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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176242
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B62K 5/08 20060101AFI20241212BHJP
   B62K 5/10 20130101ALI20241212BHJP
   B62K 5/05 20130101ALI20241212BHJP
【FI】
B62K5/08
B62K5/10
B62K5/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094654
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100167900
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 仁
(72)【発明者】
【氏名】荻原 一輝
(72)【発明者】
【氏名】鉾井 隆明
(72)【発明者】
【氏名】戸田 健吾
(72)【発明者】
【氏名】松澤 孝明
(72)【発明者】
【氏名】大和 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】小太刀 崇
(72)【発明者】
【氏名】古田 貴之
【テーマコード(参考)】
3D011
【Fターム(参考)】
3D011AA02
3D011AD01
3D011AD03
(57)【要約】
【課題】ハンドルおよび車輪の間に空間を形成することができ、車両の設計自由度を向上させることができる車両の提供。
【解決手段】3輪バイク1は、人体を着座させるサドル2と、左右一対の前輪31、および後輪32を有する少なくとも3輪の車輪3と、車輪3を操舵するハンドル4と、車輪3、およびハンドル4を支持するフレーム5とを備える。3輪バイク1は、フレーム5に支持されるとともに、各前輪31を上下方向に揺動させる左右一対のスイングアーム51と、ハンドル4および前輪31のハブを接続するとともに、ハンドル4の操作に基づいて各前輪31を操舵するステアリングリンク53とを有するハブセンターステアリング機構を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体を着座させる着座部と、左右一対の前輪、および後輪を有する少なくとも3輪の車輪と、前記車輪を操舵するハンドルと、前記車輪、および前記ハンドルを支持するフレームとを備える車両であって、
前記フレームに支持されるとともに、前記各前輪を上下方向に揺動させる左右一対のスイングアームと、前記ハンドルおよび前記前輪のハブを接続するとともに、前記ハンドルの操作に基づいて前記各前輪を操舵するステアリングリンクとを有するハブセンターステアリング機構を備えることを特徴とする車両。
【請求項2】
請求項1に記載された車両において、
当該車両を制御する制御装置と、
操舵輪における操舵軸のキャスター角を調整するキャスター角調整機構とを備え、
前記制御装置は、
前記車両の直進および旋回の走行状態を検出する走行状態検出部と、
前記走行状態検出部にて前記車両の直進を検出した場合に、前記キャスター角を大きくするように前記キャスター角調整機構に調整させ、前記走行状態検出部にて前記車両の旋回を検出した場合に、前記キャスター角を小さくするように前記キャスター角調整機構に調整させるキャスター角調整機構制御部とを備えることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも3輪の車輪を備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体を着座させる着座部と、少なくとも3輪の車輪と、車輪を操舵するハンドルと、車輪、およびハンドルを支持するフレームとを備える車両が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された車両は、左右一対の後輪を有し、左右一対の後輪は、一方の車輪の上昇に伴って他方の車輪を下降させるとともに、他方の車輪の上昇に伴って一方の車輪を下降させるリーン装置(差動リーン機構)を備えている。そして、リーン装置は、リーンモータの駆動により車体本体を左右方向に傾斜させることができるように構成されているので、車両は、旋回時に車体本体を傾斜させるようにリーン装置を駆動することによって、安定して旋回することができるようになっている。
