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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176239
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】シール付玉軸受及び軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/06 20060101AFI20241212BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20241212BHJP
   F16C 33/41 20060101ALI20241212BHJP
   F16C 33/44 20060101ALI20241212BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20241212BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20241212BHJP
【FI】
F16C19/06
F16C33/66 Z
F16C33/41
F16C33/44
F16C33/78 D
F16J15/3204 201
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094651
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 悠稀
(72)【発明者】
【氏名】深間 翔平
【テーマコード(参考)】
3J006
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE05
3J006AE12
3J006AE15
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE40
3J006AE41
3J006CA02
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB04
3J216AB29
3J216BA01
3J216BA07
3J216BA16
3J216CA01
3J216CA04
3J216CA05
3J216CB03
3J216CB12
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC33
3J216CC39
3J216CC40
3J216DA01
3J216DA02
3J216DA11
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA49
3J701BA50
3J701BA73
3J701CA14
3J701EA01
3J701EA31
3J701EA49
3J701FA31
3J701FA38
3J701GA11
3J701GA24
3J701XB01
3J701XB03
3J701XB14
3J701XB19
(57)【要約】
【課題】軸受内部空間への異物の侵入を阻止しつつ保持器の変形を抑制する。
【解決手段】dmn値が70万以上の環境下で使用される玉軸受において、流体潤滑状態にすることが可能なシール部材20を備え、保持器10はエンジニアプラスチックを含む冠形保持器であって、玉5の直径φx、ポケット11のポケット中心Cを通り且つ軸受の軸心Oを含む断面におけるポケット11の径方向内周面Dの半径Ry、ポケット中心Cを通る軸受半径方向直線にポケット中心Cで直交する断面におけるポケット11の周方向内周面Eの半径Rzの寸法関係がφx<2Ry<2Rzであり、周方向内周面Eは、基部12側の第1内周面Eと先端側の第2内周面Eとを備え、第2内周面Eの中心Cは第1内周面Eの中心Cよりも基部12側へ偏心しているシール付玉軸受とした。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪(3)及び外輪(4)と、前記内輪(3)及び前記外輪(4)との間に配置される玉(5)と、前記玉(5)を周方向に沿って保持するポケット(11)を有する保持器(10)と、前記内輪(3)及び外輪(4)の間に形成される軸受内部空間(A)の軸方向端部の開口を閉じるシール部材(20)とを備え、
dmn={(D+d)/2}×n
D:ベアリング外径(mm)
d:ベアリング内径(mm)
n:回転速度(min-1
で規定されるdmn値が70万以上の環境下で使用される玉軸受において、
前記シール部材(20)は、前記内輪(3)及び外輪(4)の一方に固定されるとともに他方に設定されたシール摺動面(B)に摺接するシールリップ(21)を備え、前記シールリップ(21)は、周方向に並んだ複数の突起(27)を有し、前記複数の突起(27)は、周方向に隣り合う前記突起(27)同士の間に隙間(28)を生じさせ、且つ、軸受回転に伴って前記隙間(28)から前記突起(27)と前記シール摺動面(B)間に引き摺り込まれる潤滑油の油膜によって前記シールリップ(21)及び前記シール摺動面(B)間を流体潤滑状態にすることが可能な態様で形成されており、
