(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176356
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】血圧計、血圧計測方法、血圧計測プログラム、学習モデルの構築方法及び学習モデルの構築プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20241212BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A61B5/022 400F
A61B5/02 310Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094838
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 滋穂里
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA09
4C017AB02
4C017BC11
4C017BD05
4C017FF08
(57)【要約】
【課題】脈波にノイズが含まれていても高精度に血圧を取得する。
【解決手段】本血圧計は、被計測者の腕に巻かれるカフと、カフによる腕に対する圧力を制御する制御部と、カフが腕から受けるカフ圧を検出する検出部と、カフ圧の時系列変化から取得される、被計測者の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の変化を示す第1の脈波形の第1の画像を含み、第1の画像の特徴量によってカフ圧を示す第1の波形画像を生成する生成部と、被験者についてのカフ圧の時系列変化から取得される、被験者の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の変化を示す第2の脈波形の第2の画像を含み、第2の画像の特徴量によってカフ圧を示す第2の波形画像を説明変数とし、被験者の血圧を目的変数とする機械学習によって構築された算出モデルと、第1の波形画像を算出モデルに入力して、算出モデルから被計測者の血圧を取得する取得部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測者の腕に巻かれるカフと、
前記カフによる前記腕に対する圧力を制御する制御部と、
前記カフが前記腕から受けるカフ圧を検出する検出部と、
前記カフ圧の時系列変化から取得される、前記被計測者の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の変化を示す第1の脈波形の第1の画像を含み、前記第1の画像の特徴量によって前記カフ圧を示す第1の波形画像を生成する生成部と、
被験者についての前記カフ圧の時系列変化から取得される、前記被験者の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の変化を示す第2の脈波形の第2の画像を含み、前記第2の画像の特徴量によって前記カフ圧を示す第2の波形画像を説明変数とし、前記被験者の血圧を目的変数とする機械学習によって構築された算出モデルと、
前記第1の波形画像を前記算出モデルに入力して、前記算出モデルから前記被計測者の血圧を取得する取得部と、を備える、
血圧計。
【請求項2】
前記生成部は、
前記脈波形を線画像で描画するとともに、前記線画像を形成する線の特徴量によって前記カフ圧を示す前記第1の波形画像を生成する、
請求項1に記載の血圧計。
【請求項3】
前記線の特徴量は、前記線の色を含み、
前記カフ圧は、前記線の前記色によって示される、
請求項2に記載の血圧計。
【請求項4】
前記線の特徴量は、前記線の太さを含み、
前記カフ圧は、前記線の太さに示される、
請求項2に記載の血圧計。
【請求項5】
前記生成部は、
前記脈波形を線画像で描画するとともに、前記線画像の背景の特徴量によって前記カフ圧を示す前記第1の波形画像を生成する、
請求項1に記載の血圧計。
【請求項6】
前記背景の特徴量は、前記背景の色を含み、
前記カフ圧は、前記背景の前記色によって示される、
請求項5に記載の血圧計。
【請求項7】
前記算出モデルは、前記被験者の拡張期血圧及び収縮期血圧を前記目的変数とした前記機械学習によって構築される、
請求項1から6のいずれか一項に記載の血圧計。
【請求項8】
被計測者の腕に巻かれるカフが前記腕から受けるカフ圧を検出する検出ステップと、
前記カフ圧の時系列変化から取得される、前記被計測者の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の変化を示す第1の脈波形の第1の画像を含み、前記第1の画像の特徴量によって前記カフ圧を示す第1の波形画像を生成する生成ステップと、
