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特開2024-176251FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176251
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/40 20060101AFI20241212BHJP
   G01S 13/34 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G01S7/40 121
G01S13/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094678
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】島本 拓也
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB18
5J070AC02
5J070AC06
5J070AF06
5J070AK04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本開示は、飛翔体等の移動体に搭載されるジャイロセンサとは独立して、FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置の機能として、受信波のドップラシフトを考慮して、地表面等の目標距離を補正することを目的とする。
【解決手段】本開示は、地表面等の目標距離の所定期間の時間変化に基づいて、FMCWサーボスロープレーダ送受信装置1が搭載される飛翔体等の移動体の速度成分のうちの、FMCWサーボスロープレーダ送受信装置1の電波発射方向と平行な速度成分を算出する移動体速度算出部22を備え、移動体速度算出部22は、飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分による受信波のドップラシフトが、地表面等の目標距離の算出(そして飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分の算出)に及ぼす影響を考慮することを特徴とするFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置2である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMCW(Frequency-Modulation Continuous-Wave)サーボスロープ方式を用いて、目標物とFMCWサーボスロープレーダ送受信装置との間の目標距離を測定するFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置であって、
前記FMCWサーボスロープレーダ送受信装置からの送信波と前記目標物からの受信波との間の遅延時間に基づいて、前記目標距離を算出する目標距離算出部と、
前記目標距離の所定期間の時間変化に基づいて、前記FMCWサーボスロープレーダ送受信装置が搭載される移動体の速度成分のうちの、前記FMCWサーボスロープレーダ送受信装置の電波発射方向と平行な速度成分を算出する移動体速度算出部と、
を備え、前記移動体速度算出部は、前記移動体の前記電波発射方向と平行な速度成分による前記受信波のドップラシフトが、前記目標距離の算出に及ぼす影響を考慮する
ことを特徴とするFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置。
【請求項2】
前記移動体速度算出部は、前記目標距離hの所定期間Δtの時間変化Δh/Δtに基づいて、前記移動体の前記電波発射方向と平行な速度成分Vを
【数13】
のように算出する(ただし、λは、前記送信波の波長であり、fb0は、一定周波数にフィードバック制御される前記送信波と前記受信波との間のビート周波数である。)
ことを特徴とする、請求項1に記載のFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置。
【請求項3】
前記移動体の前記電波発射方向と平行な速度成分による前記受信波のドップラシフトを考慮して、前記目標距離を補正する目標距離補正部、をさらに備える
ことを特徴とする、請求項1に記載のFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置。
【請求項4】
前記目標距離補正部は、前記移動体の前記電波発射方向と平行な速度成分Vによる前記受信波のドップラシフトを考慮して、前記目標距離を補正前のhから補正後のhへと
【数14】
のように補正する(ただし、λは、前記送信波の波長であり、fb0は、一定周波数にフィードバック制御される前記送信波と前記受信波との間のビート周波数である。)
ことを特徴とする、請求項3に記載のFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置。
【請求項5】
前記移動体速度算出部は、前記移動体の前記電波発射方向と平行な速度成分が、前記移動体の前記電波発射方向と平行な想定速度の範囲外であるときに、前記移動体の前記電波発射方向と平行な速度成分をマスキングする又はスムージングする
