部と、前記ラジアルゲートの水位を測定する水位計と、前記ラジアルゲートの水位と、前記注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す水位-応力情報を記憶する記憶部と、前記水位計による水位の測定値を用いて前記水位-応力情報を参照することにより、前記注目脚柱の応力評価値の正常値を特定し、前記評価値測定部による前記注目脚柱の応力評価値の測定値と、前記正常値とを比較することにより、異常の有無を判定する判定部とを備え、前記記憶部が、前記注目脚柱の温度から導かれる温度関連値と、前記注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す温度-応力情報を記憶し、前記水位-応力情報が、一定の温度関連値に対応し、前記判定部が、前記注目脚柱の温度の測定値から導かれる温度関連値と前記一定の温度関連値との差に対応する補正量を前記温度-応力情報から取得し、前記注目脚柱の応力評価値の前記測定値と前記正常値との比較において、前記補正量を用いて前記測定値または前記正常値を補正する。
【0013】
本発明の態様7は、スキンプレートが複数の脚柱により支持されるラジアルゲートにおいて、脚柱の異常を検出する異常検出方法であって、a)前記複数の脚柱に含まれる一の脚柱を注目脚柱として、前記注目脚柱にかかる応力を示す応力評価値を測定する工程と、b)前記注目脚柱の温度を測定する工程と、c)前記注目脚柱の温度から導かれる温度関連値と、前記注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す温度-応力情報が予め準備されており、前記b)工程における前記注目脚柱の温度の測定値を用いて前記温度-応力情報を参照することにより、前記注目脚柱の応力評価値の正常値を特定する工程と、d)前記a)工程における前記注目脚柱の応力評価値の測定値と、前記正常値とを比較することにより、異常の有無を判定する工程とを備える。
【0014】
本発明の態様8は、スキンプレートが複数の脚柱により支持されるラジアルゲートにおいて、脚柱の異常を検出する異常検出方法であって、a)前記複数の脚柱に含まれる一の脚柱を注目脚柱として、前記注目脚柱にかかる応力を示す応力評価値を測定する工程と、b)前記注目脚柱の温度を測定する工程と、c)前記ラジアルゲートの水位を測定する工程と、d)前記ラジアルゲートの水位と、前記注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す水位-応力情報が予め準備されており、前記c)工程における水位の測定値を用いて前記水位-応力情報を参照することにより、前記注目脚柱の応力評価値の正常値を特定する工程と、e)前記a)工程における前記注目脚柱の応力評価値の測定値と、前記正常値とを比較することにより、異常の有無を判定する工程とを備え、前記注目脚柱の温度から導かれる温度関連値と、前記注目脚柱の応力評価値の正常値との関係を示す温度-応力情報が予め準備されており、前記水位-応力情報が、一定の温度関連値に対応し、前記注目脚柱の温度の測定値から導かれる温度関連値と前記一定の温度関連値との差に対応する補正量が前記温度-応力情報から取得され、前記e)工程における前記注目脚柱の応力評価値の前記測定値と前記正常値との比較において、前記補正量を用いて前記測定値または前記正常値が補正される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、脚柱の温度を考慮して脚柱の異常を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】異常検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】脚柱の異常を検出する処理の流れを示す図である。
【
図10A】ラジアルゲートの水位と複数の脚柱の応力との関係を有限要素法により求めた結果を示す図である。
【
図10B】ラジアルゲートの水位と複数の脚柱の応力との関係を有限要素法により求めた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る水門システム1の構成を示す図である。水門システム1は、水門であるラジアルゲート10と、コンピュータ4とを備える。
図1のラジアルゲート10は、ダムに設けられ、コンピュータ4は、例えば当該ダムに隣接する建屋内に設置される。ラジアルゲート10は、ダム以外の設備(例えば、堤防等)に設けられてもよい。また、コンピュータ4は、ラジアルゲート10から遠く離れた位置に設けられてもよい。この場合、ラジアルゲート10に取り付けられる各種測定部は、通信装置等に接続され、インターネット等のネットワークを介して当該コンピュータ4と通信可能とされる。当該コンピュータ4は、クラウドサービスにより提供されるコンピュータであってもよい。
【0018】
ラジアルゲート10は、扉体2と、開閉装置3とを備える。扉体2は、ダムの堤体に設けられた開口部91に設置され、開口部91における水の流通を調整するために用いられる。扉体2は、例えば金属により形成される。扉体2は、スキンプレート21と、2つのプレート支持部22(後述の
図2参照)とを備える。スキンプレート21は、
