(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176219
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/24 20160101AFI20241212BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20241212BHJP
【FI】
H02P21/24
H02P21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094604
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【弁理士】
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】古田 大地
(72)【発明者】
【氏名】井手 徹
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 和希
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭義
(72)【発明者】
【氏名】上辻 清
(72)【発明者】
【氏名】松本 純
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA02
5H505AA19
5H505BB06
5H505CC02
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA01
5H505HA05
5H505HA10
5H505HB02
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505JJ29
5H505KK06
5H505LL14
5H505LL22
5H505LL41
5H505MM10
(57)【要約】
【課題】位置センサレス制御において、脱調の検出精度を向上させること。
【解決手段】制御装置は、γ軸電流値I
γとγ軸電流指令値I
*
γとに基づいて算出されたγ軸電圧指令値V
*
γ1及びδ軸電流値I
δとδ軸電流指令値I
*
δとに基づいて算出されたδ軸電圧指令値V
*
δ1と、所定の電圧値のγ軸電圧指令値V
*
γ2及びゼロボルトのδ軸電圧指令値V
*
δ2と、を選択的にγ軸電圧指令値V
*
γ及びδ軸電圧指令値V
*
δとして出力するγ-δ電圧指令値算出部53と、γ軸電圧指令値V
*
γ2及びδ軸電圧指令値V
*
δ2がγ軸電圧指令値V
*
γ及びδ軸電圧指令値V
*
δとして出力されている場合に、γ軸電流値I
γ、δ軸電流値I
δ、γ軸電圧指令値V
*
γ及びδ軸電圧指令値V
*
δに基づいて推定位置誤差Δθ^
reを算出し、推定位置誤差Δθ^
reに基づいてモータの脱調を検出する検出部56と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動させるインバータを制御する駆動信号を生成する制御装置であって、
前記モータに流れる電流をγ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部と、
γ軸電流指令値及びδ軸電流指令値を出力するγ-δ電流指令値出力部と、
前記γ軸電流値と前記γ軸電流指令値とに基づいて算出された第1γ軸電圧指令値及び前記δ軸電流値と前記δ軸電流指令値とに基づいて算出された第1δ軸電圧指令値と、所定の電圧値の第2γ軸電圧指令値及びゼロボルトの第2δ軸電圧指令値と、を選択的にγ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値として出力するγ-δ電圧指令値算出部と、
前記γ軸電圧指令値及び前記δ軸電圧指令値を前記駆動信号に変換する駆動信号出力部と、
前記第2γ軸電圧指令値及び前記第2δ軸電圧指令値が前記γ軸電圧指令値及び前記δ軸電圧指令値として出力されている場合に、前記γ軸電流値、前記δ軸電流値、前記γ軸電圧指令値及び前記δ軸電圧指令値に基づいて、γ-δ座標系のγ軸とd-q座標系のd軸との位置誤差の推定値である推定位置誤差を算出し、前記推定位置誤差に基づいて前記モータの脱調を検出する検出部と、
を備える、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
位置センサを用いないでモータを制御する位置センサレス制御が知られている。位置センサレス制御では、d-q座標系のd軸とγ-δ座標系のγ軸との電気角誤差が大きくなると、モータを制御できなくなる脱調が生じる。特許文献1には、モータに流れる電流値、モータパラメータ、及びモータの回転数指令値に基づいて、モータの磁束を演算し、演算値が閾値を下回った場合にモータが脱調を起こしたと判断する駆動装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低回転数領域においては逆起電力が小さいので、印加電圧が小さくなり、電圧誤差の影響が相対的に大きくなる。つまり、SN比(signal-to-noise ratio)が低下する。したがって、引用文献1に記載されているような、モータの電圧方程式を用いて脱調を検出する手法では、低回転数領域において、脱調の検出精度が低下するおそれがある。
