(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176250
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】全固体電池用正極スラリーの評価方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20241212BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241212BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241212BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M10/0562
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094676
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】田原 清楓
(72)【発明者】
【氏名】亀山 勉
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 万由子
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK16
5H029AK18
5H029AM12
5H029AM16
5H029HJ20
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CA29
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA23
5H050GA27
5H050GA28
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】全固体電池用正極スラリーにおいて、正極活物質における固体電解質の被覆状態を精度良く評価することを目的とする。
【解決手段】正極活物質と、固体電解質と、導電助剤と、バインダー材とが混練分散された全固体電池用正極スラリーを、両端に電極を設けた測定容器に封入し、交流インピーダンスを測定する測定工程と、前記交流インピーダンス・データから周波数領域を特定する周波数領域特定工程と、前記特定された周波数領域の交流インピーダンス虚数軸のパラメータ及び、前記特定された周波数領域の交流インピーダンス実数軸のパラメータに基づいて、前記正極活物質における前記固体電解質の被覆状態の良否を評価する評価工程と、を有する、全固体電池用正極スラリーの評価方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、固体電解質と、導電助剤と、バインダー材とが混練分散された全固体電池用正極スラリーを、両端に電極を設けた測定容器に封入し、交流インピーダンスを測定する測定工程と、
前記交流インピーダンス・データから周波数領域を特定する周波数領域特定工程と、
前記特定された周波数領域の交流インピーダンス虚数軸のパラメータ及び、前記特定された周波数領域の交流インピーダンス実数軸のパラメータに基づいて、前記正極活物質における前記固体電解質の被覆状態の良否を評価する評価工程と、を有する、全固体電池用正極スラリーの評価方法。
【請求項2】
前記交流インピーダンス虚数軸のパラメータは、前記全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスの虚数成分(Zim)、または、虚数成分(Zim)から導き出される分極電荷量(Cp)である、請求項1に記載の全固体電池用正極スラリーの評価方法。
【請求項3】
前記交流インピーダンス実数軸のパラメータは、前記全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスの実数成分(Zre)である、請求項1に記載の全固体電池用正極スラリーの評価方法。
【請求項4】
前記周波数領域特定工程において、前記全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスを、2つ以上の周波数領域に分けて評価する、請求項1に記載の全固体電池用正極スラリーの評価方法。
【請求項5】
前記周波数領域特定工程において、異なる周波数領域で得られた、前記交流インピーダンスの虚数成分(Zim)から導き出された分極電荷量(Cp)と、前記交流インピーダンスの実数成分(Zre)とを、単独または組み合わせて良否を評価する、請求項1に記載の全固体電池用正極スラリーの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池用の活物質、固定電解質、導電助剤、バインダー材等を含む正極用スラリーの良否を、スラリー状態で精度良く評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体電解質リチウムイオン電池や、全固体リチウムイオン電池に用いられる電極スラリーの製造において、一般的に、粘度等のレオロジーによる評価により、電極スラリーの品質管理が行われている。