図1中の回転軸J1に略平行な板状部材である。回転軸J1に垂直なスキンプレート21の断面形状は、回転軸J1を中心とする所定半径の略円弧状である。スキンプレート21は、回転軸J1に略垂直な開口部91の2つの側面911(以下、「開口側面911」という。)の間に亘って設けられる。
【0019】
図2は、プレート支持部22を示す平面図であり、
図2では、スキンプレート21については後述の桁25の位置における断面(回転軸J1を含む面における断面)を示している。
図2に示すように、2つのプレート支持部22は、回転軸J1の方向に離れて設けられ、2つの開口側面911の近傍に配置される。換言すると、左岸側および右岸側のそれぞれに、プレート支持部22が設けられる。
【0020】
図1および
図2に示すように、各プレート支持部22は、支承部23と、複数の脚柱24とを備える。支承部23は、扉体2の回転部であり、典型的には、
図1に示すように、トラニオンハブ231と、トラニオンピン232とを備える。トラニオンピン232は、ダムの堤体(例えば、開口側面911)に固定される。トラニオンハブ231は、円筒部材であり、ラジアル軸受を介してトラニオンピン232に嵌め込まれる。トラニオンハブ231は、トラニオンピン232により回転軸J1を中心として回転可能に支持される。回転軸J1は、トラニオンピン232の中心に一致する。支承部23では、トラニオンハブ231に対してスラスト軸受がさらに設けられてもよい。支承部23の設計によっては、トラニオンハブ231が堤体に固定され、トラニオンピン232が、トラニオンハブ231により回転可能に支持されてもよい。すなわち、支承部23における回転体は、トラニオンハブ231およびトラニオンピン232のいずれであってもよい。
【0021】
複数の脚柱24は、支承部23の回転体(ここでは、トラニオンハブ231)からスキンプレート21に向かって延びる長尺部材である。典型的には、各プレート支持部22は、2つの脚柱24を有する。当該2つの脚柱24は、鋭角を成して支承部23の回転体に固定される。各脚柱24は、例えばH形鋼やI形鋼等である。スキンプレート21において支承部23側の面には、2つの桁25が設けられる。各桁25は、回転軸J1に略平行な長尺部材である。当該2つの脚柱24において、支承部23とは反対側の端部は、2つの桁25にそれぞれ固定される。扉体2では、スキンプレート21と支承部23とが、桁25および脚柱24により接続される。扉体2の設計によっては、脚柱24がスキンプレート21に直接接続されてもよい。スキンプレート21は、複数の脚柱24により支持されていればよい。プレート支持部22における脚柱24および桁25の個数は任意に変更されてよい。
【0022】
各プレート支持部22には、滑車(シーブ)26がさらに設けられる。滑車26は、扉体2と共に移動(回転)する動滑車である。
図1の例では、滑車26は、下側の桁25の近傍に配置される。滑車26の個数や位置は、適宜変更されてよい。扉体2では、各プレート支持部22における2つの脚柱24の間や、スキンプレート21の支承部23側の面等に、補強部材が適宜設けられてよい。
【0023】
スキンプレート21において各開口側面911と対向する側部211は、開口側面911と略平行な面を有する。当該側部211には、水密ゴム(図示省略)が設けられる。当該側部211は、戸当りである開口側面911と水密ゴムを介して接触する。水密ゴムは、開口側面911に設けられてもよい。スキンプレート21の各側部211には、開口側面911上を転がるサイドローラ(図示省略)が設けられることが好ましい。これにより、扉体2が回転軸J1を中心として滑らかに回転可能となる。スキンプレート21では、下端部213にも水密ゴムが設けられる。
図1に示すように、ラジアルゲート10が閉じている状態では、当該下端部213は、戸当りである開口部91の底面912と水密ゴムを介して接触する。水密ゴムは、底面912に設けられてもよい。なお、ラジアルゲート10がダムの中腹に設けられる場合には、スキンプレート21の上端部にも水密ゴムが設けられる。
【0024】
開閉装置3は、例えば、ワイヤロープウィンチ式であり、扉体2を回転させて扉体2の開閉(開口部91の開閉)を行う。開閉装置3は、例えば、駆動部31と、2本の金属製のワイヤロープ36とを備える。駆動部31は、2つのドラム311を有する。2つのドラム311は、2つの開口側面911の上方にそれぞれ配置される。後述するように、各ドラム311には、ワイヤロープ36の一部が巻かれる。ラジアルゲート10では、左岸側および右岸側のそれぞれに、ドラム311およびワイヤロープ36が設けられる。
図1では、1つのドラム311および1つのワイヤロープ36のみを図示している。ドラム311およびワイヤロープ36の個数は任意に変更されてよい。
【0025】
2つのドラム311は、回転軸J1の方向に延びるシャフト(図示省略)に対してギア等を介して接続される。当該シャフトは、減速機等を介して電動機に接続される。駆動部31では、電動機がシャフトを回転させることにより、2つのドラム311が同じ回転方向に回転する。駆動部31では、ドラム311の回転方向を正転および逆転で切り替えることが可能である。
【0026】
