(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176334
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】高温化抑制シート、日射面の高温化抑制方法および塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20241212BHJP
C09D 5/33 20060101ALI20241212BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241212BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20241212BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20241212BHJP
B60K 37/00 20240101ALI20241212BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/33
C09D7/61
C09D7/63
B32B5/18
B60K37/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094798
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】514222835
【氏名又は名称】TCユニオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181940
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 禎浩
(72)【発明者】
【氏名】成田 明
【テーマコード(参考)】
3D344
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
3D344AA08
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3D344AC04
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4J038CC022
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4J038PB07
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】 車のダッシュボード等の日射面が高温化するのを抑制するシートを提供する。
【解決手段】 シート基材2を塗装し、前記シート基材の柔軟性が維持されるように軟質な中空ビーズ4と硬質な中空ビーズ5を所定の割合含む断熱層3と、反射材によって所定値以上の日射反射率となる反射層6とを形成し、日射による高温化を抑制するシート1とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
日射による高温化を抑制するためのシートであって、
前記シートは、シート基材上に塗装によって形成された上層の反射層および下層の断熱層を備え、
前記反射層は、日射反射率が所定値以上となるように反射材を含み、
前記断熱層は、前記シート基材の柔軟性が維持されるように硬質な中空ビーズに軟質な中空ビーズを所定の割合含むことを特徴とする高温化抑制シート。
【請求項2】
前記反射層を形成する反射材として、前記中空ビーズの少なくとも1種と同じ素材が用いられたものであることを特徴とする請求項1に記載の高温化抑制シート。
【請求項3】
前記断熱層が、前記中空ビーズおよび前記反射材を同一の塗膜形成材中に含む塗料によって形成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の高温化抑制シート。
【請求項4】
日射面の高温化抑制方法であって、
日射によって温度上昇が見込まれる領域に請求項1または2に記載の高温化抑制シートを被せ、前記領域の温度上昇を防ぐことを特徴とする日射面の高温化抑制方法。
【請求項5】
日射によって温度上昇が見込まれる領域に塗布することで前記領域の高温化を抑制するための塗料であって、
反射材と、硬質な中空ビーズと、軟質な中空ビーズとを含み、
前記反射材は、日射反射率が所定値以上となる含有量であり、
