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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176374
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/373 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
H01L23/36 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094864
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦本 幸治
(72)【発明者】
【氏名】神谷 真行
(72)【発明者】
【氏名】青島 正貴
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136BC02
5F136BC06
5F136CB06
5F136DA27
5F136EA13
5F136EA23
5F136FA23
5F136FA25
(57)【要約】
【課題】半導体素子をグラファイトに搭載して放熱を行う半導体装置において、熱抵抗を低下させる。
【解決手段】チップ状の半導体素子10と、半導体装置が配置される一面31を有し、該一面に沿う一方向をc軸方向とする異方性グラファイト30と、を備え、第1接合層20を介して異方性グラファイト30の一面31上に半導体素子10を接合する。また、異方性グラファイト30を挟んで半導体素子10と反対側にセラミック基板70を配置する。そして、異方性グラファイト30とセラミック基板70との間に、金属製の板状部材で構成された金属板50を配置する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置であって、
チップ状の半導体素子(10)と、
前記半導体素子が配置される一面(31)を有し、該一面に沿う一方向をc軸方向とする異方性グラファイト(30)と、
前記異方性グラファイトの前記一面上に前記半導体素子を接合する第1接合層(20)と、
前記異方性グラファイトを挟んで前記半導体素子と反対側に配置され、前記異方性グラファイトを絶縁する板状の絶縁性部材(70)と、
前記異方性グラファイトと前記絶縁性部材との間に配置された金属製の板状部材で構成された金属板(50)と、
前記異方性グラファイトと前記金属板とを接合する第2接合層(40)と、
前記金属板と前記絶縁性部材とを接合する第3接合層(60)と、を有している半導体装置。
【請求項2】
前記金属板の厚みは、0.2mm以上かつ3.0mm以下とされている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記金属板の厚みは、1.0mm以上かつ2.0mm以下とされている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記金属板の厚みは、1.5±0.1mmとされている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記金属板は、前記絶縁性部材よりも熱伝導率が高い金属材料で構成されている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記金属板を第1金属板(50)として、
前記異方性グラファイトの前記一面の上に配置された第2金属板(90)と、
前記第2金属板を前記異方性グラファイトと接合させる第4接合層(100)と、を有し、
前記半導体素子は、前記第2金属板の上に前記第1接合層を介して接合されている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記異方性グラファイトのうち前記一面の法線方向に沿う側面(32)のうち少なくとも該異方性グラファイトにおけるc軸に沿う面を覆う被覆金属板(110)と、
前記被覆金属板を前記異方性グラファイトと接合させる側面接合層(120)と、を有している、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体素子を異方性グラファイトに搭載して放熱を行う半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、半導体素子を異方性グラファイト複合体に搭載した半導体パッケージが提案されている。異方性グラファイト複合体は、四角形板状の異方性グラファイトと接合用の金属層と絶縁性の無機材質層を複合化することで構成されている。板状の異方性グラファイトの上に半導体素子が接合され、異方性グラファイトに対して半導体素子と反対側に無機材質層を配置することで絶縁性を確保しつつ、無機材質層に冷却器を接合することで半導体パッケージを構成している。異方性グラファイトと無機材質層との間は、めっきもしくは金属系ろう材で構成される8μm~50μm程度の薄い金属層で接合されている。
【0003】
