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特開2024-176313組成物、硬組織補修用組成物、硬組織補修用キット及び組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176313
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】組成物、硬組織補修用組成物、硬組織補修用キット及び組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/16 20060101AFI20241212BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20241212BHJP
   A61L 27/02 20060101ALI20241212BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A61L27/16
A61L27/50
A61L27/02
A61L27/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094770
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】神野 博實
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB01
4C081AB04
4C081CA081
4C081CE02
4C081CE11
4C081CF22
4C081CF24
4C081EA02
4C081EA11
(57)【要約】
【課題】造影性を有しつつ、十分且つ適正な圧縮強度を有する硬組織補修用組成物の硬化体を付与可能な組成物を提供する。
【解決手段】組成物は、(メタ)アクリレート系重合体(A)と、造影剤(B)とを含み、前記組成物中の前記造影剤(B)の凝集物の長径が1.0mm未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレート系重合体(A)と、造影剤(B)とを含む組成物であって、
前記組成物中の前記造影剤(B)の凝集物の長径が1.0mm未満である、
組成物。
【請求項2】
前記造影剤(B)は、硫酸バリウム又は酸化ジルコニウムを含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリレート系重合体(A)と前記造影剤(B)の含有比は、(A):(B)=1:0.003~1:1.8(質量比)である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリレート系重合体(A)の含有量は、前記組成物の総量に対して33~99.8質量%である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記造影剤(B)の含有量は、前記組成物の総量に対して0.1~65質量%である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記造影剤(B)の体積平均粒子径は、5.0μm以下である、
請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
抗菌薬粒子(Z)をさらに含む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記抗菌薬粒子(Z)の含有量は、前記組成物の総量に対して、0.1~20質量%である、
請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物と、(メタ)アクリレート系単量体(C)と、重合開始剤(D)とを含む、
硬組織補修用組成物。
【請求項10】
骨を補修する用途に用いられる、
請求項9に記載の硬組織補修用組成物。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物と、
(メタ)アクリレート系単量体(C)を含む組成物と、
重合開始剤(D)を含む組成物と、
が分割されて収容された部材を有する、
硬組織補修用キット。
【請求項12】
(メタ)アクリレート系単量体(C)と重合開始剤(D)のうち一方と、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物とを含む第1組成物と、
(メタ)アクリレート系単量体(C)と重合開始剤(D)のうち他方を含む第2組成物と、
が分割されて収容された部材を有する、
硬組織補修用キット。
【請求項13】
組成物の製造方法であって、
(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)とを、攪拌羽根を備える混合機内で攪拌して混合する工程を含み、
前記工程では、
前記(メタ)アクリレート系重合体(A)と前記造影剤(B)とを、(A):(B)=1:0.003~1:1.8(質量比)の比率で混合すると共に、
前記攪拌羽根の先端羽根速度が5~30.0m/sの条件で混合する、
組成物の製造方法。
【請求項14】
前記造影剤(B)が、硫酸バリウム又は酸化ジルコニウムを含む、
請求項13に記載の組成物の製造方法。
【請求項15】
前記造影剤(B)の体積平均粒子径は、5.0μm以下である、
請求項13又は14に記載の組成物の製造方法。
【請求項16】
抗菌薬粒子(Z)をさらに含む、
請求項13又は14に記載の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、硬組織補修用組成物、硬組織補修用キット及び組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、骨、軟骨等の硬組織と人工関節との固定用の骨セメント、骨粗しょう症治療用等に用いる骨充填剤、人工骨材料等として、様々な硬組織補修用組成物が検討されてきている。
【0003】
例えば特許文献1には、(メタ)アクリレート系単量体(A)、(メタ)アクリレート系重合体(B)、重合開始剤(D)及び造影剤(X)を含む硬組織補修用組成物が開示されている。この組成物は、硬化時の発熱が小さく、しかも操作性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/181477号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、硬組織補修用組成物は、通常、基材となるモノマー及びポリマーと、造影能を持たせるための造影剤とを含む。一方で、造影剤の添加により、硬化体の圧縮強度が低下する場合があった。
【0006】
例えば、人工関節を固定するための骨セメントとして、圧縮強度が低い硬組織補修用組成物の硬化体を用いると、固定が不十分となり、歩行が困難になる等の不具合が生じる場合がある。そのため、硬組織補修用組成物の硬化体は、造影剤を含んでいても十分且つ適正な圧縮強度を有することが望まれる。
【0007】
本発明の目的は、造影性を有しつつ、十分且つ適正な圧縮強度を有する硬組織補修用組成物の硬化体を付与可能な組成物、当該組成物より得られる硬組織補修用組成物、硬組織補修用キット及び組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] (メタ)アクリレート系重合体(A)と、造影剤(B)とを含む組成物であって、前記組成物中の前記造影剤(B)の凝集物の長径が1.0mm未満である、組成物。
[2] 前記造影剤(B)は、硫酸バリウム又は酸化ジルコニウムを含む、[1]に記載の組成物。
[3] 前記(メタ)アクリレート系重合体(A)と前記造影剤(B)の含有比は、(A):(B)=1:0.003~1:1.8(質量比)である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] 前記(メタ)アクリレート系重合体(A)の含有量は、前記組成物の総量に対して33~99.8質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 前記造影剤(B)の含有量は、前記組成物の総量に対して0.1~65質量%である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] 前記造影剤(B)の体積平均粒子径は、5.0μm以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7] 抗菌薬粒子(Z)をさらに含む、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8] 前記抗菌薬粒子(Z)の含有量は、前記組成物の総量に対して、0.1~20質量%である、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の組成物と、(メタ)アクリレート系単量体(C)と、重合開始剤(D)とを含む、硬組織補修用組成物。
[10] 骨を補修する用途に用いられる、[9]に記載の硬組織補修用組成物。
[11] [1]~[8]のいずれかに記載の組成物と、(メタ)アクリレート系単量体(C)を含む組成物と、重合開始剤(D)を含む組成物と、が分割されて収容された部材を有する、硬組織補修用キット。
