(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176380
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】脳機能レベルの層別化を支援するための方法、層別化装置、及び層別化プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094872
(22)【出願日】2023-06-08
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.FACEBOOK
2.TWITTER
3.INSTAGRAM
4.LINE
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509152079
【氏名又は名称】株式会社ヘルスケアシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細江 有美
(72)【発明者】
【氏名】枡屋 宇洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晋平
(72)【発明者】
【氏名】角田 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 周平
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045CA25
2G045CB03
2G045DA19
2G045FB01
2G045FB03
2G045FB06
2G045JA03
(57)【要約】
【課題】
被検者の脳機能レベルを層別化することを一課題とする。
【解決手段】
被検者の脳機能レベルの層別化を支援するための方法であって、前記方法は、被検者から採取した尿または血液検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することと、脳機能レベルに応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索することと、前記測定値が属する基準範囲に対応する脳機能レベルを被検者の脳機能レベルとして示唆する、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の脳機能レベルの層別化を支援するための層別化装置であって、前記層別化装置は、処理部を含み、前記処理部は、被検者から採取した尿または血液検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得し、脳機能レベルに応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索し、前記測定値が属する基準範囲に対応する脳機能レベルのラベルを被検者の脳機能レベルを示すラベルとして出力する、層別化装置。
【請求項2】
さらに、前記測定値が属する基準範囲に対応するジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを出力する、請求項1に記載の層別化装置。
【請求項3】
コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、被検者から採取した尿または血液検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得するステップと、脳機能レベルに応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索するステップと、前記測定値が属する基準範囲に対応する脳機能レベルのラベルを被検者の脳機能レベルを示すラベルとして出力するステップと、を実行させる、被検者の脳機能レベルの層別化を支援するための層別化プログラム。
【請求項4】
さらに、前記測定値が属する基準範囲に対応するジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを出力するステップを実行させる、
請求項3に記載の層別化プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳機能レベルの層別化を支援するための方法、層別化装置、及び層別化プログラムが開示される。
【背景技術】
【0002】
脳機能の低下は主に加齢に伴って生じることが多く、学習障害、記憶障害をはじめとし、言語障害、不安障害、不眠、意欲低下など様々な症状を併発する。医療の発展と共に平均寿命の延伸する現代において脳機能低下に対する予防や対策は、健康寿命を延伸のために重要であるとされている。
【0003】
脳機能障害の診断は主に、全く異常が見られない「健常者」、認知機能の低下により日常生活に支障をきたす「認知症」、認知機能低下は認められるものの日常生活に支障はない「軽度認知障害(MCI)」の3つに大別される。認知症については根本的な治療法はなく、症状緩和や進行抑制が主な治療となる。したがって、MCI段階での早期発見、ひいては「未病」段階での予防が重要となる。
【0004】
現在のところ、脳機能の評価には、HSD-R(長谷川式簡易知能評価スケール)やMMSE (Mini Mental State Examination)等の神経心理学検査とCTやMRI等の脳画像検査が用いられている。神経心理学検査では問診を行う必要があるため、健康診断等の一般的な検査項目に含めることは困難である。問診の場合、被検者自身が事実と異なる回答を行うことも考えられ、客観性を担保できないという問題もある。また脳画像検査は被検者に時間・費用的な負担がかかることは否めず、予防や早期発見という観点からはより迅速・低コストであり、科学的根拠のある検査方法が望ましい。
【0005】
ジアミンは、2つのアミンを有する直鎖の脂肪酸炭化水素化合物である。また、ポリアミンは、3つ以上のアミンを有する直鎖の脂肪酸炭化水素化合物である。ジアミン、及び/又はポリアミンの作用機序は、核酸やタンパク質の合成、酵素活性の調節に広く関与していることが知られている(非特許文献1)。
また、非特許文献2により癌患者では尿中へのポリアミン排泄量が増加することが報告されており、癌の早期診断マーカーとして利用する検査手法が研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】酒井俊助他、泌尿器科紀要 (1986), 32(3): 343-350
【非特許文献2】Russell DH, et al. Nature New Biol. (1971) 233(39):144-145.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は被検者の尿または血液検体を用いて、被検者に時間的または費用的な負担をかけることなく、迅速で低コストに被検者の脳機能レベルを層別化することを一課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意研究の結果、尿または血液検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得すること、脳機能レベルに応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索すること、及び前記測定値が属する基準範囲に対応する脳機能レベルを被検者の脳機能レベルとして示唆することにより、迅速で低コストに被検者の脳機能レベルの層別化を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下の態様を含み得る。
