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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017638
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】手帳
(51)【国際特許分類】
   B42D 15/00 20060101AFI20240201BHJP
   B42C 5/00 20060101ALI20240201BHJP
   C09J 131/04 20060101ALI20240201BHJP
   C09J 115/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B42D15/00 301D
B42C5/00
C09J131/04
C09J115/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120417
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】397033870
【氏名又は名称】株式会社高橋書店
(71)【出願人】
【識別番号】305047236
【氏名又は名称】伊藤手帳株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 広幸
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040CA081
4J040DE021
4J040JA03
4J040JB01
4J040MA09
4J040MB13
(57)【要約】
【課題】従来品以上に手帳の見開き性を改善可能な技術を提供する。
【解決手段】手帳は、本体部と、下固め部と、背固め部と、表紙部と、を備える。本体部は、シート又はシートを折り重ねて構成されるシート折重体を単位構造物として、複数の単位構造物が積層されており、複数の単位構造物が糸かがりによって綴じられた構造とされる。下固め部は、ポリ酢酸ビニルを主成分として含有する水性エマルジョン接着剤の硬化物によって構成され、本体部における糸かがりによって綴じられた箇所に塗工されて、本体部を下固めする。背固め部は、スチレン系熱可塑性エラストマーを主成分として含有する合成ゴム系ホットメルト接着剤の硬化物によって構成され、下固めされた箇所に塗工されて、本体部を背固めする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手帳であって、
シート又はシートを折り重ねて構成されるシート折重体を単位構造物として、複数の単位構造物が積層されており、前記手帳の背側となる位置において、前記複数の単位構造物が糸かがりによって綴じられた構造とされる本体部と、
ポリ酢酸ビニルを主成分として含有する水性エマルジョン接着剤の硬化物によって構成され、前記本体部における前記糸かがりによって綴じられた箇所に塗工されて、前記本体部を下固めする下固め部と、
スチレン系熱可塑性エラストマーを主成分として含有する合成ゴム系ホットメルト接着剤の硬化物によって構成され、下固めされた箇所に塗工されて、前記本体部を背固めする背固め部と、
第1面状部分、第2面状部分及び第3面状部分が当該順序で連設され、前記第1面状部分で前記手帳の表表紙を構成し、前記第2面状部分で前記手帳の背表紙を構成し、前記第3面状部分で前記手帳の裏表紙を構成する表紙部と、
を備える手帳。
【請求項2】
請求項1に記載の手帳であって、
前記第2面状部分と前記下固め部との間には、前記背固め部を構成する前記合成ゴム系ホットメルト接着剤の硬化物以外には、前記本体部における前記糸かがりによって綴じられた箇所を補強可能な補強材が存在しない構造とされている、
手帳。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の手帳であって、
前記下固め部、前記背固め部及び前記第2面状部分は、前記手帳が開かれる際に、前記複数の単位構造物の変位に追従して変形可能な程度の柔軟性を有する、
手帳。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の手帳であって、