被験者についての前記カフ圧の時系列変化から取得される、前記被験者の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の変化を示す第2の脈波形の第2の画像を含み、前記第2の画像の特徴量によって前記カフ圧を示す第2の波形画像を説明変数とし、前記被験者の血圧を目的変数とする機械学習によって構築された算出モデルに前記第1の波形画像を入力して
、前記算出モデルから前記被計測者の血圧を取得する取得ステップと、をコンピュータが実行する、
血圧計測方法。
【請求項9】
被計測者の腕に巻かれるカフが前記腕から受けるカフ圧を検出する検出ステップと、
前記カフ圧の時系列変化から取得される、前記被計測者の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の変化を示す第1の脈波形の第1の画像を含み、前記第1の画像の特徴量によって前記カフ圧を示す第1の波形画像を生成する生成ステップと、
被験者についての前記カフ圧の時系列変化から取得される、前記被験者の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の変化を示す第2の脈波形の第2の画像を含み、前記第2の画像の特徴量によって前記カフ圧を示す第2の波形画像を説明変数とし、前記被験者の血圧を目的変数とする機械学習によって構築された算出モデルに前記第1の波形画像を入力して、前記算出モデルから前記被計測者の血圧を取得する取得ステップと、をコンピュータに実行させる、
血圧計測プログラム。
【請求項10】
被験者の腕に巻かれるカフが前記腕から受けるカフ圧を検出する検出ステップと、
前記カフ圧の時系列変化から取得される、前記被験者の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の変化を示す脈波形の画像を含み、前記画像の特徴量によって前記カフ圧を示す波形画像を生成する生成ステップと、
前記波形画像を説明変数とし、前記被験者の血圧を目的変数とする機械学習によって学習モデルを構築する構築ステップと、をコンピュータが実行する、
学習モデルの構築方法。
【請求項11】
被験者の腕に巻かれるカフが前記腕から受けるカフ圧を検出する検出ステップと、
前記カフ圧の時系列変化から取得される、前記被験者の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の変化を示す脈波形の画像を含み、前記画像の特徴量によって前記カフ圧を示す波形画像を生成する生成ステップと、
前記波形画像を説明変数とし、前記被験者の血圧を目的変数とする機械学習によって学習モデルを構築する構築ステップと、をコンピュータに実行させる、
学習モデルの構築プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧計、血圧計測方法、血圧計測プログラム、学習モデルの構築方法及び学習モデルの構築プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
血圧計測によって健康状態を把握することが行われている。特許文献1では、カフを用いて計測された被計測者の血圧と聴診法で実測した被計測者の血圧の相関を記憶し、記憶した相関を用いて被計測者の血圧を補正する技術が記載されている。また、特許文献2では、光電容積脈波を用いて血圧を測定する技術が記載されている。特許文献3では、カフ圧脈波をウェーブレット変換等を用いて生成した特徴量画像を用いて血圧を計測する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-309073号公報
【特許文献2】特表2022-516820号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2020/0146568号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カフ圧から得られる脈波や光電容積脈波には、被計測者の体動、カフの巻き方、カフを巻く位置等によってノイズが含まれることがある。オシロメトリック法による血圧計測では脈波の波形を基に血圧を計測するため、このようなノイズが脈波に含まれると血圧の計測精度が低下する虞がある。
【0005】
