(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176274
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法および車両制御プログラム
(51)【国際特許分類】
A61G 5/04 20130101AFI20241212BHJP
【FI】
A61G5/04 707
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094716
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(72)【発明者】
【氏名】高木 智也
(72)【発明者】
【氏名】小山 和哉
(57)【要約】
【課題】車両の走行制御をジョイスティック操作で行う車両において、通常の走行モードと定速走行モードを簡易な構成で実現する。
【解決手段】本発明に係る車両制御装置は、操作部材の向きと傾倒角に基づいて車両を走行させる駆動制御を行い、車両の走行制御のモードとして、走行モードと定速走行モードとを選択可能であり、前記定速走行モードになる場合は、その時点の車両の前記車速が設定車速の初期値になるよう制御を行うと共に、前記操作部材の向きに応じて前記設定車速を変更する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作部材の向きと傾倒角に基づいて、車速と旋回速度を制御する車両制御装置であって、
走行制御のモードとして、走行モードと定速走行モードとを選択可能であり、
前記定速走行モードになる場合は、その時点の車両の前記車速が設定車速の初期値になるよう制御を行うと共に、前記操作部材の向きに応じて前記設定車速を変更する
車両制御装置。
【請求項2】
前記定速走行モードにおいて、前記操作部材を前後方向に倒した場合に前記設定車速を変更し、前記操作部材を斜め方向に倒した場合は、前記設定車速を変更する機能とは別の第1機能を実行する
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記別の第1機能は、前記車両の前方車両との車間距離を増加または減少させる機能である
請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記車両制御装置は、
前記車両の旋回中に前記走行モードと前記定速走行モードとの切り替えを禁止する
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記車両制御装置は、
前記定速走行モードにおいて、前記操作部材を後ろの向きに浅く倒した場合に前記設定車速を減速し、深く倒した場合に前記設定車速を減速する機能とは別の第2機能を実行する
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記別の第2機能は前記車両を停止させる機能である
請求項5に記載の車両制御装置。
【請求項7】
操作部材の向きと傾倒角に基づいて、車速と旋回速度を制御する車両制御装置において、
走行制御のモードとして、走行モードと定速走行モードとを選択可能であり、
前記定速走行モードが選択された場合は、その時点の車両の前記車速が設定車速の初期値になるよう制御を行うと共に、前記操作部材の向きに応じて前記設定車速を変更する
車両制御方法。
【請求項8】
操作部材の向きと傾倒角に基づいて、車速と旋回速度を制御する車両制御プログラムであって、
走行制御のモードとして、走行モードと定速走行モードとを有し、
前記定速走行モードが選択されると、その時点の車両の前記車速が設定車速の初期値になるよう指示すると共に、前記操作部材の向きに応じて前記設定車速を変更する指示を行う車両制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジョイスティック等の操作部材の操作により走行制御を行う車両に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者をはじめとした、歩行に負担のかかる人を支援するために、電動車椅子などの小型車両が広く知られている。そのような小型車両では、車両の走行制御をジョイスティック操作で行う車両が知られている。
【0003】
特許文献1に開示された移動体では、スティックを倒す量と方向に応じて車速と進行方向を決定する通常走行モードと、移動体周辺の追尾対象体を追従する追尾走行モードを切り替え可能である。本開示によれば、乗員は状況に応じて複数のモードを切り替えて移動体を制御させることができる。
【0004】
また、特許文献2には、通常の走行モードに加えて定速走行を行うクルーズコントロール機能を備えた車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-067183号公報