前記背固め部は、再剥離可能かつ再粘着可能な自己粘着性を有する、
手帳。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の手帳であって、
前記複数の単位構造物には、それぞれが前記シート折重体に相当する複数の折丁が含まれ、さらに、
前記複数の折丁を積層方向両側から挟む位置に積層される表見返し及び裏見返しを備え、
前記第1面状部分は前記表見返しに貼り付けられ、前記第3面状部分は前記裏見返しに貼り付けられている、
手帳。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、手帳に関する。
【背景技術】
【0002】
製本時の綴じ工程としては、糸かがり綴じや無線綴じが知られている。糸かがり綴じの場合は、積層されたシートの背が糸で綴じられ、その背に接着剤が塗工されて下固めが行われ、さらに、和紙及び寒冷紗が接着剤で貼り付けられて背固めが行われる。一方、無線綴じの場合は、積層されたシートの背に製本用ホットメルト接着剤が塗工され、これにより、積層されたシートの背が綴じられるとともに、背固めも完了する。
【0003】
製本用ホットメルト接着剤としては、EVA系ホットメルト接着剤及びPUR系ホットメルト接着剤が知られている。EVAは、Ethylene Vinyl Acetateの略称である。PURは、Poly Urethane Reactiveの略称である。例えば、下記特許文献1の実施例1,2には、PUR系ホットメルト接着剤の利用例が挙げられ、下記特許文献1の比較例1,2には、EVA系ホットメルト接着剤の利用例が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-32718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件発明者らは、手帳の見開き性を改善可能な技術について検討を重ねている。しかし、上述のような従来技術には、それぞれ改善の余地が残されている。
具体的には、上記糸かがり綴じの場合、和紙及び寒冷紗の貼り付け箇所(以下、単に貼付箇所ともいう。)は、和紙や寒冷紗が貼り付けられていない箇所(以下、単に非貼付箇所ともいう。)に比べ、相応に曲げ剛性が高くなる。そのため、手帳の見開き性に悪影響を及ぼすことがある。
【0006】
また、和紙及び寒冷紗が積層されると、貼付箇所と非貼付箇所との境界には、和紙及び寒冷紗の厚み分だけ段差が生じる。そのため、表紙用紙が比較的薄くて柔らかい場合には、上述の段差が表紙用紙側に転写されて手帳の見栄えに悪影響を及ぼすことがある。さらに、上述のような段差が形成されると、その段差のある箇所を境界として表紙用紙に折り目ができやすくなる等の問題がある。
【0007】
一方、上記無線綴じの場合は、上記糸かがり綴じ以上に見開き性が悪くなる。この点、上記特許文献1によれば、PUR系ホットメルト接着剤を利用すると、EVA系ホットメルト接着剤を利用する場合よりも、見開き性が良好になるとされている。しかし、PUR系ホットメルト接着剤を利用した場合であっても、糸かがり綴じレベルの見開き性を実現することは容易ではない。
【0008】
本開示の一局面においては、従来品以上に手帳の見開き性を改善可能な技術を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、手帳であって、本体部と、下固め部と、背固め部と、表紙部と、を備える。本体部は、シート又はシートを折り重ねて構成されるシート折重体を単位構造物として、複数の単位構造物が積層されており、手帳の背側となる位置において、複数の単位構造物が糸かがりによって綴じられた構造とされる。下固め部は、ポリ酢酸ビニルを主成分として含有する水性エマルジョン接着剤の硬化物によって構成され、本体部における糸かがりによって綴じられた箇所に塗工されて、本体部を下固めする。背固め部は、スチレン系熱可塑性エラストマーを主成分として含有する合成ゴム系ホットメルト接着剤の硬化物によって構成され、下固めされた箇所に塗工されて、本体部を背固めする。表紙部は、第1面状部分、第2面状部分及び第3面状部分が当該順序で連設され、第1面状部分で手帳の表表紙を構成し、第2面状部分で手帳の背表紙を構成し、第3面状部分で手帳の裏表紙を構成する。
