(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176345
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】弾性波装置、高周波フィルタおよびフィルタ回路
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
H03H9/145 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094816
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【弁理士】
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】中井 康晴
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA01
5J097AA13
5J097AA29
5J097BB11
5J097BB14
5J097CC05
5J097EE08
5J097FF04
5J097FF05
5J097KK01
5J097KK05
5J097KK09
(57)【要約】
【課題】Q値を劣化させずに比帯域幅の調整が可能な小型の弾性波装置を提供する。
【解決手段】弾性波装置1は、基板3と、基板3上に配置されたIDT電極10と、基板3上に配置された誘電膜41と、を備え、基板3は、圧電層31、低音速層32および高音速層33をこの順で有し、IDT電極10は、複数の電極指11aおよび11bと、複数の電極指11aを接続するバスバー電極12aと、複数の電極指11bを接続するバスバー電極12bと、を有し、誘電膜41は、圧電層31上であって、基板3の平面視におけるバスバー電極12aとバスバー電極12bとの間の領域のうちの複数の電極指11aおよび11b、ならびに、バスバー電極12aおよび12bが配置されていない領域のみに配置され、誘電膜41の膜厚は複数の電極指11aおよび11bの膜厚よりも小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置されたIDT(InterDigital Transducer)電極と、
前記基板上に配置された第1誘電膜と、を備え、
前記基板は、
前記IDT電極が形成された圧電層と、
前記圧電層を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速層と、
前記圧電層と前記高音速層との間に配置され、前記圧電層を伝搬するバルク波よりも、バルク波の音速が低速となる低音速層と、を有し、
前記IDT電極は、
互いに平行に配置された複数の第1電極指および複数の第2電極指と、
前記複数の第1電極指の一方端同士を接続するよう構成された第1バスバー電極と、
前記複数の第2電極指の一方端同士を接続するよう構成され、前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指を挟んで前記第1バスバー電極と対向配置された第2バスバー電極と、を有し、
前記第1誘電膜は、前記圧電層上であって、前記基板の平面視における前記第1バスバー電極と前記第2バスバー電極との間の領域のうちの前記複数の第1電極指、前記複数の第2電極指、前記第1バスバー電極、および前記第2バスバー電極が配置されていない領域のみに配置され、
前記第1誘電膜の膜厚は、前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指の膜厚よりも小さい、
弾性波装置。
【請求項2】
さらに、
前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指の延伸方向に垂直な方向に、前記IDT電極と隣り合うように配置された反射電極を備え、
前記反射電極は、
前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指と平行な複数の第3電極指と、
前記複数の第3電極指の一方端同士を接続する第3バスバー電極と、
前記複数の第3電極指の他方端同士を接続する第4バスバー電極と、を有し、
前記第1誘電膜は、
前記圧電層上であって、前記基板の平面視における前記第1バスバー電極と前記第2バスバー電極との間の領域のうちの前記複数の第1電極指、前記複数の第2電極指、前記第1バスバー電極、および前記第2バスバー電極が配置されていない領域のみに配置され、かつ、
前記圧電層上であって、前記基板の平面視における前記第3バスバー電極と前記第4バスバー電極との間の領域のうちの前記複数の第3電極指、前記第3バスバー電極、および前記第4バスバー電極が配置されていない領域のみに配置される、
請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記IDT電極の音響インピーダンスをRIDTとし、前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指の膜厚をtIDTとし、
前記複数の第1電極指と前記複数の第2電極指との間に配置された前記第1誘電膜の音響インピーダンスをRDIEとし、前記第1誘電膜の膜厚をtDIEとした場合、
RIDT×tIDT>RDIE×tDIE
なる関係を満たす、
請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記IDT電極がn層(nは自然数)の積層体であり、前記第1誘電膜がm層(mは自然数)の積層体であり、前記IDT電極の第k層の音響インピーダンスをR
IDTkとし、前記IDT電極の第k層の膜厚をt
IDTkとし、前記複数の第1電極指と前記複数の第2電極指との間に配置された前記第1誘電膜の第k層の音響インピーダンスをR
DIEkとし、前記第1誘電膜の第k層の膜厚をt
DIEkとした場合、
【数1】
なる関係を満たす、
請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記第1誘電膜の比誘電率は、5以上である、
請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記第1誘電膜の比誘電率は、10以上である、
請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項7】
前記第1誘電膜の膜厚は、前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指の膜厚の50%以下である、
請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項8】
前記第1誘電膜の膜厚は、前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指の膜厚の20%以下である、
請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項9】
前記圧電層は、タンタル酸リチウムおよびニオブ酸リチウムのいずれかを含む、
請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項10】
前記第1誘電膜は、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、およびサイアロンのいずれかを含む、
請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項11】
前記IDT電極は、
アルミニウムからなる主電極層と、
前記主電極層と前記圧電層との間に配置された密着層と、を含む、
請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項12】
前記第1誘電膜の熱伝導率は、前記圧電層の熱伝導率よりも高い、
請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項13】
さらに、
前記IDT電極上および前記第1誘電膜上に配置され、前記第1誘電膜と材料または組成が異なる第2誘電膜を備える、
請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項14】
前記第2誘電膜の比誘電率は、前記第1誘電膜の比誘電率よりも低い、
請求項13に記載の弾性波装置。
【請求項15】
前記第2誘電膜の膜厚は、前記第1誘電膜の膜厚よりも小さい、
請求項13に記載の弾性波装置。
【請求項16】
前記第2誘電膜は、酸化シリコン、窒化シリコン、および酸窒化シリコンのいずれかを含む、
請求項13に記載の弾性波装置。
【請求項17】
基板と、
前記基板上に配置されたIDT(InterDigital Transducer)電極と、
前記基板上に配置された第1誘電膜と、を備え、
前記基板は、
前記IDT電極が形成された圧電層と、
前記圧電層を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速層と、
前記圧電層と前記高音速層との間に配置され、前記圧電層を伝搬するバルク波よりも、バルク波の音速が低速となる低音速層と、を有し、
前記IDT電極は、
互いに平行に配置された複数の第1電極指および複数の第2電極指と、
前記複数の第1電極指の一方端同士を接続するよう構成された第1バスバー電極と、
前記複数の第2電極指の一方端同士を接続するよう構成され、前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指を挟んで前記第1バスバー電極と対向配置された第2バスバー電極と、を有し、
前記第1誘電膜は、前記圧電層上であって、前記圧電層に平行かつ前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指の延伸方向に垂直な方向から見て前記複数の第1電極指と前記複数の第2電極指とが重なる領域のうち、前記基板の平面視において前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指が配置されていない領域のみに配置され、