開示の技術の1つの側面は、脈波にノイズが含まれていても高精度に血圧を取得できる血圧計、血圧計測方法、血圧計測プログラム、学習モデルの構築方法及び学習モデルの構築プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の技術の1つの側面は、次のような血圧計によって例示される。本血圧計は、被計測者の腕に巻かれるカフと、上記カフによる上記腕に対する圧力を制御する制御部と、上記カフが上記腕から受けるカフ圧を検出する検出部と、上記カフ圧の時系列変化から取得される、上記被計測者の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の変化を示す第1の脈波形の第1の画像を含み、上記第1の画像の特徴量によって上記カフ圧を示す第1の波形画像を生成する生成部と、被験者についての上記カフ圧の時系列変化から取得される、上記被験者の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の変化を示す第2の脈波形の第2の画像を含み、上記第2の画像の特徴量によって上記カフ圧を示す第2の波形画像を説明変数とし、上記被験者の血圧を目的変数とする機械学習によって構築された算出モデルと、上記第1の波形画像を上記算出モデルに入力して、上記算出モデルから上記被計測者の血圧を取得する取得部と、を備える。
【0007】
カフ圧の時系列変化には、上記カフが上記腕を圧する圧力の時系列変化に対して、上記腕の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の時系列変化が微細な振動として重畳して含まれる。本血圧計によれば、波形画像は、上記腕の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の時系列変化が微細な振動を示す脈波形の大局的な変化を示す波形と局所的な変化を示す波
形とを含むとともに、カフ圧の情報をも含む。このような波形画像を目的変数とした機械学習によって構築される算出モデルは、波形画像にノイズが含まれていても、被計測者の血圧を高精度に出力できる。すなわち、本血圧計によれば、カフ圧から得られる脈波にノイズが含まれていても高精度の血圧計測を実現できる。また、被計測者の腕は、被計測者の手首を含む。
【0008】
本血圧計は、さらに、次の特徴を備えてもよい。上記生成部は、上記脈波形を線画像で描画するとともに、上記線画像を形成する線の特徴量によって上記カフ圧を示す上記第1の波形画像を生成する。このような波形画像は、脈波形が線画像で描画されることで脈波形の大局的な特徴及び局所的な特徴の双方を含むとともに、線の特徴量によってカフ圧の情報を含むことができる。ここで、上記線の特徴量は、上記線の色を含み、上記カフ圧は、上記線の上記色によって示されてもよい。また、上記線の特徴量は、上記線の太さを含み、
上記カフ圧は、上記線の太さに示されてもよい。このような波形画像を用いることで、本血圧計はより高い精度の血圧計測を行うことができる。
【0009】
本血圧計は、さらに、次の特徴を備えてもよい。上記生成部は、上記脈波形を線画像で描画するとともに、上記線画像の背景の特徴量によって上記カフ圧を示す上記第1の波形画像を生成する。このような波形画像は、脈波形が線画像で描画されることで脈波形の大局的な特徴及び局所的な特徴の双方を含むとともに、背景の特徴量によってカフ圧の情報を含むことができる。ここで、上記背景の特徴量は、上記背景の色を含み、上記カフ圧は、上記背景の上記色によって示されてもよい。このような波形画像を用いることで、本血圧計はより高い精度の血圧計測を行うことができる。
【0010】
本血圧計は、さらに、次の特徴を備えてもよい。上記算出モデルは、上記被験者の拡張期血圧及び収縮期血圧を上記目的変数とした上記機械学習によって構築される。このような算出モデルであれば、拡張期血圧及び収縮期血圧の算出に効果的な特徴量を学習できる。
【0011】
開示の技術は、血圧計測方法、血圧計測プログラム、学習モデルの構築方法及び学習モデルの構築プログラムの側面から把握することもできる。
【発明の効果】
【0012】
開示の技術によれば、脈波にノイズが含まれていても高精度に血圧を取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態に係る血圧計の構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、血圧計を被計測者の手首に装着した状態を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、波形画像のバリエーションを例示する図である。
【
図4】
図4は、波形画像を用いて血圧を計測した場合における血圧の計測精度の検証結果を例示する図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る血圧モデルの構築処理の一例を示す図である
【
図6】
図6は、実施形態に係る血圧計の処理フローの一例を示す図である。
【
図7】
図7は、比較例に係る血圧計の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<適用例>
