(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176376
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】焼結接合用シート
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20241212BHJP
B22F 1/054 20220101ALI20241212BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20241212BHJP
B22F 1/052 20220101ALN20241212BHJP
B22F 1/00 20220101ALN20241212BHJP
【FI】
H01L21/52 E
B22F1/054
B22F7/08 C
B22F1/052
B22F1/00 K
B22F1/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094868
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】三田 亮太
(72)【発明者】
【氏名】大木場 祐一
【テーマコード(参考)】
4K018
5F047
【Fターム(参考)】
4K018AA02
4K018AA03
4K018BA01
4K018BA02
4K018BB04
4K018BB05
4K018BD04
4K018CA09
4K018CA44
4K018HA08
4K018KA32
5F047AA17
5F047BA33
5F047BA37
5F047BA52
(57)【要約】
【課題】 温度の上昇及び下降が繰り返される環境で使用されても被着体との接合を十分に維持できる焼結接合用シートを提供することを課題としている。
【解決手段】 導電性金属を含有する焼結性粒子と有機バインダとを含む焼結接合層を備える焼結接合用シートであって、前記焼結接合層の表面を100倍率で観察した観察像では、観察される空隙サイズのうちの最大サイズが100μm以下である、焼結接合用シートを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属を含有する焼結性粒子と有機バインダとを含む焼結接合層を備える焼結接合用シートであって、
前記焼結接合層の表面を100倍率で観察した観察像では、観察される空隙サイズのうちの最大サイズが100μm以下である、焼結接合用シート。
【請求項2】
前記観察像の少なくとも9mm2の範囲では、前記空隙の面積割合が5.0%以下である、請求項1に記載の焼結接合用シート。
【請求項3】
前記焼結接合層の複素粘度は、25℃において3.0×106[Pa・s]以上3.0×1010[Pa・s]以下である、請求項1又は2に記載の焼結接合用シート。
【請求項4】
前記焼結接合層は、前記焼結性粒子を60質量%以上99質量%以下含む、請求項1又は2に記載の焼結接合用シート。
【請求項5】
前記焼結性粒子の平均粒子径は、50nm以上500nm以下である、請求項1又は2に記載の焼結接合用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体装置を製造するときに使用される焼結接合用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置の製造において使用される焼結接合用シートが知られている。この種の焼結接合用シートは、導電性金属を含有する焼結性粒子と有機バインダとを含む焼結接合層を有する。焼結接合層は、有機バインダを含むことから感圧接着性を有する。
半導体装置の製造において、基板の片面と半導体素子(半導体チップ等)との間に上記の焼結接合層が配置されて焼結処理されることで、基板と半導体素子とが焼結接合層を介して接合される。
例えば下記のような各工程が実施されて、半導体装置が製造される。
【0003】
(1)基材と粘着剤層とが積層されてなるダイシングテープの粘着剤層上に半導体ウエハを貼り付けて固定した後、半導体ウエハをダイシングして複数の半導体素子へと個片化する。
(2)コレットなどの治具を用いて1つの半導体素子を粘着剤層から剥離させて持ち上げた後、1つの半導体素子を焼結接合用シートの焼結接合層上に押し付ける。斯かる押し付け力によって、半導体素子のサイズに相当するサイズとなるように焼結接合層の一部を個片化する。同時に、個片化された焼結接合層を半導体素子に接着させ、コレットなどの治具を引き上げることにより、焼結接合層の個片が接着した1つの半導体素子をピックアップする。
(3)焼結接合層の個片が接着した1つの半導体素子を基板の片面(半導体素子の搭載領域)に接着させる。すなわち、1つの半導体素子を基板に仮固定させる。
(4)上記(2)及び(3)を同様にして複数回実施することによって、基板における半導体素子の搭載領域内に、焼結接合層の個片が接着した半導体素子の複数を仮固定させる。これにより、半導体装置の中間製品を得る。
(5)焼結接合層中の焼結性粒子どうしが焼結できる温度で半導体装置の中間製品を加熱する焼結処理を実施することにより、焼結性粒子を互いに焼結させつつ、焼結接合層から有機バインダの少なくとも一部を消失させる。これにより、基板における半導体素子の搭載領域に複数の半導体素子を接合させる。
上記のごとき各工程を経た後において、複数の半導体素子は、焼結接合層に含まれる焼結性粒子が互いに焼結することによって、基板における半導体素子の搭載領域内に固定される。すなわち、焼結処理を経た焼結接合層の個片を介して、複数の半導体素子が基板における半導体素子の搭載領域に固定されることとなる。
【0004】
なお、半導体装置の製造において、上記の(1)及び(2)の工程を実施する代わりに、ダイシングテープの粘着剤層に焼結接合層を重ねたうえでさらに半導体ウエハを貼り付け、焼結接合層及び半導体ウエハを個片化して、焼結接合層が貼り付いた状態の半導体素子をピックアックする場合もあり得る。
【0005】
上記のような半導体装置の製造方法で使用され得る焼結接合用シートとしては、例えば焼結処理後に強固な焼結層となる焼結接合層を有するシートが知られている(例えば、特許文献1)。
【0006】
詳しくは、特許文献1に記載の焼結接合用シートの焼結接合層において、特定の加熱条件で加熱した後の、断面における気孔部分の平均面積は、0.005μm2~0.5μm2の範囲内である。なお、特定の加熱条件は、10MPaの加圧下において1.5℃/秒の昇温速度で80℃から300℃まで昇温した後に300℃で2.5分間維持するという条件である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、焼結処理後の焼結接合層の個片は、温度の上昇及び下降が繰り返される環境下で使用されると、基板又は半導体素子などの被着体との接合が不十分になり得る。詳しくは、焼結接合層の個片が温度の上昇及び下降を何度も受けると、焼結接合層と被着体との界面の一部で剥離が生じたり、焼結接合層の内部にクラックが発生したりし得る。上記の剥離が生じたり、上記のクラックが発生したりすると、焼結接合層と被着体との接合が必ずしも十分に維持できず、製品としての信頼性が低下することにつながる。
【0009】
しかしながら、温度の上昇及び下降が繰り返される環境で使用されても被着体との接合を十分に維持できる焼結接合用シートについては、未だ十分に検討されているとはいえない。
【0010】
そこで、本発明は、温度の上昇及び下降が繰り返される環境で使用されても被着体との接合を十分に維持できる焼結接合用シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明に係る焼結接合用シートは、
導電性金属を含有する焼結性粒子と有機バインダとを含む焼結接合層を備える焼結接合用シートであって、
前記焼結接合層の表面を100倍率で観察した観察像では、観察される空隙サイズのうちの最大サイズが100μm以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る焼結接合用シートは、温度の上昇及び下降が繰り返される環境で使用されても被着体との接合を十分に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態の焼結接合用シートを厚さ方向に切断した模式断面図。