ところで、このような車両において、ハンドルにて車輪を操舵する機構としてフロントフォーク機構が知られている。フロントフォーク機構は、車輪の両側を支持する左右一対のブレードと、左右一対のブレードを接続するクラウンとを備え、このクラウンをハンドルにて操舵することによって、車輪を操舵することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-69672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フロントフォーク機構は、ブレードを介して車輪およびハンドルを直接的に接続しているので、ハンドルおよび車輪の間に空間を形成することができず、車両の設計自由度は低下してしまうという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、ハンドルおよび車輪の間に空間を形成することができ、車両の設計自由度を向上させることができる車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両は、人体を着座させる着座部と、左右一対の前輪、および後輪を有する少なくとも3輪の車輪と、車輪を操舵するハンドルと、車輪、およびハンドルを支持するフレームとを備える車両であって、フレームに支持されるとともに、各前輪を上下方向に揺動させる左右一対のスイングアームと、ハンドルおよび前輪のハブを接続するとともに、ハンドルの操作に基づいて各前輪を操舵するステアリングリンクとを有するハブセンターステアリング機構を備えることを特徴とする。
【0007】
このような構成によれば、車両は、ハブセンターステアリング機構を備えるので、フロントフォーク機構を備えた車両と比較して、ハンドルおよび前輪の間に空間を形成することができ、車両の設計自由度を向上させることができる。例えば、車両は、この空間に蓄電池や、制御装置などを設置することができる。また、車両は、この空間に装飾を施すことによって、デザイン性を向上させることもできる。
【0008】
本発明では、この車両を制御する制御装置と、操舵輪における操舵軸のキャスター角を調整するキャスター角調整機構とを備え、制御装置は、車両の直進および旋回の走行状態を検出する走行状態検出部と、走行状態検出部にて車両の直進を検出した場合に、キャスター角を大きくするようにキャスター角調整機構に調整させ、走行状態検出部にて車両の旋回を検出した場合に、キャスター角を小さくするようにキャスター角調整機構に調整させるキャスター角調整機構制御部とを備えることが好ましい。
【0009】
このような構成によれば、キャスター角調整機構制御部は、走行状態検出部にて車両の直進を検出した場合に、キャスター角を大きくするように操舵輪のキャスター角度をキャスター角調整機構に調整させ、走行状態検出部にて車両の旋回を検出した場合に、キャスター角を小さくするように操舵輪のキャスター角度をキャスター角調整機構に調整させるので、車両は、直進時に安定性を向上させることができ、旋回時に機動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係る3輪バイクを示す斜視図
図2】左前輪を示す拡大斜視図
図3】キャスター角を小さくした状態の3輪バイクを示す拡大斜視図
図4】キャスター角を大きくした状態の3輪バイクを示す拡大斜視図
図5】差動リーン機構を前輪側から見た拡大斜視図
図6】差動リーン機構の動作を示す拡大斜視図
図7】差動リーン機構を右側面側から見た部分斜視図
図8】差動リーン機構を正面側から見た図、および断面図
図9】一方の車輪の上昇に伴って他方の車輪を下降させた状態における差動リーン機構の動作を示す拡大斜視図
図10】スプリングホルダを移動させた状態における差動リーン機構を右側面側から見た部分斜視図
図11】スプリングホルダを移動させた状態における差動リーン機構を正面側から見た図、および断面図
図12】スプリングホルダをストッパに当接するまで移動させた状態において、一方の車輪の上昇に伴って他方の車輪を下降させた状態における差動リーン機構の動作を示す拡大斜視図
図13】3輪バイクの全体構成を示す概略構成図
図14】本発明の第2実施形態に係る差動リーン機構を右側面側から見た部分斜視図
図15】差動リーン機構を正面側から見た図、および断面図
図16】一方の車輪の上昇に伴って他方の車輪を下降させた状態における差動リーン機構の動作を示す拡大斜視図
図17】スプリングホルダを移動させた状態における差動リーン機構を右側面側から見た部分斜視図
図18】一方の車輪の上昇に伴って他方の車輪を下降させた状態における差動リーン機構の動作を示す拡大斜視図
図19】スプリングホルダを移動させた状態における差動リーン機構を右側面側から見た部分斜視図
図20】本発明の第3実施形態に係る3輪バイクの全体構成を示す概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る3輪バイクを示す斜視図である。
3輪バイク1は、図1に示すように、人体を着座させる着座部であるサドル2と、3輪の車輪3と、車輪3を操舵するハンドル4と、車輪3、およびハンドル4を支持するフレーム5とを備える車両である。
なお、図1では、鉛直上方向を+Z軸方向とし、このZ軸と直交する2軸をX,Y軸として説明する。以下の図面においても同様である。
【0012】