前記軟質な中空ビーズは、塗布対象の柔軟性が維持される含有量であることを特徴とする塗料。
【請求項6】
日射によって温度上昇が見込まれる領域に塗布することで前記領域の高温化を抑制するための塗料であって、
反射材と、顔料と、硬質な中空ビーズと、軟質な中空ビーズとを含み、
前記反射材と前記顔料は、日射反射率が所定範囲内となる含有量であり、
前記軟質な中空ビーズは、塗布対象の柔軟性が維持される含有量であることを特徴とする塗料。
【請求項7】
前記反射層を形成する反射材として、前記中空ビーズの少なくとも1種と同じ素材が用いられたものであることを特徴とする請求項5または6に記載の塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温化抑制シート、日射面の高温化抑制方法および塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駐停車中の車内に太陽光が照りつけると、車内が高温化することが知られている。特に車のダッシュボード等は、短時間で急激に高温化しやすく、しめきった車内の温度を高める。
【0003】
一方、ダッシュボード等の日射面の温度上昇を抑制する有効な対策は少ない。例えば、車内の空調を稼働させ続けるという対策が挙げられるが、常にこのような運用を行うことは現実的ではない。ここで、サンシェードの活用が挙げられるが、一般的なものは反射機能重視で断熱効果が低い、断熱性重視のものは折り畳み性が悪い等の問題がある。
【0004】
このような中、乗物本体において日光が当たる部位に構成される乗物用内装材になるものとして、赤外線反射機能を有する無機顔料が含有された熱可塑性合成樹脂の繊維体により構成される不織布(特許文献1)がある。
【0005】
これは、赤外線反射機能を有する無機顔料が内部に含まれた繊維体により、重量増加や、成形性の阻害をすることなく、遮熱効果を有する不織布およびこの不織布を用いた乗物用内装材を提供するものである。
【0006】
しかしながら、特許文献1によると、赤外線反射機能を有する無機顔料を含ませた熱可塑性合成樹脂の繊維体が必要であり、当該繊維の製造時に無機顔料の日射反射率が所定範囲内に調整されなければならない。また、これは繊維体が基材となるため、無機顔料の結晶構造における粒子径等が当該繊維の仕様によって制約される等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、低コストかつ簡易に、日射面が高温化するのを抑制するシート等を提供することである。
【0009】
第1の発明は、日射による高温化を抑制するためのシートであって、前記シートは、シート基材上に塗装によって形成された上層の反射層および下層の断熱層を備え、前記反射層は、日射反射率が所定値以上となるように反射材を含み、前記断熱層は、前記シート基材の柔軟性が維持されるように硬質な中空ビーズに軟質な中空ビーズを所定の割合含むことを特徴とする高温化抑制シートである。また、第2の発明は、前記反射層を形成する反射材として、前記中空ビーズの少なくとも1種と同じ素材が用いられたものであることを特徴とする第1の発明の高温化抑制シートである。また第3の発明は、前記断熱層が、前記中空ビーズおよび前記反射材を同一の塗膜形成材中に含む塗料によって形成されたものであることを特徴とする第1または2の発明の高温化抑制シートである。また、第4の発明は、日射面の高温化抑制方法であって、日射によって温度上昇が見込まれる領域に第1または2の発明の高温化抑制シートを被せ、前記領域の温度上昇を防ぐことを特徴とする日射面の高温化抑制方法である。また第5の発明は、日射によって温度上昇が見込まれる領域に塗布することで前記領域の高温化を抑制するための塗料であって、反射材と、硬質な中空ビーズと、軟質な中空ビーズとを含み、前記反射材は、日射反射率が所定値以上となる含有量であり、前記軟質な中空ビーズは、塗布対象の柔軟性が維持される含有量であることを特徴とする塗料である。また、第6の発明は、日射によって温度上昇が見込まれる領域に塗布することで前記領域の高温化を抑制するための塗料であって、反射材と、顔料と、硬質な中空ビーズと、軟質な中空ビーズとを含み、前記反射材と前記顔料は、日射反射率が所定範囲内となる含有量であり、前記軟質な中空ビーズは、塗布対象の柔軟性が維持される含有量であることを特徴とする塗料である。