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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176273
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】金属膜の製造方法及び金属被覆部材
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
B23K20/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094715
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】園村 浩介
(72)【発明者】
【氏名】片桐 一彰
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 友厚
(72)【発明者】
【氏名】田中 努
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 泰則
(72)【発明者】
【氏名】垣辻 篤
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167AA08
4E167AA10
4E167AA14
4E167AA21
4E167AA29
4E167BF02
(57)【要約】
【課題】所望の組成を有する金属膜を得ることができる簡便かつ安価な金属膜の製造方法及び当該製造方法によって得られる金属被覆部材を提供する。
【解決手段】金属材を回転させながら基材の表面に押圧し、軟化した金属材を基材の表面に被覆することで金属膜を形成させる方法であって、金属箔を棒状に丸めて金属材とすること、を特徴とする金属膜の製造方法。異なる組成を有する金属箔を積層し、金属膜を合金膜とすること、が好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材を回転させながら基材の表面に押圧し、軟化した前記金属材を前記基材の表面に被覆することで金属膜を形成させる方法であって、
金属箔を棒状に丸めて前記金属材とすること、
を特徴とする金属膜の製造方法。
【請求項2】
異なる組成を有する前記金属箔を積層し、棒状に丸めて前記金属材とし、
前記金属膜を合金膜とすること、
を特徴とする請求項1に記載の金属膜の製造方法。
【請求項3】
大気中で前記金属膜を形成させること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の金属膜の製造方法。
【請求項4】
Zr箔、Al箔、Ni箔及びCu箔から選択される2種以上の前記金属箔を用いること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の金属膜の製造方法。
【請求項5】
基材の表面に金属膜を有し、
前記金属膜はZr、Al、Ni及びCuを含む合金膜であり、
前記合金膜の平均硬さが30GPa以上であること、
を特徴とする金属被覆部材。
【請求項6】
基材の表面に金属膜を有し、
前記金属膜はNiとCuからなる合金膜であり、
同一の組成を有する金属材と比較して、前記合金膜の磁化が10%以下であること、
を特徴とする金属被覆部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基材表面に金属膜を形成させる金属膜の製造方法及び当該製造方法によって得られる金属被覆部材に関する。
【背景技術】
【0002】
各種基材の表面に金属膜を形成させる方法は種々提案されているが、近年、摩擦攪拌接合や摩擦攪拌プロセスによって得られる攪拌部が良好な機械的特性を示すことに着目し、摩擦攪拌現象を利用して固相で金属肉盛層を形成させる技術が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2009-161793号公報)においては、基材に形成され円筒内面形状および/または軸方向で径が異なるテーパ面形状の内周面で区画され断面形状が円形の穴部に、該穴部の内周部よりも高温変形抵抗が低い材料からなる表層を有し外径が該穴部の内径より大きい棒状体を該穴部の軸方向に圧入しつつ該基材と該棒状体とを相対回転させ、前記棒状体の前記表層を摩擦による発熱で軟化・流動させて少なくとも該表層を前記穴部の内周面上にコーティングすることを特徴とする摩擦攪拌コーティング方法、が開示されている。
