(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176275
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】積層体及び包装材料
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20241212BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094717
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】江島 優希
(72)【発明者】
【氏名】武井 遼
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
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4F100YY00
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】リサイクル性に優れるとともに、良好なヒートシール適性及び耐熱性を有する積層体を提供すること。
【解決手段】基材フィルム、無機酸化物層、接着剤層、及びシーラント層、をこの順に備える積層体であって、基材フィルムが、表層、中間層、及びシーラント層側の裏層をこの順に有し、表層がポリエチレン樹脂より高融点の樹脂を含み、中間層がポリエチレン樹脂を含み、裏層が0.926g/cm
3以上の密度を有するポリエチレン樹脂を含み、裏層の探針降下温度が130℃以上150℃未満であり、中間層の探針降下温度が、裏層の探針降下温度よりも高く、シーラント層がポリエチレン樹脂を含み、積層体におけるポリエチレン樹脂の含有量が、積層体の全量を基準として90質量%以上である、積層体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム、無機酸化物層、接着剤層、及びシーラント層、をこの順に備える積層体であって、
前記基材フィルムが、表層、中間層、及びシーラント層側の裏層をこの順に有し、
前記表層がポリエチレン樹脂より高融点の樹脂を含み、前記中間層がポリエチレン樹脂を含み、前記裏層が0.926g/cm3以上の密度を有するポリエチレン樹脂を含み、
前記裏層の探針降下温度が130℃以上150℃未満であり、前記中間層の探針降下温度が、前記裏層の探針降下温度よりも高く、
前記シーラント層がポリエチレン樹脂を含み、
前記積層体におけるポリエチレン樹脂の含有量が、前記積層体の全量を基準として90質量%以上である、積層体。
【請求項2】
前記表層の厚さが0.3μm以上6μm以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記中間層の探針降下温度が140℃以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記中間層の厚さが前記基材フィルムの厚さの33%以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記基材フィルムが無延伸フィルムである、請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記無機酸化物層の前記シーラント層側の表面上にガスバリア性被覆層を更に備える、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記接着剤層がガスバリア性接着剤を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記表層同士を対向させてヒートシールを行う際のヒートシール立ち上がり温度T1と、前記シーラント層同士を対向させてヒートシールを行う際のヒートシール立ち上がり温度T2との差(T1-T2)が40℃以上である、請求項1に記載の積層体。
<ヒートシール立ち上がり温度測定方法>
積層体の表層同士又はシーラント層同士を対向させた状態でPETフィルムに挟み込み、ヒートシーラーを用いて、シール圧0.2MPa、シール時間1秒、シール幅10mmの条件でヒートシールする。シール温度は90~240℃の間で10℃刻みに調整する。各温度でヒートシールされたヒートシール部分をそれぞれ15mm幅に切り出し、300m/minの引張り速度でT字剥離を行い、ヒートシール部分のヒートシール強度を測定する。ヒートシール強度が2N/15mm以上に達した温度をヒートシール立ち上がり温度とする。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の積層体を含む包装材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及び包装材料に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等の包装に用いられる包装材料には、内容物の変質や腐敗等を抑制し、それらの機能や品質を維持するため、内容物を変性させる気体(水蒸気、酸素、その他)の進入を防ぐ性質(ガスバリア性)が求められる。また、包装材料には、ボイル処理等の加熱殺菌処理を施すことがあるため、優れた耐熱性が求められる。そのため、これらの包装材料には、ガスバリア性及び耐熱性を有する積層体が用いられる。
【0003】
このような積層体として、例えば特許文献1~3には、金属箔、金属蒸着膜等のガスバリア性の層をポリエチレンフィルム等の樹脂基材の表面に設けたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-55157号公報
【特許文献2】特開2001-179878号公報
【特許文献3】特開2018-024213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、海洋プラスチックごみ問題等に端を発する環境意識の高まりから、プラスチック材料の分別回収と再資源化のさらなる高効率化が求められており、包装材料においても、モノマテリアル化が求められるようになってきた。
【0006】
しかし、モノマテリアル化を進めるにあたって本発明者らが検討したところ、従来の積層体にはヒートシール適性、すなわち基材層の溶融や変形なくヒートシールできることと、耐熱性、すなわちガスバリア層を設ける際の加工安定性や、加熱殺菌処理後でもガスバリア性を維持できることと、の観点において改善の余地があることが分かった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、リサイクル性に優れるとともに、良好なヒートシール適性及び耐熱性を有する積層体を提供することを目的とする。また、本発明は、当該積層体を含む包装材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、例えば以下の[1]~[9]である。
[1]
基材フィルム、無機酸化物層、接着剤層、及びシーラント層、をこの順に備える積層体であって、
前記基材フィルムが、表層、中間層、及びシーラント層側の裏層をこの順に有し、
前記表層がポリエチレン樹脂より高融点の樹脂を含み、前記中間層がポリエチレン樹脂を含み、前記裏層が0.926g/cm3以上の密度を有するポリエチレン樹脂を含み、
前記裏層の探針降下温度が130℃以上150℃未満であり、前記中間層の探針降下温度が、前記裏層の探針降下温度よりも高く、
前記シーラント層がポリエチレン樹脂を含み、
前記積層体におけるポリエチレン樹脂の含有量が、前記積層体の全量を基準として90質量%以上である、積層体。
[2]
前記表層の厚さが0.3μm以上6μm以下である、[1]に記載の積層体。
[3]
前記中間層の探針降下温度が140℃以上である、[1]又は[2]に記載の積層体。
[4]
前記中間層の厚さが前記基材フィルムの厚さの33%以上である、[1]~[3]のいずれか一に記載の積層体。
[5]
前記基材フィルムが無延伸フィルムである、[1]~[4]のいずれか一に記載の積層体。
[6]