また、第7の発明は、前記反射層を形成する反射材として、前記中空ビーズの少なくとも1種と同じ素材が用いられたものであることを特徴とする第5または6の発明の塗料である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、反射層と断熱層を備えた高温化抑制シートが塗装によって形成されるため、安価で簡易なシートとすることが期待できる。また、本発明は、断熱層として硬質な中空ビーズに軟質な中空ビーズが所定割合含まれることで、シートの柔軟性が維持され、所望の形状に応じたシートの利用や未利用時のシートの折り畳みが容易になることが期待できる。また、本発明は、同一の塗膜形成材中に反射材と断熱材が含まれるため、一回の塗布で反射層と断熱層が形成され、安価で簡易なシートとすることが期待できる。また、本発明は、シートを日射による温度上昇が見込まれる領域に被せるだけよいため、簡易に車内のダッシュボードの日射面の温度上昇を抑制することが期待できる。また、本発明は、塗膜形成材中に顔料を反射材と断熱材とともにそれぞれ所定量含むため、反射光の低減等の用途に応じてシートが着色されても高温化抑制機能の維持が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】高温化抑制シートの基材(黒色部は断熱塗膜形成部)の一例である。
【
図2】高温化抑制シートの断面概略イメージである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施例1)
以下、本発明をその実施形態に基づき詳細に説明する。
【0013】
<シート基材>
図1は、本発明に係るシート1の基材2として用いられた布シートの表面の写真である。写真は、白色の布シートの一部に断熱塗料が塗られた状態を示すものである(写真下部の黒色部分が、断熱塗料が塗布された部分)。ただし、シートの素材はこれに限定されるものではなく、各種樹脂等を成分とするものでもよいし、皮や紙等からなるものでもよい。
【0014】
<塗膜>
図2は、シート1の内部構造をあらわす断面の概略イメージ図である。シート1は、主に、シート基材2、断熱層3(断熱層3は、主に、軟質な中空ビーズ4と硬質な中空ビーズ5を含む)、反射層6からなる。
図2は、塗膜中に中空ビーズの素材が複数あることを示す。
図2では、表現上、各素材の中空ビーズの粒径はほぼ同程度であるが、実際には粒径に幅がある。また、
図2には記載されていないが、塗膜形成には、シート基材2との付着性を強化するための下地調整剤や、塗膜表面の艶仕上げ剤、防汚等のコーティング剤等が使用されるものでもよい。
【0015】
<塗料>
本実施例において用いられたのは水性塗料であるが、塗膜形成のための塗料は、水性系・溶剤系のいずれの成分が用いられてもよい。例えば、アクリルエマルジョン樹脂が挙げられるが、ウレタン系、シリコン系、フッ素系成分やその他の成分を主成分とするものでもよい。
【0016】
<中空ビーズ>
本実施例に用いられた塗料は、断熱層3の形成のために、軟質な中空ビーズ4としてアクリル中空ビーズを含み、塗膜が所定の厚さとなるよう硬質な中空ビーズ5(ここでは、セラミック中空ビーズ)を含んでいる。塗膜形成後の塗膜内部の拡大写真(省略)によると、塗膜内部の断熱層3たる部分は、アクリル中空ビーズとセラミック中空ビーズとが隣接し、軟質なアクリル中空ビーズには変形したものもあるが、割れることなく各中空ビーズの密な状態となっている。中空ビーズは、断熱層3の形成のためのものであり、素材の種類数は限定されない。
【0017】
また、中空ビーズの素材は、限定されるものではないが、例えば、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート等のプラスチック、ゴム等のエラストラマが挙げられる。これらは、軟質な中空ビーズの例である。一方、硬質な中空ビーズの例としては、セラミック、ガラス等が挙げられる。
【0018】
本実施例における各素材の中空ビーズの粒径は、多くが数十μmのオーダーである。具体的には、各素材の中空ビーズともに、1μm以下の微小な粒径のものを除くと、粒径約80μm、約60μm、約50μmのものが多く、重量比は約5対3対2である。また、一般的に、中空ビーズの中空部分の体積は、80%以上である。
【0019】
<反射材および反射率>
