(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176335
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】強度試験機
(51)【国際特許分類】
G01N 3/303 20060101AFI20241212BHJP
G01M 7/08 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
G01N3/303 A
G01M7/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094799
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】小松 健吾
(72)【発明者】
【氏名】久家 浩志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳生
(72)【発明者】
【氏名】森 英樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 圭
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA13
2G061AB05
2G061BA04
2G061BA15
2G061CB05
2G061CB16
2G061DA01
(57)【要約】
【課題】物品のストラップ取付部分、又は、ストラップ自身に関する強度を落下衝撃試験によって試験するのに適した構成を有する強度試験機を提供する。
【解決手段】携帯デバイス1のストラップホール11に取り付けたストラップ2を、鉛直方向に吊り下げて保持する保持部210と、鉛直方向に対して傾いた傾斜方向の移動軌跡L上で、移動軌跡Lの上部位置UPと下部位置LPとの間を移動するスライダ320と、スライダ320に支持され、保持部210から吊り下げられたストラップ2に当接可能な第1の位置と当接不可能な第2の位置との間で変位する係止片330と、スライダ320を移動させ係止片330を変位させる制御部250とを備える。制御部250は、スライダ320の上部位置UPへの移動中に係止片330に引っ掛けて吊り上げたストラップ2を、スライダ320の上部位置UPにおいて解放させ、携帯デバイス1を自由落下させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験物の取付部に取り付けたストラップを、鉛直方向に吊り下げて保持する保持部と、
鉛直方向に対して傾いた傾斜方向の移動軌跡上で、前記移動軌跡の上部位置と下部位置との間を移動するスライダと、
前記スライダに支持され、前記保持部から吊り下げられた前記ストラップに当接可能な第1の位置と、前記保持部から吊り下げられた前記ストラップに当接不可能な第2の位置と、の間で変位する係止片と、
前記スライダを前記下部位置から前記上部位置に移動させ、前記スライダの前記下部位置から前記上部位置への移動中に、前記保持部から吊り下げられた前記ストラップを、前記第1の位置に変位させた前記係止片により引っ掛けて吊り上げさせ、前記スライダの前記上部位置において、前記係止片を前記第1の位置から前記第2の位置に変位させて、前記第1の位置の前記係止片により引っ掛けて吊り上げた前記ストラップを解放させる制御部と、
を備える強度試験機。
【請求項2】
前記制御部は、前記上部位置から前記下部位置に向けて移動する前記スライダが、前記移動軌跡上の、前記移動軌跡及び前記ストラップの双方と直交する方向から見て前記ストラップと交差する箇所と前記下部位置との間に位置する期間中に、前記係止片を前記第2の位置から前記第1の位置に変位させる請求項1に記載の強度試験機。
【請求項3】
前記制御部は、前記上部位置から前記下部位置に向けて移動する前記スライダが、前記移動軌跡上の、前記移動軌跡及び前記ストラップの双方と直交する方向から見て前記ストラップと交差する箇所と前記上部位置との間に位置する期間中に、前記係止片を前記第2の位置から前記第1の位置に変位させる請求項1に記載の強度試験機。
【請求項4】
前記第1の位置の前記係止片が前記ストラップに当接した状態で前記スライダが前記下部位置から前記上部位置に向けて移動することにより、前記保持部と前記係止片との間に位置する前記ストラップの中間部に接触し、接触した前記ストラップに前記被試験物の荷重で発生した張力によって鉛直方向に移動する検知片と、