【0004】
上記特許文献1に記載の摩擦攪拌コーティング方法においては、穴部の内周面と棒状体の外周面とが相対的なすべり摩擦をするため、棒状体の表層が、摩擦による発熱で軟化して塑性流動する。棒状体の表層が軟化・流動し、摩擦面に凝着するとともに発熱現象にともなう固相拡散により、少なくとも表層が穴部の内周面上にコーティングされる。このとき、棒状体の表層は穴部の内周部よりも高温変形抵抗の低い材料からなるため、塑性流動による基材の成分と棒状体の成分との混合が回避され、良好な接合状態でコーティングされる、とされている。
【0005】
また、特許文献2(特開2009-28756号公報)においては、原子炉内構造物に用いられる金属基材の表面に、肉盛材料を肉盛する表面肉盛方法において、高硬度かつ高耐食性の肉盛材料を摩擦攪拌により前記金属基材の表面に肉盛することを特徴とする表面肉盛方法、が開示されている。
【0006】
上記特許文献2に記載の表面肉盛方法においては、接合性が改善され、溶接熱影響部の形成及び希釈領域の形成が抑制された、高硬度かつ高耐食性の肉盛材料を金属基材上に肉盛する表面肉盛方法を提供できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-161793号公報
【特許文献2】特開2009-28756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている摩擦攪拌コーティング方法では、穴部の内周部よりも高温変形抵抗が低い材料からなる表層を有し外径が当該穴部の内径より大きい棒状体を作製する必要があり、生産性に乏しいことに加えて、プロセスコストが高くなる。
【0009】
また、上記特許文献2に開示されている表面肉盛方法は、高硬度かつ高耐食性の肉盛材料を摩擦攪拌による入熱で軟化させて基材表面に被覆するものであり、プロセス荷重が大きくなり、剛性の高い専用機を用いて処理を実施する必要がある。
【0010】
更に、上記特許文献1に開示されている摩擦攪拌コーティング方法及び上記特許文献2に開示されている表面肉盛方法においては、所望のコーティング及び肉盛層と同一の組成を有する被覆材を予め得る必要があり、プロセスコストが高くなることに加えて、得られる金属膜の種類が限定される。
【0011】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、所望の組成を有する金属膜を得ることができる簡便かつ安価な金属膜の製造方法及び当該製造方法によって得られる金属被覆部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記目的を達成すべく、摩擦攪拌現象を用いた金属膜の製造方法について鋭意研究を重ねた結果、金属箔を丸めて棒状に成形して被覆材とすること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、
金属材を回転させながら基材の表面に押圧し、軟化した前記金属材を前記基材の表面に被覆することで金属膜を形成させる方法であって、
金属箔を棒状に丸めて前記金属材とすること、
を特徴とする金属膜の製造方法、を提供する。
【0014】
本発明の金属膜の製造方法においては、金属箔を丸めて棒状に成形して金属材とすることで、簡便かつ安価に被覆材(摩擦攪拌接合及び摩擦攪拌プロセスにおけるツールに相当する棒状体)を得ることができる。
【0015】
また、金属箔を丸めた金属材は適度に空隙(金属箔間の隙間)を有しており、緻密な金属材と比較すると全体としての熱伝導率が低くなることから、基材の表面と金属材との摩擦によって発生する摩擦熱が金属材の端部に蓄熱されやすく、当該端部を容易に昇温することができ、金属材を基材表面に効率的に被覆することができる。
【0016】
加えて、金属箔を丸めた金属材は、同じ外径を有する緻密な棒状体と比較すると、実際に基材に当接する底面積が小さくなる。その結果、押圧する荷重が小さい場合であっても金属材に印加される圧力が高くなり、当該金属体の端部を効率的に昇温することができる。本発明の金属膜の製造方法においては、高い剛性と加圧力を有する高価かつ大型の摩擦攪拌専用機を用いる必要が無く、汎用のボール盤やフライス盤等を用いて金属膜を製造することができる。
【0017】