【0005】
本開示は、位置センサレス制御において、脱調の検出精度を向上可能な制御装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る制御装置は、モータを駆動させるインバータを制御する駆動信号を生成する装置である。この制御装置は、モータに流れる電流をγ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部と、γ軸電流指令値及びδ軸電流指令値を出力するγ-δ電流指令値出力部と、γ軸電流値とγ軸電流指令値とに基づいて算出された第1γ軸電圧指令値及びδ軸電流値とδ軸電流指令値とに基づいて算出された第1δ軸電圧指令値と、所定の電圧値の第2γ軸電圧指令値及びゼロボルトの第2δ軸電圧指令値と、を選択的にγ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値として出力するγ-δ電圧指令値算出部と、γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値を駆動信号に変換する駆動信号出力部と、第2γ軸電圧指令値及び第2δ軸電圧指令値がγ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値として出力されている場合に、γ軸電流値、δ軸電流値、γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値に基づいて、γ-δ座標系のγ軸とd-q座標系のd軸との位置誤差の推定値である推定位置誤差を算出し、推定位置誤差に基づいてモータの脱調を検出する検出部と、を備える。
【0007】
上記制御装置においては、第2γ軸電圧指令値及び第2δ軸電圧指令値がγ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値として出力されている場合に、γ軸電流値、δ軸電流値、γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値に基づいて推定位置誤差が算出される。第2γ軸電圧指令値は、所定の電圧値の電圧指令値であり、第2δ軸電圧指令値は、ゼロボルトの電圧指令値である。したがって、第2γ軸電圧指令値及び第2δ軸電圧指令値がγ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値として出力されると、γ軸電圧値は所定の電圧値に収束し、δ軸電圧値はゼロボルトに収束する。γ軸電圧値が所定の電圧値となることにより、モータのトルクの増加を抑制しつつ、推定位置誤差の算出における電圧誤差の影響を低減することができる。上述のように算出された推定位置誤差に基づいてモータの脱調が検出されることにより、脱調の検出精度が向上し得る。以上により、位置センサレス制御において、脱調の検出精度を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、位置センサレス制御において、脱調の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される演算器の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、d軸とγ軸との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら一実施形態に係る制御装置を詳細に説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。
【0011】
図1を参照しながら、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成を説明する。
図1は、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成図である。
図1に示される制御システム1は、モータ(電動機)Mの位置センサレス制御を行うシステムである。モータMは、位置センサレスのモータであり、例えば、突極比を有する埋込磁石型同期モータ(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。モータMは、例えば、電動フォークリフト及びプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される。制御システム1は、インバータ回路2(インバータ)と、制御装置3と、電流センサSe1,Se2,Se3と、を含む。
【0012】
インバータ回路2は、直流電源PSから供給される直流電力によりモータMを駆動する。インバータ回路2は、コンデンサCと、スイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4,SW5,SW6と、を含む。