各ドラム311には、連結媒体であるワイヤロープ36の一端が固定されるとともに、ワイヤロープ36の一部が巻かれている。各ワイヤロープ36においてドラム311に巻かれていない部分は、プレート支持部22の滑車26に掛けられる。ワイヤロープ36の他端は、ドラム311の近傍において保持される。ラジアルゲート10では、ワイヤロープ36により扉体2と駆動部31とが連結される。
【0027】
開閉装置3では、ドラム311が正転することにより、ワイヤロープ36がドラム311に巻き取られ、
図1中の扉体2が回転軸J1を中心として時計回りに回転する。これにより、スキンプレート21が開口部91の底面912から離れる方向に移動する(すなわち、上昇する)。また、ドラム311が逆転することにより、ワイヤロープ36がドラム311から送り出され、扉体2が回転軸J1を中心として反時計回りに回転する。これにより、スキンプレート21が開口部91の底面912に近づく方向に移動する(すなわち、下降する)。このようにして、開口部91において扉体2が開閉される。
【0028】
開閉装置3は、扉体前面巻上式であってもよく、この場合、スキンプレート21において脚柱24とは反対側の面である前面に、ワイヤロープ36の一端が取り付けられる。開閉装置3では、ワイヤロープ36以外のロープや、チェーン等の他の索状部材が、連結媒体として用いられてもよい。また、駆動部31における駆動源は、直線運動を行う油圧シリンダ等であってもよく、この場合、扉体2に接続されるシリンダロッドが連結媒体となる。
【0029】
図1の水門システム1は、評価値測定部46と、脚柱温度測定部47と、水位計11と、開度計12とをさらに備える。評価値測定部46および脚柱温度測定部47は、後述の異常検出装置40(
図4参照)に含まれる構成である。水位計11および開度計12は、例えば、ダムに備え付けられたものである。後述するように、水位計11および開度計12が異常検出装置40に含まれてもよい。
【0030】
評価値測定部46は、複数のひずみゲージ461を備える。複数のひずみゲージ461は、複数の脚柱24にそれぞれ取り付けられる。各ひずみゲージ461は、脚柱24のひずみを応力評価値として測定する。脚柱24のひずみは、脚柱24にかかる応力を示す値である。
図1および
図2の例では、各脚柱24に1つのひずみゲージ461が設けられるが、各脚柱24に複数のひずみゲージ461が設けられてもよい。
図3は、脚柱24を示す断面図であり、脚柱24の長手方向に垂直な断面を示す。
図3の例では、脚柱24がH形鋼により形成されており、上下方向に延びる2つの部位において、互いに対向する内面の上部および下部にひずみゲージ461が取り付けられる。各脚柱24に複数のひずみゲージ461が設けられる場合には、例えば、これらのひずみゲージ461の測定値の平均が応力評価値となる。
【0031】
脚柱温度測定部47は、複数の熱電対471を備える。複数の熱電対471は、複数の脚柱24にそれぞれ取り付けられる。各熱電対471は、脚柱24の温度を測定する。
図1および
図2の例では、各脚柱24においてひずみゲージ461および熱電対471が互いに近接した位置に配置される。両者が、互いに離れた位置に設けられてもよい。ひずみゲージ461と同様に、各脚柱24において、2以上の熱電対471が設けられてもよく、この場合、例えば、当該2以上の熱電対471による測定値の平均が、脚柱24の温度として扱われる。
【0032】
水位計11は、例えばフロート式水位計であり、水面に浮かべられたフロートの位置を検出することにより、ラジアルゲート10の設置位置における水位(すなわち、スキンプレート21と接触する水の水位であり、以下、単に「水位」ともいう。)を測定する。本実施の形態では、水位は、ダムの水底から水面までの高さである。水位計11は、フロートを用いることなく水位を測定する、音波式、超音波式または圧力式水位計等であってもよい。開度計12は、例えば扉体2に別途取り付けられたワイヤを利用して扉体2の開度を検出する。
図1および
図2の例では、扉体2の開度は、開口部91の底面912(正確には、水密ゴムの接触位置)からスキンプレート21の下端までの高さである。開度計12は、各種センサ等を利用して扉体2の開度を検出するものであってもよい。
【0033】
図4は、異常検出装置40の構成を示すブロック図である。異常検出装置40は、ラジアルゲート10における脚柱24の異常を検出するものである。異常検出装置40は、評価値測定部46と、脚柱温度測定部47と、水位計11と、判定部41と、記憶部42とを備える。既述のように、評価値測定部46は、脚柱24の応力評価値を測定し、脚柱温度測定部47は、脚柱24の温度を測定する。水位計11は、ラジアルゲート10の水位を測定する。判定部41は、各脚柱24における異常の有無を判定する。判定部41の機能は、コンピュータ4のCPU等が、所定のプログラムに従って演算処理を実行することにより(すなわち、コンピュータがプログラムを実行することにより)実現される。判定部41の機能は専用の電気回路により実現されてもよく、部分的に専用の電気回路が用いられてもよい。記憶部42は、後述の温度-応力情報421、および、水位-応力情報422を記憶する。記憶部42は、例えば、コンピュータ4のメモリや固定ディスク等により実現される。なお、水位-応力情報422は、後述の実施の形態において利用される。
【0034】
