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特開2024-176294弾性波デバイス、フィルタ、およびマルチプレクサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176294
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタ、およびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/17 20060101AFI20241212BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20241212BHJP
   H03H 9/54 20060101ALI20241212BHJP
   H03H 9/70 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H9/25 C
H03H9/54 Z
H03H9/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094749
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦明
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇作
(72)【発明者】
【氏名】谷口 眞司
【テーマコード(参考)】
5J097
5J108
【Fターム(参考)】
5J097AA24
5J097BB15
5J097CC05
5J097EE08
5J097EE09
5J097KK01
5J097KK09
5J108AA07
5J108BB07
5J108BB08
5J108CC04
5J108DD01
5J108DD02
5J108DD06
5J108EE03
5J108EE05
5J108EE13
(57)【要約】
【課題】膜剥がれを抑制することが可能な弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波デバイス100は、基板10と、基板10上に設けられた圧電層14と、圧電層14の少なくとも一部を挟んで基板10上に設けられた下部電極12および上部電極16と、圧電層14を挟んで下部電極12と上部電極16とが重なる共振領域50において基板10と下部電極12との間に設けられ、高音響インピーダンス膜32と基板10の厚さ方向において中央領域34aを挟む1対の端部領域34bを有する低音響インピーダンス膜34とが交互に積層され、端部領域34bは中央領域34aよりフッ素およびホウ素の添加量が少ない酸化シリコン膜であり、中央領域34aはフッ素とホウ素が添加された酸化シリコン膜である音響反射膜30とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた圧電層と、
前記圧電層の少なくとも一部を挟んで前記基板上に設けられた1対の電極と、
前記圧電層を挟んで前記1対の電極が重なる共振領域において前記基板と前記1対の電極との間に設けられ、高音響インピーダンス膜と前記高音響インピーダンス膜より音響インピーダンスが低くかつ前記基板の厚さ方向において中央領域を挟む1対の端部領域を有する低音響インピーダンス膜とが交互に積層され、前記1対の端部領域は前記中央領域よりフッ素、ホウ素、塩素、テルル、ゲルマニウム、アンチモン、リン、亜鉛、砒素、タングステン、鉛、プラセオジム、イッテルビウム、ランタン、カルシウム、錫、ジスプロシウム、サマリウム、銅、ユウロピウム、ストロンチウム、バリウム、ナトリウム、ビスマス、インジウム、銀、カリウム、およびルビジウムのうちの少なくとも1種の元素の添加量が少ない酸化シリコン膜、または、窒化シリコン膜であり、前記中央領域は前記少なくとも1種の元素が添加された酸化シリコン膜である音響反射膜と、を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記中央領域は、フッ素および塩素の少なくとも一方の元素と、ホウ素、テルル、ゲルマニウム、アンチモン、リン、亜鉛、砒素、タングステン、鉛、プラセオジム、イッテルビウム、ランタン、カルシウム、錫、ジスプロシウム、サマリウム、銅、ユウロピウム、ストロンチウム、バリウム、ナトリウム、ビスマス、インジウム、銀、カリウム、およびルビジウムのうちの1種以上の元素と、が添加された酸化シリコン膜である、請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記中央領域は、フッ素とホウ素が添加された酸化シリコン膜である、請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記1対の端部領域は、他の元素が意図的には添加されていない酸化シリコン膜、または、窒化シリコン膜である、請求項3に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記中央領域における前記少なくとも1種の元素の添加濃度は、シリコン、酸素、および前記少なくとも1種の元素の合計を100原子%とした場合に10原子%以下である、請求項3または4に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記1対の端部領域それぞれの厚さは、前記中央領域の厚さより小さい、請求項5に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記1対の端部領域の合計の厚さは、前記共振領域における前記圧電層の厚さの0.16倍以下である、請求項6に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記1対の端部領域の合計の厚さは、前記中央領域と前記1対の端部領域の合計の厚さを100%とした場合に34%以下である、請求項6に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記1対の端部領域のうち一方の端部領域と他方の端部領域の平均厚さに対する前記一方の端部領域と前記他方の端部領域の厚さの差の割合は±10%以下である、請求項8に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記高音響インピーダンス膜は金属膜である、請求項9に記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
請求項1または2に記載の弾性波デバイスを含むフィルタ。
【請求項12】
請求項11に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタ、およびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末等の無線端末の高周波回路用のフィルタおよびデュプレクサとして、圧電薄膜共振器を用いたフィルタおよびデュプレクサが知られている。圧電薄膜共振器は、基板上に設けられた圧電層と、圧電層を挟んで基板上に設けられた下部電極および上部電極と、を備える。圧電層を挟み下部電極と上部電極が重なる領域が共振領域である。共振領域における基板と下部電極の間に音響インピーダンスの高い膜と低い膜とが交互に積層された音響反射膜を備える構成が知られている。低音響インピーダンス膜に酸化シリコン膜もしくはフッ素、炭素、またはホウ素が添加された酸化シリコン膜を用いることが知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
また、Si-O結合におけるOと置換するフッ素等が添加された酸化シリコン膜を温度補償層に用いることで、周波数温度係数等の温度依存性を小さくした弾性波デバイスが知られている(例えば特許文献2)。周波数温度係数等の温度依存性を小さくしつつ電気的な特性の劣化を抑制するために、Si-O結合の伸縮振動のピーク波数およびフッ素濃度を所定範囲内にすることが知られている(例えば特許文献3)。また、フッ素が添加された酸化シリコン膜は吸湿しやすいことが知られている(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/209152号