【特許文献2】特開2002-178786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された移動体は、複数の走行モードを切り替えることは可能であるが、定速走行を行う定速走行モード及びその実現手段については全く開示がない。また、追尾走行モードにおいて乗員は何も操作を行うことはなく、リアルタイムに乗員の意思を制御に反映させることはできない。特許文献2に開示された車両では、定速走行に対応する専用の部材を要するため、構成部材が増加し、構成が複雑になるという問題がある。
【0007】
本発明は、車両の走行制御をジョイスティック操作等の操作部材で行う車両において、手動で車速と向きを制御する走行モードと設定車速で定速走行させる定速走行モードの両方を、操作性に優れ且つ簡易な構造で実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明に係る車両制御装置は、操作部材の向きと傾倒角に基づいて車両を走行させる駆動制御を行い、車両の走行制御のモードとして、走行モードと定速走行モードとを選択可能であり、前記定速走行モードになる場合は、その時点の車両の前記車速が設定車速の初期値になるよう制御を行うと共に、前記操作部材の向きに応じて前記設定車速を変更する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、定速走行モード時の車両制御を、走行モード時と同様、操作部材の操作に基づいて行えるため操作性に優れ、また定速走行モード用の専用部材が不要であるため、構成を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る車両の正面図及び側面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る操作部の概略図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る走行制御の機能ブロック図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る操作部材の操作領域を示す図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る車両の走行モードにおける制御のフローチャートである。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る車両の定速走行モードにおける制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する車両制御装置の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0012】
まず、
図1及び
図2を用いて、実施形態に係る車両制御装置を備える車両を説明する。
図1は、実施形態に係る車両制御装置を備える車両の正面図及び側面図である。
図2は、車両が備える操作部を示す図である。
【0013】
電動車椅子Cは、歩行が不自由な人に利用される1人乗り用の電動車両であり、乗員の操作に従ってモータを駆動させることで走行する。また、電動車椅子Cは、人が歩行する道路、すなわち、歩道を走行可能である。ここでの歩道の路面は、アスファルトのような平坦路から、砂利のような悪路まで様々な路面の状態が存在し得る。なお、本発明の車両制御装置を備える車両は電動車椅子に限定されるものではなく、操作部材の向きと傾倒角により走行を制御する車両にも適用できる。
【0014】
図1に示すように、電動車椅子Cは、車両制御装置1と、車体部100と、左右一対の前輪180と、左右一対の後輪190とを備える。
図1に示す例では、後輪190が図示しない駆動部106に接続される駆動輪であり、前輪180が駆動部106に接続されない従動輪である。なお、後輪190に代えて前輪180が駆動輪であってもよく、前輪180および後輪190それぞれが駆動輪(4輪駆動)であってもよい。
【0015】
車体部100は、車体フレーム110と、座席部120と、操作部130と、アームレスト140と、フットレスト150と、切替部160と、距離センサ170とを備える。
【0016】
車体フレーム110は、座席部120、操作部130、アームレスト140、フットレスト150、前輪180および後輪190を含む各構造部を支持する支持部材である。車体フレーム110は、例えば、金属製のパイプで構成され、座席部120に着座した乗員の体重を支える強度を有する。
【0017】
座席部120は、乗員が着座するシートである。座席部120は、着座した乗員の臀部を支える座面部と、着座した乗員の背部を支える背もたれ部とを備える。座面部および背もたれ部は、クッション部材を備え、電動車椅子Cに生じる振動を吸収することで、着座した乗員の疲労を軽減する。
【0018】
操作部130は、座席部120の側方(
図1では右側方)に配置され、電動車椅子Cを走行させるための操作を受け付ける。具体的には、操作部130は、アームレスト140の前端に配置される。乗員は、操作部130を操作することで、電動車椅子Cを前進または後進、および右左折等の操縦を行うことができる。