図5は、異常検出装置40が脚柱24の異常を検出する処理の流れを示す図である。
図5中に破線で示すブロック(ステップS21,S22)は、後述の処理例にて行われる処理であり、本処理例では行われない。本実施の形態では、例えば、スキンプレート21の下端部213が開口部91の底面912と接触している時、すなわち、ラジアルゲート10が閉じている時に、評価値測定部46により各脚柱24の応力評価値が測定される(ステップS11)。また、脚柱温度測定部47により、各脚柱24の温度が測定される(ステップS12)。各脚柱24の応力評価値の測定値および温度の測定値は、判定部41に入力される。以下、1つの脚柱24を「注目脚柱24」と呼び、注目脚柱24に注目して異常検出処理について説明するが、他の脚柱24についても同様の処理が行われる。
【0035】
ここで、記憶部42に記憶される温度-応力情報421について説明する。
図6は、温度-応力情報421を示す図である。温度-応力情報421は、注目脚柱24の温度から導かれる温度関連値と、注目脚柱24の応力評価値の正常値との関係を示す情報である。
図6の例では、温度関連値は、注目脚柱24と他の脚柱24との間の温度差であり、
図6中に実線L11にて示すように、温度-応力情報421は、当該温度差と注目脚柱24の応力評価値の正常値との関係を示す。当該他の脚柱24は、例えば、注目脚柱24と同じプレート支持部22に含まれる1つの脚柱24である。以下、注目脚柱24と当該他の脚柱24との組合せを「脚柱ペア」という。
【0036】
日差しが強い昼間には、日照の違いにより、脚柱ペアの一方が局所的に加熱され、両者の間で温度差が大きくなることがある。例えば、
図7に示す左岸側のプレート支持部22における、上側の脚柱24および下側の脚柱24が脚柱ペアである場合に、上側の脚柱24の温度T
ULが下側の脚柱24の温度T
LLよりも高い(T
UL>T
LL)ときには、矢印A1,A2に示すように、上側の脚柱24の熱伸び(熱膨張量)が下側の脚柱24の熱伸びよりも大きくなる。実際には、幾何学的拘束、すなわち、スキンプレート21の存在により、両脚柱24において熱応力が生じる。ここでは、上側の脚柱24において圧縮応力が発生し、下側の脚柱24において引張応力が発生する。後述するように、スキンプレート21に滑りが生じない場合には、両脚柱24において圧縮応力が発生する。当該熱応力は、両者の温度差に対して線形に変化すると考えられる。
【0037】
温度-応力情報421は、脚柱ペアの温度差により生じる熱応力の影響を含む、注目脚柱24の応力評価値の正常値を示す。仮に、脚柱ペアに含まれるいずれかの脚柱24に減肉等の異常が発生している場合には、温度差により生じる熱応力の影響が変化し、
図6中に破線L21にて示すように、脚柱ペアの温度差と注目脚柱24の応力評価値との関係が、実線L11と異なるものとなる。
【0038】
脚柱ペアは、注目脚柱24と注目脚柱24に対して回転軸J1の方向に対向する他の脚柱24との組合せであってもよい。例えば、左岸側のプレート支持部22における上側の脚柱24と、右岸側のプレート支持部22における上側の脚柱24とが脚柱ペアであり、左岸側の脚柱24の温度TULが右岸側の脚柱24の温度TURと異なる(TUL≠TUR)場合を想定する。この場合も、上記の例と同様に、脚柱ペアにおいて熱伸びが異なるため、幾何学的拘束による熱応力が生じる。当該熱応力も、両者の温度差に対して線形に変化すると考えられる。
【0039】
異常検出装置40では、各脚柱24に異常がない期間(例えば、ラジアルゲート10の設置後の所定期間)において、ラジアルゲート10の水位等の条件が略一定である状態で、各時刻における脚柱ペアの温度差が温度関連値として取得され、当該時刻における注目脚柱24の応力評価値が正常値として測定される。これにより、注目脚柱24に対して、
図6中に実線L11にて示すように、温度関連値と応力評価値の正常値との関係を示す温度-応力情報421が取得されて準備される。脚柱ペアの2つの脚柱24では、支承部23(または、スキンプレート21)から熱電対471までの距離が同じである、すなわち、脚柱24における温度の測定位置が同じであることが好ましい。なお、温度-応力情報421は、数値シミュレーション等により取得されてもよい(水位-応力情報422において同様)。
【0040】
判定部41では、ステップS12における脚柱24の温度の測定値を用いて、温度-応力情報421を参照することにより、注目脚柱24の応力評価値の正常値が特定される(ステップS13)。具体的には、注目脚柱24を含む脚柱ペアの温度差が求められ、
図6の温度-応力情報421において、当該温度差における応力評価値の正常値が特定される。応力評価値の正常値が特定されると、ステップS11における注目脚柱24の応力評価値の測定値と、当該正常値とが比較される(ステップS14)。例えば、応力評価値の測定値と当該正常値との差が求められ、当該差の絶対値が所定値以上である場合に、脚柱ペアに含まれるいずれかの脚柱24に異常があると判定される。当該差の絶対値が所定値未満である場合には、脚柱ペアに異常がないと判定される。このようにして、判定部41では、脚柱ペアにおける異常の有無が判定される。異常の有無の判定は、他の手法により行われてもよい。
【0041】
