(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176229
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】透湿防水性生地、及び、織物製品
(51)【国際特許分類】
D06M 17/00 20060101AFI20241212BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20241212BHJP
D06M 15/21 20060101ALI20241212BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20241212BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20241212BHJP
A41D 31/10 20190101ALI20241212BHJP
A41D 31/14 20190101ALI20241212BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20241212BHJP
【FI】
D06M17/00 L
B32B5/26
D06M15/21
D06M15/643
D06M15/564
A41D31/10
A41D31/14
A41D31/00 504C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094633
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】515162442
【氏名又は名称】旭化成アドバンス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598064680
【氏名又は名称】セルガード エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】390006404
【氏名又は名称】倉庫精練株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137394
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 浩一
(72)【発明者】
【氏名】石立 祐二
(72)【発明者】
【氏名】ホワイト,エリック,アール.
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド,ジェイ,アンジーニ.
(72)【発明者】
【氏名】広沢 清勝
【テーマコード(参考)】
4F100
4L032
4L033
【Fターム(参考)】
4F100AK01C
4F100AK03C
4F100AK07C
4F100AK48A
4F100AK51D
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100CB00D
4F100DG11A
4F100DG11B
4F100DG12A
4F100DJ00C
4F100GB72
4F100JB06A
4F100JB06C
4F100JD04
4F100JD05
4F100YY00A
4L032AA05
4L032AB01
4L032AC02
4L032BA03
4L032BA05
4L032EA02
4L033AB04
4L033AC03
4L033CA12
4L033CA50
4L033CA59
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れた耐久撥水性を有しながら軽量で風合いが柔らかく、かつ衣類に用いた場合に運動時の違和感が抑制された衣類を提供する透湿防水性布帛、およびこれを含む衣類、ならびに該透湿防水性布帛の製造方法を提供する。
【解決手段】透湿防水性生地1は、表面生地100、中間層200、及び裏面生地300の順番に積層し、かつ、重さが100g/m
2以下である。透湿防水性生地は、合成繊維を含む糸により形成された表面生地と、前記表面生地より目が粗い生地であり、合成繊維を含む糸により形成された裏面生地と、表面生地及び裏面生地の間に位置し、多孔質である疎水性合成樹脂フィルムである中間層とを有する。表面生地は、非フッ素系撥水剤により撥水コーティングされた生地である。透湿防水性生地は、JIS L 1092撥水度試験により測定した撥水度が初期4級以上、かつ、洗濯50回後3級以上であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維を含む糸により形成された第1の生地と、
