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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176316
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】インクジェット用インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20241212BHJP
【FI】
C09D11/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094773
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】井上 豊常
(72)【発明者】
【氏名】石田 あづみ
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039BC07
4J039BC09
4J039BC10
4J039BC12
4J039BC13
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039EA14
4J039EA44
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インクの吐出安定性に優れるインクジェット用インクを提供する。
【解決手段】インクジェット用インクは、顔料と、特定界面活性剤と、水性媒体とを含有する。前記特定界面活性剤は、下記一般式(I)で表される化合物である。前記水性媒体は、水及び特定有機溶媒を含む。前記特定有機溶媒のオクタノール/水分配係数LogKowは、-1.50以上0.30以下である。一般式(I)中、m及びnは、互いに独立して、0.0以上11.0以下の数を表す。m+nは、9.0以上11.0以下である。xは、1.0以上20.0以下の数を表す。yは、1.0以上10.0以下の数を表す。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、特定界面活性剤と、水性媒体とを含有し、
前記特定界面活性剤は、下記一般式(I)で表される化合物であり、
前記水性媒体は、水及び特定有機溶媒を含み、
前記特定有機溶媒のオクタノール/水分配係数LogKowは、-1.50以上0.30以下である、インクジェット用インク。
【化1】
(前記一般式(I)中、m及びnは、互いに独立して、0.0以上11.0以下の数を表し、m+nは、9.0以上11.0以下であり、xは、1.0以上20.0以下の数を表し、yは、1.0以上10.0以下の数を表す。)
【請求項2】
前記特定界面活性剤の含有割合は、0.10質量%以上1.50質量%以下である、請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
前記特定有機溶媒の含有割合は、15.00質量%以上45.00質量%以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
前記一般式(I)において、
xは、6.0以上8.0以下の数を表し、
yは、2.0以上3.0以下の数を表す、請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【請求項5】
前記特定有機溶媒のオクタノール/水分配係数LogKowは、-1.00以上0.20以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【請求項6】
前記特定有機溶媒は、プロピレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1-プロパノール及び2-プロパノールのうち少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用インクには、所望する画質を有する画像を得る観点から、優れた吐出安定性が求められている。
【0003】
一例として、所定構造を有する第1の界面活性剤、所定構造を有する第2の界面活性剤、及び水を含有するインクジェット用インクが提案されている(特許文献1)。上述のインクジェット用インクは、ポリマー及びワックスから選択される少なくとも1種の定着樹脂を所定量含有することで、吐出性が良好となる傾向があるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2022/224789号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のインクジェット用インクによってもインクジェット用インクの吐出安定性を十分に満足することはできない。
【0006】