脚柱ペアに異常がある場合、コンピュータ4のディスプレイに異常がある旨が表示され、オペレータに報知される。異常の発生を示す報知は、ライトの点灯や、ブザーの鳴動、電子メール等を用いた情報通信端末への通知等により行われてもよい。異常検出装置40では、上記ステップS11~S14の処理が、一定の周期にて繰り返されてもよく、所定の動作が行われたタイミングや、オペレータにより決定される任意のタイミング等に行われてもよい。異常検出処理は、過酷な条件である出水期や、一の定期検査と次の定期検査との間等にも行うことが可能である。
【0042】
上記処理例では、脚柱ペアの温度差により生じる熱応力について述べたが、夜間等、脚柱ペアの温度差が所定値未満である、すなわち、脚柱ペアに温度差がない(例えば、TUL=TLL)場合にも、周囲の温度変化の影響による熱応力が生じる。具体的には、時間的な温度変化が発生した場合に、各脚柱24に熱伸び(収縮を含む。)が生じるが、既述のように、スキンプレート21の各側部211および下端部213には、水密ゴムが設けられており、水密ゴムと開口部91の開口側面911および底面912との間の摩擦により、脚柱24の熱伸びが拘束される(すなわち、スキンプレート21の滑りが生じない。)。その結果、各脚柱24において、周囲の温度変化の影響による熱応力が生じる。当該熱応力は、脚柱24の温度に対して線形に変化すると考えられる。
【0043】
したがって、脚柱ペアに温度差がない状態では、注目脚柱24の温度が温度関連値とされ、
図8中に実線L12にて示すように、注目脚柱24の温度と注目脚柱24の応力評価値の正常値との関係を示す温度-応力情報421が用いられる。仮に、注目脚柱24に減肉等の異常が発生している場合には、
図8中に破線L22にて示すように、注目脚柱24の温度と注目脚柱24の応力評価値との関係が、実線L12と異なるものとなる。
【0044】
図8の温度-応力情報421の取得では、各脚柱24に異常がない期間において、ラジアルゲート10の水位等の条件が略一定であり、かつ、脚柱ペアに温度差がない状態で、各時刻における注目脚柱24の温度が温度関連値として取得され、当該時刻における注目脚柱24の応力評価値が正常値として測定される。
【0045】
図5の異常検出処理では、各脚柱24の応力評価値および温度の測定後(ステップS11,S12)、判定部41により、脚柱ペアの温度差が所定値未満であるか否かが確認される。脚柱ペアの温度差が所定値未満である場合には、
図8の温度-応力情報421において、注目脚柱24の温度における応力評価値の正常値が特定される(ステップS13)。脚柱ペアの温度差が所定値以上である場合には、
図6の温度-応力情報421において、脚柱ペアの温度差における応力評価値の正常値が特定される(ステップS13)。そして、注目脚柱24の応力評価値の測定値と当該正常値とを比較することにより、脚柱24における異常の有無が判定される(ステップS14)。
【0046】
なお、判定部41では、脚柱ペアに温度差が生じやすい昼間に、
図6の温度-応力情報421を用いた処理が行われ、脚柱ペアに温度差が生じにくい夜間に、
図8の温度-応力情報421を用いた処理が行われてもよい。脚柱ペアに温度差が生じない場合には、ラジアルゲート10に設けられた温度計(上記熱電対471とは異なる温度計)の温度が、注目脚柱24の温度として扱われてもよい。この場合、当該温度計が、注目脚柱24の温度を測定する脚柱温度測定部となる。
【0047】
以上に説明したように、異常検出装置40では、複数の脚柱24に含まれる一の脚柱24を注目脚柱24として、注目脚柱24にかかる応力を示す応力評価値が評価値測定部46により測定され、注目脚柱24の温度が脚柱温度測定部47により測定される。記憶部42では、注目脚柱24の温度から導かれる温度関連値と、注目脚柱24の応力評価値の正常値との関係を示す温度-応力情報421が記憶される。判定部41では、脚柱温度測定部47による注目脚柱24の温度の測定値を用いて温度-応力情報421を参照することにより、注目脚柱24の応力評価値の正常値が特定される。そして、評価値測定部46による注目脚柱24の応力評価値の測定値と、当該正常値とを比較することにより、脚柱24における異常の有無が判定される。これにより、脚柱24の温度を考慮して脚柱24の異常を適切に検出することができる。
【0048】
好ましくは、脚柱温度測定部47により、注目脚柱24を含む2以上の脚柱24の温度が個別に測定される。温度関連値が、注目脚柱24を含む2つの脚柱24の温度から導かれる。また、判定部41では、当該2つの脚柱24の温度の測定値を用いて、注目脚柱24の応力評価値の正常値が特定される。これにより、2つの脚柱24の温度を用いて注目脚柱24の応力評価値の正常値を精度よく特定することができ、脚柱24の異常をさらに適切に検出することができる。温度関連値は、注目脚柱24を含む2つの脚柱24の温度差であることがより好ましく、これにより、注目脚柱24の応力評価値の正常値を容易にかつ精度よく特定することができる。