【特許文献2】国際公開第2012/029354号
【特許文献3】特開2020-129724号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H.Miyajima、外23名、「Challenge of low-k materials for 130, 90, 65 nm node interconnect technology and beyond」、IEDM、2004年、pp329-332
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
音響反射膜を備える弾性波デバイスにおいて、電気的な特性の劣化を抑制するために、低音響インピーダンス膜に他の元素が添加された酸化シリコン膜を用いることがある。しかしながら、この場合、低音響インピーダンス膜に膜剥がれが生じることがある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、膜剥がれを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた圧電層と、前記圧電層の少なくとも一部を挟んで前記基板上に設けられた1対の電極と、前記圧電層を挟んで前記1対の電極が重なる共振領域において前記基板と前記1対の電極との間に設けられ、高音響インピーダンス膜と前記高音響インピーダンス膜より音響インピーダンスが低くかつ前記基板の厚さ方向において中央領域を挟む1対の端部領域を有する低音響インピーダンス膜とが交互に積層され、前記1対の端部領域は前記中央領域よりフッ素、ホウ素、塩素、テルル、ゲルマニウム、アンチモン、リン、亜鉛、砒素、タングステン、鉛、プラセオジム、イッテルビウム、ランタン、カルシウム、錫、ジスプロシウム、サマリウム、銅、ユウロピウム、ストロンチウム、バリウム、ナトリウム、ビスマス、インジウム、銀、カリウム、およびルビジウムのうちの少なくとも1種の元素の添加量が少ない酸化シリコン膜、または、窒化シリコン膜であり、前記中央領域は前記少なくとも1種の元素が添加された酸化シリコン膜である音響反射膜と、を備える弾性波デバイスである。
【0009】
上記構成において、前記中央領域は、フッ素および塩素の少なくとも一方の元素と、ホウ素、テルル、ゲルマニウム、アンチモン、リン、亜鉛、砒素、タングステン、鉛、プラセオジム、イッテルビウム、ランタン、カルシウム、錫、ジスプロシウム、サマリウム、銅、ユウロピウム、ストロンチウム、バリウム、ナトリウム、ビスマス、インジウム、銀、カリウム、およびルビジウムのうちの1種以上の元素と、が添加された酸化シリコン膜である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記中央領域は、フッ素とホウ素が添加された酸化シリコン膜である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記1対の端部領域は、他の元素が意図的には添加されていない酸化シリコン膜、または、窒化シリコン膜である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記中央領域における前記少なくとも1種の元素の添加濃度は、シリコン、酸素、および前記少なくとも1種の元素の合計を100原子%とした場合に10原子%以下である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記1対の端部領域それぞれの厚さは、前記中央領域の厚さより小さい構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記1対の端部領域の合計の厚さは、前記共振領域における前記圧電層の厚さの0.16倍以下である構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記1対の端部領域の合計の厚さは、前記中央領域と前記1対の端部領域の合計の厚さを100%とした場合に34%以下である構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記1対の端部領域のうち一方の端部領域と他方の端部領域の平均厚さに対する前記一方の端部領域と前記他方の端部領域の厚さの差の割合は±10%以下である構成とすることができる。
【0017】
上記構成において、前記高音響インピーダンス膜は金属膜である構成とすることができる。
【0018】
本発明は、上記に記載の弾性波デバイスを含むフィルタである。
【0019】
本発明は、上記に記載のフィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、膜剥がれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図、図1(b)は、図1(a)のA-A断面図である。
図2図2(a)から図2(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図3図3(a)は、比較例に係る弾性波デバイスの平面図、図3(b)は、図3(a)のA-A断面図である。
図4図4は、シミュレーションに用いたモデルAの断面図である。
図5図5は、モデルAにおける低音響インピーダンス膜の厚さに対するΔYのシミュレーション結果である。
図6図6は、シミュレーションに用いたモデルBの断面図である。
図7図7は、モデルBにおける低音響インピーダンス膜の端部領域の厚さに対するΔYのシミュレーション結果である。
図8図8(a)および図8(b)は、図7における横軸を異ならせて図示したΔYのシミュレーション結果である。
図9図9(a)は、モデルBにおける低音響インピーダンス膜の端部領域の厚さに対する共振周波数でのアドミッタンス|Y|のシミュレーション結果、図9(b)は、端部領域の厚さに対する反共振周波数でのアドミッタンス|Y|のシミュレーション結果である。
図10図10(a)および図10(b)は、モデルBにおける周波数に対するアドミッタンス|Y|のシミュレーション結果である。
図11図11は、添加元素の濃度に対する弾性率の測定結果である。
図12図12は、サンプルA、BのFTIRスペクトルを示す図である。
図13図13は、サンプルA、CのFTIRスペクトルを示す図である。
図14図14は、サンプルA、D~FのFTIRスペクトルを示す図である。
図15図15は、サンプルA~CのFTIRスペクトルから算出したSi-O結合の伸縮振動ω4のピークにおける積分強度を示す図である。
図16図16は、添加元素の濃度に対するSi-O結合の伸縮振動ω4のピークにおける積分強度を示す図である。
図17図17は、実施例2に係るフィルタの回路図である。
図18図18は、実施例3に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【実施例0023】
図1(a)は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図、図1(b)は、図1(a)のA-A断面図である。図1(a)では主に基板10、下部電極12、および上部電極16を図示している。基板10の平面方向において互いに直交する方向をX方向およびY方向とし、基板10の厚さ方向をZ方向とする。実施例1に係る弾性波デバイス100は、下部電極12と圧電層14と上部電極16とを備える圧電薄膜共振器である。
【0024】
図1(a)および図1(b)に示すように、基板10上に音響反射膜30が設けられている。基板10は例えばシリコン基板である。基板10の厚さは例えば100μm~1000μmである。音響反射膜30上に下部電極12が設けられている。下部電極12は例えば下層12aと上層12bを含む。下層12aは例えばクロム(Cr)膜であり、上層12bは例えばルテニウム(Ru)膜である。下部電極12の厚さは例えば30nm~400nmである。
【0025】