前記スライダの前記上部位置における前記ストラップの前記張力によって鉛直方向に移動した前記検知片を検出する検出部とをさらに備え、
前記制御部は、前記スライダを前記下部位置から前記上部位置に移動させた後に、前記検出部が前記検知片を検出したか否かに基づいて、前記ストラップに対する前記被試験物の取り付けの有無を判定する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の強度試験機。
【請求項5】
前記制御部は、前記検出部が前記検知片を検出した場合に、前記係止片を前記第1の位置から前記第2の位置に変位させる請求項4に記載の強度試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
被試験物の強度試験は、様々な分野で行われる。特許文献1には、被試験物を任意の姿勢に保持した状態で落下させる落下試験機が開示されている。この落下試験機のように、強度試験機には、被試験物に対して行う試験の内容に対応した構成が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
物品のストラップを取り付ける部分には、取り付けたストラップからの引っ張り力がかかる。ストラップは、例えば、ハンドストラップ、ショルダーストラップ、ネックストラップ等、多岐に亘る。ストラップを取り付ける物品は、例えば、ハンドストラップを取り付ける携帯電話、携帯無線機、ショルダーストラップを取り付けるショルダーバッグ、ショルダーストラップ又はネックストラップを取り付ける楽器等がある。これらの物品におけるストラップの取付部分、又は、ストラップ自身にかかる引っ張り力を模擬する落下衝撃力を試験する試験機の場合は、ストラップ取付部分、又は、ストラップ自身の強度を試験するための構成が必要になる。
【0005】
本発明の目的は、物品のストラップ取付部分、又は、ストラップ自身に関する強度を落下衝撃試験によって試験するのに適した構成を有する強度試験機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の1つの態様に係る強度試験機は、
被試験物の取付部に取り付けたストラップを、鉛直方向に吊り下げて保持する保持部と、
鉛直方向に対して傾いた傾斜方向の移動軌跡上で、前記移動軌跡の上部位置と下部位置との間を移動するスライダと、
前記スライダに支持され、前記保持部から吊り下げられた前記ストラップに当接可能な第1の位置と、前記保持部から吊り下げられた前記ストラップに当接不可能な第2の位置と、の間で変位する係止片と、
前記スライダを前記下部位置から前記上部位置に移動させ、前記スライダの前記下部位置から前記上部位置への移動中に、前記保持部から吊り下げられた前記ストラップを、前記第1の位置に変位させた前記係止片により引っ掛けて吊り上げさせ、前記スライダの前記上部位置において、前記係止片を前記第1の位置から前記第2の位置に変位させて、前記第1の位置の前記係止片により引っ掛けて吊り上げた前記ストラップを解放させる制御部と、
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、物品のストラップ取付部分、又は、ストラップ自身に関する強度を落下衝撃試験によって評価するのに適した構成を有する強度試験機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る強度試験機の構成の概略を示す図である。
【
図3】
図3は、
図2の携帯デバイスのストラップホール部分を拡大して示す図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は、
図1の強度試験機による携帯デバイスの持ち上げから自由落下までの各工程の状態を示す図である。
【
図6】
図6は、
図1の係止片によるストラップの吊り上げ中における検知片の状態の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、
図1の係止片による吊り上げ中のストラップの張力により検知片に加わる力を示す図である。
【
図8】
図8は、
図1の係止片によるストラップの吊り上げ中における検知片の状態の他の例を示す図である。
【
図9】
図9は、携帯デバイスが脱落したストラップの吊り上げ中における検知片の状態を示す図である。
【
図10】
図10は、
図1の強度試験機による強度試験の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、