車輪3は、フレーム5の+Y軸方向側に取り付けられた前輪31と、フレーム5の-Y軸方向側に取り付けられた後輪32とを備えている。
前輪31は、フレーム5の-X軸方向側に取り付けられた左前輪33と、フレーム5の+X軸方向側に取り付けられた右前輪34とを備え、左右一対の2輪を有している。
後輪32は、フレーム5に取り付けられたモータ35に接続されている。このモータ35は、3輪バイク1の搭乗者によるアクセルの操作入力に応じて駆動輪である後輪32を回転軸まわりに回転させる。
【0013】
なお、本実施形態では、車輪3は、左右一対の2輪を有する前輪31を備えているが、左右一対の2輪を有する後輪を備えていてもよい。また、車輪は、左右一対の2輪を有する前輪と、左右一対の2輪を有する後輪の双方を備えていてもよく、車両は、少なくとも3輪の車輪を備えていればよい。
【0014】
図2は、左前輪を示す拡大斜視図である。
前輪31は、図2に示すように、ホイール311と、ホイール311の中心位置に取り付けられるとともに、径方向に沿って延在する操舵軸(図示略)を内部に有するハブ312と、ホイール311の外周に沿って取り付けられたタイヤ313とを備えている。
ハブ312の操舵軸は、円柱状のキャスター可変シャフト314に接続されている。したがって、前輪31は、キャスター可変シャフト314を軸まわりに回転させることによって、操舵軸の角度であるキャスター角を変更することができるようになっている。
【0015】
フレーム5は、図1および図2に示すように、角柱状に形成されるとともに、X軸まわりに回動自在となるように基端部を支持されたスイングアーム51を備え、キャスター可変シャフト314は、スイングアーム51の先端部に形成された穴に挿入されることによって、中心軸まわりに回転自在となるように支持されている。
【0016】
また、フレーム5は、図1に示すように、サドル2の-Z軸方向側において、X軸方向の両側にそれぞれ取り付けられた2枚のセッティングプレート52を備えている。各セッティングプレート52は、3輪バイク1の搭乗者によるハンドル4の操作入力を伝達するステアリングリンク53、およびキャスター可変シャフト314をX軸まわりに回転させるためのキャスターリンクロッド54を取り付けるための複数の穴を有している。
【0017】
ステアリングリンク53は、ハンドル4の-Z軸方向側の端部に取り付けられたステアリングアーム530に一端を接続されたステアリングロッド531と、+Z軸方向側の端部をステアリングロッド531の他端に接続されるとともに、セッティングプレート52に形成された穴に回動自在に取り付けられたリンク部材532と、リンク部材532の-Z軸方向側の端部に一端を接続されたタイロッド533とを備えている。このタイロッド533の他端は、ナックルアーム534を介して前輪31に接続されている。
【0018】
3輪バイク1の搭乗者によるハンドル4の操作入力は、ステアリングアーム530、ステアリングロッド531、およびリンク部材532を介してY軸方向に沿ってタイロッド533を前後に移動させる。そして、タイロッド533は、前後に移動することによって、ナックルアーム534を介してハンドル4の操作入力を前輪31に伝達し、前輪31は、操舵軸まわりに回動する。
【0019】
このように、3輪バイク1は、フレーム5に支持されるとともに、各前輪31を上下方向に揺動させる左右一対のスイングアーム51と、ハンドル4および前輪31のハブ312を接続するとともに、ハンドル4の操作に基づいて各前輪31を操舵するステアリングリンク53とを有するハブセンターステアリング機構を備えている。
【0020】
キャスターリンクロッド54は、セッティングプレート52に形成された穴に基端部を取り付けられるとともに、リアクションレバー55の一端に先端部を取り付けられている。リアクションレバー55の他端は、キャスター可変シャフト314における前輪31とは反対側の端部に接続されている。したがって、キャスターリンクロッド54は、基端部を取り付けるセッティングプレート52の穴の位置をY軸方向に移動させることによって、リアクションレバー55を介してキャスター可変シャフト314を回転させてキャスター角を変更することができる。
【0021】
図3は、キャスター角を小さくした状態の3輪バイクを示す拡大斜視図である。図4は、キャスター角を大きくした状態の3輪バイクを示す拡大斜視図である。
キャスターリンクロッド54は、セッティングプレート52の穴の位置を+Y軸方向に移動させることによって、図3に示すように、リアクションレバー55をX軸回り(図中時計回り矢印参照)に回動させてキャスター角を小さくすることができ、-Y軸方向に移動させることによって、図4に示すように、リアクションレバー55をX軸回り(図中反時計回り矢印参照)に回動させてキャスター角を大きくすることができる。
したがって、セッティングプレート52、キャスターリンクロッド54、およびリアクションレバー55は、操舵輪における操舵軸のキャスター角を調整するキャスター角調整機構50(図13参照)として機能している。