【0049】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態に係る異常検出処理について説明する。第2の実施の形態では、注目脚柱24の応力評価値の正常値が、ラジアルゲート10の水位も用いて特定される。具体的に、異常検出装置40の記憶部42では、複数の水位区分にそれぞれ対応する複数の温度-応力情報421が記憶される。各水位区分の温度-応力情報421は、ラジアルゲート10の水位が当該水位区分内であるときの温度関連値と注目脚柱24の応力評価値の正常値との関係を示す。既述のように、ラジアルゲート10の水位は水位計11により測定可能であり、各水位区分の温度-応力情報421は、水位計11による測定値が当該水位区分内となる期間において、脚柱24の温度および応力評価値を測定することにより取得される。
【0050】
複数の水位区分の温度-応力情報421が準備される場合、
図5の異常検出処理において破線で示すブロック(ステップS21,S22)の処理が行われる。具体的には、まず、各脚柱24の応力評価値および温度の測定(ステップS11,S12)、並びに、水位計11によるラジアルゲート10の水位の測定が行われる(ステップS21)。判定部41では、複数の水位区分の温度-応力情報421から、水位の測定値が含まれる水位区分の温度-応力情報421が選択される(ステップS22)。続いて、選択された温度-応力情報421において、注目脚柱24の温度の測定値から導かれる温度関連値における応力評価値の正常値が特定される(ステップS13)。そして、注目脚柱24の応力評価値の測定値と当該正常値とを比較することにより、異常の有無が判定される(ステップS14)。
【0051】
以上のように、異常検出装置40では、複数の水位における、温度関連値と応力評価値の正常値との関係を示す複数の温度-応力情報421が、記憶部42に記憶される。判定部41では、応力評価値の正常値の特定に利用する温度-応力情報421が、水位計11による水位の測定値を用いて複数の温度-応力情報421から選択される。これにより、脚柱24の温度および水位の測定値を用いて、脚柱24の異常を精度よく検出することができる。
【0052】
なお、異常検出装置40では、水位、温度関連値および応力評価値の正常値の関係を示す3次元グラフが記憶されてもよい。当該3次元グラフも、実質的には、複数の水位における、温度関連値と応力評価値の正常値との関係を示す複数の温度-応力情報421として捉えられる。異常検出装置40の設計によっては、一の水位区分における温度-応力情報421のみが準備され、ラジアルゲート10の水位の測定値が当該水位区分に含まれる場合にのみ、上記異常検出処理が行われてもよい。
【0053】
(関連技術)
次に、水位-応力情報422について説明する。
図9中に実線L13にて示すように、水位-応力情報422は、ラジアルゲート10の水位と、注目脚柱24の応力評価値の正常値との関係を示す。ラジアルゲート10のスキンプレート21には、水位に応じた水圧が作用しており、水位-応力情報422は、水位により生じる応力の影響を含む、注目脚柱24の応力評価値の正常値を示す。各脚柱24に異常がない期間において、脚柱24の温度等の条件が略一定である状態で、各時刻におけるラジアルゲート10の水位を測定し、当該時刻における注目脚柱24の応力評価値(正常値)を測定することにより、水位-応力情報422が取得される。
【0054】
図10Aおよび
図10Bは、ラジアルゲート10の水位と複数の脚柱24の応力との関係を有限要素法(Finite Element Method)による数値シミュレーションにより求めた結果を示す図である。ここでは、左岸側のプレート支持部22、および、右岸側のプレート支持部22のそれぞれにおいて、2つの脚柱24(上側および下側の脚柱24)が設けられる。複数の脚柱24に異常がない状態では、左岸側における上側の脚柱24、および、右岸側における上側の脚柱24の当該関係は、
図10A中の同じ線L31で示され、左岸側における下側の脚柱24、および、右岸側における下側の脚柱24の上記関係は、同じ線L32で示される。
【0055】
一方、1つの脚柱24、具体的には、右岸側における上側の脚柱24の剛性が低下した場合、左岸側における上側の脚柱24および下側の脚柱24の上記関係は、それぞれ
図10B中の線L41,L42で示され、右岸側における上側の脚柱24および下側の脚柱24の上記関係は、それぞれ
図10B中の線L51,L52で示される。
図10Aの線L31および
図10Bの線L51から明らかなように、剛性が低下した、右岸側における上側の脚柱24では、異常がない状態から応力が大きく変化する。したがって、
図9の例においても、仮に、注目脚柱24に減肉等の異常が発生している場合には、
図9中に破線L23にて示すように、水位と注目脚柱24の応力評価値との関係が、実線L13と異なるものとなる。
【0056】
異常検出装置40では、水位-応力情報422のみを用いた異常検出処理を行うことも可能である。この場合、まず、注目脚柱24の応力評価値の測定、および、ラジアルゲート10の水位の測定が行われる(ステップS11,S21)。判定部41では、水位の測定値を用いて、水位-応力情報422を参照することにより、注目脚柱24の応力評価値の正常値が特定される(ステップS13)。その後、注目脚柱24の応力評価値の測定値と、当該正常値とが比較され、注目脚柱24における異常の有無が判定される(ステップS14)。
【0057】
