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特開2024-176362リチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法
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  • 特開-リチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176362
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】リチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/00 20060101AFI20241212BHJP
   H01M 4/525 20100101ALN20241212BHJP
【FI】
C01G51/00 A
H01M4/525
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094848
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 千紘
(72)【発明者】
【氏名】菊池 政博
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA00
5H050BA17
5H050CA08
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の軽量化、薄型化が可能なリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】SEM観察による平均粒子径が0.05~1.00μmである原料コバルト化合物を加熱分解して、コバルトの酸化物を得る工程であり、該原料コバルトが、水酸化コバルト又はコバルトの塩である加熱分解工程と、少なくともリチウム化合物と、前記加熱分解工程により得られたコバルトの酸化物と、を含有する混合物を調製する混合物調製工程と、前記混合物調製工程により調製された混合物を500~850℃で焼成する焼成工程と、を有することを特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEM観察による平均粒子径が0.05~1.00μmである原料コバルト化合物を加熱分解して、コバルトの酸化物を得る工程であり、該原料コバルトが、水酸化コバルト又はコバルトの塩である加熱分解工程と、
少なくともリチウム化合物と、前記加熱分解工程により得られたコバルトの酸化物と、を含有する混合物を調製する混合物調製工程と、
前記混合物調製工程により調製された混合物を500~850℃で焼成する焼成工程と、
を有することを特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記原料コバルト化合物が、水酸化コバルトであることを特徴とする請求項1記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記リチウム化合物が、リチウムの炭酸塩、水酸化物、酢酸塩及び硝酸塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
前記加熱分解工程において、200~1000℃で加熱分解することを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
前記コバルトの酸化物のSEM観察による平均粒子径が、0.05~4.00μmであることを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程の後に、前記焼成工程を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子を粉砕処理する焼成物粉砕処理工程を行うことを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2のリチウムコバルト系複合酸化物の製造方法を行って得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子のSEM観察による平均粒子径が0.10~5.00μmであり、850℃で加熱した際の重量減少率が1.5質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2のリチウムコバルト系複合酸化物の製造方法を行って得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子の残留アルカリ量が2.0%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2のリチウムコバルト系複合酸化物の製造方法を行って得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、SEM観察による平均粒子径のCV値が0.60以下であり、X線回折分析した際に、リチウムコバルト系複合酸化物に由来する六方晶系結晶相(R-3m)以外の不純物相が現れないことを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2のリチウムコバルト系複合酸化物の製造方法を行って得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、固相法により得られたものであることを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系リチウム二次電池、全固体電池等の正極材として有用なリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯機器、ノート型パソコン、電気自動車、及び産業用ロボットなどの電源として非水系リチウム二次電池が利用されている。また、近年では、可燃性の有機溶媒を含む電解質を使用する非水系リチウム二次電池に代えて、安全性の高い固体電解質を使用した全固体電池の開発が盛んに進められている。
【0003】
最近では、これら非水系リチウム二次電池も全固体電池も、用途により更なる軽量化、薄型化が求められている。電池の軽量化、薄型化には、電池を構成する部材を小型化する必要があり、例えば、正極材を小型化することができれば、電池の軽量化、薄型化に繋がる一つの要因となる。