【0013】
コンデンサCは、直流電源PSから出力され、インバータ回路2へ入力される電圧を平滑化する。
【0014】
スイッチング素子SW1~SW6は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。スイッチング素子SW1は、U相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW2は、U相の下アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW3は、V相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW4は、V相の下アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW5は、W相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW6は、W相の下アームのスイッチング素子である。コンデンサCの一方の端子は、直流電源PSの正極端子及びスイッチング素子SW1,SW3,SW5のそれぞれのコレクタ端子に接続されている。コンデンサCの他方の端子は、直流電源PSの負極端子及びスイッチング素子SW2,SW4,SW6のそれぞれのエミッタ端子に接続されている。
【0015】
スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は、電流センサSe1を介してモータMのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は、電流センサSe2を介してモータMのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は、電流センサSe3を介してモータMのW相の入力端子に接続されている。
【0016】
スイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲートには、制御装置3から駆動信号が供給される。スイッチング素子SW1~SW6のそれぞれは、ゲートに供給される駆動信号に基づいて、オン又はオフする。スイッチング素子SW1~SW6がそれぞれオン又はオフすることで、直流電源PSから出力される直流電力が、互いに位相が120度ずつ異なる3つの交流電力に変換され、それらの交流電力がモータMの3つの相(U相、V相、及びW相)の入力端子に入力されてモータMの回転子が回転する。
【0017】
電流センサSe1~Se3は、ホール素子又はシャント抵抗などによって構成される。電流センサSe1は、モータMのU相に流れる交流電流の電流値であるU相電流値Iuを検出して制御装置3に出力する。電流センサSe2は、モータMのV相に流れる交流電流の電流値であるV相電流値Ivを検出して制御装置3に出力する。電流センサSe3は、モータMのW相に流れる交流電流の電流値であるW相電流値Iwを検出して制御装置3に出力する。なお、本実施形態では、制御システム1は、3つの電流センサ(電流センサSe1~Se3)を含んでいるが、2つの電流センサを含んでもよい。
【0018】
制御装置3は、モータMの位置センサレス制御を行う装置である。制御装置3は、インバータ回路2を制御することによって、モータMを駆動させる。制御装置3は、インバータ回路2を制御する駆動信号を生成する。制御装置3は、ドライブ回路4と、演算器5と、を含む。
【0019】
ドライブ回路4は、IC(Integrated Circuit)などによって構成さる。ドライブ回路4は、演算器5から出力されるU相電圧指令値V*
u、V相電圧指令値V*
v、及びW相電圧指令値V*
wと搬送波(三角波、ノコギリ波、又は逆ノコギリ波など)とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。
【0020】
演算器5は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などから構成される電子制御ユニットである。例えばROMに格納されているプログラムがRAM上にロードされてCPUで実行されることにより、
図2に示される演算器5の各種機能が実現される。
【0021】
次に、
図2及び
図3を参照しながら、演算器5の機能構成を説明する。
図2は、
図1に示される演算器の機能構成を示すブロック図である。
図3は、d軸とγ軸との関係を説明するための図である。
図2に示されるように、演算器5は、機能的な構成要素として、座標変換部51と、γ-δ電流指令値出力部52と、γ-δ電圧指令値算出部53と、座標変換部54と、推定部55と、検出部56と、を含む。
【0022】