【
図2A】コレットによってダイシングテープから一の半導体チップを持ち上げる様子を示す概略断面図。
【
図2B】焼結接合用シートの焼結接合層の一部を個片化させるときの様子を示す概略断面図。
【
図2C】焼結接合用シートの焼結接合層の一部を個片化させるときの様子を示す概略断面図。
【
図2D】焼結接合層の個片が付着した一の半導体チップを基板に仮固定する様子を示す概略断面図。
【
図3A】コレットによってダイシングテープから別の半導体チップを持ち上げる様子を示す概略断面図。
【
図3B】焼結接合層の個片が付着した別の半導体チップを基板に仮固定する様子を示す概略断面図。
【
図4A】焼結接合層の個片を押圧しつつ加熱する様子の一例を示す概略断面図。
【
図4B】焼結接合層の個片を押圧せずに加熱する様子の一例を示す概略断面図。
【
図5】焼結接合層の表面を観察した観察像のいくつかの例を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る焼結結合用シートの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
本実施形態に係る焼結接合用シート10は、
図1に示すように、導電性金属を含有する焼結性粒子と有機バインダとを含む焼結接合層2を備える。焼結接合層2は、支持層1の片面に重なっている。
【0016】
[焼結接合用シートの焼結接合層]
本実施形態の焼結接合用シート10は、例えば、長尺帯状である。本実施形態の焼結接合用シート10は、円筒状に巻回された状態で保管されてもよい。
【0017】
焼結接合層2は、有機バインダを含むため感圧接着性を有する。従って、焼結接合層2は、押圧力を受けて被着体に対して仮接着できる。
また、焼結接合層2は、焼結処理が施されると、内部の焼結性粒子が互いに焼結される。焼結処理後の焼結接合層2は、例えば基板と半導体チップBとの間に配置されて両者を接合している。焼結処理後の焼結接合層2では、有機バインダの少なくとも一部が消失している。焼結接合層2中で有機バインダは、ほぼ残存していないことが好ましく、全く残存していないことがより好ましい。
【0018】
焼結接合層2の表面を100倍率で観察した観察像では、観察される空隙サイズのうちの最大サイズが100μm以下である。なお、「最大サイズが100μm以下である」という記載は、空隙が全く観察されないことも包含する。
焼結接合層2が上記のごとき構成を有するため、温度の上昇及び下降が繰り返される環境で焼結接合層2が使用されても、焼結接合層2と被着体との接合を十分に維持できる。
上記の最大サイズは、95μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。上記の観察像において空隙がまったく観察されないことが最も好ましい。空隙が観察される場合、空隙の最大サイズは、5μm以上であってもよい。
【0019】
本実施形態において、好ましくは、上記観察像の少なくとも9mm2の範囲では、空隙の面積割合が5.0%以下である。
焼結接合層2において、上記のごとく空隙の面積割合が5.0%以下であることによって、温度の上昇及び下降が繰り返される環境で焼結接合層2が使用されても、焼結接合層2と被着体との接合をより十分に維持できる。
上記の空隙の面積割合は、2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましく、0%であることが最も好ましい。なお、上記の空隙の面積割合は、0%以上であり得る。
【0020】
上述した空隙の最大サイズは、例えば、焼結接合層2を作製するときに、焼結性粒子と有機バインダと有機溶媒とを含むワニス(後に詳述)に含まれる固形分濃度をより低くすることによって、小さくすることができる。また、ワニスの粘度をより下げることによっても、上記の最大サイズを小さくすることができる。
同様に、上述した空隙の面積割合は、ワニス(後に詳述)に含まれる固形分濃度をより低くすること、又は、ワニスの粘度をより下げることによって、小さくすることができる。
【0021】
[焼結接合層の表面の観察方法]
焼結接合層2の表面は、以下のようにして観察される。そして、観察像を画像解析することによって、上記の空隙の最大サイズ、及び、空隙の面積割合がそれぞれ求められる。
【0022】
光学顕微鏡を用いて倍率100倍で焼結接合層の表面を観察する。観察箇所として焼結接合層の片面(支持層1に重なっていない方)における中央部分を選択する。光学顕微鏡としては、例えばデジタルマイクロスコープを用いる。より詳しくは、透明なガラス上に焼結接合層を置き、上方及び下方からそれぞれ照明を当てた状態で撮像する。撮像時における照明及び焦点合わせなどの具体的な条件としては、例えば、後述の実施例における画像解析の項で記載されたる条件を採用できる。
[観察像の画像解析方法]
上記のごとく撮像された各画像について以下のようにして画像解析する。詳しくは、まず、画像の空隙部分と、空隙以外の部分とが互いに明確に区分されるように彩度0以上50以下の領域を抽出する。好ましくは、彩度50で規定される境界線が、空隙の輪郭(外周縁)に沿うように、照明条件及び焦点合わせ条件等を調節する。例えば、このような条件で二値化処理を施すことによって、空隙以外の部分が白色部分となり、空隙部分が有色部分となる。
次に、各画像において抽出された空隙のサイズのうち最大サイズを求める。空隙の形状は様々であるため、各空隙において互いに最も離れた2点間を直線的に結んだときの距離を各空隙のサイズとする。
また、観察像の少なくとも9mm2の範囲において、空隙の面積割合を求める。具体的には、少なくとも9mm2の観察像に占める、黒色となった空隙の面積割合を算出する。少なくとも9mm2の観察像の形状は、正方形状が好ましい。観察像の面積は、少なくとも9mm2であればよく、9mm2以上11mm2以下が好ましい。なお、ランダムに選んだ少なくとも5つの観察像でそれぞれ上記面積割合を算出し、それらの値を算術平均することによって最終的に空隙の面積割合を求める。
上記の画像解析は、例えばデジタルマイクロスコープ等の装置に付属するソフトウェアによって実施できる。
【0023】
焼結性粒子に含有される導電性金属は、JIS K 0130(2008)に従って測定した電気伝導率が100[μS/cm]以上(106[S/m]以上)となる金属である。
導電性金属としては、例えば、金、銀、銅、パラジウム、スズ、又はニッケルなどが挙げられる。導電性金属は、金、銀、銅、パラジウム、スズ、及びニッケルからなる群から選択される2種以上の金属の合金であってもよい。
焼結性粒子は、酸化銀、酸化銅、酸化パラジウム、および、酸化スズなどの金属酸化物を含んでもよい。
【0024】
本実施形態では、焼結性粒子は、銀、銅、酸化銀、及び、酸化銅からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、後述するように、個片化された焼結接合層2(焼結接合層の個片2’)を介して半導体素子を基板に接合するときの接合性がより良好になり得る。
【0025】
焼結性粒子は、導電性金属として銀及び銅のうち少なくとも一方を含むことが好ましい。これにより、焼結接合層2の熱伝導性及び導電性がより良好になり得る。
【0026】
耐酸化性の観点では、焼結性粒子は、導電性金属として銀を含むことが好ましい。焼結性粒子が銀を含む場合、空気雰囲気下であっても焼結処理を好適に実施できる。詳しくは、例えば基板に、半導体チップBなどの半導体素子を接合させるときの焼結処理を空気雰囲気下で好適に実施できる。一方、焼結性粒子が例えば銅を含む場合、望ましくは銅の酸化を防ぐべく窒素雰囲気下などの不活性環境下で上記焼結処理を実施する。
【0027】
焼結性粒子は金属酸化物を含んでいてもよい。例えば焼結性粒子は、金属粒子の表層部分が金属酸化物に変化した状態であってもよい。
【0028】
例えば、焼結性粒子は、コア部分と該コア部分を覆うシェル部分とを有するコアシェル構造を有してもよい。コア部分は、主成分として銀及び銅のうち少なくとも一方を含んでもよい。シェル部分は、主成分として金、銀、酸化銀、又は酸化銅を含んでもよい。例えば、焼結性粒子は、銀粒子の表面の少なくとも一部が酸化銀で覆われた状態であってもよく、銅粒子の表面の少なくとも一部が酸化銅で覆われた状態であってもよい。