[12] (メタ)アクリレート系単量体(C)と重合開始剤(D)のうち一方と、[1]~[8]に記載の組成物とを含む第1組成物と、(メタ)アクリレート系単量体(C)と重合開始剤(D)のうち他方を含む第2組成物と、が分割されて収容された部材を有する、硬組織補修用キット。
[13] 組成物の製造方法であって、(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)とを、攪拌羽根を備える混合機内で攪拌して混合する工程を含み、前記工程では、前記(メタ)アクリレート系重合体(A)と前記造影剤(B)とを、(A):(B)=1:0.003~1:1.8(質量比)の比率で混合すると共に、前記攪拌羽根の先端羽根速度が5~30.0m/sの条件で混合する、組成物の製造方法。
[14] 前記造影剤(B)が、硫酸バリウム又は酸化ジルコニウムを含む、[13]に記載の組成物の製造方法。
[15] 前記造影剤(B)の体積平均粒子径は、5.0μm以下である、[13]又は[14]に記載の組成物の製造方法。
[16] 抗菌薬粒子(Z)をさらに含む[13]~[15]のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、造影性を有しつつ、十分且つ適正な圧縮強度を有する硬組織補修用組成物の硬化体を付与可能な組成物、当該組成物より得られる硬組織補修用組成物、硬組織補修用キット及び組成物の製造方法を提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る組成物について説明する。なお、本明細書において、「~」の記載は、端点である下限値及び上限値を含む数値範囲を意味する。
【0011】
1.組成物
本発明の一実施形態に係る組成物は、(メタ)アクリレート系重合体(A)と、造影剤(B)とを含む。当該組成物は、硬組織補修用組成物を得るための材料の一つであり、好ましくは骨セメント粉剤として用いられる粉剤組成物である。以下、当該組成物を、本願明細書においては、「組成物」又は「上記組成物」と称する。
【0012】
一般的に、造影剤(B)は凝集しやすい性質を有するため、組成物において均一に分散しにくい。そのため、得られる硬組織補修用組成物の硬化体の圧縮強度が低下することがあった。
【0013】
これに対して本発明者らは鋭意検討した結果、(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)とを含む組成物中の造影剤(B)の凝集を少なくすること、具体的には、凝集物の長径を1.0mm未満とすることで、硬化体の圧縮強度の低下を少なくできることを見出した。
【0014】
具体的には、組成物中の造影剤(B)の凝集物の長径が1.0mm未満であると、得られる硬組織補修用組成物の硬化体において、造影剤(B)を均一に分散させることができる。それにより、造影性を均一にできるだけでなく、硬化体の圧縮強度の低下を少なくすることができる。同様の観点から、造影剤(B)の上記凝集物の長径は、0.05~0.8mmであることが好ましく、0.1~0.4mmであることがより好ましい。
【0015】
造影剤(B)の凝集物の長径は、以下の手順で測定することができる。
まず、上記組成物をポリエチレン板上にて、均一な2mm厚の層状(直径φ=10mmの円状)に敷き詰めて、X線透視装置FLEX-M863(ビームセンス社製)にて撮影する。X線透視装置の管電圧は70kV、管電流は100μA、撮影時間は1000ms、加算回数は3回とする。
得られた画像において、測定領域(直径φ=10mmの円状)において、任意の5個のX線不透過性の高い部分(造影剤(B)の凝集物)の長径を、画像解析によって測定する。そして、これらのうち最長である長径の値を、凝集物の長径とする。
【0016】
造影剤(B)の凝集物の長径は、主に、(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)との含有比率と、これらの混合条件(回転数や先端攪拌羽根速度)によって調整することができる。(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)との含有比率を高くし、且つ混合条件(混合機の攪拌羽根速度や回転数)を適度に緩やかにすると、造影剤(B)の凝集物の長径を小さくすることができる。以下、各成分について、具体的に説明する。
【0017】
1-1.(メタ)アクリレート系重合体(A)
(メタ)アクリレート系重合体(A)は、(メタ)アクリレート系単量体に由来する構成単位を含む重合体である。本願明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
【0018】
上記(メタ)アクリレート系単量体としては、後述する(メタ)アクリレート系単量体(C)と同様のものが挙げられる。上記(メタ)アクリレート系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸アルキル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。上記(メタ)アクリレート系単量体は、後述する(メタ)アクリレート系単量体(C)と同じ種類の(メタ)アクリレート系単量体を含んでも良い。
【0019】
(メタ)アクリレート系重合体(A)の例には、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート・エチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・ブチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・スチレン共重合体等の非架橋重合体;メチル(メタ)アクリレート・エチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、(メタ)アクリル酸メチルとブタジエン系モノマーとの共重合体等の架橋重合体及び部分的にカルシウム塩を形成している重合体が挙げられる。また、金属酸化物又は金属塩が非架橋重合体又は架橋重合体で被覆された有機・無機複合体であっても良い。
【0020】
これらの中でも、(メタ)アクリレート系重合体(A)は、メタクリル酸メチルに由来する構成単位を含むことが好ましい。(メタ)アクリレート系重合体(A)における、(メタクリル酸メチルに由来する構成単位の含有量は、当該重合体(A)の全構成単位に対して35質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましい。メタクリル酸メチルに由来する構成単位を含む(メタ)アクリレート系重合体(A)としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)が挙げられる。上記重合体(A)は、メタクリル酸メチル以外の他の共重合モノマーに由来する構成単位をさらに含んでも良い。他の共重合モノマーの例には、(メタ)アクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、スチレン類、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0021】
(メタ)アクリレート系重合体(A)の重量平均分子量は、好ましくは5万~500万、より好ましくは7.5万~200万、さらに好ましくは7.5万~88万、特に好ましくは10万~40万である。上記重量平均分子量が下限値以上であると、硬組織補修用組成物の硬化体の圧縮強度をより高めることができる。上記重量平均分子量が上限値以下であると、硬組織補修用組成物の調製直後における(硬化途中における)、硬組織補修用組成物の患部に対する塗布及び/又は充填の操作性をより容易にし、硬組織内への侵入性等の特性をより高上することができる。
【0022】
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算にて測定することができる。
具体的には、(メタ)アクリレート系重合体(A)を試薬特級テトラヒドロフラン(和光純薬工業社製)に溶解させ、この溶液を疎水性0.45μmポリテトラフルオロエチレン製フィルターで濾過する。
この濾過後の溶液をサンプルとし、高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製、LC-10AD)、分離カラム(PLgel(10μm)MIXED-B×2)、検出器(Shodex社製、RI-101)を用いて、標準ポリスチレン換算により(メタ)アクリレート系重合体(A)の重量平均分子量(Mw)を測定する。
【0023】
(メタ)アクリレート系重合体(A)の形態は特に限定されないが、粒子状であることが好ましい。(メタ)アクリレート系重合体(A)の粒子の形状は、球形であっても良いし、不定形であっても良い。
【0024】
(メタ)アクリレート系重合体(A)の体積平均粒子径D50は、硬組織補修用組成物の可使時間(セッティングタイム)を適度な長さに調整する点から、好ましくは7~120μm、より好ましくは10~118μm、さらに好ましくは15~77μmである。当該(メタ)アクリレート系重合体(A)の体積平均粒子径D50は、(メタ)アクリレート系重合体(A)の一次粒子の体積平均粒子径を意味する。
【0025】
体積平均粒子径D50は、以下の手順で測定することができる。
分散溶媒として試薬特級メタノール(溶媒屈折率1.33)(和光純薬工業社製)を使用し、装置内蔵超音波ホモジナイザーで5分間(出力25W)にて(メタ)アクリレート系重合体(A)の粒子を分散させる。