上記異常検出処理において、注目脚柱24の応力評価値の正常値が、注目脚柱24の温度も用いて特定されてもよい。この場合、異常検出装置40の記憶部42では、複数の温度区分にそれぞれ対応する複数の水位-応力情報422が記憶される。各温度区分の水位-応力情報422は、注目脚柱24の温度が当該温度区分内であるときの水位と注目脚柱24の応力評価値の正常値との関係を示す。各温度区分の水位-応力情報422は、注目脚柱24の温度が当該温度区分内となる期間において、ラジアルゲート10の水位および応力評価値を測定することにより取得される。
【0058】
複数の温度区分の水位-応力情報422が準備される場合の異常検出処理では、まず、注目脚柱24の応力評価値および温度の測定、並びに、ラジアルゲート10の水位の測定が行われる(ステップS11,S12,S21)。判定部41では、複数の温度区分の水位-応力情報422から、注目脚柱24の温度の測定値が含まれる温度区分の水位-応力情報422が選択される(ステップS22)。続いて、選択された水位-応力情報422において、水位の測定値における応力評価値の正常値が特定される(ステップS13)。そして、注目脚柱24の応力評価値の測定値と当該正常値とを比較することにより、異常の有無が判定される(ステップS14)。
【0059】
以上のように、異常検出装置40では、複数の温度における、複数の水位-応力情報422が記憶部42に記憶される。判定部41では、応力評価値の正常値の特定に利用する水位-応力情報422が、注目脚柱24の温度の測定値を用いて複数の水位-応力情報422から選択される。これにより、注目脚柱24の温度および水位の測定値を用いて、脚柱24の異常を精度よく検出することができる。
【0060】
記憶部42では、複数の温度差区分における複数の水位-応力情報422が記憶されてもよい。この場合、応力評価値の正常値の特定に利用する水位-応力情報422は、脚柱ペアの温度差を用いて選択される。このように、複数の水位-応力情報422は、複数の温度関連値の区分に対応するものであればよい。異常検出装置40の設計によっては、一の温度関連値の区分における水位-応力情報422のみが準備され、注目脚柱24の温度の測定値から導かれる温度関連値が当該温度関連値の区分に含まれる場合にのみ、上記異常検出処理が行われてもよい。
【0061】
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態に係る異常検出処理について説明する。第3の実施の形態では、各脚柱24に対して、温度-応力情報421および水位-応力情報422の双方が、記憶部42に記憶されて準備される。温度-応力情報421は、一定の水位(以下、「基準水位」という。)における、温度関連値と応力評価値の正常値との関係を示す。水位-応力情報422は、一定の温度関連値(以下、「基準温度関連値」という。)における、水位と応力評価値の正常値との関係を示す。なお、基準水位は、ある程度の水位の幅を含んでよい。基準温度関連値において同様である。
【0062】
異常検出装置40では、各脚柱24の応力評価値および温度の測定(ステップS11,S12)、並びに、ラジアルゲート10の水位の測定が行われる(ステップS21)。判定部41では、
図11に示す水位-応力情報422において、基準水位V0における応力評価値の正常値と、水位の測定値V1における応力評価値の正常値との差α1が補正量として取得される(ステップS22)。
図11の例では、水位の測定値V1における応力評価値の正常値が、基準水位V0における応力評価値の正常値よりも大きいため、補正量α1は正の値である。
【0063】
続いて、温度-応力情報421において、注目脚柱24の温度の測定値から導かれる温度関連値における応力評価値の正常値が特定される(ステップS13)。
図12に示す温度-応力情報421では、応力評価値の正常値がσ1として特定されるものとする。その後、注目脚柱24の応力評価値の測定値と当該正常値σ1とを用いて、異常の有無が判定される(ステップS14)。このとき、応力評価値の測定値が補正量α1を用いて補正される。例えば、
図12に示すように、応力評価値の測定値E1から補正量α1を減算することにより、補正後の測定値E2が得られる。補正後の測定値E2では、基準水位V0と現在の水位(水位の測定値V1)との差により生じる応力評価値の変動の影響が低減される。そして、注目脚柱24の補正後の測定値E2と正常値σ1とを比較することにより、異常の有無が判定される。異常の有無の判定では、応力評価値の正常値に補正量α1を加算することにより、正常値が補正され、応力評価値の測定値E1(補正されていない測定値)と補正後の正常値とが比較されてもよい。
【0064】
以上のように、異常検出装置40の判定部41では、水位計11による水位の測定値と基準水位との差に対応する補正量が水位-応力情報422から取得される。また、注目脚柱24の温度の測定値を用いて温度-応力情報421を参照することにより、注目脚柱24の応力評価値の正常値が特定される。そして、注目脚柱24の応力評価値の測定値と正常値との比較において、上記補正量を用いて当該測定値または当該正常値が補正される。これにより、注目脚柱24の温度および水位の測定値を用いて、脚柱24の異常を精度よく検出することができる。なお、補正量は、基準水位V0における応力評価値の正常値と、水位の測定値V1における応力評価値の正常値との比等であってもよい。また、測定値または正常値の補正では、測定値または正常値に対して、補正量が乗算または除算等されてもよい。