このような構造において、異方性グラファイトの表面における一辺およびそれに直交する他の辺それぞれに沿う方向をX軸とY軸とし、X軸およびY軸に直交する異方性グラファイトの厚み方向をZ軸としている。そして、異方性グラファイトの結晶配向をZ軸方向としている。また、四角形チップ状の半導体素子の一辺をX軸方向に向け、それに直交する他の辺をY軸方向に向けて、半導体素子を異方性グラファイト表面上に配置することで、放熱性を高くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-100006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の半導体パッケージでは、異方性グラファイトの結晶配向をZ軸方向に向けているが、X軸方向とZ軸方向への熱伝導は良好に行われるものの、Y軸方向への熱伝導が良好に行えない。そして、異方性グラファイトと無機材質層との間を薄い金属層で接合しただけの構造では、異方性グラファイト内においてY軸方向へ熱を伝える効果が低く、半導体素子が発した熱を逃がすことができない。このため、半導体パッケージの熱抵抗を下げることができない。
【0006】
本開示は、半導体素子をグラファイトに搭載して放熱を行う半導体装置において、熱抵抗を低下させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの観点における半導体装置は、
チップ状の半導体素子(10)と、
前記半導体装置が配置される一面(31)を有し、該一面に沿う一方向をc軸方向とする異方性グラファイト(30)と、
前記異方性グラファイトの前記一面上に前記半導体素子を接合する第1接合層(20)と、
前記異方性グラファイトを挟んで前記半導体素子と反対側に配置され、前記異方性グラファイトを絶縁する板状の絶縁性部材(70)と、
前記異方性グラファイトと前記絶縁性部材との間に配置された金属製の板状部材で構成された金属板(50)と、
前記異方性グラファイトと前記金属板とを接合する第2接合層(40)と、
前記金属板と前記絶縁性部材とを接合する第3接合層(60)と、を有している。
【0008】
このように、異方性グラファイトと絶縁性部材との間に金属板を備えるようにしている。これにより、金属板を経由して異方性グラファイトにおける外縁側に熱を伝えることができる。したがって、半導体装置の熱抵抗を下げることが可能となる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態にかかる半導体装置の断面図である。
図2図1に示す半導体装置の斜視図である。
図3】参考構造として示した半導体装置の断面図である。
図4図3に示す参考構造の半導体装置における熱の伝わり方のシミュレーション結果を示した図である。
図5図1に示す第1実施形態の半導体装置における熱の伝わり方のシミュレーション結果を示した図である。
図6】金属板の厚さと半導体装置の熱抵抗[℃/W]との関係を示した図である。
図7】第2実施形態にかかる半導体装置の断面図である。
図8】第3実施形態にかかる半導体装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下に説明する他の実施形態を含めて、各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
本開示の第1実施形態について、図1図6を参照して説明する。なお、本明細書に添付した図面中に、X軸、Y軸およびZ軸を示している。任意の一方向をX軸、X軸と直交する一方向をY軸、X軸およびY軸に対して直交する方向をZ軸として説明を行う。
【0013】
図1および図2に示すように、本実施形態の半導体装置は、半導体素子10、第1接合層20、異方性グラファイト30、第2接合層40、金属板50、第3接合層60およびセラミック基板70を有している。そして、セラミック基板70が冷却器80に接合されることで、半導体素子10を冷却する構成とされている。
【0014】
半導体素子10は、半導体チップであり、例えばパワー素子が作り込まれている。パワー素子としては、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)が挙げられる。ここでは、半導体素子10は、縦型IGBTを作り込んだ半導体チップとされている。図2に示すように、半導体素子10には上面電極11が備えられている。上面電極11は、縦型IGBTにおけるエミッタ等に接続される電極で、半導体素子10の一面12側に配置されている。また、図示しないが、一面12における上面電極11と異なる場所には、縦型IGBTのゲートなどに接続される図示しない制御電極が配置されている。これら上面電極11や制御電極は、ボンディングワイヤもしくは導体部品と接続されることで、外部と電気的に接続可能となっている。また、図示しないが、一面12の反対側となる他面側に図示しない下面電極が配置されている。下面電極は、縦型IGBTにおけるコレクタ等に接続される電極であり、第1接合層20を介して異方性グラファイト30に接続されている。第1接合層20は後述するように導電材料で構成され、異方性グラファイト30は導体であることから、異方性グラファイト30に外部引き出し用に導体部品が接続されることで、下面電極も外部と電気的に接続可能となっている。
