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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176264
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】水質分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/33 20060101AFI20241212BHJP
   G01N 21/49 20060101ALI20241212BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20241212BHJP
【FI】
G01N21/33
G01N21/49 A
C02F1/00 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094698
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 波
(72)【発明者】
【氏名】田原 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】東 亮一
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB05
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE07
2G059EE11
2G059GG02
2G059GG03
2G059GG07
2G059HH02
2G059HH03
2G059KK01
2G059KK03
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】水質分析装置において、接液容器内部の汚れを防止することが好ましい。
【解決手段】測定対象水を分析する水質分析装置であって、前記測定対象水が通流する内部空間を有する接液容器と、前記内部空間に測定光を照射する測定光照射光学系と、前記内部空間に紫外光を照射する紫外光照射光学系と、前記接液容器からの被測定光に基づいて測定対象水を分析する検出光学系と、前記検出光学系の分析結果に基づいて、前記接液容器の汚れの程度を表す汚れ指標を演算する汚れ演算制御部とを備え、前記汚れ演算制御部は、前記汚れ指標の結果に応じて前記紫外光の強度を制御する水質分析装置を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象水を分析する水質分析装置であって、
前記測定対象水が通流する内部空間を有する接液容器と、
前記内部空間に測定光を照射する測定光照射光学系と、
前記内部空間に紫外光を照射する紫外光照射光学系と、
前記接液容器からの被測定光に基づいて測定対象水を分析する検出光学系と、
前記検出光学系の分析結果に基づいて、前記接液容器の汚れの程度を表す汚れ指標を演算する汚れ演算制御部と
を備え、
前記汚れ演算制御部は、前記汚れ指標の結果に応じて前記紫外光の強度を制御する
水質分析装置。
【請求項2】
前記汚れ演算制御部は、前記汚れ指標の値が予め定められた値より大きくなると前記紫外光の強度を増加させる
請求項1に記載の水質分析装置。
【請求項3】
前記予め定められた値は、前記測定対象水の種類に応じて決定される
請求項2に記載の水質分析装置。
【請求項4】
前記紫外光照射光学系は、前記水質分析装置が前記測定対象水を分析している間、前記紫外光を間欠的に照射する
請求項1に記載の水質分析装置。
【請求項5】
前記紫外光照射光学系と前記測定光照射光学系は、前記水質分析装置が前記測定対象水を分析している間、前記紫外光と前記測定光を交互に照射する
請求項4に記載の水質分析装置。
【請求項6】
前記紫外光は、前記測定光より拡散度合が大きい
請求項1に記載の水質分析装置。
【請求項7】
前記接液容器は、
前記被測定光が通過する散乱光窓と、
前記紫外光が通過する紫外光窓と
を有し、
前記紫外光窓は、前記内部空間をはさんで前記散乱光窓と向かい合う位置に配置されている
請求項1に記載の水質分析装置。
【請求項8】