前記保持器(10)は、環状の基部(12)と前記基部(12)から一方向に突出する柱部(13)を複数備えるとともにエンジニアプラスチックを含む冠形保持器であり、前記玉(5)の直径φx、前記ポケット(11)のポケット中心(C)を通り且つ軸受の軸心(O)を含む断面における前記ポケット(11)の径方向内周面(D)の半径Ry、前記ポケット中心(C)を通る軸受半径方向直線に前記ポケット中心(C)で直交する断面における前記ポケット(11)の周方向内周面(E)の半径Rzの寸法関係がφx<2Ry<2Rzであり、
前記周方向内周面(E)は、前記基部(12)側の第1内周面(E)と、前記第1内周面(E)よりも前記柱部(13)の先端側の第2内周面(E)とを備え、前記第2内周面(E)の中心(C)は、前記第1内周面(E)の中心(C)よりも前記基部(12)側へ偏心しているシール付玉軸受。
【請求項2】
前記周方向内周面(E)の半径Rzは、前記第1内周面(E)の半径Rzと前記第2内周面(E)の半径Rzとが等しく設定されている請求項1に記載のシール付玉軸受。
【請求項3】
前記第1内周面(E)と前記第2内周面(E)との間に油溜まりとして凹部(H)が設けられている請求項1に記載のシール付玉軸受。
【請求項4】
前記シールリップ(21)に、ニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴムの中から選択される単一の又は複数の素材を用いている請求項1に記載のシール付玉軸受。
【請求項5】
前記軸受内部空間への潤滑剤の供給が、軸方向一端側から軸方向他端側への一方向である場合に、前記シール部材(20)を軸方向一端側の開口にのみ設けている請求項1に記載のシール付玉軸受。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載のシール付玉軸受を用い、電動輸送機器用の駆動モータ、減速機又は増速機が備える回転軸を前記シール付玉軸受で支持している軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シール付玉軸受及び軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車、建設用機械等の各種車両、その他、各種産業用機械等において、駆動モータを備えた変速機(増減速機)等のモータ軸には、多数の軸受が用いられている。これらの機器類に用いられる軸受は、一般的な機器類で軸支持に使用される軸受と比べて、高速条件で使用されることが一般的である。これらの機器類で使用される潤滑油中には、ギアの摩耗粉等の異物が混在する。このため、軸受の端部にシール部材を備えることで、軸受内部への異物の侵入を防止することで軸受寿命の低下を抑制するとともに、潤滑油侵入量を抑制することでその攪拌抵抗を減らしている。
【0003】
例えば、特許文献1では、シール部材に設けられたシールリップに突起を備えさせ、軸受内部と外部とを連通する油通路を生じさせることで、シールリップとシール摺動面との間を流体潤滑状態にしている。これにより、ギアの摩耗紛等による軸受寿命の低下を抑制しつつ、シール部の流体潤滑を実現してシールトルクの低減を図っている。
【0004】
また、特許文献2には、円環状の基部と、その基部から突出する柱部とを備えた冠形保持器において、その冠形保持器の径方向への肉厚が、基部から柱部の先端に亘って徐々に薄くなるようにし、且つ、基部の外周面と外輪の肩部の内周面との間の径方向隙間が、基部の内周面と内輪の肩部の外周面との間の径方向隙間よりも大きくなるようにした技術が開示されている。
【0005】
特許文献2によれば、高速回転時に遠心力により潤滑剤が飛散した場合でも、基部の外周面と外輪の肩部の内周面との間に潤滑剤が貯留されるので、外輪の軌道面への潤滑剤の流入を抑制する。これにより、攪拌抵抗が低減され、低トルク化と発熱の低減が可能となるとともに、高速回転時の遠心力による保持器変形を抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/143786号公報
【特許文献2】特開2021-195973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、軸受寿命の低下を抑制することが可能である。しかし、駆動モータのモータ軸を支持するような高速条件下で使用される軸受では、想定を超えるような過酷な使用条件の下では、保持器との干渉による軌道輪の発熱や保持器の破損が懸念される。
【0008】
また、特許文献2では、高速条件下での保持器の破損対策がなされているが、この軸受では、軸受の軸方向両端にシール部材を備えているとはいえ、そのシール部材は非接触シールであるため、軸受寿命に影響を与える大きさの異物侵入を防止することはできない。このため、この軸受が、例えば、変速機や増減速機等といった装置で使用される場合に、軸受内部への異物侵入による軸受寿命低下が懸念される。また、近年では駆動モータ、インバータ、ギヤ(変速機等)を一体化した装置が広く普及しつつある。このような装置ではオイル潤滑が主流であり、駆動モータのモータ軸を支持する軸受も、変速機等内と共通のオイルで潤滑される傾向にある。このため、軸受内部への異物侵入をさらに確実に防止したいという要請がある。
