(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176287
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】電力変換装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241212BHJP
【FI】
H02M7/48 S
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094739
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 椋太
(72)【発明者】
【氏名】ラクスマン マハルジャン
(72)【発明者】
【氏名】田重田 稔久
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA01
5H770BA11
5H770CA01
5H770DA01
5H770DA24
5H770DA30
5H770DA41
(57)【要約】
【課題】絶縁型双方向DC/DCコンバータをそれぞれ有する複数の変換セルを備える電力変換装置全体の電力変換効率を向上させること。
【解決手段】絶縁型DC/DCコンバータと、直流リンクと、前記コンバータに前記直流リンクを介して接続されたインバータとをそれぞれ有し、前記インバータの交流出力端を介して直列に接続された複数の変換セルと、前記複数の変換セルを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記複数の変換セルの総伝送電力が所定の電力よりも低いとき、前記複数の変換セルの各々の伝送電力が不均等になるように前記インバータを制御する、電力変換装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁型DC/DCコンバータと、直流リンクと、前記コンバータに前記直流リンクを介して接続されたインバータとをそれぞれ有し、前記インバータの交流出力端を介して直列に接続された複数の変換セルと、
前記複数の変換セルを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記複数の変換セルの総伝送電力が所定の電力よりも低いとき、前記複数の変換セルの各々の伝送電力が不均等になるように前記インバータを制御する、電力変換装置。
【請求項2】
前記複数の変換セルの個数をN,1台の前記コンバータの電力変換効率が所定値以上となるための伝送電力の最小値をPthとするとき、
前記所定の電力は、N×Pthである、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記総伝送電力をP、nを1から(N-1)までの整数とするとき、
前記制御装置は、(N-n)Pth≦P<(N-n+1)Pthのとき、1台目から(N-n)台目までの前記インバータの出力電圧をV*・cosφ/(N-n)に調整し、(N-n+1)台目からN台目までの前記インバータの出力電圧をV*・sinφ/nに調整する、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御装置は、P<Pthのとき、1台目の前記インバータの出力電圧をV*・cosφに調整し、2台目からN台目までの前記インバータの出力電圧を「V*・sinφ/(N-1)」に調整する、請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記総伝送電力が前記所定の電力よりも高いとき、前記複数の変換セルの各々の伝送電力が均等になるように前記インバータを制御する、請求項1から4のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
絶縁型DC/DCコンバータと、直流リンクと、前記コンバータに前記直流リンクを介して接続されたインバータとをそれぞれ有し、前記インバータの交流出力端を介して直列に接続された複数の変換セルを備える電力変換装置の制御方法であって、
前記複数の変換セルの総伝送電力が所定の電力よりも低いとき、前記複数の変換セルの各々の伝送電力が不均等になるように前記インバータを制御する、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力変換装置の一つとして、SST(Solid State Transformer)が知られている。SSTは、高周波トランスを搭載した絶縁型双方向DC/DCコンバータと、そのDC/DCコンバータの一方の直流側に接続されたインバータとをそれぞれ有する複数のセルを備える(例えば、非特許文献1参照)。各セルの直流出力端は、直流バスに並列に接続されている。SSTは、各セルの交流出力端が直列に接続されることで、昇圧トランスレスで高圧系統に連系できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Voltage and Power Balance Control for a Cascaded H-Bridge Converter-Based Solid-State Transformer (IEEE Transactions on Power Electronics, Vol.28, No.4, pp.1523-1532)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