前記第1誘電膜の膜厚は、前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指の膜厚よりも小さい、
弾性波装置。
【請求項18】
請求項1、2および17のいずれか1項に記載の弾性波装置を備える、
高周波フィルタ。
【請求項19】
請求項1、2および17のいずれか1項に記載の弾性波装置を複数備え、
前記複数の弾性波装置のうちの第1の弾性波装置が有する前記第1誘電膜と、前記複数の弾性波装置のうちの第2の弾性波装置が有する前記第1誘電膜とは、膜厚、材料または組成が異なる、
請求項18に記載の高周波フィルタ。
【請求項20】
請求項18に記載の高周波フィルタを複数備え、
前記複数の高周波フィルタは、1枚の前記基板を共有し、
前記複数の高周波フィルタのうちの第1の高周波フィルタが有する前記第1誘電膜と、前記複数の高周波フィルタのうちの第2の高周波フィルタが有する前記第1誘電膜とは、膜厚、材料または組成が異なる、
フィルタ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波装置、高周波フィルタおよびフィルタ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高音速支持基板、低音速層、および圧電層の積層体で形成された基板を用いることにより、高Q値を有する弾性表面波フィルタ(弾性波装置)が開示されている。上記構成によれば、弾性表面波フィルタの低損失性を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された弾性波装置の場合、例えば圧電層のオイラー角を最適化することで不要波を抑制できQ値の劣化を抑制できるが、最適化されたオイラー角では比帯域幅が特定の範囲に限定されてしまい、比帯域幅の調整が困難である。また、積層体で形成された基板に起因して、薄い圧電層を有する弾性波装置の容量を確保しようとすると弾性波装置を大きくしなければならない。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、Q値を劣化させずに比帯域幅の調整が可能な小型の弾性波装置、高周波フィルタおよびフィルタ回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る弾性波装置は、基板と、基板上に配置されたIDT(InterDigital Transducer)電極と、基板上に配置された第1誘電膜と、を備え、基板は、IDT電極が形成された圧電層と、圧電層を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速層と、圧電層と高音速層との間に配置され、圧電層を伝搬するバルク波よりも、バルク波の音速が低速となる低音速層と、を有し、IDT電極は、互いに平行に配置された複数の第1電極指および複数の第2電極指と、複数の第1電極指の一方端同士を接続するよう構成された第1バスバー電極と、複数の第2電極指の一方端同士を接続するよう構成され、複数の第1電極指および複数の第2電極指を挟んで第1バスバー電極と対向配置された第2バスバー電極と、を有し、第1誘電膜は、圧電層上であって、基板の平面視における第1バスバー電極と第2バスバー電極との間の領域のうちの複数の第1電極指、複数の第2電極指、第1バスバー電極、および第2バスバー電極が配置されていない領域のみに配置され、第1誘電膜の膜厚は、複数の第1電極指および複数の第2電極指の膜厚よりも小さい。
【0007】
また、本発明の一態様に係る弾性波装置は、基板と、基板上に配置されたIDT電極と、基板上に配置された第1誘電膜と、を備え、基板は、IDT電極が形成された圧電層と、圧電層を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速層と、圧電層と高音速層との間に配置され、圧電層を伝搬するバルク波よりも、バルク波の音速が低速となる低音速層と、を有し、IDT電極は、互いに平行に配置された複数の第1電極指および複数の第2電極指と、複数の第1電極指の一方端同士を接続するよう構成された第1バスバー電極と、複数の第2電極指の一方端同士を接続するよう構成され、複数の第1電極指および複数の第2電極指を挟んで第1バスバー電極と対向配置された第2バスバー電極と、を有し、第1誘電膜は、圧電層上であって、圧電層に平行かつ複数の第1電極指および複数の第2電極指の延伸方向に垂直な方向から見て複数の第1電極指と複数の第2電極指とが重なる領域のうち、基板の平面視において複数の第1電極指および複数の第2電極指が配置されていない領域のみに配置され、第1誘電膜の膜厚は、複数の第1電極指および複数の第2電極指の膜厚よりも小さい。
【0008】
また、本発明の一態様に係る高周波フィルタは、上記の弾性波装置を備える。
【0009】
また、本発明の一態様に係るフィルタ回路は、上記の高周波フィルタを複数備え、複数の高周波フィルタは、1枚の基板を共有し、複数の高周波フィルタのうちの第1の高周波フィルタが有する第1誘電膜と、複数の高周波フィルタのうちの第2の高周波フィルタが有する第1誘電膜とは、膜厚、材料または組成が異なる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、Q値を劣化させずに比帯域幅の調整が可能な小型の弾性波装置、高周波フィルタおよびフィルタ回路を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1に係る弾性波装置の平面図および断面図である。
【
図2】比較例に係る弾性波装置の平面図および断面図である。
【
図3A】実施例1および比較例に係る弾性波装置の誘電膜の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
【
図3B】実施例1および比較例に係る弾性波装置の誘電膜の膜厚とQmaxの変化率との関係を表すグラフである。
【
図3C】実施例1および比較例に係る弾性波装置のQmaxの変化率と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
【
図4A】実施例1に係る弾性波装置における、第1誘電膜の比誘電率を変化させた場合の第1誘電膜の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
【
図4B】実施例1に係る弾性波装置における、第1誘電膜の比誘電率が3.75の場合の第1誘電膜の膜厚とQmaxの変化率との関係を表すグラフである。
【
図4C】実施例1に係る弾性波装置における、Qmaxの変化率が80%の場合の比誘電率と比帯域幅の低下率との関係を表すグラフである。
【
図5A】第1誘電膜が窒化シリコンまたは酸化シリコンである場合の第1誘電膜の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
【
図5B】第1誘電膜が酸化イットリウムまたは酸化シリコンである場合の第1誘電膜の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
【
図5C】第1誘電膜が酸化アルミニウムまたは酸化シリコンである場合の第1誘電膜の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
【
図5D】第1誘電膜が酸化タンタルまたは酸化シリコンである場合の第1誘電膜の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
【
図5E】第1誘電膜が酸化チタンまたは酸化シリコンである場合の第1誘電膜の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
【
図5F】第1誘電膜が酸化ハフニウムまたは酸化シリコンである場合の第1誘電膜の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
【
図5G】第1誘電膜が酸化ジルコニウムまたは酸化シリコンである場合の第1誘電膜の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
【
図5H】第1誘電膜がサイアロンまたは酸化シリコンである場合の第1誘電膜の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
【
図6】実施例1に係る弾性波装置の圧電層がニオブ酸リチウムである場合の第1誘電膜の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
【
図7A】変形例1に係る弾性波装置の平面図である。
【
図7B】変形例2に係る弾性波装置の平面図である。
【
図8】実施例2に係る弾性波装置の平面図および断面図である。
【
図9A】実施の形態に係る弾性波共振子の電極構成を模式的に示す図および弾性波共振子を模式的に示す図である。
【
図9B】実施の形態に係る縦結合型共振器の電極構成を模式的に示す図および縦結合型共振器を模式的に示す図である。
【
図10A】実施の形態に係るラダー型の高周波フィルタの回路構成図である。
【
図10B】実施の形態に係る縦結合型共振器を含む高周波フィルタの回路構成図である。
【
図10C】実施の形態に係る複数の縦結合型共振器を含む高周波フィルタの回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態例は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面に示される構成要素の大きさまたは大きさの比は、必ずしも厳密ではない。
【0013】
なお、各図は、本発明を示すために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではなく、実際の形状、位置関係、および比率とは異なる場合がある。各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡素化される場合がある。
【0014】