本発明の適用例について説明する。適用例に係る血圧計100は、カフ120を被計測者の上腕や手首に巻いて被計測者の血圧を計測する装置である。血圧計100では、取得
部114がカフ圧の時系列変化及び脈波の時系列変化の少なくとも一方を血圧モデル116に入力し、血圧モデル116から被計測者の血圧を取得する。
【0015】
取得部114は、カフ120の圧力を制御して圧力センサ113からカフ圧の時系列変化と脈波の時系列変化を取得する。生成部115は、取得部114が取得したカフ圧の時系列変化と脈波の時系列変化を示す波形画像を生成する。波形画像は、例えば、脈波の時系列変化を線で示す線画像に対して、カフ圧の時系列変化を示す情報を当該線画像の特徴量を用いて付したものである。
【0016】
取得部114は、生成部115によって生成した波形画像を血圧モデル116に入力し、血圧モデル116から被計測者の血圧を取得する。取得部114は、取得した血圧を出力部117に出力させる。
【0017】
血圧モデル116は、波形画像が入力されると、当該被計測者の血圧を出力する学習モデルである。血圧モデル116は、被計測者の波形画像を説明変数とし、真値として採用する血圧を目的変数とする機械学習によって構築される。機械学習は、深層学習を含む。また、真値として採用する血圧は、聴診法で計測された血圧であってもよい。
【0018】
本適用例によれば、波形画像は、脈波の時系列変化の大局的な変化を示す波形と局所的な変化を示す波形とを含む。このような波形画像を目的変数とした機械学習によって構築される血圧モデル116は、波形画像にノイズが含まれていても、高精度に被計測者の血圧を出力できる。すなわち、本適用例によれば、生成部115によって生成された波形画像にノイズが含まれていても、高精度に血圧を取得できる。
【0019】
<実施形態>
以下、図面を参照して実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る血圧計100の構成の一例を示す図である。また、
図2は、血圧計100を被計測者の手首H1に装着した状態を模式的に示す図である。血圧計100は、本体110及びカフ120を備える。血圧計100は、例えば被計測者の手首H1にカフ120を巻いて被計測者の血圧を取得する。なお、カフ120が巻かれる位置は手首H1に限定されず、被計測者の上腕であってもよい。
【0020】
カフ120は、帯状に形成され、内部に空気が送気される袋を有する。カフ120が被計測者の手首H1に巻かれた状態でカフ120内部の袋に送気されると、手首H1に対するカフによる圧力が上昇する。また、カフ120が被計測者の手首H1に巻かれた状態でカフ120内部の袋から吸気されると、手首H1に対するカフによる圧力が低下する。
【0021】
本体110には、例えば、プロセッサ及び記憶部が配置され、記憶部に記憶されたプログラムをプロセッサが実行することで、起動スイッチ111、制御部112、圧力センサ113、取得部114、血圧モデル116及び出力部117等の各処理部が実現される。取得部114は、生成部115を含む。換言すれば、血圧計100は、カフ120を有するコンピュータとみなすことができる。なお、起動スイッチ111、制御部112、圧力センサ113、取得部114、血圧モデル116及び出力部117等の各処理部は、専用のハードウェア回路であってもよい。血圧計100では、起動スイッチ111がオンにされることで血圧計100が起動し、血圧の計測が開始される。
【0022】
制御部112は、カフ120への空気の送気及びカフ120からの吸気を行うことで、カフ120による被計測者の手首H1に対する圧力を制御する。制御部112は、起動スイッチ111がオンにされると、カフ120の圧力の制御を開始する。
【0023】
圧力センサ113は、カフ120による圧力(カフ圧)を検知するセンサである。圧力センサ113は、検知したカフ圧を取得部114に対して出力する。このようなカフ圧の時系列変化には、例えば、カフ120が手首H1を圧する圧力の時系列変化に対して、手首H1の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の時系列変化(圧力振動)が微細な振動として重畳して含まれる。
【0024】
取得部114は、血圧モデル116を用いて被計測者の血圧を取得する。取得部114は、最高血圧より高い圧力にまで高められた後、最低血圧より低い圧力にまで徐々に減圧されるカフ120のカフ圧の時系列変化を圧力センサ113から取得する。また、取得部114は、圧力センサ113から取得したカフ圧の時系列変化から動脈内を流れる血流の拍動による圧力の時系列変化を抽出して、脈波の時系列変化を示す波形(以下、脈波形とも称する)を取得する。
【0025】