また、電極スラリーの品質管理方法としては、例えば、製造直後の電極スラリーを抜き取って、電極スラリーの交流インピーダンスを測定することにより、電極スラリーの良否を判定する技術が知られている。さらに、全固体リチウムイオン電池の正極スラリーの良否の評価方法としては、例えば、電極活物質における被覆材の被覆状態を評価する方法が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、活物質と固体電解質と導電助剤とを含むペーストを製造する方法において、所定の測定周波数帯域に対応する前記ペーストの交流インピーダンスを測定する測定工程と、前記測定された交流インピーダンスが複素インピーダンス平面上に描く軌跡における、所定周波数帯域に対応する円弧部分の実数部方向の幅に基づいて、前記ペーストの組成比率が所定範囲外であるか否かを判定する組成比率判定工程と、前記組成比率が前記所定範囲外であると判定されたペーストを除去する除去工程とを具備することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、電池の電極表面に塗工されるペーストを評価するためのペースト評価方法において、回転機構を有する容器と、前記ペーストの交流インピーダンスを測定する測定部とを用い、前記容器内に収容した前記ペーストを前記回転機構により回転させながら、前記測定部により前記ペーストの交流インピーダンスを測定すること、前記測定部は、前記ペーストに交流電圧を印加するために平行配置された一対の印加電極板を有し、前記回転機構による一回転分以上の前記交流インピーダンスの測定値を平均化して、前記一対の印加電極板の平行度誤差から生じる測定誤差を補正することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-222651号公報
【特許文献2】特許第5505318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
全固体電池用正極スラリーは、液体電解質リチウムイオン電池用に対し、使用する材料が増える上に、活物質と固体電解質の複合化要素を含み、その正極活物質における固体電解質の複合化(被覆状態)が電池性能に大きく寄与するとされている。しかしながら、スラリー状態において、正極活物質における固体電解質の被覆状態を評価する具体的な手法が見いだされておらず、被覆状態を精度良く評価することが困難であった。
【0007】
本願は上記課題の解決のため、全固体電池用正極スラリーにおいて、正極活物質における固体電解質の被覆状態を精度良く評価することを目的とし、電池性能の安定化、製造工程における品質管理向上、延いてはエネルギーの効率化に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]正極活物質と、固体電解質と、導電助剤と、バインダー材とが混練分散された全固体電池用正極スラリーを、両端に電極を設けた測定容器に封入し、交流インピーダンスを測定する測定工程と、
前記交流インピーダンス・データから周波数領域を特定する周波数領域特定工程と、
前記特定された周波数領域の交流インピーダンス虚数軸のパラメータ及び、前記特定された周波数領域の交流インピーダンス実数軸のパラメータに基づいて、前記正極活物質における前記固体電解質の被覆状態の良否を評価する評価工程と、を有する、全固体電池用正極スラリーの評価方法。
【0009】
本発明の全固体電池用正極スラリーの評価方法は、測定した全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスから、特定周波数領域の交流インピーダンス虚数軸のパラメータ及び、特定周波数領域の交流インピーダンス実数軸のパラメータに基づいて、正極活物質における固体電解質の被覆状態を精度良く評価することができる。
【0010】
[2]前記交流インピーダンス虚数軸のパラメータは、前記全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスの虚数成分(Zim)、または、前記交流インピーダンスの虚数成分(Zim)から導き出される分極電荷量(Cp)である、[1]に記載の全固体電池用正極スラリーの評価方法。
【0011】
本発明の全固体電池用正極スラリーの評価方法は、交流インピーダンス虚数軸のパラメータとして、交流インピーダンスの虚数成分(Zim)、または、交流インピーダンスの虚数成分(Zim)から導き出される分極電荷量(Cp)を用いるため、正極活物質における固体電解質の被覆状態を精度良く評価することができる。
【0012】
[3]前記交流インピーダンス実数軸のパラメータは、前記全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスの実数成分(Zre)である、[1]または[2]に記載の全固体電池用正極スラリーの評価方法。
【0013】
本発明の全固体電池用正極スラリーの評価方法は、交流インピーダンス実数軸のパラメータとして、全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスの実数成分(Zre)を用いるため、正極スラリーの分散状態を精度良く評価することができる。
【0014】