本発明の目的は、上記課題に鑑みてなされたものであり、吐出安定性に優れるインクジェット用インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェット用インクは、顔料と、特定界面活性剤と、水性媒体とを含有する。前記特定界面活性剤は、下記一般式(I)で表される化合物である。前記水性媒体は、水及び特定有機溶媒を含む。前記特定有機溶媒のオクタノール/水分配係数LogKowは、-1.50以上0.30以下である。
【0008】
【化1】
【0009】
前記一般式(I)中、m及びnは、互いに独立して、0.0以上11.0以下の数を表す。m+nは、9.0以上11.0以下である。xは、1.0以上20.0以下の数を表す。yは、1.0以上10.0以下の数を表す。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るインクジェット用インクは、吐出安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下において、体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、動的光散乱式粒径分布測定装置(例えばマルバーン社製「ゼータサイザー(登録商標)ナノZS」)を用いて測定された値である。本明細書では、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。本明細書に記載の各成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。「A及びBのうち少なくとも1つ」は、「A及び/又はB」を意味する。
【0012】
質量平均分子量(Mw)の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。
【0013】
オクタノール/水分配係数LogKowは、何ら規定していなければ、文献値を参考とすることができる。また、LogKowは、各種計算ソフト(例えば、「Hansen Solubility Parameter in Practice(HSPiP)Ver.5.2.06」(開発者:Prof. Steven Abbott達))を用いて算出してもよい。
【0014】
酸価の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本産業規格)K0070-1992」に従い測定した値である。
【0015】
<インクジェット用インク>
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット用インク(以下、単にインクと記載することがある)を説明する。本実施形態のインクは、顔料と、特定界面活性剤と、水性媒体とを含有する。特定界面活性剤は、下記一般式(I)で表される化合物である。水性媒体は、水及び特定有機溶媒を含む。特定有機溶媒のオクタノール/水分配係数LogKow(以下、単に「LogKow」と記載することがある)は、-1.50以上0.30以下である。
【0016】
【化2】
【0017】
一般式(I)中、m及びnは、互いに独立して、0.0以上11.0以下の数を表す。m+nは、9.0以上11.0以下である。xは、1.0以上20.0以下の数を表す。yは、1.0以上10.0以下の数を表す。
【0018】
なお、本実施形態のインクには、一般式(I)で表される化合物が複数種含まれていてもよい。この場合、一般式(1)において、m、n、x及びyは、それぞれ、一般式(I)で表される複数種の化合物におけるm、n、x及びyの数平均値を表す。
【0019】
本願発明者らは、インクの吐出安定性を改善すべく鋭意検討した。その結果、理由は定かではないが、一般式(I)で表される特定界面活性剤と、特定範囲のLogKowを有する特定有機溶媒を含む水性媒体とを組み合わせることで、吐出安定性に優れたインクを得ることができることを見出した。具体的には、本実施形態のインクは、記録ヘッドからインクがしばらく吐出されなかった後に画像を形成した場合であっても、記録ヘッドから吐出されるインク液滴が目視で淡色化又は透明化せず、所望の画像を得ることができる。以下、本実施形態のインクについて、更に詳細に説明する。
【0020】
[顔料]
本実施形態のインクにおいて、顔料は、例えば、顔料被覆樹脂と共に顔料粒子を構成する。顔料粒子は、例えば、顔料を含むコアと、コアを被覆する顔料被覆樹脂とにより構成される。顔料被覆樹脂は、例えば、溶媒に分散して存在する。本実施形態のインクの色濃度、色相、又は安定性を最適化する観点から、顔料粒子の体積中位径としては、30nm以上200nm以下が好ましく、70nm以上130nm以下がより好ましい。
【0021】