【0022】
また、左右一対の前輪31は、一方の車輪(例えば左前輪33)の上昇に伴って他方の車輪(例えば右前輪34)を下降させるとともに、他方の車輪の上昇に伴って一方の車輪を下降させる差動リーン機構6を備えている。
【0023】
図5は、差動リーン機構を前輪側から見た拡大斜視図である。
差動リーン機構6は、図5に示すように、左右一対のスイングアーム51にそれぞれ取り付けられた左右一対のショックアブソーバー61と、各ショックアブソーバー61を接続する差動リーンリンク62と、X軸方向における差動リーンリンク62の中央位置を回動中心として差動リーンリンク62をフレーム5に対して回動自在に軸支する回動機構63とを備えている。
【0024】
図6は、差動リーン機構の動作を示す拡大斜視図である。
差動リーンリンク62は、図6に示すように、一方の車輪である左前輪33の上昇に伴って、Y軸まわり(図中反時計回り)に回動し、他方の車輪である右前輪34を下降させることができる。また、差動リーンリンク62は、他方の車輪である右前輪34の上昇に伴って、Y軸まわり(図中時計回り)に回動し、一方の車輪である左前輪33を下降させることができる(図示略)。
【0025】
図7は、差動リーン機構を右側面側から見た部分斜視図である。図8(A)は、差動リーン機構を正面側から見た図であり、図8(B)は、図8(A)のA-A断面図である。
回動機構63は、図7および図8に示すように、フレーム5に取り付けられた略L字状のシャフトホルダ56に形成された穴に挿入されるとともに、このシャフトホルダ56に固定された円柱軸状のシャフト631(所定の円柱軸)を備えている(図8(B)参照)。差動リーンリンク62は、図8(B)に示すように、その中央位置に形成された丸穴を有し、ベアリング621を介してシャフト631に挿通されることによって、回動自在に軸支されている。換言すれば、差動リーンリンク62は、シャフト631の中心軸まわりに回動自在となっている。また、差動リーンリンク62は、シャフト631に回動可能に取り付けられるとともに、一方の車輪にスイングアーム51を介して一端を接続され、他方の車輪にスイングアーム51を介して他端を接続されている。
【0026】
また、回動機構63は、図7および図8に示すように、シャフト631に挿通されるとともに、シャフト631と同軸となるように差動リーンリンク62に固定された円環状の第1カム632と、シャフト631に挿通されるとともに、第1カム632と篏合する円環状の第2カム633とを備えている。
さらに、回動機構63は、シャフト631に挿通されるとともに、第2カム633に固定された円筒状のスライダ634と、シャフト631に挿通されるとともに、スライダ634と隣り合うようにして取り付けられた円筒状のスプリングホルダ635と、シャフト631に挿通されるとともに、スライダ634およびスプリングホルダ635にて挟持されたスプリング636(図8(B)参照)と、シャフト631の+Y軸方向側の端面に取り付けられた円盤状のストッパ637とを備えている。
【0027】
第1カム632は、図7に示すように、波状に形成された端面を+Y軸方向側(第2カム633側)に有している。この第1カム632は、前述したように、シャフト631と同軸となるように差動リーンリンク62に固定されているので、差動リーンリンク62の回動に伴って、シャフト631の中心軸まわりに回動する。
第2カム633は、第1カム632における波状の端面と対応する波状に形成された端面を-Y軸方向側(第1カム632側)に有し、第1カム632と篏合するようになっている。
【0028】
スライダ634は、図8(B)に示すように、第1カム632の内径および第2カム633の内径よりも僅かに小さい外径を有し、第1カム632の内部および第2カム633の内部に挿入されている。このスライダ634は、-Y軸方向側の端部に形成されるとともに、シャフト631の外周面に形成されたキー溝と滑合する滑合部6341と、+Y軸方向側の端部に形成されるとともに、第2カム633に固定される鍔部6342とを有している。
したがって、第2カム633およびスライダ634は、シャフト631のキー溝に沿って滑合部6341を移動させることによって、シャフト631の軸方向に沿って一体的にスライドするようにシャフト631に取り付けられている。換言すれば、スライダ634、およびシャフト631のキー溝は、シャフト631に沿って第2カム633の位置を移動させる移動機構として機能している。
【0029】
このように、差動リーン機構6は、シャフト631に回動可能に取り付けられるとともに、差動リーンリンク62と一体的に回動する環状の第1カム632(第1カム部)と、シャフト631に回転不能に取り付けられるとともに、第1カム632と篏合する環状の第2カム633(第2カム部)と、シャフト631に沿って第2カム633の位置を移動させるスライダ634(移動機構)とを備えている。そして、第1カム632および第2カム633は、互いに対応する波状に形成された端面(凹凸面)を嵌め合わせることによって、篏合するようになっている。