項1.被検者の脳機能レベルの層別化を支援するための方法であって、前記方法は、被検者から採取した尿または血液検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することと、脳機能レベルに応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索することと、前記測定値が属する基準範囲に対応する脳機能レベルを被検者の脳機能レベルとして示唆する、方法。
項2.前記ジアミン、及び/又はポリアミンが、アセチル化体を含む、項1に記載の方法。
項3.前記測定値の取得が、酵素法により行われる、項1に記載の方法。
項4.前記測定値の取得が、Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay法、センサ法、高速液体クロマトグラフィー法、ガスクロマトグラフィー-質量分析法、液体クロマトグラフィー-質量分析法、又はキャピラリー電気泳動-質量分析法により行われる、項1に記載の方法。
項5.被検者のジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の提示を支援するための方法であって、前記方法は、被検者から採取した尿または血液検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することと、脳機能レベルに応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索することと、前記測定値が属する基準範囲に対応するジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを提示すること、
を含む、方法。
項6.被検者の脳機能レベルの層別化を支援するための層別化装置であって、前記層別化装置は、処理部を含み、前記処理部は、被検者から採取した尿または血液検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得し、脳機能レベルに応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索し、前記測定値が属する基準範囲に対応する脳機能レベルのラベルを被検者の脳機能レベルを示すラベルとして出力する、層別化装置。
項7.さらに、前記測定値が属する基準範囲に対応するジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを出力する、項6に記載の層別化装置。
項8.コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、被検者から採取した尿または血液検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得するステップと、脳機能レベルに応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索するステップと、前記測定値が属する基準範囲に対応する脳機能レベルのラベルを被検者の脳機能レベルを示すラベルとして出力するステップと、を実行させる、被検者の脳機能レベルの層別化を支援するための層別化プログラム。
項9.さらに、前記測定値が属する基準範囲に対応するジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを出力するステップを実行させる、
項8に記載の層別化プログラム。
項10.項1に記載の方法、又は項5に記載の方法を実施するための検査キットであって、前記検査キットは、ジアミン、及び/又はポリアミンを酸化する酸化酵素と、ペルオキシダーゼと、発色試薬を含む、検査キット。
項11.さらに、アシルポリアミンアミドヒドロラーゼを含む、項10に記載の検査キット。
項12.項5に記載の方法を実施するための検査キットであって、前記検査キットは、ジアミン、及び/又はポリアミンを酸化する酸化酵素と、ペルオキシダーゼと、発色試薬を含む、検査キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被検者の脳機能レベルを迅速に、かつ低コストで層別化することができる。また、本発明によれば、被検者の脳機能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】層別化プログラム3042aの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】提示プログラム3042bの処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.脳機能レベルの層別化を支援するための方法
本発明のある実施態様は、被検者の脳機能レベルの層別化を支援するための方法に関する。
【0014】
本発明の方法は、被検者から採取した尿または血液検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することと、脳機能レベルに応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索することを含む。
【0015】
脳機能の低下は加齢に伴って生じることが多く、学習障害、記憶障害をはじめとし、言語障害、不安障害、不眠、意欲低下など様々な症状を併発する。脳機能低下を伴う代表的な疾患は認知症であるが、その前段階として軽度認知障害(MCI)がある。MCIは健常者と認知症の中間であり、認知機能低下は認められるものの日常生活に支障はない状態のことを指す。疾患率は65歳以上の10-20%であり、未治療であればその約70%が認知症に移行することが報告されている(鈴木裕、日大医誌 (2012) 71(6):385-389)。
【0016】
MCIの診断基準は、例えば、Petersenらの評価基準(山本泰司、精神経誌(2011)113巻6号)にしたがえば、1. 本人または家族(介護者)による物忘れの訴えがある 2. 加齢の影響だけでは説明できない記憶障害の存在3. 日常生活能力は自立 4. 全般的な認知機能は正常 5. 認知症は認めないとなっている。認知症の治療はより早期段階で開始することにより効果が出やすく、MCI段階での早期発見、治療により認知機能が改善、認知症への移行を止められることもある。以上からより一層早期発見や未病段階での予防の重要性が強調される。
【0017】