顔料としては、例えば、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、紫色顔料、及び黒色顔料が挙げられる。黄色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、及び193)が挙げられる。橙色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ(34、36、43、61、63、及び71)が挙げられる。赤色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(122及び202)が挙げられる。青色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(15、より具体的には15:3)が挙げられる。紫色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントバイオレット(19、23、及び33)が挙げられる。黒色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック(7)が挙げられる。
【0022】
本実施形態のインクにおいて、顔料の含有割合としては、1.00質量%以上10.00質量%以下が好ましく、4.00質量%以上8.00質量%以下がより好ましい。顔料の含有割合を1.00質量%以上とすることで、本実施形態のインクは、所望する画像濃度を有する画像を形成し易くなる。また、顔料の含有割合を10.00質量%以下とすることで、本実施形態のインクの流動性を確保できる。
【0023】
[顔料被覆樹脂]
顔料被覆樹脂は、本実施形態のインクの水性媒体に可溶な樹脂である。顔料被覆樹脂の一部は、例えば、顔料粒子の表面に存在し、顔料粒子の分散性を最適化する。顔料被覆樹脂の一部は、例えば、本実施形態のインクの水性媒体に溶解した状態で存在する。
【0024】
顔料被覆樹脂としては、スチレン-(メタ)アクリル樹脂が好ましい。スチレン-(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び(メタ)アクリル酸のうち少なくとも1つのモノマーに由来する繰り返し単位と、スチレン単位とを有する。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸ブチルが挙げられる。スチレン-(メタ)アクリル樹脂としては、スチレンと、メタクリル酸メチルと、メタクリル酸と、アクリル酸ブチルとの共重合体(X)が好ましい。なお、共重合体(X)は、塩基性化合物(例えば、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウム)によって等量中和されていることが好ましい。
【0025】
共重合体(X)が有する全繰り返し単位において、スチレンに由来する繰り返し単位の含有割合としては、10.00質量%以上20.00質量%以下が好ましい。共重合体(X)が有する全繰り返し単位において、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位の含有割合としては、10.00質量%以上20.00質量%以下が好ましい。共重合体(X)が有する全繰り返し単位において、メタクリル酸に由来する繰り返し単位の含有割合としては、35.00質量%以上45.00質量%以下が好ましい。共重合体(X)が有する全繰り返し単位において、アクリル酸ブチルに由来する繰り返し単位の含有割合としては、25.00質量%以上35.00質量%以下が好ましい。
【0026】
本実施形態のインクにおいて、顔料被覆樹脂の含有割合としては、0.50質量%以上6.00質量%以下が好ましく、1.50質量%以上4.00質量%以下がより好ましい。顔料被覆樹脂の含有割合を0.50質量%以上6.00質量%以下とすることで、本実施形態のインクの吐出安定性を最適化できる。
【0027】
顔料被覆樹脂の酸価としては、30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下が好ましく、70mgKOH/g以上130mgKOH/g以下がより好ましい。顔料被覆樹脂の酸価を30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下とすることで、顔料の分散性を更に最適化させつつ、本実施形態のインクの保存安定性を最適化できる。
【0028】
顔料被覆樹脂の酸価は、顔料被覆樹脂を合成する際に使用するモノマーの量を変えることによって調整できる。例えば、顔料被覆樹脂を合成する際に、酸性の官能基(例えば、カルボキシ基)を有するモノマー(より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸等)を使用することで、顔料被覆樹脂の酸価を増大させることができる。
【0029】
顔料被覆樹脂のMwとしては、10000以上50000以下が好ましく、15000以上25000以下がより好ましい。顔料被覆樹脂のMwを10000以上50000以下とすることで、本実施形態のインクの粘度の増大を抑制しつつ、形成される画像の画像濃度を最適化し、インクの吐出安定性を最適化できる。
【0030】