生成部115は、抽出されたカフ圧の時系列変化及び脈波形を示す一枚の波形画像を生成する。波形画像は、適用例でも説明したように、脈波形を線で描画し、描画した線画像の特徴量を用いてカフ圧の時系列変化を示す情報を付したものであってよい。なお、波形画像は非圧縮の画像ファイルフォーマットで生成されることが好ましい。波形画像の画像サイズは、脈波形が目視できる程度の画像サイズが好ましい。波形画像の画像サイズは、例えば、縦448ピクセル×横448ピクセルである。
【0026】
ここで、波形画像について説明する。
図3は、波形画像のバリエーションを例示する図である。
図3A、3B、3C、3Dのいずれも、縦軸は圧力(mmHg)、横軸は時間(秒)を例示する。
図3Aは、脈波形を塗りつぶして生成された波形画像を例示する。
図3Bは、脈波形を線で描画した波形画像を例示する。
図3Cは、脈波形を塗りつぶして生成された画像の上に、カフ圧の時系列変化の波形(以下、カフ圧波形とも称する)を線で重ね書きした波形画像を例示する。
図3Dは、脈波形を線で描画するとともに、カフ圧に応じて線の色を変えることでカフ圧の時系列変化を付した波形画像を例示する。
【0027】
図3Aの波形画像では、脈波形の包絡線形状のような大局的な波形形状の変動は含まれる。しかしながら、
図3Aの波形画像は塗りつぶされていることから、脈波形の局所的な変動の情報は含まれない。
図3Bの波形画像では、脈波形が線で描画されていることから、脈波形の大局的な波形形状及び局所的な波形形状は含まれる。しかしながら、
図3A、3Bの波形画像のいずれも、カフ圧の時系列変化の情報が含まれない。また、
図3Cの波形画像はカフ圧の時系列変化の情報は含まれるものの、
図3Aと同様に、脈波形の局所的な変動の情報は含まれない。そのため、高精度の血圧計測を実現する上では、
図3A、3B、3Cに例示される波形画像を血圧計測に用いることは好ましくはないと考えられる。
【0028】
図3Dの波形画像では、脈波形が線で描画されていることから、脈波形の大局的な波形形状及び局所的な波形形状が含まれる。さらに、
図3Dの波形画像では、カフ圧の時系列変化を示す情報が脈波の脈波形を形成する線の色によって示される。すなわち、
図3Dは、脈波形の時系列変化を示す情報及びカフ圧の時系列変化を示す情報の双方が含まれる。
【0029】
ここで、
図3A、3B、3C、3Dの夫々に例示される波形画像を用いて血圧を計測した場合における精度を検証する。本検証では、
図3A、3B、3C、3Dの夫々に例示される波形画像を用いて収縮期血圧(SBP)を計測した。本検証では、複数の被験者夫々について血圧の計測を複数回実施して計測結果を取得した。本検証においては、取得した計測結果について、Standard Deviation of Error(SDE)による評価が行われる。
【0030】
図4は、波形画像を用いて血圧を計測した場合における血圧の計測精度の検証結果を例
示する図である。
図4では、
図3Aに例示する波形画像を「シルエット画像」、
図3Bに例示する波形画像を「線画像」、
図3Cに例示する波形画像を「重ね書き画像」、
図3Cに例示する波形画像を「色付け画像」と記載している。
図4を参照すると、「色付け画像」を用いて血圧を計測した場合が最も高い精度を示した。これは、「色付け画像」には脈波の大局的な波形形状、局所的な波形形状、及び、カフ圧の時系列変化を示す情報が含まれていることから、他の波形画像よりも情報量が多いことによると考えられる。また、線の色によってカフ圧が示されることで、色の情報(RGBの情報)とカフ圧との関係の規則性が血圧計測の精度に好ましい影響を与えたとも考えられる。
【0031】
生成部115は、
図3Dに例示するように、脈波形の大局的な波形形状、局所的な波形形状、及び、カフ圧の時系列変化を示す情報を一枚の波形画像に含めるように、波形画像を生成する。生成部115は、例えば、脈波形を線画像で示し、当該線の特徴としてカフ圧に係る情報を示す波形画像を生成する。カフ圧に係る情報を示す線の特徴としては、線の太さ、線の色、線の種類(一本線、一点鎖線、二点鎖線、二重線等)、線の輝度等を挙げることができる。また、生成部115は、例えば、脈波形を線画像で示し、脈波形の背景の特徴としてカフ圧に係る情報を示す波形画像を生成してもよい。カフ圧に係る情報を示す背景の特徴としては、背景の色、背景の輝度等を挙げることができる。
【0032】
取得部114は、生成部115によって生成された波形画像を血圧モデル116に入力する。取得部114は、波形画像が入力された血圧モデル116からの出力として被計測者の拡張期血圧及び収縮期血圧を取得する。
【0033】
血圧モデル116は、波形画像が入力されると、拡張期血圧及び収縮期血圧を出力する学習モデルである。血圧モデル116は、例えば、本体110に収容された記憶部に記憶される。血圧モデル116は、例えば、Deformable Conv Modelを含む。
【0034】
