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特開2024-176252二次電池の劣化予測システムおよび二次電池の劣化予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176252
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】二次電池の劣化予測システムおよび二次電池の劣化予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20241212BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20241212BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20241212BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20241212BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
G01R31/389
G01R31/382
H01M10/48 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094679
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏明
(72)【発明者】
【氏名】川治 純
(72)【発明者】
【氏名】原 誉明
(72)【発明者】
【氏名】西原 淳夫
【テーマコード(参考)】
2G216
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA29
2G216BA34
2G216BA35
2G216BA44
2G216BA53
2G216CB05
2G216CB13
2G216CB52
5H030AA10
5H030AS01
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】充電状態の変化による電圧変化の小さい活物質から構成される二次電池の内部状態を高精度に診断できるようにする。
【解決手段】二次電池の各稼働条件における、二次電池の充電状態と開回路電圧との関係、および電池の充電状態と内部抵抗の関係を取得する取得部121,122と、取得部121,122が取得した関係に基づいて、各稼働条件における二次電池の正極と負極の劣化状態を診断する内部状態診断部123と、内部状態診断部123で得られた劣化状態の時系列変化に基づいて二次電池の寿命予測を行うための寿命予測式を作成する寿命予測式作成部126と、寿命予測式作成部126が作成した寿命予測式に基づいて二次電池の劣化を計算する劣化計算部127と、を備える。ここで、寿命予測式作成部127は、二次電池に負荷をかけた場合の正極および負極の劣化状態の時系列変化に基づいて寿命予測式を作成するようにした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の各稼働条件における、当該二次電池の充電状態と開回路電圧との関係、および電池の充電状態と内部抵抗の関係を取得する取得部と、
前記取得部が取得した関係に基づいて、各稼働条件における前記二次電池の正極と負極の劣化状態を診断する内部状態診断部と、
前記内部状態診断部で得られた劣化状態の時系列変化に基づいて前記二次電池の寿命予測を行うための寿命予測式を作成する寿命予測式作成部と、
前記寿命予測式作成部が作成した寿命予測式に基づいて前記二次電池の劣化を計算する劣化計算部と、を備え、
前記寿命予測式作成部は、前記二次電池に負荷をかけた場合の正極および負極の劣化状態の時系列変化に基づいて寿命予測式を作成する
二次電池の劣化予測システム。
【請求項2】
前記寿命予測式作成部は、さらに、前記二次電池に負荷をかけていない場合の、正極および負極の劣化状態の時系列変化に基づいて寿命予測式を作成する
請求項1に記載の二次電池の劣化予測システム。
【請求項3】
前記内部状態診断部は、
前記二次電池の正極活物質に固有の充電状態と開回路電位との関係群と、充電状態と内部抵抗の関係群と、
前記二次電池の負極活物質に固有の充電状態と開回路電位との関係群と、充電状態と内部抵抗の関係群と、
を用いて正極と負極の劣化状態を診断する
請求項2に記載の二次電池の劣化予測システム。
【請求項4】
前記内部状態診断部が診断した状態の時系列変化式を作成する時系列変化式作成部を備え、
前記時系列変化式作成部が作成した時系列変化式に基づいて、前記寿命予測式作成部が寿命予測式を作成する
請求項3に記載の二次電池の劣化予測システム。
【請求項5】
さらに、前記内部状態診断部は、