ことを特徴とする、請求項1に記載のFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置が備える各処理部の各処理ステップを、前記FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置としてのコンピュータに実行させるためのFMCWサーボスロープレーダ信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、FMCW(Frequency-Modulation Continuous-Wave)サーボスロープ方式を用いて、目標物とFMCWサーボスロープレーダ送受信装置との間の目標距離を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FMCWサーボスロープ方式を用いて、目標物とFMCWサーボスロープレーダ送受信装置との間の目標距離を測定する技術が、特許文献1、2等に開示されている。特許文献1、2では、特に地表面等の目標距離を測定する電波高度計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-185661号公報
【特許文献2】特開平06-168028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術のFMCWサーボスロープレーダシステムの構成を図1に示す。従来技術のFMCWサーボスロープレーダシステムRは、FMCWサーボスロープレーダ送受信装置1、FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置2及びFMCWサーボスロープレーダ上位装置3を備える。FMCWサーボスロープレーダ送受信装置1は(FMCWサーボスロープレーダシステムR全体も)、飛翔体等の移動体に搭載される。FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置2は、目標距離算出部21を備える。FMCWサーボスロープレーダ上位装置3は、ジャイロセンサ31及び目標距離補正部32を備える。
【0005】
目標距離算出部21は、FMCWサーボスロープレーダ送受信装置1からの送信波と地表面等の目標物からの受信波との間の遅延時間τ[n]に基づいて、地表面等の目標距離h[n]を算出する(後述の数4を参照)。ジャイロセンサ31は、飛翔体等の移動体の速度成分のうちの、FMCWサーボスロープレーダ送受信装置1の電波発射方向と平行な速度成分V[n]を算出する。目標距離補正部32は、飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分V[n]による受信波のドップラシフトを考慮して、地表面等の目標距離をh[n]からh[n]へと補正する(後述の数12を参照)。
【0006】
しかし、ジャイロセンサ31が飛翔体等の移動体に搭載されるとしても、ジャイロセンサ31とは独立して、FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置2の機能として、受信波のドップラシフトを考慮して、地表面等の目標距離を補正する要望が考えられる。
【0007】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、飛翔体等の移動体に搭載されるジャイロセンサとは独立して、FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置の機能として、受信波のドップラシフトを考慮して、地表面等の目標距離を補正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、地表面等の目標距離の所定期間の時間変化に基づいて、飛翔体等の移動体の速度成分のうちの、FMCWサーボスロープレーダ送受信装置の電波発射方向と平行な速度成分を算出する。ここで、飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分による受信波のドップラシフトが、地表面等の目標距離の算出(そして飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分の算出)に及ぼす影響を考慮する。
【0009】
具体的には、本開示は、FMCWサーボスロープ方式を用いて、目標物とFMCWサーボスロープレーダ送受信装置との間の目標距離を測定するFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置であって、前記FMCWサーボスロープレーダ送受信装置からの送信波と前記目標物からの受信波との間の遅延時間に基づいて、前記目標距離を算出する目標距離算出部と、前記目標距離の所定期間の時間変化に基づいて、前記FMCWサーボスロープレーダ送受信装置が搭載される移動体の速度成分のうちの、前記FMCWサーボスロープレーダ送受信装置の電波発射方向と平行な速度成分を算出する移動体速度算出部と、を備え、前記移動体速度算出部は、前記移動体の前記電波発射方向と平行な速度成分による前記受信波のドップラシフトが、前記目標距離の算出に及ぼす影響を考慮することを特徴とするFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置である。
【0010】
この構成によれば、飛翔体等の移動体に搭載されるジャイロセンサとは独立して、FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置の機能として、受信波のドップラシフトを考慮して、飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分を算出することができる。
【0011】
また、本開示は、前記移動体速度算出部は、前記目標距離hの所定期間Δtの時間変化Δh/Δtに基づいて、前記移動体の前記電波発射方向と平行な速度成分Vを
【数1】