顔料被覆樹脂のMwは、顔料被覆樹脂の重合条件(より具体的には、重合開始剤の使用量、重合温度、重合時間等)を変えることによって調整できる。
【0031】
顔料被覆樹脂の重合において、重合開始剤の使用量としては、モノマー混合物1モルに対して、0.001モル以上5モル以下が好ましく、0.01モル以上2モル以下がより好ましい。顔料被覆樹脂の重合においては、例えば、重合温度を50℃以上70℃以下、重合時間を10時間以上24時間以下とすることができる。なお、重合した顔料被覆樹脂は、塩基性化合物で等量中和してから本実施形態のインクの原料として用いることが好ましい。塩基性化合物としては、アルカリ金属イオンの水酸化物(例えば、NaOH又はKOH)が好ましい。
【0032】
[特定界面活性剤]
特定界面活性剤は、上述の一般式(I)で表される化合物である。一般式(I)において、xは、3.0以上15.0以下の数を表すことが好ましく、6.0以上8.0以下の数を表すことがより好ましい。yは、2.0以上5.0以下の数を表すことが好ましく、2.0以上3.0以下の数を表すことがより好ましい。また、一般式(I)において、xが3.0以上15.0以下の数を表すと共にyが2.0以上5.0以下の数を表すことが好ましく、xが3.0以上15.0以下の数を表すと共にyが2.0以上3.0以下の数を表すことがより好ましい。
【0033】
特定界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを主骨格とするノニオン界面活性剤であり、水に溶解してもイオンに解離しないエーテル結合(-O-)を分子内に有している。特定界面活性剤は、疎水性と親水性の中間に近い界面活性剤である。
【0034】
特定界面活性剤の市販品としては、例えば、株式会社日本触媒製の「ソフタノール(登録商標)EPシリーズ」(具体的には、EP5035、EP7025、EP7045、EP7085、EP9050、EP90150、及びEP12030)が挙げられる。「ソフタノール(登録商標)EPシリーズ」は、何れも、一般式(1)のyが1.0以上であり、-[CH2CH(CH3)O]-基を有している。「ソフタノール(登録商標)EPシリーズ」は、基本骨格が同じであり、側鎖の大きさがある程度異なっていても、同様の作用を有する。
【0035】
本実施形態のインクにおいて、特定界面活性剤の含有割合としては、0.10質量%以上1.50質量%以下が好ましく、0.30質量%以上0.70質量%以下がより好ましい。特定界面活性剤の含有割合を0.10質量%以上1.50質量%以下とすることで、本実施形態のインクの吐出安定性を最適化できる。
【0036】
[他の界面活性剤]
本実施形態のインクは、界面活性剤として、特定界面活性剤のみを含有してもよいが、特定界面活性剤以外の界面活性剤(以下、他の界面活性剤と記載する)を更に含有してもよい。界面活性剤において、特定界面活性剤の含有割合としては、60.00質量%以上が好ましく、80.00質量%以上がより好ましい。
【0037】
他の界面活性剤としては、例えば、一般式(I)において、yが1.0未満の数を表す界面活性剤、アセチレングリコール界面活性剤(アセチレングリコール化合物を含む界面活性剤)、シリコーン界面活性剤(シリコーン化合物を含む界面活性剤)及びフッ素界面活性剤(フッ素樹脂又はフッ素含有化合物を含む界面活性剤)が挙げられる。アセチレングリコール界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物及びアセチレングリコールのプロピレンオキシド付加物が挙げられる。
【0038】
本実施形態のインクにおいて、他の界面活性剤の含有割合としては、0.01質量%以上1.00質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.20質量%以下がより好ましい。
【0039】
[水性媒体]
水性媒体は、水及び特定有機溶媒を含む。水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。水性媒体は、特定有機溶媒以外のその他の水溶性有機溶媒(LogKowが-1.50未満又は0.30超の水溶性有機溶媒、以下、その他の水溶性有機溶媒と記載することがある)を更に含んでもよい。
【0040】
本実施形態のインクにおいて、水性媒体の含有割合としては、75.00質量%以上97.00質量%以下が好ましく、87.00質量%以上95.00質量%以下がより好ましい。
【0041】
(水)
本実施形態のインクにおいて、水の含有割合としては、25.00質量%以上80.00質量%以下が好ましく、45.00質量%以上55.00質量%以下がより好ましい。水の含有割合を25.00質量%以上80.00質量%以下とすることで、本実施形態のインクの吐出安定性を最適化できる。
【0042】
(特定有機溶媒)