正極と負極の劣化状態を診断する際に、
正極の活物質利用率、負極の活物質利用率、正極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量、負極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量、電池の溶液抵抗、正極の抵抗上昇率、負極の抵抗上昇率のうち少なくとも一つのパラメータを抽出する
請求項4に記載の二次電池の劣化予測システム。
【請求項6】
前記時系列変化式作成部は、前記内部状態診断部が抽出した抽出したパラメータの時系列変化に基づいて時系列変化式を作成する
請求項5に記載の二次電池の劣化予測システム。
【請求項7】
さらに、前記内部状態診断部は、前記二次電池の保存負荷による劣化と、稼働負荷による劣化を診断し、
前記寿命予測式作成部は、保存負荷による劣化と、稼働負荷による劣化とを組合せて電池寿命の予測式を作成する
請求項2に記載の二次電池の劣化予測システム。
【請求項8】
前記劣化計算部は、前記二次電池の稼働条件に基づいて、前記二次電池の容量および抵抗の時系列変化を計算して出力する
請求項2に記載の二次電池の劣化予測システム。
【請求項9】
二次電池の各稼働条件における、当該二次電池の充電状態と開回路電圧との関係、および電池の充電状態と内部抵抗の関係を取得する取得処理と、
前記取得処理により取得した関係に基づいて、各稼働条件における前記二次電池の正極と負極の劣化状態を診断する内部状態診断処理と、
前記内部状態診断処理により得られた劣化状態の時系列変化に基づいて前記二次電池の寿命予測を行うための寿命予測式を作成する寿命予測式作成処理と、
前記寿命予測式作成処理により作成した寿命予測式に基づいて前記二次電池の劣化を計算する劣化計算処理と、を含み、
前記寿命予測式作成処理で作成する寿命予測式は、前記二次電池に負荷をかけた場合の正極および負極の劣化状態の時系列変化に基づいて作成したものである
二次電池の劣化予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池の劣化予測システムおよび二次電池の劣化予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の排出抑制に向けて、エネルギー需要に対する供給源として現在主に用いられている火力発電由来のエネルギーを、太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーに置き換えていく必要がある。しかしながら、火力発電機が系統から解列すると、需要の変動に対して系統安定のための調整力供給能力が低下してしまう。一方、個々の再生可能エネルギー発電機には自身の発電値の変動を緩和するための二次電池を用いた電力貯蔵システム(BESS:Battery Energy Storage System)を併設している場合がある。この電池の能力を調整力として活用できれば、系統安定に貢献できる。
【0003】
電力貯蔵システムは、その運用過程における二次電池の劣化により、性能が低下する。そこで、所定の期間、稼働させることを目的に電力貯蔵システムを導入する場合、二次電池の劣化を見越して設計する必要がある。しかし、二次電池の劣化予測の精度が低いと安全マージンを多く含んだ設計とする必要があるため、過剰な電池の搭載により、電力貯蔵システムが高コスト化してしまう。そこで、高精度に電池の寿命を予測する劣化予測システムが求められている。
【0004】
特許文献1には、二次電池の内部情報の検知方法が記載されている。この特許文献1に記載された検知方法では、正極の充放電曲線と負極の充放電曲線とを重ね合わせ計算して、二次電池の充放電曲線を再現し、正極や負極の劣化状態を非破壊で評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-080093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1に記載された方法は、正極および負極の充放電曲線に基づいて、二次電池の充放電曲線を再現している。そして、充放電曲線の再現過程において、正極および負極の有効活物質量や、正極および負極の充放電曲線の位置関係についての指標や、正極および負極の開回路電位を求めている。
【0007】
このような特許文献1に記載された従来の方法でも、充電状態の変化により電圧の変化する電極活物質系であるLiNiMnCo1-x-y-z正極(M:任意の元素)、LiMn正極、黒鉛、Si負極、SiO負極などから構成させる電池系の診断は高精度に実施することが可能である。