【0010】
このように構成される手帳によれば、本体部においては、複数の単位構造物が糸かがりによって綴じられた構造とされる。しかも、背固め部が、スチレン系熱可塑性エラストマーを主成分として含有する合成ゴム系ホットメルト接着剤の硬化物によって構成される。そのため、和紙及び寒冷紗が接着剤で接着される従来の糸かがり綴じ構造や、PUR系ホットメルト接着剤やEVA系ホットメルト接着剤を利用する無線綴じ構造に比べ、背固め部が柔軟に変形可能となる。これにより、手帳の見開き性を従来品以上に良好にすることができる。
【0011】
無線綴じで用いられる製本用ホットメルト接着剤(PUR系ホットメルト接着剤やEVA系ホットメルト接着剤。)には、硬化物となった後に、硬化物単独で背の強度を維持できるような接着強度や靱性が要求される。そのため、本開示の手帳で採用している合成ゴム系ホットメルト接着剤ほど低硬度かつ低剛性かつ高柔軟性の硬化物にはならず、PUR系ホットメルト接着剤やEVA系ホットメルト接着剤を採用している限り、本開示の手帳ほど見開き性を良好にすることは困難である。
【0012】
この点、本開示の手帳では、複数の単位構造物が糸かがりによって綴じられた構造とされるので、この糸かがり構造によって背の強度がある程度担保される。したがって、本開示の手帳の場合、背固め部には無線綴じの場合ほど靱性が要求されず、それ故、上述のような合成ゴム系ホットメルト接着剤が採用可能となる。
【0013】
このような合成ゴム系ホットメルト接着剤の硬化物で背固め部を構成すれば、和紙及び寒冷紗のような補強材を設けなくても背固め部を構成することができる。すなわち、第2面状部分と下固め部との間には、背固め部を構成する合成ゴム系ホットメルト接着剤の硬化物以外には、本体部における糸かがりによって綴じられた箇所を補強可能な補強材が存在しない構造とされていてもよい。
【0014】
また、本開示の手帳で採用した柔軟性の高い背固め部の特性を活かす観点からは、下固め部及び表紙部の第2面状部分も柔軟に変形するとよい。すなわち、本開示の一態様では、下固め部、背固め部及び第2面状部分は、手帳が開かれる際に、複数の単位構造物の変位に追従して変形可能な程度の柔軟性を有してもよい。
【0015】
また、本開示の一態様では、背固め部は、再剥離可能かつ再粘着可能な自己粘着性を有してもよい。これにより、例えば本体部と表紙部とを離間させる向きに過大な力が作用したことに起因して、表紙部と背固め部との間又は背固め部と下固め部との間で両者が剥離したとしても、その後に剥離の原因が解消されれば、剥離箇所が再粘着する。したがって、手帳の背表紙が本体部側から浮いた状態になるのを抑制することができる。
【0016】
また、本開示の一態様では、複数の単位構造物には、それぞれがシート折重体に相当する複数の折丁が含まれてもよい。さらに、複数の折丁を積層方向両側から挟む位置に積層される表見返し及び裏見返しを備えてもよい。第1面状部分は表見返しに貼り付けられ、第3面状部分は裏見返しに貼り付けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1Aは手帳を左前上方から見た斜視図である。図1Bは手帳を右後下方から見た斜視図である。
図2図2は本体部、下固め部、背固め部、及び表紙部の概略的な構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、上述の手帳について、例示的な実施形態を挙げて説明する。
[手帳の構成]
図1A図1B及び図2に示すように、手帳1は、本体部3と、下固め部5と、背固め部7と、表紙部9と、を備える。本体部3は、複数の単位構造物が積層されており、手帳1の背側となる位置(図中で言う左端。)において、複数の単位構造物が糸かがりによって綴じられた構造とされる。本実施形態の場合、複数の単位構造物としては、図2に示すように、複数(本実施形態の場合は11折。)の折丁11が含まれる。
【0019】