[4]前記周波数領域特定工程において、前記全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスを、2つ以上の周波数領域に分けて評価する、[1]~[3]のいずれかに記載の全固体電池用正極スラリーの評価方法。
【0015】
本発明の全固体電池用正極スラリーの評価方法は、全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスを、2つ以上の周波数領域に分けて評価するため、正極活物質における固体電解質の被覆状態を精度良く評価することができる。
【0016】
[5]前記周波数領域特定工程において、異なる周波数領域で得られた、前記交流インピーダンスの虚数成分(Zim)から導き出された分極電荷量(Cp)と、前記交流インピーダンスの実数成分(Zre)とを、単独または組み合わせて良否を評価する、[1]~[4]のいずれかに記載の全固体電池用正極スラリーの評価方法。
【0017】
本発明の全固体電池用正極スラリーの評価手法は、全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスを、2つ以上の周波数領域に分けて得られた交流インピーダンス虚数軸のパラメータ及び、交流インピーダンス実数軸のパラメータを組み合わせて評価するため、正極活物質における固体電解質の被覆状態をより精度良く評価することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、全固体電池用正極スラリーにおいて、正極活物質における固体電解質の被覆状態を精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態の全固体電池用正極スラリーの評価方法を示すフローチャートである。
【
図2】全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスの測定結果であるナイキストプロットの一例を示す図である。
【
図3】実施例1において、全固体電池用活物質の固体電解質被覆工程の負荷強度と分極電荷量(Cp)の関係を示す図である。
【
図4】実施例1において、全固体電池用活物質の固体電解質被覆工程の負荷強度と実数成分(Zre)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
[全固体電池用正極スラリーの評価方法]
本発明の実施形態に係る全固体電池用正極スラリーの評価方法は、正極活物質と、固体電解質と、導電助剤と、バインダー材とが混練分散された全固体電池用正極スラリーを、両端に電極を設けた測定容器に封入し、交流インピーダンスを測定する測定工程と、前記交流インピーダンス・データから周波数領域を特定する周波数領域特定工程と、前記特定された周波数領域の交流インピーダンス虚数軸のパラメータ及び、前記特定された周波数領域の交流インピーダンス実数軸のパラメータに基づいて、前記正極活物質における前記固体電解質の被覆状態の良否を評価する評価工程と、を有する。
【0022】
本実施形態の全固体電池用正極スラリーの評価方法は、本実施形態の全固体電池用正極スラリーの評価方法による評価の対象となる全固体電池用正極スラリーの調製工程を含んでいてもよい。
【0023】
図1は、本実施形態の全固体電池用正極スラリーの評価方法を示すフローチャートである。
【0024】
「調製工程」
本実施形態の全固体電池用正極スラリーの評価方法では、調製工程(
図1に示すS1)にて調製された全固体電池用正極スラリーの評価を行う。
本実施形態の全固体電池用正極スラリーの評価方法による品質管理の対象となる全固体電池用正極スラリーは、正極活物質と、固体電解質と、導電助剤と、バインダー材とを含む。
【0025】
正極活物質としては、リチウムイオンを可逆に放出・吸蔵でき、電子輸送が行える材料であれば特に限定されず、全固体型リチウムイオン電池の正極に適用可能な公知の正極活物質を用いることができる。例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)、固溶体酸化物(Li2MnO3-LiMO2(M=Co、Niなど))、リチウム-マンガン-ニッケル-コバルト酸化物(LiNixMnyCozO2、x+y+z=1)、オリビン型リチウムリン酸化物(LiFePO4)等の複合酸化物;ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子;Li2S、CuS、Li-Cu-S化合物、TiS2、FeS、MoS2、Li-Mo-S化合物等の硫化物;硫黄とカーボンの混合物;等が挙げられる。正極活物質は、上記材料の1種単独で構成されてもよいし、2種以上で構成されてもよい。
【0026】
固体電解質としては、リチウムイオン伝導性および絶縁性を有するものであれば特に制限は無く、一般的に全固体型リチウムイオン電池に用いられる材料を用いることができる。例えば、硫化物固体電解質材料、酸化物固体電解質材料、ハロゲン化物固体電解質、リチウム含有塩などの無機固体電解質や、ポリエチレンオキシドなどのポリマー系の固体電解質、リチウム含有塩やリチウムイオン伝導性のイオン液体を含むゲル系の固体電解質等を挙げることができる。これらのうち、リチウムイオンの高い導電特性とプレスによる構造成形性や界面接合性が良好である観点からは、硫化物固体電解質材料であるのが好ましい。
