(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017624
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】非破壊型水分計測装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3554 20140101AFI20240201BHJP
G01N 21/359 20140101ALI20240201BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20240201BHJP
A01G 27/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G01N21/3554
G01N21/359
G01N21/27 F
A01G27/00 504B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120386
(22)【出願日】2022-07-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年8月18日発行,日本雨水資源化システム学会誌,第27巻,第1号,第11頁~第16頁,日本雨水資源化システム学会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 配布日 令和3年11月1日 配布場所 内山金柑園(宮崎県都城市高城町桜木1373)配布物 「近赤外分光法による携帯型水分計」の仕様説明書
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載年月日 令和3年9月17日 ウェブサイトのアドレス https://www.youtube.com/watch?v=aqjaKrqX5p0
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 配布日 令和3年11月9日 配布場所 JA綾町(宮崎県東諸県郡綾町大字南俣480-1) 配布物 「近赤外分光法による携帯型水分計」の仕様説明書
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲示・配布日 令和3年11月24日 掲示・配布場所 「東京ビッグサイト 青海展示棟(東京都江東区青海1-2-33)」で開催された「アグリビジネス創出フェア2021」 掲示・配布物 ポスター,チラシ
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載年月日 令和3年11月18日 ウェブサイトのアドレス https://fo-technica.com/wp-content/uploads/2021/11/c61687c577e7c13b64c7caa6fdea3d4c-1.pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載年月日 令和3年9月17日 ウェブサイトのアドレス https://www.youtube.com/watch?v=aqjaKrqX5p0
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 開催日 令和3年11月26日 開催場所 「東京ビッグサイト 青海展示棟(東京都江東区青海1-2-33)」で開催された「アグリビジネス創出フェア2021」
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 配布日 令和3年10月14日 配布場所 宮崎県総合農業試験場(宮崎県宮崎市佐土原町下那珂5805) 配布物 「近赤外分光法による携帯型水分計」の仕様説明書
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載年月日 令和3年11月18日 ウェブサイトのアドレス https://fo-technica.com/wp-content/uploads/2021/11/c61687c577e7c13b64c7caa6fdea3d4c-1.pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 配布日 令和3年11月18日 配布場所 株式会社ユジファーム(宮崎県宮崎市木原4622-1) 配布物 「近赤外分光法による携帯型水分計」の仕様説明書
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 配布日 令和3年10月28日 配布場所 レイクサイドレッドファーム(宮崎県宮崎市清武町今泉丙1331-1) 配布物 「近赤外分光法による携帯型水分計」の仕様説明書
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 配布日 令和3年10月14日 配布場所 かわそえ農園(宮崎県宮崎市田野町甲4641-1) 配布物 「近赤外分光法による携帯型水分計」の仕様説明書