【0019】
より具体的には、操作部130は、ジョイスティックとして構成され、ジョイスティックの向きと傾倒角度毎に設定された目標車速で電動車椅子Cを前進、後進または旋回する。
【0020】
アームレスト140は、座席部120の両側方に配置され、座席部120に着座した乗員の肘を載置するための部材である。
【0021】
フットレスト150は、車体フレーム110の両側方から前方へ突出した構造部であり、先端の載置面に乗員の両足が載置されることで、乗員の両足を支持する部材である。具体的には、フットレスト150は、車体フレーム110の両側方から独立した2つの部材(右足用および左足用)を有する。
【0022】
また、フットレスト150は、座席部120よりも下方において、路面に接地しない位置で車体フレーム110に支持される。つまり、フットレスト150は、車体フレーム110に対して吊り下げられた状態で支持される。
【0023】
切替部160は、座席部120の側方(
図1では右側方)に配置され、電動車椅子Cを走行させるための操作を受け付ける。具体的には、切替部160は、押しボタンや切替えスイッチ等であり、アームレスト140の前端に配置される。乗員は、切替部160を操作することで、車両制御装置1の走行モードと定速走行モードの切り替えを行うことができる。
【0024】
距離センサ170は、赤外線センサで構成される。距離センサ170は、赤外線センサに限るものではなく、ミリ波レーダ、超音波、ライダー、カメラ画像による測距装置等、距離を測定できるものであればよい。距離センサ170は、アームレスト140に配置され、電動車椅子Cの前方車両または歩行者ないし障害物との車間距離を測定する。本実施形態では、測定した車間距離は定速走行モードにおける移動体(前方車両及び歩行者)との車間距離制御に用いられる。
【0025】
表示部200は、ディスプレイである。表示部200は現在の電動車椅子Cの電池残量や、走行モードにおける目標車速の最大値、定速走行モードにおける設定車速などを表示する。乗員は、表示部200を目視することで表示部200に表示された情報を確認できる。本実施形態では、表示部200はアームレスト140に配置される。
【0026】
なお、
図1では、距離センサ170がアームレスト140に設置される例を示したが、アームレスト140以外の場所に設置されてもよい。例えば、車体フレーム110の前方に取り付けられていてもよい。言い換えれば、電動車椅子Cの前方に位置する移動体との距離を測定できる場所であれば任意の場所に設置可能である。
【0027】
次に、
図2を用いて操作部130の構成を説明する。なお、本実施形態における座標系は、電動車椅子Cの車幅方向をx軸、進行方向をy軸、高さ方向をz軸とし、電動車椅子Cの車幅方向右側をx軸正の方向、進行方向前側をy軸正の方向、高さ方向上側をz軸正の方向とする。
【0028】
図2Aは、操作部130の概略図である。スティック131は、乗員が電動車椅子Cを制御するために操作する装置である。スティック131は、x軸方向およびy軸方向からなるx-y平面の方へ傾ける操作が可能である。乗員は、スティック131を倒すことで電動車椅子Cを操作する。スティック131は、操作部材の一例である。
【0029】
図2Bは、操作部130を横から見た概略図である。スティックセンサ136は操作部130に内蔵されており、スティック131に連結されている操作棒133が倒されると車両制御装置1に信号を出力する。スティックセンサ136の処理については後述する。乗員がスティック131を倒すと、それに連動して操作棒133が傾き、車両制御装置1に信号が出力される。
【0030】
図2Cは、スティックセンサ136の斜視図である。スティックセンサ136は、操作部130の内部に配置される。操作棒133は、スティック131と連動するように配置され、外力が作用しないとき、原点位置として弾力的に予め定める姿勢、たとえばこの実施例ではx,y方向に対して垂直なz方向に延びる起立した姿勢に保持される。この操作棒133はハウジング132にx,y方向に揺動可能に操作される。これによって操作棒133が揺動されたときにおけるx方向の角度、すなわち位置情報はx方向用可変抵抗134によって検出され、またy方向の角度、すなわち位置情報はy方向用可変抵抗135によって検出される。スティックセンサ136は、x方向とy方向の位置情報を、xy平面における位置座標情報として出力する。
【0031】
乗員がスティック131を操作すると、スティック131と連動する操作棒133が操作される。車両制御装置1は、スティックセンサ136の出力を一定周期で検出し、スティック131の操作量であるx方向とy方向の角度情報を検出する。車両制御装置1は、操作棒133が操作されたことを検出したスティックセンサ136が送信した信号を受信することにより、乗員の電動車椅子Cに対する制御内容を判定し決定する。
【0032】
図3は、本実施形態にかかる車両制御装置を含む電動車椅子Cの走行制御システムの構成例を示す。