折丁11は、元になるシートを八つ折りにして(すなわち、二つ折りを3回繰り返して)、8枚16ページ分の本文用紙が折り重ねられた状態とされた積層構造物(本開示でいうシート折重体の一例に相当。)である。複数の折丁11には、それぞれにあらかじめ所定の内容の印刷が施され、複数の折丁11は、手帳1を構成する上で必要となる所定の順序で並ぶように丁合されている。
【0020】
複数の折丁11を積層方向両側から挟む位置には、表見返し13及び裏見返し15が積層されている。表見返し13及び裏見返し15は、元になるシートを二つ折りにした構造物である。本実施形態の場合、複数の折丁11が糸かがりによって綴じられてから(但し、糸は図示略。)、表見返し13が接着剤17Aによって折丁11に接着され、裏見返し15が接着剤17Bによって折丁11に接着されている。
【0021】
下固め部5は、ポリ酢酸ビニルを主成分として含有する水性エマルジョン接着剤の硬化物によって構成されている。下固め部5は、本体部3における糸かがりによって綴じられた箇所に塗工されて、本体部3を下固めする。
【0022】
背固め部7は、スチレン系熱可塑性エラストマーを主成分として含有する合成ゴム系ホットメルト接着剤の硬化物によって構成される。背固め部7は、下固めされた箇所に塗工されて、本体部3を背固めする。背固め部7が形成されると、手帳1の背が補強され、手帳1の開閉時等に加わる力で手帳1の背が割れるのを抑制することができる。従来の糸かがり綴じ構造の場合、背固め部7としては、和紙及び寒冷紗を貼り付けて構成するのが一般的であったが、本実施形態においては、和紙及び寒冷紗に代えて、スチレン系熱可塑性エラストマーを主成分として含有する合成ゴム系ホットメルト接着剤が塗工される。背固め部7の平均厚みは、下固め部5の平均厚みよりも厚くされ、両者の比は6:4程度にされている。
【0023】
表紙部9は、第1面状部分21、第2面状部分22及び第3面状部分23が当該順序で連設され、第1面状部分21で手帳1の表表紙を構成し、第2面状部分22で手帳1の背表紙を構成し、第3面状部分23で手帳1の裏表紙を構成する。上述の表見返し13は、接着剤17Cによって表紙部9の第1面状部分21に接着され、裏見返し15は、接着剤17Dによって表紙部9の第3面状部分23に接着されている。
【0024】
[合成ゴム系ホットメルト接着剤の詳細]
次に、背固め部7を構成する合成ゴム系ホットメルト接着剤について、更に詳細に説明する。本実施形態でいう合成ゴム系ホットメルト接着剤は、主成分となる合成ゴムとして、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有し、更に粘着付与樹脂、及び可塑剤等が配合された組成物である。合成ゴム系ホットメルト接着剤の主成分となるスチレン系熱可塑性エラストマーについては特に限定されないが、代表的な例としては、例えば、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体)、SIS(スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体)、SEBS(スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体)、SEPS(スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体)等を挙げることができる。
【0025】
このような合成ゴム系ホットメルト接着剤は、加熱により溶融させて塗工されたあと、その塗工物が冷却されて硬化物となると、極めて低硬度で、高い柔軟性がある硬化物になる。また、優れた自己粘着性(すなわち、タック性。)を有する硬化物となり、その自己粘着性により、再剥離可能かつ再粘着可能な硬化物となる。このような低硬度かつ高柔軟性の硬化物によって背固め部7が構成されれば、和紙及び寒冷紗が貼り付けられる場合に比べ、背固め部7周辺の曲げ剛性を低くすることができ、手帳1の見開き性を改善することができる。
【0026】
また、従来の糸かがり綴じ構造では、和紙及び寒冷紗が背の両端からはみ出して表表紙側及び裏表紙側へと回り込む範囲(すなわち、断面コの字状となる範囲。)に貼られる。表表紙側及び裏表紙側における和紙及び寒冷紗の貼付箇所と非貼付箇所との境界には、和紙及び寒冷紗の厚み分だけ段差が生じる。そのため、表紙部9が比較的薄くて柔らかい用紙で構成される場合には、上述の段差が表紙部9に転写されて手帳1の見栄えに悪影響を及ぼすことがある。さらに、上述のような段差が形成されると、その段差のある箇所を境界として表紙部9を構成する用紙に折り目ができやすくなる等の問題がある。