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲示・配布日 令和3年11月24日 掲示・配布場所 「東京ビッグサイト 青海展示棟(東京都江東区青海1-2-33)」で開催された「アグリビジネス創出フェア2021」 掲示・配布物 ポスター,チラシ
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 配布日 令和3年10月26日 配布場所 櫛間農園(宮崎県宮崎市内海3473-4) 配布物 「近赤外分光法による携帯型水分計」の仕様説明書
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 開催日 令和3年11月26日 開催場所 「東京ビッグサイト 青海展示棟(東京都江東区青海1-2-33)」で開催された「アグリビジネス創出フェア2021」
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 配布日 令和3年10月14日 配布場所 くす美トマト農園(宮崎県宮崎市郡司分甲1041) 配布物 「近赤外分光法による携帯型水分計」の仕様説明書
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2-3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、A-STEPトライアウト委託事業「最適潅水を実現する携帯型近赤外分光・作物体内水分計の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】522302242
【氏名又は名称】株式会社エフオーテクニカ
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(72)【発明者】
【氏名】本川 洋右
(72)【発明者】
【氏名】横山 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】緒方 勝秀
(72)【発明者】
【氏名】佐田 一浩
(72)【発明者】
【氏名】西脇 亜也
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059BB11
2G059BB12
2G059CC09
2G059EE01
2G059EE02
2G059HH01
2G059MM01
2G059MM10
2G059MM12
(57)【要約】
【課題】農作物等の栽培植物の生体内の水分状態(含水率)を非破壊で測定することができる非破壊型水分計測装置を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも波長1940nmを含む近赤外光を測定対象の生体栽培植物に照射して、該生体栽培植物の前記波長1940nmの吸光度を非破壊で測定する近赤外分光センサと、前記生体栽培植物の含水率と前記吸光度(反射率)の対応関係を示す検量線のデータを保持する検量線データ保持手段を有する携帯通信端末とを備え、前記近赤外分光センサで測定された吸光度(反射率)と前記検量線のデータを用いて前記生体栽培植物の含水率を即時検出可能に構成されたことを特徴とする。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも波長1940nmを含む近赤外光を測定対象物の生体栽培植物に照射して該生体栽培植物の前記波長1940nmの吸光度を非破壊で測定する近赤外分光センサと、
前記生体栽培植物の含水率と前記吸光度の対応関係を示す検量線のデータを保持する検量線データ保持手段を有する携帯通信端末とを備え、
前記近赤外分光センサで測定された吸光度と前記検量線のデータとを用いて前記生体栽培植物の含水率を即時検出可能に構成された
ことを特徴とする非破壊型水分計測装置。
【請求項2】
前記検量線データ保持手段には、複数種類の生体栽培植物の検量線のデータが保持されている
ことを特徴とする請求項1に記載の非破壊型水分計測装置。
【請求項3】
前記携帯通信端末装置には、さらに、前記近赤外光センサの個体差を補正する補正手段が設けられている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非破壊型水分計測装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の非破壊型水分計装置を用いて、
前記生体栽培植物、又は、該生体栽培植物が栽培されている土壌の少なくともいずれか一方の灌水時期を即時検出するステップを含む
ことを特徴とする灌水時期検出方法。
【請求項5】
請求項3に記載の非破壊型水分計装置を用いて、
前記生体栽培植物、又は、該生体栽培植物が栽培されている土壌の少なくともいずれか一方の灌水時期を即時検出するステップを含む