図3のシステムは、車両制御装置1、表示部200、操作部130、切替部160、車速センサ104、距離センサ170、駆動部106を含む。車両制御装置1は、CPU11、記憶部12、入出力IF(インターフェース)13を含む。また、駆動部106は、左輪モータ107Lと、右輪モータ107Rを含む。
【0033】
CPU11は、電動車椅子C全体の制御を行う中央処理演算装置(Central Processing Unit)である。CPU11はプロセッサとも呼ばれる。ただし、CPU11は、単一のプロセッサに限定されるものではなく、マルチプロセッサ構成であってもよい。また、単一のソケットで接続される単一のCPU11がマルチコア構成であってもよい。CPU11は、記憶部12に記憶されたプログラムを作業領域に実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器等の制御を行うことで所定の目的に合致した機能を提供する。
【0034】
記憶部12は、CPU11がプログラムやデータを記憶したり、作業領域を展開したり、動作の設定情報などを記憶したりする記録媒体である。記憶部12には、制御プログラムのデータなどが格納され得る。記憶部12は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard-disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EPROM(Erasable Programmable ROM)、USBメモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等である。記憶部12は、CPU11に直接、接続されてもよい。
【0035】
入出力IF13は、表示部200、操作部130、切替部160などの装置との間でデータの入出力を行うインターフェースである。入出力IF13は、映像を出力する表示部200などと接続される。
【0036】
表示部200は、映像を出力するディスプレイである。表示部200は、乗員に電動車椅子Cのモード、電池残量、設定車速などを提示する。表示部200は、例えばアームレスト140など、乗員に見える場所に配置される。
【0037】
操作部130は、乗員が電動車椅子Cの走行を制御するための装置であり、前述の通り、スティック131の位置情報を車両制御装置1に出力する。電動車椅子Cにおいて、操作部130はジョイスティックとして構成される。
【0038】
切替部160は、乗員が電動車椅子Cの走行モードを切り替えるための装置である。電動車椅子Cにおいて、切替部160はスイッチとして構成され、切り替えスイッチが押されたことを検知して検知信号を車両制御装置1に出力する。車両制御装置1は、検知信号に応じてモード切り替えを行う。
【0039】
車速センサ104は、電動車椅子Cの走行速度を測定するためのセンサである。車速センサ104は、車両制御装置1や表示部200などと接続され、計測した走行速度を送信する。
【0040】
距離センサ170は、電動車椅子Cの前方に位置する移動体との車間距離を計測するためのセンサである。距離センサ170は、車両制御装置1や表示部200などと接続され、計測した車間距離を送信する。
【0041】
駆動部106は、電動車椅子Cの前輪及びまたは後輪を駆動させるための装置である。駆動部106は、左輪モータ107Lと、右輪モータ107Rを備える。左輪モータ107Lと右輪モータ107Rは、それぞれ電動車椅子Cの左輪と右輪を駆動させるモータであり、車両制御装置1からの制御信号により駆動される。
【0042】
なお、車両制御装置1が車間距離を参照する制御を行わない場合は、電動車椅子Cは距離センサ170を備えていなくてもよい。
【0043】
次に、
図4を用いて、走行モードの場合及び定速走行モードの場合における、操作部130の操作領域別の制御を説明する。車両制御装置1は、スティック131の向きと傾倒角度からスティック131の座標を算出し、座標がどの領域に位置するかを判定することで、電動車椅子Cの制御を決定する。
図4Aは走行モードにおける操作領域を示す図であり、
図4Bは定速走行モードにおける操作領域を示す図である。本実施形態において、x座標とy座標の最小値は-1とし、最大値は1とする。例えば、スティック131が原点位置にあるとき、スティック131のx座標とy座標はともに0である。また、スティック131を左に最大まで倒したとき、スティック131のx座標は-1、y座標は0であり、スティック131を右に最大まで倒したとき、スティック131のx座標は1、y座標は0である。また、スティック131を前に最大まで倒したとき、スティック131のx座標は0、y座標は1であり、スティック131を後ろに最大まで倒したとき、スティック131のx座標は0、y座標は-1である。
【0044】
まず、