【0004】
正極材の小型化について、例えば、特許文献1では、体積基準による累積粒度分布における10%粒径(D10)が0.01μm~0.5μm、50%粒径(D50)が0.01μm~1.0μmであり、粒径が0.12μm以下の粒子の含有率が0.5体積%以上の酸化物系正極活物質からなる微粒子で形成された薄膜状の正極活物質層を備える電極部材が開示されている。特許文献1には、具体的にどのような製法で前記正極活物質を得たかの記載がないものの、ナノレベルの正極活物質を使用することで電極部材の薄膜化が可能であることが分かる。
【0005】
正極活物質としてのリチウム系複合酸化物のナノ材料化としては、特許文献2において、溶融塩を反応物および反応媒体として、乾燥工程を伴うことによりナノレベルのリチウム系複合酸化物を合成したことが記載されている。これにより、従来のより大きな材料に比較して、機能を高めたり、新しい機能を発現したりできると同時に、電子装置の小型化を目指すことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-220468号公報
【特許文献2】特開2008-105912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献2の方法は、溶融塩中で原料の金属イオンが完全に解離した状態で存在することにより、イオンレベルで混合されて存在するため、比較的低温の熱処理であっても化学熱力学的に平衡となり安定な物質が形成し易くなることを利用したものである。
【0008】
しかしながら、通常、リチウムコバルト系複合酸化物は、固相法といわれる複数の原料粉を混合して焼成することにより得られるが、原料粉を十分に反応させるためには焼成温度を高くする必要がある。これにより結晶化が進むものの同時に粒成長が起こるため、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の粒子径が大きくなってしまい、その結果、正極材を軽量化、薄型化することは困難であった。
【0009】
従って、本発明の目的は、固相法により得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子であって、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の軽量化、薄型化が可能なリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ナノレベルの微粒子であるコバルトの水酸化物又はコバルトの塩から選ばれる原料コバルト化合物を加熱分解することにより得られるコバルトの酸化物は、焼成時にガス発生がほとんどなく、また、用いたコバルト化合物に起因してナノレベルの微粒子となり、更に該原料コバルト化合物を加熱分解して得られるナノレベルの微粒子であるコバルトの酸化物を使用することにより、リチウム化合物との反応が容易に進むため、低温で焼成しても結晶化が良好に進むことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、SEM観察による平均粒子径が0.05~1.00μmである原料コバルト化合物を加熱分解して、コバルトの酸化物を得る工程であり、該原料コバルトが、水酸化コバルト又はコバルトの塩である加熱分解工程と、
少なくともリチウム化合物と、前記加熱分解工程により得られたコバルトの酸化物と、を含有する混合物を調製する混合物調製工程と、
前記混合物調製工程により調製された混合物を500~850℃で焼成する焼成工程と、
を有することを特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、前記原料コバルト化合物が、水酸化コバルトであることを特徴とする(1)記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、前記リチウム化合物が、リチウムの炭酸塩、水酸化物、酢酸塩及び硝酸塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)又は(2)記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(4)は、前記加熱分解工程において、200~1000℃で加熱分解することを特徴とする(1)又は(2)記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(5)は、前記コバルトの酸化物のSEM観察による平均粒子径が、0.05~4.00μmであることを特徴とする(1)又は(2)記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(6)は、前記焼成工程の後に、前記焼成工程を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子を粉砕処理する焼成物粉砕処理工程を行うことを特徴とする(1)又は(2)記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(7)は、請求項1又は2のリチウムコバルト系複合酸化物の製造方法を行って得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子のSEM観察による平均粒子径が0.10~5.00μmであり、850℃で加熱した際の重量減少率が1.5質量%以下であることを特徴とする(1)又は(2)記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(8)は、請求項1又は2のリチウムコバルト系複合酸化物の製造方法を行って得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子の残留アルカリ量が2.0%以下であることを特徴とする(1)又は(2)記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明(9)は、請求項1又は2のリチウムコバルト系複合酸化物の製造方法を行って得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、SEM観察による平均粒子径のCV値が0.60以下であり、かつ、X線回折分析した際に、リチウムコバルト系複合酸化物に由来する六方晶系結晶