さらなる具体的では、複数種の金属で形成された粒子は、例えば、ニッケル、銅、銀、又はアルミニウムなどで形成されたコア部分と、コア部分の表面の少なくとも一部を覆い金、銀、又は銅などで形成されたシェル部分とを有する粒子であってもよい。
【0029】
加えて、焼結性粒子としては、金属と金属以外の材料とを含む複合粒子などが挙げられる。複合粒子としては、例えば、樹脂粒子等で形成された中核部と、中核部の表面の少なくとも一部を覆いニッケル若しくは金等の金属で形成された表層部とを有する粒子が挙げられる。中核部は、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素材料で形成されてもよい。なお、複合粒子としては、金属粒子が脂肪酸によって表面処理されたもの等を採用できる。
【0030】
焼結性粒子が銀を含む場合、より具体的には、焼結性粒子が銀粒子である場合、該銀粒子は、銀元素と、不可避的不純物元素である他の元素(金属元素など)とを含んでもよい。又は、銀粒子には、表面処理(例えば、シランカップリング処理)が施されていてもよい。銀粒子の表面処理剤としては、例えば、脂肪酸系被覆剤、アミン系被覆剤、又はエポキシ系被覆剤などが挙げられる。
【0031】
銀粒子としては、被覆剤で表面処理された銀粒子(以下、被覆剤処理銀粒子と称する場合がある)が以下の観点で好ましい。焼結性粒子として被覆剤処理銀粒子を用いることにより、焼結処理前の焼結接合層2中において、有機バインダと焼結性粒子との親和性をより高めることができる。これにより、焼結処理前の焼結接合層2中において、焼結性粒子がより十分に分散できる。
半導体装置の製造について後に説明する通り、焼結接合層2に対して所定以上の温度で焼結処理を施すことにより、有機バインダの少なくとも一部が焼結接合層2から消失する。
【0032】
なお、上記の焼結性粒子として、1種のみが採用されてもよく、2種以上が組み合わされて採用されてもよい。
【0033】
焼結性粒子の形状は、例えば、針状、糸状、球状、又は、板状(鱗片状を含む)などである。これら形状のうち、球状が好ましい。
焼結性粒子が球状であることにより、後述する焼結接合層2を得るためのワニス中において、焼結性粒子がより良好に分散できる。
【0034】
上記の焼結性粒子は、所定の温度に加熱する焼結処理によって互いに焼結される。焼結性粒子は、各粒子の少なくとも一部が上記の導電性金属で形成され且つ所定温度で加熱したときに互いに固着する粒子である。そのため、焼結処理によって焼結接合層2の内部に熱伝達経路が形成される。特に、厚さ方向の熱伝達経路が形成される。これにより、焼結接合層2の熱伝導性(放熱性)を比較的高くすることができる。
【0035】
焼結性粒子は、400℃以下の加熱温度で焼結可能であってもよい。換言すると、400℃以下の温度で加熱したときに、外表面にネッキングが認められる焼結性粒子を採用してもよい。
【0036】
焼結性粒子が焼結する温度は、熱質量示差熱分析装置を用いて測定することができる。
具体的には、熱質量示差熱分析装置(例えば、Rigaku社製の示差熱天秤TG8120)を用いて以下の条件で測定を行う。斯かる測定によってTg曲線とDTA曲線とを得る。Tg曲線の下がり際付近に認められる最も大きなDTA曲線のピークの温度を焼結性粒子の焼結温度とする。
<測定条件>
・昇温速度:10℃/min
・測定雰囲気:空気
・測定温度範囲:常温(23±2℃)から500℃
【0037】
なお、導電性金属として、金、銀、銅、パラジウム、スズ、ニッケル、及び、これらの合金を含む焼結性粒子は、400℃以下の加熱温度で焼結可能である。
【0038】
焼結性粒子の平均粒子径は、1nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがより好ましい。これにより、後述する焼結接合層2を得るためのワニス中において、焼結性粒子の分散性がより良好になり得る。従って、焼結性粒子が十分に分散された焼結接合層2を上記ワニスから作製できる。
一方、焼結性粒子の平均粒子径は、10000nm以下であることが好ましく、3000nm以下であることがより好ましく、1000nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることがより好ましい。これにより、焼結接合層2は、より平滑な表面を有することができる。
【0039】
焼結性粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて焼結接合層2の断面を観察することによって求められる。具体的には、以下の手順にしたがって求められる。以下の手順は、焼結処理(後述)を施す前の焼結接合層2に対して行う。
(1)厚さ方向に垂直な方向で見たときの大きさが10mm×10mmであり、厚さが50μm(0.05mm)である焼結接合層2を測定用試料として準備する。
(2)測定用試料を切断して現れた断面に対して整面処理を施し、その後、導電処理を施して、SEM観察用試料を作製する。
(3)加速電圧3kVでSEM観察像(各粒子の大きさに合わせて1万倍又は10万倍の倍率)を取得する。
(4)SEM観察像に対して画像解析を実施して、各粒子を識別する。観察像の端に存在する粒子については対象外とする。識別された各粒子の円相当直径を算出する。円相当直径とは、各粒子が真円形であると仮定し、各粒子の面積から算出した真円の直径である。
【0040】
焼結接合層2は、焼結性粒子を60質量%以上99質量%以下含むことが好ましく、65質量%以上98質量%以下含むことがより好ましく、70質量%以上97質量%以下含むことがさらに好ましく、80質量%以上97質量%以下含むことが最も好ましい。
焼結性粒子の含有率が上記範囲内であることより、焼結処理によって焼結性粒子を互いに焼結させて、半導体チップBなどの半導体素子を基板に接合させるときに、焼結処理後の焼結接合層2による接合が十分な信頼性を発揮できる。
【0041】
焼結接合層2中における焼結性粒子の含有率は、焼結接合層2を燃焼させた後に残る灰分量の測定値から算出できる。例えば、熱質量分析装置(例えば、TG209F1)などを用いて、以下の手順に従って測定を実施できる。なお、熱質量分析装置を用いた測定は、窒素気流下で実施することが好ましい。
(1)50mg程度に秤量した焼結接合層2の測定試料を、室温(23±2℃)から650℃まで昇温する。
(2)650℃の温度で30分間保持させることによって測定試料中の有機バインダを熱分解させる。
(3)測定試料の秤量値(50mg程度)に対する残存成分(灰分)の質量割合を計算する。
【0042】
本実施形態において、焼結接合層2は、第1有機バインダと、該第1有機バインダよりも分子量が小さい第2有機バインダとを有機バインダとして含むことが好ましい。
【0043】
第1有機バインダは、熱分解性高分子バインダであることが好ましい。熱分解性高分子バインダは、焼結処理によって熱分解されるバインダである。熱分解性高分子バインダは、焼結処理前までは、焼結接合層2をシート形状に保持する機能も有する。斯かる機能をより十分に発揮させるという観点から、熱分解性高分子バインダは、常温(23±2℃)において固形であることが好ましい。
熱分解性高分子バインダとしては、例えば、ポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂などが挙げられる。焼結接合層2は、第1有機バインダとして、ポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂の少なくとも一方を含んでいることが好ましい。焼結接合層2は、第1有機バインダとして、ポリカーボネート樹脂のみを含んでいてもよい。
【0044】
ポリカーボネート樹脂としては、例えば、主鎖の炭酸エステル(-O-C-O-O-)間にベンゼン環などの芳香族構造を含まず脂肪族鎖のみを有する脂肪族ポリカーボネート、又は、主鎖の炭酸エステル(-O-C-O-O-)間に芳香族構造を含む芳香族ポリカーボネートなどが挙げられる。
脂肪族ポリカーボネートとしては、例えば、ポリエチレンカーボネート又はポリプロピレンカーボネートなどが挙げられる。
芳香族ポリカーボネートとしては、例えば、主鎖にビスフェノールA構造を含むポリカーボネートなどが挙げられる。
【0045】