【0015】
半導体素子10は、上面形状が四角形板状とされており、一面12における一方の相対する二辺12aがX軸、もう一方の相対する二辺12bがY軸に沿い、厚み方向がZ軸に沿うように配置されている。なお、本明細書において、X軸やY軸などに「沿う」とは、平行であることが好ましいが、必ずしも平行である場合に限らず、当該軸に対して傾斜していることも含んでいる。
【0016】
第1接合層20は、例えばはんだや銀ペースト、銀シートなどの導電性の接合材料で構成されている。第1接合層20の厚みは任意であるが、例えば0.02~0.05mmとされている。この第1接合層20により、半導体素子10が異方性グラファイト30に対して電気的および物理的に接合されている。
【0017】
異方性グラファイト30は、熱伝導の異方性を有するグラファイトであり、ヒートスプレッダとして機能する。異方性グラファイト30の厚みは任意であるが、例えば2mmとされている。
【0018】
図2に示すように、異方性グラファイト30は、六角形板状結晶の黒鉛層が重なって構成されたグラファイト構造の結晶構造を有しており、黒鉛層の重なる方向がc軸、c軸を法線方向とする黒鉛層の平面方向がa軸になっている。異方性グラファイト30は、上面形状が四角形板状とされており、異方性グラファイト30の一面31における一方の相対する二辺31aがX軸、もう一方の相対する二辺31bがY軸に沿い、厚み方向がZ軸に沿うように配置されている。つまり、異方性グラファイト30は、a軸がX軸およびZ軸に沿って配置され、c軸がY軸に沿って配置されている。そして、異方性グラファイト30のサイズは、X軸方向において、二辺31aが半導体素子10の二辺12aより大きく、Y軸方向において、二辺31bが半導体素子10の二辺12bより大きくされている。そして、この異方性グラファイト30の一面31における略中央位置に半導体素子10が第1接合層20を介して接合されている。
【0019】
異方性グラファイト30は、a軸方向、つまりX軸方向およびZ軸方向では1700[W/mK]程度の高熱伝導率を有しているが、c軸方向、つまりY軸方向では、7[W/mK]程度の低熱伝導率となっている。このため、半導体素子10が発熱した際に、異方性グラファイト30内においては、a軸に沿う方向では高熱伝導により熱が移動しやすいが、c軸に沿う方向では低熱伝導によりa軸に沿う方向と比較して熱が移動しにくくなっている。
【0020】
第2接合層40および第3接合層60は、金属板50を異方性グラファイト30やセラミック基板70に接合するために備えられている。第2接合層40および第3接合層60は、異なる材質のもので構成されていても良いが、ここでは同じ材質のもので構成しており、例えば銀ペーストや銀ろうなどの熱伝導率の高い接合材料とされ、ここでは導電材料で構成されている。第2接合層40や第3接合層60の厚みは任意であるが、共に、例えば0.02~0.05mmとされている。第2接合層40により、異方性グラファイト30と金属板50とが物理的に接合され、第3接合層60により、金属板50とセラミック基板70とが物理的に接続されている。また、本実施形態の場合、第2接合層40を導電材料で構成しているため、第2接合層40により、異方性グラファイト30と金属板50とが電気的にも接合されている。
【0021】
金属板50は、第1金属板に相当し、セラミック基板70や異方性グラファイト30の少なくともc軸方向よりも熱伝導率が高い金属製の板状部材である。金属板50は、異方性グラファイト30とセラミック基板70との間に挟まれるようにして、第2接合層40および第3接合層60を介してこれらの間に接合されている。金属板50は、上面形状が四角形状とされており、金属板50の表面51における一方の相対する二辺51aがX軸、もう一方の相対する二辺51bがY軸に沿い、厚み方向がZ軸に沿うように配置されている。金属板50のサイズは、異方性グラファイト30と同じかそれ以上、つまり二辺51aが異方性グラファイト30の二辺31aと同寸法以上、もう一方の二辺51bも異方性グラファイト30の二辺31bと同寸法以上とされている。そして、Z軸方向から見て、異方性グラファイト30が金属板50からはみ出さないようにして配置されている。ただし、製造誤差等により、金属板50における二辺51aが異方性グラファイト30の二辺31aより若干小さくなったり、金属板50における二辺51bが異方性グラファイト30の二辺31bより若干小さくなっていることも許容される。
【0022】
金属板50は、例えば金、銀、銅、アルミニウム、モリブデン、タングステンなどの金属材料によって構成されている。金属板50の厚みについては、0.2mm以上かつ3.0mm以下とされ、1mm以上かつ2mm以下とされると好ましく、1.5m±0.1mmとされるとより好ましい。
【0023】