図4Aを用いて走行モードにおける操作領域別の制御を説明する。走行モードの操作領域410は、スティック131を操作していない場合に位置する原点位置である中心領域411と、スティック131を操作している場合に位置する非中心領域である操作領域412に分類される。
【0045】
車両制御装置1は、取得した座標が中心領域411に位置する場合は目標車速を0km/hに設定し、旋回速度を0に設定する。座標が操作領域412に位置する場合、その座標のx座標によって旋回速度を決定し、y座標によって目標車速を決定する。
【0046】
具体的には、x座標が負の数であるとき、すなわちスティック131が左に操作されているとき、車両が左向きに旋回するよう旋回速度を設定する。逆に、x座標が正の数であるとき、すなわち、スティック131が右に操作されているとき、車両が右向きに旋回するよう旋回速度を設定する。旋回速度の大きさは、x座標の絶対値が大きいほど、すなわち、スティック131の傾倒角度が大きいほど大きく設定される。
【0047】
旋回制御は、左輪モータ107Lと右輪モータ107Rを異なる回転数にすることで行う。例えば、車両が右向きに旋回するよう旋回速度が設定されているとき、駆動部106は、左輪モータ107Lの前方への回転数が右輪モータ107Rの前方への回転数より高くなるように回転数を設定する。逆に、車両が左向きに旋回するよう旋回速度が設定されているとき、駆動部106は、左輪モータ107Lの前方への回転数が右輪モータ107Rの前方への回転数より低くなるように回転数を設定する。
【0048】
また、y座標が負の数であるとき、すなわちスティック131が後ろに操作されているとき、車両が後退するよう目標車速を設定する。逆に、y座標が正の数であるとき、すなわち、スティック131が前に操作されているとき、車両が前進するよう目標車速を設定する。目標車速の大きさは、y座標の絶対値が大きいほど、すなわち、スティック131の傾倒角度(操作量)が大きいほど大きく設定される。例えば、ジョイスティックの座標が(0.5,0.5)であるA点で保持されている場合は、電動車椅子Cは座標で定まる速度と旋回速度で右に旋回しながら前進、すなわちカーブ走行を行う。
【0049】
以上のような構成とすることで、スティック131を左右方向に倒している間は車両が左右に旋回し、前後方向に倒している間は車両が前後進する。また、スティック131を斜め方向に倒している間は前後進と旋回が合成される。例えば、スティック131を左前に倒している間は左方向の旋回と前進が合成されるため、前進しながら左方向に旋回、すなわちカーブ走行を行う。
【0050】
次に、
図4Bを用いて定速走行モードにおける操作領域別の制御を説明する。
【0051】
定速走行モードは車間距離制御を含む。車間距離制御は距離センサ170により検出される車間距離に基づいて行われる。定速走行モードにおいて車両制御装置1は、前方の車両との車間距離が設定車間距離より大きい場合は設定車速で走行し、車間距離が設定車間距離より小さい場合は、車間距離が設定車間距離以上になるまで、車間距離が増加するように電動車椅子Cを減速させる。
【0052】
中心領域427は、スティック131を操作していない場合に位置する原点位置である。
【0053】
前方領域421は、スティック131を電動車椅子Cの進行方向前方に倒したときに位置する領域である。本実施形態において、スティック131が前方領域421に倒された場合、車両制御装置1は電動車椅子Cの設定車速を増加させる制御を行う。設定車速の増加量は、スティック131が前方領域421内のどの座標にあるかによらず一定であり、車両制御装置1は、スティック131の位置が中心領域427から前方領域421に倒される都度、一定速度(例えば1km/h)だけ設定車速を増加させる。その後、スティック131の位置が中心領域427に戻されても、その直前の設定車速が維持される。
【0054】
後方領域422は、スティック131を電動車椅子Cの進行方向後方に倒したときに位置する領域である。本実施形態において、スティック131が後方領域422に倒された場合、車両制御装置1は電動車椅子Cの設定車速を減少させる制御を行う。設定車速の減少量は、スティック131が後方領域422内のどの座標にあるかによらず一定であり、車両制御装置1は、スティック131の位置が中心領域427から後方領域422に倒される都度、一定速度(例えば1km/h)だけ設定車速を減少させる。この場合も、スティック131の位置が中心領域427に戻されても、その直前の設定車速が維持される。
【0055】
左方領域423Lは、スティック131を電動車椅子Cの車幅方向左方に倒したときに位置する領域である。本実施形態において、スティック131が左方領域423Lに倒された場合、車両制御装置1は電動車椅子Cを左に旋回させる制御を行う。旋回速度の大きさは走行モードにおける、x座標の絶対値が大きいほど、すなわち、スティック131の傾倒角度が大きいほど大きく設定される。
【0056】
右方領域423Rは、スティック131を電動車椅子Cの進行方向右方に倒したときに位置する領域である。本実施形態において、スティック131が右方領域423Rに倒された場合、車両制御装置1は電動車椅子Cを右に旋回させる制御を行う。旋回速度の大きさは、x座標の絶対値が大きいほど、すなわち、スティック131の傾倒角度が大きいほど大きく設定される。