固体電解質材料の形態としては、特に制限は無いが、例えば、粒子状を挙げることができる。
【0027】
全固体電池用正極スラリーは、正極の導電性を向上させる観点から、導電助剤を含んでもよい。導電助剤としては一般的に全固体型リチウムイオン電池に使用可能な導電助剤を用いることができる。例えば、アセチレンブラック、ケチェンブラック等のカーボンブラック;カーボンファイバー;気相法炭素繊維;黒鉛粉末;カーボンナノチューブ等の炭素材料、を挙げることができる。導電助剤は、上記材料の1種単独で構成されてもよいし、2種以上で構成されてもよい。
【0028】
全固体電池用正極スラリーは、粘度を調節する観点から、溶媒を含んでいてもよい。
【0029】
全固体電池用正極スラリーは、正極活物質と固体電解質と導電助剤とバインダー材とを所定配合比で配合し、正極活物質と固体電解質と導電助剤とバインダー材とを含む混合物を混練機で混練することにより調製することができる。
【0030】
「測定工程」
測定工程では、2つの電極間に全固体電池用正極スラリーを配置し、2つの電極間に交流電圧または交流電流を印加して、全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスを測定する(
図1に示すS2)。
本実施形態の全固体電池用正極スラリーの評価方法では、全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスの測定に用いる交流電圧または交流電流の周波数を、例えば、5MHzから1Hzへと連続的に変化させる。
【0031】
「周波数領域特定工程」
周波数領域特定工程では、前記測定工程で取得した交流インピーダンスの測定データから、正極活物質における固体電解質の被覆状態の評価に用いる、交流の周波数領域を特定する(
図1に示すS3)。
本発明の正極活物質における固体電解質の被覆状態の評価方法では、前記測定工程で取得した交流インピーダンス測定データのうち、特定周波数領域の交流インピーダンス虚数軸のパラメータ、及び特定周波数領域の交流インピーダンス実数軸のパラメータを用いることで、被覆状態を精度よく評価することができる。被覆状態の評価に用いる交流の周波数領域として、例えば、5kHzから50kHz、100Hzから1kHz、5Hzから20Hz等を選定する。
【0032】
全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンス虚数軸のパラメータは、交流インピーダンスの虚数成分(Zim)、または交流インピーダンスの虚数成分(Zim)から導き出される分極電荷量(Cp)であることが好ましい。被覆状態の評価に用いる前記虚数成分(Zim)、または前記分極電荷量(Cp)の、周波数領域の特定方法を説明する。
交流の周波数領域が5Hzから20Hzの間における、交流インピーダンスの虚数成分(Zim)、または交流インピーダンスの虚数成分(Zim)から導き出される分極電荷量(Cp)が、測定対象となる全固体電池用正極スラリーの種類に応じて、最も大きく変化する周波数での前記虚数成分(Zim)、または前記分極電荷量(Cp)を、被覆状態の評価に用いる虚数軸パラメータとする。この虚数軸パラメータが大きく変化する周波数は、活物質の材質等によって変化するが、例えば、材質を全固体電池用活物質の固体電解質被覆工程の負荷強度を変更したサンプルを評価することで、大きく変化する周波数を特定することが出来る。実施例における全固体電池用正極スラリーの場合、前記虚数成分(Zim)、または前記分極電荷量(Cp)が最も大きく変化する周波数は、例えば、10Hzである。
【0033】
全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンス実数軸のパラメータは、全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスの実数成分(Zre)であることが好ましい。被覆状態の評価に用いる前記実数成分(Zre)の、周波数領域の特定方法を説明する。
前記測定工程で取得した交流インピーダンスのデータを、横軸に実数成分(Zre)と縦軸に虚数成分(Zim)に分けて複素平面表示(ナイキストプロット)する。
図2は、前記測定工程により得られる、全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンス測定のナイキストプロットの一例を示す図である。
図2の通り、全固体電池用正極スラリーのナイキストプロットには、理論的には3つの円弧部分が存在する。ただし、実数部方向の1つ目円弧部分は、現在一般的に使用されている測定機器では取得困難である。
図2において、低インピーダンス側から実数部方向に2つ目の円弧部分と、3つ目の円弧部分の境界の周波数を、被覆状態の評価に用いる前記実数成分(Zre)の周波数とする。
前記2つ目の円弧部分は、1kHzから1MHzの周波数領域に相当する円弧部分であり、前記3つ目の円弧部分は、5Hzから1kHzの周波数領域に相当する円弧部分である。
【0034】
「正極活物質における固体電解質の被覆状態の評価工程」