相(R-3m)以外の不純物相が現れないことを特徴とする(1)又は(2)記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明(10)は、請求項1又は2のリチウムコバルト系複合酸化物の製造方法を行って得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、固相法により得られたものであることを特徴とする(1)又は(2)記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、固相法により得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子であって、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の軽量化、薄型化が可能なリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1~6で得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子のX線回折チャートである。
図2】実施例7~10で得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子のX線回折チャートである。
図3】比較例1、2で得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法は、SEM観察による平均粒子径が0.05~1.00μmである原料コバルト化合物を加熱分解して、コバルトの酸化物を得る工程であり、該原料コバルトが、水酸化コバルト又はコバルトの塩である加熱分解工程と、
少なくともリチウム化合物と、加熱分解工程により得られた加熱分解物のコバルト化合物の酸化物と、を含有する混合物を調製する混合物調製工程と、
混合物調製工程により調製された混合物を500~850℃で焼成する焼成工程と、
を有することを特徴とする。
【0024】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法に係る加熱分解工程は、原料コバルト化合物として、水酸化コバルト又はコバルトの塩を用い、該原料コバルト化合物を加熱分解して、コバルトの酸化物を得る工程である。つまり、原料コバルト化合物である水酸化コバルト又はコバルトの塩を加熱することにより、原料コバルト化合物を熱分解し、加熱分解物であるコバルトの酸化物を得る工程である。
【0025】
加熱分解工程における原料コバルト化合物は、例えば、水酸化コバルト、コバルトの塩、例えば、コバルトの炭酸塩、コバルトの有機酸塩、コバルトの硝酸塩等が挙げられる。これらの原料コバルト化合物としては、コバルト化合物を焼成する際に、焼成反応を抑制する要因の1つであると考えられるガス発生がほとんどなく、また、用いたコバルト化合物に起因してナノレベルの微粒子となる点で、例えば、四酸化三コバルト等のコバルトの酸化物を加熱分解物として得られる原料コバルト化合物が好ましく、単粒子としての粒子径が小さく、予め粉砕処理等をして粒子径を調節する必要がない点で、水酸化コバルトが特に好ましい。
【0026】
なお、加熱分解工程における原料コバルト化合物は、製造履歴は問われないが、高純度のリチウムコバルト系複合酸化物粒子を製造するために、可及的に不純物含有量が少ないものであることが好ましい。
【0027】
加熱分解工程における原料コバルト化合物のSEM観察による平均粒子径は、0.05~1.00μm、好ましくは0.05~0.50μmである。加熱分解工程における原料コバルト化合物のSEM観察による平均粒子径が、上記範囲にあることにより、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子のSEM観察による平均粒子径が、0.10~5.00μm、好ましくは0.10~3.50μmであるリチウムコバルト系複合酸化物粒子を得ることができる。
【0028】
加熱分解工程における加熱分解温度は、原料コバルト化合物が分解する温度であれば、特に制限されない。例えば、加熱分解工程における加熱分解温度としては、200~1000℃が挙げられる。SEM観察による平均粒子径が0.05~1.00μm、好ましくは0.05~0.50μmである原料コバルト化合物を、原料コバルト化合物が加熱分解する温度で加熱することにより、SEM観察による粒度分布において、CV値(標準偏差/平均粒子径)が小さい、つまり粒子径のばらつきが小さいコバルトの酸化物を得ることができ、得られるコバルトの酸化物を用いて、その後の工程を経て、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得ることにより、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法では、CV値が小さいリチウムコバルト系複合酸化物粒子を得ることができる。そのため、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法は、固相法により得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子であって、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材作製工程の不具合が生じ難く、正極材を軽量化、薄型化し易くなる効果が高まる。
また、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法では、CV値が小さいコバルトの酸化物を用いることにより、反応性にばらつきが生じないため、焼成温度が比較的低温でも線源としてCuKα線を用いてX線回折分析したときに、リチウムコバルト系複合酸化物に由来する六方晶系結晶相(R-3m)以外の不純物相のないリチウムコバルト系複合酸化物粒子が得られる。
【0029】