【0057】
左前領域424Lは、スティック131を電動車椅子Cの進行方向左前に倒したときに位置する領域である。本実施形態において、スティック131が左前領域424Lに倒された場合、車両制御装置1は設定車間距離を減少させる制御を行う。設定車間距離の減少量は、スティック131が左前領域424L内のどの座標にあるかによらず一定であり、車両制御装置1は、スティック131の位置が中心領域427から左前領域424Lに倒される都度、一定距離(例えば1m)だけ設定車間距離を減少させる。
【0058】
右前領域424Rは、スティック131を電動車椅子Cの進行方向右前に倒したときに位置する領域である。本実施形態において、スティック131が右前領域424Rに倒された場合に車両制御装置1が行う制御は、左前領域424Lに操作された時と同じである。
【0059】
左後領域425Lは、スティック131を電動車椅子Cの進行方向左後に倒したときに位置する領域である。本実施形態において、スティック131が左後領域425Lに倒された場合、車両制御装置1は設定車間距離を増加させる制御を行う。設定車間距離の増加量は、スティック131が左後領域425L内のどの座標にあるかによらず一定であり、車両制御装置1は、スティック131の位置が中心領域427から左後領域425Lに倒される都度、一定距離(例えば1m)だけ設定車間距離を増加させる。
【0060】
右後領域425Rは、スティック131を電動車椅子Cの進行方向右後に倒したときに位置する領域である。本実施形態において、スティック131が右後領域425Rに倒された場合に車両制御装置1が行う制御は、左後領域425Lに操作された時と同じである。
【0061】
後端領域426は、スティック131を電動車椅子Cの進行方向後方に後方領域422を越えてより大きく倒したときに位置する領域である。本実施形態において、スティック131が後端領域426まで深く倒された場合、車両制御装置1は電動車椅子Cを停車させる制御を行う。
【0062】
このように、定速走行モードにおいて車両制御装置1は、スティック131を電動車椅子Cの進行方向に対し前後方向に倒した場合に設定車速を変更し、電動車椅子Cの進行方向に対しスティック131を斜め方向に倒した場合は、設定車速を変更する機能とは別の機能を実行する。別の機能は、設定車間距離の変更である。
【0063】
以上のような構成とすることで、スティック131を左右方向に倒している間は電動車椅子Cが左右に旋回し、前後方向に倒すことで電動車椅子Cの設定車速を増加または減少させる。また、スティック131を斜め方向に倒している間は電動車椅子Cの前方に位置する車両や歩行者などの移動体との車間距離を増加または減少させる。
【0064】
なお、各操作領域は、操作頻度や乗員の操作特徴(左利き)などに合わせ、図に示す領域と厳密に同一でなくてよい。例えば、前方領域421と後方領域422のx方向の幅を広げ、左前領域424L、右前領域424R、左後領域425Lおよび右後領域425Rを狭めるなどしてよい。そうすることで、前方領域および後方領域に操作する際に誤って異なる領域に操作してしまうことを防止できるため、乗員が前方領域と後方領域への操作を多用することが想定される場合に便利である。
【0065】
また、各領域の間に境界領域を適宜設けてもよい。スティック131の座標が境界領域に位置する場合、中心領域427に位置する場合と同様に電動車椅子Cの制御の変更を禁止し、直前の制御を維持する。そうすることで、乗員が誤って意図した操作領域とは異なる操作領域にスティック131を倒してしまうことを防止できる。
【0066】
操作部130は、操作領域にクリック感を設けてもよい。そうすることで、スティック131が定速走行モードにおける非中心領域同士を意図せず跨いで操作されることを防ぐことが可能である。
【0067】
次に、
図5を用いて、実施形態に係る車両の制御について説明する。
図5は、車両制御装置1が行う処理内容であり、イグニッションスイッチがオンになって電源が投入されると動作を開始する。車両制御装置1はまず、車両のイグニッションスイッチが押され、車両の電源がオンになった時、モード変数Mを走行モードであることを示す0に設定する(ステップS501)。次に、車両制御装置1は、モード変数Mが0であるか否かを判定し(ステップS502)、0である場合(ステップS502:Yes)走行モードを起動し(ステップS503)、0でない場合(例えば1である場合)(ステップS502:No)定速走行モードを起動する(ステップS508)。モード変数Mは、後述するステップにおいて切り替えスイッチが押された場合に変化するが、車両起動時にはモード変数Mは自動的に0に設定される。そのため、車両起動時は自動的に走行モードが起動する。
【0068】