絶縁型双方向DC/DCコンバータは、伝送電力が定格電力に対して小さくなりすぎると、電力変換効率が低下する特性を持つ。そのため、絶縁型双方向DC/DCコンバータをそれぞれ有する複数の変換セルを備える電力変換装置において、比較的小さな伝送電力を複数の変換セルで均等に分担すると、電力変換装置全体の電力変換効率が低下するおそれがある。
【0005】
本開示は、絶縁型双方向DC/DCコンバータをそれぞれ有する複数の変換セルを備える電力変換装置全体の電力変換効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様は、
絶縁型DC/DCコンバータと、直流リンクと、前記コンバータに前記直流リンクを介して接続されたインバータとをそれぞれ有し、前記インバータの交流出力端を介して直列に接続された複数の変換セルと、
前記複数の変換セルを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記複数の変換セルの総伝送電力が所定の電力よりも低いとき、前記複数の変換セルの各々の伝送電力が不均等になるように前記インバータを制御する、電力変換装置である。
【0007】
第2態様は、第1態様の電力変換装置であって、
前記複数の変換セルの個数をN,1台の前記コンバータの電力変換効率が所定値以上となるための伝送電力の最小値をPthとするとき、
前記所定の電力は、N×Pthである。
【0008】
第3態様は、第2態様の電力変換装置であって、
前記総伝送電力をP、nを1から(N-1)までの整数とするとき、
前記制御装置は、(N-n)Pth≦P<(N-n+1)Pthのとき、1台目から(N-n)台目までの前記インバータの出力電圧をV*・cosφ/(N-n)に調整し、(N-n+1)台目からN台目までの前記インバータの出力電圧をV*・sinφ/nに調整する。
【0009】
第4態様は、第3態様の電力変換装置であって、
前記制御装置は、P<Pthのとき、1台目の前記インバータの出力電圧をV*・cosφに調整し、2台目からN台目までの前記インバータの出力電圧を「V*・sinφ/(N-1)」に調整する。
【0010】
第5態様は、第1から第4のいずれか一の態様の電力変換装置であって、
前記制御装置は、前記総伝送電力が前記所定の電力よりも高いとき、前記複数の変換セルの各々の伝送電力が均等になるように前記インバータを制御する。
【0011】
第6態様は、
絶縁型DC/DCコンバータと、直流リンクと、前記コンバータに前記直流リンクを介して接続されたインバータとをそれぞれ有し、前記インバータの交流出力端を介して直列に接続された複数の変換セルを備える電力変換装置の制御方法であって、
前記複数の変換セルの総伝送電力が所定の電力よりも低いとき、前記複数の変換セルの各々の伝送電力が不均等になるように前記インバータを制御する、制御方法である。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、電力変換装置全体の電力変換効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態の電力変換装置の構成例を示す図である。
【
図2】絶縁型双方向DC/DCコンバータの電力変換効率と、一次側と二次側との間で伝送される電力との関係の一例を示す特性図である。
【
図3】一実施形態の電力変換装置から出力される電圧と電流のベクトル図である。
【
図4】制御装置の一例を示す機能ブロック図である。
【
図5】系統への伝送電力を、各変換セルが均等に負担する場合の、各変換セルの電圧ベクトル図である。
【
図6】系統への伝送電力を、一部の変換セルで負担する場合の、各変換セルの電圧ベクトル図である。
【
図7】系統への伝送電力を、一つの変換セルのみで負担する場合の、各変換セルの電圧ベクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態について説明する。なお、"DC","AC"は、それぞれ、"Direct Current","Alternative Current"の略語である。
【0015】
図1は、一実施形態の電力変換装置の構成例を示す図である。