出力部117は、取得部114によって取得された拡張期血圧及び収縮期血圧を出力する。出力部117は、例えば、Liquid Crystal Display(LCD)、Plasma Display Panel(PDP)、無機Electroluminescence(EL)パネル、有機ELパネルである。出力部117は、プリンタやスピーカであってもよい。
【0035】
<血圧モデル116の構築>
図5は、実施形態に係る血圧モデル116の構築処理の一例を示す図である。
図5を参照して、血圧モデル116の構築処理の一例について説明する。
【0036】
ステップS1では、複数の被験者が用意される。なお、本実施形態では複数の被験者が用意されるが、用意される被験者は1名であってもよい。用意された複数の被験者にカフ120が装着され、カフ圧波形、脈波形が収集される。また、用意された複数の被験者について聴診法によって測定された拡張期血圧及び収縮期血圧が収集される。
【0037】
ステップS2では、生成部115は、ステップS1で収集されたカフ圧波形及び脈波形の夫々を基に、波形画像を生成する。ステップS3では、ステップS2で生成された波形画像を説明変数とし、ステップS1で計測された拡張期血圧及び収縮期血圧を目的変数とする機械学習によって、血圧モデル116を構築するための学習が実行される。
【0038】
ステップS4では、ステップS3で学習された血圧モデル116の評価が行われる。評価では、例えば、ある被験者について波形画像が生成されるとともに、聴診法によって拡張期血圧及び収縮期血圧が測定される。生成された波形画像は血圧モデル116に入力さ
れ、血圧モデル116から拡張期血圧及び収縮期血圧が出力される。血圧モデル116によって出力された拡張期血圧及び収縮期血圧と聴診法によって測定された拡張期血圧及び収縮期血圧とが比較されることで、血圧モデル116の評価が行われる。
【0039】
ステップS4の評価の結果、血圧モデル116が所望の精度を満たす場合(ステップS5でYES)、処理はステップS6に進められる。血圧モデル116が所定の精度を満たさない場合(ステップS5でNO)、処理はステップS3に進められる。ステップS6では、生成された血圧モデル116が血圧計100の記憶部に記憶される。
【0040】
<処理フロー>
図6は、実施形態に係る血圧計100の処理フローの一例を示す図である。以下、
図6を参照して、血圧計100の処理フローの一例について説明する。
【0041】
ステップS11では、起動スイッチ111がオンにされることで、血圧計100が起動する。ステップS12では、制御部112は、カフ120に送気して被計測者の手首H1を加圧する。制御部112は、最高血圧より高い圧力までカフ120による加圧を行った後、カフ120の圧力を徐々に下げる。
【0042】
ステップS13では、取得部114は、圧力センサ113によって検出されるカフ圧を基にカフ圧波形及び脈波形を取得する。さらに、生成部115は、ステップS13で取得された波形を基に波形画像を生成する。ステップS14では、取得部114は、ステップS13で生成された波形画像を血圧モデル116に入力して被計測者の拡張期血圧及び収縮期血圧を取得する。
【0043】
ステップS15では、取得部114は、被計測者の血圧測定が完了したか否かを判定する。取得部114は、例えば、被計測者の拡張期血圧及び収縮期血圧の双方を血圧モデル116から取得した場合に、血圧取得を完了と判定してよい。完了した場合(ステップS15でYES)、処理はステップS16に進められる。完了していない場合(ステップS15でNO)、処理はステップS12に進められる。
【0044】
ステップS16では、制御部112は、カフ120の空気を抜く。ステップS17では、出力部117は、ステップS14で取得された血圧を出力する。
【0045】
<比較例>
実施形態では、拡張期血圧及び収縮期血圧を出力するように血圧モデル116が構築された。比較例では、拡張期血圧を出力する血圧モデルと収縮期血圧を出力する血圧モデルとに血圧モデルを分ける構成について説明する。
【0046】
図7は、比較例に係る血圧計500の構成の一例を示す図である。血圧計500は、本体510、起動スイッチ511、制御部512、圧力センサ513、取得部514、生成部515、血圧モデル516A、血圧モデル516B、出力部517及びカフ520を備える。本体510、起動スイッチ511、制御部512、圧力センサ513、取得部514、生成部515及びカフ520は、実施形態に係る血圧計100の本体110、起動スイッチ111、制御部112、圧力センサ113、取得部114、生成部115及びカフ120と同様であるため、その説明を省略する。
【0047】
血圧モデル516Aは、波形画像が入力されると収縮期血圧を出力する学習モデルである。血圧モデル516Aは、波形画像を説明変数とし、真値として採用する収縮期血圧を目的変数とする機械学習によって構築される。血圧モデル516Bは、波形画像が入力されると拡張期血圧を出力する学習モデルである。血圧モデル516Bは、波形画像を説明