図1の強度試験機による強度試験の手順の他の例を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、
図1のスライダを下部位置に戻す工程における係止片の状態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一あるいは同等の部位、または構成要素には、同一の符号を付している。
【0010】
以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものである。この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。
【0011】
図1に示す本実施形態の強度試験機100は、被試験物としての携帯デバイス1及び携帯デバイス1に取り付けたストラップ2の強度を試験する装置である。携帯デバイス1は、例えば、携帯無線機、スマートホン等であり、ストラップ2は、例えば、環状のネックストラップである。ストラップ2は、首等に掛けてぶら下げることができる。
【0012】
図2に示すように、携帯デバイス1は、取付部としてのストラップホール11を有している。ストラップ2の先端には、松葉紐とも呼ばれる環状の取付紐21が設けられている。
図3に示すようにストラップホール11に通した取付紐21の輪に、
図2のストラップ2を通すことで、ストラップホール11にストラップ2を取り付けることができる。
【0013】
図1に示すように、強度試験機100は、検出ユニット200、移動ユニット300及び揺れ抑制部材400を有している。
図4に示すように、検出ユニット200は、保持部210を有している。保持部210は、ストラップ2を鉛直方向に吊り下げて保持できるものであればよい。保持部210は、吊り下げフック、棒体等で構成することができる。例えば、保持部210を棒体で構成した場合、保持部210を検出ユニット200の筐体220に対して抜き差しすることで、筐体220に取り付け又は筐体220から取り外すことができる。ストラップ2の輪の中に通した保持部210を筐体220に取り付けることで、保持部210は、
図1に示すように、筐体220の中でストラップ2を鉛直方向に吊り下げて保持することができる。保持部210は、保持部210に保持されたストラップ2により保持部210から鉛直方向に吊り下げられた携帯デバイス1が、不図示の床面に接触しない高さに配置される。
【0014】
検出ユニット200は、検知片230、検出部240及びコントローラ250をさらに有している。検知片230は、筐体220のガイド部260により筐体220に対して鉛直方向に沿って昇降可能に支持されている。ガイド部260に支持された検知片230は、通常は、自重により昇降範囲の下端に位置している。昇降範囲の下端に位置する検知片230の下部231は、筐体220の鉛直方向における下端から下方に露出している。検出部240は、筐体220のガイド部260よりも鉛直方向における上方の箇所に取り付けられている。検出部240は、ガイド部260に支持された検知片230を昇降範囲の上端で検出する。検出部240は、ガイド部260に支持された検知片230を、昇降範囲の上端以外の位置では検出しない。検出部240には、例えば、近接センサ、距離センサ等の非接触式センサを用いてもよい。検出部240に距離センサを用いる場合は、例えば、昇降方向における検知片230までの距離を距離センサで測定する。検出部240は、距離センサの測定距離が、検知片230が昇降範囲の上端に位置するときに相当する所定距離以下であることを検出する。検出部240には、昇降範囲の上端において検知片230と接触するマイクロスイッチ等の接触式センサを用いてもよい。
【0015】
コントローラ250は、例えば、汎用のマイクロコントローラを有している。マイクロコントローラは、CPU(Central Processing Unit )及びメモリを備える。メモリは、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を含む。マイクロコントローラは、例えば、メモリに記憶させたプログラムをCPUが実行することで、複数の情報処理回路を仮想的に構築することができる。複数の情報処理回路は、例えば、移動ユニット300の各部の動作を制御する制御部を構成することができる。コントローラ250に構築される制御部が行う制御の内容は後述する。
【0016】