図1に示す電力変換装置1は、3直列の変換セルを備えるSSTである。直流バス2は、電力変換装置1の直流出力端に接続される。電力変換装置1は、直流バス2の直流を交流に変換して出力する。電力変換装置1の交流出力端は、連系リアクトル3を介して、系統4に接続される。
【0016】
電力変換装置1は、複数の変換セルU1,U2,U3と、これらの変換セルのそれぞれの電力変換動作を制御する制御装置20と、を備える。なお、変換セルの個数は、三つに限られず、二つ又は四つ以上の数でもよい。また、複数の変換セルは、同一構成でよい。
図1は、代表して、変換セルU1の構成を明示している。
【0017】
複数の変換セルU1,U2,U3は、それぞれ、直流出力端r,s、絶縁型双方向DC/DCコンバータ10、直流リンク11、インバータ12及び交流出力端p,qを有する。
【0018】
直流出力端r,sは、絶縁型双方向DC/DCコンバータ10の一方の直流出力端に接続される出力端子である。高電位側の直流出力端rは、直流バス2の高電位側の第1バス2pに接続され、低電位側の直流出力端sは、直流バス2の低電位側の第2バス2nに接続される。
【0019】
交流出力端p,qは、例えば、インバータ12の交流出力端に接続される出力端子である。
【0020】
複数の変換セルU1,U2,U3は、交流出力端p,qをそれぞれ有し、交流出力端p,qを介して直列に接続される。複数の変換セルU1,U2,U3は、それぞれ、自身の第1交流出力端pが自身に隣接する一方の変換セルの第2交流出力端qに接続され、自身の第2交流出力端qが自身に隣接する他方の変換セルの第1交流出力端pに接続される。交流出力端p,qを介して直列に接続される複数の変換セルのうち、最も高電位側に位置する変換セル(この例では、変換セルU1)の第1交流出力端pと、最も低電位側の変換セル(この例では、変換セルU3)の第2交流出力端qは、連系リアクトル3を介して系統4に接続される。
【0021】
絶縁型双方向DC/DCコンバータ10は、直流バス2から入力される直流電圧を昇圧又は降圧して、直流リンク11が所定の直流電圧Vdcで一定となるように制御する。
【0022】
例えば、絶縁型双方向DC/DCコンバータ10は、トランス13の一次側に設けられた一次側フルブリッジ回路14とトランス13の二次側に設けられた二次側フルブリッジ回路15とを有するDAB(Dual Active Bridge)コンバータである。DABコンバータは、トランス13の漏れインダクタンス又はトランス13に直列に接続された外付けリアクトルに電圧が印加されることで、一次側と二次側との間で電力を伝送する。
【0023】
図2は、絶縁型双方向DC/DCコンバータの電力変換効率と、一次側と二次側との間で伝送される電力Paとの関係の一例を示す特性図である。絶縁型双方向DC/DCコンバータ10は、一次側と二次側との間で伝送される電力Paが所定の電力値Pthを超える場合、スイッチング損失を低減可能なZVS(Zero Voltage Switching)を適用できるので、高い電力変換効率で運転できる。Prateは、絶縁型双方向DC/DCコンバータ10の定格電力値を表す。
【0024】
図1において、インバータ12は、絶縁型双方向DC/DCコンバータ10に直流リンク11を介して接続された回路である。インバータ12は、直流リンク11の直流を交流に変換して交流出力端p,qに出力し、又は、交流出力端p,qから入力される交流を直流に変換して直流リンク11に出力する。インバータ12は、PWM(Pulse Width Modulation)と呼ばれる方式によって、交流の電流Iとの間に位相差θを持つ交流の電圧Vを任意の振幅で出力できる。
【0025】
インバータ12は、複数のスイッチQ1,Q2,Q3,Q4を含むブリッジ回路を有する。スイッチQ1,Q2,Q3,Q4として、例えば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体スイッチング素子が挙げられる。
【0026】
制御装置20は、電力変換装置1の各相の複数の変換セルを制御する。制御装置20は、例えば、メモリとプロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit))を有し、制御装置20の各機能は、メモリに記憶されたプログラムによって、プロセッサが動作することにより実現される。制御装置20の各機能は、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)によって実現されてもよい。
【0027】
制御装置20は、直流リンク11の電圧が一定の直流電圧Vdcとなるように絶縁型双方向DC/DCコンバータ10を制御する。一方、制御装置20は、以下の制御方法によってインバータ12を制御する。
【0028】