走行モードが起動した後、車両制御装置1は走行モードでの車両制御を行う(ステップS504)。すなわち、車両制御装置1は、連続的または所定周期でスティック131の位置座標に応じた目標速度と旋回速度を設定し、設定された目標速度と旋回速度となるよう駆動部106の回転数を制御する。また、車両制御装置1は、切り替えスイッチが押されたか否かの判定を行う(ステップS505)。車両制御装置1は、切り替えスイッチが押されていない場合(ステップS505:No)、ステップS504に戻り引き続き走行モードによる制御を行う。
【0069】
車両制御装置1は、走行モードにおいて切り替えスイッチが押された場合(ステップS505:Yes)、電動車椅子Cが旋回中であるかを判定する(ステップS506)。電動車椅子Cの旋回速度が0ではない、すなわち電動車椅子Cが旋回しているときに、車両制御装置1が定速走行モードに変更すると、乗員の意図しない速度制御が行われる可能性がある。そのため、車両制御装置1は、電動車椅子Cの旋回速度が0でない場合(ステップS506:No)はカーブ走行中のため、定速走行モードを設定できないことを示すアラートを表示部200に表示し(ステップS507)、走行モードによる制御を続行する(ステップS504)。車両制御装置1は、旋回速度が0、すなわち直進中の場合(ステップS506:Yes)はモード変数Mを定速走行モードモードであることを示す1に設定し(ステップS508)、スティック131の向きと傾倒角に基づいて指示される現在の目標車速またはその時点の車両の走行速度を定速走行用の設定車速の初期値として設定し(ステップS509)、モード変数の判定(ステップS502)に戻る。すなわち、車両制御装置1は、モード変数の判定でMが0ではないと判定し(ステップS502:No)、定速走行モードを起動する(ステップS510)。なお、本実施例では、車両制御装置1は、ステップS509において、現在の走行速度を定速走行モードの設定車速の初期値として設定する。次いで、車両制御装置1は、定速走行モードによる車両制御を行う(ステップS511)。すなわち、車両制御装置1は、ステップS509で設定された設定車速を維持するように電動車椅子Cを制御する。次いで車両制御装置1は、切り替えスイッチが押されたか否かの判定を行う(ステップS512)。車両制御装置1は、切り替えスイッチが押されていない場合(ステップS512、No)、ステップS511に戻り引き続き定速走行モードによる制御を行う。ステップS511における定速走行モードにおける車両制御の詳細は
図6を参照しつつ後述する。
【0070】
車両制御装置1は、定速走行モードによる車両制御中に切り替えスイッチが押された場合(ステップS512:Yes)、モード変数Mを0に設定し(ステップS513)、モード変数の判定(ステップS502)に戻る。
【0071】
以上の構成により、本実施形態に係る車両制御装置1は、起動時には走行モードによる制御を行う。さらに、切り替えスイッチを押すごとに走行モードと定速走行モードを切り替えることが可能である。
【0072】
なお、ここでは車両制御装置1は、切り替えスイッチ押下時に電動車椅子Cの旋回速度が0であるか否かを判定した(ステップS506)が、このとき、旋回速度は厳密に0でなくてもよい。すなわち、車両制御装置1は、旋回速度の絶対値が、直進に近い緩やかな旋回を示す0に近い所定の値より小さい場合には切り替えを行う。こうすることで、車両制御装置1は、電動車椅子Cが僅かに旋回しているだけであれば旋回を許可することができ、乗員の操作を正確に反映させることができる。
【0073】
また、車両制御装置1は、切り替えスイッチ押下時の旋回速度の判定(ステップS506)を行わなくてもよい。その場合、車両制御装置1は、電動車椅子Cが旋回中であるか否かに関わらずモード切り替えを行う。こうすることでも、乗員の操作を正確に反映させることができる。
【0074】
次に、定速走行モードにおける車両制御装置1による車両制御の詳細を、
図6を用いて説明する。車両制御装置1は、最初にスティック131の向きと傾倒角度、すなわち座標を取得する(ステップS521)。次に車両制御装置1は、取得した座標が中立領域427の範囲内であるか判定する(ステップS522)。車両制御装置1は、取得した座標が中立領域427であった場合(ステップS522:Yes)、設定車速を更新せず、設定車速を維持するよう車両制御を継続する(ステップS537)。車両制御装置1は、中立領域427でない場合(ステップS522:No)、更にスティック131の座標がどの操作領域に位置するかの判定を行う。
【0075】
車両制御装置1はまず、座標が前方領域421に位置するか判定する(ステップS523)。座標が前方領域421に位置すると判定した場合(ステップS523:Yes)、車両の設定車速を1km/h増加させる(ステップS524)。なお、変更可能な設定車速には上限が設けられており、車両制御装置1は設定車速が上限車速に到達すると設定車速を上限車速に維持する。車両制御装置1は、座標が前方領域421にはない場合(ステップS523:No)、座標が後方領域422に位置するかどうかの判定を行う(ステップS525)。車両制御装置1は、座標が後方領域422に位置すると判定した場合(ステップS525:Yes)、車両の設定車速を1km/h減少させる(ステップS526)。車両制御装置1は、座標が後方領域422にない場合(ステップS525:No)、または設定車速の変更を行った場合(ステップS524、ステップS526)、次に座標が左方領域423Lであるか否か判定する(ステップS527)。