【0030】
なお、本実施形態では、第1カム部および第2カム部は、互いに対応する波状に形成された端面を嵌め合わせることによって、篏合するようになっているが、単なる傾斜面であってもよく、互いに対応する凹凸面を嵌め合わせることによって、篏合するようになっていれば、どのような形状であってもよい。
【0031】
スプリングホルダ635は、スライダ634の内径と略同一の内径を有している。このスプリングホルダ635は、+Y軸方向側の端部に形成されるとともに、シャフト631における+Y軸側の外周面に形成された外ネジに螺合される内ネジを有する螺合部6351を有している。
したがって、スプリングホルダ635は、シャフト631の軸まわりに回転させることによって、シャフト631の軸方向に沿って移動するようにシャフト631に取り付けられている。なお、ストッパ637は、スプリングホルダ635の+Y軸方向側への移動を規制することによって、スプリングホルダ635の脱落を防止する機能を有している。
【0032】
スプリング636は、シャフト631の外周と、スライダ634の内周、およびスプリングホルダ635の内周との間に配置されている。このスプリング636は、スライダ634の滑合部6341と、スプリングホルダ635の螺合部6351とに挟持されている。
したがって、スプリング636は、第2カム633およびスライダ634の+Y軸方向側へのスライドや、スプリングホルダ635の-Y軸方向側への移動によって、圧縮されることになり、第2カム633およびスライダ634の-Y軸方向側へのスライドや、スプリングホルダ635の+Y軸方向側への移動によって、伸長されることになる。
【0033】
図9は、一方の車輪の上昇に伴って他方の車輪を下降させた状態における差動リーン機構の動作を示す拡大斜視図である。
差動リーンリンク62は、例えば、図9に示すように、一方の車輪である左前輪33のスイングアーム51(図中-X軸方向側のスイングアーム51)の上昇に伴って、Y軸まわりに回動し、他方の車輪である右前輪34のスイングアーム51(図中+X軸方向側のスイングアーム51)を下降させることができる。
【0034】
第1カム632は、差動リーンリンク62の回動に伴って、シャフト631の中心軸まわりに回動する。ここで、第1カム632および第2カム633は、互いに篏合する波状の端面を有しているので、第2カム633およびスライダ634は、第1カム632の回動に伴って、シャフト631の軸方向に沿って+Y軸方向側に向かって一体的にスライドする(図中矢印参照)。そして、スプリング636は、第2カム633およびスライダ634の+Y軸方向側へのスライドによって、圧縮される。
したがって、差動リーンリンク62は、スプリング636の弾性力に抗して回動することができるようになっている。
【0035】
図10は、スプリングホルダを移動させた状態における差動リーン機構を右側面側から見た部分斜視図である。図11(A)は、スプリングホルダを移動させた状態における差動リーン機構を正面側から見た図であり、図11(B)は、図11(A)のA-A断面図である。
スプリングホルダ635は、シャフト631の軸まわりに回転させることによって、シャフト631の軸方向に沿って移動するようにシャフト631に取り付けられているので、図10および図11に示すように、ストッパ637に当接するまで移動させることができる。
【0036】
図12は、スプリングホルダをストッパに当接するまで移動させた状態において、一方の車輪の上昇に伴って他方の車輪を下降させた状態における差動リーン機構の動作を示す拡大斜視図である。
差動リーンリンク62は、例えば、図12に示すように、一方の車輪である左前輪33のスイングアーム51(図中-X軸方向側のスイングアーム51)の上昇に伴って、Y軸まわりに回動し、他方の車輪である右前輪34のスイングアーム51(図中+X軸方向側のスイングアーム51)を下降させることができる。
【0037】
第1カム632は、差動リーンリンク62の回動に伴って、シャフト631の中心軸まわりに回動する。ここで、第1カム632および第2カム633は、互いに篏合する波状の端面を有しているので、第2カム633およびスライダ634は、第1カム632の回動に伴って、シャフト631の軸方向に沿って+Y軸方向側に向かって一体的にスライドする。そして、スプリング636は、第2カム633およびスライダ634の+Y軸方向側へのスライドによって、圧縮される。
したがって、差動リーンリンク62は、スプリング636の弾性力に抗して回動することができるようになっている。
【0038】
ここで、スプリング636は、前述したように、スプリングホルダ635の+Y軸方向側への移動によって、伸長されることになるので、差動リーンリンク62は、スプリングホルダ635を-Y軸方向側に移動させた状態と比較して小さくなったスプリング636の弾性力に抗して回動することができるようになる。