臨床現場で認知機能テストとして利用される神経心理学検査MMSEにおいて米国ADNI研究では27~30点:健常(MCIであることを否定するものではない)、24~26点:境界域(健常、MCI、認知症いずれかの可能性あり)、20~23点:早期認知症の疑いあり、の基準が設けられている。
【0018】
被検者は、脳機能低下を疑われていない者、脳機能低下を疑う者、及び脳機能が低下していると決定された者を含み得る。Pertersenらの評価基準において、MCIと判定された者は、脳機能低下を疑う者に該当しうる。Pertersenらの評価基準において、認知症と決定された者は、脳機能が低下していると判定された者に該当しうる。さらに、Pertersenらの評価基準において、健常または頑健であると決定された者は、脳機能低下を疑われていない者に該当し得る。被検者は、アルツハイマー病と診断された者でないことが好ましい。
【0019】
脳機能低下のリスクは、高齢者で高いため、被検者の年齢は、50歳以上であることがこのましく、60歳以上、70歳以上、又は80歳以上であることがさらに好ましい。
【0020】
本明細書において、ジアミンは、2つのアミンを有する直鎖の脂肪酸炭化水素化合物である。ポリアミンは、3つ以上のアミンを有する直鎖の脂肪酸炭化水素化合物である。ヒトの体内には、2種類のジアミンと2種類のポリアミンが存在する。また、ジアミン及びポリアミンには、それぞれのモノアセチル体、ジアセチル体等のアセチル化体を含み得る。ヒトの体内に存在するジアミンは、具体的にプトレシン、及びカダベリンである。ジアミンのアセチル化体として、アセチルプトレシン、アセチルカダベリン等を挙げることができる。ヒトの体内に存在するポリアミンは、具体的にスペルミジン、及びスペルミンである。それぞれのアセチル化ポリアミンとして、N1-アセチルスペルミジン、N8-アセチルスペルミジン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、アセチルスペルミン、N1,N12-ジアセチルスペルミン等を挙げることができる。ここで、一般的に、ジアミン、及びポリアミンは尿または血液検体中では、主としてアセチル化ポリアミンとして存在している。したがって、尿または血液検体を用いてジアミン又はポリアミンを測定する場合、アセチルプトレシン、アセチルカダベリン、N1-アセチルスペルミジン、N8-アセチルスペルミジン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、アセチルスペルミン、N1,N12-ジアセチルスペルミン等を標的とすることが好ましい。さらに、尿または血液検体を用いてジアミン又はポリアミンを測定する場合、アセチルプトレシン、N1-アセチルスペルミジン、N8-アセチルスペルミジン、N1,N8-ジアセチルスペルミジン、アセチルスペルミン、N1,N12-ジアセチルスペルミンを標的とすることが好ましい。
【0021】
ジアミン又はポリアミンの測定値を取得する検体は、尿または血液検体である。尿検体は、自然排尿された尿、又はカテーテル尿であってもよい。また尿検体は、早朝第一尿、随時尿、蓄尿であってもよい。好ましくは、自然排尿された早朝第一尿である。
【0022】
ジアミン、又はポリアミンの測定値は定法にしたがって取得することができる。ここで、測定値の取得には、被検者が訪問している施設内で測定して取得することに限られない。被検者の尿検体を他施設に送り、当該施設で測定し取得した測定値をデータとして、ネットワークや記憶媒体を介して、他のコンピュータ等から取得することを含む。
【0023】
例えば、ジアミン、又はポリアミンの測定方法として、酵素法、Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)法、センサ法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法等のクロマトグラフィー法、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)法、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)法、キャピラリー電気泳動-質量分析(CE-MS)法等の質量分析法等を挙げることができる。これらの方法は、公知である(例えば、文献:検査と技術 vol. 14 no.3 1986年3月)。
【0024】
酵素法は、例えば、各ジアミン、及び/又はポリアミンに酸化酵素を作用させて過酸化水素を発生させ、この過酸化水素をペルオキシダーゼの活性により酸化還元系発色試薬(以下、単に「発色試薬」とも呼ぶ)と反応させ、尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの量に応じた発色を得る。ジアミン、及び/又はポリアミンを酸化する酸化酵素として、プトレシンオキシダーゼ、ジアミンオキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、スペルミジンデヒドロゲナーゼ、ポリアミンオキシダーゼ等を挙げることができる(文献:THE CHEMICAL TIMES、No.3、1985)。プトレシンオキシダーゼとして、特公平2-60314号公報、特公平2-60315号公報に記載のプトレシンオキシダーゼを用いることが好ましい。ジアミンオキシダーゼとしては、ブタ腎臓由来やエンドウ実生由来の酵素を使用することができる。ポリアミンオキシダーゼとしては、Penicillium chrysogenum、Aspergillus terreus等のカビ由来;ラット肝臓由来の酵素を使用することができる。ここで、各酵素の名称は、慣用名であり、各酵素の基質特異性を表すものではない。例えば、プトレシンオキシダーゼは、ジアミンであるプトレシン及びカダベリンのみならず、ポリアミンである、スペルミジン、及びスペルミンを酸化することができる。
【0025】
ジアミン、又はポリアミンがアセチル化体である場合、ジアミンオキシダーゼ、又はポリアミンオキシダーゼを作用させる前に、アシルジアミンアミドヒドロラーゼ、又はアシルポリアミンアミドヒドロラーゼをアセチル化体に作用させ、脱アセチル化してから、ジアミン、及び/又はポリアミンを酸化する酸化酵素を作用させることが好ましい。脱アセチル化は、アシルジアミンアミドヒドロラーゼ、及びアシルポリアミンアミドヒドロラーゼのようなアシルアミンヒドロラーゼに代えて、酸処理によって行ってもよい。酸処理による脱アセチル化法は、公知である。
【0026】
ペルオキシダーゼは、過酸化水素による色原体の色素酸化反応を触媒できる限り制限されない。例えばペルオキシダーゼとして、過酸化水素と酸化還元系発色試薬との反応を触媒する酵素であれば、いかなる種類の酵素を用いてもよく、例えば植物由来、細菌由来、担子菌由来のペルオキシダーゼが挙げられる。これらの中でも、純度、入手の容易性、価格等の理由から、西洋ワサビ、イネ、大豆由来のペルオキシダーゼが好ましく、西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼがより好ましい。市販品としては、PEO-131(東洋紡製)、PEO-301(東洋紡製)、PEO-302(東洋紡製)等が好適に用いられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。