本開示の回路構成において、「接続される」とは、接続端子および/または配線導体で直接接続される場合だけでなく、インダクタおよびキャパシタなどの整合素子、ならびにスイッチ回路を介して電気的に接続される場合も含む。「AおよびBの間に接続される」とは、AおよびBの間でAおよびBの両方に接続されることを意味する。
【0015】
また、「平行」および「垂直」などの要素間の関係性を示す用語、「矩形」などの要素の形状を示す用語、ならびに、数値範囲は、厳格な意味のみを表すのではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の誤差をも含むことを意味する。
【0016】
また、以下の実施の形態において、フィルタの通過帯域は、当該通過帯域内における挿入損失の最小値から3dB大きい2つの周波数間の周波数帯域と定義される。
【0017】
(実施の形態)
[1 実施例1に係る弾性波装置1の構成]
図1は、実施例1に係る弾性波装置1の(a)平面図および(b)断面図である。同図に示すように、弾性波装置1は、基板3と、IDT電極10と、反射電極20と、誘電膜41と、を備える。なお、
図1に示された弾性波装置1は、弾性波装置1を構成する弾性波共振子の典型的な構造を説明するためのものであって、IDT電極10を構成する電極指の本数および長さなどは、これに限定されない。
図1の(a)に示すように、基板3の上には、IDT電極10および反射電極20が配置されている。
【0018】
基板3は、圧電性を有し、圧電層31と、低音速層32と、高音速層33と、支持基板34と、を備える。
【0019】
圧電層31は、その一方面上にIDT電極10および反射電極20が配置される。圧電層31は、例えば、タンタル酸リチウムもしくはニオブ酸リチウム、または上記材料を主成分とする材料を用いることができる。圧電層31の膜厚は、例えば400nmである。
【0020】
高音速層33は、圧電層31の他方面側に配置され、圧電層31を伝搬する弾性波音速よりも、高音速層33を伝搬するバルク波音速が高速である。高音速層33は、例えば、窒化シリコン、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶などの圧電体、アルミナ、サファイア、マグネシア、炭化シリコン、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライトなどのセラミック、ダイヤモンド、ガラスなどの誘電体、シリコン、窒化ガリウムなどの半導体、もしくは樹脂、または上記材料を主成分とする材料を用いることができる。高音速層33の膜厚は、例えば300nmである。
【0021】
低音速層32は、圧電層31の他方主面と高音速層33の一方主面との間に配置され、圧電層31を伝搬するバルク波よりも、低音速層32を伝搬するバルク波の音速が低速となる。この構造と、弾性波が本質的に低音速な媒質にエネルギーが集中するという性質とにより、弾性表面波エネルギーのIDT電極外への漏れが抑制される。低音速層32は、例えば、酸化シリコン、ガラス、酸窒化シリコン、酸化リチウム、酸化タンタル、もしくは酸化シリコンにフッ素、炭素やホウ素を加えた化合物などの誘電体、または上記材料を主成分とする材料を用いることができる。低音速層32の膜厚は、例えば300nmである。
【0022】
支持基板34は、高音速層33の他方主面に配置され、IDT電極10、圧電層31、低音速層32および高音速層33を支持する基板である。支持基板34は、例えば、シリコン、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶などの圧電体、アルミナ、サファイア、マグネシア、窒化シリコン、炭化シリコン、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライトなどのセラミック、ダイヤモンド、ガラスなどの誘電体、窒化ガリウムなどの半導体、もしくは樹脂、または上記材料を主成分とする材料を用いることができる。
【0023】
基板3の上記積層構造によれば、圧電基板を単層で使用している従来の構造と比較して、共振周波数および反共振周波数におけるQ値を大幅に高めることが可能となる。すなわち、Q値が高い弾性波共振子を構成し得るので、当該弾性波共振子を用いて、挿入損失が小さい高周波フィルタを構成することが可能となる。
【0024】
なお、高音速層33と支持基板34とを併せて、1つの高音速支持基板としてもよい。高音速支持基板は、IDT電極10、圧電層31および低音速層32を支持する基板である。高音速支持基板は、圧電層31を伝搬する表面波および境界波などの弾性波よりも、高音速支持基板中のバルク波の音速が高速となる基板であり、弾性表面波を圧電層31および低音速層32が積層されている部分に閉じ込め、高音速支持基板より下方に漏れないように機能する。高音速支持基板の材料としては、例えば、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶などの圧電体、アルミナ、サファイア、マグネシア、窒化シリコン、炭化シリコン、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、スピネル、サイアロンなどのセラミック、酸化アルミニウム、酸窒化シリコン、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、ダイヤモンドなどの誘電体、もしくはシリコンなどの半導体、または上記材料を主成分とする材料を用いることができる。なお、上記スピネルには、Mg、Fe、Zn、Mnなどから選ばれる1以上の元素と酸素とを含有するアルミニウム化合物が含まれる。上記スピネルの例としては、MgAl2O4、FeAl2O4、ZnAl2O4、MnAl2O4を挙げることができる。
【0025】
なお、本明細書において、「材料の主成分」とは、当該材料に占める割合が50重量%を超える成分をいう。上記主成分は、単結晶、多結晶およびアモルファスのうちいずれかの状態、もしくは、これらが混在した状態で存在していてもよい。
【0026】
また、基板3に替わって、支持基板と、エネルギー閉じ込め層と、圧電層とが、この順で積層された構造を有していてもよい。圧電層上にIDT電極10および反射電極20が形成される。圧電層は、例えば、LiTaO3圧電単結晶または圧電セラミックスが用いられる。支持基板は、圧電層、エネルギー閉じ込め層、およびIDT電極10を支持する基板である。
【0027】
エネルギー閉じ込め層は1層または複数の層からなり、その少なくとも1つの層を伝搬するバルク弾性波の速度は、圧電層近傍を伝搬する弾性波の速度よりも大きい。例えば、エネルギー閉じ込め層は、低音速層と、高音速層との積層構造となっていてもよい。低音速層は、圧電層を伝搬する弾性波の音速よりも、低音速層中のバルク波の音速が低速となる膜である。高音速層は、圧電層を伝搬する弾性波の音速よりも、高音速層中のバルク波の音速が高速となる膜である。なお、支持基板を高音速層としてもよい。
【0028】
また、エネルギー閉じ込め層は、音響インピーダンスが相対的に低い低音響インピーダンス層と、音響インピーダンスが相対的に高い高音響インピーダンス層とが、交互に積層された構成を有する音響インピーダンス層であってもよい。
【0029】
IDT電極10は、
図1の(a)に示すように、複数の電極指11aおよび複数の電極指11bと、バスバー電極12aおよび12bと、を有する。
【0030】
複数の電極指11aは、複数の第1電極指の一例であり、互いに平行に配置されている。複数の電極指11bは、複数の第2電極指の一例であり、互いに平行に配置されている。複数の電極指11aと複数の電極指11bとは、互いに間挿し合うように平行に配置されている。
【0031】
バスバー電極12aは、第1バスバー電極の一例であり、複数の電極指11aの一方端同士を接続するよう構成されている。バスバー電極12aは、複数の電極指11aの延伸方向(
図1のy軸方向)と交差する方向(x軸方向)に延在している。
【0032】
バスバー電極12bは、第2バスバー電極の一例であり、複数の電極指11bの一方端同士を接続するよう構成されている。バスバー電極12bは、複数の電極指11bの延伸方向(
図1のy軸方向)と交差する方向(x軸方向)に延在している。バスバー電極12aとバスバー電極12bとは、複数の電極指11aおよび複数の電極指11bを挟んで対向配置されている。複数の電極指11aの他方端はバスバー電極12bと対向し、複数の電極指11bの他方端はバスバー電極12aと対向している。
【0033】
反射電極20は、複数の電極指11aおよび複数の電極指11bの延伸方向に垂直な方向(x軸方向)に、IDT電極10と隣り合うようにIDT電極10の両側に配置される。反射電極20は、IDT電極10で共振する所定の高周波信号をIDT電極10内に閉じ込めるよう構成される。反射電極20は、複数の電極指21と、バスバー電極22aおよび22bと、を有する。複数の電極指21は、複数の第3電極指の一例であり、複数の電極指11aおよび複数の電極指11bと平行に配置されている。バスバー電極22aは、第3バスバー電極の一例であり、複数の電極指21の一方端同士を接続するよう構成される。バスバー電極22bは、第4バスバー電極の一例であり、複数の電極指21の他方端同士を接続するよう構成される。バスバー電極22aとバスバー電極22bとは、複数の電極指21を挟んで対向配置されている。なお、本実施例に係る弾性波装置1において、反射電極20はなくてもよい。
【0034】
IDT電極10および反射電極20は、
図1の(b)に示すように、例えば、密着層と、主電極層との積層構造となっている。
【0035】
主電極層は、例えば、アルミニウム(Al)を主成分とし、膜厚は、例えば100nmである。密着層は、主電極層と圧電層31との間に配置され、主電極層の基板3への密着度を向上させるよう構成される。密着層は、例えばチタン(Ti)からなり、膜厚は、例えば10nmである。なお、IDT電極10および反射電極20は、上記の積層構造に限定されず、例えば、Ti、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Pdなどの金属または合金から構成されてもよく、また、上記の金属または合金から構成される複数の積層体から構成されてもよい。