【0009】
そこで、この発明の課題は、軸受内部空間への異物の侵入を阻止しつつ、高速条件下での保持器の変形を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明は、内輪及び外輪と、前記内輪及び前記外輪との間に配置される玉と、前記玉を周方向に沿って保持するポケットを有する保持器と、前記内輪及び外輪の間に形成される軸受内部空間の軸方向端部の開口を閉じるシール部材とを備え、
dmn={(D+d)/2}×n
D:ベアリング外径(mm)
d:ベアリング内径(mm)
n:回転速度(min-1
で規定されるdmn値が70万以上の環境下で使用される玉軸受において、
前記シール部材は、前記内輪及び外輪の一方に固定されるとともに他方に設定されたシール摺動面に摺接するシールリップを備え、前記シールリップは、周方向に並んだ複数の突起を有し、前記複数の突起は、周方向に隣り合う前記突起同士の間に隙間を生じさせ、且つ、軸受回転に伴って前記隙間から前記突起と前記シール摺動面間に引き摺り込まれる潤滑油の油膜によって前記シールリップ及び前記シール摺動面間を流体潤滑状態にすることが可能な態様で形成されており、
前記保持器は、環状の基部と前記基部から一方向に突出する柱部を複数備えるとともにエンジニアプラスチックを含む冠形保持器であり、前記玉の直径φx、前記ポケットのポケット中心を通り且つ軸受の軸心を含む断面における前記ポケットの径方向内周面の半径Ry、前記ポケット中心を通る軸受半径方向直線に前記ポケット中心で直交する断面における前記ポケットの周方向内周面の半径Rzの寸法関係がφx<2Ry<2Rzであり、
前記周方向内周面は、前記基部側の第1内周面と、前記第1内周面よりも前記柱部の先端側の第2内周面とを備え、前記第2内周面の中心は、前記第1内周面の中心よりも前記基部側へ偏心しているシール付玉軸受を採用した(構成1)。
【0011】
構成1において、前記周方向内周面の半径Rzは、前記第1内周面の半径Rzと前記第2内周面の半径Rzとが等しく設定されている構成を採用できる(構成2)。
【0012】
また、構成1において、前記第1内周面と前記第2内周面との間に油溜まりとして凹部が設けられている構成を採用できる(構成3)。
【0013】
また、構成1において、前記シールリップに、ニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴムの中から選択される単一の又は複数の素材を用いている構成を採用できる(構成4)。
【0014】
さらに構成1において、前記軸受内部空間への潤滑剤の供給が、軸方向一端側から軸方向他端側への一方向である場合に、前記シール部材を軸方向一端側の開口にのみ設けている構成を採用できる(構成5)。
【0015】
また、構成1に対して、上記構成2~構成5の中から選択される複数の要素を付加することもできる。すなわち、構成1に対して付加する要素として、構成2と3、構成2と4、構成2と5、構成2と3と4、構成2と3と5、構成2と4と5、構成2と3と4と5等とすることができる。
【0016】
これらの各態様からなるシール付玉軸受を用い、電動輸送機器用の駆動モータ、減速機又は増速機が備える回転軸を前記シール付玉軸受で支持している軸受装置を採用できる。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、シールリップとシール摺動面との間を流体潤滑状態に維持できるシール部材を採用することで、シールトルクの低減を図るとともに、軸受内部空間への潤滑剤の流入量を制御することができる。これにより、軸受内部空間内での潤滑剤の攪拌抵抗が低減されるので、dmn値70万以上の高速回転域での軸受の適用が可能となる。また、同時に、軸受寿命に影響のある大きさの異物の侵入も抑制できる。
【0018】
また、冠形保持器の素材にエンジニアプラスチックを採用し、玉軸受の玉の直径φx、保持器のポケットにおける径方向内周面の半径Ry、周方向内周面の半径Rzの寸法関係を最適化するとともに、さらに、ポケットの周方向内周面のうち基部から遠い側の第2内周面の中心を、基部側の第1内周面の中心よりも基部側へ偏心させたことで、高速運転時の保持器の変形を抑制し、保持器とシール部材との間に異物が噛み込むことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の一実施形態を示す縦断面図
図2図1の要部拡大図
図3】保持器の要部を示す縦断面図
図4】保持器の要部を示し軸受半径方向に直交する断面図(図3のIV-IV断面図)
図5】保持器と玉の関係を示す模式図
図6】シールシップ付近を示す要部拡大図
図7A図6の右側面図
図7B図7Aの要部拡大図