マイクロコントローラに構築される複数の情報処理回路は、もちろん、コントローラ250の各情報処理を実行するための専用のハードウェアによって構成することも可能である。また、複数の情報処理回路を個別のハードウェアにより構成してもよい。専用のハードウェアは、コントローラ250の機能を実行するようにアレンジされた特定用途向け集積回路(ASIC;Application Specific Integrated Circuit )、従来型の回路部品のような装置を含む。
【0017】
移動ユニット300は、ガイドレール310、スライダ320及び係止片330を有している。ガイドレール310は、鉛直方向に対して傾いた傾斜方向に延在する。スライダ320は、ガイドレール310により傾斜方向にスライド可能に支持されている。ガイドレール310は、スライダ320の傾斜方向の移動範囲を規定する。スライダ320は、ガイドレール310により規定される移動範囲を傾斜方向の移動軌跡Lとして、
図1の仮想線で示す移動軌跡Lの上部位置UPと、実線で示す下部位置LPとの間を移動することができる。スライダ320の移動軌跡Lとストラップ2とは、移動軌跡L及びストラップ2の双方と直交する方向から見て交差する。移動軌跡L及びストラップ2の双方と直交する方向は、
図1では紙面の表裏方向となる。移動軌跡L及びストラップ2の双方と直交する方向から見た、スライダ320の移動軌跡Lとストラップ2とが交差する交点Pの位置は、同じ方向から見て、ストラップ2が保持部210を中心に揺動している場合、移動軌跡L上で移動する。移動軌跡L及びストラップ2の双方と直交する方向から見て、ストラップ2が揺動していない場合、交点Pの位置は、移動軌跡L及びストラップ2の双方と直交する方向から見た、保持部210を通る鉛直線Vと移動軌跡Lとが交差する箇所Cとなる。ストラップ2により保持部210から吊り下げられた携帯デバイス1は、下部位置LPのスライダ320よりもさらに下方に配置される。スライダ320は、例えば、モータ及びベルトプーリ機構等の公知の構成を用いて移動させることができる。
【0018】
図1に示す例の移動ユニット300では、傾斜方向に延在する1本の直線状のガイドレール310によって、スライダ320を傾斜方向にスライド可能に支持する構成とした。移動ユニット300は、図示しないが、例えば、水平方向のX軸レールと鉛直方向のZ軸レールとを組み合わせたXZテーブル機構によって、スライダ320をスライド可能に支持する構成としてもよい。XZテーブル機構は、鉛直方向と水平方向とを合成した傾斜方向にスライダ320をスライドさせることができる。後述する強度試験を行うための、ストラップ2に対する係止片330の係止及び係止解除に支障が生じない限り、水平方向及び垂直方向の少なくとも一方の方向にスライダ320をスライドさせる区間が生じるように、移動ユニット300を構成してもよい。
【0019】
係止片330は、例えば、スライダ320から出没するロッドによって構成することができる。ロッドで構成した係止片330は、保持部210から吊り下げられたストラップ2に対して係止片330が接近離隔するように、スライダ320に対して少なくとも水平方向に出没される。係止片330は、スライダ320から突出させると第1の位置に配置され、スライダ320に没入させると第2の位置に配置される。ロッドによって構成した係止片330は、例えば、ソレノイド等の公知のアクチュエータを用いて、第1の位置と第2の位置との間で少なくとも水平方向に移動させることができる。ロッドによって構成した係止片330は、例えば、ロッドの一端を中心に揺動させることで、ロッドの先端側をスライダ320から出没させる構成としてもよい。ロッドによって構成した係止片330の移動方向は、水平方向に限定されない。
【0020】
係止片330は、例えば、フック等の係止部材によって構成してもよい。係止部材によって構成した係止片330は、例えば、係止部材の少なくとも一部が、第1の位置と第2の位置との間で移動する構成とすることができる。この構成では、係止部材の少なくとも一部が第1の位置にあると、係止部材が曲がった引っ掛け状態となる。係止部材が引っ掛け状態となった係止片330は、水平方向からストラップ2に当接可能となり、ストラップ2を引っ掛けて吊り下げることができる。係止部材の少なくとも一部が第2の位置にあると、係止部材が真っ直ぐ延びた解放状態となる。係止部材が解放状態となった係止片330は、水平方向からストラップ2に当接不可能となり、ストラップ2を引っ掛けて吊り下げることができなくなる。第1の位置と第2の位置との間で係止部材が移動する方向は、水平方向でもよく、水平方向以外の方向であってもよい。