【0036】
弾性表面波の伝搬特性を最適化するためには、IDT電極10の(密度×膜厚)を最適に設定する必要がある。高密度な電極材料に比べて、低密度かつ低抵抗なアルミニウムを用いることで、IDT電極10の膜厚を大きく設定できるので、低抵抗なIDT電極10を形成することが可能となる。また、格子定数の関係により、圧電層31とIDT電極10との間に非晶質誘電膜を挟まずに、密着層(Ti)および主電極層(Al)を成膜することで、IDT電極10をエピタキシャル成長させることができる。これにより、弾性波装置1を用いた、耐電力性に優れた高性能な高周波フィルタを実現することが可能となる。
【0037】
誘電膜41は、第1誘電膜の一例であり、基板3上に配置されている。
図1の(a)に示すように、誘電膜41は、基板3の平面視におけるバスバー電極12aとバスバー電極12bとの間の領域のうちの複数の電極指11a、複数の電極指11b、バスバー電極12aおよび12bが配置されていない領域のみに配置され、かつ、基板3の平面視におけるバスバー電極22aとバスバー電極22bとの間の領域のうちの複数の電極指21、バスバー電極22aおよび22bが配置されていない領域のみに配置されている。
【0038】
また、
図1の(b)に示すように、誘電膜41の膜厚は、複数の電極指11aおよび複数の電極指11bの膜厚hよりも小さい。
【0039】
なお、本発明に係る弾性波装置において、「誘電膜41は、電極A(電極指およびバスバー電極などを含む)が配置されていない領域のみに配置される」とは、基板3の平面視において、誘電膜41が電極Aと実質的に重なっていないことを意味する。「誘電膜41が電極Aと実質的に重なっていない」とは、誘電膜41が電極Aと接していてもよく、誘電膜41と電極Aとが基板3の平面視において重なる面積が電極Aの合計面積の10%未満であることを意味する。
【0040】
誘電膜41は、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、もしくはサイアロン、または上記材料を主成分とする材料を用いることができる。
【0041】
上記構成を有する弾性波装置1において、弾性波装置1の波長とは、
図1の(b)に示すIDT電極10を構成する複数の電極指11aまたは11bの繰り返し周期である波長λで規定される。また、電極指ピッチは、波長λの1/2である。また、交叉幅Lは、
図1の(a)に示すように、圧電層31に平行かつ複数の電極指11aおよび複数の電極指11bの延伸方向(y軸方向)に垂直な方向(x軸方向)から見て複数の電極指11aと複数の電極指11bとが重なる領域のy軸方向における長さである。
【0042】
上記構成によれば、Q値を劣化させずに比帯域幅の調整が可能な小型の弾性波装置1を提供することが可能となる。以下では、弾性波装置1が上記効果を奏することができることを説明する。
【0043】
[2 比較例に係る弾性波装置500の構成]
まず、比較例に係る(従来の)弾性波装置500の構成について説明しておく。
図2は、比較例に係る弾性波装置500の平面図および断面図である。同図に示すように、弾性波装置500は、基板3と、IDT電極10と、反射電極20と、誘電膜45と、を備える。比較例に係る弾性波装置500は、実施例1に係る弾性波装置1と比較して、誘電膜41に替わって誘電膜45が配置されている点のみが構成として異なる。以下では、比較例に係る弾性波装置500について、実施例1に係る弾性波装置1と同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0044】
誘電膜45は、基板3上に配置されている。
図2の(a)に示すように、誘電膜45は、基板3の平面視においてバスバー電極12aとバスバー電極12bとの間の領域に配置され、かつ、基板3の平面視においてバスバー電極22aとバスバー電極22bとの間の領域に配置されている。なお、誘電膜45は、基板3の平面視において、複数の電極指11a、11bおよび21、バスバー電極12a、12b、22aおよび22bと重なる領域にも配置されている。つまり、誘電膜45は、IDT電極10および反射電極20を覆うように形成されている。誘電膜45は、例えば酸化シリコンを用いることができる。
【0045】
上記構成によれば、基板3の上記積層構造によりQ値を確保することは可能であるが、比帯域幅が特定の範囲に限定されてしまう。また、薄い圧電層31を有する弾性波装置500の容量を確保しようとすると弾性波装置500を大きくしなければならない。
【0046】
[3 実施例1に係る弾性波装置1の共振特性]
ここでは、実施例1に係る弾性波装置1の共振特性について、比較例に係る弾性波装置500の共振特性と比較しながら説明する。
【0047】
図3Aは、実施例1および比較例に係る弾性波装置の誘電膜の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
図3Bは、実施例1および比較例に係る弾性波装置の誘電膜の膜厚とQmaxの変化率との関係を表すグラフである。
図3Cは、実施例1および比較例に係る弾性波装置のQmaxの変化率と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。なお、各図において、比帯域幅の変化率とは、誘電膜が形成されていない場合の比帯域幅に対する、実施例1または比較例に係る弾性波装置の比帯域幅の比率を表している。また、各図において、Qmaxの変化率とは、誘電膜が形成されていない場合のQmaxに対する、実施例1または比較例に係る弾性波装置のQmaxの比率を表している。
【0048】
また、実施例1に係る弾性波装置1および比較例に係る弾性波装置500の共振特性の評価において、
(1)波長λ=2μm
(2)IDT電極10の主電極層:材料_アルミニウム、膜厚_100nm
(3)IDT電極10の密着層:材料_チタン、膜厚_10nm
(4)圧電層31:材料_タンタル酸リチウム、膜厚_400nm
(5)低音速層32:材料_酸化シリコン、膜厚_300nm
(6)高音速層33:材料_窒化シリコン、膜厚_300nm
(7)支持基板34:材料_シリコン(111)
とした。
【0049】
上記のようにパラメータを設定し、弾性波装置が無限周期構造を有するものとして有限要素法により共振特性の評価を行った。また、共振特性を評価する指標として、比帯域幅およびQmaxを設定した。
【0050】
比帯域幅は、(反共振周波数-共振周波数)/共振周波数で表される。反共振周波数は、弾性波装置のインピーダンスが極大となる周波数であり、共振周波数は、弾性波装置のインピーダンスが極小となる周波数である。
【0051】
Qmaxは、Q値(=(2πfτ|S11|)/(1-|S11|2)(非特許文献1“2008IEEE International Ultrasonics Symposium Proceedings,p431”)から得られる最大値である。fは周波数であり、τは群遅延速度である。
【0052】
一般的に、積層構造などの微細領域に形成される誘電膜の粘性などによる損失は、単結晶圧電基板に形成される誘電膜による損失に比べ大きくなる。そのため、実施例1に係る弾性波装置1の誘電膜41の膜厚および比較例に係る弾性波装置500の誘電膜45の膜厚は、より薄いほうが弾性波装置を低損失とできる。
【0053】
図3Aに示すように、実施例1に係る弾性波装置1および比較例に係る弾性波装置500の双方において、誘電膜41(または45)を厚くするにつれて、比帯域幅は小さくなる。
【0054】
図3Bに示すように、実施例1に係る弾性波装置1および比較例に係る弾性波装置500の双方において、誘電膜41(または45)を厚くするにつれて、Qmaxは低下していく。
【0055】
しかしながら、
図3Cに示すように、実施例1に係る弾性波装置1のほうが、比較例に係る弾性波装置500よりも、Qmaxの低下(Qmaxの変化率の減少)を抑制して比帯域幅を変化させることができる。
【0056】
なお、誘電膜41の膜厚は、複数の電極指11aおよび複数の電極指11bの膜厚よりも小さい。
【0057】
つまり、実施例1に係る弾性波装置1によれば、IDT電極10よりも薄い誘電膜41を配置することで、Q値を劣化させずに比帯域幅の調整が可能な小型の弾性波装置1を提供することが可能となる。
【0058】
なお、誘電膜41の膜厚は、複数の電極指11aおよび11bの膜厚の50%以下であることが望ましい。これによれば、Qmaxの変化率を75%以上とすることが可能となる。
【0059】
さらに、誘電膜41の膜厚は、複数の電極指11aおよび11bの膜厚の20%以下であることが望ましい。これによれば、Qmaxの変化率を90%以上とすることが可能となる。
【0060】
なお、実施例1に係る弾性波装置1において、誘電膜41の形成領域は、(1)基板3の平面視におけるバスバー電極12aとバスバー電極12bとの間の領域のうちの複数の電極指11a、複数の電極指11b、バスバー電極12aおよび12bが配置されていない領域のみ、(2)基板3の平面視におけるバスバー電極22aとバスバー電極22bとの間の領域のうちの複数の電極指21、バスバー電極22aおよび22bが配置されていない領域のみ、ならびに(3)IDT電極10と反射電極20との間の領域、を併せた領域であることが望ましい。
【0061】
これによれば、誘電膜41はIDT電極10から反射電極20までの領域にわたり、構造的に不連続部分がなくなるので、不連続部分に起因した不要波の発生や損失を抑制できる。
【0062】
図4Aは、実施例1に係る弾性波装置1における、誘電膜41の比誘電率を変化させた場合の誘電膜41の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
図4Bは、実施例1に係る弾性波装置1における、誘電膜41の比誘電率が3.75の場合の誘電膜41の膜厚とQmaxの変化率との関係を表すグラフである。