【0027】
この点、本実施形態の場合、背固め部7は、本体部3の背側に塗工され、その硬化物は表表紙側及び裏表紙側へ大きくはみ出さないように構成することができる。しかも、上述の通り、背固め部7を構成する硬化物は、極めて低硬度かつ高柔軟性なので、仮に背固め部7を構成する硬化物が僅かに表表紙側及び裏表紙側へはみ出したとしても、表紙部9を形成する用紙に形状が転写されるほどの硬い段差が生じることはない。それ故、そのような段差のある箇所が生じ無ければ、そのような箇所を境界として表紙部9に折り目ができることもない。
【0028】
さらに、本実施形態の場合、背固め部7を構成するホットメルト接着剤は、スチレン系熱可塑性エラストマーを主成分として含有する合成ゴム系ホットメルト接着剤である。そのため、従来の無線綴じ製本で利用されていたPUR系ホットメルト接着剤やEVA系ホットメルト接着剤とも異なり、遙かに柔軟性の高い背固め部7を形成することができ、これにより、手帳1の見開き性が改善される。
【0029】
無線綴じで用いられる製本用ホットメルト接着剤には、硬化物となった後に、硬化物単独で背の強度を維持できるような接着強度や靱性が要求される。そのため、合成ゴム系ホットメルト接着剤ほど低硬度かつ低剛性かつ高柔軟性の硬化物を得ることが困難であり、PUR系ホットメルト接着剤やEVA系ホットメルト接着剤を採用している限り、本実施形態の手帳1ほど見開き性を良好にすることは困難である。
【0030】
この点、本実施形態では、複数の折丁11が糸かがりによって綴じられた構造とされるのを前提にしているので、糸かがり構造によって背の強度がある程度担保される。したがって、本実施形態の場合、背固め部7を構成するホットメルト接着剤には、無線綴じの場合ほど接着強度や靱性は要求されず、それ故、低硬度で高柔軟性の合成ゴム系ホットメルト接着剤を採用できる。これにより、和紙及び寒冷紗のような補強材を設けることなく、背固め部7を構成することができる。
【0031】
また、本実施形態において、下固め部5、背固め部7及び第2面状部分22は、手帳1が開かれる際に、複数の折丁11の変位に追従して変形可能な程度の柔軟性を有する。したがって、例えば、第2面状部分22が殆ど湾曲しないような硬質な背表紙を備える場合とは異なり、背固め部7の柔軟性を活かして手帳1の見開き性を良好にすることができる。
【0032】
さらに、本実施形態の手帳1において、背固め部7は、再剥離可能かつ再粘着可能な自己粘着性を有している。そのため、例えば本体部3と表紙部9とを離間させる向きに過大な力が作用したことに起因して、表紙部9と背固め部7との間又は背固め部7と下固め部5との間で両者が剥離したとしても、その後に剥離の原因が解消されれば、剥離箇所が再粘着する。したがって、手帳1の背表紙が本体部3側から浮いた状態になるのを抑制することができる。
【0033】
[効果]
以上説明した通り、上記手帳1によれば、本体部3を糸かがり綴じで綴じるとともに、背固め部7をスチレン系熱可塑性エラストマーを主成分として含有する合成ゴム系ホットメルト接着剤の硬化物によって構成した。これにより、従来品以上に手帳1の見開き性を改善することができる。
【0034】
[手帳の製造方法]
次に、上記手帳1の製造方法について説明する。
まず、折り工程において、上述した11折りの折丁11が作成される。11折りの折丁11の元となるシートには、それぞれ手帳の本文部分16ページ分(=シート8枚×表裏2面分)に相当する印刷が施されている。このシートを八つ折りにすることにより、1つの折丁11が作成される。シートには、シートを八つ折りにした際に、各ページの向きと順序が適正になるように、各ページの内容が印刷されている。続いて、丁合工程において、11折りの折丁11は、向きを揃えられた所定の順序で積層される。
【0035】