得られた分散液における(メタ)アクリレート系重合体(A)の体積平均粒子径を、装置Loading Index適量範囲内の濃度条件において、循環速度50%(100%時、65mL/秒)で、Microtrac MT3300EXII(Microtrac社製 粒度分布計)を用いて測定する。
【0026】
組成物は、1種類の(メタ)アクリレート系重合体(A)を含んでも良いし、2種類以上の(メタ)アクリレート系重合体を含んでいても良い。例えば、組成物は、体積平均粒子径が異なる2種以上の(メタ)アクリレート系重合体を含んでも良いし、粒子の形状が異なる2種類以上の(メタ)アクリレート系重合体を含んでいても良い。
【0027】
例えば、組成物は、球形の(メタ)アクリレート系重合体(A1)と不定形の(メタ)アクリレート系重合体(A2)とを含んでも良い。球形の粒子は、比表面積が比較的小さく、不定形の粒子は、比表面積が比較的大きいため、これらは比表面積によって区別することができる。
本実施形態においては、球形の(メタ)アクリレート系重合体(A1)の比表面積は、好ましくは0.05~1.2m/gであり、より好ましくは0.1~0.7m/gである。不定形の(メタ)アクリレート系重合体(A2)の比表面積は,好ましくは1.5~4.5m/gであり、より好ましくは2.5~3.5m/gである。
【0028】
比表面積は、前処理として室温での真空脱気を行い、装置BELSORP-mini(マイクロトラックベル社製)を用いて、液体窒素温度下における窒素ガス吸着法にて測定することができる。
【0029】
球形の(メタ)アクリレート系重合体(A1)の重量平均分子量は、好ましくは1万~500万、より好ましくは5万~154万、さらに好ましくは10万~50万とすることができる。体積平均粒子径は、好ましくは1.0~77μm、より好ましくは3.5~58μm、特に好ましくは17.5~50μmとすることができる。
【0030】
不定形の(メタ)アクリレート系重合体(A2)の重量平均分子量は、好ましくは15万~500万、より好ましくは20万~115万、さらに好ましくは24万~67万とすることができる。体積平均粒子径は、好ましくは0.3~60μm、より好ましくは7.5~50μm、さらに好ましくは15.7~40μmとすることができる。
【0031】
(メタ)アクリレート系重合体(A1)と(A2)を併用する場合、(メタ)アクリレート系重合体(A)100質量部に対し、(メタ)アクリレート系重合体(A1)の含有量を、好ましくは50.5~95質量部、より好ましくは65~90質量部とし、(メタ)アクリレート系重合体(A2)の含有量を、好ましくは5~49.5質量部、より好ましく10~35質量部とすることができる。
【0032】
(メタ)アクリレート系重合体(A)の含有量は、特に制限されないが、上記組成物の総量に対して33~99.8質量%であることが好ましい。(メタ)アクリレート系重合体(A)の上記含有量が33質量%以上であると、造影剤(B)の含有割合がより少なくなるため、造影剤(B)の凝集をより低減することができ、硬組織補修用組成物の硬化体の圧縮強度の低下もより少なくすることができる。(メタ)アクリレート系重合体(A)の上記含有量が99.8質量%以下であると、造影剤(B)の含有割合が所定以上となるため、造影性をより高めることができる。同様の観点から、(メタ)アクリレート系重合体(A)の上記含有量は、49~92.5質量%であることがより好ましい。
【0033】
(メタ)アクリレート系重合体(A)の含有量は、上記と同様の観点から、例えば(A)、(C)及び(D)成分の合計100質量部に対して40~80質量部であることが好ましく、45~75質量部であることがより好ましい。
【0034】
1-2.造影剤(B)
造影剤(B)の種類は特に限定されないが、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、炭酸ビスマス、タングステン酸カルシウム、イットリビウム、及びヨウ素化合物が挙げられる。中でも、硬組織用途、特に骨セメントとしての使用実績があり、硬組織補修用組成物に用いた際の造影性に優れる観点から、硫酸バリウム及び/又は酸化ジルコニウムが好ましい。
【0035】
造影剤(B)の体積平均粒子径D50は、特に限定されないが、好ましくは25.1μm以下、より好ましくは21.5μm以下、さらに好ましくは6.0μm以下、特に好ましくは5.0μm以下である。造影剤(B)の体積平均粒子径D50の下限値は、特に制限されないが、好ましくは0.01μm、より好ましくは0.02μm、さらに好ましくは0.1μm、特に好ましくは0.9μmである。造影剤(B)の体積平均粒子径D50が下限値以上であると、造影剤(B)の凝集がより生じにくく、その結果として、硬組織補修用組成物の硬化体の圧縮強度の低下をより少なくすることができる。造影剤(B)の体積平均粒子径D50が上限値以下であると、組成物に抗菌薬粒子(Z)が含まれる場合に、その分散をより促進し、その結果として、硬組織補修用組成物の硬化体に優れた、及び/安定した抗菌性能を付与することができる。なお、当該造影剤(B)の体積平均粒子径D50は、造影剤(B)の一次粒子の体積平均粒子径を意味する。
【0036】
造影剤(B)の含有量は、特に限定されないが、上記組成物の総量に対して0.1~65質量%であることが好ましい。造影剤(B)の上記含有量が0.1質量%以上であると、硬組織補修用組成物の硬化体の造影性をより高めることができる。造影剤(B)の上記含有量が65質量%以下であると、造影剤(B)の凝集をより低減でき、硬化体の圧縮強度の低下をより少なくすることができる。同様の観点から、造影剤(B)の上記含有量は、7.5~51質量%であることがより好ましく、9質量%~32質量%であることが特に好ましい。
【0037】
上記組成物に含まれる(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)の含有比は、特に限定されないが、(A):(B)=1:0.003~1:1.8(質量比)であることが好ましい。(B)の含有比率が下限値以上であると、硬組織補修用組成物の硬化体の造影性をより高めることができる。(B)の含有比率が上限値以下であると、造影剤(B)の凝集をより少なくすることができるため、組成物中の造影剤(B)の凝集物の長径をより小さくすることができる。それにより、硬組織補修用組成物の硬化体の圧縮強度の低下をより少なくすることができる。同様の観点から、(A):(B)=1:0.01~1:1(質量比)であることがより好ましく、1:0.05~1:1(質量比)であることが特に好ましい。
【0038】
1-3.他の成分
上記組成物は、必要に応じて他の成分をさらに含んでも良い。他の成分の例には、抗菌薬粒子や、無機充填剤、着色剤等が含まれる。
【0039】
1-3-1.抗菌薬粒子(Z)
上記組成物は、(メタ)アクリレート系重合体(A)及び造影剤(B)の他、抗菌薬粒子(Z)を含んでも良い。抗菌薬の具体例としては、抗生物質、元素ヨウ素、固体ポリビニルピロリドンヨウ素、ポリビニルピロリドンヨウ素;トリブロモフェノール、トリクロロフェノール、テトラクロロフェノール、ニトロフェノール、3-メチル-4-クロロ-フェノール、3,5-ジメチル-4-クロロフェノール、フェノキシエタノール、ジクロロフェン、o-フェニルフェノール、m-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、2-ベンジル-4-クロロフェノール、2,4-ジクロロ-3,5-ジメチルフェノール、4-クロロチモール、クロルフェン、トリクロサン、フェンチクロール、フェノール、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、4-エチルフェノール、2,4-ジメチルフェノール、2,5-ジメチルフェノール、3,4-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、4-n-プロピルフェノール、4-n-ブチルフェノール、4-n-アミルフェノール、4-tert-アミルフェノール、4-n-ヘキシルフェノール、4-n-ヘプチルフェノール、モノアルキルハロフェノール、ポリアルキルハロフェノール、芳香族ハロフェノール、並びにそれらのアンモニウム塩、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩等のフェノール化合物;硝酸銀、ヘキサクロロフェン、メルブロミンが挙げられる。中でも、抗生物質が好ましい。
【0040】
抗生物質とは、微生物が産生する物質又は化学的に合成した物質のうち他の微生物の発育を阻害する物質である。さらに、この抗生物質の定義には、微生物の産生物質又は化学的に合成した物質を化学的に変換したものも含まれる。
【0041】
抗生物質の具体例としては、ゲンタマイシン、ゲンタマイシン硫酸塩、トブラマイシン、トブラマイシン硫酸塩、アミカシン、アミカシン硫酸塩、ジベカシン、ジベカシン硫酸塩、バンコマイシン、バンコマイシン塩酸塩、ダプトマイシン、アルベカシン、アルベカシン硫酸塩、ホスホマイシン、セファゾリン、セファゾリンナトリウム塩、ミノサイクリン、クリンダマイシン、コリスチン、リネゾリド、テトラサイクリン塩酸塩、テトラサイクリン水和物、オキシテトラサイクリン及びエリスロマイシンが挙げられる。中でも、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、ジベカシン、バンコマイシン、ダプトマイシン、及びこれらの薬理学的に許容できる塩からなる群から選択される1種以上の抗生物質を含むことが好ましい。