しかしながら、充電状態の変化による電圧の変化が小さい電極活物質系であるLiFePO正極、LiTi12負極などから構成される電池系の診断をするのは困難であった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑み、充電状態の変化による電圧変化の小さい電極活物質から構成される二次電池の内部状態を高精度に診断できる二次電池の劣化予測システムおよび二次電池の劣化予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、例えば請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、二次電池の劣化予測システムとして、二次電池の各稼働条件における、二次電池の充電状態と開回路電圧との関係、および電池の充電状態と内部抵抗の関係を取得する取得部と、取得部が取得した関係に基づいて、各稼働条件における二次電池の正極と負極の劣化状態を診断する内部状態診断部と、内部状態診断部で得られた劣化状態の時系列変化に基づいて二次電池の寿命予測を行うための寿命予測式を作成する寿命予測式作成部と、寿命予測式作成部が作成した寿命予測式に基づいて二次電池の劣化を計算する劣化計算部と、を備える。
ここで、寿命予測式作成部は、二次電池に負荷をかけた場合の正極および負極の劣化状態の時系列変化に基づいて寿命予測式を作成するようにした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、充電状態の変化に対する電圧の変化が小さい二次電池系においても、二次電池の内部状態を高精度に診断し、得られた診断結果に基づいて高精度に寿命予測することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態例に係る二次電池の劣化予測システムの構成例を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施の形態例に係る二次電池の劣化予測システムの計算部が行う機能構成例を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施の形態例に係る二次電池の内部状態診断の例(電池電圧、正極電位、負極電位)を示す図である。
図4】本発明の一実施の形態例に係る二次電池の内部状態診断の例(電池抵抗、正極抵抗、負極抵抗)を示す図である。
図5】本発明の一実施の形態例による二次電池の劣化パラメータの時系列変化の例(正極の活物質利用率、および負極の活物質利用率)を示す図である。
図6】本発明の一実施の形態例による二次電池の劣化パラメータの時系列変化の例(正極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量、および負極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量)を示す図である。
図7】本発明の一実施の形態例に係る二次電池の寿命予測の処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態例(以下、「本例」と称する)に係る二次電池の劣化予測システムおよび二次電池の劣化予測方法を、添付図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本例の二次電池の劣化予測システム10の構成例を示す。本例の二次電池の劣化予測システム10は、入力部11と計算部12と出力部13とを備える。
入力部11には、二次電池の劣化予測を行うための入力因子として、二次電池の稼働条件と、計算の終了条件と、出力間隔などが入力される。二次電池の稼働条件としては、例えば温度、負荷(電流)などがある。計算の終了条件としては、期間(10年間など)、電池容量が70%以下に低下、などがある。出力間隔としては、10日毎に計算結果を出力するなどがある。
これらの入力因子は、例えば劣化予測を行う操作者によって入力される。
【0014】
計算部12は、二次電池の容量および抵抗に関する計算処理を、入力部11に入力された終了条件を満たすまで行う。
出力部13は、計算部12での計算で得られた二次電池の容量および抵抗の計算結果を、入力部11に入力した期間(10日毎など)の出力間隔の値として出力する。
【0015】
この図1に示す二次電池の劣化予測システム10は、例えばコンピュータで構成される。すなわち、図1に示すように、コンピュータ装置で構成された二次電池の劣化予測システム10は、バスにそれぞれ接続された、CPU(Central Processing Unit)1、メモリ2、ストレージ3、入力デバイス4、ネットワークインタフェース5、及び出力部6を備える。
【0016】
CPU1は、二次電池の劣化予測システム10が行う機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをメモリ2またはストレージ3から読み出して実行する演算処理部である。