前記無機酸化物層の前記シーラント層側の表面上にガスバリア性被覆層を更に備える、[1]~[5]のいずれか一に記載の積層体。
[7]
前記接着剤層がガスバリア性接着剤を含む、[1]~[6]のいずれか一に記載の積層体。
[8]
前記表層同士を対向させてヒートシールを行う際のヒートシール立ち上がり温度T1と、前記シーラント層同士を対向させてヒートシールを行う際のヒートシール立ち上がり温度T2との差(T1-T2)が40℃以上である、[1]~[7]のいずれか一に記載の積層体。
<ヒートシール立ち上がり温度測定方法>
積層体の表層同士又はシーラント層同士を対向させた状態でPETフィルムに挟み込み、ヒートシーラーを用いて、シール圧0.2MPa、シール時間1秒、シール幅10mmの条件でヒートシールする。シール温度は90~240℃の間で10℃刻みに調整する。各温度でヒートシールされたヒートシール部分をそれぞれ15mm幅に切り出し、300m/minの引張り速度でT字剥離を行い、ヒートシール部分のヒートシール強度を測定する。ヒートシール強度が2N/15mm以上に達した温度をヒートシール立ち上がり温度とする。
[9]
[1]~[8]のいずれか一に記載の積層体を含む包装材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リサイクル性に優れるとともに、良好なヒートシール適性及び耐熱性を有する積層体が提供される。また、本発明によれば、当該積層体を含む包装材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層体の断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の他の一実施形態に係る積層体の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の他の一実施形態に係る積層体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、図面は模式的なものであり、例えば、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本開示の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに限定されるものではない。
【0012】
[積層体]
図1は、本発明の一実施形態に係る積層体の断面図である。積層体100は、基材フィルム10と、ガスバリア層20(無機酸化物層21及びガスバリア性被覆層22)と、接着剤層30と、シーラント層40と、を備える。
【0013】
積層体100におけるポリエチレン樹脂の含有量は、モノマテリアル化を実現し、リサイクル性が優れる観点から、積層体100の全量を基準として、90質量%以上であるが、95質量%以上であってもよい。
【0014】
積層体100の厚さは、特に制限されるものではなく、コストや用途に応じて適宜決定できる。積層体100の厚さは、50μm以上、60μm以上、又は70μm以上であってもよく、300μm以下、250μm以下、又は200μm以下であってもよい。
【0015】
積層体100において、表層同士を対向させてヒートシールを行う際のヒートシール立ち上がり温度T1と、シーラント層同士を対向させてヒートシールを行う際のヒートシール立ち上がり温度T2との差(T1-T2)が40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。これにより、良好なヒートシール性を確保できると共に、製袋時のヒートシール温度条件の幅が広くなり製袋効率を向上することができる。当該差の上限は特に制限されないが、150℃以下とすることができる。
ヒートシール立ち上がり温度は、次のようにして測定される温度である。ヒートシール立ち上がり温度は、ヒートシール強度立ち上がり温度、ヒートシール溶着温度、ヒートシールカーブの立ち上がり温度などと言うこともできる。
【0016】
(ヒートシール立ち上がり温度測定方法)
積層体の表層同士又はシーラント層同士を対向させた状態でPETフィルムに挟み込み、ヒートシーラーを用いて、シール圧0.2MPa、シール時間1秒、シール幅10mmの条件でヒートシールする。シール温度は90~240℃の間で10℃刻みに調整する。各温度でヒートシールされたヒートシール部分をそれぞれ15mm幅に切り出し、300m/minの引張り速度でT字剥離を行い、ヒートシール部分のヒートシール強度を測定する。ヒートシール強度が2N/15mm以上に達した温度をヒートシール立ち上がり温度とする。
【0017】
<基材フィルム>
基材フィルム10は、表層11、中間層12、及びシーラント層側の裏層13の3層をこの順に有する。表層11及び裏層13は、それぞれ、基材フィルム10の最外層である。基材フィルム10は共押し出しにより得ることができる多層のフィルムであるため、共押出多層フィルムということもできる。
【0018】
基材フィルム10におけるポリエチレン樹脂の含有量は、モノマテリアル化を実現し、リサイクル性に優れる観点から、基材フィルム10の全量を基準として、90質量%以上、又は95質量%以上であってもよい。
【0019】
基材フィルム10は無延伸フィルムであってもよい。基材フィルム10が無延伸であることにより、基材フィルム10の表面近傍でガスバリア層20が剥がれにくくなり、ガスバリア層20との密着性が優れることとなる。
【0020】
基材フィルム10の厚さは、特に制限されるものではなく、包装材料としての適性、及び他の層との積層適性を考慮しつつ、コストや用途に応じて適宜決定できる。基材フィルム10の厚さは、3μm以上、5μm以上、6μm以上、又は10μm以上であってもよく、200μm以下、120μm以下、100μm以下、又は40μm以下であってもよい。
【0021】
(表層)
表層11は、ポリエチレン樹脂より高融点の樹脂(以下、高融点樹脂という)を含む。表層11は、製袋や充填密封時にヒートシールする際の不具合、例えばヒートシールバーへの基材フィルム成分の付着や基材フィルムの変形等を防止し、ヒートシール適性を確保する機能を有する。表層11は、中間層12に含まれる樹脂より高融点の樹脂を含むということもできる。
【0022】
高融点樹脂としては、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体、ポリブテン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアミドなどが挙げられる。これらは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、ヒートシール性及び剛性の観点からはポリアミドを好ましく用いることができる。
【0023】
高融点樹脂の融点は特に制限されないが、シーラント層のポリエチレン樹脂の融点が95~135℃であることに鑑みると、135℃超、140℃以上、又は150℃以上であってよい。また、高融点樹脂の融点の上限は、製膜性の観点から350℃とすることができる。
樹脂の「融点」とは、JIS K 7121に基づき測定される値である。
【0024】
表層11は、表層11の上記機能を損なわない範囲で、高融点樹脂以外の樹脂を含むことができる。高融点樹脂以外の樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂が挙げられ、具体的には中間層12及び裏層13にて例示されるポリエチレン樹脂が挙げられる。ただし、表層11の上記機能を発現し易い観点から、表層11における高融点樹脂の含有量は、表層11の全量を基準として、10質量%以上、25質量%以上、又は50質量%以上であってもよく、100質量%(表層11が実質的に高融点樹脂からなる態様)であってもよい。
【0025】
表層11の探針降下温度は、ヒートシール性及び耐熱性の観点から、155℃以上、200℃以上、250℃以上、又は300℃以上であってもよい。表層11の探針降下温度は、製膜性の観点から、450℃以下、又は400℃以下であってもよい。
探針降下温度は、後述に記載の方法によって測定される値である。