【0042】
ダプトマイシン及びダプトマイシンの薬理学的に許容できる塩が抗菌薬粒子(Z)として使用される場合、組成物にはさらに、後述の無機充填剤のうち、特にカルシウム徐放性を有するフィラーを共に含有することが望ましい。患部に塗布及び/又は充填された硬組織補修用組成物に含まれるカルシウム元素又はイオンと結合したダプトマイシン誘導体が、細菌の細胞膜に侵入・結合することにより、細胞膜での脱分極が進行し、膜電位を喪失させることにより細菌を死に至らしめることから、抗菌性が向上する傾向がある。これらカルシウム徐放性フィラーは、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0043】
抗菌薬粒子(Z)の体積平均粒子径は、好ましくは250μm未満、より好ましくは1.0~200μm、より好ましくは2.5~150μmである。
【0044】
抗菌薬粒子(Z)の含有量は、特に限定されないが、上記組成物の総量に対して0.1~20質量%であることが好ましい。抗菌薬粒子(Z)の上記含有量が0.1質量%以上であると、硬組織補修用組成物の抗菌性が向上する傾向がある。20質量%以下であると、造影剤(B)の凝集をより低減でき、硬化体の圧縮強度の低下をより少なくすることができる。同様の観点から、抗菌薬粒子(Z)の含有量は1~15質量%であることがより好ましい。
【0045】
1-3-2.無機充填剤
上記組成物は、(メタ)アクリレート系重合体(A)及び造影剤(B)の他、無機充填剤(ただし、前述の造影剤を除く)を含んでも良い。無機充填剤を含む組成物より調製される硬組織補修用組成物は、例えば、周辺の骨組織との視覚的な区別の明瞭化、密着性の向上、圧縮強度等の特性の強化、活性ラジカル種の補足による周辺の骨組織への為害性の低減の効果が得られる傾向がある。
【0046】
無機充填剤としては、例えば、ビスマス酸化物、チタン酸化物、酸化亜鉛、酸化アルミニウム粒子等の金属酸化物粉末;リン酸ジルコニウム等の金属塩粉末;シリカガラス、アルミニウム含有ガラス、バリウム含有ガラス、ストロンチウム含有ガラス、ジルコニウムシリケートガラス等のガラスフィラー;銀徐放性を有するフィラー、カルシウム徐放性を有するフィラー;及びフッ素徐放性を有するフィラーが挙げられる。硬化途中の硬組織補修用組成物に含まれる無機充填剤と(メタ)アクリレート系単量体(C)との間で強固な結合を形成する観点からは、シラン処理、ポリマーコート等の表面処理を施した無機充填剤を使用することが好ましい。これら無機充填剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0047】
カルシウム徐放性を有するフィラーとしては、例えば、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム一水和物、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト、炭酸含有水酸アパタイト、グルコン酸カルシウム、グルクロン酸カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、硫酸カルシウム半水塩、α-リン酸三カルシウム、β-リン酸三カルシウムが挙げられる。これらカルシウム徐放性を有するフィラーは、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0048】
1-3-3.着色剤
上記組成物は、(メタ)アクリレート系重合体(A)及び造影剤(B)の他、着色剤をさらに含んでも良い。着色剤としては、例えば、赤色2号及びそのアルミニウムレーキ、赤色3号及びそのアルミニウムレーキ、赤色102号及びそのアルミニウムレーキ、赤色104号の(1)及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、赤色105号の(1)及びそのアルミニウムレーキ、赤色106号及びそのアルミニウムレーキ、黄色4号及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、又はジルコニウムレーキ、黄色5号及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、又はジルコニウムレーキ、緑色3号及びそのアルミニウムレーキ、青色1号及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、又はジルコニウムレーキ、青色2号及びそのアルミニウムレーキ、赤色201号、赤色202号、赤色203号、赤色204号、赤色205号、赤色206号、赤色207号、赤色208号、赤色213号、赤色214号、赤色215号、赤色218号、赤色219号、赤色220号、赤色221号、赤色223号、赤色225号、赤色226号、赤色227号及びそのアルミニウムレーキ、赤色228号、赤色230号の(1)及びそのアルミニウムレーキ、赤色230号の(2)及びそのアルミニウムレーキ、赤色231号及びそのアルミニウムレーキ、赤色232号及びそのアルミニウムレーキ、だいだい色201号、だいだい色203号、だいだい色204号、だいだい色205号及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、又はジルコニウムレーキ、だいだい色206号、だいだい色207号及びそのアルミニウムレーキ、黄色201号、黄色202号の(1)及びそのアルミニウムレーキ、黄色202号の(2)及びそのアルミニウムレーキ、黄色203号及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、又はジルコニウムレーキ、黄色204号、黄色205号、緑色201号及びそのアルミニウムレーキ、緑色202号、緑色204号及びそのアルミニウムレーキ、緑色205号及びそのアルミニウムレーキ、又はジルコニウムレーキ、青色201号、青色202号及びそのバリウムレーキ、青色203号、青色204号、青色205号及びそのアルミニウムレーキ、褐色201号及びそのアルミニウムレーキ、紫色201号、赤色401号及びそのアルミニウムレーキ、赤色404号、赤色405号、赤色501号、赤色502号及びそのアルミニウムレーキ、赤色503号及びそのアルミニウムレーキ、赤色504号及びそのアルミニウムレーキ、赤色505号、赤色506号及びそのアルミニウムレーキ、だいだい色401号、だいだい色402号及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、だいだい色403号、黄色401号、黄色402号及びそのアルミニウムレーキ、黄色403号の(1)及びそのアルミニウムレーキ、黄色404号、黄色405号、黄色406号及びそのアルミニウムレーキ、黄色407号及びそのアルミニウムレーキ、緑色401号、緑色402号及びそのアルミニウムレーキ、又はバリウムレーキ、青色403号、青色404号、紫色401号及びそのアルミニウムレーキ、黒色401号及びそのアルミニウムレーキ、クロロフィル、クロロフィリン、マラカイトグリーン、クリスタルバイオレット、ブリリアントグリーン、コバルトフタロシアニン、カロテン、ビタミンB12及びこれらから誘導された誘導体が挙げられる。これら着色剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0049】
着色剤の含有量は、特に限定されないが、上記組成物の総量に対して0.001~5質量%であることが好ましい。
【0050】
2.組成物の製造方法
上記組成物は、上記(メタ)アクリレート系重合体(A)と、上記造影剤(B)とを混合する工程を経て製造することができる。
【0051】
上記工程では、得られる組成物中の造影剤(B)の凝集物の長径が上記範囲となるような条件で混合する。具体的には、(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)とを、上記の通り、(A):(B)=1:0.003~1:1.8(質量比)の比率で混合することが好ましい。
【0052】
混合方法は、特に制限されず、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、スーパーミキサー、ダブルコーン型ミキサー及びタンブラーブレンダーで混合する方法が挙げられる。中でも、攪拌羽根を備えた混合機による混合方法が好ましく、ヘンシェルミキサーがより好ましい。攪拌羽根は一段設けられているだけでも良く、また上羽根と下羽根の2段構成、あるいは上羽根、中間羽根、下羽根の三段構成などのように複数段設けられていても良く、特に制限はない。
【0053】
そして、本発明者らの検討によれば、造影剤(B)の凝集物の長径を1mm未満とする観点では、攪拌羽根の先端羽根速度や回転数を適度に低くすることが有効であることが明らかとなった。即ち、通常は、攪拌羽根速度や回転数を高くするほど分散しやすくなるが、本実施形態では、攪拌羽根速度や回転数を高くしすぎないほうが、むしろ凝集しにくくなることを見出した。
【0054】
