(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176365
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】CXCL14産生促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20241212BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241212BHJP
A61K 36/82 20060101ALI20241212BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20241212BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241212BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20241212BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61K36/82
A61P37/04
A61P17/00
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094853
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 達也
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018MD48
4B018ME14
4B018MF01
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC02
4C083EE12
4C088AB45
4C088AC04
4C088BA10
4C088CA06
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB09
(57)【要約】
【課題】新規CXCL14産生促進剤の提供。
【解決手段】本発明は、ツバキ種子抽出物を有効成分として含有するCXCL14産生促進剤を提供する。CXCL14産生を促進することにより、免疫機能活性化に有効である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツバキ種子抽出物を有効成分として含む、CXCL14産生促進剤。
【請求項2】
角化細胞におけるCXCL14産生促進を促進するための、請求項1に記載のCXCL14産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCXCL14産生促進剤に関する。更に詳しくは、ツバキ種子抽出物を有効成分として含有するCXCL14産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
CXCL14は、未成熟樹状細胞やNK細胞の移動を促進するケモカインであり、角化細胞でも多く産生される。近年の研究により、皮膚の免疫反応に重要なランゲルハンス細胞の維持に重要な因子であることがあることが報告されている(非特許文献1)。したがって、CXCL14を促進することにより皮膚の免疫機能を活性化する物質の探索が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/091070号
【特許文献2】特開第2011-80409号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J Invest Dermatol. 2020 July; 140(7): 1327-1334. doi:10.1016/j.jid.2019.11.017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、新規なCXCL14産生促進剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、様々な成分についてCXCL14産生促進剤としての効果について鋭意研究の結果、ツバキ種子抽出物が、CXCL14産生促進剤として特に高い効果を有することを見出し、以下の発明を完成するに至った:
(1) ツバキ種子抽出物を有効成分として含む、CXCL14産生促進剤。
(2) 角化細胞におけるCXCL14産生促進を促進するための、(1)に記載のCXCL14産生促進剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明のCXCL14産生促進剤の投与により、CXCL14産生を促進することができる。本発明によれば、CXCL14産生促進剤を含有する組成物を提供することができる。CXCL14産生を促進することによりランゲルハンス細胞の維持を介して免疫機能を活性化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、ツバキ種子抽出物を添加した角化細胞におけるCXCL14産生量(pg/mL)を、無添加の対照と比較した結果である(n=4、マン・ホイットニーのU検定、*:p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ツバキ種子抽出物を有効成分として含有するCXCL14産生促進剤を提供する。