音響反射膜30および下部電極12上に圧電層14が設けられている。圧電層14は、例えば(002)方向を主軸とする窒化アルミニウムを主成分とする窒化アルミニウム膜である。圧電層14の厚さは例えば800nm~1500nmである。ある膜がある元素を主成分とするには、ある膜に主成分以外の意図的な、または、意図しない不純物が含まれることを許容する。ある膜においてある元素が主成分である場合、ある元素の濃度は例えば50原子%以上であり、例えば80原子%以上である。窒化アルミニウム等のように、2つの元素を主成分とする場合では、アルミニウムの濃度と窒素の濃度の合計が例えば50原子%以上であり、例えば80原子%以上であり、アルミニウムの濃度および窒素の濃度は各々例えば10原子%以上である。
【0026】
圧電層14上に上部電極16が設けられている。上部電極16は、圧電層14を挟んで下部電極12と対向する領域を有するように圧電層14上に設けられている。圧電層14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16(1対の電極)が平面視において重なる領域が共振領域50である。共振領域50は、例えば平面視において楕円形状を有し、例えば厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。上部電極16は、例えば下層16aと上層16bを含む。下層16aは例えばルテニウム膜であり、上層16bは例えばクロム膜である。上部電極16の厚さは例えば30nm~400nmである。
【0027】
圧電層14および上部電極16上に付加膜24が設けられている。付加膜24は、共振領域50の少なくとも一部を覆って設けられている。付加膜24は、例えば酸化シリコン膜であり、周波数を調整する役割を担っていてもよい。付加膜24は保護膜として機能してもよい。共振領域50における圧電層14の厚さをT1とする。共振領域50で共振される例えば厚み縦振動モードの弾性波の波長λは、付加膜24により微調整されるが、概ね圧電層14の厚さT1の2倍である。
【0028】
音響反射膜30は、1または複数の高音響インピーダンス膜32と、高音響インピーダンス膜32より音響インピーダンスが低い1または複数の低音響インピーダンス膜34と、がZ方向に交互に積層されている。高音響インピーダンス膜32と低音響インピーダンス膜34の膜厚は例えばそれぞれλ/4程度である。これにより、音響反射膜30は弾性波を反射する。高音響インピーダンス膜32と低音響インピーダンス膜34の積層数は任意に設定できる。
【0029】
音響反射膜30は、平面視において共振領域50と重なり共振領域50より大きい。音響反射膜30を平面視において共振領域50より大きくするのは、共振領域50から斜め方向に漏れた弾性波を音響反射膜30で反射させて、特性の劣化を抑制するためである。なお、共振領域50は、平面視において、楕円形状の場合に限られず、四角形または五角形以上の多角形状の場合でもよい。
【0030】
高音響インピーダンス膜32は、例えばタングステン膜である。なお、高音響インピーダンス膜32は、金属膜に限られず、例えば窒化アルミニウム膜等の絶縁膜の場合でもよい。低音響インピーダンス膜34は、Z方向において、中央に位置する中央領域34aと、中央領域34aを挟んで位置する1対の端部領域34bと、を有する。高音響インピーダンス膜32と低音響インピーダンス膜34がZ方向に交互に積層されているため、低音響インピーダンス膜34の端部領域34bが高音響インピーダンス膜32に接触している。また、低音響インピーダンス膜34の端部領域34bは、基板10、並びに、下部電極12および圧電層14にも接触している。高音響インピーダンス膜32の側方には埋込膜36が設けられている。埋込膜36は例えば他の元素が意図的には添加されていない酸化シリコン膜である。なお、埋込膜36は、他の元素が意図的に添加された酸化シリコン膜または窒化シリコン膜等の絶縁膜であってもよい。
【0031】
中央領域34aは、例えば、フッ素(F)、または、フッ素とホウ素(B)が意図的に添加された酸化シリコン膜である。端部領域34bは、フッ素およびホウ素の添加量が中央領域34aより少なくかつフッ素とホウ素を除いてシリコン(Si)と酸素(O)以外の他の元素が意図的には添加されていない酸化シリコン膜である。端部領域34bは、シリコンと酸素以外の他の元素が意図的には添加されていない酸化シリコン(SiO)膜であってもよい。他の元素が意図的には添加されていない酸化シリコン膜とは、他の元素の濃度が1.0原子%未満の場合であり、シリコンの濃度と酸素の濃度の合計が99.0原子%以上の場合である。反対に、他の元素が意図的に添加されている酸化シリコン膜とは、他の元素の濃度が1.0原子%以上の場合である。実施例1では、端部領域34bは、他の元素が意図的には添加されていない酸化シリコン(SiO)膜である場合を例に示す。
【0032】
端部領域34bの厚さT3は、例えば中央領域34aの厚さT2より小さい。厚さT3は例えば0.04λ以下である。中央領域34aの厚さT2と1対の端部領域34bの厚さT3の合計(T2+2×T3)を100%とした場合、厚さT3は例えば17%以下である。
【0033】
基板10は、シリコン基板以外に、例えばサファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板、またはガリウム砒素基板等の絶縁基板または半導体基板を用いてもよい。
【0034】
下部電極12および上部電極16は、ルテニウムおよびクロム以外に、例えばアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いてもよい。
【0035】
圧電層14は、窒化アルミニウム(AlN)以外に、例えば酸化亜鉛(ZnO)、窒化ガリウム(GaN)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、またはチタン酸鉛(PbTiO)等を用いてもよい。これらを用いた場合でも、圧電層14には主に厚み縦振動モードの弾性波が励振される。圧電層14には、例えば単結晶ニオブ酸リチウムまたは単結晶タンタル酸リチウムを用いてもよい。この場合、圧電層14には弾性波の変位がZ方向にほぼ直交する方向(すなわち厚さに対して歪み方向)に振動する弾性波が励振される。この振動を厚みすべり振動という。
【0036】
また、圧電層14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のために他の元素を含んでもよい。添加元素として、例えばスカンジウム(Sc)、2族元素と4族元素の2つの元素、または、2族元素と5族元素の2つの元素を用いることにより、圧電層14の圧電性が向上する。このため、実効的電気機械結合係数を向上できる。2族元素は、例えばカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、または亜鉛(Zn)である。4族元素は、例えばチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、またはハフニウム(Hf)である。5族元素は、例えばタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、またはバナジウム(V)である。さらに、圧電層14は、窒化アルミニウムを主成分とし、フッ素またはホウ素を含んでもよい。
【0037】
[製造方法]