ことを特徴とする灌水時期検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非破壊型水分計測装置に関するものであり、特に、近赤外分光法により非破壊で植物生体内の水分状態を即時(リアルタイム)計測し、また、計測した植物の水分状態から土壌マトリックポテンシャルを即時(リアルタイム)検出することができる携帯型の非破壊型水分計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、農作物等の栽培植物の灌水時期を測定する技術として、植物が栽培されている土壌の水分(含水率)を、電極式の水分計(例えば、pFメーター等)によって測定する技術が知られている。これは、植物は必要とする水分の殆どを土壌中から吸収しているため、土壌の水分状態を調べれば植物の灌水時期を間接的に把握できるので、灌水の時期が管理できるという技術思想に基づいている。
【0003】
しかしながら、上述したような土壌の水分計で広範囲に亘る根圏土壌全域の水分状態を正確に把握することは困難である。また、同じ水分状態の土壌に栽培された植物であっても、植物の種類が異なれば、植物の水分状態が異なり、つまり、灌水の時期も異なる。そこで、土壌の水分状態の測定・検出技術に加え、個々の栽培植物の生体内の水分を測定し、栽培植物の最適な灌水時期を検出する技術の開発が急務となった。また、タイムリーな灌水を行うためには、即時応答型の測定・検出技術が要求される。また、測定対象の栽培植物を非破壊で測定できることが要求される。
【0004】
ところで、物体の水分状態(含水率等)を非破壊で測定する技術として、従来から近赤外分光法を用いる技術が知られている。例えば、特許文献1には、従来技術として波長1940nm,1450nm,970nm,760nm等の近赤外光を用いて、製茶工程における茶葉の水分を測定する技術が記載されている(特許文献1の明細書段落「0007」参照。)。また、特許文献1には「1波長の場合に1940nm、2波長の場合に1940nmと2139nmとが選択可能である」(同段落「0011」参照。)と記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、被検体を破壊せず、その内部の特性値およびその分布等を測定することができる「非破壊測定装置」(特許文献2の明細書および図面参照。)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-311792号公報
【特許文献2】特開2015-108508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の発明は、単一波長1940nm、または、複数波長の近赤外光の「吸光度」を利用して「含水率を予測しよう」とするものではあるものの、測定しようとするのは、「搬入した原料生茶葉」の「製茶工程」での「茶葉」の「含水率」であり、栽培植物の生体内の水分状態を測定するものではないので課題が大きく乖離している。したがって、栽培中の植物への灌水時期に関しては、全く記載も示唆もない。また、特許文献1の
図1および詳細な説明に記載された
図1の説明(特許文献1明細書段落「0013」~「0028」)から判断すると、特許文献1に記載された発明の「水分測定装置」は、携帯性を有していないことは明らかである。
【0008】
また、特許文献2に記載された「非破壊測定装置」は、「青果物」の生体成分濃度を測定する目的であるので、栽培中の植物の生体内の水分状態を測定するものではないし、測定装置の携帯性は有するものと推量されるが、専用の装置を製作する必要があり、製造コストが増大する虞がある。
【0009】
このため、本発明では、農作物等の栽培植物の生体内の水分状態(具体的には、含水率。)を非破壊で測定することができる非破壊型水分計測装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明では、携帯性を有し、農作物等の栽培植物の生体内の水分状態を即時(リアルタイム)で計測・検出可能な非破壊型水分計測装置を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明では、本発明では、農作物等の栽培植物の生体内の水分状態を即時(リアルタイム)で計測・検出することで、栽培植物の灌水時期を即時(リアルタイム)で検出可能な非破壊型水分計測装置を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明では、測定・検出した農作物等の栽培植物の生体内の水分状態から土壌マトリックスポテンシャルを算出して土壌の灌水時期を即時(リアルタイム)で検出することができる灌水制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、農作物等の栽培植物の生体内の水分状態を非破壊で測定することができる非破壊型水分計測装置であって、少なくとも波長1940nmを含む近赤外光を測定対象物の生体栽培植物に照射して該生体栽培植物の前