変数とし、真値として採用する拡張期血圧を目的変数とする機械学習によって構築される。
【0048】
<比較検証>
実施形態に係る血圧計100と比較例に係る血圧計500の血圧計測精度を比較検証したので、説明する。本比較検証では、血圧計100及び血圧計500の夫々について、収縮期血圧(SBP)を計測した。本比較検証では、複数の被験者夫々について血圧の計測を複数回実施して計測結果を取得した。本比較検証においては、取得した計測結果についてSDEによる評価が行われる。
【0049】
図8は、比較検証結果を例示する図である。
図8を参照すると、「実施形態」を用いて血圧を計測した場合が最も高い精度を示した。このことから、血圧モデルを構築する際には、収縮期血圧と拡張期血圧とを同時に学習することで、より高い計測精度が得られると考えられる。
【0050】
<実施形態の作用効果>
本実施形態では、生成部115によって生成される波形画像は、脈波の時系列変化の大局的な変化を示す波形と局所的な変化を示す波形とを含む。このような波形画像を目的変数とした機械学習によって構築される血圧モデル116は、波形画像にノイズが含まれていても、高精度に被計測者の血圧を出力できる。すなわち、本適用例によれば、生成部115によって生成された波形画像にノイズが含まれていても、高精度の血圧計測を実現できる。
【0051】
本実施形態において、脈波形を線画像で描画するとともに、線画像を形成する線の特徴量によってカフ圧を示す波形画像が生成される。このような波形画像は、脈波形が線画像で描画されることで脈波形の大局的な特徴及び局所的な特徴の双方を含むとともに、線の特徴量によってカフ圧の情報を含むことができる。このような波形画像を用いることで、血圧計100はより高い精度の血圧計測を行うことができる。
【0052】
本実施形態において、脈波形を線画像で描画するとともに、線画像の背景の特徴量によってカフ圧を示す波形画像が生成されてもよい。このような波形画像は、脈波形が線画像で描画されることで脈波形の大局的な特徴及び局所的な特徴の双方を含むとともに、背景の特徴量によってカフ圧の情報を含むことができる。このような波形画像を用いることで、血圧計100はより高い精度の血圧計測を行うことができる。
【0053】
本実施形態では、血圧モデル116は、収縮期血圧と拡張期血圧とが同時に学習される。そのため、血圧モデル116は、収縮期血圧と拡張期血圧のいずれの予測においても効果的な特徴量を学習することができる。ひいては、本実施形態によれば、血圧モデル116を用いた収縮期血圧と拡張期血圧の計測をより高精度なものとすることができる。
【0054】
<変形例>
以上説明した実施形態における波形画像は、脈波形を線で示す線画像に対して、カフ圧の時系列変化を示す情報を当該線画像の特徴量を用いて付した。しかしながら、波形画像はこのような画像に限定されない。波形画像は、例えば、カフ圧波形を線で示す線画像に対して、脈波の時系列変化を示す情報を付したものであってもよい。
【0055】
以上で開示した実施形態や変形例はそれぞれ組み合わせることができる。
【0056】
<コンピュータが読み取り可能な記録媒体>
コンピュータその他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記いずれかの機能を実
現させる情報処理プログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。
【0057】
ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、Compact Disc Read Only Memory(CD-ROM)、Compact Disc-Recordable(CD-R)、Compact Disc-ReWriterable(CD-RW)、Digital Versatile Disc(DVD)、ブルーレイディスク(BD)、Digital Audio Tape(DAT)、8mmテープ、フラッシュメモリ、外付け型のハードディスクドライブやSolid State Drive(SSD)等がある。また、コンピュータ等に固定された記録媒体として内蔵型のハードディスクドライブ、SSDやROM等がある。
【0058】
<付記1>
被計測者の腕に巻かれるカフ(120)と、
前記カフ(120)による前記腕(H1)に対する圧力を制御する制御部(112)と、
前記カフ(120)が前記腕(H1)から受けるカフ圧を検出する検出部(113)と、