【0026】
探針降下温度とは、探針を用いた材料の局所的熱分析に関するパラメータであり、探針の上昇及び降下挙動を測定することによって得られる。探針降下温度の測定には、加熱機構を有するカンチレバー(探針)と、ナノサーマル顕微鏡とを備える原子間力顕微鏡(AFM)を用いる。試料台に固定した固体状態の試料表面にカンチレバーを接触させて、コンタクトモードにてカンチレバーに電圧を印加することにより加熱していくと、試料表面が熱膨張し、カンチレバーが上昇する。カンチレバーを更に加熱すると、試料表面が軟化して硬度が大きく変化する。その結果、カンチレバーは下降して試料表面にもぐり込む。このとき検知された急激な変位の開始点が探針降下開始点であり、電圧を温度に変換することで、探針降下温度が得られる。このような方法により、ナノスケール領域の局所的、且つ表面近傍の探針降下温度を知ることができる。
【0027】
使用可能なAFMとしては、オックスフォード・インストゥルメンツ社製のMPF-3D-SA、Zthermシステムや、ブルカー・ジャパン社製のNano Thermal Analysisシリーズ、nanoIRシリーズ等が挙げられる。他のメーカーのAFMであっても、Nano Thermal Analysisを取り付ければ測定が可能である。カンチレバーとしては、例えば、アナシス・インスツルメンツ社製のAN2-200が挙げられる。カンチレバーは、レーザー光を十分に反射することができ、電圧を印加することができるものであれば、上記の例示したカンチレバー以外のカンチレバーであっても使用することができる。
【0028】
探針降下温度の測定における温度範囲は、測定対象の材料により変わるが、例えば、常温の25℃程度を開始温度し、400℃程度を終了温度とすることができる。探針降下温度の測定における温度範囲は、25℃以上300℃以下の範囲であってもよい。
【0029】
カンチレバーのばね定数は0.1~3.5N/mであってよく、タッピングモードとコンタクトモードの両モードでの測定を行うために、0.5~3.5N/mであることが好ましい。AFMでは、カンチレバーのたわみ量(Deflection)が電圧の単位で検出されることがある。コンタクトモードにおいては、カンチレバーと試料との接触前後でカンチレバーのDeflectionが変化するため、この変化量を0.1~3.0Vの範囲内に収めることにより、カンチレバーを試料に接触させつつ、試料表面の破壊を抑制することができる。
【0030】
カンチレバーの昇温速度は、加熱機構等に応じて変化するが、0.1~10V/秒であってよく、0.2~5V/秒であることが好ましい。試料表面が軟化すると、カンチレバーの先端部が試料にもぐり込んで下降する。カンチレバーのもぐり込み量は、軟化曲線のピークトップの検出感度に影響し、3~500nmとできる。カンチレバーの破損を防止する観点から、もぐり込み量を5~100nmとすることがより好ましい。
【0031】
探針降下温度を算出するためには、校正曲線を作成することが必要である。後述する実施例では、ポリカプロラクトン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリエチレンテレフタレートを校正用サンプルとして用いて校正曲線を作成した。校正用サンプルの材質は、上記に限られず、熱伝導率が一般的な高分子と大きく異ならないもので、融点が60℃付近のもの、250℃付近のもの、及びその中間であるものを少なくとも一つずつ使用すればよい。例えば、上記の4つの校正用サンプルからポリプロピレンを除いたポリカプロラクトン、低密度ポリエチレン、及びポリエチレンテレフタレートの3つのみを校正用サンプルとすることもできる。
【0032】
表層11の厚さは、特に制限されるものではなく、製造方法や装置に由来する適性、及び他の層との積層適性を考慮しつつ、コストや用途に応じて適宜決定できる。表層11の厚さは、耐熱性の(表層側から加熱した際に不具合なくヒートシールすることができる)観点から、0.3μm以上、0.5μm以上、又は1μm以上であってもよく、リサイクル性の観点から6μm以下、5μm以下、又は4μm以下であってもよい。
【0033】
(中間層)
中間層12は、ポリエチレン樹脂を含有する層である。以下、中間層12を構成するポリエチレン樹脂を第一のポリエチレン樹脂ともいう。中間層12における第一のポリエチレン樹脂の含有量は、中間層12の全量を基準として、90質量%以上、95質量%以上、又は98質量%以上であってもよく、100質量%(中間層12が実質的に第一のポリエチレン樹脂からなる態様)であってもよい。中間層12が複数のポリエチレン樹脂(例えば、平均分子量、密度等が異なる複数のポリエチレン樹脂)で構成されている場合は、複数のポリエチレン樹脂の混合物を第一のポリエチレン樹脂とする。
【0034】
中間層12は、ガスバリア層を積層する際にシワがより発生しにくくなり、加工安定性がより優れる観点、及び加熱殺菌処理後においてもガスバリア性をより維持しやすく、耐熱性がより優れる観点から、以下の範囲の密度を有する第一のポリエチレン樹脂で構成されていてもよい。第一のポリエチレン樹脂の密度は、0.942g/cm3以上、0.945g/cm3以上、又は0.950g/cm3以上であってもよい。第一のポリエチレン樹脂の密度は、0.980g/cm3以下、0.975g/cm3以下、0.970g/cm3以下、又は0.965g/cm3以下であってもよい。
樹脂(樹脂フィルム)の密度とは、JIS Z 8837に基づき測定される値である。
【0035】
第一のポリエチレン樹脂の190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートMFRは、特に限定されるものではなく、第一のポリエチレン樹脂を製造する方法によって適宜調整することができる。第一のポリエチレン樹脂のMFRは、5g/10min以下、3g/10min以下、2g/10min以下、又は1.5g/10min以下であってもよい。第一のポリエチレン樹脂のMFRは、0.1g/10min以上、0.5g/10min以上、又は0.8g/10min以上であってもよい。
樹脂(樹脂フィルム)のメルトフローレートとは、JIS K6921-2に基づき測定される値である。
【0036】
中間層12の探針降下温度が高いほど、優れた耐熱性を実現しやすい。中間層12の探針降下温度は、シワがより発生しにくくなり、加工安定性がより優れる観点、及び加熱殺菌処理後においてもガスバリア性及び密着性をより維持しやすく、耐熱性がより優れる観点から、140℃以上、142℃以上、又は150℃以上であってもよい。中間層12の探針降下温度は、170℃以下、165℃以下、160℃以下、157℃以下、又は155℃以下であってもよい。
【0037】
中間層12の探針降下温度は裏層13の探針降下温度より高い。これによりシワが発生しにくく、優れた耐熱性を実現できると共に、加熱殺菌処理後においてもガスバリア性を維持できる。
【0038】
中間層12の探針降下温度と裏層13の探針降下温度との差は、ガスバリア層を積層する際にシワがより発生しにくくなり、加工安定性がより優れる観点、及び加熱殺菌処理後においてもガスバリア性及び密着性をより維持しやすく、耐熱性がより優れる観点から、3℃以上、5℃以上、又は8℃以上であってもよい。中間層12の探針降下温度と裏層13の探針降下温度との差は、25℃以下、20℃以下、15℃以下、又は13℃以下であってもよい。
【0039】
表層11の探針降下温度は、中間層12の探針降下温度より高い。これにより積層体のヒートシール性が向上し、製袋や充填密封時にヒートシールする際の不具合が生じ難い。
【0040】
表層11の探針降下温度と中間層12の探針降下温度との差は、ヒートシール性が向上する観点から、10℃以上、30℃以上、又は50℃以上であってもよい。表層11の探針降下温度と中間層12の探針降下温度との差は、200℃以下、150℃以下、又は100℃以下であってもよい。
【0041】