続いて、糸綴じ工程においては、先の丁合工程で丁合された折丁11が、糸かがりによって綴じられる。続いて、見返し貼り工程においては、複数の折丁11を積層方向両側から挟む位置に、表見返し13及び裏見返し15が貼り付けられる。なお、表見返し13及び裏見返し15は、複数の折丁11とともに糸かがりで綴じられてもよい。また、表見返し13及び裏見返し15は、省略されてもよい。
【0036】
続いて、下固め工程では、糸かがり綴じ済みとされた複数の折丁11に対し、ポリ酢酸ビニルを主成分として含有する水性エマルジョン接着剤が塗工される。具体的な塗工方法は限定されないが、一例を挙げれば、塗工対象をクランプで保持して搬送経路に沿って移動させ、その搬送経路の途中に配設されたローラーで塗工対象に水性エマルジョン接着剤を塗工すればよい。この場合、例えば、塗工対象は、背側が下に向けられた状態で水平な搬送経路に沿って移動し、その移動の途中で搬送経路の下方に配置されるローラーの外周面に接触して、水性エマルジョン接着剤が塗工されるようになっていればよい。
【0037】
水性エマルジョン接着剤が塗工されたあとは、塗膜を加熱して乾燥させることにより、水性エマルジョン接着剤の硬化物が形成される。加熱方法については特に限定されないが、例えば、電熱線等による抵抗加熱、マイクロ波等による高周波加熱、ガスや油による燃焼加熱などを利用すればよく、これらを2つ以上組み合わせてもよい。また、加熱以外には、ブロワーによる風乾を行ってもよい。
【0038】
本実施形態の場合、下固め工程で使用される下固め機は、バーナーを利用した燃焼加熱による乾燥を実施してから、更に高周波加熱によって追加乾燥を実施するように構成されている。この下固め機において、バーナーによる乾燥工程は、次の工程で背固め用の和紙を貼付することを前提に設計されている。和紙の貼付が行われる場合、下固め部5は必ずしも高度に乾燥していなくても足り、むしろ、若干半乾き状態である方が和紙を貼付する上で好都合な場合もある。
【0039】
これに対し、本実施形態の場合は、下固めの後工程で和紙が貼付されることはない。そのため、下固め部5が十分に乾燥していない場合、下固め工程を終えた半製品がスタッカー上に集積された際に、ブロッキングが発生して半製品同士がくっつく等、作業効率が低下する要因になり得る。そこで、本実施形態では、高周波加熱によって追加乾燥を実施して、下固め部5を高度に乾燥させ、これにより、下固め後の半製品にブロッキングが発生するのを抑制している。
【0040】
水性エマルジョン接着剤の硬化物が形成されると、表見返し13及び裏見返し15は複数の折丁11とともに下固めされた状態になる。このような下固め部5が形成されると、複数の折丁11は下固め部5によって仮止めされた状態となる。これにより、製本工程の途中で、糸かがり部分に緩みや解れが生じるのを抑制でき、また、隣り合う位置にある折丁11間に隙間が生じるのを抑制できる。
【0041】
続いて、背固め工程においては、下固め済みとされた構造物が塗工対象とされる。背固め部7についても、具体的な塗工方法は限定されないが、一例を挙げれば、下固めの場合と同様に、塗工対象をクランプで保持して搬送経路に沿って移動させ、その搬送経路の途中に配設されたローラーで塗工対象に合成ゴム系ホットメルト接着剤を塗工すればよい。この場合、例えば、塗工対象は、背側が下に向けられた状態で水平な搬送経路に沿って移動し、その移動の途中で搬送経路の下方に配置されるローラーの外周面に接触して、合成ゴム系ホットメルト接着剤が塗工されるようになっていればよい。
【0042】
続いて、表紙貼り工程において、表見返し13及び裏見返し15に対し表紙部9が貼り付けられる。その後、断裁工程において、手帳1の背となる箇所以外の三方を断裁することにより、所期の手帳1を得ることができる。断裁工程においては、断裁用の刃物に対して定期的又は不定期に潤滑剤が塗布される。本実施形態の場合、潤滑剤としては、シリコーンオイルが利用される。これにより、自己粘着性のある背固め部7であっても、スムーズに切断することができ、背固め部7を構成する合成ゴム系ホットメルト接着剤が断裁用の刃物に付着するのを抑制することができる。
【0043】
[他の実施形態]