前記第1の生地より目が粗い生地であり、合成繊維を含む糸により形成された第2の生地と、
前記第1の生地及び前記第2の生地の間に位置し、多孔質である疎水性合成樹脂フィルムである中間層と
を有し、
前記第1の生地は、非フッ素系撥水剤により撥水コーティングされた生地であり、
前記第1の生地、前記中間層、及び前記第2の生地の順番に積層し、かつ、重さが100g/m2以下であり、
JIS L 1092撥水度試験により測定した撥水度が初期4級以上、かつ、洗濯50回後3級以上であることを特徴とする
透湿防水性生地。
【請求項2】
前記中間層は、ポリオレフィン系の多孔質膜であることを特徴とする
請求項1に記載の透湿防水性生地。
【請求項3】
前記中間層は、ポリプロピレンの多孔質膜であり、膜厚が40μm以下、かつ、重さが10g/m2以下であることを特徴とする
請求項2に記載の透湿防水性生地。
【請求項4】
前記第1の生地は、織物であり、当該第1の生地を形成する糸の繊度が7~56Dtexであり、かつ、目付15~60g/m2であることを特徴とする
請求項3に記載の透湿防水性生地。
【請求項5】
少なくとも一部に透湿防水性生地を含む織物製品であって、
前記透湿防水性生地は、
合成繊維を含む糸により形成された第1の生地と、
前記第1の生地より目が粗い生地であり、合成繊維を含む糸により形成された第2の生地と、
前記第1の生地及び前記第2の生地の間に位置し、多孔質である疎水性合成樹脂フィルムである中間層と
を有し、
前記第1の生地は、非フッ素系撥水剤により撥水コーティングされた生地であり、
前記第1の生地、前記中間層、及び前記第2の生地の順番に積層し、かつ、重さが100g/m2以下であり、
JIS L 1092撥水度試験により測定した撥水度が初期4級以上、かつ、洗濯50回後3級以上であることを特徴とする
織物製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透湿防水性生地、及び、織物製品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、表面が開放された複数の孔を有する多孔質膜の少なくとも片面上および/または当該多孔質膜中に、ポリウレタンを含む多孔質層が形成されていることを特徴とする透湿性防水シートが開示されおり、防水透湿膜にPTFE膜を使用した織物は、膜自体が重いため、非フッ素撥水加工において軽量化すると撥水耐久性が低下する。
【0003】
また、特許文献2には、堆肥材料を覆うことで堆肥化を促進するための堆肥被覆シートであって、繊維基布と無孔質フィルムとが積層されてなり、透湿度が1000~10000g/m2・24hr、耐水圧が5~100kPa、通気度が500秒/100cc以上であることを特徴とする堆肥被覆シートが開示されており、表面布帛、防水透湿膜にポリプロピレンを使用した積層体は、表面、膜面ともポリプロピレンであるため、素材の撥水性はあるが、衣料品としての引裂強度が低い事、風合いが悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再表2014/061182号公報
【特許文献2】特開2004-277258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、撥水性特に耐久撥水性に優れ、かつ、風合いにも優れた透湿防水性生地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る透湿防水性生地は、合成繊維を含む糸により形成された第1の生地と、前記第1の生地より目が粗い生地であり、合成繊維を含む糸により形成された第2の生地と、前記第1の生地及び前記第2の生地の間に位置し、多孔質である疎水性合成樹脂フィルムである中間層とを有し、前記第1の生地は、非フッ素系撥水剤により撥水コーティングされた生地であり、前記第1の生地、前記中間層、及び前記第2の生地の順番に積層し、かつ、重さが100g/m2以下であり、JIS L 1092撥水度試験により測定した撥水度が初期4級以上、かつ、洗濯50回後3級以上であることを特徴とする。
【0007】
好適には、前記中間層は、ポリオレフィン系の多孔質膜であることを特徴とする。
【0008】
好適には、前記中間層は、ポリプロピレンの多孔質膜であり、膜厚が40μm以下、かつ、重さが10g/m2以下であることを特徴とする。