中間層12の厚さは、特に制限されるものではなく、製造方法や装置に由来する適性、及び他の層との積層適性を考慮しつつ、コストや用途に応じて適宜決定できる。中間層12の厚さは、実用上の観点から、5μm以上、8μm以上、10μm以上、12μm以上、又は15μm以上であってもよく、80μm以下、50μm以下、40μm以下、又は30μm以下であってもよい。
【0042】
中間層12の厚さが大きいほど、より優れた耐熱性を実現することができる。中間層12の厚さは、シワがより発生しにくくなり、また加熱殺菌処理後においてもガスバリア性及び密着性をより維持しやすく、耐熱性がより優れる観点から、基材フィルム10の厚さの33%以上、40%以上、50%以上、55%以上、又は60%以上であってもよい。中間層12の厚さは、基材フィルム10の厚さの90%以下、85%以下、又は80%以下であってもよい。
【0043】
中間層12の厚さは、加熱殺菌処理後においてもガスバリア性及び密着性をより維持しやすく、耐熱性がより優れる観点から、表層11の厚さ及び/又は裏層13の厚さよりも大きくてもよい。中間層12の厚さは、加熱殺菌処理後においてもガスバリア性及び密着性をより維持しやすく、耐熱性がより優れる観点から、表層11の厚さ及び/又は裏層13の厚さの1倍以上、1.5倍以上、2倍以上、又は3倍以上であってもよい。中間層12の厚さは、表層11の厚さ及び/又は裏層13の厚さの10倍以下、8倍以下、又は5倍以下であってもよい。
【0044】
(裏層)
裏層13は、ポリエチレン樹脂を含有する層であり、中密度ポリエチレン樹脂又は高密度ポリエチレン樹脂を含有することができる。以下、裏層13を構成するポリエチレン樹脂を第二のポリエチレン樹脂ともいう。裏層13における第二のポリエチレン樹脂の含有量は、裏層13の全量を基準として、90質量%以上、95質量%以上、又は98質量%以上であってもよく、100質量%(裏層13が実質的に第二のポリエチレン樹脂からなる態様)であってもよい。裏層13が複数のポリエチレン樹脂(例えば、平均分子量、密度等が異なる複数のポリエチレン樹脂)で構成されている場合は、複数のポリエチレン樹脂の混合物を第二のポリエチレン樹脂とする。
【0045】
裏層13は、ガスバリア層を積層する際にシワがより発生しにくくなり、加工安定性がより優れる観点、及び加熱殺菌処理後においてもガスバリア性をより維持しやすく、耐熱性がより優れる観点から、0.926g/cm3以上の密度を有する中密度ポリエチレン樹脂又は高密度ポリエチレン樹脂(第二のポリエチレン樹脂)で構成されていてもよい。
第二のポリエチレン樹脂の密度は、0.926g/cm3以上、0.930g/cm3以上、0.935g/cm3以上、又は0.940g/cm3以上であってもよい。第二のポリエチレン樹脂の密度は、0.970g/cm3以下、0.965g/cm3以下、又は0.960g/cm3以下であってもよい。第二のポリエチレン樹脂の密度が0.970g/cm3以下であることにより、基材フィルム10の表面が荒れることを抑制できる。
【0046】
裏層13の探針降下温度は、ガスバリア層を積層する際にシワがより発生しにくくなり、加工安定性がより優れる観点、及び加熱殺菌処理後においてもガスバリア性をより維持しやすく、耐熱性がより優れる観点から、130℃以上であるが、133℃以上であってもよい。裏層13の探針降下温度は、150℃未満であるが、146℃以下であってもよい。裏層13の探針降下温度が150℃未満であることにより、基材フィルム10の表面が荒れることを抑制できる。
【0047】
裏層13の厚さは、特に制限されるものではなく、製造方法や装置に由来する適性、及び他の層との積層適性を考慮しつつ、コストや用途に応じて適宜決定できる。裏層13の厚さは、実用上の観点から、0.3μm以上、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、又は5μm以上であってもよく、50μm以下、30μm以下、20μm以下、又は10μm以下であってもよい。
【0048】
中間層12及び裏層13は、リサイクル性を損なわない範囲で適宜ポリエチレン樹脂以外の樹脂を含んでもよい。このような樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体、ポリブテン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアミド、各種改質用樹脂などが挙げられる。また、各層それぞれ独立に、添加剤を1種又は2種以上含有してもよい。添加剤としては、例えば、架橋剤、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤(スリップ剤)、紫外線吸収剤、光安定剤、充填材、補強剤、帯電防止剤、顔料が挙げられる。
【0049】
中間層12は、単層であってもよく、複数の層で形成されていてもよい。例えば、
図2に示すように、積層体200における基材フィルム50は、表層51と、中間層52と、裏層53とを有し、中間層52は、樹脂層52a、52b、及び52cを有する。このとき、樹脂層52a、52b、及び52cは、いずれも同一の組成を有する。
【0050】
基材フィルム10は、表層11、中間層12、及び裏層13の3層以外の層を備えていてもよい。例えば、
図3に示すように、積層体300における基材フィルム60は、表層61と、中間層62と、裏層63とを有し、表層61と中間層62との間に樹脂層64を有し、中間層62と裏層63との間に樹脂層65を有する。樹脂層64は、例えば、ポリエチレン樹脂を含有し、表層61及び中間層62とは異なる組成を有する層である。樹脂層65は、例えば、ポリエチレン樹脂を含有し、中間層62及び裏層63とは異なる組成を有する層である。樹脂層64及び65は、異層間を接着する機能を有することから、接着性樹脂から形成された接着層ということもできる。
基材フィルム10は、例えば、3層、5層、又は7層、又はそれ以上の層を有していてもよい。
【0051】
基材フィルム10を製造する方法は、特に制限されるものではなく、空冷インフレーション法、水冷インフレーション法、Tダイキャスト法等の公知の共押出方法で製造することができる。汎用性の観点から、基材フィルム10は、インフレーション法で製造してもよく、空冷インフレーション法で製造してもよい。空冷インフレーション法とは、押出機の先端にリングダイス(又はクロスヘッドダイ)と呼ばれる環状のリップを持つ金型を設置し、チューブ状に材料を押し出して連続的に成型する方法である。より具体的には、リングダイスの中央に空気孔が設置されており、空気孔から圧搾空気を吹き込んでチューブを膨張させ、ピンチロールと呼ばれるローラーで引っ張りながら冷却してフィルムを巻き取ることによって、基材フィルム10を製造することができる。
【0052】
得られた基材フィルム10には、必要に応じて後工程の適性を向上する表面改質処理が施されてもよい。例えば、印刷適性の向上や、積層時のラミネート適性の向上のために、基材フィルム10の表面に対して改質処理を行ってもよい。改質処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、フレーム処理等のフィルム表面を酸化させることにより官能基を生じさせる処理や、コーティングにより易接着層を形成するウェットプロセスによる改質処理等が挙げられる。
【0053】
<ガスバリア層>
ガスバリア層20は、水蒸気や酸素に対するガスバリア性を向上させる観点から基材フィルム10上に設けられる層である。ガスバリア層20は、透明性を有する層であることが好ましい。ガスバリア層20は、無機酸化物層21及びガスバリア性被覆層22を有する。ガスバリア層20は、無機酸化物層21及びガスバリア性被覆層22の両方を有していてもよく、無機酸化物層21のみを有していてもよい。
【0054】
(無機酸化物層)
無機酸化物層21は、無機酸化物を含む。無機酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化錫、酸化マグネシウム、及びこれらの混合物が挙げられる。加熱殺菌処理後においてもガスバリア性及び密着性をより維持しやすく、耐熱性がより優れる観点、及び透明性の観点から、無機酸化物層21は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、及び酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでもよい。