記波長1940nmの近赤外光の吸光度(反射率)を非破壊で測定する近赤外分光センサと、前記生体栽培植物の水分量(含水率)と前記吸光度の対応関係を示す検量線のデータを保持する検量線データ保持手段を有する携帯通信端末とを備え、前記近赤外分光センサで測定された吸光度と前記検量線のデータとを用いて前記生体栽培植物の水分量(含水率)を即時検出可能に構成されたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の非破壊型水分計測装置であって、前記検量線データ保持手段には、複数種類の生体栽培植物の検量線のデータが保持されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の非破壊型水分計測装置であって、前記携帯通信端末装置には、さらに、前記近赤外光センサの個体差を補正する補正手段が設けられていることを特徴とする。
【0016】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の非破壊型水分計装置を用いて農作物等の栽培植物の生体内の水分状態を非破壊で測定する方法であって、前記測定対象物又は該測定対象物が栽培されている土壌の少なくともいずれか一方の灌水時期を即時検出するステップを含むことを特徴とする。
【0017】
また、請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の非破壊型水分計装置を用いて農作物等の栽培植物の生体内の水分状態を非破壊で測定する方法であって、前記測定対象物又は該測定対象物が栽培されている土壌の少なくともいずれか一方の灌水時期を即時検出するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の非破壊型水分計測装置によれば、農作物等の栽培植物の生体内の水分状態を非破壊で即時(リアルタイム)に測定・検出することができるという顕著な効果を奏する。
【0019】
また、本発明の非破壊型水分計測装置によれば、農作物等の栽培植物の灌水時期または土壌の灌水時期を即時(リアルタイム)に制御管理することができるという顕著な効果を奏する。
【0020】
また、本発明の非破壊型水分計測装置によれば、市販の携帯通信端末を利用することで、携帯性・防塵性・防水性に優れているという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ナスの葉の近赤外光の反射率と波長との関係を示す図である。
【
図3】ナスの葉の灌水前後の水分量の関係を示す図である。
【
図4】椿、桜、トマトの葉の検量線を示す図である。
【
図5】ピーマン、とうがらしの検量線を示す図である。
【
図6】ナスの葉の水分量(含水率)と土壌の水分量(含水率)との関係を示す図である。
【
図7】ナスの葉の水分量(含水率)と土壌マトリックポテンシャルとの関係を示す図である。
【
図8】トマトの葉の水分量(含水率)と土壌マトリックポテンシャルとの関係を示す図である。
【
図9】ピーマンの葉の水分量(含水率)と土壌マトリックポテンシャルとの関係を示す図である。
【
図10】キュウリの葉の水分量(含水率)と土壌マトリックポテンシャルとの関係を示す図である。
【
図11】本発明の非破壊型水分計測装置の構成を示す図である。
【
図12】本発明の非破壊型水分計測装置による測定のフロー図である。
【
図13】本発明の非破壊型水分計測装置による測定の様子を示す図である
【
図14】本発明の携帯通信端末装置の表示画面の表示内容の構成の一例である。
【
図15】本発明の携帯通信端末装置の表示画面の表示内容の構成の一例である。
【
図16】本発明の携帯通信端末装置の表示画面の表示内容の構成の一例である。
【
図17】本発明の携帯通信端末装置の表示画面の表示内容の構成の一例である。
【
図18】本発明の携帯通信端末装置の表示画面の表示内容の構成の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、好適な実施形態を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、下記の実施形態は本発明を具現化した例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
(第1実施形態)
まず、本願発明において、近赤外分光法を用いて農作物等の栽培植物の生体内の水分状態を測定・検出して栽培植物の灌水時期を判断する技術、および、検出した栽培植物の生体内の水分状態から土壌マトリックスポテンシャルを算出して植物が栽培されている土壌の最適な灌水時期を管理することができる灌水制御技術について説明する。
【0024】
近赤外分光法は、水の吸収波長を含む人工の近赤外光を測定対象物に照射し、反射や透過する光の量を分析して測定対象物の水分量(含水率)を検出する手法である。一般的には、波長の異なる吸収波長と参照波長の2波長を用いるが、本願発明では、吸収波長1940nmの単一波長を用いる。この1940nmの波長を含む近赤外光を発光して分析する近赤外分光計(「近赤外分光センサ」ともいう。)は市販されているものを利用することができる。