なお、リチウムコバルト系複合酸化物に由来する六方晶系結晶相(R-3m)とは、LiCoOに起因する2θ=18.9°付近(18.9±0.2°)、37.4°付近(37.4±0.2°)、38.4°付近(38.4±0.2°)、39.1°付近(39.1±0.2°)、45.3°付近(45.3±0.2°)、49.5°付近(49.5±0.2°)、59.6°付近(59.6±0.2°)、65.5°付近(65.5±0.2°)、66.4°付近(66.4±0.2°)、69.8°付近(69.8±0.2°)等に観察される回折ピークを示す。また、不純物相とは、LiCoOに起因する回折ピーク以外の回折ピークを示す。このような不純物相の具体例としては、36.8°付近(36.8±0.2°)にメインピークを持つ酸化コバルト(Co)、31.8°付近(31.8±0.2°)にメインピークを持つ炭酸リチウム(LiCO)、19.2°付近(19.2±0.2°)にメインピークを持つ立方晶系リチウムコバルト系複合酸化物(LiCoO立方晶)等が挙げられる。
【0030】
加熱分解工程における加熱分解温度は、200~1000℃、好ましくは200~850℃、より好ましくは200~700℃である。加熱分解工程における加熱分解温度が、上記範囲にあることにより、SEM観察による粒度分布におけるCV値が小さいコバルトの酸化物を得ることができ、得られるコバルトの酸化物を用いて、その後の工程を経て、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得ることにより、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法では、SEM観察による粒度分布におけるCV値が小さいリチウムコバルト系複合酸化物粒子を得ることができる。そのため、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法において、加熱分解工程における加熱分解温度が上記範囲にあることにより、固相法により得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子であって、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材作製工程の不具合が生じ難く、正極材を軽量化、薄型化し易くなる効果が高まる。
また、加熱分解工程における加熱分解温度が、例えば200~700℃である場合には、原料コバルト化合物の粗大化を抑制しつつコバルトの酸化物を得易くなるので、SEM観察による平均粒子径が、0.05~1.50μm、好ましくは0.05~1.00μmと小さいコバルトの酸化物を得ることができ、得られるコバルトの酸化物を用いて、その後の工程を経て、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得ることにより、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法では、SEM観察による平均粒子径が、0.10~2.00μm、好ましくは0.10~1.00μmと小さいリチウムコバルト系複合酸化物粒子を得ることができる。そのため、該リチウムコバルト系複合酸化物粒子を、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の軽量化、薄型化が可能なリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供することができる。
【0031】
また、加熱分解工程における加熱分解時間は、1~10時間、好ましくは2~5時間である。また、加熱分解工程における加熱分解雰囲気は、空気、酸素ガス等の酸化性雰囲気が好ましい。
【0032】
加熱分解工程を行い得られるコバルトの酸化物は、Co、CoO、Co等であり、Coが好ましい。
【0033】
加熱分解工程を行い得られるコバルトの酸化物のSEM観察による平均粒子径は、0.05~4.00μm、好ましくは0.05~3.00μmである。加熱分解工程を行い得られるコバルトの酸化物の平均粒子径が、上記範囲にあることにより、その後の工程を経て、SEM観察による平均粒子径が、0.10~5.00μm、好ましくは0.10~3.50μmであるリチウムコバルト系複合酸化物粒子を得ることができる。
【0034】
加熱分解工程で得られるコバルトの酸化物のSEM観察による粒度分布におけるCV値(標準偏差/平均粒子径)は、0.60以下、好ましくは0.50以下、特に好ましくは0.40以下である。加熱分解工程で得られるコバルトの酸化物のCV値が、上記範囲にあることにより、その後の工程を経て、SEM観察による粒度分布におけるCV値が、0.60以下、好ましくは0.50以下、特に好ましくは0.45以下であるリチウムコバルト系複合酸化物粒子を得ることができる。
【0035】
なお、本発明において加熱分解工程における原料コバルト化合物、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子、加熱分解工程を行い得られるコバルトの酸化物、及びリチウム化合物のSEM観察における平均粒子径は、特に断らない限り走査型電子顕微鏡(SEM)写真から求められる一次粒子の平均粒子径であり、走査型電子顕微鏡(SEM)観察から任意に一次粒子100個を抽出して、各々の粒子について水平フェレ径を測長し、100個分の平均値を一次粒子の平均粒子径として求める。
また、本発明において本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子、及び加熱分解工程を行い得られるコバルトの酸化物の標準偏差及びCV値は、特に断らない限り走査型電子顕微鏡(SEM)写真から求められる一次粒子の標準偏差及びCV値であり、走査型電子顕微鏡(SEM)観察から任意に一次粒子100個を抽出して、各々の粒子について水平フェレ径を測長し、100個分の一次粒子の粒子径を求め、得られる100個分の粒度分布から、平均粒子径、標準偏差及びCV値を求める。
【0036】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法に係る混合物調製工程は、少なくともリチウム化合物と、加熱分解工程により得られたコバルトの酸化物と、を含有する混合物を調製する工程である。
【0037】
混合物調製工程におけるリチウム化合物は、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造用の原料として用いられるリチウム化合物であれば、特に制限されず、リチウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩及び有機酸塩等が挙げられる。
【0038】