前記測定対象水の流速を制御して、前記汚れを取り除く流速制御部を更に備える
請求項1に記載の水質分析装置。
【請求項9】
前記水質分析装置は、
前記汚れ演算制御部が前記汚れ指標を演算し、前記汚れ指標が予め定められた値より大きい場合、
前記汚れ演算制御部は、前記紫外光の光量及びデューティ比を増加させ、
前記流速制御部は、前記測定対象水の流速を増加させる操作を繰り返し行う
請求項8に記載の水質分析装置。
【請求項10】
前記接液容器は、
前記被測定光が通過する散乱光窓と、
前記紫外光が通過する紫外光窓と
を有し、
前記接液容器は、前記内部空間に設けられ、前記紫外光を前記紫外光窓から前記散乱光窓に導く遮光部を有し、
前記遮光部の内壁は前記紫外光を反射する
請求項1から9のいずれか一項に記載の水質分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料水の水質を分析する水質分析装置において超音波、気液噴射ノズルまたはワイパーによる洗浄方法が知られている(例えば、特許文献1-3参照)。また、2種類の光源を備える測定装置が知られている(例えば、特許文献4参照)。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特表2015-500461号公報
[特許文献2] 特開2008-2956号公報
[特許文献3] 特開平9-54076号公報
[特許文献4] 特開2022-59278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
水質分析装置において、接液容器内部の汚れを防止することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の実施形態においては、測定対象水を分析する水質分析装置を提供する。水質分析装置は、前記測定対象水が通流する内部空間を有する接液容器を備えてよい。上記いずれかの水質分析装置は、前記内部空間に測定光を照射する測定光照射光学系を備えてよい。上記いずれかの水質分析装置は、前記内部空間に紫外光を照射する紫外光照射光学系を備えてよい。上記いずれかの水質分析装置は、前記接液容器からの被測定光に基づいて測定対象水を分析する検出光学系を備えてよい。上記いずれかの水質分析装置は、前記検出光学系の分析結果に基づいて、前記接液容器の汚れの程度を表す汚れ指標を演算する汚れ演算制御部を備えてよい。上記いずれかの水質分析装置において、前記汚れ演算制御部は、前記汚れ指標の結果に応じて前記紫外光の強度を制御してよい。
【0005】
上記いずれかの水質分析装置において、前記汚れ演算制御部は、前記汚れ指標の値が予め定められた値より大きくなると前記紫外光の強度を増加させてよい。
【0006】
上記いずれかの水質分析装置において、前記予め定められた値は、前記測定対象水の種類に応じて決定されてよい。
【0007】
上記いずれかの水質分析装置において、前記紫外光照射光学系は、前記水質分析装置が前記測定対象水を分析している間、前記紫外光を間欠的に照射してよい。
【0008】
上記いずれかの水質分析装置において、前記紫外光は、前記測定光より拡散度合が大きくてよい。
【0009】
上記いずれかの水質分析装置において、前記接液容器は、前記被測定光が通過する散乱光窓を有してよい。上記いずれかの水質分析装置において、前記接液容器は、前記紫外光が通過する紫外光窓を有してよい。上記いずれかの水質分析装置において、前記紫外光窓は、前記内部空間をはさんで前記散乱光窓と向かい合う位置に配置されていてよい。
【0010】
上記いずれかの水質分析装置は、前記測定対象水の流速を制御して、前記汚れを取り除く流速制御部を更に備えてよい。
【0011】
上記いずれかの水質分析装置は、前記汚れ演算制御部が前記汚れ指標を演算し、前記汚れ指標が予め定められた値より大きい場合、前記汚れ演算制御部は、前記紫外光の光量及びデューティ比を増加させ、前記流速制御部は、前記測定対象水の流速を増加させる操作を繰り返し行ってよい。
【0012】