のように算出する(ただし、λは、前記送信波の波長であり、fb0は、一定周波数にフィードバック制御される前記送信波と前記受信波との間のビート周波数である。)ことを特徴とするFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置である。
【0012】
この構成によれば、実際に測定された地表面等の目標距離hの所定期間Δtの時間変化Δh/Δtを考慮するのみならず、受信波のドップラシフトも考慮して、飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分Vを算出することができる。
【0013】
また、本開示は、前記移動体の前記電波発射方向と平行な速度成分による前記受信波のドップラシフトを考慮して、前記目標距離を補正する目標距離補正部、をさらに備えることを特徴とするFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置である。
【0014】
この構成によれば、飛翔体等の移動体に搭載されるジャイロセンサとは独立して、FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置の機能として、受信波のドップラシフトを考慮して、地表面等の目標距離を補正前の値から補正後の値へと補正することができる。
【0015】
また、本開示は、前記目標距離補正部は、前記移動体の前記電波発射方向と平行な速度成分Vによる前記受信波のドップラシフトを考慮して、前記目標距離を補正前のhから補正後のhへと
【数2】
のように補正する(ただし、λは、前記送信波の波長であり、fb0は、一定周波数にフィードバック制御される前記送信波と前記受信波との間のビート周波数である。)ことを特徴とするFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置である。
【0016】
この構成によれば、実際に測定された地表面等の目標距離hの所定期間Δtの時間変化Δh/Δtを考慮するのみならず、受信波のドップラシフトも考慮して、地表面等の目標距離を補正前のhから補正後のhへと補正することができる。
【0017】
また、本開示は、前記移動体速度算出部は、前記移動体の前記電波発射方向と平行な速度成分が、前記移動体の前記電波発射方向と平行な想定速度の範囲外であるときに、前記移動体の前記電波発射方向と平行な速度成分をマスキングする又はスムージングすることを特徴とするFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置である。
【0018】
実際に測定された地表面等の目標距離の所定期間の時間変化は、飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分の影響を受けるのみならず、地表面等の目標の凹凸形状の影響も受ける。この構成によれば、そのような場合であっても、飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分として、想定の範囲内の速度を出力することができる。
【0019】
また、本開示は、以上に記載のFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置が備える各処理部の各処理ステップを、前記FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置としてのコンピュータに実行させるためのFMCWサーボスロープレーダ信号処理プログラムである。
【0020】
この構成によれば、以上の効果を有するプログラムを提供することができる。
【0021】
なお、上記各開示の発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本開示は、飛翔体等の移動体に搭載されるジャイロセンサとは独立して、FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置の機能として、受信波のドップラシフトを考慮して、地表面等の目標距離を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来技術のFMCWサーボスロープレーダシステムの構成を示す図である。
図2】本開示のFMCWサーボスロープレーダシステムの構成を示す図である。
図3】本開示のFMCWサーボスロープレーダ信号処理の手順を示す図である。
図4】本開示のFMCWサーボスロープレーダ信号処理の原理を示す図である。
図5】本開示のFMCWサーボスロープレーダ信号処理の原理を示す図である。
図6】本開示のFMCWサーボスロープレーダ信号処理の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0025】
(本開示のFMCWサーボスロープレーダシステムの構成)
本開示では、FMCWサーボスロープ方式を用いて、目標物とFMCWサーボスロープレーダ送受信装置との間の目標距離を測定する。特に地表面等の目標距離を測定する電波高度計に適用しているが、一般的な目標距離を測定する電波測距計に適用してもよい。
【0026】
本開示のFMCWサーボスロープレーダシステムの構成を図2に示す。本開示のFMCWサーボスロープレーダシステムRは、FMCWサーボスロープレーダ送受信装置1及びFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置2を備える。FMCWサーボスロープレーダ送受信装置1は、飛翔体等の移動体に搭載される。FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置2は、目標距離算出部21、移動体速度算出部22、目標距離記憶部23、更新間隔測定部24及び目標距離補正部25を備える。FMCWサーボスロープレーダ上位装置3も、飛翔体等の移動体に搭載されるが、本開示では使用されなくてもよい。