【0010】
本発明のCXCL14産生促進剤の投与により、CXCL14産生を促進することができる。上述のように、CXCL14は、ランゲルハンス細胞を維持し免疫機能活性化に有用であること等が報告されている。(非特許文献1)。したがって、本発明者らにより発見されたツバキ種子抽出物によりCXCL14産生を促進することができれば、ランゲルハンス細胞の維持を介して免疫機能活性化が期待される。
【0011】
CXCL14産生の促進とは、例えば、CXCL14産生促進剤を付与していない状態(コントロール)に比べて、CXCL14産生促進剤を付与した場合に、CXCL14の産生量が、例えば有意水準を5%とした統計学的有意差(例えばマン・ホイットニーのU検定)をもって亢進していることを意味し得る。
【0012】
また、本発明は、ツバキ種子抽出物を有効成分として含有し、CXCL14産生促進を介して免疫機能を活性化する免疫機能活性化剤、並びにツバキ種子抽出物を有効成分として含有し、CXCL14産生促進を介してランゲルハンス細胞を維持するランゲルハンス細胞維持剤を提供する。また、本発明は、ツバキ種子抽出物を有効成分として含有するCXCL14産生促進剤又は免疫機能活性化剤又はランゲルハンス細胞維持剤を含む組成物も提供する。また、本発明の組成物は、CXCL14産生促進を介して免疫活性化又はランゲルハンス細胞を維持するための組成物であってもよい。かかる実施形態の一態様では、免疫機能活性化は、皮膚の免疫機能活性化である。かかる実施形態の一態様では、免疫機能活性化は、角化細胞におけるCXCL14産生を促進することにより皮膚の免疫機能を活性化することである。かかる実施形態の一態様では、ランゲルハンス細胞の維持は、皮膚、好ましくは角化細胞におけるランゲルハンス細胞の維持である。
【0013】
ツバキ種子抽出物は、ツバキ(学名:Camellia japonica)の種子を抽出して得られるエキスであり、日本化粧品工業会が定めた化粧品の全成分表示に用いる表示名称及びINCI名(化粧品原料国際命名法)による国際的表示名称では、表示名/INCI名:ツバキ種子エキス/CAMELLIA JAPONICA SEED EXTRACTで表される。ツバキ種子抽出物は、オルタナティブオートファジー誘導、紫外線起因性炎症抑制などの作用が知られている(特許文献1)。また、ツバキ植物エキスが抗炎症作用を有することが記載され、ツバキ花エキスによる炎症性サイトカイン発現活性化の抑制効果が実証されている(特許文献2)。しかしながら、ツバキ種子抽出物が、高いCXCL14産生促進作用を有することはこれまでに報告されていない。
【0014】
ツバキ種子抽出物の抽出方法は例えば溶媒抽出により行うことができる。溶媒抽出の場合には、ツバキ種子を必要に応じて乾燥させ、更に必要に応じて細断又は粉砕した後、水性抽出剤、水、例えば冷水、温水、又は沸点若しくはそれより低温の熱水、あるいは含水有機溶媒、例えば含水エタノール、含水メタノール、含水エーテル、含水1,3-ブチレングリコール等、有機溶媒、例えばエタノール、メタノール、エーテル、1,3-ブチレングリコール等を原料の性質や組成物の用途等により好ましい溶媒を適宜選択して常温で又は加熱して用いることにより抽出される。しかしながら、抽出方法は溶媒抽出に限定されず、当業界で知られている常用の手法によってもよく、本発明で用いる抽出物の抽出方法や抽出物の形態は、本発明の効果を損なわない限り任意である。上記抽出物の形態は、抽出液自体だけでなく、常用の手法により適宜希釈又は濃縮したものであってもよく、更に、抽出液を乾燥することによって得られる粉状あるいは塊状の固体であってもよいし、搾汁液を常用の手法により適宜希釈又は濃縮したものであってもよい。
【0015】
含水有機溶媒の例として、含水1,3-ブチレングリコール等の含水低級アルコール(例えば、C1~C4)を用いてもよく、その場合の含水率は、例えば0~10v/v%、10~40v/v%、20~30v/v%、30~40v/v%、30~50v/v%、60~70v/v%、50~80v/v%、80~99.5v/v%等であってもよい。
【0016】
本発明のCXCL14産生促進剤又は免疫機能活性化剤又はランゲルハンス細胞維持剤(以下包括的に「本発明の剤」と総称することがある)は、化粧品、医薬品、医薬部外品等の組成物に配合してヒト等の動物に外用投与してもよく、各種の食品、飲食品、サプリメントなどの栄養補助食品等の組成物に配合してヒト等の動物に経口投与してもよいし、或いは医薬製剤としてヒト等の動物に投与してもよい。外用投与の形態としては、例えば、クリーム、乳液、液体、シート、スプレー、ゲルなど任意に選択することができる。経口投与の形態としては、例えば、錠剤、飲料、粉末など任意に選択することができる。しかしながら、投与形態は上述のものに限定されない。
【0017】
本発明の化粧品組成物は、乳液、クリーム、美容液、ローション、パック、洗顔料、石鹸、ボディソープ、シャンプー等の各種化粧品であってもよく、液状、乳液状、クリーム状、固形状、シート状、スプレー状、ゲル状、泡状、パウダー状等の様々な形態であり得る。また、本発明の食品組成物は、粉末、飲料、または錠剤であってもよく、粉末状、液状、固形状、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状等の様々な形態であり得る。
【0018】