【0076】
車両制御装置1は、座標が左方領域423Lに位置すると判定した場合(ステップS527:Yes)、ジョイスティックのx軸方向の傾倒角に応じて旋回量である旋回速度を決定する(ステップS528)。具体的には、車両制御装置1は、x座標の絶対値が大きいほど旋回速度を大きく設定する。車両制御装置1は、座標が左方領域423Lにない場合(ステップS527:No)、座標が右方領域423Rに位置するかどうかの判定を行う(ステップS529)。車両制御装置1は、座標が右方領域423Rに位置すると判定した場合(ステップS529:Yes)、ジョイスティックのx軸方向の傾倒角に応じて旋回量である旋回速度を決定する(ステップS530)。車両制御装置1は、ステップS528と同様、x座標の絶対値が大きいほど旋回速度を大きく設定する。車両制御装置1は、座標が右方領域423Rにはない場合(ステップS529:No)、または旋回速度の決定を行った場合(ステップS528、ステップS530)、次に座標が右前領域424Rと、左前領域424Lのいずれかにあるか否か判定する(ステップS531)。
【0077】
車両制御装置1は、座標が右前領域424Rか左前領域424Lに位置すると判定した場合(ステップS531:Yes)、車両の設定車間距離を1m減少させる。(ステップS532)。車両制御装置1は、座標が右前領域424Rと左前領域424Lのいずれにもない場合(ステップS531:No)、座標が右後領域425Rと、左後領域425Lのいずれかにあるか否かの判定を行う(ステップS533)。車両制御装置1は、座標が右後領域425Rか左後領域425Lに位置すると判定した場合(ステップS533:Yes)、車両の設定車間距離を1m増加させる。(ステップS534)。車両制御装置1は、座標が右後領域425Rと左後領域425Lのいずれにもない場合(ステップS533:No)、または設定車間距離の変更を行った場合(ステップS532、ステップS534)、次に座標が後端領域426であるか否か判定する(ステップS535)。
【0078】
車両制御装置1は、座標が後端領域426に位置すると判定した場合(ステップS535:Yes)、停車を指示する。すなわち、目標車速を0km/hに設定する(ステップS536)。車両制御装置1は、座標が後端位置426に位置しない場合(ステップS535:No)、または目標車速を変更した場合(ステップS536)、上記の各ステップで決定した目標車速、旋回速度および設定車間距離に応じた車両制御を指示し、処理を終了する。
【0079】
以上の構成により、本実施形態に係る車両制御装置1は、定速走行モードにおいてスティック131を前後方向に倒したときに速度制御を行い、左右方向に倒したときに旋回制御を行い、斜め方向に倒したときに車間距離制御を行い、後方に大きく倒したときに停車制御を行う。
【0080】
なお、ここでは車両制御装置1は、スティック131を斜め方向に倒したときに車間距離制御を行う場合について説明したが、車間距離制御以外の制御を行ってもよい。例えば、車両制御装置1は、スティック131を斜め前方向に倒している間だけ設定車速を変更せず一時的に加速させ、斜め後ろ方向に倒している間だけ設定車速を変更せず一時的に減速させるようにしてもよい。この場合、乗員は、スティック131を斜め操作している間だけ、一時的に走行車速を変更でき、スティック131を離すとスティック131が中立領域に戻るため、元の設定車速での走行が再開される。
【0081】
また、電動車椅子Cが距離センサ170を備えない場合、車間距離制御を行うことができない。その場合、一時的な速度の増減など、車間距離制御以外の制御を行う。
【符号の説明】
【0082】
1 車両制御装置
100 車体部
110 車体フレーム
120 座席部
130 操作部
140 アームレスト
150 フットレスト
160 切替部
170 距離センサ
180 前輪
190 後輪
200 表示部
131 スティック
132 ハウジング
133 操作棒
134 x方向可変抵抗
135 y方向可変抵抗
136 スティックセンサ
11 車体フレーム
12 記憶部
13 入出力IF
104 車速センサ
105 車間距離センサ
106 駆動部
107L 左輪モータ
107R 右輪モータ
410 走行モードにおける操作領域
411 中心領域
412 非中心領域
420 定速走行モードにおける操作領域
421 前方領域
422 後方領域
423L 左方領域
423R 右方領域
424L 左前領域
424R 右前領域
425L 左後領域
425R 右後領域
426 後端領域
427 中心領域