特定有機溶媒のLogKowは、-1.50以上0.30以下である。特定有機溶媒は、疎水性と親水性との中間に近い有機溶媒である。特定有機溶媒としては、例えば、下記表1に示す有機溶媒が挙げられる。特定有機溶媒としては、1-プロパノール、2-プロパノール、プロピレングリコール又はトリエチレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
【0043】
【表1】
【0044】
本実施形態のインクにおいて、特定有機溶媒の含有割合としては、10.00質量%以上50.00質量%以下が好ましく、15.00質量%以上45.00質量%以下がより好ましい。特定有機溶媒の含有割合を10.00質量%以上50.00質量%以下とすることで、本実施形態のインクの吐出安定性を最適化できる。
【0045】
(その他の水溶性有機溶媒)
その他の水溶性有機溶媒としては、例えば、グリコール化合物、グリコールエーテル化合物、ラクタム化合物、含窒素化合物、アセテート化合物、チオジグリコール及びジメチルスルホキシドが挙げられる。水性媒体において、その他の水溶性有機溶媒の含有割合としては、10.00質量%以下が好ましく、1.00質量%以下がより好ましく、0.00質量%が更に好ましい。
【0046】
[他の成分]
本実施形態のインクは、必要に応じて、公知の添加剤(例えば、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤及び防カビ剤)を更に含有してもよい。
【0047】
[好ましい組成]
本実施形態のインクは、下記表2に示す組成1~8の何れかを有することが好ましい。なお、下記表2において、「割合」は、好ましい含有割合[質量%]の数値範囲を示す。例えば、組成1の顔料の割合である「5.00-7.00」は、顔料を5.00質量%以上7.00質量%以下含有することを示す。「樹脂」は、顔料被覆樹脂を示す。特定界面活性剤の種類の「S-1」、「S-4」、「S-5」は、それぞれ、実施例で使用した界面活性剤(S-1)、(S-4)、(S-5)を示す。特定有機溶媒の種類の「TGME」は、トリエチレングリコールモノメチルエーテルを示す。「PG」は、プロピレングリコールを示す。「IPA」は、2-プロパノールを示す。「NPA」は、1-プロパノールを示す。
【0048】
【表2】
【0049】
[インクの製造方法]
本実施形態のインクは、例えば、顔料を含有する顔料分散液と、特定界面活性剤と、水とを攪拌機により均一に混合することにより製造できる。本実施形態のインクの製造では、各成分を均一に混合した後、フィルター(例えば孔径5μm以下のフィルター)により異物及び粗大粒子を除去してもよい。
【0050】
(顔料分散液)
顔料分散液は、顔料を含む分散液である。顔料分散液は、顔料被覆樹脂を更に含むことが好ましい。顔料分散液の分散媒としては、水が好ましい。
【0051】
顔料分散液における顔料の含有割合としては、5.00質量%以上30.00質量%以下が好ましく、10.00質量%以上20.00質量%以下がより好ましい。顔料分散液における顔料被覆樹脂の含有割合としては、2.00質量%以上12.00質量%以下が好ましく、5.00質量%以上7.00質量%以下がより好ましい。
【0052】
顔料分散液は、顔料と、顔料被覆樹脂と、分散媒(例えば、水)と、必要に応じて添加される成分(例えば、他の界面活性剤)とをメディア型湿式分散機により湿式分散することで調製できる。メディア型湿式分散機による湿式分散では、メディアとして、例えば、小粒径ビーズ(例えば、D50が0.5mm以上1.0mm以下のビーズ)を用いることができる。ビーズの材質としては、特に限定されないが、硬質の材料(例えば、ガラス及びジルコニア)が好ましい。
【0053】
本実施形態のインクの製造において顔料分散液を添加する場合、本実施形態のインクの全原料に対する顔料分散液の割合としては、例えば、20.00質量%以上50.00質量%以下である。
【実施例0054】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0055】
[界面活性剤の準備]
界面活性剤として、下記表3に示す界面活性剤(S-1)~(S-5)を準備した。下記表3の商品名において、「(R)」は、登録商標であることを示す。界面活性剤(S-1)~(S-5)のうち、界面活性剤(S-1)、(S-4)及び(S-5)は、特定界面活性剤であった。界面活性剤(S-2)は、一般式(I)において、y=0の界面活性剤であった。界面活性剤(S-3)は、アセチレングリコール界面活性剤であった。下記表3には、界面活性剤(S-1)~(S-2)及び(S-4)~(S-5)について、一般式(I)におけるm+n、x及びyの数値を記載する。
【0056】
【表3】
【0057】
[顔料分散液の調製]
インクの調製に使用するための顔料分散液を調製した。顔料分散液の調製においては、まず、顔料被覆樹脂(R)及び水を含有する顔料被覆樹脂溶液を調製した。
【0058】
(顔料被覆樹脂溶液の調製)