混合物調製工程におけるリチウム化合物のSEM観察による平均粒子径は、0.1~100.0μm、好ましくは0.1~10.0μm、特に好ましくは0.1~1.0μmである。混合物調製工程におけるリチウム化合物のSEM観察による平均粒子径が、上記範囲にあることにより、焼成時の均一化が図れ、単一相のリチウムコバルト系複合酸化物粒子が得られやすくなる。
【0039】
混合物調製工程において、混合物中のCoに対するLiの原子換算のモル比(Li/Co)が、0.90~1.20、好ましくは0.95~1.15となるように、リチウム化合物とコバルトの酸化物を調整する。混合物中のCoに対するLiの原子換算のモル比(Li/Co)が、上記範囲にあることにより、単一相のリチウムコバルト系複合酸化物粒子が得られやすくなる。
【0040】
混合物調製工程において、混合物に、必要によりM元素を含有する化合物を含有させてもよい。M元素を含有する化合物としては、M元素を含有する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、フッ化物及び有機酸塩等が挙げられる。M元素を含有する化合物として、M元素を2種以上含有する化合物を用いてもよい。M元素としては、Mg、Al、Ti、Zr、Cu、Fe、Sr、Ca、V、Mo、Bi、Nb、Si、Zn、Ga、Ge、Sn、Ba、W、Na、K、Ni又はMn等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0041】
混合物調製工程において、混合物に、必要によりM元素を含有する化合物を含有させる場合には、混合物中のCoに対するM元素の原子換算のモル%((M/Co)×100)が、好ましくは0.01~5.00モル%、特に好ましくは0.05~2.00モル%となるように調整する。混合物中のCoに対するM元素の原子換算のモル%((M/Co)×100)が、上記範囲にあることにより、充放電容量を損なうことなく電池特性を向上させることのできるリチウムコバルト系複合酸化物粒子が得られる。なお、混合物が2種以上のM元素を含有する場合は、上記モル%の算出の基礎となる原子換算のM元素のモル数は、各M元素のモル数の合計を指す。
【0042】
なお、混合物調製工程において、リチウム化合物及びM元素を含有する化合物は、製造履歴は問われないが、高純度のリチウムコバルト系複合酸化物粒子を製造するために、可及的に不純物含有量が少ないものであることが好ましい。
【0043】
混合物調製工程では、リチウム化合物と、コバルトの酸化物と、必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物と、を乾式あるいは湿式で混合することにより、混合物を調製する。
このとき、混合物中のコバルトの酸化物のSEM観察による平均粒子径が、0.05~4.00μm、好ましくは0.05~3.00μmとなるように存在させ、リチウム化合物と、必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物と、を撹拌、粉砕等の処理により混合する。この混合により、リチウム化合物、コバルトの酸化物及び必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物との接触が容易なものとなる。混合物中のコバルトの酸化物のSEM観察による平均粒子径が、上記範囲にあることにより、焼成工程における混合物の反応性を高めることができ、例えば、500~850℃と低温で焼成しても、十分に反応を進行させることができる。
【0044】
本製造方法において、混合物調製工程において混合処理を行うに当たって、粒度調製を行ってもよい。また、混合処理は粉砕処理を兼ねるものであってもよい。例えば、(i)リチウム化合物と、コバルトの酸化物と、必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物と、を混合する前に、コバルトの酸化物を粉砕処理し粒子径を調節してから、粉砕処理後のコバルトの酸化物と、リチウム化合物と、必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物と、を混合する方法、(ii)リチウム化合物と、コバルトの酸化物と、必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物と、を混合する前に、リチウム化合物を粉砕処理し粒子径を調節してから、粉砕処理後のリチウム化合物と、コバルトの酸化物と、必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物と、を混合する方法、(iii)リチウム化合物と、コバルトの酸化物と、必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物と、を混合する前に、コバルトの酸化物を粉砕処理し、更に、リチウム化合物及び/又はM元素を含有する化合物を粉砕処理して、粉砕処理後のコバルトの酸化物とリチウム化合物と必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物とを混合する方法、(iv)リチウム化合物と、コバルトの酸化物と、必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物と、を混合し、これらを混合粉砕処理する方法等が挙げられる。
【0045】
なお、コバルトの酸化物、リチウム化合物又はM元素を含有する化合物の粉砕処理、及びコバルトの酸化物、リチウム化合物、及び必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物の混合粉砕処理は、乾式であってもよいし、湿式であってもよい。
【0046】
乾式の混合処理、粉砕処理又は混合粉砕処理を行うための装置としては、例えば、ジェットミル、ピンミル、ロールミル、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。また、実験室レベルでは、卓上ミキサーを用いてもよい。湿式の混合処理、粉砕処理又は混合粉砕処理を行うための装置としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。
【0047】
湿式で混合物を調製する場合は、混合物を乾燥することが好ましい。乾燥方法には、常法により行われるが、湿式で混合処理、粉砕処理又は混合粉砕処理を行った場合には、例えば、噴霧乾燥機を用いる方法を適用することができる。