CPU1がメモリ2またはストレージ3からプログラムコードを読み出して、メモリ2のワークエリアで演算処理を実行することで、後述する図2に示す様々な処理機能部がメモリ2に構成される。
【0017】
ストレージ3には、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、メモリカードなどの大容量情報記憶媒体が用いられる。ストレージ3には二次電池の劣化予測システム10が持つ機能を実現するソフトウェアと、そのプログラムの実行で得られたデータが記憶される。
【0018】
入力デバイス4には、キーボードやマウスなどの機器が使用され、操作者の操作に基づいた各種情報の入力処理が行われる。
ネットワークインタフェース5には、例えば、NIC(Network Interface Card)などが用いられ、外部からのプログラムなどの受信や、処理結果の送信などが行われる。
出力部6には、ディスプレイやプリンタなどの出力機器が使用され、計算結果の表示やプリントなどの出力処理が行われる。
【0019】
なお、二次電池の劣化予測システム10を図1に示すコンピュータで構成するのは一例であり、コンピュータ以外のその他の演算処理装置で構成してもよい。例えば、二次電池の劣化予測システム10が行う機能の一部または全部を、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアによって実現してもよい。
【0020】
図2は、本例の二次電池の劣化予測システム10の計算部12を構成する各処理部を示す。
計算部12は、正極情報及び負極情報取得部121、電池情報取得部122、内部状態診断部123、時系列変化式作成部124、関数化部125、寿命予測式作成部126、および劣化計算部127を備える。これらの各処理部121~127は、二次電池の劣化予測システム10が行う機能を実現するソフトウェアを実行することにより、図1に示すメモリ2に構成される。
【0021】
但し、正極情報及び負極情報取得部121と電池情報取得部122とについては、二次電池の劣化予測システム10とは別の機器を使用して測定された情報を取得してもよい。
計算部12が行う計算には、二次電池の保存劣化の寿命予測計算と、二次電池の稼働劣化の寿命予測計算が含まれる。最初に、計算部12が二次電池の保存劣化の寿命予測計算を行う場合の例について説明する。
【0022】
正極情報及び負極情報取得部121は、電池の内部状態を診断するために必要な、正極および負極の開回路電位(OCP:Open Circuit Potential)と抵抗の情報を取得する取得処理を行う。
正極情報及び負極情報取得部121における情報の取得方法の一例を、以下に説明する。
まず、寿命予測対象の二次電池に使用されている正極とリチウム金属を用いた正極単極セル、および負極とリチウム金属を用いた負極単極セルを作製する。続いて単極セルに対し、定電流間欠滴定法(GITT:Galvanostatic Intermittent Titration Technique)を実施し、開回路電位と抵抗の情報を取得する。
【0023】
定電流間欠滴定法では、単極セルを満充電させた後、1C[A]相当の電流で72秒間放電させ、30分休止させるサイクルを、放電終止電位に到達するまで繰り返す。各充電率(SOC:State Of Charge)における開回路電位としては、放電電流を停止させてから30分後の電位が用いられる。また、各充電率(SOC)における抵抗は、放電開始前の開回路電位と、所定の放電時間が経過したときの開回路電位との差分を、放電電流で除算して計算される。
【0024】
電池情報取得部122は、内部状態診断部123で電池の内部状態を診断するために必要な、二次電池開回路電圧(OCV:Open Circuit Voltage)と抵抗の情報を取得する取得処理を行う。
電池情報取得部122における情報の取得方法の一例を、以下に説明する。
まず二次電池に対し、所定の温度および充電率(SOC)で一定期間保存する保存試験を実施する。
電池情報取得部122は、保存試験を実施する際に、定期的に試験を停止し、定電流間欠滴定法を実施し、開回路電圧と抵抗の情報を取得する。
【0025】
定電流間欠滴定法では、単極セルを満充電させた後、1C[A]相当の電流で72秒間放電させ、30分休止させるサイクルを、放電終止電位に到達するまで繰り返す。各充電率(SOC)における開回路電位としては、放電電流を停止させてから30分後の電圧が用いられる。また、各充電率(SOC)における抵抗は、放電開始前の開回路電圧と、所定の放電時間が経過したときの開回路電圧との差分を、放電電流で除算して計算される。
【0026】
内部状態診断部123は、正極情報及び負極情報取得部121と電池情報取得部122とで得られた情報を用いて、二次電池の内部状態を診断する内部状態診断処理を行う。