セラミック基板70は、異方性グラファイト30を挟んで半導体素子10と反対側に配置される絶縁性部材である。セラミック基板70は、熱伝導率が高い絶縁性の板状部材で構成され、例えば窒化アルミニウムやアルミナで構成されている。セラミック基板70は、金属板50や異方性グラファイト30および半導体素子10などと冷却器80との間の絶縁を図りつつ、異方性グラファイト30や金属板50を介して半導体素子10で発した熱を冷却器80に伝えて冷却されるようにする。セラミック基板70も上面形状が四角形状とされ、セラミック基板70の表面71における一方の相対する二辺71aがX軸、もう一方の相対する二辺71bがY軸に沿い、厚み方向がZ軸に沿うように配置されている。セラミック基板70のサイズは、金属板50と同じかそれ以上、つまり二辺71aが金属板50の二辺51aと同寸法以上、もう一方の二辺71bも金属板50の二辺51bと同寸法以上とされている。セラミック基板70の厚みは任意であるが、沿面放電を抑制できる厚みとされ、例えば0.32mmとされている。
【0024】
冷却器80は、冷却水や空気などとの熱交換を行うことで放熱を行うものであり、例えば金属製部材とされている。冷却器80の形状については任意であり、放熱フィンなどが構成されたものであっても良い。この冷却器80の表面に、セラミック基板70が貼り付けられている。
【0025】
このような構造により、本実施形態の半導体装置が構成されている。続いて、本実施形態の半導体装置の作用効果について説明する。
【0026】
上記したように、本実施形態の半導体装置では、異方性グラファイト30とセラミック基板70との間に金属製の板状部材で構成された金属板50を配置している。このような板状部材からなる金属板50を備えることで、異方性グラファイト30のY軸方向へ熱を伝え易くなり、半導体素子10が発した熱を逃がしやすくすることが可能となる。これにより、半導体装置の熱抵抗を低下させることが可能になる。以下、このような作用効果が得られる理由について、シミュレーションに基づいて説明する。
【0027】
参考構造として、図3に示すように、金属板50を備えることなく、異方性グラファイト30とセラミック基板70との間を薄い第2接合層40によって接合した構造について、熱の伝わり方のシミュレーションを行った。この構造は、特許文献1に記載された半導体パッケージに相当する構造である。そして、図1に示した本実施形態の構造の半導体装置についても、同様に、熱の伝わり方のシミュレーションを行った。図4および図5は、それぞれ、図3に示す参考構造と図1に示す本実施形態の半導体装置のシミュレーション結果を示している。なお、図4および図5は、Y軸方向に沿う断面でのCAE(Computer Aided Engineering)による熱伝導解析結果を示しており、ハッチングの間隔が広くなるほど、温度が低いことを表している。
【0028】
図4に示すように、参考構造では、異方性グラファイト30におけるY軸方向の両端位置において、低温になっていることが判る。これは、半導体素子10で発した熱がY軸方向において十分に伝わっていないことを表している。このように、参考構造においては、異方性グラファイト30内においてY軸方向へ熱を伝える効果が低く、半導体素子10が発した熱を逃がすことができないため、半導体装置の熱抵抗を下げることができない。
【0029】
これに対して、本実施形態の半導体装置では、異方性グラファイト30におけるY軸方向の両端位置において、参考構造と比較して高温になっていることが判る。これは、半導体素子10で発した熱がY軸方向において十分に伝わっていることを表している。このように、本実施形態の半導体装置においては、異方性グラファイト30内においてY軸方向へ熱を伝える効果が高く、半導体素子10が発した熱を逃がすことができている。このため、半導体装置の熱抵抗を下げることが可能になっている。
【0030】
このような相違は、異方性グラファイト30とセラミック基板70との間に金属板50を介在させているか否かを要因として発生していると考えられる。参考構造においては、薄い第2接合層40しか存在しないため、第2接合層40を経由した熱の拡がりが起きにくく、図中矢印A1の方向、つまり異方性グラファイト30のY軸方向へ熱が十分に伝わらない。その結果、異方性グラファイト30内の広い範囲に熱が伝達されなくなり、セラミック基板70に熱が伝わる範囲も狭くなる。このため、半導体装置の熱抵抗を下げることができない。
【0031】
一方、本実施形態の半導体装置のように、金属板50を介在させている場合、図中矢印A2のように、半導体素子10から異方性グラファイト30に伝わった熱が金属板50を経由して拡がり、異方性グラファイト30内のY軸方向にも伝わる。このため、半導体素子10から異方性グラファイト30内の広い範囲に熱が伝わるのと同様の状態になる。これにより、セラミック基板70のより広い範囲に熱が伝わることになり、より広い面積で冷却が可能になるため、半導体装置の熱抵抗を下げることが可能になるのである。
【0032】
また、本実施形態の半導体装置のように金属板50を備えることで熱抵抗を下げられるが、金属板50としてどの程度の厚みのものを備えるようにするとよいかについても検討を行った。その結果、金属板50の厚さと半導体装置の熱抵抗[℃/W]とについて、図6に示す関係となることが判った。
【0033】