【0021】
スライダ320が、移動軌跡Lの下部位置LPにある場合、係止片330は、保持部210を通る鉛直線に対して図中の右側に配置される。スライダ320が、移動軌跡Lの上部位置UPにある場合、係止片330は、保持部210を通る鉛直線Vに対して図中の左側に配置される。係止片330は、スライダ320から突出した第1の位置にある場合、スライダ320が上部位置UPと下部位置LPとの間を移動する際に、保持部210から吊り下げられたストラップ2に当接する。係止片330は、スライダ320に没入した第2の位置にある場合、スライダ320が上部位置UPと下部位置LPとの間を移動しても、保持部210から吊り下げられたストラップ2に当接しない。
【0022】
係止片330が第1の位置にある場合、下部位置LPのスライダ320が上部位置UPに向けて移動すると、スライダ320が交点Pを通過する辺りで、保持部210から吊り下げられた携帯デバイス1のストラップ2に係止片330が当接する。その後、スライダ320がさらに上部位置UP側に移動すると、係止片330は、当接したストラップ2を引っ掛けて、移動軌跡Lに沿って上部位置UP側に引っ張り、携帯デバイス1を吊り上げる。
【0023】
係止片330が第1の位置にある場合、上部位置UPのスライダ320が下部位置LPに向けて移動すると、スライダ320が交点Pを通過する辺りで、保持部210から吊り下げられた携帯デバイス1のストラップ2に係止片330が当接する。ストラップ2が揺動している場合は、ストラップ2の揺動角度に対応して交点Pの位置が移動軌跡L上で移動する。交点Pは、ストラップ2が揺動していないときに、移動軌跡L上の最も下部位置LPに近い位置となる。揺動中のストラップ2に係止片330が当接した後、スライダ320がさらに下部位置LP側に移動すると、係止片330は、当接したストラップ2の揺動角度を徐々に規制する。さらに下部位置LP側に移動したスライダ320が保持部210の鉛直線上に位置すると、係止片330の当接によってストラップ2が揺動できなくなる。
【0024】
揺れ抑制部材400は、携帯デバイス1を取り付けて保持部210から吊り下げたストラップ2が保持部210を中心に揺動した場合の携帯デバイス1の揺動軌跡上の位置に配置され、壁面410に取り付けられている。揺れ抑制部材400は、例えば、ウレタン樹脂等のスポンジで構成することができる。揺れ抑制部材400は、例えば、揺動した携帯デバイス1の衝突時に衝撃を吸収し、衝突の反動による携帯デバイス1及びストラップ2の揺動を抑制することができる。
【0025】
強度試験機100は、携帯デバイス1及びストラップ2の強度試験を、次のようにして行うことができる。携帯デバイス1を取り付けたストラップ2を保持部210から吊り下げた状態で、コントローラ250の制御部の制御により、下部位置LPのスライダ320から係止片330を突出させて第1の位置に配置する。係止片330を第1の位置に配置したまま、コントローラ250の制御部の制御により、スライダ320を下部位置LPから上部位置UPに向けて移動させる。コントローラ250の制御部の制御により、スライダ320が下部位置LPと交点Pとの間に位置する期間中に、スライダ320から係止片330を突出させて第1の位置に配置する。スライダ320が交点Pに移動すると、第1の位置に配置した係止片330が
図1の右側からストラップ2に当接し、
図5(a)に示す1番目の工程となる。
【0026】
係止片330がストラップ2に当接したままスライダ320がさらに上部位置UPに向けて移動すると、
図5(b)に示す2番目の工程のように、携帯デバイス1を取り付けたストラップ2を、係止片330が下側から引っ掛けて吊り上げる。ストラップ2が係止片330により吊り上げられると、やがて、
図6に示すように、保持部210と係止片330との間に位置するストラップ2の中間部22が、昇降範囲の下端に位置する検知片230の下部231に当接するようになる。このときの位置から上部位置UPまでスライダ320が移動する間、ストラップ2の中間部22は検知片230の下部231に当接し続ける。ストラップ2の中間部22が当接している間、検知片230の下部231には、ストラップ2の中間部22から、携帯デバイス1の荷重でストラップ2に発生した張力のうち鉛直方向成分が加わる。
【0027】