【0027】
本開示のFMCWサーボスロープレーダ信号処理の手順を図3に示す。FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置2は、図3に示したFMCWサーボスロープレーダ信号処理プログラムを、コンピュータにインストールし実現することができる。
【0028】
目標距離算出部21は、FMCWサーボスロープレーダ送受信装置1からの送信波と地表面等の目標物からの受信波との間の遅延時間τ[n]に基づいて、地表面等の目標距離h[n]を算出する(ステップS1、後述の数4を参照)。
【0029】
移動体速度算出部22は、地表面等の目標距離h[n]の所定期間Δt(時刻T[n-1]、T[n]の間)の時間変化(h[n]-h[n-1])/Δtに基づいて、飛翔体等の移動体の速度成分のうちの、FMCWサーボスロープレーダ送受信装置1の電波発射方向と平行な速度成分V[n]を算出する(ステップS2、後述の数11を参照)。
【0030】
ここで、移動体速度算出部22は、飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分による受信波のドップラシフトが、地表面等の目標距離h[n]の算出(そして飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分V[n]の算出)に及ぼす影響を考慮する。
【0031】
目標距離記憶部23は、移動体速度算出部22の処理に備えて、地表面等の目標距離h[n-1]を記憶する。更新間隔測定部24は、移動体速度算出部22の処理に備えて、時刻T[n-1]、T[n]の間の所定期間Δt[n]を測定する。
【0032】
目標距離補正部25は、ジャイロセンサ31を使用せず、飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分による受信波のドップラシフトを考慮して、地表面等の目標距離をh[n]からh[n]へと補正する(ステップS3、後述の数12を参照)。
【0033】
よって、飛翔体等の移動体に搭載されるジャイロセンサ31とは独立して、FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置2の機能として、受信波のドップラシフトを考慮して、飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分Vを算出することができる。
【0034】
そして、飛翔体等の移動体に搭載されるジャイロセンサ31とは独立して、FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置2の機能として、受信波のドップラシフトを考慮して、地表面等の目標距離を補正前のhから補正後のhへと補正することができる。
【0035】
(本開示のFMCWサーボスロープレーダ信号処理の原理)
本開示のFMCWサーボスロープレーダ信号処理の原理を図4に示す。図4の上段では、地表面等の真の目標距離がある距離hであり、受信波RXのドップラシフトfの影響がない場合を示す。図4の下段では、図4の上段と比べて、地表面等の真の目標距離が同じ距離hであるが、受信波RXdのドップラシフトfの影響がある場合を示す。
【0036】
図4の上段では、送信波TXの周波数変調範囲が、一定範囲ΔFに制御され、送信波TXと受信波RX(ドップラシフトfの影響を受けない)との間のビート周波数が、一定周波数fb0にフィードバック制御される。よって、送信波TXの周波数変調周期が、可変周期Tに制御され、送信波TXと受信波RXとの間の遅延時間τが、数3の第1式で表わされ、地表面等の目標距離hが、数3の第2式で表わされる(cは光速)。
【数3】
【0037】
図4の下段では、送信波TXの周波数変調範囲が、一定範囲ΔFに制御され、送信波TXと受信波RXd(ドップラシフトfの影響を受ける)との間のビート周波数が、一定周波数fb0にフィードバック制御される。よって、送信波TXの周波数変調周期が、可変周期Tに制御され、送信波TXと受信波RXdとの間の遅延時間τが、数4の第1式で表わされ、地表面等の目標距離hが、数4の第2式で表わされる(cは光速)。
【数4】
【0038】
すると、送信波TXと受信波RXとの間の遅延時間τと、送信波TXと受信波RXdとの間の遅延時間τと、の間に、数5の第1式が成り立つ。そして、地表面等の目標距離hと、地表面等の目標距離hと、の間に、数5の第2式が成り立つ。
【数5】
【0039】
ところで、飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分が、ある速度Vであるときに、受信波RXdのドップラシフトfは、数6で表わされる(λは送信波の波長)。よって、地表面等の目標距離hと、地表面等の目標距離hと、の間に、数7が成り立つ。ここで、A=(2・V)/(λ・fb0)は、地表面等の算出した目標距離hから、地表面等の真の目標距離hへと、目標距離を補正するための補正係数である。
【数6】
【数7】
【0040】
本開示のFMCWサーボスロープレーダ信号処理の原理を図5にも示す。時刻tでは、地表面Gの真の目標距離はhであり、地表面Gの算出した目標距離はhd1である。時刻tでは、地表面Gの真の目標距離はhであり、地表面Gの算出した目標距離はhd2である。時刻tから時刻tでは、飛翔体FのビームB発射方向と平行な真の速度成分はVであり、飛翔体FのビームB発射方向と平行な算出した速度成分はVである。