図4Cは、実施例1に係る弾性波装置1における、Qmaxの変化率が80%の場合の比誘電率と比帯域幅の低下率との関係を表すグラフである。
【0063】
図4Aに示すように、実施例1に係る弾性波装置1において、誘電膜41を厚くするにつれて、比帯域幅は小さくなる。また、比誘電率が大きいほど、誘電膜41の膜厚に対する比帯域幅の変化量が大きくなり、より薄い膜厚で比帯域幅を調整することが可能となる。また、積層構造などの微細領域に形成される誘電膜の粘性などによる損失は、単結晶圧電基板に形成される誘電膜による損失に比べ大きくなる。よって、誘電膜41がより薄いほうが、低損失という観点でも有利である。さらに、
図4Bに示すように、誘電膜41を厚くするにつれてQmaxが低下している。よって、誘電膜41がより薄いほうが、Q値の劣化抑制という観点でも有利である。
【0064】
図4Cに示すように、Qmaxの変化率を80%とした場合、比帯域幅を5%小さくする(比帯域幅の低下率=5%)ためには、比誘電率が5以上であることが必要となる。また、Qmaxの変化率を80%とした場合、比帯域幅を7%小さくする(比帯域幅の低下率=7%)ためには、比誘電率が10以上であることが必要となる。さらに、Qmaxの変化率を80%とした場合、比帯域幅を10%小さくする(比帯域幅の低下率=10%)ためには、比誘電率が20以上であることが必要となる。
【0065】
つまり、比誘電率を5以上、10以上、または20以上とすることで、Q値の低下が小さい状態で比帯域幅の調整効果を大きくできる。
【0066】
加えて、誘電膜41の比誘電率を大きくすることで弾性波装置1の容量を増加させることができる。この観点からも、弾性波装置1を小型化できる。
【0067】
3GPP(登録商標)(3rd Generation Partnership Project)において用いられるLTE(Long Term Evolution)のためのバンド2、3、5、7、8および9、ならびに5G(5th Generation)-NR(New Radio)のためのバンドn2、n3、n5、n7、n8およびn9では、アップリンク動作バンドとダウンリンク動作バンドとの周波数帯域の差は5%程度である。これらのバンドのアップリンク動作バンドまたはダウンリンク動作バンドを通過帯域とする高周波フィルタを構成する弾性波共振子として、本実施例に係る弾性波装置1を適用すると、誘電膜41の比誘電率を5以上とすることで、弾性波共振子のQ値の劣化を抑制しつつ、通過帯域幅の差を5%程度に調整することができる。これにより、アップリンク動作バンドを通過帯域に含む送信フィルタ、および、ダウンリンク動作バンドを通過帯域に含む受信フィルタを、本実施例に係る弾性波装置1を用いることで最適化することが可能となる。
【0068】
また、LTEのためのバンド28および5G-NRのためのバンドn28では、アップリンク動作バンドとダウンリンク動作バンドとの周波数帯域の差が約7%であるので、誘電膜41の比誘電率を10以上とすることで、弾性波共振子のQ値の劣化を抑制しつつ、通過帯域幅の差を7%程度に調整することができる。
【0069】
また、LTEのためのバンド1および5G-NRのためのバンドn1では、アップリンク動作バンドとダウンリンク動作バンドとの周波数帯域の差が約10%であるので、誘電膜41の比誘電率を20以上とすることで、弾性波共振子のQ値の劣化を抑制しつつ、通過帯域幅の差を10%程度に調整することができる。
【0070】
次に、IDT電極10および誘電膜41の音響インピーダンスの関係について説明する。
【0071】
IDT電極10の音響インピーダンスをRIDTとし、複数の電極指11aおよび11bの膜厚をtIDTとし、複数の電極指11aと複数の電極指11bとの間に配置された誘電膜41の音響インピーダンスをRDIEとし、誘電膜41の膜厚をtDIEとした場合、式1の関係式を満たす。
【0072】
RIDT×tIDT>RDIE×tDIE (式1)
【0073】
ここで、音響インピーダンスは、ρを密度、Eをヤング率とした場合、(ρ×E)1/2で表される。
【0074】
IDT電極10の音響インピーダンスRIDTが、誘電膜41の音響インピーダンスRDIEに対し小さくなると、弾性表面波が弾性波共振子の外部へ漏洩するため、弾性波装置の共振特性が低下する。これに対して、誘電膜41の膜厚tDIEを、IDT電極10の膜厚tIDTに対して薄くすることで、弾性表面波の漏洩を抑制でき、高特性の弾性波装置1を得ることができる。
【0075】
例えば、IDT電極10がアルミニウムからなり(E=70GPa、ρ=2.7g/cm3)、誘電膜41が酸化シリコンからなる(E=72GPa、ρ=2.2g/cm3)場合、音響インピーダンスRIDTと音響インピーダンスRDIEとは非常に近い値となるため、IDT電極10に対して誘電膜41を薄くすることが望ましい。また、誘電膜41の比誘電率が大きい場合には、酸化シリコン(SiO2)よりも高インピーダンスとなるため、誘電膜41はIDT電極10よりも薄いことが望ましい。
【0076】
なお、IDT電極10がA層およびB層の積層体であり、誘電膜41がC層およびD層の積層体である場合には以下のように規定される。A層の音響インピーダンスをRAとし、A層の膜厚をtAとし、B層の音響インピーダンスをRBとし、B層の膜厚をtBとし、複数の電極指11aと複数の電極指11bとの間に配置されたC層の音響インピーダンスをRCとし、C層の膜厚をtCとし、複数の電極指11aと複数の電極指11bとの間に配置されたD層の音響インピーダンスをRDとし、D層の膜厚をtDとした場合、式2の関係式を満たす。
【0077】
RA×tA+RB×tB>RC×tC+RD×tD (式2)
【0078】
つまり、IDT電極10がn層(nは自然数)の積層体であり、誘電膜41がm層(mは自然数)の積層体である場合には以下のように規定される。IDT電極10の第k層の音響インピーダンスをRIDTkとし、IDT電極10の第k層の膜厚をtIDTkとし、複数の電極指11aと複数の電極指11bとの間に配置された誘電膜41の第k層の音響インピーダンスをRDIEkとし、複数の電極指11aと複数の電極指11bとの間に配置された誘電膜41の第k層の膜厚をtDIEkとした場合、式3の関係式を満たす。
【0079】
【0080】
なお、誘電膜41の材料は酸化シリコンに限定されない。以下では、誘電膜41の材料について説明する。
【0081】
図5Aは、誘電膜41が窒化シリコンまたは酸化シリコンである場合の誘電膜41の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
図5Bは、誘電膜41が酸化イットリウムまたは酸化シリコンである場合の誘電膜41の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
図5Cは、誘電膜41が酸化アルミニウムまたは酸化シリコンである場合の誘電膜41の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
図5Dは、誘電膜41が酸化タンタルまたは酸化シリコンである場合の誘電膜41の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
図5Eは、誘電膜41が酸化チタンまたは酸化シリコンである場合の誘電膜41の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
図5Fは、誘電膜41が酸化ハフニウムまたは酸化シリコンである場合の誘電膜41の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
図5Gは、誘電膜41が酸化ジルコニウムまたは酸化シリコンである場合の誘電膜41の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
図5Hは、誘電膜41がサイアロンまたは酸化シリコンである場合の誘電膜41の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
【0082】
図5A~
図5Hに示すように、誘電膜41を、窒化シリコン、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、またはサイアロンとした場合、当該いずれの場合においても誘電膜41を酸化シリコンとした場合と比較して、比帯域幅の調整範囲を広くできることが解る。
【0083】
なお、窒化シリコン(SiN)、酸化イットリウム、(Y2O3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、サイアロン、または窒化アルミニウム(AlN)などの高誘電率の材料を誘電膜41の材料とすることで、誘電膜41が薄い構成で弾性波装置1の比帯域幅を調整することが可能である。
【0084】
さらに、酸化アルミニウム(Al2O3)や酸化イットリウム、(Y2O3)のような、圧電層31を構成する材料よりも熱伝導率の大きい材料を誘電膜41として用いることにより、弾性波装置1を高周波フィルタとして使用する際の放熱性が高くなるため、高周波フィルタの耐電力性を改善することが可能となる。
【0085】
次に、圧電層31の材料について説明する。
図6は、実施例1に係る弾性波装置1の圧電層31がニオブ酸リチウムである場合の誘電膜41の膜厚と比帯域幅の変化率との関係を表すグラフである。
【0086】
図6に示された共振特性は、弾性波装置1の各パラメータを以下のように設定して得られたものである。
【0087】
(1)波長λ=2μm
(2)IDT電極10の主電極層:材料_アルミニウム、膜厚_160nm
(3)IDT電極10の密着層:材料_チタン、膜厚_12nm
(4)圧電層31:材料_ニオブ酸リチウム、膜厚_1100nm
(5)低音速層32:材料_酸化シリコン、膜厚_210nm
(6)高音速層33:材料_窒化シリコン、膜厚_380nm
(7)支持基板34:材料_シリコン(111)
とした。
【0088】