座標変換部51は、推定部55から出力される推定位置θ^reに基づいて、U相電流値Iu、V相電流値Iv及びW相電流値Iwをγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する。すなわち、座標変換部51は、モータMに流れる電流をγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する電流値変換部として機能する。推定位置θ^reは、モータMの回転子の位置θreの推定値である。位置θreは、電気角とも称される。この変換方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0023】
座標変換部51は、γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδをγ-δ電圧指令値算出部53及び推定部55に出力する。座標変換部51には、U相電流値Iu、V相電流値Iv及びW相電流値Iwのうち、二相の電流値が入力され、残りの一相の電流値は、入力された二相の電流値から算出されてもよい。
【0024】
なお、「θ^
re」の表記では「^」が「θ」の右上に位置しているが、「θ^
re」と
図2の推定部55から座標変換部51に向かう矢印に記載されている記号とは同じ意味である。他の「^」の表記についても同様とする。本明細書において記号「^」は、推定値を意味する。
【0025】
図3に示されるように、位置θ
reは、α-β座標系のα軸とd-q座標系のd軸とが成す角度である。推定位置θ^
reは、α-β座標系のα軸とγ-δ座標系のγ軸とが成す角度である。α-β座標系は、固定座標系である。d-q座標系は、モータMの磁石のN極方向をd軸とし、d軸に直交する方向をq軸とした回転座標系である。γ-δ座標系は、位置センサレス制御における推定回転座標系であり、d-q座標系のd軸に相当する軸をγ軸とし、q軸に相当する軸をδ軸とした座標系である。γ-δ座標系のγ軸とd-q座標系のd軸とは、位置誤差Δθ
reだけずれている。
【0026】
すなわち、位置誤差Δθreは、γ-δ座標系のγ軸とd-q座標系のd軸とが成す角度(又はγ-δ座標系のδ軸とd-q座標系のq軸とが成す角度)の真値である。位置誤差Δθreは、電気角誤差とも称される。位置誤差Δθreがゼロである場合、γ軸はd軸と一致し、δ軸はq軸に一致する。
【0027】
γ-δ電流指令値出力部52は、外部から入力される角速度指令値ω*と推定部55から出力される推定角速度ω^reとの角速度差Δωを算出し、角速度差Δωを用いてトルク指令値T*を算出する。推定角速度ω^reは、モータMの回転子の角速度ωreの推定値である。γ-δ電流指令値出力部52は、トルク指令値T*を用いてγ軸電流指令値I*
γ及びδ軸電流指令値I*
δを算出する。なお、γ軸電流指令値I*
γ及びδ軸電流指令値I*
δの算出方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。γ-δ電流指令値出力部52は、γ軸電流指令値I*
γ及びδ軸電流指令値I*
δをγ-δ電圧指令値算出部53に出力する。
【0028】
γ-δ電圧指令値算出部53は、γ軸電圧指令値V*
γ1(第1γ軸電圧指令値)及びδ軸電圧指令値V*
δ1(第1δ軸電圧指令値)と、γ軸電圧指令値V*
γ2(第2γ軸電圧指令値)及びδ軸電圧指令値V*
δ2(第2δ軸電圧指令値)と、を選択的にγ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δとして出力する。γ軸電圧指令値V*
γ1は、γ軸電流指令値I*
γとγ軸電流値Iγとに基づいて算出される電圧指令値である。δ軸電圧指令値V*
δ1は、δ軸電流指令値I*
δとδ軸電流値Iδとに基づいて算出される電圧指令値である。γ軸電圧指令値V*
γ2は、所定の電圧値Vaの電圧指令値である。電圧値Vaは、後述の推定位置誤差Δθ^reの算出における電圧誤差の影響を低減可能な程度の大きい値であり、予め設定されている。δ軸電圧指令値V*
δ2は、ゼロボルトの電圧指令値である。
【0029】
γ-δ電圧指令値算出部53は、γ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δを座標変換部54、推定部55及び検出部56に出力する。γ-δ電圧指令値算出部53は、電圧指令値生成部53aと、電圧指令値生成部53bと、切替部53cと、を含む。
【0030】
電圧指令値生成部53aは、例えば、γ軸電流指令値I*
γとγ軸電流値Iγとの差である差分γ軸電流指令値ΔI*
γを算出するとともに、δ軸電流指令値I*
δとδ軸電流値Iδとの差である差分δ軸電流指令値ΔI*
δを算出し、差分γ軸電流指令値ΔI*
γ及び差分δ軸電流指令値ΔI*
δをγ軸電圧指令値V*
γ1及びδ軸電圧指令値V*
δ1に変換する。すなわち、電圧指令値生成部53aは、γ軸電流指令値I*
γとγ軸電流値Iγとに基づいてγ軸電圧指令値V*
γ1を算出するとともに、δ軸電流指令値I*
δとδ軸電流値Iδとに基づいてδ軸電圧指令値V*
δ1を算出する。γ軸電圧指令値V*
γ1及びδ軸電圧指令値V*
δ1の算出方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。電圧指令値生成部53aは、γ軸電圧指令値V*