【0048】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法に係る焼成工程は、混合物調製工程により調製された混合物を焼成することにより、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得る工程である。
【0049】
焼成工程における焼成温度は、500~850℃、好ましくは550~800℃である。焼成工程における焼成温度が、上記範囲にあることにより、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の軽量化、薄型化が可能なリチウムコバルト系複合酸化物粒子を得ることができる。
焼成工程における焼成温度を低くすることにより、焼成工程での粒成長を抑えることができるものの、粒成長を抑えようとし過ぎて、焼成工程における焼成温度を低くし過ぎると、混合物の反応が十分でなくなる。そして、そのような混合物の反応が十分でないリチウムコバルト系複合酸化物粒子を用いると、正極材作製工程の不具合を生じさせるだけでなく、リチウムコバルト系複合酸化物粒子に期待される充放電容量が減少してしまう。それに対して、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、加熱分解工程と混合物調製工程を経ることにより、焼成工程での混合物の反応性を高めて製造されたものなので、十分に反応が進行しており、正極材作製工程の不具合が生じたり、リチウムコバルト系複合酸化物粒子に期待される充放電容量が減少したりするということは生じない。
【0050】
また、焼成工程における焼成温度は、500~850℃、好ましくは550~800℃であることが、線源としてCuKα線を用いてX線回折分析したときに、リチウムコバルト系複合酸化物に由来する六方晶系結晶相(R-3m)以外の不純物相のないリチウムコバルト系複合酸化物粒子が得られる点で、特に好ましい。
【0051】
焼成工程における焼成時間は、1~30時間、好ましくは3~20時間である。また、焼成工程における焼成雰囲気は、空気、酸素ガス等の酸化性雰囲気である。また、焼成工程では、1回目の焼成で得られた焼成物を、必要に応じて複数回、焼成してもよい。
【0052】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法では、必要に応じて、焼成工程の後に、焼成工程により得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子を粉砕処理する焼成物粉砕処理工程を行うことができる。
【0053】
焼成物粉砕処理工程における粉砕処理は、乾式の粉砕処理であっても、湿式の粉砕処理であってもよい。湿式粉砕装置としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。乾式粉砕装置としては、例えば、ジェットミル、ピンミル、ロールミル、ボールミル、ビーズミル等の公知の粉砕装置が挙げられる。
【0054】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子の好ましい物性は、線源としてCuKα線を用いてX線回折分析したときに、リチウムコバルト系複合酸化物に由来する六方晶系結晶相(R-3m)以外の不純物相のないリチウムコバルト系複合酸化物粒子であることに加え、SEM観察による平均粒子径が、0.10~5.00μm、好ましくは0.10~3.50μmである。本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子の平均粒子径が、上記範囲にあることにより、正極材を軽量化、薄型化し易くなるため、電池の小型化を図り易くなる。
【0055】
また、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子のCV値は、0.60以下、好ましくは0.50以下、特に好ましくは0.45以下である。本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子のCV値が、上記範囲にあることにより、粒子径のばらつきが小さくなり、そのため、正極材作製工程の不具合が生じ難く、正極材を軽量化、薄型化し易くなる効果が高まる。
【0056】
また、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、850℃で加熱した際の重量減少率が、1.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子の850℃で加熱した際の重量減少率が、上記範囲にあることにより、十分に反応が進行しているため、正極材作製工程の不具合が生じたり、リチウムコバルト系複合酸化物に期待される充放電容量が減少したりするということが生じ難い。
【0057】
なお、本発明において、850℃で加熱した際の重量減少率は、以下の式にて算出される値である。
重量減少率(%)=((X-Y)/X)×100
Xは、850℃で加熱する前のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量(g)を指す。
Yは、昇温速度100℃/時で850℃まで昇温し、850℃に到達後、5時間保持し、次いで、室温まで自然降温により冷却したリチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量(g)を指す。
【0058】
また、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、残留アルカリ量が、2.0%以下、好ましくは1.0%以下である。本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子の残留アルカリ量が上記範囲にあることにより、電極塗布時の塗料のスラリー安定性が高くなり、正極材を薄型化し易くなる効果が高まる。
【0059】
なお、本発明において、残留アルカリ量とは、測定対象試料であるリチウムコバルト系複合酸化物粒子を25℃の水に分散し撹拌したときに、水に溶出されるアルカリ成分を指す。アルカリ成分としては、例えば、炭酸リチウム(LiCO)、水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。