【0027】
本発明の生体成分測定法に用いられる酸化還元発色試薬としては、過酸化水素と反応して呈色するものであれば、いかなる種類の色素を用いてもよく、例えば水素供与体とカップラーの組合せが挙げられる。その使用量や添加の形態などについては特に限定されない。これらはいずれも、市販品などを入手することができる。
【0028】
水素供与体とカップラーを用いた代表例は、水素供与体とカップラーとをペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素によって酸化縮合させて色素を形成させるトリンダー(Trinder)法である。
【0029】
水素供与体は、水素を供与できる性質を有するものであれば、本発明の効果を奏する限り、特に限定されない。本発明の生体成分測定法においては、トリンダー法などに用いる水素供与体として、フェノール、フェノール誘導体、アニリン誘導体、ナフトール、ナフトール誘導体、ナフチルアミン、ナフチルアミン誘導体などが用いられる。このような水素供与体は、酸化発色試薬とも呼ばれている。
【0030】
たとえば、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-スルホプロピルアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5-ジメトキシアニリン、N-スルホプロピル-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-スルホプロピルアニリン、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-2,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-サクシニルエチレンジアミン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-アセチルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0031】
これら水素供与体はカップラーと組合せて用いることができる。
【0032】
本発明の生体成分測定に用いられるカップラーとしては、4-アミノアンチピリン(4AA)、アミノアンチピリン誘導体等のアミノアンチピリン系化合物;バニリンジアミンスルホン酸等のバニリンジアミンスルホン酸系化合物;メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)等のメチルベンズチアゾリノンヒドラゾン系化合物などが用いられる。アミノアンチピリン系化合物は夾雑物として4-ヒドロキシアンチピリンを含み得ることが想定される。
【0033】
酵素法として、上記以外にも、例えば、特開平1-174400号公報、及び特開平1-281099号公報に記載されている、ジアミン、及び/又はポリアミンに酸化酵素を作用させ、発生したアミノアルキルアルデヒドにNAD+又はNADP+の存在下でアミノアルキルアルデヒドデヒドロゲナーゼをさらに作用させて生成されるNADH又はNADPHを吸光度により測定する方法を挙げることができる。
【0034】
また、N1, N12-ジアセチルスペルミン、N1, N8-ジアセチルスペルミジンは、ELISA法でも検出が可能である。各キットは市販されている。ELISA法では、検出抗体に標識された酵素と、その発色基質との反応により尿または血液検体中のジアミン、又はポリアミンの量に応じた発色が得られる。
【0035】
酵素法、又はELISA法により得られた発色強度は、それ自体をジアミン、又はポリアミンの測定値として用いてもよい。あるいは、発色強度をジアミン、又はポリアミン毎に作成された検量線にあてはめ、ジアミン、又はポリアミンの量に換算し、この値をジアミン、又はポリアミンの測定値としてもよい。検量線は、各ジアミン、又はポリアミンの種類と含有量が公知である標準試料の発色強度と標準試料に含まれる各ジアミン、又はポリアミンの量により作成される。ジアミン、又はポリアミンの量は、単位容積あたりの質量、又は重量と表してもよく、単位容積あたりのジアミン、又はポリアミンのモル数で表してもよい。
酵素法、又はELISA法では発色基質に変えて、発光基質を使用してもよい。
【0036】
ジアミン、又はポリアミンの量をセンサで検出するセンサ法としては、例えば文献J. Mater. Chem. C, 2021, 9, 11690-11697 (DOI: 10.1039/D1TC01542G)に記載されているan extended gate-type organic thin-film transistor (OTFT)-based polyamine sensorを用いて、測定することができる。センサ法では、ジアミン、又はポリアミンの値は、電圧値に基づいて算出される。
【0037】
クロマトグラフィー法、又は質量分析法により、各ジアミン、又はポリアミンの量を定量する場合、尿または血液検体と標準試料からジアミン、又はポリアミンのスペクトルを得る。標準試料は、各ジアミン、又はポリアミンの含有量が公知の試料である。次に、スペクトルから、尿または血液検体の各ジアミン、又はポリアミンのピーク面積と、標準試料中に含まれる各ジアミン、又はポリアミンのピーク面積を求める。標準試料中のジアミン、又はポリアミンのピーク面積は、標準試料中に含まれる各ジアミン、又はポリアミンの量を反映するため、尿または血液検体中の各ジアミン、及び/又はポリアミンのピーク面積と、それぞれのジアミン、又はポリアミンと同じジアミン、又はポリアミンを含む標準試料のピーク面積から、尿または血液検体中の各ジアミン、又はポリアミンの量を算出することができる。この場合、ジアミン、又はポリアミンの測定値は、ピーク面積であってもよく、ピーク面積をポリアミン毎に作成された検量線にあてはめ、ジアミン、又はポリアミンの量に換算し、この値をポリアミンの測定値としてもよい。検量線は、各ジアミン、又はポリアミンの種類と含有量が公知である標準試料のピーク面積と標準試料に含まれる各ジアミン、又はポリアミンの量により作成される。
【0038】
次に、尿または血液検体中のジアミン、又はポリアミンの測定値が属する基準範囲を検索する。測定値が属する基準範囲を検索することは、あらかじめ脳機能レベルに応じて設定された複数の基準範囲それぞれに、被検者の測定値を照合することを意図する。例えば、脳機能レベルをMMSEテスト(J Psychiatr Res. 1975 Nov;12(3):189-98. doi: 10.1016/0022-3956(75)90026-6.)の得点に基づいて分類する場合、基準範囲は、健常、境界域、早期認知症の疑いありの3つのカテゴリーについて設定されることとなる。基準範囲は、健常に分類された対象者群、境界域に分類された対象者群、早期認知症の疑いありに分類された対象者群のそれぞれに属する対象者から採取された尿または血液検体中のジアミン、又はポリアミンの測定値に基づいて設定される。基準範囲は、それぞれのカテゴリーにおいて取得された測定値の群に基づいて、例えば、ハザード比、信頼区間、オッズ比等から設定することができる。あるいは、それぞれのカテゴリーの測定値の群から算出した中央値と四分位範囲から基準範囲を決定してもよい。あるいは、それぞれのカテゴリーの測定値の群から算出された平均値と、標準偏差(SD)、分散(CV)等から基準範囲を設定してもよい。