図3は、一実施形態の電力変換装置から出力される電圧Vと電流Iのベクトル図である。電力変換装置1が系統4に伝送する電力Pは、電力変換装置1から出力される電圧Vと、電力変換装置1から系統4に出力される電流Iと、電圧Vと電流Iとの位相差φとを用いて、
P=V・I・cosφ
で決まる。電力Pは、複数の変換セルU1,U2,U3が系統4に伝送する総伝送電力を表す。電圧Vsは、系統4の電圧を表す。電圧VLは、連系リアクトル3の両端電圧を表す。電圧Vは、複数の変換セルU1,U2,U3の各々のインバータ12から出力される電圧の和に相当する(V=V1+V2+V3)。
【0029】
図4は、制御装置の一例を示す機能ブロック図である。制御装置20は、電流制御部21、電圧指令部22及び信号生成部23を有する。
【0030】
電流制御部21は、比例制御又は比例積分制御などのフィードバック制御によって、電力変換装置1から系統4に流れる電流Iを所定の電流指令値I*に収束させる電圧指令V*を生成する。電圧指令V*は、電力変換装置1から出力される電圧Vの指令値である。
【0031】
電圧指令部22は、電圧指令V*を、複数の変換セルU1,U2,U3の各々の個別電圧指令V1
*,V2
*,V3
*に分配する。個別電圧指令V1
*は、変換セルU1のインバータ12から出力される電圧V1の指令値である。個別電圧指令V2
*は、変換セルU2のインバータ12から出力される電圧V2の指令値である。個別電圧指令V3
*は、変換セルU3のインバータ12から出力される電圧V3の指令値である。
【0032】
信号生成部23は、複数の変換セルU1,U2,U3の各々の交流出力端p,qに出力される電圧V1,V2,V3が個別電圧指令V1
*,V2
*,V3
*にそれぞれ一致するように、複数の変換セルU1,U2,U3の各々のインバータ12のゲート信号を出力する。各々のインバータ12内のスイッチQ1,Q2,Q3,Q4は、信号生成部23により生成されるゲート信号に従ってオン又はオフする。
【0033】
【表1】
表1は、電圧指令部22による個別電圧指令の演算方法を示す。演算方法は、下記の三つのケースに分類される。なお、以下の説明では、絶縁型双方向DC/DCコンバータ10をDABと略称する場合がある。
【0034】
ケースIは、系統4に伝送する電力PがN×Pth以上の場合(P≧N×Pth)の個別電圧指令の演算を示す。ここで、Pthは、1台の絶縁型双方向DC/DCコンバータ10が、電力変換効率が所定値以上の高効率運転となるための伝送電力の最小値である。Nは、電力変換装置1が持つ変換セルの個数であり、ここでは、N=3である。θnは、Vn
*と電流指令値I*との位相差である。nは、2からNまでの整数を表す。
【0035】
ケースIの条件が成立する場合、電圧指令部22は、1台目から(N-1)台目の変換セルについては、各々の個別電圧指令を「V*/N」に調整し、各々の位相差θをφに調整する。このように、制御装置20は、電力PがN×Pth以上のケースIでは、複数の変換セルU1,U2,U3の各々の伝送電力が均等になるように、変換セルU1,U2,U3の各々のインバータ12を制御する。
【0036】
図5は、ケースIにおける電圧指令V
*と、個別電圧指令V
1
*,V
2
*,V
3
*のベクトル図を示す。ケースIでは、複数の変換セルU1,U2,U3が電力Pを均等に負担する個別電圧指令が演算される。電圧指令部22は、変換セルU1,U2,U3の全てについて、各々の個別電圧指令V
1
*,V
2
*,V
3
*を「V
*/3」に調整し、各々の位相差θ
1,θ
2,θ
3をφに調整する。
【0037】
ケースIIは、電力PがPth以上N×Pth未満の場合(Pth≦P<N×Pth)の個別電圧指令の演算を示す。ケースIIでは、電圧指令部22は、絶縁型双方向DC/DCコンバータの最大数が、高効率運転となる伝送電力条件を負担するように、電力Pを各変換セルに不均等に負担させる個別電圧指令を演算する。つまり、ケースIIでは、電圧指令部22は、高効率運転させるDAB(例えば、ZVSさせるDAB)の台数が最大となるようにN台の変換セルの各々の伝送電力を調整する。
【0038】
ケースIIの条件1『(N-1)Pth≦P<N・Pth』は、電力PをN台の変換セルで均等に分担するとN台のDAB全ては高効率運転できないが、電力Pを(N-1)台の変換セルで均等に分担すると(N-1)台のDAB全ては高効率運転できることを示す。ケースIIの条件1が成立する場合、電圧指令部22は、1台目から(N-1)台目の変換セルについては、各々の個別電圧指令を「V*・cosφ/(N-1)」に調整し、各々の位相差θを零に調整する。一方、ケースIIの条件1が成立する場合、電圧指令部22は、N台目の変換セルについては、個別電圧指令を「V*・sinφ」に調整し、位相差θをπ/2に調整する。この場合、制御装置20は、1台目から(N-1)台目のDABをZVSで動作させることで、電力変換装置1全体の電力変換効率が向上する。
【0039】