図8】変形例を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。この実施形態は、軸受内部空間の軸方向端部の開口部にシール部材20を備えた転がり軸受1である。
【0021】
転がり軸受1は、図1図3に示すように、内輪3及び外輪4と、内輪3及び外輪4との間に配置される複数の転動体5と、転動体5を周方向に沿って保持するポケット11を有する保持器10とを備えている。転動体5として球体(鋼球)を採用しているので、以下、これを玉5と称する。また、この転がり軸受1を、以下、シール付玉軸受1、又は、単に軸受1と称する。また、軸受1の軸受中心軸に沿った方向を「軸受軸方向」又は単に「軸方向」と称し、軸方向に直交する方向を「軸受半径方向」又は単に「半径方向」と称し、軸受中心軸回りの円周方向を「軸受周方向」又は単に「周方向」と称する。
【0022】
保持器10は、エンジニアプラスチックで成形された冠形保持器である。保持器10は、環状を成す基部12と、その基部12から軸方向へ向かって突出する複数の柱部13とを備えている。周方向に沿って並列する2本1組の柱部13,13が、周方向に沿って一定の間隔で設けられている。その2本1組で構成される柱部13と柱部13の間が、凹状のポケット11となっている。保持器10の外径面は、段差のない湾曲面(円筒面)である。保持器10は、ポケット11の部分で外径面と内径面とが連通している。
【0023】
柱部13の先端は保持爪14となっている。ポケット11を挟む両側の保持爪14,14同士は、互いに接近する方向に湾曲している。なお、周方向に隣り合うポケット11とポケット11との間において、隣接する柱部13,13同士が連結されていてもよい。ポケット11によって保持された玉5は、ポケット11で保持されつつ、内輪3の軌道面3aと外輪4の軌道面4aとの間で公転する。
【0024】
内輪3は、その内径部3bに図示しない回転軸が固定され、その回転軸と一体に周方向へ回転する。外輪4は、同じく図示しないハウジング、ギア等の部材であって、回転軸からの荷重を負荷させる固定部材に取り付けられる。これにより、軸受1は、固定部材に対して回転軸を回転自在に支持する。ここでいう回転軸としては、例えば、電動車両等の電動輸送機器が備える駆動モータの回転軸、あるいは、それらの電動輸送機器が備える減速機又は増速機の回転軸が挙げられる。なお、軸受1の軸受中心軸と、回転軸の回転中心軸とは同軸に設定されている。
【0025】
軸受1の組付け時において、軸受内部空間Aには、グリース等の適宜の潤滑剤が封入されている。また、使用時において、軸受内部空間A内へは、その軸受内部空間Aの軸方向一端側の開口を通じて外部から潤滑剤(潤滑油)が供給される。また、軸受内部空間A内の潤滑剤(潤滑油)は、その軸受内部空間Aの軸方向他端側の開口から軸受内部空間A外へ流出するようになっている。軸受1は、基本的にオイル潤滑下で使用され、初期潤滑として封入されたグリースは、その後、軸受外から供給される潤滑油と置き換わる。初期潤滑用としてグリースを封入する場合は、軸受内部空間A内における全空間容積の5~20%にグリースを封入することが望ましい。
【0026】
駆動モータや変速機等の機器を潤滑する潤滑油中には、ギアの摩耗粉、クラッチの摩耗粉、その他、軸受1の組み込み先の機器に応じた異物が介在する。これらの異物は、潤滑油中に浮遊せずに、いずれかの箇所に捕捉されることが望ましい。また、軸受1は、これらの駆動モータや変速機等の機器と共通の潤滑油で潤滑されている。このため、軸受内部空間Aの軸方向端部の開口に、シール部材20が取り付けられている。この実施形態では、軸受内部空間Aの軸方向両端部にそれぞれシール部材20を備えている。
【0027】
シール部材20は、軸受内部空間Aの軸方向端部の開口を覆うように環状を成す部材で構成されている。シール部材20は、軸受内部空間Aと外部との間を区切るものである。シール部材20を挟んで軸受外部側には、潤滑油中に異物が存在するので、シール部材20は、これらの異物が軸受外部から軸受内部空間Aへ侵入するのを防止する。
【0028】
シール部材20は、図2に示すように、金属製の芯金23と、その芯金23と一体に固定された弾性部24とを備えている。芯金23は、周方向全周に亘って断面L字状に成形された環状部材である。この実施形態では、芯金23は、プレス加工品で構成されている。弾性部24はゴムであり、芯金23に対して加硫接着されている。加硫接着は、例えば、芯金23を型枠内に入れて加硫ゴム材を加硫成形することにより行うことができる。
【0029】
シール部材20の弾性部24は、外径側において半径方向外側に突出する嵌合部25と、芯金23を覆う本体部26、本体部26から内径側へ突出する張出部22、張出部22の先端で半径方向内側へ舌片状に突出するシールリップ21とを備えている。外輪4における軸方向端部の内周に、全周に亘るシール溝8が形成されている。シール部材20は、嵌合部25がシール溝8に嵌合することで外輪4に固定されている。
【0030】