反射材は、所定の反射率が実現できるものであればどのようなものでもよい。また、反射材によって形成された反射層6の反射率は、高温化抑制の対象となる日射面の温度上昇を低減できることが目安となる。より具体的には、JISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの射反射率90%程度が挙げられる。ただし、これに限定されるものではない。本実施例では、セラミック中空ビーズの製造過程で破砕してできた微細粉7が反射材として用いられた。この反射材は、塗膜の乾燥過程で塗膜表面に浮上し、反射層6を形成する。反射材としては、他に酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、ガラス等が用いられてもよい。
【0020】
<塗装>
塗装(塗布)は、シート基材2の汚れを取り除く工程、ローラー刷毛で塗料を膜厚約200μm(乾燥時)とする工程からなる。本実施例では、1回の塗布により約200μmの塗膜が形成された。ただし、塗布方法は限定されるものではない。例えば、吹き付けによるものが挙げられる。
【0021】
<塗膜形成>
図3は、塗膜乾燥前の塗膜の断面イメージ図である。
図2では、各ビーズの粒径が均一に表現されているが、実際には塗膜形成材には
図3のように様々な粒径のビーズが含まれる。そして、塗膜乾燥前は、軟質な中空ビーズ4、硬質な中空ビーズ5、反射材6を形成する微細粉7が多少の間隔的な余裕をもって分散した状態である。塗膜は、乾燥することで
図4の状態に変化する。
図4は、塗膜乾燥後の塗膜、すなわち断熱層3の断面イメージ図である。各ビーズはより密な状態になり、また、微細粉7は塗膜表層で反射層6を形成する。なお、
図3、
図4に示されるビーズ4、5や微細粉7の密集の程度は、それぞれの使用量によって変わってくるものである。
【0022】
<高温化抑制試験>
シート1の効果確認試験は、次の通りである。試験は、秋季(晴天の日)に実施された。
高温化抑制対象:普通乗用車内のダッシュボード
条件:車のエンジンは停止(エアコン停止)、車のダッシュボード上に太陽光が差し込む状態
確認事項1:ダッシュボード上をシート1で覆わなかった場合と覆った場合での車内の高温化抑制効果の違い
確認事項2:シート塗膜の着色(白系色顔料/黒系色顔料)による影響
試験時間:それぞれ約30分
評価方法:体感による官能評価(「普通」、「やや暑い」、「かなり暑い」の3段階の評価)
【0023】
<結果>
体感温度の比較結果は以下の通りである。
ダッシュボードがシート1で覆われなかった場合、普通の体感から、かなり暑いという体感になった。
ダッシュボードが白系色のシート1で覆われた場合、普通の体感から、やや暑いという体感レベルになった。
【0024】
塗膜の着色による影響の確認結果は以下の通りである。
白系色顔料の場合、温度上昇が体感され、やや暑いという体感レベルが継続した。
黒系色顔料の場合、温度上昇が体感され、やや暑いという体感レベルが継続した。
【0025】
<考察>
車のダッシュボード上に太陽光が差し込む状態では、シート1の有無によって、短時間で体感温度に有意な差が生じることが確認された。太陽光によって温度上昇が見込まれる部分は、太陽光が直接当たる領域であるため、当該領域の遮光は、ダッシュボード等の日射面の遮光、断熱を通じて温度上昇を抑制し、ひいては車内における体感温度の上昇抑制に有効であることが示唆される。
【0026】
本発明に係るシート1は、シート基材2上に断熱層3と反射層6を有するものである。ダッシュボードの日射面の遮光、断熱を通じて車内の温度上昇の抑制に寄与した要因として、まず、シート1の表層となる反射層6が挙げられる。本実施例において、反射層6は、セラミック中空ビーズの製造過程で生じた微細粉7によって形成されたものである。
【0027】
この微細粉7は、中空ビーズとともにあらかじめ塗膜形成材中に含有されることで、塗膜の乾燥過程で塗膜表面に浮き上がり、反射層6を形成する。これは、本発明の発明者が見出した効果である。微細粉7は粒径が小さいほど(例えば、粒径1μm以下)、塗膜の乾燥過程で塗膜の外へと移動する水分の影響を受けやすく、塗膜表面に押し出されやすいことが示唆される。
【0028】
本実施例において反射層6を形成する微細粉7は、セラミック中空ビーズを由来とするものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ガラス中空ビーズを由来とするものでもよく、軟質な中空ビーズ等に用いられる樹脂からなる微細粉7であってもよい。この場合も塗膜の乾燥過程で反射層6が形成される。すなわち、使用される微細粉7の量の調整によって、形成される反射層6の反射率の調整も可能である。また、微細粉7は、複数の素材でもよい。