【0025】
ここで、波長1940nmの近赤外光は、大気中の水分で吸収されるので、地上に照射される太陽光には殆ど含まれていない。したがって、本願発明による水分計測においては、太陽光(自然光)の影響を受けにくいといえる。例えば、波長1940nmの近赤外光を、ドローンにより空中から測定対象物に照射しても、空中の水分に波長1940nmの近赤外光が吸収されてしまうので、正確な測定は困難であり、本願発明の非破壊型水分計測装置による測定は、測定対象物に接触された状態で行われることが望ましい。
【0026】
図1は、ナスの葉の近赤外光の反射スペクトルの乾燥による変化を示す図であり、ナスの葉に複数の波長の光を照射した際の反射率(Relative reflectance)と波長(Wave length(nm))との関係を示している。
図1において、縦(y)軸が反射率(Relative reflectance)であり、横(x)軸が波長(Wave length(nm))である。反射率の測定は、市販品の近赤外分光器を用いた。この時点では、測定データの解析はノートパソコンを用いている。ナスの葉の含水率は、反射率測定後に破壊測定で行った結果、83%,38%,7%,2%の4通りであった。
図1に示すように、どの含水率の葉においても波長1940nmでの相対反射率が急激に低下している。このことから、1940nmの波長は水の吸水波長であるといえる。
【0027】
次に、この波長1940nmの近赤外光を用いた検量線について説明する。検量線は、一般に広く知られた技術であり、本願発明では、破壊測定で測定した葉の含水率と、上述の近赤外分光計を用いて測定した葉の吸光度(反射率)から求めることができる。
【0028】
図2は、ナスの葉の検量線について示したものである。縦軸が含水率(Water %)であり、横軸が反射率の逆数の1/R(Rは、反射率)である。
図2において、◇印は実測値であり、実線は実測値から回帰分析により算出した検量線である。このように、ナスの葉の検量線を予め求めておくことで、圃場等で栽培されているナスの葉について近赤外分光器等で1940nmの波長の吸光度を測定すれば、測定したナスの葉の含水率を即時に検出することができる。ここで、
図3は、栽培植物のナスの葉の灌水前後の水分量測定結果の一例を示したものであり、強い乾燥状態にあるナスの葉であっても、水分量が約60%以上あれば灌水後にナスが回復可能であり、灌水前のナスの葉の水分量が約43%以下の場合は灌水してもナスは回復しないことを示している。つまり、栽培植物の葉の水分量(含水率)が分かれば、植物に対する灌水タイミングを知ることが可能である。
【0029】
検量線は、植物の種類によって異なる。
図4は、椿の葉、桜の葉、トマトの葉の検量線について示したものであり、
図5は、ピーマンの葉、とうがらしの葉の検量線について示したものである。
図1と同様に、縦軸は含水率、横軸は反射率の逆数(1/R)である。このように、異なる植物ごとに予め検量線を求めておけば、複数の植物の葉の含水率を即時に検出することができる。なお、このように、検量線は、トマト、ピーマン、とうがらしのような野菜だけでなく、椿、桜のような樹木でも算出することができるので、本願発明によれば、樹木の葉の水分量(含水率)を測定・検出して、樹木の灌水時期を即時に知ることができる。
【0030】
上述したように、測定対象となる植物の検量線データを予め求めておき、1940nmの波長の近赤外光の吸光度(反射率)を測定することで、測定対象となる栽培植物の生体の葉の含水率を即時に検出することが可能である。葉の含水率を即時に検出することができれば、ピンポイントで植物に灌水することができ、高精度の灌水制御を実現することができる。
【0031】
以上は、植物の葉の含水率を即時検出できることについて説明したが、次に、この検出した植物の葉の含水率と土壌マトリクスポテンシャルの関係について説明する。
【0032】
植物にとって重要なのは土壌中の絶対的な水分量ではなく、土壌中の水分を利用できるかどうかである。例えば、砂質土壌では降雨や灌漑水がすぐに浸み込みすぐに抜けるが、粘土質土壌では浸み込みが遅く排水が遅い。植物の根はこうした土壌から水分を吸収するが、その吸収のしやすさは体積含水率では表せない。植物に対する土壌水の利用のしやすさは、マトリックポテンシャル(吸引圧、水分張力)という指標(kPa)で表される。本願出願人は、土壌の体積含水率だけでなく土壌マトリックポテンシャルセンサー(市販品)を用いて土壌中の水分の植物にとっての利用性の評価を試みた。その結果を
図6に示す。
図6は、ナスの葉の水分量(含水率)と土壌の水分量(含水率)との関係を示しており、波長1940nmの近赤外光を用いてナスをポット栽培している土壌の乾燥にともなうナスの葉の含水率の変化を測定したものである。