上記のアクリル樹脂としては、例えば、直鎖状または分岐状のアルキル部分の炭素数が4以上18以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」という表記は、「アクリル」及び「メタクリル」の両方を包含することを表す。
【0046】
上記の(メタ)アクリル酸エステルのアルキル基(アルキル部分)としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、シクロヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、又は、オクタデシル基などが挙げられる。
【0047】
アクリル樹脂は、上記(メタ)アクリル酸エステル以外の他のモノマーに由来する重合単位を分子中に有してもよい。他のモノマーとしては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、又は、リン酸基含有モノマーなどが挙げられる。
【0048】
カルボキシ基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、又は、クロトン酸などが挙げられる。
酸無水物モノマーとしては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸が挙げられる。
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル、又は、(メタ)アクリル酸4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシルメチルなどが挙げられる。
スルホン酸基含有モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、又は、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸などが挙げられる。
リン酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートなどが挙げられる。
【0049】
焼結接合層2に含まれ得る第2有機バインダは、易揮発性バインダであることが好ましい。易揮発性バインダは、熱重量分析(TGA)で測定されたときに、熱分解性高分子バインダよりも低い温度で重量減少が完了する(すべて脱離して重量0%となる)バインダ成分である。
【0050】
本実施形態では、易揮発性バインダは、23℃で1×105Pa・s以下の粘度を示す液状であることが好ましい。斯かる粘度は、動的粘弾性測定装置(機器名「HAAKE MARS III」,Thermo Fisher Scientific社製)を使用して測定される。具体的には、治具として20mmφのパラレルプレートを使用し、プレート間ギャップを100μmとし、回転せん断におけるせん断速度を1s-1として粘度を測定する。
【0051】
易揮発性バインダとしては、例えば、テルペンアルコール類、テルペンアルコールを除くアルコール類、アルキレングリコールアルキルエーテル類、又は、アルキレングルコールアルキルエーテル類を除くエーテル類などが挙げられる。
【0052】
テルペンアルコール類としては、例えば、イソボルニルシクロヘキサノール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、カルベオール、又は、α-テルピネオールなどが挙げられる。
テルペンアルコール類を除くアルコール類としては、例えば、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、1-デカノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、又は、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールなどが挙げられる。
アルキレングリコールアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングルコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、又は、トリプロピレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。
アルキレングルコールアルキルエーテル類を除くエーテル類としては、例えば、エチレングルコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールブチルエチルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエチルアセテート、又は、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。
【0053】
易揮発性バインダとしては、1種が単独で、又は、2種以上が組み合わされて用いられ得る。
【0054】
易揮発性バインダとしては、常温での安定性の点から、テルペンアルコール類が好ましく、テルペンアルコール類のうちイソボルニルシクロヘキサノールがより好ましい。
【0055】
イソボルニルシクロヘキサノールは、4-[1,7,7-トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-イル]シクロヘキサノールとも称される。イソボルニルシクロヘキサノールの沸点は、308℃以上318℃以下の範囲にある。イソボルニルシクロヘキサノールの蒸気圧は、25℃において0.00003mmHgである。
イソボルニルシクロヘキサノールは、以下のような特徴的な物性を有する。詳しくは、イソボルニルシクロヘキサノールは、200mL/minの窒素ガス気流下で、10℃/minの昇温条件にて、常温(23±2℃)から600℃まで昇温したときに、100℃以上から大きく質量減少し、245℃で揮発消失する(それ以上の質量減少が認められなくなる)という性質を有する。また、25℃において1000000mPa・sもの極めて高い粘度を示すものの、60℃において1000mPa・s以下という比較的低い粘度を示すという性質を有する。なお、質量減少は、測定開始温度(常温)における質量減少率を0%とした場合の値である。
このように、イソボルニルシクロヘキサノールは、25℃において上記のごとく極めて高い粘度を示すため、常温において焼結接合層2がシート形状を維持しやすい。一方、イソボルニルシクロヘキサノールは、60℃において上記のごとく比較的低い粘度を示し、タック性を有するようになる。すなわち、イソボルニルシクロヘキサノールを含む焼結接合層2は、常温ではシート形状を十分に維持でき、60℃以上の温度ではタック性を有することができる。
焼結接合層2を介して半導体素子を基板等の被着体に仮固定するときの温度は、通常、60~80℃である。このような温度では、イソボルニルシクロヘキサノールは上記の理由によりタック性を有するようになる。
従って、焼結接合層2は、第2有機バインダとしてイソボルニルシクロヘキサノールを含むことにより、基板等の被着体への仮固定性がより良好となる。換言すると、半導体素子を被着体に仮固定した後に、半導体素子の取り付け位置がずれたり、焼結接合層2が被着体から浮き上がったりすることをより抑制できる。
【0056】
焼結接合層2は、上記の有機バインダを1質量%以上含んでもよく、2質量%以上含んでもよく、3質量%以上含んでもよい。焼結接合層2は、上記の有機バインダを好ましくは3質量%以上含み、より好ましくは5質量%以上含む。
焼結接合層2は、上記の有機バインダを40質量%以下含んでもよく、35質量%以下含んでもよく、30質量%以下含んでもよい。焼結接合層2は、上記の有機バインダを好ましくは20質量%以下含み、より好ましくは10質量%以下含む。
【0057】
焼結接合層2が、有機バインダとして上記の第1有機バインダと上記の第2有機バインダとを含む場合、第1有機バインダ及び第2有機バインダの総量に占める第1有機バインダの割合(%)は、5質量%以上60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。一方、焼結接合層2において、第2有機バインダの含有量は、第1有機バインダの含有量より多くてもよい。
【0058】
焼結接合層2は、第1有機バインダを0.01質量%以上含むことが好ましく、0.05質量%以上含むことがより好ましく、0.10質量%以上含むことがさらに好ましく、0.20質量%以上含むことがよりさらに好ましい。