【0009】
好適には、前記第1の生地は、織物であり、当該第1の生地を形成する糸の繊度が7~56Dtexであり、かつ、目付15~60g/m2であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る織物製品は、少なくとも一部に透湿防水性生地を含む織物製品であって、前記透湿防水性生地は、合成繊維を含む糸により形成された第1の生地と、前記第1の生地より目が粗い生地であり、合成繊維を含む糸により形成された第2の生地と、前記第1の生地及び前記第2の生地の間に位置し、多孔質である疎水性合成樹脂フィルムである中間層とを有し、前記第1の生地は、非フッ素系撥水剤により撥水コーティングされた生地であり、前記第1の生地、前記中間層、及び前記第2の生地の順番に積層し、かつ、重さが100g/m2以下であり、JIS L 1092撥水度試験により測定した撥水度が初期4級以上、かつ、洗濯50回後3級以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、撥水性特に耐久撥水性に優れ、かつ、風合いにも優れた透湿防水性生地を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態における積層体生地1の構成を例示する図である。
【
図2】実施例1、実施例2、及び比較例1の各積層体生地の特性を比較した表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明がなされた背景を説明する。
例えば、透湿性と防水性を併せ持つ透湿防水布帛は、身体からの発汗による水蒸気を衣服外へ放出する機能と、雨が衣服内に侵入するのを防ぐ機能とを有するものである。このような透湿防水布帛は、スポーツ衣料や防寒衣料等の素材として使用され、その中でも、運動に伴う発汗量の比較的多いスポーツやアウトドアのための衣料用素材として多く用いられており、特に、スキー,アスレチック,登山分野においては必要不可欠な衣料用素材となっている。
透湿防水衣料布帛は、例えば表面布帛、防水透湿膜、裏面布帛で構成される3層積層体が主であるため、衣料品として重くなる傾向があり、布帛の細繊度化による軽量化や、防水透湿膜を薄膜化することによる軽量化の開発が進んでいる。
【0014】
また、これらの織編物に撥水性を付与するには、例えばフッ素系撥水剤、シリコーン系撥水剤、又は、パラフィン系撥水剤などが用いられる。特に、フッ素系撥水剤は優れた初期撥水性を有し、かつ洗濯に対する撥水性能の耐久性も有しており、現在様々な繊維製品に使用されているが、近年、環境負荷低減に向けての関心が高まる中で、繊維業界においてもパーフルオロアルキル基を主体としたフッ素化合物を含まない非フッ素系撥水剤への置き換えが進んでいる。一方で、非フッ素系撥水剤は、フッ素系撥水剤対比、撥水皮膜における分子の規則配列が乱れやすく、種々の撥水処理条件やプロセスを適正化しないと、撥水性能やその耐久性が十分なものとならない。したがって、非フッ素撥水素材において、初期撥水性やその耐久性を向上させるための技術開発が行われている。
そこで、上記事情を一着眼点にして本発明の実施形態を創作するに至った。本発明の実施形態によれば、非フッ素撥水加工品での軽量、薄地衣料用布帛の実着用における、耐久撥水性を向上するために、下記の様な構成とすることを見出し、本発明に到達した。以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照して説明する。ただし、本発明の範囲は、図示例に限定されるものではない
【0015】
図1は、実施形態における積層体生地1の構成を例示する図である。
図1に例示するように、積層体生地1は、本発明に係る透湿防水性生地の一例であり、表面生地100、中間層200、裏面生地300、及び、接着層を有する。少なくとも一部に積層体生地1を含む織物製品としては、例えば、テント等のアウトドア用品、合羽、スキーウエア若しくはスポーツウエア等の衣服、又は、白衣等の医療用衣服である。