図6において、縦軸はナスの葉の水分量(含水率)であり、横軸は土壌の水分量(含水率)である。●印が実測値(破壊測定)、○が非破壊測定であり、実測値と非破壊測定は同様の傾向を示している。
図6に示すように、土壌の体積含水率が0.45から0.17に減少しても葉の含水率の減少は僅かであったが、土壌の体積含水率が0.17以下に減少すると葉の含水率は急激に減少した。この傾向は破壊測定による実測でも、非破壊測定でも同じであった。
【0033】
これは、土壌体積含水率が0.17に減少すると土壌マトリックポテンシャルが-100(pF3.0)となり、植物が土壌から水を吸引することが困難となる生育阻害水分点と呼ばれる状態になったことによるものである。土壌体積含水率が0.17以下では強い水ストレス状態にあることが明らかである。横軸を土壌体積含水率ではなく、土壌マトッリックポテンシャルに置き換えたグラフ(
図7参照。縦軸はナスの葉の水分量(含水率)、横軸は土壌マトリックポテンシャルを示す。)を見ると、葉の含水率は土壌マトッリックポテンシャルと比例していた。このことは、葉の含水率の非破壊測定によって、根圏全体の土壌マトッリックポテンシャルが測定可能であり、生きた植物を正確な土壌マトリックセンサー(土壌pFメーター)として活用することが可能であることを意味する。このポット栽培ナスのケースでは、葉の含水率が0.85まで低下すると、土壌マトッリックポテンシャルが-100(pF3.0)となり、植物が土壌から水を吸引することが困難となる生育阻害水分点となると判断できる。そこで、もしも生長量を低下させないことを目標とする場合には、葉の含水率を0.85以上に維持する灌水管理が有効であり、もしも適度な水ストレスを与えて果実の糖度を高めたり、機能性成分を増加させたい場合には、葉の含水率を0.85前後に維持する灌水管理が有効であると考えられる。このような土壌の乾燥による土壌マトリックポテンシャルの変化にともなう植物体内の水分量の減少パターンについては、ナス以外の植物について、例えば、温室で栽培されて精密な灌水管理が望まれるトマト、ピーマン、キュウリなどの他の作物についてもナスと同様に検討した。
【0034】
図8、
図9、
図10は、ぞれぞれ、野菜のトマト、ピーマン、キュウリについて、それぞれの葉の水分量(含水率)と土壌マトリックポテンシャルの関係を示すものである。
図8~
図10においても、
図7と同様に、縦軸は葉の水分量(含水率%)、横軸は土壌マトリックポテンシャル(kPa)を示すものである。図中、丸印は、波長1940nmの近赤外光を用いた分光測定(非破壊測定)の測定値であり、破線は、実測値(破壊測定による測定値)である。
【0035】
トマト、ピーマン、キュウリでも、葉の含水率の非破壊測定によって土壌マトリックポテンシャル、つまり、土壌灌水の必要性の有無が分かる。また、どの作物でも、葉の含水率が85%以下になると、土壌のマトリックポテンシャルは約-100(pF3.0)以下となり、強い乾燥状態になる。植物を生かすためには、この状態で灌水する必要がある。つまり、栽培植物の生体の葉の含水率を検出することで、土壌の灌水時期が即時(リアルタイム)に分かる。
【0036】
以上のように、本願発明では、波長1940nmを含む近赤外光を生体栽培植物、生体樹木等の葉に照射して吸光度(反射率)を測定し、測定結果を、予め求めておいた測定対象植物の葉の水分量(含水率)と吸光度(反射率)との関係を示す検量線データを参照することで、即時(リアルタイム)に測定対象植物の水分量(含水率)を検出してピンポイントで植物の灌水タイミングを判断することができる。さらに、検出された水分量(含水率)と土壌マトリックポテンシャルとの関係から、土壌灌水のタイミングを即時(リアルタイム)に判断することができる。このように、本願発明では、生体栽培植物および土壌の最適な灌水時期を即時(リアルタイム)に検出することで、生体栽培植物および土壌の効果的な灌水制御を実現することができる。
【0037】
(第2実施形態)
第1実施形態では、栽培植物および土壌の灌水制御技術について説明したが、第2実施形態では、栽培植物の水分量(含水率)を測定する装置について説明する。
【0038】
本実施形態では、栽培植物の水分量(含水率)を測定する好適な非破壊型水分計測装置として、市販されているスマートフォンのような携帯通信端末を用いた例を説明する。
図11は、本実施形の非破壊型水分計測装置1の構成を示す。非破壊型水分計測装置1は、携帯通信端末2と、近赤外分光センサ3を備えている。携帯通信端末2と近赤外分光センサ3とは、OTGケーブル4で有線接続されているが、無線で接続されるものでもよい。
【0039】
近赤外分光センサ3は、水分の吸収波長である1940nmの近赤外光を含む複数の波長の近赤外光を照射可能であり、測定対象物の栽培植物の葉に近赤外光を照射して、反射光のうち水の吸収波長である1940nmの近赤外光の吸光度(反射率)を測定することができる。栽培植物の葉は生体であり、生体内に水分が多いほど、1940nmの波長の近赤外光は吸収されやすい性質を持つ。本実施形態では、近赤外分光センサとして、市販品のケイエルブイ株式会社製の安価な製品(NIRONEシリーズ)を使用した。本製品は、1550nm~1950nmの波長域の近赤外光を照射して反射光を分光分析し、測定対象物(栽培植物)の波長1940nmの近赤外光の吸光度(反射率)を測定することができる。