焼結接合層2は、第1有機バインダを20.0質量%以下含むことが好ましく、10.0質量%以下含むことがより好ましく、7.5質量%以下含むことがさらに好ましく、5.0質量%以下含むことがよりさらに好ましい。
【0059】
焼結接合層2は、第2有機バインダを0.5質量%以上含むことが好ましく、1.0質量%以上含むことがより好ましく、1.5質量%以上含むことがさらに好ましく、2.0質量%以上含むことがよりさらに好ましい。
焼結接合層2は、第2有機バインダを20.0質量%以下含むことが好ましく、15.0質量%以下含むことがより好ましく、10.0質量%以下含むことがさらに好ましい。
【0060】
焼結接合層2は、
図1に示すように単層構造であってもよい。一方、焼結接合層2は、複数の層が積層された複層構造であってもよい。焼結接合層2が複層構造を有する場合、焼結接合層2を構成する少なくとも1つの層において、上述したように空隙サイズのうちの最大サイズが100μm以下であればよい。
【0061】
焼結接合層2の複素粘度は、25℃において、例えば3.0×105[Pa・s]以上3.0×1011[Pa・s]以下である。焼結接合層2の25℃における複素粘度は、3.0×106[Pa・s]以上3.0×1010[Pa・s]以下であることが好ましく、3.0×107[Pa・s]以上3.0×109[Pa・s]以下であることがより好ましく、7.0×107[Pa・s]以上7.0×108[Pa・s]以下であることがさらに好ましい。
焼結接合層2の複素粘度は、93℃において、例えば3.0×104[Pa・s]以上3.0×1010[Pa・s]以下である。焼結接合層2の93℃における複素粘度は、3.0×105[Pa・s]以上3.0×109[Pa・s]以下であることが好ましく、3.0×106[Pa・s]以上3.0×108[Pa・s]以下であることがより好ましく、7.0×106[Pa・s]以上7.0×107[Pa・s]以下であることがさらに好ましい。
焼結接合層2の複素粘度が上記の範囲内であることによって、焼結処理(後述)を施される前の焼結接合層2に存在し得る空隙は、焼結処理中に小さくなりやすくなる。よって、焼結処理後の焼結接合層2が温度の上昇及び下降を使用中に繰り返して受けても、焼結接合層2と被着体との間の界面の一部で剥離が起こることをより抑制でき、また、焼結接合層2の内部でクラックが発生することをより抑制できる。従って、焼結接合層2が、使用中に温度の上昇及び下降を繰り返して受けても、焼結接合層2と被着体との接合をより十分に維持できる。
【0062】
焼結接合層2の複素粘度は、以下の測定条件で測定される。
焼結接合層から切り出された試験片:長さ30mm、幅5mm
測定装置:動的粘弾性測定装置
(製品名「RSA-G2」(ティー・エイ・インスツルメント社製など)
測定モード:引張モード
初期チャック間距離:20mm
引張速度:1mm/sec
測定温度:10℃から100℃へ昇温(昇温速度: 5℃/分)
少なくとも25℃における複素粘度(複素粘性率η*)の値[Pa・s]を読み取る
なお、試験片をチャック治具に固定するときに試験片が割れないように、チャック部において、2つのシリコーン離型処理PETライナー(50μm厚さ)を緩衝材として用いた。これらPETライナーで試験片を挟み込む。
【0063】
上記の複素粘度は、例えば、焼結接合層2に含まれる有機バインダの量を増やすことによって、小さくすることができる。一方、焼結接合層2に含まれる有機バインダの量を減らすことによって、上記の複素粘度を大きくすることができる。
【0064】
本実施形態において、焼結接合層2の厚さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、焼結接合層2の厚さは、300μm以下であってもよく、200μm以下であってもよく、100μm以下であってもよい。
一般的には、焼結接合層2の厚さが薄くなるほど、使用中において温度の上昇及び下降が繰り返された場合に、上述したクラックが焼結接合層2の内部に発生しやすくなる。これに対して本実施形態では、上述したように焼結接合層2において上記の空隙の最大サイズが100μm以下である。従って、比較的厚さの薄い焼結接合層2が、使用中に温度の上昇及び下降を繰り返して受けても、焼結接合層2の内部でクラックが発生することを抑制できる。また、焼結接合層2と被着体との界面の一部で、上記の空隙等が原因の剥離が生じることを抑制できる。従って、焼結接合層2と被着体との接合を十分に維持できる。
【0065】
焼結接合層2の厚さは、例えばダイアルゲージ(PEACOCK社製、型式R-205)を用いて、ランダムに選んだ任意の5箇所の厚さを測定し、これらの測定値を算術平均して算出される。
【0066】
[焼結接合用シートの支持層]
本実施形態において、焼結接合用シート10の支持層1は、焼結接合用シート10において支持体として機能する。支持層1は、例えば、プラスチックフィルムで構成されている。
【0067】
プラスチックフィルムの材質としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミド樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフェニルスルフィド樹脂、アラミド樹脂、フッ素樹脂、セルロース系樹脂、又は、シリコーン樹脂などが挙げられる。
なお、支持層1は、1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。
【0068】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、超低密度ポリエチレン樹脂、ランダム共重合ポリプロピレン樹脂、ブロック共重合ポリプロピレン樹脂、ホモポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、アイオノマー樹脂、エチレン-ブテン共重合体樹脂、又は、エチレン-ヘキセン共重合体樹脂などが挙げられる。
ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、又は、ポリブチレンテレフタレート樹脂などが挙げられる。
【0069】
上記の支持層1は、単層構造を有してもよく、多層構造を有してもよい。なお、単層構造とは、1種の材料で形成された構造である。例えば、1種の材料で形成された層を2つ以上積層させた支持層1は、単層構造を有する。一方、互いに異なる材料で形成された2以上の層を積層させた支持層1は、多層構造を有する。
【0070】
支持層1がプラスチックフィルムである場合、支持層1は、無延伸フィルムであってもよく、延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムは、一軸延伸フィルムであってもよく、二軸延伸フィルムであってもよい。
また、支持層1は、焼結接合層2と接する面がはく離処理されたはく離ライナーであってもよい。焼結接合層2と接する支持層1の一方の面には、例えばはく離剤が塗布されていてもよい。この場合、半導体装置を製造するときに、個片化された焼結接合層2(焼結接合層の個片2’)を支持層1(はく離ライナー)の一方の面から容易に剥離させることができる。
【0071】
支持層1の厚さは、10μm以上5000μm以下であることが好ましく、20μm以上4000μm以下であることがより好ましく、30μm以上3000μm以下であることがさらに好ましい。
支持層1の厚さは、上述した焼結接合層2の厚さと同様にして測定される。
【0072】
次に、上述した焼結接合用シートの製造方法について説明する。
【0073】
上記焼結接合用シートの製造方法は、
導電性金属を含有する焼結性粒子と有機バインダと有機溶媒とを含むワニスを調製する工程と、
前記ワニスから前記有機溶媒を揮発させて焼結接合層を作製する工程とを備える。
【0074】
ワニスを調製する工程では、例えば、上述した焼結性粒子と、上述した有機バインダと、有機溶媒とを混合して、有機溶媒に焼結性粒子を分散させ、有機溶媒に有機バインダを溶解させることによって、ワニスを調製する。
【0075】
上記の有機溶媒としては、例えば、エタノールなどのアルコール類、又は、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン類などを用いることができる。