上記いずれかの水質分析装置において、前記接液容器は、前記被測定光が通過する散乱光窓を有してよい。上記いずれかの水質分析装置において、前記接液容器は、前記紫外光が通過する紫外光窓を有してよい。上記いずれかの水質分析装置において、前記接液容器は、前記内部空間に設けられ、前記紫外光を前記紫外光窓から前記散乱光窓に導く遮光部を有してよい。上記いずれかの水質分析装置において、前記遮光部の内壁は前記紫外光を反射してよい。
【0013】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴のすべてを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例における水質分析装置100を示す図である。
図2】接液容器10および光学系の構成例を示す図である。
図3】紫外光52の照射の効果を説明する図である。
図4】汚れ指標を用いた紫外光52の制御と測定対象水の流速の制御のフローチャートの一例を示す図である。
図5】接液容器10に設けられる遮光部70の配置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。本明細書では、各図における同一の部分には同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。また、説明の便宜上一部の構成を図示しない場合がある。
【0016】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標系を用いて技術的事項を説明する場合がある。直交座標系は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えばZ軸方向は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。本明細書において「垂直」または「平行」のように称した場合、例えば5°程度のズレを含んでよい。
【0017】
図1は、本発明の実施例における水質分析装置100を示す図である。水質分析装置100は、測定対象水を分析する。水質分析装置100は、測定対象水の濁度や、測定対象水に含まれる特定の成分の濃度を測定する。測定対象水は、一例として海水である。海水中には微生物が比較的多く存在するため、本実施例では測定対象水として海水を用いて説明するが、測定対象水は淡水であってよく、排水であってよく、他の液体であってもよい。
【0018】
水質分析装置100は、接液容器10、汚れ演算制御部14、測定光照射光学系20、散乱光検出光学系30(図2参照。)、透過光検出光学系40、紫外光照射光学系50、流速制御部60、液体通流パイプ62を備える。流速制御部60は、測定対象水の流速を制御して測定対象水を接液容器10に流入させる。流速制御部60は、ポンプを制御することで流速を制御してよく、バルブを制御することで流速を制御してもよい。測定対象水は液体通流パイプ62を通って接液容器10に流入する。
【0019】
接液容器10にて測定対象水の分析が行われる。接液容器10は、接液容器10の内部と外部との間で光を透過する光学窓を有する。図1においては、透過光窓44および紫外光窓54を示しているが、接液容器10は他の光学窓も有してよい。接液容器10およびその周辺の光学系については、図2を用いて説明する。水質分析装置100は、測定対象水に光を照射し、その散乱光などから測定対象水を分析する光学式の分析装置である。本例の水質分析装置100は、測定対象水が接液容器10を通過する連続式であるが、これに限定されない。水質分析装置100は、測定対象水が接液容器10を通過せずに留まっている状態で測定を行ってもよい。図1および以降の図においては、接液容器10の内部を測定対象水が通流する方向をZ軸正方向とし、Z軸方向と垂直な面をXY平面として示している。
【0020】
汚れ演算制御部14は、散乱光検出信号線36を介して散乱光検出光学系30と接続し、透過光検出信号線46を介して透過光検出光学系40と接続し、紫外光検出信号線56を介して紫外光照射光学系50と接続し、流速制御信号線66を介して流速制御部60と接続している。汚れ演算制御部14は、後述するように散乱光検出光学系30および透過光検出光学系40の一方または両方の分析結果に基づいて、接液容器10の汚れを演算してよい。汚れ演算制御部14は、当該演算の結果に基づいて紫外光照射光学系50を制御し、紫外光の強度を変化させてよい。汚れ演算制御部14は、当該演算の結果に基づいて流速制御部60を制御し、測定対象水の流速を変化させ、接液容器10の汚れを取り除いてよい。