換言すれば、スプリングホルダ635は、+Y軸方向側に移動させることによって、差動リーン機構6の減衰力を小さくすることができ、-Y軸方向側に移動させることによって、差動リーン機構6の減衰力を大きくすることができるので、差動リーン機構6の減衰力を調整する差動リーン機構調整装置7(図13参照)の一部として機能している。
【0039】
このように、本実施形態では、差動リーン機構調整装置7は、第2カム633を第1カム632に向かって付勢するスプリング636(付勢手段)と、スプリング636の付勢力を調整するスプリングホルダ635(調整手段)とを備えている。
なお、本実施形態では、差動リーン機構調整装置は、付勢手段および調整手段を備えることによって、差動リーン機構の減衰力を調整しているが、差動リーン機構の減衰力を調整することができれば、他の構造を採用してもよい。
【0040】
図13は、3輪バイクの全体構成を示す概略構成図である。
3輪バイク1は、図13に示すように、サドル2と、3輪の車輪3と、ハンドル4と、フレーム5と、差動リーン機構6と、差動リーン機構調整装置7とを備えている他、3輪バイク1を制御する制御装置8を備えている。
【0041】
制御装置8は、走行速度検出部81と、差動リーン機構制御部82とを備えている。
走行速度検出部81は、例えば、モータ35の回転速度を検出することによって、3輪バイク1の走行速度を検出する。
なお、本実施形態では、走行速度検出部81は、モータ35の回転速度を検出することによって、3輪バイク1の走行速度を検出しているが、モータ35の回転数を検出するなどの他の方法によって、3輪バイク1の走行速度を検出するようにしてもよい。
【0042】
差動リーン機構制御部82は、走行速度検出部81にて検出された走行速度が速い場合に、減衰力を小さくするように差動リーン機構6の減衰力を差動リーン機構調整装置7に調整させる。また、差動リーン機構制御部82は、走行速度検出部81にて検出された走行速度が遅い場合に、減衰力を大きくするように差動リーン機構6の減衰力を差動リーン機構調整装置7に調整させる。具体的には、3輪バイク1は、スプリングホルダ635を回動させる駆動部(図示略)を備え、差動リーン機構制御部82は、この駆動部にてスプリングホルダ635を回動させてスプリングホルダ635をY軸方向に沿って移動させることによって、差動リーン機構6の減衰力を調整する。
【0043】
このような本実施形態によれば、以下の作用・効果を奏することができる。
(1)差動リーン機構制御部82は、走行速度検出部81にて検出された走行速度が速い場合に、減衰力を小さくするように差動リーン機構6の減衰力を差動リーン機構調整装置7に調整させ、走行速度検出部81にて検出された走行速度が遅い場合に、減衰力を大きくするように差動リーン機構6の減衰力を差動リーン機構調整装置7に調整させるので、3輪バイク1は、高速走行時に操作性を向上させることができ、低速走行時に転倒しにくくさせることができる。また、3輪バイク1は、差動リーン機構6の減衰力を極めて大きく調整することによって、リーンの最大傾斜角を一定に制限することなく停車時に自立することができる。
【0044】
(2)差動リーン機構調整装置7は、第2カム633を第1カム632に向かって付勢するスプリング636と、スプリング636の付勢力を調整するスプリングホルダ635とを備えるので、スプリング636の付勢力を大きくすることによって、減衰力を大きくするように差動リーン機構6の減衰力を調整することができ、スプリング636の付勢力を小さくすることによって、減衰力を小さくするように差動リーン機構6の減衰力を調整することができる。
【0045】
(3)3輪バイク1は、ハブセンターステアリング機構を備えるので、フロントフォーク機構を備えた車両と比較して、ハンドル4および前輪31の間に空間を形成することができ、車両の設計自由度を向上させることができる。例えば、3輪バイク1は、この空間に蓄電池や、制御装置8などを設置することができる。また、3輪バイク1は、この空間に装飾を施すことによって、デザイン性を向上させることもできる。
【0046】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。
図14は、本発明の第2実施形態に係る差動リーン機構を右側面側から見た部分斜視図である。図15(A)は、差動リーン機構を正面側から見た図であり、図15(B)は、図15(A)のA-A断面図である。
前記第1実施形態では、差動リーン機構6は、回動機構63を備え、回動機構63は、スプリング636を備えていた。
これに対して、本実施形態では、差動リーン機構6Aは、図14および図15に示すように、回動機構63Aを備え、回動機構63Aは、スプリングを備えていない点で前記第1実施形態と異なる。
なお、以下の説明では、既に説明した部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0047】
図16は、一方の車輪の上昇に伴って他方の車輪を下降させた状態における差動リーン機構の動作を示す拡大斜視図である。