図2(a)から図2(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。図2(a)に示すように、基板10の上面に音響反射膜30を形成する。音響反射膜30は例えば以下のように形成する。まず、基板10の上面に、シリコンの原料であるテトラエトキシシラン(TEOS)とOガスを用いたCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって酸化シリコン(SiO)膜からなる端部領域34bを形成する。次いで、TEOSとOガスにフッ素の原料であるF、C、C等のガスを加えてフッ素が添加された酸化シリコン(SiOF)膜からなる中央領域34aを形成する。または、TEOSとOガスに、フッ素の原料であるF、C、C等のガスとホウ素の原料であるトリエチルボレート(TEB)を加えて、フッ素とホウ素が添加された酸化シリコン(SiOFB)膜からなる中央領域34aを形成する。次いで、TEOSとOガスを用いて酸化シリコン(SiO)膜からなる端部領域34bを形成する。これにより、中央領域34aと中央領域34aを挟む1対の端部領域34bとを有する低音響インピーダンス膜34が形成される。次いで、スパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて高音響インピーダンス膜32を成膜した後、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて高音響インピーダンス膜32を所望の形状にパターニングする。次いで、スパッタリング法またはCVD法を用いて酸化シリコン(SiO)膜からなる埋込膜36を成膜した後、例えばCMP(Chemical Mechanical Polish)法を用いて高音響インピーダンス膜32の上面が露出するまで埋込膜36を研磨する。このような工程を繰り返すことで、高音響インピーダンス膜32と低音響インピーダンス膜34が交互に積層された音響反射膜30を形成する。
【0038】
図2(b)に示すように、音響反射膜30上に下部電極12として下層12aおよび上層12bを形成する。下部電極12は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて成膜した後、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて所望の形状にパターニングすることで形成する。下部電極12はリフトオフ法により形成してもよい。次いで、音響反射膜30および下部電極12上に圧電層14を成膜する。圧電層14は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて成膜する。
【0039】
図2(c)に示すように、圧電層14上に上部電極16として下層16aおよび上層16bを形成する。上部電極16は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて成膜した後、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて所望の形状にパターニングすることで形成する。上部電極16はリフトオフ法により形成してもよい。次いで、圧電層14上に上部電極16を覆う付加膜24を形成する。付加膜24は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用い成膜した後、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて所望の形状にパターニングすることで形成する。次いで、圧電層14をフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて所望の形状にパターニングする。以上により、実施例1に係る弾性波デバイスが形成される。
【0040】
[比較例]
図3(a)は、比較例に係る弾性波デバイスの平面図、図3(b)は、図3(a)のA-A断面図である。図3(a)および図3(b)に示すように、比較例に係る弾性波デバイス500では、音響反射膜30を構成する低音響インピーダンス膜134は3層構造をしていない。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0041】
[シミュレーション1]
図4は、シミュレーションに用いたモデルAの断面図である。図4に示すように、モデルAは、比較例に係る弾性波デバイスに相当し、基板10上に高音響インピーダンス膜32と低音響インピーダンス膜134が交互に積層された音響反射膜30を備える。高音響インピーダンス膜32と低音響インピーダンス膜134は、XY平面の面方向において基板10全体に広がって設けられている。音響反射膜30上に下部電極12が設けられている。音響反射膜30および下部電極12上に圧電層14が設けられている。圧電層14を挟んで下部電極12と対向する共振領域50を有するように、圧電層14上に上部電極16が設けられている。
【0042】
モデルAに対して、低音響インピーダンス膜134の材料が異なるときのΔYについてシミュレーションをした。ΔYは、アドミッタンス|Y|の周波数特性のシミュレーション結果から、共振周波数frでのアドミッタンス|Y|の絶対値と反共振周波数faでのアドミッタンス|Y|の絶対値との差を求めることで算出した。シミュレーション条件は以下である。なお、フッ素およびホウ素の濃度は、シリコンと、酸素と、フッ素およびホウ素と、の合計を100原子%とした場合におけるフッ素およびホウ素の濃度を示している(以下においても同じ)。
基板10:シリコン基板
高音響インピーダンス膜32:厚さ520nmのタングステン(W)膜
低音響インピーダンス膜134:他の元素が添加されていない酸化シリコン(SiO)膜、フッ素が5.4原子%添加された酸化シリコン(SiOF)膜、またはフッ素が3.9原子%とホウ素が7.4原子%添加された酸化シリコン(SiOFB)膜
下部電極12の下層12a:厚さ55nmのクロム(Cr)膜
下部電極12の上層12b:厚さ120nmのルテニウム(Ru)膜
圧電層14:厚さ690nmの窒化アルミニウム(AlN)膜
上部電極16の下層16a:厚さ150nmのルテニウム(Ru)膜
上部電極16の上層16b:厚さ20nmのクロム(Cr)膜
弾性波の波長λ:1203nm~1689nm
【0043】
図5は、モデルAにおける低音響インピーダンス膜の厚さに対するΔYのシミュレーション結果である。図5に示すように、低音響インピーダンス膜134にフッ素が添加された酸化シリコン(SiOF)膜を用いた場合、他の元素が添加されていない酸化シリコン(SiO)膜を用いた場合に比べて、ΔYが大きくなった。低音響インピーダンス膜134にフッ素とホウ素が添加された酸化シリコン(SiOFB)膜を用いた場合、フッ素が添加された酸化シリコン(SiOF)膜を用いた場合に比べて、ΔYが大きくなった。
【0044】
表1は、低音響インピーダンス膜134に用いたSiO、SiOF、およびSiOFBの物性値と、高音響インピーダンス膜32に用いたWの物性値と、を示す表である。
【表1】
表1に示すように、SiOFはSiOに比べて音響インピーダンスが低く、SiOFBはSiOFに比べて音響インピーダンスが低い。したがって、図5のシミュレーション結果から、低音響インピーダンス膜134の音響インピーダンスが低いほどΔYは改善することが言える。低音響インピーダンス膜134の音響インピーダンスが低いほどΔYが改善するのは、低音響インピーダンス膜134の音響インピーダンスが低くなるほど高音響インピーダンス膜32との間の音響インピーダンスの差が大きくなるため、音響反射膜30による弾性波の反射率が向上したためであると考えられる。
【0045】
このように、低音響インピーダンス膜134にフッ素が添加された酸化シリコン(SiOF)膜またはフッ素とホウ素が添加された酸化シリコン(SiOFB)膜を用いることで、弾性波デバイスの共振特性を向上させることができる。しかしながら、シリコンと酸素以外の他の元素が添加された酸化シリコン膜は吸湿し易い性質を有する。このため、SiOF膜またはSiOFB膜を低音響インピーダンス膜134に用いた場合、低音響インピーダンス膜134に膜剥がれが生じる場合がある。例えば、音響反射膜30は、低音響インピーダンス膜134を成膜した後、成膜装置から取り出し別の成膜装置に入れて高音響インピーダンス膜32を成膜することで形成されるため、装置間の移動の際に低音響インピーダンス膜134が大気に曝されて吸湿することがある。これにより、例えば低音響インピーダンス膜134と高音響インピーダンス膜32との間で膜剥がれが生じることがある。
【0046】
そこで、実施例1では、フッ素、または、フッ素とホウ素が添加された酸化シリコン膜である中央領域34aを挟んで、フッ素およびホウ素の添加量が中央領域34aより少ない酸化シリコン膜である1対の端部領域34bを設けている。中央領域34aと端部領域34bは1つの成膜装置で連続して成膜できるため、中央領域34aが大気に曝されることが抑制されることから、中央領域34aの吸湿が抑制される。端部領域34bは、フッ素およびホウ素の添加量が中央領域34aより少ない酸化シリコン膜であることから、中央領域34aより吸湿し難い性質となるため大気に曝されても吸湿し難い。よって、低音響インピーダンス膜34の吸湿が抑制されて膜剥がれが抑制される。