そして、残留アルカリ量は、リチウムコバルト系複合酸化物粒子2g及び超純水50gをビーカーに計り採り、25℃で、マグネティックスターラーで5分間分散及び撹拌させ、次いで、この分散液をろ過して、得られるろ液中に存在するアルカリの量を中和滴定することによって算出される。なお、該残留アルカリ量は、滴定によりリチウム量を測定して炭酸リチウム(LiCO)に換算した値である。
【0060】
また、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、固相法により得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子である。
【0061】
また、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、リチウムコバルト系複合酸化物の一次粒子からなるか、あるいは、リチウムコバルト系複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子からなるか、あるいは、リチウムコバルト系複合酸化物の一次粒子及び二次粒子の混合体からなる。
【0062】
また、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、リチウム二次電池、全固体電池等の正極活物質として好適に利用される。
【0063】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、焼結性を一層向上させるため、さらにリチウム含有化合物を混合して含有させて、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子と、リチウム含有化合物と、を含むリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物とすることができる。
【0064】
前記リチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物に係るリチウム含有化合物は、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム等が挙げられる。
【0065】
リチウムコバルト系複合酸化物粒子と混合するリチウム含有化合物の平均粒子径は、0.10~100.0μm、好ましくは0.10~10.0μm、より好ましくは0.10~1.0μmである。リチウム含有化合物の平均粒子径が、上記範囲にあることにより、リチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物中にリチウム含有化合物を均一に分散させることが容易になり、一層低温での焼結が可能になる観点から好ましい。
【0066】
リチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物において、リチウム含有化合物の含有量は、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量に対してリチウム原子換算で0.01~10.0質量%、好ましくは0.05~5.0質量%である。リチウム含有化合物の含有量が、上記範囲であることにより、一層低温での焼結が可能になる観点から好ましい。
【0067】
なお、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子と、リチウム含有化合物と、を混合する方法は、各成分が均一に混合できる方法であれば、特に制限はなく、乾式であっても湿式であってもよい。
【実施例0068】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
(1)SEM観察による平均粒子径、標準偏差、CV値
測定対象粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)観察から任意に一次粒子100個を抽出して、各々の粒子について水平フェレ径を測長し、100個分の平均値から、平均粒子径を求めた。
測定対象粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)観察から任意に一次粒子100個を抽出して、各々の粒子について水平フェレ径を測長し、100個分の粒子径から得られる粒度分布に基づいて、標準偏差及びCV値を求めた。なお、CV値については、「CV値=標準偏差/平均粒子径」の式により算出した。
(2)850℃で加熱した際の重量減少率
次式により求めた。
重量減少率(%)=((X-Y)/X)×100
X:850℃で加熱する前のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量(g)
Y:昇温速度100℃/時で850℃まで昇温し、850℃に到達後、5時間保持し、次いで、室温まで自然降温により冷却したリチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量(g)
(3)リチウムコバルト系複合酸化物粒子の残留アルカリ量
リチウムコバルト系複合酸化物粒子2g、純水50gをビーカーに計り採り、マグネティックスターラーを用いて25℃で5分間分散させた。次いで、この分散液をろ過し、そのろ液30mlを自動滴定装置(型式COMTITE-2500)にて0.1N-HClで滴定し、試料中に存在している残留アルカリ量(リチウム量を測定して炭酸リチウムに換算した値)を算出した。
(4)結晶相
線源としてCu-Kα線を用いてX線回折装置(リガク社製、UltimaIV)により測定した。
(5)D50
レーザー回折・散乱法により、測定溶媒として水を用いて測定対象粒子の粒度分布を測定した。得られる粒度分布の体積換算50%の粒子径を、測定対象のD50とした。
【0070】
(実施例1~6)
(加熱分解工程)
水酸化コバルト(SEM観察による平均粒子径0.17μm)を300℃で3時間加熱分解し、熱分解物として、SEM観察による平均粒子径が0.16μmの酸化コバルト(Co)を得た。
(混合物調製工程)
得られた加熱分解物(Co、SEM観察による平均粒子径が0.16μm)及び炭酸リチウム(SEM観察による平均粒子径7.0μm)をLi/Co比が1.00となるように秤量し、市販の卓上ミキサーにて乾式で混合粉砕処理して、混合物10.0gを得た。
(焼成工程)