【0055】
無機酸化物層21の厚さは、5~150nmであってよい。無機酸化物層21の厚さが5nm以上であれば、均一で十分な膜厚を有する層を形成しやすく、十分なガスバリア性を実現することができる。無機酸化物層21の厚さが150nm以下であれば、無機酸化物層21に柔軟性を付与することができ、無機酸化物層21を形成した後に折り曲げや引っ張り等の外的負荷が加わったとしても、無機酸化物層21に亀裂が生じることを抑制することができる。無機酸化物層21の厚さは、6nm以上、又は8nm以上であってもよく、100nm、又は50nm以下であってもよい。
【0056】
無機酸化物層21は、通常の真空蒸着法により形成することができる。また、その他の薄膜形成方法であるスパッタリング法やイオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)等により形成することもできる。無機酸化物層21は、生産性が優れる観点から、真空蒸着法により形成されてもよい。
【0057】
真空蒸着法の加熱手段としては、電子線加熱方式、抵抗加熱方式、及び誘導加熱方式のいずれかの方式を用いることができる。真空蒸着法は、蒸発材料の選択性の幅広さの観点から、電子線加熱方式であってもよい。基材フィルム10と無機酸化物層21との密着性、及び無機酸化物層21の緻密性を向上させる観点から、プラズマアシスト法、イオンビームアシスト法等により蒸着してもよい。無機酸化物層21の透明性を向上させる観点から、反応蒸着により蒸着してもよい。
【0058】
(ガスバリア性被覆層)
ガスバリア性被覆層22は、無機酸化物層21を保護し、ガスバリア性を補完する目的で設けられる層である。積層体100は、ガスバリア性被覆層22を備えていなくてもよい。
【0059】
ガスバリア性被覆層22は、水溶性高分子及びその加水分解物の少なくともいずれかと、金属アルコキシド、シランカップリング剤及びそれらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有する組成物の加熱硬化物であってよい。
【0060】
水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等の水酸基含有高分子化合物が挙げられる。水溶性高分子は、ガスバリア性が優れる観点から、ポリビニルアルコール(PVA)であってもよい。
【0061】
金属アルコキシドとしては、例えば、下記の一般式で表される化合物が挙げられる。
M(OR11)m(R12)n-m …(1)
上記式(1)中、R11及びR12は、それぞれ独立に炭素数1~8の1価の有機基である。R11及びR12は、それぞれ独立にメチル基、エチル基等のアルキル基であってもよい。Mは、Si、Ti、Al、Zr等のn価の金属原子を示す。mは、1~nの整数である。なお、R11及びR12が複数存在する場合、R11同士又はR12同士は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0062】
金属アルコキシドとしては、テトラエトキシシラン〔Si(OC2H5)4〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O-2’-C3H7)3〕等が挙げられる。金属アルコキシドは、加水分解後に、水系の溶媒中において比較的安定である観点から、テトラエトキシシラン又はトリイソプロポキシアルミニウムであってもよい。
【0063】
シランカップリング剤としては、例えば、下記の一般式で表される化合物が挙げられる。
Si(OR21)p(R22)3-pR23 …(2)
上記式(2)中、R21は、メチル基、エチル基等のアルキル基を示し、R22は、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アクリロキシ基で置換されたアルキル基、又は、メタクリロキシ基で置換されたアルキル基等の1価の有機基を示し、R23は、1価の有機官能基を示し、pは、1~3の整数を示す。なお、R21又はR22が複数存在する場合、R21同士又はR22同士は、同一であってもよく、異なっていてもよい。R23で示される1価の有機官能基としては、グリシジルオキシ基、エポキシ基、メルカプト基、水酸基、アミノ基、ハロゲン原子で置換されたアルキル基、及びイソシアネート基を含有する1価の有機官能基が挙げられる。
【0064】
シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートアルキルアルコキシシラン等が挙げられる。
【0065】
シランカップリング剤は、上述したシランカップリング剤の二量体、三量体等の多量体であってもよい。多量体としては三量体が好ましく、例えば1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートが挙げられる。これは、3-イソシアネートアルキルアルコキシシランの縮重合体である。1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートを水溶性高分子に添加することにより、水素結合によりガスバリア性被覆層の耐水性を向上させることができる。
【0066】
ガスバリア性被覆層22は、例えば、水溶性高分子と、金属アルコキシド及び/又はシランカップリング剤とを、水或いは水/アルコール混合液に添加して得られる組成物(以下、オーバーコート剤という)を用いて形成することができる。オーバーコート剤は、例えば、水溶性高分子である水酸基含有高分子化合物を水系(水或いは水/アルコール混合)溶媒で溶解させた溶液と、金属アルコキシド及び/又はシランカップリング剤とを直接、或いは予めこれらを加水分解させるなどの処理を行ったものとを混合して調製することができる。オーバーコート剤には、イソシアネート化合物、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤等の添加剤を添加してもよい。
【0067】
オーバーコート剤における金属アルコキシドの量は、無機酸化物層21との密着性及びガスバリア性維持の観点から、水溶性高分子1質量部に対して1~4質量部とすることができ、2~3質量部であってよい。同様に、シランカップリング剤の量は、水溶性高分子1質量部に対して0.01~1質量部とすることができ、0.1~0.5質量部であってよい。金属アルコキシドとしてシラン化合物(アルコキシシラン)を用いる場合、オーバーコート剤におけるシラン化合物(金属アルコキシドとシランカップリング剤)の量は、水溶性高分子1質量部に対して1~4質量部とすることができ、2~3質量部であってよい。
【0068】
オーバーコート剤は、例えば、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースグラビアコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法等により、無機酸化物層21上に塗布することができる。オーバーコート剤を塗布してなる塗膜は、例えば、熱風乾燥法、熱ロール乾燥法、高周波照射法、赤外線照射法、UV照射法、又はそれらの組み合わせにより乾燥させることができる。
【0069】
塗膜を乾燥させる際の温度は、例えば50~150℃とすることができ、70~100℃とすることが好ましい。乾燥時の温度を上記範囲内とすることで、ガスバリア層20にクラックが発生することをより一層抑制でき、優れたバリア性を発現することができる。
【0070】
ガスバリア性被覆層22は、水溶性高分子(例えばポリビニルアルコール系樹脂)及びシラン化合物を含むオーバーコート剤を用いて形成されてもよい。オーバーコート剤には、必要に応じて酸触媒、アルカリ触媒、光重開始剤等を加えてよい。シラン化合物としては、シランカップリング剤、ポリシラザン、シロキサン等が挙げられ、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