以上、手帳について、例示的な実施形態を挙げて説明したが、上述の実施形態は本開示の一態様として例示されるものにすぎない。すなわち、本開示は、上述の例示的な実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内において、様々な形態で実施することができる。
【0044】
例えば、上記実施形態では、シート折重体である折丁を単位構造物として、複数の単位構造物を積層して本体部3を構成する例を示したが、本体部を構成するために積層される単位構造物は、シート折重体に限定されない。例えば、折り曲げられていないシートを単位構造物として、複数のシートを積層して本体部を構成してもよい。あるいは、シートとシート折重体が混在するように積層して本体部を構成してもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、シートを八つ折りにして折丁を構成していたが、折丁を構成する際の折数は八つ折りに限定されず、二つ折りや四つ折りの折丁、あるいは八つ折りよい多い折数の折丁であってもよく、これら折り数の異なる折丁が混在していてもよい。
【0046】
なお、上記実施形態で例示した1つの構成要素によって実現される複数の機能を、複数の構成要素によって実現してもよい。上記実施形態で例示した1つの構成要素によって実現される1つの機能を、複数の構成要素によって実現してもよい。上記実施形態で例示した複数の構成要素によって実現される複数の機能を、1つの構成要素によって実現してもよい。上記実施形態で例示した複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現してもよい。上記実施形態で例示した構成の一部を省略してもよい。上記実施形態のうち、1つの実施形態で例示した構成の少なくとも一部を、当該1つの実施形態以外の上記実施形態で例示した構成に対して付加又は置換してもよい。
【0047】
[本明細書が開示する技術思想]
[項目1]
手帳であって、
シート又はシートを折り重ねて構成されるシート折重体を単位構造物として、複数の単位構造物が積層されており、前記手帳の背側となる位置において、前記複数の単位構造物が糸かがりによって綴じられた構造とされる本体部と、
ポリ酢酸ビニルを主成分として含有する水性エマルジョン接着剤の硬化物によって構成され、前記本体部における前記糸かがりによって綴じられた箇所に塗工されて、前記本体部を下固めする下固め部と、
スチレン系熱可塑性エラストマーを主成分として含有する合成ゴム系ホットメルト接着剤の硬化物によって構成され、前記下固めされた箇所に塗工されて、前記本体部を背固めする背固め部と、
第1面状部分、第2面状部分及び第3面状部分が当該順序で連設され、前記第1面状部分で前記手帳の表表紙を構成し、前記第2面状部分で前記手帳の背表紙を構成し、前記第3面状部分で前記手帳の裏表紙を構成する表紙部と、
を備える手帳。
【0048】
[項目2]
項目1に記載の手帳であって、
前記第2面状部分と前記下固め部との間には、前記背固め部を構成する前記合成ゴム系ホットメルト接着剤の硬化物以外には、前記本体部における前記糸かがりによって綴じられた箇所を補強可能な補強材が存在しない構造とされている、
手帳。
【0049】
[項目3]
項目1又は項目2に記載の手帳であって、
前記下固め部、前記背固め部及び前記第2面状部分は、前記手帳が開かれる際に、前記複数の単位構造物の変位に追従して変形可能な程度の柔軟性を有する、
手帳。
【0050】
[項目4]
項目1から項目3までのいずれか1項に記載の手帳であって、
前記背固め部は、再剥離可能かつ再粘着可能な自己粘着性を有する、
手帳。
【0051】
[項目5]
項目1から項目4までのいずれか1項に記載の手帳であって、
前記複数の単位構造物には、それぞれが前記シート折重体に相当する複数の折丁が含まれ、さらに、
前記複数の折丁を積層方向両側から挟む位置に積層される表見返し及び裏見返しを備え、
前記第1面状部分は前記表見返しに貼り付けられ、前記第3面状部分は前記裏見返しに貼り付けられている、
手帳。
【符号の説明】
【0052】
1…手帳、3…本体部、5…下固め部、7…背固め部、9…表紙部、11…折丁、13…表見返し、15…裏見返し、17A,17B,17C,17D…接着剤、21…第1面状部分、22…第2面状部分、23…第3面状部分。
図1
図2