得られた混合物を表1に示す焼成温度にて5時間焼成し、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子を卓上ミキサーにて30秒間解砕処理し、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得た。
(焼成物粉砕処理工程)
得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子をジェットミル(セイシン企業社製、A-Oジェットミル)にて、P圧0.65MPa、J圧0.60MPaに設定し、2g/分の投入速度にて気流粉砕処理を行い、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子の諸物性を表1に示す。また、得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子を850℃で加熱した際の重量減少率は、いずれも1.0質量%以下であった。
【0071】
(実施例7~10)
(加熱分解工程)
水酸化コバルト(SEM観察による平均粒子径0.17μm)を300℃で3時間加熱分解し、熱分解物として、SEM観察による平均粒子径が0.16μmの酸化コバルト(Co)を得た。
(混合物調製工程)
炭酸リチウム(SEM観察による平均粒子径7.0μm)に純水を加えてスラリー濃度20質量%とし、φ0.5mmのZrボールを使用したビーズミル(アシザワ・ファインテック社製、LMZ22)にて湿式で混合粉砕処理して、炭酸リチウムスラリーを得た。得られた炭酸リチウムスラリーをスプレードライヤー(大河原化工機社製、L-8)にて、入口温度250℃、出口温度120℃に設定し、60g/分の投入速度にて噴霧乾燥した後、ジェットミル(セイシン企業社製、A-Oジェットミル)にて、P圧0.65MPa、J圧0.60MPaに設定し、2g/分の投入速度にて気流粉砕処理を行うことにより、SEM観察による平均粒子径0.48μmの微粒炭酸リチウム粒子を得た。
次いで、得られた加熱分解物(Co、SEM観察による平均粒子径が0.16μm)及び得られた微粒炭酸リチウム(SEM観察による平均粒子径0.48μm)をLi/Co比が1.00となるように秤量し、市販の卓上ミキサーにて乾式で混合粉砕処理して、混合物10.0gを得た。
(焼成工程)
得られた混合物を表1に示す焼成温度にて5時間焼成し、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子を卓上ミキサーにて30秒間解砕処理し、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得た。
(焼成物粉砕処理工程)
得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子をジェットミル(セイシン企業社製、A-Oジェットミル)にて、P圧0.65MPa、J圧0.60MPaに設定し、2g/分の投入速度にて気流粉砕処理を行い、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子の諸物性を表1に示す。また、得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子を850℃で加熱した際の重量減少率は、いずれも0.5質量%以下であった。
【0072】
(比較例1~2)
(混合物調製工程)
水酸化コバルト(SEM観察による平均粒子径0.17μm)及び炭酸リチウム(SEM観察による平均粒子径7.0μm)をLi/Co比が1.00となるように秤量し、市販の卓上ミキサーにて乾式で混合粉砕処理して、原料混合物10.0gを得た。
(焼成工程)
得られた原料混合物を表1に示す焼成温度にて5時間焼成し、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子を卓上ミキサーにて30秒間解砕処理し、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得た。
(焼成物粉砕処理工程)
得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子をジェットミル(セイシン企業社製、A-Oジェットミル)にて、P圧0.65MPa、J圧0.60MPaに設定し、2g/分の投入速度にて気流粉砕処理を行い、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子の諸物性を表1に示す。
つまり、比較例1~2では、加熱分解工程を行っていない。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
表2の結果から、実施例1~10で得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、平均粒子径が小さく、かつ、残留アルカリ量は比較例1~2のものに比べて低減されていることが確認された。更に、図1及び図2から、実施例では全て結晶相は六方晶単相であることが確認された。また、実施例1、2及び7では、550~600℃の低温で焼成したものについても、結晶相はLCO六方晶単相であることが確認された。
一方、比較例1、2で得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、図3から、LCO六方晶と四酸化三コバルトとの混相であることが確認された。
【0076】
(実施例11~13)
加熱分解工程において、水酸化コバルト(SEM観察による平均粒子径0.17μm)を表3に示す温度で加熱分解すること以外は、実施例1~6と同様に、加熱分解工程を行いコバルトの酸化物を得、次いで、混合物調製工程、焼成工程(焼成温度700℃)及び焼成物粉砕処理工程を行い、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得た。得られたコバルトの酸化物及びリチウムコバルト系複合酸化物粒子の諸物性を表3に示す。
【0077】
(比較例3)
水酸化コバルトに代えて、市販の酸化コバルト(SEM観察による平均粒子径0.62μm、標準偏差0.46、CV値0.75)を用いること以外は、比較例1~2と同様に、混合物調製工程、焼成工程(焼成温度700℃)及び焼成物粉砕処理工程を行い、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子の諸物性を表3に示す。
つまり、比較例3では、加熱分解工程を行っていない。
【0078】
【表3】
図1
図2
図3