【0021】
図2は、接液容器10および光学系の構成例を示す図である。図2の接液容器10は、XY平面の断面を示している。接液容器10は、測定対象水が通流する内部空間12を有する。図2では測定対象水は紙面手前(Z軸正方向)に向かって通流する。
【0022】
接液容器10は、測定光窓24、散乱光窓34、透過光窓44および紫外光窓54を有する。測定光窓24、散乱光窓34、透過光窓44および紫外光窓54は、接液容器10の内部空間12と、外部との間で光が通過できるように設けられている光学窓である。本明細書では、測定光窓24、散乱光窓34、透過光窓44および紫外光窓54をまとめて光学窓と称する場合がある。図2では、光学窓は内部空間12に設けられているが、接液容器10の外部に設けられてよく、接液容器10の壁に埋め込まれていてもよい。
【0023】
測定光照射光学系20は、内部空間12に測定光22を照射する。測定光照射光学系20は、接液容器10の外部から、内部空間12の測定対象水に向けて測定光22を照射してよい。測定光照射光学系20は、光源としてランプまたはLEDなどを備えている。測定光22は白色光であってよく、単色光であってもよい。測定光照射光学系20は、測定光窓24から接液容器10の内部空間12に向けて測定光22を照射する位置に設けられる。
【0024】
測定対象水に測定光22を照射すると、測定光22の一部は、測定対象水に含まれる成分および懸濁物質によって散乱または吸収され、他の一部は散乱または吸収されずに透過する。また特定の化学物質が含まれる測定対象水に波長の短い測定光22を照射すると、化学物質固有の蛍光が発生する。
【0025】
散乱光検出光学系30は、測定対象水からの散乱光32を検出する。散乱光32は散乱光であってよく、蛍光であってよく、後述する紫外光であってもよい。散乱光検出光学系30は、散乱光窓34から射出する散乱光32を検出する位置に設けられる。
【0026】
透過光検出光学系40は、測定対象水からの透過光42を検出する。透過光42には蛍光が含まれていてよく、後述する紫外光が含まれていてもよい。透過光検出光学系40は、透過光窓44から射出する透過光42を検出する位置に設けられる。散乱光検出光学系30および透過光検出光学系40は、フォトダイオードや光電子増倍管などの受光素子を備えており、散乱光32および透過光42の強度を検出する。
【0027】
測定対象水の濁度が増加すると、散乱光32の強度は増加する。測定対象水の濁度が増加すると、測定光22の強度から透過光42の強度を減じた光吸収量も増加する。また、測定対象物質の濃度が増加すると、散乱光32および蛍光の強度は増加し、光吸収量も増加する。そのため、散乱光32、蛍光および透過光42の少なくともいずれかの強度を検出することで、測定対象水の濁度や測定対象物質の濃度を算出することが可能となる。本明細書では、散乱光32と透過光42を合わせて被測定光48と称する場合がある。また、散乱光検出光学系30と透過光検出光学系40を合わせて検出光学系58と称する場合がある。散乱光検出光学系30と透過光検出光学系40は図示しない信号線で接続され、それぞれが検出した強度の値を通信してよい。散乱光検出光学系30と透過光検出光学系40は、演算部を含んでいてよい。
【0028】
検出光学系58は、接液容器10からの被測定光48に基づいて測定対象水を分析してよい。検出光学系58は、上述の濁度または濃度を算出してよい。検出光学系58は、散乱光検出光学系30と透過光検出光学系40の少なくとも一つを備えていてよい。一例として検出光学系58は、散乱光検出光学系30のみを備え、検出した散乱光32の強度に基づいて測定対象水の濁度を算出してもよい。
【0029】
測定対象水に微生物が存在する場合、微生物が接液容器10の光学窓に付着し汚れを形成することがある。上記汚れは、例えばバイオフィルムである。バイオフィルムとは、微生物が存在する溶液と接する物質表面に、細胞が生産する細胞外ポリマー(EPS)により付着し増殖する細菌の集合体である。本明細書において、汚れとは主としてバイオフィルムを指す。光学窓に汚れが形成されると光学窓を通過する光を遮るので、分析結果に誤差が生じやすくなる。