また、本発明の金属膜の製造方法においては、異なる組成を有する前記金属箔を積層し、棒状に丸めて前記金属材とし、前記金属膜を合金膜とすること、が好ましい。異なる組成を有する金属箔を適当に組み合わせることで、所望の金属膜の組成となる金属材を容易に得ることができる。加えて、強力な摩擦攪拌効果によって、金属箔同士が昇温及び混合されることで、合金膜を製造することができる。この際、金属箔には大きな歪が導入されることから、各元素の拡散が促進され、極めて効果的に合金化を図ることができる。更には、歪の導入による動的再結晶や析出サイトの増加等によって微細かつ均一な金属組織を得ることもできる。また、固相における低温かつ短時間なプロセスであることから、例えば、金属膜の高硬度化及び高強度化に資する析出物の粗大化を抑制することもできる。
【0018】
また、本発明の金属膜の製造方法においては、大気中で前記金属膜を形成させること、が好ましい。本発明の金属膜の製造方法においては、金属材を溶かすことがなく、固相における低温かつ短時間なプロセスであることから、酸化等の影響を殆ど考慮する必要がない。その結果、アルゴン等の不活性ガスを用いた雰囲気制御が必須ではなく、簡便かつ安価に金属膜を製造することができる。
【0019】
更に、本発明の金属膜の製造方法においては、Zr箔、Al箔、Ni箔及びCu箔から選択される2種以上の前記金属箔を用いること、が好ましい。比較的融点が低いこれらの金属箔を用いることで摩擦攪拌による金属膜の形成が容易となることに加え、優れた特性を有する合金膜を得ることができる。例えば、Zr箔、Al箔、Ni箔及びCu箔を全て用いることで、合金膜の平均硬さが30GPa以上の硬質合金膜を得ることができる。また、Ni箔及びCu箔を用いることで、同一の組成を有する金属材と比較して、磁化が10%以下である合金膜を得ることができる。
【0020】
また、本発明は、
基材の表面に金属膜を有し、
前記金属膜はZr、Al、Ni及びCuを含む合金膜であり、
前記合金膜の平均硬さが30GPa以上であること、
を特徴とする金属被覆部材、を提供する。
【0021】
本発明の金属被覆部材は本発明の金属膜の製造方法によって得られるものであり、基材の表面に合金膜が形成されたものである。金属被覆部材として使用してもよく、金属膜を基材から分離して、合金膜単体として利用することもできる。ここで、基材の材質、形状及びサイズは本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の金属基材やセラミックス基材等を使用することができる。
【0022】
本発明の金属被覆部材における合金膜は強加工を伴うプロセスで形成されたものであり、物理蒸着、アーク放電及びレーザクラッディング等で形成される合金膜とは結晶性が大きく異なり、不均一な歪や小さな結晶子サイズを含み結晶性が低くなっている。
【0023】
また、合金膜はZr、Al、Ni及びCuを含んでいることから、Zr-(Ni,Cu)-Al合金(金属ガラス)や微細なアルミナが分散し、30GPa以上の高い平均硬さとなっている。合金膜の平均硬さは35GPa以上であることが好ましく、40GPa以上であることがより好ましい。
【0024】
更に、本発明は、
基材の表面に金属膜を有し、
前記金属膜はNiとCuからなる合金膜であり、
同一の組成を有する金属材と比較して、前記合金膜の磁化が10%以下であること、
を特徴とする金属被覆部材、も提供する。
【0025】
金属膜がNiとCuからなる合金膜である場合、67Ni・33Cu(質量%)等のNi・Cu合金膜とすることができる。ここで、本発明の金属被覆部材のNi・Cu合金膜は結晶性が低いために磁性を帯び難く、例えば、無電解Niめっきの代替として利用することができる。
【0026】
無電解Niめっきは銅等の基材や下層のめっき材が上層に拡散することを抑制する目的で形成されるが、Niめっき膜は結晶性であることから磁性を帯びやすく、その結果、精密機器等の製品品質に悪影響を及ぼすことがある。これに対し、本発明の金属被覆部材においては、同一の組成を有する金属材と比較して、合金膜の磁化が10%以下であることから、磁性を帯び難く、Niめっき膜の代替として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、所望の組成を有する金属膜を得ることができる簡便かつ安価な金属膜の製造方法及び当該製造方法によって得られる金属被覆部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の金属膜の製造方法の模式図である。
図2】本発明で用いる金属材の作製方法の模式図である。