【0041】
飛翔体FのビームB発射方向と平行な真の速度成分Vは、数8の第1式で表わされ、飛翔体FのビームB発射方向と平行な算出した速度成分Vは、数8の第2式で表わされる。
【数8】
【0042】
すると、飛翔体FのビームB発射方向と平行な真の速度成分Vと、飛翔体FのビームB発射方向と平行な算出した速度成分Vと、の間に、数7の補正係数Aを用いて数9が成り立ち、数6のドップラシフトfを用いて数10の第1、2辺の等式が成り立つ。よって、数10の第1、3辺の等式のように、飛翔体FのビームB発射方向と平行な算出した速度成分Vは、飛翔体FのビームB発射方向と平行な真の速度成分Vへと補正される。
【数9】
【数10】
【0043】
図5の左欄では、地表面Gの算出した目標距離hの所定期間Δtの時間変化Δh/Δtは、飛翔体FのビームB発射方向と平行な真の速度成分Vの影響を受けるが、地表面Gの平坦な凹凸形状の影響をほぼ受けない。図5の右欄では、地表面Gの算出した目標距離hの所定期間Δtの時間変化Δh/Δtは、飛翔体FのビームB発射方向と平行な真の速度成分Vの影響を受けるのみならず、地表面Gの緩やかな凹凸形状の影響も受ける。
【0044】
しかし、図5の右欄の場合であっても、時刻t、tの間の所定期間Δtをmsec又はμsec程度としている。よって、図5の右欄の場合であっても、受信波のドップラシフトのみを考慮して、地表面Gの緩やかな凹凸形状をほぼ考慮せず、飛翔体FのビームB発射方向と平行な真の速度成分Vとして、想定の範囲内の速度を出力することができる。
【0045】
(本開示のFMCWサーボスロープレーダ信号処理の詳細)
図4、5で説明した原理に基づいて、図2、3で保留した詳細を説明する。図4に示したτは、図2、3に示したτ[n]に相当し、図5に示したVは、図2、3に示したV[n]に相当し、図5に示したh1d、h2dは、図2、3に示したh[n-1]、h[n]に相当し、図5に示したh、hは、図2、3に示したh[n]に相当する。
【0046】
移動体速度算出部22は、地表面等の目標距離h[n]の所定期間Δt(時刻T[n-1]、T[n]の間)の時間変化(h[n]-h[n-1])/Δtに基づいて、飛翔体等の移動体の速度成分のうちの、FMCWサーボスロープレーダ送受信装置1の電波発射方向と平行な速度成分V[n]を算出する(ステップS2、数10に基づく数11)。
【数11】
【0047】
目標距離補正部25は、ジャイロセンサ31を使用せず、飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分による受信波のドップラシフトを考慮して、地表面等の目標距離をh[n]からh[n]へと補正する(ステップS3、数7に基づく数12)。
【数12】
【0048】
よって、実際に測定された地表面等の目標距離h[n]の所定期間Δtの時間変化Δh[n]/Δtを考慮するのみならず、受信波のドップラシフトも考慮して、飛翔体等の移動体の電波発射方向と平行な速度成分V[n]を算出することができる。
【0049】
そして、実際に測定された地表面等の目標距離h[n]の所定期間Δtの時間変化Δh[n]/Δtを考慮するのみならず、受信波のドップラシフトも考慮して、地表面等の目標距離を補正前のh[n]から補正後のh[n]へと補正することができる。
【0050】
本開示のFMCWサーボスロープレーダ信号処理のさらなる詳細を図6に示す。図6の左欄では、地表面Gの算出した目標距離hの所定期間Δtの時間変化Δh/Δtは、飛翔体FのビームB発射方向と平行な真の速度成分Vの影響を受けるが、地表面Gの平坦な凹凸形状の影響をほぼ受けない。図6の右欄では、地表面Gの算出した目標距離hの所定期間Δtの時間変化Δh/Δtは、飛翔体FのビームB発射方向と平行な真の速度成分Vの影響を受けるのみならず、地表面Gの急峻な凹凸形状の影響も受ける。
【0051】
よって、図6の左欄の場合であれば、飛翔体FのビームB発射方向と平行な真の速度成分Vは、飛翔体FのビームB発射方向と平行な想定速度の範囲内である。そこで、飛翔体FのビームB発射方向と平行な真の速度成分Vを、そのまま出力すればよい。一方で、図6の右欄の場合であれば、飛翔体FのビームB発射方向と平行な真の速度成分Vは、飛翔体FのビームB発射方向と平行な想定速度の範囲外である。そこで、飛翔体FのビームB発射方向と平行な真の速度成分Vを、マスキング又はスムージングすればよい。よって、図6の左欄及び右欄のいずれの場合であっても、飛翔体FのビームB発射方向と平行な真の速度成分Vとして、想定の範囲内の速度を出力することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本開示のFMCWサーボスロープレーダ信号処理装置及びプログラムは、FMCWサーボスロープ方式を用いて、目標物とFMCWサーボスロープレーダ送受信装置との間の目標距離を測定することができ、特に地表面等の目標距離を測定する電波高度計に適用することができるが、一般的な目標距離を測定する電波測距計に適用することもできる。
【符号の説明】
【0053】
R:FMCWサーボスロープレーダシステム
1:FMCWサーボスロープレーダ送受信装置
2:FMCWサーボスロープレーダ信号処理装置
3:FMCWサーボスロープレーダ上位装置
21:目標距離算出部
22:移動体速度算出部
23:目標距離記憶部
24:更新間隔測定部
25:目標距離補正部
31:ジャイロセンサ
32:目標距離補正部
F:飛翔体
G:地表面
B:ビーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6