【0047】
[シミュレーション2]
図6は、シミュレーションに用いたモデルBの断面図である。図6に示すように、モデルBは、実施例1に係る弾性波デバイスに相当し、基板10上に高音響インピーダンス膜32と低音響インピーダンス膜34とが交互に積層された音響反射膜30を備える。高音響インピーダンス膜32と低音響インピーダンス膜34は、XY平面の面方向において基板10全体に広がって設けられている。音響反射膜30上に下部電極12が設けられている。音響反射膜30および下部電極12上に圧電層14が設けられている。圧電層14を挟んで下部電極12と対向する共振領域50を有するように、圧電層14上に上部電極16が設けられている。
【0048】
モデルBに対して、中央領域34aと1対の端部領域34bの厚さの合計(T2+2×T3)は一定にしつつ、中央領域34aおよび端部領域34bそれぞれの厚さを異ならせたときのΔYについてシミュレーションをした。シミュレーション条件は以下である。
基板10:シリコン基板
高音響インピーダンス膜32:厚さが520nmのタングステン(W)膜
低音響インピーダンス膜34:厚さ(T2+2×T3)が330nm
低音響インピーダンス膜34の中央領域34a:フッ素が3.9原子%とホウ素が7.4原子%添加された酸化シリコン(SiOFB)膜
低音響インピーダンス膜34の端部領域34b:他の元素が添加されていない酸化シリコン(SiO)膜
下部電極12の下層12a:厚さ55nmのクロム(Cr)膜
下部電極12の上層12b:厚さ120nmのルテニウム(Ru)膜
圧電層14:厚さ690nmの窒化アルミニウム(AlN)膜
上部電極16の下層16a:厚さ150nmのルテニウム(Ru)膜
上部電極16の上層16b:厚さ20nmのクロム(Cr)膜
弾性波の波長λ:1311nm~1331nm
【0049】
図7は、モデルBにおける低音響インピーダンス膜の端部領域の厚さに対するΔYのシミュレーション結果である。図7において、端部領域34bの厚さT3が0nmのときは、低音響インピーダンス膜34が中央領域34aのSiOFB膜のみで形成されている場合である。端部領域34bの厚さT3が165nmのときは、低音響インピーダンス膜34が端部領域34bのSiO膜のみで形成されている場合である。図7中の破線は、低音響インピーダンス膜34がSiO膜のみで形成されているときのΔYである。
【0050】
図7に示すように、端部領域34bの厚さT3が20nm以下の場合では、低音響インピーダンス膜34がSiOFB膜のみで形成されている場合(厚さT3が0nmの場合)と比べて、ΔYは同程度の大きさとなっている。端部領域34bの厚さT3が70nmまでは厚さT3が大きくなるに連れてΔYは小さくなっている。これは、厚さT3が大きくなることはSiOFB膜である中央領域34aの厚さT2が小さくなることに等しいことから、低音響インピーダンス膜34全体としての音響インピーダンスが高くなることでΔYが小さくなったと考えられる。厚さT3が70nmまではΔYが小さくなっていくが、厚さT3が55nm以下の場合では、低音響インピーダンス膜34がSiO膜のみで形成されている場合に比べて、ΔYは大きくなっている。したがって、端部領域34bの厚さT3を55nm以下とすることで、低音響インピーダンス膜34の吸湿による膜剥がれを抑制しつつ、ΔYを改善することができる。ΔYの改善の点から、端部領域34bの厚さT3は、50nm以下が好ましく、40nm以下がより好ましく、30nm以下が更に好ましい。
【0051】
端部領域34bの厚さT3が70nmを超えると厚さT3が110nmまでは厚さT3が大きくなるに連れてΔYが大きくなり、厚さT3が110nmを超えると厚さT3が150nmまでは厚さT3が大きくなるに連れてΔYが再び小さくなる。このため、厚さT3が80nm以上140nm以下の場合でも、低音響インピーダンス膜34がSiO膜のみで形成されている場合に比べて、ΔYは大きくなっている。厚さT3が80nm以上140nm以下の場合にΔYが再び大きくなる理由は不明である。
【0052】
図8(a)および図8(b)は、図7における横軸を異ならせて図示したΔYのシミュレーション結果である。図8(a)の横軸は、端部領域34bの厚さT3をλで換算して示している。図8(b)の横軸は、低音響インピーダンス膜34の厚さ(T2+2×T3)を100%とした場合に、1対の端部領域34bの厚さ(2×T3)が占める割合を示している。図8(a)および図8(b)中の破線は、低音響インピーダンス膜34がSiO膜のみで形成されているときのΔYである。
【0053】
図8(a)に示すように、端部領域34bの厚さT3が0.04λ以下の場合、すなわち1対の端部領域34bの厚さの合計(2×T3)が0.08λ以下の場合では、低音響インピーダンス膜34がSiO膜のみで形成されている場合に比べて、ΔYは大きくなっている。したがって、1対の端部領域34bの厚さの合計(2×T3)を0.08λ以下とすることで、低音響インピーダンス膜34の吸湿による膜剥がれを抑制しつつ、ΔYを改善することができる。また、厚さT3が0.06λ以上0.105λ以下の場合でも、低音響インピーダンス膜34がSiO膜のみで形成されている場合に比べて、ΔYは大きくなっている。
【0054】
図8(b)に示すように、低音響インピーダンス膜34の厚さ(T2+2×T3)に対する1対の端部領域34bの厚さ(2×T3)の割合が34%以下の場合では、低音響インピーダンス膜34がSiO膜のみで形成されている場合に比べて、ΔYは大きくなっている。したがって、低音響インピーダンス膜34の厚さに対する1対の端部領域34bの厚さの割合を34%以下とすることで、低音響インピーダンス膜34の吸湿による膜剥がれを抑制しつつ、ΔYを改善することができる。また、低音響インピーダンス膜34の厚さに対する1対の端部領域34bの厚さの割合が45%以上85%以下の場合でも、低音響インピーダンス膜34がSiO膜のみで形成されている場合に比べて、ΔYは大きくなっている。
【0055】
図7において、端部領域34bの厚さT3が55nm~75nm程度の範囲および140nm~165nm程度の範囲にある場合に、低音響インピーダンス膜34がSiO膜のみで形成されている場合に比べてΔYが小さくなった理由について以下に示す。
【0056】
図7のシミュレーション条件の場合における共振周波数および反共振周波数でのアドミッタンス|Y|のシミュレーション結果について示す。図9(a)は、モデルBにおける低音響インピーダンス膜の端部領域の厚さに対する共振周波数でのアドミッタンス|Y|のシミュレーション結果、図9(b)は、端部領域の厚さに対する反共振周波数でのアドミッタンス|Y|のシミュレーション結果である。図9(a)および図9(b)中の破線は、低音響インピーダンス膜34がSiO膜のみで形成されているときのアドミッタンス|Y|である。
【0057】
図9(a)に示すように、共振周波数でのアドミッタンス|Y|は、端部領域34bの厚さT3が大きくなるに連れてほぼ単調に小さくなっている。これは、端部領域34bの厚さT3が大きくなることはSiOFB膜である中央領域34aの厚さT2が小さくなることに等しいことから、低音響インピーダンス膜34全体としての音響インピーダンスが高くなるためにアドミッタンス|Y|が劣化したものと考えられる。
【0058】
図9(b)に示すように、反共振周波数でのアドミッタンス|Y|は、端部領域34bの厚さT3が大きくなっても単調に劣化していない。反共振周波数でのアドミッタンス|Y|は、端部領域34bの厚さT3が45nm~85nm程度および135nm~165nm程度の範囲内にある場合では、低音響インピーダンス膜34がSiO膜のみからなる場合に比べて劣化している。この理由について以下に示す。
【0059】