【0030】
紫外光照射光学系50は内部空間12に紫外光52を照射する。紫外光照射光学系50は、接液容器10の外部から、内部空間12の光学窓に向けて紫外光52を照射してよい。紫外光には殺菌効果があるため、測定対象水に存在する微生物を殺菌することができ、汚れの形成を予防することができる。紫外光照射光学系50は、紫外光窓54から接液容器10の内部空間12に向けて紫外光52を照射する位置に設けられる。
【0031】
紫外光照射光学系50は、光源としてランプまたはLEDなどを備えている。紫外光52の波長はUV-C(~280nm)であってよい。一例として紫外光52の強度は、フルパワー時において、中心部の放射強度が0.2mW/cm、周辺部の放射強度が0.12mW/cmである。中心部は、光源の出射面において光軸と交差する部分であり、周辺部は、光源の出射面において光軸から最も離れた部分である。
【0032】
紫外光52は拡散光であってよい。紫外光52は、測定光22より拡散度合が大きくてよい。拡散度合とは、光が所定の距離進む間に、光が広がる度合いであってよい。これにより、内部空間12に照射された紫外光52が、複数の光学窓に到達しやすくなる。紫外光照射光学系50は、接液容器10に設けられたすべての光学窓に紫外光52が到達するように、内部空間12に紫外光52を照射してよい。
【0033】
紫外光窓54は、内部空間12をはさんで散乱光窓34と向かい合う位置に配置されてよい。図2において紫外光窓54は、Y軸方向において散乱光窓34と向かい合う位置に配置されている。紫外光52の光軸は、Y軸方向と平行であってよい。上述の通り、紫外光52の強度は、周辺部よりも中心部が強い。このため、紫外光窓54と散乱光窓34を対向して配置することで、散乱光窓34に照射される紫外光の光量を多くできる。これにより測定値に直結する散乱光32が通過する散乱光窓34の汚れを防止することができる。
【0034】
紫外光照射光学系50は、水質分析装置100が測定対象水を分析している間、紫外光52を間欠的に照射してよい。一例として、測定光照射光学系20と紫外光照射光学系50は、水質分析装置100が測定対象水を分析している間、交互に測定光22と紫外光52を照射する。本例において測定対象水を分析している間とは、同一の測定対象水を分析するために、測定光22を間欠的に照射している期間を指す。測定対象水を分析している間には、水質分析装置100の洗浄や校正の期間は含まれなくてよい。具体的には、単位時間あたり、半分の時間は測定光照射光学系20が測定光22を照射し、他の時間は紫外光照射光学系50が紫外光52を照射してよい。言い換えると、単位時間あたり、半分の時間は測定光22を照射するための時間であり、他の時間は、紫外光52を照射するための時間であってよい。上記単位時間が測定対象水を分析している間繰り返される。単位時間は、1秒であってよく、1分であってよく、分析に必要な被測定光48の受光量を受光するのに要する時間の2倍の時間であってもよい。これにより、光源寿命を長くすることができるとともに、紫外光52が測定対象水の分析に影響するのを抑えることができる。
【0035】
汚れ演算制御部14は、検出光学系58の分析結果に基づいて、接液容器10の汚れの程度を表す汚れ指標を演算する。汚れ指標は、一例として以下の式で表される。
汚れ指標=1-(散乱光32の強度+透過光42の強度)/(初期散乱光の強度+初期透過光の強度)
汚れ指標は0から1までの値をとる。汚れ指標の値が高いことは、接液容器10が汚れていることを意味する。汚れ指標は散乱光32または透過光42の一方のみを用いて演算されてもよい。
【0036】
汚れ演算制御部14は、汚れ指標の結果に応じて紫外光52の強度を制御してよい。汚れ演算制御部14は、紫外光照射光学系50を制御することで、紫外光52の強度を変化させてよい。汚れ演算制御部14は、汚れ指標の値が予め定められた値より大きくなると紫外光52の強度を増加させてよい。予め定められた値とは、一例として0.2である。これによって、汚れの形成をより抑制することができる。
【0037】