【0029】
このようにして形成された反射層6は、太陽光を反射する。微細粉7の粒径が小さく、使用量が多いほど、反射層6の反射率は高まる。所定量の微細粉7によりJISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの射反射率90%程度は実現可能である。このように、反射層6は、太陽光によるダッシュボードの日射面の温度上昇を抑制する。また、微細粉7は、断熱層3を構成する中空ビーズの破片であるため、反射材を別途塗布する必要がなくなり、塗布による反射層形成工程も不要となる。
【0030】
次に、ダッシュボードの日射面の温度上昇の抑制に寄与した要因として、反射層6の下層である断熱層3が挙げられる。断熱層3は、反射層6によって反射できなかった太陽光の熱を遮断する。本実施例では、アクリル中空ビーズ(軟質な中空ビーズ4)とセラミック中空ビーズ(硬質な中空ビーズ5)の2種類の中空ビーズによって断熱層3が形成された。このように、軟質な中空ビーズ4と硬質な中空ビーズ5の併用効果として、主に、次の2点が挙げられる。
【0031】
1点目は、中空ビーズに割れのない密な中空構造が形成される点である。本実施例では、アクリル中空ビーズとセラミック中空ビーズが同程度の量用いられており、ほぼ均等に分散した状態になっている。また、セラミック中空ビーズに隣接するアクリル中空ビーズは、セラミック中空ビーズによって多少のひずみが生じることがあるが、一定程度弾性を有するため、割れることなく、隣接するビーズと密な状態が維持される。このようにして形成された密な中空構造は、断熱性を高める。
【0032】
2点目は、一般的な塗膜の膜厚よりも塗膜の厚みを一定程度大きくできる点である。密な中空ビーズの構造は、少なくとも数百μmレベルの膜厚形成が可能であり、屋外においても塗膜形成から1年以上、変形等しないことが確認されている。例えば、アクリル中空ビーズのみで断熱層3が形成された場合、本実施例と同程度の品質で同程度の膜厚を実現することは困難である。また、セラミック中空ビーズのみで断熱層3が形成された場合は、塗膜が割れ、断熱効果は減少する。
【0033】
ただし、中空ビーズが1種類であることは否定されるものではない。必要とされる断熱性能は、状況によって異なるためである。また、シート1は、ダッシュボード等、様々な形状の対象に使用され、未使用時には折り畳んで収納されることから、軟質な中空ビーズ4が果たす役割は大きい。シート基材2としては、布その他の柔軟な素材が使用されるケースが想定され、塗膜形成後にシート1の柔軟性が失われると利便性が低下するからである。
【0034】
また、本実施例では、白系色顔料と黒系色顔料によって、体感温度に有意な差は確認されなかった。一般的に、遮光塗料として黒系色顔料が使用されることはほとんどない。黒系色は、反射率を低下させるからである。しかしながら、本実施例において、白系色顔料と黒系色顔料の違いによって体感温度に有意な差がなかったことから、黒色化によっても高温化抑制機能が失われないことが示唆される。また、赤色、緑色、青色をはじめ、茶色、紺色、紫色、灰色等のダーク色等、その他任意に着色されたものも同様の効果を奏することが示唆される。
【0035】
このように、本実施例では、断熱層3と反射層6の組合せは、着色による昇温を緩和することが確認された。白系色塗膜は、反射率が高く、一般的に高温化抑制効果が大きいと言えるが、一方、反射光が車外の人にあたる等の問題がある。断熱層3と反射層6の組合せは、着色によって反射光によるまぶしさを緩和しつつ、車内等の温度上昇を抑えることが示唆される。
【0036】
(実施例2)
本発明の有用な形態の考察および検証結果について以下、説明する。
【0037】
反射と断熱の機能のバランスは、目的よって変わってくる。例えば、遮光重視の場合は、反射率が90%以上であることが望ましい。この場合、反射層6が、ダッシュボード等の日射面の温度上昇を抑制する役割が大きくなる。反射層6を形成する反射材7の使用量は多くなり、一方、断熱層3を形成する断熱素材の使用量は少なくてすむことになる。
【0038】
一方、太陽光の反射によるまぶしさを抑えたい場合やシート1のデザイン性重視の場合は、反射層6を形成する反射材7の使用量は少なくされることになる。また、シート1は、黒系色やその他の色に着色されると太陽光を吸収しやすくなるため、その分、反射率は低くなる。反射率は、40%~80%に設定されてもよい。この場合、断熱層3の役割が重要になってくる。すなわち、太陽光の吸収にともなう畜熱をシート表層の最小限にとどめ、高温化を抑制する断熱層3の役割が大きくなる。この場合、特に、断熱素材の密集性が重要になる。