ケースIIの条件2『(N-2)Pth≦P<(N-1)Pth』は、電力Pを(N-1)台の変換セルで均等に分担すると(N-1)台のDAB全ては高効率運転できないが、電力Pを(N-2)台の変換セルで均等に分担すると(N-2)台のDAB全ては高効率運転できることを示す。ケースIIの条件2が成立する場合、電圧指令部22は、1台目から(N-2)台目の変換セルについては、各々の個別電圧指令を「V*・cosφ/(N-2)」に調整し、各々の位相差θを零に調整する。一方、ケースIIの条件2が成立する場合、電圧指令部22は、(N-1)台目とN台目の変換セルについては、各々の個別電圧指令を「V*・sinφ/2」に調整し、各々の位相差θをπ/2に調整する。この場合、制御装置20は、1台目から(N-2)台目のDABをZVSで動作させることで、電力変換装置1全体の電力変換効率が向上する。
【0040】
よって、ケースIIの条件は、『(N-n)Pth≦P<(N-n+1)Pth』と一般化できる(nは、1から(N-1)までの整数)。つまり、ケースIIの一般化条件が成立する場合、電圧指令部22は、1台目から(N-n)台目の変換セルについては、各々の個別電圧指令を「V*・cosφ/(N-n)」に調整し、各々の位相差θを零に調整する。一方、ケースIIの一般化条件が成立する場合、電圧指令部22は、(N-n+1)台目からN台目までの変換セルについては、各々の個別電圧指令を「V*・sinφ/n」に調整し、各々の位相差θをπ/2に調整する。この場合、制御装置20は、1台目から(N-n)台目のDABをZVSで動作させることで、電力変換装置1全体の電力変換効率が向上する。
【0041】
このように、制御装置20は、電力PがPth以上3×Pth未満のケースIIでは、複数の変換セルU1,U2,U3の各々の伝送電力が不均等になるように、変換セルU1,U2,U3の各々のインバータ12を制御する。
【0042】
図6は、ケースIIにおける電圧指令V
*と、個別電圧指令V
1
*,V
2
*,V
3
*のベクトル図を示す。ケースIIでは、複数の変換セルU1,U2,U3が電力Pを不均等に負担する個別電圧指令が演算される。電圧指令部22は、1台目と2台目の変換セルU1,U2については、各々の個別電圧指令V
1
*,V
2
*を「V
*・cosφ/2」に調整し、各々の位相差θ
1,θ
2を零に調整する。一方、電圧指令部22は、3台目の変換セルU3については、個別電圧指令V
3
*を「V
*・sinφ」に調整し、位相差θ
3をπ/2に調整する。
【0043】
ケースIIIは、電力PがPth未満の場合(P<Pth)の個別電力指令の演算を示す。ケースIIIでは、伝送する電力Pが小さく、どの変換セルも高効率運転できないため、電圧指令部22は、1台の変換セルが電力Pの全てを負担するように、個別電圧指令を演算する。つまり、ケースIIIの条件が成立する場合、電圧指令部22は、1台目の変換セルについて、個別電圧指令を「V*・cosφ」に調整し、位相差θを零に調整する。一方、ケースIIIの条件が成立する場合、電圧指令部22は、2台目からN台目までの変換セルについては、各々の個別電圧指令を「V*・sinφ/(N-1)」に調整し、各々の位相差θをπ/2に調整する。
【0044】
図7は、ケースIIIにおける電圧指令V
*と、個別電圧指令V
1
*,V
2
*,V
3
*のベクトル図を示す。ケースIIIでは、複数の変換セルU1,U2,U3が電力Pを不均等に負担する個別電圧指令が演算される。電圧指令部22は、1台目の変換セルU1について、個別電圧指令V
1
*を「V
*・cosφ」に調整し、位相差θ
1を零に調整する。一方、電圧指令部22は、2台目と3台目の変換セルU2,U3については、個別電圧指令V
2
*,V
3
*を「V
*・sinφ/2」に調整し、位相差θ
2,θ
3をπ/2に調整する。
【0045】
したがって、本開示の技術によれば、高効率運転となる伝送電力を負担する変換セルの台数が最大になるように、各変換セルが電力変換装置の総伝送電力を不均等に負担するので、電力変換装置全体の電力変換効率が向上する。
【0046】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0047】
例えば、絶縁型双方向DC/DCコンバータの一次側ブリッジ回路または二次側ブリッジ回路は、フルブリッジ回路に限られず、ハーフブリッジ回路でもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 電力変換装置
2 直流バス
3 連系リアクトル
4 系統
10 絶縁型双方向DC/DCコンバータ
11 直流リンク
12 インバータ
13 トランス
14 一次側フルブリッジ回路
15 二次側フルブリッジ回路
20 制御装置
21 電流制御部
22 電圧指令部
23 信号生成部
p,q 交流出力端
r,s 直流出力端