バイオフィルムの形成段階では、物質表面に付着した細菌がEPSを生成することで、マイクロコロニーや集塊が形成され、バイオフィルムの形成が促進される。すなわち、EPSが生成されることでバイオフィルムは急速に成長する。紫外光52は、上記EPSの生成を阻害するため、バイオフィルムの形成を抑制することができる。
【0038】
成長したバイオフィルムは、物質表面に強く付着し、除去することが容易でなくなる。そのため、紫外光52の強度を調整して、バイオフィルムの形成段階をEPS生成段階よりも前に止めておくことが望ましい。
【0039】
バイオフィルムがEPS生成によって急速に成長する段階は、時間経過に対する汚れ指標の急激な増加として現れる。そのため、汚れ指標が急激に増加し始めるときの汚れ指標の値(臨界汚れ指標値という。)を事前に実験的に取得しておくことが好ましい。汚れ演算制御部14は、予め定められた値として臨界汚れ指標値を用いてよく、臨界汚れ指標値の0.8倍の値を用いてよく、臨界汚れ指標値の0.5倍の値を用いてよい。
【0040】
臨界汚れ指標値は、測定対象水の種類によっても異なる。予め定められた値は、測定対象水の種類に応じて決定されてよい。これによって、測定対象水ごとに効果的に汚れの形成を予防することができる。
【0041】
紫外線照射によってバイオフィルムの形成を予防することで、汚れは光学窓へ強く付着しない。そのため、測定対象水が内部空間12を通流することによって汚れの大部分は取り除かれる。流速制御部60は、測定対象水の流速を制御して、汚れを取り除いてもよい。紫外線照射によってバイオフィルムの形成を予防しているので、測定対象水の流速を制御するといった軽めの洗浄方法でも汚れを取り除くことができる。本明細書では、汚れを取り除く方法として、測定対象水の流速の制御を用いているが、他の洗浄方法を用いてもよい。
【0042】
図3は、紫外光52の照射の効果を説明する図である。発明者は、汚れの予防における紫外光52の効果を検証するため、比較実験を行った。実験では測定対象水を通流してから20日後の光学窓の状態と透過率を測定した。測定対象水は、海水である。図3の上側の行は実施例を示し、下側の行は比較例を示している。図3の左から2列目は、紫外光52の照射の有無を示している。実施例においては、上述の紫外光52を連続して照射し、比較例においては紫外光52を照射していない。
【0043】
図3の左から3列目は、光学窓の汚れを示している。3列目に示す光学窓の図は、目視のイメージ図である。実施例においては、小さな汚れ(図中の黒塗り楕円)が部分的に形成されていたが、大部分は汚れが形成されていなかった。一方、比較例においては、光学窓の一面に薄い汚れ(図中のハッチング)が形成され、その中に濃い汚れ(図中の黒塗り楕円)が形成されていた。
【0044】
図3の左から4列目は、光の透過率を示している。透過率の基準は、測定対象水を通流する前の初期の透過率を100%としている。実施例においては98%の透過率が測定されたが、比較例においては、実施例よりも低い74%の透過率が測定された。すなわち、紫外光52を照射することで、汚れを大幅に予防できることが確認された。
【0045】
図4は、汚れ指標を用いた紫外光52の制御と測定対象水の流速の制御のフローチャートの一例を示す図である。ステップS100において、汚れ演算制御部14は、上述の汚れ指標を演算する。ステップS102において、汚れ演算制御部14は、汚れ指標が予め定められた値より大きいか否かを判定する。本例では、予め定められた値は0.2である。汚れ指標の値が予め定められた値より大きくない場合、その後の処理は行わなくてよく、再び汚れ指標を算出してもよい。
【0046】
汚れ指標が予め定められた値より大きい場合、ステップS104において汚れ演算制御部14は、紫外光52の光量およびデューティ比を増加させる。紫外光52の光量を増加させるとは、紫外光照射光学系50の出力を増加させることであってよく、駆動電流を増加させることであってよい。図4では、紫外光52の光量とデューティ比を10%増加させている。
【0047】
ステップS106において汚れ演算制御部14は、紫外光52の光量およびデューティ比が100%になったか否かを判定する。紫外光52の光量が100%とは、紫外光照射光学系50の出力が最大であることであってよい。