図7のシミュレーション条件の場合におけるアドミッタンス|Y|の周波数特性のシミュレーション結果を以下に示す。図10(a)および図10(b)は、モデルBにおける周波数に対するアドミッタンス|Y|のシミュレーション結果である。図10(a)では、端部領域34bの厚さT3が0nm、20nm、60nm、80nmのときの周波数に対するアドミッタンス|Y|のシミュレーション結果を示す。図10(b)では、端部領域34bの厚さT3が100nm、110nm、120nm、150nm、165nmのときの周波数に対するアドミッタンス|Y|のシミュレーション結果を示す。
【0060】
図10(a)および図10(b)に示すように、端部領域34bの厚さT3が60nm、80nm、150nmの場合、反共振周波数付近にスプリアスが発生してアドミッタンス|Y|が劣化している。このため、図9(b)において、端部領域34bの厚さT3が45nm~85nm程度および135nm~165nm程度の範囲内にある場合に、反共振周波数でのアドミッタンス|Y|が劣化したものと考えられる。なお、端部領域34bの厚さT3が60nm、80nm、150nmの場合に反共振周波数付近にスプリアスが発生してアドミッタンス|Y|が劣化した理由は不明である。
【0061】
以上のシミュレーション結果を踏まえて、実施例1では、端部領域34bの厚さT3は55nm以下とする。別の言い方をすると、端部領域34bの厚さT3は0.04λ以下とする。更に別の言い方をすると、端部領域34bの厚さT3は、中央領域34aの厚さと1対の端部領域34bの厚さの合計の厚さ(T2+2×T3)を100%とした場合に、17%以下とする。
【0062】
[実験]
シリコン基板上に、酸化シリコン(SiO)膜、フッ素が添加された酸化シリコン(SiOF)膜、ホウ素が添加された酸化シリコン(SiOB)膜、フッ素とホウ素が添加された酸化シリコン(SiOFB)膜を成膜し、各膜の弾性率を測定した。SiO膜はTEOSとOガスを用いたCVD法により成膜した。SiOF膜はTEOSとOガスとCガスを用いたCVD法により成膜した。SiOB膜はTEOSとOガスとTEBを用いたCVD法により成膜した。SiOFB膜はTEOSとOガスとCガスとTEBを用いたCVD法により成膜した。各膜の膜厚は5000nmとした。弾性率はナノインデンテーション法を用いて測定した。添加元素の濃度はSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)法を用いて測定した。
【0063】
表2に成膜した各膜の添加元素の濃度と弾性率の測定結果を示す。添加元素の濃度は、シリコンと酸素と添加元素の合計濃度を100原子%としたときの濃度である。表2の測定結果をグラフにしたのが図11である。図11は、添加元素の濃度に対する弾性率の測定結果である。
【表2】
図11および表2に示すように、フッ素および/またはホウ素の添加濃度が高くなると、弾性率は減少する結果であった。音響インピーダンスは、弾性率と密度の積の平方根の値に比例することから、弾性率が小さくなるほど、音響インピーダンスは小さくなる。以下に、酸化シリコンにフッ素および/またはホウ素を添加することで弾性率が低下した理由について示す。
【0064】
シリコン基板上に上述のCVD法によって各膜を成膜することで以下のサンプルA~Fを準備した。サンプルB~Fの添加元素の濃度はSIMS法を用い測定した。
サンプルA:厚さが500nmの酸化シリコン(SiO)膜
サンプルB:厚さが500nmで、フッ素が5.4原子%で添加された酸化シリコン(SiOF)膜
サンプルC:厚さが500nmで、ホウ素が3.8原子%で添加された酸化シリコン(SiOB)膜
サンプルD:厚さが500nmで、フッ素が5.0原子%、ホウ素が2.6原子%で添加された酸化シリコン(SiOFB)膜
サンプルE:厚さが500nmで、フッ素が4.5原子%、ホウ素が4.1原子%で添加された酸化シリコン(SiOFB)膜
サンプルF:厚さが500nmで、フッ素が3.9原子%、ホウ素が7.4原子%で添加された酸化シリコン(SiOFB)膜
サンプルA~FのSi-O結合の伸縮振動のスペクトルをFTIR法(フーリエ変換赤外線分光法)により測定した。
【0065】
図12は、サンプルA、BのFTIRスペクトルを示す図である。図12において、Si-O(ω4)は、Si-O結合の伸縮振動ω4に起因するピークである。Si-Fは、Si-F結合に起因するピークである。図12に示すように、サンプルB(SiOF膜)は、サンプルA(SiO膜)に比べて、Si-O(ω4)における波数が高くなっている。Si-O(ω4)の波数が高くなると、例えば特許文献2に記載のように、共振周波数の周波数温度係数(TCF:Temperature Coefficient of Frequency)が改善すること、および、ヤング率(弾性率)が低下することが知られている。Si-O(ω4)の波数が高くなると、TCFが改善し、ヤング率(弾性率)が低下するのは、以下の理由によるものと考えられる。
【0066】
Si-O(ω4)の波数が高くなると、SiO四面体の架橋酸素を中心としたSi-O-Siの結合角が大きくなる。結合角が大きくなると、密度が低下し、加熱による体積収縮量が増える。このため、Si-O(ω4)の波数が高くなると、TCFが改善し、ヤング率(弾性率)が低下すると考えられる。結合角が大きくなることは、2価で負に帯電し易い酸素を、1価で負に帯電し易いフッ素で置換したことで、シリコンとの結合が切れたことに起因すると考えられる。このことから、フッ素の代わりに塩素(Cl)等のハロゲン元素を添加した場合でも、同様のメカニズムにより、TCFの改善とヤング率(弾性率)の低下が起こると考えられる。また、サンプルB(SiOF膜)は、サンプルA(SiO膜)に比べて、Si-O結合の伸縮振動ω4のピークにおける積分強度が小さくなっている。伸縮振動ω4のピークにおける積分強度の減少は、SiO四面体の酸素を媒介とした架橋密度の低下を示している。これは、酸素をフッ素で置換したことでシリコンとの結合が切れたことに起因するものと考えられる。架橋密度の低下も弾性率低下の要因になっていると考えられる。このように、サンプルBのSiOF膜はサンプルAのSiO膜に比べて弾性率が小さくなることから、SiOF膜はSiO膜に比べて音響インピーダンスが小さくなる。
【0067】
図13は、サンプルA、CのFTIRスペクトルを示す図である。図13において、B-O(B相)は、3配位のBとOの結合の伸縮振動に起因するピークである。B-O(BO相)は、4配位のBとOの結合の伸縮振動に起因するピークである。B-O-Siは、B-O-Si結合に起因するピークである。
【0068】
図13に示すように、サンプルC(SiOB膜)は、サンプルA(SiO膜)に比べて、波数1400cm-1付近にB-O(B相)が出現している。図11および表2に記載したように、SiOB膜はSiO膜に比べて弾性率が小さくなるが、これは、ホウ素を添加することで弾性率が小さい3配位のBとOからなるB相が形成されるためと考えられる。また、サンプルC(SiOB膜)は、サンプルA(SiO膜)に比べて、Si-O(ω4)のピーク高さが小さくなっている。これは、ホウ素を添加することで、B相より弾性率が大きいSiO相の割合が減ったことと、酸化シリコン、酸化ボロン、酸化シリコンと酸化ボロンの混晶、の3つの相ができたことにより相間で酸素の架橋が行われ難くなって架橋密度が低下したこと、によるものと考えられる。このように、SiOB膜はSiO膜に比べて弾性率が小さくなることから、SiOB膜はSiO膜に比べて音響インピーダンスが小さくなる。
【0069】
SiOB膜はシリコンがホウ素で置換され、ホウ素はシリコンと価数が異なることから、ホウ素の代わりにシリコンと置換しかつ価数が異なる元素を添加した場合でも、同様のメカニズムにより弾性率が小さくなると考えられる。また、ホウ素は酸素と結合したときの剥離エネルギーがSi-O結合の剥離エネルギーより小さいことが、文献「アルミノケイ酸塩系ガラスのヤング率、剛性率およびビッカーズ硬度の推定式」 日本金属学会誌第64巻第3号(2000) pp177-183により知られている。したがって、ホウ素の代わりに、酸素と結合したときの剥離エネルギーがSi-O結合の剥離エネルギーより小さい元素を添加した場合に、同様のメカニズムにより弾性率が小さくなると考えられる。ホウ素の代わりに用いることができる元素として、テルル(Te)、ゲルマニウム(Ge)、アンチモン(Sb)、リン(P)、亜鉛(Zn)、砒素(As)、タングステン(W)、鉛(Pb)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、ランタン(La)、カルシウム(Ca)、錫(Sn)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、銅(Cu)、ユウロピウム(Eu)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ナトリウム(Na)、ビスマス(Bi)、インジウム(In)、銀(Ag)、カリウム(K)、およびルビジウム(Rb)が挙げられる。