表面生地100は、本発明に係る第1の生地の一例であり、積層体生地1の表面層に使用する生地であり、例えば、織物、丸編、又はトリコットのいずれか一種である。表面生地100は、合成繊維マルチフィラメントで構成された生地である。合成繊維の素材は特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、又はそれらの共重合体であるポリエステル系繊維、あるいはナイロン6、66、610、612又はその共重合体若しくはブレンド物である、ポリアミド系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン繊維等が好適に用いられる。例えば、強度、耐久性、軽量性などが重視される登山着に積層体生地1を使用する場合は、表面生地100は、ポリエステル繊維あるいはポリアミド繊維などから構成された織物を使用することが好ましい。
【0016】
織物の組織としては、タフタやリップストップ組織が軽量で耐久性のある布帛を作成できるため好ましい。リップストップタフタは、経糸及び又は緯糸に、地糸を2~5本引き揃えて配列して製織することが一般的であるが、地糸を2~5本引き揃える代わりに、これと同じもしくはこれよりも太い一本の糸を用いて製織してもよく、素材の違う合成繊維マルチフィラメント、例えば高強力ポリエステルや高強力ナイロン、ポリエチレン繊維や液晶ポリエステル繊維等の高強力繊維も配して製織してもよい。
また、丸編の種類としては、平編(天竺)、1×1天竺、鹿の子編、リブ編、両面編(スムース)、パール編、ポンチローマ編、ミラノリブ編、ブリスター編などがあげられるが特に限定はしない。また、トリコットの種類としては、シングルデンビ編、シングルコード編、シングルアトラス編、ハーフトリコット編、ダブルデンビ編、サテン編などがあげられるが特に限定はしない。
【0017】
また、表面生地100である織物を形成する糸としては、原糸、複合糸、並びに仮撚加工糸およびタスラン加工糸などの加工糸が挙げられるが、生糸や加工糸が好ましく、仮撚加工糸がより好ましい。これは織物製品を仕上げたとき、生糸よりも仮撚加工糸を使用する方が、織物の風合いをさらに柔らかく仕上げやすいためである。前記仮撚加工糸としては、一般に用いられるピンタイプ、フリクションタイプ、ニップベルトタイプ、エア加撚タイプ等如何なる方法によるものでも良いが、生産性の観点からフリクションタイプが好ましい。
【0018】
表面生地100である織物を構成する合成繊維マルチフィラメントの単糸断面の形状は、特に限定されず、丸断面以外にも異形断面でも構わない。異形断面の形状は三角、Y字型、十字型、W型、V型等が挙げられるが、強度の面から丸断面が好適に用いられる。
【0019】
また、表面生地100を形成する糸の繊度は、7~56dtexであり、より軽量であり引裂き等の物性を維持できる薄地の織物に仕上げる場合は、11~44dtexであることが望ましい。表面生地100の目付は、15~60g/m2であり、より軽量であり引裂き等の物性を維持できる薄地の織物に仕上げる場合は、20~50g/m2が好ましく、25~45g/m2が特に好ましい。目付が60g/m2以上の場合は、引裂強度が高い生地が得られるが、厚く重い生地となり積層体として薄地に仕上げることが難しい。15g/m2以下の場合は薄くて軽量な生地を作成することが可能ではあるが、製織性・積層体加工の難易度が高く、安定した積層体が得られない。
【0020】
表面生地100を形成する織機も特に制限は無く、ウォータージェットルーム織機やエアージェットルーム織機、レピア織機を使用することができる。製織後の織物は常法に従って精錬、リラックス、プレセット、染色し必要に応じて撥水処理、抗菌、消臭などの機能付与加工やカレンダー加工等の後加工を付与する事ができる。
【0021】
また、表面生地100は、その両面が撥水加工されている。撥水加工は、非フッ素撥水加工が望ましい。非フッ素撥水加工に用いられる非フッ素系撥水剤とは、パーフルオロアルキル基を主体としたフッ素化合物を含まない撥水剤である。非フッ素系撥水剤としてはシリコーン系撥水剤、パラフィン系撥水剤などが挙げられるが特に限定はされない。本例の積層体生地1の撥水性は実用上の防水の観点から、JIS L 1092撥水度試験(スプレー法試験)により測定した撥水度が初期4級以上、洗濯50回後3級以上が望ましい。撥水加工は、表面生地100単体を染色後、DIP-NIPにて撥水する処方が一般的ではあるが、表面生地100、中間層200、及び裏面生地300を3層積層体とした後に撥水加工をする処方もあるが、限定されるものではない。
【0022】