内輪3の外周には、シールリップ21に対して周方向に摺動するシール摺動面Bが形成されている。シール摺動面Bは、周方向全周に亘る円筒面状になっている。
【0031】
シールリップ21は、図6に示すように、軸方向に一定の幅で径方向に連続する円環状に形成された腰部22と、腰部22から外部側へ曲がる突片状に形成された頭部とを有する。シールリップ21の頭部とシール摺動面Bとの間に締め代が設定されている。シール部材20を図1及び図2に示す所定配置に取り付けると、シールリップ21は、その締め代により、シール摺動面Bに押し付けられて、軸方向外側へ曲がったゴム状弾性の変形を生じ、シールリップ21の緊迫力を生む。シール部材20の取り付け誤差、製造誤差等は、シールリップ21の撓み具合の変化によって吸収される。
【0032】
図7Aに示すように、シールリップ21は、周方向に沿って並列する複数の突起27を有する。突起27は、その全長に亘って周方向と直交する方向に延びて、周方向全周に亘って均一な間隔を置いて配置されている。このため、周方向に隣り合う突起27間に形成される隙間28も、周方向全周に亘って均一間隔で形成されている。隙間28は、シールリップ21とシール摺動面Bとの間に、軸受内部空間Aと軸受の外部を連通する油路を形成している。
【0033】
また、突起27は、図7Bに示すように、それぞれ周方向幅の中央部から周方向両側に向かう程シール摺動面Bと間隔が広がるように形成される周方向端部29を有する。すなわち、突起27は、シール摺動面Bとの間に隙間28側で大、突起27の周方向幅中心pに近い側で小となるくさび状隙間を形成する。
【0034】
突起27は、図6に示すように、軸受中心軸を含む仮想平面上において、概ねシール摺動面Bに沿った領域をもつ。この領域は、シール摺動面Bに沿った方向(図6における左右方向(軸方向)に相当)に幅をもって存在する。このため、軸受回転に伴う突起27とシール摺動面Bの摺動部、すなわち、突起27が隙間28内の潤滑油を、突起27とシール摺動面Bとの間のくさび状隙間へ向かって、周方向に引き摺り込む際のくさび効果によって油膜形成が促進される。突起27とシール摺動面Bとの間に油膜が介在させられる領域は、前述の仮想平面上においてシール摺動面Bに沿った方向(軸方向)に所定以上の有限長で生じる。このような突起27とシール摺動面Bとの摺動部は、Hertzの弾性接触理論に基づく接触楕円状に生じると考えられるので、その接触楕円状の長軸が前述の有限長に相当する。
【0035】
シールリップ21とシール摺動面B間の相対回転の周速が一定未満のとき、微視的には固体接触領域を含む境界潤滑状態ないし混合潤滑状態となる。軸受回転が速くなり、突起27とシール摺動面Bの相対回転の周速が一定以上になると、突起27とシール摺動面B間の油膜厚さは、突起27とシール摺動面B間の合成粗さσを余裕で上回り、各突起27とシール摺動面Bが油膜で完全に分離させられた流体潤滑状態になる。これにより、シールリップ21とシール摺動面B間を油膜で完全に分離させた流体潤滑状態にすることができる。このような流体潤滑状態になれば、シール部材20によるシールトルクを非接触式のシールと同等まで低減し、ひいてはシール付軸受の温度上昇を抑制し、シールリップ21の吸着作用を防止することができる。
【0036】
ここで、油膜パラメータΛ≧3であれば、摺動部の潤滑モードは流体潤滑状態であると考えられる。油膜パラメータΛは、摺動部での最小油膜厚さhに対する合成粗さσの比であり、Λ=h/σである。最小油膜厚さhは、弾性流体潤滑理論に基づいて求められる。合成粗さσ=√(Rq1 +Rq2 )である。Rqは、前述の摺動部を成すシール摺動面Bの二乗平均平方根粗さである。Rqは、突起27の表面における二乗平均平方根粗さをすると、二乗平均平方根粗さは、JIS(B0601:2013)に規定された二乗平均平方根粗さRqの値(μm)である。
【0037】
油膜パラメータΛは合成粗さσに依存し、合成粗さσが小さいほど油膜を厚くすることができる。前述の周速が極低速のときから突起27とシール摺動面Bの摺動部を流体潤滑状態とするため、その摺動部における合成粗さσを0.9μm以下にすることが好ましい。例えば、合成粗さσが0.9μm、潤滑油をミッション油(30cst,40℃)、雰囲気温度を20℃、周速0.2m/sの計算条件において、Johnsonチャートによる油潤滑モードを判定したところ、最小油膜厚さhが2.8μm、油膜パラメータΛが3以上となり、潤滑モードがE-Iモードとなった。したがって、突起27とシール摺動面Bの合成粗さσが0.9μm以下であれば、軸受の実使用領域において確実に流体潤滑状態になることが見込まれる。
【0038】
例えば、車両のトランスミッション内の回転部を支持する用途では、一般に、跳ねかけ、オイルバス等の適宜の方式でミッションオイルが潤滑油としてシール付軸受に給油される。その潤滑油は、オイルポンプで循環されており、その循環経路に設けられたオイルフィルタによって濾過される。粒径0.05mmを超える大きな異物が軸受内部空間Aに侵入すると、軸受寿命に悪影響を及ぼすと考えられる。突起27の突出高さh(図7B参照)を0.07mm以下に設定すれば、そのような大きな異物が容易に通過できない隙間28を生じさせることができる。なお、隙間28の通油性を良好にするため、突起27の突出高さhは、0.05mm以上に設定することが望ましい。