図6に示すように、圧電層31の材料をニオブ酸リチウムとした場合でも、圧電層31の材料をタンタル酸リチウムとした場合と同様に、比帯域幅の調整が可能である。なお、圧電層31の材料としては、例えば、水晶、窒化アルミニウム、またはPZTでもよく、圧電層31の材料をタンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムとした場合と同様の効果を得ることができる。
【0089】
[4 変形例1に係る弾性波装置1Aの構成]
なお、本発明に係る弾性波装置において、誘電膜41の形成領域は、
図1に示された形成領域に限定されない。
【0090】
図7Aは、変形例1に係る弾性波装置1Aの平面図である。同図に示すように、弾性波装置1Aは、基板3と、IDT電極10と、反射電極20と、誘電膜41と、を備える。本変形例に係る弾性波装置1Aは、実施例1に係る弾性波装置1と比較して、誘電膜41の形成領域が異なる。よって以下では、本変形例に係る弾性波装置1Aについて、実施例1に係る弾性波装置1と同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0091】
誘電膜41は、第1誘電膜の一例であり、基板3上に配置されている。
図7Aに示すように、誘電膜41は、圧電層31上に形成され、圧電層31に平行かつ複数の電極指11aおよび複数の電極指11bの延伸方向(y軸方向)に垂直な方向(x軸方向)から見て複数の電極指11aと複数の電極指11bとが重なる領域(
図7Aの交叉幅Lの領域)のうち、複数の電極指11aおよび11bが配置されていない領域のみに配置されている。
【0092】
また、誘電膜41の膜厚は、複数の電極指11aおよび11bの膜厚よりも小さい。
【0093】
これによれば、積層基板構造を用いた弾性波装置1Aの単位面積当たりの容量を低下させることなく、比帯域幅を調整することができる。また、電極指間のみに誘電膜41を形成することにより、誘電膜41が形成されていない従来の弾性波装置よりも単位面積当たりの容量を大きくすることができ弾性波装置1Aを小型化することができる。さらに、電極指上を含めて全体に誘電膜を形成する従来の弾性波装置と比較して、弾性波装置のQ値を劣化させずに比帯域幅を調整することが可能となる。
【0094】
[5 変形例2に係る弾性波装置1Bの構成]
図7Bは、変形例2に係る弾性波装置1Bの平面図である。同図に示すように、弾性波装置1Bは、基板3と、IDT電極10と、反射電極20と、誘電膜41と、を備える。本変形例に係る弾性波装置1Bは、実施例1に係る弾性波装置1と比較して、誘電膜41の形成領域が異なる。よって以下では、本変形例に係る弾性波装置1Bについて、実施例1に係る弾性波装置1と同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0095】
誘電膜41は、第1誘電膜の一例であり、基板3上に配置されている。
図7Bに示すように、誘電膜41は、圧電層31上に形成され、基板3の平面視におけるバスバー電極12aとバスバー電極12bとの間の領域のうちの複数の電極指11aおよび11b、ならびに、バスバー電極12aおよび12bが配置されていない領域のみに配置されている。
【0096】
これによれば、積層基板構造を用いた弾性波装置1Bの単位面積当たりの容量を低下させることなく、比帯域幅を調整することができる。また、電極指間のみに誘電膜41を挟むことにより、誘電膜41が形成されていない従来の弾性波装置よりも単位面積当たりの容量を大きくすることができ弾性波装置1Bを小型化することができる。さらに、電極指上を含めて全体に誘電膜を形成する従来の弾性波装置と比較して、弾性波装置のQ値を劣化させずに比帯域幅を調整することが可能となる。
【0097】
[6 実施例2に係る弾性波装置1Cの構成]
図8は、実施例2に係る弾性波装置1Cの(a)平面図および(b)断面図である。同図に示すように、弾性波装置1Cは、基板3と、IDT電極10と、反射電極20と、誘電膜41および42と、を備える。本実施例に係る弾性波装置1Cは、実施例1に係る弾性波装置1と比較して、誘電膜42が付加されている点が異なる。よって以下では、本実施例に係る弾性波装置1Cについて、実施例1に係る弾性波装置1と同じ構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
【0098】
誘電膜41は、第1誘電膜の一例であり、基板3上に配置されている。誘電膜41は、基板3の平面視におけるバスバー電極12aとバスバー電極12bとの間の領域のうちの複数の電極指11aおよび11b、ならびに、バスバー電極12aおよび12bが配置されていない領域のみに配置され、かつ、基板3の平面視におけるバスバー電極22aとバスバー電極22bとの間の領域のうちの複数の電極指21、バスバー電極22aおよび22bが配置されていない領域のみに配置されている。
【0099】
また、
図8の(b)に示すように、誘電膜41の膜厚は、複数の電極指11aおよび11bの膜厚hよりも小さい。
【0100】
誘電膜42は、第2誘電膜の一例であり、誘電膜41、複数の電極指11a、11bおよび22、ならびに、バスバー電極12a、12b、22aおよび22bの上の配置されている。誘電膜42は、誘電膜41と材料または組成が異なる。
【0101】
これによれば、誘電膜42が形成されていることで、外部からのごみによる電極指間のショート不良および湿度に対する特性劣化を抑制できる。
【0102】
誘電膜42は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、および酸窒化シリコンのいずれかである。
【0103】
なお、誘電膜42の比誘電率は、誘電膜41の比誘電率よりも低いことが望ましい。これによれば、誘電膜42により弾性波装置1CのQ値を劣化させることを抑制できる。
【0104】
また、誘電膜42の膜厚は、誘電膜41の膜厚よりも小さいことが望ましい。これによれば、誘電膜42により弾性波装置1CのQ値を劣化させることを抑制できる。なお、誘電膜42の膜厚を調整することで、弾性波装置1Cの反共振周波数および共振周波数を調整することが可能となる。
【0105】
[7 弾性波装置1を用いた弾性波共振子、高周波フィルタおよびフィルタ回路の構成]
図9Aは、実施の形態に係る弾性波共振子の電極構成を模式的に示す図、および、弾性波共振子を模式的に示す図である。実施例1に係る弾性波装置1は、
図9Aに示された弾性波共振子50として適用可能である。
【0106】
図9Bは、実施の形態に係る縦結合型共振器の電極構成を模式的に示す図、および、縦結合型共振器を模式的に示す図である。実施例1に係る弾性波装置1は、
図9Bに示された縦結合型共振器(DMS)60として適用可能である。
【0107】
図10Aは、実施の形態に係るラダー型の高周波フィルタ4の回路構成図である。同図に示すように、高周波フィルタ4は、2つの入出力端子を結ぶ経路に直列接続された直列腕共振子51、52および53と、直列腕共振子51、52および53を結ぶ経路とグランドとの間に接続された並列腕共振子54および55と、を備える。直列腕共振子51~53、ならびに並列腕共振子54および55のそれぞれは、実施例1に係る弾性波装置1を用いた弾性波共振子である。上記構成により、高周波フィルタ4は、ラダー型の高周波フィルタを構成している。
【0108】
これによれば、高周波フィルタ4を構成する弾性波装置1の比帯域幅を、Q値を劣化させずに調整できるので、通過特性が最適化された高周波フィルタ4を提供できる。
【0109】
なお、高周波フィルタ4において、直列腕共振子51~53、ならびに並列腕共振子54および55の少なくとも2つが有する誘電膜41(第1誘電膜)は、膜厚、材料または組成が異なってもよい。これによれば、比帯域幅の異なる弾性波共振子を組み合わせることが可能となるので、例えば、急峻性に優れ、かつ広帯域な高周波フィルタ4を提供できる。
【0110】
図10Bは、実施の形態に係る縦結合型共振器を含む高周波フィルタ4Aの回路構成図である。同図に示すように、高周波フィルタ4Aは、2つの入出力端子を結ぶ経路に直列接続された直列腕共振子51および縦結合型共振器60と、直列腕共振子51および縦結合型共振器60を結ぶ経路とグランドとの間に接続された並列腕共振子54と、を備える。直列腕共振子51、並列腕共振子54、および縦結合型共振器60のそれぞれは、実施例1に係る弾性波装置1を用いた弾性波共振子である。上記構成により、高周波フィルタ4Aは、縦結合型の高周波フィルタを構成している。
【0111】
これによれば、高周波フィルタ4Aを構成する弾性波装置1の比帯域幅を、Q値を劣化させずに調整できるので、通過特性が最適化された高周波フィルタ4Aを提供できる。
【0112】
なお、高周波フィルタ4Aにおいて、直列腕共振子51、並列腕共振子54、および縦結合型共振器60の少なくとも2つが有する誘電膜41(第1誘電膜)は、膜厚、材料または組成が異なってもよい。これによれば、比帯域幅の異なる弾性波共振子を組み合わせることが可能となるので、例えば、急峻性に優れ、かつ広帯域な高周波フィルタ4Aを提供できる。
【0113】
図10Cは、実施の形態に係る複数の縦結合型共振器を含む高周波フィルタ4Bの回路構成図である。同図に示すように、高周波フィルタ4Bは、2つの入出力端子を結ぶ経路に直列接続された縦結合型共振器61および62を備える。縦結合型共振器61および62のそれぞれは、実施例1に係る弾性波装置1を用いた弾性波共振子である。上記構成により、高周波フィルタ4Bは、縦結合型の高周波フィルタを構成している。
【0114】
これによれば、高周波フィルタ4Bを構成する弾性波装置1の比帯域幅を、Q値を劣化させずに調整できるので、通過特性が最適化された高周波フィルタ4Bを提供できる。
【0115】
なお、高周波フィルタ4Bにおいて、縦結合型共振器61および62のそれぞれが有する誘電膜41(第1誘電膜)は、膜厚、材料または組成が異なってもよい。これによれば、比帯域幅の異なる弾性波共振子を組み合わせることが可能となるので、例えば、急峻性に優れ、かつ広帯域な高周波フィルタ4Bを提供できる。
【0116】