【0076】
上記のワニスを調製するときの混合温度は、特に限定されず、例えば5℃以上70℃以下である。混合方法は特に限定されず、一般的な撹拌装置による混合方法を採用できる。
【0077】
ワニス中の固形分濃度は、60質量%以下であることが好ましく、58質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることがさらに好ましい。なお、固形分は、有機溶媒を除いた成分であり、例えば上述した焼結性粒子及び上述した有機バインダの合計分である。
ワニス中の固形分濃度がより低いことによって、焼結接合層2の製造時にワニス(後述)から有機溶媒を揮発させるときに形成され得る空隙のサイズがより小さくなりやすい。これにより、焼結処理を経た後の空隙サイズもより小さくなる。よって、焼結接合層2が使用中に温度の上昇及び下降を繰り返して受けても、焼結接合層2と被着体との界面の一部で上記空隙が原因の剥離がより抑制される。また、焼結接合層2の内部で上記の空隙によるクラックの発生がより抑制される。従って、焼結接合層2と被着体との接合をより十分に維持できる。
なお、ワニス中の固形分濃度は、30質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよく、52質量%以上であってもよい。
【0078】
ワニスの23℃における粘度は、1.0[Pa・s]以上7.0[Pa・s]以下であることが好ましく、2.0[Pa・s]以上5.0[Pa・s]以下であることがより好ましい。斯かる粘度は、E型粘度計(例えば、機器名「RE-85型」,東機産業社製)を使用して測定される。具体的には、治具として「1°34’×R24」のコーンローターを使用し、測定サンプル量1.1mL、回転速度1.0rpmで粘度が測定される。
ワニスの粘度がより低いことによって、焼結接合層2の製造時にワニス(後述)から有機溶媒を揮発させるときに形成され得る空隙のサイズがより小さくなりやすい。これにより、焼結処理を経た後の空隙サイズもより小さくなる。よって、焼結接合層2が使用中に温度の上昇及び下降を繰り返して受けても、焼結接合層2と被着体との界面の一部で上記空隙が原因の剥離がより抑制される。また、焼結接合層2の内部で上記の空隙によるクラックの発生がより抑制される。従って、焼結接合層2と被着体との接合をより十分に維持できる。
【0079】
焼結接合層を作製する工程では、例えば、ワニスを支持層1上に所定厚さで塗布して塗膜を形成する。続いて、塗膜を加熱して有機溶媒を揮発させる。
【0080】
以上のようにして製造された焼結接合用シート10は、例えば半導体装置を製造するときの補助部材として使用され得る。
【0081】
[焼結接合用シートの使用方法(半導体装置の製造方法)]
続いて、本実施形態に係る焼結接合用シート10を用いた半導体装置の製造方法の一例について、図面を参照しつつ説明する。
【0082】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法は、例えば、複数の半導体チップBと、複数の半導体チップBが搭載される複数の搭載領域を有する基板と、上述した焼結接合用シート10と、複数の半導体チップBのそれぞれを複数の搭載領域に仮固定するために用いる押圧部材と、を使用して実施される。
【0083】
以下では、押圧部材としてコレットAを用いて、DBC(Direct Bonded Copper)基板又はAMB(Active Matal Brazing)基板などの基板に、半導体チップBを搭載する場合を例に挙げて説明する。これら基板は、例えば、セラッミック絶縁層Dの両面側に、それぞれ銅製ダイパッドEと銅製薄層Fとを有する。銅製ダイパッドEが半導体チップBの搭載領域である。
【0084】
まず、ダイシングテープC上で半導体ウエハを切断することにより、半導体ウエハから複数の半導体チップBを得る(
図2A参照)。換言すると、半導体ウエハを複数に分割して個片化させることにより、半導体チップBを得る。ダイシングテープCとしては、市販製品を用いることができる。
【0085】
得られる半導体チップBは、例えば矩形薄板状である。半導体チップBの厚さは、例えば、10μm以上500μm以下である。半導体チップBの厚さは、20μm以上400μm以下であることが好ましい。
半導体チップBを厚さ方向の一方から見たときの面積は、例えば、0.01mm2以上1000mm2以下である。斯かる面積は、0.04mm2以上500mm2以下であることが好ましい。
【0086】
次に、
図2Bに示すように、焼結接合層2が支持層1よりも上側となるように焼結接合用シート10を第1ステージG上に乗せる。
そして、コレットAで1つの半導体チップBを焼結接合層2に押し付けることにより、半導体チップBを焼結接合層2の一部に付着させる。押し付け時の圧力は、0.01MPa以上10MPa以下であることが好ましく、0.1MPa以上5MPa以下であることがより好ましい。また、押し付け時のコレットAまたは第1ステージGの温度は、40℃以上150℃以下であることが好ましく、50℃以上130℃以下であることがより好ましい。
なお、コレットAが半導体チップBと当接する面の形状及びサイズは、1つの半導体チップBの上記形状及びサイズとほぼ同じである。
【0087】
次に、
図2Cに示すようにコレットAを持ち上げる。このとき、半導体チップBに付着した焼結接合層2の一部が、半導体チップBとともに持ち上げられる。換言すると、焼結接合層の個片2’が付着した状態のままで半導体チップBをコレットAで持ち上げる。これにより、個片化された焼結接合層2(以下、焼結接合層の個片2’ともいう)が付着した半導体チップBを得る。
なお、半導体チップBを焼結接合層2に押し付けるときの圧力が上述した範囲内であること、又は、コレットAまたは第1ステージGの温度が上述した範囲内であることにより、焼結接合層の個片2’が付着した半導体チップBを好適に得ることができる。
【0088】
次に、基板(セラッミック絶縁層D、銅製ダイパッドE、及び銅製薄層F)を第2ステージH上に乗せる(
図2D参照)。
そして、
図2Dに示すように、25℃以上150℃以下の範囲内のいずれかの温度でコレットAを保持した状態で、コレットAを鉛直方向に降下させて、半導体チップBに付着した焼結接合層の個片2’を銅製ダイパッドEに当接させる。続いて、コレットAで半導体チップBを銅製ダイパッドEに向けて下方へ押し付ける(押圧する)。
これにより、焼結接合層の個片2’を介して、銅製ダイパッドEに半導体チップBを仮固定する(
図2D参照)。
銅製ダイパッドEに半導体チップBを押し付けるときの上記の圧力は、0.01MPa以上50MPa以下であることが好ましく、0.1MPa以上30MPa以下であることがより好ましい。
【0089】
なお、焼結接合層の個片2’の被着体としての基板が、リードフレームであってもよい。リードフレームとしては、一般的なリードフレームを用いることができる。例えば、Cu製フレームにAgメッキ処理が施されたリードフレーム、又は、Cu製フレームに、Ni、Pd、Auをこの順にメッキしたリードフレーム(Palladium Pre Plated Lead Frame。Pd-PPF)などを採用できる。
【0090】
上記の各操作を実施して、銅製ダイパッドEに1つの半導体チップBを仮固定した後、同様の操作を繰り返す。
詳しくは、
図3Aに示すように、コレットAによって、複数の半導体チップBのうちの別の半導体チップBをダイシングテープCから引き離して持ち上げる。
次に、
図2Bと同様に、焼結接合用シート10の焼結接合層2にコレットAで別の半導体チップBを押し付ける。
さらに、
図2Cと同様に、コレットAを引き上げて、焼結接合層の個片2’が付着した状態の半導体チップBを支持層1から引き離して持ち上げる。
続いて、コレットAを上記と同様の温度で保持しつつ、焼結接合層の個片2’が付着した状態の半導体チップBを銅製ダイパッドEの別の搭載領域に当接させる。
そして、
図3Bに示すように、コレットAで半導体チップBを銅製ダイパッドEに向けて下方へ押し付ける(押圧する)。
これにより、焼結接合層の個片2’を介して、銅製ダイパッドEの別の搭載領域に半導体チップBを仮固定する(
図3B参照)。