その理由は、攪拌羽根速度や回転数を高くすると、(メタ)アクリレート系重合体(A)の粒子及び/又は造影剤(B)の凝集物が解砕を伴って混合及び/分散するのみでなく、これらの一次粒子の体積平均粒子径、形状、結晶構造、表面状態等が変化することによって表面活性が増加し、(メタ)アクリレート系重合体(A)の粒子同士、及び/又は造影剤(B)の粒子同士が再凝集するからであると考えられる。
【0055】
ここで、解砕とは、一次粒子の体積平均粒子径、形状、結晶構造、表面状態等に影響を及ぼさず、粒子の特性を維持したまま混合及び/又は分散することをいう。
【0056】
例えば、攪拌羽根の先端羽根速度は、5~30.0m/sであることが好ましい。先端羽根速度が5m/s以上であると、(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)とをより均一に分散させることができる。先端羽根速度が30m/s以下であると、造影剤(B)の凝集及び/又は再凝集をより少なくすることができる。同様の観点から、攪拌羽根の先端羽根速度は、7~29.0m/sであることがより好ましく、7~22.0m/sであることが特に好ましい。なお、攪拌羽根の先端羽根速度は、(攪拌羽根の直径(m )×回転数(rpm)×π/60(s))のようにして計算する。攪拌羽根を2段、3段と複数設けるような場合は、撹拌羽根のうちもっとも直径が大きいものの直径を、前記攪拌羽根の直径として採用する。
【0057】
攪拌羽根の回転数は、50~3700rpmであることが好ましい。回転数が50rpm以上であると、(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)とをより均一に分散させることができる。回転数が3700rpm以下であると、造影剤(B)の凝集及び/又は再凝集をより少なくすることができる。同様の観点から、攪拌羽根の回転数は、250~2000rpmであることがより好ましく、500~1500rpmであることが特に好ましい。
【0058】
上記混合時の温度や時間は、(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)とを均一に混合でき、造影剤(B)の凝集物の長径が上記範囲を満たすような条件であれば良い。混合温度は、例えば20~25℃とすることができる。混合時間(撹拌時間)は、例えば5~60分であって良く、15~30分であっても良い。
【0059】
3.硬組織補修用組成物
本発明の一実施形態に係る硬組織補修用組成物は、上記組成物と、(メタ)アクリレート系単量体(C)と、重合開始剤(D)とを含み、更に、抗菌薬粒子(Z)及び/又は無機充填剤及び/又は着色剤をさらに含んでも良い。本願明細書において、硬組織補修用組成物とは、硬組織同士の接着、硬組織内への充填、硬組織とチタン、セラミックス、ステンレス等の人工物との接着、硬組織と軟組織等の他の組織との接着に用いられるものであって、歯と充填物との接着(即ち、歯科用途)は含まない。硬組織補修用組成物は、好ましくは骨を補修する用途に用いられる。
【0060】
3-1.組成物(粉剤組成物)
上記組成物の含有量は特に制限されないが、硬組織補修用組成物の総量に対して55~81質量%であることが好ましい。上記組成物の含有量が55質量%以上であると、硬組織補修用組成物中の(メタ)アクリレート系単量体(C)の含有割合が適度に少なくなるため、使用時の重合熱の発生や硬化に伴う硬組織補修用組成物の体積収縮をより低減できる。上記組成物の含有量が81質量%以下であると、硬組織補修用組成物における(メタ)アクリレート系単量体(C)の含有割合がより高くなるため、操作性をより向上させ、且つ造影性をも高めることができる。しかも、その操作性が向上すれば、均質性に優れた硬組織補修用組成物が得られ易くなり、その結果として、硬化体の圧縮強度等の諸特性が向上する傾向がある。同様の観点から、上記組成物の含有量は、硬組織補修用組成物の総量に対して66~74質量%であることがより好ましい。
【0061】
3-2.(メタ)アクリレート系単量体(C)
(メタ)アクリレート系単量体(C)は、人体への刺激が比較的低く、硬組織補修用組成物のモノマーとして適している。(メタ)アクリレート系単量体(C)は、単官能であっても良いし、多官能であっても良い。
【0062】
単官能の(メタ)アクリレート系単量体の例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、1,2-ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート;パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シラン等の(メタ)アクリロキシアルキル基を有するシラン化合物;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環を有する(メタ)アクリレートが含まれる。
【0063】
多官能の(メタ)アクリレート系単量体の例には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、へキシレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトールテトラ(メタ)アクリレート等のアルカンポリオールのポリ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート、下記一般式(1)で表される脂環系又は芳香族ジ(メタ)アクリレート、下記一般式(2)で表される脂環系又は芳香族エポキシジ(メタ)アクリレート、下記式(3)で表される分子中にウレタン結合を有する多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、m及びnは各々独立して0~10の数であり、Rは、下記式いずれかである)
【化2】
【化3】
(式(2)中、R、n及びRは、前記式(1)中のR、n及びRと同じである)
【化4】
(式(3)中、Rは前記式(1)中のRと同じであり、Rは、下記式で表されるいずれかの基である)
【化5】
【0064】
これらの例示化合物のうち、
単官能の(メタ)アクリレート系単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキル;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピルモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましく;
多官能の(メタ)アクリレート系単量体としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の分子内にエチレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレート;下記式(1)-aで表される化合物、下記式(2)-aで表される化合物、下記式(3)-aで表される化合物が好ましい。
【化6】
(式(1)-a中、R、m及びnは、前記式(1)中のR、m及びnと同じである)
【化7】
(式(2)-a中、Rは、前記式(1)中のRと同じである);
【化8】
(式(3)-a中、Rは、前記式(1)中のRと同じである)
【0065】
硬組織補修用組成物は、1種類の(メタ)アクリレート系単量体(C)を含んでも良いし、2種以上の(メタ)アクリレート系単量体(C)を含んでも良い。
【0066】
例えば、酸性基を有する(メタ)アクリレート系単量体は硬組織への接着性が優れることから、上記したような酸性基を有さない(メタ)アクリレート系単量体と、酸性基を有する(メタ)アクリレート系単量体とを併用しても良い。
【0067】
酸性基を有する(メタ)アクリレート系単量体の例には、(メタ)アクリル酸及びその無水物、1,4-ジ(メタ)アクリロキシエチルピロメリット酸、6-(メタ)アクリロキシエチルナフタレン1,2,6-トリカルボン酸、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-m-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸、4-(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸及びその無水物、4-(メタ)アクリロキシブチルトリメリット酸及びその無水物、4-(メタ)アクリロキシヘキシルトリメリット酸及びその無水物、4-(メタ)アクリロキシデシルトリメリット酸及びその無水物、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、p-ビニル安息香酸等のカルボン酸基又はその無水物基を有するモノマー;(2-(メタ)アクリロキシエチル)ホスホリック酸、(2-(メタ)アクリロキシエチルフェニル)ホスホリック酸、10-(メタ)アクリロキシデシルホスホリック酸等の燐酸基を有するモノマー;p-スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有するモノマーが挙げられる。中でも、硬組織補修用組成物と被着物との接着及び/又は密着強度をより一層向上させる観点では、4-メタアクリロキシエチルトリメリット酸及びその無水物が好ましい。これらの酸性基を有するモノマーは、カルシウム塩としても使用できる。
【0068】