すなわち、内部状態診断部123は、正極情報及び負極情報取得部121で得られた正極および負極の開回路電位および抵抗のデータを、電池情報取得部122で得られた二次電池の開回路電圧および抵抗のデータと比較することで、二次電池の内部状態を診断する。
内部状態の診断対象としては、電池劣化と相関のある、正極の活物質利用率m、負極の活物質利用率m、正極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量δ、負極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量δ、電池の溶液抵抗R、正極の抵抗上昇率a、および負極の抵抗上昇率aなどが挙げられる。
【0027】
ここで、正極の活物質利用率mは、電極中に含まれる正極活物質のうち、電池反応に寄与できる活物質の比率を示す指標である。
負極の活物質利用率mは、電極中に含まれる負極活物質のうち、電池反応に寄与できる活物質の比率を示す指標である。
正極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量δは、正極表面における電解液との反応により生成する被膜に取り込まれたリチウムイオンの電気量を示す指標である。
【0028】
負極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量δは、負極表面における電解液との反応により生成する被膜に取り込まれたリチウムイオンの電気量を示す指標である。
電池の溶液抵抗Rは、電池を利用した際の電池部材の抵抗を示す指標である。
正極の抵抗上昇率aは、電池を利用した際の正極の抵抗上昇率を示す指標である。
負極の抵抗上昇率aは、電池を利用した際の負極の抵抗上昇率を示す指標である。
【0029】
これらの7つの指標を可変パラメータとし、正極情報及び負極情報取得部121で得られた正極および負極の開回路電位および抵抗のデータを、電池情報取得部122で得られた二次電池の開回路電圧および抵抗のデータとフィッティングする。
【0030】
図3および図4は、フィッティング結果の一例を示す図である。
図3は、二次電池の開回路電圧(OCV)の実測値d11、その計算値d12、正極電位(計算値)d13、負極電位(計算値)d14を示す。図3において、左側の縦軸は電池電圧および正極電位[V]を示し、右側の縦軸は負極電位[V]を示す。横軸は電池容量[Ah]である。
図3において、二次電池の開回路電圧の実測値d11は白丸でプロットした箇所であり、計算値d12はそれに基づいて計算した値である。
【0031】
図4は、二次電池の抵抗の実測値d21、その計算値d22、正極抵抗(計算値)d23、負極抵抗(計算値)d24を示す。図4において、縦軸は抵抗[mΩ]を示し、横軸は電池容量[Ah]を示す。
図4において、二次電池の抵抗の実測値d21は白丸でプロットした箇所であり、計算値d22はそれに基づいて計算した値である。
【0032】
ここで、これらの値を得る計算式について説明すると、まず、正極容量をq、負極容量をqとすると、二次電池の容量Qは、次式で表すことができる。
=m×q-δ=m×q-δ
【0033】
次に、二次電池の各容量(充電状態)における開回路電圧Vは、正極および負極の開回路電位(V、V)を用いて、次式で表すことができる。
(Q)=V(q)-V(q
【0034】
さらに、正極抵抗をr、負極抵抗をrとすると、二次電池の各容量(各充電状態)における抵抗Rは、次式で表すことができる。
(Q)=a/m×r(q)+a/m×r(q)+R
【0035】
図2の説明に戻ると、時系列変化式作成部124は、内部状態診断部123で得られた内部パラメータの時系列変化式を作成する。
図5は、負極の活物質利用率mの時系列変化d31と、正極の活物質利用率mの時系列変化d32の一例を示す。図5の横軸は時間、縦軸は負極の活物質利用率を示す。
【0036】
図6は、負極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量δの時系列変化d41と、正極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量δの時系列変化d42の一例を示す。図6の横軸は時間、縦軸は負極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量を示す。
【0037】
図5および図6に示す曲線は、各パラメータの時系列変化の近似曲線である。近似曲線の形状としては、一次曲線、二次曲線、ルート系の式、べき乗系の式などパラメータ毎に任意に設定することができる。
このようにして、時系列変化式作成部124は、内部状態診断部123で得られた内部パラメータの時系列変化を示す時系列変化式を作成する。