【0070】
図14は、サンプルA、D~FのFTIRスペクトルを示す図である。図14に示すように、サンプルD~Fは、フッ素とホウ素が添加されたSiOFB膜であるため、フッ素のみが添加されたSiOF膜とホウ素のみが添加されたSiOB膜の両方の特徴が出現している。
【0071】
図15は、サンプルA~CのFTIRスペクトルから算出したSi-O結合の伸縮振動ω4のピークにおける積分強度を示す図である。積分強度は、Si-O結合の伸縮振動ω4のピークと他のピークとを分離した後の伸縮振動ω4のピーク波形を用いて算出した。図15に示すように、サンプルB(SiOF膜)およびサンプルC(SiOB膜)は、サンプルA(SiO膜)に比べて、Si-O結合の伸縮振動ω4のピークにおける積分強度が低下している。フッ素またはホウ素の添加量に対して伸縮振動ω4のピークにおける積分強度が一次関数として低下すると仮定すると、1.0原子%の添加量に対して積分強度は、フッ素が添加される場合では1.3低下し、ホウ素が添加される場合では3.2低下する。
【0072】
表3は、サンプルD~Fに関して、図15の結果から予測される、Si-O結合の伸縮振動ω4のピークにおける積分強度のフッ素添加による予測変化量と、ホウ素添加による予測変化量と、を示している。また、この予測変化量から求まる伸縮振動ω4のピークにおける積分強度の推定値と、FTIRスペクトルから算出した伸縮振動ω4のピークにおける積分強度の実測値と、を示している。表3の結果をグラフにしたのが図16である。図16は、添加元素の濃度に対するSi-O結合の伸縮振動ω4のピークにおける積分強度を示す図である。
【表3】
【0073】
表3および図16に示すように、サンプルD~Fにおいて、Si-O結合の伸縮振動ω4のピークにおける積分強度の実測値は、推定値よりも小さい結果であった。これは、フッ素とホウ素の両方を添加したことにより、複雑な相構造となって架橋密度が低下したためと考えられる。この結果から、フッ素またはホウ素を単独で添加するよりも、フッ素とホウ素の両方を添加することにより、単独の添加から予測される以上の架橋密度の低下が図られて弾性率をより低下させることができると考えられる。したがって、合計の添加濃度が同じ場合であっても、フッ素またはホウ素を単独で添加するよりも、フッ素とホウ素の両方を添加する方が、弾性率を下げる観点から好ましいと考えられる。
【0074】
以上のように、実施例1によれば、図1(b)のように、低音響インピーダンス膜34は、フッ素、または、フッ素とホウ素が添加された酸化シリコン膜である中央領域34aと、中央領域34aを挟む1対の端部領域34bと、を備える。端部領域34bは、フッ素およびホウ素の添加量が中央領域34aより少ない酸化シリコン膜である。中央領域34aをフッ素、または、フッ素とホウ素が添加された酸化シリコン膜とすることで、弾性波デバイスの共振特性が改善する。端部領域34bを中央領域34aよりフッ素およびホウ素の添加量が少ない酸化シリコン膜とすることで、端部領域34bは中央領域34aより吸湿し難い性質を有するため、低音響インピーダンス膜34の吸湿が抑制される。したがって、実施例1によれば、共振特性を改善しつつ膜剥がれを抑制することができる。
【0075】
また、実施例1では、中央領域34aはフッ素、または、フッ素とホウ素が添加された酸化シリコン膜である。これにより、図5に示したように、共振特性を改善することができる。なお、中央領域34aは、フッ素、または、フッ素とホウ素が添加された酸化シリコン膜の場合に限られず、その他の場合でもよい。中央領域34aは、フッ素(F)、ホウ素(B)、塩素(Cl)、テルル(Te)、ゲルマニウム(Ge)、アンチモン(Sb)、リン(P)、亜鉛(Zn)、砒素(As)、タングステン(W)、鉛(Pb)、プラセオジム(Pr)、イッテルビウム(Yb)、ランタン(La)、カルシウム(Ca)、錫(Sn)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、銅(Cu)、ユウロピウム(Eu)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ナトリウム(Na)、ビスマス(Bi)、インジウム(In)、銀(Ag)、カリウム(K)、およびルビジウム(Rb)の元素のうち少なくとも1種が添加された酸化シリコン膜の場合でもよい。この場合でも、共振特性を改善することができる。また、他の元素が添加された酸化シリコン膜は吸湿し易い性質を有することから、上記の元素が添加されている場合でも、中央領域34aを挟みかつ中央領域34aより添加元素の濃度が低い1対の端部領域34bを備えることが好ましい。
【0076】
また、実施例1では、中央領域34aはフッ素とホウ素が添加された酸化シリコン膜であり、1対の端部領域34bは他の元素が意図的には添加されていない酸化シリコン膜である。フッ素とホウ素の両方が添加されることで、表3および図16に示したように、フッ素のみまたはホウ素のみが添加される場合から予測される弾性率の低下量を超えて更に弾性率を低下させることができる。よって、音響インピーダンスを効果的に低下させることができ、共振特性を改善することができる。また、フッ素とホウ素が添加された酸化シリコン膜は、フッ素は酸素と置換し、ホウ素はシリコンと置換する。このため、フッ素のみまたはホウ素のみが添加された酸化シリコン膜と比べて、添加元素の合計濃度を高くしても膜質の変化が抑えられる。膜質が変化すると例えば膜応力が変化して膜剥がれが生じることがあるが、膜質の変化が抑えられることで膜剥がれが抑制される。よって、フッ素とホウ素が添加された酸化シリコン膜は、フッ素のみまたはホウ素のみが添加された酸化シリコン膜よりも添加元素の濃度を高くすることができるため、弾性率を低下させることができる。この点からも、音響インピーダンスを低下させることができ、共振特性を改善することができる。また、端部領域34bが他の元素が添加されていない酸化シリコン膜であることで、低音響インピーダンス膜34の吸湿を効果的に抑制できる。
【0077】
膜質の変化を抑えて膜剥がれを抑制する観点から、中央領域34aの添加元素の濃度は、10原子%以下が好ましく、9原子%以下がより好ましく、8原子%以下がさらに好ましい。一方、共振特性の改善のために弾性率を低下させる観点から、中央領域34aの添加元素の濃度は、3原子%以上が好ましく、4原子%以上がより好ましく、5原子%以上がさらに好ましい。添加元素の濃度とは、シリコン、酸素、および添加元素の合計を100原子%とした場合における添加元素の割合である。弾性率の低下のために添加元素の濃度を高める観点から、ホウ素およびフッ素のいずれか一方の濃度は他方の濃度に対して0.5倍以上2.0倍以下が好ましく、0.6倍以上1.8倍以下がより好ましく、0.7倍以上1.6倍以下が更に好ましい。
【0078】
図12で説明したように、フッ素の代わりに塩素を添加した場合でも、フッ素を添加した場合と同様のメカニズムによって弾性率が低下する。図13で説明したように、ホウ素の代わりにテルル、ゲルマニウム、アンチモン、リン、亜鉛、砒素、タングステン、鉛、プラセオジム、イッテルビウム、ランタン、カルシウム、錫、ジスプロシウム、サマリウム、銅、ユウロピウム、ストロンチウム、バリウム、ナトリウム、ビスマス、インジウム、銀、カリウム、またはルビジウムを添加した場合でも、ホウ素を添加した場合と同様のメカニズムによって弾性率が低下する。したがって、中央領域34aは、フッ素および塩素の少なくとも一方の元素と、ホウ素、テルル、ゲルマニウム、アンチモン、リン、亜鉛、砒素、タングステン、鉛、プラセオジム、イッテルビウム、ランタン、カルシウム、錫、ジスプロシウム、サマリウム、銅、ユウロピウム、ストロンチウム、バリウム、ナトリウム、ビスマス、インジウム、銀、カリウム、およびルビジウムのうち少なくとも1種の元素と、が添加された酸化シリコン膜である場合が好ましい。これにより、上述したように、中央領域34aの添加元素の濃度を高めることができるため、弾性率を低下させることができる。よって、音響インピーダンスが低下するため、共振特性を改善することができる。