メタクリル酸に由来する繰り返し単位(MAA単位)と、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位(MMA単位)と、アクリル酸ブチルに由来する繰り返し単位(BA単位)と、スチレンに由来する繰り返し単位(ST単位)とを有するアルカリ可溶性樹脂を準備した。このアルカリ可溶性樹脂は、質量平均分子量(Mw)が20000、酸価が100mgKOH/gであった。このアルカリ可溶性樹脂における各繰り返し単位の質量比は、「MAA単位:MMA単位:BA単位:ST単位=40:15:30:15」であった。このアルカリ可溶性樹脂と、水酸化ナトリウム水溶液とを混合した(中和処理)。中和処理により、アルカリ可溶性樹脂をNaOHで中和した。中和処理において、水酸化ナトリウム水溶液の使用量は、アルカリ可溶性樹脂を中和するのに必要な水酸化ナトリウム水溶液の量の理論値の1.05倍量とした。これにより、顔料被覆樹脂(R)(中和されたアルカリ可溶性樹脂)及び水を含有する顔料被覆樹脂溶液を得た。
【0059】
上述のアルカリ可溶性樹脂のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製「HLC-8020GPC」)を用いて下記条件により測定した。検量線は、東ソー株式会社製のTSKgel標準ポリスチレンであるF-40、F-20、F-4、F-1、A-5000、A-2500、及びA-1000と、n-プロピルベンゼンとを用いて作成した。
【0060】
(質量平均分子量の測定条件)
・カラム:東ソー株式会社製「TSKgel SuperMultiporeHZ-H」(4.6mmI.D.×15cmのセミミクロカラム)
・カラム本数:3本
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:0.35mL/分
・サンプル注入量:10μL
・測定温度:40℃
・検出器:IR検出器
【0061】
(分散処理)
下記表4に示す組成となるように、マゼンタ顔料(C.I.ピグメントレッド122)と、顔料被覆樹脂(R)を含有する上述の顔料被覆樹脂溶液と、アセチレングリコール界面活性剤である日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」(アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物)と、イオン交換水とを、メディア型湿式分散機(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製「DYNO(登録商標)-MILL」)のベッセルに投入した。
【0062】
なお、下記表4の「水」の含有割合は、上述のベッセルに投入したイオン交換水と、顔料被覆樹脂溶液に含まれていた水(詳しくは、アルカリ可溶性樹脂の中和に用いた水酸化ナトリウム水溶液に含まれていた水、及びアルカリ可溶性樹脂及び水酸化ナトリウムの中和反応で生じた水)との合計含有割合を示す。
【0063】
【表4】
【0064】
次いで、ベッセルの内容物を湿式分散した。メディアとしては、ジルコニアビーズ(粒子径1.0mm)を用いた。メディアの投入量は、ベッセルの容量に対して70体積%とした。分散条件は、温度10℃、周速8m/秒とした。これにより、顔料分散液を得た。
【0065】
得られた顔料分散液に含まれる顔料粒子の体積中位径(D50)を測定した。詳しくは、得られた顔料分散液をイオン交換水で300倍に希釈し、これを測定試料とした。動的光散乱式粒径分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザー(登録商標)ナノZS」)を用いて、測定試料中の顔料粒子のD50を測定した。測定試料中の顔料粒子のD50を、顔料分散液に含まれる顔料粒子のD50とした。なお、測定は10回行い、各測定結果の平均値を顔料粒子のD50として採用した。顔料分散液に含まれる顔料粒子のD50は、100nmであった。
【0066】
<インクの調製>
以下の方法により、下記表5に示す組成を有する実施例1~8及び比較例1~6のインクを調製した。
【0067】
[実施例1]
顔料分散液38.10質量部(顔料5.70質量部、顔料被覆樹脂(R)2.30質量部)と、下記表5に示す界面活性剤(実施例1においては、界面活性剤(S-1)0.50質量部)と、下記表5に示す有機溶媒X(実施例1においては、プロピレングリコール30.00質量部)と、イオン交換水とをビーカーに投入した。イオン交換水の使用量は、ビーカーの内容物の量が100.00質量部となる量とした(実施例1においては、31.40質量部)。攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター BL-600」)を用いて、回転速度400rpmで、ビーカーの内容物を混合し、混合液を得た。フィルター(孔径5μm)を用いて混合液をろ過し、混合液に含有される異物及び粗大粒子を除去した。このようにして、実施例1のインクを得た。