中間層200は、本発明に係る中間層の一例であり、多孔質である疎水性合成樹脂フィルムである。具体的には、中間層200は、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系が望ましい。これは、ポリオレフィン系は比重が軽いため、耐水圧、透湿性を維持しながら軽量な積層体品が可能になること、及び表面層に加工している、非フッ素撥水加工剤が洗濯と共に脱落し、撥水性が低下していくが、膜面が疎水性であることにより撥水を保持できるためである。また、樹脂フィルムを中間層200に積層する方法としては、直接コーティング法やラミネート法が挙げられるが、特に限定はされない。
【0023】
本例の中間層200は、ポリオレフィン微多孔膜であり、必要に応じて裏面生地300と接着する面(裏面生地300側)に難燃処理を施すことができる。中間層200は、撥水性を保持する観点から、裏面生地300と接着する面に難燃処理を施すことが好ましい。この難燃処理は、例えば、親水性高分子を含有する溶液をポリオレフィン微多孔膜に塗工した後に難燃剤を塗布又は含浸する方法が挙げられ、具体的には、上記の親水性高分子を塗工した親水性高分子加工ポリオレフィン微多孔膜の表面に難燃剤を塗布又は噴霧する方法や、難燃剤の溶液に親水性高分子加工ポリオレフィン微多孔膜を浸漬する方法や、予め難燃剤を混合した親水性高分子液を用いてポリオレフィン微多孔膜を加工する方法が挙げられる。難燃剤としては、例えば、無機系難燃剤、無機リン系化合物、含窒素化合物、塩素系化合物、臭素系化合物などがあり、例えば、ホウ砂とホウ酸の混合物、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン、リン酸アミド、塩素化ポリオレフィン、臭化アンモニウム、非エーテル型ポリブロモ環状化合物等の水溶液若しくは水に分散可能である難燃剤が挙げられる。上記難燃剤の付着量(塗布量)としては、ポリオレフィン微多孔膜の2重量%以上であれば良く、難燃剤の塗工により親水性高分子加工ポリオレフィン微多孔膜の透湿性に影響を及ぼさない範囲で付着量(塗布量)を増やすことができる。
【0024】
また、中間層200の耐水性の低下を抑制する必要がある場合には、公知の耐水処理を施すことができる。この耐水処理の手段としては、親水性高分子を含有する溶液を塗工する前のポリオレフィン微多孔膜に耐水処理剤を塗布又は含浸しても良いし、親水性高分子を含有する溶液をポリオレフィン微多孔膜に塗工した後に耐水処理剤を塗布又は含浸しても良い。この耐水処理は、例えば、ワックスエマルジョン、脂肪酸樹脂系、あるいはそれらの混合物等の耐水処理剤を上記親水性高分子加工ポリエチレン微多孔膜に塗布又は含浸させることで行う。また上記難燃処理の前または後に連続して、又は同時に行っても良い。
【0025】
直接コーティングする方法とは、樹脂を布帛の一面に均一な薄膜状に直接塗工し皮膜化することであり、水中を通過させ皮膜化する湿式法と、乾燥することによって皮膜化する乾式法がある。ラミネート法とは、予め作製した樹脂フィルムの上に接着剤を塗工して布帛を積層することである。
【0026】
また、樹脂皮膜に透湿性を付与するためには、皮膜に多数の微細孔を形成して多孔質膜とするか、または、透湿性を有する樹脂を用いて無孔質膜とすることにより達成されるが、本開発品において中間層200は、多孔質膜が望ましい。多孔質膜とは、例えば、径0.0004μmの水蒸気は透過し、径100μm以上の水滴は透過しない程度の径の微細孔を多数有し、高い透湿性と防水性を併せ持つ樹脂皮膜である。
中間層200であるポリオレフィン系多孔質膜の膜厚は、例えば10μm以上40μm以下が好ましい。膜厚が40μmを超える場合は、高い耐水圧は保持できるが衣料品として厚くなり風合いが良くない。また、膜厚が10μm未満の場合は、耐水圧が保持できなくなる。
また、中間層200であるポリオレフィン系多孔質膜の重さは、1g/m2以上10g/m2以下、好ましくは2g/m2以上5g/m2以下が望ましい。重さが10g/m2を超える場合は、ポリオレフィン多孔質膜の膜厚が厚くなり、衣料品としての風合いが良くない。また、重さが1g/m2未満の場合は、膜厚が薄くなり、摩擦や洗濯等で膜面が破れる可能性が高くなるため好ましくない。
【0027】
裏面生地300は、本発明に係る第2の生地の一例であり、積層体生地1の裏面層に使用する生地であり、例えば、織物、丸編、又はトリコットのいずれか一種である。本例の裏面生地300は、合成繊維マルチフィラメント(ナイロン糸)で構成されたトリコット生地である。裏面生地300は、表面生地100より目が粗い生地である。
【0028】