正極活物質における固体電解質の被覆状態の評価工程(以下、評価工程)では、前記測定工程にて得られた全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンス測定結果のうち、前記周波数領域特定工程で特定した周波数における、交流インピーダンス虚数軸のパラメータ、及び交流インピーダンス実数軸のパラメータに基づいて、正極活物質における固体電解質の被覆状態を評価する(
図1に示すS4)。
【0035】
前記周波数領域特定工程で特定した周波数領域における交流インピーダンス虚数軸のパラメータが、予め正極活物質における固体電解質の被覆状態が良い全固体電池用正極スラリー(以下、良品スラリー)の交流インピーダンス測定結果から設定した基準値を満たしている、かつ、前記周波数領域特定工程で特定した周波数領域における交流インピーダンス実数軸のパラメータが、良品スラリーの交流インピーダンス測定結果から予め設定した基準値を満たしている場合、正極活物質における固体電解質の被覆状態が良い全固体電池用正極スラリーと判定する。前記基準値としては、例えば、電池性能、粒度分布計等の分析手法を用いて求めたスラリーの分散状態、電子顕微鏡等の分析手法から算出される固体電解質の被覆厚み等を基に、良品スラリーと判定されたスラリーの交流インピーダンス測定結果から決定する。前記基準値の上限値および下限値は、全固体電池用正極スラリーの種類に応じて決定される。
【0036】
前記周波数領域特定工程で特定した周波数領域における交流インピーダンス虚数軸のパラメータが、良品スラリーの交流インピーダンス測定結果から予め設定した基準値を満たしていない、あるいは、前記周波数領域特定工程で特定した周波数領域における交流インピーダンス実数軸のパラメータが、良品スラリーの交流インピーダンス測定結果から予め設定した基準値を満たしていない場合、正極活物質における固体電解質の被覆状態が悪い全固体電池用正極スラリーと判定する。
【0037】
本実施形態の全固体電池用正極スラリーの評価方法によれば、特定の周波数領域にて、全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスを測定し、得られた交流インピーダンス虚数軸のパラメータ及び、交流インピーダンス実数軸のパラメータに基づいて、正極活物質における固体電解質の被覆状態を精度よく評価することができる。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
「全固体電池用正極スラリーの調製」
事前に、正極活物質の被覆状態を変更するため、固体電解質の被覆工程において、処理条件を4パターンで変化させた複合化材料を準備した。4パターンとして、処理負荷が低い条件~高い条件で用意した。
その後、以下に示すように、全固体電池用正極スラリーを調製した。
バインダー溶液と、導電助剤分散液とを、自転公転ミキサー(混練装置)を用いて、2000rpmで1分間撹拌、混合し、混合物1を得た。
得られた混合物1に、直径2mmのジルコニアボールと、正極活物質(固体電解質の被覆処理済み、例えば、正極活物質:固体電解質=75:25~90:10(質量比))と、溶媒(酪酸ブチル)とを加えて、2000rpmで1分間撹拌、混合し、混合物2を得た。
得られた混合物2に、固体電解質と、溶媒(酪酸ブチル)とを加えて、混練装置を用いて、2000rpmで1分混練し、混合物3を得た。
得られた混合物3に、希釈溶媒(酪酸ブチル)を加えて、2000rpmで2分間撹拌、混合し、混合物4を得た。
その後、繰り返し希釈しながら混練する工程を行った。
【0040】
「インピーダンス測定:虚数成分(Cp)」
各処理条件の変更によって得られた全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスを測定し、交流インピーダンス虚数軸のパラメータ(Zim)から導き出される分極電荷量(Cp)を算出し、前記被覆工程の処理における負荷強度の条件と分極電荷量(Cp)の関係を調べた。結果を
図3に示す。
図3に示す結果から、負荷強度と分極電荷量(Cp)は比例関係を示し、負荷強度が大きくなるほど、分極電荷量(Cp)が小さくなることが分かった。これは、負荷強度が大きくなるほど、活物質への固体電解質の被覆が進むことにより、正極活物質の表面が露出している表面積が小さくなり、粒子の状態としては、固体電解質の被覆が良好であることを示している。
【0041】
「インピーダンス測定:実数成分(Zre)」
得られた交流インピーダンス実数軸のパラメータとして全固体電池用正極スラリーの交流インピーダンスの実数成分(Zre)を算出し、全固体電池用正極スラリーの処理条件と実数成分(Zre)の関係を調べた。結果を
図4に示す。
図4に示す結果から、負荷強度と実数成分(Zre)は比例関係を示し、負荷強度が大きくなるほど、実数成分(Zre)が大きくなることが分かった。これは、他の検証結果より、固体電解質の被覆状態との直接的な因果関係はないと推察される。しかしながら、処理条件を変化させた全固体スラリーでは分散状態が異なり、その分散状態の違いを示していると推察され、実数軸パラメータが予め設定した基準値内に収まっていれば、分散状態の良い状態と判断することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。