【0039】
検索の結果、測定値が属する基準範囲が確定した場合、前記測定値が属する基準範囲に対応する脳機能レベルが被検者の脳機能レベルであると示唆される。
【0040】
取得したジアミン、又はポリアミンの測定値は、ジアミン、又はポリアミンの測定値を採取したときの被検者の尿検体中のクレアチニン濃度、24 時間尿クレアチニン排泄量により補正を行うことが好ましい。また、24 時間尿クレアチニン排泄量を 1 日 1gとしてジアミン、又はポリアミンの測定値を補正してもよい。補正を行う場合、基準範囲もまた、補正後のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値に基づいて決定されていることが好ましい。尿検体中のクレアチニン濃度は、ヤッフェ法、酵素法等で測定可能である。
【0041】
2.ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の提示を支援するための方法
本発明のある実施形態は、被検者のジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の提示を支援するための方法に関する。
【0042】
前記方法は、被検者から採取した尿または血液検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することと、脳機能レベルに応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索することと、前記測定値が属する基準範囲に対応するジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを提示すること、を含む。
【0043】
被検者から採取した尿または血液検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することと、脳機能レベルに応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索することに関する説明は、上記1.の説明をここに援用する。
【0044】
本実施形態では、さらに、前記複数の基準範囲に対応してあらかじめ設定された、ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを提示する。推奨レベルは、例えば、脳機能レベルをMMSEテストの得点に基づいて分類する場合、健常、境界域、早期認知症の疑いありの3つのカテゴリーについて設定する。前記測定値が、健常の基準範囲に属する場合には、例えば、推奨レベルとして、「ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取を推奨する」ことを示すラベルを提示する。前記測定値が、境界域の基準範囲に属する場合には、例えば、推奨レベルとして、「ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取を強く推奨する」ことを示すラベルを提示する。前記測定値が、早期認知症の疑いありの基準範囲に属する場合には、例えば、推奨レベルとして、「ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取を非常に強く推奨する」ことを示すラベルを提示する。これらのラベルは、テキストであってもよく、記号や、数値であってもよい。また、基準範囲に応じて、より具体的にジアミン、及び/又はポリアミンの1日あたりの摂取量を提示してもよい。
【0045】
本実施形態の別形態は、脳機能低下を疑われていない被検者、脳機能低下を疑う被検者は、又は脳機能が低下していると決定された被検者に対して、ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取が有効であること示唆する方法に関する。脳機能低下を疑われていない被検者、脳機能低下を疑う被検者は、又は脳機能が低下していると決定された被検者から採取した尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することと、前記測定値が基準値以下であるとき、ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取が有効であることを示唆すること、を含む。例えば、対照者は、50歳以上、60歳以上、70歳以上、又は80歳以上であることが好ましい。脳機能低下を疑う被検者は、又は脳機能が低下していると決定された被検者は、上述した評価基準に基づいて脳機能低下を疑う被検者は、又は脳機能が低下していると決定された被検者である。
【0046】
ジアミン、及び/又はポリアミンの測定値の基準値として、前記測定値の高値群と低値群を識別可能な値を選択することができる。基準値は、対照者の尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値の群から算出できる。例えば、対照者の尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値の群から算出したハザード比、信頼区間、オッズ比等から設定することができる。あるいは、例えば対照者の尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値の群から算出した中央値と四分位範囲から基準範囲を決定してもよい。あるいは、それぞれのカテゴリーの測定値の群から算出された平均値と、標準偏差(SD)、分散(CV)等から決定できる。対照者は、脳機能低下を生じうる可能性のある年齢層に該当する者である。例えば、対照者は、50歳以上、60歳以上、70歳以上、又は80歳以上であることが好ましい。
【0047】
3.脳機能レベルの層別化を支援するための層別化装置
本発明のある実施形態は、被検者の脳機能レベルの層別化を支援するための層別化装置30(以下、単に「層別化装置30」とも呼ぶに関する。
図1を用いて層別化装置30のハードウエア構成について説明する。
【0048】
層別化装置30は、入力デバイス311と、出力デバイス312と、メディアドライブ313とに接続されていてもよい。また、層別化装置30は分析装置90と有線又は無線のネットワークにより通信可能に接続され脳機能レベルの進行度を層別化するための層別化システム3000を構成してもよい。分析装置90は、吸光度計、マイクロプレートリーダ、質量分析装置等でありうる。
【0049】