以上の各操作を、銅製ダイパッドEに仮固定されるべき全ての半導体チップBが銅製ダイパッドE上に配置されるまで順に繰り返す。
【0091】
なお、各半導体チップBを仮固定するときに、焼結接合層の個片2’に含まれている焼結性粒子が焼結できる温度へとコレットAを加熱してもよい。これにより、焼結接合層の個片2’に含まれる焼結性粒子の一次焼結処理を実施してもよい。換言すると、上記のごとく仮固定した直後に、焼結接合層の個片2’に対して焼結処理の一部を施してもよい。
【0092】
焼結接合層の個片2’に含まれる焼結性粒子が400℃以下の加熱温度で焼結できる場合、コレットAを200℃以上の温度に加熱することが好ましい。コレットAを200℃以上に加熱することにより、焼結性粒子を互いにより十分に焼結させることができる。従って、焼結接合層の個片2’を介して、銅製ダイパッドEに半導体チップBをより強固に接合させることができる。換言すると、基板に対する半導体チップBの接合信頼性がより向上する。
【0093】
上記の一次焼結処理を実施する場合、コレットAを急速に(5秒程度で)昇温させることが好ましい。コレットAは、30℃/sec以上で昇温されることが好ましく、45℃/sec以上で昇温されることがより好ましい。
【0094】
なお、上記の一次焼結処理は、コレットAを加熱することだけでなく、上記と同様の温度で第2ステージHも加熱することで実施してもよい。これにより、焼結接合層の個片2’を厚さ方向の両側から加熱するため、焼結性粒子どうしをより十分に焼結させることができる。従って、焼結接合層の個片2’を介して、銅製ダイパッドEに半導体チップBをより十分に接合させることができる。換言すると、基板に対する半導体チップBの接合信頼性がより一層向上する。
【0095】
加熱された第2ステージHの温度は、銅製ダイパッドE又は銅製薄層Fの酸化を抑制する温度以下であることが好ましい。第2ステージHの加熱温度は、150℃以下であることが好ましい。
【0096】
上記のごとく一次焼結処理を実施する場合、例えば、一次焼結処理の後にコレットAを持ち上げて半導体チップBとコレットAとを離間させることにより、焼結性粒子が焼結し難くなる温度(例えば、50℃)までコレットAの温度を低下させてもよい。
なお、すべての焼結接合層の個片2’にそれぞれ一次焼結処理を実施する場合、すべての半導体チップBを接合させた後に、必要箇所にボンディングワイヤをボンディングしてもよい。
【0097】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法では、複数の半導体チップBを基板に仮固定した後に、焼結性粒子が焼結可能な温度に焼結接合層の個片2’を加熱する加熱工程を実施してもよい。加熱工程では、複数の焼結接合層の個片2’のうちの少なくともいずれかに対して厚さ方向に圧縮力を加えつつ加熱を実施してもよい。
上述した一次焼結処理を実施する場合、上記加熱工程は、二次焼結処理に相当する。換言すると、焼結処理は、上述した一次焼結処理及び二次焼結処理(上記の加熱工程)の両方によって実施することができる。
【0098】
より具体的には、本実施形態に係る半導体装置の製造方法では、以下のようにして焼結処理を実施できる。
焼結処理の加熱工程では、例えば、複数の焼結接合層の個片2’のうちの少なくともいずれかを厚さ方向に押圧しつつ加熱する。具体的には、半導体チップBが仮固定された後、
図4Aに示すように、加熱可能に構成された加熱加圧装置Fを用いて、焼結接合層の個片2’に対して厚さ方向に圧縮力を与えつつ加熱してもよい。
例えば加熱加圧装置は、2枚の平板Z,Zで構成されている。2枚の平板Z,Zは、第2ステージHと、基板(セラッミック絶縁層D、銅製ダイパッドE、及び銅製薄層F)と、焼結接合層の個片2’を介して銅製ダイパッドEに仮固定された複数の半導体チップBとを挟み込むようにそれぞれ配置されている。そして、加熱された2枚の平板間の離間距離を縮めて上記の複数の部材を加圧(押圧)することによって、焼結接合層の個片2’を押圧しつつ加熱する。
このようにして加熱工程を実施することによって、複数の焼結接合層の個片2’を押圧しつつ加熱できるため、焼結接合層の個片2’を介して半導体チップBを基板(銅製ダイパッドE)に強固に接合できる。従って、基板に対する半導体チップBの接合信頼性を向上させることができる。
このようにして加熱工程を実施した後に、必要箇所にボンディングワイヤをボンディングしてもよい。
なお、
図4Aに示す下側の平板Zと銅製ダイパッドEとの間に、複数の基板を並べるための治具などを配置してもよい。
【0099】
一方、加熱工程では、
図4Bに示すように、接合されるべき全ての半導体チップBが仮固定された後、焼結接合層の個片2’に対して厚さ方向に圧縮力を与えない状態で、第2ステージHを加熱してもよい。このとき、焼結接合層の個片2’に含まれる焼結性粒子が焼結可能となる温度(例えば、200℃以上400℃以下の範囲のいずれかの温度)で第2ステージHを加熱する。
このような加熱工程を実施しても、焼結接合層の個片2’を介して、半導体チップBを基板(銅製ダイパッドE)に強固に接合させることができる。従って、基板に対する半導体チップBの接合信頼性を高めることができる。
なお、上記のごとく加熱工程を実施することにより、焼結接合層の個片2’に圧縮力を与えるための加熱加圧装置Fが不要であることから、製造設備がより簡便になり得る。
【0100】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法では、さらなる工程を実施してもよい。
例えば、半導体チップBの一部と基板の一部とを電気的に接続させるワイヤボンディング工程を実施してもよい。
また、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂によって半導体チップB及び焼結接合層の個片2’などを封止する封止工程を実施してもよい。封止工程では、熱硬化性樹脂の硬化反応を進行させるために、例えば150℃以上200℃以下の温度で加熱処理を行う。
【0101】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法では、上述したように、例えば焼結接合層の個片2’に対して厚さ方向に圧縮力を与えつつ加熱する焼結処理を実施して、基板に対して焼結接合層の個片2’を接合させる。
上記の通り、焼結接合層2は、表面を100倍率で観察した観察像において、観察される空隙のサイズのうちの最大サイズが100μm以下である。また、好ましくは、観察像の少なくとも9mm2の範囲では、空隙の面積割合が5.0%以下である。焼結接合層2がこのような構成を有するため、空隙の最大サイズが小さく、場合によっては空隙がほとんど存在しない。よって、焼結処理を経た後に焼結接合層2における空隙の最大サイズも小さくなり、場合によっては空隙が消失し得る。よって、焼結接合層2が使用中に温度の上昇及び下降を繰り返して受けても、焼結接合層2と被着体との界面の一部において、少なくとも上記空隙を原因とする剥離を抑制できる。また、焼結接合層2の内部において、少なくとも上記空隙を原因とするクラックの発生を抑制できる。従って、焼結接合層2が、使用中に温度の上昇及び下降を繰り返して受けても、焼結接合層2と被着体との接合を十分に維持できる。
【0102】
本実施形態の焼結接合用シートは上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の焼結接合用シートなどに限定されるものではない。
即ち、一般的な焼結接合用シート等において用いられる種々の形態が、本発明の効果を損ねない範囲において、採用され得る。
【0103】
本明細書によって開示される事項は、以下のものを含む。
(1)
導電性金属を含有する焼結性粒子と有機バインダとを含む焼結接合層を備える焼結接合用シートであって、
前記焼結接合層の表面を100倍率で観察した観察像では、観察される空隙サイズのうちの最大サイズが100μm以下である、焼結接合用シート。
(2)
前記観察像の少なくとも9mm2の範囲では、前記空隙の面積割合が5.0%以下である、上記(1)に記載の焼結接合用シート。
(3)
前記焼結接合層の複素粘度は、25℃において3×105[Pa・s]以上3×1011[Pa・s以下である、上記(1)又は(2)に記載の焼結接合用シート。
(4)