例えば、時系列変化式作成部124は、図5に示す負極の活物質利用率mの時系列変化式として、
=m-m×t
を作成する。
また、時系列変化式作成部124は、図6に示す負極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量δの時系列変化式として、
δ=m0′+m1′×(t)0.5
を作成する。
【0038】
次に、関数化部125は、時系列変化式作成部124で得られた各劣化パラメータの時系列変化式の係数を、稼働条件の関数化する。
ここで、関数化の一例を説明すると、関数化部125は、図5示した、負極の活物質利用率mn、負極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量δの時系列変化式
=m-m×t
δ=m0′+m1′×(t)0.5
に対し係数m、m1’の稼働条件の依存性を関数化する。
【0039】
関数の一例としては、
(m1′)=α+β×温度+γ×SOC
(m1′)=α×(β×温度)+(γ×SOC)
などが挙げられる。
ここで、α、β、γは係数である。これらの係数α、β、γの値は、フィッティングにより決定される。
【0040】
ここまでの説明は、計算部12が二次電池の保存劣化を計算する場合である。
次に、計算部12が二次電池の稼働劣化を計算する場合について説明する。
まず、正極情報及び負極情報取得部121は、電池の内部状態を診断するために必要な、正極および負極の開回路電位と抵抗の情報を取得する。ここでの取得方法は、保存劣化を計算する場合と同様である。
【0041】
次に、電池情報取得部122は、電池の内部状態を診断するために必要な、二次電池開回路電圧と抵抗の情報を取得する。
ここでは、電池情報取得部122は、まず二次電池に対し、所定の温度において、所定の充電率(SOC)の範囲で一定電流での充放電を繰り返すサイクル試験を実施する。
そして、電池情報取得部122は、サイクル試験を実施する際には、定期的に試験を停止して、定電流間欠滴定法(GITT)を実施し、開回路電圧と抵抗の情報を取得する。
【0042】
定電流間欠滴定法では、単極セルを満充電させた後、1C[A]相当の電流で72秒間放電させ、30分休止させるサイクルを、放電終止電位に到達するまで繰り返す。各充電率(SOC)における開回路電位としては、放電電流を停止させてから30分後の電圧が用いられる。また、各充電率(SOC)における抵抗は、放電開始前の開回路電圧と、所定の放電時間が経過したときの開回路電圧との差分を、放電電流で除算して計算される。
【0043】
そして、内部状態診断部123は、正極情報及び負極情報取得部121と電池情報取得部122とで得られた情報を用いて、二次電池の内部状態を診断する。
すなわち、内部状態診断部123は、正極情報及び負極情報取得部121で得られた正極および負極の開回路電位および抵抗のデータを、電池情報取得部122で得られた二次電池の開回路電圧および抵抗のデータと比較することで、二次電池の内部状態を診断する。
なお、内部状態の診断対象としては、電池劣化と相関のある、正極の活物質利用率m、負極の活物質利用率m、正極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量δ、負極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量δ、電池の溶液抵抗R、正極の抵抗上昇率a、負極の抵抗上昇率aなどが挙げられる。
【0044】
内部状態診断部123は、これら7つを可変パラメータとし、正極情報及び負極情報取得部121で得られた正極および負極の開回路電位および抵抗のデータを、電池情報取得部122で得られた二次電池の開回路電圧および抵抗のデータとフィッティングする。フィッティング方法は、二次電池の保存劣化を計算する場合と同様の方法である。
【0045】
さらに、時系列変化式作成部124は、内部状態診断部123で得られた内部パラメータの時系列変化式を作成する。
ここで、稼働負荷の内部パラメータは、保存負荷の影響を含んでいるため、時系列変化式作成部124は、保存劣化の計算時に得た保存負荷の各パラメータの関数により計算される保存負荷によるパラメータの変化を差し引いて、稼働負荷のみの内部パラメータの変化を計算する。
【0046】
続いて、時系列変化式作成部124は、各パラメータの時系列変化をプロットし、近似曲線を引く。近似曲線の形状としては、一次曲線、二次曲線、ルート系の式、べき乗系の式などパラメータ毎に任意に設定することができる。
【0047】
そして、関数化部125は、得られた各劣化パラメータの時系列変化式の係数を、稼働条件の関数化する。