γ1及びδ軸電圧指令値V*
δ1を切替部53cに出力する。
【0031】
電圧指令値生成部53bは、電圧値Vaのγ軸電圧指令値V*
γ2とゼロボルトのδ軸電圧指令値V*
δ2とを生成し、γ軸電圧指令値V*
γ2及びδ軸電圧指令値V*
δ2を切替部53cに出力する。
【0032】
切替部53cは、電圧指令値生成部53aから出力されたγ軸電圧指令値V*
γ1及びδ軸電圧指令値V*
δ1と、電圧指令値生成部53bから出力されたγ軸電圧指令値V*
γ2及びδ軸電圧指令値V*
δ2と、のいずれかの組を選択し、選択した組をγ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δとして出力する。切替部53cは、例えば、検出指令を受けている間、γ軸電圧指令値V*
γ2及びδ軸電圧指令値V*
δ2を選択し、γ軸電圧指令値V*
γ2及びδ軸電圧指令値V*
δ2をγ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δとして出力する。切替部53cは、検出指令を受けていない間、γ軸電圧指令値V*
γ1及びδ軸電圧指令値V*
δ1を選択し、γ軸電圧指令値V*
γ1及びδ軸電圧指令値V*
δ1をγ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δとして出力する。
【0033】
検出指令は、任意のタイミングで所定の期間出力される。検出指令は、予め定められた周期で出力されてもよい。所定の期間は、例えば、γ軸電圧指令値V*
γ2及びδ軸電圧指令値V*
δ2が出力されてからγ軸電圧値が電圧値Vaに収束し、δ軸電圧値がゼロボルトに収束するまでの収束時間よりも長い時間に設定される。つまり、電圧値Vaのγ軸電圧がパルス状に印加される。
【0034】
座標変換部54は、推定部55から出力される推定位置θ^reに基づいて、γ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δをU相電圧指令値V*
u、V相電圧指令値V*
v、及びW相電圧指令値V*
wに変換する。この変換方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。座標変換部54は、U相電圧指令値V*
u、V相電圧指令値V*
v、及びW相電圧指令値V*
wをドライブ回路4に出力する。すなわち、座標変換部54とドライブ回路4とは、γ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δを駆動信号に変換する駆動信号出力部として機能するといえる。
【0035】
推定部55は、推定角速度ω^re及び推定位置θ^reを算出する。推定部55は、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ及び予め推定可能な推定モータパラメータに基づいて、モータMにおいて生じる拡張誘起電圧(EEMF:Extended ElectroMotive Force)eの推定値である推定拡張誘起電圧e^を算出し、推定拡張誘起電圧e^に基づいて推定位置θ^reを算出する。
【0036】
例えば、推定部55は、推定拡張誘起電圧e^から推定位置誤差Δθ^reを算出し、推定位置誤差Δθ^reと所定の伝達関数とを乗算して推定角速度ω^reを求める。推定位置誤差Δθ^reは、位置誤差Δθreの推定値である。そして、推定部55は、推定角速度ω^reと推定位置誤差Δθ^reとに基づいて推定位置θ^reを算出する。推定部55は、推定位置θ^reを座標変換部51及び座標変換部54に出力し、推定角速度ω^reをγ-δ電流指令値出力部52に出力する。
【0037】
検出部56は、推定位置誤差Δθ^
reに基づいて、モータMの脱調を検出する。検出部56は、モータMの低回転数領域における脱調を検出する。ここで、γ-δ座標系上のγ軸電圧値V
γ及びδ軸電圧値V
δは、式(1)及び式(2)でそれぞれ表される。なお、pは、時間微分演算子d/dtを表す。巻線抵抗R及び誘起電圧定数K
Eは、制御対象のモータMのモータパラメータである。
【数1】
【数2】
【0038】
γ軸自己インダクタンスL
γ、δ軸自己インダクタンスL
δ、及びγ軸とδ軸との間の相互インダクタンスL
γδは、式(3)、式(4)及び式(5)でそれぞれ表される。
【数3】
【数4】
【数5】
【0039】
インダクタンスL
0及びインダクタンスL
1は、式(6)及び式(7)でそれぞれ表される。なお、d軸インダクタンスL
d及びq軸インダクタンスL
qは、制御対象のモータMのモータパラメータである。
【数6】
【数7】
【0040】
検出部56は、モータMの低回転数領域における脱調を検出するので、角速度ω
reはゼロとみなされ得る。この場合、電圧降下が十分に小さいので、巻線抵抗Rはゼロとみなされ得る。したがって、式(1)にω
re=0及びR=0を代入することによって、式(8)が得られ、式(2)にω
re=0及びR=0を代入することによって、式(9)が得られる。