層別化装置30において、処理部301と、メモリ302と、ROM(read only memory)303と、記憶デバイス304と、通信インタフェース(I/F)305と、入力インタフェース(I/F)306と、出力インタフェース(I/F)307と、メディアインターフェース(I/F)308は、バス309によって互いにデータ通信可能に接続されている。メモリ302と記憶デバイス304とを合わせて、単に記憶部と呼ぶこともある。記憶部は、前記測定値や基準値を揮発性に、又は不揮発性に記憶する。
【0050】
処理部301は、層別化装置30のCPUであり、演算装置ともいう。処理部301は、GPUと協働してもよい。処理部301が、記憶デバイス304又はROM303に記憶されているオペレーティングシステム(OS)3041と協働して後述する疾患の情報の層別化プログラム3042a(以下、単に「層別化プログラム3042a」と呼ぶこともある)を実行し、取得されるデータの処理を行うことにより、コンピュータが層別化装置30として機能する。
【0051】
ROM303は、処理部301により実行される層別化プログラム3042a及びこれに用いるデータが記録されている。処理部301はMPU101としてもよい。ROM303は、層別化装置30の起動時に、処理部301によって実行されるブートプログラムや層別化装置30のハードウエアの動作に関連するプログラムや設定を記憶する。
【0052】
メモリ302は、ROM303及び記憶デバイス304に記録されている層別化プログラム3042aの読み出しに用いられる。また、メモリ302は、処理部301がこれらの層別化プログラム3042aを実行する時の作業領域として利用される。
【0053】
記憶デバイス304は、ハードディスク等によって構成される。記憶デバイス304には、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムなどの、処理部301に実行させるための種々の層別化プログラム3042a及び層別化プログラム3042aの実行に用いる各種設定データが記憶されている。具体的には、基準範囲データベース(DB)DB2を不揮発性に記憶する。
【0054】
通信I/F305は、処理部301の制御下で、分析装置90又は他の外部機器からのデータを受信し、必要に応じて層別化装置30が保存又は生成する情報を、分析装置90又は外部に送信又は表示する。通信I/F305は、ネットワークを介して分析装置90又は他の外部機器と通信を行ってもよい。
【0055】
入力I/F306は、入力デバイス311から文字入力、クリック、音声入力等を受け付ける。受け付けた入力内容は、メモリ302又は記憶デバイス304に記憶される。
【0056】
入力デバイス311は、タッチパネル、キーボード、マウス、ペンタブレット、マイク等から構成され、層別化装置30に文字入力又は音声入力を行う。入力デバイス311は、層別化装置30の外部から接続されても、層別化装置30と一体となっていてもよい。
【0057】
出力I/F307は、処理部301が生成した情報を出力デバイス312に出力する。出力I/F307は、処理部301が生成し、記憶デバイス304に記憶した情報を、出力デバイス312に出力する。
【0058】
出力デバイス312は、例えばディスプレイ、プリンター等で構成され、分析装置90から送信される測定結果及び層別化装置30における各種操作ウインドウ、分析結果等を表示する。
【0059】
メディアI/F308は、メディアドライブ313に記憶された例えばアプリケーションソフト等を読み出す。読み出されたアプリケーションソフト等は、メモリ302又は記憶デバイス304に記憶される。また、メディアI/F308は、処理部301が生成した情報をメディアドライブ313に書き込む。メディアI/F308は、処理部301が生成し、記憶デバイス304に記憶した情報を、メディアドライブ313に書き込む。
【0060】
メディアドライブ313は、フレキシブルディスク、CD-ROM、又はDVD-ROM等で構成される。メディアドライブ313は、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、又はDVD-ROMドライブ等によってメディアI/F308と接続される。メディアドライブ313には、コンピュータがオペレーションを実行するためのアプリケーションプログラム等が格納されていてもよい。
【0061】
処理部301は、層別化装置30の制御に必要なアプリケーションソフトや各種設定をROM303又は記憶デバイス304からの読み出しにかえて、ネットワークを介して取得してもよい。前記アプリケーションプログラムがネットワーク上のサーバコンピュータの記憶デバイス内に格納されており、このサーバコンピュータに層別化装置30がアクセスして、層別化プログラム3042aをダウンロードし、これをROM303又は記憶デバイス304に記憶することも可能である。
【0062】
また、ROM303又は記憶デバイス304には、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーティングシステムがインストールされている。第2の実施形態に係るアプリケーションプログラムは、前記オペレーティングシステム上で動作するものとする。すなわち、層別化装置30は、パーソナルコンピュータ等であり得る。
【0063】
層別化システム3000は一ヶ所に設置されている必要はなく、層別化装置30と分析装置90が別所に配置され、これらがネットワークで接続されていてもよい。また、層別化装置30は、入力デバイス311や出力デバイス312を省略した操作者を必要としない装置であってもよい。
【0064】
4.脳機能レベルの層別化を支援するための層別化プログラムの処理
図2を用いて、被検者の脳機能レベルの層別化を支援するための層別化プログラム3042aによって実行される処理ついて説明する。
【0065】
層別化装置30の処理部301は、オペレータが入力デバイス311から処理開始の入力を行うことにより、脳機能レベルの層別化を支援するための層別化処理を開始する。
【0066】
処理部301は、ステップS31において、分析装置90から、被検者から採取された尿または血液検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得する。被検者から採取された尿または血液検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することの詳細な内容は、上記1.において述べた内容と同じであるから、上記1.の説明をここに援用する。
【0067】
次に、処理部301は、ステップS32において、脳機能レベルに応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索する。前記複数の基準範囲は、基準範囲データベースDB2に、脳機能レベルを示すラベルと紐付けられて格納されている。
【0068】
次に、処理部301は、ステップS33において、前記測定値が属する基準範囲に対応する脳機能レベルに紐付けられたラベルを脳機能レベルを示すラベルとして出力する。脳機能レベルを示すラベルは、「健常」、「境界域」、「早期認知症の疑いあり」、等の日本語、英語等のテキストであってもよい。また、脳機能レベルに紐付けられたラベルと出力されるラベルは、必ずしも同じでなくてもよく、同等の臨床的な意味を表していればよい。さらに、測定値が「健常」の基準範囲に属する場合には、ステップS33を行わず、処理を終了してもよい。