重力加速度をg、携帯デバイス1の質量をMとした場合、携帯デバイス1に作用する重力はMgであり、ストラップ2の張力のうち鉛直方向成分Fvは、鉛直方向の上向きを正とすると、
Fv=Mg(sinθ1+sinθ2) (式1)
によって表すことができる。
図7に示すように、(式1)中のθ1は、検知片230の保持部210側においてストラップ2の中間部22と水平線Hとのなす角度、θ2は、検知片230の係止片330側においてストラップ2の中間部22と水平線Hとのなす角度をそれぞれ示す。
【0028】
鉛直方向に移動可能な検知片230は、動滑車と同様に考えることができる。動滑車を使った仕事の原理から、ストラップ2から検知片230に加わる張力の鉛直方向成分Fvの大きさが、質量mの検知片230に作用する重力mgの半分を上回ると、検知片230が昇降範囲の下端から上端に向けて鉛直方向の上方に移動する。
【0029】
スライダ320が移動軌跡Lの上部位置UP又はその手前の所定位置まで移動すると、
図8に示すように、ストラップ2の張力の鉛直方向成分Fvで移動した検知片230が昇降範囲の上端に到達し、あるいは、検知片230の上方への移動量が所定量に到達する。昇降範囲の上端又は上方への移動量が所定量となる位置に到達した検知片230を検出部240が検出すると、コントローラ250の制御部は、係止片330を第1の位置から第2の位置に変位させて、吊り上げたストラップ2を解放する。吊り上げたストラップ2の解放により携帯デバイス1は、ストラップ2と共に吊り上げられた位置から自由落下し、
図5(c)に示す3番目の工程となる。携帯デバイス1が自由落下すると、検知片230に対するストラップ2の当接が解消され、検知片230が自重により昇降範囲の上端から下端に移動する。検知片230の自重による移動で、検出部240は検知片230を検出しなくなる。
【0030】
携帯デバイス1の自由落下は、ストラップ2が伸びきると規制される。ストラップ2により保持部210から鉛直方向に吊り下げられた携帯デバイス1は、ストラップ2が伸びきっても不図示の床面には接触しない。携帯デバイス1の自由落下が伸びきったストラップ2により規制されると、携帯デバイス1が床面に落下することなく、ストラップ2を取り付けた携帯デバイス1のストラップホール11及びストラップ2自身に落下衝撃力が加わる。この落下衝撃力は、ストラップ2からストラップホール11にかかる引っ張り力、又は、ストラップ2自身にかかる引っ張り力を模擬したものにもなる。係止片330によりストラップ2を吊り上げて、ストラップ2と共に吊り上げられた携帯デバイス1を自由落下させることを繰り返すことにより、ストラップホール11又はストラップ2自身の強度を試験することができる。
【0031】
上述した携帯デバイス1の自由落下の繰り返しで、例えば、ストラップホール11が破損し、又は、ストラップ2が断裂すると、
図9に示すように、携帯デバイス1が脱落したストラップ2を係止片330が吊り上げることになる。携帯デバイス1が脱落したストラップ2には、携帯デバイス1の荷重による張力が発生しない。ストラップ2の中間部22が検知片230の下部231に当接しても、検知片230の下部231には、検知片230を昇降範囲の下端から上端に移動させる力がストラップ2から加わらない。携帯デバイス1がストラップ2から脱落している場合は、係止片330がストラップ2を吊り上げた状態でスライダ320が上部位置に移動しても、検知片230は移動範囲の下端のまま移動せず、検出部240は検知片230を検出しない。
【0032】
コントローラ250の制御部は、係止片330を第1の位置に配置してスライダ320を下部位置LPから上部位置UPに移動させた際に、スライダ320の上部位置UPにおいて検出部240が検知片230を検出しているか否かを確認する。制御部は、検出部240が検知片230を検出しているか否かの確認結果に基づいて、ストラップ2に対する携帯デバイス1の取り付けの有無を判定することができる。コントローラ250の制御部は、検出部240が検知片230を検出した場合、携帯デバイス1が吊り下げられているものとして強度試験を継続する。コントローラ250の制御部は、検出部240が検知片230を検出しなかった場合、ストラップホール11の破損又はストラップ2の断裂により携帯デバイス1が脱落したものとして強度試験を終了する。コントローラ250の制御部は、強度試験の終了に当たって、検出部240による検知片230の非検出を強度試験機100のユーザに報知してもよい。
【0033】