【0071】
上述したガスバリア性被覆層22は、加熱殺菌処理後においても、優れたガスバリア性を維持することができる。そのため、積層体100を加熱殺菌処理用の包装材料として用いる場合、包装材料は、加熱殺菌処理後においても優れた密着性を有する。また、上述したガスバリア性被覆層22は、十分な透明性、耐屈曲性、及び耐延伸性を有し、ダイオキシン等の有害物質を発生させるリスクもないため好ましい。
【0072】
ガスバリア性被覆層22の厚さは、ガスバリア性が優れる観点から、0.05μm以上、又は0.1μm以上であってもよい。ガスバリア性被覆層22の厚さは、均一な塗工面を形成しやすい観点、乾燥による負荷を軽減する観点、柔軟性の観点、及び製造コストの観点から、1μm以下、又は0.5μm以下であってもよい。
【0073】
(アンカーコート層)
基材フィルム10とガスバリア層20との密着性を向上させる観点から、基材フィルム10とガスバリア層20との間にアンカーコート層(図示せず)を設けてもよい。アンカーコート層を設けることにより、加熱殺菌処理後においてもガスバリア性及び密着性を維持しやすくなる。
【0074】
アンカーコート層は、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂等の樹脂を含む塗液により形成することができる。アンカーコート層は、耐熱性及び層間接着強度の観点から、アクリルウレタン樹脂、又はポリエステル系ポリウレタン樹脂を含む塗液で形成されてもよい。
【0075】
アンカーコート層を形成する塗液を塗工する方法は、公知の塗工方法であってよく、浸漬法(ディッピング法);スプレー、コーター、印刷機、刷毛等を用いる方法が挙げられる。また、これらの方法に用いられるコーター及び印刷機の種類並びにそれらの塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式等のグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、チャンバードクター併用コーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を挙げることができる。
【0076】
アンカーコート層を乾燥させる方法としては、特に限定されないが、自然乾燥による方法や、所定の温度に設定したオーブン中で乾燥させる方法、コーター付属の乾燥機、例えばアーチドライヤー、フローティングドライヤー、ドラムドライヤー、赤外線ドライヤー等を用いる方法を挙げることができる。乾燥の条件としては、乾燥させる方法により適宜選択することができ、例えば、オーブン中で乾燥させる方法においては、60~100℃で1秒間~2分間程度乾燥させてもよい。
【0077】
アンカーコート層の厚さは、層間の十分な密着性を得やすい観点から、0.01μm以上、0.03μm以上、又は0.05μm以上であってもよい。アンカーコート層の厚さは、ガスバリア性が優れる観点から、5μm以下、3μm以下、又は2μm以下であってもよい。
【0078】
<接着剤層>
接着剤層30は、少なくとも1種類の接着剤を含有した層であり、ガスバリア層20とシーラント層40との間に設けられて両者を接合する層である。接着剤層30は、公知の接着剤を用いて形成することができる。接着剤は、例えば、ドライラミネート用接着剤であってもよい。ドライラミネート用接着剤は、特に限定されず、例えば、エステル系接着剤、エーテル系接着剤、及びウレタン系接着剤が挙げられる。これらの接着剤は、1液硬化型であってもよく、2液硬化型であってもよい。
【0079】
接着剤層30は、ガスバリア性が優れる観点から、ガスバリア接着剤を用いて形成されていてもよい。また、無機酸化物層21、ガスバリア性被覆層22に微小な割れが生じた場合であっても、割れの隙間にガスバリア性接着剤が入り込んで補完することができるため、積層体100のガスバリア性の低下を抑制することができる。
【0080】
ガスバリア性接着剤は、硬化後にガスバリア性を発現し得る接着剤である。ガスバリア性接着剤としては、エポキシ系接着剤、ポリエステル・ポリウレタン系接着剤等が挙げられる。ガスバリア性接着剤の具体例としては、三菱ガス化学社製の「マクシーブ」、DIC社製の「Paslim」等が挙げられる。
【0081】
ガスバリア性接着剤の酸素透過度は、例えば、150cc/m2・day・atm以下であることが好ましく、100cc/m2・day・atm以下であることがより好ましく、80cc/m2・day・atm以下であることが更に好ましく、50cc/m2・day・atm以下であることが特に好ましい。酸素透過度が上記の範囲内であることで、積層体100のガスバリア性を十分に向上させることができる。
【0082】
接着剤層30は、例えば、バーコート法、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法等により接着剤を塗布することで塗膜を形成した後、塗膜を乾燥及び硬化させることにより形成することができる。接着剤層30は、無機酸化物層21の割れを抑制する観点から、無機酸化物層21又はガスバリア性被覆層22の表面上に直接形成されていることが好ましい。すなわち、接着剤層30は、接着剤を無機酸化物層21又はガスバリア性被覆層22の表面上に直接塗布して、乾燥及び硬化させることにより形成されていることが好ましい。
【0083】
塗膜を乾燥させるときの温度は、例えば、30~200℃であってもよく、50~180℃であることが好ましい。塗膜を硬化させるときの温度は、例えば、20~70℃であってもよく、30~60℃であることが好ましい。乾燥及び硬化時の温度を上記の範囲内とすることで、無機酸化物層21及び接着剤層30にクラックが発生することを抑制でき、積層体100のガスバリア性を十分に向上させることができる。
【0084】
接着剤層30の厚さは、0.1~20μmであることが好ましく、0.5~10μmであることがより好ましく、1~5μmであることが更に好ましい。接着剤層30の厚さが0.1μm以上であることで、外部からの衝撃を緩和するクッション性を得ることができるため、無機酸化物層21が割れることを抑制しやすくなり、且つ、積層体100のガスバリア性をより向上させることができる。接着剤層の厚さが20μm以下であることで、積層体100の柔軟性を十分に保持できる傾向がある。
【0085】
接着剤層30の厚さは、無機酸化物層21の厚さの50倍以上であることが好ましい。接着剤層30の厚さが無機酸化物層21の厚さの50倍以上であることで、外部からの衝撃を緩和するクッション性を得ることができるため、無機酸化物層21が割れることを抑制しやすくなり、且つ、積層体100のガスバリア性をより向上させることができる。接着剤層30の厚さは、無機酸化物層21の厚さの300倍以下であることが好ましい。接着剤層30の厚さが無機酸化物層21の厚さの300倍以下であることで、積層体100の柔軟性及び加工適性が優れ、且つコストを削減することができる。
【0086】
<シーラント層>
シーラント層40は、例えば、ポリエチレン樹脂により構成されている層である。シーラント層40は、積層体100を用いて包装袋等の包装材料を形成する際に熱融着(ヒートシール)により接合される層である。シーラント層40を構成するポリエチレン樹脂は、ヒートシール性が優れる観点から、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、及び超低密度ポリエチレン樹脂(VLDPE)であってもよい。環境負荷の観点から、シーラント層40は、バイオマス由来のポリエチレン樹脂、又はリサイクルされたポリエチレン樹脂により構成されていてもよい。シーラント層40は、例えば、無延伸ポリエチレンフィルムにより構成されていてよい。
【0087】
低密度ポリエチレンとしては、密度が0.900g/cm3以上0.925g/cm3未満のポリエチレンを使用することができる。直鎖状低密度ポリエチレンとしては、密度が0.900g/cm3以上0.925g/cm3未満のポリエチレンを使用することができる。超低密度ポリエチレンとしては、密度が0.900g/cm3未満のポリエチレンを使用することができる。