【0068】
[実施例2~10及び比較例1~8]
各成分の種類及び量が表5に示す通りとなるように変更した以外は、実施例1のインクの調製と同様の方法により、実施例2~10及び比較例1~8のインクを調製した。
【0069】
なお、表5において、「TGME」は、トリエチレングリコールモノメチルエーテルを示し、「DGME」は、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルを示し、「DGMEA」は、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを示す。
【0070】
【表5】
【0071】
<評価>
以下の方法により、各実施例及び比較例のインクについて、インクの吐出安定性を評価した。評価結果を下記表6に示す。なお、評価は、特に断りのない限り、温度10℃、湿度15%RHで行った。
【0072】
評価機として、京セラ株式会社製の記録ヘッド(「KJ4B-QA」)を搭載した試作吐出評価機を用いた。記録ヘッドは、1ヘッドあたりのノズル数2656個、解像度600dpi、駆動周波数20kHzとなるように設定された。記録ヘッドに、評価対象となるインク(詳しくは、各実施例及び比較例のインクの何れか)を充填した。記録媒体の用紙搬送速度は、840mm/秒とした。
【0073】
[吐出安定性]
まず、以下の第1試験~第3試験を行った。
【0074】
[第1試験]
評価機を用いて、記録媒体(セイコーエプソン株式会社製の光沢紙「KA4100PGP」)に、300×300ドットのソリッド画像を形成した。ソリッド画像の形成直後に、記録媒体の搬送方向に、基準となる1ドットラインのライン画像を形成した(以下、第1ライン画像と記す場合がある)。この第1ライン画像を形成してから5秒間経過後に、記録媒体の搬送方向に、1ドットラインのライン画像(以下、第2ライン画像と記す場合がある)を形成した。この第1ライン画像において最初に滴下されたドットの濃度及び色調と、第2ライン画像において最初に滴下されたドットの濃度及び色調とを、光学顕微鏡を用いて目視観察した。
【0075】
[第2試験~第3試験]
基準となる第1ライン画像形成後、第2ライン画像を形成するまでの時間を10秒又は30秒に変更した以外は、第1試験と同一の操作により、第2試験及び第3試験を実施した。
【0076】
インクの吐出安定性は、各試験で形成した第1ライン画像において最初に滴下されたドットの濃度及び色調と、第2ライン画像において最初に滴下されたドットの濃度及び色調とを比較することで評価した。第1試験~第3試験の評価が全て下記「B」以上なら、吐出安定性が良好と判断した。
【0077】
(吐出安定性の評価基準)
A(特に良好):第2ライン画像で、第1ライン画像のドットに比べて、濃度、色調の差異がないドットが形成できた。
B(良好):第2ライン画像で、第1ライン画像のドットに比べて、濃度、色調の差異が見られるものの、良好な濃度、色調のドットが形成できた。
C(やや不良):第2ライン画像に、第1ライン画像のドットに比べて、淡色化し、輪郭が不明瞭なドットが存在する。
D(不良):ドットが透明化し、認識できない。
【0078】
【表6】
【0079】
表1~6に示すように、各実施例のインクは、顔料と、特定界面活性剤と、水性媒体とを含有していた。特定界面活性剤は、一般式(I)で表される化合物であった。水性媒体は、水及び特定有機溶媒を含んでいた。特定有機溶媒のLogKowは、-1.50以上0.30以下であった。各実施例のインクは、吐出安定性の評価結果が良好であった。
【0080】
一方、比較例1及び2のインクは、特定有機溶媒も特定界面活性剤も含有せず、代わりに、界面活性剤として、一般式(I)において、y=0の界面活性剤(S-2)を含有するとともに、有機溶媒として、LogKowが-1.50未満のDGME、又は、LogKowが0.30超のDGMEAを含有していた。その結果、比較例1及び2のインクは、吐出安定性の評価結果が不良であった。
【0081】
また、比較例3及び4のインクは、特定界面活性剤を含有せず、代わりに、一般式(I)において、y=0の界面活性剤(S-2)を含有していた。その結果、比較例3及び4のインクは、吐出安定性の評価結果が不良であった。
【0082】
比較例5及び6のインクは、特定有機溶媒を含有せず、代わりに、有機溶媒として、LogKowが-1.50未満のDGME、又は、LogKowが0.30超のDGMEAを含有していた。その結果、比較例5及び6のインクは、吐出安定性の評価結果が不良であった。
【0083】
比較例7及び8のインクは、特定界面活性剤を含有せず、代わりに、アセチレングリコール界面活性剤を含有していた。その結果、比較例7及び8のインクは、吐出安定性の評価結果が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の実施形態のインクは、画像を形成するために用いることができる。