図3】本発明の一態様に係る金属被覆部材の断面模式図である。
図4】実施例1で用いた金属材の端部の外観写真である。
図5】実施例1における摩擦攪拌の状況を示す写真である。
図6】実施例1で得られた金属膜の表面写真である。
図7】実施例1で得られた金属膜のX線回折プロファイルである。
図8】実施例1で得られた金属膜の二次電子像及び元素マッピング像である。
図9】実施例1で得られた金属膜のEDSスペクトルである。
図10】実施例2で得られた金属膜の表面写真である。
図11】実施例2で得られた金属膜のX線回折プロファイルである。
図12】実施例3で得られた金属膜のX線回折プロファイルである。
図13】実施例3で得られた金属膜の磁化曲線挙動である。
図14】実施例4で得られた金属膜の磁化曲線挙動である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら本発明の金属膜の製造方法及び金属被覆部材の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0030】
(1)金属膜の製造方法
本発明の金属膜の製造方法は、摩擦攪拌現象を利用して、棒状の金属材を基材の表面に肉盛することで金属膜を得る方法である。図1に、本発明の金属膜の製造方法の模式図を示す。ここで、図1には、金属材を上下のみに移動させ、円盤状の金属膜を形成させる場合を示している。
【0031】
金属膜の原料となる金属材2を回転させ、基材4の表面に当接させることで、金属材2と基材4の摩擦熱によって金属材2の端部及び基材4の表面が昇温する。金属材2の端部が十分に昇温して塑性流動し始めた後、金属材2を引き上げると円盤状の金属膜6が形成される。また、金属材2の端部が十分に昇温して塑性流動し始めた後、金属材2を任意の方向に横移動させることで、線状の金属膜6を得ることができる。更に、これらの金属膜6を組み合わせることで、二次元又は三次元の任意の形状及び大きさを有する金属膜6を得ることができる。
【0032】
金属製の基材4を用いる場合、金属膜6と基材4を強固に接合することができる。金属膜6と基材4の冶金的な接合により、めっき処理や蒸着法等で形成させた金属膜と比較して、高い接合強度を実現することができ、基材4からの金属膜6の剥離等を抑制することができる。一方で、セラミックス製の基材4を用いる場合、必要に応じて、金属膜6を基材4から剥離することができ、金属膜6を単体として使用することもできる。
【0033】
図2に本発明の金属膜の製造方法で用いる金属材の作製方法を模式的に示す。本発明の金属膜の製造方法においては、金属箔8を棒状に成形して金属材2とすることを最大の特徴としている。金属材2として使用可能な棒状に成形できる限りにおいて、金属箔8を丸める方法は特に限定されず、例えば、丸めた金属箔8を適当に折り畳む等してもよい。また、金属箔8の厚さ及びサイズは本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の金属箔を用いることができる。棒状への成形のし易さや市場での入手性等の観点から、例えば、金属箔の厚さは1~100μmとすることができる。また、積層する金属箔8の枚数も特に限定されず、最終的に得られる金属材2の直径や所望の密度及び強度等に応じて適宜設定すればよい。
【0034】
金属箔8を丸めた金属材2は適度に空隙(金属箔8間の隙間)を有しており、全体としての熱伝導率が低くなることから、基材4の表面と金属材2との摩擦によって発生する摩擦熱が金属材2の端部に蓄熱されやすく、当該端部を容易に昇温することができ、金属材2を基材4の表面に効率的に被覆することができる。金属箔8間の隙間は、金属箔8の枚数、厚さ及び金属材2の直径等によって制御することができる。
【0035】
加えて、金属箔8を丸めた金属材2は、同じ外径を有する緻密な棒状体と比較すると、実際に基材4に当接する底面積が小さくなる。その結果、押圧力が小さい場合であっても金属材2に印加される圧力が高くなり、金属材2の端部を効率的に昇温することができる。
【0036】
本発明の金属膜の製造方法においては、異なる組成を有する金属箔8を積層し、金属膜6を合金膜とすることが好ましい。異なる組成を有する金属箔8を適当に組み合わせることで、所望の金属膜6の組成となる金属材2を容易に得ることができる。加えて、強力な摩擦攪拌効果によって、金属箔8同士が昇温及び混合されることで、合金膜を製造することができる。この際、金属箔8には大きな歪が導入されることから、各元素の拡散が促進され、極めて効果的に合金化を図ることができる。更には、歪の導入による動的再結晶や析出サイトの増加等によって微細かつ均一な金属組織を得ることもできる。また、固相における低温かつ短時間なプロセスであることから、例えば、金属膜6の高硬度化及び高強度化に資する析出物の粗大化を抑制することもできる。