接着層は、表面生地100及び中間層200、及び、中間層200及び裏面生地300を接着する層である。接着層における、表面生地100及び中間層200、または、中間層200及び裏面生地300の貼り合わせは、例えば層間に接着剤を介在させ貼り合わせる方法、あるいは熱的に圧着し密着させる方法等が採用される。接着層での該接着や熱圧着とは、積層面の全面にわたって完全に密着していても、点状に部分密着していてもよく、特に限定されるものではない。接着層を形成する接着剤の種類としては、熱可塑性樹脂接着剤の他、熱や光などにより反応し硬化する硬化性樹脂接着剤などを使用することができる。接着剤は、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂などが挙げられ、より好ましくは、ポリウレタン系接着剤である。
【0029】
積層体生地1は、実用上の防水の観点から耐水圧初期0.2MPa以上、洗濯20回後0.1MPa以上であることが好ましい。耐水圧が0.1MPa未満になると、加圧時に衣服内に浸水する可能性が高くなるため衣料用途としては好ましくない。
【0030】
また、積層体生地1の透湿度は、JIS規格L1099A-1法で、初期、洗濯20回後とも、5000g/(g・m2・日)以上が好ましい。同規格B-1法で初期、洗濯20回後とも、20000g/(g・m2・日)以上を有することが好ましい。
【0031】
積層体生地1の剥離強度は、初期、洗濯20回後とも、1.5N/吋以上が好ましい。1.5N/吋未満の場合は、摩擦や洗濯時に、接着剤接合の中、又はその近くにおける破壊が原因の積層品における表層面と中間層もしくは中間層と裏面層の分離が起き、衣料品として適正ではない。
【0032】
積層体生地1の引裂強度は、8N以上、より好ましくは10N以上が望ましい。8N未満の場合、様々な動きにより、製品の破れや破裂になる可能性が高いため適正ではない。
積層体生地1の重さは、軽量化する観点から、40g/m2以上100g/m2以下であることが好ましい。40g/m2未満である場合、衣料品としての強度が足りず、100g/m2を超えるである場合、衣料として重くなるため、40g/m2以上100g/m2以下であることが好ましい。
【0033】
以上説明したように、本実施形態の積層体生地1は、中間層としてポリオレフィン系多孔膜を用いることにより、軽量性が向上すると共に、非フッ素撥水加工を行っても洗濯後の撥水耐久性を維持することができる。積層体生地1は、表面生地100の網目を水が通過しても疎水性の中間層が撥水するため、結果として撥水性を保持することができる。
【0034】
(積層体生地の特性比較)
以下、本実施形態における実施例を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例を含む本願明細書等における諸性能の測定方法としては以下のものを用いた。
(測定方法)
(1)目付
JIS-L-1096 8.4.2 織物、丸編、トリコット、不織布、積層体の標準状態における単位面積当たりの質量により求めた。単位は[g/m2]である。
(2)引裂強度
JIS-L-1096 8.15.5 D法(ベンジュラム法)により測定した。単位は[N]である。
【0035】
(3)撥水性
洗濯処理JIS L 103法 吊干し乾燥にて洗濯処理後、JIS L 1092 撥水度試験(スプレー試験)による撥水度を測定する。湿潤状態は、下記の11段階の等級で測定し撥水性が高いものから順に5級、4+級、4級、4-級、3+級、3級、3-級、2+級、2級、2-級、1級となる。等級に対する湿潤状態は、下記に詳細を示す。
5級:表面に湿潤及び水滴の付着がないもの。
4+級:5級と4級との間と認定される湿潤状態を示すもの。
4級:表面に湿潤しないが小さな水滴の付着を示すもの。
4-級:4級と3+級との間と認定される湿潤状態を示すもの。
3+級:4-級と3級との間と認定される湿潤状態を示すもの。
3級:表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示すもの。
3-級:3級と2+級との間と認定される湿潤状態を示すもの。
2+級:3-級と2級との間と認定される湿潤状態を示すもの。
2級:表面の半分に湿潤を示し、小さな個々の湿潤が布を浸透する状態を示すもの。
2-級:2級と1級との間と認定される湿潤状態を示すもの。
1級:表面全体に湿潤を示すもの。
(4)透湿度
JIS L 1099 A-1法(塩化カルシウム法)、B-1法(酢酸カリウム法)により測定した。
【0036】
(5)耐水圧