関数化の一例を示すと、関数化部125は、負極の活物質利用率mn、負極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量δの時系列変化式
=m-m×t
δ=m0′+m1′×(t)0.5
に対し係数m、m1′の稼働条件の依存性を関数化する。
【0048】
関数の一例としては、例えば、
(m1′)=α+β×温度+γ×中心SOC+ε×SOC範囲+ζ×電流
(m1′)=α×(β×温度)×(γ×中心SOC)×(ε×SOC範囲)×(ζ×電流)
などが挙げられる。
ここで、α、β、γ、ε、ζは係数である。これらの係数α、β、γ、ε、ζの値はフィッティングにより決定される。
【0049】
そして、寿命予測式作成部126は、二次電池の保存劣化の計算時に関数化部125で作成した関数と、二次電池の稼働劣化の計算時に関数化部125で作成した関数に、寿命予測したい二次電池の稼働条件を入力して、寿命予測したい二次電池の寿命予測式を作成する。
劣化計算部127は、寿命予測式作成部126で作成した寿命予測式に基づいて、内部劣化パラメータを計算する。
【0050】
寿命予測式作成部126が寿命予測式を作成する例について説明すると、寿命予測式作成部126は、内部劣化パラメータを下記の式に入力し、容量Q、抵抗Rを計算する寿命予測式を作成する。
=m×q―δ=m×q―δ
=a/m×r+a/m×r+R
【0051】
続いて、劣化計算部127は、寿命予測式作成部126で得られた寿命予測式の結果を二次電池の初期容量Qiniおよび初期抵抗Riniで除して、容量および抵抗の変化率を計算する。
これにより、劣化計算部127は、図5および図6に示すような容量および抵抗の変化率の時系列変化を得ることができる。具体的には、
容量の変化率 SOHQ=Q/Qini×100
抵抗の変化率 SOHR=R/Rini×100
として、示すことができる。
【0052】
図7は、ここまで説明した計算部12での二次電池の保存劣化の計算処理と、稼働劣化の計算処理を示すフローチャートである。
まず、正極情報及び負極情報取得部121は、電池の内部状態を診断するために必要な、正極および負極の開回路電位と抵抗の情報を取得する(ステップS11)。
また、電池情報取得部122は、電池の内部状態を診断するために必要な、二次電池開回路電圧と抵抗の情報を取得する(ステップS12)。
【0053】
そして、内部状態診断部123は、ステップS11で正極情報及び負極情報取得部121が得た正極および負極の開回路電位と抵抗の情報と、ステップS12で電池情報取得部122が得た二次電池開回路電圧と抵抗の情報を用いて、二次電池の内部状態を診断する(ステップS13)。
この内部状態を診断に基づいて、時系列変化式作成部124は、二次電池の保存劣化の時系列変化式と、二次電池の稼働劣化の時系列変化式を作成する(ステップS14)。
【0054】
さらに、関数化部125は、二次電池の保存劣化の時系列変化式の稼働条件による関数化と、二次電池の稼働劣化の時系列変化式の稼働条件による関数化を行う(ステップS15)。
関数化部125で関数化が行われると、寿命予測式作成部126は、二次電池の保存劣化の計算時に作成した関数と、二次電池の稼働劣化の計算時に作成した関数に、寿命予測したい二次電池の稼働条件を入力して、寿命予測したい二次電池の寿命予測式を作成する寿命予測式作成処理を行う(ステップS16)。
【0055】
その後、劣化計算部127は、寿命予測式作成部126で作成した寿命予測式に基づいて、内部劣化パラメータを計算する(ステップS17)。ステップS17で内部劣化パラメータを計算する際には、劣化計算部127は、例えば二次電池の稼働条件を取得して、劣化状態を計算してもよい。なお、計算された内部劣化パラメータは、例えば図5図6に示すような劣化状態のグラフや、劣化状態の表などで出力される。
【0056】
以上説明したように、本例の二次電池の劣化予測システム10によると、充電状態の変化に対する電圧の変化が小さい二次電池系においても、二次電池の内部状態を高精度に診断し、得られた診断結果に基づいて高精度に寿命予測することができる。
【0057】
ここで、内部状態診断部123は、二次電池の正極活物質に固有の充電状態と開回路電位との関係群と、充電状態と内部抵抗の関係群と、二次電池の負極活物質に固有の充電状態と開回路電位との関係群と、充電状態と内部抵抗の関係群と、を用いて正極と負極の劣化状態を診断するようにした。内部状態診断部123は、この点においても、寿命予測の高精度化に貢献しているということができる。
【0058】
さらに、本例の二次電池の劣化予測システム10では、内部状態診断部123が診断した状態の時系列変化式を作成する時系列変化式作成部124を備えて、時系列変化式作成部124が作成した時系列変化式に基づいて、寿命予測式作成部126が寿命予測式を作成するようにした。これにより、時系列変化を反映した適切な寿命予測が可能になる。