また、本実施の形態に係るフィルタ回路は、高周波フィルタ4、4Aおよび4Bのいずれかである高周波フィルタを複数備える。ここで、フィルタ回路が備える複数の高周波フィルタは、1枚の基板3を共有している。また、上記複数の高周波フィルタのうちの第1の高周波フィルタが有する誘電膜41(第1誘電膜)と、上記複数の高周波フィルタのうちの第2の高周波フィルタが有する誘電膜(第1誘電膜)とは、膜厚、材料または組成が異なる。
【0117】
これによれば、通過帯域幅の異なる複数の高周波フィルタを同一基板上に形成することができるため、複数の高周波フィルタで構成されるフィルタ回路を小型化することができる。
【0118】
[8 効果など]
以上のように、実施例1に係る弾性波装置1、変形例2に係る弾性波装置1B、および実施例2に係る弾性波装置1Cは、基板3と、基板3上に配置されたIDT電極10と、基板3上に配置された誘電膜41と、を備え、基板3は、圧電層31、低音速層32および高音速層33をこの順で有し、IDT電極10は、複数の電極指11aおよび11bと、複数の電極指11aを接続するバスバー電極12aと、複数の電極指11bを接続するバスバー電極12bと、を有し、誘電膜41は、圧電層31上であって、基板3の平面視におけるバスバー電極12aとバスバー電極12bとの間の領域のうちの複数の電極指11aおよび11b、ならびに、バスバー電極12aおよび12bが配置されていない領域のみに配置され、誘電膜41の膜厚は複数の電極指11aおよび11bの膜厚よりも小さい。
【0119】
これによれば、積層基板構造を用いた弾性波装置の単位面積当たりの容量を低下させることなく、比帯域幅を調整することができる。また、電極指間のみに誘電膜41を挟むことにより、誘電膜41が形成されていない従来の弾性波装置よりも単位面積当たりの容量を大きくすることができ弾性波装置を小型化することができる。さらに、電極指上を含めて全体に誘電膜を形成する従来の弾性波装置と比較して、弾性波装置のQ値を劣化させずに比帯域幅を調整することが可能となる。
【0120】
また例えば、実施例1に係る弾性波装置1および実施例2に係る弾性波装置1Cは、さらに、複数の電極指11aおよび11bの延伸方向に垂直な方向に、IDT電極10と隣り合うように配置された反射電極20を備え、反射電極20は、複数の電極指11aおよび11bと平行な複数の電極指21と、複数の電極指21の一方端同士を接続するバスバー電極22aと、複数の電極指21の他方端同士を接続するバスバー電極22bと、を有し、誘電膜41は、圧電層31上であって、基板3の平面視におけるバスバー電極12aとバスバー電極12bとの間の領域のうちの複数の電極指11aおよび11b、ならびに、バスバー電極12aおよび12bが配置されていない領域のみに配置され、かつ、圧電層31上であって、基板3の平面視におけるバスバー電極22aとバスバー電極22bとの間の領域のうちの複数の電極指21、バスバー電極22aおよび22bが配置されていない領域のみに配置される。
【0121】
これによれば、積層基板構造を用いた弾性波装置の単位面積当たりの容量を低下させることなく、比帯域幅を調整することができる。また、電極指間のみに誘電膜41を挟むことにより、誘電膜41が形成されていない従来の弾性波装置よりも単位面積当たりの容量を大きくすることができ弾性波装置を小型化することができる。さらに、電極指上を含めて全体に誘電膜を形成する従来の弾性波装置と比較して、弾性波装置のQ値を劣化させずに比帯域幅を調整することが可能となる。
【0122】
また例えば、弾性波装置1、1A、1Bおよび1Cにおいて、IDT電極10の音響インピーダンスをRIDTとし、複数の電極指11aおよび11bの膜厚をtIDTとし、複数の電極指11aと複数の電極指11bとの間に配置された誘電膜41の音響インピーダンスをRDIEとし、誘電膜41の膜厚をtDIEとした場合、RIDT×tIDT>RDIE×tDIE、なる関係を満たす。
【0123】
これによれば弾性表面波の漏洩を抑制でき、高特性の弾性波装置を得ることができる。
【0124】
また例えば、弾性波装置1、1A、1Bおよび1Cにおいて、IDT電極10がn層(nは自然数)の積層体であり、誘電膜41がm層(mは自然数)の積層体であり、IDT電極10の第k層の音響インピーダンスをR
IDTkとし、IDT電極10の第k層の膜厚をt
IDTkとし、複数の電極指11aと複数の電極指11bとの間に配置された誘電膜41の第k層の音響インピーダンスをR
DIEkとし、誘電膜41の第k層の膜厚をt
DIEkとした場合、
【数2】
なる関係を満たす。
【0125】
これによれば、IDT電極10および誘電膜41のそれぞれが積層体で構成されている場合、弾性表面波の漏洩を抑制でき、高特性の弾性波装置を得ることができる。
【0126】
また例えば、弾性波装置1、1A、1Bおよび1Cにおいて、誘電膜41の比誘電率は5以上である。
【0127】
これによれば、Qmaxの変化率が80%の状態で、比帯域幅を5%調整することが可能となる。
【0128】
また例えば、弾性波装置1、1A、1Bおよび1Cにおいて、誘電膜41の比誘電率は10以上である。
【0129】
これによれば、Qmaxの変化率が80%の状態で、比帯域幅を7%調整することが可能となる。
【0130】
また例えば、弾性波装置1、1A、1Bおよび1Cにおいて、誘電膜41の膜厚は複数の電極指11aおよび11bの膜厚の50%以下である。
【0131】
これによれば、Qmaxの変化率を75%以上とした状態で比帯域幅を調整することが可能となる。
【0132】
また例えば、弾性波装置1、1A、1Bおよび1Cにおいて、誘電膜41の膜厚は複数の電極指11aおよび11bの膜厚の20%以下である。
【0133】
これによれば、Qmaxの変化率を90%以上とした状態で比帯域幅を調整することが可能となる。
【0134】
また例えば、弾性波装置1、1A、1Bおよび1Cにおいて、圧電層31は、タンタル酸リチウムおよびニオブ酸リチウムのいずれかを含む。
【0135】
また例えば、弾性波装置1、1A、1Bおよび1Cにおいて、誘電膜41は、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、およびサイアロンのいずれかを含む。
【0136】
これによれば、誘電膜41を酸化シリコンとした場合と比較して、比帯域幅の調整範囲を広くできる。
【0137】
また例えば、弾性波装置1、1A、1Bおよび1Cにおいて、IDT電極10は、アルミニウムからなる主電極層と、主電極層と圧電層31との間に配置された密着層と、を含む。
【0138】
これによれば、低密度かつ低抵抗なアルミニウムを主電極層として用いることで、IDT電極10の膜厚を大きく設定できるので、低抵抗なIDT電極10を形成することが可能となる。
【0139】
また例えば、弾性波装置1、1A、1Bおよび1Cにおいて、誘電膜41の熱伝導率は、圧電層31の熱伝導率よりも高い。
【0140】
これによれば、弾性波装置を高周波フィルタとして使用する際の放熱性が高くなるため、弾性波装置を用いた高周波フィルタの耐電力性を改善することが可能となる。
【0141】
また例えば、弾性波装置1Cは、さらに、IDT電極10上および誘電膜41上に配置され、誘電膜41と材料または組成が異なる誘電膜42を備える。
【0142】
これによれば、誘電膜42が形成されているので、外部からのごみによる電極指間のショート不良および湿度に対する特性劣化を抑制できる。
【0143】
また例えば、弾性波装置1Cにおいて、誘電膜42の比誘電率は、誘電膜41の比誘電率よりも低い。
【0144】
これによれば、誘電膜42により弾性波装置1CのQ値を劣化させることを抑制できる。
【0145】
また例えば、弾性波装置1Cにおいて、誘電膜42の膜厚は、誘電膜41の膜厚よりも小さい。
【0146】
これによれば、誘電膜42により弾性波装置1CのQ値を劣化させることを抑制できる。
【0147】
また例えば、弾性波装置1Cにおいて、誘電膜42は、酸化シリコン、窒化シリコン、および酸窒化シリコンのいずれかを含む。
【0148】
また、実施例1に係る弾性波装置1、変形例1に係る弾性波装置1A、変形例2に係る弾性波装置1B、および実施例2に係る弾性波装置1Cは、基板3と、基板3上に配置されたIDT電極10と、基板3上に配置された誘電膜41と、を備え、基板3は、圧電層31、低音速層32および高音速層33をこの順で有し、IDT電極10は、複数の電極指11aおよび11bと、複数の電極指11aを接続するバスバー電極12aと、複数の電極指11bを接続するバスバー電極12bと、を有し、誘電膜41は、圧電層31上であって、圧電層31に平行かつ複数の電極指11aおよび11bの延伸方向に垂直な方向から見て複数の電極指11aと複数の電極指11bとが重なる領域のうち、基板3の平面視において複数の電極指11aおよび11bが配置されていない領域のみに配置され、誘電膜41の膜厚は複数の電極指11aおよび11bの膜厚よりも小さい。
【0149】
これによれば、IDT電極10よりも薄い誘電膜41を上記所定の領域に配置することで、Q値を劣化させずに比帯域幅の調整が可能な小型の弾性波装置1(および1A~1C)を提供することが可能となる。
【0150】
また、本実施の形態に係る高周波フィルタ4、4Aおよび4Bは、弾性波装置1、1A、1Bおよび1Cのいずれかを備える。
【0151】
これによれば、高周波フィルタを構成する弾性波装置の比帯域幅を、Q値を劣化させずに調整できるので、通過特性が最適化された高周波フィルタを提供できる。
【0152】
また例えば、高周波フィルタ4、4Aおよび4Bは、弾性波装置1、1A、1Bまたは1Cを複数備え、当該複数の弾性波装置のうちの第1の弾性波装置が有する誘電膜41と、当該複数の弾性波装置のうちの第2の弾性波装置が有する誘電膜41とは、膜厚、材料または組成が異なる。
【0153】
これによれば、比帯域幅の異なる弾性波共振子を組み合わせることが可能となるので、例えば、急峻性に優れかつ広帯域な高周波フィルタを提供できる。
【0154】
また、本実施の形態に係るフィルタ回路は、高周波フィルタ4、4Aまたは4Bを複数備え、当該複数の高周波フィルタは、1枚の基板3を共有し、当該複数の高周波フィルタのうちの第1の高周波フィルタが有する誘電膜41と、当該複数の高周波フィルタのうちの第2の高周波フィルタが有する誘電膜41とは、膜厚、材料または組成が異なる。