具体的には、図6に示すように、金属板50の厚みが0、つまり金属板50を備えていない場合に対して、金属板50を備えると徐々に熱抵抗が小さくなっていた。特に、金属板50の厚みが0.2mm以上かつ3.0mmの範囲において熱抵抗の低下が顕著に表れ、1.0mm以上かつ2.0mm以上になるとより熱抵抗が低下していた。金属板50の厚みが1.5mmのときに熱抵抗が最も低下していた。なお、金属板50の厚みが1.5mmのときに最も熱抵抗が低下していたが、そこから±0.1mmの範囲においては1.5mmのときと同等の熱抵抗になっていた。なお、金属板50が厚すぎると、異方性グラファイト30から冷却器80までの距離が大きくなって、冷却効果が抑制されることがあり、金属板50の厚みについては3.0mm以下にすると好ましい。
【0034】
この金属板50の厚みと熱抵抗の関係については、金属板50の材質や半導体装置の構造により若干変わるものの、基本的には同様の傾向であった。
【0035】
しがたって、本実施形態の半導体装置では、金属板50の厚みについて、0.2mm以上かつ3.0mm以下としており、1mm以上かつ2mm以下とすると好ましく、1.5m±0.1mmとするとより好ましいとしている。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の半導体装置では、異方性グラファイト30とセラミック基板70との間に金属板50を備えるようにしている。これにより、金属板50を経由して異方性グラファイト30の外縁側に熱を伝えることができる。具体的には、異方性グラファイト30におけるY軸方向への熱を伝える効果を高めることが可能となる。したがって、半導体装置の熱抵抗を下げることが可能となる。
【0037】
具体的には、金属板50の厚みを0.2mm以上かつ3.0mm以下とすること、好ましくは1.0mm以上かつ2.0mm以下とすることで半導体装置の熱抵抗を低下させることが可能となる。特に、金属板50の厚みを1.5m±0.1mmとするとより半導体装置の熱抵抗を低下させられて好ましい。
【0038】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して半導体素子10と異方性グラファイト30との間の構造を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0039】
図7に示すように、本実施形態の半導体装置は、半導体素子10と異方性グラファイト30との間に第2金属板に相当する金属板90を備えている。金属板90を構成し得る材料については、金属板50と同様である。金属板90は、金属板50と同じ材料、同じ厚み、同じ寸法で構成されていても良いが、異なる材料、異なる厚み、異なる寸法で構成されていても良い。ここでは、金属板90を金属板50と同じ材料、同じ厚み、同じ寸法で構成している。
【0040】
具体的には、第4接合層100を介して異方性グラファイト30の一面31上に金属板90を接合している。金属板90は、上面形状が四角形状とされており、金属板90の表面91における一方の相対する二辺91aがX軸、もう一方の相対する二辺91bがY軸に沿い、厚み方向がZ軸に沿うように配置されている。そして、金属板90の表面上に、第1接合層20を介して半導体素子10が接合されている。半導体素子10は、金属板90の表面91における略中央位置とされている。なお、第4接合層100を構成し得る材料については、第2接合層40や第3接合層60と同様である。
【0041】
このように、半導体素子10と異方性グラファイト30との間にも金属板90を配置すると、金属板90でもY軸方向において熱が拡がりながら伝わるようにできる。このため、金属板50に加えて金属板90でもY軸方向における伝熱を促進でき、より半導体装置の熱抵抗を低下させることが可能となる。
【0042】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1、第2実施形態に対して異方性グラファイト30の周囲の構造を変更したものであり、その他については第1、第2実施形態と同様であるため、第1、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。ここでは、第1実施形態の構造に対して本実施形態の構造を適用した場合についえ説明するが、第2実施形態の構造に対しても適用できる。
【0043】
図8に示すように、本実施形態の半導体装置は、異方性グラファイト30の周囲、具体的には一面31の法線方向となるZ軸に沿う平面、つまり異方性グラファイト30の側面32を覆うように金属板110を備えている。この金属板110が被覆金属板に相当する。金属板110は、少なくとも異方性グラファイト30のうちZ軸およびY軸に平行な側面32を覆うように配置されるが、本実施形態では、異方性グラファイト30の四つの側面32の全面を覆うように金属板110を配置している。
【0044】
金属板90を構成し得る材料については、金属板50と同様である。金属板110は、金属板50と同じ材質、同じ厚み、同じ寸法で構成されていても良いが、異なる材料、異なる厚み、異なる寸法で構成されていても良い。ここでは、金属板90を金属板50と同じ材料、同じ厚み、同じ寸法で構成している。なお、本実施形態の場合、金属板110の厚み方向は、覆っている各側面32の法線方向となる。