(メタ)アクリレート系単量体(C)の含有量は、(A)、(C)及び(D)成分の合計100質量部に対して19~59質量部であることが好ましい。上記含有量が19質量部以上であると、調製時における(硬化途中における)硬組織補修用組成物の操作性をより向上させることができる。しかも、その操作性が向上すれば、均質性に優れた硬組織補修用組成物が得られ易くなり、その結果として、塗布及び/又は充填の操作性をもより容易にし、硬組織内への侵入性等の特性をより高めることができる。上記含有量が59質量部以下であると、硬化後の硬組織補修用組成物の圧縮強度等の機械的物性を向上させ、硬化に伴う硬組織補修用組成物の体積収縮をより低減できる。同様の観点から、(メタ)アクリレート系単量体(C)の上記含有量は22~54質量部であることがより好ましく、29~47質量部であることがさらに好ましい。
【0069】
硬組織補修用組成物が酸性基を有する(メタ)アクリレート系単量体を含む場合、酸性基を有する(メタ)アクリレート系単量体の量は、(メタ)アクリレート系単量体(C)合計100質量部に対して、好ましくは0.005~30質量部、より好ましくは0.01~25質量部である。
【0070】
3-3.重合開始剤(D)
重合開始剤(D)は、(メタ)アクリレート系単量体(C)を重合可能なものであれば特に限定されない。中でも、有機過酸化物及び有機ホウ素化合物が好ましく、有機ホウ素化合物がより好ましい。
【0071】
(有機過酸化物)
有機過酸化物の例には、ジアセチルパーオキサイド、ジイソブチルパーオキサイド、ジデカノイルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル(BPO)、スクシン酸パーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類;tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルネオデカネート、クメンパーオキシネオデカネート等のパーオキシエステル類;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド等の過酸化スルホネート類が含まれる。
【0072】
有機過酸化物は、第3級アミンと組み合わせて、又はスルフィン酸若しくはそのアルカリ金属塩類及び第3級アミンと組み合わせて、レドックス開始剤として使用しても良い。
【0073】
例えば、過酸化ベンゾイル(BPO)は、N,N-ジメチル-p-トルイジンやN,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン等の第3級アミンと組み合わせて使用しても良い。第3級アミンを使用することで、室温下においても電子移動によってラジカル種が発生するため、加熱しなくても重合反応を容易に開始できる。なお、第3級アミンは、(メタ)アクリレート系単量体(C)に予め添加されることが好ましい。
【0074】
(有機ホウ素化合物)
有機ホウ素化合物の例には、トリアルキルホウ素、アルコキシアルキルホウ素、ジアルキルボラン、部分酸化トリアルキルホウ素、アルキルボラン・アミン錯体が含まれる。
【0075】
トリアルキルホウ素の例には、トリエチルホウ素、トリプロピルホウ素、トリイソプロピルホウ素、トリブチルホウ素、トリ-sec-ブチルホウ素、トリイソブチルホウ素、トリペンチルホウ素、トリヘキシルホウ素、トリヘプチルホウ素、トリオクチルホウ素、トリシクロペンチルホウ素、トリシクロヘキシルホウ素等の炭素数が2~8のアルキル基を有するトリアルキルホウ素が含まれる。トリアルキルホウ素に含まれるアルキル基は、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基、シクロアルキル基のいずれであっても良く、トリアルキルホウ素に含まれる3つのアルキル基は同一であっても異なっていても良い。
【0076】
アルコキシアルキルホウ素の例には、ブトキシジブチルホウ素等のモノアルコキシジアルキルホウ素、ジアルコキシモノアルキルホウ素が含まれる。アルコキシアルキルホウ素に含まれるアルキル基と、そのアルコキシ基のアルキル部とは同一であっても異なっていても良い。
【0077】
ジアルキルボランの例には、ジシクロヘキシルボラン、ジイソアミルボランが含まれる。ジアルキルボランに含まれる2つのアルキル基は同一であっても異なっていても良い。また、ジアルキルボランに含まれる2つのアルキル基は結合して単環構造又はビシクロ構造を形成していても良い。このような化合物としては、例えば9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナンがある。
【0078】
部分酸化トリアルキルホウ素とは、トリアルキルホウ素の部分酸化物である。中でも、部分酸化トリブチルホウ素が好ましい。トリアルキルホウ素1モルに対して付加する酸素の量は、好ましくは0.3~0.9モル、より好ましくは0.4~0.6モルである。
【0079】
アルキルボラン・アミン錯体の例には、トリエチルボラン・ジアミノプロパン(TEB-DAP)、トリエチルボラン・ジエチレントリアミン(TEB-DETA)、トリ-n-ブチルボラン・3-メトキシプロピルアミン(TnBB-MOPA)、トリ-n-ブチルボラン・ジアミノプロパン(TnBB-DAP)、トリ-sec-ブチルボラン・ジアミノプロパン(TsBB-DAP)、メチルアミノエトキシジエチルボラン(MAEDEB)、メチルアミノエトキシジシクロヘキシルボラン(MAEDCB)及びこれらから誘導された誘導体が含まれる。
【0080】
アルキルボラン・アミン錯体が重合開始剤(D)として使用される場合、さらに(メタ)アクリレート系単量体(C)と共に脱錯化剤を使用することが好ましい。本願明細書において、「脱錯化剤」とは、アルキルボラン・アミン錯体からアルキルボランを遊離できる化合物を称し、そのアルキルボランの遊離によって重合反応の開始を可能にする。
【0081】
脱錯化剤としては、酸又は上記酸性基を有する(メタ)アクリレート系単量体を使用できる。酸としては、ルイス酸(例えばSnCl、TiCl)、ブレンステッド酸(例えばカルボン酸類、HCl、HSO、HPO、ホスホン酸、ホスフィン酸、ケイ酸)が挙げられる。
【0082】
カルボン酸類としては、一般式R-COOHで示されるものが挙げられる。式中、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数2~8のアルケニル基、炭素数2~8のアルキニル基又は炭素数6~10のアリール基を示す。アリール基は、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子等の置換基で置換されていても良い。上記一般式で表されるカルボン酸の例には、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸、安息香酸及びp-メトキシ安息香酸が挙げられる。酸性基を有する(メタ)アクリレート系完了体の例には、4-メタアクリロキシエチルトリメリット酸及びその無水物が含まれる。
【0083】
これら有機ホウ素化合物の中でも、トリブチルホウ素又は部分酸化トリブチルホウ素が好ましく、部分酸化トリブチルホウ素がより好ましい。トリブチルホウ素、部分酸化トリブチルホウ素を有機ホウ素化合物として用いた場合には、操作性が良くなるだけでなく、水分を有する生体に対して適切な反応性を有する。また、トリブチルホウ素、部分酸化トリブチルホウ素を有機ホウ素化合物として用いた場合には、生体の様に水分が多い場所でも反応が開始し、反応が進むために、組成物と生体との界面においてモノマーが残存しにくく、そのため生体への為害性が極めて少ない。これら有機ホウ素化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0084】
(溶媒)
有機ホウ素化合物は、非プロトン性溶媒又はアルコールと組み合わせて使用されても良い。これらの溶媒により、有機ホウ素化合物が希釈されると、発火性を有する有機ホウ素化合物の発熱性がより穏やかになり、発火性を抑制し、搬送時、保存時、混合時の取扱いがより容易になる。また、急激な発熱を抑制できるので、極めて多量の硬組織補修用組成物を使用する場合でも、硬組織補修用組成物と接する組織に対して為害性をより少なくできる。
【0085】
非プロトン性溶媒の1気圧における沸点は、通常、30~150℃であり、好ましくは50~120℃である。沸点が下限値以上であると、搬送時や保存中に非プロトン性溶媒の揮発又は飛散をより抑制でき、有機ホウ素化合物の発火をより抑制することができる。沸点が上限値以下であると、硬化体における非プロトン性溶媒の残存をより少なくし、物性の低下をより抑制できる。
【0086】
非プロトン性溶媒としては、有機ホウ素化合物と反応するヒドロキシ基、メルカプト基等の活性水素を含有する基を有さず、有機ホウ素化合物と均一な溶液を形成しうる溶媒が好ましい。非プロトン性溶媒の例には、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素;フルオロベンゼン、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、いわゆるフロン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステルが含まれる。これらの中でもペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和脂肪族炭化水素、エーテル、及びエステルが好ましく、ヘキサン、ジイソプロピルエーテル、酢酸エチルがより好ましい。