【0037】
また、金属箔8を丸めた金属材2を用いることで、効率的に金属材2の端部を昇温できることから、プロセス荷重が低減され、高い剛性と加圧力を有する高価かつ大型の摩擦攪拌専用機を用いる必要が無く、汎用のボール盤やフライス盤等を用いて金属膜6を製造することができる。加えて、融点の低い金属箔8を用いることで、摩擦攪拌に要する加圧力を更に低減することができ、小型のボール盤やフライス盤等を用いて金属膜6を製造することができる。
【0038】
より具体的には、Zr箔、Al箔、Ni箔及びCu箔から選択される2種以上の金属箔8を用いることが好ましい。比較的融点の低いこれらの金属箔を用いることで摩擦攪拌による金属膜6の形成が容易となることに加え、優れた特性を有する合金膜を得ることができる。例えば、Zr箔、Al箔、Ni箔及びCu箔を全て用いることで、合金膜の平均硬さが30GPa以上の硬質合金膜を得ることができる。また、Ni箔及びCu箔を用いることで、同一の組成を有する金属材と比較して、磁化が10%以下である合金膜を得ることができる。
【0039】
また、本発明の金属膜の製造方法は、摩擦攪拌による塑性流動を利用するものであり、液相を介さないプロセスであることから、従来技術では困難であった融点が大きく異なる金属同士を合金化することもできる。例えば、Ti系のハイエントロピー合金であるTi-Zr-Hf-Nb-Ta-Mo合金は生体材料として有望視されているが、アーク溶解炉を用いて製造されているため、生体材料の軽量化に期待されているMgを混合することは困難である。これに対し、本発明の金属膜の製造方法を用いることで、任意の組成のハイエントロピー合金を得ることができる。
【0040】
本発明の金属膜の製造方法を用いて好適に得られるハイエントロピー合金としては、例えば、ハイエントロピー鋳鉄合金(Fe-Co-Cr-Mn-Ni-C)、ハイエントロピー黄銅合金(Cu-Zn-Mn-Ni-Sn)、共晶ハイエントロピー合金(Al-Co-Cr-Fe-Ni)及びこれらを基本に元素を添加した合金を挙げることができる。
【0041】
摩擦攪拌中の雰囲気は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、大気中で金属膜6を形成させることが好ましい。摩擦攪拌は金属材を溶かすことがなく、固相における低温かつ短時間なプロセスであることから、酸化等の影響を殆ど考慮する必要がない。その結果、アルゴン等の不活性ガスを用いた雰囲気制御が必須ではなく、簡便かつ安価に金属膜6を製造することができる。一方で、例えば、大気中で金属膜6を形成させることで、金属膜6に微細な酸化物粒子を分散させ、高硬度化を図ることもできる。
【0042】
金属材2の回転速度、印加荷重及び移動速度等の摩擦攪拌条件は、金属材2を構成する金属箔8の材質、膜厚、直径及び空隙の状況や、所望の金属膜6の組織、形状及び膜厚等に応じて適宜調整すればよいが、従来公知の摩擦攪拌接合及び摩擦攪拌プロセスの条件を参考とすることができる。ここで、本発明の金属膜の製造方法においては比較的低温かつ低荷重の摩擦攪拌条件とすることができる。例えば、回転速度の低下、印加荷重の低下及び移動速度の増加により、プロセス温度を低下させることができる。より具体的には、例えば、回転速度を1000~2000rpm、印加荷重を0.5~2.0kN、移動速度を1~10mm/秒とすることができる。
【0043】
(2)金属被覆部材
本発明の金属被覆部材は、基材4の任意の表面に金属膜6が形成されたものである。図3に本発明の一態様に係る金属被覆部材の断面模式図を示す。金属膜6は基材4に直接接合されており、特に、基材4が金属材の場合は金属膜6と基材4が強固に接合されている。
【0044】
基材4の材質は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の金属材やセラミックス材を用いることができる。また、基材4の形状及び大きさも本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、任意の形状及び大きさとすることができる。