【0069】
さらに、処理部301は、ステップS34において、ステップS32において検索した測定値が属する基準範囲に対応する基準範囲に対応する、ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルを出力する。前記ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルは、基準範囲データベースDB2に、各基準範囲と紐付けられて格納されている。前記ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の推奨レベルに関する説明は、上記2.の説明をここに援用する。
【0070】
また、処理部301は、ステップS34を実行する際には、ステップS33を実行しなくてもよい。
【0071】
本実施形態の別形態は、脳機能低下を疑われていない被検者、脳機能低下を疑う被検は、又は脳機能が低下していると決定された被検者に対して、ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取が有効であること示唆する提示装置(以下、単に提示装置とも称する)30’に関する。
【0072】
提示装置30’は、入力デバイス311と、出力デバイス312と、メディアドライブ313とに接続されていてもよい。また、層別化装置30は提示装置30’と有線又は無線のネットワークにより通信可能に接続され脳機能低下を疑われていない被検者、脳機能低下を疑う被検は、又は脳機能が低下していると決定された被検者に対して、ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取が有効であること示唆する提示システム3000’を構成してもよい。分析装置90は、吸光度計、マイクロプレートリーダ、質量分析装置等でありうる。
【0073】
図3に提示装置30’のハードウエア構成を示す。提示装置30’の構成は、次の点を除き、層別化装置30と同様である。提示装置30’の記憶デバイス304は、層別化プログラム3042aに変えて、脳機能低下を疑われていない被検者、脳機能低下を疑う被検は、又は脳機能が低下していると決定された被検者に対して、ジアミン、及び/又はポリアミンの摂取が有効であること示唆する提示プログラム(以下、単に「提示プログラム」と称する)3042bを格納する。また、基準範囲データベースDB2は、対照者の尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値の群から算出した基準値を格納する。
【0074】
図4を用いて、提示プログラム3042bによって実行される処理について説明する。
提示装置30’の処理部301は、オペレータが入力デバイス311から処理開始の入力を行うことにより、脳機能レベルの層別化を支援するための層別化処理を開始する。
【0075】
処理部301は、ステップS331において、分析装置90から、被検者から採取された尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得する。被検者から採取された尿検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得することの詳細な内容は、上記1.において述べた内容と同じであるから、上記1.の説明をここに援用する。
【0076】
次に、処理部301は、ステップS332において、ステップS331において取得した測定値と、ジアミン、及び/又はポリアミンの基準値とを比較する。前記基準値は、基準範囲データベースDB2に格納されている。
【0077】
処理部301は、ステップS332において、前記測定値が前記基準値以下の時(「YES」の時)、処理部301は、ステップS333に進み、被検者にジアミン、及び/又はポリアミンの摂取を推奨するラベルを出力する。また、ステップS332において、前記測定値が前記基準値を上回る時(「NO」の時)、処理部301は、処理を終了する。ステップS332において、前記測定値が前記基準値を上回る時(「NO」の時)、処理部301は、被検者にジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の必要がないことを示すラベルを出力してもよい。
【0078】
5.プログラムを記憶した記憶媒体
本発明のある実施形態は、層別化プログラム3042aを記憶した、メディアドライブ等のプログラム製品に関する。すなわち、層別化プログラム3042aは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等のメディアドライブに格納され得る。また、メディアドライブはサーバ装置等のコンピュータであってもよい。メディアドライブへのプログラムの記録形式は、各装置がプログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記メディアドライブへの記録は、不揮発性であることが好ましい。
【0079】
6.脳機能レベルの層別化を支援するための検査キット
本発明のある実施形態は、被検者の脳機能レベルの層別化を支援するための、又はジアミン、及び/又はポリアミンの摂取の提示を支援するための検査キットに関する。検査キットは、尿または血液検体中のジアミン、及び/又はポリアミンの測定値を取得できるキットである限り、制限されない。
【0080】
例えば、検査キットは、ジアミン、及び/又はポリアミンを酵素法により検出する場合、ポリアミンオキシダーゼと、ペルオキシダーゼと、各酵素が好適に活性を発揮できる上の件を備えるバッファーと、ペルオキシダーの基質を含み得る。必要に応じて、アシルポリアミンアミドヒドロラーゼ、及びアシルポリアミンアミドヒドロラーゼ、及び当該酵素が好適に活性を発揮できる上の件を備えるバッファーを含んでいてもよい。
各酵素、及び基質に関しては、上記1.の説明をここに援用する。
【実施例0081】
以下に実施例を示して本発明についてより詳細に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0082】
1.検討対象
今回の検討では、以下のすべてのすべての条件を満たす方を被検者として選定し、ポリアミン含有カプセル(以下「本試験食品」)を12週間継続摂取させたときの、認知機能改善効果について評価した。
・本研究の目的、内容について十分な説明を受け、同意能力があり、
十分に理解した上で自由意思により志願し、文書で参加に同意した方
・同意取得時の年齢が40歳以上の健康な日本人
・物忘れの自覚がある方
・スクリーニング時MMSEの数値が24以上
【0083】
2.試験の方法
(1)試験のデザイン
a.無作為化:無作為化比較
b.盲検化:二重盲検
c.対照:プラセボ対照
d.割付け:並行群間比較
本試験においては、60名の被検者を以下の試験群に30名ずつ割り付けて行った。
I群:試験食品Aを12週間毎日、1日9錠を朝食、昼食、夕食後に3錠ずつ摂取した。