【0087】
非プロトン性溶媒の含有量は、有機ホウ素化合物100質量部に対し、30~80質量部であることが好ましい。非プロトン性溶媒の含有量が30質量部以上であると、希釈効果がより高まり、発熱又は発火の抑制効果がより十分となる。一方、非プロトン性溶媒の含有量が80質量部以下であると、重合開始剤(D)の重合開始能の低下をより少なくできる。
【0088】
有機ホウ素化合物は、非プロトン性溶媒に加えて、又は非プロトン性溶媒に替えてアルコールを含んでも良い。有機ホウ素化合物にアルコールが添加されることにより、有機ホウ素化合物による反応が、重合活性を低下させることなくより穏やかになり、空気中で紙等に触れても焦げや発火をより抑制することができる。また、硬組織補修用組成物の性状の変化をより生じにくくすることができるため、患部に塗布及び充填するための操作時間をより長く確保することができる。
【0089】
アルコールの1気圧における沸点は、通常60℃~180℃であり、好ましくは60℃~120℃である。アルコールの例には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノールが挙げられる。中でも、炭素数4以下のアルコール、即ち、メタノール、エタノール、n-プロパノール、及びn-ブタノールが好ましく、エタノール及びn-プロパノールがより好ましい。
【0090】
アルコールの含有量は、有機ホウ素化合物100質量部に対し、通常0.01~40質量部、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~20質量部である。アルコールの含有量が0.01質量部以上であると、希釈効果がより高まり、発熱又は発火の抑制効果がより十分となる。一方、アルコールの含有量が40質量部以下であると、重合開始剤(D)の重合開始能の低下をより少なくできる。
【0091】
重合開始剤(D)の含有量は、(A)、(C)及び(D)成分の合計100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは1.0~7.0質量部、特に好ましくは2.1~4.3質量部である。重合開始剤(D)の含有量が下限値以上であると、重合がより短時間で進行しやすくなり、調製直後における(硬化途中における)硬組織補修用組成物の可使時間の始期を早めることができる。重合開始剤(D)の含有量が上限値以下であると、急激な重合の進行をより抑制し、使用時の重合熱の発生を低減することができる。
【0092】
3-4.硬組織補修用組成物の製造方法
上記硬組織補修用組成物は、(メタ)アクリレート系重合体(A)と、造影剤(B)と、(メタ)アクリレート系単量体(C)と、重合開始剤(D)と、任意の他の成分とを混合して調製することができる。
【0093】
混合順序は、特に制限されないが、例えば硬組織補修用組成物の安定性をより高める観点では、まず、(メタ)アクリレート系単量体(C)と重合開始剤(D)を混合した後、当該混合物と、(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)を含む組成物とを混合することが好ましい。
【0094】
3-5.用途
上記硬組織補修用組成物は、患部に塗布及び/又は充填された後、重合反応により硬化させることにより硬化体となる。
【0095】
硬化する前、ドライ・ヒート、スチーム、エチレンオキサイド(EO)、過酸化水素等のガス、濾過、液体等による処理により滅菌しても良い。また、硬組織補修用組成物を患部に充填する前に、予め患部表面をアルコール等の消毒液で消毒しても良い。さらに、硬組織補修用組成物を患部に充填する前に、患部との密着性を改善すること等を目的として、前処理を行っても良い。前処理用の液としては、例え、生理食塩水が挙げられる。
【0096】
4.硬組織補修用キット
上記硬組織補修用組成物が保存中に形態や性能が変化する場合は、上記硬組織補修用組成物に含まれる各成分を、任意の組合せで2つ以上、好ましくは3つ以上に分けて収容した部材を有する硬組織補修用キットとして保存しても良い。そして、使用前に、これらの成分を混合して、硬組織補修用組成物としても良い。
【0097】
上記成分を保存する方法としては、例えば、(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)とを含む組成物、(メタ)アクリレート系単量体(C)を含む組成物、及び、重合開始剤(D)を含む組成物、の3つに分割して保存することが好ましい。
【0098】
あるいは、(メタ)アクリレート系単量体(C)と重合開始剤(D)のうち一方と、メタ)アクリレート系重合体(A)及び造影剤(B)を含む上記組成物とを含む第1組成物、(メタ)アクリレート系単量体(C)及び重合開始剤(D)のうち他方を含む第2組成物、の2つに分割して保存しても良い。例えば、(メタ)アクリレート系重合体(A)及び造影剤(B)を含む上記組成物と(メタ)アクリレート系単量体(C)とを含む第1組成物と、重合開始剤(D)を含む第2組成物と、の2つに分割して保存しても良い。
【0099】
(メタ)アクリレート系単量体(C)や重合開始剤(D)を収納する部材としては、これらの成分の揮散や飛散をより抑制する観点から、例えばガスバリヤ性を有する密閉可能な樹脂容器やガラスアンプルを使用することができる。(メタ)アクリレート系重合体(A)を収納する部材としては、吸湿を防ぐため、及び/又は電子線、ガンマ線等の放射線滅菌を行うための密閉性の良好な樹脂製若しくはガラス製の容器、エチレンオキサイド(EO)、過酸化水素等のガスによる滅菌を行うための樹脂製不織布や滅菌紙で構成された容器又は袋が挙げられる。
【0100】
(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)とを含む組成物、(メタ)アクリレート系単量体(C)を含む組成物、重合開始剤(D)を含む組成物、の3つに分割した硬組織補修用キットの場合、1)(メタ)アクリレート系単量体(C)と重合開始剤(D)とを混合した後、2)得られた混合物と、(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)とを含む組成物とを混合することが好ましい。それにより、より安定した性能を有する硬組織補修用組成物を得ることができる。
【0101】
硬組織補修用キットとしては、例えば上記各成分が3つ以上に分けて収納された部材と、これらの部材から各成分を取り出し、混合するための部材(例えば、整形外科用セメント混合器、整形外科用セメント注入器、整形外科用セメントディスペンサ、セメントガン、混合容器、混合皿、シリンダー等)とを有するキットが挙げられる。
【0102】
硬組織補修用キットとしては、例えば(メタ)アクリレート系重合体(A)及び造影剤(B)を含む組成物、(メタ)アクリレート系単量体(C)、及び重合開始剤(D)が、一つの混合容器内の隔壁又はスペーサーにより3以上に分離されたチャンバー内にそれぞれ別個に収納されていても良い。そして、隔壁の破壊、移動、又はスペーサーの除去により、混合容器に予め設計されたバイパスを、(メタ)アクリレート系単量体(C)及び重合開始剤(D)が通過し、(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)とを含む組成物と接触し、設置された攪拌翼を操作することで、混合が可能な攪拌ユニットを有するキットが挙げられる。
【0103】
3以上に分離されたチャンバー内に各成分が収納された一つの混合容器からなるキットは、2以上の部材、典型的には各容器に分割して使用直前に混合して使用する方法と比較して煩雑さをより低減することができ、さらに、混合容器から直接組成物を注入できるセメントガン等の治具により患部に直接充填することができ、手技的且つ経済的に有用である。
【0104】
患部に充填する治具としては、例えば、整形外科用セメント混合器、整形外科用セメント注入器、整形外科用セメントディスペンサ、セメントガン等が挙げられる。
【0105】
なお、上述の硬組織補修用キット等には、上述したアルコール等の消毒液、密着性を改善すること等を目的とした前処理用のための溶液等が含まれていても良い。
【0106】
さらに上述のキット等で保存する場合には、好ましくは各成分が変質しない(例えば、モノマーが硬化しない)条件で、可視光等の電磁波等により滅菌処理しても良い。
【実施例0107】
1.物性の測定
(1)重量平均分子量(Mw)
(メタ)アクリレート系重合体を試薬特級テトラヒドロフラン(和光純薬工業社製)に溶解させ、この溶液を疎水性0.45μmポリテトラフルオロエチレン製フィルターで濾過した。この濾過後の溶液をサンプルとし、高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製、LC-10AD)、分離カラム(PLgel(10μm)MIXED-B×2)、検出器(Shodex社製、RI-101)を用いて、標準ポリスチレン換算により(メタ)アクリレート系重合体の重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0108】
(2)体積平均粒子径D50
分散溶媒として試薬特級メタノール(溶媒屈折率1.33)(和光純薬工業社製)を使用し、装置内蔵超音波ホモジナイザーで5分間(出力25W)にて(メタ)アクリレート系重合体を分散させた。