【0045】
金属膜6は基材4の全面に形成されている必要はなく、基材4の任意の領域に形成されていればよい。また、金属膜6の厚さは目的に応じて適宜調整すればよい。例えば、薄膜が必要な場合は1~100μm程度にすることができ、厚膜が必要な場合は金属膜6を積層させることで、任意の厚さとすることができる。
【0046】
金属膜6は不均一な歪や小さな結晶子サイズを含み結晶性が低くなっていることが特徴の一つである。当該特徴は、例えば、X線回折パターンがブロードになることや透過電子顕微鏡による直接観察等で確認することができる。
【0047】
本発明の金属被覆部材10の一態様としては、金属膜6がZr、Al、Ni及びCuを含む合金膜となっている。金属膜6にはZr-(Ni,Cu)-Al合金(金属ガラス)や微細なアルミナが分散し、30GPa以上の高い平均硬さとなっている。合金膜の平均硬さは35GPa以上であることが好ましく、40GPa以上であることがより好ましい。硬度測定の方法は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の方法を用いることができるが、例えば、金属膜6を含む断面試料を作製し、ナノインデンターを用いて測定すればよい。
【0048】
金属膜6が高硬度を有する場合、例えば、金属被覆部材10は切削工具、金型及び摺動部材等の優れた耐摩耗性や耐久性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0049】
また、本発明の金属被覆部材の別の一態様としては、金属膜6がNiとCuからなる合金膜となっており、67Ni・33Cu(質量%)等のNi・Cu合金膜となっている。本発明の金属被覆部材のNi・Cu合金膜は結晶性が低いために磁性を帯び難く、同一の組成を有する金属材と比較して、合金膜の磁化が10%以下となっており、例えば、無電解Niめっきの代替として利用することができる。同一組成を有する金属材と比較した場合の合金膜の磁化は8%以下となることが好ましく、6%以下となることがより好ましく、4%以下となることが最も好ましい。
【0050】
ここで、金属膜6の結晶性は成膜時(摩擦攪拌時)の温度の低下やひずみ速度の増加等によって低くなる傾向にあることから、当該製造条件によって金属膜6の磁性を制御することができる。
【0051】
金属膜6の磁化が抑制される場合、例えば、金属被覆部材10は磁化の低減が必要なパワーデバイス関連部品(半導体電極、リードフレーム及びアルミヒートシンク等)として好適に用いることができる。
【0052】
金属被覆部材10において、基材4の表面に形成されている金属膜6は一種類に限られず、異なる領域に異なる組成及び/又は微細組織を有する金属膜6が形成されていてもよい。また、例えば、異なる組成及び/又は微細組織を有する金属膜6を積層させてもよい。
【0053】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0054】
≪実施例1≫
50mm×50mmのZr箔(純度99.2%、厚さ0.05mm)、Al箔(純度99%、厚さ0.006mm)、Ni箔(純度99%、厚さ0.005mm)及びCu箔(純度99.9%、厚さ0.008mm)を各一枚重ね、直径約6mmの棒状に丸めて摩擦攪拌に用いる金属材とした。当該金属材の端部の外観写真を図4に示す。各金属箔が積層し、適度な隙間が形成されていることが分かる。
【0055】
基材にはアルミナ(Al23)基板を用いた。アルミナ基板の相対密度は99.5%、純度は99.5%、表面の算術平均粗さ(Ra)は0.347μmである。図5に示すように、棒状の金属材を汎用のボール盤(HiKOKI製B23S)の回転部に装着し、1590rpmで回転させながら、金属材の端部をアルミナ基板の表面に最大1.5kNで押圧し、60秒間保持することで金属膜を形成させた(金属材を横移動させることなく、円形状の金属膜を形成させた。)。また、シールドガス等は用いず、当該処理は大気中で実施した。
【0056】
金属材の先端部は速やかに昇温され、ボール盤が振動等することなく、極めて円滑に金属膜が形成された。得られた金属膜の表面写真を図6に示す。図6より、金属光沢を有する円形状の金属膜が形成していることが確認できる。次に、X線回折装置(RIGAKU製Smart Lab)を用いて、金属膜の結晶性を評価した。金属膜表面に対する測定で得られたX線回折プロファイルを図7に示す。金属膜に由来するブロードなピークが観察されることから、金属膜の結晶性が低いことが分かる。Al23の鋭いピークはアルミナ基板に由来するものであるが、大気中での処理によって、酸化物のブロードなピークも認められる。当該ピークは、極めて微細な酸化物が分散していることを示している。