【0045】
具体的には、側面接合層に相当する接合層120を介して異方性グラファイト30の側面32上に金属板110を接合している。金属板110は、厚み方向に沿う方向から視た形状が四角形状とされており、各辺が異方性グラファイト30の側面32の各辺と対応する寸法とされている。なお、接合層120を構成し得る材料については、第2接合層40や第3接合層60と同様である。
【0046】
このように、異方性グラファイト30の側面32を覆うように金属板110を配置すると、金属板110を通じて熱伝達が行われ、Y軸方向において熱が拡がりやすくなる。このため、金属板50に加えて金属板110でもY軸方向における伝熱を促進でき、より半導体装置の熱抵抗を低下させることが可能となる。
【0047】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0048】
例えば、上記各実施形態では、絶縁性部材としてセラミック基板70を用いたが、絶縁性部材についてはセラミック基板70に限らず、他の絶縁材料で構成されていても良い。
【0049】
また、上記各実施形態では、1つずつの半導体素子10、異方性グラファイト30、金属板50およびセラミック基板70を1組の半導体装置として、1組の半導体装置が1つの冷却器80に対して接合されている例を挙げた。しかしながら、これは一例を挙げたに過ぎず、2組以上の複数組の半導体装置が同じ冷却器80に接合される構成であっても良い。
【0050】
また、1つずつの異方性グラファイト30、金属板50およびセラミック基板70に対して半導体素子10を1つ配置する構造を例に挙げた。しかしながら、これについても、1つずつの異方性グラファイト30、金属板50およびセラミック基板70に対して2つの半導体素子10が配置される構造としても良い。例えば、半導体素子10にてインバータ回路における上アームと下アームの半導体スイッチング素子を構成する場合、上アームと下アームの半導体素子10を直列接続することになる。そのような場合に、一方の半導体素子10に対して他方の半導体素子10を表裏逆として異方性グラファイト30の表面状に搭載すれば、これらを直列接続することができる。
【0051】
さらに、半導体素子10、異方性グラファイト30、金属板50、セラミック基板70の上面形状は、必ずしも四角形状である必要はなく、例えば四角形状の各角部もしくは一部の角部が切り欠かれた形状などであっても構わない。
【0052】
(本開示の観点)
上記した本開示については、例えば以下に示す観点として把握することができる。
【0053】
[第1の観点]
半導体装置であって、
チップ状の半導体素子(10)と、
前記半導体素子が配置される一面(31)を有し、該一面に沿う一方向をc軸方向とする異方性グラファイト(30)と、
前記異方性グラファイトの前記一面上に前記半導体素子を接合する第1接合層(20)と、
前記異方性グラファイトを挟んで前記半導体素子と反対側に配置され、前記異方性グラファイトを絶縁する板状の絶縁性部材(70)と、
前記異方性グラファイトと前記絶縁性部材との間に配置された金属製の板状部材で構成された金属板(50)と、
前記異方性グラファイトと前記金属板とを接合する第2接合層(40)と、
前記金属板と前記絶縁性部材とを接合する第3接合層(60)と、を有している半導体装置。
[第2の観点]
前記金属板の厚みは、0.2mm以上かつ3.0mm以下とされている、第1の観点に記載の半導体装置。
[第3の観点]
前記金属板の厚みは、1.0mm以上かつ2.0mm以下とされている、第1の観点に記載の半導体装置。
[第4の観点]
前記金属板の厚みは、1.5±0.1mmとされている、第1の観点に記載の半導体装置。
[第5の観点]
前記金属板は、前記絶縁性部材よりも熱伝導率が高い金属材料で構成されている、第1ないし第4の観点のいずれか1つに記載の半導体装置。
[第6の観点]
前記金属板を第1金属板(50)として、
前記異方性グラファイトの前記一面の上に配置された第2金属板(90)と、
前記第2金属板を前記異方性グラファイトと接合させる第4接合層(100)と、を有し、
前記半導体素子は、前記第2金属板の上に前記第1接合層を介して接合されている、第1ないし第5の観点のいずれか1つに記載の半導体装置。
[第7の観点]
前記異方性グラファイトのうち前記一面の法線方向に沿う側面(32)のうち少なくとも該異方性グラファイトにおけるc軸に沿う面を覆う被覆金属板(110)と、
前記被覆金属板を前記異方性グラファイトと接合させる側面接合層(120)と、を有している、第1ないし第6の観点のいずれか1つに記載の半導体装置。
【符号の説明】
【0054】
10 半導体素子
20 第1接合層
30 異方性グラファイト
31 一面
40 第2接合層
50 金属板
60 第3接合層
70 セラミック基板
80 冷却器
図1
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図8