適用の頻度は、4週間に1回、2週間に1回、1週間に1回、3日に1回、2日に1回、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回、都度投与等任意に選択できるがこれらに限定されない。
【0019】
本発明の剤又は組成物は、ツバキ種子抽出物をCXCL14産生促進の効果が十分発揮されるような量で含有させることが好ましく、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができる。例えば、本発明の剤又は組成物の総重量当たりのツバキ種子抽出物の配合量(乾燥重量)を0.0001~0.0005重量%、0.0005~0.001重量%、0.001~0.005重量%、0.005~0.01重量%、0.01~0.05重量%、0.05~0.1重量%、0.1~0.5重量%、0.5~1.0重量%、1.0~5.0重量%、5.0~10.0重量%、10.0~50.0重量%、50.0~100.0重量%とすることができる。また、ある実施形態では、本発明の剤は有効成分としてツバキ種子抽出物を、例えば、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、95重量%以上、又は99重量%以上含有するものであってもよい。ある実施形態では、本発明の剤はツバキ種子抽出物からなることもある。
【0020】
本発明の剤又は組成物は、必要に応じて添加剤を任意に選択し併用することができる。添加剤としては賦形剤等を含ませることができる。
【0021】
賦形剤としては、所望の剤型としたときに通常用いられるものであれば何でも良く、例えば、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、シクロデキストリンなどのでんぷん類、結晶セルロース類、乳糖、ブドウ糖、砂糖、還元麦芽糖、水飴、フラクトオリゴ糖、乳化オリゴ糖などの糖類、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マンニトールなどの糖アルコール類が挙げられる。これら賦形剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0022】
その他の添加剤として、着色剤、保存剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、pH調整剤、油分、水、アルコール類、キレート剤、シリコーン類、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、各種薬効成分、防腐剤、中和剤等の公知のものを適宜選択して使用できる。
【0023】
また、本発明は、ツバキ種子抽出物を適用することによりCXCL14産生促進を介して免疫機能を活性化するための方法も提供する。本発明は、ツバキ種子抽出物を適用することによりCXCL14産生促進を介して免疫機能を活性化するための方法も提供する。本発明の免疫機能を活性化するための方法は、美容を目的とする方法であり、医師や医療従事者による治療ではないことがある。
【0024】
さらに、本発明は、免疫機能活性化のための医薬の製造におけるツバキ種子抽出物の使用も提供する。本発明は、免疫機能活性化に使用するためのツバキ種子抽出物も提供し、ここで好ましくは、免疫機能は皮膚の免疫機能であり、角化細胞におけるCXCL14産生を促進することにより皮膚の免疫機能が活性化される。
【実施例0025】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0026】
1.試料の調製
試料としてツバキ種子抽出物は、油化産業社製のツバキ種子抽出物(ツバキ種子を1,3-ブチレングリコールで抽出した抽出物)、ツバキ葉抽出物(ツバキ葉を1,3-ブチレングリコールで抽出した抽出物)、及びツバキ花抽出物(ツバキ花を1,3-ブチレングリコールで抽出した抽出物)を用いた。
【0027】
2.正常ヒト表皮角化細胞の培養およびツバキ抽出物の評価
正常ヒト表皮角化細胞(クラボウ社、製品番号KK-4009)を表皮角化細胞増殖用培地であるEpiLife培地(GIBCO社、製品番号MEPI500CA)にて培養し、6プレートに5×104cells/mlになるように播種し、サブコンフルエントになるまで37℃で48時間培養した。48時間培養後に培地あたり0.01重量%のツバキ種子抽出物、ツバキ葉抽出物、又はツバキ花抽出物を含む培地に交換した。培地交換後更に48時間培養してから培養上清を回収した。対照として、上記試料を添加しない以外は同じ組成の培地にて同条件で培養を行った。
【0028】
3.CXCL14の定量
得られた培養上清中のCXCL14の濃度をHuman CXCL14/BRAK DuoSet ELISA(R&D社製)を用いて評価した。対象に対する変化率を算出し、統計的有意差検定には、マン・ホイットニーのU検定を用いた。
【0029】
結果を
図1に示す。
図1より、ツバキ種子抽出物は、対照と比較して顕著に高いCXCL14産生促進作用があることが確認された。なお、ツバキ種子抽出物のCXCL14産生促進作用は、ツバキ葉又は花抽出物と比較して顕著に高いことも確認した。
本発明は、ツバキ種子抽出物を有効成分として含有するCXCL14産生促進剤の投与により、CXCL14産生を促進することができ、CXCL14産生促進を介して、免疫機能の活性化に有効である。とりわけ角化細胞におけるCXCL14産生促進による皮膚免疫機能の活性化が期待される。