II群:試験食品Bを12週間毎日、1日9錠を朝食、昼食、夕食後に3錠ずつ摂取した。
【0084】
(2) 本試験に用いる食品などの概要
a.試験食品
試験食品A、Bは、ポリアミン含有カプセル2700 mg(9錠、有効成分として1.1mgのポリアミンを含む)、プラセボ2700 mg(9錠)、のいずれかである。各試験食品は、賦形剤を配合し、濃色のカプセルに入れられ、カプセルの中身が外観からは全く分からないようにした。
b. 成分/原材料表示
・ポリアミン含有カプセル:小麦胚芽抽出物409 mg、澱粉分解物372 mg、クエン酸ナトリウム149 mg、デキストリン1734 mg、ステアリン酸カルシウム36 mg
・プラセボ:クエン酸ナトリウム149 mg、デキストリン2515 mg、ステアリン酸カルシウム36 mg
【0085】
(3) 評価項目
評価項目は以下のとおりとした。
a.主要評価項目(Primary endpoint)
・認知機能検査(Cognitrax)
b.副次評価項目(Secondary endpoint)
・精神状態短時間検査(MMSE)
・認知機能に関するVASアンケート
・尿中ポリアミン
・血中ポリアミン
c.安全性評価項目
・自覚所見(生活日誌)
・他覚所見(問診)
【0086】
(4)割付方法
本試験は割付によって試験群間に医学的背景の差が生じぬようにランダム化比較にて実施した。
割付責任者は、I群、II群、それぞれ30人ずつ、スクリーニング時のMMSEのスコアと年齢の中央値を基に割付を行った。
【0087】
(5)試験のフロー及びスケジュールと試料・情報の取得方法
a.試料(情報)と入手方法
各検査日に以下方法にて情報を収集した。
試験対象者の同意:同意者名、同意取得年月日
試験対象者背景:年齢(生年月日)、性別など
検査時アンケート(前日の運動・食事、当日の体調・食事など)
理学検査:身長 (摂取前試験時のみ)・体重、BMI
尿検査:尿中ポリアミン量
血液検査:血中ポリアミン量
生活日誌(試験期間中の毎日の試験食品摂取状況や体調など)
b.スケジュール
上記検査は、下記スケジュールにしたがって行った。
【0088】
【表1】
試験中の被検者には、以下の点に注意していただいた。
・これまでの食生活や運動等の生活習慣を大きく変えない。認知機能に影響する可能性のある医薬品、保健機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品及び栄養機能食品)などの新たな摂取は控える。
・試験期間中は、試験食品以外のポリアミン含有サプリメントや納豆(毎日1パック以上)や豆乳(毎日1パック(200mL程)以上)の摂取を控える。
・検査前日は過激な運動を控えて、21 時までに食事を済ませる。また、暴飲暴食・多量の飲酒・タバコ・夜更かしを避ける。
・検査当日は検査終了まで、過度な運動を避ける。
・検査当日、急性疾患で熱・下痢・嘔吐などの場合は試験を中止する。
・本試験について、知り得た内容は第三者に漏洩しない。特にSNS(FacebookやTwitter、Instagram、LINE等)を用いた情報提供を行わない。
【0089】
(6)除外基準
以下の項目に該当する被検者は、試験対象から除外した。
1)慢性疾患を有し薬物治療を受けている方、重篤な疾患既往歴がある方
2)癌、家族性大腸腺腫症、ピロリ菌感染症に罹患している方
3)試験食品にアレルギー等を有する方(試験食品は小麦胚芽抽出物を含むため、特に小麦にアレルギー等を有する方)
4)ポリアミン含有サプリメントを普段から多量に摂取している方
5)毎日納豆を1パック以上摂取している方
6)毎日豆乳を1パック(200mL程)以上摂取している方
7)認知機能に影響する可能性のある医薬品、保健機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品及び栄養機能食品)などを常用している方
8)試験開始前1ヶ月間に、他の試験に参加した方、あるいは本試験同意後に他の試験に参加する予定のある方
9)試験統括医師及び試験代表者の判断により不適格と判断した方
10)授乳中の方、妊娠している方、研究期間中に妊娠の予定、希望がある方
【0090】
(7)統計解析の方法
得られた評価結果について、原則として、連続データの場合Shapiro-Wilk testを用いて正規性の検討を実施し、対応のあるデータは正規性が示された場合paired t-testを行い、示されなかった場合Wilcoxon signed-rank testを行った。対応のないデータは、正規性が示された場合F-testを用いて分散の検定を行った後、Student’s t-test(等分散性あり)またはAspin-Welch’s t-test(等分散性なし)を行い、正規性が示されなかった場合Mann-Whitney U-testを行った。段階の多い順序データの場合対応のあるデータはWilcoxon signed-rank testを行い、対応のないデータはMann-Whitney U-testを行った。段階の少ない順序データや名義データについては、対応のあるデータはMcNemar検定を行い、対応のないデータはデータ数に応じてFisherの直接法あるいはχ2検定を行った。多重比較が必要な場合はデータの形式に応じて、Bonferroni法、Tukey法、Dunnett法などを用いる。また、必要に応じて分散分析、相関係数の検定、サブグループ解析も行う。安全性の評価項目に関しては、原則として摂取前後の値の群内比較、摂取前後の値の群間比較のみ行い、摂取前後差の群間比較については行わなかった。両側検定で有意水準5%未満を「統計学的に有意な差あり」、5%以上10%未満を「傾向あり」と判定した。統計解析はRを主として用いるが、必要に応じてIBM SPSS Statistics(ver.25)を用いて行った。
【0091】
3.試験結果
3-1.有効性評価(主要評価項目)
試験参加者60名の内、自己都合により脱落した者11名と、試験計画の遵守事項からの逸脱がみられた者1名を除外し、残り48名を有効性解析対象者とした。
表2に有効性解析対象者の背景を示す。
【0092】
【0093】
認知機能検査の解析結果を表3に示した。
総合記憶力、認知機能速度、単純注意力、および運動速度について、ポリアミン摂取群ではプラセボ摂取群と比較して、有意な改善が認められた。また、言語記憶力、および視覚記憶力について、ポリアミン摂取群ではプラセボ摂取群と比較して、有意な改善傾向が認められた。
【0094】
【0095】
3-2.有効性評価(副次評価項目)
主要評価項目と同様に、試験参加者60名の内、自己都合により脱落した者11名と、試験計画の遵守事項からの逸脱がみられた者1名を除外し、残り48名を有効性解析対象者とした。
【0096】
VASアンケートの解析結果を表4に示した。
認知機能速度に関する設問に関して、ポリアミン摂取群ではプラセボ摂取群と比較して、有意な改善効果が認められた。
【0097】
【0098】
3-3.安全性評価項目
安全性評価の解析結果を表5に示した。 ポリアミン摂取群、およびプラセボ摂取群ともに体重およびBMIの有意な減少が認められたが、群間比較による有意な差は認められなかった。
【0099】