JIS L 1092 B法(高水圧法)に基づいて測定した。なお、表地及び裏地が編地のために、測定時に過剰な膨れが生じ、測定に支障を来すことが多々あるので、それを防止する目的で、経緯共に78dtex/24fナイロン6マルチフィラメント糸を用いた平織物の210本タフタ(経糸密度120本/inch、緯糸密度90本/inch)を積層布帛上に重ねて測定した。単位は[MPa]である。
(6)剥離強度
JIS L 1086に記載の方法に準拠して経緯方向の剥離強度を測定した。なお、剥離強度測定の際には、表地と裏地をチャックで把持し、表地及び裏地間の剥離強度を測定したものである。単位は[N/25mm]である。
(7)洗濯耐久性
織物の洗濯は、JIS L 1096 8.64.4の織物の寸法変化に記載されているF-2法に準拠して実施した。洗濯10回は洗濯-脱水-乾燥を10回繰り返した場合であり、洗濯20回は20回繰り返した場合である。乾燥方法は吊干しにて行った。
【0037】
(実施例1)
表面生地として、総繊度40dtex、フィラメント数10本のナイロン6,6マルチフィラメントPOYを用いてフリクション仮撚りを行い、33dtex、フィラメント数10本、Z撚りの仮撚加工糸を得た。この糸を経糸および緯糸に用いてウォータージェットルームにより、経密度143本/吋、緯密度111本/吋のリップストップ織物の生機を作成した。この生機に精練、中間セット、染色、非フッ素撥水加工を行い、続いて仕上げセットを経密度160本/吋、緯密度124本/吋の生地を得た。
中間層として、例えば米国特許第8795565号に記載されるポリプロピレン多孔膜フィルム(膜厚20μm 3.2g/m2)を準備し、グラビア接着法により、ポリウレタン系接着剤を用いて、表面生地と中間層を接着する。
裏面生地として、32ゲージ トリコットハーフを準備し、表面生地を接着した面と裏面となるポリプロピレン多孔膜面に酸化防止剤(フェノール系、及びチオエーテル系の混合)を塗布した中間層と裏面生地とを接着する。
これにより、表面生地、中間層、及び裏生地を含む積層体生地を得た。
【0038】
(実施例2)
表面生地に11dtex、フィラメント数8本のナイロン6マルチフィラメントSDYを経糸および緯糸に用いてウォータージェットルームにより、経密度240本/吋、緯密度146本/吋のリップストップ織物の生機を作成した。精錬以降の加工については実施例1と同様に行い、続いて仕上げセットを経密度260本/吋、緯密度174本/吋の生地を得た。
また、中間層として、例えば米国特許第8795565号に記載されるポリプロピレン多孔膜フィルム(膜厚20μm 3.2g/m2)を準備し、グラビア接着法により、ポリウレタン系接着剤を用いて、表面生地と中間層を接着する。
裏面生地として、32ゲージ トリコットハーフを準備し、表面生地を接着した面と裏面となるポリプロピレン多孔膜面に酸化防止剤を塗布した中間層と裏面生地とを接着する。
これにより、表面生地、中間層、及び裏生地を含む積層体生地を得た。
【0039】
(比較例1)
実施例1の中間層であるポリプロピレン多孔膜フィルム(膜厚20μm)を、ポリウレタン多孔膜フィルム(膜厚20μm)に変更した以外は、実施例1及び実施例2と同様の構成とする、表面生地、中間層、及び裏生地を含む積層体生地とした。
【0040】
図2は、実施例1、実施例2、及び比較例1の各積層体生地の特性を比較した表である。
図2に例示するように、実施例1の撥水度において、撥水度初期で5-級であり、20回洗濯後(20HL)で4+級であり、50回洗濯後(50HL)で3+級であることを確認した。また、実施例2の撥水度において、撥水度初期で4級であり、20回洗濯後(20HL)で3+級であり、50回洗濯後(50HL)で3級であることを確認した。すなわち、実施例1及び実施例2の撥水度は、非フッ素撥水加工において、撥水度初期で4級以上であり、かつ、50回洗濯後(50HL)で3級以上の耐久撥水性があることを確認した。
また、比較例1の撥水度において、撥水度初期で4級であり、20回洗濯後(20HL)で3級であり、50回洗濯後(50HL)で2級であることを確認した。すなわち、比較例1の撥水度は、非フッ素撥水加工において、撥水度初期で4級以上であるが、50回洗濯後(50HL)で3級未満(2級)となることを確認した。
これらより、実施例1及び実施例2は、非フッ素撥水加工において、洗濯により撥水剤が脱落して撥水性が低下するが、中間層であるポリプロピレン多孔膜フィルム自身が疎水性であるため、耐久撥水を維持できたと考えられる。
【符号の説明】
【0041】
1…積層体生地
100…表面生地
200…中間層
300…裏面生地