【0040】
携帯通信端末は、市販のスマートフォンやタブレット端末を利用することができる。本実施形態の携帯通信端末2は、市販のスマートフォンを例に説明する。携帯通信端末2には、少なくとも入力手段、出力手段、記憶手段、制御手段、表示手段、通信手段等が設けられていることは周知であり、これらの手段は、市販のスマートフォンやタブレット端末に設けられている機能と同様の機能を備えている。
【0041】
ユーザーは、入力手段を用いて、携帯通信端末装置2の電源のオンオフ指示や、測定開始の指示、検量線データの新規入力・変更入力、測定モードの選択指示、キャリブレーションの指示等の操作を行うことができ、これらの操作は表示手段としても用いられるタッチパネルを使用する。タッチパネルは、液晶パネルのような表示手段とタッチパッドのような位置入力手段とを組み合わせたものである。
【0042】
出力手段は、表示手段としてのタッチパネル上に、ユーザーが入力した情報の表示、測定結果の表示、実行中の動作モードの表示等を行うものである。
【0043】
記憶手段は、携帯通信端末装置2が動作するために必要な記憶情報保持のほか、特に、複数種類の生体栽培植物の検量線データを保持するものである。保持されている検量線データは、必要に応じてユーザーにより書き換えることができる。
【0044】
制御手段は、例えばコンピュータとしてのCPU、記憶装置としてのROM、RAM等を主体に構成され、通信端末2の動作を全体的に制御する。近赤外分光センサ3への指示、データの送受信も制御手段が実行する。上述した入力手段、出力手段、記憶手段、表示手段、通信手段の制御も制御手段が実行する。また、制御手段は、測定した吸光度(反射率)から、対応する検量線データに基づいて栽培植物の含水率、土壌マトリックポテンシャル等を算出する。つまり、制御手段により、本願発明の非破壊型水分計測装置1の動作が制御される。
【0045】
表示手段は、前述したようにタッチパネルで構成され、ユーザーが入力した情報の表示、測定モードの表示、測定結果の表示、測定アプリケーションプログラム(以下、「測定アプリ」という。)の動作状態の表示等を行うことができる。なお、以下、タッチパネルを表示画面ということがある。
【0046】
通信手段は、アンテナ、通信インターフェース回路等を備え、WIFIや4G、5G等の通信規格により、他の通信端末との通信(具体的には、インターネットへのアクセス等のネットワーク通信、メールの送受信、電話通信等。)を行うことができる。また、携帯端末装置2は、位置情報検出手段を備え、GPS等を利用して、自身の位置情報を検出することができる。検出した位置情報は、表示画面に出力表示可能であり、また、通信手段を介して、他の通信端末に位置情報を送信することも可能である。
【0047】
また、本願発明の非破壊型水分計測装置1は、ネットワーク通信を利用して、例えば、灌水システムに備えられている水分供給装置の構成部品である電磁弁や関連する機器等の遠隔操作による自動灌水制御を行うことができ、データの収集・記録も可能である。このように、本願発明の非破壊型水分計測装置1は、IoT(Internet of Things)、WAGRI(農業データ連携基盤)に対応したネットワーク通信が可能である。
【0048】
次に、本願発明の非破壊型水分計測装置1を用いた生体栽培植物の水分量(含水率)の測定フローについて説明する。
図12は、非破壊型水分計測装置1による測定のフロー図である。
【0049】
本願発明の非破壊破壊型水分計測装置1を用いた栽培植物の含水率の測定では、まず、携帯通信端末2と赤外分光センサ3を接続した後、携帯通信端末2に組み込まれた含水率測定用の測定アプリを起動させる。含水率測定用の測定アプリは、事前に外部からダウンロードし、携帯通信端末2内の記憶手段に保持される。携帯通信端末2内の制御手段は、この測定アプリを読み出して所定の命令を実行する。
【0050】
図12は、本発明の非破壊型水分計測装置1による測定のフローを示した図である。図示するように、携帯通信端末1と近赤外分光センサ3とが接続される(ステップ1)と、自動的に測定アプリが起動される(ステップ2)。測定アプリが起動されると、ユーザーは、携帯通信端末装置2の表示画面に表示されたメニュー等を操作することで、複数の測定モードの中から所望の測定モードを選択することができる(ステップ3)。なお、測定モードとは、例えば、連続測定モード、ワンショット測定モード、定期測定モード等が設定されている。また、このときに、例えば、ユーザーが測定対象の栽培植物の種類を表示画面のメニューから選択することで、制御手段により対応する検量線データが選択されて記憶手段に記憶される。
【0051】
特定の測定モードが選択されると、測定対象の含水率の測定が開始される(ステップ4)。