【0088】
シーラント層40は、ポリエチレン樹脂以外の樹脂を含んでもよい。ポリエチレン樹脂以外の樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体、ポリブテン等のオレフィン系樹脂が挙げられる。シーラント層40は、酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0089】
シーラント層40の厚さは、例えば、20μm以上、40μm以上、又は50μm以上であってもよい。シーラント層40の厚さが20μm以上であることにより、十分なヒートシール強度を達成することができる。シーラント層40の厚さは、例えば、200μm以下、170μm以下、又は150μm以下であってもよい。シーラント層40の厚さが200μm以下であることにより、加工適性が優れる。
【0090】
<印刷層>
積層体100は、更に印刷層(図示せず)を備えていてもよい。印刷層は、内容物に関する情報の表示、内容物の識別、又は包装袋の意匠性を向上させることを目的として、積層体100の外側から見える位置に設けられる。印刷層は、例えば、積層体100の表層11の表面上、無機酸化物層21の表面上、ガスバリア性被覆層22の表面上、又はシーラント層40の表面上に設けられていてもよい。
【0091】
印刷層の形成方法は特に制限されず、既知の印刷方法及び印刷インキを適用することができる。印刷方法及び印刷インキは、例えば、積層体100の各層への印刷適性、色調等の意匠性、密着性、食品容器としての安全性などを考慮して適宜選択される。
【0092】
印刷方法としては、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、フレキソ印刷法、及びインクジェット印刷法が挙げられる。これらの中でも、グラビア印刷法は、生産性や絵柄の高精細度の観点から好ましい。
【0093】
印刷層の密着性を高める観点から、印刷層を形成する層の表面には、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理等の前処理を行ってもよく、易接着層等のコート層を設けてもよい。
【0094】
<包装材料>
積層体100は、包装袋等を構成する包装材料として用いることができる。具体的には、平袋、三方袋、合掌袋、ガゼット袋、スタンディングパウチ、スパウト付きパウチ、ビーク付きパウチ等の包装材料として用いることができる。
【0095】
積層体100は、包装材料以外にも電子デバイス用フィルム、太陽電池用フィルム、燃料電池用フィルム、基板フィルム等として用いることができる。
【実施例0096】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は下記の実施例のみに限定されるものではない。
【0097】
<基材フィルム作製用材料の準備>
基材フィルム作製用にPP(ポリプロピレン)、PA(ポリアミド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、EVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)、PE(ポリエチレン)、及びA-PE(ポリエチレン:接着性樹脂)を準備した。使用材料の詳細を表1にまとめて示す。
【0098】
【0099】
<基材フィルムの作製>
表層、場合により接着性樹脂層、中間層、及び裏層を構成する樹脂として表2~5に示す樹脂をそれぞれ5層共押出機に投入し、190~230℃で溶融混練した後、空冷インフレーション法により基材フィルムを作製した。4層以下の基材フィルムは、2つ以上の押出機に同じ樹脂を投入して製造した。各例で作製した基材フィルムのポリエチレン樹脂の含有量は、いずれも90質量%以上であった。また、いずれの基材フィルムに対しても延伸処理を行わなかった。
【0100】
実施例5の表層「PE(A)+PP」については、両者をPE(A):PP=90:10の質量比で混合した材料を用いた。また、接着性樹脂を要しない実施例5では、押出機2には中間層の構成材料としてPE(A)を投入した。
比較例1、4及び5においては、表中にて形式的に表層、中間層及び裏層と記載をしているが、いずれもそのような概念のない、実質的に2層構成の積層体として基材フィルムを作製した。
【0101】
<探針降下温度>
加熱機構を有するカンチレバー(探針)から構成されたナノサーマル顕微鏡を備える原子間力顕微鏡を用いて、基材フィルムの各層の探針降下温度(軟化点)を測定した。
まず、基材フィルムを可視光硬化樹脂で包埋し、測定用試料を得た。次いで、-140℃環境下にて、クライオウルトラミクロトームのダイヤモンドナイフを用いて、測定用試料をTD方向に対して平行な方向に沿って断面切削を行った。
【0102】
断面切削を行った測定用試料について、ACモードにて10μm視野の形状測定を行った後、カンチレバー(探針)を試料とZ方向に5~10μm離した。この状態で、コンタクトモードにて最大印加電圧6V、加熱速度0.5V/sの条件で装置のDetrend補正機能を行い、電圧印加によるカンチレバー(探針)のたわみ量(Deflection)の変化を補正した。
その後、コンタクトモードにてカンチレバーと試料の接触前後のDeflectionの変化が0.2Vとなるようにカンチレバーを試料に接触させ、Deflectionが一定の値を保ったまま、最大印加電圧6V、加熱速度0.5V/sの条件でカンチレバーに電圧を印加して試料を加熱した。
この際のZ変位の変化を記録し、Z変位が上昇から下降に転じ、変化点から50nm下降した時点で測定を停止した。
Z変位が変化点から50nm下降せずに最大印加電圧に達した場合は、Detrend補正時と測定時の最大印加電圧を0.5V大きくして再度実施した。
記録したZ変位が最大となる印加電圧を温度に変換し、探針降下温度とした。この測定を10μm視野内に対し10点行い、平均値を用いた。
印加電圧を温度に変換するためには、ポリカプロラクトン(融点60℃)、低密度ポリエチレン樹脂(112℃)、ポリプロピレン樹脂(166℃)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(255℃)を校正試料として測定し、印加電圧と温度の検量線を作成した。ここで、融点は昇温速度5℃/分の条件で示差走査熱量計(DSC)により測定した融解ピーク温度である。測定方法は試料の測定と同様であるが、Detrend補正時と測定時の最大印加電圧をポリカプロラクトンは3.5V、低密度ポリエチレン樹脂は5.5V、ポリプロピレンは6.5V、ポリエチレンテレフタレート樹脂は7.8Vとした。各校正試料を測定した際のZ変位が最大となる印加電圧に対する融点の関係を最小二乗法により3次関数で近似して検量線を作成し、試料を測定した際の印加電圧を温度に変換した。
基材フィルムの各層の探針降下温度を表2~5に示す。
【0103】
<積層体の作製>
各例で作製した基材フィルムの裏層側の表面をコロナ処理した。次いで、後述の方法により、基材フィルムの表面に、アンカーコート層、無機酸化物層、ガスバリア性被覆層、接着剤層、及びシーラント層を順に形成し、基材フィルム/アンカーコート層/無機酸化物層/ガスバリア性被覆層/接着剤層/シーラント層の順に積層した後、40℃で4日間エージングして積層体を得た。
【0104】
<アンカーコート層>
アクリルポリオールとトリレンジイソシアネートとを、アクリルポリオールのOH基の数に対してトリレンジイソシアネートのNCO基の数が等量となるように混合し、全固形分量(アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量)が5質量%になるよう酢酸エチルで希釈した。希釈後の混合液に、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランを、アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量100質量部に対して5質量部となるように添加し、これらを混合することでアンカーコート層形成用組成物(アンカーコート剤)を調製した。