【0155】
これによれば、通過帯域幅の異なる複数の高周波フィルタを同一基板上に形成することができるため、複数の高周波フィルタで構成されるフィルタ回路を小型化することができる。
【0156】
(その他の実施の形態)
以上、本発明に係る弾性波装置、高周波フィルタおよびフィルタ回路について、実施の形態、実施例および変形例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態、実施例および変形例に限定されるものではない。上記実施の形態、実施例および変形例における任意の構成要素を組み合わせて実現される別の実施の形態や、上記実施の形態、実施例および変形例に対して本発明の主旨を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0157】
以下に、上記実施の形態、実施例および変形例に基づいて説明した弾性波装置、高周波フィルタおよびフィルタ回路の特徴を示す。
【0158】
<1>
基板と、
前記基板上に配置されたIDT(InterDigital Transducer)電極と、
前記基板上に配置された第1誘電膜と、を備え、
前記基板は、
前記IDT電極が形成された圧電層と、
前記圧電層を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速層と、
前記圧電層と前記高音速層との間に配置され、前記圧電層を伝搬するバルク波よりも、バルク波の音速が低速となる低音速層と、を有し、
前記IDT電極は、
互いに平行に配置された複数の第1電極指および複数の第2電極指と、
前記複数の第1電極指の一方端同士を接続するよう構成された第1バスバー電極と、
前記複数の第2電極指の一方端同士を接続するよう構成され、前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指を挟んで前記第1バスバー電極と対向配置された第2バスバー電極と、を有し、
前記第1誘電膜は、前記圧電層上であって、前記基板の平面視における前記第1バスバー電極と前記第2バスバー電極との間の領域のうちの前記複数の第1電極指、前記複数の第2電極指、前記第1バスバー電極、および前記第2バスバー電極が配置されていない領域のみに配置され、
前記第1誘電膜の膜厚は、前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指の膜厚よりも小さい、弾性波装置。
【0159】
<2>
さらに、
前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指の延伸方向に垂直な方向に、前記IDT電極と隣り合うように配置された反射電極を備え、
前記反射電極は、
前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指と平行な複数の第3電極指と、
前記複数の第3電極指の一方端同士を接続する第3バスバー電極と、
前記複数の第3電極指の他方端同士を接続する第4バスバー電極と、を有し、
前記第1誘電膜は、
前記圧電層上であって、前記基板の平面視における前記第1バスバー電極と前記第2バスバー電極との間の領域のうちの前記複数の第1電極指、前記複数の第2電極指、前記第1バスバー電極、および前記第2バスバー電極が配置されていない領域のみに配置され、かつ、
前記圧電層上であって、前記基板の平面視における前記第3バスバー電極と前記第4バスバー電極との間の領域のうちの前記複数の第3電極指、前記第3バスバー電極、および前記第4バスバー電極が配置されていない領域のみに配置される、<1>に記載の弾性波装置。
【0160】
<3>
前記IDT電極の音響インピーダンスをRIDTとし、前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指の膜厚をtIDTとし、
前記複数の第1電極指と前記複数の第2電極指との間に配置された前記第1誘電膜の音響インピーダンスをRDIEとし、前記第1誘電膜の膜厚をtDIEとした場合、
RIDT×tIDT>RDIE×tDIE
なる関係を満たす、<1>または<2>に記載の弾性波装置。
【0161】
<4>
前記IDT電極がn層(nは自然数)の積層体であり、前記第1誘電膜がm層(mは自然数)の積層体であり、前記IDT電極の第k層の音響インピーダンスをR
IDTkとし、前記IDT電極の第k層の膜厚をt
IDTkとし、前記複数の第1電極指と前記複数の第2電極指との間に配置された前記第1誘電膜の第k層の音響インピーダンスをR
DIEkとし、前記第1誘電膜の第k層の膜厚をt
DIEkとした場合、
【数3】
なる関係を満たす、<1>または<2>に記載の弾性波装置。
【0162】
<5>
前記第1誘電膜の比誘電率は、5以上である、<1>~<4>のいずれかに記載の弾性波装置。
【0163】
<6>
前記第1誘電膜の比誘電率は、10以上である、<1>~<4>のいずれかに記載の弾性波装置。
【0164】
<7>
前記第1誘電膜の膜厚は、前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指の膜厚の50%以下である、<1>~<6>のいずれかに記載の弾性波装置。
【0165】
<8>
前記第1誘電膜の膜厚は、前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指の膜厚の20%以下である、<1>~<6>のいずれかに記載の弾性波装置。
【0166】
<9>
前記圧電層は、タンタル酸リチウムおよびニオブ酸リチウムのいずれかを含む、<1>~<8>のいずれかに記載の弾性波装置。
【0167】
<10>
前記第1誘電膜は、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、およびサイアロンのいずれかを含む、<1>~<9>のいずれかに記載の弾性波装置。
【0168】
<11>
前記IDT電極は、
アルミニウムからなる主電極層と、
前記主電極層と前記圧電層との間に配置された密着層と、を含む、<1>~<10>のいずれかに記載の弾性波装置。
【0169】
<12>
前記第1誘電膜の熱伝導率は、前記圧電層の熱伝導率よりも高い、<1>~<11>のいずれかに記載の弾性波装置。
【0170】
<13>
さらに、
前記IDT電極上および前記第1誘電膜上に配置され、前記第1誘電膜と材料または組成が異なる第2誘電膜を備える、<1>~<12>のいずれかに記載の弾性波装置。
【0171】
<14>
前記第2誘電膜の比誘電率は、前記第1誘電膜の比誘電率よりも低い、<13>に記載の弾性波装置。
【0172】
<15>
前記第2誘電膜の膜厚は、前記第1誘電膜の膜厚よりも小さい、<13>に記載の弾性波装置。
【0173】
<16>
前記第2誘電膜は、酸化シリコン、窒化シリコン、および酸窒化シリコンのいずれかを含む、<13>~<15>のいずれかに記載の弾性波装置。
【0174】
<17>
基板と、
前記基板上に配置されたIDT(InterDigital Transducer)電極と、
前記基板上に配置された第1誘電膜と、を備え、
前記基板は、
前記IDT電極が形成された圧電層と、
前記圧電層を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速層と、
前記圧電層と前記高音速層との間に配置され、前記圧電層を伝搬するバルク波よりも、バルク波の音速が低速となる低音速層と、を有し、
前記IDT電極は、
互いに平行に配置された複数の第1電極指および複数の第2電極指と、
前記複数の第1電極指の一方端同士を接続するよう構成された第1バスバー電極と、
前記複数の第2電極指の一方端同士を接続するよう構成され、前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指を挟んで前記第1バスバー電極と対向配置された第2バスバー電極と、を有し、
前記第1誘電膜は、前記圧電層上であって、前記圧電層に平行かつ前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指の延伸方向に垂直な方向から見て前記複数の第1電極指と前記複数の第2電極指とが重なる領域のうち、前記基板の平面視において前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指が配置されていない領域のみに配置され、
前記第1誘電膜の膜厚は、前記複数の第1電極指および前記複数の第2電極指の膜厚よりも小さい、弾性波装置。
【0175】
<18>
<1>~<17>のいずれかに記載の弾性波装置を備える、高周波フィルタ。
【0176】
<19>
<1>~<17>のいずれかに記載の弾性波装置を複数備え、
前記複数の弾性波装置のうちの第1の弾性波装置が有する前記第1誘電膜と、前記複数の弾性波装置のうちの第2の弾性波装置が有する前記第1誘電膜とは、膜厚、材料または組成が異なる、<18>に記載の高周波フィルタ。
【0177】
<20>
<18>または<19>に記載の高周波フィルタを複数備え、
前記複数の高周波フィルタは、1枚の前記基板を共有し、
前記複数の高周波フィルタのうちの第1の高周波フィルタが有する前記第1誘電膜と、前記複数の高周波フィルタのうちの第2の高周波フィルタが有する前記第1誘電膜とは、膜厚、材料または組成が異なる、フィルタ回路。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明は、フロントエンド部に配置される弾性波装置、高周波フィルタおよびフィルタ回路として、携帯電話などの通信機器に広く利用できる。
【符号の説明】
【0179】
1、1A、1B、1C、500 弾性波装置
3 基板
4、4A、4B 高周波フィルタ
10 IDT電極
11a、11b、21 電極指
12a、12b、22a、22b バスバー電極
20 反射電極
31 圧電層
32 低音速層
33 高音速層
34 支持基板
41、42、45 誘電膜
50 弾性波共振子
51、52、53 直列腕共振子
54、55 並列腕共振子
60、61、62 縦結合型共振器