前記焼結接合層の複素粘度は、93℃において3×104[Pa・s]以上3×1010[Pa・s以下である、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の焼結接合用シート。
(5)
前記焼結性粒子の平均粒子径は、1nm以上10000nm以下、好ましくは50nm以上500nm以下である、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の焼結接合用シート。
(6)
前記焼結接合層は、第1有機バインダと、該第1有機バインダよりも分子量が小さい第2有機バインダとを前記有機バインダとして含む、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の焼結接合用シート。
(7)
前記第1有機バインダは、熱分解性高分子バインダである、上記(6)に記載の焼結接合用シート。
(8)
前記焼結接合層は、前記焼結性粒子を60質量%以上99質量%以下含む、上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の焼結接合用シート。
(9)
前記焼結接合層は、前記有機バインダを1質量%以上40質量%以下含む、上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の焼結接合用シート。
(10)
上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の焼結接合用シートの製造方法であって、
前記焼結性粒子と前記有機バインダと有機溶媒とを含むワニスを調製する工程と、
前記ワニスから前記有機溶媒を揮発させて前記焼結接合層を作製する工程とを備える、焼結接合用シートの製造方法。
【実施例0104】
次に、実験例によって本発明をさらに詳しく説明するが、以下の実施例は本発明をさらに詳しく説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0105】
(焼結接合層の原材料)
[焼結性粒子]
・第1銀粒子:
平均粒子径60nm DOWAエレクトロニクス社製
・第2銀粒子:
平均粒子径1100nm 三井金属鉱業社製
[有機バインダ]
・第1有機バインダ(熱分解性高分子バインダ):ポリカーボネート樹脂:
(ビフェニル型フェノール樹脂 フェノール当量209g/eq)
製品名「QPAC40」Empower Materials社製
・第2有機バインダ(易揮発性バインダ):イソボルニルシクロヘキサノール
製品名「テルソルブMTPH」日本テルペン化学社製
・有機溶媒:メチルエチルケトン(MEK)
(支持層)
・離型処理フィルム(製品名「MRA38」、三井樹脂社製)
【0106】
(実施例1)
上記の第1銀粒子と、上記の第2銀粒子と、上記の第1有機バインダ(ポリカーボネート樹脂)と、上記の第2有機バインダ(イソボルニルシクロヘキサノール)とを、表1に示す配合組成でメチルエチルケトン(MEK)に溶解又は懸濁させてワニスを調製した。詳しくは、ハイブリッドミキサ(型式「HM-500」、キーエンス社製)を用いて、撹拌モードで3分間の撹拌を実施した。
次に、上記の支持層の離型処理面にワニスを塗布した後、110℃で3分間加熱することによって、支持層上に焼結接合層を形成した。このようにして焼結接合用シートの中間体を作製した。
次に、焼結接合層同士が重なり合うように2枚の焼結接合用シートの中間体を貼り合わせて、厚さ50μmの焼結接合層を有する燒結接合用シートを製造した。
なお、表1において、第1銀粒子及び第2銀粒子の配合量は、仕込み時の量で示され、表2において、焼結性粒子の配合量は灰分の値で示されている。
【0107】
【0108】
組成A、組成B、及び組成Cの各ワニスの粘度を上述した測定条件に従って測定した。
【0109】
(実施例2~7)
表3に示す配合組成に変更した点以外は、上記と同様にして各焼結接合用シートを製造した。
【0110】
(比較例1及び2)
表3に示す配合組成に変更した点以外は、上記と同様にして各焼結接合用シートを製造した。
【0111】
各実施例及び各比較例における焼結接合用シートの組成及び物性を表3にそれぞれ示す。
【0112】
【0113】
<焼結接合用シート(焼結接合層)の物性>
上記のごとく製造した各焼結接合用シートの焼結接合層の表面観察、及び、物性測定を以下のようにしてそれぞれ実施した。
【0114】
[焼結接合層の複素粘度]
焼結接合層の複素粘度を以下の測定条件で測定した。
焼結接合層から切り出された試験片:長さ30mm、幅5mm
測定装置:動的粘弾性測定装置
(製品名「RSA-G2」(ティー・エイ・インスツルメント社製など)
測定モード:引張モード
初期チャック間距離:20mm
引張速度:1mm/sec
測定温度:10℃から100℃へ昇温(昇温速度:5℃/分)
少なくとも25℃における複素粘度(複素粘性率η*)の値[Pa・s]を読み取る
【0115】
[焼結接合層の表面観察及び画像解析]
使用装置:デジタルマイクロスコープ 機器名「VHX-2000」キーエンス社製
レンズ:Z20 100倍に設定
シャッタースピード:1/60[sec]
ゲイン:0[dB]
照明:ランプON(90%程度)、ステージ透過照明ON(20%程度)
フレームレート:15「F/s」
上記の条件で撮影した。また、撮影した画像に対して、彩度のヒストグラム抽出(抽出レンジ:彩度0-50)を実施した観察像を得た。使用装置の自動面積計測機能を用いて、画像解析を実施した。画像解析の対象となった画像の面積は、約9.7mm
2であった。得られた解析結果から、複数の空隙のうち最大サイズ、及び、空隙の総面積率を求めた。なお、各空隙のサイズは、上述した通り、互いに最も離れた2点間を直線的に結んだときの距離である。
画像解析のために観察像を二値化した後の画像例(実施例1~4及び比較例1,2)を
図5に示す。
【0116】
<焼結接合用シート(焼結接合層)の信頼性評価>
温度の上昇及び下降が繰り返された後の焼結接合層と被着体との界面の一部における剥離の起こりやすさを確認すべく、上記のごとく製造した各焼結接合用シートの焼結接合層を以下のようにしてそれぞれ評価した。概要を説明すると、焼結接合層を有する積層体(パッケージ)を組み立て、その後、積層体に対して温度サイクル試験を実施し、焼結接合層の接合状態を超音波探傷像によって評価した。詳細は以下の通りである。
5μm厚でAgメッキされたCu基板(20mm×20mm×3mm厚)と、Ti(0.1μm厚)/Ag(0.75μm厚)メッキされたSiチップ(5mm×5mm×0.2mm厚)とを用意した。上記のCu基板及び上記のSiチップで各焼結接合層を挟み込んで積層体を作製し、300℃/10MPa/2.5分間の条件で焼結接合処理を実施した。
焼結処理後の積層体につき、超音波探傷像によって、Cu基板と焼結接合層との界面、及び、Siチップと焼結接合層との界面における接合状態(焼結接合層が接合している領域の面積)を評価した(初期評価)。
装置:「FineSAT200」 日立パワーソリューションズ社製
プローブ:PQ2-50-13(反射モード)
測定点数:600×600(一辺21mmの正方形の範囲)
上記初期評価の後、積層体を温度サイクル試験機内へ入れ、下記の条件で温度の上昇及び下降を繰り返して劣化促進試験を実施した。
温度条件:-40℃/200℃(常温での放置時間なく15分ごとに繰り返し)
サイクル数:1000サイクル
劣化促進試験後の積層体について、上記と同様の方法で超音波探傷像によって評価した。具体的には、画像解析ソフトウェア(「Image J」)を用いて評価を実施し、初期評価によって得られた接合領域と、劣化促進試験後の評価によって得られた接合領域とを比較した。初期評価における接合領域を100%とした場合、劣化促進試験後に接合領域が50%未満になった場合(焼結接合層の剥離が接合領域面積の半分以上で進行した場合)、信頼性評価を「不良」と判断した。それ以外を「良」と判断した。
【0117】
上記の評価結果から把握されるように、実施例の焼結接合用シートの焼結接合層は、温度の上昇及び下降が繰り返される環境で使用されても、焼結接合層と被着体との界面の一部で剥離が生じることを抑制できた。即ち、良好な接合信頼性を有していた。なお、実施例の焼結接合用シートの焼結接合層は、良好な熱伝導性及び導電性も有していた。
一方、比較例の焼結接合用シートの焼結接合層は、良好な接合信頼性を有していなかった。