【0065】
(第4の実施の形態)
次に、本発明の第4の実施の形態に係る異常検出処理について説明する。第4の実施の形態では、温度-応力情報421から補正量が求められる。この場合、判定部41では、
図13に示す温度-応力情報421において、基準温度関連値T0における応力評価値の正常値と、注目脚柱24の温度の測定値から導かれる温度関連値T1における応力評価値の正常値との差α2が補正量として取得される(ステップS22)。続いて、水位-応力情報422において、水位の測定値における応力評価値の正常値が特定される(ステップS13)。
図14に示す水位-応力情報422では、応力評価値の正常値がσ2として特定されるものとする。その後、注目脚柱24の応力評価値の測定値E3と当該正常値σ2とを用いて、異常の有無が判定される(ステップS14)。このとき、
図14に示すように、応力評価値の測定値E3が補正量α2を用いて補正され、補正後の測定値E4が得られる。そして、注目脚柱24の補正後の測定値E4と正常値σ2とを比較することにより、異常の有無が判定される。上記と同様に、補正量α2を用いて、応力評価値の正常値σ2が補正されてもよい。
【0066】
以上のように、異常検出装置40の判定部41では、注目脚柱24の温度の測定値から導かれる温度関連値と基準温度関連値との差に対応する補正量が温度-応力情報421から取得される。また、水位計11による水位の測定値を用いて水位-応力情報422を参照することにより、注目脚柱24の応力評価値の正常値が特定される。そして、注目脚柱24の応力評価値の測定値と正常値との比較において、上記補正量を用いて当該測定値または当該正常値が補正される。これにより、注目脚柱24の温度および水位の測定値を用いて、脚柱24の異常を精度よく検出することができる。
【0067】
上記異常検出装置40および異常検出方法では様々な変形が可能である。
【0068】
判定部41における応力評価値の測定値と正常値との比較では、時系列(複数の時刻)における測定値群と、当該測定値群に対応する正常値群とが比較されてもよい。例えば、気温の変化が大きい時間帯において、応力評価値の測定値群が取得されるとともに、脚柱温度測定部47により得られる温度の測定値群に基づいて応力評価値の正常値群が取得される。そして、応力評価値の測定値群から得られる測定値の勾配と、正常値群から得られる正常値の勾配とを比較し、勾配差が所定値以上である場合に、異常があると判定される。もちろん、勾配以外の値が用いられてもよい。
【0069】
上記実施の形態では、ラジアルゲート10が閉じている状態で、各種測定が行われるが、ラジアルゲート10が開いている状態で各種測定が行われてもよい。この場合、好ましくは、複数の開度区分における複数の温度-応力情報421が準備され、異常の有無の判定において、開度計12により検出される実際の開度に対応する温度-応力情報421が選択されて、正常値の特定に用いられる。同様に、複数の開度区分における複数の水位-応力情報422が準備され、正常値の特定において、実際の開度に対応する水位-応力情報422が選択されてよい。
【0070】
温度関連値は、注目脚柱24の温度、および、脚柱ペアの温度差以外であってもよい。例えば、注目脚柱24および他の2つの脚柱24を含む脚柱群において、注目脚柱24と他の2つの脚柱24のそれぞれとの温度差(すなわち、2つの温度差)が温度関連値とされてもよい。この場合、温度関連値と応力評価値の正常値との関係を示す温度-応力情報421(例えば、2つの温度差と応力評価値の正常値との関係を示す3次元グラフ)において、脚柱群に含まれる3つの脚柱24の温度の測定値を用いて、注目脚柱24の応力評価値の正常値が特定される。また、脚柱群に含まれる脚柱24の個数は4以上であってもよい。
【0071】
以上のように、異常検出装置40では、脚柱温度測定部47により、注目脚柱24を含む2以上の脚柱24の温度が個別に測定され、温度関連値が、2以上の脚柱24の温度から導かれる。そして、判定部41では、当該2以上の脚柱24の温度の測定値を用いて、注目脚柱24の応力評価値の正常値が特定される。これにより、2以上の脚柱24の温度を用いて注目脚柱24の応力評価値の正常値を精度よく特定することができる。
【0072】
評価値測定部46では、脚柱24にかかる応力を実質的に示す値が取得可能であるならば、ひずみゲージ461以外が用いられてもよい。例えば、測長器やカメラ等を利用して脚柱24の特定の2点間の距離(定点間距離)を測定する構成や、脚柱24に作用する応力を赤外線カメラを利用して測定する構成等が、評価値測定部46として用いられてもよい。また、脚柱温度測定部47において、熱電対471以外が用いられてもよく、例えば、サーモカメラ等を用いて脚柱24の温度が測定されてもよい。
【0073】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0074】
10 ラジアルゲート
11 水位計
21 スキンプレート
24 脚柱
40 異常検出装置
41 判定部
42 記憶部
46 評価値測定部
47 脚柱温度測定部
421 温度-応力情報
422 水位-応力情報
S11~S14,S21,S22 ステップ