差動リーンリンク62は、例えば、図16に示すように、一方の車輪である左前輪33のスイングアーム51(図中-X軸方向側のスイングアーム51)の上昇に伴って、Y軸まわりに回動し、他方の車輪である右前輪34のスイングアーム51(図中+X軸方向側のスイングアーム51)を下降させることができる。
【0048】
第1カム632は、差動リーンリンク62の回動に伴って、シャフト631の中心軸まわりに回動する。ここで、第1カム632および第2カム633は、互いに篏合する波状の端面を有しているので、第2カム633およびスライダ634は、第1カム632の回動に伴って、シャフト631の軸方向に沿って+Y軸方向側に向かって一体的にスライドする(図中矢印参照)。そして、第2カム633およびスライダ634は、スプリングホルダ635と当接することによって、+Y軸方向側への移動を規制されることになる。したがって、スプリングホルダ635は、第1カム632から離間する方向への第2カム633の移動を規制する規制手段として機能している。
なお、本実施形態では、スプリングホルダ635は、スプリングを挟持していないが、前記第1実施形態と同様に、スプリングを挟持していてもよい。
【0049】
図17は、スプリングホルダを移動させた状態における差動リーン機構を右側面側から見た部分斜視図である。
スプリングホルダ635は、シャフト631の軸まわりに回転させることによって、シャフト631の軸方向に沿って移動するようにシャフト631に取り付けられているので、図17に示すように、第1カム632に近接する方向に移動させることができる。
【0050】
図18は、一方の車輪の上昇に伴って他方の車輪を下降させた状態における差動リーン機構の動作を示す拡大斜視図である。
差動リーンリンク62は、例えば、図18に示すように、一方の車輪である左前輪33のスイングアーム51(図中-X軸方向側のスイングアーム51)の上昇に伴って、Y軸まわりに回動し、他方の車輪である右前輪34のスイングアーム51(図中+X軸方向側のスイングアーム51)を下降させることができる。
【0051】
第1カム632は、差動リーンリンク62の回動に伴って、シャフト631の中心軸まわりに回動する。ここで、第1カム632および第2カム633は、互いに篏合する波状の端面を有しているので、第2カム633およびスライダ634は、第1カム632の回動に伴って、シャフト631の軸方向に沿って+Y軸方向側に向かって一体的にスライドする(図中矢印参照)。そして、第2カム633およびスライダ634は、スプリングホルダ635と当接することによって、+Y軸方向側への移動を規制されることになる。ここで、図18の例では、スプリングホルダ635は、第1カム632に近接する方向に移動させているので、リーンの最大傾斜角は、図16の例と比較して小さくなる。
【0052】
図19は、スプリングホルダを移動させた状態における差動リーン機構を右側面側から見た部分斜視図である。
スプリングホルダ635は、シャフト631の軸まわりに回転させることによって、シャフト631の軸方向に沿って移動するようにシャフト631に取り付けられているので、図19に示すように、第2カム633を第1カム632と篏合するまで移動させることができる。したがって、本実施形態では、スプリングホルダ635は、第2カム633の移動を規制する位置を第1カム632と篏合する位置に規制可能に構成されている。
なお、本実施形態では、スプリングホルダ635は、第2カム633の移動を規制する位置を第1カム632と篏合する位置に規制可能に構成されているが、第1カム632と篏合する位置まで規制可能に構成されていなくてもよい。
【0053】
このような本実施形態によれば、前記第1実施形態における(3)と同様の作用・効果を奏することができる他、以下の作用・効果を奏することができる。
(4)差動リーン機構6Aは、第1カム632から離間する方向への第2カム633の移動を規制するスプリングホルダ635を備えるので、スプリングホルダ635にて第2カム633の移動を規制する位置を第1カム632に近接させることによって、第1カム632および第2カム633の篏合部におけるクリアランスを小さくすることができ、スプリングホルダ635にて第2カム633の移動を規制する位置を第1カム632から離間させることによって、第1カム632および第2カム633の篏合部におけるクリアランスを大きくすることができる。したがって、差動リーン機構6Aは、リーンの最大傾斜角を調整することができる。
【0054】
(5)スプリングホルダ635は、第2カム633の移動を規制する位置を第1カム632と篏合する位置に規制可能に構成されているので、第1カム632および第2カム633の篏合部におけるクリアランスを0にすることができ、差動リーンリンク62の回動をロックすることができる。
【0055】
〔第3実施形態〕
以下、本発明の第3実施形態を図面に基づいて説明する。