本実施形態のコントローラ250の制御部は、スライダ320及び係止片330の位置を制御しつつ、ストラップホール11及びストラップ2の強度試験を行う。強度試験は、例えば、
図10のフローチャートに示す例の手順で行うことができる。制御部は、スライダ320及び係止片330をホームポジションに復帰させる(ステップS101)。ホームポジションへの復帰により、スライダ320は下部位置LPに配置され、係止片330は第2の位置に配置される。制御部は、スライダ320を下部位置LPから上部位置UPに向けて移動させ、係止片330を第2の位置から第1の位置に変位させる(ステップS103)。係止片330は、スライダ320が下部位置LPと交点P(
図1参照)との間に位置する期間中に、第1の位置に変位させる。スライダ320の移動と係止片330の変位とは、どちらを先に開始してもよく、両方同時に開始してもよい。スライダ320が交点Pを通過する際に、第1の位置の係止片330はストラップ2に当接する。当接した係止片330は、ストラップ2を引っ掛けて吊り上げる(ステップS105)。制御部は、第1の位置の係止片330がストラップ2を吊り上げた状態で、スライダ320を上部位置UPに移動させる(ステップS107)。制御部は、スライダ320を上部位置UPに位置させた状態で、係止片330を第1の位置から第2の位置に変位させる。係止片330が第2の位置に変位すると、吊り上げたストラップ2に対する係止片330の引っ掛けが解放され、ストラップ2と共に吊り上げられた携帯デバイス1が自重で自由落下する(ステップS109)。制御部は、係止片330を第2の位置に変位させた後、スライダ320を上部位置UPから下部位置LPに移動させる(ステップS111)。第2の位置への係止片330の変位と、下部位置LPへのスライダ320の移動とにより、両者はホームポジションに復帰する。以上の手順により、1サイクルの強度試験が実行される。
【0034】
以上に説明した手順を試験の1つのサイクルとして、複数のサイクルの試験を繰り返すことで、ストラップホール11又はストラップ2自身の強度を試験することができる。コントローラ250の制御部は、係止片330がストラップ2を吊り上げた状態でスライダ320が上部位置に移動したときに、移動範囲の上端の検知片230を検出部240が検出した回数をカウントしてもよい。移動範囲の上端の検知片230を検出部240が検出しなくなったときの制御部のカウント数で、ストラップホール11又はストラップ2自身の強度を評価する数値を得ることができる。
【0035】
携帯デバイス1の自由落下が伸びきったストラップ2により規制されて、携帯デバイス1のストラップホール11に落下衝撃力が加わると、落下衝撃力の水平方向成分により、携帯デバイス1及びストラップ2が保持部210を中心として揺動する。携帯デバイス1及びストラップ2の揺動が大きいうちは、ストラップ2がスライダ320の移動軌跡Lよりも壁面410側に移動して、移動軌跡Lと交差しない期間が発生する。移動軌跡Lの下部位置LPに戻したスライダ320を、この期間に上部位置UPに移動させても、第1の位置に配置した係止片330はストラップ2を引っ掛けて吊り上げることができない。係止片330がストラップ2を吊り上げないと、次のサイクルの試験が行えない。ストラップホール11又はストラップ2自身の強度試験は、短いサイクルで試験を繰り返さなければ、効率的に行うことができない。自由落下後の携帯デバイス1及びストラップ2の揺動を早く収めるために、例えば、
図11のフローチャートに示す別の例の手順で、ストラップホール11及びストラップ2の強度試験を行ってもよい。
図11の手順では、スライダ320及び係止片330のホームボジションへの復帰(ステップS101)から、係止片330の第2の位置への変位による携帯デバイス1の自由落下(ステップS109)まで、
図10の手順と同じ手順で試験を進める。
【0036】
コントローラ250の制御部は、吊り上げた携帯デバイス1を自由落下させた後、スライダ320を下部位置LPから上部位置UPに向けて移動させ、係止片330を第2の位置から第1の位置に変位させる(ステップS113)。係止片330は、スライダ320が上部位置UPと交点P(
図1参照)との間に位置する期間中に、第1の位置に変位させる。スライダ320の移動と係止片330の変位とは、どちらを先に開始してもよく、両方同時に開始してもよい。第1の位置の係止片330は、スライダ320が交点Pに移動するまでの間に、保持部210の左側に揺動しているときのストラップ2に上方から当接し、ストラップ2の揺動を規制する(ステップS115)。ストラップ2の係止片330が当接する箇所は、ストラップ2の揺動角度が大きいほど保持部210に近くなる。交点Pを過ぎて下部位置LP側に移動しても、