【0048】
紫外光52の光量およびデューティ比の両方が100%になっている場合、ステップS108において、汚れ演算制御部14は、汚れ指標の値が予め定められた値より大きいか否かを判定する。ステップS108での予め定められた値は、ステップS102での予め定められた値よりも大きくてよい。本例の予め定められた値は0.7である。
【0049】
ステップS108において、汚れ指標の値が予め定められた値よりも大きい場合、汚れ演算制御部14は水質分析装置100のメンテナンスや部品交換が必要であると判断する。この場合、汚れ演算制御部14はメンテナンスや部品交換が必要であることを外部へ通知してよい。ステップS108において、汚れ指標の値が予め定められた値よりも小さい場合、汚れ演算制御部14は特に処理を行わなくてもよい。この場合汚れ演算制御部14は、汚れ指標の値が予め定められた値よりも大きいか否か定期的にチェックし続けてよい。
【0050】
ステップS106において紫外光52の光量およびデューティ比の両方が100%になっていない場合、ステップS110において、流速制御部60は、測定対象水の流速を増加させる。一例として、1時間に1回の頻度で、1回数十秒間流速を増加させ、増加時の流速は平常時の200%~300%である。汚れ演算制御部14が流速制御部60へ指令を送ることで、測定対象水の流速を増加させてよい。
【0051】
ステップS112において、汚れ演算制御部14は遅延時間、紫外光52の光量およびデューティ比と測定対象水の流速を増加させた状態を維持する。上記遅延時間は汚れの低減効果が表れるまでの期間である。本例では、遅延時間として1日~3日の期間を設定している。
【0052】
ステップS114において、汚れ演算制御部14は上記遅延時間を経過したか否かを判断する。遅延時間を経過していない場合、汚れ演算制御部14は引き続き紫外光52の光量およびデューティ比と測定対象水の流速を増加させた状態を維持する。遅延時間を経過した場合、再びステップS100の操作を行う。水質分析装置100は、図4の操作を繰り返してよい。
【0053】
図5は、接液容器10に設けられる遮光部70の配置例を示す図である。本例の接液容器10は、内部空間12に設けられた遮光部70を有する。内部空間12に紫外光52を照射する場合、紫外光52によって接液容器10が劣化してしまう場合がある。遮光部70を設けることによって、接液容器10の内壁に照射される紫外光52を低減することができ、接液容器10の劣化を防止できる。また、遮光部70を設けることで、測定における迷光の影響を低減できる。
【0054】
遮光部70は、紫外光窓54と接液容器10の内壁を結ぶ直線の少なくとも一部を遮るように設けられてよい。遮光部70は、紫外光窓54と接液容器10の内壁を結ぶ直線の全部を遮るように設けられてよい。遮光部70は、紫外光52を紫外光窓54から散乱光窓34に導く。遮光部70は、紫外光52を紫外光窓54から測定光窓24に導いてよく、透過光窓44に導いてよい。遮光部70の内壁は紫外光52を反射してよい。遮光部70の内壁とは、遮光部70の壁面のうち測定光22、散乱光32、透過光42または紫外光52が通過する光路に面した壁面であってよく、接液容器10の内壁に面していない壁面であってよく、遮光部70の他の部分と面している壁面であってよい。これによって、紫外光52をすべての光学窓に導くことができる。
【0055】
遮光部70の外壁は紫外光52を吸収してよい。遮光部70の外壁とは、遮光部70の壁面のうち測定光22、散乱光32、透過光42または紫外光52が通過する光路に面していない壁面であってよく、接液容器10の内壁に面している壁面であってよく、遮光部70の他の部分と面していない壁面であってよい。これによって、接液容器10の内壁に照射される紫外光52をより低減することができる。遮光部70の内壁は紫外光52に対して反射率の高い材料でコーティングされていてよい。遮光部70の外壁は紫外光52に対して反射率の低い材料でコーティングされていてよい。遮光部70の内壁は遮光部70の外壁と比べて紫外光52の反射率が高くてよい。
【0056】