図20は、本発明の第3実施形態に係る3輪バイクの全体構成を示す概略構成図である。
前記第1実施形態では、キャスター角調整機構50は、キャスターリンクロッド54を取り付けるセッティングプレート52の穴の位置をY軸方向に移動させることによって、操舵輪における操舵軸のキャスター角を調整していた。また、制御装置8は、走行速度検出部81と、差動リーン機構制御部82とを備えていた。
これに対して、本実施形態では、キャスター角調整機構50Bは、図20に示すように、キャスターリンクロッド54をY軸方向に沿って移動させるロッド駆動部57を備え、このロッド駆動部57にてキャスターリンクロッド54をY軸方向に移動させることによって、操舵輪における操舵軸のキャスター角を調整する点で前記第1実施形態と異なる。また、本実施形態では、制御装置8Bは、走行状態検出部83と、キャスター角調整機構制御部84とを備えている点で前記第1実施形態と異なる。
【0056】
走行状態検出部83は、例えば、ハンドル4の回転角度を検出することによって、3輪バイク1の直進および旋回の走行状態を検出する。
なお、本実施形態では、走行状態検出部83は、ハンドル4の回転角度を検出することによって、3輪バイク1の直進および旋回の走行状態を検出しているが、ジャイロセンサにて角速度を検出するなどの他の方法によって、3輪バイク1の直進および旋回の走行状態を検出するようにしてもよい。
【0057】
キャスター角調整機構制御部84は、走行状態検出部83にて3輪バイク1の直進を検出した場合に、ロッド駆動部57にてキャスターリンクロッド54を-Y軸方向に移動させることによって、キャスター角を大きくするようにキャスター角調整機構50Bに調整させ、走行状態検出部83にて3輪バイク1の旋回を検出した場合に、ロッド駆動部57にてキャスターリンクロッド54を+Y軸方向に移動させることによって、キャスター角を小さくするようにキャスター角調整機構50Bに調整させる。
【0058】
このような本実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の作用・効果を奏することができる他、以下の作用・効果を奏することができる。
(6)キャスター角調整機構制御部84は、走行状態検出部83にて3輪バイク1の直進を検出した場合に、キャスター角を大きくするように操舵輪のキャスター角度をキャスター角調整機構50Bに調整させ、走行状態検出部83にて3輪バイク1の旋回を検出した場合に、キャスター角を小さくするように操舵輪のキャスター角度をキャスター角調整機構50Bに調整させるので、3輪バイク1は、直進時に安定性を向上させることができ、旋回時に機動性を向上させることができる。
【0059】
〔実施形態の変形〕
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、スプリングホルダ635は、第1カム632から離間する方向への第2カム633の移動を規制する規制手段として機能していたが、差動リーン機構は、第1カム部から離間する方向への第2カム部の移動を規制する規制手段を備えていなくてもよい。
また、前記実施形態では、3輪バイク1は、差動リーン機構6の減衰力を調整する差動リーン機構調整装置7を備えていたが、車両は、差動リーン機構調整装置を備えていなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明は、少なくとも3輪の車輪を備える車両に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0061】
1 3輪バイク
2 サドル(着座部)
3 車輪
4 ハンドル
5 フレーム
6,6A 差動リーン機構
7 差動リーン機構調整装置
8,8B 制御装置
31 前輪
32 後輪
50,50B キャスター角調整機構
51 スイングアーム
52 セッティングプレート
53 ステアリングリンク
54 キャスターリンクロッド
55 リアクションレバー
56 シャフトホルダ
57 ロッド駆動部
61 ショックアブソーバー
62 差動リーンリンク
63,63A 回動機構
81 走行速度検出部
82 差動リーン機構制御部
83 走行状態検出部
84 キャスター角調整機構制御部
311 ホイール
312 ハブ
313 タイヤ
314 キャスター可変シャフト
530 ステアリングアーム
531 ステアリングロッド
532 リンク部材
533 タイロッド
534 ナックルアーム
621 ベアリング
631 シャフト(所定の円柱軸)
632 第1カム(第1カム部)
633 第2カム(第2カム部)
634 スライダ(移動機構)
635 スプリングホルダ(調整手段,規制手段)
636 スプリング(付勢手段)
637 ストッパ
6341 滑合部
6342 鍔部
6351 螺合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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