【0057】
次に、金属膜表面のSEM-EDS分析を行った。得られた二次電子像及び各元素のマッピング像を図8、EDSスペクトルを図9にそれぞれ示す。分析には日立ハイテク製のTM3030Plusを用いた。図8より、Zr、Al、Ni、Cu及びOは偏在することなく均一に存在しており、金属膜は金属合金膜であることが分かる。また、金属膜の断面観察結果より、当該金属膜の膜厚は4μmであった。
【0058】
次に、ナノインデンター(ENT-1100a、Elionix)を用いて、金属膜の硬度を測定した。金属膜表面の異なる9点に対して測定したところ、平均硬さは42GPa(標準誤差3GPa)であり、非常に高い硬度を有する金属膜が形成されていることが確認された。
【0059】
≪実施例2≫
50mm×50mmのZr箔(純度99.2%、厚さ0.05mm)のみを用い、直径約6mmの棒状に丸めて摩擦攪拌に用いる金属材としたこと以外は実施例1と同様にして、金属膜を得た。得られた金属膜の表面写真を図10に示す。1種類の金属箔を用いた場合であっても、金属膜が得られており、本発明の金属膜の製造方法を用いることで、金属膜が金属合金膜及び純金属の何れの場合であっても、簡便かつ効率的に得られることが分かる。
【0060】
実施例1と同様にして得られたX線回折プロファイルを図11に示す。アルミナ基板由来の鋭いピーク以外に、金属膜由来のブロードなピークが観察され、金属膜が金属合金膜でない場合であっても、結晶性に乏しい金属膜が形成されていることが分かる。また、実施例1と同様に、酸化物に起因するブロードなピークも認められる。
【0061】
実施例1と同様にて金属膜の硬度を測定したところ、9点の平均硬さは12GPa(標準誤差1GPa)であり、実施例1で得られた金属合金膜と比較すると、低い硬度となっていた。
【0062】
≪実施例3≫
全体としての組成が67Ni・33Cu(質量%)となるように、50mm×50mmのNi箔(純度99%、厚さ0.02mm)とCu箔(純度99.9%、厚さ0.01mm)を丸め、直径約6mmの棒状に丸めて摩擦攪拌に用いる金属材としたこと以外は実施例1と同様にして、金属膜を得た。
【0063】
実施例1と同様にして得られたX線回折プロファイルを図12に示す。アルミナ基板由来の鋭いピーク以外に、金属膜由来のブロードなピークが観察され、金属合金膜が形成されていること及び当該金属合金膜は結晶性に乏しいことが分かる。
【0064】
次に、得られた金属膜の磁気特性を振動試料型磁力計(理研電子製BHV-50)で評価した。得られた磁化曲線挙動を図13に示す。図13より、最大の磁化は200Gauss程度であることが分かる。通常、Niの磁化は6000Gauss程度であり、得られた金属膜の200Gaussは大幅に低い値である。これは、金属膜が不均一な歪や小さな結晶子サイズを含んでおり、結晶性に乏しいことに起因していると考えられる。
【0065】
≪実施例4≫
50mm×100mmのNi箔(純度99%、厚さ0.02mm)のみを用い、直径約6mmの棒状に丸めて摩擦攪拌に用いる金属材としたこと以外は実施例1と同様にして、金属膜を得た。
【0066】
実施例3と同様にして得られた金属膜の磁化曲線挙動を図14に示す。図14より、最大の磁化は600Gauss程度であることが分かる。通常、Niの磁化は6000Gauss程度であり、得られた金属膜の600Gaussは大幅に低い値である。これは、金属膜が不均一な歪や小さな結晶子サイズを含んでおり、結晶性に乏しいことに起因していると考えられる。
【0067】
以上の結果より、金属箔を棒状に丸めて金属材とすることで、摩擦攪拌を用いた金属膜の形成を極めて簡便かつ効率的に達成できることが確認された。また、異なる組成を有する金属箔を適当に組み合わせて金属材とすることで、種々の金属合金膜が得られることが分かる。加えて、得られる金属膜は同じ組成を有する従来一般的な金属膜と比較して、高い硬度や低い磁化等の独特な物性を発現することが分かる。
【符号の説明】
【0068】
2・・・金属材、
4・・・基材、
6・・・金属膜、
8・・・金属箔、
10・・・金属被覆部材。
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