【数8】
【数9】
【0041】
γ軸電圧値V
γが電圧値V
aに収束している場合には、式(8)にV
γ=V
aを代入することによって、式(10)が得られる。式(10)においては、位置誤差Δθ
reに代えて推定位置誤差Δθ^
reが用いられる。
【数10】
【0042】
同様に、δ軸電圧値V
δがゼロに収束している場合には、式(9)にV
δ=0を代入することによって、式(11)が得られる。式(11)においては、位置誤差Δθ
reに代えて推定位置誤差Δθ^
reが用いられる。
【数11】
【0043】
式(10)及び式(11)を電流微分値pI
γについて解くことによって、式(12)が得られ、式(10)及び式(11)を電流微分値pI
δについて解くことによって、式(13)が得られる。
【数12】
【数13】
【0044】
式(12)を余弦cos(2Δθ^
re)について解くことによって式(14)が得られ、式(13)を正弦sin(2Δθ^
re)について解くことによって式(15)が得られる。
【数14】
【数15】
【0045】
式(14)及び式(15)から式(16)が導出される。
【数16】
【0046】
式(16)を推定位置誤差Δθ^
reについて解くことによって、式(17)が得られる。なお、式(17)においては、推定位置誤差Δθ^
reは、-π/2(rad)からπ/2(rad)までの範囲で算出可能である。
【数17】
【0047】
検出部56は、式(17)を用いて、推定位置誤差Δθ^reを算出する。すなわち、検出部56は、γ-δ電圧指令値算出部53において、γ軸電圧指令値V*
γ2及びδ軸電圧指令値V*
δ2がγ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δとして出力されている場合に、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、γ軸電圧指令値V*
γ(=Va)及びδ軸電圧指令値V*
δ(=0)に基づいて、推定位置誤差Δθ^reを算出する。検出部56は、例えば、γ軸電圧指令値V*
γ2及びδ軸電圧指令値V*
δ2が出力されてから、上記収束時間が経過したことに応じて、推定位置誤差Δθ^reを算出する。
【0048】
そして、検出部56は、推定位置誤差Δθ^reに基づいて、モータMの脱調を検出する。具体的には、検出部56は、推定位置誤差Δθ^reと予め定められた閾値とを比較し、推定位置誤差Δθ^reが閾値よりも大きい場合にモータMの脱調が生じたと判定し、推定位置誤差Δθ^reが閾値以下である場合にモータMの脱調が生じていないと判定する。閾値としては、例えば、π/2(rad)よりも小さい値が用いられる。なお、モータMの脱調が生じたと判定された場合、モータMが停止されてもよい。
【0049】
以上説明した制御装置3においては、γ軸電圧指令値V*
γ2及びδ軸電圧指令値V*
δ2がγ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δとして出力されている場合に、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、γ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δに基づいて、推定位置誤差Δθ^reが算出される。γ軸電圧指令値V*
γ2は、所定の電圧値Vaの電圧指令値であり、δ軸電圧指令値V*
δ2は、ゼロボルトの電圧指令値である。したがって、γ軸電圧指令値V*
γ2及びδ軸電圧指令値V*
δ2がγ軸電圧指令値V*
γ及びδ軸電圧指令値V*
δとして出力されると、γ軸電圧値Vγは電圧値Vaに収束し、δ軸電圧値Vδはゼロボルトに収束する。
【0050】
電圧値Vaは推定位置誤差Δθ^reの算出における電圧誤差の影響を低減可能な程度に大きい値であるので、推定位置誤差Δθ^reの算出における電圧誤差の影響が低減される。例えば、δ軸電圧値Vδが電圧値Vaに設定されたとすると、δ軸電流値Iδが増加し得る。この場合、モータMのトルクが大きく増加するので、モータMの制御が乱れるおそれがある。これに対し、制御装置3においては、γ軸電圧値Vγを電圧値Vaとすることにより、モータMのトルクの増加を抑制しつつ、推定位置誤差Δθ^reの算出における電圧誤差の影響を低減することができる。上述のように算出された推定位置誤差Δθ^reに基づいてモータMの脱調が検出されることにより、脱調の検出精度が向上し得る。以上により、位置センサレス制御において、モータMの脱調の検出精度を向上させることが可能となる。
【0051】
以上、本開示の一実施形態について詳細に説明されたが、本開示に係る制御装置は上記実施形態に限定されない。
【符号の説明】
【0052】
2…インバータ回路(インバータ)、3…制御装置、4…ドライブ回路(駆動信号出力部)、51…座標変換部(電流値変換部)、52…γ-δ電流指令値出力部、53…γ-δ電圧指令値算出部、54…座標変換部(駆動信号出力部)、55…推定部、56…検出部、M…モータ。