【0079】
また、実施例1では、端部領域34bの厚さT3は中央領域34aの厚さT2より小さい。これにより、低音響インピーダンス膜34全体の音響インピーダンスを低くすることができ、共振特性を改善することができる。
【0080】
また、実施例1では、1対の端部領域34bの厚さの合計(2×T3)は0.08λ以下である。言い換えると、1対の端部領域34bの厚さの合計(2×T3)は、共振領域50における圧電層14の厚さT1の0.16倍以下である。これにより、図8(a)に示したように、共振特性を改善することができる。共振特性の改善の観点から、1対の端部領域34bの厚さの合計(2×T3)は、圧電層14の厚さT1の0.14倍(0.07λ)以下が好ましく、0.12倍(0.06λ)以下がより好ましく、0.10倍(0.05λ)以下が更に好ましい。一方、吸湿を抑制する観点からは、1対の端部領域34bの厚さの合計(2×T3)は、圧電層14の厚さT1の0.008倍(0.004λ)以上が好ましく、0.012倍(0.006λ)以上がより好ましく、0.016倍(0.008λ)以上が更に好ましい。
【0081】
また、実施例1では、中央領域34aと1対の端部領域34bの厚さの合計(T2+2×T3)を100%とした場合に、1対の端部領域34bの厚さの合計(2×T3)は34%以下である。これにより、図8(b)に示したように、共振特性を改善することができる。共振特性を改善する観点から、1対の端部領域34bの厚さの合計(2×T3)は、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましい。一方、吸湿を抑制する観点からは、1対の端部領域34bの厚さの合計(2×T3)は、2%以上が好ましく、4%以上がより好ましく、6%以上が更に好ましい。1対の端部領域34bの厚さは互いにほぼ等しい場合が好ましい。1対の端部領域34bのうちの一方の端部領域34bと他方の端部領域34bの平均厚さに対する一方の端部領域34bと他方の端部領域34bの厚さの差の割合は±10%以下である場合が好ましく、±8%以下である場合がより好ましく、±5%以下である場合が更に好ましい。
【0082】
なお、低音響インピーダンス膜34の吸湿を抑制する観点からは、端部領域34bの厚さT3は、2nm以上が好ましく、4nm以上がより好ましく、5nm以上が更に好ましいとも言える。
【0083】
なお、図7図8(a)、および図8(b)は、中央領域34aは3.9原子%のフッ素と7.4原子%のホウ素が添加された酸化シリコン(SiOFB)膜で、端部領域34bは他の元素が添加されていない酸化シリコン(SiO)膜である場合の例を示した。しかしながら、中央領域34aのフッ素とホウ素の添加濃度が上記と異なり、端部領域34bにフッ素および/またはホウ素が添加されている場合でも、ΔYの大きさは変化する可能性はあるが、端部領域34bの厚さT3に対するΔYの変化に関しては同様の結果になると考えられる。また、フッ素とホウ素以外の上述した元素の少なくとも1種が添加された場合でも、ΔYの大きさは変化する可能性はあるが、端部領域34bの厚さT3に対するΔYの変化に関しては同様の結果になると考えられる。
【0084】
また、端部領域34bは、窒化シリコン膜の場合でもよい。窒化シリコン膜は吸湿し難い性質を有するため、端部領域34bに窒化シリコン膜を用いた場合でも低音響インピーダンス膜34の吸湿を抑制できる。端部領域34bに窒化シリコン膜を用いる場合でも、端部領域34bは、CVD法等でのガス種を変更することで、中央領域34aと連続して成膜することができる。窒化シリコン膜は他の元素が意図的には添加されていない場合が好ましい。
【0085】
また、実施例1では、高音響インピーダンス膜32は金属膜である。この場合、高音響インピーダンス膜32の音響インピーダンスが高くなりやすいため、高音響インピーダンス膜32と低音響インピーダンス膜34との間の音響インピーダンスの差が大きくなり、共振特性が改善する。一方、他の元素が添加された酸化シリコン膜が金属膜に接触して設けられる場合、他の元素が添加された酸化シリコン膜は吸湿しやすいため、酸化シリコン膜と金属膜との間で膜剥がれが生じやすくなる。したがって、高音響インピーダンス膜32が金属膜である場合、膜剥がれを抑制する観点から、低音響インピーダンス膜34を中央領域34aと1対の端部領域34bの3層構造とすることが好ましい。高音響インピーダンス膜32は、音響インピーダンスを高くする観点から、タングステン(W)膜またはモリブデン(Mo)膜である場合が好ましい。WおよびMoの物性値を表4に示す。
【表4】
【実施例0086】
図17は、実施例2に係るフィルタの回路図である。図17に示すように、実施例2に係るフィルタ200は、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の直列共振器S1~S4が直列に接続されている。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の並列共振器P1~P4が並列に接続されている。直列共振器S1~S4および並列共振器P1~P4の少なくとも1つに実施例1の弾性波デバイスを用いてもよい。直列共振器および並列共振器の個数等は適宜設定できる。フィルタとしてラダー型フィルタを例に示したが、フィルタは多重モード型フィルタでもよい。
【0087】
なお、実施例2では、実施例1に係る弾性波デバイスをフィルタに用いる場合を例に示したが、この場合に限られるわけではない。例えば、インクジェットを用いたマイクロポンプ、RF-MEMSスイッチ、または光ミラー等のアクチュエータ、もしくは、加速度、ジャイロ、またはエナジーハーベスト等のセンサに用いてもよい。
【実施例0088】
図18は、実施例3に係るデュプレクサの回路図である。図18に示すように、実施例3に係るデュプレクサ300は、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ60が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ62が接続されている。送信フィルタ60は、送信端子Txから入力された高周波信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ62は、共通端子Antから入力された高周波信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ60および受信フィルタ62の少なくとも一方を実施例2のフィルタとしてもよい。マルチプレクサとしてデュプレクサを例に示したが、トリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0089】
以上、本願発明の実施形態について詳述したが、本願発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本願発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0090】
10…基板、12…下部電極、12a…下層、12b…上層、14…圧電層、16…上部電極、16a…下層、16b…上層、24…付加膜、30…音響反射膜、32…高音響インピーダンス膜、34、134…低音響インピーダンス膜、34a…中央領域、34b…端部領域、36…埋込膜、50…共振領域、60…送信フィルタ、62…受信フィルタ、100、500…弾性波デバイス、200…フィルタ、300…デュプレクサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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