アンカーコート層は、コロナ処理した基材フィルムの表面にアンカーコート層形成用組成物をグラビアコート法により塗布し、乾燥させて形成した。アンカーコート層のポリエステル樹脂の塗布量は0.1g/m2、アンカーコート層の厚さは0.1μmであった。
【0105】
<無機酸化物層>
無機酸化物が酸化ケイ素である場合、電子線加熱方式による真空蒸着装置により、厚さ30nmの酸化ケイ素からなる透明な無機酸化物層(シリカ蒸着膜)を、アンカーコート層上に形成した。シリカ蒸着膜のO/Si比は1.8であった。
無機酸化物が酸化アルミニウムである場合、電子線加熱方式による真空蒸着装置により、厚さ15nmの酸化アルミニウムからなる透明な無機酸化物層(アルミナ蒸着膜)を、アンカーコート層上に形成した。アルミナ蒸着膜のO/Al比は1.5であった。
【0106】
<ガスバリア性被覆層>
下記のA液、B液及びC液を、それぞれ70/20/10の質量比で混合することで、ガスバリア性被覆剤を調製した。ガスバリア性被覆剤をグラビアコート法により無機酸化物層上に塗布し、乾燥させて、厚さ0.3μmのガスバリア性被覆層を形成した。
A液:テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4)17.9g、メタノール10g、及び0.1N塩酸72.1gを混合して30分間攪拌し、加水分解させた固形分5質量%(SiO2換算)の加水分解溶液。
B液:ポリビニルアルコールの5質量%水とメタノールを95:5(水:メタノール)の質量比で混合した混合溶液。
C液:1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートを水/イソプロピルアルコールの混合溶液(水:イソプロピルアルコールの質量比は1:1)で固形分5質量%に希釈した加水分解溶液。
【0107】
<接着剤層>
下記のウレタン系接着剤又はガスバリア性接着剤であるエポキシ系接着剤を用いて、基材フィルム(ガスバリア性被覆層)及びシーラント層間をドライラミネート法にて接着した。乾燥後の接着剤層の厚さは3μmであった。
(ウレタン系接着剤)
タケラックA525(三井化学社製)100質量部に対して、タケネートA52(三井化学社製)11質量部、及び酢酸エチル84質量部を混合して、ウレタン系接着剤を得た。
【0108】
(エポキシ系接着剤:ガスバリア性接着剤)
酢酸エチルとメタノールとを質量比で1:1となるように混合した溶媒23質量部に、マクシーブC93T(三菱ガス化学社製)16質量部と、マクシーブM-100(三菱ガス化学社製)5質量部を混合して、エポキシ系接着剤を得た。
【0109】
<シーラント層>
シーラント層として以下のフィルムを用いた。
S-PE(A):直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)からなる無延伸フィルム(三井化学東セロ社製、商品名:TUX-MCS)。
S-PE(B):直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)からなる無延伸フィルム(三井化学東セロ社製、商品名:TUX HC)。
S-PE(C):直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)からなる無延伸フィルム(三井化学東セロ社製、商品名:TUX TC-S)。
S-PE(D):直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)からなる無延伸フィルム(三井化学東セロ社製、商品名:TUX VCS)。
【0110】
[評価]
各例で得られた積層体につき、以下の各項目について評価を行った。結果を表6~9にまとめて示す。
【0111】
<リサイクル性>
下記式に基づき、各例で得られた積層体に占めるポリエチレン樹脂の含有量(質量%)を算出した。いずれの積層体もA評価(ポリエチレン樹脂の含有量が90質量%以上)であった。
{(基材フィルムにおけるポリエチレン樹脂の質量+シーラント層の質量)/積層体全体の質量}×100
【0112】
<ヒートシール立ち上がり温度>
各例で得られた積層体の表層同士を対向させてヒートシールを行う際のヒートシール立ち上がり温度T1と、シーラント層同士を対向させてヒートシールを行う際のヒートシール立ち上がり温度T2との差(T1-T2)を測定した。
具体的には、積層体の表層同士又はシーラント層同士を対向させた状態でPETフィルムに挟み込み、テスター産業株式会社製のヒートシーラーを用いて、シール圧0.2MPa、シール時間1秒、シール幅10mmの条件でヒートシールした。シール温度は90~240℃の間で10℃刻みに調整した。各温度でヒートシールされたヒートシール部分をそれぞれ15mm幅×80mmに切り出し、株式会社島津製作所製の引張試験機を用いて、300m/minの引張り速度でT字剥離を行い、ヒートシール部分のヒートシール強度を測定した。ヒートシール強度が2N/15mm以上に達した温度をヒートシール立ち上がり温度とした。
【0113】
<ヒートシール性>
各例で得られた積層体をそれぞれ10cm角に切り出し、シーラント層が内側になるように二つ折りし、ヒートシールテスターを用いて、圧力0.2MPa、加熱時間1秒の条件にてヒートシールした。そして、(1)積層体のヒートシール温度条件幅(積層体のヒートシールできる最高温度-積層体のヒートシールできる最低温度)を確認した。また、(2)得られたサンプルのヒートシール部を目視により観察し、ヒートシール部のシワの有無を確認した。評価は以下の基準に基づいて行った。
(1)積層体のヒートシール温度条件幅
A:20℃以上。
B:0℃以上20℃未満。
(2)ヒートシール部の外観良好性
A:ヒートシール部にシワが認められない。
B:ヒートシール部に使用可能な程度のシワが認められる。
C:ヒートシール部に使用不可能な程度のシワが認められる。
【0114】
<バリア加工適性(加工安定性)>
ガスバリア層形成後の基材フィルムを目視で確認し、下記の評価基準に基づいてバリア加工適性を評価した。
A:基材フィルムの外観及び巻姿にシワが見られなかった。
B:基材フィルムの外観及び巻姿のいずれかにて軽微なシワが見られたが、基材フィルムとして使用可能な程度であった。
C:基材フィルムの外観及び巻姿のいずれかにて多数のシワが見られた。
【0115】
<ガスバリア性>
各例で得られた積層体を、酸素透過度測定装置(商品名OXTRAN-2/20、MOCON社製)を用いて、30℃、70%RHの雰囲気下において、JIS K 7126-2に準拠して酸素透過度(cm3/(m2・day・atm))を測定した。
【0116】
<ボイル処理後のガスバリア性>
各例で得られた積層体を15cm×10cmのサイズに2枚切り出し、切り出した2枚の積層体を、互いのシーラント層が対向するように重ねて、パウチ状に三辺インパルスシールした。パウチ内に内容物として150mlの水を入れ、残り一辺をインパルスシールして、四辺がシールされたパウチ(包装袋)を作製した。作製したパウチをボイル処理装置にて95℃で30分間ボイル処理を行った。ボイル処理後、パウチを開封して内容物を除去し、十分に乾燥させた後、上述した方法でボイル処理後のパウチの酸素透過度を測定した。
【0117】
<密着性>
各例で得られた積層体から15mm幅の短冊状試験片を切り出し、JIS Z1707に準拠して、オリエンテック社製のテンシロン万能試験機RTC-1250を用いて、基材フィルムとシーラント層とのラミネート強度を測定した。測定は、T型剥離にて剥離速度300mm/minの条件で行った。
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
10,50,60…基材フィルム、11,51,61…表層、12,52,62…中間層、13,53,63…裏層、20…ガスバリア層、21…無機酸化物層、22…ガスバリア性被覆層、30…接着剤層、40…シーラント層、100,200,300…積層体。