前記カフ圧の時系列変化から取得される、前記被計測者の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の変化を示す第1の脈波形の第1の画像を含み、前記第1の画像の特徴量によって前記カフ圧を示す第1の波形画像を生成する生成部(115)と、
被験者についての前記カフ圧の時系列変化から取得される、前記被験者の動脈内を流れる血流の拍動による圧力の変化を示す第2の脈波形の第2の画像を含み、前記第2の画像の特徴量によって前記カフ圧を示す第2の波形画像を説明変数とし、前記被験者の血圧を目的変数とする機械学習によって構築された算出モデル(116)と、
前記第1の波形画像を前記算出モデル(116)に入力して、前記算出モデル(116)から前記被計測者の血圧を取得する取得部(114)と、を備える、
血圧計(100)。
<付記2>
前記生成部(115)は、
前記脈波形を線画像で描画するとともに、前記線画像を形成する線の特徴量によって前記カフ圧を示す前記第1の波形画像を生成する、
付記1に記載の血圧計(100)。
<付記3>
前記線の特徴量は、前記線の色を含み、
前記カフ圧は、前記線の前記色によって示される、
付記2に記載の血圧計(100)。
<付記4>
前記線の特徴量は、前記線の太さを含み、
前記カフ圧は、前記線の太さに示される、
付記2または3に記載の血圧計(100)。
<付記5>
前記生成部(115)は、
前記脈波形を線画像で描画するとともに、前記線画像の背景の特徴量によって前記カフ圧を示す前記第1の波形画像を生成する、
付記1に記載の血圧計(100)。
<付記6>
前記背景の特徴量は、前記背景の色を含み、
前記カフ圧は、前記背景の前記色によって示される、
付記5に記載の血圧計(100)。
<付記7>
前記算出モデル(116)は、前記被験者の拡張期血圧及び収縮期血圧を前記目的変数とした前記機械学習によって構築される、
付記1から6のいずれかひとつに記載の血圧計(100)。
<付記8>
被計測者の腕(H1)に巻かれるカフ(120)が前記腕(H1)から受けるカフ圧を検出する検出ステップと、
前記カフ圧の時系列変化から取得される脈波形を示す第1の画像を含み、前記第1の画像の特徴量によって前記カフ圧を示す第1の波形画像を生成する生成ステップと、
被験者についての前記カフ圧の時系列変化から取得される脈波形を示す第2の画像を含み、前記第2の画像の特徴量によって前記カフ圧を示す第2の波形画像を説明変数とし、前記被験者の血圧を目的変数とする機械学習によって構築された算出モデル(116)に前記第1の波形画像を入力して、前記算出モデル(116)から前記被計測者の血圧を取得する取得ステップと、をコンピュータ(100)が実行する、
血圧計測方法。
<付記9>
被計測者の腕(H1)に巻かれるカフ(120)が前記腕(H1)から受けるカフ圧を検出する検出ステップと、
前記カフ圧の時系列変化から取得される脈波形を示す第1の画像を含み、前記第1の画像の特徴量によって前記カフ圧を示す第1の波形画像を生成する生成ステップと、
被験者についての前記カフ圧の時系列変化から取得される脈波形を示す第2の画像を含み、前記第2の画像の特徴量によって前記カフ圧を示す第2の波形画像を説明変数とし、前記被験者の血圧を目的変数とする機械学習によって構築された算出モデル(116)に前記第1の波形画像を入力して、前記算出モデル(116)から前記被計測者の血圧を取得する取得ステップと、をコンピュータ(100)に実行させる、
血圧計測プログラム。
<付記10>
被験者の腕に巻かれるカフ(120)が前記腕から受けるカフ圧を検出する検出ステップと、
前記カフ圧の時系列変化から取得される脈波形を示す画像を含み、前記画像の特徴量によって前記カフ圧を示す波形画像を生成する生成ステップと、
前記波形画像を説明変数とし、前記被験者の血圧を目的変数とする機械学習によって学習モデルを構築する構築ステップと、をコンピュータ(100)が実行する、
学習モデルの構築方法。
<付記11>
被験者の腕に巻かれるカフ(120)が前記腕から受けるカフ圧を検出する検出ステップと、
前記カフ圧の時系列変化の波形から取得される脈波形を示す画像を含み、前記画像の特徴量によって前記カフ圧を示す波形画像を生成する生成ステップと、
前記波形画像を説明変数とし、前記被験者の血圧を目的変数とする機械学習によって学習モデルを構築する構築ステップと、をコンピュータ(100)に実行させる、
学習モデルの構築プログラム。
【符号の説明】
【0059】
100・・血圧計
110・・本体
111・・起動スイッチ
112・・制御部
113・・圧力センサ
114・・取得部
115・・生成部
116・・血圧モデル
117・・出力部
120・・カフ
110・・本体
500・・血圧計
510・・本体
511・・起動スイッチ
512・・制御部
513・・圧力センサ
514・・取得部
515・・生成部
516A・・血圧モデル
516B・・血圧モデル
517・・出力部
520・・カフ
H1・・手首