【0039】
例えば、実施例1のように、軟質な中空ビーズ4と硬質な中空ビーズ5が1対1の割合で用いられた塗料によって形成された断熱層3が挙げられる。塗膜形成前は軟質な中空ビーズ4と硬質な中空ビーズ5は余裕のある位置関係であるが、塗膜が乾燥するに従って、それぞれの中空ビーズの間隔が狭くなり、密集性が高まる。
【0040】
ただし、軟質な中空ビーズ4に対して硬質な中空ビーズ5の割合が大きくなると、硬質な中空ビーズ5同士の接触が多くなり、割れが生じやすくなる。そのため、硬質な中空ビーズ5が用いられる場合には、割れに強い素材が選定される、軟質な中空ビーズ4の割合が低くなり過ぎないように設定されること等が求められる。
【0041】
また、シート基材2等の塗布対象が軟質な場合、硬質な中空ビーズ5の割合が大きくなると、その柔軟性が低下する。軟質な中空ビーズ4と硬質な中空ビーズ5の割合としては、1対1であれば、一般的なサンシェード用基材等の多くの対象(樹脂素材、紙素材等)に適用可能である。
【0042】
また、粒径が異なる中空ビーズ(例えば、数10μmの粒径と数μmの粒径の中空ビーズ)が用いられることで、粒径の大きい中空ビーズ間の隙間に粒径の小さい中空ビーズが入り、塗膜乾燥時の密集性が高まる。このように中空ビーズが密に形成された断熱層3は、断熱機能が強化され、太陽光からの熱をシート表層にとどめ、日射面の温度上昇を抑制する。
【0043】
実施例1では、セラミックの微細粉7が塗膜形成過程でシート表層に反射層6を自然形成するものであった。このように、塗膜形成過程で反射層6が自然形成されるためには、中空ビーズ間を移動できる粒径であることが必要である。例えば、反射材の粒径は、1μm未満のものが想定される。
【0044】
実施例1では、反射材としてセラミックが用いられたが、塗膜形成過程において反射層6が自然形成されるのであれば、どのようなものが用いられてもよい。セラミックの微細粉7は、塗膜形成過程において、塗膜形成材中の水分の移動に伴って塗膜表面に押し出され、反射層6を形成することが示唆される。
【0045】
他の素材の微細粉7としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、ガラス等が挙げられ、塗膜形成材中に用いられることで反射層6を形成することが示唆される。また、軟質な中空ビーズ4等にも用いられる上記例示の樹脂からなる微細粉7であっても同様である。また、微細粉7が複数種の場合も同様である。
【0046】
また、反射層6は、塗膜形成後に別途、形成されてもよい。例えば、実施例1に係る塗膜が形成された後、その上面にセラミックの微細粉7が追加塗布されてもよい。これは、塗膜形成によって所望の反射率が得られなかった場合の補強の例である。また、酸化チタン等の光触媒の微細粉7が追加塗布されてもよい。これは、防汚機能等、目的に応じた機能の付与の例である。
【0047】
また、シート基材2は、一方の面に接着剤が塗布されたシールであってもよい。例えば、シールの表面に塗料が塗布され、断熱層3と反射層6を備えた高温化抑制シートであってもよい。この場合の使用例としては、太陽光による高温化を防ぎたい部分に接着剤塗布面によってシートが貼り付けられることになる。
【0048】
また、所定の反射材と断熱材を塗膜形成材中に含む塗料が、太陽光による高温化を防ぎたい部分(日射によって温度上昇が見込まれる領域)に塗布されるものであってもよい。このように、あらかじめ塗膜形成されたシールが貼付される形態や上記塗料および上記塗料による高温化抑制方法は、いずれも本発明の範疇である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、車内等のダッシュボード等、日射による温度上昇が見込まれる領域に適用可能な方法として利用することができる。また、本発明は、断熱層3と反射層6を簡易に形成し得る安価なシートの製造に利用することができる。また、本発明は、日射による温度上昇が見込まれる領域に適用可能な塗料として利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 シート
2 シート基材
3 断熱層
4 軟質な中空ビーズ
5 硬質な中空ビーズ
6 反射層
7 微細粉