【0059】
また、内部状態診断部123は、正極と負極の劣化状態を診断する際に、正極の活物質利用率、負極の活物質利用率、正極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量、負極表面の被膜形成に伴うリチウムイオン損失量、電池の溶液抵抗、正極の抵抗上昇率、および負極の抵抗上昇率のパラメータを抽出して、内部状態を診断するようにした。この点においても、内部状態診断部123は、寿命予測の高精度化に貢献していると言ってよい。なお、上述した実施の形態例で、これらのパラメータを全て抽出して内部状態の診断に利用するようにしたのは一例であり、これらのパラメータの一部(少なくとも1つ)を抽出して内部状態の診断に利用してもよい。
【0060】
さらに、時系列変化式作成部124は、内部状態診断部123が抽出した抽出したパラメータの時系列変化に基づいて電池寿命予測式を作成するようにした。この点において、時系列変化式作成部124は、寿命予測の高精度化に貢献している。
【0061】
さらに、内部状態診断部123は、二次電池の保存負荷による劣化と、稼働負荷による劣化を診断し、寿命予測式作成部126は、保存負荷による劣化と、稼働負荷による劣化とを組合せて電池寿命の予測式を作成するようにした、このことで、それぞれの劣化による時系列変化を反映した適切な寿命予測が可能になる。
【0062】
さらに、劣化計算部127は、二次電池の稼働条件を取得し、二次電池の容量および抵抗の時系列変化を計算して出力するようにしたので、二次電池の稼働条件に基づいた適切な寿命予測が可能になる。
【0063】
なお、ここまで説明した実施の形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。すなわち、本発明は、上述した実施の形態例に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0064】
例えば、上述した実施の形態例では、二次電池に負荷をかけていない場合である保存劣化についての、正極および負極の劣化状態の時系列変化と、二次電池に負荷をかけた場合である稼働劣化についての、正極および負極の劣化状態の時系列変化とを算出して、寿命予測式作成部126が寿命予測式を作成するようにした。
これに対して、寿命予測式作成部126は、二次電池に負荷をかけた場合である稼働劣化についての、正極および負極の劣化状態の時系列変化に基づいて寿命予測式を作成するようにしてもよい。但し、寿命予測する精度としては、二次電池に負荷をかけていない場合の時系列変化と、二次電池に負荷をかけた場合の時系列変化から寿命予測式を作成する方がよい。
【0065】
また、上述した実施の形態例では、二次電池の劣化予測システム10を1つのコンピュータで構成した例としたが、複数のコンピュータで同様の劣化予測システムを構成してもよい。例えば、二次電池の正極や負極を測定したデータなどの一部のデータについては、二次電池の劣化予測システム10とネットワークを経由して接続されたサーバに保持させ、二次電池の劣化予測システム10がサーバと情報のやり取りを行って、同様の処理を行うようにしてもよい。また、図2に示す計算部12が備える構成の一部を別のコンピュータに配置して、別のコンピュータで処理させてもよい。
【0066】
また、図1図2に示す構成図では、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものだけを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
また、図7に示すフローチャートに示す処理の流れについても一例であり、処理結果が同じであれば、一部の処理順序の変更や、複数の処理の同時実行を行うようにしてもよい。
【0067】
また、本実施の形態例で説明した二次電池の劣化予測システムをコンピュータなどの情報処理装置で構成した場合に、各処理機能を実現するプログラムについては、コンピュータ装置内の不揮発性ストレージやメモリに用意する他に、外部のメモリ、ICカード、SDカード、光ディスク等の記録媒体に置いて、転送してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…CPU、2…メモリ3…ストレージ、4…入力デバイス、5…ネットワークインタフェース、6…出力部、10…二次電池の劣化予測システム、11…入力部、12…計算部、13…出力部、121…正極情報及び負極情報取得部、122…電池情報取得部、123…内部状態診断部、124…時系列変化式作成部、125…関数化部、126…寿命予測式作成部、127…劣化計算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7