遮光部70はねじ、接着剤等により接液容器10に固定されてよい。接着剤は、遮光部70および接液容器10の耐熱温度よりも低い温度で軟化するものを用いてよい。遮光部70は、接液容器10の壁面と形状および寸法を一致させることで機械的に固定されてもよい。遮光部70は、加熱、その他の方法によって接液容器10に固定されてもよい。紫外光52が照射され劣化しやすい遮光部70のみを交換することでメンテナンスを容易にすることができる。
【0057】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0058】
10・・・接液容器、12・・・内部空間、14・・・汚れ演算制御部、20・・・測定光照射光学系、22・・・測定光、24・・・測定光窓、30・・・散乱光検出光学系、32・・・散乱光、34・・・散乱光窓、36・・・散乱光検出信号線、40・・・透過光検出光学系、42・・・透過光、44・・・透過光窓、46・・・透過光検出信号線、48・・・被測定光、50・・・紫外光照射光学系、52・・・紫外光、54・・・紫外光窓、56・・・紫外光検出信号線、58・・・検出光学系、60・・・流速制御部、62・・・液体通流パイプ、66・・・流速制御信号線、70・・・遮光部、100・・・水質分析装置
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-04-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象水を分析する水質分析装置であって、
前記測定対象水が通流する内部空間を有する接液容器と、
前記内部空間に測定光を照射する測定光照射光学系と、
前記内部空間に紫外光を照射する紫外光照射光学系と、
前記接液容器からの被測定光に基づいて測定対象水を分析する検出光学系と、
前記検出光学系の分析結果に基づいて、前記接液容器の汚れの程度を表す汚れ指標を演算する汚れ演算制御部と
を備え、
前記汚れ演算制御部は、前記汚れ指標の結果に応じて前記紫外光の強度を制御する
水質分析装置。
【請求項2】
前記汚れ演算制御部は、前記汚れ指標の値が予め定められた値より大きくなると前記紫外光の強度を増加させる
請求項1に記載の水質分析装置。
【請求項3】
前記予め定められた値は、前記測定対象水の種類に応じて決定される
請求項2に記載の水質分析装置。
【請求項4】
前記紫外光照射光学系は、前記水質分析装置が前記測定対象水を分析している間、前記紫外光を間欠的に照射する
請求項1に記載の水質分析装置。
【請求項5】
前記紫外光照射光学系と前記測定光照射光学系は、前記水質分析装置が前記測定対象水を分析している間、前記紫外光と前記測定光を交互に照射する
請求項4に記載の水質分析装置。
【請求項6】
前記紫外光は、前記測定光より拡散度合が大きい
請求項1に記載の水質分析装置。
【請求項7】
前記接液容器は、
前記被測定光が通過する散乱光窓と、
前記紫外光が通過する紫外光窓と
を有し、
前記紫外光窓は、前記内部空間をはさんで前記散乱光窓と向かい合う位置に配置されている
請求項1に記載の水質分析装置。
【請求項8】
前記測定対象水の流速を制御して、前記汚れを取り除く流速制御部を更に備える
請求項1に記載の水質分析装置。
【請求項9】
前記汚れ演算制御部が前記汚れ指標を演算し、前記汚れ指標が予め定められた値より大きい場合、
前記汚れ演算制御部は、前記紫外光の光量及びデューティ比を増加させ、
前記流速制御部は、前記測定対象水の流速を増加させる操作を繰り返し行う
請求項8に記載の水質分析装置。
【請求項10】
前記接液容器は、
前記被測定光が通過する散乱光窓と、
前記紫外光が通過する紫外光窓と
を有し、
前記接液容器は、前記内部空間に設けられ、前記紫外光を前記紫外光窓から前記散乱光窓に導く遮光部を有し、
前記遮光部の内壁は前記紫外光を反射する
請求項1から9のいずれか一項に記載の水質分析装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
上記いずれかの水質分析装置において、前記汚れ演算制御部が前記汚れ指標を演算し、前記汚れ指標が予め定められた値より大きい場合、前記汚れ演算制御部は、前記紫外光の光量及びデューティ比を増加させ、前記流速制御部は、前記測定対象水の流速を増加させる操作を繰り返し行ってよい。