図12に示すように、第1の位置に係止片330を位置させ続けると、ストラップ2に係止片330が当接し続ける。係止片330が当接したままスライダ320が下部位置LP側に移動することで、ストラップ2及び携帯デバイス1が壁面410に近づけられて、ストラップ2の揺動できる範囲が徐々に狭い範囲に規制される。ストラップ2に取り付けた携帯デバイス1が揺れ抑制部材400に衝突すると、携帯デバイス1の揺動はさらに抑制される。スライダ320の下部位置LPへの移動中に係止片330がストラップ2に当接することで、自由落下により発生した携帯デバイス1及びストラップ2の揺動が短時間で抑制され、次のサイクルの試験の開始を早めることができる。
【0037】
次のサイクルの試験は、ストラップ2に当接した係止片330を第1の位置から第2の位置に変位させて、ストラップ2に対する係止片330の当接を一旦解消させ、係止片330を再び第2の位置から第1の位置に変位させないと、開始させることができない。
図11に示すように、制御部は、係止片330がストラップ2に当接した後に、係止片330を第2の位置に変位させる(ステップS119)。第1の位置の係止片330がストラップ2に当接したことは、センサ等によって検出してもよい。センサ等で検出する代わりに、係止片330がストラップ2に当接するタイミングを推定し、制御上は、推定したタイミングで係止片330がストラップ2に当接したものと見倣してもよい。係止片330を第1の位置から第2の位置に変位させるのは、係止片330の移動方向から見て、スライダ320の移動軌跡Lと保持部210を通る鉛直線Vとが交差する箇所Cを、移動軌跡Lの上部位置から下部位置にスライダ320が通過した後でもよい。スライダ320が箇所Cを通過した後に、係止片330を第2の位置に変位させるために、係止片330がストラップ2に当接してから所定時間が経過するまで、制御部が係止片330の第2の位置への変位を保留する手順(ステップS117)を追加してもよい。この手順の追加により、次のサイクルの試験を開始する際に、第1の位置の係止片330がストラップ2をより確実に引っ掛けて吊り上げられるようにすることができる。係止片330の第2の位置から第1の位置への変位、スライダ320の下部位置への移動、そして、係止片330の第1の位置から第2の位置への変位により、強度試験機100は、
図1の状態に戻り、次のサイクルの試験が開始できる状態となる。
【0038】
以上に説明した動作を試験の1つのサイクルとして、複数のサイクルの試験を繰り返すことでも、
図10の手順と同様に、ストラップホール11又はストラップ2自身の強度を試験することができる。また、携帯デバイス1の自由落下後、上部位置UPのスライダ320が下部位置LPに移動する際に、第1の位置の係止片330をストラップ2に当接させて、自由落下によるストラップ2の揺動を早く収め、次のサイクルの試験を早く開始させることができる。
【0039】
なお、ストラップ2はハンドストラップ以外のものでもよく、ストラップを取り付ける被試験物は携帯デバイス1以外の物品でもよい。ストラップは、例えば、ショルダーストラップ、ネックストラップでもよい。ストラップを取り付ける被試験物は、例えば、ショルダーストラップを取り付けるショルダーバッグ、ショルダーストラップ又はネックストラップを取り付ける楽器でもよい。被試験物の取付部は、例えば、被試験物における、縫い付け等によってストラップを直接取り付ける部分でもよく、被試験物における、ストラップの接続に使う環状の線材金具を取り付ける部分でもよい。この線材金具は、カン金具とも呼ばれる。カン金具には、例えば、Dカン、ナスカン、丸カン等、形状等に応じた呼び名の種々のものが含まれる。
【0040】
以上に本発明の実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 携帯デバイス(被試験物)
2 ストラップ
11 ストラップホール(取付部)
22 中間部
100 強度試験機
210 保持部
230 検知片
240 検出部
250 コントローラ
320 スライダ
330 係止片
C スライダの移動軌跡と保持部を通る鉛直線とが交差する箇所
Fv 張力の鉛直方向成分
L 移動軌跡
V 保持部を通る鉛直線