【0039】
突起27の突出高さhが0.07mm以下の場合、例えば、周方向に隣り合う突起27同士の間隔が0.3mm以上2.6mm以下、突起27の周方向幅が0.2mm以上1.0mm以下、且つ、突起27の表面の曲率半径を0.15mm以上2.0mm未満の範囲に設定することができる。この例では、その油温30~120℃、シールリップ21とシール摺動面Bの相対的な周速が0.2m/s以上の場合に、計算上、Greenwood-Johnsonの決めた無次元数である粘性パラメータgvと弾性パラメータgeに基づく潤滑領域図(Johnsonチャート)において等粘度-剛体領域(R-Iモード)又は等粘度-弾性体領域(E-Iモード,ソフトEHL)のいずれかの潤滑モード、すなわち前述の流体潤滑状態になると考えられる。なお、前述の周方向に隣り合う突起27同士の間隔が2.6mmの場合、突起27とシール摺動面Bとの間には、計算上、約3μmの油膜が形成され、2.6mmより小さい場合に油膜が厚くなる傾向がある。前述の間隔が2.6mm以下では、軸受回転トルクが低くなる傾向(すなわちシールトルクの低下傾向)を示す。前述の間隔が0.3mm未満では、突起27を成形するための転写面をエンドミル加工で金型に形成することが困難になる。
【0040】
以上のように、シールリップ21とシール摺動面B間を流体潤滑状態とすることで、シールリップ21とシール摺動面Bとが擦れることによる摩擦(シールトルク)を実質的にゼロに近づけ、シールリップ21が実質的に摩耗せず、シールリップ21及びシール摺動面B間の摺動による発熱を抑えることができる。さらに、シールリップ21とシール摺動面Bとの間で許容される相対回転の周速が高くなるので、従来よりも高速条件での運転が可能となる。
【0041】
なお、シールリップ21の素材としては、例えば、ニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴムの中から選択される単一の又は複数の素材を用いることができる。これらの素材は、シールリップ21のみに用いてもよいし、シールリップ21を含む弾性部24全体に用いてもよい。
【0042】
保持器10のポケット11は、直径をφxとした玉5に対応したものである。ポケット11における内面は、図3に示すように、軸受半径方向に沿って円弧を描く内面(球面)となっており、その軸受半径方向への半径がRyに設定されている。2RyはRyの2倍であり、ポケット11の内面における軸受半径方向への直径に相当する。すなわち、ポケット11における中心をポケット中心Cとした場合に、ポケット中心Cを通り且つ軸受の軸心Oを含む断面(以下、径方向断面と称する)におけるポケット11の内周面D(以下、径方向内周面Dと称する)の半径がRy、直径が2Ry(以下、径方向ポケット径2Ryと称する)である。なお、ポケット中心Cと玉5の中心は、設計上一致している。径方向内周面Dの円弧の中心は図3中の符号C’であり、ポケット中心Cよりも径方向内周面D側へ偏心している。図3において、径方向内周面Dは、ポケット11の底部Fにおいて外径側端d2から内径側端d1まで続いていることを示している。図3は、軸受中心線を通る1断面を示しているが、この径方向ポケット径2Ryはこの断面だけでなく、ポケット中心Cと軸受の軸心Oとを結ぶ軸受半径方向直線を含む任意の断面で設定されている(ただし、ポケット11の内面に油溜まり等の凹部Hが設けられている場合は、その凹部Hの場所を除く)。
【0043】
また、ポケット11における内面は、図4に示すように、軸受周方向に沿って円弧を描く内面(球面)となっており、その軸受周方向への半径がRzに設定されている。すなわち、ポケット中心Cを通る軸受半径方向直線にポケット中心Cで直交する断面(以下、周方向断面と称する)におけるポケット11の内周面E(以下、周方向内周面Eと称する)の半径がRz、直径が2Rz(以下、周方向ポケット径2Rzと称する)である。図4において、周方向内周面Eは、保持爪14の先端Gからポケット11の底Fを通って、反対側の保持爪14の先端Gまで続いている。図4は、ポケット中心Cを通り、且つ、そのポケット中心Cと軸受の軸心Oとを結ぶ軸受半径方向直線に直交する1断面を示しているが、この周方向ポケット径2Rzはこの断面だけでなく、ポケット中心Cを通り、そのポケット中心Cを通る軸受半径方向直線に交差する任意の断面で設定されている(ただし、ポケット11の内面に油溜まり等の凹部Hが設けられている場合は、その凹部Hの場所を除く)。
【0044】
なお、図3及び図4では、それぞれの円弧の直径(半径)の差や円弧の中心の位置関係を誇張して描いている。
【0045】
ここで、玉5の直径φx、ポケット11の内面における径方向ポケット径2Ry、周方向ポケット径2Rzとの寸法関係が、
φx<2Ry<2Rz
となるように設定されている。