図13に本実施形態の非破壊型水分計測装置1を用いて栽培植物の生体の葉5を接触状態で測定する様子を示す。携帯通信端末2の制御手段は、選択された測定モードで近赤外分光センサ3に近赤外光の照射指示を行う。近赤外分光センサ3は、指示された測定モードに基づき、葉5に波長1550nm~1940nmの近赤外光を照射し、葉5からの波長1940nmの近赤外光の反射率(吸光度)を計測してそのデータを制御手段に送信する。
【0052】
制御手段は、近赤外分光センサー3から受信した反射率のデータと記憶手段に記憶している対応する検量線のデータとから、含水率を算出して、表示画面に表示させる。また、計測した反射率のデータや算出した含水率等を記憶手段に記憶し、必要に応じて表示画面に再表示させることもできる。この含水率の値から測定した栽培植物に灌水が必要か否か、つまり、測定した栽培植物の最適な灌水時期を即時に検出することができる。なお、反射率(R)のデータは、含水率との対応付けを行うときは、反射率の逆数(1/R)に変換する。
【0053】
なお、記憶手段に予め栽培植物の含水率と土壌マトリックポテンシャルとの関係を示すデータを記憶しておき、このデータと、本発明の非破壊型水分計測装置1で測定した含水率のデータとから、土壌マトリックポテンシャルを算出し、土壌の灌水時期を即時検出することもできる。
【0054】
測定が終了すると、ユーザーは表示画面のメニューから測定モードを変更するか否かを選択することができる(ステップ5)。測定モードの変更を選択したら測定モードの選択(ステップ3)に戻り、前述した操作、制御、測定、検出等が繰り返される。ユーザーが測定モードを変更しないことを選択した場合は、表示画面のメニューによりアプリを終了するか否かの選択を行う(ステップ6)。測定アプリを終了することが選択されたら、制御手段は測定アプリを終了させ(ステップ7)、測定アプリを終了することが選択されなかった場合は、前述の測定(ステップ4)に戻る。
【0055】
以下、測定アプリによる表示画面の表示内容について例示する。なお、本願発明の主な機能について説明する。
図14は、携帯通信端末2の表示画面(タッチパネル)上に表示される内容と画面の構成を示している。画面中央上部には、測定値が表示される。測定値は、検量線の算出結果(含水率)、または、近赤外分光センサの出力値(反射率)を選択してリアルタイムで表示することができる。また、測定結果は、横軸を時間軸としたグラフで表示され、含水率の経時変化を表示することができる。また、本実施形態では、ユーザーの操作を受けた制御手段の指示により、近赤外分光センサ3が含水率を測定する反射光の波長を選択して切り替えることができるので、測定波長を表示することができるように構成されている。
【0056】
図15は、ダーク補正画面の例を示す。ダーク補正(「ダークキャリブレーション」ともいう。)は、赤外分光センサ3の個体差を補正するための機能である。表示画面の「ダークキャリブレーション」と表示されたボタンを操作(タップ)することで、測定を開始する前に、接続された近赤外分光センサ3のダーク補正を実行し、補正値を記憶手段に記憶する。測定時には、この記憶された補正値を用いて、実測値の補正を行うことができる。なお、測定環境により発生する測定誤差も補正することができる。
【0057】
図16は、機能・設定画面の構成を示す。この表示画面では、「ファイル転送・削除」、「複数波長同時測定」、「検量線変更」等の機能を選択するメニューが表示される。このうちの「検量線変更」について、
図17に示す。
図17では、測定対象の栽培植物の種類として「トマトの葉」が表示されているが、複数種類の栽培植物の表示が可能である。ユーザーが測定対象の栽培植物の種類をメニューから選択することができるように構成されている。例えば、ユーザーが「トマトの葉」のメニューを選択すると、
図18に示すような検量線設定画面に切換わり、検量線の係数等を入力することができる。本実施形態では、検量線は、例えば、式y=ax+bのように一次式で表現しており、係数“a”と切片定数“b”を入力することができる。この係数“a”、切片定数“b”は、破壊測定等で予め求められた値である。入力された検量線のデータは記憶手段に記憶され、制御手段により、近赤外分光センサ3で測定された反射率のデータと対応付けされて含水率を算出することができる。
【0058】
以上のように、本願発明にかかる実施形態では、非破壊型水分計測装置1により、近赤外分光センサを用いて生体栽培植物の含水率を即時に測定して、測定植物の最適な灌水時期を即時に検出することができる。非破壊型水分計測装置1の構成が、携帯通信端末2と近赤外分光センサ3とOTGケーブル4であり、携帯性、防水・防塵性に優れている。また、本実施形態では、栽培植物が育成されている土壌の最適な灌水時期も即時に検出することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 非破壊型水分計測装置
2 携帯通信端末
3 近赤外分光センサ
4 OTGケーブル
5 葉