この分散液について、装置Loading Index適量範囲内の濃度条件において、循環速度50%(100%時、65mL/秒)で、Microtrac MT3300EXII(Microtrac社製 粒度分布計)を用いて粒度分布を測定した。
そして、(メタ)アクリレート系重合体(A)の体積平均粒子径D50の値は、(メタ)アクリレート系重合体(A)全体における体積平均粒子径の累積50%の値とした。造影剤(B)についても同様に測定した。
【0109】
(3)比表面積
(メタ)アクリレート系重合体の比表面積は、前処理として室温での真空脱気を行い、装置BELSORP-mini(マイクロトラックベル社製)を用いて、液体窒素温度下における窒素ガス吸着法にて測定した。
【0110】
2.組成物の調製及び評価
2-1.組成物の調製
(メタ)アクリレート系重合体(A)として、表1~4に記載の重量平均分子量、体積平均粒子径D50、比表面積を有する球形のポリメタクリル酸メチル(A1)及び不定形のポリメタクリル酸メチル(A2)を使用した。
球形のポリメタクリル酸メチル(A1)と不定形のポリメタクリル酸メチル(A2)の両方を含む場合、球形のポリメタクリル酸メチル(A1)と不定形のポリメタクリル酸メチル(A2)の含有比は、(A1):(A2)=83.3:16.7(質量比)とした。
また、造影剤(B)として、表1~4に記載の体積平均粒子径D50を有する硫酸バリウム(BaSO)(堺化学工業株式会社製)又は酸化ジルコニウム(ZrO)(東ソー株式会社製)を用いた。
また、抗菌薬粒子(Z)として、硫酸ゲンタマイシン(和光純薬工業株式会社製、力価=654μg/mg)を用いた。
【0111】
そして、組成物X1~X5、X7~X14、X16~X20、X22~X27、X29においては、(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)を表1~4に記載の比率(質量部)及び混合条件で混合して、組成物を調製した。上記混合は、ヘンシェルミキサーFM20RC/I型(日本コークス工業株式会社製)を用いて行った。なお、上羽根はST羽根、下羽根はAO羽根を用いており、羽根の長さはどちらも0.275mのものを用いた。
【0112】
組成物X6、X15、X21、X28においては、(メタ)アクリレート系重合体(A)と造影剤(B)及び抗菌薬粒子(Z)を表1~4に記載の比率(質量部)で上述と同様の混合条件で混合して、組成物を調製した。
【0113】
なお、表1~4では、(メタ)アクリレート系重合体(A)の含有量は、球形のポリメタクリル酸メチル(A1)と不定形のポリメタクリル酸メチル(A2)の合計含有量を示す。
【0114】
2-2.組成物の評価
得られた組成物中の造影剤の凝集物の長径を、以下の方法で測定した。
【0115】
(造影剤の凝集物の長径の測定)
まず、上記組成物をポリエチレン板上にて、均一な2mm厚の層状(直径φ=10mmの円状)に敷き詰めて、X線透視装置FLEX-M863(ビームセンス社製)にて撮影した。X線透視装置の管電圧は70kV、管電流は100μA、撮影時間は1000ms、加算回数は3回とした。
次いで、得られた画像において、測定領域(直径φ=10mmの円状)において、任意の5個のX線不透過性の高い部分(造影剤(B)の凝集物)の長径を、画像解析によって測定した。そして、これらのうち最長である長径の値を、凝集物の長径とした。
【0116】
組成物X1~X8の調製条件及び評価結果を表1に示し、組成物X9~X16の調製条件及び評価結果を表2に示し、組成物X17~X22の調製条件及び評価結果を表3に示し、組成物X23~X29の調製条件及び評価結果を表4に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
表1~4に示されるように、(A)成分として球形の(メタ)アクリレート系重合体(A1)のみを用いて組成物を調製した場合、(A)成分と(B)成分の含有比率(B)/(A)が所定以下であり、且つ先端羽根速度を30.0m/s以下の条件で混合すると、組成物中の造影剤(B)の凝集物の長径が1mm未満と小さくなることが分かる(X1~X5、X7~X8及びX17~X20、X22との対比)。
【0122】
(A)成分として球形の(メタ)アクリレート系重合体(A1)と不定形の(メタ)アクリレート系重合体(A2)を併用して組成物を調製した場合においても、(A)成分と(B)成分の含有比率(B)/(A)が所定以下であり、且つ先端羽根速度を30.0m/s以下の条件で混合すると、組成物中の造影剤(B)の凝集物の長径が1mm未満と小さくなることが分かる(X9~X14、X16及びX23~X27、X29との対比)。
【0123】
抗菌薬粒子(Z)をさらに含む組成物を用いた場合においても、(A)成分として(A1)成分のみを用いるか、(A1)成分と(A2)成分とを併用するかに依らず、(A)成分と(B)成分の含有比率(B)/(A)が所定以下であり、且つ先端羽根速度を30.0m/s以下の条件で混合すると、組成物中の造影剤(B)の凝集物の長径が1mm未満と小さくなることが分かる(X6、X15とX21、X28との対比)。
【0124】
3.硬組織補修用組成物の調製及び評価
3-1.硬組織補修用組成物の調製
まず、50mLガラス製サンプル管内に、表5~8に示す配合比で、メタクリル酸メチル((メタ)アクリレート系単量体(C))と(重合開始剤(D))とを入れて、予め混合した。
【0125】
重合開始剤(D)としては、85質量部の部分酸化トリブチルホウ素と15質量部のエタノール混合物(三井化学株式会社製、品番BC-S1i)(重合開始剤(D)の合計を100質量部とする)を用いた。
【0126】
次いで、上記調製した表1~4に記載の組成物と、予め混合した(メタ)アクリレート系単量体(C)と重合開始剤(D)の混合物とを、表5~8に記載の組成比率(質量部)にて、整形外科用骨セメント混合器(ZimmerBiomet社製ディスポーザブルミキシングボウル スパチュラ付)のミキシングボウルに入れ、付属のスパチュラを用いて混合して、硬組織補修用組成物を調製し、硬化させた。なお、混合時間は60秒とした。
【0127】
なお、調製した硬組織補修用組成物は、後述する骨セメントに関する国際規格ISO5833:2002(外科用インプラント-アクリル樹脂セメント)に規定の形状及び材質のモールドを使用して硬化させた。
【0128】
3-2.硬組織補修用組成物の評価
得られた硬組織補修用組成物の硬化体の圧縮強度を、以下の方法で測定した。
【0129】
(圧縮強度の測定)
得られた硬組織補修用組成物の硬化体の圧縮強度は、骨セメントに関する国際規格ISO5833:2002(外科用インプラント-アクリル樹脂セメント)に規定の条件で測定した。
【0130】
硬組織補修用組成物Y1~Y8の調製条件及び評価結果を表5に示し、硬組織補修用組成物Y9~Y16の調製条件及び評価結果を表6に示し、硬組織補修用組成物Y17~Y22の調製条件及び評価結果を表7に示し、硬組織補修用組成物Y23~Y29の調製条件及び評価結果を表8に示す。
【0131】
【表5】
【0132】
【表6】
【0133】
【表7】
【0134】
【表8】
【0135】
表3~4及び表7~8に示すように、造影剤(B)の凝集物の長径が1mmを超える組成物を用いた硬組織補修用組成物Y17~Y29の硬化体の圧縮強度は、70MPaよりも低いことが分かる。
【0136】
これに対し、表1~2及び表5~6に示すように、造影剤(B)の凝集物の長径が1mm未満である組成物を用いた硬組織補修用組成物Y1~Y16の硬化体の圧縮強度は、70MPaよりも高いことが分かる。
【0137】
これらのことから、造影剤(B)の凝集物の長径が1mm未満である組成物を用いることで、硬化体の圧縮強度の低下を少なくし、良好な強度が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明によれば、造影性を有しつつ、十分且つ適正な圧縮強度を有する硬組織補修用組成物の硬化体を付与可能な組成物を提供することができる。
【0139】
本発明の硬組織補修用組成物は、例えば、硬組織同士の接着及び/又は接合、硬組織内への充填、硬組織とチタン、セラミックス、ステンレス等の人工物との接着及び/又は密着、硬組織と軟組織等の他の組織との接着及び/又は密着、骨、軟骨等の硬組織と人工関節との固定用等に用いる骨セメント、骨の欠損部への充填材、骨補填材、骨接合材、人工骨に有用である。
【0140】
さらに、胸椎又は腰椎の変性疾患及び外傷等、例えば、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、脊椎圧迫骨折等の治療における椎体間固定術で上下椎体間の補填等に用いる椎体ケージ、椎体固定用スペーサーに有用である。
【0141】
さらに、本発明の組成物が抗菌薬粒子(Z)を含む場合には、調製される硬組織補修用組成物は医療用のセメントスペーサーやセメントビーズの成形材料としても有用である。例えば、人工関節手術後に患部の感染が生じてしまった場合、挿入した人工関節を抜去することがある。この抜去により生じた隙間を埋めるためには、通常、抗生薬入りのセメントスペーサーが用いられる。また、人工関節を抜去せずに、デブリードマン(壊死組織の除去及び洗浄)のみを行い、抗菌薬入りセメントビーズを埋め込む場合もある。さらに、屈曲可能なスペーサーを用いた報告もある。例えば、本発明の硬組織補修用組成物を成形型内で硬化することにより、所望の形状のセメントスペーサーやセメントビーズが得られる。