【0046】
この点について、玉5の直径φxよりも、ポケット11の径方向ポケット径2Ry(図3参照)や周方向ポケット径2Rz(図4参照)が大きい寸法でないと、ポケット11が玉5を強固に抱え込んでしまうため、保持器10として成立しない。このため、φx<2Ry、及び、φx<2Rzの要件が求められる。
【0047】
さらに、ポケット11の径方向ポケット径2Ry(図3参照)よりも周方向ポケット径2Rz(図4参照)を大きく設定することで、高速回転時における玉5の遅れ進みに伴って生じる保持器10と周囲の部材(内輪3や外輪4等)との干渉、すなわち、玉5が軸受周方向に回転しながら、その周方向への速度差によって保持器10に引っ張られることで、保持器10に生じる変形に伴う干渉を回避しやすくなる。これは、2Ry<2Rzに設定することで、玉5とポケット11の径方向内周面Dとの第1隙間w1(図3参照)よりも、玉5とポケット11の周方向内周面Eとの第2隙間w2(図4参照)を大きく確保したことによる効果である。
【0048】
図3の断面において、径方向内周面Dは直径2Ryの円弧を示し、符号d1はその内径側端d1を、符号d2はその外径側端d2を示している。また、図4の断面において、周方向内周面Eは直径2Rzの円弧を示し、符号Fはその底部Fを示している。また、符号Gは、保持爪14の先端Gを示している。
【0049】
一方、ポケット11の2Ryが大きすぎると、玉5と保持器10との径方向ガタが大きくなり、保持器10と周囲の部材(内輪3や外輪4等)との干渉が生じやすくなる。また、高速回転時には遠心力変形による影響も相まって、上記の干渉がより生じやすくなる。このため、2Ryを大きくし過ぎることは好ましくない。そこで、2Ry<2Rzの要件が望ましいことを、本願の発明者らは確認した。ただし、このような干渉が抑制されるための条件として、保持器10は、その素材としてエンジニアプラスチックを使用していることが要件となる。
【0050】
また、周方向内周面Eは、図4に示すように、基部12側の第1内周面Eと、保持爪14側、すなわち、第1内周面Eよりも柱部13の先端側の第2内周面Eとを備え、第2内周面Eの円弧の中心Cは、第1内周面Eの円弧の中心Cよりも基部12側へ偏心している。これにより、玉5の保持機能を維持しつつ、玉5とポケット11の周方向内周面Eとの第2隙間w2を大きく確保できるようになる。
【0051】
図4において、周方向内周面Eにおける第1内周面Eの円弧の中心Cと第2内周面Eの円弧の中心Cとを結ぶ線は、軸受の軸方向に平行である。また、ポケット中心Cは、第1内周面Eの円弧の中心Cと第2内周面Eの円弧の中心Cとの中点であることが望ましい。さらに、第1内周面Eの円弧の中心Cと第2内周面Eの円弧の中心Cとの距離wは、玉5の直径φxや軸受の仕様等に応じて適宜設定されるが、例えば、これを0.1~0.2mmの間の数値に設定できる。
【0052】
なお、周方向ポケット径2Rzを大きくし過ぎることによるデメリットとして、保持器10の軸方向ガタが大きくなるという点が挙げられる。保持器10の軸方向ガタが大きくなると、使用条件によっては、シール部材20との干渉が懸念される。このようなことから、シール部材20と保持器10との軸方向へのクリアランスを、上記の軸方向ガタと、遠心力による保持器10の変形を考慮した上で、0.1mm以上確保することが望ましい。
【0053】
以上の構成によれば、
dmn={(D+d)/2}×n
D:ベアリング外径(mm)
d:ベアリング内径(mm)
n:回転速度(min-1
で規定されるdmn値が、その最高回転速度において70万以上となるような高速条件下で、軸受1の適用が可能となる。また、同時に、軸受寿命に影響のある大きさの異物の侵入も抑制できる。さらに、高速運転時の保持器10の変形を抑制し、保持器10とシール部材20との間に異物が噛み込むことも防止できる。
【0054】
なお、上記の周方向内周面Eの半径Rzに関し、第1内周面Eの半径Rzと第2内周面Eの半径Rzとが等しい数値に設定されていることが望ましい。ただし、玉5の保持機能と第2隙間w2の確保に支障がない限りにおいて、例えば、図5に示すように、第1内周面Eの半径Rzと第2内周面Eの半径Rzとが異なる数値であってもよい。このとき、第1内周面Eの半径Rzが第2内周面Eの半径Rzよりも大きい数値に設定されていてもよいし、第1内周面Eの半径Rzが第2内周面Eの半径Rzよりも小さい数値に設定されていてもよい。
【0055】
図5では、ポケット11の内面に形成される油溜まり用の凹部Hの設置を省略している。ここで、第1内周面Eと第2内周面Eの理論上の接続点は、ポケット中心Cを通り且つ軸受の軸心方向に直交する面上にある。この理論交点を図5では符号Jで示している。理論交点Jをマクロ的に見た場合、第1内周面Eと第2内周面Eとを直接接続すると両者の間に折れ点が介在することになる。このため、理論交点J付近では、曲率が不連続となる折れ点等が介在しないように、できる限り曲率が連続するように滑らかに取り付けられていることが好ましい。このとき、例えば、図4に示すように、第1内周面Eと第2内周面Eとの間に油溜まりとして凹部Hが設けられていれば、理論交点Jが凹部H内に位置して、第1内周面Eと第2内周面Eとの折れ点の問題を解消できる。
【0056】
上記の実施形態では、軸受内部空間Aへの潤滑剤(潤滑油)の供給が、軸方向一端側及び軸方向他端側の両方から行われることから、シール部材20を軸方向両端の開口に備えた両側シールの構成を例に、この発明の内容を説明した。他の例として、例えば、軸受内部空間Aへの潤滑剤(潤滑油)の供給が、軸方向一端側から軸方向他端側への一方向である場合には、シール部材20を軸方向一端側の開口にのみ設けた片側シールの構成を採用してもよい。すなわち、片側シールの場合は、潤滑剤(潤滑油)が供給される側の開口に、シール部材20が設定されることが望ましい。また、片側シールの場合、保持器10は、シール部材20が設けられない反シール側から、軸受内部空間A内へ挿入されることが望ましい。
【0057】
なお、前述のように、最高回転速度におけるdmn値が70万以上となるような高速条件下で使用される軸受1には、エンジニアプラスチックを用いた冠形保持器を適用することで、高速回転による保持器10の変形を抑制することが求められる。しかし、この樹脂製の冠形保持器を適用するに際し、例えば、軸受内部空間A内への潤滑剤(潤滑油)の流入量が多い場合、軸受寿命が低下する懸念がある。また、その軸受1の使用条件によっては、ギアの摩耗紛等の異物が軸受内部空間Aへ侵入することにより、軸受寿命の低下も懸念される。このため、この発明では、シールリップ21の接触部を流体潤滑状態に維持できるシール部材20を採用することで、軸受寿命に影響のある異物侵入を抑制し、また、潤滑剤(潤滑油)の流入量を制御することを可能とした。すなわち、所定の形状及び性能を有する樹脂製の冠形保持器と、シールリップ21の接触部を流体潤滑状態に維持できるシール部材20の相乗効果により、従来よりも軸受寿命を延命することを実現している。
【0058】
以下の表1に、樹脂製の冠形保持器における内部オイル量の違いに基づく急加減速試験の結果を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
上記結果から、軸受内部空間Aへの潤滑剤(潤滑油)の流入量が少ないほうが、軸受の寿命は長くなっている。これは、潤滑剤(潤滑油)の流入量が少ないほうが、攪拌抵抗が小さいからであると考えられる。なお、前述のように、シールリップ21の接触部を流体潤滑状態に維持できるシール部材20については、例えば、流体潤滑且つ軸受寿命に影響を与える0.050mm以上の異物の侵入を防止することができる。また、そのシール部材20は、接触シールであるものの、運転中は流体潤滑となるため、潤滑剤(潤滑油)の流入量を必要以上に確保する必要がなく、上記表1における試験No.3、No.4のように、潤滑剤(潤滑油)が過度に軸受内部空間A内に入ることを回避しても問題ないことがわかる。
【0061】
上記の実施形態では、保持器10をエンジニアプラスチック製としたが、保持器10の素材は、少なくともエンジニアプラスチックを含んでいればよい。
【0062】
上記の実施形態では、回転軸として、電動車両等の電動輸送機器が備える駆動モータの回転軸、あるいは、それらの電動輸送機器が備える減速機又は増速機の回転軸を例に挙げたが、それ以外にも、各種輸送機器、産業用機械等における回転軸の支持部にも、この発明の軸受1、及び、その軸受1を用いた軸受装置を適用できる。例えば、各種輸送機器における動力伝達経路のシャフト、等速ジョイント、プロペラシャフト、過給機、トランスミッション、ホイール軸受の回転部、あるいは、各種工作機械、発電機等の回転軸の支持部にも適用できる。
【0063】
また、上記の実施形態では、シール付玉軸受1として、シール部材20のシールリップ21を内輪3側に配置したものを例に、この発明の構成を説明したが、これを内外逆にして、例えば、図8に示すように、シールリップ21を外輪4側に配置した構成を採用してもよい。
【0064】
また、上記の実施形態では、シール部材20の弾性部24はゴムであり、そのゴムが芯金23に対して加硫接着されている構成としたが、ゴムを加硫接着以外の接着方法で芯金23に一体化してもよい。また、シール部材20の強度及び耐久性が確保されるならば、芯金23を用いずに弾性部24のみからなるシール部材20を採用してもよい。さらに、弾性部24の素材としては、ゴム以外にも例えば合成樹脂を用いてもよい。
【0065】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0066】
1 軸受(シール付玉軸受)
3 内輪
4 外輪
5 玉(転動体)
10 保持器
11 ポケット
12 基部
13 柱部
20 シール部材
21 シールリップ
27 突起
28 隙間
A 軸受内部空間
B シール摺動面
C ポケット中心
D 径方向内周面
E 周方向内周面
第1内周面
第2内周面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8